(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
中空状の反応容器を有し、前記反応容器の中空部に配置される台座(3)に対して炭化珪素単結晶基板からなる種結晶(4)を配置し、炭化珪素の原料ガスとなる珪素含有ガスと炭素含有ガスを前記反応容器の中空部に供給するガス供給法により、前記種結晶(4)の表面に炭化珪素単結晶(6)を成長させる炭化珪素単結晶の製造方法であって、
前記種結晶(4)を配置していない状態で、前記炭化珪素単結晶(6)を成長させる工程とは別工程において、前記反応容器の外周に当該反応容器の外周を囲むように珪素を吸収させていない黒鉛製の断熱材(20)を配置し、前記原料ガスとなる珪素含有ガスと炭素含有ガスを前記反応容器の中空部に供給すると共に前記反応容器を加熱することで、前記反応容器から漏れた原料ガスを前記珪素を吸収させていない黒鉛製の断熱材(20)に吸収させる珪素を吸収させることによって、珪素を吸収させた断熱材(11)を用意する工程と、
前記珪素を吸収させた断熱材(11)を前記反応容器の外周に当該反応容器の外周を囲むように配置した状態で前記反応容器を加熱し、珪素含有ガスと炭素含有ガスを供給することにより、前記種結晶(4)上に前記炭化珪素単結晶(6)を成長させる成長工程と、を含んでいることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法。
前記珪素を吸収させる工程では、前記反応容器と前記珪素を吸収させていない黒鉛製の断熱材(20)との間に前記反応容器の中空部を加熱するヒータ(9、10)を配置し、前記ヒータ(9、10)により前記反応容器の中空部を加熱することを特徴とする請求項2に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
前記成長工程では、前記反応容器と前記珪素を吸収させた断熱材(11)との間に前記反応容器の中空部を加熱すると共に前記種結晶(4)を加熱するヒータ(9、10)を配置し、前記ヒータ(9、10)により前記反応容器の中空部を加熱すると共に前記種結晶(4)を加熱することを特徴とする請求項2または3に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
前記珪素を吸収させる工程では、前記珪素を吸収させていない黒鉛製の断熱材(20)を前記反応容器の外壁に接触させた状態で前記反応容器から漏れた原料ガスを前記珪素を吸収させていない黒鉛製の断熱材(20)に吸収させることを特徴とする請求項2に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
前記成長工程では、前記珪素を吸収させた断熱材(11)を前記反応容器の外壁に接触させた状態で前記反応容器を加熱することにより、前記種結晶(4)上に前記炭化珪素単結晶(6)を成長させることを特徴とする請求項2または5に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術では、SiC単結晶の成長を開始すると、SiC単結晶の成長温度を制御できずに不安定な成長となり、高品質なSiC単結晶を作製できないことが発明者らの実験・検討により明らかとなった。
【0006】
本発明は上記点に鑑み、坩堝の周囲に断熱材を配置してSiC単結晶を成長させるに際し、当該SiC単結晶の安定な成長を可能とすることができるSiC単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、坩堝から漏れる昇華ガスが新品の断熱材に吸収されていくことで、断熱材の物性が刻々と変化することにより坩堝の加熱条件が刻々と変化するため、炭化珪素単結晶の成長温度が不安定になり、その結果、炭化珪素単結晶を安定して成長させることができなくなることを突き止めた。
【0008】
そこで、請求項1に記載の発明では、中空状の反応容器を有し、反応容器の中空部に配置される台座(3)に対して炭化珪素単結晶基板からなる種結晶(4)を配置し、炭化珪素の原料ガスとなる珪素含有ガスと炭素含有ガスを反応容器の中空部に供給するガス供給法により、種結晶(4)の表面に炭化珪素単結晶(6)を成長させる炭化珪素単結晶の製造方法において、珪素を吸収させた断熱材(11)を用意し、珪素を吸収させた断熱材(11)を反応容器の外周に当該反応容器の外周を囲むように配置した状態で反応容器を加熱し、珪素含有ガスと炭素含有ガスを供給することにより、種結晶(4)上に炭化珪素単結晶(6)を成長させることを特徴としている。
