特許第5800797号(P5800797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5800797-細胞濃縮・回収方法及び細胞回収液 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5800797
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】細胞濃縮・回収方法及び細胞回収液
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20151008BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20151008BHJP
   C12M 3/06 20060101ALI20151008BHJP
   C12M 1/12 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
   C12N5/00 202H
   C12N5/00 202Z
   C12M3/06
   C12M1/12
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-504334(P2012-504334)
(86)(22)【出願日】2011年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2011001385
(87)【国際公開番号】WO2011111386
(87)【国際公開日】20110915
【審査請求日】2014年1月21日
(31)【優先権主張番号】特願2010-54673(P2010-54673)
(32)【優先日】2010年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】林 真司
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 武雄
(72)【発明者】
【氏名】中谷 勝
(72)【発明者】
【氏名】市村 昌紀
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/035737(WO,A1)
【文献】 特開2009−284860(JP,A)
【文献】 特開2008−086235(JP,A)
【文献】 特開2007−289076(JP,A)
【文献】 特開2003−304865(JP,A)
【文献】 特開2000−217887(JP,A)
【文献】 Tissue Engineering Part C: Methods,2010年 2月,Vol. 16, No. 1,p. 81-91
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12M 1/00
C12M 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CiNii
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞をフィルターに捕捉する工程、フィルターに捕捉した細胞を30%以上の血清を含む生理的溶液を導入して回収する工程を含む細胞濃縮・回収方法。
【請求項2】
フィルターが、ポリエステル、レーヨン、ポリプロピレン、ポリオレフィン等の少なくとも1種より選択される合成高分子よりなる請求項1記載の細胞濃縮・回収方法。
【請求項3】
フィルターが、ポリエステルおよびポリプロピレン、またはレーヨンおよびポリオレフィン、またはポリエステルおよびレーヨン等の合成高分子の組み合わせからなる請求項1記載の細胞濃縮・回収方法。
【請求項4】
フィルターが、不織布である請求項1〜3のいずれかに記載の細胞濃縮・回収方法。
【請求項5】
細胞が培養細胞である請求項1〜4のいずれかに記載の細胞濃縮・回収方法。
【請求項6】
培養細胞が、コロニー形成細胞である請求項5記載の細胞濃縮・回収方法。
【請求項7】
コロニー形成細胞が接着性細胞である請求項6記載の細胞濃縮・回収方法。
【請求項8】
接着性細胞が間葉系幹細胞である請求項7記載の細胞濃縮・回収方法。
【請求項9】
