(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5801023
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】含フッ素酸化チタン−ナノシリカコンポジット粒子およびその製造法
(51)【国際特許分類】
C08G 79/00 20060101AFI20151008BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20151008BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20151008BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20151008BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20151008BHJP
C08G 77/58 20060101ALI20151008BHJP
C09C 1/36 20060101ALI20151008BHJP
C09C 3/08 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
C08G79/00
B01J35/02 J
B82Y30/00
B82Y40/00
C01B33/12 Z
C08G77/58
C09C1/36
C09C3/08
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-532996(P2015-532996)
(86)(22)【出願日】2015年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2015057024
【審査請求日】2015年7月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-47315(P2014-47315)
(32)【優先日】2014年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】福島 剛史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝之
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【審査官】
小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−207628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 79/00
B01J 35/02
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C01B 33/12
C08G 77/58
C09C 1/36
C09C 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
RF-A-OH 〔I〕
(ここで、RFは炭素数6以下のパーフルオロアルキル基であり、またはパーフルオロアルキル基のフッ素原子の一部が水素原子で置換され、炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を含んで構成されるポリフルオロアルキル基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールとアルコキシシランおよび酸化チタンとナノシリカ粒子の縮合体からなる含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子。
【請求項2】
一般式〔I〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
CnF2n+1(CH2)jOH 〔II〕
(ここで、nは1〜10、jは1〜6の整数である)で表されるポリフルオロアルキルアルコールが用いられた請求項1記載の含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子。
【請求項3】
一般式〔I〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOH 〔III〕
(ここで、nは1〜6、aは1〜4、bは0〜2、cは1〜3の整数である)で表されるポリフルオロアルキルアルコールが用いられた請求項1記載の含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子。
【請求項4】
アルコキシシランが、一般式
(R1O)pSi(OR2)q(R3)r 〔IV〕
(ここで、R1、R3はそれぞれ水素原子、炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であり、R2は炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であり、ただしR1、R2、R3は共にアリール基であることはなく、p+q+rは4であり、ただしqは0ではない)で表わされるシラン誘導体である請求項1記載の含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子。
【請求項5】
酸化チタン100重量部に対し、ナノシリカ粒子が10〜200重量部、含フッ素アルコールが10〜200重量部、アルコキシシランが10〜200重量部の割合で用いられた請求項1記載の含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子。
