(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5800881
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】射出成形機の金型取付盤
(51)【国際特許分類】
B29C 45/66 20060101AFI20151008BHJP
B22D 17/26 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
B29C45/66
B22D17/26 Z
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-230556(P2013-230556)
(22)【出願日】2013年11月6日
(65)【公開番号】特開2015-89651(P2015-89651A)
(43)【公開日】2015年5月11日
【審査請求日】2014年11月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西村 成弘
【審査官】
伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−111018(JP,A)
【文献】
特開2007−253458(JP,A)
【文献】
特許第4364924(JP,B2)
【文献】
特開2008−100504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/64−45/68,
45/76
B22D 17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形機の金型取付盤において、
該金型取付盤は金型取付部材と型締力伝達部材により構成され、
前記金型取付部材と前記型締力伝達部材の少なくとも一方の部材の中央部には中央部座面が設けられ、
前記中央部座面の外側に、前記中央部座面を取り囲む形状の周辺部座面が設けられ、
前記中央部座面と前記周辺部座面との間にくぼみ部が設けられ、
前記中央部座面は前記周辺部座面より、前記くぼみ部のくぼみ方向とは逆方向かつ型開閉方向の突き出し量が大きいこと
を特徴とする射出成形機の金型取付盤。
【請求項2】
前記中央部座面と前記周辺部座面の突き出し量の差は、
定格型締力発生時に、前記周辺部座面近傍における、前記型締力伝達部材に生じる型開閉方向の変形量より大きいこと
を特徴とする請求項1に記載の射出成形機の金型取付盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機において用いられる金型取付盤に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、ベースフレームに固定された固定プラテンに対し、垂直に配置された複数本のタイバーに沿って移動する可動プラテンを有している。また、射出成形機の型締機構においては、可動プラテンとリアプラテンがトグル機構によって連結されており、トグル機構のリンクを伸長することによってタイバーを伸ばして型締力を発生させる。
【0003】
図10は、従来の一般的な射出成形機のトグル式型締機構を示した図である。1は可動プラテンであり、2は固定プラテンである。また、3はタイバーであり、可動プラテン1がこのタイバー3に沿って
図10における左右方向に移動するように構成されている。タイバー3は、固定プラテン2の、可動プラテン1側とは反対側の面のタイバー固定部6において固定されている。
可動プラテン1及び固定プラテン2には、それぞれ互いに向かい合うように可動側金型5と固定側金型4が設けられている。また、可動プラテン1の、固定プラテン2とは反対側には、トグルリンク機構71が設けられており、このトグルリンク機構71によって可動プラテン1側の型締力が可動側金型5に伝達される。
【0004】
図10に示されているように、従来の射出成形機においては、タイバー3を固定するタイバー固定部6は固定プラテン2の四隅に設けられており、トグルリンク機構71のトグルリンク支点7は、可動プラテン1の外側上下2か所に設けられている。このような構成を採用した場合、固定側金型4と可動側金型5との接合面は、外側ほど面圧が大きくなり、中央部の面圧が小さいものとなるおそれがある。
【0005】
この課題を解決するための技術として、以下の特許文献に開示されているような技術がある。
特許文献1には、固定プラテンと可動プラテンの支持機構として、四角錐型の支持機構を用い、この支持機構の先端部において固定プラテンと可動プラテンを支えるようにすることで、中央部において型締力を発生させるようにする技術が開示されている。
特許文献2には、可動側金型を取り付ける金型取付面に歪みが発生するのを防止するために、トグルリンク支点と金型取付面との間に、歪み発生防止のための切り欠きを設ける技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、固定プラテン、可動プラテンと型締力伝達部材の周辺部との間に、着脱自在の当接部材を設け、金型の大きさに応じて当接部材を装着したり脱着することにより、型締力伝達部材の型締力の伝達を制御する技術が開示されている。
さらに、特許文献4には、金型取付面の周辺部に固定側金型と可動側金型の接合面に沿って生じる圧力差を減少させる面圧調整部としての延設部を設けるようにする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−258103号公報
【特許文献2】特開平11−170322号公報
【特許文献3】特開2007−253458号公報
