(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の好適な実施形態のいくつかについて説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0024】
1. 標的細胞の検出方法
本発明にかかる標的細胞の検出方法は、細胞表面に存在する特定の分子に特異的に結合する物質が固定された粒子(以下、「標識粒子」という。)及び検査対象である細胞を含む分散液について光学的又は電磁的方法による測定(以下、「検査測定」という。)を行って測定結果1を得る工程1、標識粒子を含まず、前記検査対象である細胞を含む分散液について工程1と同一の検査測定を行って測定結果2を得る工程2、及び測定結果1と測定結果2を比較する工程3を有する。
【0025】
1.1. 細胞分散液及びその調製方法
本実施形態で準備される細胞分散液は、液体中に少なくとも標的細胞が分散(懸濁)されているものであるかぎり限定されない。このような細胞分散液としては、たとえば、人間等の動物の体液、すなわち、血液、リンパ液、組織液、体腔液などを挙げることができる。また、体液を等張緩衝液等の適当な分散媒で希釈して調製した細胞分散液を調製しても良い。また、本実施形態にかかる細胞分散液としては、生体由来のものに限定されず、試験、研究等のために人工的に細胞を分散させて調製された各種の細胞の分散体であってもよい。また、細胞の分散媒についても限定されず、典型的には水、血しょう等であり、グリセリン、アルコールなどの有機溶剤であってもよい。さらに、溶質として、食塩、緩衝剤、その他の薬剤が含まれていてもよい。
【0026】
本実施形態の標的細胞の具体例としては、白血球、赤血球、血小板、人工的な細胞(遺伝子操作された細胞など)や、がん細胞など、表面に抗原を有する細胞などを挙げることができる。標的細胞が有する細胞表面マーカーとしては、タンパク質、糖鎖、複合糖質、および脂質の少なくとも一種が挙げられる。また、1つの標的細胞は、複数種の細胞表面マーカーを有していてもよい。細胞表面マーカーの種類については、特に制限はなく、たとえば、タンパク質としては、各種の受容体(レセプター)、CD抗原(国際的クラスターCD(cluster of differentiation)表示に基づく)などが挙げられる。また、糖鎖としては、たとえば糖タンパク質系糖鎖、糖脂質系糖鎖、グリコサミノグリカン系糖鎖、および多糖類由来オリゴ糖鎖の少なくとも一種が挙げられる。また、複合糖質としては、糖鎖を持つ生体内高分子を挙げることができる。たとえば、複合糖質としては、糖タンパク質(糖ペプチドも含む)、プロテオグリカン、および糖脂質の少なくとも一種が挙げられる。
【0027】
細胞分散液には、標的細胞と標的細胞以外の他の細胞のいずれが含まれてもよい。この場合、たとえば、細胞分散液が血液である場合であって、白血球が標的細胞である場合には、赤血球や血小板が他の細胞に該当する。また、同様に、細胞分散液が血液である場合であって、赤血球が標的細胞である場合には、白血球や血小板が他の細胞に該当する。特定の疾患を検査する場合に、例えばその疾患の原因であるウイルスに感染したことにより特定の細胞表面マーカーを有する細胞が標的細胞である場合には、そのウイルスに感染した細胞が含まれていない正常細胞の検体については標的細胞を含んでいない場合がある。
【0028】
細胞分散液中に分散される細胞の濃度は、特に限定されない。細胞分散液中に分散される細胞の濃度は、たとえば、細胞分散液が血液であって、標的細胞が白血球である場合には、1000(個/μl)以上、20000(個/μl)以下とすることが好ましい。このため、血液その他の体液を必要に応じて希釈して用いることができる。また、人工的に細胞分散液を作成する場合には、細胞分散液中に分散される標的細胞の濃度は、たとえば、10(個/μl)以上、1×10
7(個/μl)以下程度とすることができる。
【0029】
1.2. 標識粒子及びその調製方法
本発明で用いられる標識粒子は、以下に説明するベース粒子に、細胞表面に存在する特定の分子に特異的に結合する物質を固定して調製される。
【0030】
1.2.1. ベース粒子
ベース粒子の形状は、特に限定されない。たとえば、ベース粒子の形状は、球、回転楕円体、円柱等の形状、および不定形の形状であることができる。また、粒子全体として、形状が揃っている必要はなく、また例示した形状の粒子の混合物であってもよい。これらのうち、球状のポリマー粒子は、たとえば、エマルション重合等によって製造することができるため、製造を容易化することができる。また、粒子の形状を揃えることにより、たとえば、レーザー照射による散乱光に特徴を付与すること、および光学的な観察による粒子の特定を容易化すること、などの機能を付与することができる。
