特許第5800241号(P5800241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5800241連続鋳造用鋳型内の溶融金属の湯面レベル及びモールドパウダー厚の測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5800241
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】連続鋳造用鋳型内の溶融金属の湯面レベル及びモールドパウダー厚の測定方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/16 20060101AFI20151008BHJP
   B22D 11/108 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
   B22D11/16 104H
   B22D11/108 Z
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-175985(P2012-175985)
(22)【出願日】2012年8月8日
(65)【公開番号】特開2014-34046(P2014-34046A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2014年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114410
【弁理士】
【氏名又は名称】大中 実
(72)【発明者】
【氏名】村上 敏彦
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−006206(JP,A)
【文献】 特開平02−108444(JP,A)
【文献】 特表2011−510279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造用鋳型内の溶融金属の湯面レベルを測定するための電磁式の第1レベル計と、中心周波数が20GHzを超え32GHz以下で周波数変調幅が4GHzを超え8GHz以下であるマイクロ波を送信するマイクロ波式のレベル計であって、前記第1レベル計に設定された測定範囲と重複する範囲及びこれよりも低い範囲の湯面レベルを測定可能な第2レベル計とを使用し、
湯面レベルが前記第1レベル計に設定された測定範囲の下限に到達するまでは、前記第2レベル計で測定した湯面レベル測定値を湯面レベルとして出力し、
湯面レベルが前記第1レベル計に設定された測定範囲の下限に到達した後は、前記第1レベル計で測定した湯面レベル測定値を湯面レベルとして出力し、なお且つ、前記第1レベル計の測定値及び前記第2レベル計の測定値に基づき、溶融金属上に投入されたモールドパウダーの厚みを算出することを特徴とする連続鋳造用鋳型内の溶融金属の湯面レベル及びモールドパウダー厚の測定方法。
【請求項2】
前記第1レベル計で測定した湯面レベル測定値と、前記第2レベル計で測定したモールドパウダーの上面レベル測定値とに基づき、モールドパウダーの全厚みを算出し、
前記第2レベル計で測定したモールドパウダー溶融層の上面レベル測定値と、前記第2レベル計で測定した湯面レベル測定値と、モールドパウダー溶融層の比誘電率とに基づき、モールドパウダー溶融層の厚みを算出することを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用鋳型内の溶融金属の湯面レベル及びモールドパウダー厚の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造用鋳型内の溶融金属の湯面レベル及びモールドパウダー厚の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造工程では、溶鋼を鋳型内に注入して冷却し、凝固シェルを生成させ、鋳型下方に連続的に引き抜くことで鋳片を製造している。この連続鋳造工程において、鋳型内の溶鋼の湯面レベル制御は、従来、電磁式のレベル計(渦流センサー等)を用いて湯面レベルを測定することで実施されている。電磁式のレベル計の測定範囲は、必要な測定精度を得る観点から、電磁式レベル計の下面から150〜200mm程度とされている。
