特許第5799710号(P5799710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5799710非水電解液二次電池負極用炭素材及びその製造方法、これを用いた非水系二次電池用負極並びに非水電解液二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5799710
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池負極用炭素材及びその製造方法、これを用いた非水系二次電池用負極並びに非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20151008BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20151008BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20151008BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20151008BHJP
   C01B 31/04 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
   H01M4/587
   H01M4/36 C
   H01M10/0566
   H01M10/0525
   C01B31/04 101B
【請求項の数】7
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2011-212314(P2011-212314)
(22)【出願日】2011年9月28日
(65)【公開番号】特開2012-94505(P2012-94505A)
(43)【公開日】2012年5月17日
【審査請求日】2014年4月8日
(31)【優先権主張番号】特願2010-219365(P2010-219365)
(32)【優先日】2010年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】亀田 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智洋
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−223120(JP,A)
【文献】 国際公開第08/084675(WO,A1)
【文献】 特開2000−340232(JP,A)
【文献】 特開2009−209035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01M 4/36
H01M 10/0525
H01M 10/0566
C01B 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)及び(2)を満たす炭素材であり、該炭素材が、黒鉛質粒子とその表面を被覆する非晶質炭素とを含む複層構造炭素材料であることを特徴とする非水電解液二次電池負極用炭素材。
(1)炭素材のアスペクト比が10以下である。
(2)炭素材の温熱分解質量分析計(TPD−MS)による1000℃までの脱離CO量が2μmol/g以上15μmol/g以下である。
【請求項2】
炭素材のX線広角回折法による002面の面間隔(d002)が0.337nm以下である請求項1に記載の非水電解液二次電池負極用炭素材。
【請求項3】
比表面積が0.5〜8m/gである請求項1または2に記載の非水電解液二次電池負極用炭素材。
【請求項4】
フロー式粒子解析計で求められる平均円形度が0.9以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用炭素材。
【請求項5】
集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを含み、該活物質層が、請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用炭素材を含有する、非水系二次電池用負極。
【請求項6】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を含むリチウムイオン二次電池であって、該負極が請求項5に記載の非水系二次電池用負極であるリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
X線広角回折法による002面の面間隔(d002)が0.337nm以下、タップ密度が0.8g/cm以上、及びアルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1付近のピーク強度に対する1360cm−1付近のピーク強度比であるラマンR値が0.2〜0.5である炭素材料に機械的処理を施す非水電解液二次電池負極用炭素材の製造方法であり、該炭素材料が、黒鉛質粒子とその表面を被覆する非晶質炭素とを含む複層構造炭素材料であり、該機械的処理が、ケーシング内部に複数のブレードを設置したローターを有する装置を用い、且つ該ローターの周速度を50m/秒〜300m/秒にて処理を施すことを特徴とする非水電解液二次電池負極用炭素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液二次電池負極用炭素材およびその製造方法に関するものである。また本発明は該炭素材を含有する非水系二次電池用負極、及び該負極を含む非水電解液二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンを吸蔵・放出できる正極及び負極、並びにLiPFまたはLiBFなどのリチウム塩を溶解させた非水電解液からなる非水系リチウム二次電池が開発され、実用に供されている。この電池の負極材料としては種々のものが提案されているが、高容量であること及び放電電位の平坦性に優れていることなどから、天然黒鉛またはコークス等の黒鉛化で得られる人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズピッチまたは黒鉛化炭素繊維等の黒鉛質の炭素材が用いられている。
【0003】
また、一部の電解液に対して比較的安定しているなどの理由で非晶質の炭素材も用いられている。更には、黒鉛質炭素粒子の表面に非晶質炭素を被覆または付着させ、黒鉛と非晶質炭素との特性を併せ持たせた炭素材も用いられている。
【0004】
特許文献1では、本来は鱗片状、鱗状または板状である黒鉛質炭素粒子に力学的エネルギー処理を与えて、黒鉛質粒子表面にダメージを与えるとともに粒子形状を球形にすることで急速充放電特性を向上させた球形化黒鉛質炭素材が用いられ、更に、球形化黒鉛質炭素粒子の表面に非晶質炭素を被覆または付着させることで、黒鉛と非晶質炭素の特性、そして急速充放電性を併せ持った複層構造の球形化炭素材を用いることが提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、黒鉛質炭素粒子の表面に非晶質炭素を被覆または付着させてなる複層構造炭素材で、昇温熱分解質量分析計(TPD−MS)による800℃までのCO量が0.8×10−6mol/g以上30×10−6mol/g以下である炭素材を電極として用いることで急速充放電性に優れた電池となることが開示されている。
【0006】
しかし、昨今非水系リチウム二次電池の用途展開が図られ、従来にくらべより高性能化が期待されるノート型パソコン、移動通信機器、携帯型カメラまたは携帯型ゲーム機など向け、さらには、電動工具または電気自動車向けなどで、急速充放電性を持ち同時に高サイクル特性を併せ持つ非水電解液二次電池が望まれている。
【0007】
また、電池を作製するとき、電池缶内の電極に電解液を浸み込ませる工程があるが、電極への電解液吸収時間の遅さが製造コスト増加の要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特許第3534391号公報
【特許文献2】日本国特許第3677992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等の検討によると、特許文献1に記載の方法は、電極用炭素材料の粒子が球状であることで急速充放電性が高まり、更に、非晶質炭素を被覆させることで不可逆容量も減少して更に急速充放電性の向上も見られたが、近年の高性能機器向けでは更なる急速充
放電性及び高サイクル特性を併せ持つ負極材料が要望されており、その要望に応えられていない。
【0010】
また特許文献2では、原料黒鉛と有機物質との混合物を、酸素濃度を制御した酸化性ガス中で焼成することで、複合炭素物の昇温脱離CO量が一定範囲になるようにした負極材料が提案されている。そして、その原料黒鉛として粒子の形状が薄片状をしている鱗片黒鉛または鱗状黒鉛を用いている。
【0011】
そのため、特許文献2に記載の負極材料を電極として用いるために、銅箔等の集電体に塗布して圧密すると、薄片状の負極材料粒子が集電体と平行方向に並んでしまい、集電体と直角方向に移動しなければならないリチウムイオンの動きを阻害し、急速充放電性に限界が生じ、近年の高性能機器向けで要望される急速充放電性およびサイクル特性のレベルには到達することは困難であった。
【0012】
また、特許文献2の方法では、酸素を含むガス中で焼成することにより酸素官能基を導入するもので、粉体である原料粒子全部を均質に酸素含有ガスと接触させるために、焼成容器に薄く原料粉体を詰めたり、回転型の焼成装置を用いたりする必要があり、製造効率が良くなく、結果高価製造プロセスとなってしまう問題があった。
【0013】
そこで、本発明者等は、上記の課題を解決し、従来に比べより高性能化が期待されるノート型パソコン、移動通信機器、携帯型カメラまたは携帯型ゲーム機など向け、さらには、電動工具または電気自動車向けなどの用途にも適した、高容量で、急速充放電特性、高サイクル特性を併せ持つ非水電解液二次電池用の負極材料を提案するものである。
【0014】
また、電池を作製工程において、電極への電解液吸収時間の遅さが製造コスト増加の原因となっており、この課題が解決されていない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明者等は、鋭意検討の結果、特定の炭素材料に機械的処理を施すこと、より好ましくは球形化した黒鉛を非晶質炭素で被覆した複層構造炭素材料に機械的処理を施して、複層構造炭素材表面に酸素官能基を導入した炭素材を非水電解液二次電池用電極として用いることで課題を解決できることを見出した。なお、酸素官能基量は、昇温熱分解質量分析計(TPD−MS)による1000℃までの脱離CO量で定量が可能である。
【0016】
本発明は以下のとおりである。
1.下記(1)及び(2)を満たす炭素材であり、該炭素材が、黒鉛質粒子とその表面を被覆する非晶質炭素とを含む複層構造炭素材料であることを特徴とする非水電解液二次電池負極用炭素材。
(1)炭素材のアスペクト比が10以下である。