【0031】
ベース粒子の大きさは、数平均粒子径として、0.04〜10μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがさらに好ましく、1〜5μmであることが特に好ましい。数平均粒子径(直径)が0.04μm未満では、該粒子を標的細胞に吸着させた際に、前記測定結果を明確に変化させることが出来ない場合がある。また細胞分散液が血液であって、白血球が標的細胞である場合は、数平均粒子径が10μmを超えると、該粒子は、標的細胞の大きさと同等以上の大きさとなるため、標的細胞に吸着していない該粒子と標的細胞との区別を付けにくくなること、および標的細胞に吸着した場合は、前記測定結果が、過剰に変化して、測定工程における情報の取得に支障を来たす場合がある。また、数平均粒子径が0.5μm以上である場合には、光散乱法による検査測定が容易になる。
【0032】
数平均粒子径は、光散乱法若しくは光遮断法によりポリスチレン粒子換算の数平均粒子径として求めるか、又は電子顕微鏡法により求める。これらの測定方法のいずれを用いてもよく、いずれかの測定方法で求めた数平均粒子径が上記範囲にあれば本発明に好適に用いることができる。測定精度との関係からは、粒子径が0.04〜1μm程度の場合には光散乱法が好ましく、粒子径が1〜5μm程度の場合には光遮断法が好ましく、5μm程度以上の場合には、電子顕微鏡法が好ましい。
【0033】
ベース粒子の材質としては、特に限定されるものではないが、有機粒子や無機粒子を挙げることができる。有機粒子としては、たとえば、ポリスチレン、ポリ乳酸、アクリル、ポリエチレンイミン、アガロース、イミノ二酢酸キレート、磁性ラテックス、磁性ポリ乳酸、磁性デキストラン、磁性キトサン、磁性アガロース、磁性ポリエチレンイミン等が挙げられる。無機粒子としては、たとえば、シリカ、磁性シリカ、酸化鉄、無機半導体粒子等が挙げられる。また、ベース粒子は、異なる材質の粒子を混合したものであってもよく、具体的には、1種若しくは2種以上の有機粒子若しくは無機粒子、又は有機粒子と無機粒子を併用してもよい。
【0034】
また、ベース粒子は、極性基を有していることが好ましく、さらに好ましくは粒子表面に極性基を有していることが好ましい。ここで、極性基としては、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、アルキレンオキシド基、ケト基、置換または非置換のアミノ基から選ばれる少なくとも一種の基であることが好ましい。粒子表面に極性基を導入することで粒子が親水性になり、細胞分散液中の細胞の非特異的な吸着を抑制することができ、測定結果の信頼性を向上させることができる。
【0035】
このような親水性の基を有するベース粒子は、親水性の基を有するモノマー(親水性モノマー)を原料の一部としてエマルジョン重合する方法、粒子を親水性モノマーを含有するモノマー部で被覆し該モノマー部を重合する方法等により調製することができる。
【0036】
親水性モノマーとしては、例えば、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレートなどの親水性官能基を有する(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどを例示することができる。なお、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ基を有するモノマーを重合すると加水分解されて極性基である水酸基を生成するため、これらのモノマーも好適に用いることができる。
【0037】
ベース粒子は、赤、青、緑等の、可視光領域における色を呈するように着色されていてもよい。着色することにより、たとえば、粒子を光学顕微鏡で観察する際の視認性を高めることができる。これにより、細胞分散液中の標的細胞(粒子が結合された細胞)の数が少ない場合などに、顕微鏡による標的細胞の検索を容易化することができる。
【0038】
1.2.2. 細胞表面に存在する特定の分子に特異的に結合する物質
細胞表面に存在する特定の分子に特異的に結合する物質としては、特に限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体などの抗体その他のタンパク質分子またはその集合体、および抗体のFab’フラグメントその他のポリヌクレオチド等が挙げられる。また、抗体は、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDなどのサブクラスを有するが、いずれであってもよい。
