特許第5800197号(P5800197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5800197
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】配線接続方法と機能デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/02 20060101AFI20151008BHJP
   H01L 25/065 20060101ALI20151008BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20151008BHJP
   H01L 25/18 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
   H01L23/02 C
   H01L25/08 H
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-529907(P2011-529907)
(86)(22)【出願日】2010年9月1日
(86)【国際出願番号】JP2010064880
(87)【国際公開番号】WO2011027762
(87)【国際公開日】20110310
【審査請求日】2013年6月24日
(31)【優先権主張番号】特願2009-202078(P2009-202078)
(32)【優先日】2009年9月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀治
(72)【発明者】
【氏名】江刺 正喜
(72)【発明者】
【氏名】松崎 栄
(72)【発明者】
【氏名】毛利 護
【審査官】 太田 龍一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−130934(JP,A)
【文献】 特開2008−060135(JP,A)
【文献】 特開2005−251898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/02
H01L 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続電極部を有してLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)基板又はガラス基板で構成された第1の基板と、接続電極部を有する第2の基板とを準備し、上記第1の基板における接続電極部、上記第2の基板における接続電極部の少なくとも一方に金属層を形成しておき、上記第1の基板における接続電極部と上記第2の基板における接続電極部とが上記金属層を挟んで対向するように上記第1の基板と上記第2の基板とを重ね合わせた後、陽極接合温度まで昇温してその温度を維持しながら上記第1の基板と上記第2の基板に直流電圧を印加することにより、上記第1の基板と上記第2の基板とを陽極接合すると同時に上記金属層を融解して上記第1の基板における接続電極部と上記第2の基板における接続電極部とを電気的に接続する、配線接続方法。
【請求項2】
前記金属層を設ける前の段階では前記第1の基板と前記第2の基板とを重ね合わせても前記第1の基板における接続電極部と前記第2の基板における接続電極部とは接触しないで空間を形成しており、前記金属層は該金属層を形成する前記第1の基板、前記第2の基板の何れかから突出しかつ上記空間の体積以下の大きさを有する、請求項1に記載の配線接続方法。
【請求項3】
前記金属層は、陽極接合温度で融解すると前記第1の基板における接続電極部と前記第2の基板における接続電極部との間で金属間化合物又は合金を形成し、かつ該金属間化合物又は合金の融解温度が前記金属層を構成する金属の溶融温度より高い金属で形成される、請求項1又は2に記載の配線接続方法。
【請求項4】
前記第1の基板における接続電極部、前記第2の基板における接続電極部の少なくとも何れか一方と前記金属層とを形成する素材の組は、Sn、Cuの組、Sn、Agの組、In、Agの組、Sn、Auの組、In、Auの組、Sn、Niの組、Sn、Inの組の何れかである、請求項3に記載の配線接続方法。
【請求項5】
LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)基板又はガラス基板で構成された第1の基板と第2の基板とが陽極接合されてなり、金属が化合してなる金属間化合物又は金属で構成される合金でなる接続配線部で上記第1の基板と上記第2の基板とが電気的に接続されており、該接続配線部は該接続配線部を構成する上記金属の溶融温度以下では融解しない、機能デバイス。
【請求項6】
前記接続配線部は、Sn、Cuの組、Sn、Agの組、In、Agの組、Sn、Auの組、In、Auの組、Sn、Niの組、Sn、Inの組の何れかで構成されている、請求項5に記載の機能デバイス。
【請求項7】
前記LTCC基板が金系合金でなる貫通配線又は内部配線を有する、請求項5に記載の機能デバイス。
【請求項8】
前記第1の基板及び前記第2の基板の少なくとも一方に、貫通配線又は内部配線が形成されている、請求項5に記載の機能デバイス。
【請求項9】
前記第1の基板及び前記第2の基板の少なくとも一方は、電子回路、MEMS(Micro Electronic Mechanical Systems)が形成されたチップである、請求項5に記載の機能デバイス。
【請求項10】