(2)炭素材の温熱分解質量分析計(TPD−MS)による1000℃までの脱離CO量が2μmol/g以上15μmol/g以下である。
2.炭素材のX線広角回折法による002面の面間隔(d002)が0.337nm以下である前項1に記載の非水電解液二次電池負極用炭素材。
3.比表面積が0.5〜8m2/gである前項1または2に記載の非水電解液二次電池負極用炭素材。
4.フロー式粒子解析計で求められる平均円形度が0.9以上である前項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池負極用炭素材。
5.集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを含み、該活物質層が、前項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用炭素材を含有する、非水系二次電池用負極。6.リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を含むリチウムイオン二次電池であって、該負極が前項5に記載の非水系二次電池用負極であるリチウムイオン二次電池。
7.X線広角回折法による002面の面間隔(d002)が0.337nm以下、タップ密度が0.8g/cm3以上、及びアルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1付近のピーク強度に対する1360cm−1付近のピーク強度比であるラマンR値が0.2〜0.5である炭素材料に機械的処理を施す非水電解液二次電池負極用炭素材の製造方法であり、該炭素材料が、黒鉛質粒子とその表面を被覆する非晶質炭素とを含む複層構造炭素材料であり、該機械的処理が、ケーシング内部に複数のブレードを設置したローターを有する装置を用い、且つ該ローターの周速度を50m/秒〜300m/秒にて処理を施すことを特徴とする非水電解液二次電池負極用炭素材の製造方法
【発明の効果】
【0017】
本発明の非水電解液二次電池負極用炭素材を電極として用いた非水電解液二次電池は、急速充放電特性と高サイクル特性を併せ持った優れた特性を示すものである。また、本発明の非水電解液二次電池負極用炭素材を非水電解液二次電池の電極として用いることにより、電解液の吸収時間が短縮され、電池の製造コストの低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例1で得られた負極用炭素材の電子顕微鏡写真である。
図2図2は、比較例1で得られた負極用炭素材の電子顕微鏡写真である。
図3図3は、比較例4で得られた負極用炭素材の電子顕微鏡写真である。
図4図4は、比較例5で得られた負極用炭素材の電子顕微鏡写真である。
図5図5は、比較例6で得られた負極用炭素材の電子顕微鏡写真である。
図6図6は、比較例7で得られた負極用炭素材の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る非水電解液二次電池負極用炭素材(本明細書では炭素材ともいう)は、下記(1)及び(2)を満たすものである。
(1)炭素材のアスペクト比が10以下である。
(2)炭素材の昇温熱分解質量分析計(TPD−MS)による1000℃までの脱離CO量が2μmol/g以上15μmol/g以下である。
【0020】
<非水電解液二次電池負極用炭素材の種類>
本発明の炭素材は、天然黒鉛、人造黒鉛および非晶質被覆黒鉛から選ばれる材料を用いることが好ましい。これらの炭素材は二種以上を任意の組成及び組み合わせで併用して、炭素材として好適に使用することができ、一種又は二種以上を、他の一種又は二種以上の炭素材と混合し、炭素材として用いてもよい。また、これらの中でも上述した材料が複層構造となっている炭素材(以下、複層構造炭素材ともいう)がより好ましい。
【0021】
<非水電解液二次電池負極用炭素材の物性>
以下に、本発明の非水電解液二次電池負極用炭素材の代表的な物性を記載する。
【0022】
(a)002面の面間隔(d002)
非水電解液二次電池負極用炭素材のX線広角回折法による002面の面間隔(d002)は通常0.337nm以下である。d002値が大きすぎるということは結晶性が低いことを示し、初期不可逆容量が増加する場合がある。一方黒鉛の002面の面間隔の理論値は0.335nmであるため、通常0.335nm以上であることが好ましい。またLcは通常90nm以上であることが好ましく、95nm以上であることがより好ましい。X線広角回折法による002面の面間隔(d002)は実施例で後述する方法により測定
する。
【0023】
X線広角回折法による002面の面間隔(d002)が大きすぎる場合は、複層構造炭素材粒子の表面以外のほとんどの部分の結晶性が低いということを示す傾向があり、非晶質炭素材に見られるような不可逆容量が大きいことによる容量の低下をきたす傾向がある。また、Lcは小さすぎると結晶性が低くなることを示しており、やはり不可逆容量の増加による容量低下をまねく傾向がある。
【0024】
(b)タップ密度
非水電解液二次電池負極用炭素材のタップ密度は、通常0.8g/cm以上であることが好ましく、0.85g/cm以上であることがより好ましい。また、通常1.5g/cm以下であることが好ましい。タップ密度は実施例で後述する方法により測定する。タップ密度が小さすぎると、非水電解液二次電池負極用炭素材が充分な球形粒子となっていない傾向にあり、電極内での連続した空隙が充分確保されず、空隙に保持された電解液内のLiイオンの移動性が落ちることで、急速充放電特性が低下してしまう傾向がある。
【0025】
(c)アスペクト比
非水電解液二次電池負極用炭素材のアスペクト比は、通常10以下であり、好ましくは7以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。また、アスペクト比1が理論上最小値となるので、通常1以上であることが好ましい。アスペクト比が大きすぎるということは、粒子の形状が球状ではなく、薄片形状、鱗片形状に近くなるということで、電極とした場合に、粒子が集電対と平行方向に並ぶ傾向となり、電極の厚み方向への連続した空隙が充分確保されず、厚み方向へのLiイオンの移動性が落ちることで、急速充放電特性が低下してしまう傾向がある。
【0026】
本発明におけるアスペクト比の測定は次のように行う。電極用炭素材にバインダを加えてスラリーとし、金属箔上にこのスラリーを塗布し、更に乾燥し塗布電極とする。次いでこの塗布電極を、塗布面と直角方向に切断し、その切断面を電子顕微鏡で写真撮影し、任意選んだ領域内の50個の粒子について、それぞれの粒子の断面の最長径をa(μm)、最短径をb(μm)としてa/bを求め、a/bの50個の粒子の平均値をアスペクト比とする。
【0027】
(d)昇温熱分解質量分析計(TPD−MS)による1000℃までの脱離CO量
非水電解液二次電池負極用炭素材の昇温熱分解質量分析計(TPD−MS)による1000℃までの脱離CO量は2μmol/g以上、好ましくは2.3μmol/g以上、より好ましくは3.4μmol/g以上、更に好ましくは5.1μmol/g以上である。また、好ましくは15μmol/g以下、より好ましくは10μmol/g以下である。
【0028】
脱離CO量が少なすぎると、粒子に付与されている酸素官能基量が少ないため、結果電解液との親和性が低い傾向になり、急速充電性、サイクル特性が低い傾向にある。また、脱離CO量が多すぎると、機械的処理が強過ぎて酸素官能基量が増加し、同時に粒子の粉砕小粒径化が進んで比表面積も増加し、電極として用いた場合に、不可逆容量の増加をきたす傾向がある。
【0029】
昇温熱分解質量分析計(TPD−MS)による1000℃までの脱離CO量を上記範囲に制御することは、複層構造炭素材の表面に酸素官能基が付与されているということで、この酸素官能基が存在することで、極性溶媒である電解液との親和性が高くなり、炭素材を電極として用いた場合に、電解液の浸透性、保液性が高まり、急速充放電性とサイクル特性を併せ持った非水電化液二次電池用負極材となる。
【0030】
(e)ラマンR値
非水電解液二次電池負極用炭素材のアルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1付近のピーク強度に対する1360cm−1付近のピーク強度比であるラマンR値は通常0.25以上、好ましくは0.3以上である。また通常、0.5以下であることが好ましく、好ましくは0.4以下である。ラマンR値は実施例で後述する方法により測定する。
【0031】
ラマンR値が小さすぎる場合は、急速充放特性が悪くなる傾向がある。また、炭素材のラマンR値が大きすぎる場合は、黒鉛質粒子を被覆している非晶質炭素の量が多いことを表し、非晶質炭素量の持つ不可逆容量の大きさの影響が大きくなり、その結果電池容量が小さくなってしまう傾向がある。
【0032】
(f)BET法による比表面積
非水電解液二次電池負極用炭素材のBET法による比表面積は通常0.5m/g以上であることが好ましく、より好ましくは1m/g以上、さらに好ましくは1.5m/g以上、特に好ましくは3m/g以上である。また、通常8m/g以下であることが好ましく、より好ましくは7m/g以下、さらに好ましくは6m/g以下である。BET法による比表面積は後述する実施例の方法により測定する。
【0033】
炭素材の比表面積が小さすぎると、Liイオンの受け入れ性が悪くなる傾向があり、大きすぎると不可逆容量の増加による電池容量の減少を防ぐことが困難になる傾向がある。
【0034】
(g)平均粒径
非水電解液二次電池負極用炭素材の平均粒径(d50)は通常2μm以上であることが好ましく、より好ましくは4μm以上、さらに好ましくは6μm以上であり、通常50μm以下であることが好ましく、より好ましくは40μm以下、さらに好ましくは35μm以下である。平均粒径は、後述する実施例の方法により測定する。
【0035】
平均粒径が小さすぎると、比表面積が大きくなることによる不可逆容量の増加を防ぐことが困難になる傾向がある。また、大きすぎるとすることにより、電解液と炭素材の粒子との接触面積が減ることによる急速充放電性の低下を防ぐことが困難になる傾向がある。
【0036】
(h)平均円形度
非水電解液二次電池負極用炭素材の平均円形度は通常0.88以上、好ましくは0.89以上、より好ましくは0.9以上、更に好ましくは0.93以上である。平均円形度の最大値は理論上1となるため、通常1以下である。また、より好ましい態様として黒鉛質粒子とその表面を被覆する非晶質炭素とを含む複層構造炭素材が挙げられるが、その場合、被覆前の黒鉛質粒子は、球形化黒鉛質粒子であることが好ましい。被覆前の黒鉛質粒子の平均円形度を通常0.88以上、好ましくは0.89以上、より好ましくは0.9以上、更に好ましくは0.93以上とすることにより、高容量で、急速放電特性を併せ持った炭素材を得ることができる。
【0037】
平均円形度は、液中に分散させた数千個の粒子を、CCDカメラを用いて1個ずつ撮影し、その平均的な形状パラメータを算出することが可能なフロー式粒子解析計において、1.5〜40μmの範囲の粒子を対象として、後述する実施例の方法により測定する。平均円形度は、粒子面積相当円の周囲長を分子とし、撮影された粒子投影像の周囲長を分母とした比率で、粒子像が真円に近いほど1に近づき、粒子像が細長いまたはでこぼこしているほど小さい値になる。