【0003】
また、鋳型と凝固シェルとの間の潤滑等を目的として溶鋼上に投入されるモールドパウダーは、近年多種多様の鋼種に対応するための開発が行われている。鋼の連続鋳造工程におけるモールドパウダーの厚みは、従来より操業管理の重要な因子である。しかしながら、操業の安定性の指標となり得るモールドパウダーの厚みを操業中に連続的に測定する方法は実用化されていない。
【0004】
鋼の連続鋳造工程におけるモールドパウダー溶融層の厚み測定方法としては、検尺棒を用いた測定方法(例えば、特許文献1)や、多周波渦流式の測定方法(例えば、特許文献2〜4)などが提案されている。
【0005】
特許文献1の従来技術の欄に記載のように、鉄線検尺棒とモールドパウダーの融点よりも低融点の金属アルミ線検尺棒とを用いる方法では、モールドパウダーの融点で溶融しない鉄線検尺棒と溶融する金属アルミ線検尺棒との溶損差をパウダー溶融層の厚みとするため、低融点のモールドパウダーについては測定が困難である。また、連続的に測定を行う場合、金属アルミ線検尺棒が溶鋼中に溶解していくため、不純物が鋳片に添加されることになり、実用化するには問題があった。上記従来技術に鑑み、特許文献1では、鉄棒部の表面に銅メッキ部を形成した検尺棒を用い、銅メッキ部の溶損又は変色によりモールドパウダー溶融層の厚みを精度良く測定することを提案している。しかしながら、溶鋼に銅メッキが溶解していく問題があることは、上記従来技術と同じである。
【0006】
一方、鋳片の品質に影響を与えない非接触式の測定方法として、複数の周波数を用い、各周波数における位相情報と絶対値情報の双方を用いてモールドパウダー溶融層の厚みを測定する方法が、特許文献2、3に提案されている。これら多周波渦流式の測定方法は、モールドパウダーの種類や溶鋼面の温度によって測定精度が悪化する場合がある。このため、特許文献4では、モールドパウダーの種類や溶鋼面の温度の影響による誤差を補正して、高精度に測定する方法が提案されている。しかし、多周波渦流式の測定方法で用いられる多周波過流式センサーは大型化し、小面積の溶鋼湯面への適用は困難で且つ高価となることなどから、実用化するのは困難であった。また、多周波渦流式センサーでは、モールドパウダーの全厚み(溶融層の厚みとその上にある粉体層の厚みとの和)を把握するのに必要な粉体層の上面レベルの測定ができないという問題もあった。
【0007】
ところで、前述のように、電磁式のレベル計(渦流センサー等)によって湯面レベルを精度良く安定して測定できるのは、電磁式レベル計の下面から150〜200mm程度の範囲である。これに対して、連続鋳造設備の鋳型、特にスラブ連続鋳造機の鋳型は、900mm程度の高さを有している。連続鋳造設備で鋳造を開始する際、この鋳型内には下方への溶融金属の漏洩を防止するために下方からダミーバーが挿入されるが、このダミーバーの上端は、通常、鋳型高さのちょうど中間程度の位置に位置決めされる。従って、電磁式レベル計の下面と鋳型の上端とが面一であるとすれば、タンディッシュから浸漬ノズルを介して鋳型内への溶融金属の注入を開始し、鋳型内に溶融金属が溜り始めてその湯面が徐々に上昇していく過程において、電磁式レベル計の下面から約300〜250mmの間の湯面上昇については電磁式レベル計で湯面レベルを測定することができない。一方、浸漬ノズルからの溶融金属の注入初期から湯面レベルを測定することは、初期のノズル詰まりや過大な注入を予期する上で重要であるため、広範囲に亘る湯面レベルの測定が望まれていた。
【0008】
以上のような問題に鑑み、特許文献5、6には、鋳造開始時の鋳型内湯面レベルが上昇し始めて電磁式レベル計による湯面レベルの測定が可能になるまでの間は、熱電対式レベル計を使用して湯面レベルを測定する一方、湯面レベルが電磁式レベル計の測定可能範囲に到達した場合には、使用していた熱電対式レベル計を電磁式レベル計に切替えることが提案されている。しかしながら、熱電対式レベル計は、鋳型内に埋設されて使用されるので、応答性が悪いという問題がある。また、モールドパウダーの厚み(モールドパウダーの全厚み及びモールドパウダー溶融層の厚み)を測定することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−79805号公報
