特許第5799781号(P5799781)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5799781ポリアセチレン誘導体、非水系二次電池用の正極活物質及び正極、非水系二次電池、並びに車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5799781
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】ポリアセチレン誘導体、非水系二次電池用の正極活物質及び正極、非水系二次電池、並びに車両
(51)【国際特許分類】
   C08F 38/00 20060101AFI20151008BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20151008BHJP
   H01M 10/00 20060101ALI20151008BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
   C08F38/00
   H01M4/60
   H01M10/00
   B60L1/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-264168(P2011-264168)
(22)【出願日】2011年12月2日
(65)【公開番号】特開2013-116948(P2013-116948A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2014年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】大森 修
(72)【発明者】
【氏名】島 晃子
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−169620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 38/00
B60L 1/00
H01M 4/60
H01M 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(II)で表されるポリアセチレン誘導体。
【化2】
(一般式(II)中、Rは、単結合を示し、、X、水素基を示し、nは、重合度を示す2以上の整数である。)
【請求項2】
請求項1に記載のポリアセチレン誘導体からなることを特徴とする非水系二次電池用の正極活物質。
【請求項3】
請求項に記載の正極活物質を有することを特徴とする非水系二次電池用の正極。
【請求項4】
請求項に記載の正極と、負極と、電解質とを有することを特徴とする非水系二次電池。
【請求項5】
請求項に記載の非水系二次電池を搭載していることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセチレン誘導体、非水系二次電池用の正極活物質及び正極、非水系二次電池、並びに車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水系二次電池は、小型でエネルギー密度が高く、ポータブル電子機器の電源として広く用いられており、更には、二次電池を車両の駆動源として用いることが考えられている。しかし、現在、主に用いられている非水系二次電池の正極活物質は、比重の大きなコバルトやマンガンの酸化物が用いられているため、非水系二次電池全体の重量は大きい。そこで、非水系二次電池全体の重量を小さくするために、非水系二次電池全体に占める正極活物質の割合を小さくすることが考えられる。
【0003】
近年、軽量な元素からなる有機化合物等を電極活物質として適用することが検討されている。特に、π電子共役系の導電性高分子は電極活物質として有望である。例えば、非特許文献1には、ポリアニリンなどの導電性高分子を正極活物質とした電池が報告されている。また、特許文献1には、1段階2電子移動が可能である導電性高分子の新規ポリアニリン誘導体化合物をプロトン化したものを正極に用いた二次電池について記載されている。
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載のポリアニリンは、1次元鎖状に共役がつながった構造をとっており、酸化あるいは還元反応が進むと高分子鎖内に複数の電荷が生じ共役系を介して反発する。結果として、ある酸化還元レベルまでしか反応が進行せず電池容量が制限される欠点がある。
【0005】
また特許文献1に記載のポリアニリン誘導体化合物では、嵩高い置換基が結合したフェニレンジイミン骨格を高分子鎖内に導入することで、稀な1段階2電子移動が発現する。従来の1電子反応のみを利用するポリアニリンよりも効率よく電子を取り出せる利点がある。しかしながら、1電子反応あたりの分子量が大きく理論的な電池容量が低くなる欠点がある。
【0006】
上記したように、ポリアニリン系材料は、電池の軽量化を図ることはできるものの高容量化を達成するのは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−2278号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】有機エレクトロニクス(工業調査会)p179
