特許第5800812号(P5800812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5800812重合性イオン液体混合物を含む組成物及び物品並びに硬化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5800812
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】重合性イオン液体混合物を含む組成物及び物品並びに硬化方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/10 20060101AFI20151008BHJP
   A61K 6/00 20060101ALI20151008BHJP
   A61K 6/083 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
   C08F20/10
   A61K6/00 A
   A61K6/083 500
【請求項の数】5
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2012-526955(P2012-526955)
(86)(22)【出願日】2010年8月26日
(65)【公表番号】特表2013-506718(P2013-506718A)
(43)【公表日】2013年2月28日
(86)【国際出願番号】US2010046720
(87)【国際公開番号】WO2011025847
(87)【国際公開日】20110303
【審査請求日】2013年8月13日
(31)【優先権主張番号】61/237,992
(32)【優先日】2009年8月28日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/289,169
(32)【優先日】2009年12月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/360,185
(32)【優先日】2010年6月30日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100139000
【弁理士】
【氏名又は名称】城戸 博兒
(74)【代理人】
【識別番号】100152191
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 正人
(72)【発明者】
【氏名】ワン, イイチョン
(72)【発明者】
【氏名】オクスマン, ジョエル ディー.
(72)【発明者】
【氏名】クレプスキー, ラリー アール.
(72)【発明者】
【氏名】ヂュウ, ペイワン
(72)【発明者】
【氏名】レワンドウスキー, ケヴィン, エム.
(72)【発明者】
【氏名】ホームズ, ブライアン エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】セバランス, リチャード エル.
(72)【発明者】
【氏名】ルール, ジョセフ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】クルン, トーマス ピー.
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−519164(JP,A)
【文献】 特開2008−285670(JP,A)
【文献】 特開2009−173925(JP,A)
【文献】 特開昭53−000282(JP,A)
【文献】 特開2006−236933(JP,A)
【文献】 特開2008−255224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00 − 33/26
A61K 6/00 − 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
)少なくとも0.70の窒素に対する空気の硬化発熱比率を有する、少なくとも30重量%の多官能性重合性イオン液体と
ii)少なくとも1つの他のエチレン性不飽和モノマー、オリゴマー又はポリマーと、を含む、重合性組成物を含む硬化性組成物であって、
前記多官能性重合性イオン液体が、
【化1】
(式中、
は、独立して、水素又はC2〜C8アルキル基であり、
は、フリーラジカル重合性基であり、
Dは、芳香族部分を含む二価結合基であり、
aは1〜4であり、
bは0〜3であり、
a+b=4であり、並びに
は、フリーラジカル重合性基を含む有機アニオンであり、
又はXの前記フリーラジカル重合性基の少なくとも1つは、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリレート又はビニルエーテルから選択される。)
及び
【化2】
(式中、
Xは窒素又はリンであり、
R3は、独立して、アルキル又はヘテロアルキルであり、少なくとも1つのR3は、フリーラジカル重合性基を含み、
R4は、独立して、アルキル又はヘテロアルキルであり、少なくとも1つのR4は、フリーラジカル重合性基を含み、
R3又はR4の前記フリーラジカル重合性基の少なくとも1つは、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリレート又はビニルエーテルから選択され、
Dは芳香族部分を含み、場合により、カルボン酸塩末端基と芳香族部分との間に結合基を含み、及び/又は、場合により、芳香族部分とR4との間に結合基を含み、
bは1〜2である。)
から選択される、硬化性組成物。
【請求項2】
前記重合性組成物が一官能性重合性イオン液体を更に含む、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記多官能性重合性イオン液体が、少なくとも0.75、0.80、0.85、0.90又は0.95の窒素に対する空気の硬化発熱比率を有する、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記他のエチレン性不飽和モノマー、オリゴマー又はポリマーが、0.50以下の窒素に対する空気の硬化発熱比率を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
基材と、前記基材の表面上に付着した請求項1〜のいずれか一項に記載の組成物が硬化したコーティングと、を含む、物品。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
イオン液体(IL)は、カチオン及びアニオンの調和が乏しい塩類である。イオン構成成分のうちの少なくとも1つは有機であり、イオンのうちの1つは電荷が非極在化している。電荷の非極在化は、安定な結晶格子の形成を妨げ、結果として、このような物質は、多くの場合は室温にて、定義によれば少なくとも100℃未満において、液体として存在する。例えば、典型的なイオン塩である塩化ナトリウムは、約800℃の融点を有し、一方、イオン液体N−メチルイミダゾリウムクロリドは約75℃の融点を有する。
【0002】
イオン液は、典型的には、置換アンモニウム又は、無機アニオンと共役している置換イミダゾリウムといった、窒素含有複素環などの有機カチオンを含む。しかしながら、カチオン及びアニオンが有機である種もまた記載されてきた。イオン液体が少なくとも1個の重合性基を含む場合には、このようなイオン液体は重合可能なイオン液体(「PIL」)である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
少なくとも1つの(例えば、フリーラジカル)重合性イオン液体と、少なくとも1つの他のエチレン性不飽和モノマー、オリゴマー又はポリマーと、の混合物を含む硬化性組成物が、本明細書で記載される。重合性イオン液体は、少なくとも0.70の窒素に対する空気の硬化発熱比率を有するものとして特徴付けられる。一部の実施形態では、重合性イオン液体の、窒素に対する空気の硬化発熱比率は、少なくとも0.75、0.80、0.85、0.90又は0.95である。他のエチレン性不飽和モノマー、オリゴマー又はポリマーは、典型的には、例えば、約0.50以下といった、実質的により低い、窒素に対する空気の硬化発熱比率を有する。硬化性組成物は、典型的には、光開始剤などの開始剤を含む。
【0004】
重合性イオン液体の存在は、窒素などの気体による不活性化又は酸素不透過性フィルム間の硬化を生じずに、特に酸素(例えば、空気)の存在下で、組成物の硬化を改善する。他のエチレン性不飽和モノマー、オリゴマー又はポリマーの存在は、意図されない重合(保存時の重合など)を妨げることにより、重合性イオン液体の安定性を改善することができる。また、重合性イオン液体を存在させると、酸素の存在下で効率的に硬化する上、重合性組成物の硬化速度を改善できることから、開始剤の量を低減させること、並びに/又は、光強度を低減させることができる。これは、より速く、より低コストの組成物及びプロセスを用いて、硬化済み(例えば、コーティング)材料を提供することができる。
【0005】
一部の好ましい実施形態では、硬化性組成物は、少なくとも2個のエチレン性不飽和基を含む、多官能性重合性イオン液体を、場合により一官能性重合性イオン液体と組み合わせて含む。1つの好ましい多官能性重合性イオン液体は、それぞれが二価非アルキレン結合基を介してカチオン性基に結合した、少なくとも2個のエチレン性不飽和基を含む。他の好ましい多官能性重合性イオン液体は、重合性アニオンと重合性カチオンとを含む。一実施形態では、重合性カチオンは、芳香族部分を含む。別の実施形態では、重合性アニオンは、芳香族カルボン酸アニオンなどの芳香族部分を含む。
【0006】
別の実施形態では、以下のような非重合性イミダゾリウムカチオンと(例えば、非フッ素化)スルホン酸アニオンとを含む一官能性重合性イオン液体が記載される。
【0007】
【化1】
【0008】
他の実施形態では、基材と、その基材の表面上の本明細書に記載の組成物の硬化済みコーティングとを含む、コーティングされた基材などの物品が記載される。
【0009】
他の実施形態では、本明細書に記載の硬化性組成物から物品を製造する方法が記載される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で使用するとき、「硬化性」は、重合及び/若しくは架橋を誘発するために加熱し、重合及び/若しくは架橋を誘発するために化学線照射し、並びに/又は重合及び/若しくは架橋を誘発するために1つ以上の成分を混合することによって、硬化させることができる材料又は組成物を記載する。「混合」は、例えば、2つ以上の部分を組み合わせ、混合して、均質な組成物を形成することにより実施できる。あるいは、2つ以上の部分を、接合面で(例えば、自然発生的に又は剪断応力の適用により)相互混合する、個別の層として提供し、重合を開始させることができる。
【0011】
本明細書で使用するとき、「硬化済み」は、硬化(例えば、重合又は架橋)した物質又は組成物を指す。
【0012】
本明細書で使用するとき、用語「(メタ)アクリレート」は、アクリレート、メタクリレート又はこれらの組み合わせを指す省略形であり、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸、メタクリル酸又はこれらの組み合わせを指す省略形であり、「(メタ)アクリル」は、アクリル、メタクリル又はこれらの組み合わせを指す省略形である。本明細書で使用するとき、「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」、「少なくとも1つの」及び「1つ以上」は交換可能に使用される。
【0013】