【特許文献2】特開2005−221282号公報
【特許文献3】特開2006−205227号公報
【特許文献4】特開2007−21529号公報
【特許文献5】特許第3221990号公報
【特許文献6】特許第3832358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、斯かる従来技術に鑑みなされたものであり、連続鋳造用鋳型内の溶融金属の湯面レベルを溶融金属の注入初期から連続的に測定可能であり、なお且つ、モールドパウダー厚を連続的に測定可能な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明は鋭意検討した結果、粉体や固体の界面までの距離を測定する装置としてマイクロ波式レベル計が実用化されており、測定分解能は渦流式センサーに比べると劣るものの、測定可能範囲が渦流式センサーよりも広いことに着眼した。また、マイクロ波は、空気中での温度変化に影響されず、物体を透過する特性があるため、モールドパウダーの上面と溶融金属の湯面との2界面を分離して検出可能ではないかと考えた。さらには、モールドパウダーの上面と、モールドパウダー溶融層の上面と、溶融金属の湯面との3界面を分離して検出可能ではないかと考えた。
そして、従来の過流式センサー等の電磁式のレベル計で測定範囲外となる範囲の湯面レベルをマイクロ波式のレベル計で測定し、湯面レベルが電磁式レベル計の測定範囲内に到達した後は、電磁式レベル計で湯面レベルを測定すると共に、2界面又は3界面の分離検出可能なマイクロ波式レベル計の測定値と電磁式レベル計の測定値とを用いてモールドパウダーの厚みを測定できないかと考えるに至った。
以上の考えに基づき、後述する各種の実験等を繰り返し行った結果、中心周波数が20GHzを超え32GHz以下で周波数変調幅が4GHzを超え8GHz以下であるマイクロ波を送信するマイクロ波式のレベル計であれば、上述の考えを実現可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、前記課題を解決するため、連続鋳造用鋳型内の溶融金属の湯面レベルを測定するための電磁式の第1レベル計と、中心周波数が20GHzを超え32GHz以下で周波数変調幅が4GHzを超え8GHz以下であるマイクロ波を送信するマイクロ波式のレベル計であって、前記第1レベル計に設定された測定範囲と重複する範囲及びこれよりも低い範囲の湯面レベルを測定可能な第2レベル計とを使用し、湯面レベルが前記第1レベル計に設定された測定範囲の下限に到達するまでは、前記第2レベル計で測定した湯面レベル測定値を湯面レベルとして出力し、湯面レベルが前記第1レベル計に設定された測定範囲の下限に到達した後は、前記第1レベル計で測定した湯面レベル測定値を湯面レベルとして出力し、なお且つ、前記第1レベル計の測定値及び前記第2レベル計の測定値に基づき、溶融金属上に投入されたモールドパウダーの厚みを算出することを特徴とする連続鋳造用鋳型内の溶融金属の湯面レベル及びモールドパウダー厚の測定方法を提供する。
【0013】
本発明によれば、測定可能範囲の広いマイクロ波式の第2レベル計によって連続鋳造用鋳型内の溶融金属の湯面レベルを溶融金属の注入初期から連続的に測定可能であり、なお且つ、電磁式の第1レベル計の測定値及び第2レベル計の測定値に基づき、モールドパウダー厚を連続的に測定可能である。
【0014】
本発明におけるモールドパウダー厚の測定について、具体的には、前記第1レベル計で測定した湯面レベル測定値と、前記第2レベル計で測定したモールドパウダーの上面レベル測定値とに基づき、モールドパウダーの全厚みを算出し、前記第2レベル計で測定したモールドパウダー溶融層の上面レベル測定値と、前記第2レベル計で測定した湯面レベル測定値と、モールドパウダー溶融層の比誘電率とに基づき、モールドパウダー溶融層の厚みを算出することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、連続鋳造用鋳型内の溶融金属の湯面レベルを溶融金属の注入初期から連続的に測定可能であり、なお且つ、モールドパウダー厚を連続的に測定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明を完成するに際して実施した第1の予備試験の概要を説明する説明図である。
