特許第5800274号(P5800274)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5800274
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】暖房便座装置
(51)【国際特許分類】
   A47K 13/30 20060101AFI20151008BHJP
【FI】
   A47K13/30 A
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-217545(P2010-217545)
(22)【出願日】2010年9月28日
(65)【公開番号】特開2012-70903(P2012-70903A)
(43)【公開日】2012年4月12日
【審査請求日】2013年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100159709
【弁理士】
【氏名又は名称】本間 惣一
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100157901
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 達哲
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 陽一
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 賢二
【審査官】 藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−285307(JP,A)
【文献】 特開2010−124866(JP,A)
【文献】 英国特許第00503199(GB,B)
【文献】 特開2006−325698(JP,A)
【文献】 特開2008−023141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 13/00 − 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体を有し、人が着座する着座面を構成する便座上板と、
前記便座上板に接合され、便座の底面を構成する便座底板と、
前記便座上板と便座底板との間に形成された空洞部に配設され、前記導電体に磁界を及ぼして誘導加熱する誘導加熱コイルと、
前記便座上板の前記便座底板との対向面に対して前記誘導加熱コイルを離間させつつ、前記着座面にかかる荷重によって前記便座上板が変形した際に前記誘導加熱コイルの変形を抑制あるいは防止するように、前記誘導加熱コイルを前記便座上板または前記便座底板に保持する保持手段と、
前記誘導加熱コイルを収容するホルダと、を備え、
前記保持手段は、前記対向面に接続された取付部を有し、
前記取付部は、前記ホルダを保持して前記便座上板及び前記便座底板から離間した位置に前記誘導加熱コイルを吊り下げて保持することを特徴とする暖房便座装置。
【請求項2】
前記保持手段は、前記誘導加熱コイルを2点または3点で前記便座上板に取り付けることを特徴とする請求項1記載の暖房便座装置。
【請求項3】
前記保持手段は、前記便座底板上に設けられた立設片を有し、
前記誘導加熱コイルは、前記立設片により前記対向面に対して離間して保持されたことを特徴とする請求項1記載の暖房便座装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、便器に設けられる便座を暖めることができる暖房便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、誘導加熱の原理を利用して、座面を迅速に昇温させる暖房便座が提案されている。誘導加熱では、誘導加熱コイルに高周波電流を流して磁界を発生させ、その磁界が導電体を通過することで生じる渦電流により導電体を加熱する。
【0003】
特許文献1には、誘導加熱を利用した暖房便座装置が開示されている。この暖房便座装置では、誘導加熱コイルから交流磁界を発生させ、発熱体(導電体)を誘導加熱することで、便座を昇温している。この暖房便座装置では、誘導加熱コイルと発熱体との間に断熱材が設けられており、発熱体の熱が断熱材を介して便座に伝わるようになっている。
