特許第5800478号(P5800478)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5800478
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】EUVL用途のための低熱膨張ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/06 20060101AFI20151008BHJP
   C03C 17/02 20060101ALI20151008BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
   C03C3/06
   C03C17/02 A
   C03C19/00 Z
【請求項の数】6
【外国語出願】
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-192019(P2010-192019)
(22)【出願日】2010年8月30日
(65)【公開番号】特開2011-63505(P2011-63505A)
(43)【公開日】2011年3月31日
【審査請求日】2013年8月8日
(31)【優先権主張番号】61/237,895
(32)【優先日】2009年8月28日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ケネス エドワード アーディナ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル アー ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】バーバラ エル ステインブルック
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03690855(US,A)
【文献】 特開平02−271935(JP,A)
【文献】 特開2007−182367(JP,A)
【文献】 特開2008−201665(JP,A)
【文献】 特開昭62−119137(JP,A)
【文献】 神谷寛一,作花済夫,“金属アルコキシドから作られたTiO2−SiO2ガラスの構造と性質”,日本化学会誌,日本,日本化学会,1981年10月,No.10,Page.1571-1576,ISSN:0369-4577
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/06
C03B 8/00 − 8/04
C03B 20/00
C03C 17/02 − 17/04
C03C 17/23 − 17/27
C03C 19/00
G03F 1/68
H01L 21/027
INTERGLAD
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
J−STAGE
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低膨張ガラスにおいて、
前面、背面および厚さを有する基礎ガラス材料であって、10質量%から20質量%のチタニアおよび80質量%から90質量%のシリカから実質的になる基礎ガラス材料、および
前記基礎ガラス材料の少なくとも前面に施された、チタニアおよびシリカから実質的になるガラス被覆材料であって、該ガラス被覆材料中のチタニアの総量が前記基礎ガラス材料中のチタニアの総量より少ないガラス被覆材料、
を有してなる低膨張ガラス。
【請求項2】
前記ガラス被覆材料中のチタニアの総量が5質量%から10質量%の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の低膨張ガラス。
【請求項3】
前記基礎ガラス材料が、ほぼ10℃から100℃の温度範囲において実質的にゼロである熱膨張係数を有することを特徴とする請求項1記載の低膨張ガラス。
【請求項4】
前記基礎ガラス材料が、20℃で±5ppb/Kの熱膨張係数、および10℃から80℃の温度範囲に亘り1ppb/K2未満の温度に対する熱膨張係数の勾配を有することを特徴とする請求項1記載の低膨張ガラス。
【請求項5】
前記ガラス被覆材料が、研磨され、0.005から0.30nm rmsの範囲の表面粗さを示すことを特徴とする請求項1記載の低膨張ガラス。
【請求項6】
前記ガラス被覆材料の厚さが前記基礎ガラス材料の厚さよりも小さいことを特徴とする請求項1記載の低膨張ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く、極紫外線リソグラフィー(EUVL)用途のための低熱膨張ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
光リソグラフィーシステムは、3つのパラメータ:プロセス関連因子k1、露光波長λ、および開口数NAの関数である、システム解像度RESを有する。以下の式(1)は、RES、k1、λおよびNAの間の関係を示している。