前記第1の基板と前記第2の基板とで内部空間が画成され気密封止されている、請求項5に記載の機能デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板同士を陽極接合する際に電気的な接続を行える配線接続方法とその配線接続方法により製造される機能デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路やMEMS構造体は、例えば各種の電子回路やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)構造体が形成された第1の基板にガラス基板などの第2の基板を接合して封止されている。具体的には、薄膜作成工程やエッチング工程などの微細加工により半導体基板とガラス基板とにそれぞれ各種電子回路やMEMSを設ける。その後、基板同士を合わせた状態で加熱しながら、マイナスの電圧をガラス基板側に、プラスの電圧を半導体基板にそれぞれ印加するよう電圧を加えると、半導体基板とガラス基板とが共有結合により接合される。このような接合は陽極接合と呼ばれ、MEMSの作製やパッケージングなどにおいて広く用いられている。
【0003】
非特許文献1では、熱駆動する高周波MEMSスイッチングデバイスが形成された第1の基板と、ガラス基板に配線が貫通した第2の基板とを陽極接合することで、高周波MEMSスイッチングデバイスを真空封止している。その技術では、高周波MEMSスイッチングデバイス上と第2の基板を部分的に欠損して形成した窪み面上にそれぞれ金属薄膜を形成して、それらの金属薄膜が接することで、電気的な接続を確立している。
【0004】
これに対し、陽極接合による技術ではないが、特許文献1には、半導体チップ同士を加熱圧着して半田により貫通配線を形成して接続する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−277059号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yongxun Liu et al., A THERMOMECHANICAL RELAY WITH MICROSPRING CONTACT ARRAY, IEEE 14th International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (MEMS 2001), Interlaken, Switzerland, January 21-25, 2001, pp. 220-223
【非特許文献2】Warren C. Welch III and Khalil Najafi, GOLD-INDIUM TRANSIENT LIQUID PHASE (TLP) WAFER BONDING FOR MEMS VACUUM PACKAGING, IEEE 21st International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (MEMS 2008), Tucson, AZ, USA, January 13-17, 2008, pp. 806-809
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図13乃至図16に、本発明が解決しようとする課題を模式的に示す。ここで、二つの基板を陽極接合する際、同時に電気的な接続を確立させることを検討する。
【0008】
例えば、図13に示すように、ガラス基板101とSi(シリコン)基板102においてそれぞれの対向面に金属層101a、102aが張り出すように設けられている場合には、金属層101a、102a同士は接触するが、ガラス基板とSi基板との対向面であっても金属層101a、102aを設けていない面同士は接触しないため、少なくとも金属層101a、102aの周辺では、ガラス基板101とSi基板102とを陽極接合することができない。
【0009】
逆に、図14に示すように、ガラス基板101にはその対向面101bから張り出して金属層101aを設け、Si基板102における対向面102bには凹陥部102cを形成し、金属層102aをその凹陥部102cに設ける場合を想定する。この場合、金属層102aの高さが低いと、ガラス基板101とSi基板102とを陽極接合することはできるが、金属層101a、102a同士を電気的に接続することはできない。
【0010】
そこで、図13に示すようなケースを回避するためには、ガラス基板101、Si基板102において金属層101a、102aを形成しない面と金属層101a、102aの表面とが同じ高さとなるよう構造設計する必要があり、かつ、各金属層101a、102aの厚みを正確に調整する必要がある。また、図14に示すようなケースを回避するためには、ガラス基板101、Si基板102にそれぞれ形成する金属層101a、102aの厚みを調整する必要がある。これらのように、基板同士を陽極接合する際基板上の金属層同士を同時に電気的に接続するためには、個々の金属層の厚みを調整しなければならず、製品の歩留まりが悪くなる。
【0011】
ところで、図15に示すような基板の厚み方向に配線が貫通するように設けられている基板(以下、「貫通配線付基板」を呼ぶ。)103と別の基板104とを陽極接合する場合には、貫通配線付基板103を予め研磨することで、接合に適した面を得ている。しかしながら、配線材とウェハ基材との研磨特性の違いで、図16に示すように、貫通配線103a表面がウェハ表面より僅かに凹むことがある。このような場合、貫通配線103aと別の基板104上の金属層104aとを接続してかつ貫通配線付基板103と別の基板104とを陽極接合しようとすると、少なくとも、貫通配線の表面及びこの貫通配線と接続されるべき金属層104aの何れか一方の上に、別途金属膜(図示せず)を形成し凹み103bを補う必要がある。この場合にも、その金属膜の厚みを厳密に調整、管理することが必要になる。貫通配線付基板103の表面研磨処理において、貫通配線103aの表面の凹み量が一定にならないときには特に問題となり、歩留まりが悪くなってしまう。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑み、歩留まりよく複数の基板を陽極接合すると同時に配線接続を行える配線接続方法を提供することを一目的とし、この配線接続方法を用いて製造される機能デバイスを提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記一目的を達成するために、本発明の配線接続方法は、接続電極部を有してLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)基板又はガラス基板で構成された第1の基板と、接続電極部を有する第2の基板とを準備し、第1の基板における接続電極部、第2の基板における接続電極部の少なくとも一方に金属層を形成しておき、第1の基板における接続電極部と第2の基板における接続電極部とが金属層を挟んで対向するように第1の基板と第2の基板とを重ね合わせた後、陽極接合温度まで昇温してその温度を維持しながら第1の基板と第2の基板に直流電圧を印加することにより、第1の基板と第2の基板とを陽極接合すると同時に金属層を融解して第1の基板における接続電極部と第2の基板における接続電極部とを電気的に接続することを特徴とする。