【0039】
細胞表面マーカーがCD抗原である場合には、そのCD抗原に特異的に結合するモノクローナル抗体(抗CD抗原抗体)が固定されることが好ましい。抗CD抗原抗体の具体例としては、抗CD3抗原抗体(CD3抗体と略記することがある)、抗CD4抗原抗体(CD4抗体と略記することがある)、抗CD8抗原抗体(CD8抗体と略記することがある)などを例示することができる。これらの抗ヒトCD抗原モノクローナル抗体が抗ヒトCD抗原モノクローナル抗体である場合には、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジなどを用いて好適に調製することができる。
【0040】
1.2.3. 標識粒子の調製方法
ベース粒子に上記細胞表面に存在する特定の分子に特異的に結合する物質を固定する方法としては、特に限定されず、吸着等によって物理的に固定する方法、および、共有結合、水素結合等によって化学的に固定する方法などが挙げられる。さらに、ベース粒子に上記抗体等の物質を固定する方法としては、ベース粒子に直接、上記抗体等の物質を固定する方法(以下、直接法と称することがある)、およびベース粒子と上記抗体等の物質との間に他の物質を介在させて固定する方法(以下、間接法と称することがある)を挙げることができる。
【0041】
たとえば、ベース粒子に抗体を直接に固定する方法としては、粒子表面の官能基に抗体のFc部位をカップリング剤によって共有結合させる方法などが挙げられる。カップリング剤としては、たとえば、EDC(1−Ethyl−3−(3−Dimethylaminopropyl)−Carbodiimidehydrochloride)などのカルボジイミド類等を用いることができる。カップリング剤としてEDCを用いると、カルボジイミドカップリング反応によって、ベース粒子に共有結合によって抗体を直接固定することができる。また、このとき、ブロッキング剤を併用してもよい。ブロッキング剤としては、BSA(ウシ血清アルブミン)、ゼラチン、スキムミルク、卵白アルブミンなどを用いることができる。
【0042】
ベース粒子に、抗体を直接結合させる場合の抗体の量は、ベース粒子の重量に対して、0.1〜100μg/mg粒子であることが好ましい。
【0043】
一方、ベース粒子に間接的に抗体を固定する方法としては、ベース粒子に二次抗体を介して一次抗体を結合させる方法が挙げられる。この場合、細胞表面マーカーに特異的に結合する抗体が一次抗体であり、一次抗体に対して特異的に結合する抗体が二次抗体である。他の間接法としては、ベース粒子にプロテインG、プロテインAなどのIgGのFc部位に対して特異的に結合する性質を有するタンパク質またはその誘導体を結合させて、このタンパク質またはその誘導体に、細胞表面マーカーに特異的に結合する抗体を結合させる方法などが挙げられる。
【0044】
前記一次抗体と二次抗体を用いる方法の場合、二次抗体には、一次抗体の免疫グロブリンが由来する動物種に対応する抗体が選択されることが好ましい。たとえば、一次抗体が、抗ヒトCD抗原モノクローナル抗体であって、これがマウス由来である場合(以下これを抗ヒトCD抗原マウス抗体と称することがある)には、二次抗体は、抗マウス免疫グロブリン抗体(抗マウスIgG抗体等)を選択することが好ましい。より具体的には、たとえば、一次抗体が抗ヒトCD抗原マウスIgG抗体である場合、二次抗体は、抗マウスIgG抗体を選択することが好ましい。この場合の抗マウスIgG抗体の由来動物種は、ラット、ウサギ、ヒツジなどとすることが好ましい。
【0045】
二次抗体として、ベース粒子に、抗マウスIgG抗体を結合させる場合の抗マウスIgG抗体の量は、ベース粒子の重量に対して、0.1〜10μg/mg粒子であることが好ましい。粒子に、プロテインAまたはプロテインGを結合させる場合の量は、ベース粒子の重量に対して、0.1〜100μg/mg粒子であることが好ましい。そしてこれらの場合において、一次抗体の量は、粒子の重量に対して、0.1〜100μg/mg粒子であることが好ましい。
【0046】
また、一次抗体を、ベース粒子にプロテインGまたはプロテインAを介して高率に結合させた後、非特異的な吸着を抑制させるために、抗マウスIgG抗体等をマスキング剤として、プロテインGまたはプロテインAに結合させることができる。この場合の抗マウスIgG抗原抗体等の量は、粒子の粒子径やプロテインA、プロテインGの結合量にも依存するが、0.1〜100μg/mg粒子であることが好ましい。
