(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5799666
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】ガラス微粒子堆積体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/018 20060101AFI20151008BHJP
C03B 8/04 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
C03B37/018 C
C03B8/04 C
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-183494(P2011-183494)
(22)【出願日】2011年8月25日
(65)【公開番号】特開2013-43810(P2013-43810A)
(43)【公開日】2013年3月4日
【審査請求日】2014年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116182
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 照雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165227
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 純
(72)【発明者】
【氏名】楠 浩二
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04204851(US,A)
【文献】
国際公開第2006/080294(WO,A1)
【文献】
特開平06−087624(JP,A)
【文献】
特開2002−167228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00−37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸回りに回転するロッドの対向位置に少なくとも一本のバーナを配置し、前記ロッドと前記バーナとを前記ロッドの軸方向へ相対的に往復移動させつつ前記バーナの火炎による加水分解反応で生成されるガラス微粒子を前記ロッドに吹き付けてガラス微粒子を堆積させるガラス微粒子堆積体の製造方法であって、
前記ロッドと前記バーナとの相対的な往復移動の方向変換位置を、前記ロッドの軸方向のいずれか一方側へ徐々に移動させてから徐々に元の位置へ戻す方向変換位置の変動を行うとともに、この方向変換位置の変動の際に、前記ロッドの軸方向の所定位置を一方へ通過した後に前記所定位置を再度一方へ通過するまでの往復移動距離をL1、前記所定位置を他方へ通過した後に前記所定位置を再度他方へ通過するまでの往復移動距離をL2とした場合に、前記L1及び前記L2の移動後のどちらの場合も前記ロッドの回転位置が元の位置からずれるように、
前記L1(mm)と前記L2(mm)の両方、往復移動速度V(mm/分)及び前記ロッドの回転数N(rpm)を、Vが500mm/分以下であり、かつ、
(L/V)×N(rpm)=n+0.5±0.1
ただし、n:任意の整数、L:L1またはL2
が満たされるように設定することを特徴とするガラス微粒子堆積体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出発ロッドに対してガラス微粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体を製造するガラス微粒子堆積体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転する出発ロッドと、この出発ロッドに対向させて配列させた複数のバーナの列とを相対的に往復移動させ、出発ロッドの表面にバーナで生成したガラス微粒子を吹き付けて層状に堆積させる多バーナ多層付け法(MMD法)でガラス微粒子堆積体を製造する方法がある。
【0003】
このようなガラス微粒子堆積体の製造方法において、1往復の移動距離をバーナ間隔の2倍未満としたり(例えば、特許文献1参照)、トラバース速度v(mm/分)、主軸回転数r(rpm)、バーナ間隔L(mm)をパラメータとし、A=(r/v)×Lで表される値が、40≧A≧8の範囲となるように設定する(例えば、特許文献2参照)ことが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−167228号公報