【0014】
上記配線接続方法において、特に好ましくは、金属層を設ける前の段階では第1の基板と第2の基板とを重ね合わせても第1の基板における接続電極部と第2の基板における接続電極部とは接触しないで空間を形成しており、金属層は金属層を形成する第1の基板、第2の基板の何れかから突出しかつその空間の体積以下の大きさを有する。
【0015】
上記別の目的を達成するために、本発明の機能デバイスは、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)基板又はガラス基板で構成された第1の基板と第2の基板とが陽極接合されてなり、金属が化合してなる金属間化合物又は金属で構成される合金でなる接続配線部で第1の基板と第2の基板とが電気的に接続されており、この接続配線部は接続配線部を構成する金属の溶融温度以下では融解しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第1の基板、第2の基板の何れかの接続電極部に金属層を形成しておき、第1の基板と第2の基板とを重ね合わせて陽極接合温度下で、第1の基板と第2の基板とに直流電圧を印加する。よって、陽極接合温度で金属層が融解して接続電極部同士を電気的に接続すると共に、第1の基板と第2の基板とを陽極接合することができる。また、陽極接合の際、同時に第1の基板と第2の基板とを電気的に配線することができる。このようにして製造された機能デバイスでは接続配線部が陽極接合温度で少なくとも部分的に金属間化合物又は合金で形成されているので、電気的な接続を確実に行え、歩留まりが向上する。また好ましい配線接続方法では、金属層の厚みについて厳密な調整や管理が不要となり効率的に機能デバイスを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る配線接続方法の工程を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る配線接続方法の別の工程を模式的に示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る機能デバイスについて模式的に示す構造図である。
図4】(A)は図3に示す機能デバイスを製造するために用意されるLTCC基板またはガラス基板とMEMS基板とを模式的に示す図であり、(B)はLTCC基板またはガラス基板とMEMS基板とを陽極接合する前の状態を模式的に示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る別の機能デバイスを模式的に示す図である。
図6図5に示される機能デバイスを製造するに当たり、二つの基板を陽極接合する前の状態を模式的に示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る別の機能デバイスを模式的に示す図である。
図8図7に示される機能デバイスを製造するに当たり、陽極接合する前の状態を模式的に示す図である。
図9】実施例1〜2及び比較例で行った配線接続方法の工程を示す図である。
図10】前処理の条件出しとして、ダミーとしてのSi基板をギ酸蒸気で処理した際の温度推移を示す図である。
図11】接合処理の条件出しとして、Si基板とガラス基板とを重ね合わせたときの温度推移を示す図であり、(A)はステージが常温である場合、(B)はステージを加熱した場合を示している。
図12】実施例1〜2及び比較例での電流密度の時間変化を示す図である。
図13】本発明が解決しようとする課題の或る一つを模式的に示す図である。
図14】本発明が解決しようとする課題の別の一つを模式的に示す図である。
図15】本発明が解決しようとする課題を説明する際の一例として貫通配線付基板を模式的に示す図である。
図16】本発明が解決しようとする課題の別の一つを模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0018】
1、2、3:機能デバイス
10:第1の基板(LTCC基板)
11,26:絶縁材
12,17,22,27,32,37:接続電極部
13:空間
14,24,34:金属層
15:第2の基板(MEMS基板)
16,21:Si基板
18,28,38:接続配線部
20:第1の基板(MEMS基板)
23:凹陥部
25:第2の基板(ガラス基板)
30:LTCC基板またはガラス基板
31,36:電極部
33:窪み
35:MEMS基板
35a:可動部
35b:固定部
40:MEMS基板
41:MEMS構造体
41a:可動部
41b:固定部
42:第1の電極部
43:第2の電極部
44:凹陥部
45:LTCC基板
46:第1の下側電極部
47:第2の下側電極部
48:第1の上側電極部
49:第2の上側電極部
53,54:金属層
50:収容部
51,52:接続配線
55,56:空間
60:LTCC基板
61,66:接続電極部
62:空間
63:金属層
65A,65B,65C:チップ
67:接続配線
70:第1の基板
71:Si基板
72:酸化膜
73:接続電極部
73a:Ti層
73b:Cu層
75:第2の基板
76:LTCC基板
76a:貫通配線