【0047】
標識粒子は、生理食塩水、緩衝液(ホウ酸バッファー、EDTAバッファー、トリスバッファー、リン酸バッファーなど)等の分散媒に分散して使用される。
【0048】
1.3. 工程1
工程1は、標識粒子及び検査対象である細胞を含む分散液について検査測定を行って測定結果を得る工程である。工程1で得られる測定結果を測定結果1という。細胞分散液の中に標的細胞が存在していた場合には、標識粒子と標的細胞が抗原抗体反応等により特異的に結合する。一方、標識粒子と標的細胞以外の細胞は特異的に結合することはできない。このため、工程1において、標的細胞だけが1個又は2個以上の標識粒子と結合することになる。
【0049】
1.3.1. 細胞等の分散液
本工程で用いられる分散液中における標識粒子の配合量は、細胞分散液の種類にもよるが、1×10
2個/μl〜9×10
10個/μlであることが好ましい。細胞分散液が血液であって標的細胞が特定の細胞表面マーカーを有する白血球である場合には、標識粒子濃度が1×10
2個/μl未満であると、一般的な血液の白血球数の十分の一レベルになり、十分なインキュベーション時間を与えても、標的細胞に粒子が結合する確率が非常に小さくなってしまうことがある。また細胞分散液が血液であって標的細胞が特定の細胞表面マーカーを有する白血球である場合、粒子濃度が9×10
10個/μlを超えると、粒子数が白血球数に比べ大過剰となり、標的細胞に結合していない粒子が細胞分散液に大量に存在することになるため、検査測定が阻害されて標的細胞の正確な測定が実施できなくなる場合がある。また、たとえば、細胞分散液が血液である場合であって、標識粒子が1g/l程度の濃度で分散された分散体として供給される場合には、血液100μlに対して、10μl程度の粒子分散体を添加することが好ましい。
【0050】
なお、着色された標識粒子を使用する場合には、異なる色の粒子ごとに、種類の異なる抗体等を該標識粒子にそれぞれ固定することができる。このようにすれば、標的細胞を異なる色の標識粒子によって多重に修飾することができ、標的細胞が有する抗原を、たとえば、光学顕微鏡による観察すること、または分光的な測定を行うことによって、容易に識別することができるようになる。これにより、標的細胞の鑑別をより容易に行うことができる。
【0051】
また、たとえば、表面に複数種の細胞表面マーカーを有する標的細胞を含む細胞分散液の場合、複数種の細胞表面マーカーのうちの第1の細胞表面マーカーに特異的に結合する第1の物質が固定された第1の標識粒子を添加すること、および、複数種の細胞表面マーカーのうちの第2の細胞表面マーカーに特異的に結合する第2の物質が固定された第2の標識粒子を添加することができる。これにより、各細胞表面マーカー毎に検査測定を行うことができる。
【0052】
1.3.2. 検査測定
検査測定は、細胞分散液を光学的又は電磁的な方法等により行う測定である。ここで電磁的方法とは、電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。検査測定の具体的方法としては、例えば、光散乱法、光遮断法、蛍光法等の光学的方法、下記のベックマン・コールター社の呼称であるいわゆるコールター原理等による電磁気的方法等による細胞数と細胞の大きさの測定が挙げられる。これらのうち、蛍光法以外の光学的方法や電磁気的方法またはこれらの組合せが好ましく、蛍光法以外の光学的方法としては、光散乱法が好ましい。蛍光法を用いた場合には、蛍光を発することのできる標識粒子を用いる必要があり、また、フローサイトメトリー等の方法が必要となるため、設備と試薬が高価となる等の問題を生じるためである。
【0053】
検査測定の方法は、1種類の検査測定方法を用いてもよいし、複数の検査測定項目について行うこともできる。複数の検査測定項目について検査測定を行った場合、得られた測定結果を組み合わせて用いることもできる。例えば、光散乱法等により細胞の大きさを測定すると共に、細胞の個数を測定した場合、細胞の大きさと細胞の個数の相関関係を知ることができるため、より多くの情報を得ることができる。あるいは、各標的細胞と標識粒子の結合量を測定し、該結合量に対する標的細胞数の分布を求める方法で行ってもよい。
【0054】
光散乱法としては、前方散乱光強度測定法、側方散乱光強度測定法が挙げられる。
【0055】
(1)前方散乱光強度測定法
前方散乱光は、レーザー光が細胞に当たって周囲に散乱した光のうち、レーザー光軸に対して前方に散乱される光である。前方散乱光の強度は細胞の投影面積に比例する。すなわち、大きな細胞に対してレーザー光を照射した場合は大きな前方散乱光強度が得られ、小さな細胞に対しては小さな前方散乱光強度が得られる。そのため、前方散乱光強度の測定によって、細胞のサイズなどを見積もることができる。
