特許第5801730号(P5801730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5801730単結晶の製造装置に用いられる種結晶保持軸及び単結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5801730
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】単結晶の製造装置に用いられる種結晶保持軸及び単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20151008BHJP
   C30B 19/06 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
   C30B29/36 A
   C30B19/06
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-10469(P2012-10469)
(22)【出願日】2012年1月20日
(65)【公開番号】特開2013-147397(P2013-147397A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(72)【発明者】
【氏名】加渡 幹尚
(72)【発明者】
【氏名】楠 一彦
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−184838(JP,A)
【文献】 特開平05−032488(JP,A)
【文献】 特開平03−183690(JP,A)
【文献】 特開平08−175896(JP,A)
【文献】 特開2006−232570(JP,A)
【文献】 特開2009−179524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液法によるSiC単結晶の製造装置に用いられる種結晶保持軸であって、
前記種結晶保持軸の側面の少なくとも一部が、前記種結晶保持軸の反射率よりも大きい反射率を有する反射部材により覆われており、
前記反射部材が、前記種結晶保持軸の下端を被覆せず、前記反射部材と前記種結晶保持軸の前記下端の端面に保持される種結晶との間に間隔を開けるように配置されている、
種結晶保持軸。
【請求項2】
前記種結晶保持軸の側面の50%以上が前記反射部材によって覆われている、請求項1に記載の種結晶保持軸。
【請求項3】
前記反射部材の反射率が0.4以上である、請求項1または2に記載の種結晶保持軸。
【請求項4】
前記反射部材がカーボンシートである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の種結晶保持軸。
【請求項5】
前記カーボンシートの平均厚みが0.05mm以上である、請求項4に記載の種結晶保持軸。
【請求項6】
黒鉛である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の種結晶保持軸。
【請求項7】
坩堝の周囲に配置された加熱装置により前記坩堝中にて内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するように加熱されたSi−C溶液に、種結晶保持軸に保持されたSiC種結晶を接触させて、前記種結晶を基点としてSiC単結晶を成長させる、溶液法によるSiC単結晶の製造方法であって、
前記種結晶保持軸の側面の少なくとも一部が、前記種結晶保持軸の反射率よりも大きい反射率を有する反射部材により覆われており、
前記反射部材が、前記反射部材と前記種結晶との間に間隔を開けて配置されている、
製造方法。
【請求項8】
前記種結晶保持軸の側面の50%以上が前記反射部材によって覆われている、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記反射部材の反射率が0.4以上である、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記反射部材がカーボンシートである、請求項7〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記カーボンシートの平均厚みが0.05mm以上である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記種結晶保持軸が黒鉛である、請求項7〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液法による単結晶の製造装置に用いられる種結晶保持軸及び単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC単結晶は、熱的、化学的に非常に安定であり、機械的強度に優れ、放射線に強く、しかもSi単結晶に比べて高い絶縁破壊電圧、高い熱伝導率などの優れた物性を有する。そのため、Si単結晶やGaAs単結晶などの既存の半導体材料では実現できない高出力、高周波、耐電圧、耐環境性等を実現することが可能であり、大電力制御や省エネルギーを可能とするパワーデバイス材料、高速大容量情報通信用デバイス材料、車載用高温デバイス材料、耐放射線デバイス材料等、といった広い範囲における、次世代の半導体材料として期待が高まっている。