【特許文献2】特開2004−2177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、出発ロッドとバーナとを相対的に往復移動させてガラス微粒子を堆積させる際には、出発ロッドが回転しているため、ガラス微粒子は螺旋状に堆積する。また、バーナから噴出されるガラス微粒子は、バーナの中心部分で噴射量が多くなるため、バーナの中心が通る部分では山となる。したがって、出発ロッドとバーナとを相対的に往復移動させると、山が重なる部分でより堆積量が多くなり、軸方向に沿って短周期の波打ちが生じる場合がある。このような波打ちは、ガラス微粒子堆積体における外径変動となるため、このガラス微粒子堆積体を用いた母材から光ファイバを線引きすると、光ファイバの光伝送特性が長手方向で変動してしまう要因となる。
【0006】
本発明の目的は、波打ちの発生を極力抑え、光ファイバとした際に優れた光伝送特性を得ることが可能なガラス微粒子堆積体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することのできる本発明のガラス微粒子堆積体の製造方法は、軸回りに回転するロッドの対向位置に少なくとも一本のバーナを配置し、前記ロッドと前記バーナとを前記ロッドの軸方向へ相対的に往復移動させつつ前記バーナの火炎による加水分解反応で生成されるガラス微粒子を前記ロッドに吹き付けてガラス微粒子を堆積させるガラス微粒子堆積体の製造方法であって、
前記ロッドと前記バーナとの相対的な往復移動が一往復して元の位置に戻る際に、前記ロッドの回転位置が、元の位置から半周期ずれるように、一往復の往復移動距離に対応して、往復移動速度及び前記ロッドの回転速度を調整することを特徴とする。
【0008】
また、本発明のガラス微粒子堆積体の製造方法は、軸回りに回転するロッドの対向位置に少なくとも一本のバーナを配置し、前記ロッドと前記バーナとを前記ロッドの軸方向へ相対的に往復移動させつつ前記バーナの火炎による加水分解反応で生成されるガラス微粒子を前記ロッドに吹き付けてガラス微粒子を堆積させるガラス微粒子堆積体の製造方法であって、
前記ロッドと前記バーナとの相対的な往復移動の方向変換位置を、前記ロッドの軸方向のいずれか一方側へ徐々に移動させてから徐々に元の位置へ戻す方向変換位置の変動を行うとともに、この方向変換位置の変動の際に、前記ロッドの軸方向の所定位置を一方へ通過した後に前記所定位置を再度一方へ通過するまでの往復移動距離をL1、前記所定位置を他方へ通過した後に前記所定位置を再度他方へ通過するまでの往復移動距離をL2とした場合に、前記L1及び前記L2の移動後のどちらの場合も前記ロッドの回転位置が元の位置から半周期ずれるように、往復移動距離、往復移動速度及び前記ロッドの回転速度を調整することを特徴とする。
【0009】
本発明のガラス微粒子堆積体の製造方法において、往復移動距離L(mm)、往復移動速度V(mm/分)及び前記ロッドの回転数N(rpm)を、
(L/V)×N(rpm)=n+0.5±0.1
ただし、n:任意の整数
が満たされるように設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、山の位置と谷の位置とが一層ごとに交互に配置されることとなり、山と谷とが相殺され、外周面が極力平坦化される。これにより、短周期の波打ちが抑えられ、外径変動が許容範囲内に収められる。したがって、このガラス微粒子堆積体を用いた母材から光ファイバを線引きすることにより、長手方向で良好な光伝送特性が得られた光ファイバを製造することができる。
つまり、波打ちの発生を極力抑え、光ファイバとした際に優れた光伝送特性を得ることが可能なガラス微粒子堆積体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ガラス微粒子堆積体を製造する製造装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】一般的な製造方法によってガラス微粒子を堆積させる場合のガラス微粒子堆積体を示す図であって、(a)はガラス微粒子堆積体の概略斜視図、(b)はガラス微粒子堆積体の一部の拡大断面図である。
【
図3】一般的な製造方法によってガラス微粒子を堆積させる場合のガラス微粒子堆積体の外径変動を示すグラフ図である。
【
図4】本実施形態に係る製造方法によってガラス微粒子を堆積させる場合のガラス微粒子堆積体を示す図であって、(a)はガラス微粒子堆積体の概略斜視図、(b)はガラス微粒子堆積体の一部の拡大断面図である。