77:接続電極部
77a:Cr層
77b:Cu層
78:金属層
79:接続配線部
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の幾つかの実施形態について説明するが、特許請求の範囲に記載した範囲内で適宜変更して実施することができる。
【0020】
図1は本発明の実施形態に係る配線接続方法の工程を模式的に示す図である。陽極接合する第1の基板10と第2の基板15とを用意する。第1の基板10、第2の基板15は互いに対向する面に接続電極部12,17をそれぞれ備えている。図示する例では、第1の基板10は絶縁材11に接続電極部12として配線が貫通して設けられているLTCC基板であり、第2の基板15はSi基板16上にMEMS構造体(図示せず)が搭載されておりかつ接続電極部17として電極パッドが対向面に形成されてなる。この電極パッドの下には、必要に応じて絶縁層が設けられる(図示せず)。この状態では、第1の基板10と第2の基板15とを重ね合わせたとき僅かな空間13を画成すればよく、具体的には、空間13の大きさは、接続電極部12としての貫通配線が陽極接合面より僅かに凹んでいればよい。例えば図示するように、第1の基板10が貫通配線付基板である場合には、研磨処理により生じる窪みを活用してもよく、陽極接合面より僅かに凹んでいればよい。
【0021】
次に、第1の基板10、第2の基板15の何れか一方、図1に示す例では第1の基板10の接続電極部12に、金属層14を所定の厚みで設ける。ここで、金属層14は陽極接合時の温度以下で溶融する金属で形成する。金属層14は陽極接合面から距離d1だけ突出する厚みを有しているが、金属層14の体積が空間13の体積以下となるような厚みを有するようにする。これは後述するように金属層14を融解することで、金属層14の高さが低くなり空間13と同じ高さを有するようになり、高さ減少分の金属材は、空間13のうち金属層14を配置していない隙間部分に張り出すか又は空間13全体を埋めるからである。接続電極部12が貫通配線である場合には、その貫通配線の湾曲面より底面が小さく、空間13の高さより厚い金属パッドを形成すればよい。この状態を示したのが図1(A)である。
【0022】
次に、第1の基板10、第2の基板15の各接続電極部12,17が金属層14を介して互い重なり合うように第1の基板10と第2の基板15とを重ね合わせ、金属層14が融解する温度以上に昇温し、その後、陽極接合温度を維持しながら第1の基板10と第2の基板15との間に直流電圧を印加する。つまり、第1の基板10と第2の基板15とを陽極接合すると、その途中で、金属層14が融解し、融解した金属が接続電極部12、17の間の空間13に流れ、接続電極部12と接続電極部17との間で接続配線部18が形成され電気的接続が確立される。
【0023】
ここで、溶融した金属により、接続電極部17としての電極パッドが濡れやすく、第1の基板10の絶縁材11及び第2の基板15におけるSi基板16は濡れ難い。前述したように、金属層14の体積を接続電極部12,17との空間より小さくしたことから、溶融した金属が絶縁材11とSi基板16との間に漏れ出しにくい。
【0024】
以上の工程により、第1の基板10と第2の基板15とを陽極接合すると同時に電気的な接続を確立することができる。
【0025】
さらに、接続電極部12に設ける金属層14については次のような金属材、即ち陽極接合時に一旦融解して他方の接続電極部17としての電極パッドを構成する金属とで金属間化合物や合金などを形成する金属材で形成してもよい。このような金属材は陽極接合により金属間化合物又は合金を形成するとその陽極接合温度以下では融解しない性質を有する。このような金属材と他の金属との組み合わせとしては、Sn/Cu、Sn/Ag、In/Ag、Sn/Au、In/Au、Sn/Niなどがある(非特許文献2)。ここで、「(/)スラッシュ」の前に記載した元素は金属材の種類を表しており、「(/)スラッシュ」の後に記載した元素は他の金属、例えば図1に示す例では接続電極部17の金属材の種類を表している。このような金属材と他の金属との組み合わせを選択することで、陽極接合後、機能デバイス作成時に陽極接合温度以下に昇温しても、接続配線部18を構成する金属間化合物又は合金が融解することがない。
【0026】
図2は本発明の実施形態に係る配線接続方法の別の工程を模式的に示す図である。陽極接合する第1の基板20と第2の基板25とを用意する。第1の基板20、第2の基板25は互いに対向する面に接続電極部22、27をそれぞれ備えている。図示する例では、第1の基板20はSi基板21上にMEMS構造体(図示せず)を搭載しかつ接続電極部22として電極パッドを対向面に形成することにより構成されている。接続電極部22はSi基板21を部分的にエッチングにより除去した凹陥部23内に設けられている。この接続電極部22の下には、必要に応じて絶縁層を設ける(図示せず)。第2の基板25は例えば絶縁材26に接続電極部27を電極パッドとして設けたガラス基板である。この状態では第1の基板20と第2の基板25とを重ね合わせても接続電極部22、27同士は接触しないで所定の間隔を有する。
【0027】
次に、第1の基板20、第2の基板25の何れか一方、図2では第1の基板20の接続電極部22に金属層24を所定の厚みで設ける。ここで、金属層24は陽極接合時の温度以下で溶融する金属で形成される。金属層24は前述の所定の間隔より大きい厚みを有するが、金属層24の体積が凹陥部23の体積以下となる厚みとする。これは後述するように金属層24を融解することで、金属層24の高さが低くなり前述の所定の隙間と同じ高さを有するようになり、高さ減少分の金属材は金属層24を配置していない空間部分に張り出すからである。図示するように、第1の基板20の凹陥部23内に接続電極部22を設けた場合には、金属層24は接続電極部22の表面の寸法より小さければよく、陽極接合面より距離d2だけ突出する高さになるように金属パッドを形成すればよい。
【0028】