【0004】
誘導加熱される導電体は、渦電流による単位面積当たりの加熱量を確保するため、薄肉にすることが好ましい。薄肉の導電体が便座の上板に設けられていると、着座等の荷重によって便座の変形が生じやすい。便座が変形すると、便座の裏面に沿わせて設けられた誘導加熱コイルも変形する。誘導加熱コイルには、複数の絶縁素線を撚り合わせたリッツ線が用いられる。誘導加熱コイルの変形によってリッツ線に力が加わり、絶縁素線に断線が生じると、便座の加熱を行うことができなくなってしまう。あるいは、リッツ線の絶縁素線のいずれかに断線が生じると、便座の加熱性能が低下する。これにより、暖房便座の機能を損なうという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−023880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、便座にかかる荷重を誘導加熱コイルに伝えにくくして、誘導加熱コイルの変形を抑制あるいは防止し、暖房便座の機能を損なう恐れを低減させた誘導加熱式の暖房便座装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、導電体を有し、人が着座する着座面を構成する便座上板と、前記便座上板に接合され、便座の底面を構成する便座底板と、前記便座上板と便座底板との間に形成された空洞部に配設され、前記導電体に磁界を及ぼして誘導加熱する誘導加熱コイルと、前記便座上板の前記便座底板との対向面に対して前記誘導加熱コイルを離間させつつ、前記着座面にかかる荷重によって前記便座上板が変形した際に前記誘導加熱コイルの変形を抑制あるいは防止するように前記誘導加熱コイルを前記便座上板または前記便座底板に保持する保持手段と、前記誘導加熱コイルを収容するホルダと、を備え、前記保持手段は、前記対向面に接続された取付部を有し、前記取付部は、前記ホルダを保持して前記便座上板及び前記便座底板から離間した位置に前記誘導加熱コイルを吊り下げて保持することを特徴とする暖房便座装置である。
この暖房便座装置によれば、便座にかかる荷重による誘導加熱コイルの変形が抑制あるいは防止されるので、誘導加熱コイルの断線を防止し、暖房便座機能を損なうことがない。また、誘導加熱コイルの電線の破断を防止できるようになる。したがって、安全性の高い誘導加熱式の暖房便座装置を提供することができる。
また、この暖房便座装置によれば、誘導加熱コイルを便座上板の裏面から吊り下げて、便座上板及び便座底板から離間した位置に保持することができる。これにより、便座にかかる荷重が誘導加熱コイルに伝わりにくくなり、便座にかかる荷重による誘導加熱コイルの変形が抑制されて、誘導加熱コイルの電線の破断をより確実に防ぐことができる。さらに、誘導加熱コイルにより加熱される導電体との距離を適度に離すことができ、誘導加熱のエネルギーを効率よく便座の加熱に利用することが可能となる。
加えて、この暖房便座装置によれば、ホルダを利用して誘導加熱コイルを所定の間隔を開けて複数回巻いた状態で固定できる。ホルダに誘導加熱コイルを巻き付けることで誘導加熱コイルユニットが構成される。この誘導加熱コイルユニットを取付部に吊り下げたことにより、誘導加熱コイルの便座への組付け作業を簡便化することができる。
【0008】
また、第2の発明は、導電体を有し、人が着座する着座面を構成する便座上板と、前記便座上板に接合され、便座の底面を構成する便座底板と、前記便座上板と便座底板との間に形成された空洞部に配設され、前記導電体に磁界を及ぼして誘導加熱する誘導加熱コイルと、前記便座上板の前記便座底板との対向面に対して前記誘導加熱コイルを略平行に離間させつつ、前記着座面にかかる荷重によって前記便座上板が変形した際に前記誘導加熱コイルの変形を抑制あるいは防止するように前記誘導加熱コイルを前記便座上板または前記便座底板に保持する保持手段と、を備えたことを特徴とする暖房便座装置である。
この暖房便座装置によれば、便座にかかる荷重による誘導加熱コイルの変形が抑制あるいは防止されるので、誘導加熱コイルの断線を防止し、暖房便座機能を損なうことがない。また、誘導加熱コイルの電線の破断を防止できるようになる。
したがって、安全性の高い誘導加熱式の暖房便座装置を提供することができる。
【0009】