【請求項6】
酸化チタン100重量部に対し、ナノシリカ粒子が50〜150重量部、含フッ素アルコールが50〜150重量部、アルコキシシランが50〜150重量部の割合で用いられた請求項1記載の含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子。
【請求項7】
請求項1記載の含フッ素アルコール〔I〕とアルコキシシランとを、酸化チタンおよびナノシリカ粒子の存在下で、アルカリ性または酸性触媒を用いて縮合反応させることを特徴とする含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子の製造法。
【請求項8】
一般式
RF′-A-OH 〔Ia〕
または一般式
HO-A-RF′′-A-OH 〔Ib〕
(ここで、RF′は炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を有する、O、SまたはN原子を含有する直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であり、RF′′は炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を有する、O、SまたはN原子を含有する直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールとアルコキシシランおよび酸化チタンとナノシリカ粒子の縮合体からなる含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子。
【請求項9】
一般式〔Ia〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
CmF2m+1O〔CF(CF3)CF2O〕dCF(CF3)(CH2)eOH 〔IIa〕
(ここで、mは1〜3、dは0〜100、eは1〜3の整数である)で表されるヘキサフルオロプロペンオキシドオリゴマーアルコールが用いられた請求項8記載の含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子。
【請求項10】
一般式〔Ib〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
HO(CH2)fCF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕gO(CF2)hO〔CF(CF3)CF2O〕i
CF(CF3)(CH2)fOH 〔IIb〕
(ここで、fは1〜3、g+iは0〜50、hは1〜6の整数である)で表されるパーフルオロアルキレンエーテルジオールが用いられた請求項8記載の含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子。
【請求項11】
アルコキシシランが、一般式
(R1O)pSi(OR2)q(R3)r 〔IV〕
(ここで、R1、R3はそれぞれ水素原子、炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であり、R2は炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であり、ただしR1、R2、R3は共にアリール基であることはなく、p+q+rは4であり、ただしqは0ではない)で表わされるシラン誘導体である請求項8記載の含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子。
【請求項12】
酸化チタン100重量部に対し、ナノシリカ粒子が10〜200重量部、含フッ素アルコールが10〜200重量部、アルコキシシランが10〜200重量部の割合で用いられた請求項8記載の含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子。
【請求項13】
酸化チタン100重量部に対し、ナノシリカ粒子が50〜150重量部、含フッ素アルコールが50〜150重量部、アルコキシシランが50〜150重量部の割合で用いられた請求項8記載の含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子。
【請求項14】
請求項8記載の含フッ素アルコール〔Ia〕または〔Ib〕とアルコキシシランとを、酸化チタンおよびナノシリカ粒子の存在下で、アルカリ性または酸性触媒を用いて縮合反応させることを特徴とする含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子の製造法。
【請求項15】
請求項1または8記載の含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子を有効成分とする表面処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子およびその製造法に関する。さらに詳しくは、取扱い容易な含フッ素アルコールを用いた含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒用として使用されるアナターゼ型酸化チタンは、高温で加熱することにより結晶構造がルチル型に変化し、触媒活性が著しく低下してしまう。そこで、酸化チタンを表面修飾もしくはフッ素化することにより、ルチル型への結晶構造転移を抑制できることが知られている。
【0003】
表面修飾では、加熱による結晶構造の転移は抑制できるが、酸化チタンとの接触効率が低下してしまうので、触媒活性の低下が避けられない。フッ素化処理(特許文献1)では、フッ素源としてフッ化水素を使用するため、フッ化水素に対して耐性のある特殊な設備が必要となる。