特に断りがない限り、「アルキル」は、直鎖、分枝鎖及び環状アルキル基を包含し、未置換及び置換アルキル基の両方を包含する。別段の指定がない限り、アルキル基は、典型的には、1〜20個の炭素原子を含有する。本明細書で使用される「アルキル」の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、イソブチル、t−ブチル、イソプロピル、n−オクチル、n−ヘプチル、エチルヘキシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、アダマンチル及びノルボルニル、並びにこれらに類するものが挙げられるが、これらに限定されない。別段の注記がない限り、アルキル基は、一価又は多価であり得る。
【0014】
特に断りがない限り、「ヘテロアルキル」は、未置換及び置換アルキル基の両方と共に、S、O及びNから独立して選択される1個以上のヘテロ原子を有する直鎖、分枝鎖及び環状アルキル基の両方を含む。別段の指定がない限り、ヘテロアルキル基は、典型的には、1〜20個の炭素原子を含有する。「ヘテロアルキル」は、以下に記載の「1個以上のS、N、O、P又はSi原子を含有するヒドロカルビル」の部分集合である。本明細書で使用するとき、「ヘテロアルキル」の例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、3,6−ジオキサへプチル、3−(トリメチルシリル)−プロピル、4−ジメチルアミノブチル及びこれらに類するものが挙げられるが、これらに限定されない。別段の注記がない限り、ヘテロアルキル基は、一価又は多価であり得る。
【0015】
特に断りがない限り、「芳香族基」又は「芳香族部分」は6〜18員環原子を包含し、飽和又は不飽和であり得る任意の縮合環を含有することができる。芳香族基の例としては、フェニル、ナフチル、ビフェニル、フェナンスリル及びアントラシルが挙げられる。芳香族基は、場合により、窒素、酸素又はイオウなどの1〜3個のヘテロ原子を含有してもよく、縮合環を含有することができる。ヘテロ原子を有する芳香族基の例としては、ピリジル、フラニル、ピロリル、チエニル、チアゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、インドリル、ベンゾフラニル及びベンゾチアゾリルが挙げられる。別段の注記がない限り、芳香族基は、一価又は多価であり得る。
【0016】
また、本明細書における端点による数の範囲の記載には、その範囲に含まれるすべての数が含まれる(例えば、1〜5には、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5、などが含まれる)。
【0017】
カチオンとアニオンとを不均衡に含む重合性イオン液体を含む様々な硬化性組成物が本明細書に記載される。このような重合性イオン液体は、約100℃よりも低い融点(T)を有する。これらの化合物の融点は、組成物中の溶媒キャリアの助けの有無によらず、本明細書に記載のような様々な重合性組成物において容易に使用するために、より好ましくは約60℃、50℃、40℃又は30℃よりも低く、最も好ましくは約25℃よりも低い。25℃よりも低い融点を有する重合性イオン液体は、室温にて液体である。重合性イオン液体の分子量が増加するにつれて、粘度は増加し得る。一部の実施形態では、重合性イオン液体の分子量は、1000g/モルである。
【0018】
好適なカチオン性基は、オニウム塩としても知られ、これらとしては、置換アンモニウム塩、置換ホスホニウム塩、置換ピリジニウム塩及び置換イミダゾリウム塩が挙げられる。このようなオニウム塩のカチオンの構造は、以下のように表される:
【0019】
【化2】
【0020】
他のカチオン性基としては、ピラゾリウム、ピロリジニウム及びコリニウムが挙げられる。
【0021】
アニオンは有機又は無機であり得、典型的には一価アニオンであり、すなわち、−1の電荷を有する。本明細書で有用なアニオンの代表例としては、カルボン酸塩(CHCO、CCO、ArCO)、硫酸塩(HSO、CHSO)、スルホン酸塩(CHSO)、トシレート及び有機フッ素化合物(CFSO、(CFSO、(CSO、(CSO)(CFSO)N、CFCO、CFSO、CHSO、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ほう酸)などの様々な有機アニオンが挙げられる。
【0022】
一部の実施形態では、芳香族カルボン酸アニオンArCOを含む重合性イオン液体を含む硬化性(例えば、歯科用)組成物が記載される。このような重合性イオン液体は、(例えば、フリーラジカル)重合性アニオン、(例えば、フリーラジカル)重合性カチオン、又は(例えば、フリーラジカル)重合性アニオンと(例えば、フリーラジカル)重合性カチオンの両方、を含んでもよい。一部の実施形態では、カチオンは、置換アンモニウム、ホスホニウム又はイミダゾリウムカチオンである。
【0023】
アニオンは、別の方法としては、ClO、無機フッ素化合物(PF、BF、AsF、SbF)及びハロゲン化物(Br、I、Cl)などの無機アニオンであってもよい。一部の実施形態では、アニオンは、好ましくは、スルホン酸塩などの有機アニオンである。有機アニオンは、ハロゲンを含まない(例えば、歯科用)組成物を提供可能である非ハロゲン化物であってもよい。一部の実施形態では、(例えば、スルホン酸)アニオンは非フッ素化物であり、芳香族置換基を欠く。更に、一部の実施形態では、アニオンはエチレン性不飽和基であり、それゆえに非重合性アニオンである。他の実施形態では、有機アニオンは重合性である。
【0024】
重合性基は、エチレン性不飽和末端重合性基である。エチレン性不飽和基は、好ましくは、(メタ)アクリルアミド(HC=CHCON−及びHC=CH(CH)CON−)並びに(メタ)アクリレート(CHCHCOO−及びCHC(CH)COO−)などの(メタ)アクリルが挙げられるフリーラジカル重合性基である。他のエチレン性不飽和(例えば、フリーラジカル)重合性基としては、ビニルエーテル(HC=CHOCH−)などのビニル(HC=C−)が挙げられる。メタクリレート官能性オニウム塩は、硬化速度がより遅いことから、組成物中で典型的にはアクリレートオニウム塩よりも好ましい。
【0025】
重合性イオン液体は反応性モノマーとして機能し、硬化性組成物が基材に適用される又は歯科用クラウンなどの(例えば、歯科用)物品に成形される際には、硬化性組成物において実質的に重合されない。したがって、硬化性組成物は、(例えば、多官能性)重合性イオン液体のエチレン性不飽和基の重合を介した硬化時に、硬化する。このような硬化は、一般的に、永続型の結合を生じる。例えば、硬化性組成物が接着剤である場合、結合させた基材は、概して基材を損傷させずに分離することができない。
【0026】
一部の好ましい実施形態では、重合性イオン液体は、反応性希釈剤として作用するのに十分な程度に粘度が低い。このような実施形態では、組成物は、有利なことに、溶媒、特に有機溶媒を実質的に不含であってもよい。これは、結果として、硬化に先立っての組成物の乾燥を低減する又は省くことから、製造時間並びにエネルギーに関して効率性を向上することができる。これはまた、組成物の揮発性有機成分(VOC)の放出を低減することができる。
【0027】
一部の実施形態では、重合性イオン液体は、1個の重合性エチレン性不飽和基を有する一官能性である。一官能性重合性イオン液体は、従来の多官能性エチレン性不飽和(例えば、(メタ)アクリレート)モノマーと組み合わせて硬化を増強して、これにより、硬化性組成物の酸素硬化阻害により引き起こされると推測される表面残留物の形成を最小限にする。
【0028】
他の実施形態では、重合性イオン液体は、多官能性であり、典型的には2個又は3個の重合性基を含む。例えば、一部の実施形態では、重合性イオン液体は、重合性カチオンと重合性アニオンとを含んでもよい。他の実施形態では、本明細書に記載の多官能性重合性イオン液体は、多官能性カチオンを有し、その同じカチオン基に結合した2、3個又はそれ以上の重合性基を有するものとして、特徴付けることができる。
【0029】
一部の実施形態では、重合性イオン液体は、少なくとも1つの多官能性重合性イオン液体と、少なくとも1つの一官能性重合性イオン液体と、を含む混合物である。
【0030】
重合性イオン液体は、典型的には、他の従来の(例えば(メタ)アクリレート)エチレン性不飽和モノマー、オリゴマー又はポリマーと組み合わせて、採用される。「他の」により、重合性イオン液体ではないエチレン性不飽和モノマーを意味する。従来のモノマーは重合性であり、多くは25℃にて液体であるが、従来のモノマーは典型的には非イオン性であり、カチオン及びアニオンを欠く。
【0031】
重合性イオン液体は、硬化性(例えば、歯科用)組成物中で通常使用されるような2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)及び2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(BisGMA)などの従来の硬化性(メタ)アクリレートモノマーの代わりに使用できることが判明した。このような実施形態は、ビスフェノールA(BisGMA)から誘導されるモノマーを含まない歯科用組成物を提供可能である。
【0032】
好ましい(例えば、多官能性)重合性イオン液体は、実施例に記載の試験方法に従って光DSCにより測定可能であるように、高い窒素に対する空気の硬化発熱比率を呈する。窒素に対する空気の硬化比率は典型的には少なくとも0.70又は0.75である。好ましい実施形態では、窒素に対する空気の硬化発熱比率は、典型的には、少なくとも0.80、0.85、0.90又は0.95である。重合性イオン液体の窒素に対する空気の硬化比率が十分に高い実施形態については、重合性イオン液体は、有利なことに、酸素がない状態で要求される硬化に比べ、むしろ空気中(すなわち、酸素が豊富な環境)で実質的に完全に硬化することができる。
【0033】
完全に硬化した(すなわち、硬化済み)重合性イオン液体は25℃にて固体であり、未硬化の重合性イオン液体を実質的に含まない。有意な未硬化イオン液体が存在する場合、それは典型的には「湿った」外観を呈する表面残留物として生じる。表面阻害を最小限にすることで、より完全な硬化が提供されるだけでなく、硬化が進んでいない酸素阻害された表面層の形成が最小限になる。表面層の形成が最小限になることで、抽出物低減の利益が提供され、並びに、エタノールなどの溶媒と共に、あるいはこのような溶媒は用いずに吸収性拭き取り材料を使用することによって未硬化の「濡れた」モノマー層を除去する必要も減らすという利益が提供される。硬化の程度は、当該技術分野で既知の様々な方法により、決定することができる。1つの一般的な方法は、溶媒抽出により未硬化材料の量を決定することである。好ましい実施形態では、未硬化の抽出可能な重合性イオン液体の量は、硬化済み組成物の10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、並びに最も好ましくは1重量%未満である。
【0034】
従来の(メタ)アクリレートモノマーは、典型的には、0.50以下、0.40以下、0.35以下、0.20以下又は0.25以下あるいはそれより低い窒素に対する空気の硬化発熱比率を有する。例えば、TEGMAは約0.36の窒素に対する空気の硬化発熱比率を有することが判明しており、一方、HEMAは0.25未満の窒素に対する空気の硬化発熱比率を有することが判明している、従来の(メタ)アクリレートモノマー及び特にメタクリレートモノマーの光硬化は典型的には空気中に存在する酸素により阻害されるが、(例えば、多官能性)重合性イオン液体を含有させることで、混合物の窒素に対する空気の硬化発熱を十分に上昇させることができ、その結果、有利なことに、混合物を空気中で実質的に完全に硬化させることができる。組成物が空気中で硬化することになり、多官能性重合性イオン液体が、より低い窒素に対する空気の硬化発熱比率を呈する別の重合性(メタ)アクリレート構成成分と組み合わされる実施形態については、本明細書に記載の(例えば、多官能性)重合性イオン液体の酸素に対する空気の硬化発熱比率は、好ましくは少なくとも0.85、0.90又は0.95である。