細胞が、酵素処理で調製したものである請求項5〜8のいずれかに記載の細胞濃縮・回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を高い効率で濃縮・回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、患者本人または提供者の体液や組織から細胞を採取し、それらを培養することにより増幅・加工して患部へ移植する治療、いわゆる再生医療・細胞医療が注目を集めている。既に、皮膚、骨、軟骨、角膜等の臓器では一部の疾患においてその安全性と有効性が示されており、患者に有益な治療方法として、普及が待望されている(非特許文献1)。
【0003】
再生医療・細胞医療においては、採取した体液や組織から治療に有効な細胞を得るために、遠心分離を利用した方法や採取した細胞を培養・増幅する方法が実施されている。培養は移植に必要な細胞量が得られるまで、繰り返し行われる場合もある。患者へ移植、又は繰り返し培養する細胞からは、自己由来以外の血清や、成長因子等の培養液由来の物質、細胞由来のデブリス、および老廃物等を分離する必要があり、本目的のために遠心分離による培養細胞の洗浄及び回収が実施されている。
【0004】
間葉系幹細胞に代表される接着性細胞においては、細胞培養液からの培養細胞の回収の際に、酵素、キレート剤等で処理することにより培養細胞を細胞培養器から剥離する必要がある。接着性細胞の移植又は繰り返し細胞培養をするにあたっては、当然のことながら、これら酵素、キレート剤等を培養細胞より分離、除去する必要がある。
【0005】
前述した遠心分離による培養細胞からの酵素等の分離において、閉鎖系での分離操作が容易でないことにより、一部の操作が開放系で行われ、細胞洗浄工程におけるコンタミネーションのリスクが指摘されていた。しかしながら、再生医療・細胞医療が一般的な医療として普及・発展するためには、細胞の分離洗浄操作の非開放系での処理が必須と考えられるが、これまでの検討では以下のように細胞回収率が低いものでしかなかった。
【0006】
特許文献1では臍帯血中に含まれる間葉系幹細胞をフィルターに捕捉し、臍帯血を通液した方向と逆方向に高粘度の溶液(デキストラン40注)18mLと空気10mLを通液することにより間葉系幹細胞を回収しようとしているが、間葉系幹細胞の細胞回収率は60%程度と低く、さらなる改善が求められた。特許文献2では培養間葉系細胞をフィルターに捕捉・洗浄後、細胞培養液を通液した方向と逆方向にαMEM培地(血清を含まない)を通液することにより培養細胞を洗浄、回収する方法が提案されているが、細胞培養液からの間葉系細胞回収率が70%程度と改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−16352
【特許文献2】特開2008−86235
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Robert P. Lanza: 再生医学 ティッシュエンジニアリングの基礎から最先端技術まで(2002年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高い収率で細胞を洗浄、回収する方法、及び該方法に使用する回収液、該方法によって回収された細胞組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来技術の有する問題点を解決すべく鋭意検討した結果、高濃度の血清を含む生理的溶液で回収を行うと、100%近い回収率でフィルターに捕捉した細胞を回収できるという血清固有の驚くべき性質を見出し、本発明を完成させたものである。即ち、本発明は、細胞を含む細胞培養液の中から、高い収率で細胞を洗浄、回収する方法、及び該方法に使用する回収液、該方法によって回収された細胞組成物を見出した点にある。よって、本発明が提供するのは以下の通りである:
〔1〕細胞をフィルターに捕捉する工程、フィルターに捕捉した細胞を30(v/v)%以上の血清を含む生理的溶液を導入して回収する工程を含む細胞濃縮・回収方法。
〔2〕〔1〕のフィルターが、ポリエステル、レーヨン、ポリプロピレン、ポリオレフィン等の少なくとも1種より選択される合成高分子よりなる細胞濃縮・回収方法。
〔3〕〔1〕のフィルターが、ポリエステルおよびポリプロピレン、またはレーヨンおよびポリオレフィン、またはポリエステルおよびレーヨン等の合成高分子の組み合わせからなる細胞濃縮・回収方法。
〔4〕〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のフィルターが、不織布である細胞濃縮・回収方法。
〔5〕〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の細胞が培養細胞である細胞濃縮・回収方法。
〔6〕〔5〕に記載の培養細胞が、コロニー形成細胞である細胞濃縮・回収方法。