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、有機高分子を活物質として用いた非水系二次電池において、高容量化を達成することである。すなわち本発明の目的は、高容量化を達成することができる新規なポリアセチレン誘導体、非水系二次電池用の正極活物質及び正極、非水系二次電池、並びに車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、一般式(I)[一般式(I)中、Rは、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示し、R、R、Rは、各々独立に、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換基、及び水素基の群から選ばれる1種以上からなる基を示し、X、Xは、各々独立に、置換基又は水素基を示し、nは、重合度を示す2以上の整数であり、RとR又は/及びRとRは、結合して環を形成していてもよい]で表されるポリアセチレン誘導体を正極活物質として用いることで非水系二次電池は、高容量化を達成できることを見出した。
【0011】
すなわち本発明のポリアセチレン誘導体は、一般式(I)[一般式(I)中、Rは、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示し、R、R、Rは、各々独立に、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換基、及び水素基の群から選ばれる1種以上からなる基を示し、X、Xは、各々独立に、置換基又は水素基を示し、nは、重合度を示す2以上の整数であり、RとR又は/及びRとRは、結合して環を形成していてもよい]で表されることを特徴とする。
【0012】
【化1】
【0013】
本発明のポリアセチレン誘導体は、下記の一般式(II)で表されることが好ましい。一般式(II)中、Rは、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示し、X、Xは、各々独立に、置換基又は水素基を示し、nは、重合度を示す2以上の整数である。
【0014】
【化2】
【0015】
本発明の非水系二次電池用の正極活物質は、上記いずれかのポリアセチレン誘導体からなることを特徴とする。
【0016】
本発明の非水系二次電池用の正極は、上記の正極活物質を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の非水系二次電池は、上記正極と、負極と、電解質とを有することを特徴とする。
【0018】
本発明の車両は、上記非水系二次電池を搭載していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリアセチレン誘導体は、電池の正極活物質として用いた場合に高容量化を達成することができる。また、本発明の非水系二次電池、これに用いる正極活物質及び正極は、上記ポリアセチレン誘導体を用いているため、非水系二次電池は、高容量の電池とすることが出来る。また、本発明の車両は、上記非水系二次電池を搭載しているため、高容量の電池を搭載でき、高性能の車両とすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1の充放電曲線を示すグラフである。
図2】実施例1及び比較例1の放電曲線を示すグラフである。
図3】実施例1の50サイクル目までの放電容量のサイクル特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明のポリアセチレン誘導体、非水系二次電池用の正極活物質及び正極、非水系二次電池、並びに車両を実施するための形態を説明する。
【0022】
(1)ポリアセチレン誘導体
本発明のポリアセチレン誘導体は、一般式(I)で表されることを特徴とする。
【0023】
【化1】
【0024】
一般式(I)中、Rは、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示し、R、R、Rは、各々独立に、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、置換基、及び水素基の群から選ばれる1種以上からなる基を示し、RとR又は/及びRとRは、結合して環を形成していてもよい。
【0025】
、Xは、各々独立に、置換基又は水素基を示し、nは、重合度を示す2以上の整数である。
【0026】
ここで、置換の脂肪族炭化水素基、又は置換の芳香族炭化水素基とは、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基が、更に置換基で置換されることを意味し、例えば、置換のアリーレン基又は置換の環状置換基である場合には、そのアリーレン基部分又はその環状置換基の環状部分に少なくとも1つの置換基を有することを意味する。
、R、R、Rは、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基であってもよい。
【0027】
、R、R、Rの無置換の脂肪族炭化水素基及び無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基は、たとえば、各々独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などの鎖状アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基を有していてもよい。
【0028】
、R、R、Rの置換の脂肪族炭化水素基及び置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基がもつ置換基、即ち、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が置換基で置換されるときの置換基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシ基が挙げられる。またこの置換基は、C(炭素)とH(水素)からなる炭化水素基に加えて、他の元素を有する基を有していても良い。他の元素を有する基は、例えば、O(酸素)、N(窒素)、S(硫黄)などを有する基があり、具体例として、水酸基、エーテル結合、ケトン基、カルボニル基、カルボキシル基、ニトロ基、イミノ基、アミノ基、アミド結合、ハロゲン基(Cl、F、Br、又はIを含むなどが挙げられるが、これに限定されない。