【0035】
高い窒素に対する空気の硬化発熱比率を有する(例えば、多官能性)重合性イオン液体の総濃度は、典型的には未充填組成物(無機充填剤以外の総重合性無機組成物)の少なくとも30重量%、並びに好ましくは少なくとも40重量%である。この実施形態では、他のエチレン性不飽和(例えば、(メタ)アクリレート)モノマー、オリゴマー及びポリマーは、典型的には少なくとも10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%又は65重量%である。
【0036】
ここに記載したように高い酸素に対する空気の硬化比率を有する(例えば、多官能性)重合性イオン液体の存在は硬化に有益であるが、他の従来の(メタ)アクリレートモノマーの存在もまた、(例えば、光)硬化に先立つ保存時などでの意図されない重合を妨げることにより安定性を向上させることによって、(例えば、多官能性)重合性イオン液体に利益をもたらし得る。これは、一液型硬化性コーティング組成物を提供することが可能である。それゆえに、少なくとも一部の好ましい実施形態では、他のエチレン性不飽和(例えば、(メタ)アクリレート)モノマー、オリゴマーの量は、典型的には、未充填組成物の少なくとも21重量%、22重量%、23重量%、24重量%又は25重量%である。それゆえに、高い酸素に対する空気の硬化比率を有する(例えば、多官能性)重合性イオン液体の濃度は、80重量%未満である。典型的には、混合物の酸素に対する空気の硬化比率が少なくとも0.75、好ましくは少なくとも0.80、0.85、0.90又はそれ以上であるならば、他のエチレン性不飽和(例えば、(メタ)アクリレート)モノマー、オリゴマーの濃度を最大化することが好ましい。他のエチレン性不飽和(例えば、(メタ)アクリレート)モノマー、オリゴマーの選択に依存して、これは、高い酸素に対する空気の硬化比率を有する(例えば、多官能性)重合性イオン液体の濃度が少なくとも約35重量%、40重量%又は45重量%である場合と同時に達成することができる。他のエチレン性不飽和モノマー、オリゴマー及びポリマーが約0.25以下の酸素に対する空気の硬化発熱を有する実施形態については、重合性イオン液体の濃度は、好ましくは少なくとも50重量%、55重量%又は60重量%である。
【0037】
一部の好ましい実施形態では、硬化性組成物は、新しい部類又は新種の重合性イオン液体を含む。
【0038】
一部の好ましい実施形態では、硬化性組成物は、多官能性カチオンを有し、この多官能性カチオンは同じカチオン基に多価非アルキレン結合基を介して結合した2個以上の重合性基を有する。このような多官能性重合性イオン液体は、米国特許仮出願第61/237,992号表題「OPTICAL DEVICE WITH ANTISTATIC COATING」及び同第61/289,072号表題「POLYMERIZABLE IONIC LIQUID COMPRISING MULTIFUNCTIONAL CATION AND ANTISTATIC COATINGS」に更に記載されており、これらは参考として本明細書に組み込まれるものとする。本明細書で使用するとき、結合基は、(例えば、単一の)カチオンとエチレン性不飽和末端基との間の原子鎖の全体を指す。結合基は、例えば、1〜4個の炭素原子を有する低級アルキレン部位を含み得る並びに多くの場合含むが、結合基は、炭素主鎖内に他の原子を含み、並びに/又は(例えば、炭素)主鎖から下垂する他の基を含む。最も一般的には、結合基は、イオウ、酸素又は窒素などのヘテロ原子、より一般的には酸素又は窒素を含む。結合基は、アミド(−CONR−)又はエーテル(−COC−)結合などの結合を含んでもよく、より一般的にはウレタン(−ROCONR−)、尿素(−RNCONR−)、又はエステル結合(−COOR−)を含んでもよく、式中、Rは炭素原子数1〜4個の低級アルキルである。
【0039】
カチオンがアンモニウム又はホスホニウムである実施形態については、重合性イオン液体は次の一般式を有し得る:
【0040】
【化3】
【0041】
式中、
Qは窒素又はリンであり、
は、独立して、水素、アルキル、アリール、アルカリル又はこれらの組み合わせであり、
は、独立して、エチレン性不飽和基であり、
は、独立して、結合基であるが、但し、結合基のうちの少なくとも2個はアルキレン結合基ではなく、
mは2〜4の整数であり、
nは0〜2の整数であり、
並びにm+n=4であり、並びに
Xは、アニオンである。
【0042】
結合基Lのうちの少なくとも2個は、好ましくは、窒素、酸素又はイオウなどのヘテロ原子を1個以上含む結合基である。好ましい実施形態では、結合基Lのうちの少なくとも2個は窒素又は酸素ヘテロ原子を含み、例えば、アミド、尿素、エーテル、ウレタン又はエステル結合を含む結合基が挙げられる。結合基は、このような結合を1個超含んでもよい。
【0043】
各結合基に結合した末端エチレン性不飽和基Rはそれぞれ、異なるエチレン性不飽和基を含むことができるが、末端エチレン性不飽和基Rは典型的には、同じビニル、(メタ)アクリルアミド又は(メタ)アクリレート基などの同じエチレン性不飽和重合性基である。
【0044】
一部の実施形態では、mは3であり、それゆえに、重合性イオン液体は三官能性(例えば、トリ(メタ)アクリレート)重合性イオン液体である。他の実施形態では、mは2であり、それゆえに、重合性イオン液体は二官能性(例えば、ジ(メタ)アクリレート)重合性イオン液体である。
【0045】
一部の実施形態では、nは少なくとも1である。Rは、典型的には、水素又は、炭素原子数1〜4個の直鎖低級アルキルである。しかしながら、Rは、場合により、分枝状であってもよく、あるいは、環状構造を含んでもよい。Rは、場合により、リン、ハロゲン、あるいは、窒素、酸素又はイオウなどの1個以上のヘテロ原子を含んでもよい。
【0046】
カチオンがアンモニウムである好ましい重合性イオン種としては、以下のものが挙げられる:
【0047】
【化4】
【0048】
ここに記載したこれらの種は、前述したように、様々な他のアニオンを含むことができる。
【0049】
このような重合性イオン液体が帯電防止コーティングに用いられる場合、重合性イオン液体(すなわち、オニウム塩)は、1〜99.5%、好ましくは10〜60%、並びにより好ましくは30〜50%の重量百分率にて帯電防止層に存在し得る。この実施形態については、アクリル官能性重合性イオン液体がメタクリル重合性イオン液体よりも好ましいが、それはこれらがより速く強力な硬化を呈するからである。
【0050】
他の実施形態では、重合性組成物は、重合性カチオンと重合性アニオンとを含むイオン液体を含む。一実施形態では、重合性カチオンは、芳香族部分を含む。重合性アニオンは、好ましくは、芳香族カルボン酸アニオンなどのカルボン酸アニオンである。
【0051】
このような重合性イオン液体は、置換アンモニウムカチオンを含んでもよい。重合性イオン液体は、次の一般式を有し得る:
【0052】
【化5】
【0053】
式中、
は、独立して、水素又はC2〜C8アルキル基であり、
は、エチレン性不飽和基であり、
Dは、芳香族部分を含む二価結合基であり、
aは1〜4であり、
bは0〜3であり、
a+b=4であり、並びに
は、少なくとも1個のエチレン性不飽和基を含む有機アニオンである。
【0054】
エチレン性不飽和基は、ビニル基であってもよい。
【0055】
一部の代表的な種としては以下のものが挙げられる。
【0056】
【化6】
【0057】
別の好ましい実施形態では、重合性組成物は、芳香族カルボン酸アニオンを含む重合性イオン液体を含む。
【0058】
このような(例えば、フリーラジカル)重合性イオン液体は、次の一般式を有し得る:
【0059】
【化7】
【0060】
式中、
Xは窒素又はリンであり、
R3及びR4は、独立して、アルキル又はヘテロアルキルであり、少なくとも1個のR3又はR4は、フリーラジカル重合性基を含み、
Dは芳香族部分を含み、場合により、カルボン酸塩末端部分と芳香族部分との間に結合基を含み、及び/又は、場合により、芳香族部分とR4との間に結合基を含み、並びに
bは0〜2である。
【0061】
フリーラジカル重合性基は、好ましくは(メタ)アクリレート基である。Dの芳香族部分は、典型的には、フタル酸塩の場合又はビフェニル若しくはトリフェニル化合物から誘導される芳香族環の場合のように、場合により縮合した芳香族環を1、2又は3個含む。
【0062】
一部の実施形態では、置換(例えば、アンモニウム)カチオンと芳香族カルボン酸アニオンの両方がそれぞれ、(メタ)アクリレート基などのフリーラジカル重合性基を少なくとも1個含む。一部の実施形態では、2個のR3はアルキル基であり、1個のR3基は(メタ)アクリレート基を含む。別の実施形態では、2個のR3はアルキル基であり、1個のR3基は芳香族(例えば、フェニル)(メタ)アクリレート基を含む。R3のアルキル基は、典型的には、少なくとも1個の炭素原子(例えば、メチル)で、かつ、8個以下又は6個以下又は4個以下の炭素原子を含む。結合基は、典型的には、前述のように、末端(例えば、フリーラジカル)重合性(メタ)アクリレート基と(例えば、アンモニウム)カチオン(X)との間に存在する。Dは、(例えば、フェニル)芳香族基と末端(メタ)アクリレート基との間に二価(例えば、エステル)結合基を含んでもよい。
【0063】
このようなフリーラジカル重合性イオン液体の例としては、以下のものが挙げられる:
【0064】
【化8】
【0065】
別の好ましい実施形態では、組成物は、置換イミダゾリウムカチオンなどの非重合性カチオンと重合性アニオンとを含む一官能性重合性イオン液体を含む。イミダゾリウムカチオンは、典型的には、炭素原子数1〜4個の低級アルキル基1又は2個で置換されている。アニオンは、好ましくは、(例えば非フッ素化)スルホン酸アニオンである。1つの好ましい種は、以下のものである。
【0066】
【化9】
【0067】
本明細書に記載の種は、前述したように、様々な他のアニオンを含むことができる。
【0068】
本明細書に記載の重合性イオン液体は、複数の方法により製造することができる。一方法としては、以下の反応スキームにより示されるような、重合性イソシアネートとのヒドロキシル官能性イオン前駆体の反応が挙げられる:
【0069】
【化10】
【0070】
市販の出発物質としては、BASFから入手可能なトリス−(2−ヒドロキシエチル)−メチルアンモニウムメチルサルフェート(BASIONIC FS01)、ジエタノールアミン塩酸塩、2−アミノ−1,3−プロパンジオール塩酸塩及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩が挙げられる。このイオン生成物は、更に反応して、「Ionic Liquids」(Meindersma,G.W.、Maase,M.及びDe Haan,A.B.、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,2007)に記載のようにアニオンメタセシスを用いてアニオンを交換し得る。
【0071】
別の方法としては、以下の反応スキームにより示されるような、重合性イソシアネートとのヒドロキシル官能性アミン前駆体の反応、その後のアルキル化又は酸性化が挙げられる:
【0072】
【化11】
【0073】
