(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5801814
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】腸及び筋肉の回復
(51)【国際特許分類】
A61K 38/26 20060101AFI20151008BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20151008BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20151008BHJP
A61K 38/27 20060101ALI20151008BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20151008BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20151008BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20151008BHJP
A23L 1/30 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
A61K37/28ZNA
A61P21/00
A61K45/00
A61K37/36
A61K37/02
A61P1/00
A61P3/02
A23L1/30 A
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-532595(P2012-532595)
(86)(22)【出願日】2010年10月7日
(65)【公表番号】特表2013-507341(P2013-507341A)
(43)【公表日】2013年3月4日
(86)【国際出願番号】EP2010065021
(87)【国際公開番号】WO2011042501
(87)【国際公開日】20110414
【審査請求日】2013年7月25日
(31)【優先権主張番号】09172398.1
(32)【優先日】2009年10月7日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599132904
【氏名又は名称】ネステク ソシエテ アノニム
(73)【特許権者】
【識別番号】503070616
【氏名又は名称】アンスチチユ ナシオナル ド ラ ルシエルシユ アグロノミク
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100114270
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 朋也
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】アタックス, ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】コドラン‐レイゾン, オードリー
(72)【発明者】
【氏名】コルテ‐テュラズ, イレネ
(72)【発明者】
【氏名】ブレイリー, デニス
(72)【発明者】
【氏名】コンバレット, ライディー
【審査官】
鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】
特表平11−505521(JP,A)
【文献】
特表2000−511881(JP,A)
【文献】
特表2004−524268(JP,A)
【文献】
特表2006−517389(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/056155(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0207809(US,A1)
【文献】
特表2004−532819(JP,A)
【文献】
米国特許第05661123(US,A)
【文献】
LJUNGMANN,K. et al.,Time-dependent intestinal adaptation and GLP-2 alterations after small bowel resection in rat,Am.J.Physiol.Gastrointest.Liver Physiol.,2001年,Vol.281, No.3,p.G779-G785
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
A61K 45/00
A23L 1/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルカゴン様ペプチド2(GLP−2)を含み、
骨格筋萎縮症の治療、抑制及び/又は予防に使用するための、組成物。
【請求項2】
腸の回復を補助することを介するものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