【0009】
これによると、断熱材(11)は既に珪素を吸収しているので、成長工程にて当該珪素を吸収させた断熱材(11)を用いて炭化珪素単結晶(6)を成長させる際に珪素を吸収させた断熱材(11)の劣化速度が遅くなる。このため、成長工程における断熱材(11)の物性が既に安定しているので、珪素を吸収させた断熱材(11)の物性の変化による温度変化も小さくなり、
反応容器(2)の温度を所望の成長温度に制御しやすくすることができる。したがって、成長工程において炭化珪素単結晶(6)の安定な成長を可能とすることができる。
【0010】
ここで、「珪素を吸収させる」ということは、炭素の割合に対して珪素を1%以上、50%未満吸収させた場合と定義する。珪素を1%未満しか吸収させないと、まだ断熱材の劣化は早く進み、物性の変化は大きくなるので、安定な成長ができない。一方、珪素を50%以上吸収させると、ほとんどがSiCとなってしまい、断熱効果がなくなるので、断熱材としての役割を果たさなくなる。逆に、「珪素を吸収させていない」ということは、炭素の割合に対して珪素が1%未満しか含まれていない場合と定義する。また、この炭素の割合は重量パーセントではなく、原子パーセントを意味する。すなわち、「炭素の割合に対して珪素が1%未満しか含まれていない」とは、100個を超える炭素原子の中に珪素原子が1個含まれるような割合である。
【0011】
また、珪素を吸収させた断熱材(11)に含まれる珪素の割合を定量分析する手段として、EPMA(Electron Plobe MicroAnalyser:電子線マイクロアナライザー)やSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)の付随分析装置のEDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:エネルギー分散型X線分析)等が挙げられる。
【0012】
また、珪素を吸収させていない黒鉛製の断熱材(20)に含まれる微量の珪素の割合を定量分析する手段としてICP−AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission
Spectrometry:誘導結合プラズマ発光分光分析)等が挙げられる。
【0013】
具体的には、請求項
1に記載の発明
では、珪素を吸収させた断熱材(11)を用意する工程は、反応容器の外周に当該反応容器の外周を囲むように珪素を吸収させていない黒鉛製の断熱材(20)を配置し、原料ガスとなる珪素含有ガスと炭素含有ガスを反応容器の中空部に供給すると共に反応容器を加熱することで、反応容器から漏れた原料ガスを珪素を吸収させていない黒鉛製の断熱材(20)に吸収させる珪素を吸収させる
ことによって、珪素を吸収させた断熱材(11)を用意する工程を行っている。
そして、
請求項2に記載の発明のように、成長工程では、珪素を吸収させる工程の後、反応容器の中空部に種結晶(4)を配置し、珪素を吸収させる工程で得られた珪素を吸収させた断熱材(11)を当該反応容器の外周に当該反応容器の外周を囲むように配置した状態で反応容器を加熱し、珪素含有ガスと炭素含有ガスを供給することにより、種結晶(4)上に炭化珪素単結晶(6)を成長させることができる。
【0014】
そして、請求項3に記載の発明のように、珪素を吸収させる工程では、反応容器と珪素を吸収させていない黒鉛製の断熱材(20)との間に反応容器の中空部を加熱するヒータ(9、10)を配置し、ヒータ(9、10)により反応容器の中空部を加熱することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明のように、成長工程では、反応容器と珪素を吸収させた断熱材(11)との間に反応容器の中空部を加熱すると共に種結晶(4)を加熱するヒータ(9、10)を配置し、ヒータ(9、10)により反応容器の中空部を加熱すると共に種結晶(4)を加熱することもできる。
【0016】
一方、請求項5に記載の発明のように、珪素を吸収させる工程では、珪素を吸収させていない黒鉛製の断熱材(20)を反応容器の外壁に接触させた状態で反応容器から漏れた原料ガスを珪素を吸収させていない黒鉛製の断熱材(20)に吸収させることができる。
【0017】