【0038】
(i)3μm以下の個数基準微粉量
非水電解液二次電池負極用炭素材のフロー式粒子解析計で求められる3μm以下の個数基準微粉量が通常13%以上であることが好ましく、より好ましくは15%以上であり、通常80%以下であることが好ましく、より好ましく75%以下、さらに好ましくは70%以下、特に好ましくは65%以下である。
【0039】
微粉は機械的処理を行うことで生じるが、微粉は粒径が小さいので電解液と接触面積が増加することで電解液を保持しやすい。その結果、充放電での電解液の液枯れを防止でき、レート特性、サイクル特性が良好となる傾向がる。しかし、微粉は小粒径であるため表面析量大きい。そのため、微粉が多すぎると、不可逆容量の増加をきたす傾向がある。
【0040】
(j)O/C値
非水電解液二次電池負極用炭素材のX線光電子分光法(XPS)分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度に対するO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度の値であるO/Cの下限が、通常1.3%以上であることが好ましく、より好ましくは1.4%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは1.6%以上である。上限は通常10%以下であることが好ましく、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下、特に好ましくは5%である。
【0041】
O/Cの値が小さすぎると、粒子に付与されている酸素官能基量が少ないため、結果電解液との親和性が低い傾向になり、急速充電性、サイクル特性が低い傾向にある。また、O/Cの値が大きすぎると、機械的処理が強過ぎて酸素官能基量が増加し、同時に粒子の粉砕小粒径化が進んで比表面積も増加し、電極として用いた場合に、不可逆容量の増加をきたす傾向がある。
【0042】
<非水電解液二次電池負極用炭素材の製造方法>
非水電解液二次電池負極用炭素材として、炭素材のアスペクト比が10以下であり、炭素材の温熱分解質量分析計(TPD−MS)による1000℃までの脱離CO量が2μmol/g以上15μmol/g以下であることを具備していれば、どのような製法で作製しても特に制限はない。
【0043】
例えば、X線広角回折法による002面の面間隔(d002)が0.337nm以下、タップ密度が0.8g/cm以上、及びアルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1付近のピーク強度に対する1360cm−1付近のピーク強度比であるラマンR値が0.2〜0.5である炭素材料(本発明の炭素材となる原料)に対して機械的処理を施すことにより、前記物性を具備する非水電解液二次電池負極用炭素材を得ることができる。
【0044】
なお、<非水電解液二次電池負極用炭素材の製造方法>の欄では、機械的処理を施す前の原料を炭素材料、機械的処理を施したものを炭素材と適宜区別する。
【0045】
炭素材料のX線広角回折法による002面の面間隔(d002)は、通常0.337nm以下である。また、通常0.335nm以上であることが好ましい。Lcは通常90nm以上であることが好ましく、より好ましくは95nm以上である。炭素材料のX線広角回折法による002面の面間隔(d002)は実施例で後述する方法により測定する。d002値が大きすぎると結晶性が低下し、初期不可逆容量が増加する場合がある。
【0046】
炭素材料のタップ密度は、通常0.8g/cm以上であり、0.85g/cm以上であることが好ましい。タップ密度は実施例で後述する方法により測定する。炭素材料のタップ密度が小さすぎると、炭素材料が充分な球形粒子となっていない傾向があり、非水
電解液二次電池負極用炭素材とした場合もその傾向となり、電極内での連続した空隙が充分確保されず、空隙に保持された電解液内のLiイオンの移動性が落ちることで、急速充放電特性が低下してしまう傾向がある。
【0047】
炭素材料のラマンR値は、また、通常0.2〜0.5である。炭素材料のラマンR値は実施例で後述する方法により測定する。炭素材料のラマンR値が小さすぎる場合は、急速充放電特性が悪くなる傾向がある。
【0048】
非水電解液二次電池負極用炭素材の製造方法の好ましい態様としては、X線広角回折法による002面の面間隔(d002)が0.337nm以下、タップ密度が0.8g/cm以上、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1付近のピーク強度に対する1360cm−1付近のピーク強度比であるラマンR値が0.2〜0.5である、黒鉛質粒子とその表面を被覆する非晶質炭素とを含む複層構造炭素材料に、機械的処理を施すことである。以下に複層構造炭素材料の製造方法を具体的に記載する。
【0049】
複層構造炭素材料の製造方法としては、日本国特許第3534391号公報に記載の製造方法が好ましい。複層構造炭素材料の原料となる黒鉛質粒子としては、例えば、鱗片、鱗状、板状または塊状の天然で産出される黒鉛、および石油コークス、石炭ピッチコークス、石炭ニードルコークスまたはメソフェーズピッチなどを必要によりSiC、鉄、ボロンなどの黒鉛化触媒を加えて2500℃以上に加熱して製造した人造黒鉛に、力学的エネルギー処理を与えることで製造された球形化黒鉛粒子が挙げられる。
【0050】
なお、力学的エネルギー処理とは、例えば、ケーシング内部に複数のブレードを設置したローターを有する装置を用い、そのローターを高速回転することにより、その内部に導入した前記天然黒鉛または人造黒鉛に対し、衝撃圧縮、摩擦およびせん断力等の機械的作用を繰り返し与えることである。該力学的エネルギー処理を前記天然黒鉛または人造黒鉛に与えることで原料となる球形化黒鉛質粒子を製造することができる。
【0051】
具体的には、力学的エネルギー処理を前記天然黒鉛または人造黒鉛に与えることにより、扁平な黒鉛質粒子が折り曲げ、巻き込みまたは角取りをされながら球形化されると同時に粒子表面に微細なクラック、欠損または構造欠陥などが形成された球形化黒鉛質粒子を製造できる。
【0052】
機械的処理をする前の複層構造炭素材料の原料となる黒鉛質粒子の代表的な物性を以下に記載する。黒鉛質粒子のアルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1付近のピーク強度に対する1360cm−1付近のピーク強度比であるラマンR値は通常0.2以上であることが好ましい。また、通常0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.4以下である。ラマンR値は実施例で後述する方法により測定する。
【0053】
黒鉛質粒子のラマンR値が小さすぎる場合は、急速充放電特性が悪くなる傾向がある。また、黒鉛質粒子のラマンR値が大きすぎる場合は、黒鉛質粒子を被覆している非晶質炭素の量が多いことを表し、非晶質炭素量の持つ不可逆容量の大きさの影響が大きくなり、その結果電池容量が小さくなってしまう傾向がある。
【0054】
黒鉛質粒子のX線広角回折法による002面の面間隔(d002)は通常0.337nm以下であることが好ましい。一方黒鉛の002面の面間隔の理論値は0.335nmであるため、通常0.335nm以上である。またLcは通常90nm以上であることが好ましく、より好ましくは95nm以上である。X線広角回折法による002面の面間隔(d002)は実施例で後述する方法により測定する。
【0055】
黒鉛質粒子のd002値が大きすぎると結晶性が低下し、初期不可逆容量が増加する場合がある。また、002面の面間隔(d002)が大きすぎるということは、黒鉛質粒子が十分な結晶性を持つ材となっていないことを示し、不可逆容量が大きくなることで容量が低下する傾向がある。またLcが小さすぎるということは、結晶性が低いということで、やは、不可逆容量が大きくなることで容量が低下する傾向がある。
【0056】
黒鉛質粒子のアスペクト比は、通常10以下であることが好ましく、より好ましくは7以下、さらに好ましくは5以下、特に好ましくは3以下である。また、アスペクト比1が理論上最小値となるので、通常1以上であることが好ましい。
【0057】
黒鉛質粒子のアスペクト比が大きすぎるということは、粒子の形状が球状ではなく、薄片形状、鱗片形状に近くなるということで、電極とした場合に、粒子が集電対と平行方向に並ぶ傾向となり、電極の厚み方向への連続した空隙が充分確保されず、厚み方向へのLiイオンの移動性が落ちることで、急速充放電特性が低下してしまう傾向がある。例えば、鱗片形状の炭素材のアスペクト比は、10より大きい。アスペクト比の測定方法は上述した方法に従うものとする。
【0058】
黒鉛質粒子のタップ密度は、通常0.8g/cm以上であることが好ましく、0.85g/cm以上であることがより好ましい。黒鉛質粒子のタップ密度は実施例で後述する方法により測定する。タップ密度が小さすぎると、非水電解液二次電池負極用炭素材料の原料である黒鉛質粒子が充分な球形粒子となっていない傾向があり、非水電解液二次電池負極用炭素材とした場合もその傾向となり、電極内での連続した空隙が充分確保されず、空隙に保持された電解液内のLiイオンの移動性が落ちることで、急速充放電特性が低下してしまう傾向がある。なお、上述したアスペクト比の記載と同様、黒鉛質粒子のタップ密度が0.8g/cm以上であるということは、力学的エネルギー処理を与えることで球形化した黒鉛質粒子と定義することも可能である。
【0059】
更に上述した黒鉛質粒子を原料とし、該黒鉛質粒子の表面を非晶質炭素で被覆することによって複層構造炭素材料を製造することができる。
【0060】
複層構造炭素材料としては、前記黒鉛質粒子に石油系若しくは石炭系のタール若しくはピッチ、またはポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、フェノール樹脂若しくはセルロース等の樹脂を必要により溶媒等を使い混合し、非酸化性雰囲気で通常500℃以上、好ましくは700℃以上、より好ましくは800℃以上であり、通常2500℃以下、好ましくは2000℃以下、より好ましくは1500℃以下で焼成した非晶質炭素被覆黒鉛であることが好ましい。焼成後必要により粉砕分級を行うこともある。
【0061】
黒鉛質粒子を被覆している非晶質炭素の被覆率は、通常0.1%以上であることが好ましく、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.4%以上であり、通常20%以下であることが好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。被覆率は実施例で後述する方法により測定する。
【0062】