腸栄養因子をさらに含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記腸栄養因子が、成長ホルモン(GH)及び/又は血管作用性小腸ペプチド(VIP)である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
GLP−2が、HADGSFSDEMNTILDNLAARDFINWLIQTKITD(配列番号1)、HGDGSFSDEMNTILDNLAARDFINWLIQTKITD(配列番号2)、HADGSFSDEMNTILDNLATRDFINWLIQTKITD(配列番号3)、HGDGSFSDEMNTILDNLATRDFINWLIQTKITD(配列番号4)及びこれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
骨格筋回復の改善に使用するための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
異化状態の後の回復期間中における骨格筋量の回復の改善に使用するための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
栄養失調の期間中、又はその期間後に投与するための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
栄養失調の期間が、感染症、癌、AIDS、熱傷、外傷、不十分な食物摂取、又はすべての栄養素を十分な量で供給していない食事の消費により起こったものである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
食品、栄養補助食品、飲料、食品添加物、及び薬剤からなる群から選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
栄養配合剤である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
経口、経腸、及び/又は非経口投与を意図する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
7〜19g/100kcal組成物の量で炭水化物源を含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
1.5〜5.0g/100kcal組成物の量で脂質源を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
2.0〜8.5g/100kcal組成物の量でタンパク質源を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、一般に栄養及び健康の分野に関する。特に、本発明は、筋萎縮症の治療、抑制、又は予防を可能にする組成物を提供する。本発明の実施形態は、GLP−2含有組成物、及び体内においてGLP−2の分泌を刺激して筋萎縮症を治療又は予防する組成物に向けられる。
【0002】
異化状態での筋消耗は、生体がこのような異化イベントから回復する能力が著しく損なわれているため、罹病及び死亡の間接原因となる。
【0003】
したがって、臨床栄養学の主要な課題は、全身のタンパク質バランス、よって体内タンパク質の主要な貯蔵部である骨格筋のタンパク質バランスを改善することである。しかしながら、インスリン、分枝鎖アミノ酸、又はグルタミンなどの同化分子は、悪液質患者の筋肉に対しては、あるとしてもわずかな陽性効果しか有さない。
【0004】
骨格筋ユビキチン−プロテアソーム依存性タンパク質分解が、血漿インスリン及びアミノ酸の両方のレベルの増加に対して、不十分にしか応答しないことが、飢餓/再給餌の若齢ラットで最近示された。この結論は、筋肉タンパク質分解±タンパク質分解阻害剤(プロテアソーム阻害剤MG132を含む)のインビトロにおける測定、ユビキチン−プロテアソーム経路のいくつかの成分の遺伝子発現、及び骨格筋中のユビキチン化の割合に基づいている(Kee,A.J.ら、2003、Journal of Physiology 546:765〜776)。
【0005】
筋肉量の減少が起こる場合、この状態は一般に「筋萎縮症」と名付けられる。筋萎縮症は、筋肉量の部分的な喪失を特徴とする。この筋萎縮症は、タンパク質合成の減少若しくはタンパク質分解の増加のいずれか又はその両方に関係している。筋萎縮症の結果は、通常は生活の質の低下である。毎日の作業を行うのが次第に困難になっていき、突然の脱力が事故を引き起こすこともある。筋萎縮症に罹患する対象は、多くの場合、高齢の対象、及び/又は結果として筋肉量が減る疾患に罹患する対象である。
【0006】
機能的電気刺激又は簡単な運動が、筋萎縮症を妨げる典型的な対策である。しかしながら、治療される対象の全身状態によっては、これらの方法が必ずしも適用できるとは限らない場合がある。
【0007】