そして、請求項6に記載の発明のように、成長工程では、珪素を吸収させた断熱材(11)を反応容器の外壁に接触させた状態で反応容器を加熱することにより、種結晶(4)上に炭化珪素単結晶(6)を成長させることもできる。
【0018】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0021】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るSiC単結晶製造装置1の断面構成図である。この図に示されるように、SiC単結晶製造装置1は、有底円筒状の容器本体2aとこの容器本体2aを蓋閉めするための円形状の蓋体2bとによって構成された黒鉛製の中空状の坩堝2を備えている。
【0022】
坩堝2のうち蓋体2bの一面(容器本体2aに対向する面)には台座3が設けられており、この台座3を介して例えば円形状のSiCの種結晶4(炭化珪素単結晶基板)が配置されている。ここで、台座3は蓋体2bとは別体のものであり、蓋体2bに一体化されていても良い。また、台座3は、蓋体2bの一面の一部が当該一面から突出した部分すなわち蓋体2bの一部でも良い。
【0023】
一方、坩堝2のうち容器本体2aの底部には、昇華ガスの供給源となるSiCの粉末原料5が配置されている。そして、坩堝2内の空間のうち種結晶4と粉末原料5との間を成長空間領域として、粉末原料5からの昇華ガスが種結晶4の表面上に再結晶化して、種結晶4の表面にSiC単結晶6(炭化珪素単結晶)が成長させられる構成としている。
【0024】
また、SiC単結晶製造装置1は、上記の坩堝2を搭載するための円板状のテーブル7と、当該テーブル7を坩堝2の中心軸を中心に回転させるための棒状のシャフト8とを備えている。
【0025】
テーブル7の一面には坩堝2が配置され、テーブル7の他面には当該他面に対して垂直方向にシャフト8が延びるようにシャフト8の一端が接続されている。シャフト8の他端は図示しない回転機構に支持され、当該回転機構によってシャフト8の中心軸を中心にシャフト8が回転させられるようになっている。例えば、坩堝2の中心軸はシャフト8の中心軸上に配置されている。これにより、テーブル7および坩堝2がシャフト8の中心軸すなわち坩堝2の中心軸を中心に回転する。
【0026】
さらに、坩堝2の外周を囲むように円筒型のヒータ9、10が配置されている。一方のヒータ9は、坩堝2のうち粉末原料5が配置された箇所の側面と対向するように配置され、他方のヒータ10は、坩堝2のうち種結晶4が配置された箇所の側面と対向するように配置されている。
【0027】
さらに、当該坩堝2の外周に当該坩堝2の外周を囲むようにカーボンを主成分とする黒鉛製の中空円柱形状の断熱材11が配置されている。具体的には、断熱材11は、ヒータ9、10の外周を囲み、かつ、ヒータ9、10および坩堝2を上下から囲むように配置されている。この断熱材11の内部空間のうちヒータ9、10および坩堝2を囲んでいる空間がガス流動室12となる。
【0028】
このような断熱材11は多くの隙間を持った多孔質体(繊維質カーボン)であり、坩堝2やヒータ9、10の外周を囲む円筒状の外周部11aと、坩堝2やヒータ9、10の上方を塞ぐ円板状の蓋部11bと、坩堝2やヒータ9、10の下方を塞ぐ円板状の底部11cとを備えて構成されている。上記の各ヒータ9、10のうちの粉末原料5側のヒータ9は底部11cの上に配置され、このヒータ9の上に棒状部材9aが配置されている。そして、この棒状部材9aの上に台座3側のヒータ10が配置されている。つまり、ヒータ10は数本の棒状部材9aによってヒータ9の上に載せられている。
【0029】
また、断熱材11の蓋部11bには、坩堝2の蓋体2bの中央位置、つまり種結晶4の裏面側と対応する位置に蓋部11bを貫通する測温孔11dが形成されている。さらに、断熱材11の底部11cには、上記のシャフト8が貫通する貫通孔11eが設けられており、シャフト8が底部11cを貫通した状態となっている。
【0030】
なお、断熱材11を構成する各部11a〜11cの厚みや坩堝2との距離(隙間)に関しては、適宜調整可能であるが、坩堝2の形状、坩堝2の内部構造、結晶成長時のヒータ9、10の温度(ヒータ内の温度分布)等によって最適な形状を選択すると好ましい。
【0031】
