【実施例】
【0029】
以下に、ロボット塗装システム及びこれを用いた塗装方法にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
(実施例1)
本例のロボット塗装システム1は、
図1〜
図3に示すごとく、アーム先端部21を位置及び姿勢を変更して3次元に移動させるロボット2と、アーム先端部21に取り付けられたフレーム部30、フレーム部30の形成状態を可変させる駆動源33、及びフレーム部30に複数配設された塗装ガン4とを有する塗装治具3とを備えている。
図4、
図5に示すごとく、複数の塗装ガン4A,4B,4Cは、それぞれ一定方向Eに広がる状態で塗料を噴射し、一定方向Eにおいて、塗料の噴射によって形成される中心塗膜層71の両側に、中心塗膜層71よりも塗膜が薄いダスト塗膜層72を形成するよう構成されている。
【0030】
駆動源33は、
図4に示すごとく、フレーム部30の形成状態を、複数の塗装ガン4A,4B,4Cの一定方向Eがフレーム部30の横方向W(塗装治具3の進行方向Dに対する直交方向)を向き、複数の塗装ガン4A,4B,4Cが横方向(直交方向)Wに対して傾斜する右斜め方向Rに並ぶ第1塗装状態401と、
図5に示すごとく、複数の塗装ガン4A,4B,4Cの一定方向Eがフレーム部30の横方向Wを向き、複数の塗装ガン4A,4B,4Cが横方向Wに対して傾斜する左斜め方向Lに並ぶ第2塗装状態402とに可変させるよう構成されている。
塗装治具3は、第1塗装状態401と第2塗装状態402とのいずれを形成するときにおいても、アーム先端部21によってフレーム部30の縦方向Hに沿って移動し、かつ、複数の塗装ガン4A,4B,4Cのうち塗装治具3の進行方向Dの先頭に位置する先頭塗装ガン4Aによる中心塗膜層71の上に、先頭塗装ガン4Aに隣接する隣接塗装ガン4Bによる一方側のダスト塗膜層72を積層するよう構成されている。
【0031】
以下に、本例のロボット塗装システム1及びこれを用いた塗装方法につき、
図1〜
図9を参照して詳説する。
本例のロボット塗装システム1は、ロボット2としての多関節ロボット2の教示を行って、この教示を行ったデータを再現して、複数の塗装ガン4A,4B,4Cによる塗装を行うものである。
図1、
図6に示すごとく、本例の多関節ロボット2における各アーム20の回転軸はサーボモータ22によって駆動するよう構成されており、各サーボモータ22は、制御コントローラ50によって制御される。また、アーム先端部21の位置・姿勢、移動軌道、移動速度、各回転軸の角度等は、教示ペンダント51によって調整、教示が可能である。
【0032】
多関節ロボット2の各関節を構成するサーボモータ22は、制御盤5に配置した制御コンピュータ50によって、回転量及び回転速度を調整するよう構成されている。制御コンピュータ50には、教示ペンダント51によって教示されたアーム先端部21の位置及び姿勢を記憶した教示プログラムが格納されている。
本例の塗装治具3を構成する駆動源33は、モータ33であり、このモータ33は、制御コンピュータ50によって動作するよう構成されている。
【0033】
図7は、自動車のボディ6の室内部61を後方から見た状態で示し、第1一巡塗装T1と第2一巡塗装T2とを前後方向Lに位置ずれしながら繰り返す状態を示す。
同図に示すごとく、本例のロボット塗装システム1によって塗装を行う被塗装対象は、自動車のボディ6である。本例においては、多関節ロボット2のアーム先端部21に取り付けた塗装治具3を、ボディ6の室内部61の表面に対向して移動させる。そして、塗装治具3を、前後方向Lを横切る方向の一方向と他方向とへ交互に巡回させるとともに、ボディ6の室内部61に対して前後方向Lの一方から他方へ順次送りながら塗装を行う。