したがって、筋萎縮症の治療又は予防を可能にし、また身体活動を向上させることができない対象にも用いることができる組成物が利用可能になれば望ましいであろう。
【0008】
それ故、本発明の目的は、現況技術を改善し、筋萎縮症の治療又は予防のための摂取可能な組成物を提供することであった。
【0009】
本発明者らは独立請求項の主題を実現することによりこの目的を達成した。従属請求項は本発明をさらに発展させる。
【0010】
本発明者らは、飢餓/再給餌モデルにおいて若齢ラットのタンパク質代謝に対するGLP−2投与の効果を研究するためにインビボ実験を実施した。
【0011】
若齢ラットにおける飢餓誘導による小腸萎縮が、カテプシン及びプロテアソーム活性の増加と関連していることが見出された。小腸量のGLP−2誘導による増加は、空腸及び回腸の両方におけるカテプシン活性の低下と関連していたが、プロテアソームのペプチダーゼ活性は変わらなかった。飢餓ラットのGLP−2処置は(i)小腸萎縮を軽減し、(ii)いくつかのカテプシンの活性増加を防止し、(iii)空腸の絨毛の高さ及び陰窩の深さの減少を抑制した。
【0012】
最後に、絶食ラットに6時間又は24時間再給餌したとき、GLP−2投与は、小腸量及び骨格筋量の両方の回復を確かに加速した。
【0013】
本研究において、ラットがGLP−2を受けた場合、飢餓により誘導される小腸の萎縮は16%軽減された。GLP−2処置ラットでは24時間の再給餌後、小腸は完全に回復したが、未処置動物では萎縮の26%がまだ存続していた。
【0014】
重要なことは、骨格筋量の回復が、小腸の回復に並行し、GLP−2処置ラットでは加速されたことである。骨格筋はGLP−2受容体を保持していないと思われる。したがって、これらの観察をまとめると、小腸量の操作は骨格筋量に有益な影響を及ぼすことが示される。
【0015】
さらに、内臓量の操作も筋肉量に影響を及ぼす。本発明者らは、腸及び肝臓のタンパク質量は両方とも極めて不安定であり、リソソーム経路により迅速に分解されるので、小腸量を操作するように肝臓量を操作すると、筋肉量に影響が及ぶことになると現在考えている。
【0016】
本発明者らが知る限りでは、これは、例えば絶食などの異化状態の後の回復期間中に小腸量を操作すると、骨格筋量に有益な影響があることを実証する最初の研究であった。
【0017】
これらの発見は、例えば臨床的状況で、小腸及び/又は骨格筋の回復を加速することが望まれるあらゆる状態に適用することができる。
【0018】
本研究はまた、栄養の同化効果には優先順位があること、すなわち、腸の回復が筋肉量の回復に常に先行することを示す。
【0019】
したがって、本発明は、腸の回復を補助する、筋萎縮症の治療又は予防のための組成物に関する。
【0020】
本発明はまた、筋萎縮症の治療又は予防のための組成物を調製するための、小腸の回復を補助する組成物の使用に関する。
【0021】
腸の回復を補助する組成物は当業者には公知である。
【0022】
例えば、腸量の回復を補助する組成物は、腸栄養因子を含む組成物とすることができる。腸栄養因子は当業者には公知であり、例えば成長ホルモン(GH)及び/又は血管作用性小腸ペプチド(VIP)を含む。
【0023】
さらに、腸量の回復を補助する組成物は、グルカゴン様ペプチド2(GLP−2)を含む組成物及び/又は体内においてGLP−2の分泌を刺激する組成物とすることができる。
【0024】
したがって、本発明は、グルカゴン様ペプチド2(GLP−2)を含む、筋萎縮症の治療又は予防のための組成物に関する。
【0025】
本発明はまた、筋萎縮症の治療又は予防のための組成物を調製するための、グルカゴン様ペプチド2(GLP−2)の使用に関する。
【0026】
グルカゴン様ペプチド2(GLP−2)は、腸の腸内分泌L細胞の中で発現したプログルカゴン遺伝子の組織特異的な翻訳後プロセシングにより誘導されたアミノ酸33個のペプチドである。
【0027】
Druckerら、Gut、2002、50、428〜435、及びBurrinら、Journal of Nutrition、2001、709〜712頁では、ヒト、ブタ、ウシ、及びラットを含む種の間で、GLP−2ペプチド配列の相同性が比較的高い(87〜97%)ことが報告されている。したがって、本発明のGLP−2は、ヒトGLP−2、及びヒトGLP−2に対して少なくとも87%の配列相同性、好ましくはヒトGLP−2に対して少なくとも90%の配列相同性、例えばヒトGLP−2に対して少なくとも95%の配列相同性を有するタンパク質を含む。
【0028】
ヒトGLP−2の配列は次のとおりである。
HADGSFSDEMNTILDNLAARDFINWLIQTKITD(配列番号1)
【0029】
例えば、ジペプチジルペプチダーゼIV(DP IV)によるGLP−2の分解を防止してGLP−2の半減期を長くするために、位置2のAをGに代えることができる。その結果、GLP−2の配列は次のようになる。
HGDGSFSDEMNTILDNLAARDFINWLIQTKITD(配列番号2)
【0030】