次に、第1の基板20、第2の基板25の接続電極部22、27が金属層24を介して互い重なり合うように第1の基板20と第2の基板25とを合わせて、金属層24が融解する温度以上に昇温した後、陽極接合温度を維持しながら第1の基板20と第2の基板25との間に直流電圧を印加する。つまり、第1の基板20と第2の基板25とを陽極接合すると、その途中で、金属層24が融解し、その融解した金属が接続電極部22、27の間で広がり、接続配線部28が形成され電気的接続が確立される。
【0029】
以上の工程により、第1の基板20と第2の基板25とを陽極接合すると同時に電気的な接続を確立することができる。さらに、接続電極部22に設ける金属層24については、陽極接合時に一旦融解して他方の接続電極部27を構成する金属とで金属間化合物や合金を形成するような金属材で形成してもよく、その場合、その金属間化合物や合金は陽極接合温度以下では融解しない。
【0030】
次に、本発明の実施形態に係る配線接続方法を適用して作製し得る機能デバイスについて説明する。図3は本発明の実施形態に係る機能デバイスを模式的に示す構造図である。機能デバイス1は、図3に示すように、第1の基板として各種の素子や貫通配線が搭載されているLTCC基板、あるいは薄膜配線等が形成されたガラス基板(以下、「LTCC基板またはガラス基板」と称する。)30と、第2の基板としてMEMS基板35と、を陽極接合して構成されている。この機能デバイス1はLTCC基板またはガラス基板30側の電極部31に対してMEMS基板35の可動部35aにおける電極部36が当接することで、スイッチング回路を構成している。
【0031】
図4(A)は図3に示す機能デバイス1を製造するために用意されるLTCC基板またはガラス基板30とMEMS基板35とを模式的に示す図であり、(B)はLTCC基板またはガラス基板30とMEMS基板35とを陽極接合する前の状態を模式的に示す図である。MEMS基板35は、図示していない支持基板で支えられている。LTCC基板またはガラス基板30は、図4(A)に示すように、表面に電極部31と接続電極部32とを有している。MEMS基板35は断面略L字状を有するよう可動部35aと固定部35bとからなり、MEMS基板35は、LTCC基板またはガラス基板30との対向面側に、電極部36を有している。その電極部36の一端は接続電極部37につながっており、その接続電極部37は固定部35bの底面側に沿って設けられている。
【0032】
この機能デバイス1を作製するための配線接続方法について説明する。図4(A)に示すように、LTCC基板またはガラス基板30とMEMS基板35とをそれぞれ用意する。LTCC基板またはガラス基板30は表面に接続電極部32と電極部31とを有する。LTCC基板またはガラス基板30における接続電極部32は表面の窪み33に設けられており、接続電極部32の表面はLTCC基板またはガラス基板30の陽極接合面と同一の高さにはない。次に、図4(B)に示すように、接続電極部32に対して金属層34を設ける。その際、金属層34は窪み33を埋めない。すなわち、図4(A)に示すLTCC基板またはガラス基板30とMEMS基板35とを重ね合わせたときに生じる接続電極部32、37同士の離隔寸法よりも高く、かつ金属層34の体積が、窪み33の空間よりも小さくなるように、金属層34を形成する。金属層34の厚みは、図4(A)に示すLTCC基板またはガラス基板30とMEMS基板35とを合わせたときに生じる接続電極部32と接続電極部37との間の隙間の高さより大きくする。
【0033】
その後、図4(B)に示すようにLTCC基板またはガラス基板30の接続電極部32とMEMS基板35の接続電極部37とが互いに対向するようにして、LTCC基板またはガラス基板30とMEMS基板35とを重ね合わせる。そして、これらを昇温して陽極接合温度に維持して、LTCC基板またはガラス基板30に対してMEMS基板35がプラスとなるよう電圧を印加する。すると、金属層34が溶融して接続電極部37と合金又は金属間化合物が形成されて接続配線部38となり、この接続配線部38により接続電極部32と接続電極部37とが電気的に接続されると同時に、LTCC基板またはガラス基板30とMEMS基板35との対向面が接触して接合される。図3において符号A1で示す部分が陽極接合された面を示している。
【0034】
図5は本発明の実施形態に係る機能デバイスを模式的に示しており、図6図5に示される機能デバイスを製造するに当たり、二つの基板を陽極接合する前の状態を模式的に示す図である。機能デバイス2は、図5に示すように、第1の基板としてMEMS構造体41を搭載したMEMS基板40と、第2の基板としてのLTCC基板45と、を陽極接合して構成されている。MEMS基板40は、Si基板上に薄膜形成、エッチング、犠牲層の除去などを所定の順に繰り返してMEMS構造体41を搭載したものである。MEMS基板40は平板状の第1電極部42及び第2電極部43と片持ち式のMEMS構造体41を備えている。MEMS基板40の表面側には凹陥部44が形成されており、凹陥部44に第1電極部42及び第2電極部43が設けられており、第1の電極部42上にMEMS構造体41が設けられている。第1電極部42及び第2電極部43の下には、絶縁層が設けられている(図示せず)。MEMS構造体41の構造を説明すると、固定部41bが第1電極部42上に設けられ、可動部41aが固定部41bの先端に第2電極部43に対向するよう設けられている。MEMS構造体41は凹陥部44以外のMEMS基板40表面、即ち陽極接合面から突出している。LTCC基板45は、第1の下側電極部46、第2の下側電極部47と第1の上側電極部48と第2の上側電極部49とを多層配線および貫通配線により接続するよう、例えば貫通配線した基材に配線印刷したものを積層し、上下から圧力を加えて拘束して焼成してなる。
【0035】
