特許第5800892号(P5800892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5800892
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】ディジタル投射用オフ状態光バッフル
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/16 20060101AFI20151008BHJP
   G03B 21/00 20060101ALI20151008BHJP
   H04N 5/74 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
   G03B21/16
   G03B21/00 F
   H04N5/74 Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-508175(P2013-508175)
(86)(22)【出願日】2011年4月27日
(65)【公表番号】特表2013-525861(P2013-525861A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】US2011034025
(87)【国際公開番号】WO2011137136
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2014年3月28日
(31)【優先権主張番号】12/770,081
(32)【優先日】2010年4月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000846
【氏名又は名称】イーストマン コダック カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コールマン ジェシー ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】マッツァレラ ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】キルヒャー ジェームズ ロバート
【審査官】 田井 伸幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−163876(JP,A)
【文献】 特開2005−274749(JP,A)
【文献】 特開2008−292953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/00−26/08
G03B 21/00−21/30
H04N 5/66− 5/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明ビームを発する固体光源と、
その照明ビームの光路上に配置されており複数個の傾斜可能なマイクロミラーを有する空間光変調器であって、個々のマイクロミラーが、傾斜軸に対し、照明ビームがそのマイクロミラーで光軸沿いに偏向されオン状態光となる第1傾斜ポジション、照明ビームがそのマイクロミラーで光軸外に偏向されオフ状態光となる第2傾斜ポジション、並びに照明ビームがそのマイクロミラーで偏向され偏向面上で光路アーチを描く第1・第2傾斜ポジション間傾斜状態を採りうる空間光変調器と、
マイクロミラーからのオフ状態光が辿る光路上に位置し且つ光軸を避けて配置されており、空間光変調器側のマイクロミラーから来るオフ状態光を吸収する光捕捉面を有する光バッフルであって、その光捕捉面が、偏向面に対し略平行な方向を長手方向とする複数本のチャネル、並びに偏向面に対しある傾斜角即ちフィン角をなし且つチャネル間の仕切りとなるよう光捕捉面から外方に向け突設されたフィンを有する光バッフルと、
を備え、ディジタル投射機で使用される光変調アセンブリ。
【請求項2】
請求項1記載の光変調アセンブリであって、上記フィンの形状及び姿勢が、オフ状態光が光捕捉面からの脱出前に複数回の反射を経るよう設定された光変調アセンブリ。
【請求項3】