【0003】
従来、SiC単結晶の成長法としては、代表的には気相法、アチソン(Acheson)法、及び溶液法が知られている。気相法のうち、例えば昇華法では、成長させた単結晶にマイクロパイプ欠陥と呼ばれる中空貫通状の欠陥や積層欠陥等の格子欠陥及び結晶多形が生じやすいという欠点を有するが、結晶の成長速度が大きいため、従来、SiCバルク単結晶の多くは昇華法により製造されており、成長結晶の欠陥を低減する試みも行われている(特許文献1)。アチソン法では原料として珪石とコークスを使用し電気炉中で加熱するため、原料中の不純物等により結晶性の高い単結晶を得ることは不可能である。
【0004】
そして、溶液法は、黒鉛坩堝中でSi融液またはSi融液に合金を融解し、その融液中に黒鉛坩堝からCを溶解させ、低温部に設置した種結晶基板上にSiC結晶層を析出させて成長させる方法である。溶液法は気相法に比べ熱平衡に近い状態での結晶成長が行われるため、低欠陥化が最も期待できる。このため、最近では、溶液法によるSiC単結晶の製造方法がいくつか提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−119097号公報
【特許文献2】特開2008−105896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
溶液法において、過飽和度は結晶成長の駆動力となる。したがって、過飽和度を高くすることで結晶の成長速度を上げることができる。溶液法によるSiC単結晶の成長においては、過飽和度は、結晶成長界面近傍のSi−C溶液の温度をSi−C溶液内部の温度よりも低温にすることによって設けられる。したがって、SiC単結晶の成長速度を増加するためには、結晶成長界面近傍のSi−C溶液の温度をより低温にし、より高い過飽和度を確保する必要がある。しかしながら、所望のSiC単結晶の成長速度が得られる程度まで、Si−C溶液内部の温度を高く維持しつつ、結晶成長界面近傍の温度を低温化して、温度差を大きくすることは難しかった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、従来よりも速いSiC単結晶の成長を可能とする溶液法による単結晶の製造装置に用いられる種結晶保持軸及び溶液法による単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、溶液法による単結晶の製造装置に用いられる種結晶保持軸であって、
種結晶保持軸の側面の少なくとも一部が、種結晶保持軸の反射率よりも大きい反射率を有する反射部材により覆われており、
反射部材が、反射部材と種結晶保持軸の端面に保持される種結晶との間に間隔を開けるように配置されている、
種結晶保持軸である。
【0009】
本発明はまた、坩堝の周囲に配置された加熱装置により坩堝中にて内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するように加熱されたSi−C溶液に、種結晶保持軸に保持されたSiC種結晶を接触させて、種結晶を基点としてSiC単結晶を成長させる、溶液法によるSiC単結晶の製造方法であって、
種結晶保持軸の側面の少なくとも一部が、種結晶保持軸の反射率よりも大きい反射率を有する反射部材により覆われており、
反射部材が、反射部材と種結晶との間に間隔を開けて配置されている、
製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、単結晶の成長速度を速くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を実施し得るSiC単結晶製造装置の構成の一例を表す断面模式図である。
図2】従来から用いられているSiC単結晶製造装置の基本構成の一例を表す断面模式図である。
図3】本発明の一態様における側面に反射部材を配置した種結晶保持軸を備える、SiC単結晶製造装置の基本構成の一例を表す断面模式図である。
図4】本発明の一態様における側面の下部に反射部材を配置した種結晶保持軸を備える、SiC単結晶製造装置の基本構成の一例を表す断面模式図である。
図5】本発明の一態様における側面の上部に反射部材を配置した種結晶保持軸を備える、SiC単結晶製造装置の基本構成の一例を表す断面模式図である。
図6】本発明の一態様における側面の複数個所に反射部材を配置した種結晶保持軸を備える、SiC単結晶製造装置の基本構成の一例を表す断面模式図である。
