【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)刊行物名 日刊工業新聞 発行者名 日刊工業新聞社 発行年月日 平成24年5月21日 (2)掲載アドレス http://www.rigaku.co.jp/index.html http://www.rigaku.co.jp/arrival/120521.html http://www.rigaku.co.jp/products/p/getsmart/ 掲載年月日 平成24年5月21日 (3)展示会名 2012NEW環境展 開催日 平成24年5月22日〜25日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記温度推定ステップでは、前の温度測定時点における温度センサによる測定温度と前の温度測定時点における測定部の推定温度から、温度測定時点における前記測定部の温度を推定することを特徴とした請求項3の放射線測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、シンチレーション検出器にあっては、入射してきた放射線を検出するシンチレータの内部温度の変化や、検出した放射線エネルギを増幅する光電子増倍管の内部温度の変化が、シンチレーション検出器の出力に影響を及ぼす。したがって、高精度な温度補正を行うには、これらシンチレータ及び光電子増倍管で構成される測定部の内部温度を検出する必要がある。
しかし、特許文献1に開示された温度補償回路では、サーミスタが検出した光電子増倍管の外側近傍温度によって温度補償を実行しているので、高精度な温度補償は期待できない。また、熱伝導により光電子増倍管の内外温度差がなくなる十分な時間を設けた上で、光電子増倍管の外側近傍温度をサーミスタで検出して温度補償を実行することも可能ではあるが、この場合は測定に長い時間が必要となる。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、迅速かつ高精度な温度補正を実現できる測定装置の温度補正方法と、同方法を用いた放射線測定装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、温度補正方法に係る本発明は、測定部から出力される測定データが、当該測定部の温度変化に伴い変動する測定装置の温度補正方法において、
測定部の一部又は周囲の温度を温度センサで測定し、
温度センサで測定した温度の時間的変化に基づき測定部の温度を推定し、
当該推定した測定部の温度に基づき測定データを補正することを特徴とする。
【0008】
また、温度補正方法に係る本発明は、放射線を検出する測定部と、当該測定部から出力される放射線データを処理するデータ処理部とを備えた放射線測定装置の温度補正方法において、
測定部の周囲に設けた温度センサにより当該測定部の周囲の温度を測定する温度測定ステップと、
温度センサで測定した温度の時間的変化に基づき測定部の温度を推定する温度推定ステップと、
当該推定した測定部の温度に基づき測定部から出力された放射線データを補正するデータ補正ステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
ここで、温度センサによる測定部位は、一般的には測定部の周囲となる。ただし、測定部内に温度センサの設置が可能であれば、当該設置部位(測定部の一部に相当)の温度を用いることもできる。
【0010】
上述したように、本発明に係る温度補正方法は、温度センサで測定した測定部の一部又は周囲の温度で温度補正するのではなく、温度センサで測定した温度の時間的変化に基づき測定部の温度を推定した上で、当該推定した測定部の温度に基づき測定データを補正するので、高精度な温度補正が可能となり、しかも熱伝導により測定部の内外温度差が無くなるまで待機する必要もないため、迅速な測定が可能となる。
【0011】
また、本発明に係る温度補正方法において、
温度測定ステップでは、測定部内の熱伝導時間を考慮した時定数よりも小さな時間間隔で測定部の周囲の温度を測定し、