【0034】
図2、
図3に示すごとく、本例の塗装ガン4は、塗料の噴射自体にはエアを用いず、高圧の塗料を噴射させるよう構成されたエアレスガンである。このエアレスガンは、塗料の吐出量が多く、その塗着効率が高い。塗装ガン4は、高圧の塗料が供給される容器部41と、容器部41の端部に設けたノズル部42とを有している。ノズル部42には、中央部分に塗料を噴射する塗料噴射口43が形成されており、塗料噴射口43を挟む両側には、エアを噴射するエア噴射口44が形成されている。そして、
図4、
図5に示すごとく、塗料噴射口43から高圧の塗料を噴射するとともに、2つのエア噴射口44からエアを噴射する。これにより、互いに衝突するエアによって、中心塗膜層71の両側に、一定方向Eに広がったダスト塗膜層72とを形成する。
また、本例の複数の塗装ガン4A,4B,4Cから噴射する塗料には、光輝材を含有するメタリック塗料を用いる。
【0035】
図2に示すごとく、本例の塗装治具3におけるフレーム部30は、横方向Wに沿って配置され塗装ガン4がそれぞれ取り付けられた複数の横フレーム部31A,31Bと、複数の横フレーム部31A,31Bの一端側を回動可能に連結する一端側平行フレーム部32Aと、複数の横フレーム部31A,31Bの他端側を回動可能に連結する他端側平行フレーム部32Bとからなる。本例のフレーム部30は、互いに平行な一対の平行フレーム部としての一端側平行フレーム部32A及び他端側平行フレーム部32Bを、複数の連結フレーム部としての複数の横フレーム部31A,31Bによって回動可能に連結して形成されている。
【0036】
そして、フレーム部30は、塗装を行わない待機状態においては、横フレーム部31A,31Bと一端側平行フレーム部32A及び他端側平行フレーム部32Bとによって、四角形を形成している。また、
図4、
図5に示すごとく、フレーム部30は、第1塗装状態401と第2塗装状態402とのいずれを形成するときにおいても、複数の横フレーム部31A,31Bと一端側平行フレーム部32A及び他端側平行フレーム部32Bとによって平行四辺形を形成する。また、フレーム部30による第1塗装状態401と第2塗装状態402とは、左右対称の形状に形成される。
【0037】
図2に示すごとく、本例の塗装治具3は、3つの塗装ガン4A,4B,4Cを設けたものであり、本例のフレーム部30においては、塗装ガン4が取り付けられた3つの横フレーム部31A,31Bが互いに平行に配置されている。3つの横フレーム部31A,31Bのうち真ん中に位置する中央横フレーム部31Aは、アーム先端部21に固定されている。
【0038】
図3に示すごとく、駆動源33としてのモータ33は、中央横フレーム部31Aに対して固定されており、モータ33の出力部331は、中央横フレーム部31Aに対して一端側平行フレーム部32Aを駆動するよう構成されている。各横フレーム部31A,31Bの両端部と、一端側平行フレーム部32A及び他端側平行フレーム部32Bの両端部及び中間部とは、回動可能なピン等の軸部34によって連結されている。
本例の塗装治具3は、中央横フレーム部31Aに固定された1つのモータ33によって、一端側平行フレーム部32A及び他端側平行フレーム部32Bが互いに平行な状態を保って、第1塗装状態401と第2塗装状態402とを形成するよう構成されている。
【0039】
そして、
図4に示すごとく、モータ33を一方向に回転させて一端側平行フレーム部32Aを一方側に傾倒させると、3つの横フレーム部31A,31Bのうち外側に位置する2つの外側横フレーム部31Bが、横方向Wに平行な状態を維持したまま横方向Wの互いに反対側に移動するとともに、他端側平行フレーム部32Bが一端側平行フレーム部32Aと平行に傾倒する。こうして、フレーム部30が平行四辺形に形成された第1塗装状態401が形成される。