図7】本発明の一態様における、種結晶保持軸の端面と同じ形状の上面を有する種結晶を保持したときの種結晶と反射部材との位置関係を示す断面模式図である。
図8】本発明の一態様における、種結晶保持軸の端面よりも小さな形状の上面を有する種結晶を保持したときの種結晶と反射部材との位置関係を示す断面模式図である。
図9】本発明の一態様における、種結晶保持軸の端面よりも大きな形状の上面を有する種結晶を保持したときの種結晶と反射部材との位置関係を示す断面模式図である。
図10】本発明の一態様における下側が厚く上側が薄い形状を有する反射部材を側面に配置した種結晶保持軸を備える、SiC単結晶製造装置の基本構成の一例を表す断面模式図である。
図11】本発明の一態様における厚い反射部材を側面に配置した種結晶保持軸を備える、SiC単結晶製造装置の基本構成の一例を表す断面模式図である。
図12】実施例1において得られたSiC成長結晶を側面から観察した外観写真である。
図13】比較例1において得られたSiC成長結晶を側面から観察した外観写真である。
図14】比較例2において得られたSiC成長結晶を側面から観察した外観写真である。
図15】比較例3において得られたSiC成長結晶を下面から観察した外観写真である。
図16】比較例3において得られたSiC成長結晶を側面から観察した外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、溶液法による単結晶の製造装置に用いられる種結晶保持軸であって、
種結晶保持軸の側面の少なくとも一部が、種結晶保持軸の反射率よりも大きい反射率を有する反射部材により覆われており、
反射部材が、反射部材と種結晶保持軸の端面に保持される種結晶との間に間隔を開けるように配置されている、
種結晶保持軸である。
【0013】
溶液法において、Si−C溶液中に溶解したCは、拡散及び対流により分散される。種結晶基板の下面近傍は、種結晶保持軸を介した抜熱、加熱装置の出力制御、及びSi−C溶液の表面からの放熱等によって、Si−C溶液の内部よりも低温となる温度勾配が形成され得る。高温で溶解度の大きい溶液内部に溶け込んだCが、低温で溶解度の低い種結晶基板付近に到達すると過飽和状態となり、この過飽和度を駆動力として種結晶基板上にSiC単結晶を成長させることができる。
【0014】
したがって、SiC単結晶の成長速度を増加させるためには、Si−C溶液中における結晶成長界面直下の過飽和度を大きくすることが有効である。しかしながら、図2に示すように、坩堝10からの輻射熱36によって種結晶保持軸12も加熱されるため、種結晶保持軸12を介した抜熱が小さくなりSi−C溶液24の内部と結晶成長界面近傍との温度差を大きくすることが難しく、過飽和度に大きく影響し得ることが分かった。このように、従来の方法では種結晶保持軸を介した抜熱が小さくなるため、結晶成長界面直下の低温化がしにくくなる。そして、Si−C溶液の内部と結晶成長界面直下との温度差を所望の程度に大きくすることができないため、過飽和度の増加を行うことが難しく、SiC単結晶の成長速度を増加させることが難しかった。
【0015】
上記知見に基づいてSiC単結晶の成長速度を増加させるために鋭意研究した結果、本発明者は、種結晶保持軸を介した抜熱を向上させるために、種結晶保持軸の側面に反射率の高い部材を配置した種結晶保持軸を見出した。
【0016】
図3に示すように、種結晶保持軸12の側面に反射率の高い反射部材32を配置することによって、種結晶保持軸12への輻射による入熱を低減し、種結晶保持軸12の温度上昇を抑制することができる。これによって、種結晶保持軸12を介した抜熱を向上させ、Si−C溶液24中における成長界面直下の温度を低温化して過飽和度を向上し、SiC単結晶の成長速度を増加させることができる。
【0017】
反射部材32は、坩堝内に挿入されている種結晶保持軸の側面の少なくとも一部を覆うことができ、例えば、図3に示すように種結晶保持軸12の側面のほぼ全面を覆ってもよく、または図4〜6に示すように、種結晶保持軸12の側面の下部のみ、上部のみ、若しくは複数個所を覆ってもよい。
【0018】
反射部材32は、種結晶保持軸12の坩堝10内に挿入されている部分であって種結晶保持軸12の側面の面積の、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは100%を覆うことができる。
【0019】
反射部材32は、種結晶14に直接に接触しないように種結晶14との間に間隔を開けて配置される。反射部材32と種結晶14とを接触させて配置すると、種結晶14から均一に抜熱されにくくなり、結晶成長面内の抜熱分布が不均一になりやすく、成長結晶に多結晶等のマクロ欠陥が発生し得る。一方で、反射部材32を種結晶14との間に間隔を開けて配置することによって、種結晶14から均一に抜熱されやすくなるため、結晶成長面内の抜熱分布が均一になりやすく、成長結晶における多結晶等のマクロ欠陥の発生を抑制し得る。