温度推定ステップでは、温度センサで測定した温度の時間的変化に基づき、時定数に関連付けて、測定部の温度を推定することが好ましい。
例えば、前記温度推定ステップでは、前の温度測定時点における温度センサによる測定温度と前の温度測定時点における測定部の推定温度から、温度測定時点における前記測定部の温度を推定する。
【0012】
測定部内の熱伝導時間を考慮した時定数よりも十分に小さな時間間隔で測定部の周囲の温度を測定し、そのような小さな温度変化ごとに逐次測定部の温度を推定することで、温度の推定精度が高まり、いっそう高精度な温度補正が可能となる。
【0013】
測定部の温度の推定は、測定部内の熱伝導時間を考慮した時定数に関連する演算式をもって処理することができる。
例えば、時定数に関連付けた次式(1)に相当する演算式をもって、測定部の温度を推定することが可能である。
【数1】
ここで、θP
i+1はi+1の温度測定時点における測定部11の推定温度、θS
iはi+1よりも前の測定時点におけるサーミスタ13による測定温度、θP
iは当該i+1よりも前の測定時点iにおける測定部11の推定温度、τは測定部11内の熱伝導時間を考慮した時定数、Δtはiからi+1までの時間間隔を示している。
なお、測定部の温度の推定に用いる演算式は、上式(1)に限定されるものではなく、同式と同じか又は近似した結果が得られる演算式であればよい。
【0014】
次に、放射線測定装置に係る本発明は、放射線を検出する測定部と、測定部の周囲の温度を測定する温度センサと、測定部から出力される放射線データを処理するデータ処理部と、を備えた放射線測定装置において、
データ処理部は、温度センサで測定した温度の時間的変化に基づき測定部の温度を推定するとともに、当該推定した測定部の温度に基づき測定部から出力された放射線データを補正する機能を有することを特徴とする。
【0015】
具体的には、次のような構成とすることができる。
測定部を有し、当該測定部に入射してきた放射線のもつエネルギを検出して当該エネルギに相当する波高のアナログ電気信号を出力する放射線検出器と、
放射線検出器から出力されたアナログ電気信号を増幅して出力する積分アンプと、
積分アンプからの出力信号を、あらかじめ設定されたサンプリング間隔でデジタル変換するA/Dコンバータと、を備え、
データ処理部は、
デジタル変換された電気信号をデータ処理して、検出器に入力した放射線エネルギの波高値を求める波高値検出手段と、
温度センサで測定した温度の時間的変化に基づき測定部の温度を推定する温度推定手段と、
推定した測定部の温度に基づき放射線エネルギの波高値を補正する波高値補正手段と、
補正した放射線エネルギの波高値ごとにヒストグラムを作成する解析手段と、を含む構成とする。
【0016】
さらに、データ処理部は、メモリと中央処理部とを含む1チップマイコンで構成し、
メモリには、波高値検出手段、温度推定手段、波高値補正手段及び解析手段の機能を実行するためのデータ処理プログラムを保存し、
中央処理部が、当該データ処理プログラムを実行する構成とすれば、データ処理に必要なハードウエアを削減して装置の小型化を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、温度センサで測定した測定部の一部又は周囲の温度で温度補正するのではなく、温度センサで測定した温度の時間的変化に基づき測定部の温度を推定した上で、当該推定した測定部の温度に基づき測定データを補正するので、高精度な温度補正が可能となり、しかも熱伝導により測定部の内外温度差が無くなるまで待機する必要もないため、迅速な測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る放射線測定装置の全体構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る放射線測定装置の計測部を示すブロック回路図である。
【
図3】
図3に続く、本実施形態に係る放射線測定装置の計測部を示すブロック回路図である。
【
図4】(a)は積分アンプの構成例を示す図、(b)は積分アンプに入力されるアナログ電気信号の例を示す図、(c)(d)はそれぞれ積分アンプからの出力信号の例を示す図である。