請求項1記載の光変調アセンブリであって、上記光バッフルが吸光素材製の光変調アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディジタル画像を生成、投射する装置、特に光変調器から出てくる不要なオフ状態光を吸収すること及びその吸光で生じる熱を散ずることが可能な改良型の装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる電子乃至ディジタル式のシネマ投射機(映写機)をハイエンドな在来型のフィルム式投射機と競える水準にするには、40フィート対角オーダのスクリーン上で10000ルーメンの光束を提供できる水準までその輝度を高めることが必要である(1フィート=約0.3m)。スクリーンの規模によっては、5000ルーメンで足りることもあれば、40000ルーメンが必要なこともある。ディジタル映写機には、この切実な輝度条件に加え、2048×1080画素超という高解像度、2000:1程度のコントラスト比、広い色域等といった条件も課されている。
【0003】
市販されているディジタル映写機のなかにはこの水準の性能を提供できそうなものもある。しかし、ディジタル映写機の普及を妨げる取扱・コスト上の大問題がまだ残っている。性能上の所要条件を満たすディジタル投射機を製造するのに往々にして1台当たり50000米ドル超の費用がかかることや、使用している大電力キセノンアークランプを500〜2000時間程度の間隔で交換する必要があることや、その交換に往々にして1000米ドル超の費用がかかることである。
【0004】
ディジタル投射機のうちカラー映写用のものでは空間光変調器(SLM)、例えばディジタルマイクロミラーデバイス(DMD)の一種であり米国テキサス州ダラス所在のTexas Instruments, Inc.によって開発されたディジタル光プロセッサ(DLP(登録商標;以下注記省略))が広範に使用され始めている。DLPを利用した投射機は光スループット、コントラスト比及び色域が良好であり、デスクトップ型投射機から大映画館用投射機に至る様々な用途で期待に沿えることが判明している。DLPデバイスは特許文献1、2及び4(発明者:いずれもHornbeck)をはじめ様々な特許文献に記載されている。重要なことに、DLPデバイスは、レーザ等の固体光源と併用することができる。既知の通り、レーザは他種光源に比しスペクトル純度が高く潜在的に高輝度な点で秀逸である。固体レーザは、エタンデュ、寿命、並びに総合的スペクトル・輝度安定性がことに良好である。レーザを使用することで、照明系のコストを大きく減らすと共に、色域を拡げ、ディジタル映写機に相応しい水準の輝度を実現することができる。レーザアレイ、とりわけVECSEL(垂直拡張共振器面発光レーザ)デバイス、米国カリフォルニア州サニーベール所在のArasorの商品たるNECSEL(ノバラクス拡張共振器面発光レーザ;商品名)デバイス等のVCSELアレイは投射機向けの光源と目されている。
【0005】
レーザによる照明をDLPその他の微細機械デバイスと併用する際に対策すべき諸問題のうち一つは、不要なオフ状態光(ダンプ光)やその吸収による熱が発生することである。オフ状態光はDLPを用いた変調で不可避的に生じる副産物である。なぜそうした光が生じるかを理解するには、ひとまず変調光の光路を辿るのが有益であろう。図1に模式的に示すように、投射機10では、赤,緑,青各色用の光変調アセンブリ40r,40g,40bやそれに対応する光源12r,12g,12bが使用される。光源12r,12g,12bは、順に、赤色レーザ、緑色レーザ、青色レーザ等のローアングル(f/6以上)な固体赤色光源、固体緑色光源12g、固体青色光源12bである。各アセンブリ40r,40g,40b内光路は互いに同一の基本パターンを呈する。光源12r,12g,12bに発する照明ビームは、レンズ50、インテグレータ51その他の調光用光学系を経て薄膜ダイクロイック面68上に入射する。この面68には、入射光がその入射角に応じ反射又は透過していくよう処置が施されている。照明ビームのうちこの面68で反射された部分は、マイクロミラー型SLM60例えばDLPデバイス上に入射し、そのSLM60にて変調され、面68に戻り、その面68を透過してダイクロイック結合器82に達する。結合器82内には光を波長選択的に反射又は透過させるダイクロイック面84が複数個あり、諸アセンブリ40r,40g,40bから来る変調光が投射用光学系70を通る単一の光路に合流するよう配置されているので、SLM60の像が図示しない投射面上に投射されることとなる。
【0006】