【0020】
例えば、図7に示すように種結晶保持軸12の端面と種結晶14の上面が同じ形状であるとき、反射部材32と種結晶14とが接触しない範囲で反射部材32を種結晶保持軸12のほぼ下端まで被覆させることができる。また、図8に示すように、種結晶保持軸12の端面の方が種結晶14の上面よりも大きく種結晶14が種結晶保持軸12の端面からはみ出さない形状であるときは、反射部材32を種結晶保持軸12の下端まで完全に被覆させることができる。あるいは、図9に示すように、種結晶保持軸12の端面よりも種結晶14の上面が大きいときは、反射部材32が種結晶14に接触しないように、反射部材32は種結晶保持軸12の下端までは被覆させず、種結晶14との間に間隔を開けて配置される。いずれの態様においても、反射部材32と種結晶14とは接触せず、反射部材32と種結晶14との間で種結晶保持軸12が露出している。
【0021】
本種結晶保持軸を用いた単結晶の製造においては、種結晶保持軸12の端面と同じかそれより小さい上面を有する種結晶14を用いることが好ましい。この場合、種結晶保持軸12を介して種結晶14の上面からより均一に抜熱されるため、結晶成長面内の抜熱分布をより均一にすることができる。
【0022】
反射部材32は、種結晶保持軸12よりも大きな反射率を有しており、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.6以上の反射率を有している。
【0023】
本明細書において、反射率とは、熱すなわち赤外線の反射率(赤外反射率)を意味し、例えばフーリエ変換赤外分光法によって測定することができる。
【0024】
反射部材32を厚くすることによって、坩堝10からの輻射熱による種結晶保持軸への入熱を低減して種結晶保持軸12の温度上昇を抑制する効果をより得ることができる。例えば、図3に示すような厚みの反射部材32よりも、図11に示すような厚い反射部材32を種結晶保持軸に被覆することができる。
【0025】
反射部材32の形状は、任意の形状であることができる。例えば、図3に示すように、種結晶保持軸12の長手方向にわたって均一な厚みを有してもよく、また、種結晶保持軸12の長手方向にわたって不均一な厚みを有してもよい。図10に示すように、反射部材32が、下側が厚く上側が薄い形状を有するとき、反射部材32で反射した輻射熱34が坩堝10内の上方に向かいやすくSi−C溶液24の表面に向かいにくくなり、Si−C溶液24の表面温度が低下しやすく、より大きな過飽和度を形成することができる。また、反射部材32は複数の反射部材を組み合わせて用いてもよく、複数の反射部材をそれぞれ接するようにして種結晶保持軸12の側面に配置してもよく、図6に示すように複数の反射部材32をそれぞれ離して種結晶保持軸12の側面に配置してもよい。
【0026】
反射部材32の種結晶保持軸12の側面への配置は、黒鉛の接着剤を用いて行われ得る。反射部材32は、種結晶保持軸12の側面の周囲に接するように配置することができ、または種結晶保持軸12の側面の周囲に、反射部材32と種結晶保持軸12との間の少なくとも一部に隙間を設けて配置してもよい。
【0027】
反射部材32として、反射率が0.5のカーボンシート、反射率が0.4のタンタル、反射率が0.8のタンタルカーバイド等の、反射率が0.2の種結晶保持軸よりも高反射率を有する材料が用いられ、好ましくはカーボンシートが用いられる。
【0028】
カーボンシートとしては特に制限はなく、市販のものが使用され得る。カーボンシートは、例えばカーボン繊維をローラーにかけて脱水することによって得られ得る。
【0029】
カーボンシートの平均厚みは好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.05mm以上、さらに好ましくは0.2mm以上であることができる。カーボンシートが厚いほど、坩堝10からの輻射熱による種結晶保持軸12への入熱を低減して種結晶保持軸12の温度上昇を抑制し、結晶成長界面からの抜熱を高める効果をより得ることができる。
【0030】
カーボンシートの種結晶保持軸12の側面部への被覆は、接着剤、好適には黒鉛の接着剤を用いて行われ得る。
【0031】
本発明において、反射部材は断熱材とは異なるものであり、反射部材に代えて断熱材を用いても本発明の効果を得ることはできない。断熱材を種結晶保持軸に被覆しても、SiC単結晶の成長速度の所望の向上を得ることはできず、この理由の一つとして、断熱材を用いると、結晶成長界面付近も保温してしまい低温化を図ることができず、所望の過飽和度が得られない、ということが挙げられる。
【0032】
種結晶保持軸は、その端面に種結晶基板を保持する黒鉛の軸であり、円柱状、角柱状等の任意の形状であることができ、例えば、種結晶の上面の形状と同じ端面形状の黒鉛軸を用いることができる。種結晶保持軸は通常50〜1000mmの長さを有することができる。