【数1】
【0003】
RESの値によって、そのシステムによりプリントできる最小特徴が決まる。RESの値が小さいほど、プリントできる特徴が小さくなる。RESは、NAに反比例し、k1およびλに正比例する。したがって、k1およびλの減少と、NAの増加の組合せを使用して、RESの値を減少させることができる。しかしながら、k1、λおよびNAは、プロセスと材料の制限のために、またλとNAの選択が、式(2)に示されるように、焦点深度(DOF)にも影響を与えるので、k1、λおよびNAは無限にまたはでたらめに変えることができない。
【数2】
【0004】
式(2)において、k2はプロセス関連因子である。一般に、大きなDOFが望ましく、これには、k2とλの増加およびNAの減少の組合せが必要であろう。これは、RESを減少させるための戦略とは反対である。
【0005】
これまで、露光波長λは、変化のための大半の機会を提供してきており、現行のリソグラフィーシステムは、248nmから193nmに、さらには157nmへと進んでいる。13nmの露光波長では、EUVLは、現行のリソグラフィーシステムからの大きな飛躍であり、現行のリソグラフィーシステムに可能なものよりも高い解像度と大きい焦点深度を提供する。EUVL器具は、100nm未満の特徴サイズのプリントに向けて適合されている。しかしながら、EUVL器具の商業化は簡単にいっていない。例えば、極紫外(EUV)線は、実質的に全ての公知の材料によって容易に吸収され、これにより、現行のリソグラフィーシステムに使用されている屈折光学素子をEUVLシステムに適応させることが不可能になる。屈折光学素子およびマスクは、EUVLシステムのために開発しなければならない。これらの屈折光学素子およびマスクは、典型的に、基体上に反射多層(ML)コーティングを備えている。反射多層は、高反射率材料と低反射率材料の交互の層、典型的には、MoとSiまたはMoとBeの交互の層からなる。
【0006】
EUV反射光学素子およびマスクのための基体材料は、プリント中のこれらの材料に膨張や波むらが生じると、特徴のプリントが歪み得るので、熱膨張係数(CTE)および表面粗さに関する厳しい要件を満たす必要がある。特に、反射イメージング光学素子およびマスクについて、基体が使用温度でほぼゼロのCTEを有することが重要である。低CTEを有するガラスまたはガラスセラミックが基体材料として一般に使用される。ショット社(Schott AG)により製造されるZERODUR(登録商標)ガラスセラミック、およびコーニング社(Corning Incorporated)により製造される超低膨張(ULE(登録商標))ガラスが、EUVL用途のための基体材料として認識されている。「ULE」ガラスは、チタニア(TiO2)含有量が5から10質量%の範囲にあるチタニア−ケイ酸塩ガラスである。コード7972の「ULE」ガラスは、5℃から35℃で0±30ppb/℃の平均CTEを有する。「ULE」ガラスは高度に研磨可能でもある。特許文献1(アルセリオ(Arserio)等)には、「ULE」ガラスを0.20nm rms未満の表面粗さ(high spatial frequency roughness)まで研磨する方法が記載されている。典型的に、0.005から0.30nm rmsの範囲にある表面粗さがEUVL用途にとって望ましい。
【0007】
CTEは温度により変化する。ある材料のゼロCTEクロスオーバーは、その材料のCTEが0ppb/℃である温度である。現在、EUVL団体は、20℃で0±5ppb/℃のCTEを有するガラス材料を望んでいる。コード7972の「ULE」ガラスは、20℃でゼロCTEクロスオーバーを有するので、この基準を満たしている。コード7972の「ULE」ガラスは、ほぼ0℃から40℃の温度範囲において安定な熱膨張も有し、このことは、現在の世代のEUVL用途にとってうまく働く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0132150A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
温度勾配が増加した、高出力エネルギー源を備えた次世代のEUVL用途に関しては、EUV材料の仕様はより厳しくなるであろう。これらの次世代のEUVL用途について、現行の「ULE」ガラスに可能なよりも広い温度範囲に亘り安定な熱膨張を有し、表面粗さ要件を満たすように研磨できる低熱膨張ガラスが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
それゆえ、本発明のある態様によれば、低熱膨張ガラスは、前面、背面および厚さを有する基礎ガラス材料、並びにこの基礎ガラス材料の少なくとも前面に施されたガラス被覆材料を備えている。この基礎ガラス材料は、10質量%から20質量%のチタニアおよび80質量%から90質量%のシリカから実質的になる。このガラス被覆材料もチタニアおよびシリカから実質的になる。しかしながら、ガラス被覆材料中のチタニアの総量は、基礎ガラス材料中のチタニアの総量よりも少ない。