【0040】
一方、
図5に示すごとく、モータ33を他方向に回転させて一端側平行フレーム部32Aを他方側に傾倒させると、3つの横フレーム部31A,31Bのうち外側に位置する2つの外側横フレーム部31Bが、横方向Wに平行な状態を維持したまま横方向Wの互いに反対側に移動するとともに、他端側平行フレーム部32Bが一端側平行フレーム部32Aと平行に傾倒する。こうして、フレーム部30が平行四辺形に形成された第2塗装状態402が形成される。
【0041】
図8は、塗装治具3が第1一巡塗装T1と第2一巡塗装T2とを前後方向Lに位置ずれしながら繰り返す状態を、平面に展開して示す。
同図に示すごとく、ロボット塗装システム1は、教示ペンダント51を用いて教示を行った教示プログラムにより、第1塗装状態401又は第2塗装状態402を形成して被塗装対象に塗装を行うときには、塗装治具3の進行方向Dの先頭に位置する先頭塗装ガン4Aによる中心塗膜層71の上に、隣接塗装ガン4Bによる一方側のダスト塗膜層72を形成し、かつ、隣接塗装ガン4Bによる中心塗膜層71の上に、隣接塗装ガン4Bに隣接する後尾塗装ガン4Cによる一方側のダスト塗膜層72を形成するよう構成されている。
【0042】
図4に示すごとく、第1塗装状態401を形成する際には、3つの塗装ガン4A,4B,4Cのうち一方の外側横フレーム部31Bに設けた塗装ガン4が先頭塗装ガン4Aとなり、他方の外側横フレーム部31Bに設けた塗装ガン4が後尾塗装ガン4Cとなる。また、
図5に示すごとく、第2塗装状態402を形成する際には、一方の外側横フレーム部31Bに設けた塗装ガン4が後尾塗装ガン4Cとなり、他方の外側横フレーム部31Bに設けた塗装ガン4が先頭塗装ガン4Aとなる。
【0043】
図7に示すごとく、本例の塗装治具3は、第1塗装状態401を形成したときには、室内部61の前後方向Lを横切って、天面601、左右の側面603,604及び床面602を一方向に回る第1一巡塗装T1を行い、第2塗装状態402を形成したときには、室内部61の前後方向Lを横切って、天面601、左右の側面603,604及び床面602を他方向に回る第2一巡塗装T2を行うよう構成されている。また、塗装治具3は、第1一巡塗装T1と第2一巡塗装T2とを、室内部61の前後方向Lにおける一方から他方へ前後方向Lに順次位置ずれしながら繰り返し、第1一巡塗装T1を行う際に後尾塗装ガン4Cによって形成された中心塗膜層71の上に、第2一巡塗装T2を行う際に先頭塗装ガン4Aによって一方側のダスト塗膜層72を積層するよう構成されている。
【0044】
図7に示すごとく、塗装治具3は、第1塗装状態401を形成し、右上角部62から反時計回りに回って、室内部61における天面601、左側面603、底面602、右側面604に第1一巡塗装T1を行う。また、
図8に示すごとく、塗装治具3は、多関節ロボット2のアーム先端部21によって、先頭塗装ガン4Aを最も前方側(塗装開始端側)L1に位置させて移動させる。このとき、先頭塗装ガン4Aが塗装を行う直後に隣接塗装ガン4Bが塗装を行い、隣接塗装ガン4Bが塗装を行う直後に後尾塗装ガン4Cが塗装を行う。そして、3つの塗装ガン4A,4B,4Cは、両側に形成されるダスト塗膜層72のうち前方側L1に形成されるダスト塗膜層72が最表面に残るように、ダスト塗膜層72の形成幅分だけフレーム部30の横方向Wにずれた状態で、塗装を行う。
【0045】