〔7〕〔6〕のコロニー形成細胞が接着性細胞である細胞濃縮・回収方法。
〔8〕〔7〕の接着性細胞が間葉系幹細胞である細胞濃縮・回収方法。
〔9〕〔5〕〜〔8〕のいずれかに記載の細胞が、酵素処理で調製したものである細胞濃縮・回収方法。
〔10〕〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の方法によって回収された組成物。
【発明の効果】
【0011】
回収液として高濃度の血清を用いることで高い収率で細胞を回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】血清濃度と細胞回収率の関係
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における細胞とは、動物の体液や組織から採取した細胞、人工的に癌化させた株化細胞、さらにはこれら細胞を生体外で培養したもの等を指すが、好ましくはヒトの体液や組織から採取した細胞またはその細胞を培養したもの、より好ましくはヒトの骨髄液、血液(末梢血、G−CSF動員末梢血等を含む)、臍帯血液、月経血液、脂肪組織等から採取した細胞またはその細胞を培養したものを指す。
【0014】
中でもヒトの骨髄液、血液、臍帯血液、月経血液、脂肪組織等から採取し、培養したコロニー形成細胞が好ましく、接着性のコロニー形成細胞がより好ましい。
【0015】
コロニー形成細胞とは、生体外で任意条件の下培養すると、コロニーを形成する細胞を指し、例えば、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞、間葉系幹細胞、脂肪由来幹細胞、ES細胞、iPS細胞等が挙げられる。接着性のコロニー形成細胞とは、該細胞が増殖していく際に、任意の足場に接着して増殖していく細胞を指し、例えば、血管内皮前駆細胞、間葉系幹細胞、脂肪由来幹細胞、ES細胞、iPS細胞等が挙げられる。
【0016】
なかでも、本発明で濃縮及び/又は回収する細胞としては、間葉系幹細胞、脂肪由来幹細胞、iPS細胞が好ましく、間葉系幹細胞がより好ましい。
【0017】
本発明における酵素処理とはトリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼ等のタンパク質分解酵素の処理によって細胞を剥離させる処理をいう。
【0018】
本発明における組成物とは、細胞が液体中に懸濁されている任意の濃度の血清を含む水性液体を意味する。
【0019】
培養細胞が非接着性である場合、培養中の細胞培養液そのままであっても良く、ピペッティングを行った後の細胞培養液であっても良い。
【0020】
培養細胞が接着性である場合、ピペッティングやセルスクレイパー等、細胞を物理的に剥離させた後の培養液であっても良く、EDTA、クエン酸等のキレート剤等の処理によって細胞を剥離させた後の培養液であっても良い。
【0021】
本発明におけるフィルターとは、培養細胞を捕捉し、不必要な夾雑物を通過させるものを指す。
【0022】
ここでいう夾雑物とは、細胞培養液に含まれる目的細胞以外の微粒子、例えば、細胞の分解物、細胞由来の分泌物、培地成分、培養操作中に混入する微細混入物、酵素、キレート剤、さらには目的細胞以外の細胞、例えば、赤血球、血小板、リンパ球等が挙げられる。
【0023】
フィルターの材質は、ポリエステル、レーヨン、ポリオレフィン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、塩化ビニル等の少なくとも1種より選択される合成高分子やヒドロキシアパタイト、ガラス、アルミナ、チタニア等の無機材料、ステンレス、チタン、アルミニウム等の金属が挙げられる。
【0024】
2種以上の合成高分子を組み合わせる場合は、その組み合わせに特に限定はないが、ポリオレフィン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ナイロン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、塩化ビニル等の合成高分子、ヒドロキシアパタイト、ガラス、アルミナ、チタニア等の無機材料、ステンレス、チタン、アルミニウム等からなる組み合わせが挙げられる。
【0025】
2種類以上の合成高分子を組み合わせる場合の繊維の形態としては、1本の繊維が異成分同士の合成高分子よりなる繊維、あるいは異成分同士が剥離分割した分割繊維でもよい。また、成分の異なる合成高分子単独よりなる繊維をそれぞれ複合化した形態でもよい。ここでいう複合化とは、特に限定はないが2種類以上の繊維が混在した状態より構成される形態、あるいは合成高分子単独よりなる形態をそれぞれ貼り合わせたもの等が挙げられる。