また、第の発明は、第の発明において、前記保持手段は、絶縁性の弾性体を有し、前記誘導加熱コイルは、前記弾性体を介して前記対向面に取り付けられたことを特徴とする暖房便座装置である。
この暖房便座装置によれば、便座にかかる荷重は弾性体を介在して誘導加熱コイルに伝わる。弾性体は着座荷重と誘導加熱コイルの反力によって圧縮変形するので、誘導加熱コイルの変形が抑制され、誘導加熱コイルの電線の破断を防ぐことができる。
【0011】
また、第の発明は、第の発明において、弾性体が、断熱性を有する発泡樹脂であることを特徴とする暖房便座装置である。
この暖房便座装置によれば、導電体から下方への放熱を防ぐことができ、昇温性能が向上する。また、誘導加熱停止後の放熱も抑えることができる。
【0013】
また、第の発明は、第の発明において、前記保持手段は、前記対向面に接続された取付部を有し、前記取付部は、前記便座上板及び前記便座底板から離間した位置に前記誘導加熱コイルを吊り下げて保持することを特徴とする暖房便座装置である。
この暖房便座装置によれば、誘導加熱コイルを便座上板の裏面から吊り下げて、便座上板及び便座底板から離間した位置に保持することができる。これにより、便座にかかる荷重が誘導加熱コイルに伝わりにくくなり、便座にかかる荷重による誘導加熱コイルの変形が抑制されて、誘導加熱コイルの電線の破断をより確実に防ぐことができる。
また、誘導加熱コイルにより加熱される導電体との距離を適度に離すことができ、誘導加熱のエネルギーを効率よく便座の加熱に利用することが可能となる。
【0015】
また、第の発明は、第の発明において、前記誘導加熱コイルを収容するホルダをさらに備え、前記取付部は、前記ホルダを保持して前記誘導加熱コイルを吊り下げることを特徴とする暖房便座装置である。
この暖房便座装置によれば、ホルダを利用して誘導加熱コイルを所定の間隔を開けて複数回巻いた状態で固定できる。ホルダに誘導加熱コイルを巻き付けることで誘導加熱コイルユニットが構成される。この誘導加熱コイルユニットを取付部に吊り下げたことにより、誘導加熱コイルの便座への組付け作業を簡便化することができる。
【0017】
また、第の発明は、第1、第2、第、第のいずれか1つの発明において、前記保持手段が、前記誘導加熱コイルを2点または3点で前記便座上板に取り付けることを特徴とする暖房便座装置である。
この暖房便座装置によれば、誘導加熱コイルを2点支持あるいは3点支持するので、荷重が便座のどの部位にかかっても誘導加熱コイルの変形を最低限に抑えることができる。
【0019】
また、第8の発明は、第1又は第2の発明において、前記保持手段は、前記便座底板上に設けられた立設片を有し、前記誘導加熱コイルは、前記立設片により前記対向面に対して離間して保持されたことを特徴とする暖房便座装置である。
この暖房便座装置によれば、便座にかかる荷重が誘導加熱コイルに伝わる恐れはなく、便座にかかる荷重による誘導加熱コイルの変形が抑制されて、誘導加熱コイルの電線の破断をより確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の態様によれば、便座にかかる荷重を誘導加熱コイルに伝えにくくして、誘導加熱コイルの変形を抑制あるいは防止し、暖房便座の機能を損なう恐れを低減させた誘導加熱式の暖房便座装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1の実施形態に係る暖房便座装置を備えたトイレ装置を例示する模式的斜視図である。
図2】第1の実施形態にかかる暖房便座装置を例示する模式的平面図である。
図3】便座の具体例を説明する模式的断面図である。
図4】便座の具体例を説明する模式的断面図である。
図5】第2の実施形態に係る暖房便座装置を例示する模式的斜視図である。
図6】ホルダを例示する模式図である。
図7図5のC−C線矢視の模式的断面図である。
図8】ホルダの他の例を説明する模式的断面図である。
図9】ホルダの他の例の取り付けを説明する模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0024】
(第1の実施形態)
先ず、第1の実施形態に係る暖房便座装置の例を説明する。
図1は、第1の実施形態に係る暖房便座装置を備えたトイレ装置を例示する模式的斜視図である。