【0056】
標的細胞に標識粒子が結合した場合、前方散乱光強度は、修飾前の標的細胞の前方散乱光強度よりも大きくなる場合がある。そのため、前方散乱光強度の測定からは、修飾された標的細胞は、修飾前の標的細胞よりも見かけ上の大きさが大きくなったように観測される。すなわち、前方散乱光強度の測定により、標的細胞の見かけの大きさを見積もることができる。これにより、標的細胞への標識粒子の結合の有無や結合数などを評価することができる。
【0057】
また、前方散乱光のうち、レーザー光軸に対して、より広角の方向に散乱される光を測定することもできる。前方散乱光の広角側の強度は、たとえば、細胞の内部の顆粒の有無および顆粒の数、細胞内の密度などの情報を含んでいる。広角散乱光強度が大きければ細胞の内部構造は複雑であり、広角散乱光強度が小さければ細胞の内部構造は単純である傾向がある。そのため、広角散乱光強度の測定によって、細胞内の顆粒の有無および多寡、細胞内の密度や構造の情報を見積もることができる。
【0058】
前方散乱光強度の測定で白血球の解析を行う場合には、標識粒子の数平均粒子径は、2〜5μmであることがより好ましい。
【0059】
(2)側方散乱光強度測定法
側方散乱光は、レーザー光が細胞に当たって周囲に散乱した光のうち、レーザー光軸に対して直交する方向に散乱される光である。側方散乱光の強度は、細胞よりも小さいスケールの散乱体の存在により変化する。そのため、側方散乱光は、前方散乱光の広角側の光と同様に、たとえば、細胞の内部の核の分葉度などの情報を含んでいる。すなわち、側方散乱光強度が大きければ細胞の内部構造は複雑であり、側方散乱光強度が小さければ細胞の内部構造は単純である傾向がある。そのため、通常は側方散乱光強度の測定によって、分葉度の小さい幼弱な細胞の有無および多寡の情報を見積もることができる。
【0060】
標的細胞に標識粒子が結合した場合、側方散乱光強度は、修飾前の標的細胞の側方散乱光強度よりも大きくなる場合がある。そのため、側方散乱光強度の測定からは、修飾された標的細胞の、修飾前の標的細胞に対する相対的な、細胞内の構造の変化が観測される。すなわち、側方散乱光強度の測定により、標的細胞の見かけ上の細胞内の核の分葉度等の構造を見積もることができる。これにより、標的細胞への標識粒子の結合の有無、結合数、細胞内の構造の複雑さなどを評価することができる。
【0061】
側方散乱光強度の測定で解析を行う場合には、標識粒子の数平均粒子径は、300nm〜5μmであることがより好ましい。
【0062】
(3)側方蛍光強度測定法
側方蛍光は、レーザー光が細胞の蛍光物質に当たって周囲に発せられた蛍光のうち、レーザー光軸に対して直交する方向に現れる蛍光である。側方蛍光の強度は、細胞に含まれるまたは細胞に結合した蛍光物質の量によって変化する。側方蛍光強度は、たとえば、以下のようにして測定することができる。
【0063】
細胞内のDNAやRNAに特異的に結合する蛍光物質で細胞成分を染色すると、染色された細胞がレーザー光を吸収することにより、蛍光物質が蛍光を発する。この場合は、側方蛍光強度は、蛍光物質で染色されたDNAまたはRNAの量に依存するため、細胞に含まれるDNAやRNAの量の情報を含んでいる。
【0064】
標的細胞の表面に蛍光物質を含む標的粒子を結合させた場合は、修飾された標識細胞にレーザー光を照射することにより、蛍光物質が蛍光を発する。この場合は、側方蛍光強度は、標的細胞に結合した標識粒子の量の情報を含んでいる。
【0065】
蛍光物質としては、たとえば、プロピジウムアイオダイド、エチジウムブロマイド、およびアクリジンオレンジ等を使用することができ、複数の蛍光物質を併用することもできる。粒子に蛍光物質を付与する方法としては、たとえば、粒子の表面に蛍光物質を結合させる方法、粒子の合成時にモノマーと共に添加して粒子内に蛍光物質を取り込ませる方法などを挙げることができる。
【0066】
側方蛍光強度の測定は、白血球5分類血液検査装置等において、必要に応じて付加的に行われることができる。
【0067】
