【0018】
本発明では、CaO/Al
2O
3モル比が0.15〜0.7でFe
2O
3含有量が0.5〜20%のCFA化合物にポリシロキサン化合物を併用する。
本発明のポリシロキサン化合物とは、ケイ素と酸素が交互に結合してポリマーが形成されたシロキサン結合を有する有機ケイ素化合物のことを指す。ポリシロキサン化合物は、通常、コンクリートの撥水を目的としてセメント組成物に配合されるが、本発明のCFA化合物と併用することにより、鉄筋に優先的に吸着し、鉄筋の腐食の原因の一つである水の浸透を著しく抑制する。また、鉄筋に吸着しきれなかったポリシロキサン化合物はセメント中の水和物に吸着し、撥水効果を示す。つまり、水の移流を抑制することで鉄筋の腐食の原因の一つである塩化物の浸透も抑制することができる。
本発明のポリシロキサン化合物としては、特に限定されるものではないが、炭素数1〜12の疎水性アルキルを有することを特徴とする。炭素数1〜12の疎水性アルキル基を有していればいかなるものも使用可能であり、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルなどが挙げられる。中でも炭素数6〜10のヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルがより好ましい。炭素数が12より大きい場合は撥水性が低下する場合がある。
本発明のポリシロキサン化合物の分子量(シロキサン単位の総数)は、3〜300が好ましく、3〜100がより好ましく、3〜50が最も好ましい。総数が3よりも小さいと、化合物が不安定となる場合があり、300を超えると、粘度上昇が過剰となり、作業性に悪影響を及ぼす。
また、本発明のポリシロキサン化合物は、本発明の効果を阻害しなければ、アミノ基、エポキシ基、フェニル基、アルコキシ基等の塩基を有していても問題ない。
さらに、本発明のポリシロキサン化合物は、分子量2000以下の一般的にシリコーンオイルと呼ばれるものを使用する。分子量2000以上のものはゴムの性質を示し、一般的にシリコーンゴムと呼ばれる。液状、粉末いずれのものでも差し支えないが、セメントにプレミックスできることからポリシラン化合物に対してポリビニルアルコール(以下、PVAという)などをバインダー(結合助剤)として適量混合し、100℃〜150℃の熱風中に噴霧乾燥(スプレードライ)することで得られるPVAを保護コロイドとしたカプセル化されたものや、アルミナやシリカなどの微粉末と混合した粉末状の物がより好ましい。
【実施例】
【0028】
「実験例1」
表1に示すCFA化合物とポリシロキサン化合物アを、質量比2/1で混合してセメント混和材を調製した。調製したセメント混和材を用いて、セメントとセメント混和材からなるセメント組成物100部中、セメント混和材10部を配合してセメント組成物を調製し、水/結合材比0.5のモルタルをJIS R 5201に準じて調製した。このモルタルを用いて、防錆効果、圧縮強さ、塩化物浸透深さ、Caイオンの溶脱および自己治癒能力を調べた。結果を表1に併記する。
【0029】
(使用材料)
CFA化合物A:試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の酸化アルミニウムを所定割合で配合し、Fe
2O
3含有量が3%となるように試薬1級の酸化鉄を配合し、1550℃で電気炉において焼成した後、徐冷して合成。CaO/Al
2O
3モル比0.1、ブレーン値4,000cm
2/g
CFA化合物B:試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の酸化アルミニウムを所定割合で配合し、Fe
2O
3含有量が3%となるように試薬1級の酸化鉄を配合し、1550℃で電気炉において焼成した後、徐冷して合成。CaO/Al
2O
3モル比0.2、ブレーン値4,000cm
2/g
CFA化合物C:試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の酸化アルミニウムを所定割合で配合し、Fe
2O
3含有量が3%となるように試薬1級の酸化鉄を配合し、1500℃で電気炉において焼成した後、徐冷して合成。CaO/Al
2O
3モル比0.4、ブレーン値4,000cm
2/g
CFA化合物D:試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の酸化アルミニウムを所定割合で配合し、Fe
2O
3含有量が3%となるように試薬1級の酸化鉄を配合し、1450℃で電気炉において焼成した後、徐冷して合成。CaO/Al
2O
3モル比0.6、ブレーン値4,000cm
2/g
CFA化合物E:試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の酸化アルミニウムを所定割合で配合し、Fe
2O
3含有量が3%となるように試薬1級の酸化鉄を配合し、1400℃で電気炉において焼成した後、徐冷して合成。CaO/Al
2O
3モル比0.7、ブレーン値4,000cm
2/g
CFA化合物F:試薬1級の炭酸カルシウムと試薬1級の酸化アルミニウムを所定割合で配合し、Fe
2O
3含有量が3%となるように試薬1級の酸化鉄を配合し、1400℃で電気炉において焼成した後、徐冷して合成。CaO/Al
2O
3モル比0.9、ブレーン値4,000cm
2/g
ポリシロキサン化合物ア:直鎖状ヘキシル基を有するシロキサン総数20のポリシロキサン化合物をPVAによりカプセル化したもの。
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
細骨材:JIS R 5201で使用する標準砂
水:水道水
【0030】