図1に表したトイレ装置は、洋式腰掛便器800と、その上に設けられた暖房便座装置110と、を備える。暖房便座装置110は、ケーシング400と、便座200と、便蓋300と、を有する。便座200と便蓋300とは、ケーシング400に対して開閉自在にそれぞれ軸支されている。便蓋300は、閉じた状態において便座200の上方を覆うことができる。
【0025】
ここで、本実施形態では、暖房便座装置110の便蓋300が設けられる側を上方向(上方)、これと反対側を下方向(下方)、暖房便座装置110の便蓋300が軸支される側を後方向(後方)、これと反対側を前方向(前方)、上下方向及び前後方向と直交する方向のうち後方に向いて右側を右方向(右側方)、左側を左方向(左側方)、ということにする。
【0026】
便座200または便蓋300の内部には、高周波電流が通電されることにより磁界を発生する誘導加熱コイルが設けられている。また、便座200には、後に詳述するように、誘導加熱コイルから発生した磁界により誘導加熱される導電体が設けられている。より具体的には、導電体は、誘導加熱コイルから発生する磁界で誘起される渦電流により発熱する。
【0027】
これにより、本実施形態にかかる暖房便座装置110は、誘導加熱の原理を利用し、便座200を急速に加熱することができる。そのため、使用者が便座200を使用していないときには、暖房便座装置110は、便座200を保温しておく必要はない。そのため、例えば「シーズヒータ」や、「ハロゲンヒータ」や、「カーボンヒータ」などの抵抗加熱手段により便座200の着座面201を加熱する場合よりも省エネルギー化を図ることができる。
【0028】
ケーシング400の内部には、衛生洗浄装置としての機能部が併設されていてもよい。すなわち、ケーシング400には、便座200に座った使用者の「おしり」などに向けて水を噴出する図示しない吐水ノズルを有する衛生洗浄機能部などが内蔵されていてもよい。なお、本願明細書において「水」という場合には、冷水のみならず、加熱されたお湯も含むものとする。
【0029】
また、ケーシング400の内部には、便座200に座った使用者の「おしり」などに向けて温風を吹き付けて乾燥させる「温風乾燥機能」や「脱臭ユニット」や「室内暖房ユニット」などの各種の機構が適宜設けられていてもよい。ただし、本発明においては、衛生洗浄機能部やその他の付加機能部は必ずしも設けなくてもよい。
【0030】
図2は、本実施形態にかかる暖房便座装置を例示する模式的平面図である。
図2に表したように、ケーシング400の内部には、制御部410が設けられている。そして、商用電源から供給される電力(以下、説明の便宜上「商用電力」と称する)は、ケーシング400の内部に設けられた制御部410に投入される。
【0031】
便座200には、誘導加熱コイル222から発生した磁界により誘導加熱される導電体231が設けられている。より具体的には、導電体231は、誘導加熱コイル222から発生する磁界で誘起される渦電流により発熱する。導電体231は、便座200の上面(着座面201)に付設されている。あるいは、導電体231は、便座200の筐体210の内部に設けられていてもよい。あるいは、導電体231は、便座200の内部の上面に付設されていてもよい。
【0032】
導電体231としては、例えば鉄やステンレスなどの強磁性体、またはアルミニウムなどの常磁性体といった金属を用いることができる。便座200の外部に磁界を放出させにくくするためには、電気抵抗が大きい鉄やステンレスなどの強磁性体を導電体231に用いることがより好ましい。なお、導電体231が便座200の上面に設けられる場合には、人体と導電体231とが直接的に接触しないように、塗装やコーティングなどが導電体231の表面に施されることがより好ましい。
【0033】
制御部410と誘導加熱制御部420とは、給電線415により接続されている。商用電力などの低周波電流と、制御部410から供給される制御信号と、は給電線415を通して誘導加熱制御部420に供給される。そして、給電線415は、誘導加熱制御部420から出力される高周波電流よりも相対的に周波数が低い低周波電流を誘導加熱制御部420に供給する。低周波電流は、例えば、商用電源から供給される周波数の低い電流である。誘導加熱制御部420は、給電線415を通して供給される低周波電流を、その周波数よりも高い周波数の電流(以下、説明の便宜上「高周波電流」と称する)に変換する。
【0034】