次いで、第1塗装状態401を形成した塗装治具3が室内部61を一巡して右上角部62まで移動したときには、駆動源33によって、フレーム部30の形成状態を第1塗装状態401から第2塗装状態402に変更する。また、この変更を行うとともに、多関節ロボット2のアーム先端部21の移動によって塗装治具3をボディ6の後方側へ規定量移動させる。この規定量の移動は、第1塗装状態401を形成したときの後尾塗装ガン4Cによる中心塗膜層71Cの上に、第2塗装状態402を形成したときの先頭塗装ガン4Aによる前方側L1のダスト塗膜層72Aが被るようにして行う。
【0046】
そして、
図7に示すごとく、第2塗装状態402を形成した塗装治具3は、右上角部62から時計回りに回って、室内部61における右側面604、床面602、左側面603、天面601に第2一巡塗装T2を行う。また、
図8に示すごとく、塗装治具3は、多関節ロボット2のアーム先端部21によって、先頭塗装ガン4Aを最も前方側(塗装開始端側)L1に位置させて移動させる。この先頭塗装ガン4Aは、第1塗装状態401を形成したときには後尾塗装ガン4Cを構成したものである。このとき、先頭塗装ガン4Aが塗装を行う直後に隣接塗装ガン4Bが塗装を行い、隣接塗装ガン4Bが塗装を行う直後に後尾塗装ガン4Cが塗装を行う。そして、3つの塗装ガン4A,4B,4Cは、両側に形成されるダスト塗膜層72のうち前方側L1に形成されるダスト塗膜層72が最表面に残るように、ダスト塗膜層72の形成幅分だけフレーム部30の横方向Wにずれた状態で、塗装を行う。
【0047】
次いで、第2塗装状態402を形成した塗装治具3が室内部61を一巡して右上角部62まで移動したときには、駆動源33によって、フレーム部30の形成状態を第2塗装状態402から第1塗装状態401に変更する。また、この変更を行うとともに、多関節ロボット2のアーム先端部21の移動によって塗装治具3をボディ6の後方側へ規定量移動させる。この規定量の移動は、第2塗装状態402を形成したときの後尾塗装ガン4Cによる中心塗膜層71の上に、第1塗装状態401を形成したときの先頭塗装ガン4Aによる前方側L1のダスト塗膜層72が被るようにして行う。
【0048】
そして、
図7に示すごとく、第1塗装状態401を形成した塗装治具3は、右上角部62から反時計回りに回って、室内部61における天面601、左側面603、底面602、右側面604に塗装を行う。以降は、上記と同様に、第1一巡塗装T1と第2一巡塗装T2とを繰り返し、ボディ6の室内部61に対して前方から後方へと順次塗装を行う。
【0049】
図9には、第1一巡塗装T1及び第2一巡塗装T2を繰り返して、ボディ6の室内部61の表面に形成した、中心塗膜層71及びダスト塗膜層72による塗膜層7を示す。
同図において、中心塗膜層71は、先頭塗装ガン4Aによる1段目(最下段)の層71Aと、隣接塗装ガン4Bによる2段目(中段)の層71Bと、後尾塗装ガン4Cによる3段目(最上段)の層71Cとが積層して形成される。そして、ボディ6の室内部61の表面においては、塗装開始端と塗装終了端とを除いて、最表面に、前方側L1に位置するダスト塗膜層72が露出する。また、ボディ6の室内部61の表面には、略均一な厚みで塗膜層7が形成される。
【0050】
本例のロボット塗装システム1においては、上記のごとく、3つの塗装ガン4A,4B,4Cを配設したフレーム部30を、3つの塗装ガン4A,4B,4Cが右斜めに並ぶ第1塗装状態401と、3つの塗装ガン4A,4B,4Cが左斜めに並ぶ第2塗装状態402とに可変させて、ボディ6の室内部61の表面に、光輝材を含有するメタリック塗料の塗装を行った。
そして、ボディ6の室内部61の表面において、塗装を行う両端の部位を除く全体に、中心塗膜層71の上にダスト塗膜層72を形成した。そのため、中心塗膜層71よりも塗膜が薄いダスト塗膜層72を、ボディ6の室内部61の表面に露出させることができ、塗装ムラの発生を抑制することができる。