【
図5】積分アンプの時定数とA/Dコンバータのサンプリング間隔の関係を説明するための図である。
【
図6】中央処理部におけるデータ処理の流れを示すブロックダイアグラムである。
【
図7】放射線エネルギの波高値におけるボトム位置とピーク位置の検出手順を説明するための図である。
【
図8】中央処理部で求めたヒストグラム(放射線スペクトル)の例を示す図である。
【
図9】シンチレーション検出器の測定部を模式的に示す斜視図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る温度補正方法における温度の推定に関する説明図である。
【
図11】温度変化に対する放射線エネルギの補正値(補正曲線)の例を示すグラフである。
【
図12】温度による放射線エネルギの変動の例を示すグラフである。
【
図13】時定数τを求める手順を示すフローチャートである。
【
図14】温度の上昇時及び下降時の時定数τを求めた実施例を示すグラフである。
【
図15】シンチレーション検出器の測定部内の温度を−20℃から50℃の範囲で変化させたときの放射線エネルギ計測値の相対的な変動幅を求めた実施例を示すグラフである。
【
図16】シンチレーション検出器の測定部内の温度を−20℃から50℃の範囲で変化させたときの放射線エネルギ計測値の相対的な変動幅を求めた実施例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
〔放射線測定装置の全体構成〕
まず、本実施形態に係る放射線測定装置の全体構成を説明する。
図1は本実施形態に係る放射線測定装置の全体構成を示すブロック回路図、
図2及び
図3は本実施形態に係る放射線測定装置の計測部を示すブロック回路図である。
これらの図に示すように、本実施形態の放射線測定装置は、シンチレーション検出器10及び化合物半導体検出器20という2種類の放射線検出器を備えており、セレクタ30によっていずれか一方の放射線検出器10又は20からの測定データを選択する構成となっている。
これらの放射線検出器10、20は、入射してきた放射線のもつエネルギを検出し、当該エネルギに相当する波高のアナログ電気信号を出力する機能を有している。
【0020】
シンチレーション検出器10としては、例えばNaI(Tl)シンチレーション検出器などが好適である。NaI(Tl)シンチレーション検出器は、ヨウ化ナトリウム(NaI)の結晶(タリウム含む)を検出器として利用したもので、当該結晶に放射線が入射したときに発生する蛍光を光電子増倍管によって電気信号に変換し、増幅して出力する構成となっている。このシンチレーション検出器10は、γ線の検出に適しており、放射線のもつエネルギを検出し、当該エネルギに相当する波高のアナログ電気信号を出力する検出器として機能する。
【0021】
化合物半導体検出器20は、エネルギ分解能に優れており、放射線のもつエネルギを精密に測定できるという特徴をもつ。化合物半導体検出器20を構成する半導体としては、シリコン、ゲルマニウムなどの単一元素半導体と、CdTe(Cadmium Telluride、テルル化カドミウム)系、InSb(Indium Antimonide、アンチモン化インジウム)などの化合物半導体が知られている。本実施形態では、高エネルギ放射線の吸収効率が高く、またバンドギャップが大きいため室温での高抵抗化が可能なCdTe(Cadmium Telluride、テルル化カドミウム)系を用いた。CdTe系の化合物半導体検出器20は、光電効果を利用することによって、シンチレーション検出器10のように放射線を光に変換する必要がなく、しかも室温で動作する高感度の検出器である。この化合物半導体検出器20は、シンチレーション検出器10と同様に、主としてγ線の検出に適している。
【0022】
これらの各放射線検出器10、20は、高圧電源回路(HV回路)40から電力供給されて作動する。高圧電源回路40には、CWC(Cockcroft-Walton's high-voltage circuit コッククロフト・ウォルトン型高電圧回路)を用いている。CWCは、整流器とコンデンサを組み合わせた回路を多段に積み重ねた回路で、交流電圧から安定した直流高電圧を発生させることができる。
