【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。ポリアセチレン誘導体の製造方法を以下に示す。
【0072】
市販されている2−ブロモアントラキノンから4ステップでポリアセチレン誘導体を合成した。第一ステップで2−ブロモアントラキノンに薗頭反応によりトリメチルシリルエチニル基を導入し2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノンを得た。第二ステップで2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノンを4−アミノジフェニルアミンと四塩化チタン存在下で脱水縮合反応を行うことによりイミンとし、第三ステップでフッ化カリウムによりトリメチルシリル基を脱保護することで重合前駆体を良好な収率で得た。重合前駆体は、
1H−NMR、FT−IRおよび高分解能マススペクトル(ESI−MS)により同定した。イミンの置換基は、合成の際に用いる4−アミノジフェニルアミンを変えることで容易に変えられる。第四ステップで得られた重合前駆体をRh触媒存在下で重合し、ポリアセチレン誘導体を良好な収率で得た。得られた高分子の分子量はGPCにより求めた。
【0073】
(実施例1)
<アセチレン誘導体の合成>
以下の方法でアセチレン誘導体を合成した。合成スキームを下記に示す。生成物などの後に付された番号は合成スキーム中の番号である。
【0074】
【化3】
【0075】
[(工程1)2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノン(2)の合成]
市販されている2−ブロモアントラキノン(1)(0.2897g、1.0mmol)、PdCl
2(PPh
3)
2(0.070g、0.1mmol)及びCuI(0.0380g、0.2mmol)をテトラヒドロフラン(THF、5ml)及びトリエチルアミン(ET
3N、5ml)に溶解させた混合溶液に、トリメチルシリルアセチレン(0.6ml、4.3mmol)を添加した。
【0076】
反応混合物を、Ar雰囲気下で65℃で24時間攪拌した。反応混合物は、ショートシリカゲルカラムを通過させ蒸発させた。残留物をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム(CHCl
3):ヘキサン、1:4〜1:1)により精製して、生成物(2)(2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノン)(0.2914g、0.96mmol)を収率96%で得た。生成物(2)の同定及び純度は、
1H NMRスペクトルで確認した。
1H NMRスペクトル(500MHz、重クロロホルム(CDCl
3))は以下のとおり、a 8.36(d、J=1.8Hz,1H)、8.31-8.29(m、2H)、d 8.25(d、J=8.1 Hz、1H)、7.83−7.78(m、3H)、0.29(s、9H)。
【0077】
[(工程2)化合物(3)の合成]
生成物(2)(2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノン)(0.1595g、0.52mmol)、4−アミノジフェニルアミン(0.2661g、0.144mmol)及び1、4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(0.4821g、4.30mmol)のクロロベンゼン(10ml)溶液に、四塩化チタン(TiCl
4)(0.12ml、1.09mmol)のクロロベンゼン(5ml)溶液が室温で徐々に添加された。
【0078】
反応混合物は、125℃で夜通し攪拌された。沈殿物が濾過により除去された。濾液は、蒸発され、残留物は、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl
3)により精製して、化合物(3)(0.2509g、0.39mmol)を収率75%で得た。
【0079】
1H NMRスペクトル(500MHz、重クロロホルム(CDCl
3))は以下のとおり、δ 8.44−8.26(m、2H)、7.83−7.16(m、5H)、7.09−7.05(m、9H)、6.97−6.87(m、6H)、5.69(br、2H)、0.28−0.13(m、9H)。IR測定(ATR、cm
−1)結果は以下のとおり、3389、3022、2955、2152、1589、1495、1401、1304、1238、1169、1107、1029、947、877、837、744、686。