【0004】
特許文献2には、多孔性および非多孔性基体の永久的な耐油および耐水表面処理のための、液状で、フッ素含有および単一成分の組成物であって、適切な安定化成分および親水性シラン成分と組み合わせて、保存安定性、疎水性、疎油性および耐塵性にすぐれた組成物が記載されている。
【0005】
しかしながら、ここでは、鉱物および非鉱物基体の表面処理剤の調製に際し、毒性の高いイソシアネート化合物を用いることでフッ素化合物にシリル基を導入しており、したがってその実施に際しては製造環境を整える必要がある。
【0006】
無機材料表面を各種の化合物やポリマーでコーティングすることにより、様々な表面特性を発現させることが知られている。中でも、フッ素系化合物を表面処理に使用した場合には、フッ素原子の有する特性から、撥水性だけではなく撥油性の点でも表面改質できるので、様々な基材へのコーティングに利用されている。
【0007】
特に、C
8のパーフルオロアルキル基を有する表面処理剤を基質に塗布するとことで、高い撥水撥油性を示すコーティングが可能であるが、近年C
7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物が、細胞株を用いた試験管内試験において、発がん因子と考えられている細胞間コミュニケーション阻害をひき起すこと、かつこの阻害は官能基ではなく、フッ素化された炭素鎖長に依存し、炭素鎖が長いもの程阻害力が高いことが報告されており、フッ素化された炭素数の長い化合物を使用したモノマーの製造が制限されるようになってきている。
【0008】
特許文献3〜4には、含フッ素アルコール、アルコキシシラン(および重合性官能基含有アルコール)を縮合反応させることが記載されているが、得られたアルコキシシラン誘導体は、光酸発生剤または光塩基発生剤を添加した硬化性組成物、あるいは無機導電塗料組成物の調製に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−073914号公報
【特許文献2】特表2011−511113号公報
【特許文献3】特開2004−285111号公報
【特許文献4】特開平5−186719号公報
【特許文献5】特許第4674604号公報
【特許文献6】WO 2007/080949 A1
【特許文献7】特開2008−38015号公報
【特許文献8】米国特許第3,574,770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、フッ化水素の如く取扱いに困難性はみられず、環境中に放出されてもパーフルオロオクタン酸等を生成させず、しかも短鎖の化合物に分解され易いユニットを有する、取扱い容易な含フッ素アルコールを用いて製造することができ、生成物は高温加熱処理を行っても酸化チタンの光触媒としての機能の低下を抑制することができる含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子およびその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によって、一般式
R
F-A-OH 〔I〕
(ここで、R
Fは炭素数6以下のパーフルオロアルキル基であり、またはパーフルオロアルキル基のフッ素原子の一部が水素原子で置換され、炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を含んで構成されるポリフルオロアルキル基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールとアルコキシシランおよび酸化チタンとナノシリカ粒子の縮合体からなる含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子が提供される。炭素数としては、4〜6が好ましい。
【0012】
かかる含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子は、上記含フッ素アルコール〔I〕とアルコキシシランとを、酸化チタンおよびナノシリカ粒子の存在下で、アルカリ性または酸性触媒を用いて縮合反応させる方法によって製造される。得られた含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子は、撥水撥油剤等の表面処理剤の有効成分として用いられる。
【0013】
また、本発明によって、一般式
R
F′-A-OH 〔Ia〕
または一般式
HO-A-R
F′′-A-OH 〔Ib〕
(ここで、R
F′は炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を有する、O、SまたはN原子を含有する直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であり、R
F′′は炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を有する、O、SまたはN原子を含有する直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールとアルコキシシランおよび酸化チタンとナノシリカ粒子の縮合体からなる含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子が提供される。炭素数としては、4〜6が好ましい。
【0014】