投射機例えば図1に示した投射機10でいうと、オフ状態光とは、反射時の偏向の結果、投射面上に達する変調光が辿る光路から外れた不要光のことである。図2に、SLM60例えばDLPに備わるマイクロミラー66によって赤,緑,青各色成分の光がどのように転向されるかを模式的に示す。この側面図中、18はSLM60の表面に入射してきたレーザ照明ビームである。ミラー66は、所与ディジタル画像に係る画像データに従い傾斜させることができ、その対傾斜軸姿勢を第1傾斜ポジション64・第2傾斜ポジション65間で個別に変化させることができる。そのうち第1傾斜ポジション64では、光軸Oに沿うオン状態光(変調光)22となるようビーム18がミラー66によって偏向される。第2傾斜ポジション65では、光軸Oから外れたオフ状態光23となるようビーム18が偏向される。第1傾斜ポジション64・第2傾斜ポジション65間の傾斜状態では、ミラー66でビーム18が偏向され偏向面67上で光路アーチQを描く。
【0007】
発生したオフ状態光23は、シャーシ等に備わる面でランダムに反射されオン状態光22用の光路上に漏れ戻ってしまうことがないよう、何らかの手法で押し込め吸収する必要がある。その漏れ戻りが生じると、画像にコントラスト比低下、色忠実度低下及び全体的画質低下が生じるからである。関連する問題としては、光が強いとその吸収で光変調アセンブリ40r,40g,40bが昇温する、という問題がある。投射機がオーバヒートするのを防ぐにはその熱を逃がす必要がある。この問題は、オフ状態光23の量が画像コンテンツに依存しており、ディジタル映画を構成するフレーム間でその値が変動するため、個々の時点で対策すべきオフ状態光23の量に幾ばくかの予測不可能性がある点で厄介である。
【0008】
不要光を吸収しその結果生じる熱を逃がす策としては、従来から、放熱装置に一群のバッフルを設ける策や、必要に応じそれを強制空冷するという策が採用されている。単一部材に吸光機能と吸熱機能を併有させることで問題に対処することも試みられている。例えば、特許文献3(発明者:Rodriguez,名称:投射機用ハニカム光及び熱トラップ(Honeycomb light and heat trap for projector))に記載のオーバヘッド投射機では、循環光路上に被覆付ハニカム素子を設けることで光捕捉機能と散熱機能を結合させている。特許文献5(発明者:Tausch,名称:光捕捉及び熱輸送装置及び方法(Light trap and heat transfer apparatus and method))に記載の医療用ランプ器具では、メタリックウール素材に不要な光や熱を吸収させている。
【0009】
これらの策については、その性能水準が足りず、強力なレーザ光を扱うディジタル映写機向けでないことが判明している。マイクロミラー型SLM60でのビーム駆動パターンに関わる未解決問題もある。即ち、オン状態光22が生じる第1傾斜ポジション64と、オフ状態光23が生じる第2傾斜ポジション65との間には、マイクロミラー66の枢動に伴い反射光路で光路アーチQが描かれる遷移期間がある。ミラー66の枢動を伴うこの遷移期間は非常に短く1msecにも満たないが、光路アーチに沿った不要光掃引は累積的に影響を及ぼすので、それに対処し不要光やそれによる発熱を減らすのは面倒である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4441791号明細書
【特許文献2】米国特許第5535047号明細書
【特許文献3】米国特許第5109767号明細書
【特許文献4】米国特許第5600383号明細書
【特許文献5】米国特許第7128429号明細書
【特許文献6】米国特許第7207678号明細書
【特許文献7】米国特許第6751027号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2008/0018553号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、ハイエンドなディジタル投射機で生じるオフ状態光及びそれによる熱を、単純且つ低コストな形態で効果的に抑えることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的の一つは、投射機内光路からオフ状態光を取り除きオフ状態光による発熱を抑えることにある。その点に鑑み、本願では、
照明ビームを発する固体光源と、