【0033】
本種結晶保持軸は、溶液法による単結晶の製造装置に用いられ、例えばSiC、GaN、BaTiO等の単結晶の製造装置に用いることができ、特にSiC単結晶の製造装置に用いることができる。
【0034】
SiC単結晶の製造においてはSi−C溶液が用いられる。Si−C溶液とは、SiまたはSi/X(XはSi以外の1種以上の金属)の融液を溶媒とするCが溶解した溶液をいう。Xは一種類以上の金属であり、SiC(固相)と熱力学的に平衡状態となる液相(溶液)を形成できれば特に制限されない。適当な金属Xの例としては、Ti、Mn、Cr、Ni、Ce、Co、V、Fe等が挙げられる。例えば、坩堝内にSiに加えて、Cr、Ni等を投入し、Si−Cr溶液、Si−Cr−Ni溶液等を形成することができる。
【0035】
Si−C溶液は、その表面温度が、Si−C溶液へのCの溶解量の変動が少ない1800〜2200℃であることが好ましい。
【0036】
Si−C溶液の温度測定は、熱電対、放射温度計等を用いて行うことができる。熱電対に関しては、高温測定及び不純物混入防止の観点から、ジルコニアやマグネシア硝子を被覆したタングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対が好ましい。
【0037】
本発明はまた、坩堝の周囲に配置された加熱装置により坩堝中にて内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するように加熱されたSi−C溶液に、種結晶保持軸に保持されたSiC種結晶を接触させて、種結晶を基点としてSiC単結晶を成長させる、溶液法によるSiC単結晶の製造方法であって、種結晶保持軸の側面の少なくとも一部が、種結晶保持軸の反射率よりも大きい反射率を有する反射部材により覆われており、反射部材が、反射部材と種結晶との間に間隔を開けて配置されている、製造方法である。
【0038】
本製造方法によれば、上述の種結晶保持軸に係る説明と同様に種結晶保持軸が種結晶保持軸の側面に反射率の高い部材を有しており、溶液法によってSiC単結晶を製造させる際に、種結晶保持軸への輻射による入熱を低減し、種結晶保持軸の温度上昇を抑制することができ、種結晶保持軸を介した抜熱を向上させ、単結晶の成長界面直下の温度を低温化して過飽和度を向上してSiC単結晶の成長速度を増加させることができる。
【0039】
本製造方法における、反射部材の種結晶保持軸への配置個所及び配置方法、反射部材の反射率、材料、厚み、及び形状、並びに種結晶保持軸の材料及び形状等に係る説明は、上述の種結晶保持軸に係る説明が適用される。
【0040】
図1に、本発明を実施し得るSiC単結晶製造装置の一例を示す。図示したSiC単結晶製造装置100は、SiまたはSi/Xの融液中にCが溶解してなるSi−C溶液24を収容した坩堝10を備え、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成し、昇降可能な種結晶保持軸12の先端に保持された種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、種結晶基板14を基点としてSiC単結晶を成長させることができる。坩堝10及び種結晶保持軸12を回転させることが好ましい。
【0041】
Si−C溶液24は、原料を坩堝に投入し、加熱融解させて調製したSiまたはSi/Xの融液にCを溶解させることによって調製される。坩堝10を、黒鉛坩堝などの炭素質坩堝またはSiC坩堝とすることによって、坩堝10の溶解によりCが融液中に溶解し、Si−C溶液が形成される。こうすると、Si−C溶液24中に未溶解のCが存在せず、未溶解のCへのSiC単結晶の析出によるSiCの浪費が防止できる。Cの供給は、例えば、炭化水素ガスの吹込み、または固体のC供給源を融液原料と一緒に投入するといった方法を利用してもよく、またはこれらの方法と坩堝の溶解とを組み合わせてもよい。
【0042】
保温のために、坩堝10の外周は、断熱材18で覆われている。これらが一括して、石英管26内に収容されている。石英管26の外周には、加熱用の高周波コイル22が配置されている。高周波コイル22は、上段コイル22A及び下段コイル22Bから構成されてもよく、上段コイル22A及び下段コイル22Bはそれぞれ独立して制御可能である。
【0043】
坩堝10、断熱材18、石英管26、及び高周波コイル22は、高温になるので、水冷チャンバーの内部に配置される。水冷チャンバーは、装置内の雰囲気調整を可能にするために、ガス導入口とガス排気口とを備える。
【0044】