【0011】
本発明の別の態様において、極紫外線リソグラフィー用途に適したシリカ−チタニアガラス素子は、12質量%から20質量%のチタニアおよび80質量%から88質量%のシリカからなり、−20℃から+100℃の温度範囲において実質的に0のΔL/Lの熱膨張係数を有する。
【0012】
本発明のこれらと他の態様を以下に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のある実施の形態による低熱膨張ガラスの断面図
図2】15質量%のチタニアを含有するシリカ−チタニアガラスセラミック、7.5質量%のチタニアを含有するシリカ−チタニアガラス、およびアルミノケイ酸リチウムガラスセラミックの膨張率曲線を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
ここで、本発明を、添付の図面を参照して詳しく説明する。この詳細な説明において、数字の特定の詳細は、本発明を完全に理解するために挙げたものである。しかしながら、本発明は、これらの特定の詳細のいくつかまたは全てを含まずに実施してもよいことが当業者には明らかであろう。他の例において、よく知られた特徴および/またはプロセス工程は、本発明を不必要に分かりにくくしないように、詳しく記載されていない。さらに、同様または同じ参照番号を用いて、共通のまたは同様の要素を特定してもよい。
【0015】
ある態様において、本発明は、現行と次世代のEUVL用途に使用するのに適したシリカ−チタニアガラス素子を提供する。別の態様において、本発明は、現行と次世代のEUVL用途における基体材料として使用するのに適した低熱膨張ガラスを提供する。その低熱膨張ガラスは、ステージ、ミラー、マスク、およびハウジングに使用できる。好ましい実施の形態において、シリカ−チタニアガラス素子および低熱膨張ガラスは、約−20℃から+100℃の使用温度範囲に亘り安定な熱膨張を有する。別の好ましい実施の形態において、シリカ−チタニアガラス素子および低熱膨張ガラスは、約−20℃から+150℃の使用温度範囲に亘り安定な熱膨張を有する。好ましい実施の形態において、安定な熱膨張は、所定の使用温度範囲に亘り実質的にゼロのCTEを含む。
【0016】
図1は、前面5、背面7、および厚さTを有する基礎ガラス材料3を含む低熱膨張ガラス1を示している。低熱膨張ガラス1は、基礎ガラス材料3の前面5に施されたガラス被覆材料9を含む。このガラス被覆材料9は、基礎ガラス材料3の背面7に施してもよい。このガラス被覆材料9は、高度に研磨可能なガラスから製造されている。好ましい実施の形態において、ガラス被覆材料9は、0.2nm rms未満の表面粗さまで研磨することができる。好ましい実施の形態において、ガラス被覆材料9は、研磨され、0.005から0.3nm rmsの範囲の表面粗さを示す。ガラス被覆材料9は厚さtを有するが、ガラス被覆材料9の厚さtは、使用温度範囲に亘り基礎ガラス材料3の熱安定性に著しく影響を与えるほど厚くはない。ガラス被覆材料9の厚さtは、基礎ガラス材料3の厚さTよりもずっと小さい。ガラス被覆材料の厚さは、典型的に、研磨後に、1μmから500μmの範囲にある。好ましい実施の形態において、ガラス被覆材料の厚さは、1μmから200μmの範囲にある。好ましい実施の形態において、ガラス被覆材料9はチタニア(TiO2)およびシリカ(SiO2)を実質的に含有し、このガラス中のTiO2の含有量は、0質量パーセント(質量%)より大きく、12質量%未満である。そのようなガラスの例が、コーニング社からの「ULE」ガラスとして得られる。好ましい実施の形態において、ガラス被覆材料9はチタニア(TiO2)およびシリカ(SiO2)を実質的に含有し、このガラス中のTiO2の含有量は5質量%から10質量%の範囲にある。別の好ましい実施の形態において、ガラス被覆材料はチタニア(TiO2)およびシリカ(SiO2)を実質的に含有し、このガラス中のTiO2の含有量は7質量%から9質量%の範囲にある。
【0017】
基礎ガラス材料3は、所定の温度範囲に亘り安定な熱膨張を有する。「安定な熱膨張」という用語は、そのガラスが所定の温度範囲に亘り実質的に一定のCTEを有することを意味する。この基礎ガラス材料3はチタニアおよびシリカを実質的に含有し、基礎ガラス材料3中のチタニアの量は少なくとも10質量%であり、残りは実質的にシリカである。好ましい実施の形態において、基礎ガラス材料3は、12質量%から20質量%のチタニアおよび80質量%から88質量%のシリカを含有するシリカ−チタニアガラスから実質的になる。別の好ましい実施の形態において、基礎ガラス材料3中のチタニアの総量は12質量%から17質量%の範囲にある。それゆえ、好ましい基礎ガラス材料3の必須成分は、基礎ガラス材料3のTiO2含有量がガラス被覆材料9のTiO2含有量よりも多くなるように選択されることを除いて、好ましいガラス被覆材料9のものと同じである。TiO2含有量はTiO2−SiO2ガラスの研磨性に影響を与えることが判明した。