かかる含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子は、上記含フッ素アルコール〔Ia〕または〔Ib〕とアルコキシシランとを、酸化チタンおよびナノシリカ粒子の存在下で、アルカリ性または酸性触媒を用いて縮合反応させる方法によって製造され、得られた含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子は、撥水撥油剤等の表面処理剤の有効成分として用いられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明で用いられる含フッ素アルコールは、末端パーフルオロアルキル基やポリフルオロアルキル基中のパーフルオロアルキレン鎖の炭素数が6以下のものであり、炭素数6以下の短鎖の含フッ素化合物に分解され易いユニットを有しているため、環境汚染につながらない。
【0016】
含フッ素アルコールとアルコキシシランとの縮合反応時に酸化チタンおよびオルガノナノシリカ粒子を共存させて得られる含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子は、新規の含フッ素化合物であり、フッ素原子を含有しているため1000℃迄の高温加熱処理を行っても、光触媒としての機能低下を抑制することができる。また、酸化チタンにフッ素原子が取込まれることで、原料の酸化チタンよりも光触媒活性を向上させた酸化チタンが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
含フッ素アルコール〔I〕としては、例えば一般式
C
nF
2n+1(CH
2)
jOH 〔II〕
n:1〜10、好ましくは4〜8
j:1〜6、好ましくは1〜3、特に好ましくは2
で表されるポリフルオロアルキルアルコール等が用いられる。
【0018】
アルキレン基Aとしては、-CH
2-基、-CH
2CH
2-基等が挙げられ、かかるアルキレン基を有するパーフルオロアルキルアルキルアルコールとしては、2,2,2-トリフルオロエタノール(CF
3CH
20H)、3,3,3-トリフルオロプロパノール(CF
3CH
2CH
2OH)、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール(CF
3CF
2CH
20H)、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブタノール(CF
3CF
2CH
2CH
2OH)、2,2,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタノール(CF
3CF
2CF
2CF
2CH
20H)、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキサノール(CF
3CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2OH)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクタノール(CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2OH)等が例示される。
【0019】
また、ポリフルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基の末端-CF
3基が例えば-CF
2H基などに置き換った基あるいは中間-CF
2-基が-CFH-基または-CH
2-基に置き換った基を指しており、かかる置換基を有する含フッ素アルコール〔I〕としては、例えば2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール(HCF
2CF
2CH
2OH)、2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロブタノール(CF
3CHFCF
2CH
2OH)、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンタノール(HCF
2CF
2CF
2CF
2CH
2OH)等が挙げられる。
【0020】
一般式〔II〕で表されるポリフルオロアルキルアルコールは、例えば特許文献5に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
まず、一般式
C
nF
2n+1(CF
2CF
2)
b(CH
2CH
2)
cI
で表されるポリフルオロアルキルアイオダイド、例えば
CF
3(CH
2CH
2)I
CF
3(CH
2CH
2)
2I
C
2F
5(CH
2CH
2)I
C
2F
5(CH
2CH
2)
2I
C
3F
7(CH
2CH
2)I
C
3F
7(CH
2CH
2)
2I
C
4F
9(CH
2CH
2)I
C
4F
9(CH
2CH
2)
2I
C
2F
5(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
2F
5(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
2F
5(CF
2CF
2)
2(CH
2CH
2)I
C
2F
5(CF
2CF
2)
2(CH
2CH
2)
2I
C
2F
5(CF
2CF
2)
3(CH
2CH
2)I
C
4F
9(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
4F
9(CF
2CF
2)
2(CH
2CH
2)I
C
4F
9(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
4F
9(CF
2CF
2)
2(CH
2CH
2)
2I
C
4F
9(CF
2CF
2)
3(CH
2CH
2)I
をN-メチルホルムアミド HCONH(CH
