【実施例】
【0014】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施例に係る密封装置1の要部断面を示している。
図2は同密封装置1に備えられる平行突起形状11の拡大断面を示している。
図1ではシールリップ8の自由状態を示すために金属環2を一点鎖線よりなる仮想線で示している。
図2ではシールリップ8の接触状態を示すために金属環2を実線で示している。当該実施例に係る密封装置1は自動車関連分野においてハブベアリング用シール(ハブシール)として用いられるものであって、以下のように構成されている。
【0016】
すなわち
図1に示すように、当該密封装置1は、相対回転する二部材のうちの一方であるベアリング内輪(図示せず)に取り付けられてベアリング内輪とともに回転する金属環(スリンガーとも称する)2と、二部材のうちの他方であるベアリング外輪(図示せず)に取り付けられて金属環2に摺動可能に密接するリップシール(シール部材とも称する)3とを有している。
【0017】
金属環2は、請求項1で規定されるところの、シールリップ8が摺動可能に密接する相手部材を構成している。またこの金属環2は、筒状部2aの軸方向一方の端部に径方向外方へ向けてフランジ部2bを一体成形したものであって断面略L字形に形成され、筒状部2aをもってベアリング内輪の外周面に嵌着される。
【0018】
一方、リップシール3は、金属製の取付環4と、この取付環4に被着されたゴム状弾性体5との組み合わせにより構成されている。取付環4は、筒状部4aの軸方向他方の端部に径方向内方へ向けてフランジ部4bを一体成形したものであって断面略L字形に形成され、筒状部4aをもってベアリング外輪の内周面に嵌着される。ゴム状弾性体5は、取付環4の筒状部4aの内周面に被着(加硫接着)された内周ゴム部6と、取付環4のフランジ部4bの内側端面に被着された端面ゴム部7と、この端面ゴム部7に支持されて金属環2のフランジ部2bの軸方向端面(内側端面)2cに摺動可能に密接するシールリップ(第1シールリップ、サイドリップ)8と、同じく端面ゴム部7に支持されて金属環2の筒状部2aの外周面に摺動可能に密接するシールリップ(第2シールリップ、ラジアルリップ)9と、グリースリップ(第3シールリップ)10とを一体に有している。
【0019】
また、当該実施例に係る密封装置1においては特に、金属環2のフランジ部2bの軸方向端面2cに摺動可能に密接するシールリップ8の摺動面8aに、平行突起形状11が設けられている。
【0020】
図2に拡大して示すように、平行突起形状11は、複数の環状突起12によって構成されている。シールリップ8の摺動面8aに設けられる突起としては、いわゆるポンピング作用をなすためのネジ突起が知られているが、本発明ではこのようなネジ状の突起ではなく、環状エンドレス状の突起12が設けられている。環状突起12の本数は特に制限されないが、3〜7本程度が好適である。複数の環状突起12の断面形状は同形同大に成形されている。
【0021】
環状突起12はそれぞれ断面三角形状に成形されている。金属環2のフランジ部2bの軸方向端面2cに対する大気側斜面12aの傾斜角度αは軸側斜面12bの傾斜角度βよりも大きく設定されている(α>β)。互いに隣り合う環状突起12同士の間には、傾斜角度をほとんど持たない環状の平坦部13が設けられている。したがって互いに隣り合う環状突起12同士は平坦部13の幅寸法w
1に相当する間隔をあけて設けられている。また、平坦部13が設けられるのに伴って環状突起12間の溝部14は断面台形状に形成されている。
【0022】
尚、互いに隣り合う環状突起12同士が間隔をあけて設けられていると云うことは、これを換言すると、環状突起12の幅寸法よりも環状突起12のピッチ寸法のほうが大きく設定されていることになる。
【0023】
また、複数の環状突起12のうち、シールリップ8の最も先端側に配置される環状突起12はシールリップ8の最先端部8bに設けられており、すなわち総じて平行突起形状11はシールリップ8の最先端部8bに設けられている。したがってシールリップ8の最先端部8bには上記従来技術における面接触領域57に相当する構成は設けられていない。
【0024】
上記構成の密封装置1においては、互いに隣り合う環状突起12間に平坦部13が設けられるように複数の環状突起12が所定の間隔をあけて設けられているために、互いに隣り合う環状突起12間に従来対比で比較的大きな断面積の溝部14が形成され、よってこの溝部14に比較的多量の潤滑剤を貯留することが可能とされている。また、複数の環状突起12のうちの1つの環状突起12がシールリップ8の最先端部8bに設けられているために、シールリップ8の最先端部8bには上記従来技術における面接触領域57に相当する構成が設けられておらず、よって摺動トルク低減の阻害要因が1つ解消されている。したがってこれらのことからリップ摺動時に発生する摩擦トルクを十分に低減させることができる。
【0025】
また、比較例として
図3(A)に示すように比較的小さな断面積の溝部14の場合には、この溝部14に泥水等に含まれる泥や小石等の異物Eが噛み込むとシールリップ8が金属環2から離れてシール性が早期に喪失してしまうところ、
図3(B)に示すように比較的大きな断面積の溝部14によれば、この溝部14内に異物Eを収めてしまうことが可能となり、よってシールリップ8が金属環2から離れずシール性を維持することができる。したがって本発明によれば、シールリップ8のシール性を維持しながら摩擦トルクを十分に低減させることができる。
【0026】
つぎに、リップ摺動面8aへの平行突起形状11の付与による摩擦低減効果の比較試験を行なったので、その内容を説明する。
供試体としては、以下のものを使用した。
<比較例1>:平行突起形状11なし
<比較例2>:平行突起形状11あり、環状突起12の幅寸法0.04mm、環状突起12のピッチ寸法0.04mm、すなわち平坦部13なし
<実施例1>:平行突起形状11あり、環状突起12の幅寸法0.04mm、環状突起12のピッチ寸法0.10mm、平坦部13の幅寸法0.06mm
潤滑剤としては一般的なベアリング用グリースを使用した。リップシール3を固定した状態で、摺動の相手部材である金属環2を500rpmで回転させたときの摩擦力を、比較例1の摩擦力を100として相対的に比較した。
【0027】
【表1】
【0028】
結果は表1に示すとおりであって、実施例1によれば比較例1および2のいずれよりも摩擦力が低減するのを確認することができた。
【0029】
つぎに、シール性(本評価では、外部からの泥水の浸入に対するシール性)確認のため、軸中心まで泥水(水+関東ロームJIS8種)を浸漬させた状態でリップ8,9間に一般的なベアリング用グリースを封入して、摺動の相手部材である金属環2を1000rpmで回転させたときの漏れが発生するまでの時間を、比較例1の時間を100として相対的に比較した。
【0030】
【表2】
【0031】
結果は表2に示すとおりであって、実施例1によれば比較例1とほぼ同等で、比較例2よりも高いシール性を確認することができた。尚、比較例2でシール性が低下するのは、上記
図3(A)にて示したように異物Eが摺動部に噛み込んでシールリップ8が金属環2から離れてしまうためと考えられる。
【0032】
図4に示すように、平行突起形状11を構成する各環状突起12の大気側斜面12aは密封装置の中心軸線Oと平行な円筒面状のものであっても良く、軸側斜面12bは密封装置の中心軸線Oと直交する平面状のものであっても良い。