【0026】
中でも、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステルが好ましい。
【0027】
またフィルターの形状は、不織布、繊維の集合体、織物等が挙げられ、中でも不織布が好ましい。
【0028】
フィルターの繊維径は、目的細胞の回収率から、1〜40μmが好ましい。1μmより細いと細胞とフィルターの相互作用が強くなり回収率が低くなる。また40μmより太いと有効接触面積の低下やショートパスが起こりやすくなり、培養細胞の回収率の低下につながる。培養細胞とフィルターとの相互作用を上げ、収率を上げるためには、3〜30μmがより好ましい。さらに好ましくは5〜25μm、最も好ましくは10〜20μmである。
【0029】
フィルターの充填密度は、目的細胞の回収率から0.1〜0.8g/cmが好ましい。0.1g/cmよりも小さいと有効接触面積の低下やショートパスが起こりやすくなり、培養細胞の回収率の低下につながる。また0.8g/cmよりも大きいと細胞が強固に捕捉されてしまい、回収困難になる可能性がある。
【0030】
ここでいうフィルターの充填密度とはハウジング内に詰め込んだフィルター重量をハウジング内のフィルター設置部分の体積で除した値を表す。
【0031】
フィルターの使用形態は、球、コンテナ、カセット、バッグ、チューブ、カラム等、任意の形態をとりうるが、好ましい具体例としては、例えば、容量約0.1〜1000mL程度、直径約0.1〜15cm程度の透明または半透明の円柱状容器、あるいは一片の長さ0.1〜20cm程度の正方形あるいは長方形で、厚みが0.1〜5cm程度の四角柱状の形態等が挙げられる。
【0032】
また、フィルターは適切な大きさに切断した平板状で体液を処理してもよいし、またロール状に巻いた形状で体液の処理を行ってもよい。ロール状で使用する場合、該ロールの内側から外側に向け体液を処理することにより、必要細胞の捕捉を行ってもよいし、あるいはこの逆に、ロールの外側から内側に体液を流入させ、目的細胞の捕捉を行ってもよい。
【0033】
細胞培養液のフィルターへの通液は、細胞培養液をプールしたバッグ等から自然落下で通液してもよいし、細胞培養液を入れたシリンジを直接該フィルターが収納された容器に接続し、手でシリンジのプランジャーを押して体液を注入してもよい。またポンプ等を使用して送液してもよい。
【0034】
またこの際の通液速度は、特に限定されないが、フィルターの厚さに対する細胞培養液の通過速度(線速)で表した時、0.1〜1000mm/minの範囲にあることが好ましい。線速が0.1mm/minより低いと処理時間が長期化し、1000mm/minより高いと細胞培養液の流水圧により必要なコロニー形成細胞がフィルターに捕捉されにくくなる。より好ましい線速は、0.3〜500mm/minであり、さらにより好ましくは0.5〜250mm/minである。
【0035】
フィルターの洗浄は、例えば、細胞培養液を流した方向と同方向から洗浄液を流すことによって、フィルター中に溜まっている不要夾雑物をフィルターから通過させることが出来る。
【0036】
ここで用いられる洗浄液は、細胞に対して負の影響を与えない液体であれば特に限定されないが、具体例としては、生理食塩液等注射用剤として使用実績のあるものや、リン酸緩衝液等の緩衝液、αMEM培地やDMEM培地等、細胞培養用の培地等が挙げられる。医療用途に用いられている実績があることから、生理食塩水を用いることが好ましい。
【0037】
この際の洗浄液を通液する速度は、特に限定されないが、フィルターの厚さに対する洗浄液の通過速度(線速)で表した時、0.1〜1000mm/minの範囲にあることが好ましい。線速が0.1mm/minより低いと処理時間が長期化し、1000mm/minより高いと洗浄液の流水圧により必要なコロニー形成細胞がフィルターから剥離しやすくなり、回収率の低下につながる恐れがある。より好ましい線速は、0.3〜500mm/minであり、さらにより好ましくは0.5〜250mm/minである。
【0038】
洗浄液量はフィルター容積により異なるが、該フィルター容積の約1〜100倍程度の体積で洗浄することが望ましく、治療用として人体に投与することを前提とした場合、夾雑物を極力除くために10〜100倍程度の体積で洗浄することが望ましい。
【0039】
フィルターに捕捉された細胞の回収は、細胞培養液を流した方向とは逆方向から回収液を流すことにより、効率よく回収することができる。