その照明ビームの光路上に配置されており複数個の傾斜可能なマイクロミラーを有するSLMであって、個々のマイクロミラーが、傾斜軸に対し、照明ビームがそのマイクロミラーで光軸沿いに偏向されオン状態光となる第1傾斜ポジション、照明ビームがそのマイクロミラーで光軸外に偏向されオフ状態光となる第2傾斜ポジション、並びに照明ビームがそのマイクロミラーで偏向され偏向面上で光路アーチを描く第1・第2傾斜ポジション間傾斜状態を採りうるSLMと、
マイクロミラーからのオフ状態光が辿る光路に沿い且つ光軸を避けて配置されており、SLM側のマイクロミラーから来るオフ状態光を吸収する光捕捉面を有する光バッフルであって、その光捕捉面が、偏向面に対し略平行な方向を長手方向とする複数本のチャネル、並びに偏向面に対しある傾斜角即ちフィン角をなし且つチャネル間の仕切りとなるよう光捕捉面から外方に向け突設されたフィンを有する光バッフルと、
を備え、ディジタル投射機で使用される光変調アセンブリを提案する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の特徴の一つは、使用する光バッフルに備わる諸部分の向きが、SLMで生じるオフ状態光のパターンに従い設定されていることである。
【0014】
本発明によれば、マイクロミラー型SLMによる光路遷移の途上で生じるオフ状態光不要反射をその光バッフルで減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る投射機の全体構成及び変調光の光路を示す模式的ブロック図である。
図2】ディジタルマイクロミラー型SLMに発するオン状態光(変調光)及びオフ状態光(ダンプ光)の光路を示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態における光バッフルとSLMから来るオン状態光及びオフ状態光との関係を示す斜視図である。
図4図3に示した光バッフルの頂面図である。
図5図3に示した光バッフルの側面図である。
図6A図3に示した光バッフル、特にその吸光性フィン構造の一例を詳細に示す拡大側面図である。
図6B図3に示した光バッフル、特にその吸光性フィン構造におけるオフ状態光の振る舞いを示す拡大側面図である。
図7A】光バッフル内吸光性フィン構造の別例を詳細に示す拡大側面図である。
図7B】光バッフル内吸光性フィン構造の別例を詳細に示す拡大側面図である。
図8図3に示した光バッフル、特に光バッフル除熱用冷却液導路の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本件技術分野で習熟を積まれた方々(いわゆる当業者)が上掲のものを含め本発明の目的、構成及び効果を一読で理解できるよう、別紙図面を参照しつつ且つ本発明の例示的な実施形態に関し説明する。別紙図面は本発明の概念を例示説明するためのものであり等比縮尺図ではないことをご理解頂きたい。
【0017】
以下の説明では、本発明に係る装置を構成する諸要素及び同装置に密に連携する諸要素に的を絞ることにする。具体的な図示や説明が省略されている部材はいわゆる当業者に周知の形態を採りうるものとご理解頂きたい。
【0018】
本願に含まれる図面及び説明は本発明の動作原理を例示説明するためのものであり、実際の寸法やその比率を示す趣旨のものではない。本発明にてレーザアレイを構成している諸部品は小寸法であるので、基本構造、形状及び動作原理を強調すべく幾らか誇張して描いてある。
【0019】
本発明には、本願記載の実施形態同士を組み合わせた構成が包含される。「実施形態」等との表現は、その構成が本発明の実施形態のうち1個又は複数個で使用されうることを表している。ある個所で「実施形態」「諸実施形態」と呼んでいるものと、別の個所で「実施形態」「諸実施形態」と呼んでいるものが、同じ構成であるとは限らない。しかし、その旨の明示がある場合やいわゆる当業者にとり自明な場合を除き、それらの実施形態同士は相互排他的なものではない。使用している語が「手法」か「諸手法」かといった単複の相違は本発明の技術的範囲を制約するものではない。本願では、明示的な注釈又は文脈上の必然性がない限り、語「又は」を非排他的な意味で使用しているので、その点を承知されたい。
【0020】
本願では、語「オフ状態光」と語「ダンプ光」を互いに同義の語として使用している。語「オン状態光」、語「変調光」及び語「成像光」も互いに同義の語として使用している。
【0021】