【0080】
[(工程3)化合物(4)の合成]
化合物(3) (0.1500g、0.24mmol)の THF/メタノール (6ml/6ml)溶液に、フッ化カリウム(KF)(0.050g、0.86mmol)が添加された。反応混合物は、2時間室温で攪拌された。水が添加され、混合物がCHCl
3で抽出された。有機層は硫酸マグネシウム(MgSO
4)で乾燥させ、蒸発させて粗生成物を得た。粗生成物は更にフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl
3)により精製して、化合物(4)(0.1268g、0.23mmol)を収率95%で得た。
【0081】
1H NMRスペクトル(500MHz、CDCl
3)は以下のとおり、δ 8.47−8.28(m、2H)、7.83−7.19(m、8H)、7.13−7.04(m、9H)、6.93−6.90(m、6H)、5.71(br、2H)、3.21−2.99(m、1H)。
【0082】
IR測定(ATR、cm
−1)結果は以下のとおり、3389、3279、3021、1589、1493、1400、1302、1229、1169、1107、988、944、906、831、742、685、617。
【0083】
高分解能質量分析スペクトル(HRMS)(エレクトロスプレーイオン化法(ESI))の結果は、C
40H
29N
4[M+H]:565.2392と計算され、実測値は565.2399であった。
【0084】
<ポリアセチレン誘導体の合成>
[(工程4)ポリアセチレン誘導体(5)の合成]
化合物(4)(0.05727g,0.10mmol)、トリエチルアミン(Et
3N)(30μl、0.22mmol)をTHF(0.5ml)に溶解させた。混合溶液にTHF(0.2ml)に溶解させた重合触媒となる[Rh(nbd)Cl]
2 (0.00187g、0.040mmol)を加え、アルゴン下30℃で24時間攪拌した。その後、反応混合物に過剰量のメタノールを加えて沈殿させ、生成物を濾過によって集め、目的のポリアセチレン誘導体(5)を収率84%で得た(0.04808g)。
【0085】
GPC:数平均分子量(Mn):4104。質量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)=3.014。IR測定(ATR、cm
−1)結果は以下のとおり、3394、3053、1593、1499、1400、1308、1236、1173、1108、947、831、746、689、618。
【0086】
元素分析結果はC
40H
28N
4・0.2CHCl
3:C、82.04;H、4.83;N、9.52;と計算された。実測値はC、81.96;H,4.74;N、9.51であった。
【0087】
<リチウム電池の作製>
生成したポリアセチレン誘導体(5)(2mg、40質量%)、ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製、2.5mg、50質量%)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(ダイキン工業製)(0.5mg、10質量%)を混合しシート状となし、集電体であるアルミメッシュ(14φ、ニラコ製)に圧着した。それを真空下、120℃で6時間以上乾燥し、ポリアセチレン誘導体を正極活物質として含む正極を作製した。以後は、グローブボックス内で行った。この正極をコイン電池の格納容器を構成する正極缶上に置き、電解液(1M LiPF
6/EC:DEC(1:1v/v%))に含浸させた。その正極上にポリプロピレン多孔質フィルムからなるセパレータ(Celgard 2400)、ガラスフィルター(アドバンテック社製GA−100)を積層し、さらに負極となるリチウム箔(14φ、本城金属製)を積層した。その後、周囲に絶縁パッキンを配置した状態でコイン電池のアルミ外装を重ねた。それをしめ機によって加圧し、正極活物質としてポリアセチレン誘導体、負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型コイン型のリチウム二次電池を作製した。これを実施例1のリチウム二次電池とした。
【0088】
(比較例1)
下記一般式(III)で示される化合物を正極活物質として用いた点を除いて、実施例1の<リチウム二次電池の作製>と同様にして、比較例1のリチウム二次電池を作製した。
【0089】
【化4】
【0090】
この一般式(III)で示されるポリマーは、特許文献1(特開2005-2278号公報)にならい以下のように作製された。
【0091】