市販の出発物質としては、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、1−[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−アミノ]−2−プロパノール、トリイソプロパノールアミン、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、3−(ジメチルアミノ)−1,2−プロパンジオール、3−(ジエチルアミノ)−1,2−プロパンジオール、3−(ジプロピルアミノ)−1,2−プロパンジオール、3−(ジイソプロピルアミノ)1,2,−プロパンジオール、2−アミノ−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3,−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3,−プロパンジオール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ−トリス(ヒドロキシメチル)メタン、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−2,2’,2”−ニトリロトリエタノール、N,N’ビス(2−ヒドロキシエチル)−エチレンジアミン、N−N−N’−N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)−エチレンジアミン、1,3−ビス[トリス(ヒドロキシメチル)−メチルアミノ]プロパン、3−ピロリジノ−1,2−プロパンジオール、3−ピペリジノ−1,2−プロパンジオール及び1,4−ビス(2−ヒドロキシエチル)−ピペラジンが挙げられる。
【0074】
有用なアルキル化剤としては、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、臭化メチル、臭化エチル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル及びメチルホスホン酸ジメチルなどの、アルキルハロゲン化物、硫酸塩及びホスホン酸エステルが挙げられる。有用な酸性化剤としては、カルボン酸、有機スルホン酸及び有機ホスホン酸、並びに、塩化水素酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、リン酸、硝酸及びこれらに類するものなどの無機酸が挙げられる。
【0075】
別の方法としては、以下の反応スキームにより示されるような、アクリレート化合物とアミンを反応させて重合性アミン前駆体を得、その後、アルキル化又は酸性化することが挙げられる:
【0076】
【化12】
【0077】
市販の出発物質としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、イソプロピルアミン、イソブチルアミン、1−メチルブチルアミン、1−エチルプロピルアミン、2−メチルブチルアミン、イソアミルアミン、1,2−ジメチルプロピルアミン、1,3−ジメチルブチルアミン、3,3−ジメチルブチルアミン、2−アミノヘプタン、3−アミノヘプタン、1−メチルへプチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、1,5−ジメチルヘキシルアミン、シクロプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘプチルアミン、シクロオクチルアミン、2−アミノノルボナン、1−アダマンタンアミン、アリルアミン、テトラヒドロフルフリルアミン、エタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、ベンジルアミン、フェネチルアミン、3−フェニル−1−プロピルアミン、1−アミノインダン、エチレンジアミン、ジアミノプロパン及びヘキサメチレンジアミンなどのアミンが挙げられる。
【0078】
エーテル結合基を含有する重合性イオン液体を提供する別の方法は、以下の反応スキームにより示されるような、官能化(メタ)アクリレート分子とのヒドロキシル官能性前駆体の反応を含む:
【0079】
【化13】
【0080】
アミド結合基を含有する重合性イオン液体を提供する別の方法は、以下の反応スキームにより示されるような、官能化(メタ)アクリレート分子とのアミン官能性前駆体の反応を含む:
【0081】
【化14】
【0082】
尿素結合基を含有する重合性イオン液体を提供する別の代表的方法は、以下の反応スキームにより示される:
【0083】
【化15】
【0084】
本明細書に記載の(例えば、多官能性)重合性イオン液体に加えて、組成物の硬化性構成成分は、広範囲の他のエチレン性不飽和化合物(酸官能性有り又は無し)、エポキシ官能性(メタ)アクリレート樹脂、ビニルエーテル及びこれらに類するものを含むことができる。
【0085】
組成物(例えば、光重合可能な組成物)は、1個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマー、オリゴマー、及びポリマーを包含してもよいフリーラジカル反応性官能基を有する化合物を包含してもよい。好適な化合物は、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を含有し、付加重合を受けることが可能である。有用なエチレン性不飽和化合物の例としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステル、及びこれらの組み合わせが挙げられる。このようなフリーラジカル重合性化合物としては、モノ−、ジ−又はポリ(メタ)アクリレート(すなわち、アクリレート及びメタクリレート)が挙げられる。
【0086】
本明細書で有用な他の重合性モノマー、オリゴマー又はポリマーの代表例としては、例えば、ポリ(メタ)アクリルモノマー及びモノ(メタ)アクリルモノマーが挙げられ、例えば、(a)フェノキシエチルアクリレート、エトキシル化フェノキシエチルアクリレート、2−エトキシエトキシエチルアクリレート、エトキシル化テトラヒドロフルフラールアクリレート及びカプロラクトンアクリレートなどのモノ(メタ)アクリル含有化合物、(b)1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−へキサンジオールモノアクリレートモノメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、アルコキシル化脂肪族ジアクリレート、アルコキシル化シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、アルコキシル化ヘキサンジオールジアクリレート、アルコキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、カプロラクトン変性ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジアクリレート、カプロラクトン変性ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、エトキシル化(10)ビスフェノールAジアクリレート、エトキシル化(3)ビスフェノールAジアクリレート、エトキシル化(30)ビスフェノールAジアクリレート、エトキシル化(4)ビスフェノールAジアクリレート、ヒドロキシピバルアルデヒド変性トリメチロールプロパンジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレートなどのジ(メタ)アクリル含有化合物、(c)グリセロールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシル化トリアクリレート(例えば、エトキシル化(3)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化(6)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化(9)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシル化トリアクリレート(例えば、プロポキシル化(3)グリセリルトリアクリレート、プロポキシル化(5.5)グリセリルトリアクリレート、プロポキシル化(3)トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシル化(6)トリメチロールプロパントリアクリレート)、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレートなどのトリ(メタ)アクリル含有化合物、(d)ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、エトキシル化(4)ペンタエリスリトールテトラアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの多官能性(メタ)アクリル含有化合物、(e)例えば、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレートなどのオリゴマー(メタ)アクリル化合物、以上のもののポリアクリルアミド類似体、並びに、これらの組み合わせが挙げられる。このような化合物は、例えば、Sartomer Company(Exton,Pennsylvania)、UCB Chemicals Corporation(Smyrna,Georgia)、Cytec Corporation(Cognis)及びAldrich Chemical Company(Milwaukee,Wisconsin)などの供給業者から広く入手可能である。追加の有用な(メタ)アクリレート物質としては、例えば米国特許第4,262,072号(Wendlingら)に記載されたようなヒダントイン部分含有ポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0087】
少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を含有する他の化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビス[l−(2−アクリルオキシ)]−p−エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[l−(3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシ)]−p−プロポキシフェニルジメチルメタン、及びトリスヒドロキシエチル−イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、メチレンビス−(メタ)アクリルアミド及びジアセトン(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド(すなわち、アクリルアミド及びメタクリルアミド);ウレタン(メタ)アクリレート;並びに、スチレン、フタル酸ジアリル、コハク酸ジビニル、アジピン酸ジビニル及びフタル酸ジビニルなどのビニル化合物が挙げられる。他の好適なフリーラジカル重合性化合物としては、シロキサン官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。必要に応じて、2つ以上のフリーラジカル重合性化合物の混合物を使用することが可能である。
【0088】