また、回収液はフィルター内に0〜10分程度静置し、その後0.01〜20mL/sec程度で注入しても良い。
【0040】
本発明では、回収液として、一定濃度以上の血清を含有する液体を使用する。血清を高濃度で含有させることにより、粘度として同程度であるデキストラン糖注を回収液として用いた場合に比して、高い細胞回収率を達成することができる。
【0041】
回収液に含まれる血清の濃度としては、体積濃度(v/v)(%)で表した時、通常30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは75%以上である。上限は特に制限されず、100%、即ち、希釈なしの血清も好適に使用できる。
血清濃度が30%未満の場合、回収率の低下が見られる。
【0042】
血清は培養に使用される血清ならヒトに限定されるものではなくウシ、ウマ、イヌ由来の血清等が使用される。
【0043】
また、血清を希釈する液体としては、細胞に対して負の影響を与えない液体であれば特に限定されないが、具体例としては、生理食塩液等注射用剤として使用実績のあるものや、リン酸緩衝液等の緩衝液、αMEM培地やDMEM培地等、細胞培養用の培地等が挙げられる。医療用途に用いられている実績があることから、生理食塩水を用いることが好ましい。
【0044】
使用する回収液量は、フィルター容量にもよるが、フィルター容積の通常1〜10倍量、好ましくは3〜7倍量である。回収液を通液する速度としては、通常0.01〜20mL/sec、好ましくは、17〜25mL/secである。回収液の通液は、例えば、回収液をシリンジに入れ、手でシリンジのプランジャーを勢いよく押す等の方法により行うことができる。また、まずフィルター容積の1〜3倍量程度の回収液を通液(注入)した後、フィルターを含むハウジング内が回収液で満たされた状態で一定時間静置し、その後、さらにフィルター容積の2〜10倍量、好ましくは3〜7倍量の回収液を通液することにより、回収率をより高めることもできる。静置時間は特に限定されないが、作業性(細胞の濃縮・回収に要する所要時間)も考慮して、通常30sec〜60minである。
【0045】
回収後の細胞は、継代培養として培養基材に播種しても良いが、特に同種生物の血清を用いた場合等は、治療用の注入細胞画分としてそのまま使用することもできる。
【0046】
本発明におけるフィルターは、単独で使用しても良く、自動培養装置において調製された細胞培養液を処理しても良く、自動培養装置と組み合わせて処理しても良い。
【0047】
ここでいう自動培養装置とは、通常は手作業によっておこなう細胞培養操作の全部または一部を、機械または器具で代替することにより自動または半自動的に行うことを可能とした装置のことを指す。
【0048】
ここでいう細胞培養操作とは、例えば培地の交換や細胞回収の操作等が挙げられる。好ましい具体例としては、Aastrom Replicell System(Aastrom Bioscience社製)、また、特開2004−344128、特開2004−89095、特開2001−275659により開示されている培養装置等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
また、自動培養装置とフィルターとを組み合わせる場合、外気と閉鎖された系で組み合わせることが好ましく、コンタミネーションのリスクを軽減させるために完全閉鎖系で一連の工程を行えることが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の実施例における回収液調製時の溶液混合比は、特に記載がない限り体積比を示す。
【0051】
(実施例1)100%血清で回収
ポリエステル製不織布(繊維径10〜20μm、目付け60g/m、厚さ0.3mm平均孔径30〜40μm)を内径18mm、高さ6mm、内容積1.53cmのハウジング内に33枚充填(充填密度0.33g/cm)したカラムを作製した。
【0052】
次に、コンフルエントになるまで培養したブタ骨髄液由来間葉系幹細胞を培養中の組織培養シャーレ(IWAKI製150mmシャーレ)からαMEM培地を除去し、生理食塩水でシャーレ内をリンスした。リンス液を除去したシャーレにTrypLE Select(GIBCO社製)を3mL加え、37℃、10分間静置することで、細胞を剥離した。さらに培地を6mL加え、遠心分離後、血球計算盤にて細胞数を測定し、2×10個の細胞を50mLの10%血清入りαMEM培地に懸濁した。
【0053】