【特許文献4】特開2010−111018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2に開示されている技術は、中央部のみで押圧したり、周辺部において切り欠きを設けて型締力が伝達しないようにすることによって、中央部の面圧が小さくなることは低減できる。しかしながら、このような構成は金型が中央部のみに配置されている場合には適しているが、金型が縦長や横長になり、特許文献1における分割したプラテンの結合部外側や、特許文献2における切り欠きを設けた部分に金型が及ぶ場合には、周辺部における型締力の伝達が弱くなるため、成形品の寸法不良やバリが発生するおそれがある(
図11参照)。
【0009】
特許文献3に開示されている技術は、型締力伝達部材である当接部材を装着したり脱着したりすることによって、周辺部への型締力の伝達を制御しているが、当接部材を追加で設ける必要があり、さらに金型の大きさ等によって当接部材の装着及び脱着を行う機構を追加したり、人手によって当接部材の着脱を行う必要があるなど、機構が複雑となったり操作が煩雑となるおそれがある。
特許文献4に開示されている技術は、周辺部に結合用の座面を設けているため、縦長や横長の金型には適しているが、逆に型締力を中央に集める効果が小さくなるため、金型が中央部のみに設けられている場合に、型締力の低下などの不具合が生じるおそれがある。
【0010】
そこで本発明は、金型の大きさや形状にかかわらず、最適な型締力を伝達することが可能な射出成形機の金型取付盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の請求項1に係る発明では、射出成形機の金型取付盤において、該金型取付盤は金型取付部材と型締力伝達部材により構成され、前記金型取付部材と前記型締力伝達部材の少なくとも一方の部材の中央部には中央部座面が設けられ、前記中央部座面の外側に
、前記中央部座面を取り囲む形状の周辺部座面が設けられ、前記中央部座面と前記周辺部座面との間にくぼみ部が設けられ、前記中央部座面は前記周辺部座面より、前記くぼみ部のくぼみ方向とは逆方向かつ型開閉方向の突き出し量が大きいことを特徴とする射出成形機の金型取付盤が提供される。
【0012】
請求項1に係る発明では、金型取付部材と型締力伝達部材の少なくとも一方の部材の中央部に中央部座面が設けられ、その外側に
、中央部座面を取り囲む形状の周辺部座面が設けられて、両者の間にくぼみ部が設けられて、中央部座面のくぼみ部からの突き出し量が、周辺部座面の突き出し量よりも大きく構成されているため、金型の大きさがさほど大きくなく、中央部のみに設けられているときには、中央部座面が接触して金型取付部材と型締力伝達部材が結合され、金型が縦長や横長のものであるときは、金型に加わる力により、中央部座面に加えて周辺部座面においても接触して金型取付部材と型締力伝達部材が結合されることで、周辺部においても型締力が伝達されるようになり、金型の大きさや形状にかかわらず、最適な型締力を提供することが可能となる。
【0013】
本願の請求項2に係る発明では、前記中央部座面と前記周辺部座面の突き出し量の差は、定格型締力発生時に、前記周辺部座面近傍における、前記型締力伝達部材に生じる型開閉方向の変形量より大きいことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機の金型取付盤が提供される。
請求項2に係る発明では、中央部座面と周辺部座面との突き出し量の差が、定格型締力発生時の周辺部座面近傍における型締力伝達部材に生じる型開閉方向の変形量より大きく構成されているため、定格型締力発生時に型締力伝達部材の変形のみで金型取付部材に接触することがない。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、金型の大きさや形状にかかわらず、最適な型締力を伝達することが可能な射出成形機の金型取付盤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態における射出成形機のトグル式型締機構を示した図である。
【
図3】金型取付部材の(a)は正面図、(b)は
図3(a)のA−A線における断面図である。
【
図4】金型取付部材と型締力伝達部材を型締力を発生させずに接触させた状態を示す断面図である。
【
図5】成形品が中央部に配置された一般的な金型を用いたときのプラテンの変形の様子を示した図である。
【
図6】縦長の金型を用いたときのプラテンの変形の様子を示した図である。
【
図7】型締力伝達部材に中央部座面及び周辺部座面を設けた様子を示した図である。
【
図8】金型取付部材と型締力伝達部材の双方に中央部座面及び周辺部座面を設けて接触させた様子を示した断面図である。
【
図10】従来の射出成形機のトグル式型締機構を示した図である。
【
図11】従来技術における可動プラテンの変形の様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面と共に説明する。
図1は、本実施形態の射出成形機のトグル式型締機構を示した図である。1は可動プラテンであり、2は固定プラテンである。また、3はタイバーであり、可動プラテン1がこのタイバー3に沿って
図1における左右方向に移動するように構成されている。タイバー3は、固定プラテン2の、可動プラテン1とは反対側の面のタイバー固定部6において固定されている。
可動プラテン1及び固定プラテン2には、それぞれ互いに向かい合うように可動側金型5と固定側金型4が設けられている。また、可動プラテン1の、固定プラテン2とは反対側には、トグルリンク機構71が設けられており、このトグルリンク機構71によって可動プラテン1側の型締力が可動側金型5に伝達される。
【0017】