さらに、例えば本発明に従って使用できるGLP−2タンパク質は、次のとおりである。
HADGSFSDEMNTILDNLATRDFINWLIQTKITD(配列番号3)、又は
HGDGSFSDEMNTILDNLATRDFINWLIQTKITD(配列番号4)。
【0031】
本発明の実施形態はまた、グルカゴン様ペプチド2(GLP−2)、並びに/又は脂肪に起因する少なくとも10%のカロリー及び/若しくは炭水化物に起因する少なくとも25%のカロリーを伴う0.8〜2.0kcal/mlの範囲のカロリー密度を有する、体内においてGLP−2の分泌を刺激する配合物を含み、筋萎縮症の治療、抑制、及び/又は予防に使用するための組成物に関する。
【0032】
GLP−2の摂取により本発明の目的を達成することができるが、本発明はさらに、摂取されるとGLP−2分泌を刺激する、筋萎縮症の治療又は予防のための組成物にも関する。
【0033】
したがって、本発明の一実施形態は、体内においてGLP−2の分泌を刺激する、筋萎縮症の治療又は予防のための組成物である。
【0034】
GLP−2分泌のための一次刺激は栄養素摂取である。Xiao,Q.らは、Gastroenterology 117:99〜105(1999)の中で,N−IR−GLP−2レベルが、混合食の後に、特に炭水化物及び脂肪に応答して増加することが見出されたと報告している。
【0035】
したがって、体内においてGLP−2の分泌を刺激する組成物は、炭水化物及び/又は脂肪が豊富な組成物とすることができる。
【0036】
そのような組成物のカロリー密度は、脂肪に起因する少なくとも10%のカロリー及び/若しくは炭水化物に起因する少なくとも25%のカロリーを伴って0.8〜2.0kcal/mlの範囲にあってもよい。この組成物はタンパク質源を含んでもよいし、又は含まなくてもよい。タンパク質源は、存在する場合には、組成物カロリーの最大10%を供給することになろう。
【0037】
本発明の組成物は、少なくとも1つのタンパク質源、少なくとも1つの炭水化物源、及び/又は少なくとも1つの脂質源を含有することができる。
【0038】
本組成物が炭水化物源を含有する場合、使用される炭水化物の種類は特に限定されない。任意の適切な炭水化物、例えば、スクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、コーンシロップ固形物、マルトデキストリン、デンプン、及びそれらの混合物を使用することができる。様々な炭水化物源の組合せを使用することができる。炭水化物源は、7.0〜19.0g/100kcal組成物の量で組成物中に存在することができる。
【0039】
本組成物が脂質源を含有する場合、使用される脂質の種類は特に限定されない。DHA、ARA、及び/又はEPAなどの長鎖n−3及び/又はn−6多価不飽和脂肪酸を添加することができる。適切な脂肪プロファイルは、キャノーラ油、コーン油、高級オレイン酸のヒマワリ油、及び中鎖トリグリセライド油のブレンドを使用して得ることができる。脂質源は、1.5〜5.0g/100kcal組成物の量で組成物中に存在することができる。
【0040】
タンパク質源は、存在する場合、任意の食物タンパク質、例えば動物性タンパク質(乳タンパク質、食肉タンパク質、及び卵タンパク質など);植物性タンパク質(大豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、及びエンドウマメタンパク質など);ペプチド;遊離アミノ酸の混合物;又はそれらの組合せを含有することができる。
【0041】
カゼイン及び乳漿などの乳タンパク質並びに大豆タンパク質が好ましい場合がある。乳漿タンパク質が関係する限り、タンパク質源は、酸乳漿若しくは甘味乳漿又はそれらの混合物をベースとすることができ、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンを所望の任意の割合で含むことができる。タンパク質源はまた、ウシ血清アルブミン、酸カゼイン、カゼイネート、α−カゼイン、β−カゼイン、γ−カゼインを含むことができる。タンパク質源は、2.0〜8.5g/100kcal組成物の量で組成物中に存在することができる。
【0042】
タンパク質はインタクトであっても若しくは加水分解されていても、又は遊離アミノ酸であってもよい。インタクトタンパク質及び/若しくは加水分解タンパク質並びに/又は遊離アミノ酸の混合物を用いてもよい。吸収を容易にするために部分的に加水分解されたタンパク質(2〜20%の間の加水分解度(DH))を供給することが望ましいこともある。
【0043】
加水分解タンパク質が必要な場合、所望されるとおりに、また当技術分野で知られているように、この加水分解工程を実施することができる。例えば、乳漿タンパク質加水分解物は、1つ又は複数のステップで乳漿画分を酵素的に加水分解することにより調製することができる。
【0044】