【0029】
は、単結合であってもよい。この場合には、ポリアセチレン結合部分と、芳香族基部分とが直接に単結合(一重結合)で結合している。
【0030】
、R、Rは、それ自体が置換基であってもよい。置換基としては、例えば、アリール基、アルコキシ基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。また、置換基は、O(酸素)、N(窒素)、S(硫黄)などを有する基でもよく、具体例として、水酸基、ニトロ基、イミノ基、アミノ基、ハロゲン基(Cl、F、Br、又はIを含む)、カルボニル基などが挙げられる。R、R、Rは、水素基であってもよい。
【0031】
、R、R、Rは、互いに別個の基を形成していてもよい。また、RとRは、互いに結合して環を形成していてもよく、RとRは、互いに結合して環を形成していてもよい。RとR又は/及びRとRは、結合して環を形成することで、1つのユニット内に、アントラセン骨格、ナフタセン骨格、テトラセン骨格、ペンタセン骨格などの縮合多環芳香族基を有するものとなっても良い。更に、RとRは、互いに結合して環を形成している部分と、それぞれ別個の基を形成している部分とを有していてもよく、RとRは、互いに結合して環を形成している部分と、それぞれ別個の基を形成している部分とを有していてもよい。
【0032】
、Xは、各々独立に、置換基又は水素基を示す。置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、イミノ基、アミノ基、ハロゲン基(Cl、F、Br、又はIを含む)、カルボニル基などが挙げられる。X、Xが置換基の場合は、X、Xは、オルト位、メタ位及びパラ位のいずれに付加していてもよい。しかしながらオルト位にXまたはXが付加されたポリアセチレン誘導体は、その立体因子により円滑な電子授受が妨げられる。そのため、オルト位にXまたはXが付加されたポリアセチレン誘導体は、1段階2電子移動が発現しにくい。また、オルト位にXまたはXが付加されたポリアセチレン誘導体は、その合成時に立体障害によりジイミンユニットが合成しにくい。そのため、X、Xは、パラ位またはメタ位に付加されることが望ましい。
【0033】
一般式(1)のnは、ポリアセチレン誘導体の重合度を示し、2以上の整数であればよい。重合度は2以上の整数であれば特に限定されないが、重合度が大きいほど電解液への溶解が抑えられるため、充放電を繰り返しても容量が低下しにくい安定なものとなる。重合度(n)の上限は50000程度である。したがって、重量平均分子量は、1000〜10000000である。
【0034】
本発明のポリアセチレン誘導体は、発明者等の鋭意研究によって合成された新規物質である。本発明のポリアセチレン誘導体は、一次元鎖状にπ共役系がつながったポリアセチレン構造で構成される主鎖に、共役長が制限されたπ共役系であるオリゴアニリン構造を側鎖として有する。
【0035】
本発明の使用電圧範囲(リチウム基準4.5V〜1.5V)では、主鎖であるポリアセチレン部位ではなく側鎖であるオリゴアニリン部位が酸化還元部位となる。酸化還元部位が、共役構造を持つ芳香族基がイミノ基を介して一次元鎖状につながった構造(後述する比較例1参照)の場合、高分子鎖内で複数の電荷が生じ、共役系を通じて反発する。このように電荷の反発が起こると酸化還元部位のすべてが反応に関与するわけではなくなり、酸化還元反応があるレベル以上進行しなくなる。
【0036】
本発明のポリアセチレン誘導体は、側鎖に酸化還元部位であるオリゴアニリンがあり、その側鎖の共役長は短く制限されているため、電荷の反発が抑えられ、酸化還元レベルを高められる。また、ポリアセチレン主鎖は平面構造にならず、立体的に捻じれたらせん構造を形成し、側鎖間での電荷の反発を抑えている。
【0037】
本発明のポリアセチレン誘導体は、1つのユニット内に4電子移動する4つのイミノ基を有する芳香族基を側鎖に有する。4電子移動することによって、従来の1電子反応あるいは2電子反応を利用する二次電池に比べて、本発明のポリアセチレン誘導体を正極活物質として用いる非水系二次電池は2倍以上の容量密度が期待できる。
【0038】
また本発明のポリアセチレン誘導体は主鎖が二重結合を用いて重合されているため、単結合で重合されている高分子と比べて高分子構造が安定している。そのため本発明のポリアセチレン誘導体は、高分子構造の劣化が抑制される。従って、本発明のポリアセチレン誘導体を正極活物質として用いる非水系二次電池は、サイクル特性に優れる。
【0039】
ポリアセチレン誘導体として下記一般式(II)で表されるものが好ましい。
【0040】
【化2】
【0041】
一般式(II)中、Rは、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基及び置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基の群から選ばれる1種以上からなる基、又は単結合を示し、X、Xは、各々独立に、置換基または水素基を示し、nは、重合度を示す2以上の整数である。
【0042】