硬化性(例えば、歯科用)組成物はまた、単一分子内にヒドロキシル基とエチレン性不飽和基を含有し得る。そのような材料の例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;グリセロールモノ−又はジ−(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンモノ−又はジ−(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールモノ−、ジ−、及びトリ−(メタ)アクリレート;ソルビトールモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、又はペンタ−(メタ)アクリレート;2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−エタアクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン(ビスGMA)が挙げられる。好適なエチレン性不飽和化合物はまた、多種多様な供給元、例えばSigma−Aldrich,St.Louisから入手可能である。
【0089】
特定の実施形態では、硬化性成分としては、PEGDMA(分子量が約400のポリエチレングリコールジメタクリレート)、ビスGMA、UDMA(ウレタンジメタクリレート)、GDMA(グリセロールジメタクリレート)、TEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、米国特許第6,030,606号(Holmes)に記載されるようなビスEMA6、及びNPGDMA(ネオペンチルグリコールジメタクリレート)を挙げることができる。
【0090】
開始剤は、典型的には、本明細書で記載されるように、重合性イオン液体に、又は、少なくとも1種の多官能性重合性イオン液を含む重合性成分の混合物に、添加される。開始剤は、重合性組成物を容易に溶解する(及び、重合性組成物からの分離を阻止する)ことを可能にするために、樹脂系と十分に混和性があるべきである。典型的に、開始剤は、組成物中に、組成物の総重量に基づいて、約0.1重量%〜約5.0重量%などの有効な量で存在する。
【0091】
一部の実施形態では、このようなものを含む多官能性重合性イオン液体又は組成物は光重合可能であり、組成物は、化学線照射すると組成物の重合(又は硬化)を開始する光開始剤(すなわち、光開始剤系)を含有する。こうした光重合性組成物は、フリーラジカル重合性であることができる。光開始剤は、典型的には、約250nm〜約800nmの機能性波長範囲を有する。
【0092】
フリーラジカル光重合性組成物を重合するのに好適な光開始剤(すなわち、1つ以上の化合物を含む光開始剤系)としては、二成分及び三成分系が挙げられる。典型的な三成分光開始剤は、米国特許第5,545,676号(Palazzottoら)に記載されたようなヨードニウム塩、光増感剤及び電子供与体化合物を含む。ヨードニウム塩としては、ジアリールヨードニウム塩、例えば、ジフェニルヨードニウムクロリド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート及びジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート(tetrafluoroboarate)が挙げられる。一部の好ましい光開始剤としては、約300nm〜約800nm(好ましくは約400nm〜約500nm)の範囲内の一部の光を吸収するモノケトン及びジケトン(例えば、アルファジケトン)、例えば、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6−テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノン及び他の環式アルファジケトンを挙げてもよい。これらのうち、カンファーキノンが典型的には好ましい。好ましい電子供与体化合物としては、置換アミン、例えば、エチル4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエートが挙げられる。フリーラジカル光重合性組成物を重合するために好適な他の光開始剤としては、典型的には約380nm〜約1200nmの範囲の有効波長を有するホスフィンオキシドの部類が挙げられる。約380nm〜約450nmの機能性波長範囲を有する好ましいホスフィンオキシドフリーラジカル開始剤は、アシル及びビスアシルホスフィンオキシドである。
【0093】
約380〜約450nmの波長範囲で照射されるとフリーラジカル反応を開始することができる市販のホスフィンオキシド光開始剤としては、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IRGACURE 819(Ciba Specialty Chemicals(Tarrytown,N.Y.)))、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド(CGI 403(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの重量で25:75の混合物(IRGACURE 1700(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの重量で1:1の混合物(DAROCUR 4265(Ciba Specialty Chemicals))、及びエチル−2,4,6−トリメチルベンジルフェニルホスフィネート(LUCIRIN LR8893X(BASF Corp.(Charlotte,N.C.)))が挙げられる。
【0094】
三級アミン還元剤を、アシルホスフィンオキシドと組み合わせて使用してもよい。代表的な三級アミンとしては、エチル−4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエート及びN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。存在する場合、アミン還元剤は、光重合可能な組成物中に、組成物の総重量に基づいて約0.1重量%〜約5.0重量%の量で存在する。
【0095】
一部の好ましい実施形態では、硬化性組成物は、紫外(UV)線を照射され得る。この実施形態では、好適な光開始剤は、Ciba Speciality Chemical Corp.(Tarrytown,N.Y.)からの商品名IRGACURE及びDAROCURで入手可能なものであり、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IRGACURE 184)、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(IRGACURE 651)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IRGACURE 819)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(IRGACURE 2959)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタノン(IRGACURE 369)、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン(IRGACURE 907)及び2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(DAROCUR 1173)が挙げられる。
【0096】
光重合可能な組成物は、典型的には、組成物の様々な構成成分を混合することにより、調製される。光重合可能な組成物が空気の存在下で硬化しない実施形態では、光開始剤は、「安全な光」条件(すなわち、組成物の硬化を早発させない条件)下で組み合わせられる。混合物を調製する際、必要であれば、好適な不活性溶媒を取り入れてもよい。好適な溶媒の例としては、アセトン及びジクロロメタンが挙げられる。
【0097】
硬化は、組成物を放射線源、好ましくは紫外線又は可視光線源に曝露することにより、影響を受ける。石英ハロゲンランプ、タングステン−ハロゲンランプ、水銀アーク、カーボンアーク、低・中・高圧水銀ランプ、プラズマアーク、発光ダイオード、及びレーザーなどの20nm〜800nmの化学線光を発する光源を採用することが便利である。通常、有用な光源は、0.200〜1000W/cmの範囲の強度を有する。このような組成物を硬化させるための様々な従来の光を使用することができる。
【0098】
この曝露は、複数の方法で達成され得る。例えば、重合性組成物は、全硬化プロセス(例えば、約2秒〜約60秒)にわたって放射線に持続的に曝露されてもよい。また、組成物を、放射線の単回投与に曝露し、その後、放射線源を取り外し、それにより重合を生じさせておくこともまた可能である。一部の場合には、物質は、低強度から高強度へ徐々に増強する光源に曝すことができる。二重曝露が採用される場合、それぞれの投与の強度は、同一でもよく、又は異なっていてもよい。同様に、各曝露の全体のエネルギーは、同一でもよく、又は異なっていてもよい。
【0099】
多官能性重合性イオン液体又はこのようなものを含む組成物は、化学的に硬化性であってもよく、すなわち、組成物は化学的な開始剤(すなわち、開始剤系)を含有し、化学開始剤は、化学放射線を用いた照射によらないで組成物を重合、硬化、又はさもなければハードニングすることができる。このような化学硬化性(例えば、重合性又は硬化性)組成物は、場合により、「自己硬化」組成物とも呼ばれ、レドックス硬化系、熱硬化系及びこれらの組み合わせを包含してもよい。更に、重合性組成物は、異なる複数の開始剤の組み合わせを含んでもよく、これらの開始剤のうちの少なくとも1つはフリーラジカル重合を開始するのに好適である。
【0100】
化学硬化性組成物は、重合性成分(例えば、エチレン性不飽和重合性成分)並びに酸化剤及び還元剤を包含するレドックス剤を含むレドックス硬化系を包含してもよい。
【0101】
樹脂系(例えば、エチレン性不飽和成分)の重合を開始することが可能なフリーラジカルを製造するために、還元剤及び酸化剤は、互いに反応するか、ないしは別の方法で協働する。この種の硬化は、暗反応である、すなわち、光の存在に依存せずかつ光が存在しない状態下で進行可能である。還元剤及び酸化剤は、好ましくは十分に貯蔵安定性があり、不快な着色がなく、典型的条件下においての保存及び使用を可能にする。
【0102】
有用な還元剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体及び米国特許第5,501,727号(Wangら)に記載されているようなアスコルビン酸化合物;アミン、特に4−t−ブチルジメチルアニリンなどの三級アミン;p−トルエンスルフィン酸塩及びベンゼンスルフィン酸塩などの芳香族スルフィン酸塩;1−エチル−2−チオウレア、テトラエチルチオウレア、テトラメチルチオウレア、1,1−ジブチルチオウレア及び1,3−ジブチルチオウレアなどのチオウレア;及びこれらの混合物が挙げられる。他の二級還元剤としては、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン(酸化剤の選択に依存する)、亜ジチオン酸塩又は亜硫酸塩アニオンの塩、及びこれらの混合物を挙げてもよい。好ましくは、還元剤はアミンである。
【0103】
好適な酸化剤はまた、当業者によく知られており、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、セシウム、及びアルキルアンモニウム塩などの過硫酸及びその塩が挙げられるが、これらに限定されない。更なる酸化剤としては、過酸化物、例えば、過酸化ベンゾイル、ヒドロペルオキシド(例えば、クミルヒドロペルオキシド)、t−ブチルヒドロペルオキシド、及びアミルヒドロペルオキシド、並びに遷移金属の塩、例えば、塩化コバルト(III)及び塩化第二鉄、硫酸セリウム(IV)、過ホウ酸並びにそれらの塩、過マンガン酸及びその塩、過リン酸及びその塩、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0104】