図2図2は、マイクロ波式レベル計として、転炉のスラグレベル検知に用いられている汎用のマイクロ波式レベル計(中心周波数が20GHzで周波数変調幅が4GHzのマイクロ波を送信するもの)を用いた場合の試験結果を示す。
図3図3は、中心周波数が32GHzで周波数変調幅が8GHzのマイクロ波を送信するマイクロ波式レベル計を用いた場合の試験結果を示す。
図4図4は、図3に示す試験結果について、検出した反射波から得られる(検出した反射波にFFT処理を施して得られる)スペクトル波形の一例(モールドパウダーPの厚みは40mm)を示す図である。
図5図5は、本発明を完成するに際して実施した第2の予備試験の結果を示す図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に係る連続鋳造用鋳型内の溶融金属の湯面レベル及びモールドパウダー厚の測定方法を実施するための測定装置の構成例を概略的に示す図である。
図7図7は、図6に示す測定装置によって溶鋼の湯面レベルを溶鋼の注入初期から連続的に測定した結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
まず最初に、本発明を完成するに際して実施した予備試験について説明する。
<第1の予備試験>
図1は、本発明を完成するに際して実施した第1の予備試験の概要を説明する説明図である。図1(a)は第1の予備試験に用いた装置の概略構成を、図1(b)は第1の予備試験に用いたモールドパウダーの成分を示す。マイクロ波式のレベル計で溶融金属の湯面レベルを測定すると共にモールドパウダーの全厚みを測定するには、モールドパウダーの上面と溶融金属の湯面との2界面を分離して検出することが必要である。また、実操業におけるモールドパウダー厚みである100mm以下の測定分解能も必要である。
【0018】
図1(a)に示すように、第1の予備試験では、マイクロ波を送受信するアンテナ1、増幅器2、及び、データ収集用のパーソナルコンピュータ3からなるマイクロ波式のレベル計と、モールドパウダーを収容する金属製の筐体4とを備える装置を用いた。そして、筐体4内に図1(b)に示す成分のモールドパウダー(常温の粉体)Pをその厚みを変えて収容し、アンテナ1から送信したマイクロ波の反射波を検出した。そして、検出した反射波からFMCW(Frequency Modulation Continuous Wave)方式を用いて距離を測定した。FMCW方式は、周波数変調した連続波を送信し、送信波と反射波との周波数差(ビート周波数)から距離を求める方式である。
【0019】
図2は、マイクロ波式レベル計として、転炉のスラグレベル検知に用いられている汎用のマイクロ波式レベル計(中心周波数が20GHzで周波数変調幅が4GHzのマイクロ波を送信するもの)を用いた場合の試験結果を示す。図2には、筐体4の底面41での反射波に基づき算出した距離と、モールドパウダーPの上面での反射波に基づき算出した距離とを示す。筐体4の底面41での反射波は、筐体4が金属であることから、実操業における溶融金属の湯面からの反射波を模擬したものであるといえる。
図2に示すように、モールドパウダーPの厚みが150mmのときには、モールドパウダーPの上面での反射波を検出でき、検出した反射波から距離を算出することができたものの、モールドパウダーPの厚みが100mmのときには、モールドパウダーPの上面での反射波を検出できず、距離を算出することができなかった。また、モールドパウダーPの厚みが50mmのときには、モールドパウダーPの上面での反射波を若干検出でき、一応距離を算出することができたものの、明瞭な反射波ではなかった。これは、汎用のマイクロ波では波長が十数mmと長くなるのが原因であると考えられる。