食物繊維もまた添加することができる。食物繊維は可溶であっても不溶であってもよく、一般には、2つのタイプのブレンドが好ましい。食物繊維の適切な供給源としては、大豆、エンドウマメ、カラスムギ、ペクチン、グアーガム、アラビアゴム、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、シアリルラクトース、及び畜乳由来のオリゴ糖が挙げられる。好ましい繊維ブレンドは、イヌリンと短鎖フラクトオリゴ糖との混合物である。
【0045】
本発明の組成物は当技術分野で公知の任意の方法により調製することができる。例えば、本組成物が、臨床栄養配合剤又は乳児栄養配合剤などの栄養配合剤である場合、タンパク質源、炭水化物源、及び脂肪源を適切な割合で一緒にブレンドして調製することができる。乳化剤は、使用する場合には、ブレンドの中に含めることができる。ビタミン及びミネラルはこの時点で添加してもよいが、熱分解を回避するために通常は後で添加する。任意の脂溶性ビタミン、乳化剤などを、ブレンドする前に脂肪源に溶解させることができる。次いで、水、好ましくは逆浸透に付された水を中に混合して液体混合物を形成することができる。
【0046】
次いで、この液体混合物を熱処理して細菌負荷を低下させることができる。例えば、液体混合物を、約120℃〜約140℃の範囲の温度に、約5秒〜約30秒の間迅速に加熱することができる。これは蒸気噴射により又は熱交換器、例えば平板熱交換器により行うことができる。
【0047】
次いで、この液体混合物を約60℃〜約85℃に、例えばフラッシュ冷却により冷却することができる。次いで、液体混合物を、例えば、第1段階では約7MPa〜約40MPa、第2段階では約2MPa〜約14MPaの2段階でホモジナイズすることができる。次いで、ホモジナイズされた混合物をさらに冷却して、ビタミン及びミネラルなど任意の熱感受性成分を添加可能にする。
【0048】
ホモジナイズされた混合物のpH及び固形分は、この時点で標準化するのが好都合である。ホモジナイズされた混合物を噴霧乾燥機又は凍結乾燥機などの適切な乾燥装置に移し、粉末に変換する。この粉末の水分含量は、約5重量%未満とするべきである。
【0049】
さらに、GLP−2を、体内においてGLP−2の分泌を刺激する組成物と同時投与することができる。
【0050】
本発明の組成物は、ヒト又は動物、特にペット動物に投与するためのものでもよい。
【0051】
本発明の組成物はさらに、インタクトな結腸を有する患者に投与するためのものでもよい。
【0052】
本発明の組成物はいかなる種類の組成物であってもよい。本組成物は、例えば、経口的に、経腸的に、非経口的に(静脈内に又は皮下に又は筋肉内に)投与するためのものでもよい。
【0053】
本組成物は、例えば、医薬組成物、栄養補助食品、食品添加物、ペット食品、食品、又は飲料であってもよい。
【0054】
本発明による食品としては、例えば、発酵乳製品、例えばヨーグルト、バターミルク等の乳製品;アイスクリーム;濃縮乳;乳;乳クリーム;フレーバー入り乳飲料;乳漿をベースとした飲料;トッピング;コーヒークリーマー;チョコレート;チーズをベースとした製品;スープ;ソース;ピューレ;ドレッシング;プディング;カスタード;ベビーフード;栄養配合剤、例えば乳児、小児、ティーンエイジャー、成人、高齢者、又は重病患者のための完全栄養配合剤;シリアル及びシリアルバーが挙げられる。
【0055】
飲料としては、例えば、ミルク又はヨーグルトをベースとした飲料、発酵乳、タンパク質飲料、コーヒー、茶、栄養飲料、大豆飲料、フルーツ及び/又は野菜飲料、フルーツ及び/又は野菜ジュースが挙げられる。
【0056】
食品添加物又は薬剤は、例えば、錠剤;カプセル剤;トローチ剤;サッシェ剤;ゲル;又は液体、例えば栄養溶液の形態とすることができる。
【0057】
本組成物は、保護親水コロイド(ゴム、タンパク質、加工デンプンなど)、結合剤、皮膜剤、カプセル化剤/材料、壁/殻材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着剤、担体、賦形剤、共化合物(co−compounds)、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動剤、味マスキング剤、増量剤、ゼリー化剤、ゲル形成剤、酸化防止剤、及び抗菌剤をさらに含有することができる。本組成物はまた、これらに限定されないが、水、任意起源のゼラチン、植物ガム、リグニンスルホネート、タルク、糖、デンプン、アラビアゴム、植物油、ポリアルキルエングリコール、調味料、防腐剤、安定化剤、乳化剤、緩衝液、潤滑剤、着色剤、湿潤剤、充填剤等を含む、従来の医薬品添加物及び補助剤、賦形剤、並びに希釈剤も含有することができる。
【0058】
さらに、本組成物は、USDAなど政府機関省庁の推奨に従って、経口又は経腸投与に適した有機又は無機担体材料、並びにビタミン、ミネラル微量元素、及び他の微量栄養素を含有することができる。
【0059】
安定化剤は組成物及びその構成要素を安定化するために添加することができる。
【0060】