【0023】
次に、シンチレーション検出器10に放射線が入射すると、その放射線のもつエネルギに相当する波高のアナログ電気信号が出力される。このシンチレーション検出器10から出力されたアナログ電気信号は、積分アンプ(PreAMP)50により増幅して出力される。
積分アンプ50は、
図4(a)に示すように、オペアンプを利用した構成となっており、入力したアナログ電気信号の電荷は、コンデンサCfに蓄えられた後、抵抗Rfを介して徐々に放電されていく。
【0024】
図4(b)は積分アンプ50に入力されるアナログ電気信号の例を示しており、同図(c)(d)は積分アンプ50からの出力信号の例を示している。シンチレーション検出器10からは、入射した放射線のエネルギに相当する波高値をもった
図4(b)に示すようなアナログ電気信号が出力され、同信号が積分アンプ50に入力される。
積分アンプ50からは、放射線のエネルギに相当するピーク波高値V1、V2から徐々に波高値が減少していく三角波の電気信号が出力される(
図4(c))。
また、シンチレーション検出器10に立て続けに放射線が入射すると、同検出器10から短い間隔でアナログ電気信号が出力される。その場合、
図4(d)に示すように積分アンプ50からの出力信号は、例えばピーク波高値V1から徐々に波高値が減少していく三角波状の電気信号に対して、次に出力されたピーク波高値V2の三角波の電気信号が重なり合った鋸歯状波の状態で出力される。重なった電気信号のピーク波高値V2は、その交わった点を起点にして求めることができる。
【0025】
積分アンプ50からの出力信号は、セレクタ30を通して可変ゲインアンプ60でゲイン調整がなされて、
図3に示すA/Dコンバータ70へ送られる。可変ゲインアンプ60は、シンチレーション検出器10や後述する化合物半導体検出器20の感度調整(キャリブレーション)を実行するために設けてある。
【0026】
A/Dコンバータ70は、入力したアナログ電気信号をあらかじめ設定されたサンプリング間隔でデジタル変換する。A/Dコンバータ70のサンプリング間隔は、1μ秒以下とすることが好ましい。サンプリング間隔をこのような短時間に設定することで、化合物半導体検出器20の不感時間と同程度かそれよりも小さい間隔でアナログ電気信号を入力することができ、漏れのない高精度な信号変換が可能となる。
【0027】
また、積分アンプ50の時定数は、
図5に示すように、A/Dコンバータ70のサンプリング間隔Dよりも長い時間をかけて出力信号を放電するような値に設定してある。本実施形態では、A/Dコンバータ70のサンプリング間隔Dにおいて出力信号の波高値の減少が5%以内(好ましくは、2%以内)に抑えられる値に、積分アンプ50の時定数が設定してある。
このように設定することで、積分アンプ50からの出力信号のピーク波高値又はその近傍の波高値を、確実にA/Dコンバータ70でサンプリングすることができる。積分アンプ50からの出力信号のピーク波高値は、シンチレーション検出器10で検出した放射線のエネルギに相当する値であり、かかるピーク波高値か少なくともその近傍の波高値をサンプリング可能とすることで、高精度な放射線のエネルギを求めることができる。
【0028】
また、
図2に示すセレクタ30において化合物半導体検出器20が選択されると、セレクタ30は積分アンプ51からのアナログ電気信号を可変ゲインアンプ60に送る回路構成に変更する。
そして、化合物半導体検出器20に放射線が入射すると、その放射線のもつエネルギに相当する波高のアナログ電気信号が出力される。この化合物半導体検出器20から出力されたアナログ電気信号は、積分アンプ51により増幅される。積分アンプ51は、
図4(a)に示した積分アンプ50と同様の機能を有している。この積分アンプ51で増幅されたアナログ電気信号は、第2アンプ80でさらに増幅され、セレクタ30を経由して可変ゲインアンプ60でゲイン調整されて、
図3に示すA/Dコンバータ70へ送られる。A/Dコンバータ70は、既述したように、入力したアナログ電気信号をあらかじめ設定されたサンプリング間隔でデジタル変換する。