詳しくは、TiO2の含有量が12質量%から20質量%の範囲にあるTiO2−SiO2ガラスは、一般に、以下にさらに論じるように、TiO2の含有量が5質量%から10質量%の範囲にあるTiO2−SiO2ガラスよりも研磨するのが難しい。しかしながら、本発明のある態様において、基礎ガラス材料3上にガラス被覆材料9を施すことによって、所定の使用温度範囲に亘り安定な熱膨張を有する研磨可能なまたは研磨された低熱膨張ガラスが得られ、このとき、研磨は、基礎ガラス材料3ではなくガラス被覆材料9に行われる。以下にさらに記載されるように、本発明の別の態様において、未被覆の基礎TiO2−SiO2ガラスがガラス中のチタニアの構造に関する特定の基準を満たすという条件で、高TiO2含有量、例えば、12質量%から20質量%のTiO2を有する未被覆のTiO2−SiO2ガラスをEUVL用途に適したレベルまで研磨することも可能であろう。
【0018】
米国特許第3690855号(シュルツ(Schultz))明細書には、TiO2およびSiO2を実質的に含有する二成分ガラスが開示されており、そのTiO2含有量はほぼ12質量%から20質量%の範囲にある。シュルツは、TiO2およびSiO2から実質的になり、TiO2含有量がほぼ12質量%から20質量%の範囲にある二成分ガラスは、−200℃から+700℃の範囲に亘り、アニールされていない状態で負のCTEを有すると開示している。シュルツはさらに、アニールされていない状態で負のCTEを有するガラスは、700℃とガラスの軟化点の間の温度で熱処理することによってアニールして、−200℃から+700℃の温度範囲内のガラスのCTEを増加させられることを開示している。このことは、12質量%から20質量%のTiO2を有するTiO2−SiO2ガラスをアニールして、−200℃から+700℃の温度範囲内でゼロのCTEを達成できることを意味する。シュルツは、900℃での熱処理後に、−200℃から+500℃の完全に測定した範囲に亘り実質的にゼロのCTEを示した、15質量%のTiO2および85質量%のSiO2を含有するTiO2−SiO2ガラスを開示している。図2は、アニーリング後の、15質量%のTiO2および85質量%のSiO2を含有するTiO2−SiO2ガラスに関する膨張率曲線を示している。
【0019】
1つ以上の実施の形態において、図1の基礎ガラス材料3は、上述したように適切なTiO2含有量のTiO2−SiO2ガラスを調製することによって製造される。このTiO2−SiO2ガラスは、熱処理によりアニールされて、−200℃から+700℃の範囲内で所望のCTEを達成する。好ましい実施の形態において、基礎ガラス材料3はほぼ10℃から100℃の範囲内で実質的にゼロのCTEを有する。別の好ましい実施の形態において、基礎ガラス材料3はほぼ−20℃から100℃の範囲内で実質的にゼロのCTEを有する。「実質的にゼロのCTE」は典型的に、0±5ppb/Kを意味する。別の好ましい実施の形態において、基礎ガラス材料3は、20℃で0±5ppb/KのCTE、および10℃から80℃の温度範囲に亘り1ppb/K2未満の温度に対する熱膨張係数の勾配を有する。しかしながら、ゼロCTEに関する先に特定した温度範囲は、基礎ガラス材料3が、より広い温度範囲に亘りゼロCTEを有することを除外するものではない。一般に、基礎ガラス材料3は、−200℃から+700℃の範囲内の温度範囲に亘りゼロCTEを有していてよい。
【0020】
アニーリング前に、基礎ガラス材料3のTiO2−SiO2ガラスは、当該技術分野において高品質ガラスを調製するための任意の公知の方法、例えば、火炎加水分解法、気相成長法、またはゾル−ゲル法を使用して調製することができる。ガラス被覆材料9は、薄膜として、基礎ガラス材料3の前面5および必要に応じて背面7に施される。ガラス被覆材料9は、所望のCTEを達成するためのTiO2−SiO2ガラスの熱処理の前または後に基礎ガラス材料3に施して差し支えない。ガラス被覆材料9は、製造の第2工程において、ゾル−ゲル法または気相成長法などの技法によって、TiO2−SiO2ガラス、またはガラスセラミックに施してよい。あるいは、ガラス被覆材料9は、フューム流の組成を変えることにより、すなわち、TiO2−SiO2ガラスも気相成長法または火炎加水分解法により製造されている場合、一工程製造法において気相成長法または火炎加水分解法により施してもよい。あるいは、ガラス被覆材料9は、光学接着、低温融着、およびフリット接合などの様々な接合技法により、基礎ガラス材料3に接合しても差し支えない。
【0021】