本実施形態においては、MEMS基板40における第1電極部42、LTCC基板45における第1下側電極部46が金属層53の素材と反応することにより、合金又は金属間化合物が形成されて接続配線部51が構成される。MEMS基板40における第2電極部43、LTCC基板45における第2の下側電極部47が金属層54の素材と反応することにより、合金又は金属間化合物が形成されて接続配線部52が構成される。
【0036】
この機能デバイス2は、MEMS基板40におけるMEMS構造体41をLTCC基板45で気密パッケージングしており、MEMS基板40における第1の電極部42及び第2の電極部43がそれぞれLTCC基板における第1の下側電極部46、第2の下側電極部47に接続配線部51,52を介して電気的に接合されており、かつ、LTCC基板45の下面とMEMS基板40の上面とが陽極接合されてなる。陽極接合している界面を部分的にハッチングA2を付して示している。MEMS構造体41が、図示するように、MEMS基板40における第1の電極部43と離隔されているので、例えばジュール熱などによりMEMS構造体41が撓んで変形してMEMS基板40における第1の電極部43に接触する。この接触の有無をLTCC基板45の上面に設けた第1及び第2の上側電極部48,49から電気信号の出力の有無として判断することができる。あるいは、機能デバイス2に加速度が印加されることによりMEMS構造体41が撓んで変形して、MEMS基板40における第1の電極部43との距離が変化する。この距離の変化をLTCC基板45の上面に設けた第1及び第2の上側電極部48,49から静電容量変化として測定することができる。
【0037】
この機能デバイス2を作製するための配線接続方法について説明する。LTCC基板45とMEMS基板40とをそれぞれ用意する。LTCC基板45は貫通配線構造及び/又は多層配線構造を有しかつ下側表面に第1の接続電極部としての第1の下側電極部46と第2の接続電極部としての第2の下側電極部47とを有する。LTCC基板45における第1及び第2の下側電極部46,47は窪みの空間55,56にそれぞれ設けられており、第1及び第2の下側電極部46,47の表面はLTCC基板45の陽極接合面と同一の高さにはない。そして、図6に示すように、第1及び第2の接続電極部としての第1及び第2の下側電極部46,47に対して金属層53,54をそれぞれ設ける。その際、金属層53,54は窪みの空間55,56をそれぞれ埋めることなく、図6に示す金属層53,54を設けていない状態でのLTCC基板45とMEMS基板40とを重ね合わせたときに生じる接続電極部同士間の隙間高さより厚く、かつ金属層53,54の体積が、窪みの空間55,56よりも小さくなるようにする。即ち、金属層53,54の厚みは図6に示すLTCC基板45とMEMS基板40とを重ね合わせたときに生じる下側電極部46,47と第1及び第2の電極部42,43との距離より長くする。
【0038】
その後、図6に示すようにLTCC基板45における第1及び第2の接続電極部としての第1及び第2の下側電極部46,47とMEMS基板40における第1及び第2の電極部42,43とをそれぞれ対応させて対向するようにして、LTCC基板45とMEMS基板40とを重ね合わせる。そして、これらを昇温して陽極接合温度に維持して、LTCC基板45に対してMEMS基板40側がプラスとなるよう直流電圧を印加する。すると、金属層53,54が融解し第1及び第2の電極部42,43と合金又は金属間化合物を形成することで第1及び第2の接続配線部51,52がそれぞれ形成され、第1及び第2の電極部42,43と第1及び第2の下側電極部46,47とが電気的に接続される。その際、LTCC基板45とMEMS基板40との対向面が接触して接合される。図中、符号A2で示すハッチング部分が陽極接合部分を表している。
【0039】
以上の工程により、MEMS構造体41をLTCC基板45に形成した収容部50を収めつつMEMS基板40をLTCC基板45で蓋をすることができる。
【0040】
さらに別の実施形態について説明する。図7は本発明の実施形態に係る機能デバイス3を模式的に示す断面図であり、図8図7に示される機能デバイスを製造するに当たり、陽極接合する前の状態を模式的に示す図である。機能デバイス3は、図7に示すように、LTCC基板60に対して各種チップ65A,65B,65Cを陽極接合して構成されている。チップ65A,65B,65Cとしては、例えばSi基板上にMEMS構造体を形成したMEMSチップ、Si基板上に集積回路を形成したICチップなど、Siなどの半導体材料でなるウェハ上に半導体プロセスによりデバイスを形成しスクライビングによって個別に分離したものが含まれる。チップ65A,65B,65Cには下面の複数の箇所に接続電極部66が形成されている。この実施形態では、LTCC基板60が第1の基板に対応しており、チップ65A,65B,65Cが第2の基板に対応する。
【0041】
LTCC基板60は、複数の接続電極部61が多層配線により接続するよう、例えば貫通配線した基材に配線を印刷したものを積層し、上下から圧力を加えて拘束して焼成してなる。複数の接続電極部61は、複数のチップ65A,65B,65Cの各接続電極部66に対応して配置されている。LTCC基板60の表面側の接続電極部61には窪みの空間62が形成される。そこで、LTCC基板60における各接続電極部61に金属層63を形成する。金属層63の体積は窪みの空間62の体積以下であり、金属層63の厚みは、金属層63を形成する前段階のLTCC基板60とチップ65A,65B,65Cとを合わせた際、LTCC基板60における接続電極部61とチップ65A,65B,65Cにおける接続電極部66との間の隙間高さより大きい。つまり、LTCC基板60における金属層63はLTCC基板60の対向面より突出している。
【0042】
本実施形態においては、チップ65A,65B,65Cにおける接続電極部66とLTCC基板60における接続電極部61とが金属層63の素材と合金又は金属間化合物を形成して接続配線部67を形成する。各接続配線部67がチップ65A,65B,65CとLTCC基板60とを電気的に接続する。
【0043】