【
図5】本実施形態に係る製造方法によってガラス微粒子を堆積させる場合のガラス微粒子堆積体の外径変動を示すグラフである。
【
図6】他の実施形態に係るガラス微粒子堆積体の製造方法(バーナの動き)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るガラス微粒子堆積体の製造方法の実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
図1に示すように、ガラス微粒子堆積体を製造する製造装置10は、反応容器11内の出発ロッド(ロッド)12にバーナ13の火炎による加水分解反応で生成されるガラス微粒子を堆積させて、光ファイバの母材となるガラス微粒子堆積体14を製造する装置である。バーナ13は、出発ロッド12に対向させて出発ロッド12の軸方向に沿って一定間隔で複数配置されており、反応容器11のバーナ13と反対側には、複数の排気路15が設けられている。この製造装置10では、出発ロッド12を軸方向へ往復移動させることにより、回転する出発ロッド12とバーナ13の列とを出発ロッド12の軸方向へ相対的に往復移動させ、出発ロッド12の表面にガラス微粒子を層状に堆積させる多バーナ多層付け法(MMD法)でガラス微粒子堆積体14を製造する。
【0013】
このように、出発ロッド12に対してガラス微粒子を堆積させる工程において、本実施形態では、出発ロッド12とバーナ13との相対的な往復移動が一往復して元の位置に戻る際に、出発ロッド12の回転位置が、元の位置から半周期ずれるように、一往復の往復移動距離に対応して、往復移動速度V及び出発ロッド12の回転速度ωを調整する。
【0014】
つまり、出発ロッド12とバーナ13との相対的な往復移動距離L(mm)、往復移動速度V(mm/分)及び出発ロッド12の回転数N(rpm)を、次式(1)が満たされるように設定する。
【0015】
(L/V)×N(rpm)=n+0.5±0.1…(1)
ただし、n:任意の整数
【0016】
このように、往復移動距離L(mm)、往復移動速度V(mm/分)及び出発ロッド12の回転数N(rpm)を設定すれば、出発ロッド12とバーナ13との相対的な往復移動が一往復して元の位置に戻る際に、出発ロッド12の回転位置が、元の位置から半周期(0.5回転)ずらされる。
【0017】
出発ロッド12とバーナ13とを相対的に往復移動させてガラス微粒子を堆積させる際に、出発ロッド12が回転しているため、堆積する部分は螺旋状になる。また、バーナ13から噴出されるガラス微粒子は、バーナ13の中心部分で噴射量が多くなるため、バーナ13の中心が通る部分では山となり、この山の間が谷となる。
【0018】
したがって、出発ロッド12に対してガラス微粒子を堆積させる工程において、例えば出発ロッド12とバーナ13との相対的な往復移動が一往復して元の位置に戻る際に、出発ロッド12の回転位置が元の位置となってしまうような場合では、
図2(a)に示すように、ある往復移動時(実線部分)と次の往復移動時(破線部分)とで山A同士が重なり、また、谷B同士が重なる。すると、
図2(b)に示すように、ガラス微粒子堆積体14の外周面では、山A同士の重なり部分で堆積量がより多くなり、谷B同士の重なり部分で堆積量が少なくなる。この重なりは、次の往復移動時にも生じるため、重なりが積み重なって短周期の波打ちが生じ、このような波打ちは、
図3に示すように、許容範囲C(例えば5mm)を超えた外径変動となる。そして、このガラス微粒子堆積体14を用いた母材から光ファイバを線引きすると、光ファイバの光伝送特性が長手方向で変動してしまう。
【0019】
これに対して、本実施形態では、出発ロッド12とバーナ13との相対的な往復移動が一往復して元の位置に戻る際に、出発ロッド12の回転位置が、元の位置から半周期ずれるように制御することにより、
図4(a)に示すように、ある往復移動時(実線部分)と次の往復移動時(破線部分)とで山Aの位置と谷Bの位置とが軸方向で交互に配置されることとなり、
図4(b)に示すように、山Aと谷Bとが相殺されてガラス微粒子堆積体14の外周面が平坦化される。これにより、短周期の波打ちが抑えられ、
図5に示すように、外径変動が許容範囲C(例えば5mm)内に収められる。したがって、このガラス微粒子堆積体14を用いた母材から光ファイバを線引きすることにより、長手方向で良好な光伝送特性が得られた光ファイバを製造することができる。つまり、波打ちの発生を極力抑え、光ファイバとした際に優れた光伝送特性を得ることが可能なガラス微粒子堆積体14を製造することができる。