ここで、SiC単結晶6を成長させる際には、Si(珪素)を吸収させた断熱材11が用いられる。すなわち、断熱材11は、元々Siを含んだものである。通常の断熱材は黒鉛の多孔質材料でC(炭素)の割合に対して、Siは100ppm未満であるが、この断熱材にSiを吸収させることで、SiC単結晶6の製造を開始した後の断熱材11の劣化速度を遅い状態にしておく。これにより、断熱材11の物性を安定させ、SiC単結晶6の成長温度を制御しやすくする。物性とは、例えば熱伝導度、密度等である。
【0032】
図1に示される断熱材11の外周には高周波駆動される誘導コイル13、14が配置されている。この誘導コイル13、14に高周波の電流を流すことにより、坩堝2の外周に配置されたヒータ9、10を誘導加熱できる。なお、断熱材11と誘導コイル13、14との間に石英管を配置することによって誘導コイル13、14と坩堝2、ヒータ9、10および断熱材11とを完全に絶縁することが好ましい。
【0033】
また、これら坩堝2、ヒータ9、10、断熱材11および誘導コイル13、14は、外部チャンバ15に収容されている。この外部チャンバ15と断熱材11との間に形成される部屋がガス導入室16となる。そして、外部チャンバ15内には、雰囲気ガスとして例えば不活性ガス(Arガス等)、SiC単結晶6へのドーパントとなる窒素などの混入ガスを導入できるようにガス導入管17が設けられていると共に、混成ガスを排出できるように排気配管18が備えられている。
【0034】
さらに、断熱材11を貫通してガス導入室16とガス流動室12とを連通させるように、複数個の図示しない孔が形成されている。これにより、ガス導入室16に導入された不活性ガスがガス流動室12を流れるようになっている。各孔の内側にはアルミナ、カーボンなどで作製した筒を通しても良い。
【0035】
本実施形態では、測温孔11dを通じて台座3の温度を測定する放射温度計19が外部チャンバ15の外側に配置されている。以上が、本実施形態に係るSiC単結晶製造装置1の構成である。
【0036】
続いて、上記のような構成のSiC単結晶製造装置1によるSiC単結晶6の製造方法について説明する。本実施形態では、まず、予めSiを吸収させた断熱材11を用意する。
【0037】
次に、成長工程を行う。成長工程では、坩堝2として容器本体2aに粉末原料5を配置すると共に蓋体2bに設けられた台座3に種結晶4を配置した坩堝2を用意し、この坩堝2をテーブル7の上に配置する。そして、Siを吸収させた断熱材11を当該坩堝2の外周に当該坩堝2の外周を囲むように配置する。
【0038】
そして、図示しない排気機構を用いて、排気配管18を通じたガス排出を行って坩堝2内を含めた外部チャンバ15内を真空にすると共に、誘導コイル13、14に通電する。これにより、ヒータ9、10を誘導加熱し、その輻射熱により坩堝2を加熱することで坩堝2内を所定温度にする。
【0039】
その後、ガス導入管17を通じて、例えば不活性ガス(Arガス等)、結晶へのドーパントとなる窒素などの混入ガスを流入させる。そして、種結晶4の成長面の温度および粉末原料5の温度を目標温度まで上昇させる。例えば、成長結晶を4H−SiCとする場合、粉末原料5の温度を2100〜2300℃とし、成長結晶表面の温度をそれよりも10〜100℃程度低くする。そして、シャフト8を回転させることで坩堝2を回転させる。このとき、放射温度計19を通じて坩堝2の測温を行いながら誘導コイル13、14の通電量を制御する。
【0040】
そして、ガス導入管17を通じて雰囲気ガスを導入しているため、この雰囲気ガスがガス導入室16から断熱材11を通じてガス流動室12内に流動していった後、排気配管18を通じて排出される。また、結晶成長中に坩堝2から昇華ガスが漏れるが、Siを吸収させた断熱材11は既に物性が安定した状態になっているため、結晶成長中の昇華ガスによって断熱材11の物性が大きく変化することはない。このようにして、種結晶4上にSiC単結晶6を成長させる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態では、Siを吸収させた断熱材11を用意し、このSiを吸収させた断熱材11を用いてSiC単結晶6を製造することが特徴となっている。
【0042】
このように、断熱材11は既にSiを吸収しているので、SiC単結晶6の製造を開始した後の断熱材11の劣化速度が遅くなり、断熱材11の物性つまり断熱性能が安定する。したがって、成長中の昇華ガスによって断熱材11の断熱性能が変化しにくくなり、断熱材11の物性が安定する。このため、坩堝2を所望の成長温度に制御しやすくなるので、SiC単結晶6の成長の安定化を可能とすることができる。すなわち、断熱材11の物性が変化しにくくなったことにより、坩堝2の加熱条件を一定に保持することができるため、加熱温度が安定し、ひいてはSiC単結晶6を安定成長させることができる。