この機能デバイス3は、MEMSチップやICチップなどの複数個のチップ65A,65B、65CをLTCC基板60に陽極接合し、LTCC基板60内の多層配線により接続している。LTCC基板60をインターポーザー的に利用している。これにより、各種機能デバイスを実現できる。
【0044】
この機能デバイス3を作製するための配線接続方法について説明する。LTCC基板60と複数個のチップ65A,65B,65Cを用意する。LTCC基板60は多層配線構造を有しかつ表面に複数の接続電極部61を有する。LTCC基板60における各接続電極部61には窪みの空間62が形成されており、接続電極部61の表面はLTCC基板60の接合面とは同一の面上にはない。このようなLTCC基板60において、図8に示すように、各接続電極部61に対して金属層63を設ける。その際、金属層63が窪みの空間62を埋めることなく、図8に示す金属層63を設けていない状態でのLTCC基板60とチップ65A,65B,65Cとを合わせたときに生じる接続電極部61と接続電極部66との間の隙間高さよりも厚く、かつ金属層63の体積が窪みの空間62よりも小さくなるように形成される。
【0045】
その後、図8に示すようにLTCC基板に60における各接続電極部61とチップ65A,65B,65Cの接続電極部66とをそれぞれ互いに対向するようにして、LTCC基板60にチップ65A,65B,65Cを合わせる。そして、これらを昇温して陽極接合温度に維持して、LTCC基板60に対してチップ65A,65B,65Cがプラスとなるよう直流電圧を印加する。すると、金属層63が溶融して接続電極部66と合金又は金属間化合物を形成して接続配線部67となり、接続電極部61と接続電極部66同士が電気的に接続されると同時に、LTCC基板60とチップ65A,65B,65Cとの対向面が接触して接合される。
【0046】
以上の工程により、複数のチップを一つのLTCC基板に陽極接合してチップ間を配線接続することができる。
【0047】
さらに、図1に示した本発明の実施形態の具体的な例について説明する。Auなどの金属で貫通配線を形成したLTCC基板10を準備する。その際、LTCC基板10の表面研磨を行うことで、接続電極部12としての貫通配線の表面はLTCC基板10の絶縁材11の表面より数百nm凹む。凹み量が不足している場合には、エッチングにより凹み量を調整する。その後、LTCC基板10において、貫通配線表面にリフトオフにより金属層14としてInパッドを形成する。一方、Si基板16に例えばCr層、Pt層、Au層をこの順に積層して接続電極部17としての電極パッドを形成する。このとき、貫通配線表面の凹みとInパッドの厚みと電極パッドの厚みとは、次の関係、即ち、貫通配線表面の凹みがInパッドの厚みと電極パッドの厚みとの和より小さくなる関係を満たすよう、寸法調整をする。
【0048】
LTCC基板10とSi基板15とを位置決めし、両者を重ね合わせて押え付け、所定の温度に加熱済みの炉に搬入する。炉の温度は、Inパッドが溶融する温度以上、例えば200℃に設定しておく。その後、炉の温度を陽極接合温度として例えば400℃に上げ、LTCC基板10に電源のマイナス極を接続し、Si基板15に電源のプラス極を接続して、LTCC基板10とSi基板15との間に数百Vの電圧を印加して、陽極接合を行う。
【0049】
または、LTCC基板10とSi基板15とを位置決めし、両者を重ね合わせて押え付け、炉の温度を陽極接合温度として例えば400℃に上げた炉の中に基板対を入れて、LTCC基板10を電源のマイナス極に接続し、Si基板15を電源のプラス極に接続して、LTCC基板10とSi基板15との間に数百Vの直流電圧を印加して、陽極接合を行う。
【0050】
すると、Inパッドが溶融してAuと混ざり合って融点が500℃程度の金属間化合物を形成し、Inパッドと電極パッドが電気的に接続されるとともに、LTCC基板10内のNaイオンが−極に引っ張られて移動し、LTCC基板10とSi基板15との接合面近傍にはそれぞれプラス電荷が集まった層とNaイオンが欠乏した所謂空間電荷層とが形成され、接合面で静電引力により共有結合が生じて、LTCC基板10とSi基板15とが接合される。
【0051】
本発明の実施形態によれば、第1の基板側の接続電極部としての電極パッドと第2の基板側の接続電極部としての電極パッドのそれぞれの厚みを厳密に管理しなくても、陽極接合と同時に信頼性の高い電気的接続を確立することができる。
以下、具体的な実施例に基づいてさらに説明する。
【実施例1】
【0052】
図9は、実施例1で行った配線接続方法の工程を示す図である。第1の基板70と第2の基板75とを次の要領で作製した。
第1の基板70については、Si基板71に部分的に段差を形成し、CVD法で酸化膜を形成した後に、第2の基板75と接合される面の酸化膜をウエットエッチングし、残った酸化膜72上に電気回路を形成し、接続電極部73としてTi層73aとCu層73bとを順に、それぞれ100nm,600nmとなるよう積層した。接続電極部73としての電極パッドの表面が接合面から300nm低くなるようにした。
第2の基板75については、LTCC基板76の貫通配線76a上に、接続電極部77としてCr層77aとCu層77bとを順に積層し、さらに、金属層78としてのSn層を積層した。Cr層77aの厚みは100nm、Cu層77bの厚みは500nmとした。金属層78としてのSn層は、実施例1では、LTCC基板76の接合面からの高さが600nmとなるようにした。
【0053】
Si基板71、LTCC基板76にそれぞれ線径0.3mmのK型熱電対を取り付け、プロセス実行時の試料温度を測定した。
【0054】
使用した接合装置は、前処理室、位置決め室、接合室の3室を有するように構成されており、前処理室から位置決め室へ、さらに接合室に順次ステージを搬送する機構が装備されている。この機構により、予熱した接合室に試料を搬送することで、試料を素早く昇温することができる。また、前処理室はチャンバを加熱しながら例えばギ酸雰囲気で処理することができる。前処理室は、位置決め室及び接合室とは隔壁で遮断されており、独立した真空系が装備されている。この接合装置は、全ての処理を高真空下で一連で行えるように構成されている。