【0020】
また、図2に示すように、筐体4の底面での反射波を検出することができ、検出した反射波から距離を算出することが可能であった。そして、算出した距離は、モールドパウダーPの厚みと相関を有する(モールドパウダーPの厚みが増加すれば、算出した距離も大きくなる)ことが分かった。算出した距離がモールドパウダーPの厚みと相関を有するのは、マイクロ波がモールドパウダーPを透過する際に、モールドパウダーPの比誘電率と厚みの影響を受けて、筐体4の底面での反射波の検出時点に遅れが生じることが原因であると考えられる。
【0021】
次に、中心周波数が32GHzで周波数変調幅が8GHzのマイクロ波を送信するマイクロ波式レベル計(このときのマイクロ波の波長は約5mm)を用いて同様の試験を行った。
図3は、中心周波数が32GHzで周波数変調幅が8GHzのマイクロ波を送信するマイクロ波式レベル計を用いた場合の試験結果を示す。図3には、筐体4の底面4での反射波に基づき算出した距離と、モールドパウダーPの上面での反射波に基づき算出した距離とを示す。また、図4は、図3に示す試験結果について、検出した反射波から得られる(検出した反射波にFFT処理を施して得られる)スペクトル波形の一例(モールドパウダーPの厚みは40mm)を示す図である。図4の横軸は算出した距離を、縦軸は各距離に対応する反射波のスペクトル強度を意味する。
図4に示すように、上記のマイクロ波であれば、モールドパウダーPの厚みが40mmである場合にも、モールドパウダーPの上面での反射波のスペクトル強度と、筐体4の底面4での反射波のスペクトル強度とは、双方ともにピークを有しており、両者を分離して検出可能であった。
【0022】
同様に、モールドパウダーPの厚みが15〜40mmの範囲で、モールドパウダーPの上面での反射波と筐体4の底面4での反射波とを分離して検出可能であった。すなわち、図3に示すように、モールドパウダーPの厚みが15〜40mmの範囲で、モールドパウダーPの上面での反射波を検出でき、検出した反射波から距離を算出することができた。また、図3に示すように、モールドパウダーPの厚みが15〜40mmの範囲で、筐体4の底面での反射波を検出することができ、検出した反射波から距離を算出することが可能であった。
【0023】
ここで、図3に示すように、筐体4の底面での反射波から算出した距離は、図2に示す場合と同様に、モールドパウダーPの厚みと相関を有する(モールドパウダーPの厚みが増加すれば、算出した距離も大きくなる)ことが分かった。例えば、モールドパウダーPの厚みが40mmの場合、図4に示すように、モールドパウダーPの上面での反射波から算出した距離は484mmで、筐体4の底面4での反射波から算出した距離は545mmであり、その差は61mmであり、実際のモールパウダーPの厚み40mmと一致しない。また、モールドパウダーPの厚みが20mmの場合、モールドパウダーPの上面での反射波から算出した距離は500mmで、筐体4の底面41での反射波から算出した距離は532mmであり、その差は32mmであり、実際のモールドパウダーPの厚み20mmと一致しない。モールドパウダーPの上面での反射波は、空気中を伝搬するので、モールドパウダーPの上面での反射波から算出した距離は真値に近い一方、筐体4の底面41での反射波は、前述のように、マイクロ波がモールドパウダーPを透過する際に、モールドパウダーPの比誘電率と厚みの影響を受けて、検出時点に遅れが生じるために、筐体4の底面での反射波から算出した距離は真値よりも大きくなることが原因であると考えられる。
【0024】
アンテナ1からモールドパウダーPの上面までの測定距離をL、アンテナ1から筐体4の底面41までの測定距離をL、モールドパウダーPの比誘電率をεとすれば、モールドパウダーPの厚みXは、L−Lではなく、以下の式(1)で表わすことができると考えられる。
【数1】
【0025】