【0043】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、粉末原料5が特許請求の範囲の「炭化珪素原料」に対応し、ヒータ9、10が特許請求の範囲の「ヒータ」に対応する。
【0044】
(第2実施形態)
本実施形態では、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。上記第1実施形態では、Siを吸収させた断熱材11を予め用意してSiC単結晶6を製造していたが、本実施形態では、Siが含まれていない通常の新品の黒鉛製の断熱材20にSiを吸収させた後、このSiを吸収させた断熱材11を用いてSiC単結晶6を製造することが特徴となっている。すなわち、本実施形態では、SiC単結晶6を成長させる際には通常の新品の黒鉛製の断熱材は用いられず、Siを吸収させた断熱材11が用いられる。以下、
図2および
図3を参照して説明する。
【0045】
図2は、
図1における断熱材11のA−B断面のSi濃度プロファイルを示した図である。この図のAはSiを吸収させた断熱材11の内壁の位置であり、Bは断熱材11の外壁の位置である。
【0046】
まず、通常の黒鉛製の断熱材20(
図3参照)はC(炭素)の割合に対して、Siは100ppm未満でほとんど含まれていない。一方、
図2に示されるように、Siを吸収させた断熱材11は、Aの位置から断熱材11の内部に向かってSi濃度が上昇する。そして、Si濃度が最も高くなる箇所があり、断熱材11のBの位置(外壁側)に向かってSi濃度が減少するというSi濃度分布になっている。
【0047】
上述のように、黒鉛製の断熱材20は多孔質材料であり、坩堝2から漏れた昇華ガスに含まれるSiを吸収する。このため、黒鉛製の断熱材20に含まれるSi濃度が
図2に示されるような分布に変化していく。すなわち、新品だった黒鉛製の断熱材20の物性(断熱性能)が、Siを吸収したことによって時間と共に変化する。言い換えると、SiC単結晶6の製造を開始した後の断熱材の劣化速度が最も速く、断熱材に含まれるSi濃度の上昇と共に劣化速度も遅くなる。このため、新品の黒鉛製の断熱材20の断熱性能は安定ではない。
【0048】
したがって、本実施形態では、SiC単結晶6を成長させる前に黒鉛製の断熱材20に予めSiを吸収させることにより、Siを吸収させた断熱材11の劣化速度を遅い状態にしておく。これにより、断熱材11の物性を安定させ、SiC単結晶6の成長温度を制御しやすくする。
【0049】
具体的に、本実施形態では、始めに通常の新品の黒鉛製の断熱材20にSiを吸収させる工程を行い、Siを吸収させた断熱材11を用いてSiC単結晶6を成長させる成長工程を行うことでSiC単結晶6を製造する。SiC単結晶製造装置1については、黒鉛製の断熱材20や断熱材11を除いてSiを吸収させる工程と成長工程とで共通の装置を用いる。
【0050】
まず、Siを吸収させる工程を行う。
図3は、Siを吸収させる工程を行う際のSiC単結晶製造装置1の断面図を示したものである。なお、
図3では、誘導コイル13、14や外部チャンバ15を省略してある。
【0051】
図3に示されるように、坩堝2として容器本体2aにSi含有物21を配置すると共に蓋体2bを用意する。この坩堝2をテーブル7の上に配置し、坩堝2の外周に当該坩堝2の外周を囲むように通常の新品の黒鉛製の断熱材20を配置する。
【0052】
上述のように、Siを吸収させた断熱材11は、外周部11aと、蓋部11bと、底部11cとを備えて構成されており、当該断熱材11の蓋部11bには測温孔11dが形成され、底部11cには貫通孔11eが設けられている。したがって、Siを吸収させていない黒鉛製の断熱材20は、Siを吸収させた断熱材11の外周部11aに対応した外周部20aと、Siを吸収させた断熱材11の蓋部11bに対応した蓋部20bと、Siを吸収させた断熱材11の底部11cに対応した底部20cとを備えて構成されている。また、Siを吸収させていない黒鉛製の断熱材20の蓋部20bには、Siを吸収させた断熱材11の蓋部11bに対応する測温孔20dが形成され、Siを吸収させていない黒鉛製の断熱材20の底部20cにはSiを吸収させた断熱材11の貫通孔11eに対応した貫通孔20eが設けられている。