位置指示語例えば「頂」「底」「側」「前」「後」等の語は一種の視座を提供し、本願中の諸図における諸部材の動作を理解する上で役立つものである。それらの語は、投射機内の部材乃至諸部材が使用時に特定の向きを採ることを求める趣旨のものとは限らない。
【0022】
本発明の諸実施形態では、投射機内各色光路からオフ状態光(ダンプ光)を取り除くことが必要であることに鑑み、オフ状態光を捕捉しその反射を抑える位置関係で複数個の吸光性部分を光バッフルの光捕捉面上に形成し、発生する熱エネルギをそれら吸光性部分に吸収させるようにしている。光バッフルに備わる吸光性部分の形状及び角度は特徴的で、その光バッフルを脱する前にオフ状態光が複数回反射されるように設定されているため、オフ状態光が吸収される蓋然性は高くなる。
【0023】
図3に、本発明の一実施形態における光バッフル30の構成を示す。このバッフル30の配置はSLM60上に複数個あるマイクロミラー66(図2参照)、即ち照明ビーム18を偏向させて光軸O沿いに進むオン状態光(変調光)22やそうでないオフ状態光(ダンプ光)23をもたらす部材を基準にして定められている。具体的には、バッフル30はオン状態光22を邪魔しないよう光軸Oを避けて配置され、オフ状態光23が辿る光路上に位置している。バッフル30の光捕捉面54上には、オフ状態光23を捕捉できるよう工夫された吸光性部分が複数個、方向Lに沿い延設されている。吸光性部分の長手方向Lは、オン状態光22が生じるポジションとオフ状態光23が生じるポジションとの間の遷移期間に偏向光ビームでなぞられる面67、即ち光路アーチQが描かれる偏向面67に対しほぼ平行である。
【0024】
図4及び図5に、図3に示した光バッフル30の頂面(図4)及び側面(図5)を示す。両図にはバッフル30に備わる諸特徴がより明瞭に現れている。まず、本実施形態ではバッフル30に図4の如くノッチ34が設けられている。ノッチ34は、図2中のマイクロミラー66によって偏向光ビームの向きが掃引され同図中の第1傾斜ポジション64・第2傾斜ポジション65間でその傾斜が変化する遷移期間中に、多量の光が光捕捉面54で捕捉されるように工夫されており、またオン状態光22が妨げ無しで光軸O沿いに進めるように工夫されている。ノッチ34の形状、特にその必須開口エリア(ノッチエリア)35は、オン状態光22の光路をSLM60に備わるミラー66毎に辿ることで決定することができる。DLPをはじめ大概のSLMで45°傾斜軸のマイクロミラーが使用されているので、この例でも偏向面をSLM60の縁に対し45°傾けてある。そのため、エリア35は、その角が45°、45°及び90°の三角形に近い形状になっている。
【0025】
本実施形態では、スロープ角θSに亘り傾斜している光捕捉面54上に、偏向面67に対しある傾斜角即ちフィン角θFをなすよう外方に向けフィン32を突設することで、偏向面67に対しほぼ平行な長手方向Lに沿い延びるチャネル42を複数本設けてある。設計パラメタであるフィン角θF、スロープ角θS、チャネル幅(フィン間隔)及びフィン厚は、オフ状態光23がチャネル42内に進入し、その大部分がチャネル42から脱出できず多回反射の途上で吸収されることとなるよう、その値を選定することが可能である。実用的なフィン構造にするには、フィン角θFを約60°未満にするのが望ましい。
【0026】
光捕捉面54上のフィン32やチャネル42には、好適にも被覆等の反射抑制処置が施されている。具体的には、光バッフル30がアルミニウムその他の金属で形成され、それに対する陽極酸化処理で光捕捉面54が形成されている。これに代え、光捕捉面54を黒色塗料等の吸光性物質で被覆する、光捕捉面54自体を吸光素材で形成する等の処置を採用してもよい。光捕捉面54の反射率は、反射毎に光の大部分が吸収されるよう約1%未満にするのが望ましい。
【0027】
長手方向Lが偏向面67に対しほぼ平行であることも重要である。この特性があるため、偏向光ビームでなぞられる光路アーチQの全体に亘りオフ状態光の吸収量がほぼ等化されることとなる。そうした結果が生じるのは、フィン32の側面に対する入射角をほぼ一定に保ちつつ光ビームがフィン32をその長手方向Lに沿い走査していくからである。ここでは、フィン32の長手方向Lが仮に偏向面67に交差する方向であると、光捕捉面54に対する偏向光ビームの入射位置によって吸光量が大きく変動しかねない点に留意されたい。
【0028】