細胞と標識粒子とを混合して分散液を調製してから検査測定を行うまでの時間は、特に限定されないが、好ましくは、30秒〜60分である。細胞分散液が血液である場合、この範囲を超えると、血液の凝固等を生じることがある。フローサイトメーターは、蛍光法を中心とする光学的方法を用いる測定装置である。いわゆるコールター原理を用いた血球計数装置は、電界中の細孔を細胞が通過する際に、電解質溶液と細胞とが置き替わり、電気抵抗、インピーダンス、電磁界などが変化することを利用して、細孔を通過した細胞の数を計数するというものである。この装置によれば、細胞分散液に分散されている多数の細胞を原理的には一つずつ測定することができる。そして、細孔を通過する細胞が大きいほど、抵抗値の変化が大きくなるため、血球計数装置を用いた測定では、細胞分散液中の細胞の数、大きさ、体積などを迅速に測定することができる。血球計数装置によって、個数等を測定され得る細胞の大きさとしては、典型的には、直径1〜30μm程度である。
【0068】
白血球3分類血液検査装置および白血球5分類血液検査装置は、たとえば、血球計数装置に、レーザー照射装置および散乱光受光装置などを付加して構成される。白血球3分類血液検査装置または白血球5分類血液検査装置によれば、細胞分散液に分散されている多数の細胞一つずつについて、レーザー散乱光の強度を測定することができる。検出される散乱光強度としては、前方散乱光強度、側方散乱光強度、側方蛍光強度などを挙げることができる。
【0069】
工程1の測定結果は、光散乱強度等の数値として得てもよく、複数の検査測定法を併用した場合には、各検査測定法により得られた測定値の相関関係を、たとえば散布図(スキャッタグラム)に表してもよい。たとえば、細胞分散液中の細胞の個数に関する数値と、細胞の大きさに関する数値を散布図に表すことや、細胞分散液中の細胞の大きさに関する数値と、細胞の内部情報(たとえば顆粒の多寡)に関する数値とを散布図に表すことなどが挙げられる。このような散布図は、3次元以上の散布図とすることもできる。このような散布図は、細胞分散液の特徴の表現力が高いため、たとえば、医師等による診断のためのデータとして、より有用である。
【0070】
工程1の測定結果から、細胞分散液中の標的細胞の有無、標的細胞の個数などの情報を得ることができる。これにより、たとえば、標的細胞を修飾の程度に応じて分類することができ、細胞分散液をこの分類に基づいて特徴付けることができる。
【0071】
また、解析工程で行われる解析としては、修飾工程で修飾された標的細胞および修飾されていない標的細胞に関する測定結果を比較することを含むことができる。これにより、たとえば、標的細胞の表面に存在する抗原の多寡を把握することができ、この解析に基づいて細胞分散液を特徴付けることができる。
【0072】
さらに、解析工程で行われる解析としては、修飾工程の前後で測定された情報の比較を行うことを含むことができる。これにより、たとえば、標的細胞の特定と、標的細胞の分類を同時に行うことができ、細胞分散液をこれに基づいて鑑別することができる。
【0073】
以上のような解析工程を経ることによって、細胞分散液中に含まれる細胞の表面に存在する抗原の種類によって、細胞を分類することができ、これに基づいて細胞分散液を特徴付けることができる。
【0074】
1.4. 工程2
工程2は、標識粒子を含まず、前記検査対象である細胞を含む分散液について工程1と同一の検査測定を行って測定結果を得る工程である。工程2で得られる測定結果を測定結果2という。ここで、検査測定と同一の測定とは、たとえば、測定項目、および測定条件の少なくとも一種が同一である検査測定のことをいう。
【0075】
工程2は、分散液中に標識粒子を含まない点でのみ工程1と異なる工程であって、工程2で用いられる細胞分散液は、工程1で用いられるものと同一である。なお、工程2は、工程1の前に行っても後に行ってもよい。
【0076】
1.5. 工程3
工程3は、測定結果1と測定結果2を比較する工程である。比較する方法としては、特に限定されないが、例えば、得られた測定結果を数値データとして比較する方法、数値データを散布図等に表して比較する方法等が挙げられる。比較は定量的に行ってもよいし、散布図を目視で比較するなど定性的に行ってもよい。複数の測定項目について検査測定を行い、得られた各測定項目についての相関関係を解析し、測定結果1と測定結果2を比較することもできる。工程3は、工程1および工程2の検査測定と共に、血球計数装置、白血球3分類血液検査装置、白血球5分類血液検査装置、又はフローサイトメーターを用いて行うことができる。
【0077】
1.6. その他の工程
本発明の標的細胞の検出方法は、工程1〜工程3の他に、他の工程を有していてもよい。他の工程としては、たとえば、細胞分散液を光学顕微鏡によって観察する観察工程が挙げられる。観察工程は、細胞分散液の塗抹標本を作成して、これを光学顕微鏡で観察する工程である。塗抹標本は、公知の方法で作成することができる。細胞分散液がヒトの血液である場合、抗体が固定された粒子を添加した後、血液塗抹標本を作製するまでのインキュベーション時間は30秒〜60分であることが好ましいがこれに限らない。