この細胞懸濁液を、先ほどのカラムに5mL/min(線速8mm/min)の速度で通液し、細胞を捕捉した。ここでカラムを通過した液体中に細胞は存在しなかった。
【0054】
次に、細胞培養液を通液した方向と同一方向に、生理食塩水を2.5mL/minの流速で(線速0.8mm/min)で20mL通液し、カラムを洗浄した。ここでカラムを通過した液体中に細胞は存在しなかった。
【0055】
次に、細胞培養液を通液した方向と逆方向に10mLの100%ウシ由来血清を3〜5mL/secでカラム内に流すことにより、カラムに捕捉された細胞を回収した。回収された液体中の細胞濃度を血球計算盤にて測定し、以下の計算式によって細胞回収率、細胞濃縮率を算出した。
【0056】
細胞回収率、細胞濃縮率は以下の式により計算した。
細胞回収率(%)=(回収液中の細胞濃度×回収液量)×100/2×10
細胞濃縮率(倍)=50mL×100/(回収液量)
この際の細胞回収率は100%、細胞濃縮率は4.5倍であった。
【0057】
(実施例2)75%血清で回収
回収液として75%ウシ由来血清10mLを使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。回収液の調製は100%血清と生理食塩水を1:3の比で混合して調製した。その際の細胞回収率は90%、細胞濃縮率は4.6倍であった。
【0058】
(実施例3)50%血清で回収
回収液として50%ウシ由来血清10mLを使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。回収液の調製は100%血清と生理食塩水(大塚製薬)を1:1の比で混合して調製した。その際の細胞回収率は86%、細胞濃縮率は4.8倍であった。
【0059】
(実施例4)30%血清で回収
回収液として30%ウシ由来血清10mLを使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。回収液の調製は100%血清と生理食塩水(大塚製薬)を3:7の比で混合して調製した。その際の細胞回収率は83%、細胞濃縮率は5.0倍であった。
【0060】
(比較例1)25%血清で回収
回収液として25%ウシ由来血清10mLを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。回収液の調製は100%血清と生理食塩水を3:1の比で混合して調製した。の際の細胞回収率は61%、細胞濃縮率は4.4倍であった。
【0061】
(比較例2)20%デキストラン糖注で回収
回収液として低分子デキストラン糖注(大塚製薬)と生理食塩水を1:4で混合した回収液10mLを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。その際の細胞回収率は63%、細胞濃縮率は4.4倍であった。
【0062】
(比較例3)4%デキストラン糖注で回収
回収液として低分子デキストラン糖注(大塚製薬)と生理食塩水を1:24で混合した回収液10mLを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。その際の細胞回収率は44%、細胞濃縮率は4.2倍であった。
【0063】
(比較例4)生理食塩水で回収
回収液として生理食塩水(大塚製薬)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。その際の細胞回収率は51%、細胞濃縮率は4.4倍であった。
【0064】
(比較例5)アルブミン溶液で回収
回収液としてアルブミン溶液10mLを使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。回収液の調製は20g/dLのアルブミン製剤と生理食塩水(大塚製薬)を1:4の比で混合して調製した。その際の細胞回収率は88%、細胞濃縮率は5.0倍であった。
【0065】
(実施例5)血清をフィルター内に静置後、100%血清で回収
細胞の回収を下記ように行った以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0066】
カラム内に細胞培養液を通液下方向と逆方向から3mLの100%ウシ由来血清を1.2mL/minの速度で通液後、10分間静置した。最後に細胞培養液を通液した方向と逆方向に10mLの100%ウシ由来血清を3〜5mL/secでカラム内に流すことにより、カラムに捕捉された細胞を回収した。この際の細胞回収率は95%、細胞濃縮率は4.0倍であった。
【0067】
以上の結果を、表1に示す。
【0068】
【表1】
図1