【0053】
ここで、「Si含有物21」は、Si粉末等のSiそのものや、Si化合物等のSiを含んだ材料を意味している。例えば、Si含有物21として粉末原料5を用いても良い。
【0054】
この後、図示しない排気機構を用いて、排気配管18を通じたガス排出を行うことで、坩堝2内を含めた外部チャンバ15内を数百Pa〜数千Paにすると共に、誘導コイル13、14に通電することでヒータ9、10を誘導加熱し、その輻射熱により坩堝2を加熱することで坩堝2内を例えば2000℃以上にする。このとき、各誘導コイル13、14への通電の周波数もしくはパワーを変えることにより、ヒータ9、10で温度差を発生させる加熱を行えるようにしている。また、測温孔11dを通じて坩堝2の上面を放射温度計19にて測温を行いながら誘導コイル13、14の通電量を制御することで、坩堝2の温度が所望温度となるようにする。
【0055】
その後、ガス導入管17を通じて、例えば不活性ガス(Arガス等)、結晶へのドーパントとなる窒素などの混入ガスを流入させる。
【0056】
そして、シャフト8を回転させることで坩堝2を回転させながら、この加熱を数10時間〜数100時間行うと、坩堝2内の昇華ガスが坩堝2の外部に漏れ、ガス流動室12を介して黒鉛製の断熱材20に吸収される。これにより、
図2に示されるように、黒鉛製断熱材20中のSi濃度が上昇し、昇華ガスに含まれるSiによって黒鉛製の断熱材20の一部がSiC化する箇所が出てくる。このようにして、黒鉛製の断熱材20にSiを吸収させることにより、断熱材11の物性を安定させることができる。
【0057】
このSiを吸収させる工程では、SiC単結晶6の成長条件と同じ条件で黒鉛製の断熱材20を熱処理することが好ましい。これにより、SiC単結晶6の成長中に黒鉛製の断熱材20が劣化していくのと同様に黒鉛製の断熱材20を劣化させることができる。したがって、SiC単結晶6の成長の際には、Siを吸収して物性が安定した状態の断熱材11を用いることになるので、坩堝2をSiC単結晶6の成長温度に制御しやすくすることができる。
【0058】
続いて、成長工程を行う。この場合、上記のSiを吸収させる工程で得られたSiを吸収させた断熱材11を当該坩堝2の外周に当該坩堝2の外周を囲むように配置する。そして、第1実施形態と同様に、種結晶4上にSiC単結晶6を成長させる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態では、SiC単結晶6を成長させる前に、新品の黒鉛製断熱材20を予め劣化させ、Siを吸収させた断熱材11を用いてSiC単結晶6を製造することが特徴となっている。
【0060】
このように、新品の黒鉛製の断熱材20を熱処理して予めSiを吸収させているので、断熱材11の劣化速度を遅くすることができ、断熱材11の断熱性能を安定させることができる。したがって、坩堝2の加熱条件を一定に保持することができ、ひいてはSiC単結晶6を安定成長させることができる。
【0061】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、Si含有物21が特許請求の範囲の「珪素含有物」に対応する。また、本実施形態では、Siを吸収させる工程と成長工程とで共通の製造装置1を用いているため、ヒータ9、10についてもSiを吸収させる工程と成長工程で共通のものを用いている。もちろん、Siを吸収させる工程と成長工程とで異なる製造装置を用いる場合には、各製造装置に備えられたヒータが各工程でそれぞれ用いられることとなる。
【0062】
(第3実施形態)
本実施形態では、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。
図4は、本実施形態に係るSiC単結晶製造装置の断面構成図である。なお、
図4では、外部チャンバ15を省略してある。
【0063】
図4に示されるように、断熱材11は坩堝2の外壁に接触している。本実施形態では、蓋部11bの測温孔11dや底部11cの貫通孔11eを除いて、外周部11a、蓋部11b、および底部11cと坩堝2との間に隙間がないように断熱材11の全体が坩堝2の外壁に接触している。このように、断熱材11と坩堝2との間に隙間がないため、本実施形態ではガス流動室12は無い。
【0064】