図6Aに、図5中のE1部分を例に、本実施形態で光捕捉面54に形成されるチャネル42及びフィン32の詳細を拡大して示す。本実施形態では、チャネル42の底部が丸底44であり、フィン32の側面37同士がほぼ平行であり、フィン32の下側側面の傾斜で傾斜端38、ひいてはナイフエッジ36状のテーパが形成されている。図中のtcはフィン32同士の間隔即ちチャネル幅を、tfはフィン32の厚みを表している。
【0029】
本実施形態では、入射してくるオフ状態光23や隣接フィンからの反射光にとりフィンの先端が“不可視”となるよう、光捕捉面54の寸法・形状が設定されている。そのため、入射してくるオフ状態光23に対し面54全体が吸光性黒体として振る舞うこととなる。図6Aに示した構成は、フィン角θFが40°、スロープ角θSが20°(即ち偏向面67に対する角度が70°)、フィン厚tfが0.44mm、チャネル幅tcが1.00mmという寸法・形状であり、面54全体が吸光性黒体としての条件を満たしているので、本発明に係る効果を好適に発揮することができる。本実施形態では、面54に入射したオフ状態光23が、いずれも、まずフィンの上側側面で反射され、次いでチャネルを過ぎって隣接フィンの下側側面に入射するので、面54から脱出する前に、少なくとも2回(大抵はより多回)の反射を経ることとなる。本実施形態では吸光性を高める処置が面54に施されているので、ほぼ全てのオフ状態光23を光バッフル30で吸収し、成像用の光路にオフ状態光23が戻らないようにすること、ひいては投射像の画質を高めることができる。
【0030】
図6Bに、光捕捉面54に入射している幾本かの光線R1〜R4を示す。図示の通り、フィン32の形状及び向きは、光線R1〜R4がフィン表面での多回反射を経ながらチャネル42内へと進入していくように設定されている。反射のたびに光線R1〜R4のうちかなりの部分が吸収されるので、反射の回数が2、3回程度でも、面54から逃れていく光の量は無視しうる程度となる。また、SLM60に入射する照明ビーム18(図2参照)は、一般に、光源からSLM60へと光を向かわせる光学部品のf/#に相応する錘角を有するものである。その結果、光線R1〜R4間には若干の入射角差が生じうる。本実施形態では、それを踏まえつつ、SLM60に備わる個々のマイクロミラーを経た光線それぞれがチャネル42脱出前に少なくとも2回は反射するよう、フィン32の形状及び向きが設定されている。
【0031】
フィン32やチャネル42の底部をまた別の形状にすることもできる。例えば、図7Aの如く、その側面37同士を不平行にすることで、フィン32に傾斜端抜きでナイフエッジ36状のテーパを発生させてもよい。また、図7Bの如く、チャネル42の底部を傾斜底45にしてもよい。いわゆる当業者には自明な通り、フィン形状やチャネル形状は本発明の技術的範囲内で様々に改変することができる。
【0032】
光バッフル30によるオフ状態光23の吸収は大きな熱負荷の発生原因になりうる。バッフル30から熱を逃がす手段としては様々な手段、例えばヒートシンクや強制空冷機構を使用することができる。本実施形態では、図8に示す如く、その内部に冷却液を供給することでバッフル30から熱を奪うようにしている。注入ポート46や排出ポート48は、バッフル30を液冷システムにつなぎ冷却水等の冷却用流体を循環させるためのものである。冷却液は、注入ポート46を介し注入された後、光捕捉面54の後背を巡るようバッフル30内に形成されたU字状の流体導路を経て、排出ポート48から排出される。バッフル30からその冷却液へと熱が輸送されるので、バッフル30の温度は低温に保たれる。サーモスタットを用い、冷却用流体の温度を特定温度に維持するようにしてもよい。温度ができるだけ低温に保たれるよう、冷却用流体の速度を一定に保つようにしてもよい。
【0033】
以上、本発明に関しその好適な実施形態を個別に参照して子細に説明したが、それらに変形や改良を施したものも本発明の技術的範囲に属しうるのでその点を理解されたい。例えば、各色光源としてレーザを示したが、それに代え発光ダイオード(LED)等の光源を使用することもできる。
【0034】
このように、本発明は、光変調器から出てくる不要なオフ状態光を好適に吸収できそれに伴う発熱にも好適に対処可能な装置及び方法を提供するものである。なお、以下に、付記として本発明の構成の一例を示す。
(付記1)
照明ビームを発する固体光源と、