モールドパウダーPの粉体での比誘電率εは1.85程度であるため、モールパウダーPの厚みが20mmの場合、上記式(1)にL=532mm、L=500mm、ε=1.85を代入すると、X=23.5mmとなる。また、モールパウダーPの厚みが40mmの場合、上記式(1)にL=545mm、L=484mm、ε=1.85を代入すると、X=44.9mmとなる。従って、モールドパウダーPの比誘電率がモールドパウダーP内で一定であれば、上記式(1)により、±5mmの精度でモールドパウダーPの厚みを測定可能であるといえる。
また、アンテナ1からモールドパウダーPの上面までの測定距離Lは真値に近いと考えられるため、同じく真値に近いと考えられる電磁式のレベル計(過流センサー等)で測定した筐体4の底面41までの測定距離をLとし、電磁式レベル計の測定距離の基準点とマイクロ波式レベル計の測定距離の基準点とを揃えておけば、L−LによってもモールドパウダーPの厚みを測定可能であると考えられる。
【0026】
<第2の予備試験>
モールドパウダーP全体が粉体である上記の第1の予備試験と異なり、実際の操業では、モールドパウダーP全体(全厚み)のうち、溶融金属に接している部分及びその近傍は溶融している。粉体のモールドパウダーPの比誘電率と、溶融しているモールドパウダーPの比誘電率は異なるため、前述の式(1)に基づくモールドパウダー厚(全厚み)の測定結果では誤差が生じることになる。
そこで、本発明者は、中心周波数が32GHzで周波数変調幅が8GHzのマイクロ波を送信するマイクロ波式レベル計を用いて、モールドパウダー溶融層の上面からの反射波を検出できるか否かを確認する第2の予備試験を行った。具体的には、鋼材を高周波加熱炉内で溶解し、その溶融金属(溶鋼)上にモールドパウダーP(厚み約20mm、質量1.3kg)を7回に分けて投入し、投入する毎にモールドパウダー溶融層の上面からの反射波を検出できるか否かを確認した。そして、前述した式(1)と同様の考えから、アンテナ1から溶融金属までの測定距離をL、アンテナ1からモールドパウダー溶融層の上面までの測定距離をL、モールドパウダー溶融層の比誘電率をεとしたとき、モールドパウダー溶融層の厚みXが、以下の式(2)で表わすことができるか否かを確認した。
【数2】
【0027】
図5は、本発明を完成するに際して実施した第2の予備試験の結果を示す図である。図5の横軸はモールドパウダーの投入回数を、縦軸はモールドパウダー溶融層の厚み測定値を示す。図5中、▲でプロットしたデータはマイクロ波式レベル計を用いて式(2)により算出した(比誘電率ε=35とした)モールドパウダー溶融層の厚みを、■でプロットしたデータは検尺棒を用いて測定したモールドパウダー溶融層の厚みを示す。
図5に示すように、マイクロ波式レベル計でモールドパウダー溶融層の上面からの反射波を検出可能であり、式(2)によって算出したモールドパウダー溶融層の厚みは、検尺棒を用いて測定したモールドパウダー溶融層の厚みと良好な相関を有する。すなわち、マイクロ波式レベル計を用いてモールドパウダー溶融層の厚みを測定可能であることが分かった。
【0028】
以上に説明した第1及び第2の予備試験の他、各種の予備試験を経て、本発明者は、中心周波数が20GHzを超え32GHz以下で周波数変調幅が4GHzを超え8GHz以下であるマイクロ波を送信するマイクロ波式のレベル計を用いれば、モールドパウダーの厚み(モールドパウダーの全厚み及びモールドパウダー溶融層の厚み)を十分な精度で測定できることに想到した。
【0029】
<本発明の一実施形態>
以上に説明した予備試験を踏まえて本発明は完成するに至った。以下、本発明の一実施形態について説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係る連続鋳造用鋳型内の溶融金属の湯面レベル及びモールドパウダー厚の測定方法を実施するための測定装置の構成例を概略的に示す図である。
図6に示すように、本実施形態の測定装置100は、連続鋳造用鋳型50内の溶融金属Sの湯面レベルを測定するための電磁式の第1レベル計10と、中心周波数が20GHzを超え32GHz以下で周波数変調幅が4GHzを超え8GHz以下であるマイクロ波を送信するマイクロ波式のレベル計であって、第1レベル計10に設定された測定範囲と重複する範囲及びこれよりも低い範囲の湯面レベルを測定可能な第2レベル計20とを備えている。また、本実施形態の測定装置100は、第1レベル計10の出力、及び、第2レベル計20に接続された増幅器30の出力が入力される判定装置40を備えている。