非晶質炭素による黒鉛質粒子の被覆率が小さすぎると、非晶質炭素の持つLiイオンの高受けいれ性を充分利用することができなくなり、良好な急速充電性が得られにくくなる傾向がある。また被覆率が大きすぎると、非晶質炭素量の持つ不可逆容量の大きさの影響が大きくなることによる容量の低下を防ぐことが困難になる傾向がある。
【0063】
本発明の炭素材は、炭素材料に機械的処理を行うことで製造されるが、上記の製造方法で製造された複層構造炭素材料に機械的処理を施すことにより、本発明の炭素材を製造することが本発明の効果を発揮するためには効率的である。
【0064】
機械的処理とは、例えば、ケーシング内部に複数のブレードを設置したローターを有する装置を用い、そのローターを高速回転することにより、そのケーシング内に導入する炭素材料、好ましくは前記焼成後の複層構造炭素材料に対し、摩擦、磨砕または衝撃等の機械的作用を施すことで製造できる。
【0065】
前記機械的作用により、複層構造炭素材料の表面の非晶質炭素にメカノケミカル作用が働き、大気中の酸素が複層構造炭素材料の表面の非晶質炭素と反応し、酸素官能基が付与される。付与される酸素官能基としては、例えば、−OH(フェノール性水酸基)、−COOH(カルボキシル基)、−CO(カルボニル基)=O(キノン性酸素基、ピラン性酸素基)等が挙げられる。
【0066】
ここでいう機械的処理は、前記の力学的エネルギー処理のような繰り返し処理を与えるのではなく、前記の装置内を1回だけ通過させることが好ましい。この機械的処理を、繰り返し行ってしまうと粒子にダメージが与えられ、粒子が大きく変形したり、粉砕が進行してしまい粒子径が小さくなってしまう傾向がある。
【0067】
密閉型容器に炭素材料とボールまたはロッドとを入れて一定時間処理する型の装置で実施することは特に望ましくなく、この方法で処理を行うと粒子の変形が生じ、球形化処理を行った球状黒鉛質粒子を用いたとしても、粒子形状がキャベツ状に開いた状態になってしまい、不可逆容量の増加、または急速放電特性若しくはサイクル特性の低下をきたすことがある。
【0068】
更には、前記方法で、処理時間を延ばすと、粉砕が過度に進行し、粒子径が小さくなってしまう。粒子径が小さくなると、炭素材の比表面積が大きく増加してしまう傾向があり、非水電解液二次電池の電極として用いた場合に不可逆容量の更なる増加をきたす傾向がある。また、同時に表面に付与される官能基の量も増加するため、昇温熱分解質量分析計(TPD−MS)による1000℃までの脱離CO量が高い値となる傾向がある。
【0069】
機械的処理を行う具体的装置としては、例えば、ACMパルペライザー、イノマイザー、インペラーミル、ターボミル、ハンマーミル、ファインミル、ゼプロスおよびハイブリダイザーなどを挙げることができる。
【0070】
機械的処理を施す条件は、ブレードを備えたローターの周速度は、通常50m/秒以上であることが好ましく、より好ましくは55m/秒以上、さらに好ましくは60m/秒以上である。また、通常300m/秒以下であることが好ましく、より好ましくは200m/秒以下である。
【0071】
ローターの周速度が遅すぎると、複層構造炭素材の表面への機械的効果が不十分になる傾向があり、複層構造炭素材の表面への官能基付与の量が不足し、レート特性または/及びサイクル特性が悪い傾向がある。
【0072】
また、ローターの周速度が速すぎると、粒子にダメージが与えられ、粒子が大きく変形したり、粉砕が進行してしまい粒子径が小さくなってしまう傾向がある。粉砕が過度に進行し、粒子径が小さくなると、炭素材の比表面積が大きく増加してしまう傾向があり、非水電解液二次電池の電極として用いた場合に不可逆容量の増加をきたす傾向がある。
【0073】
炭素材料を機械的処理するための処理量は、通常特に限定されないが、その下限は通常1kg/hr以上であることが好ましく、より好ましくは5kg/hrである。処理量が少ない場合、製造効率が悪くなり製造コストの増加をきたす傾向にある。上限については
、機械的処理を施すための装置に処理の能力に依存するが、上記ケーシング内の粒子濃度が高くなりすぎると空気の濃度、すなわち空気中の酸素の濃度が小さくなり、官能基の付与が十分に行われない傾向になる。
【0074】
ケーシング内の容積に対するケーシング内の炭素材料の占める容積の割合は、通常5%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上であり、上限は、80%以下であることが好ましく、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下である。
【0075】
ケーシング内の容積に対するケーシング内の炭素材料の占める容積の割合が低すぎると粒子にダメージが与えられ、粒子が大きく変形したり、粉砕が進行してしまい粒子径が小さくなってしまう傾向がある。粉砕が過度に進行し、粒子径が小さくなると、前記の複層構造炭素の比表面積が大きく増加してしまう傾向があり、非水電解液二次電池の電極として用いた場合に不可逆容量の増加をきたす傾向がある。
【0076】
ケーシング内の容積に対するケーシング内の炭素材料の占める容積の割合が高すぎると、ケーシング内の空気の量、すなわち空気中の酸素の量が十分でなくなり、炭素材に付与される官能基の量が減ってしまう傾向となり、本願の目的とする電池性能を発現しない傾向となる。
【0077】
<非水電解液二次電池負極>
本発明の非水電解液二次電池負極用炭素材(以下、負極材料ともいう)を用いて負極を作製するには、負極材料に結着樹脂を配合したものを水性若しくは、有機系媒体でスラリーとし、必要によりこれに増粘材を加えて集電体に塗布し、乾燥すればよい。結着樹脂としては、非水電解液に対して安定で、かつ非水溶性のものを用いるのが好ましい。
【0078】
結着樹脂としては、例えば、スチレン、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリアミド等の合成樹脂;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体またはその水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン、スチレン共重合体、スチレン・イソプレン、スチレンブロック共重合体またはその水素化物等の熱可塑性エラストマー;シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニデンフルオライド、ポリペンタフルオロプロピレン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素化高分子などが挙げられる。
【0079】
有機系媒体としては、例えば、N−メチルピロリドンまたはジメチルホルムアミドを挙げることができる。
【0080】
結着樹脂の配合量は負極材料100重量部に対して通常0.1重量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.2重量部以上である。負極材料に対する結着樹脂の割合が小さすぎると、負極材料相互間や負極材料と集電体との結着力が弱く、負極から負極材料が剥離して電池容量が減少したリサイクル特性が悪化したりする。
【0081】
逆に結着樹脂の割合が大きすぎると負極の容量が減少し、かつリチウムイオンの負極材料への出入が妨げられるなどの問題が生ずる。従って結着樹脂は負極材料100重量部に対して多くても10重量部であることが好ましく、通常は7重量部以下となるように用いるのが好ましい。
【0082】
スラリーに添加する増粘材としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース
、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース類やポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等を用いればよい。なかでも好ましいのはカルボキシメチルセルロースである。増粘材の配合量は負極材料100重量部に対して通常は0.1〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.2〜7重量部である。
【0083】
負極集電体としては従来からこの用途に用い得ることが知られている銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたは炭素などを用いればよい。集電体の形状は通常はシート状であり、その表面に凹凸をつけたもの、ネットまたはパンチングメタルなどを用いるものも好ましい。
【0084】
集電体に負極材料と結着樹脂のスラリーを塗布・乾燥したのちは、加圧して集電体上に形成された電極の密度を大きくし、もって負極層単位体積当たりの電池容量を大きくするのが好ましい。電極の密度は通常1.2g/cm以上であることが好ましく、より好ましくは1.3以上である。また、通常2.0g/cm以下であることが好ましく、より好ましくは1.9g/cm以下ある。
【0085】
電極密度が小さすぎると、電極の厚みが大きくなり、電池の中に納めることのできる量が減ることで、電池の容量が小さくなってしまう。電極密度が大きすぎると、電極内の粒子間空隙が減少し、空隙に保持される電解液量が減り、Liイオンの移動性が小さくなり、急速充放電性が小さくなる。
【0086】
以下、本発明の炭素材を用いた非水電解液二次電池に関する部材の詳細を例示するが、使用し得る材料または作製の方法等は以下の具体例に限定されるものではない。
【0087】
<非水電解液二次電池>
本発明の非水電解液二次電池、特にリチウムイオン二次電池の基本的構成は、従来公知のリチウムイオン二次電池と同様であり、本発明の非水電解液二次電池負極用炭素材を適用した負極以外の部材として、通常、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び電解質等を備える。
【0088】
<正極>
正極は、正極活物質及びバインダを含有する正極活物質層を、集電体上に形成したものである。
【0089】
・正極活物質
以下に正極に使用される正極活物質(リチウム遷移金属系化合物)について述べる。
【0090】
・リチウム遷移金属系化合物
リチウム遷移金属系化合物とは、Liイオンを脱離、挿入することが可能な構造を有する化合物であり、例えば、硫化物、リン酸塩化合物またはリチウム遷移金属複合酸化物などが挙げられる。
【0091】
硫化物としては、例えば、TiS若しくはMoSなどの二次元層状構造をもつ化合物、または一般式MeMo(MeはPb、Ag、Cuをはじめとする各種遷移金属)で表される強固な三次元骨格構造を有するシュブレル化合物などが挙げられる。
【0092】
リン酸塩化合物としては、例えば、オリビン構造に属するものが挙げられ、一般的にはLiMePO(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)で表される。具体的には、例えば、LiFePO、LiCoPO、LiNiPOまたはLiMnPOなどが挙げ
られる。
【0093】
リチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、三次元的拡散が可能なスピネル構造、またはリチウムイオンの二次元的拡散を可能にする層状構造に属するものが挙げられる。