【0078】
観察工程は、たとえば、上述の測定工程で得られた情報の確認を行うために付加されることができる。この場合、観察工程では、修飾された標的細胞の種類等が、目的とした細胞であるか否か等の確認を行うことができる。
【0079】
また、観察工程は、上述の測定工程で得られる測定結果とは異なる種類の情報を得るために付加することができる。たとえば、上述のように、標的細胞の表面の抗原に対応して着色された粒子を適用した際に、観察工程では、細胞の種類に関する情報を、より直接的に得ることができる。すなわち、この場合は、細胞の表面の抗原に基づき、細胞のより詳細な分類を行うことができる。また、血液塗抹標本を顕微鏡下で観察する場合、このような複数マーカー(複数カラー)によるマルチカラー解析を行うことにより、たとえば形態学的検査の客観性を向上させることができる。
【0080】
たとえば、標識粒子として、それぞれ、可視光領域において互いに異なる色に着色された、第1の標識粒子および第2の標識粒子を用い、観察工程において、第1の標識粒子および第2の標識粒子を標識として標的細胞を特定するとともに、第1の標識粒子および第2の標識粒子の標的細胞への結合数に基づいて、標的細胞を鑑別することができる。
【0081】
以上説明した本発明の標的細胞の検出方法は、細胞分散液中の標的細胞を極めて簡便に分類することができる。また、この方法によれば、簡便かつ迅速に標的細胞を検出することができる。これにより、たとえば、細胞分散液が血液である場合、医師等による病気の診断のためのデータを簡便かつ迅速に提供することができる。
【0082】
2. 実施例
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0083】
2.1. 標識粒子の調製例
2.1.1. ベース粒子
ベース粒子として、MS300/Tosyl(JSR株式会社製)を準備した。この粒子は、光散乱法で測定した数平均粒子径3μmの磁性ラテックスであり、リン酸バッファーに分散され、10mg/mlの濃度の分散液となっている。この粒子を各実施例のベース粒子として使用した。
【0084】
2.1.2. 標識粒子の調製例1 (直接法)
前記ベース粒子の分散液をVortexミキサーでよく分散し、ベース粒子分散液1.0ml(粒子10mg分に相当する)をマイクロチューブに取った。次いで、このマイクロチューブを、磁気スタンドに約1分間セットし、上清を除去し、ベース粒子を濃縮した。次に、濃縮されたベース粒子に、ホウ酸バッファー(0.1M、pH9.5)(以下、反応バッファーという)を0.5ml加え、Vortexミキサーで粒子を分散させた。この濃縮操作と、反応バッファーによる分散操作を2回繰り返した。その後、さらに反応バッファーを0.5ml加え、Vortexミキサーで粒子を分散し、ベース粒子分散体Aを得た。
【0085】
粒子分散体Aに、2mg/mlの抗ヒトCD4抗原抗体溶液(R&DSystems社)を25μl加え、Vortexミキサーで撹拌後、37℃で1時間転倒混和した。次いで、ブロッキング剤として、アルドリッチ社から入手したBSA(ウシ血清アルブミン)の10%溶液を2μl加え、37℃で24時間転倒混和した。
【0086】
磁気スタンドに設置し、1分間静置し上清を除去した。生理的トリス緩衝液TBS−T(以下、洗浄バッファーと称する)を0.5ml加え、Vortexミキサーで攪拌、分散させた。そして、上清の除去と、洗浄バッファーの添加を3回繰り返した。
【0087】
次いで、リン酸緩衝液(PBS)(以下、保存バッファーと称する)を1.0ml加え、Vortexミキサーで攪拌、分散させた。以上により得られた標識粒子の分散体を「PCD4」という。粒子分散体PCD4中の標識粒子の濃度は、10mg/mlであった。
【0088】
2.1.3. 標識粒子の調製例2 (間接法)
抗ヒトCD4抗原抗体に替えて、二次抗体である抗マウスIgG抗体を用いた以外は、標識粒子の調製例1と同様にして抗マウスIgG抗体をベース粒子に固定した。以上により得られた粒子分散体を「PIM」という。
【0089】
次いで、粒子分散体PIMに、一次抗体である抗ヒトCD4抗原抗体(2mg/ml、R&DSystems社製)を10μl加えて、Vortexミキサーで撹拌後、室温で30分間転倒混和した。その後、磁気スタンドに設置し、1分間静置し上清を除去した。次いで、洗浄バッファーを0.5ml加え、Vortexミキサーで粒子を分散した。上清の除去と、洗浄バッファーの添加を3回ずつ繰り返し実施したあと、洗浄バッファーを1.0mlを加え、Vortexミキサーで粒子を分散した。以上により得られた標識粒子の分散体を「PIMCD4」という。