【0020】
次に、他の実施形態に係るガラス微粒子堆積体の製造方法について説明する。
他の実施形態に係るガラス微粒子堆積体の製造方法では、出発ロッド12に対してガラス微粒子を堆積させる工程において、
図6に示すように、出発ロッド12とバーナ13との相対的な往復移動の方向変換位置を、出発ロッド12の軸方向の一方側へ徐々に移動させてから徐々に元の位置へ戻す方向変換位置の変動を行う(
図6中実線部分参照)。
【0021】
また、この方向変換位置の変動の際に、出発ロッド12の軸方向の所定位置Pを一方へ通過した後に所定位置Pを再度一方へ通過するまでの往復移動距離(
図6中破線参照)及び所定位置Pを他方へ通過した後に所定位置Pを再度他方へ通過するまでの往復移動距離(
図6中一点鎖線参照)の移動後のどちらの場合も出発ロッド12の回転位置が元の位置から半周期ずれるように、往復移動距離L、往復移動速度V及び出発ロッド12の回転速度ωを調整する。
【0022】
つまり、出発ロッド12とバーナ13との相対的な往復移動距離L(mm)、往復移動速度V(mm/分)及び出発ロッド12の回転数N(rpm)を、上式(1)が満たされるように制御する。なお、この場合、所定位置を一方へ通過した後に再度一方へ通過するまでの往復移動距離(L1)、及び所定位置を他方へ通過した後に再度他方へ通過するまでの往復移動距離(L2)の各々を上式(1)のLと考え、L1とL2の両方が上式(1)を満たすように制御することになる。
【0023】
例えば、出発ロッド12とバーナ13との相対的な往復移動を、往復移動の方向変換位置を17mmずらしながら、上方側へ164mm、下方側へ147mm移動させて折り返す場合に(
図6中実線参照)、所定位置Pを通過して最初に折り返すまでの距離をDとすると、所定位置Pを下向きに横切るのに必要となる移動距離(
図6中一点鎖線参照)は、次のようになる。
【0024】
1回目:2D(mm)
2回目:2D+328×1(mm)
3回目:2D+328×2(mm)
4回目:2D+328×3(mm)
5回目:2D+328×4(mm)
【0025】
また、所定位置Pを上向きに横切るのに必要となる移動距離(
図6中破線参照)は、次のようになる。
【0026】
1回目:294×1(mm)
2回目:294×2(mm)
3回目:294×3(mm)
4回目:294×4(mm)
5回目:294×5(mm)
【0027】
このようにすると、往復移動のパターン中に、294mm(L1)と328mm(L2)の2つの往復移動距離L1,L2を有する2つの周期が混在することとなる。
【0028】
そして、この2つの往復移動の周期毎に、回転位相を0.5回転(180°)変化させる。例えば、回転数45(rpm)、往復移動速度500mm/分とした場合、上方向へ164mm(往復移動の周期328mm)移動させるとすれば、
45×(328/500)=29.52回転
となる。つまり、約0.5回転分の回転位相が生じ、約半周期(約180°)のずれが生じる。
【0029】
さらに、下方向へ147mm(往復移動の周期294mm)移動させるとすれば、
45×(294/500)=26.46回転
となる。つまり、約0.5回転分の回転位相が生じ、約半周期(約180°)のずれが生じる。
【0030】
このように、本実施形態の場合も、往復移動で山Aの位置と谷Bの位置とが軸方向で交互に配置されることとなり、山Aと谷Bとが相殺され、外周面が極力平坦化される。これにより、短周期の波打ちが抑えられ、
図5と同様の外径変動となり、外径変動が許容範囲C(例えば5mm)内に収められる。したがって、このガラス微粒子堆積体14を用いた母材から光ファイバを線引きすることにより、長手方向で良好な光伝送特性が得られた光ファイバを製造することができる。つまり、波打ちの発生を極力抑え、光ファイバとした際に優れた光伝送特性を得ることが可能なガラス微粒子堆積体14を製造することができる。
【0031】
なお、上記実施形態では、多バーナ多層付け法(MMD法)でガラス微粒子堆積体14を製造する場合を例示したが、本発明は、OVD(Outside Vapor Phase Deposition)法によってガラス微粒子堆積体14を製造する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0032】
12:出発ロッド(ロッド)、13:バーナ、14:ガラス微粒子堆積体、L,L1,L2:往復移動距離、V:往復移動速度、N:回転数、n:任意の整数