調味料及び/又は着色料は、風味を調整するために、また識別するのが容易である及び/又は心地よいと知覚される色を組成物に付けるために添加することができる。
【0061】
本発明の組成物は骨格筋の回復を改善するために使用することができる。これは、臨床栄養学の分野で特に必要となることがある。
【0062】
本発明の組成物はまた、小腸量及び筋肉量の回復を改善するために使用することができる。
【0063】
小腸及び筋肉量、例えば骨格筋量の回復が、本発明に記載の組成物を使用することで同時に改善できることは重要である。
【0064】
本発明の組成物はまた、肝臓タンパク質量の回復を向上させる際に使用することができる。
【0065】
したがって、この複合効果は、1つの組成物のみ、すなわちグルカゴン様ペプチド2(GLP−2)を含む組成物、体内においてGLP−2の分泌を刺激する組成物、又はそれらの組合せを投与することにより達成することができる。
【0066】
本発明の組成物は栄養失調の期間中又はその期間後に投与するためのものでもよい。
【0067】
栄養失調の期間は、例えば、様々な急性又は慢性の障害、例えば感染症、癌、AIDS、熱傷、外傷などいくつかの臨床状態により起こり得る。当然ながら、栄養失調は、不十分な食物摂取、又はすべての栄養素を十分な量で供給していない食事の消費によっても起こり得る。
【0068】
本発明に関して記載されたすべての特徴は、開示された本発明の範囲から逸脱することなく組み合わせることができることは、当業者ならば理解されよう。特に、本発明の組成物に関して記載された特徴は、本明細書に記載された使用に適用することができるが、その逆もまた同様である。
【0069】
本発明のさらなる特徴及び利点は、以下の実施例、表、及び図から明らかである。
【0070】
[
図1]空腸における絨毛の高さ(A)及び陰窩の深さ(B)の形態計測分析及び測定を示す図である。値は、動物n=5に対する平均±SEM(縦棒)であり、給餌対照の%として表現される。給餌ラット(黒塗り棒);飢餓ラット(白抜き棒)。文字が異なる棒は有意差がある(P<0.05)。
【0071】
[
図2]回腸における絨毛の高さ(A)及び陰窩の深さ(B)の形態計測分析及び測定を示す図である。値は、動物n=5に対する平均±SEM(縦棒)であり、給餌対照の%として表現される。給餌ラット(黒塗り棒)、飢餓ラット(白抜き棒)。文字が異なる棒は有意差がある(P<0.05)。
【0072】
[
図3]生理食塩水又はGLP−2注射給餌ラット及び飢餓ラットに由来する、空腸(A)及び回腸(B)におけるプロテアソームのキモトリプシン様及びトリプシン様活性を示す図である。データは、蛍光基質(実施例セクションを参照)から放出された任意の蛍光単位対時間の最適フィットの勾配を表わす。値は、生理食塩水注射給餌ラットの%で表現され、1群当たり5匹の動物に対する平均±SEM(縦棒)である。生理食塩水注射給餌ラット(白抜き棒)、GLP−2注射給餌ラット(斜線付き棒)、生理食塩水注射飢餓ラット(黒塗り棒)、及びGLP−2注射飢餓ラット(点付き棒)。文字が異なる棒は有意差がある(P<0.05)。
【0073】
[
図4]生理食塩水又はGLP−2注射給餌ラット及び飢餓ラットに由来する、空腸(A)及び回腸(B)におけるカテプシン(B、B+S、B+L+S、及びD)活性を示す図である。データは、蛍光基質(材料及び方法セクションを参照)から放出された任意の蛍光単位対時間の最適フィットの勾配を表わす。値は、生理食塩水注射給餌ラットの%で表現され、1群当たり5匹の動物に対する平均±SEM(縦棒)である。生理食塩水注射給餌ラット(白抜き棒)、GLP−2注射給餌ラット(斜線付き棒)、生理食塩水注射飢餓ラット(黒塗り棒)、及びGLP−2注射飢餓ラット(点付き棒)。文字が異なる棒は有意差がある(P<0.05)。
【0074】
[
図5]48時間の飢餓及び6時間又は24時間の再給餌の後の生理食塩水又はGLP−2注射ラットの小腸量を示す図である。データは1群当たり5匹の動物に対する平均±SEMである。給餌ラット(白抜き棒)、飢餓ラット(黒塗り棒)、6時間再給餌−飢餓ラット(斜線付き棒)及び24時間再給餌−飢餓ラット(灰色棒)。異なる文字を有する棒は有意差がある(P<0.05)。
【0075】
[
図6]48時間の飢餓及び6時間又は24時間の再給餌の後の生理食塩水又はGLP−2注射ラットの前脛骨筋、腓腹筋、及びEDL筋の量を示す図である。データは1群当たり5匹の動物に対する平均±SEMである。給餌ラット(白抜き棒)、飢餓ラット(黒塗り棒)、6時間再給餌−飢餓ラット(斜線付き棒)及び24時間再給餌−飢餓ラット(灰色棒)。文字が異なる棒は有意差がある(P<0.05)。
【0076】
[表1]絶食ラットの体重、小腸量、及び骨格筋量を示す表である。データは平均±SEM、1群当たりn=8ラットである。上付き文字が異なる行内の値は有意差がある(P<0.05)。
【0077】
[表2]飢餓の後のラット小腸の酵素活性を示す表である。データは、給餌対照の%で表現され、平均±SEM、1群当たりn=8ラットである。上付き文字が異なる行内の値は有意差がある(P<0.05)。