【0090】
2.1.4. 標識粒子の調製例3 (間接法)
抗ヒトCD4抗原抗体に替えて、プロテインAを用いた以外は、標識粒子の調製例1と同様にしてプロテインAをベース粒子に固定した。以上により得られた粒子分散体を「PPA」という。
【0091】
次いで、粒子分散体PPAに、抗CD4ウサギモノクローナル抗体(Cell Marque Corporation社製)を、標識粒子の調製例2における一次抗体の結合工程と同様にして固定した。以上により得られた標識粒子の分散体を「PPACD4」という。
【0092】
2.1.5. 標識粒子の調製例4 (間接法)
プロテインAに替えてプロテインGを用いた他は標識粒子の調製例3と同様にして、標識粒子の分散体「PPGCD4」を得た。
【0093】
2.2. 分散液の調製例
健常人の静脈からEDTA添加採血管を用いて採血した血液2mlをマイクロチューブに採り、標識粒子の調製例1〜4で得られた標識粒子の分散体200μlを加えて、各実施例で用いる分散液とし、マイクロチューブを20回転倒混和した後、室温(15−25℃)で20分静置して保存して各実施例に使用した。分散液中における標識粒子の濃度は、5×10
7個/μlである。比較対象では、上記血液100μlを分散液とした他は、実施例と同様とした。
【0094】
2.3. 測定
ベックマン・コールター社製血液分析装置(型式:LH750)(白血球5分類血液検査装置に該当する)を用いて、広角前方散乱光強度、およびコールター原理による電気抵抗を測定し、それぞれの値を、2つの軸にとり、各血球についての二次元プロットを行った。そして、血球の大きさの分布と、血球の内部構造の複雑さの分布の相関をとり、各血球のプロットされる位置(集団)により血球を分類した。分類された各集団に属する血球の数および全血球の数から、リンパ球比率(LYMP%)、好中球比率(NEUT%)、単球比率(MONO%)、好酸球比率(EOS%)、および好塩基球比率(BASO%)のデータを採取した。ここで、各血球の比率とは、測定した血液中の白血球全体の個数に対する該当する血球の個数の比である。これらの結果を表1に記載した。変化率(%)とは、各実施例における各血球の比率÷比較対象における同血球の比率×100(%)である。
【0096】
表1によると、各実施例において、比較対象に比較して、リンパ球および単球の比率が減少し、顆粒球である好中球および好酸球の比率が増大した。
【0097】
この傾向は、抗ヒトCD4抗原抗体が固定された標識粒子が、ヘルパーT細胞(リンパ球)や単球の表面に普遍的に存在するCD4抗原に特異的に結合(免疫複合体の形成)した結果によって生じたと考えられる。すなわち、各実施例の抗ヒトCD4抗原抗体が固定された粒子が、リンパ球の一部に特異的に結合することによって、血液分析装置が、該粒子を、細胞の内部の顆粒として認識したものと考えられる。換言すると、この結果は、血球分析装置が、細胞の大きさおよび顆粒の有無から、各実施例の抗ヒトCD4抗原抗体が固定された粒子が特異的に結合したリンパ球の一部を、顆粒球(好酸球または好中球)として認識したために生じていると考えることができる。
【0098】
図1は、比較対象について得られたスキャッタグラムであり、
図2は、実施例2について得られたスキャッタグラムである。
図1および
図2は、ベックマン・コールター社製血液分析装置(型式:LH750)を用いて得られた。
図1および
図2によると、リンパ球(図中LYMPと記載)に粒子が吸着した細胞集団は、細胞の大きさ(縦軸の値)はそのままで、顆粒が増大(横軸の値)したと認識された結果、スキャッタグラム上では好中球に分類される集団(図中NEUTと記載)の下方部(符号Aを付した)に移行している。なお、単球に分類される集団(図中MONOと記載)から好酸球に分類される集団(図中EOSと記載)への移行も見られた。
【0099】
以上のように、各実施例は、細胞表面の抗原に特異的に結合する抗体が固定された粒子を用いているため、白血球5分類血液検査装置を用いて、細胞分散液の特徴付けを迅速に行うことができた。
【0100】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。たとえば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(たとえば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。