その照明ビームの光路上に配置されており複数個の傾斜可能なマイクロミラーを有する空間光変調器であって、個々のマイクロミラーが、傾斜軸に対し、照明ビームがそのマイクロミラーで光軸沿いに偏向されオン状態光となる第1傾斜ポジション、照明ビームがそのマイクロミラーで光軸外に偏向されオフ状態光となる第2傾斜ポジション、並びに照明ビームがそのマイクロミラーで偏向され偏向面上で光路アーチを描く第1・第2傾斜ポジション間傾斜状態を採りうる空間光変調器と、
マイクロミラーからのオフ状態光が辿る光路に沿い且つ光軸を避けて配置されており、空間光変調器側のマイクロミラーから来るオフ状態光を吸収する光捕捉面を有する光バッフルであって、その光捕捉面が、偏向面に対し略平行な方向を長手方向とする複数本のチャネル、並びに偏向面に対しある傾斜角即ちフィン角をなし且つチャネル間の仕切りとなるよう光捕捉面から外方に向け突設されたフィンを有する光バッフルと、
を備え、ディジタル投射機で使用される光変調アセンブリ。
(付記2)
付記1記載の光変調アセンブリであって、上記フィンが、上記偏向面に対し60°未満のフィン角をなす光変調アセンブリ。
(付記3)
付記1記載の光変調アセンブリであって、上記フィンの形状及び姿勢が、オフ状態光が光捕捉面からの脱出前に複数回の反射を経るよう設定された光変調アセンブリ。
(付記4)
付記1記載の光変調アセンブリであって、ナイフエッジが生じるよう上記フィンにテーパが施された光変調アセンブリ。
(付記5)
付記4記載の光変調アセンブリであって、上記フィンが2個の側面を有し、その側面のうち一方又は双方が傾斜を有する光変調アセンブリ。
(付記6)
付記1記載の光変調アセンブリであって、上記チャネルが丸底を有する光変調アセンブリ。
(付記7)
付記1記載の光変調アセンブリであって、上記チャネルが傾斜底を有する光変調アセンブリ。
(付記8)
付記1記載の光変調アセンブリであって、上記光捕捉面が、上記偏向面に対しある傾斜角即ちスロープ角をなす光変調アセンブリ。
(付記9)
付記8記載の光変調アセンブリであって、上記フィン角及びスロープ角が、チャネル幅、フィン形状及びその要素たるフィン厚と共に、ほぼ全てのオフ状態光が光捕捉面からの脱出前に少なくとも2回反射されるよう設定された光変調アセンブリ。
(付記10)
付記1記載の光変調アセンブリであって、上記光バッフルが吸光素材製の光変調アセンブリ。
(付記11)
付記1記載の光変調アセンブリであって、上記光捕捉面が吸光素材で被覆された光変調アセンブリ。
(付記12)
付記1記載の光変調アセンブリであって、吸光性を呈するよう上記光捕捉面が処理された光変調アセンブリ。
(付記13)
付記1記載の光変調アセンブリであって、上記光バッフルが、上記空間光変調器側のマイクロミラーから来るオン状態光を避けるためのノッチを有する光変調アセンブリ。
(付記14)
付記1記載の光変調アセンブリであって、上記光バッフルが、上記光捕捉面の後背に位置する流体導路を有し、その流体導路内を循環する冷却用流体によって当該光バッフルから熱が奪われる光変調アセンブリ。
(付記15)
付記1記載の光変調アセンブリ1個又は複数個と、光変調アセンブリ内の空間光変調器からくるオン状態光を表示面上に投射する投射用光学系と、を備えるディジタル投射機。
(付記16)
付記15記載のディジタル投射機であって、少なくとも3個の色成分を含むカラーディジタル画像を画像データに基づき投射するカラー投射機であり、互いに異なる色の光源を有する少なくとも3個の光変調アセンブリを備えるディジタル投射機。
【符号の説明】
【0035】
10 投射機、12r,12g,12b 光源、18 照明ビーム、22 変調光、23 ダンプ光、30 光バッフル、32 フィン、34 ノッチ、35 ノッチエリア、36 ナイフエッジ、37 側面、38 傾斜端、40r,40g,40b 光変調アセンブリ、42 チャネル、44 丸底、45 傾斜底、46 注入ポート、48 排出ポート、50 レンズ、51 インテグレータ、54 光捕捉面、60 空間光変調器、64 第1傾斜ポジション、65 第2傾斜ポジション、66 マイクロミラー、67 偏向面、68,84 ダイクロイック面、70 投射用光学系、82 ダイクロイック結合器、E1 拡大部分、L 長手方向、O 光軸、Q 光路アーチ、R1〜R4 光線、tc チャネル幅、tf フィン厚、θF フィン角、θS スロープ角。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8