【0030】
浸漬ノズル60から供給された溶融金属Sは鋳型50内に注入され、鋳型50からの冷却により凝固シェルS1が生成し、鋳型50の下方に引き抜かれる。鋳型50内には、注入された溶融金属Sの保温・被覆や、鋳型50と凝固シェルS1との間の潤滑等を目的として、粉体のモールドパウダーPが投入される。モールドパウダーPの溶融金属Sに接している部分及びその近傍にはモールパウダー溶融層P1が形成され、その上に粉体層P2が残ったままとなる。
【0031】
本実施形態の判定装置40は、溶融金属Sの湯面レベルが第1レベル計10に設定された測定範囲の下限に到達するまでは、第2レベル計20で測定した湯面レベル測定値(第2レベル計20から湯面までの測定距離Lから算出されるレベル測定値)を湯面レベルとして出力する。一方、判定装置40は、溶融金属Sの湯面レベルが第1レベル計10に設定された測定範囲の下限に到達した後は、第1レベル計10で測定した湯面レベル測定値(第1レベル計10から湯面までの測定距離Lから算出されるレベル測定値)を湯面レベルとして出力する。また、判定装置40は、第1レベル計10の測定値及び第2レベル計20の測定値に基づき、溶融金属S上に投入されたモールドパウダーPの厚み(モールドパウダーPの全厚み及びモールドパウダー溶融層P1の厚み)を算出する。
【0032】
具体的には、判定装置40は、第1レベル計10で測定した湯面レベル測定値と、第2レベル計20で測定したモールドパウダーPの上面レベル測定値とに基づき、モールドパウダーPの全厚みを算出する。より具体的には、第1レベル計10の測定距離の基準点と第2レベル計20の測定距離の基準点とは揃えられており、第1レベル計10で測定した湯面までの測定距離をLとし、第2レベル計20で測定したモールドパウダーPの上面までの測定距離をLとした場合、判定装置40は、L−LをモールドパウダーPの全厚みとして算出する。
また、判定装置40は、第2レベル計20で測定したモールドパウダー溶融層P1の上面レベル測定値と、第2レベル計20で測定した湯面レベル測定値と、モールドパウダー溶融層P1の比誘電率εとに基づき、モールドパウダー溶融層P1の厚みXを算出する。より具体的には、第2レベル計20で測定したモールドパウダー溶融層P1の上面までの測定距離Lとし、第2レベル計20で測定した湯面までの測定距離をLとした場合、前述した式(2)によってモールドパウダー溶融層P1の厚みXを算出する。
【0033】
図7は、本実施形態の測定装置100によって溶鋼の湯面レベルを溶鋼の注入初期から連続的に測定した結果の一例を示す図である。図7において、鋳型50内には下方からダミーバーDが挿入され、浸漬ノズル60から鋳型50内への溶鋼Sの注入が開始される。注入開始後、鋳型50内の溶鋼Sの湯面レベルは徐々に上昇し、第1レベル計10の測定範囲内(図7に示す例では150mm)に到達する。従って、注入開始直後は、第1レベル計10の測定範囲外であるので、第2レベル計20によって湯面レベルが測定される。湯面レベルが第1レベル計10の測定範囲内に到達した後は、第1レベル計10で測定した湯面レベルによって湯面レベル制御が実施され、鋳造が開始される。通常は、浸漬ノズル60の吐出孔よりも湯面が上昇し、モールドパウダーPが吐出孔内に巻き込まれなくなった時点で、モールドパウダーPが湯面上に投入され、鋳造が開始される。第2レベル計20による湯面レベルの測定はそのまま継続される一方、モールドパウダーPの投入後は、モールドパウダーPの上面レベルと、モールドパウダー溶融層P1の上面レベルとがさらに測定され(図7において、破線で囲んだ部分は、3つのレベルが測定される状態を示している)、モールドパウダーPの全厚み及びモールドパウダー溶融層P1の厚みとが連続的に測定される。
【符号の説明】
【0034】
10・・・第1レベル計
20・・・第2レベル計
50・・・鋳型
S・・・溶融金属
100・・・測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7