【0029】
A/Dコンバータ70でデジタル変換された信号は、中央処理部101へ送られる。
図6は中央処理部におけるデータ処理の流れを示すブロックダイアグラムである。
中央処理部101は、あらかじめメモリ102に保存されているデータ処理プログラムに基づき、マルチチャンネルアナライザ(MCA)として機能する。すなわち、中央処理部101は、A/Dコンバータ70でデジタル変換された信号(A/Dデータ)をスムージング処理した後(ステップS1)、その信号から放射線エネルギの波高値におけるボトム位置とトップ位置を検出する(ステップS2、S3)。
【0030】
図7は、放射線エネルギの波高値におけるボトム位置とピーク位置の検出手順を説明するための図である。
中央処理部101は、同図(a)に示すようなA/Dデータを微分処理して同図(b)に示すようなデータに変換する。微分処理された同図(b)のデータにおいて、A/Dデータの微分値が負から正に変わる点が波高値のボトム位置であり、また正から負に変わる点が波高値のトップ位置である。
同図(c)は微分処理されたデータの波高値付近を拡大して示している。本実施形態では、波高値のボトム位置を示す点の前後にある複数点(例えば3点)に着目し、複数点でA/Dデータの微分値が負で、続く複数点が正のときにその中間点はボトム位置であると判断している。この方式によれば、低エネルギの位置に現れる電気的ノイズと放射線エネルギに相当するピーク波高値とを高精度に区別することが可能となる。すなわち、電気的ノイズのときは、A/Dデータの微分値が負から正及び正から負へ変わる間隔が短いため、負から正に変わった後に正の値が複数点続くことはない。
さらに、A/Dデータがゼロの軸を若干正方向へオフセットすることで、電気的ノイズはA/Dデータの微分値が負から正に変わることが無くなるため、いっそう明確に電気的ノイズを除去することが可能となる。
【0031】
図6に戻り、中央処理部101は、検出したボトム位置とトップ位置から放射線エネルギに相当するピーク波高値を求め(ステップS4)、事前に求めておいた波高値とエネルギの換算係数を用いて波高値をエネルギに変換して(ステップS5)、
図8に示すようなヒストグラム(放射線スペクトル)を作成する(ステップS8)。なお、途中に温度補正に関する処理(ステップS6、S7)が実行されるが、これについては後述する。
【0032】
本実施形態では、
図3に示すように、上述したA/Dコンバータ70、中央処理部101及びメモリ102を含めた構成要素が、すべて1チップでできたマイクロコンピュータ(1チップマイコン)100によって構成されている。したがって、装置に組み込まれるハードウエアが少なく小形化が図られる。
【0033】
〔温度補正方法〕
上述した放射線測定装置は、温度補正に関する機能を備えている。次に、この温度補正に関する機能について説明する。
図9に示すように、シンチレーション検出器10の測定部11は、シンチレータ11aとフォトマル(光電子増倍管)11bで構成されており、シンチレータ11aに入射してきた放射線を光に変換し、フォトマル11bにより電気信号に変換し、増幅して出力する。この測定部11の内部温度が変化すると、その温度変化に伴い、シンチレーション検出器10で検出された放射線エネルギの出力値が大きく変動する。そのため、本実施形態の放射線測定装置には、温度補正に関する機能が組み込まれている。
【0034】
すなわち、
図9に示すように、シンチレーション検出器10の測定部11の周囲、具体的にはシンチレーション検出器10に組み込まれた回路基板12の外面に、温度センサとしてのサーミスタ13を設けてある。このサーミスタ13は、測定部11の周囲温度を検出して当該周囲温度を示す電気信号を出力する。サーミスタ13から出力された電気信号は、
図3に示すように、A/Dコンバータ90によってデジタル信号に変換され、中央処理部101に入力される。
【0035】
中央処理部101は、
図6に示すように、メモリ102に保存されたデータ処理プログラムにしたがい、サーミスタ13で検出した測定部11の周囲における温度の時間的変化に基づき、測定部11内の温度を推定するとともに(温度推定ステップ:S6)、推定した測定部11内の温度に基づき放射線エネルギの波高値を補正する(波高値補正ステップ:S7)。