は、ポリアセチレン重合部分と側鎖の芳香族環とを連結する連結基である。連結基としては、例えば、置換又は無置換のメチル基、置換又は無置換のエチル基、置換又は無置換のプロピル基、置換又は無置換のフェニル基、置換又は無置換のビフェニル基、置換又は無置換のチオフェニル基、置換又は無置換のチエニル基、置換又は無置換のフラニル基、置換又は無置換のピロリル基等が挙げられる。このうち、Rは置換又は無置換のフェニル基がよく、無置換のフェニル基が好ましい。またRは単結合でも良い。この場合には、ポリアセチレン重合部分と、芳香族基部分とが直接に単結合(一重結合)で結合している。
【0043】
一般式(II)で表されるポリアセチレン誘導体は、1つのユニット内にアントラセン骨格を有する。アントラセン骨格を有することにより、合成時および酸化還元時にジイミンユニット間の重合などの副反応を抑制できる。また、アントラセン骨格間又は/及びアントラセン骨格と炭素材料間のπ-π相互作用により円滑な電子の授受が行える。
【0044】
(2)非水系二次電池用の正極活物質
本発明の非水系二次電池用の正極活物質は、ポリアセチレン誘導体であって、上記一般式(I)に示すように側鎖の1構成単位中に4つのイミノ基を有する。ここで、非水系二次電池用の正極活物質とは、非水系二次電池の充電反応及び放電反応において、非水系二次電池の正極で直接寄与する物質のことをいう。
【0045】
(3)非水系二次電池用の正極
本発明の非水系二次電池用の正極は、上記ポリアセチレン誘導体を有する正極活物質を有する。正極は、上記正極活物質と、正極活物質を結着する結着剤と、を含んでもよく、さらに、導電助剤を含んでもよい。なお、正極は、少なくとも上記正極活物質が結着剤で結着されてなる活物質層が、集電体に付着してなるのが一般的である。そのため、正極は、活物質および結着剤、必要に応じて導電助剤を含む電極合材層形成用組成物を調製し、さらに適当な溶剤を加えてペースト状にしてから集電体の表面に塗布後、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成することができる。このように集電体を用いる場合は、正極に集電体が含まれる。
【0046】
結着剤は、正極活物質および導電助剤を繋ぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0047】
導電助剤は、正極の導電性を高めるために添加される。導電助剤は、例えば、炭素質粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、カーボンファイバーなどが挙げられる。これらは、単独で添加してもよいし、又はそれらを2種以上組み合わせて添加してもよい。導電助剤の添加量は、本発明の正極活物質100質量部当たり、10〜2000質量部であることが好ましく、100〜1000質量部であることがより好ましく、200〜800質量部であることが更に好ましい。
【0048】
集電体は、非水系二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体に用いられる材料は、ステンレス鋼、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅などの金属材料または導電性樹脂からなる多孔性または無孔の導電性基板が挙げられる。多孔性導電性基板としては、たとえば、メッシュ体、ネット体、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、不織布などの繊維群成形体、などが挙げられる。無孔の導電性基板としては、たとえば、箔、シート、フィルムなどが挙げられる。
【0049】
電極合材層形成用組成物の塗布方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いればよい。
【0050】
粘度調整のための溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが使用可能である。
【0051】
(4)非水系二次電池
本発明の非水系二次電池は、正極と、負極と、電解質とを少なくとも構成要素とし、正極が本発明の正極である。
【0052】
負極は、少なくとも負極活物質を有する。負極はさらに集電体を含んでも良い。集電体としては、ニッケル、ステンレスなどを用いることができ、箔、板、メッシュなどのいずれの形状を有していてもよい。
【0053】
負極活物質は金属リチウムを用いるとよい。金属リチウムをシート状にして、あるいはシート状にしたものをニッケル、ステンレス等の集電体網に圧着して形成したものを用いることができる。金属リチウムのかわりに、リチウム合金、例えばリチウム-アルミニウム合金を用いることができる。このように負極活物質として金属リチウムまたはリチウム合金を用いた電池をリチウム二次電池という。
【0054】
また負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質を用いることができる。リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質としては、Si系又は/及びSn系材料、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物加熱体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。
【0055】
負極は、上記負極活物質と、負極活物質を結着する結着剤と、を含んでもよく、さらに、導電助剤を含んでもよい。なお、負極は、正極と同様に少なくとも上記負極活物質が結着剤で結着されてなる活物質層が、集電体に付着してなるものであってもよい。負極の結着剤としては、正極同様、含フッ素樹脂、熱可塑性樹脂などを用いることができる。負極の導電助剤は正極で説明したものと同様のものが使用できる。
【0056】
このように、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質を用いた電池をリチウムイオン二次電池という。