【0094】
スピネル構造を有するものは、一般的にLiMe(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)と表される。具体的には、例えば、LiMn、LiCoMnO、LiNi0.5Mn1.5またはLiCoVOなどが挙げられる。
【0095】
層状構造を有するものは、一般的にLiMeO(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)と表される。具体的には、例えば、LiCoO、LiNiO、LiNi1−xCo、LiNi1−x−yCoMn、LiNi0.5Mn0.5、Li1.2Cr0.4Mn0.4、Li1.2Cr0.4Ti0.4またはLiMnOなどが挙げられる。
【0096】
・組成
また、リチウム含有遷移金属化合物は、例えば、下記組成式(A)または(B)で示されるリチウム遷移金属系化合物であることが挙げられる。
【0097】
1)下記組成式(A)で示されるリチウム遷移金属系化合物である場合
Li1+xMO …(A)
ただし、xは通常0以上、0.5以下である。Mは、Ni及びMn、または、Ni、Mn及びCoから構成される元素であり、Mn/Niモル比は通常0.1以上、5以下である。Ni/Mモル比は通常0以上、0.5以下である。Co/Mモル比は通常0以上、0.5以下であることが好ましい。なお、xで表されるLiのリッチ分は、遷移金属サイトMに置換している場合もある。
【0098】
なお、上記組成式(A)においては、酸素量の原子比は便宜上2と記載しているが、多少の不定比性があってもよい。また、上記組成式中のxは、リチウム遷移金属系化合物の製造段階での仕込み組成である。通常、市場に出回る電池は、電池を組み立てた後に、エージングを行っている。そのため、充放電に伴い、正極のLi量は欠損している場合がある。その場合、組成分析上、3Vまで放電した場合のxが−0.65以上、1以下に測定されることがある。
【0099】
また、リチウム遷移金属系化合物は、正極活物質の結晶性を高めるために酸素含有ガス雰囲気下で高温焼成を行って焼成されたものが電池特性に優れる。
【0100】
さらに、組成式(A)で示されるリチウム遷移金属系化合物は、以下一般式(A’)のとおり、213層と呼ばれるLiMOとの固溶体であってもよい。
αLiMO・(1−α)LiM’O・・・(A’)
【0101】
一般式中、αは、0<α<1を満たす数である。
【0102】
Mは、平均酸化数が4である少なくとも一種の金属元素であり、具体的には、Mn、Zr、Ti、Ru、Re及びPtからなる群より選択される少なくとも一種の金属元素である。
【0103】
M’は、平均酸化数が3である少なくとも一種の金属元素であり、好ましくは、V、Mn、Fe、Co及びNiからなる群より選択される少なくとも一種の金属元素であり、より好ましくは、Mn、Co及びNiからなる群より選択される少なくとも一種の金属元
素である。
【0104】
2)下記一般式(B)で表されるリチウム遷移金属系化合物である場合。
Li[LiMn2−b−a]O4+δ・・・(B)
ただし、Mは、Ni、Cr、Fe、Co、Cu、Zr、AlおよびMgから選ばれる遷移金属のうちの少なくとも1種から構成される元素である。
【0105】
bの値は通常0.4以上、0.6以下であることが好ましい。bの値がこの範囲であれば、リチウム遷移金属系化合物における単位重量当たりのエネルギー密度が高い。
【0106】
また、aの値は通常0以上、0.3以下であることが好ましい。また、上記組成式中のaは、リチウム遷移金属系化合物の製造段階での仕込み組成である。通常、市場に出回る電池は、電池を組み立てた後に、エージングを行っている。そのため、充放電に伴い、正極のLi量は欠損している場合がある。その場合、組成分析上、3Vまで放電した場合のaが−0.65以上、1以下に測定されることがある。aの値がこの範囲であれば、リチウム遷移金属系化合物における単位重量当たりのエネルギー密度を大きく損なわず、かつ、良好な負荷特性が得られる。
【0107】
さらに、δの値は通常±0.5の範囲であることが好ましい。δの値がこの範囲であれば、結晶構造としての安定性が高く、このリチウム遷移金属系化合物を用いて作製した電極を有する電池のサイクル特性や高温保存が良好である。
【0108】
ここでリチウム遷移金属系化合物の組成であるリチウムニッケルマンガン系複合酸化物におけるリチウム組成の化学的な意味について、以下により詳細に説明する。上記リチウム遷移金属系化合物の組成式のa,bを求めるには、各遷移金属とリチウムを誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)で分析して、Li/Ni/Mnの比を求める事で計算される。
【0109】
構造的視点では、aに係るリチウムは、同じ遷移金属サイトに置換されて入っていると考えられる。ここで、aに係るリチウムによって、電荷中性の原理によりMとマンガンの平均価数が3.5価より大きくなる。
【0110】
また、上記リチウム遷移金属系化合物は、フッ素置換されていてもよく、LiMn4‐x2xと表記される。
【0111】
ブレンド上記の組成のリチウム遷移金属系化合物の具体例としては、例えば、Li1+xNi0.5Mn0.5、Li1+xNi0.85Co0.10Al0.05、Li1+xNi0.33Mn0.33Co0.33、Li1+xNi0.45Mn0.45Co0.1、Li1+xMn1.8Al0.2およびLi1+xMn1.5Ni0.5等が挙げられる。これらのリチウム遷移金属系化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0112】
異元素導入また、リチウム遷移金属系化合物は、異元素が導入されてもよい。異元素としては、B,Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Sr、Y、Zr、Nb、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sb、Te、Ba、Ta、Mo、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Pb、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Bi、N、F、S、Cl、Br、I、As、Ge、P、Pb、Sb、SiおよびSnの何れか1種以上の中から選択される。
【0113】
これらの異元素は、リチウム遷移金属系化合物の結晶構造内に取り込まれていてもよく
、または、リチウム遷移金属系化合物の結晶構造内に取り込まれず、その粒子表面や結晶粒界などに単体もしくは化合物として偏在していてもよい。
【0114】
<リチウム二次電池用正極>
リチウム二次電池用正極は、上述のリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体及び結着剤を含有する正極活物質層を集電体上に形成してなるものである。
【0115】
正極活物質層は、通常、正極材料と結着剤と更に必要に応じて用いられる導電材及び増粘剤等を、乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、またはこれらの材料を液体媒体中に溶解若しくは分散させてスラリー状にして、正極集電体に塗布、乾燥することにより作成される。
【0116】
正極集電体の材質としては、通常、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。また、形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
【0117】
正極集電体として薄膜を使用する場合、その厚さは任意であるが、通常1μm以上、100mm以下の範囲であることが好ましい。上記範囲よりも薄いと、集電体として必要な強度が不足する可能性がある一方で、上記範囲よりも厚いと、取り扱い性が損なわれる可能性がある。
【0118】
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、特に限定されず、塗布法の場合は、電極製造時に用いる液体媒体に対して安定な材料であればよいが、具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレンスチレンブロック共重合体及びその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子、アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いても良よく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0119】
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上、80質量%以下であることが好ましい。結着剤の割合が低すぎると、正極活物質を十分保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう可能性がある一方で、高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる可能性がある。
【0120】
正極活物質層には、通常、導電性を高めるために導電材を含有させる。その種類に特に制限はないが、具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料や、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料などを挙げることができる。なお、これらの物質は、1種を単
独で用いても良よく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。正極活物質層中の導電材の割合は、通常0.01質量%以上、50質量%以下であることが好ましい。導電材の割合が低すぎると導電性が不十分になることがあり、逆に高すぎると電池容量が低下することがある。
【0121】
スラリーを形成するための液体媒体としては、正極材料であるリチウム遷移金属系化合物粉体、結着剤、並びに必要に応じて使用される導電材及び増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
【0122】
水系溶媒の例としては水、アルコールなどが挙げられ、有機系溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジメチルエーテル、ジメチルアセタミド、ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等を挙げることができる。特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤に併せて分散剤を加え、SBR等のラテックスを用いてスラリー化する。なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いても良よく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0123】