3)と反応させ、ポリフルオロアルキルアルコールとそのギ酸エステルとの混合物とした後、酸触媒の存在下でそれに加水分解反応させ、ポリフルオロアルキルアルコール
C
nF
2n+1(CF
2CF
2)
b(CH
2CH
2)
cOH
を形成させる。ただし、n+2bの値は6以下である。
【0021】
含フッ素アルコール〔I〕としてはまた、R
F基がパーフルオロアルキル基のフッ素原子の一部が水素原子で置換され、炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を含んで構成されるポリフルオロアルキル基であり、具体的には炭素数3〜20、好ましくは6〜10のポリフルオロアルキル基であり、Aが炭素数2〜6、好ましくは2のアルキレン基である含フッ素アルコール、例えば一般式
C
nF
2n+1(CH
2CF
2)
a(CF
2CF
2)
b(CH
2CH
2)
cOH 〔III〕
n:1〜6、好ましくは2〜4
a:1〜4、好ましくは1
b:0〜2、好ましくは1〜2
c:1〜3、好ましくは1
で表されるポリフルオロアルキルアルコール等が用いられる。
【0022】
一般式〔III〕で表されるポリフルオロアルキルアルコールは、特許文献5に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
まず、一般式
C
nF
2n+1(CH
2CF
2)
a(CF
2CF
2)
b(CH
2CH
2)
cI
で表されるポリフルオロアルキルアイオダイド、例えば
CF
3(CH
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
2F
5(CH
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
2F
5(CH
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
3F
7(CH
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
3F
7(CH
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
4F
9(CH
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
4F
9(CH
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
2F
5(CH
2CF
2)(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
2F
5(CH
2CF
2)(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
2F
5(CH
2CF
2)
2(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
2F
5(CH
2CF
2)
2(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
4F
9(CH
2CF
2)(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
4F
9(CH
2CF
2)
2(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)I
C
4F
9(CH
2CF
2)(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
C
4F
9(CH
2CF
2)
2(CF
2CF
2)(CH
2CH
2)
2I
をN-メチルホルムアミド HCONH(CH
3)と反応させ、ポリフルオロアルキルアルコールとそのギ酸エステルとの混合物とした後、酸触媒の存在下でそれに加水分解反応させ、ポリフルオロアルキルアルコール
C
nF
2n+1(CH
2CF
2)
a(CF
2CF
2)
b(CH
2CH
2)
cOH
を形成させる。
【0023】
含フッ素アルコール〔Ia〕としては、R
F′基が炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を有する、O、SまたはN原子を含有する直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基を有し、具体的には炭素数3〜305、好ましくは8〜35のO、SまたはN原子含有パーフルオロアルキル基であり、Aが炭素数1〜3、好ましくは1のアルキレン基である含フッ素アルコール、例えば一般式
C
mF
2m+1O〔CF(CF
3)CF
2O〕
dCF(CF
3)(CH
2)
eOH 〔IIa〕
m:1〜3、好ましくは3
d:0〜100、好ましくは1〜10
e:1〜3、好ましくは1
で表されるヘキサフルオロプロペンオキシドオリゴマーアルコール等が用いられる。
【0024】
また、含フッ素アルコール〔Ib〕としては、R
F′′基が炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を有する、O、SまたはN原子を含有する直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基、具体的には炭素数5〜160のO、SまたはN原子含有パーフルオロアルキレン基であり、Aが炭素数1〜3、好ましくは1のアルキレン基である含フッ素アルコール、例えば一般式
HO(CH
2)
fCF(CF
3)〔OCF
2CF(CF
3)〕
gO(CF
2)
hO〔CF(CF
3)CF
2O〕
iCF(CF
3)(CH
2)
fOH
〔IIb〕
f:1〜3、好ましくは1