【0057】
また負極にナトリウムを用いたナトリウム二次電池とすることもできる。
【0058】
本発明の非水系二次電池は、正極と負極との間にセパレータを設けていても良い。セパレータは、必要に応じて用いられる。セパレータは、正極と負極とを分離し非水電解液を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い微多孔膜を用いることができる。
【0059】
電解質としては、非水電解液と称される有機溶媒に電解質を溶解させた有機溶媒系の電解液や、電解質の溶液を含むポリマーゲルで構成されたポリマーゲル電解質などを用いることができる。
【0060】
有機溶媒に溶解させる電解質としては、たとえば、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、NaPF、NaBF、NaAsF、LiCFSO、LiCSO、LiCFCO、Li(SO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiCn2n+1SO(n≧2)等のリチウム塩などが単独でまたは2種以上混合して用いられる。中でも、良好な充放電特性が得られるLiPFやLiCSOなどが好ましく用いられる。
【0061】
非水電解液の有機溶媒は、非プロトン性有機溶媒であることがよく、たとえば、鎖状カーボネート、環状カーボネート、環状エステル、ニトリル化合物、酸無水物、アミド化合物、ホスフェート化合物、アミン化合物などが含まれる。具体例としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメトキシエタン、γ―プロラクチン、N−メチルピロリジノン、N、N’―ジメチルアセトアミド、プロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合物、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物、スルホランとテトラヒドロフランとの混合物から選ばれる一種以上を用いることができる。
【0062】
電解液中における電解質の濃度は、特に限定されるものではないが、0.3〜1.7mol/dm、特に0.4〜1.5mol/dm程度が好ましい。
【0063】
また、電池の安全性や貯蔵特性を向上させるために、非水電解液に芳香族化合物を含有させてもよい。芳香族化合物としては、シクロヘキシルベンゼンやt−ブチルベンゼンなどのアルキル基を有するベンゼン類、ビフェニル、あるいはフルオロベンゼン類が好ましく用いられる。
【0064】
また、ポリマーゲル電解質は、電解質の溶液を含むポリマーゲルで構成される。 ポリマーゲルとしては、光重合開始剤(例えば、IRGACURE184など)で重合するプレポリマーTA210(ポリオキシアルキレン鎖を有する多官能アクリレートポリマー)を用いることがよく、また、アクリロニトリルとアクリル酸メチル若しくはメタアクリル酸とのコポリマーを用いてもよい。
【0065】
ポリマーゲル電解質は、ポリマーを電解質溶液中に浸漬するか、又は電解質溶液の存在下でポリマーの構成単位(モノマー/化合物)を重合することによって得ることができる。
【0066】
正極および負極にセパレータを挟装させ電極体とする。正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に電極体に非水電解液を含浸させて非水系二次電池とするとよい。
【0067】
非水系二次電池の形状は、特に限定なく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0068】
以上説明した本発明の非水系二次電池は、携帯電話、ノートパソコン等の携帯機器、情報関連機器の分野の他、たとえば、夜間電力で充電し、昼間に住宅、工場または事務所に給電する電池や、昼間に太陽電池で充電し、夜間に給電する電池といった定置用分野や自動車の分野においても好適に利用できる。たとえば、この非水系二次電池を車両に搭載すれば、非水系二次電池を電気自動車用の電源として使用できる。
【0069】
(5)車両
本発明の車両は、上記非水系二次電池を搭載したものである。本発明の車両は軽量で高寿命の非水系二次電池を搭載でき、高性能の車両とすることが出来る。なお車両としては、電池による電気エネルギーを動力源の全部または一部に使用する車両であればよく、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、フォークリフト、電気車椅子、電動アシスト自転車、電動二輪車が挙げられる。
【0070】
以上、本発明のポリアセチレン誘導体、非水系二次電池用の正極活物質及び正極、非水系二次電池、並びに車両の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。ポリアセチレン誘導体の製造方法を以下に示す。
【0072】
市販されている2−ブロモアントラキノンから4ステップでポリアセチレン誘導体を合成した。第一ステップで2−ブロモアントラキノンに薗頭反応によりトリメチルシリルエチニル基を導入し2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノンを得た。第二ステップで2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノンを4−アミノジフェニルアミンと四塩化チタン存在下で脱水縮合反応を行うことによりイミンとし、第三ステップでフッ化カリウムによりトリメチルシリル基を脱保護することで重合前駆体を良好な収率で得た。重合前駆体は、H−NMR、FT−IRおよび高分解能マススペクトル(ESI−MS)により同定した。イミンの置換基は、合成の際に用いる4−アミノジフェニルアミンを変えることで容易に変えられる。第四ステップで得られた重合前駆体をRh触媒存在下で重合し、ポリアセチレン誘導体を良好な収率で得た。得られた高分子の分子量はGPCにより求めた。