アントラキノン(0.520g、2.5mmol)、4,4’-ジアミノジフェニルアミン(0.498g、2.5mmol)及び1、4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(3.37g、30.0mmol)のクロロベンゼン(200ml))溶液に、四塩化チタン(TiCl
4)(0.82ml、7.5mmol)のクロロベンゼン(10ml)溶液を室温で徐々に添加した。反応混合物は、125℃で12時間攪拌した。沈殿物が濾過により除去された。濾液は、蒸発され、残留物は、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl
3)を通し、さらにGPCで分離生成した。その結果、n=2,3,4,5,6,7である物質をそれぞれ30mg,250mg,30mg,150mg,70mg,50mg得た。n=5である物質を比較例1として用いた。n=5である物質のIR測定(ATR、cm
−1)結果は以下のとおり、3393、3026、1591、1495、1401、1306、1238、1169、1108、1029、947、837、744、686。
【0092】
(比較例2)
1段階2電子移動高分子である下記一般式(IV)で示される化合物を正極活物質として用いた点を除いて、実施例1の<リチウム二次電池の作製>と同様にして、比較例2のリチウム二次電池を作製した。
【0093】
【化5】
【0094】
この一般式(IV)で示されるポリマーは、以下のように作製された。
【0095】
市販されている2−ブロモアントラキノン(0.2897g、1.0mmol)、PdCl
2(PPh
3)
2(0.070g、0.1mmol)及びCuI(0.0380g、0.2mmol)をテトラヒドロフラン(THF、5ml)及びトリエチルアミン(ET
3N、5ml)に溶解させた混合溶液に、トリメチルシリルアセチレン(0.6ml、4.3mmol)を添加した。
【0096】
反応混合物を、Ar雰囲気下で65℃で24時間攪拌した。反応混合物は、ショートシリカゲルカラムを通過させ蒸発させた。残留物をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム(CHCl
3):ヘキサン、1:4〜1:1)により精製して、2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノン)(0.2914g、0.96mmol)を収率96%で得た。
【0097】
2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノン(0.1562g、0.51mmol)、アニリン(140μl、1.54mmol)及び1、4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(0.600g、5.34mmol)のクロロベンゼン(10ml)溶液に、四塩化チタン(0.11ml、1.0mmol)のクロロベンゼン(5ml)溶液が50℃で徐々に添加された。
【0098】
反応混合物は、100℃で3時間攪拌された。沈殿物が濾過により除去された。濾液は、蒸発され、残留物は、フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィ(CHCl
3:ヘキサン、1:1)により精製して、N、N’―ジフェニル 2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノンジイミン(0.1794g、0.40mmol)を収率77%で得た。
【0099】
N、N’―ジフェニル 2−(トリメチルシリルエチニル)アントラキノンジイミン(0.0811g、0.18mmol)のTHF/メタノール (4ml/4ml)溶液に、フッ化カリウム(KF)(0.030g、0.52mmol)が添加された。反応混合物は、30分間室温で攪拌された。水が添加され、混合物がCHCl
3で抽出された。有機層は硫酸マグネシウム(MgSO
4)で乾燥させ、蒸発させて粗生成物を得た。粗生成物は更にシリカゲルクロマトグラフィ(CHCl
3)で精製され、N、N’―ジフェニル 2−エチニルアントラキノンジイミン(0.0621g、0.16mmol)を収率91%で得た。
【0100】
N、N’―ジフェニル 2−エチニルアントラキノンジイミン(0.1143g,0.30mmol)、トリエチルアミン(Et
3N)(70μl、0.50mmol)をTHF(1.3ml)に溶解させた。混合溶液にTHF(0.3ml)に溶解させた重合開始剤[Rh(nbd)Cl]