【0036】
測定部11内の温度の推定は、測定部11内の熱伝導時間を考慮した時定数に関連する演算式をもって処理することができる。本実施形態では、次式(1)をもって、測定部11の温度を推定している。
【数1】
ここで、θP
i+1はi+1の温度測定時点における測定部11の推定温度、θS
iはi+1よりも前の測定時点におけるサーミスタ13による測定温度、θP
iは当該i+1よりも前の測定時点iにおける測定部11の推定温度、τは測定部11内の熱伝導時間を考慮した時定数、Δtはiからi+1までの時間間隔を示している。
【0037】
すなわち、測定部11内の温度の推定は、
図10に示すように、i+1よりも前の測定時点におけるサーミスタ13による測定温度θS
iと、同じくi+1よりも前の測定時点iにおける測定部11の推定温度θP
iとにより、i+1の測定時点における測定部11の推定温度θP
i+1を求める方法を採用している。
【0038】
温度補正ステップS7では推定温度θP
iより
図11の補正関数を用いて補正係数C
iを算出し、エネルギ校正ステップS5で算出されたエネルギEm
iに掛け算を行い、温度補正を行い正しいエネルギEt
iを求める。
【数2】
【0039】
なお、本方式では、逐次外部の温度から内部の温度を推定していくため、電源投入時に限り、初期状態として検出器内外の温度差が小さい(例えば、1℃以下)ことが前提である。初期状態として検出器内外の温度差が大きい場合は、例えば室内に30分程度放置して検出器内外の温度差が小さくなった後に、電源を投入することが好ましい。
【0040】
上述した演算式(2)において、エネルギを補正する係数C
iは、例えば次のように決定することができる。
まず、測定部11内の温度に対する放射線エネルギスペクトルのピーク位置(エネルギ)の変化、すなわち、温度特性を測定する。具体的には、安定状態における温度依存性を正確に測定するために、標準放射線源、例えばセシウム137と測定部11を恒温炉に閉じ込め、各測定温度において温度が安定してから、時定数τより充分長い間(例えば、約30分)、時定数τよりも充分に短い間隔(例えば、約60秒)で、スペクトルピークのエネルギを検出し、安定状態におけるエネルギの測定値の平均値を求める。また、温度安定状態を直接に判定する方法として、たとえばエネルギの連続10個の測定値の移動平均値を求め、連続する移動平均値が変化しない場合を安定状態とみなす方法が可能である。なお、エネルギの検出は、本実施形態のエネルギ測定を温度補正無し、すなわち補正係数=1.0の状態で行う。本実施形態では、測定温度範囲を−20℃から50℃としたが、システム仕様よりも広く測定することが好ましい。
【0041】
次に、安定状態の温度依存性の近似関数をフィッティングから求める。具体的には、温度依存性を、20℃のエネルギに対する比でグラフ化する。温度−20℃から50℃の複数温度で測定した結果の一例を
図12に示す。横軸は20℃との温度差(ΔT)、縦軸は各測定温度のエネルギと20℃のエネルギとの比、つまり、E
ΔT/E
20である。そして、多項式関数を用いて近似関数を求めることで、温度変化に対する放射線エネルギの温度特性(温度曲線)が得られる。なお、近似関数としては、多項式関数に限定されるものではない。
【0042】
温度差ΔTにおける補正係数C
ΔTは次の式(3)で定義されるため、
図11の縦軸は
図12の縦軸と逆数関係である。つまり、20℃との温度差に対して
図12の各点の逆数をプロットすれば
図11になる。
図11の各点の近似関数は求めたい補正関数である。
図11では多項式関数の近似曲線が示されたが、近似関数としては、多項式関数に限定されるものではない。
【数3】
【0043】
上述した演算式(1)において、測定部11内の熱伝導時間を考慮した時定数τは、例えば次のように決定することができる。