正極活物質層中の正極材料としてのリチウム遷移金属系化合物粉体の含有割合は、通常10質量%以上、99.9質量%以下であることが好ましい。正極活物質層中のリチウム遷移金属系化合物粉体の割合が多すぎると正極の強度が不足する傾向にあり、少なすぎると容量の面で不十分となることがある。
【0124】
また、正極活物質層の厚さは、通常10〜200μm程度であることが好ましい。正極のプレス後の電極密度としては、通常、2.2g/cm以上、4.2g/cm以下であることが好ましい。なお、塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。かくして、リチウム二次電池用正極が調製できる。
【0125】
<非水電解質>
非水電解質としては、例えば、公知の非水系電解液、高分子固体電解質、ゲル状電解質および無機固体電解質等が挙げられるが、中でも非水系電解液が好ましい。非水系電解液は、非水系溶媒に溶質(電解質)を溶解させて構成される。
【0126】
<電解質>
非水系電解液に用いられる電解質には制限はなく、電解質として用いられる公知のものを任意に採用して含有させることができる。本発明の非水系電解液を非水系電解液二次電池に用いる場合には、電解質はリチウム塩が好ましい。
【0127】
電解質の具体例としては、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート、フルオロスルホン酸リチウム等が挙げられる。これらの電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0128】
リチウム塩の電解液中の濃度は任意であるが、通常0.5mol/L以上であることが
好ましく、より好ましくは0.6mol/L以上、さらに好ましくは0.8mol/L以上、また、通常3mol/L以下であることが好ましく、より好ましくは2mol/L以下、さらに好ましくは1.5mol/L以下の範囲である。リチウム塩の総モル濃度が上記範囲内にあることにより、電解液の電気伝導率が十分となり、一方、粘度上昇による電気伝導度の低下、電池性能の低下を防ぐことができる。
【0129】
<非水系溶媒>
非水系電解液が含有する非水系溶媒は、電池として使用した際に、電池特性に対して悪影響を及ぼさない溶媒であれば特に制限されないが、通常使用される非水系溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネート等の環状カーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチルおよびプロピオン酸エチル等の鎖状カルボン酸エステル、γ−ブチロラクトン等の環状カルボン酸エステル、ジメトキシエタンおよびジエトキシエタン等の鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびテトラヒドロピラン等の環状エーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリルおよびバレロニトリル等のニトリル、リン酸トリメチルおよびリン酸トリエチル等のリン酸エステル、並びにエチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、メタンスルホン酸メチル、スルホランおよびジメチルスルホン等の含硫黄化合物等が挙げられる。これら化合物は、水素原子が一部ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0130】
これらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよいが、2種以上の化合物を併用することが好ましい。例えば、環状カーボネートまたは環状カルボン酸エステル等の高誘電率溶媒と、鎖状カーボネートまたは鎖状カルボン酸エステル等の低粘度溶媒とを併用するのが好ましい。
【0131】
ここで、高誘電率溶媒とは、25℃における比誘電率が20以上の化合物を意味する。高誘電率溶媒の中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及び、それらの水素原子をハロゲン等の他の元素又はアルキル基等で置換した化合物が、電解液中に含まれることが好ましい。高誘電率溶媒の電解液に占める割合は、好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、最も好ましくは25質量%以上である。高誘電率溶媒の含有量が上記範囲よりも少ないと、所望の電池特性が得られない場合がある。
【0132】
<助剤>
非水系電解液には、上述の電解質、非水系溶媒以外に、目的に応じて適宜助剤を配合してもよい。負極表面に皮膜を形成するため、電池の寿命を向上させる効果を有する助剤としては、例えば、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートおよびエチニルエチレンカーボネート等の不飽和環状カーボネート、フルオロエチレンカーボネート等のフッ素原子を有する環状カーボネート並びに4−フルオロビニレンカーボネート等のフッ素化不飽和環状カーボネート等が挙げられる。
【0133】
電池が過充電等の状態になった際に電池の破裂・発火を効果的に抑制する過充電防止剤としては、例えば、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、ジフェニルエーテル、t−ブチルベンゼン、t−ペンチルベンゼン、ジフェニルカーボネートおよびメチルフェニルカーボネート等の芳香族化合物等が挙げられる。
【0134】
サイクル特性や低温放電特性を向上させる助剤としては、例えば、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、フルオロスルホン酸リチウム、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェートおよびリチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート等
のリチウム塩等が挙げられる。
【0135】
高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を向上させることができる助剤としては、例えば、エチレンサルファイト、プロパンスルトンおよびプロペンスルトン等の含硫黄化合物、無水コハク酸、無水マレイン酸および無水シトラコン酸等のカルボン酸無水物並びにスクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリルおよびピメロニトリル等のニトリル化合物が挙げられる。これら助剤の配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
【0136】
<セパレータ>
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、本発明の非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
【0137】
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。中でも、本発明の非水系電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維または無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物等を用いるのが好ましい。
【0138】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等が挙げられる。中でも、好ましくはガラスフィルター、ポリオレフィンであり、さらに好ましくはポリオレフィンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0139】
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましく、また、通常50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下する場合があるばかりでなく、非水系電解液二次電池全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0140】
さらに、セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、45%以上がさらに好ましく、また、通常90%以下が好ましく、85%以下がより好ましく、75%以下がさらに好ましい。空孔率が、上記範囲より小さ過ぎると、膜抵抗が大きくなってレート特性が悪化する傾向がある。また、上記範囲より大き過ぎると、セパレータの機械的強度が低下し、絶縁性が低下する傾向にある。
【0141】
また、セパレータの平均孔径も任意であるが、通常0.5μm以下が好ましく、0.2μm以下がより好ましく、また、通常0.05μm以上が好ましい。平均孔径が、上記範囲を上回ると、短絡が生じ易くなる。また、上記範囲を下回ると、膜抵抗が大きくなりレート特性が低下する場合がある。
【0142】
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナまたは二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミまたは窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムまたは硫酸カルシウム等の硫酸塩が挙げられる。また、形状としては、例えば、粒子形状または繊維形状が挙げられる。
【0143】
形態としては、不織布、織布または微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01〜1μm、厚さが5〜50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着材を用いて上記無機物の粒子を含有す
る複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂を結着材として多孔層を形成させることが挙げられる。
【0144】
セパレータの非電解液二次電池における特性を、ガーレ値で把握することができる。ガーレ値とは、フィルム厚さ方向の空気の通り抜け難さを示し、100mlの空気が該フィルムを通過するのに必要な秒数で表されるため、数値が小さい方が通り抜け易く、数値が大きい方が通り抜け難いことを意味する。すなわち、その数値が小さい方がフィルムの厚さ方向の連通性が良いことを意味し、その数値が大きい方がフィルムの厚さ方向の連通性が悪いことを意味する。
【0145】