【0073】
(実施例1)
<アセチレン誘導体の合成>
以下の方法でアセチレン誘導体を合成した。合成スキームを下記に示す。生成物などの後に付された番号は合成スキーム中の番号である。
【0074】
【化3】
【0075】
[(工程1)2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノン(2)の合成]
市販されている2−ブロモアントラキノン(1)(0.2897g、1.0mmol)、PdCl(PPh(0.070g、0.1mmol)及びCuI(0.0380g、0.2mmol)をテトラヒドロフラン(THF、5ml)及びトリエチルアミン(ETN、5ml)に溶解させた混合溶液に、トリメチルシリルアセチレン(0.6ml、4.3mmol)を添加した。
【0076】
反応混合物を、Ar雰囲気下で65℃で24時間攪拌した。反応混合物は、ショートシリカゲルカラムを通過させ蒸発させた。残留物をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム(CHCl):ヘキサン、1:4〜1:1)により精製して、生成物(2)(2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノン)(0.2914g、0.96mmol)を収率96%で得た。生成物(2)の同定及び純度は、H NMRスペクトルで確認した。H NMRスペクトル(500MHz、重クロロホルム(CDCl))は以下のとおり、a 8.36(d、J=1.8Hz,1H)、8.31-8.29(m、2H)、d 8.25(d、J=8.1 Hz、1H)、7.83−7.78(m、3H)、0.29(s、9H)。
【0077】
[(工程2)化合物(3)の合成]
生成物(2)(2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノン)(0.1595g、0.52mmol)、4−アミノジフェニルアミン(0.2661g、0.144mmol)及び1、4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(0.4821g、4.30mmol)のクロロベンゼン(10ml)溶液に、四塩化チタン(TiCl)(0.12ml、1.09mmol)のクロロベンゼン(5ml)溶液が室温で徐々に添加された。
【0078】
反応混合物は、125℃で夜通し攪拌された。沈殿物が濾過により除去された。濾液は、蒸発され、残留物は、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl)により精製して、化合物(3)(0.2509g、0.39mmol)を収率75%で得た。
【0079】
H NMRスペクトル(500MHz、重クロロホルム(CDCl))は以下のとおり、δ 8.44−8.26(m、2H)、7.83−7.16(m、5H)、7.09−7.05(m、9H)、6.97−6.87(m、6H)、5.69(br、2H)、0.28−0.13(m、9H)。IR測定(ATR、cm−1)結果は以下のとおり、3389、3022、2955、2152、1589、1495、1401、1304、1238、1169、1107、1029、947、877、837、744、686。
【0080】
[(工程3)化合物(4)の合成]
化合物(3) (0.1500g、0.24mmol)の THF/メタノール (6ml/6ml)溶液に、フッ化カリウム(KF)(0.050g、0.86mmol)が添加された。反応混合物は、2時間室温で攪拌された。水が添加され、混合物がCHClで抽出された。有機層は硫酸マグネシウム(MgSO)で乾燥させ、蒸発させて粗生成物を得た。粗生成物は更にフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl)により精製して、化合物(4)(0.1268g、0.23mmol)を収率95%で得た。
【0081】
H NMRスペクトル(500MHz、CDCl)は以下のとおり、δ 8.47−8.28(m、2H)、7.83−7.19(m、8H)、7.13−7.04(m、9H)、6.93−6.90(m、6H)、5.71(br、2H)、3.21−2.99(m、1H)。
【0082】
IR測定(ATR、cm−1)結果は以下のとおり、3389、3279、3021、1589、1493、1400、1302、1229、1169、1107、988、944、906、831、742、685、617。
【0083】
高分解能質量分析スペクトル(HRMS)(エレクトロスプレーイオン化法(ESI))の結果は、C4029[M+H]:565.2392と計算され、実測値は565.2399であった。
【0084】
<ポリアセチレン誘導体の合成>
[(工程4)ポリアセチレン誘導体(5)の合成]
化合物(4)(0.05727g,0.10mmol)、トリエチルアミン(EtN)(30μl、0.22mmol)をTHF(0.5ml)に溶解させた。混合溶液にTHF(0.2ml)に溶解させた重合触媒となる[Rh(nbd)Cl] (0.00187g、0.040mmol)を加え、アルゴン下30℃で24時間攪拌した。その後、反応混合物に過剰量のメタノールを加えて沈殿させ、生成物を濾過によって集め、目的のポリアセチレン誘導体(5)を収率84%で得た(0.04808g)。
【0085】