g+i:0〜50、好ましくは2〜50
h:1〜6、好ましくは2
で表されるパーフルオロアルキレンエーテルジオール等が用いられる。
【0025】
一般式〔IIa〕で表されるヘキサフルオロプロペンオキシドオリゴマーアルコールにおいて、m=1、e=1の化合物は特許文献6に記載されており、次のような工程を経て合成される。
一般式 CF
3O〔CF(CF
3)CF
2O〕
nCF(CF
3)COOR (R:アルキル基、n:0〜12の整数)で表される含フッ素エーテルカルボン酸アルキルエステルを、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いて還元反応させる。
【0026】
さらに、一般式〔IIb〕で表されるパーフルオロアルキレンエーテルジオールにおいて、f=1は特許文献7〜8に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
FOCRfCOF → H
3COOCRfCOOCH
3 → HOCH
2RfCH
2OH
Rf:-CF(CF
3)〔OCF
2C(CF
3)〕
aO(CF
2)
cO〔CF(CF
3)CF
2O〕
bCF(CF
3)-
【0027】
これらの含フッ素アルコールとアルコキシシランとは、アルカリ性または酸性の触媒、好ましくはアンモニア水触媒の存在下で反応させることにより、含フッ素ナノコンポジット粒子を形成させる。アンモニア水触媒は、酸化チタン、ナノシリカおよびアルコキシシランの合計量に対して重量比で約0.2〜2.0の割合で用いられる。
【0028】
前記アルコキシシランは一般式
(R
1O)
pSi(OR
2)
q(R
3)
r 〔IV〕
R
1、R
3:H、C
1〜C
6のアルキル基またはアリール基
R
2:C
1〜C
6のアルキル基またはアリール基
ただし、R
1、R
2、R
3が共にアリール基であることはない
p+q+r:4 ただし、qは0ではない
で表され、例えばトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が用いられる。
【0029】
これら各成分間の反応は、アルカリ性または酸性触媒、例えばアンモニア水あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液、または塩酸、硫酸等の存在下で、約0〜100℃、好ましくは約10〜30℃の温度で約0.5〜48時間、好ましくは約1〜10時間程度反応させることにより行われる。
【0030】
得られた含フッ素ナノコンポジット粒子中の含フッ素アルコール量は、約1〜50モル%、好ましくは約5〜30モル%であり、コンポジット粒子径(動的光散乱法により測定)は約20〜200nmである。
【0031】
このような含フッ素ナノコンポジットの製造の際、反応系にオルガノナノシリカ粒子と共に酸化チタンを共存させて縮合反応を行うと、含フッ素アルコール-アルコキシシラン-酸化チタン-ナノシリカ粒子の4成分からなる縮合体を形成させた含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子を製造することができる。
【0032】
酸化チタンとしては、光触媒用にアナターゼ型酸化チタンが用いられる。本発明の生成物は、表面処理剤、表面改質剤、難燃剤、塗料配合剤、樹脂配合剤、ゴム配合剤等に用いられるので、その用途に対応した各種酸化チタンが用いられる。
【0033】
ナノシリカ粒子としては、平均粒径(動的光散乱法により測定)が5〜200nm、好ましくは10〜100nmであって、その一次粒子径が40nm以下、好ましくは5〜30nm、さらに好ましくは10〜20nmのオルガノシリカゾルが用いられる。実際には、市販品である日産化学工業製品メタノールシリカゾル、スノーテックスIPA-ST(イソプロピルアルコール分散液)、スノーテックスEG-ST(エチレングリコール分散液)、スノーテックスMEK-ST(メチルエチルケトン分散液)、スノーテックスMIBK-ST(メチルイソブチルケトン分散液)等が用いられる。
【0034】
これらの各成分は、酸化チタン粒子100重量部に対し、ナノシリカ粒子が約10〜200重量部、好ましくは約50〜150重量部の割合で、含フッ素アルコールが約10〜200重量部、好ましくは約50〜150重量部の割合で、またアルコキシシランが約10〜200重量部、好ましくは約50〜150重量部の割合で用いられる。
【0035】
ナノシリカ粒子の使用割合がこれよりも少ないと加熱処理によって酸化チタンの結晶構造を十分に保持できず、光学活性が低下するようになり、一方これよりも多い割合で使用されると酸化チタン粒子の表面がシリカによって遮蔽され過ぎてしまい、光学活性が低下するようになる。含フッ素アルコールの使用割合がこれよりも少ないと撥水撥油性が低くなり、一方これよりも多い割合で使用されると溶媒への分散性が悪くなる。また、アルコキシシランの使用割合がこれよりも少ないと溶媒への分散性が悪くなり、一方これよりも多い割合で使用されると撥水撥油性が低くなる。
【0036】
反応生成物である含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子は、ナノシリカ粒子表面の水酸基に、シロキサン結合をスペーサーとして含フッ素アルコールが結合しているものと考えられ、したがってシリカの化学的、熱的安定性とフッ素のすぐれた撥水撥油性、防汚性などが有効に発揮されており、実際にガラス表面を含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子で処理したものは良好な撥水撥油性を示し、また1000℃での重量減を少なくするなどの効果がみられる。また、含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子の粒径およびそのバラツキも小さい値を示している。なお、含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子は、含フッ素アルコールおよびアルコキシシランと酸化チタンおよびナノシリカ粒子との反応生成物として形成されるが、この発明の目的を阻害しない限り他の成分の混在も許容される。