連通性とは、フィルム厚さ方向の孔のつながり度合いである。本発明のセパレータのガーレ値が低ければ、様々な用途に使用することが出来る。例えば非水系リチウム二次電池のセパレータとして使用した場合、ガーレ値が低いということは、リチウムイオンの移動が容易であることを意味し、電池性能に優れるため好ましい。
【0146】
セパレータのガーレ値は、任意ではあるが、好ましくは10〜1000秒/100mlであり、より好ましくは15〜800秒/100mlであり、更に好ましくは20〜500秒/100mlである。ガーレ値が1000秒/100ml以下であれば、実質的には電気抵抗が低く、セパレータとしては好ましい。
【0147】
<電池設計>
・電極群
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、また、通常90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。
【0148】
電極群占有率が、上記範囲を下回ると、電池容量が小さくなる。また、上記範囲を上回ると空隙スペースが少なく、電池が高温になることによって部材が膨張したり電解質の液成分の蒸気圧が高くなったりして内部圧力が上昇し、電池としての充放電繰り返し性能や高温保存等の諸特性を低下させたり、さらには、内部圧力を外に逃がすガス放出弁が作動する場合がある。
【0149】
<外装ケース>
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に制限されない。具体的には、例えば、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が挙げられる。これらの中でも、軽量化の観点から、アルミニウム若しくはアルミニウム合金の金属、またはラミネートフィルムが好ましい。
【0150】
金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、若しくは、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。
【0151】
上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。
【0152】
特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0153】
<保護素子>
保護素子として、異常発熱や過大電流が流れた時に抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0154】
<外装体>
本発明の非水系電解液二次電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体内に収納して構成される。この外装体は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。具体的に、外装体の材質は任意であるが、通常は、例えば、ニッケルメッキを施した鉄、ステンレス、アルミウム若しくはその合金、ニッケルまたはチタン等が用いられる。
【0155】
また、外装体の形状も任意であり、例えば、円筒型、角形、ラミネート型、コイン型または大型等のいずれであってもよい。
【実施例】
【0156】
次に実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0157】
なお、本明細書における粒径、タップ密度、BET法比表面積、真密度、X線回折、複層構造炭素粉材料の被覆率、ラマンR、アスペクト比、O/C値、円形度、脱離CO量などの測定は次記により行った。
【0158】
粒径;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの2(容量)%水溶液約1mlに、炭素粉末約20mgを加え、これをイオン交換水約200mlに分散させたものを、レーザー回折式粒度分布計(堀場製作所製 LA−920)を用いて体積基準粒度分布を測定し、平均粒径(メジアン径)、10%積算部のd10粒径、90%積算部のd90粒径を求めた。測定条件は超音波分散1分間、超音波強度2、循環速度2、相対屈折率1.50である。
【0159】
タップ密度;粉体密度測定器タップデンサーKYT−3000[(株)セイシン企業社製]を用いて測定した。目開き300μmの篩から20ccのタップセルに炭素粉末を落下させ、セルに満杯に充填したのち、ストローク長10mmのタップを1000回行って、そのときの密度をタップ密度とした。
【0160】
アスペクト比:
電極用炭素材100重量部に、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液100重量部、及びをスチレンブタジエンゴムの50%水分散液2重量部を加えて混練し、スラリーとした。銅箔上にこのスラリーをドクターブレード法で目付け12mg/cmに塗布し、110℃で乾燥して塗布電極とした。次いでこの塗布電極を塗布面と直角方向に切断し、その切断面を電子顕微鏡で写真撮影し、任意選んだ領域内の50個の粒子について、それぞれの粒子の断面の最長径をa(μm)、最短径をb(μm)としてa/bを求め、a/bの50個の粒子の平均値をアスペクト比とした。
【0161】
昇温熱分解質量分析計(TPD−MS)による1000℃までの脱離CO量;ヘリウムガス60ml/min流通下、20℃/minの昇温速度で、室温から1000℃まで昇温し、その時に発生したCO(一酸化炭素)量を質量分析計で定量し、炭素材1g当たりのCO発生量(μmol)として表した。
【0162】
平均円形度;フロー式粒子像分析装置(東亜医療電子社製FPIA−2000)を使用し、円相当径による粒径分布の測定および円形度の算出を行った。分散媒としてイオン交換水を使用し、界面活性剤としてポリオキシエチレン(20)モノラウレートを使用した。円相当径とは、撮影した粒子像と同じ投影面積を持つ円(相当円)の直径であり、円形度とは、相当円の周囲長を分子とし、撮影された粒子投影像の周囲長を分母とした比率である。測定した1.5〜40μmの範囲の粒子の円形度を平均し、平均円形度とした。
【0163】
3μm以下個数規準微粉量;フロー式粒子像分析装置(東亜医療電子社製FPIA−2000)を使用し、粒径分布のを行った。分散媒としてイオン交換水を使用し、界面活性剤としてポリオキシエチレン(20)モノラウレートを使用し、超音波分散時間は5分行った。得られた個数基準の粒度分布から、全粒子個数に対する3μm以下の粒子個数の割合を%で表した。
【0164】
BET法比表面積;大倉理研社製 AMS−8000を用いて測定した。250℃で予備乾燥し、更に30分間窒素ガスを流したのち、窒素ガス吸着によるBET1点法により測定した。
【0165】
真密度;ピクノメーターを用い、媒体として界面活性剤の0.1%水溶液を用いて測定した。
【0166】
X線回折;炭素粉末に約15%のX線標準高純度シリコン粉末を加えて混合したものを材料とし、グラファイトモノクロメーターで単色化したCuKα線を線源とし、反射式ディフラクトメーター法で広角X線回折曲線を測定し、学振法を用いて面間隔(d002)及び結晶子の大きさ(Lc)を求めた。
【0167】
O/C値(%)=X線光電子分光法(XPS)分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度×100/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度
【0168】
X線光電子分光法(XPS)の測定は、X線光電子分光器を用い、測定対象を表面が平坦になるように試料台に載せ、アルミニウムのKα線をX線源とし、マルチプレックス測定により、C1s(280〜300eV)とO1s(525〜545eV)のスペクトルを測定する。得られたC1sのピークトップを284.3eVとして帯電補正し、C1sとO1sのスペクトルのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとOの表面原子濃度をそれぞれ算出する。
【0169】
複素構造炭素材の被覆率;複素構造炭素材の被覆率は次式により求めた。
被覆率(質量%)=100−(K×D)/[(K+T)×N]×100
この式において、Kはタールピッチとの混合に供した球形黒鉛質炭素の質量(Kg)、Tは球形黒鉛質炭素との混合に供した被覆原料であるタールピッチの質量(kg)、DはKとTの混合物のうち実際に焼成に供した混合物量、Nは焼成後の被覆球形黒鉛質炭素材の質量をしめす。
【0170】
ラマン測定;日本分光社製NR−1800を用い、波長514.5nmのアルゴンイオ
ンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、1580cm−1の付近のピークPAの強度IA、1360cm−1の範囲のピークPBの強度IBを測定し、その強度の比R=IB/IAを求めた。試料の調製にあたっては、粉末状態のものを自然落下によりセルに充填し、セル内のサンプル表面にレーザー光を照射しながら、セルをレーザー光と垂直な面内で回転させて測定を行った。
【0171】
実施例1
天然に産出する黒鉛で、X線広角回折法による002面の面間隔(d002)が0.336nmでLcが100nm以上、タップ密度が0.46g/cm、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1付近のピーク強度に対する1360cm−1付近のピーク強度比であるラマンR値が0.13、平均粒径28.7μm、真密度2.26g/cmにある鱗片状黒鉛粒子を、(株)奈良機械製作所製社製ハイブリダイゼーションシステムを用いて、ローターの周速度40m/秒、10分の条件で20kg/hrの処理速度で鱗片状黒鉛粒子を連続的に処理することで、黒鉛粒子表面にダメージを与えながら球形化処理を行い、その後更に分級処理により微粉及び粗粉の除去を行った。
【0172】
得られた球形化黒鉛質炭素は、X線広角回折法による002面の面間隔(d002)が0.336nmでLcが100nm以上、タップ密度が1.01g/cm、アスペクト比が1.9、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1付近のピーク強度に対する1360cm−1付近のピーク強度比であるラマンR値が0.24、平均粒径16.1μm、BET法比表面積7.0m/g、真密度2.26g/cm、平均円形度が、0.93であった。
【0173】
次にこの球形化黒鉛質炭素100重量部と石油由来のタール33重量部を混合機で混合し、次いで非酸化性雰囲気で1300℃まで焼成し、その後室温まで冷却した。次に、この焼成物を、ケーシング内部に複数のブレードを設置したローターを有する装置を用い、そのローターを100m/秒の周速度で回転させることにより機械的処理を施し、電極用炭素材を得た。この電極用炭素材の性状を表1に記す。また、図1に実施例1で得られた電極用炭素材の電子顕微鏡写真を示す。
【0174】
(電化液吸収時間評価用電極の作製及び評価)