GPC:数平均分子量(Mn):4104。質量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)=3.014。IR測定(ATR、cm−1)結果は以下のとおり、3394、3053、1593、1499、1400、1308、1236、1173、1108、947、831、746、689、618。
【0086】
元素分析結果はC4028・0.2CHCl:C、82.04;H、4.83;N、9.52;と計算された。実測値はC、81.96;H,4.74;N、9.51であった。
【0087】
<リチウム電池の作製>
生成したポリアセチレン誘導体(5)(2mg、40質量%)、ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製、2.5mg、50質量%)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(ダイキン工業製)(0.5mg、10質量%)を混合しシート状となし、集電体であるアルミメッシュ(14φ、ニラコ製)に圧着した。それを真空下、120℃で6時間以上乾燥し、ポリアセチレン誘導体を正極活物質として含む正極を作製した。以後は、グローブボックス内で行った。この正極をコイン電池の格納容器を構成する正極缶上に置き、電解液(1M LiPF/EC:DEC(1:1v/v%))に含浸させた。その正極上にポリプロピレン多孔質フィルムからなるセパレータ(Celgard 2400)、ガラスフィルター(アドバンテック社製GA−100)を積層し、さらに負極となるリチウム箔(14φ、本城金属製)を積層した。その後、周囲に絶縁パッキンを配置した状態でコイン電池のアルミ外装を重ねた。それをしめ機によって加圧し、正極活物質としてポリアセチレン誘導体、負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型コイン型のリチウム二次電池を作製した。これを実施例1のリチウム二次電池とした。
【0088】
(比較例1)
下記一般式(III)で示される化合物を正極活物質として用いた点を除いて、実施例1の<リチウム二次電池の作製>と同様にして、比較例1のリチウム二次電池を作製した。
【0089】
【化4】
【0090】
この一般式(III)で示されるポリマーは、特許文献1(特開2005-2278号公報)にならい以下のように作製された。
【0091】
アントラキノン(0.520g、2.5mmol)、4,4’-ジアミノジフェニルアミン(0.498g、2.5mmol)及び1、4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(3.37g、30.0mmol)のクロロベンゼン(200ml))溶液に、四塩化チタン(TiCl)(0.82ml、7.5mmol)のクロロベンゼン(10ml)溶液を室温で徐々に添加した。反応混合物は、125℃で12時間攪拌した。沈殿物が濾過により除去された。濾液は、蒸発され、残留物は、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl)を通し、さらにGPCで分離生成した。その結果、n=2,3,4,5,6,7である物質をそれぞれ30mg,250mg,30mg,150mg,70mg,50mg得た。n=5である物質を比較例1として用いた。n=5である物質のIR測定(ATR、cm−1)結果は以下のとおり、3393、3026、1591、1495、1401、1306、1238、1169、1108、1029、947、837、744、686。
【0092】
(比較例2)
1段階2電子移動高分子である下記一般式(IV)で示される化合物を正極活物質として用いた点を除いて、実施例1の<リチウム二次電池の作製>と同様にして、比較例2のリチウム二次電池を作製した。
【0093】
【化5】
【0094】
この一般式(IV)で示されるポリマーは、以下のように作製された。
【0095】
市販されている2−ブロモアントラキノン(0.2897g、1.0mmol)、PdCl(PPh(0.070g、0.1mmol)及びCuI(0.0380g、0.2mmol)をテトラヒドロフラン(THF、5ml)及びトリエチルアミン(ETN、5ml)に溶解させた混合溶液に、トリメチルシリルアセチレン(0.6ml、4.3mmol)を添加した。
【0096】
反応混合物を、Ar雰囲気下で65℃で24時間攪拌した。反応混合物は、ショートシリカゲルカラムを通過させ蒸発させた。残留物をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム(CHCl):ヘキサン、1:4〜1:1)により精製して、2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノン)(0.2914g、0.96mmol)を収率96%で得た。
【0097】
2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノン(0.1562g、0.51mmol)、アニリン(140μl、1.54mmol)及び1、4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(0.600g、5.34mmol)のクロロベンゼン(10ml)溶液に、四塩化チタン(0.11ml、1.0mmol)のクロロベンゼン(5ml)溶液が50℃で徐々に添加された。
【0098】
反応混合物は、100℃で3時間攪拌された。沈殿物が濾過により除去された。濾液は、蒸発され、残留物は、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl:ヘキサン、1:1)により精製して、N、N’―ジフェニル 2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノンジイミン(0.1794g、0.40mmol)を収率77%で得た。