【0078】
[表3]飢餓誘導による体重減少及び腸萎縮に対するGLP−2の役割を示す表である。データは平均±SEM、1群当たりn=13〜15ラットである。統計的差は、二元配置分散分析、次いでFisherのPLSD「事後」検定により評価した。N、飢餓効果;G、GLP−2効果。上付き文字が異なる行内の値は有意差がある(P<0.05)。
【0079】
[表4]飢餓誘導による骨格筋萎縮に対するGLP−2の役割を示す表である。データは平均±SEM、1群当たりn=5ラットである。統計的差は、二元配置分散分析、次いでFisherのPLSD「事後」検定により評価した。N、飢餓効果;G、GLP−2効果。上付き文字が異なる行内の値は有意差がある(P<0.05)。
【0080】
[実施例]
材料
ラット組換えGLP−2はWashington Biotechnology Inc.(Columbia、MD、USA)から購入した。位置2の[Ala]は、このペプチドをDPP IV分解に抵抗性にするために、[Gly]に置換した。この研究で用いたGLP−2ペプチドの配列は次のとおりである。HGDGSFSDEMNTILDNLATRDFINWLIQTKITD。
【0081】
動物、ハウジング、及び実験デザイン
若齢雄性ウィスターラット(50〜60g)は、Charles River(L’Arbresle、France)から入手し、温度制御された部屋(22±1℃)にて、12時間明/12時間暗のサイクルで維持した。これらラットに、げっ歯類の標準食餌(A03;UAR、Epernay sur Orge、France)及び水を、5日の馴化期間自由に摂取させた。3つの実験を実施した。(1)第1の実験では、ラットに適宜給餌するか又は1日若しくは2日間絶食させた。絶食期間の終了時に、ウレタン(1.7g/kg体重、Sigma Aldrich、Lyon、France)の腹腔内注射によりラットを麻酔し屠殺した。(2)第2の実験では、対照群及びGLP−2処置群(1群当たりn=26〜30)にランダムに動物を分けた。生理食塩水(400μL)又はGLP−2(20μg/400μL生理食塩水)の12時間ごとの注射を0日目に開始し、実験の終了まで継続した。4日目に、各群の半分に2日間食餌を与えなかった。6日目に、記載のように動物を屠殺した。(3)最後の実験でも、実験2に記載のようにラットを振り分けた。対照群及びGLP−2処置群(1群当たりn=20)を、給餌ラット(n=5)及び飢餓ラット(n=15)の2群に分けた。生理食塩水及びGLP−2の注射をラットの屠殺まで継続した。6日目に、GLP−2処置又は未処置の給餌群及び40時間絶食群からラット5匹を記載のように屠殺した。対照群及びGLP−2処置群の残りの絶食動物に、6日目から6時間又は24時間、適宜再給餌した。再給餌の後に、記載のようにラットを屠殺した。
【0082】
組織採取
小腸全体を迅速に切除し、氷冷PBSで3回すすぎ、拭き取って乾燥し、秤量した。幽門括約筋の後方10cm及び回腸−盲腸結合部の前方10cmを取り出し廃棄した。空腸及び回腸を切除して秤量し、5cmの小断片に分けた。第1の断片は、カテプシン活性のために直ちに処理した。残りの断片は、液体窒素中に凍結して、さらなる分析まで−80℃で保存した。実験3では、骨格筋(EDL、腓腹筋、及び前脛骨筋)も慎重に解剖し、秤量した。
【0083】
カテプシン活性
空腸及び/又は回腸の5cm断片は、以前に記載されているように、ポリトロンホモジナイザーを用いて、50mmol/LのKCl、1mmol/LのEDTA、及び0.25mol/Lのスクロースを含有する10mmol/Lのリン酸緩衝液(pH7.4)中で直ちにホモジナイズした。
30 次いで、ホモジネートを1,000g(10分、4℃)で遠心分離した。その上清を、2,500g(10分、4℃)、次いでさらに40,000g(20分、4℃)で遠心分離した。そのペレットを、0.2mmol/LのEDTAを含有する20mmol/Lの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)中に再懸濁し、さらなる分析まで−20℃で保存した。カテプシンB及びカテプシンB+L+Sの活性は、それぞれ蛍光発生基質Z−アルギニン−アルギニン−AMC(ZAA−AMC、50μmol/L、Sigma)、Z−フェニルアラニン−アルギニン−AMC(ZPA−AMC、30μmol/L、Sigma)を用いて決定した。
30中性pHはカテプシンL活性を低下させるので、pH7.0でZPA−AMCを用いて測定したカテプシンB+L+S活性の大半は、カテプシンB+S活性を反映している。カテプシンD活性は、蛍光発生基質MOCAc−Gly−Lys−Pro−Ile−Leu−Phe−Arg−Leu−Lys(Dnp)−D−Arg−NH2(MOCA、20μmol/L、株式会社ペプチド研究所、大阪、日本)を用いて決定した。ペプチダーゼ活性は、ルミネセンス分光計FLX800(Biotek)を用いて、37℃、45分間における蛍光性分解産物(メチルクマリルアミド、AMC)の蓄積を測定することで決定した。蛍光は、励起波長380nm及び発光波長440nmで連続的に測定した。基質の加水分解後のAMCの蓄積の時間経過を線形回帰により分析して、ペプチダーゼ活性、例えば蓄積AMCの最適フィットの勾配を計算した。最終データは反応物中のタンパク質量により補正した。