1以上の酸化剤又は1以上の還元剤を使用することが望ましい場合がある。少量の遷移金属化合物を添加して、レドックス硬化速度を速めてもよい。還元剤又は酸化剤は、米国特許第5,154,762号(Mitraら)に記載されているように、マイクロカプセル化することができる。これは、一般に、重合性組成物の貯蔵安定性を増強し、必要であれば、還元剤及び酸化剤を共に包装することを許容するであろう。例えば、封入剤を適切に選択することにより、酸化剤及び還元剤を酸官能基成分及び任意の充填剤と組み合わせて、貯蔵安定状態に維持することができる。
【0105】
組成物はまた、熱的にすなわち熱により活性化されたフリーラジカル開始剤を用いて硬化することができる。典型的な熱的開始剤としては、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物及びアゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物が挙げられる。
【0106】
一部の実施形態では、例えば、組成物は、適量の(例えば、ナノ粒子)充填剤を含む場合がある。このような組成物は、組成物の総重量に基づいて好ましくは少なくとも40重量%、より好ましくは少なくとも45重量%、並びに最も好ましくは50重量%の充填剤を含む。一部の実施形態では、充填剤の総量は、最大で90重量%、好ましくは最大で80重量%、並びにより好ましくは最大で75重量%の充填剤である。
【0107】
適量の充填剤を含むこのような組成物では、1種以上の多官能性重合性イオン液体は、典型的には、組成物の総重量に基づいて少なくとも5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、又は10重量%の総量で存在する。多官能性重合性イオン液体の濃度は、一般的に、約60重量%以下である。一部の実施形態では、多官能性重合性イオン液体の総量は、最大で40重量%、好ましくは最大で30重量%、並びにより好ましくは再剤で25重量%である。
【0108】
接着剤としての使用に好適な組成物はまた、組成物の総重量に基づいて、少なくとも1重量%、2重量%、3重量%、4重量%又は5重量%の量で充填剤を含むことができる。このような実施形態では、充填剤の総濃度は、組成物の総重量に基づいて、最大で40重量%、好ましくは最大で20重量%、並びに好ましくは最大で15重量%である。
【0109】
充填剤は、当該技術分野において既知の多様な物質のうちの1種以上から選択され得る。
【0110】
充填剤は、無機物質であり得る。また、充填剤は、重合性樹脂に不溶性である架橋済み有機材料であることもでき、それは場合により無機充填剤と一緒に充填される。充填剤は、放射線不透過性、放射線透過性又は非放射線不透過性であり得る。充填剤は、セラミックの性質のものであり得る。
【0111】
無機充填剤粒子としては、石英(すなわち、シリカ)、サブミクロンのシリカ、ジルコニア、サブミクロンのジルコニア、及び米国特許第4,503,169号(Randklev)に記載されている種類の非ガラス質微小粒子が挙げられる。
【0112】
充填剤成分としては、ナノサイズのシリカ粒子、ナノサイズの金属酸化物粒子、及びこれらの組み合わせが挙げられる。ナノ充填剤はまた、米国特許第7,090,721号(Craigら)、同第7,090,722号(Buddら)、同第7,156,911号(Kangasら)及び同第7,649,029号(Kolbら)に記載されている。
【0113】
好適な有機充填剤粒子の例としては、充填又は非充填粉砕ポリカーボネート、ポリエポキシド、ポリ(メタ)アクリレート及びこれらに類するものが挙げられる。共通に採用される充填剤粒子は、石英、サブミクロンシリカ、及び米国特許第4,503,169号(Randklev)に記載されている種類の非ガラス質微小粒子である。
【0114】
また、これらの充填剤、並びに有機及び無機材料から作製された組み合わせ充填剤を使用してもよい。
【0115】
充填剤は、本質的に、粒子状又は繊維状のいずれかであり得る。粒子状充填剤は、一般に、20:1以下、より一般的には10:1以下である長さ対幅の比率、すなわち縦横比を有するものとして定義され得る。繊維は、20:1より大きい、より一般的には100:1より大きい縦横比を有するものとして定義され得る。球形から楕円形、又はフレーク若しくはディスクのようなより平面的なものの範囲で、粒子の形状は多様であり得る。巨視的特性は、充填剤粒子の形状、具体的には形状の均一性に大きく依存し得る。
【0116】
ミクロンサイズ粒子は、硬化後の磨耗性を改善するために非常に有効である。対照的に、ナノスケール充填剤は、一般的に、粘度及びチキソトロピー変性剤として使用される。それらのサイズの小ささ、高い表面積及び関連する水素結合のために、これらの物質は、凝集したネットワーク構造を構築することが知られている。
【0117】
一部の実施形態では、組成物は、好ましくは約0.100マイクロメートル(すなわち、ミクロン)未満、並びにより好ましくは0.075ミクロン未満の平均一次粒径を有するナノスケール粒子状充填剤(すなわち、ナノ粒子を含む充填剤)を含む。本明細書で使用するとき、用語「一次粒径」は、非会合型の単一粒子のサイズを指す。平均一次粒径は、硬化した組成物の細長い試料を切断し、300,000倍で透過電子顕微鏡を使用して約50〜100個の粒子の粒径を測定し、平均を計算することにより、決定することができる。充填剤は、単峰性又は複峰性(例えば、二峰性)の粒径分布を有することができる。ナノスケール粒子状物質は、典型的には、少なくとも約2ナノメートル(nm)、並びに好ましくは少なくとも約7nmの平均一次粒径を有する。好ましくは、ナノスケール粒子状物質は、約50nm以下、より好ましくは約20nm以下のサイズの平均一次粒径を有する。このような充填剤の平均表面積は、好ましくは約20平方メートル毎グラム(m/g)、より好ましくは少なくとも約50m/g、並びに最も好ましくは少なくとも約100m/gである。
【0118】
一部の好ましい実施形態では、組成物は、シリカナノ粒子を含む。好ましいナノサイズのシリカはNalco Chemical Co.(Naperville,IL)から製品表記NALCO COLLOIDAL SILICASで市販されている。例えば、好ましいシリカ粒子は、NALCO製品1040、1042、1050、1060、2327、及び2329を使用することで得られる。
【0119】
シリカ粒子は、好ましくは、シリカの水性コロイド分散系(すなわち、ゾル又はアクアゾル)から製造される。コロイドシリカは、典型的には、シリカゾル中に約1〜50重量パーセントの濃度で存在する。使用できるコロイドシリカゾルは、様々なコロイドサイズを有して市販されており、Surface & Colloid Science,Vol.6,ed.Matijevic,E.,Wiley Interscience,1973を参照されたい。好ましいシリカゾルは、水性媒質中の水性シリカ分散体として供給されており(例えば、Nalco Chemical Company製のNalcoコロイドシリカ)、ナトリウム濃度が低く、好適な酸と混合することにより酸性化することができる(例えば、E.I.Dupont de Nemours & Co.製のLudoxコロイドシリカ又はNalco Chemical Co.からのNalco 2326)。
【0120】
好ましくは、ゾル中のシリカ粒子は、約5〜100nm、より好ましくは10〜50nm、並びに最も好ましくは12〜40nmの平均粒径を有する。特に好ましいシリカゾルは、NALCO 1041である。
【0121】
一部の実施形態では、組成物は、ジルコニアナノ粒子を含む。好適なナノサイズのジルコニアナノ粒子は、米国特許第7,241,437号(Davidsonら)に記載されているように水熱技術を使用して調製することができる。
【0122】
一部の実施形態では、より低い屈折率の(例えば、シリカ)ナノ粒子は、重合性樹脂の屈折率に充填剤の屈折率を調和させる(0.02以内の屈折率)ために、より高い屈折率の(例えば、ジルコニア)ナノ粒子と組み合わせて採用される。
【0123】
一部の実施形態では、ナノ粒子は、ナノクラスター、すなわち、樹脂中に分散した場合でも粒子を凝集させる比較的弱い分子間力により会合した2個以上の粒子の集団の形態である。好ましいナノクラスターは、非重(例えば、シリカ)粒子とジルコニアなどの非晶質重金属酸化物(すなわち、原子番号が28よりも大きい)粒子の実質的に非晶質のクラスターを含むことができる。ナノクラスターの粒子は、好ましくは、約100nm未満の平均直径を有する。好適なナノクラスター充填剤は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,730,156号(Windischら)に記載されている。
【0124】
一部の好ましい実施形態では、組成物は、充填剤と樹脂の間の結合を強化するために、有機金属カップリング剤で処理されたナノ粒子及び/又はナノクラスター表面を含む。有機金属カップリング剤は、アクリレート、メタクリレート、ビニル基及びこれらに類するものなどの反応性硬化基で官能化され得る。
【0125】
好適な共重合性有機金属化合物は、次の一般式を有し得る:CH=C(CHSi(OR)又はCH=C(CHC=OOASi(OR);式中、mは0又は1であり、Rは1〜4個の炭素原子を有するアルキル基であり、Aは二価有機結合基であり、nは1〜3である。好ましいカップリング剤としては、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びこれらに類するものが挙げられる。
【0126】
一部の実施形態では、表面改質剤の組み合わせが有用な可能性があり、剤の少なくとも1つは、硬化性樹脂と共重合可能な官能基を有する。硬化性樹脂と一般に反応しない他の表面改質剤が、分散性又はレオロジー特性を強化するために含まれ得る。この種類のシランの例としては、例えば、アリールポリエーテル、アルキル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシアリール、又はアミノアルキル官能性シランが挙げられる。
【0127】
表面改質は、モノマーとの混合に続いて又は混合後のいずれかで行うことができる。樹脂へ組み込む前に、オルガノシラン表面処理化合物をナノ粒子と組み合わせることが一般的に好ましい。表面改質剤の必要量は、粒子サイズ、粒子タイプ、変性剤の分子量、及び変性剤のタイプのようないくつかの要素に依存する。一般的には、ほぼ単層の変性剤を粒子の表面に付着させることが好ましい。
【0128】
表面改質ナノ粒子は、実質的に完全に凝縮可能である。完全凝縮ナノ粒子(シリカを例外として)は、典型的には、55%を超える、好ましくは60%を超える、より好ましくは70%を超える結晶化度(単離金属酸化物粒子として測定した場合)を有する。例えば、結晶化度は、約86%まで又はそれ以上の範囲にすることができる。結晶化度は、X線回折法によって割り出すことができる。凝縮結晶性のナノ粒子(例えばジルコニアナノ粒子)は屈折率が高く、非晶質ナノ粒子は典型的には屈折率がより低い。
【0129】
場合により、組成物は、溶媒(例えば、アルコール(例えば、プロパノール、エタノール)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エステル(例えば、酢酸エチル)、他の非水性溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリジノン))、及び水を含有してもよい。