誘導加熱制御部420により変換された高周波電流は、電力供給線221を通して誘導加熱コイル222へ流れる。そうすると、誘導加熱コイル222は、磁界を発生する。誘導加熱コイル222が磁界を発生すると、導電体231は、その磁界で誘起される渦電流により発熱する。そのため、本実施形態にかかる暖房便座装置110は、誘導加熱の原理を利用し、便座200の着座面201を急速に加熱することができ、より早く着座面201を適温にすることができる。また、本実施形態にかかる暖房便座装置110は、便座200の着座面201を急速に加熱することができるため、使用者が便座200を使用していないときには便座200を保温しておく必要はない。そのため、省エネルギー化を図ることができる。
【0035】
図3図4は、便座の具体例を説明する模式的断面図である。
図3及び図4では、図2のA−A線矢視の模式的断面図を示している。
なお、以下の説明において、各具体例に係る便座200A、200B、200C及び200Dを総称して便座200ということにする。
【0036】
図3及び図4に表したように、便座200は、便座200の外形を形成する筐体210を有する。筐体210は、例えば樹脂などの絶縁性を有する材料により形成されている。筐体210は、便座上板211と、便座底板212と、を有する。便座上板211は、人が着座する着座面201の少なくとも一部を構成する。便座底板212は、便座の底面の少なくとも一部を構成する。便座上板211と便座底板212とが接合される、これらの間に空洞部Sが設けられる。この空洞部S内に誘導加熱コイル222が配設される。
【0037】
導電体231は、例えば便座上板211の表面211aから側面211cにかけて設けられている。なお、便座上板211は、導電体231と一体に形成されていてもよい。本実施形態では、便座上板211と導電体231とが別体に設けられている場合を例とする。
【0038】
空洞部S内において、誘導加熱コイル222は保持手段280によって保持されている。保持手段280は、便座上板211の便座底板212との対向面である裏面211bに対して誘導加熱コイル222を離間させる。保持手段280は、例えば誘導加熱コイル222と導電体231との隙間がほぼ一定になるように誘導加熱コイル222を保持する。
【0039】
また、保持手段280は、便座上板211にかかる荷重によって便座上板211が変形した際に、誘導加熱コイル222が変形することを抑制あるいは防止するように、誘導加熱コイル222を便座上板211または便座底板212に保持する。
【0040】
誘導加熱コイル222が保持手段280によって保持されていることで、着座等によって便座200に荷重が加わっても、誘導加熱コイル222の変形は抑制あるいは防止される。したがって、誘導加熱コイル222の断線を防止することができる。また、誘導加熱コイル222の電線の破断を防止できる。これにより、暖房便座装置110の暖房便座機能を損なうことがなく、安全性の高い誘導加熱式の暖房便座装置110を提供することができる。
【0041】
図3(a)に表したように、第1の具体例に係る便座200Aでは、誘導加熱コイル222の保持手段280に取付部281が設けられている。取付部281は、便座上板211の裏面211bにおける内周側及び外周側に設けられている。すなわち、取付部281は、便座上板211の裏面211bにおける中央部から離れた位置に設けられている。
【0042】
取付部281は、誘導加熱コイル222を便座上板211の裏面211bに対して略平行に保持する。この取付部281によって、誘導加熱コイル222と便座上板211の裏面211bとの間に一定の間隔dを設定する。一定の間隔dは、例えば便座上板211に荷重が加わり、下方に変形する際の最大の変形量よりも大きな値に設定されている。本実施形態において、この間隔dは約5mmである。
【0043】
便座上板211に荷重が加わる場合には、中央部分が下方に湾曲することになる。したがって、便座上板211の裏面211bにおける内周側及び外周側に設けられた取付部281は、便座上板211の下方への湾曲にあまり影響を受けない。よって、この取付部281に取り付けられた誘導加熱コイル222は、便座上板211の湾曲の影響を受けにくい。
【0044】