【0051】
この塗装ムラの発生を抑制できる理由としては、次のように考える。
一般に、塗装を行う際には、塗膜は、その厚みが薄い方が塗装後に性状が変化しにくい性質を有する。特に、本例の塗装に用いた塗料はメタリック塗料であり、メタリック塗料は、形成する塗膜の厚みが小さいほど、光輝材の配向性がよくなる(向きが揃いやすい)性質を有する。これは、塗膜の厚みが小さいほど光輝材が流動しにくく、光輝材が一定の方向を向きやすいためである。
そこで、本例のロボット塗装システム1による塗装方法においては、中心塗膜層71の上に、塗膜の厚みが薄いダスト塗膜層72を形成することにより、メタリック塗装の品質を向上させ、メタリック塗装における塗装ムラの発生を抑制することができる。
【0052】
また、本例のロボット塗装システム1においては、第1塗装状態401を形成した第1一巡塗装T1と、第2塗装状態402を形成した第2一巡塗装T2とを交互に行い、複数の塗装ガン4A,4B,4Cの進行方向Dを互いに折り返して、自動車のボディ6における室内部61に塗装を行うことができる。これにより、第1塗装状態401を形成した第1一巡塗装T1と、第2塗装状態402を形成した第2一巡塗装T2とを切り替えるときに、ロボット2の各関節に発生したねじれを戻すために、3つの塗装ガン4A,4B,4Cによる塗装を一旦停止させる時間を極めて短くすることができる。また、場合によっては、複数の塗装ガン4A,4B,4Cによる塗装を一旦停止しないようにできる。そのため、塗装のサイクルタイムを短縮することができる。
【0053】
それ故、本例のロボット塗装システム1及びこれを用いた塗装方法によれば、被塗装対象に生じる塗装ムラの発生を抑制することができ、塗装のサイクルタイムを短縮することができる。
【0054】
(実施例2)
本例は、塗装治具3の構成が上記実施例1の場合とは異なる例である。
本例の塗装治具3におけるフレーム部30は、
図10、
図13に示すごとく、複数の塗装ガン4A,4B,4Cの一定方向Eとなる直交方向Wに直交して配置され塗装ガン4A,4B,4Cがそれぞれ取り付けられた複数の縦フレーム部31Cと、複数の縦フレーム部31Cの一端側を回動可能に連結する一端側平行フレーム部32Aと、複数の縦フレーム部31Cの他端側を回動可能に連結する他端側平行フレーム部32Bとからなる。本例のフレーム部30は、互いに平行な一対の平行フレーム部としての一端側平行フレーム部32A及び他端側平行フレーム部32Bを、複数の連結フレーム部としての複数の縦フレーム部31Cによって回動可能に連結して形成されている。
【0055】
図10、
図12に示すごとく、本例の塗装治具3のフレーム部30は、第1塗装状態401と第2塗装状態402とのいずれを形成するときにおいても、複数の縦フレーム部31Cと一端側平行フレーム部32A及び他端側平行フレーム部32Bとによって平行四辺形を形成する。
本例の塗装治具3は、3つの塗装ガン4A,4B,4Cを設けたものであり、本例のフレーム部30においては、塗装ガン4A,4B,4Cが取り付けられた3つの縦フレーム部31Cが互いに平行に配置されている。なお、縦フレーム部31Cは、塗装ガン4の数に比例して設けることができ、例えば、塗装ガン4及び縦フレーム部31Cをそれぞれ4つとすることができる。
【0056】
各縦フレーム部31Cの両端部分と、一端側平行フレーム部32A及び他端側平行フレーム部32Bの両端部及び中間部とは、回動可能なピン等の軸部34によって連結されている。
図11、
図13に示すごとく、本例のロボット2のアーム先端部21は、ブラケット35によって他端側平行フレーム部32Bに取り付けられている。なお、アーム先端部21は、ブラケット35によって一端側平行フレーム部32Aに取り付けることもできる。