【0130】
所望により、組成物は、添加剤、例えば、インジケーター、色素、顔料、阻害剤、促進剤、粘度調整剤、湿潤剤、緩衝剤、ラジカル及びカチオン性安定剤(例えば、BHT)、並びに、当業者には明白である他の類似成分を含有することができる。硬化性組成物は、様々な他のエチレン性不飽和モノマー、オリゴマー及びポリマー、並びに、当該技術分野において既知の添加剤、例えば、米国特許仮出願第61/289,098号表題「CURABLE DENTAL COMPOSITIONS AND ARTICLES COMPRISING POLYMERIZABLE IONIC LIQUIDS」(参照により本明細書に組み込む)に記載のものなどを含み得る。
【0131】
本発明は、例示の接着剤のような歯科用接着剤、例示のコーティングのような歯科用シーラント及び高機械強度を有する例示の物品のような歯科用複合材などの様々な歯科用組成物を参照しながら更に例示される。歯科用複合材などの物品は、成形型に接触させながら硬化性組成物を流延し、組成物を硬化させることにより、本明細書に記載の硬化性組成物から製造することができる。歯科用複合材などの物品は、別の方法としては、まず組成物を硬化させ、次に組成物を所望の物品に機械的にミリングすることにより製造することができる。
【0132】
従来の(例えば、(メタ)アクリレート)エチレン性不飽和モノマーと組み合わせた重合性イオン液体の硬化性ブレンドは、様々な他の用途に、特に(例えば、光)硬化性コーティングに、使用することができる。コーティングされた物品は、本明細書に記載の組成物を基材に適用し、組成物を硬化させることにより、調製することができる。
【0133】
硬化性ブレンドは、様々な基材に適用することができる。好適な基材材料としては、ガラス又はセラミックスなどの無機基材、紙、木材などの天然及び合成有機基材、並びに、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート(例えば、ポリメチルメタクリレート若しくは「PMMA」)、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン若しくは「PP」)、ポリウレタン、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート若しくは「PET」)、ポリアミド、ポリイミド、フェノール樹脂、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリルコポリマー、エポキシ及びこれらに類するものなどの熱硬化性又は熱可塑性ポリマーが挙げられる。基材の厚さも、通常、意図された用途次第である。大部分の用途に関しては、約0.5mm未満の基材の厚さが好ましく、そしてより好ましくは約0.02〜約0.2mmである。基材と硬化性コーティング組成物との間での接着を改善するために、例えば化学処置、空気又は窒素コロナなどのコロナ処置、プラズマ、火炎又は化学放射線などによって基材を処理することができる。所望される場合には、中間相接着を向上させるために、追加の結合層又は(例えば、重合性イオン液体系)下塗剤を基材に適用することができる。
【0134】
硬化性コーティング組成物は、様々な従来のコーティング方法を用いて適用することができる。好適なコーティング法としては、例えば、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、ダイコーティング法、ワイヤコーティング法、フラッドコーティング法、パジング法、スプレー法、ロールコーティング法、ディッピング法、ブラシ法、泡塗布法などが挙げられる。コーティングは、典型的には強制通気炉を用いて乾燥させる。乾燥させたコーティングを、エネルギー源を用いて、少なくとも部分的に、そして典型的には完全に硬化させる。
【0135】
目的及び利点は、以下の実施例によって更に例示されるが、これらの実施例において列挙された特定の材料及びその量は、他の諸条件及び詳細と同様に、本発明を不当に制限するものと解釈すべきではない。別段の指定がない限り、部及び百分率はすべて、質量基準である。
【実施例】
【0136】
【表1】
【0137】
重合性イオン液体の合成
【0138】
「PIL A」の調製−調製例1
【0139】
【化16】
【0140】
ブチルイミダゾール(4.82g、0.04mol)とBHT(0.015g)とメタノール(50mL)を電磁撹拌器を備えたフラスコの中で混合した。2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸(8.05g、0.04モル)及びメタノール(50mL)を室温にて添加した。酸は30分で完全に溶解した。反応物を室温で一晩撹拌した。次に、溶媒を減圧下にて除去して、粘稠な液体を生じさせた。
【0141】
「PIL A−1」の調製−調製例2
【0142】
【化17】
【0143】
炭酸水素1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(Aldrich、メタノール:水(2:3)中50%溶液、16g、0.04mol)とBHT(0.010g)とメタノール(20mL)を電磁撹拌器を備えたフラスコの中で混合した。2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸(8.28g、0.04モル)及びメタノール(60mL)を室温水浴でフラッシュ冷却しながら添加した。二酸化炭素が発生し、混合物は透明になった。反応物を室温で4時間にわたって撹拌した。溶媒のメタノール及び水を減圧下で除去して、粘稠な液体を得た。
【0144】
PIL Bの調製
【0145】
【化18】
【0146】
n−ブチルアミン(0.993g、14mmol、Aldrich)とメタクリルオキシエチルアクリレート(5.00g、27mmol、Klee,J.E.ら、Macromol.Chem.Phys.,200,1999,517に従って調製)の混合物を室温にて24時間にわたって撹拌した。中間生成物は、無色液体であった。
【0147】
上記からの中間生成物(2.00g、4.5mmol)に硫酸ジメチル(0.57g、4.5mmol)を10分にわたって滴加した。混合物を17時間にわたって撹拌して、粘性液として最終PIL生成物を得た。
【0148】
PIL−C(「POS−2」)の調製
【0149】
重合性オニウム塩2(POS−2):以下の式により表される:
【0150】
【化19】
【0151】
乾燥チューブと電磁撹拌器とを取り付けたフラスコ内のメチル硫酸トリス−(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム(11.58g、0.04mol、BASFから入手可能)とイソシアナトエチルメタクリレート(19.58g、0.12mol)と2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT、0.020g、Aldrichから入手可能)の塩化メチレン(50mL)溶液に一滴のジラウリン酸ジブチル錫を添加した。溶液を氷浴中で冷却し、3時間にわたって撹拌し、次に、室温に加温し、撹拌を更に36時間にわたって続けた。反応の進行を赤外分光法によりモニターし、イソシアネート吸収の消失を観察した。反応が完了してから、溶媒を減圧下で除去し、非常に粘稠な液体を得た。
【0152】
PIL Dの調製
【0153】
【化20】
【0154】
撹拌した、メチル硫酸トリス−(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム(17.38g、0.06mol)とコハク酸モノ−2−(メタクリロイルオキシ)エチル(41.42g、0.18mol、Aldrichから入手可能)と4−ジメチルアミノピリジン(1.098g、0.009mol、Aldrichから入手可能)のエチルアセテート(150mL)氷冷溶液に、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、37.1g、0.18mol、Aldrichから入手可能)のエチルアセテート(150mL)溶液を2時間にわたって滴下して添加した。DCC溶液を添加した後、反応混合物の温度を段階的に室温まで上昇させておき、次に、反応物を14時間にわたって撹拌した。次に、0.5gの脱イオン水と2.0gのシリカゲルをフラスコの中に添加し、反応混合物を1時間にわたって撹拌した。次に、混合物を濾過し、減圧下で溶媒を濾液から除去して、わずかに黄色を有する非常に粘稠な液体を得た。
【0155】
PIL Eの調製
【0156】
【化21】
【0157】
バイアル瓶の中に1.000g(6.2mmol)のN,N−ジメチルビニルベンジルアミン(異性体の混合物、Aldrich)と1.428g(6.2mmol)のコハク酸モノ−(メタクリルオキシ)エチル(Aldrich)を配置した。5分にわたって混合した後、液体生成物を得た。
【0158】
PIL Fの調製
【0159】
【化22】
【0160】
バイアル瓶の中に1.000g(6.2mmol)のN,N−ジメチルビニルベンジルアミン(異性体の混合物、Aldrich)と1.726g(6.2mmol)のフタル酸モノ−(メタクリルオキシ)エチル(Aldrich)を配置した。5分にわたって混合した後、液体生成物を得た。
【0161】
PIL Gの調製
【0162】
【化23】
【0163】
ジメチルアミノエチルメタクリレート(56.62g、0.36mol)とProstab 5198(17mg)とフタル酸モノ−2−(メタクリルオキシ)エチル(Aldrich、100.00g、0.36mol)の混合物を瓶の中に配置した。瓶に蓋をし、室温で17時間にわたって回転させた。無色の油を得た。
【0164】
PIL Hの調製
【0165】
【化24】
【0166】
ジメチルアミノエチルアクリレート(51.47g、0.36mol)とProstab 5198(17mg)とフタル酸モノ−2−(メタクリルオキシ)エチル(100.00g、0.36mol)の混合物を瓶の中に配置した。瓶に蓋をし、室温で17時間にわたって回転させた。無色の油を得た。
【0167】
PIL Iの調製
【0168】
【化25】
【0169】
電磁撹拌器を備えたフラスコにN−(3−アミノプロピル)イミダゾール(Alfa Aesar、2.55g、0.02mol)とテトラヒドロフラン(Alfa Aesar、30mL)を配置した。フラスコを氷浴中で冷却しながら2−イソシアナトエチルメタクリレート(昭和電工株式会社(日本)、3.26g、0.02mol)を30分にわたって滴加した。3時間後、フタル酸モノ−2−(メタクリルオキシ)エチル(5.67g、0.02mol)とテトラヒドロフラン(10mL)を添加し、混合物を室温にて3時間にわたって撹拌した。溶媒を減圧下で除去して、粘性液体生成物を得た。
【0170】
窒素に対する空気の硬化発熱比率の測定:
【0171】
光示差走査熱量測定(光DSC)を使用して、N2及び空気の下でのモノマーの光重合挙動を調査した。光DSCは、TA instrument(New Castle,DE)のDSCモジュール2920を用いた。光源は、Oriel PN 59480 425nmロングパス光フィルターを取り付けた水銀/アルゴンランプであった。光の強度は3mW/cmであり、モデルXRL、340A検出器を装備したInternational Light光測定機モデルIL 1400を用いて測定した。光硬化性試料は、光開始剤パッケージとして0.5%のカンファーキノン(Sigma−Aldrich)と1.0%のエチル4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエート(Sigma−Aldrich)と1.0%のジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスファートを含有した。10mgの硬化した試料を対照として使用した。