便座200Aでは、便座上板211にかかる荷重による誘導加熱コイル222の変形が抑制されて、誘導加熱コイル222の電線の破断をより確実に防ぐことができる。また、誘導加熱コイル222により加熱される導電体231との距離を適度に離すことができ、誘導加熱のエネルギーを効率よく便座200の加熱に利用することが可能となる。
【0045】
図3(b)に表したように、第2の具体例に係る便座200Bでは、誘導加熱コイル222の保持手段280に取付部282が設けられている。取付部282は立設片であり、便座底板212の便座上板211との対向面である内面212aに立設している。図2(b)に例示した取付部282は、内面212aの内周側及び外周側にそれぞれ設けられている。なお、取付部282は、内面212aの中央部に1つ設けられていてもよい。
【0046】
取付部282は、誘導加熱コイル222を便座上板211の裏面211bに対して略平行に保持する。この取付部282によって、誘導加熱コイル222と便座上板211の裏面211bとの間に一定の間隔dを設定する。一定の間隔dは約5mmである。
【0047】
このような便座200Bでは、便座上板211に荷重が加わっても、その力が誘導加熱コイル222には伝わらない。したがって、誘導加熱コイル222は、便座上板211の湾曲の影響を受けにくい。便座200Bでは、便座上板211にかかる荷重による誘導加熱コイル222の変形が防止されて、誘導加熱コイル222の電線の破断をより確実に防ぐことができる。
【0048】
図4(a)に表したように、第3の具体例に係る便座200Cでは、誘導加熱コイル222の保持手段280に取付部283が設けられている。取付部283は、便座上板211の裏面211bにおける中央部に設けられている。すなわち、取付部283は、便座上板211の裏面211bにおける中央部で誘導加熱コイル222を吊り下げた状態で保持している。
【0049】
取付部283は、誘導加熱コイル222を便座上板211の裏面211bに対して略平行に保持する。この取付部283によって、誘導加熱コイル222と便座上板211の裏面211bとの間に一定の間隔を設定する。一定の間隔dは約5mmである。
【0050】
便座上板211に荷重が加わる場合には、中央部分が下方に湾曲することになる。便座200Cにおいては、便座上板211の裏面211bの中央部で誘導加熱コイル222が吊り下げられていることから、便座上板211の下方への湾曲にともない、誘導加熱コイル222の位置はわずかに下方に変位する。しかし、誘導加熱コイル222には便座上板211の湾曲による変形は伝わらない。したがって、便座200にかかる荷重による誘導加熱コイル222の変形が防止されて、誘導加熱コイル222の電線の破断をより確実に防ぐことができる。
【0051】
図4(b)に表したように、第4の具体例に係る便座200Dでは、誘導加熱コイル222の保持手段280が絶縁性のある弾性体284を備えている。誘導加熱コイル222は、弾性体284を介して便座上板211の裏面211bに取り付けられている。
【0052】
誘導加熱コイル222が弾性体284を介して便座上板211の裏面211bに取り付けられていることで、便座上板211にかかる荷重は、弾性体284を介在して誘導加熱コイルに伝わる。弾性体284は、荷重と誘導加熱コイル222の反力によって圧縮変形するので、誘導加熱コイル222の変形が抑制され、誘導加熱コイル222の電線の破断を防ぐことができる。
【0053】
弾性体284には、例えば断熱性を有する発泡樹脂が用いられる。これにより、導電体231から下方への放熱を防ぐことができ、便座200Dの昇温性能が向上する。また、便座200Dでは、誘導加熱停止後の放熱も抑えることができる。
【0054】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る暖房便座装置の例を説明する。
図5は、第2の実施形態に係る暖房便座装置を例示する模式的斜視図である。
図5に表したように、第2の実施形態に係る暖房便座装置120では、便座200内に設けられた誘導加熱コイル222が、ホルダ290に収容されている。
暖房便座装置120では、爪部293がホルダ290を保持し、誘導加熱コイル222を吊り下げるようにしている。
ホルダ290は、上記説明した保持手段280と兼用になっている。ホルダ290は、誘導加熱コイル222を211bに対して離間させつつ、着座面201にかかる荷重によって便座上板211が変形した際に誘導加熱コイル222の変形を防止するように、誘導加熱コイル222を便座上板211に保持する役目を果たす。