Si−C溶液の温度は、通常、輻射等のためSi−C溶液の内部よりも表面の温度が低い温度分布となるが、さらに、高周波コイル22の巻数及び間隔、高周波コイル22と坩堝10との高さ方向の位置関係、並びに高周波コイルの出力を調整することによって、Si−C溶液24に種結晶基板14が接触する溶液上部が低温、溶液下部(内部)が高温となるようにSi−C溶液24の表面に垂直方向の温度勾配を形成することができる。例えば、下段コイル22Bの出力よりも上段コイル22Aの出力を小さくして、Si−C溶液24に溶液上部が低温、溶液下部が高温となる温度勾配を形成することができる。温度勾配は、溶液表面からの深さがおよそ30mmまでの範囲で、1〜100℃/cmが好ましく、10〜50℃/cmがより好ましい。
【0045】
いくつかの態様において、SiC単結晶の成長前に、種結晶基板の表面層をSi−C溶液中に溶解させて除去するメルトバックを行ってもよい。SiC単結晶を成長させる種結晶基板の表層には、転位等の加工変質層や自然酸化膜などが存在していることがあり、SiC単結晶を成長させる前にこれらを溶解して除去することが、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。溶解する厚みは、種結晶基板の表面の加工状態によって変わるが、加工変質層や自然酸化膜を十分に除去するために、およそ5〜50μmが好ましい。
【0046】
メルトバックは、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度が増加する温度勾配、すなわち、SiC単結晶成長とは逆方向の温度勾配をSi−C溶液に形成することにより行うことができる。高周波コイルの出力を制御することによって上記逆方向の温度勾配を形成することができる。
【0047】
メルトバックは、Si−C溶液に温度勾配を形成せず、単に液相線温度より高温に加熱されたSi−C溶液に種結晶基板を浸漬することによっても行うことができる。この場合、Si−C溶液温度が高くなるほど溶解速度は高まるが溶解量の制御が難しくなり、温度が低いと溶解速度が遅くなることがある。
【0048】
いくつかの態様において、あらかじめ種結晶基板を加熱しておいてから種結晶基板をSi−C溶液に接触させてもよい。低温の種結晶基板を高温のSi−C溶液に接触させると、種結晶に熱ショック転位が発生することがある。種結晶基板をSi−C溶液に接触させる前に、種結晶基板を加熱しておくことが、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。種結晶基板の加熱は種結晶保持軸ごと加熱して行うことができる。この場合、種結晶基板をSi−C溶液に接触させた後、SiC単結晶を成長させる前に種結晶保持軸の加熱を止める。または、この方法に代えて、比較的低温のSi−C溶液に種結晶を接触させてから、結晶を成長させる温度にSi−C溶液を加熱してもよい。この場合も、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。
【実施例】
【0049】
(共通条件)
実施例1及び比較例1〜3に共通する条件を示す。各例において、図1に示す単結晶製造装置100を用いた。ただし、反射部材32の有無、位置、及び形状は各例において異なる。Si−C溶液24を収容する内径40mm、高さ125mmの黒鉛坩堝10にSi/Cr/Niを原子組成百分率で54:40:6の割合で融液原料として仕込んだ。単結晶製造装置の内部の空気をアルゴンで置換した。黒鉛坩堝10の周囲に配置された高周波コイル22に通電して加熱により黒鉛坩堝10内の原料を融解し、Si/Cr/Ni合金の融液を形成した。そして黒鉛坩堝10からSi/Cr/Ni合金の融液に、十分な量のCを溶解させて、Si−C溶液24を形成した。
【0050】
上段コイル22A及び下段コイル22Bの出力を調節して黒鉛坩堝10を加熱し、Si−C溶液24の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成した。所定の温度勾配が形成されていることの確認は、昇降可能な、ジルコニア被覆タングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対を用いて、Si−C溶液24の温度を測定することによって行った。高周波コイル22A及び22Bの出力制御により、Si−C溶液24の表面における温度を2000℃にした。Si−C溶液の表面を低温側として、種結晶基板を浸漬予定のSi−C溶液の表面における温度と、Si−C溶液24の表面から溶液内部に向けて垂直方向の深さ10mmの位置における温度との温度差は25Kであった。
【0051】
(実施例1)
反射率が0.2、直径が12mm、及び長さが200mmである円柱形状の黒鉛の種結晶保持軸12を用意し、反射部材32として反射率が0.5で厚みが0.2mmのカーボンシート(巴工業製)を、種結晶保持軸12の側面の下端から5mmの位置から上端まで、黒鉛の接着剤を用いて配置した。
【0052】