【0172】
試料ホルダーとしてHermetic Pan(アルミニウム試料パン)を用い、試験のために約10mgの試料を精確に計量した。試料を37℃にて5分にわたって平衡化し、次に、光開口部を開けて試料を照射した。照射中、試料温度を37℃に保った。総照射時間は30分であった。30分後、開口部を閉じ、試料を更に5分にわたって37℃に維持した。それぞれ窒素及び空気環境下で試料を試験した。
【0173】
データを単位重量当たりの熱出力(mW/g)で収集した。TA Thermal Solutions Universal Analysisソフトウェアを使用して、データを分析した。
【0174】
モノマーは一度窒素下で実行し、次に、同一試料を空気下で実行した。DSCは、曝露中に硬化している試料からの発熱を記録し、曲線下の面積を積分して、モノマーの総ジュール/グラムを得た。試料が空気中で硬化した際に生じた熱を、試料が窒素中で硬化した際に生じた熱で除算して、硬化比率を得た。高い比率ほど、酸素阻害が少ないことを示す。
【0175】
【表2】
【0176】
【表3】
【0177】
【表4】
【0178】
歯牙硬組織に対する歯科用接着剤と歯科用シーラントの結合強度を評価するための試験方法
ポッティングしたウシの歯を120グリットのサンドペーパーを用いて削って、エナメル質又は象牙質を暴露し、その後、歯を320グリットのサンドペーパーを用いて更に磨いて、表面を滑らかにした。ウシの歯の表面を圧縮空気流を3秒にわたって適用することにより乾燥させ、次に、一滴の下塗剤を適用し、20秒にわたって磨き、圧縮空気流により20秒にわたって乾燥させ、次に薄層の接着剤を20秒にわたって磨きながら適用した(接着剤組成は下記)。次に歯科用硬化灯(dental blue curing)(3M ESPE Elipar Freelight 2)を20秒にわたって使用しながら、下塗剤及び接着剤組成物を20秒にわたって硬化させた。シートを通る直径4.7mmの孔を有する2.5mm厚「Teflon」シートから製造した予め調整しておいた成形型を、調整済みの歯それぞれに、成形型の孔の中心軸が歯表面に対して垂直になるように取り付けた。各成形型の孔を可視光線硬化性歯科用修復材(3M ESPEから「Filtek(商標)Z250 Restorative」A2 shadeとして入手可能)で充填し、歯科用硬化灯での20秒照射にかけて硬化させた。歯及び成形型を室温で約5分にわたって静置しておき、次に、特に記載のない限り、37℃にて蒸留水中に24時間にわたって保存した。次に、それぞれの歯についた修復材の成形ボタンは残したまま、成形型を歯から注意深く取り外した。
【0179】
磨いた歯の表面を引張方向に平行に配向した「Instron 1123」装置のつかみ具に取り付けたホルダーにアクリル盤を取り付け、ワイヤーループ方法を利用して、接着強度を評価した。歯科矯正用ワイヤ(直径0.44mm)のループを、磨いた歯表面と隣接する修復材ボタンの周りに配置した。歯科矯正用ワイヤの末端をInstron装置の引張つかみ具に取り付け、これにより、剪断応力に対して結合体を配置した。2mm/分のクロスヘッド速度を用いて結合体(又は象牙質若しくはボタン)が外れるまで、結合体に応力印加した。下塗剤と接着剤の各セットについて、5個の接着試料を準備した。
【0180】
【表5】
【0181】
【表6】
【0182】
実施例1−歯科用接着剤
【0183】
【表7】
【0184】
歯科用接着剤(実施例1)と組み合わせた重合性イオン液体を有さず、重合性イオン液体を含む従来の歯科用接着剤(対照下塗剤A)を使用した試験結果は、以下の通りであった:
【0185】
【表8】
【0186】
実施例2−歯科用接着剤
【0187】
【表9】
【0188】
Dental Primer Bを下塗剤として使用し、実施例2の歯科用接着剤(すなわち、PIL Cを含有)を先述と同じ方法で評価し、対照歯科用接着剤と比較した。
【0189】
【表10】
【0190】
結果は、重合性イオン液体系接着剤と組み合わせた重合性イオン液体系下塗剤で、最も高い固着強度が達成されたことを示す。
【0191】
【表11】
【0192】
実施例3−歯科用シーラント
【0193】
【表12】
【0194】
実施例4−歯科用シーラント
【0195】
【表13】
【0196】
【表14】
【0197】
複合材を評価するための試験方法:
【0198】
ワッツ(Watts)収縮試験方法
ワッツ収縮(ワッツ)試験方法は、硬化後の体積変化により、試験試料の収縮を測定する。試料調製(90mgの非硬化複合材の試験試料)及び試験手順は、次の参考文献に記載されたように行なわれた:Determination of Polymerization Shrinkage Kinetics in Visible−Light−Cured Materials:Methods Development,Dental Materials,October 1991,pages 281〜286。縮合パーセントの点での結果を各試料について3つの反復の平均として報告した。
【0199】
バーコル硬度試験方法
試験試料のバーコル硬度を、次の手順に従って測定した。非硬化複合材の試料を、ポリエステル(PET)フィルムのシートとガラススライドとの間に挟まれた厚さ2.5mmのTEFLON成形型の中で30秒にわたって硬化させ、ELIPAR Freelight 2歯科硬化灯(3M Company)で硬化させた。照射後、PETフィルムを除去し、成形型の上面と底面との両方での試料の硬度を、インデンターを備えたBarber−Coleman Impressor(手持ち式の携帯用硬度テスター;モデルGYZJ 934−1;Barber−Coleman Company,Industrial Instruments Division,Lovas Park,Ind.)を使用して測定した。光曝露の5分後に、上面及び底面のバーコル硬度値を測定した。結果を3個の測定値の平均として報告した。
【0200】
ダイヤメトラル引張強度(DTS)試験方法
試験試料のDTDを以下の手順に従って調製した。非硬化試料を4mm(内径)のガラス管に注入した;ガラス管にシリコーンゴムプラグで蓋をした;その後、軸方向におよそ2.88kg/cmの圧力で5分にわたって管を圧縮した。その後、XL 1500歯科硬化灯(3M Company(St.Paul,Minn.))への曝露により試料を80秒にわたって光硬化させ、続いてKulzer UniXS硬化ボックス(Heraeus Kulzer GmbH,Germany)内で90秒にわたって照射した。硬化試料を約37℃/90%+相対湿度に1時間置いた後、ダイアモンドのこぎりで切断し、圧縮強度の測定のための長さ8mmの円筒形のプラグを形成した。試験に先立ち、プラグを蒸留水中に37℃で約24時間にわたって保存した。測定は、ISO Specification 7489(又はAmerican Dental Association(ADS)規格No.27)に従って、10キロニュートン(kN)ロードセルを用い、クロスヘッド速度1mm/分でInstronテスター(Instron 4505、Instron Corp.(Canton,Mass.))で行なわれた。硬化試料の5つのシリンダーを調製して測定し、結果を5つの測定値の平均としてMPaで報告した。
【0201】
以下の実験のそれぞれについて、対照歯科用複合材は、3M ESPEから商品名「Filtek(商標)Z250 Restorative」で入手可能な市販の歯科用材料であった。
【0202】
実施例5−歯科用複合材
【0203】
【表15】
【0204】
メタクリレートモノマーと重合性イオン液体Cと光開始剤とBHTをミディアムカップ中で混合した。Zr/Si充填剤(13g)を添加し、混合速度3500rpmで3分にわたって混合した。混合物を放冷し、追加の5.0gのZr/Si充填剤を添加し、3500rpmにて1.5分にわたって混合した。混合物を再び放冷し、次に1gのZr/Si充填剤を添加し、3500rpmにて1.5分にわたって混合した。冷却後、1.0gのZr/Si充填剤を添加し、3500rpmで1.5分にわたって高速混合した。冷却後、更に1.5分にわたって高速混合して、最終ペーストを得た。
【0205】
【表16】
【0206】
実施例6−歯科用複合材
【0207】
【表17】
【0208】
実施例7−歯科用複合材
【0209】
【表18】
【0210】
【表19】
【0211】
実施例8−歯科用複合材
【0212】
【表20】
【0213】
【表21】
【0214】
実施例9−歯科用複合材
【0215】
【表22】
【0216】
液体構成成分を3500rpmで2.5分にわたって混合し、透明な溶液を形成した。1.0gの20nmシリカナノマー充填剤と9.0gのSi/Zrナノクラスター充填剤をまず混合し、次に樹脂中に添加し、2000rpmにて1分にわたって高速混合し、次に、3500rpmにて2分にわたって高速混合した。20nm Siナノマー充填剤(0.3g)とSi/Zrナノクラスター充填剤(2.97g)を添加し、次に3500rpmにて2分にわたって高速混合した。20nm Siナノマー充填剤(0.3g)とSi/Zrナノクラスター充填剤(2.70g)を添加し、次に3500rpmにて2分にわたって高速混合して、最終ペーストを得た。
【0217】
【表23】
【0218】
紫外線硬化透明コーティング実施例:
示された重合性イオン液体と他のモノマー(HEMA又はTEDGMA、Aldrich製)と紫外線開始剤(BASFから入手可能なTPO−L、又は、Cibaから入手可能なDarocur 1173)を高速混合カップ内で混合して、透明な溶液を形成した。一滴のコーティング材料を綿棒でガラススライド上に滴下し、この綿棒で溶液を広げた。コーティングしたガラススライドに空気雰囲気下でFusion F 300紫外線硬化ラインを通過させた。紫外線Hバルブを用い、紫外線強度を以下のように空気中で9fpm(274.3センチメートル毎分)にて測定した:歯科全エネルギー(mJ/cm)は、UVAは1004、UVBは987、UVCは153、UVVは1232であった。
【0219】
ニトリル手袋を用い、硬化したコーティングを手で触って、硬化度をチェックした。硬化度を硬化又は未硬化として評価付けし、表面阻害を、掴んでもコーティング液塗布層の移動無し、又は、掴むと塗布層が移動する、として評価付けした。詳細な配合、硬化速度及び硬化結果を下表に列挙する。
【0220】
【表24】
【0221】
結果は、重合性イオン液体を含有させることで空気中での硬化を改善できることを示す。実施例13、18、19及び22は、Darocur 1173光開始剤がPIL−DとHEMA又はTEGMAのブレンドに好ましいことを示す。
【0222】
紫外線硬化白色コーティング実施例:
示された重合性イオン液体とTEGDMAと二酸化チタン(TiO)と紫外線開始剤(Ciba製Darocur 1173)を高速混合カップ内で混合して、白色コーティング組成物を形成した。一滴のコーティング材料を綿棒でガラススライド上に適用し、この綿棒で溶液を広げた。コーティングしたガラススライドに空気雰囲気下でFusion F 300紫外線硬化ラインを通過させた。紫外線Hバルブを用い、紫外線強度を以下のように空気中で9fpm(274.3センチメートル毎分)にて測定した:歯科全エネルギー(mJ/cm)は、UVAは1004、UVBは987、UVCは153、UVVは1232であった。
【0223】
硬化後に綿棒を使用して試料に触れて、硬化度をチェックした。硬化度を硬化又は未硬化として評価した。詳細な配合、硬化速度及び硬化結果を下表に列挙した。
【0224】
【表25】