【0055】
図6は、ホルダを例示する模式図である。
図6(a)は、ホルダの模式的斜視図、図6(b)は、図6(a)のB−B線矢視の模式的断面図である。
ホルダ290には、誘導加熱コイル222の導線222aの太さに合わせたガイド291が設けられている。ガイド291に沿って導線222aを巻き付けると、導線222aが一定の間隔で巻き付けられた誘導加熱コイル222が形成される。
【0056】
ホルダ290の形状は、便座200の空洞部S内に収容可能な形状になっている。例えば、ホルダ290の形状は、略楕円形になっている。このホルダ290の形状に沿ってガイド291が渦巻き状に形成されている。ガイド291に沿って導線222aを巻き付けることにより、便座200の形状に沿った誘導加熱コイル222を構成することができる。
【0057】
導線222aには、例えばリッツ線が用いられる。便座200は、高湿でトイレ用洗剤等によるアンモニア雰囲気や塩酸雰囲気下におかれる可能性がある。したがって、導線222aであるリッツ線の絶縁被覆の破壊及びショートを確実に防止するため、導線222aは、ホルダ290内で防湿樹脂295によって埋め込まれている。
【0058】
ホルダ290及び防湿樹脂295には、誘導加熱コイル222からの誘導加熱の対象とならないよう、非磁性材料が用いられる。例えば、ホルダ290及び防湿樹脂295には、PP(Polypropylene)及びABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)等の樹脂が用いられる。
【0059】
図7は、図5のC−C線矢視の模式的断面図である。
便座上板211の空洞部S側の面には、孔213hを備えた取付部213が設けられている。図7に例示した便座上板211では、裏面211b及び側面211cが交わる隅部211dに取付部213が設けられている。隅部211dに取付部213が設けられていると、便座上板211に荷重が加わって便座上板211の中央部が下方に湾曲しても、湾曲の影響が取付部213に伝わりにくい。また、隅部211dの肉厚は、他の部分の肉厚に比べて厚い。したがって、隅部211dによって取付部213の根元をしっかりと支持することができる。
【0060】
一方、ホルダ290の縁には、爪部293が設けられている。この爪部293の先端が取付部213の孔213hに嵌合することにより、ホルダ290は取付部213によって保持される。ホルダ290が取付部213によって保持されると、誘導加熱コイル222を便座上板211の裏面211bに対して略平行に保持される。これにより、誘導加熱コイル222と便座上板211の裏面211bとの間に一定の間隔dが設定される。間隔d約5mmである。
【0061】
取付部213及び爪部293の組みは、略楕円形の便座200における複数箇所に設けられている。図5に例示した暖房便座装置120では、便座200の4箇所に取付部213及び爪部293の組みが設けられている。爪部293を取付部213の孔213hに嵌合させることで、ホルダ290を便座上板211に簡単かつ正確な位置に取り付けることができる。
【0062】
なお、ホルダ290は、便座200の2箇所に設けられた取付部213及び爪部293の組みによって2点止めされてもよい。また、ホルダ290は、便座200の3箇所に設けられた取付部213及び爪部293の組みによって3点止めされてもよい。
さらに、ホルダ290は、取付部213及び爪部293の嵌合による取り付けのほか、便座上板211にねじ止めされてもよい。また、ホルダ290は、便座上板211に接着剤等によって接着されてもよい。
【0063】
図8は、ホルダの他の例を説明する模式的断面図である。
図9は、ホルダの他の例の取り付けを説明する模式的斜視図である。
図8に表したように、ホルダ290Aには、ホルダ290Aの誘導加熱コイル222を巻き付ける側とは反対側の面296に爪部294が設けられている。爪部294は、面296の略中央に設けられている。
【0064】
ホルダ290Aにはガイド291が設けられており、ガイド291に沿って導線222aが巻き付けられている。これによって、導線222aが一定の間隔で巻き付けられた誘導加熱コイル222が形成される。導線222aは、防湿樹脂295によって埋め込まれている。したがって、ホルダ290Aの導線222aを巻き付けた側を下向きにしても、導線222aが脱落することはない。