【0099】
N、N’―ジフェニル 2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノンジイミン(0.0811g、0.18mmol)のTHF/メタノール (4ml/4ml)溶液に、フッ化カリウム(KF)(0.030g、0.52mmol)が添加された。反応混合物は、30分間室温で攪拌された。水が添加され、混合物がCHClで抽出された。有機層は硫酸マグネシウム(MgSO)で乾燥させ、蒸発させて粗生成物を得た。粗生成物は更にシリカゲルクロマトグラフィ(CHCl)で精製され、N、N’―ジフェニル 2−エチニルアントラキノンジイミン(0.0621g、0.16mmol)を収率91%で得た。
【0100】
N、N’―ジフェニル 2−エチニルアントラキノンジイミン(0.1143g,0.30mmol)、トリエチルアミン(EtN)(70μl、0.50mmol)をTHF(1.3ml)に溶解させた。混合溶液にTHF(0.3ml)に溶解させた重合開始剤[Rh(nbd)Cl] (0.00416g、0.090mmol)を加え、アルゴン下30℃で24時間攪拌した。その後、反応混合物に過剰量のメタノールに加え沈殿させ、生成物をさらにGPCで精製して、目的の化合物(IV)を収率75%で得た(0.8658g、0.23mmol)(オリゴマーはGPCによって取り除かれた)。
【0101】
GPC:数平均分子量(Mn):53693。質量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)=3.209。IR測定(ATR、cm−1)結果は以下のとおり、3057.9、3026.1、1666.3、1621.5、1584.6、1479.5、1446.7、1291.8、1227.7、1165.4、1146.2、1069.7、1023.5、985.3、943.0、894.3、830.1、763.4、692.0、674.1、616.9、567.0、513.8。
【0102】
元素分析結果はC2828・0.15CHCl:C、84.45;H、4.57;N、7.00;と計算された。実測値はC、84.77;H,4.46;N、6.81であった。
【0103】
<充放電試験>
上記実施例1及び比較例1,2のリチウム二次電池について充放電試験を行った。充放電試験は、4.0Vから2.0Vの範囲で25mA/gの電流密度で充放電を行った。図1に実施例1の充放電曲線を示す。図1からわかるように実施例1は、約4Vおよび約3.3Vにプラトーを有し、183.0mAh/g(1サイクル目の放電容量)の高容量を示した。理論容量[189.9mAh/g (移動電子数(n)を4とした)]から算出した移動電子数(n)は、3.85であった。
【0104】
なお、理論容量は以下の式1により計算した。
【0105】
理論容量(Ah/g)=n×e×N/(3600×M)・・・(式1)
n=電子数、e=1.6022×10−19C/個、N=6.022×1023個/mol、M=ユニットの分子量g/mol。
【0106】
実施例1の充放電メカニズムは、ポリアセチレン誘導体(5)の2電子酸化体(5’’)と2電子還元体(5’)の間で4つの電子が移動していると考えられる。予想される反応式を以下に示す。
【0107】
【化6】
【0108】
すなわち、放電曲線の高電位側(約4V)のプラトーは、5’’から5への反応に対応し、低電位側(約3.3V)のプラトーは、5から5’への反応に対応していると予測している。すなわち1段目のプラトー:ユニット末端の−NH−Ph部位の還元、2段目のプラトー:−N=anthracene=N−の還元と予測される。また、置換基(Ph−NH−)が、リチウムイオンを引き付ける能力を有しリチウムイオン伝導性を高めていると考えている。
【0109】
図2に実施例1及び比較例1の放電曲線を示す。実施例1の1サイクル目の放電容量が183.0mAh/gであったのに対して、比較例1の1サイクル目の放電容量は123.0mAh/gであった。また図2には記載されていないが、比較例2の放電容量は1サイクル目において71.0mAh/gであった。
【0110】
実施例1と比較例1の放電容量を比較すると、共役長がより短い実施例1の容量が大幅に大きいことがわかった。またこの値は上記で計算した理論容量に近い値であり、この4電子移動の構造を側鎖に有する高分子が非常に効率的に充放電できることがわかった。また実施例1と比較例2の放電容量を比較すると、実施例1の放電容量が大きく、1段階2電子移動の構造を側鎖に有する高分子に比べて、実施例1は高容量とできることがわかった。
【0111】
<サイクル試験>
実施例1を4.0Vから2.0Vの範囲で25mA/gの電流密度で充放電を繰り返した。図3に、実施例1の50サイクル目までの放電容量のサイクル特性を示す。図3からみられるように実施例1は50サイクル目においてもほとんど放電容量が下がらず、良好なサイクル特性を示した。理論容量から算出した移動電子数(n)は、常に3以上を示した。
【0112】
<高レート試験>
実施例1を500mA/g(約3C相当)の電流密度で充放電を行った。その結果から高レートにおいても2段のプラトーを有し、20サイクル目において141.3mAh/gという高容量を示した。高レートにおいても良好なサイクル特性を示した。
【0113】
このように実施例1のリチウム二次電池は、酸化還元部位を主鎖ではなく側鎖にもち、側鎖の共役長を短くしたことによって、効率よく酸化還元反応を進めることができ、高容量でかつ高サイクル特性を有することがわかった。また実施例1のリチウムイオン二次電池は、高レートにおいても高容量で高サイクル特性を有することがわかった。
図1
図2
図3