すなわち、測定部11における温度上昇時の時定数τと温度下降時の時定数τが異なると仮定して、測定部11内の温度を最小から最大、そして、最大から最小に変化させる。さらに、サーミスタ13の測定温度と測定部11内の温度の差がなくなるまで、最大温度と最小温度を充分長い時間保持する。このような条件下において、温度変化中のエネルギを測定する。エネルギの測定は、温度補正無しの状態で行う。なお、各測定点における測定中の温度変化は無視できるものと仮定する。そのために、測定時間中にカウント数が充分取れるように線源の強さと距離を定める。
時定数τは、次のように求める。測定部11内の温度は
図12を用いてエネルギから推定できるが、式(1)からわかるようにサーミスタ温度との関係は温度変化過程に依存するため、計算が複雑である。簡単な方法として、時定数τの仮定値から式1で測定部11内の温度を計算し、温度特性の近似関数から計算エネルギ値を求め、実測エネルギ値と比較する方法を紹介する。具体的に、ピークエネルギの測定値と計算値とのフィッティングが最適になるまで時定数τを置き換えて計算を繰り返す。最適化方法として最小二乗法で測定値と計算値の残差二乗和が最小になる時定数τを求める方法が可能である。
【0044】
図13は、時定数τを求める手順を示すフローチャートである。なお、温度が増加する場合と、温度が減少する場合を分けて当該手順を実行する。
まず、時定数τを設定し(ステップS10)、温度変化中の放射線エネルギを計算する(ステップS11)。次いで、計算値と測定値の差分(残差と呼ぶ)の二乗和を記憶して(ステップS12)、時定数τを増加させる(ステップS13)。ここで、温度変化中のエネルギに関する計算値と測定値の残差の二乗和の増減を調べ(ステップS14)、残差の二乗和が減少した場合はさらに時定数τを増加させる(ステップS13)。一方、残差の二乗和が増加した場合は時定数τを減少させる(ステップS15)。これらステップS13乃至S15を繰り返し、温度変化中のエネルギに関する計算値と測定値とがほぼ一致した時、すなわち残差の二乗和が、あらかじめ定めた一定値以下になった時の時定数τを用いる。
【0045】
図14は、上述した手法によって温度の上昇時及び下降時の時定数τを求めた実施例を示すグラフである。同図に示すとおり、時定数を448秒に設定したとき、温度の上昇時及び下降時のピーク位置の計算値と測定値がほぼ一致した。
【0046】
また、上述した演算式(1)において、測定部11の周囲温度を測定する時間間隔Δtは、上述した時定数τよりも十分に小さな時間間隔とすることが好ましい。そのような小さな温度変化ごとに逐次測定部11の温度を推定することで、温度の推定精度が高まり、いっそう高精度な温度補正が可能となる。
【0047】
〔実施例〕
シンチレーション検出器10の測定部11内の温度を−20℃から50℃の範囲で変化させたときの放射線エネルギの相対的な変動幅を求めた。
図15は、温度補正なしの場合と、現在の測定値による温度補正した場合と、本発明の温度補正をした場合とを比較したグラフである。
結果は、
図15に示すとおり、温度補正なしのときが+/−16.5%の変動幅、サーミスタ13で検出した温度により温度補正したときが+/−6.8%の変動幅であったのに対し、上述した本発明の実施形態により温度補正したときは+/−1.5%の変動幅であった。
ちなみに、サーミスタ13で検出した温度により温度補正した場合は、温度変化が速いほど誤差が増加した。
また、
図16は、温度補正なしの場合と、450秒前の測定値による温度補正をした場合と、本発明の温度補正をした場合とを比較したグラフである。すなわち、
図16では、遅延時定数450秒を考慮し、
図15のサーミスタで検出した温度の代わりに、450秒前に検出した温度で補正した結果を示している。
図16に示すとおり、450秒前に検出した温度で補正したときが+/−3.1%の変動幅であった。
【0048】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、シンチレーション検出器10に限らず、化合物半導体検出器20についても本発明の温度補正方法を適用することができる。また、放射線測定装置以外の測定装置、例えば、X線回折装置や蛍光X線分析装置等にも本発明の温度補正方法は適用することができる。