【0057】
各塗装ガン4A,4B,4Cは、各縦フレーム部31Cにおいて、アーム先端部21及びブラケット35が配置される側と反対側に配設されている。本例の塗装ガン4A,4B,4Cは、上記実施例1に示したものと同様の構成を有している。各塗装ガン4A,4B,4Cは、そのノズル部42が、各縦フレーム部31Cと一端側平行フレーム部32Aとを連結する軸部34の中心軸線上に位置するように、各縦フレーム部31Cに配設されている。
【0058】
図10に示すごとく、本例の駆動源は、一端側平行フレーム部32Aに回動可能に連結されたシリンダ本体部332に対して、他端側平行フレーム部32Bに回動可能に連結されたロッド部333をストロークさせるエアシリンダ33Aである。シリンダ本体部332は、一端側平行フレーム部32Aに対して、真ん中の縦フレーム部31Cと端の縦フレーム部31Cとが連結された位置の中間位置に回動可能に配設されている。ロッド部333は、他端側平行フレーム部32Bに対して、真ん中の縦フレーム部31Cと端の縦フレーム部31Cとが連結された位置の中間位置に回動可能に配設されている。
本例のエアシリンダ33Aは、第1塗装状態401において、シリンダ本体部332及びロッド部333が直交方向Wを向く状態で配置されている。
【0059】
図10に示すごとく、本例の塗装治具3においては、シリンダ本体部332に対してロッド部333が戻位置X1にあるときに第1塗装状態401を形成する。第1塗装状態401においては、複数の塗装ガン4A,4B,4Cの一定方向Eが塗装治具3の進行方向Dに対する直交方向Wを向き、一端側平行フレーム部32Aと他端側平行フレーム部32Bとが向き合い、複数の塗装ガン4A,4B,4Cが直交方向Wに対して傾斜する右斜め方向Rに並ぶ。また、第1塗装状態401においては、各縦フレーム部31Cが進行方向Dに平行に並ぶ。
【0060】
図11に示すごとく、塗装治具3において、第2塗装状態402を形成する際には、シリンダ本体部332に対してロッド部333を出位置X2にする。このとき、ロッド部333が戻位置X1から出位置X2に突出する方向に、各縦フレーム部31Cが90°回転し、他端側平行フレーム部32Bが一端側平行フレーム部32Aに平行な状態が維持される。そして、複数の塗装ガン4A,4B,4Cの一定方向Eが、第1塗装状態401に対して90°回転した方向を向く。
【0061】
また、
図12に示すごとく、第2塗装状態402を形成する際には、複数の塗装ガン4A,4B,4Cの一定方向Eが塗装治具3の進行方向Dに対する直交方向Wを向くように、ロボット2のアーム先端部21及び塗装治具3の全体を、第1塗装状態401を形成した位置から90°回転させる。こうして、複数の塗装ガン4A,4B,4Cの一定方向Eが直交方向Wを向き、複数の塗装ガン4A,4B,4Cが直交方向Wに対して傾斜する左斜め方向Lに並ぶ第2塗装状態402が形成される。
なお、実際には、サイクルタイムの短縮のために、塗装治具3を第1塗装状態401と第2塗装状態402とに切り替える際には、エアシリンダ33Aのストローク動作とロボット2のアーム先端部21の回転動作とを同時に行う。
【0062】
また、本例においても、フレーム部30による第1塗装状態401と第2塗装状態402とは、左右対称の形状に形成される。また、本例の塗装治具3も、1つのエアシリンダ33Aによって、一端側平行フレーム部32A及び他端側平行フレーム部32Bが互いに平行な状態を保って、第1塗装状態401と第2塗装状態402とを形成する。