早くから、TiO2の含有量はTiO2−SiO2ガラスの研磨性に影響を与えると述べられていた。特に、チタニア含有量が12質量%から20質量%のTiO2−SiO2ガラスは、小さい表面粗さまで研磨するのが難しいことが分かっている。どの特定の理論にも拘束するものではないが、12質量%から20質量%のチタニアを有するTiO2−SiO2ガラスにおいて、TiO2−SiO2ガラスの形成中に、またはガラスに行われた任意の熱処理の結果として、チタニアの少なくとも一部は6配位状態にあるのに対し、12質量%未満、特に10質量%未満の濃度では、チタニアは4配位状態にあり、この状態を維持する傾向にあると考えられる。その結果、TiO2−SiO2ガラスの固結中に、6配位のチタニアは、ガラス中に完全には組み込まれず、もしくはガラス構造中に不連続性または小さな結晶の形成(チタニアの含有量が約17質量%を超えたときに観察される)を生じ、TiO2−SiO2ガラスが研磨されるときに、研磨表面にその不連続性または結晶が存在するために、ガラスの粗さが増してしまう。その結果、チタニア含有量が12質量%から20質量%のTiO2−SiO2ガラスは、チタニア含有量が12質量%未満のTiO2−SiO2ガラスほどは、ミラーなどの特定のEUV光学素子にはうまく適していない。しかしながら、あるEUVL用途において遭遇する高温に対して安定であることなどの、12質量%から20質量%のTiO2−SiO2ガラスの他の性質のために、5〜10質量%のTiO2−SiO2ガラスよりも、これらの用途のより望ましい材料となる。上述したように、12質量%から20質量%のTiO2−SiO2ガラスの研磨性は、研磨前に、そのガラスの表面に12質量%未満のチタニアを有するTiO2−SiO2の被覆を配置することによって、そのガラスがEUVL用途に適している点まで改善することができる。ある実施の形態において、被覆ガラスのチタニア含有量は5質量%から10質量%の範囲にある。この被覆ガラスは、研磨されたときに、12〜20質量%のTiO2−SiO2ガラスのベース上に5〜10質量%のTiO2−SiO2ガラスの被覆を有する部材が、より小さい表面粗さを有する被覆部材のおかげでEUVL用途に適するように、12質量%から20質量%のTiO2−SiO2ガラスの粗さを滑らかにする。このことは、反射光学素子のためのミラーの場合に特に重要である。
【0022】
図2は、15質量%のTiO2および85質量%のSiO2を有する、米国特許第3390855号のTiO2−SiO2ガラスの膨張率を示している。図2はさらに、コーニング社から得られる7.5質量%の「ULE」ガラス(公称7.5質量%のTiO2、92.5質量%のSiO2)、およびオハイオ州、トリード所在のオーウェンス・イリノイス社(Owens-Illinois)から得られるCER−VIT(登録商標)ガラスセラミック(アルミノケイ酸リチウム)の膨張率を示している。「CER−VIT」ガラスセラミックおよび7.5質量%TiO2の「ULE」ガラスの両方について、実質的に「平らな」膨張率範囲は約−50℃から約+90℃までである。15質量%TiO2ガラスを、12質量%未満のチタニア、ある実施の形態においては10質量%未満のチタニアを含有するTiO2−SiO2ガラスで被覆すると、表面に被覆を備えた基礎ガラスからなる基体が提供される。被覆表面は要求される粗さ値まで研磨することができ、研磨された基体は、高度なEUVシステム用途に要求される熱安定性を有する。基礎ガラス材料に施されたガラス被覆材料は、研磨済み低熱膨張ガラスを達成するように研磨することができる。ガラス被覆材料は、所望の表面粗さ、例えば、10nm未満の山から谷までのうねり(mid spatial frequency roughness)および0.005から0.30nm rmsの範囲にある表面粗さまで研磨してもよい。ガラス被覆材料は、例えば、米国特許出願公開第2008/0132150A1号(アルセリオ(Arserio)等)明細書に記載されているように、研磨用スラリーを使用して研磨してもよい。
【0023】
ある実施の形態において、未被覆の12質量%から20質量%のTiO2−SiO2ガラスは、0.2nm rms未満の表面粗さを有するように研磨することができる。これらの実施の形態において、特にガラスが、10nm未満の山から谷までのうねりおよび0.005から0.30nm rmsの範囲の表面粗さまで研磨できる場合、基礎ガラス上に10質量%未満のTiO2を含有するTiO2−SiO2ガラスの被覆の施用は随意的である。この研磨された未被覆ガラスは、約−20℃から約+100℃の温度範囲に亘り安定な熱膨張を提供する。どのような特定の理論にも拘束するものではないが、12質量%から20質量%のTiO2−SiO2ガラス自体は、6配位のTiO2の形成が最小またはゼロであるように、ガラスの形成中にTiO2−SiO2スートが堆積されたときに、0.2nm rms未満の表面粗さまで研磨できる。すなわち、シリカ−チタニアガラス中のTiO2の全てまたは実質的に全てが4配位TiO2である。
【0024】
本発明を限られた数の実施の形態に関して記載してきたが、この開示の恩恵を受けた当業者には、ここに開示された本発明の範囲から逸脱しない他の実施の形態が考えられることが認識されよう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲のみによって制限ものとする。
【符号の説明】
【0025】
1 低熱膨張ガラス
3 基礎ガラス材料
5 前面
7 背面
9 ガラス被覆材料
図1
図2