本実施形態の射出成形機のトグル式型締機構においては、可動プラテン1及び固定プラテン2がそれぞれ金型取付部材と型締力伝達部材に分割されており、それぞれ可動プラテン1は、可動側金型取付部材1aと可動側型締力伝達部材1b、固定プラテン2は、固定側金型取付部材2aと固定側型締力伝達部材2bとに分割されている。
【0018】
図2及び
図3は、可動側金型取付部材1aを示した図であり、
図2は可動側金型取付部材1aの斜視図、
図3(a)は正面図、
図3(b)は
図3(a)のA−A線における断面図である。
図2及び
図3に示されているように、可動側金型取付部材1aの可動側金型5を取り付ける面と反対側の面の中央部には中央部座面8が設けられており、周辺部には中央部座面8を取り囲むように周辺部座面9が設けられている。また、中央部座面8と周辺部座面9との間には、くぼみ部10が設けられている。
【0019】
本実施形態においては、中央部座面8と周辺部座面9は可動側金型取付部材1aと同一の部材により一体に形成されているが、別体として、中央部座面8や周辺部座面9を可動側金型取付部材1aに取り付けるようにすることもできる。また、
図3(b)の断面図に示されているように、本実施形態においては、くぼみ部10は断面四角形の形状で構成されているが、この形状に限ったものではなく、例えば底面部が球面状などの曲面状に構成された形状など、他の形状で構成することもできる。
【0020】
図3(b)の断面図に示されているように、中央部座面8と周辺部座面9は、いずれもくぼみ部10のくぼみ方向とは反対方向、すなわち可動側金型取付部材1aの可動側金型5の取付面側とは反対方向に突出しており、その突出量が、周辺部座面9よりも中央部座面8の方がδだけ大きくなるように構成されている。このδ分の段差により、可動側金型取付部材1aを可動側型締力伝達部材1bに取り付ける際には、可動側金型取付部材1aの中央部座面8が可動側型締力伝達部材1bに接触するように取り付けられる。δの大きさとしては、可動側金型取付部材1aや可動側型締力伝達部材1bの剛性において適宜設定可能であるが、0.2〜2mm程度とすることが好ましい。
【0021】
図4は、可動側金型取付部材1aを可動側型締力伝達部材1bに取り付けた断面図である。型締力が発生していないときには、
図4に示されているように、可動側金型取付部材1aの中央部座面8の箇所において可動側型締力伝達部材1bに接触しており(結合部11)、周辺部座面9の箇所においては可動側型締力伝達部材1bとの間に隙間δ分の段差がある(非結合部12)。隙間δの大きさは、射出成形機ごとに定められた、射出成形機の定格型締力発生時に可動側型締力伝達部材1bに生じる変形量よりも大きくなるように設定する。
【0022】
次に、
図5及び
図6に基づいて、本実施形態の射出成形機の動作について説明する。
図5は、成形品が中央部に配置された一般的な金型の場合を示したものであり、
図6は、縦長の金型を用いた場合を示したものである。
図5のように、成形品が中央部に配置された一般的な金型の場合には、周辺部に金型が配置されていないため、トグルリンク機構71からの型締力13が、中央の中央部座面8のみで伝達され、周辺の周辺部座面9では伝達されない。そのため、型締力を成形品近傍の中央部に集中させることができる。
【0023】
これに対して、
図6のように縦長や横長の金型を使用する場合には、金型が周辺部に配置されているため、トグルリンク機構71からの型締力13を周辺部においても伝達可能である。具体的には、
図6のように金型取付盤の結合部より外側の部分が変形し、周辺部座面9が接触するようになり、外側に配置された成形品の周囲にも型締力が伝達される。
このように、使用する金型の大きさや形状によって、周辺部座面9の接触状態が変化し、金型にあった面圧分布を実現することができ、いずれの金型を用いる場合においてもバリ発生等の成形不良を抑制することが可能となる。
【0024】
以上の説明では、中央部座面8と周辺部座面9を可動プラテン1の可動側金型取付部材1aに設けた例で説明したが、
図7に示されているように、可動側型締力伝達部材1bに設けることもできる。また、可動側金型取付部材1aと可動側型締力伝達部材1bの双方に設けることもできる。
図8は、双方に設けた場合に、可動側金型取付部材1aと可動側型締力伝達部材1bとを接触させた状態の断面図であり、この場合においても、
図5及び
図6に示された、可動側金型取付部材1aのみに中央部座面8と周辺部座面9を設けた場合と同様に、金型の大きさによって、周辺部座面9の接触状態が変化して、金型にあった面圧分布が実現でき、いずれの金型を用いる場合においてもバリ発生等の成形不良を抑制することが可能となる。
【0025】
また、本実施形態では、可動プラテン1の可動側金型取付部材1aや可動側型締力伝達部材1bに中央部座面8や周辺部座面9を設けた例で説明したが、可動プラテン1に代えて、固定プラテン2の固定側金型取付部材2aや、固定側型締力伝達部材2bに中央部座面8や周辺部座面9を設けるようにすることもできるし、可動プラテン1と固定プラテン2の双方の金型取付部材や型締力伝達部材に中央部座面8や周辺部座面9を設けるようにすることもできる。
【0026】
本実施形態においては、周辺部座面9が中央部座面8の周囲を取り囲むように構成した例で説明したが、必ずしも中央部座面8の全周を取り囲むように構成する必要はなく、必要に応じて適宜変形することも可能である。一例として、
図9に示したように、上下のみの部分的に設けるようにすることもできる。
【符号の説明】
【0027】
1 可動プラテン
1a 可動側金型取付部材
1b 可動側型締力伝達部材
2 固定プラテン
2a 固定側金型取付部材
2b 固定側型締力伝達部材
3 タイバー
4 固定側金型
5 可動側金型
6 タイバー固定部
7 トグルリンク支点
71 トグルリンク機構
8 中央部座面
9 周辺部座面
10 くぼみ部
11 結合部
12 非結合部
13 型締力
14 接合面
15 可動側金型