【実施例】
【0037】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0038】
実施例1
CF
3(CF
2)
5(CH
2)
2OH〔FA-6〕250mg(0.69ミリモル)を30mlのメタノール中に加えて溶解させ、その溶液中にアナターゼ型酸化チタン250mgおよびシリカゾル(日産化学製品メタノールシリカゾル;30重量%ナノシリカ含有、平均粒子径11nm)834mg(ナノシリカとして250mg)およびテトラエトキシシラン(東京化成製品;密度0.93g/ml)0.25ml(1.13ミリモル)を加え、マグネチックスターラで攪拌しながら、25重量%アンモニア水0.5mlを加え、5時間反応を行った。
【0039】
反応終了後、エバポレータを用いて減圧下でメタノールおよびアンモニア水を除去し、得られた粉末を約10mlのメタノール中で一夜再分散させた。翌日遠沈管を用いて遠心分離し、上澄みを捨て、新たなメタノールを加え、リンス作業を行った。このリンス作業を3回行った後、遠沈管の口をアルミホイルで覆い、70℃のオーブン中に一夜入れた。その翌日50℃の真空乾燥機に一夜入れて乾燥し、537mg(収率73%)の白色粉末を得た。
【0040】
得られた白色粉末の含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジットの粒子径およびそのバラツキを、25℃で固形分濃度1g/Lメタノール分散液について、動的光散乱(DLS)測定法によって測定した。また、熱重量分析(TGA)を、1000℃の焼成前後について行った。その際、昇温速度は10℃/分とした。焼成後の粒子径は、実施例1を除いて2回の平均値である。さらに、初期重量に対する焼成による減少重量の百分率も算出した。
【0041】
実施例2〜7、参考例1〜2
実施例1において、FA-6の代りに、種々の含フッ素アルコールが同量(250mg)用いられた。
FA-8:CF
3(CF
2)
7(CH
2)
2OH
DTFA:CF
3(CF
2)
3CH
2(CF
2)
5(CH
2)
2OH 〔CF
3(CF
2)
3(CH
2CF
2)(CF
2CF
2)
2(CH
2CH
2)OH)〕
PO-6-OH:HOCH
2CF(CF
3)〔OCF
2CF(CF
3)〕
nOCF
2CF
2O〔CF(CF
3)CF
2O〕
mCF(CF
3)CH
2OH
(n+m=6)
PO-9M-OH:HOCH
2CF(CF
3)〔OCF
2CF(CF
3)〕
nOCF
2CF
2O〔CF(CF
3)CF
2O〕
mCF(CF
3)CH
2OH
(n+m=9)
【0042】
以上の各実施例および参考例で得られた結果は、次の表1に示される。
【0043】
また、得られた含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子について、メチレンブルー分解反応による光触媒機能評価を次のようにして行った。
【0044】
0.8mlのメチレンブルーのメタノール溶液(濃度:0.01g/cm
3)と0.4mlのコンポジット粒子のメタノール溶液(濃度:0.20g/cm
3)を秤りとり、全体が3.2mlのメタノール溶液になるようにメタノールで希釈した。調製した溶液(メチレンブルー/コンポジット粒子=重量比1/10)に、波長365nmの紫外線を20分間照射し、UVスペクトル測定でメチレンブルーの吸収ピーク(652nm)の経時変化をグラフにプロットすることによって、光触媒としての機能評価(分解率およびそれに基づく判定)を行った。機能評価は、1000℃の焼成前後について行われ、次のような判定基準に従って評価した。
(判定基準) ◎:アナターゼ型酸化チタンに対して性能が向上
○:アナターゼ型酸化チタンに対してどちらか一方の
性能が向上
△:アナターゼ型酸化チタンに対して同等の性能
×:アナターゼ型酸化チタンに対して性能が低下
表2
焼成前 焼成後
例 分解率(%) 判定 分解率(%) 判定
実施例1 82 ○ 42 ◎
参考例1 82 ◎ 69 ◎
実施例3 86 ◎ 57 ◎
〃 5 80 ◎ 75 ◎
〃 7 71 △ 79 ◎
なお、アナターゼ型酸化チタンの分解率は、焼成前71%、焼成後10%であり、アナターゼ型酸化チタン/ホウ酸(重量比1:0.94)の分解率は、焼成前82%、焼成後31%であった。
【要約】
一般式 R
F-A-OH(ここで、R
Fは炭素数6以下のパーフルオロアルキル基であり、またはパーフルオロアルキル基のフッ素原子の一部が水素原子で置換され、炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を含んで構成されるポリフルオロアルキル基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールとアルコキシシランおよび酸化チタンとナノシリカ粒子の縮合体からなる含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子。この含フッ素酸化チタン-ナノシリカコンポジット粒子は、フッ化水素の如く取扱いに困難性はみられず、取扱い容易な含フッ素アルコールを用いて製造することができ、生成物は高温加熱処理を行っても酸化チタンの光触媒としての機能の低下を抑制することができる。