厚み1mm、直径12mmの円盤状4H−SiC単結晶を用意して種結晶基板14として用いた。種結晶基板14の下面がSi面となるようにして種結晶基板14の上面を、種結晶保持軸12の端面の略中央部に、黒鉛の接着剤を用いて接着した。種結晶基板14の上面が種結晶保持軸12の端面からはみ出さないようにして接着した。このとき、種結晶基板14とカーボンシートとは接触しておらず、種結晶基板14の上面とカーボンシートとの下端とは5mmの間隔を有していた。
【0053】
次いで、種結晶基板14を保持した種結晶保持軸12を降下させ、Si−C溶液24の表面位置に種結晶基板14の下面が一致するようにして種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、10時間、結晶を成長させた。この間、それぞれ同方向に、黒鉛坩堝10を5rpm、種結晶保持軸12を40rpmで回転させた。SiC単結晶の成長速度は0.64mm/hであり、成長量は6.4mmであった。得られたSiC単結晶を側面から観察した外観写真を図12に示す。上部の波線で囲った部分は種結晶基板14である。得られた成長結晶には、多結晶等のマクロ欠陥は見られなかった。
【0054】
(比較例1)
反射部材を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてSiC単結晶を成長させた。SiC単結晶の成長速度は0.32mm/hであり、成長量は3.2mmであった。得られたSiC単結晶を側面から観察した外観写真を図13に示す。上部の波線で囲った部分は種結晶基板14である。得られた成長結晶には、多結晶等のマクロ欠陥は見られなかった。
【0055】
(比較例2)
反射部材に代えて、厚みが2mmでカーボン成形断熱材を、種結晶保持軸12の側面の下端から5mmの位置から上端まで、黒鉛の接着剤を用いて配置した。
【0056】
実施例1と同じ種結晶基板14を用いて、種結晶基板14の下面がSi面となるようにして種結晶基板14の上面を、種結晶保持軸12の端面の略中央部に、黒鉛の接着剤を用いて接着した。種結晶基板14の上面が種結晶保持軸12の端面からはみ出さないようにして接着した。このとき、種結晶基板14と断熱材とは接触しておらず種結晶基板14の上面と断熱材の下端とは5mmの間隔を有していた。
【0057】
次いで、種結晶基板14を保持した種結晶保持軸12を降下させ、Si−C溶液24の表面位置に種結晶基板14の下面が一致するようにして種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、10時間、結晶を成長させた。この間、それぞれ同方向に、黒鉛坩堝10を5rpm、種結晶保持軸12を40rpmで回転させた。SiC単結晶の成長速度は0.13mm/hであり、成長量は1.3mmであった。得られたSiC単結晶を側面から観察した外観写真を図14に示す。上部の波線で囲った部分は種結晶基板14である。得られた成長結晶には、多結晶等のマクロ欠陥は見られなかった。
【0058】
(比較例3)
反射率が0.2、直径が12mm、及び長さが200mmである円柱形状の黒鉛の種結晶保持軸12を用意し、反射部材32として反射率が0.5で厚みが0.2mmのカーボンシート(巴工業製)を、種結晶保持軸12の側面の全面に黒鉛の接着剤を用いて配置した。
【0059】
厚み1mm、直径25mmの円盤状4H−SiC単結晶を用意して種結晶基板14として用いた。種結晶基板14の下面がSi面となるようにして種結晶基板14の上面を、種結晶保持軸12の端面の略中央部に、黒鉛の接着剤を用いて接着した。このとき、種結晶保持軸12の端面よりも大きい種結晶基板14の上面部分とカーボンシートとが接触していた。
【0060】
次いで、種結晶基板14を保持した種結晶保持軸12を降下させ、Si−C溶液24の表面位置に種結晶基板14の下面が一致するようにして種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、10時間、結晶を成長させた。この間、それぞれ同方向に、黒鉛坩堝10を5rpm、種結晶保持軸12を40rpmで回転させた。SiC単結晶の成長速度は0.60mm/hであった。得られたSiC単結晶を下面から観察した外観写真を図15に、側面から観察した外観写真を図16に示す。図15の点線部は種結晶直下領域38を表す。得られた結晶には、種結晶保持軸12とカーボンシートとの境目に対応する位置から多結晶等のマクロ欠陥が発生していた。
【符号の説明】
【0061】
100 単結晶製造装置
10 坩堝
12 種結晶保持軸
14 種結晶基板
18 断熱材
22 高周波コイル
22A 上段高周波コイル
22B 下段高周波コイル
24 Si−C溶液
26 石英管
32 反射部材
34 反射部材があるときの輻射熱
36 反射部材がないときの輻射熱
38 種結晶直下領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16