2 (0.00416g、0.090mmol)を加え、アルゴン下30℃で24時間攪拌した。その後、反応混合物に過剰量のメタノールに加え沈殿させ、生成物をさらにGPCで精製して、目的の化合物(IV)を収率75%で得た(0.8658g、0.23mmol)(オリゴマーはGPCによって取り除かれた)。
【0101】
GPC:数平均分子量(Mn):53693。質量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)=3.209。IR測定(ATR、cm
−1)結果は以下のとおり、3057.9、3026.1、1666.3、1621.5、1584.6、1479.5、1446.7、1291.8、1227.7、1165.4、1146.2、1069.7、1023.5、985.3、943.0、894.3、830.1、763.4、692.0、674.1、616.9、567.0、513.8。
【0102】
元素分析結果はC
28H
28N
2・0.15CHCl
3:C、84.45;H、4.57;N、7.00;と計算された。実測値はC、84.77;H,4.46;N、6.81であった。
【0103】
<充放電試験>
上記実施例1及び比較例1,2のリチウム二次電池について充放電試験を行った。充放電試験は、4.0Vから2.0Vの範囲で25mA/gの電流密度で充放電を行った。
図1に実施例1の充放電曲線を示す。
図1からわかるように実施例1は、約4Vおよび約3.3Vにプラトーを有し、183.0mAh/g(1サイクル目の放電容量)の高容量を示した。理論容量[189.9mAh/g (移動電子数(n)を4とした)]から算出した移動電子数(n)は、3.85であった。
【0104】
なお、理論容量は以下の式1により計算した。
【0105】
理論容量(Ah/g)=n×e×N
A/(3600×M)・・・(式1)
n=電子数、e=1.6022×10
−19C/個、N
A=6.022×10
23個/mol、M=ユニットの分子量g/mol。
【0106】
実施例1の充放電メカニズムは、ポリアセチレン誘導体(5)の2電子酸化体(5’’)と2電子還元体(5’)の間で4つの電子が移動していると考えられる。予想される反応式を以下に示す。
【0107】
【化6】
【0108】
すなわち、放電曲線の高電位側(約4V)のプラトーは、5’’から5への反応に対応し、低電位側(約3.3V)のプラトーは、5から5’への反応に対応していると予測している。すなわち1段目のプラトー:ユニット末端の−NH−Ph部位の還元、2段目のプラトー:−N=anthracene=N−の還元と予測される。また、置換基(Ph−NH−)が、リチウムイオンを引き付ける能力を有しリチウムイオン伝導性を高めていると考えている。
【0109】
図2に実施例1及び比較例1の放電曲線を示す。実施例1の1サイクル目の放電容量が183.0mAh/gであったのに対して、比較例1の1サイクル目の放電容量は123.0mAh/gであった。また
図2には記載されていないが、比較例2の放電容量は1サイクル目において71.0mAh/gであった。
【0110】
実施例1と比較例1の放電容量を比較すると、共役長がより短い実施例1の容量が大幅に大きいことがわかった。またこの値は上記で計算した理論容量に近い値であり、この4電子移動の構造を側鎖に有する高分子が非常に効率的に充放電できることがわかった。また実施例1と比較例2の放電容量を比較すると、実施例1の放電容量が大きく、1段階2電子移動の構造を側鎖に有する高分子に比べて、実施例1は高容量とできることがわかった。
【0111】
<サイクル試験>
実施例1を4.0Vから2.0Vの範囲で25mA/gの電流密度で充放電を繰り返した。
図3に、実施例1の50サイクル目までの放電容量のサイクル特性を示す。
図3からみられるように実施例1は50サイクル目においてもほとんど放電容量が下がらず、良好なサイクル特性を示した。理論容量から算出した移動電子数(n)は、常に3以上を示した。
【0112】
<高レート試験>
実施例1を500mA/g(約3C相当)の電流密度で充放電を行った。その結果から高レートにおいても2段のプラトーを有し、20サイクル目において141.3mAh/gという高容量を示した。高レートにおいても良好なサイクル特性を示した。
【0113】
このように実施例1のリチウム二次電池は、酸化還元部位を主鎖ではなく側鎖にもち、側鎖の共役長を短くしたことによって、効率よく酸化還元反応を進めることができ、高容量でかつ高サイクル特性を有することがわかった。また実施例1のリチウムイオン二次電池は、高レートにおいても高容量で高サイクル特性を有することがわかった。