(評価方法)
防錆効果:モルタルに内在塩化物イオンとして、10kg/m
3となるように塩化物イオンを加え、丸鋼の鉄筋を入れて50℃に加温養生することによる促進試験で防錆効果を確認した。鉄筋に錆が発生しなかった場合は良、1/10の面積以内で錆が発生した場合は可、1/10の面積を超えて錆が発生した場合は不可とした。
圧縮強さ:JIS R 5201に準じて材齢1日と28日圧縮強さを測定。
塩化物浸透深さ:塩化物イオン浸透抵抗性を評価。塩化物イオンの遮蔽効果を示す10cmφ×20cmの円柱状のモルタル供試体を作製し、一日後に脱型し、速やかに30℃の塩分濃度3.5%の食塩水である擬似海水に12週間浸漬した後、塩化物浸透深さを測定。塩化物浸透深さはフルオロセイン−硝酸銀法により、モルタル供試体断面の茶変しなかった部分を塩化物浸透深さと見なし、ノギスで8点測定して平均値を求めた。
Caイオンの溶脱:4×4×16cmのモルタル供試体を10リットルの純水に28日間浸漬し、液相中に溶解したCaイオン濃度を測定することにより判定した。
自己治癒能力:6mmのナイロン繊維を0.15質量%混合した10×10×40cmのモルタル供試体を作製し、曲げ応力によって幅0.3mmのひび割れを導入した。擬似海水に180日間浸漬した後、ひび割れ幅を測定した。◎は完全にひび割れが塞がった、○は0.1mm以下にひび割れ幅が縮小化した、△は0.2mm程度までひび割れ幅が縮小。×はひび割れ幅が縮小化されないか、あるいは逆に広がったことを示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1より、CFA化合物とポリシロキサン化合物を併用することで、防錆効果、塩化物イオン浸透抑制効果を維持し、初期強度を増加することができ、さらに、Caイオンの溶脱抵抗性、自己治癒能力を向上することができることが分かる。
【0033】
「実験例2」
表2に示す粉末度のCFA化合物Dとポリシロキサン化合物アを併用したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0034】
【表2】
【0035】
表2より、CFA化合物の粉末度を調整することで、防錆効果、塩化物イオン浸透抑制効果を維持し、強度低下を抑制することができ、さらに、Caイオンの溶脱抵抗性、自己治癒能力を向上することができることが分かる。
【0036】
「実験例3」
CFA化合物Dを使用し、表3に示すポリシロキサン化合物を併用したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0037】
<使用材料>
ポリシロキサン化合物イ:直鎖状ヘキシル基を有するシロキサン総数5のポリシロキサン化合物をPVAによりカプセル化したもの
ポリシロキサン化合物ウ:直鎖状ヘキシル基を有するシロキサン総数30のポリシロキサン化合物をPVAによりカプセル化したもの
ポリシロキサン化合物エ:直鎖状ヘキシル基を有するシロキサン総数100のポリシロキサン化合物をPVAによりカプセル化したもの
ポリシロキサン化合物オ:直鎖状ヘキシル基を有するシロキサン総数300のポリシ
ロキサン化合物をPVAによりカプセル化したもの
ポリシロキサン化合物カ:直鎖状メチル基を有するシロキサン総数20のポリシロキサン化合物をPVAによりカプセル化したもの
ポリシロキサン化合物キ:直鎖状デシル基を有するシロキサン総数20のポリシロキサン化合物をPVAによりカプセル化したもの
ポリシロキサン化合物ク:直鎖状ドデシル基を有するシロキサン総数20のポリシロキサン化合物をPVAによりカプセル化したもの
ポリシロキサン化合物コ:環状ヘキシル基を有するシロキサン総数20のポリシロキサン化合物をPVAによりカプセル化したもの
ポリシロキサン化合物サ:分岐状ヘキシル基(iso−ヘキシル基)を有するシロキサン総数20のポリシロキサン化合物をPVAによりカプセル化したもの
ポリシロキサン化合物シ:直鎖状ヘキシル基とアミノ基を有するシロキサン総数20のポリシロキサン化合物をPVAによりカプセル化したもの
ポリシロキサン化合物ス:直鎖状ヘキシル基とアルコキシ基を有するシロキサン総数20のポリシロキサン化合物をPVAによりカプセル化したもの
ポリシロキサン化合物セ:直鎖状ヘキシル基を有するシロキサン総数20の液状ポリシロキサン化合物
【0038】
【表3】
【0039】
表3より、ポリシロキサンの総数、疎水性アルキル基の分子量を調製することで、防錆効果、塩化物イオン浸透抑制効果を維持し、強度低下を抑制することができ、さらに、Caイオンの溶脱抵抗性、自己治癒能力を向上することができることが分かる。
【0040】
「実験例4」
CFA化合物Dとポリシロキサン化合物アを用いて、表4に示す配合で混和材としたこと以外は実験例1と同様に行った。
【0041】
【表4】
【0042】
表4より、本発明の混和材は、防錆効果、塩化物イオン浸透抑制効果を維持し、強度低下を抑制することができ、さらに、Caイオンの溶脱抵抗性、自己治癒能力を向上することができることが分かる。
【0043】
「実験例5」
CFA化合物Aとポリシロキサン化合物アを、質量比2/1で混合して調製した混和材を使用して表5に示す使用量としたこと以外は実験例1と同様に行った。比較のために、従来の防錆材を用いて同様に行った。結果を表5に併記する。
【0044】
(使用材料)
従来の防錆材イ:亜硝酸リチウム、市販品
従来の防錆材ロ:亜硝酸型ハイドロカルマイト、市販品
【0045】
【表5】
【0046】
表5より、本発明の混和材の使用量を調整することで、防錆効果、塩化物イオン浸透抑制効果を維持し、強度低下を抑制することができ、さらに、Caイオンの溶脱抵抗性、自己治癒能力を向上することができることが分かる。