上記の電極用炭素材100重量部に、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液100重量部、及びをスチレンブタジエンゴムの50%水分散液2重量部を加えて混練し、スラリーとした。銅箔上にこのスラリーをドクターブレード法で目付け12mg/cmに塗布した。110℃で乾燥したのちロールプレスにより密度が1.63g/ccとなるように圧密化した。これを12.5mmφに切り出し、150℃で乾燥して浸液性評価用電極とした。この浸液性評価用電極に、エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート=3:3:4(質量比)混合液に、LiPF6を1.2モル/リットルとなるように溶解させた電解液1μLを滴下し、該電解液が該電極に吸収され該電極表面から完全に電解液がなくなる時間を測定し電解液浸液性の指標とした。電解液吸収時間が短いほど電解液浸液性が大きい。
【0175】
(初期電池特性評価用電池の作製及び評価)
上記の電極用炭素材100重量部に、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液100重量部、及びをスチレンブタジエンゴムの50%水分散液2重量部を加えて混練し、スラリーとした。銅箔上にこのスラリーをドクターブレード法で目付け12mg/cmに塗布した。110℃で乾燥したのちロールプレスにより密度が1.63g/ccとなるように圧密化した。これを12.5mmφに切り出し、190℃で減圧乾燥して負極とした。
【0176】
上記の負極と厚み0.5mmのリチウム金属とを電解液を含浸させたセパレータを介し
て重ねて、充放電試験用のコイン型電池を作製した。電解液としてはエチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート=3:3:4(質量比)混合液に、LiPF6を1.2モル/リットルとなるように溶解させたものを用いた。
【0177】
この電池で、0.05C(20hrで充電)での1.5Vまでの充電、0.1C(10hrで放電)での5mVまでの放電を3回繰り返し、3回目の活物質あたりの放電容量をこの電極材の放電容量とし、1回〜3回目までの活物質あたりの合計不可逆容量をこの電極材の不可逆容量として表1に記す。
【0178】
(急速充放電性及びサイクル特性評価用電池の作製)
上記の電極用炭素材100重量部に、カルボキシメチルセルロースの1%水溶液100重量部、及びをスチレンブタジエンゴムの50%水分散液2重量部を加えて混練し、スラリーとした。銅箔上にこのスラリーをドクターブレード法で目付け12mg/cmに塗布した。110℃で乾燥したのちロールプレスにより密度が1.63g/ccとなるように圧密化した。これを32mm×42mm角に切り出し、190℃で減圧乾燥して負極とした。
【0179】
リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体93重量部に、カーボンブラック4重量部、ポリビニレデンフルオロライド12%N−メチルピロリドン溶液25重量部、及び適量のN−メチルピロリドンを加え混練し、スラリーとした。アルミニウム箔にこのスラリーをドクターブレード法で目付け24.3mg/cmに塗布した。110℃で乾燥し、更に正極層の密度が2.7g/cmとなるようにロールプレスで圧密化した。これを30mm×40mm角に切り出し、140℃で乾燥して正極とした。
【0180】
上記の負極と正極とを電解液を含浸させたセパレータを介して重ねて、充放電試験用の電池を作製した。電解液としてはエチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート=3:3:4(質量比)混合液に、LiPF6を1.2モル/リットルとなるように溶解させ、ビニレンカーボネートを2質量%添加したものを用いた。
【0181】
この電池に、先ず0.2Cで4.1Vまで充電し、さらに4.1Vで0.1mAとなるまで充電したのち、0.2Cで3.0Vまで放電、次いで、0.2Cで4.2Vまで充電し、さらに4.2Vで0.1mAとなるまで充電したのち、0.2Cで3.0Vまで放電を2回繰り返し、初期調整とした。
【0182】
(急速放電性評価)
それぞれ充電は、0.2C(5hrで充電)で4.2Vまで充電し更に4.2Vで2hr充電したのち(0.2C−CCCV)、0.2C(5hrで放電)、1C(1hrで放電),2C(0.5hrで放電)、3C(0.33hrで放電)、4C(0.25hrで放電)で3.0Vまでの放電試験を実施し、0.2C(5hrで放電)の放電容量に対する各レートでの放電容量を%で表した結果を表1に記した。
【0183】
(急速充電性評価)
0.2C(5hrで充電)で4.2Vまで充電し更に4.2Vで2hr充電(0.2C−CCCV)、及び0.2C(5hrで充電)、1C(1hrで充電)、2C(0.5hrで充電)、3C(0.33hrで充電)、4C(0.25hrで充電)での4.2Vまでの充電試験を実施し、0.2C(5hrで充電)で4.2Vまで充電し更に4.2Vで2hr充電(0.2C−CCCV)した時の充電容量に対する各充電試験での充電容量を%で表した結果を表1に記した。なお、それぞれの充電の後、0.2Cで3.0Vまでの放電を行っている。
【0184】
(サイクル特性評価)
上記電池で、1Cで4.2Vまで充電、0.5(2hrでの放電)Cで3・0Vまでの放電を繰り返し、1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量を500サイクル維持率として%で表し、表1に記した。
【0185】
比較例1
焼成物を、ケーシング内部に複数のブレードを設置したローターを有する装置を用い、そのローターを48m/秒の周速度で回転させることにより機械的処理を施した以外は実施例1と同様に行い、電極用炭素材を得た。結果を表1に記す。また、図2に比較例1で得られた電極用炭素材の電子顕微鏡写真を示す。
【0186】
実施例2
球形化黒鉛質炭素100重量部に混合する石油由来のタールを25重量部としたこと、ローターの周速度を83m/秒にして機械的処理を施した以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に記す。
【0187】
比較例2
ローターを48m/秒の周速度で回転させることにより機械的処理を施した以外は実施例2と同様に行い、電極用炭素材を得た。結果を表1に記す。
【0188】
実施例3
非酸化性雰囲気での焼成温度を1000℃とすること以外は、実施例2と同様に実施した。結果を表1に記す。
【0189】
比較例3
ローターを48m/秒の周速度で回転させることにより機械的処理を施した以外は実施例3と同様に行い、電極用炭素材を得た。結果を表1に記す。
【0190】
実施例4
実施例2で得られた電極用炭素材料70%に、X線広角回折法による002面の面間隔(d002)が0.336nm、タップ密度0.90g/cm、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1付近のピーク強度に対する1360cm−1付近のピーク強度比であるラマンR値0.25、BET比表面積が4.9m2/g、平
均粒径(d50)が20μmである黒鉛粒子を30%混合して、実施例2と同様の方法で、電解液吸収時間、初期電池特性、急速放電特性、急速充電特性、サイクル特性を測定した。結果を表1に示す。
【0191】
比較例4
焼成物を、内径60mmφ、内高65mmの容器に、外形40mmφ、高さ55mmのロッドを入れた振動ボールミル用容器に25g投入し、3分間機械的処理を施した以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に記す。また、図3に比較例4で得られた電極用炭素材の電子顕微鏡写真を示す。
【0192】
比較例5
機械的処理をした時間を30分間とした以外は、比較例4と同様実施した。得られた電極用炭素材の性状を表1に記す。この電極用炭素材料を用いて実施例1と同様の方法で、スラリーを作製し、銅箔上にドクターブレード法で塗布を試みたが、スジを引いたり、未塗工部が生じてしまうなどで、電池評価に供する電極とはならなかった。また、図4に比較例5で得られた電極用炭素材の電子顕微鏡写真を示す。
【0193】
比較例6
X線広角回折法による002面の面間隔(d002)が0.336nmでLcが100nm以上、タップ密度が0.43g/cm、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1付近のピーク強度に対する1360cm−1付近のピーク強度比であるラマンR値が0.09、平均粒径23.9μm、真密度2.26g/cm、アスペクト比15である鱗片状黒鉛粒子100重量部と石油由来のタール33重量部を混合機で混合し、次いで500ppmの酸素を含んだ窒素ガス流通雰囲気下で1300℃まで焼成し、その後室温まで冷却した。次に、この焼成物を、ケーシング内部に複数のブレードを設置したローターを有する装置を用い、そのローターを48m/秒の周速度で回転させることにより粉砕処理を施した以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に記す。また、図5に比較例6で得られた電極用炭素材の電子顕微鏡写真を示す。
【0194】
比較例7
X線広角回折法による002面の面間隔(d002)が0.336nmでLcが100nm以上、タップ密度が0.43g/cm、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1付近のピーク強度に対する1360cm−1付近のピーク強度比であるラマンR値が0.09、平均粒径23.9μm、真密度2.26g/cm、アスペクト比17である鱗片状黒鉛粒子100重量部と石油由来のタール33重量部を混合機で混合し、次いで非酸化性雰囲気で1300℃まで焼成し、その後室温まで冷却した。次に、この焼成物を、ケーシング内部に複数のブレードを設置したローターを有する装置を用い、そのローターを83m/秒の周速度で回転させることにより機械的処理を施した以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に記す。また、図6に比較例7で得られた電極用炭素材の電子顕微鏡写真を示す。
【0195】
【表1】
【0196】
表1に示すように、本発明の非水電解液二次電池負極用炭素材を電極として用いた非水電解液二次電池は、優れた急速充放電特性と高サイクル特性を示した。
【0197】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお本出願は
、2010年9月29日付で出願された日本特許出願(特願2010−219365)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明の非水電解液二次電池負極用炭素材を電極として用いた非水電解液二次電池は、急速充放電特性と高サイクル特性を併せ持った優れた特性を示すものである。また、電解液の吸収時間が速くなり、電池缶内の電極に電解液を浸み込ませる工程が短縮され、電池の製造コストを低減することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6