したがって、本実施形態では、Siを吸収させる工程では、Siを吸収させていない新品の黒鉛製の断熱材20の全体を
図4に示されるように坩堝2の外壁に接触させた状態で坩堝2から漏れた昇華ガスを黒鉛製の断熱材20に吸収させることとなる。また、成長工程では、Siを吸収させた断熱材11の全体を
図4に示されるように坩堝2の外壁に接触させた状態で坩堝2を加熱することにより、種結晶4上にSiC単結晶6を成長させることとなる。
【0065】
このように、坩堝2に断熱材11、20を接触させて覆う場合、断熱材11、20の周囲に例えば誘導加熱用コイルやヒータ等の加熱装置を配置し、この加熱装置を用いて坩堝2を加熱する。
【0066】
以上のように、断熱材11、20全体を坩堝2の外壁に接触させた状態でSiを吸収させる工程および成長工程を実施することもできる。
【0067】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、断熱材11を外周部11a、蓋部11b、および底部11cに3分割していたが、これは断熱材11の構成の一例であり、断熱材11が2分割や4分割等で構成されていても良い。黒鉛製の断熱材20についても同様である。
【0068】
上記第1実施形態では、2つの誘導コイル13、14にてそれぞれ対応するヒータ9、10の温度制御を行っているが、1つの誘導コイルにより2つのヒータ9、10の両方を共に制御しても良い。もちろん、ヒータの数や誘導コイルの数はこれに限定されるものではなく、SiC単結晶製造装置1の構成に合わせて適宜決定することができる。
【0069】
上記第1実施形態では、誘導コイル13、14によりヒータ9、10を誘導加熱しているが、坩堝2の加熱方式は誘導加熱によるヒータの自己発熱方式でも抵抗加熱によるヒータの自己発熱方式であっても良い。
【0070】
上記第2実施形態では、Siを吸収させる工程を行った後に成長工程を行っているが、Siを吸収させる工程における黒鉛製の断熱材20と坩堝2との位置関係と成長工程における断熱材11と坩堝2との位置関係は必ずしも同じでなくても良く、大体同じような位置関係であれば良い。
【0071】
上記第3実施形態では、Siを吸収させる工程および成長工程の両方で坩堝2に断熱材11、20を接触させていたが、両工程で断熱材11、20を坩堝2の外壁に接触させずに、いずれか一方の工程で断熱材11、20を坩堝2に接触させるようにしても良い。また、断熱材11、20全体を坩堝2に接触させずに、断熱材11、20の一部を坩堝2に接触させても良い。
【0072】
上記各実施形態では、容器本体2aの底部に予め粉末原料5を配置し、当該粉末原料5を昇華させてSiC単結晶6を成長させる昇華再結晶法を採用しているが、反応容器の中空部に原料ガスを導入することにより反応容器の中空部に台座3を配置すると共にこの台座3に配置した種結晶4にSiC単結晶6を、Si含有ガス、具体的には例えばシランガスと、C含有ガス、具体的には例えばプロパンガスを供給して成長させるガス供給法を採用しても良い。なお、坩堝2が反応容器に対応する。
【0073】
このようにガス供給法によりSiC単結晶6を成長させる場合、第1実施形態と同様に、Siを吸収させた断熱材11を用意しても良いし、反応容器の外周に当該反応容器の外周を囲むようにSiを吸収させていない新品の黒鉛製の断熱材20を配置し、原料ガスを反応容器の中空部に供給すると共に反応容器を加熱し、原料ガスとなるSi含有ガスとC含有ガスを供給することで、反応容器から漏れた原料ガスをSiを吸収させていない黒鉛製の断熱材20に吸収させても良い。そして、成長工程では、予めSiを吸収させた断熱材11を反応容器の外周に当該反応容器の外周を囲むように配置した状態で反応容器を加熱し、Si含有ガスとC含有ガスを供給することにより、種結晶4上にSiC単結晶6を成長させることとなる。なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、Si含有ガスが特許請求の範囲の「珪素含有ガス」に対応し、C含有ガスが特許請求の範囲の「炭素含有ガス」に対応する。
【0074】
また、第4実施形態のように断熱材11、20が反応容器に接触する場合には断熱材11、20にもガスを通過させる孔が設けられている。また、SiC単結晶製造装置1としてガス供給法に適した構成の装置が用いられる。例えば、ヒータ9、10は、反応容器の中空部を加熱すると共に種結晶4を加熱するものとして用いられる。