本例のロボット塗装システム1及びこれを用いた塗装方法によっても、上記実施例1の場合と同様にして、被塗装対象に生じる塗装ムラの発生を抑制することができ、塗装のサイクルタイムを短縮することができる。
本例においても、ロボット塗装システム1のその他の構成(図中の符号等)は、上記実施例1と同様であり、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0063】
(比較例1,2)
比較例1,2においては、
図14に示すごとく、フレーム部90の形成状態が変化せず、3つの塗装ガン4がフレーム部90の横方向Wに対して常に同じ傾斜状態で並ぶ塗装治具9を用いて塗装を行う場合について示す。
比較例1においては、
図15に示すごとく、ロボット2のアーム先端部21に取り付けた塗装治具9は、自動車のボディ6の前後方向Lを横切る方向において、右上角部62から反時計回りに回って、室内部61における天面601、左側面603、底面602、右側面604に、3つの塗装ガン4によって一巡目の塗装T1’を行う。次いで、塗装治具9は、右上角部62まで移動した後、後方側へ規定量移動し、右上角部62から時計回りに回って、室内部61における右側面604、床面602、左側面603、天面601に二巡目の塗装T2’を行う。その後、三巡目以降の塗装T3’は、上記と同様にして、反時計回りと時計回りとに繰り返し交互に回って行う。なお、
図15は、比較例1の塗装方法について、自動車のボディ6の室内部61を後方から見た状態で示す。
【0064】
図16には、比較例1の塗装方法を行って、ボディ6の室内部61の表面に形成した中心塗膜層71及びダスト塗膜層72による塗膜層7を示す。
同図において、中心塗膜層71は、3つの塗装ガン4によって3つの層71A,71B,71Cが積層して形成される。しかし、二巡目の塗装T2’を行った後の塗膜層7においては、後尾塗装ガン4Cによる中心塗膜層71Cの上にダスト塗膜層72が形成されない。これにより、塗膜層7の最表面に、中心塗膜層71Cが露出する部分Xが形成される。そのため、この中心塗膜層71Cが露出する部分Xが、メタリック塗装における塗装ムラ(メタルムラ)を発生させる。この中心塗膜層71Cが露出する部分Xは、二巡目、四巡目、六巡目等の偶数巡目の塗装を行ったときに形成される。
【0065】
比較例2においては、
図17に示すごとく、ロボット2のアーム先端部21に取り付けた塗装治具9は、ロボット2のアーム先端部21の移動によって、自動車のボディ6の前後方向Lを横切る方向において、右上角部62から反時計回りに回って、室内部61における天面601、左側面603、底面602、右側面604に、3つの塗装ガン4によって一巡目の塗装T1’を行う。次いで、右上角部62の近傍において、3つの塗装ガン4による塗装を一旦停止した状態で、ロボット2のアーム先端部21の移動によって各関節部に発生したねじれを戻し、ロボット2及び塗装治具9の姿勢を一巡目の塗装T1’を行う前の状態に戻す。その後、塗装治具9は、一巡目の塗装T1’と同様にして、二巡目以降の塗装T2’を行う。
なお、
図17は、比較例2の塗装方法について、自動車のボディ6の室内部61を後方から見た状態で示す。
【0066】
比較例2においては、比較例1に示した塗装ムラは発生しない。しかし、ロボット2及び塗装治具9の姿勢を戻す際に、塗装ガン4による塗装を一旦停止する時間が長くなり、塗装のサイクルタイムが長くなってしまう。
このように、比較例1,2の塗装方法においては、いずれによっても、被塗装対象に生じる塗装ムラの発生を抑制することと、塗装のサイクルタイムを短縮することとを両立することはできない。従って、これらの両立を図るためには、上記実施例1又は2に記載したロボット塗装システム1を用いることが必要になる。