【0065】
図9に表したように、ホルダ290Aは、便座200の複数箇所で固定されている。
図9(a)に表した例は、便座200の2箇所でホルダ290Aを固定した例である。便座200の前後方向に沿った2箇所には、ホルダ290Aの爪部294と嵌合する取付部214が設けられている。ホルダ290Aの爪部294は、取付部214の孔214hに嵌合される。
【0066】
ホルダ290Aを2箇所で固定する際、2箇所の固定位置を結ぶ線を中心とした左右でホルダ290Aの重量バランスがとれるようにしておく。これにより、ホルダ290Aを2箇所で固定しても、誘導加熱コイル222を便座上板211の裏面211bに対して略平行に保持することができるようになる。
【0067】
また、図9(b)に表したように、便座200の3箇所でホルダ290Aを固定してもよい。すなわち、便座200の3箇所には、ホルダ290Aの爪部294と嵌合する取付部214が設けられている。例えば、3箇所のうち1つは、便座200の後方に設けられ、残りの2つは、便座200の左右の前寄りにそれぞれ設けられている。ホルダ290Aの3つの爪部294は、それぞれ便座200の取付部214に嵌合される。これにより、ホルダ290Aは、3箇所で便座200に固定される。
【0068】
図9(a)及び(b)に例示したホルダ290Aの2箇所止め及び3箇所止めでは、誘導加熱コイル222に曲げ応力を加えることなく誘導加熱コイル222を保持することができる。すなわち、便座200の着座面201にかかる荷重は均一ではないこともある。例えば、使用者が用便後におしりをふく時におしりを浮かした場合など、便座200の着座面201にかかる荷重は不均一になる。このような不均一な荷重がかかる場合において、ホルダ290Aを4箇所以上で便座200に固定すると、誘導加熱コイル222に曲げ応力が働きやすくなる。このため、2点支持及び3点支持のいずれかであれば、便座200の着座面201にかかる荷重によりコイルユニットに曲げ応力がかかることがないので、誘導加熱コイル222の導線222aの断線をより確実に防ぐことができる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態によれば、便座200の着座面201に荷重が加わっても、着座面201の変位の影響が誘導加熱コイル222に伝わりにくいことから、誘導加熱コイル222の断線を効果的に防止することができる。さらに、着座面201の温度均一性も確保することが可能である。
【0070】
便座上板211の裏面211bと誘導加熱コイル222との間に一定の間隔dが設けられているため、便座200への着座の繰り返し荷重によって、万が一便座200の表面に割れが発生したとしても、使用者臀部と誘導加熱コイル222との絶縁距離をかせぐことが可能である。これにより、暖房便座装置110及び120の安全性を向上させることが可能である。
【0071】
なお、上記実施形態では、暖房便座装置110及び120に便蓋300が設けられた例を説明したが、便蓋300が設けられていないものであっても適用可能である。
【0072】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
また、前述した各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0073】
110、120…暖房便座装置、200、200A、200B、200C、200D…便座、201…着座面、210…筐体、211…便座上板、211a…表面、211b…裏面、211c…側面、211d…隅部、212…便座底板、212a…内面、213…取付部、213h…孔、214…取付部、214h…孔、221…電力供給線、222…誘導加熱コイル、222a…導線、231…導電体、280…保持手段、281、282、283…取付部、284…弾性体、290、290A…ホルダ、291…ガイド、293、294…爪部、295…防湿樹脂、300…便蓋、400…ケーシング、410…制御部、415…給電線、420…誘導加熱制御部、800…洋式腰掛便器、S…空洞部、d…間隔
図1
図2
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