【0055】
第1の基板70と第2の基板75とを接合する前の処理として、ギ酸蒸気に昇温した試料をさらすことで、金属表面の酸化膜を除去してもよい。この処理は、金属材料などにより必要な場合に行う。
【0056】
前処理の条件設定のための試し試験を行った。図10はギ酸蒸気でSi基板を処理した際の温度推移を示す図である。横軸は時間(分)、左縦軸は温度(℃)、右縦軸は前処理室のチャンバ圧力(kPa)である。前処理室におけるヒーターの温度は、太い点線で示すように200℃一定とし、高真空排気状態から7.5分で真空排気バルブを閉じてギ酸蒸気を導入した。すると、菱形プロット(◆)で示すように真空排気バルブを閉じてから約3分経過するとチャンバの圧力が1.5kPaとなり、ダミーとしてのSi基板は、実線で示すように、198℃の温度に到達した。
【0057】
この結果から、前処理の条件は次のように設定した。即ち、前処理におけるギ酸蒸気の圧力を2kPaとし、処理温度を250℃とし、処理時間を処理圧力到達後5分間とした。なお、Snの融点は232℃である。ギ酸処理は150℃以上で行えばよい。この250℃としたのは、Snを一旦融点以上に昇温し、リフローによって表面を平滑化する効果を狙ったためである。150℃以上の処理温度で行っても陽極接合及び配線接続には影響がないことを確認している。
【0058】
次に、接合処理の条件設定のための試し試験を行った。ダミーとしてのSi基板とLTCC基板とを重ねて、ステージに置き、ヒーターの温度を400℃一定として、ステージを接合室に搬入した。図11は、接合処理の条件出しとしてSi基板、LTCC基板の温度推移を示す図であり、(A)はステージが常温である場合、(B)はステージを400℃に加熱した場合を示している。
【0059】
ステージが常温の場合と、400℃に加熱した場合とで、温度推移を比較した。ステージが常温であれば、搬送直後のダミーとしての上側のLTCC基板、下側のSi基板の温度は瞬時にそれぞれ300℃、200℃に上昇した。一方、ステージを400℃に加熱した場合、搬送直後のダミーとしての上側のLTCC基板、下側のSi基板は350℃、280℃に上昇し、その後、何れも5℃/分以下の速さで昇温した。
このことから、電気的な接続を形成するために、接合処理条件として、試料搬送前にステージを加熱しておき、チャンバの温度を350℃に設定した。
【0060】
この条件の下で、硼珪酸ガラス基板とSi基板との陽極接合試験を行い、350℃設定で、500V電圧5分印加することで、良好な接合が行えることを確認した。
【0061】
以上の結果から、接合処理条件として、熱したステージを使用して第1の基板70と第2の基板75を位置決め室及び接合室に搬入し、第1の基板70と第2の基板75とを密着させた状態において2MPaで押圧し、500Vの直流電圧を10分間第1の基板70と第2の基板75との間に印加するように設定した。
【0062】
以上の前処理条件の下で前処理室にて前処理を行い、その後位置決め室で第1の基板70,第2の基板75同士の位置決めを行い、加熱されたステージにより、チャンバの温度が350℃に保持されている接合室に搬入して陽極接合した。
【実施例2】
【0063】
実施例2では、金属層78としてのSn層は、LTCC基板76の接合面からの高さが1000nmとなるようにした。それ以外は、実施例1と同様にした。
【0064】
〔比較例〕
比較例では、金属層78としてのSn層は、LTCC基板76の接合面から突出しないようにした。それ以外は、実施例1と同様にした。
【0065】
実施例1及び2並びに比較例の結果を説明する。図12は電流密度の時間変化を示す図である。横軸は時間(分)であり、縦軸は電流密度(μA/cm)である。一点破線、点線、実線は、それぞれ実施例1、実施例2、比較例の場合を示している。何れの場合においても、第1の基板70と第2の基板75との間に直流電圧を印加すると、時間経過にともない陽極接合が進行し、接合電流密度が減少した。突起の高さが低く、突起を設けない方が、電流密度の減少が大きい。
【0066】
また、表1は、実施例1、実施例2及び比較例での接続配線部79の接続状況、基板同士の接合状況を示している。表中の○は良好を示し、×はNGであることを示している。電極の突起をLTCC基板76の接合面から600nm,1000nmの高さとすることで、基板同士の陽極接合及び電極の接続は良好であった。一方、比較例では、基板同士の陽極接合は良好であったが、電極の接続はされなかった。
【0067】
【表1】
【0068】
以上のことから、第2の基板75における突起の高さ、即ち接続電極部77及び金属層78の高さが、第1の基板70における接合面から接続電極部73までの深さに対し、2〜3倍の範囲であれば、陽極接合と電極接続とを同時に行えることが判った。
【0069】
なお、陽極接合のため、第1の基板と第2の基板との間に直流電圧が印加されるが、貫通配線を有するLTCC基板の上には、ダミーガラス基板を置き、これを介して直流電圧をかけるために、貫通配線を通ってMEMSの電気回路に電流が流れることはない。したがって、高電圧の印加を要する陽極接合によってMEMSが損傷することはない。
MEMSが損傷することはない。
【0070】
本発明の実施形態及び実施例で説明したように、金属間化合物又は合金を形成可能な組で接続電極部、金属層を形成し、陽極接合する際の温度で、第1の基板と第2の基板の間に直流電圧を印加することにより、基板同士を陽極接合することができると同時に接続電極部同士を接続配線部により接続して電気的な接続を行える。本発明によれば、低融点金属の接続パッドの高さを制御したり、MEMSが形成された基板への加工追加を行ったりする必要がない。本発明は、汎用性の高いウェハレベルでの気密パッケージングに有効である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16