【0084】
プロテアソーム活性
空腸及び/又は回腸の断片からのタンパク質を、ポリトロンホモジナイザーを用いて、50mmol/Lのトリス/HCl、5mmol/LのMgCl
2、250mmol/Lのスクロース、10mmol/LのATP、1mmol/LのDTT、10μg/mLのアプロチニン、10μg/mLのロイペプチン、10μg/mLのアンチパイン、10μg/mLのペプスタチンA、及び0.2mmol/Lのフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を含有する氷冷緩衝液(pH7.5)中でホモジナイズした。プロテアソームを記載のように単離した。
31プロテアソームペレットを、50mmol/Lのトリス/HCl、5mmol/LのMgCl
2、及び20%のグリセロールを含有する緩衝液中に再懸濁した。単離したプロテアソームは、分析まで−80℃で保存した。プロテアソーム調製物のタンパク質含有量は、製造業者の説明書に従ってBioradタンパク質アッセイを用いて決定した。キモトリプシン様活性、トリプシン様活性は、それぞれ蛍光発生基質スクシニル−leu−leu−val−tyr−AMC(Suc−LLVY−AMC、300μmol/L、Sigma)及びboc−leu−arg−arg−AMC(Boc−LRR−AMC、800μmol/L、Biomol International LP、Exeter、Devon、UK)を用いて、プロテアソーム阻害剤MG132(40μmol/L、Sigma)の存在下及び非存在下で決定した。37℃で45分間にわたるAMCの蓄積を、カテプシン活性測定において記載のように、連続的に測定した。反応媒体中に40μmol/Lのプロテアソーム阻害剤MG132(Affiniti)が存在する場合及び存在しない場合において記録された任意の蛍光単位間の差を計算した。最終データは反応物中のタンパク質量により補正した。
【0085】
組織学的及び形態計測的測定
空腸及び回腸からの組織試料を、Na
2CO
3(10g/L)で緩衝化した10%のホルムアルデヒド中で固定し、絨毛の高さ及び陰窩の深さの測定のために処理した。スライドの処理指定は測定時に盲検化した。
【0086】
統計
データは平均±SEMとして表現する。一元配置又は二元配置分散分析を用いて、実験1における絶食効果並びに実験2及び3における絶食及びGLP−2効果を検討した。FisherのPLSD事後検定を行って、群間差を評価した。P値<0.05は統計的有意と見なし、P値<0.10は統計的傾向と見なした。
【0087】
結果
絶食の後の小腸ペプチダーゼ活性
表1から、1日及び2日の摂食制限の後に顕著で漸進的な体重減少(それぞれ−16%及び−28%)が絶食により誘導されたことがわかる。小腸及びEDL筋の量は2日の飢餓が終わるまで漸進的に減少して萎縮は27%に達した(表1)。
【0088】
小腸萎縮におけるタンパク質分解の役割を特徴づけるために、リソソーム由来のペプチダーゼ活性及びプロテアソーム依存タンパク質分解経路を空腸で評価した(表2)。
【0089】
飢餓は、20Sプロテアソームのキモトリプシン様(+47%、ns)、トリプシン様(+66%)、及びカスパーゼ様(+111%)活性の増加を誘導した。さらに、カテプシンB、B+S、及びB+L+S活性は、給餌動物と比較して、48時間飢餓ラットにおいて34〜38%増加した。カテプシンD活性は、24時間の摂食制限と共に直ちに増加し(+91%)、48時間の絶食後にはさらに161%まで上昇した。このように、小腸の萎縮は、48時間の摂食制限後に最大の効果が見られた、空腸におけるカテプシン及びプロテアソーム活性の上昇と相関している。そこで、小腸のタンパク質分解に対するGLP−2の効果を、給餌及び48時間飢餓ラットについて研究した。
【0090】
飢餓誘導による体重減少、小腸萎縮、及び組織学的変化に対するGLP−2の効果
動物の毎日の食餌摂取はGLP−2処置により変化しなかった(データを示さず)。飢餓は、未処置群と処置群との間で同様の(それぞれ−25%及び−22%、P<0.0001、表3)、顕著な体重減少を誘導した。小腸は飢餓の後に顕著に萎縮し(−29%、P<0.0001)、その萎縮は、空腸及び回腸において同様であった(それぞれ−32及び−22%、P<0.001、表3)。
【0091】
二元配置分散分析により、飢餓が萎縮を誘導することに加えて、GLP−2処置が、小腸、空腸、及び回腸の全体量を、それぞれ22%(P<0.0001)、21%(P<0.0001)、及び17.5%(P<0.005)増加させることが示された。飢餓の効果は生理食塩水注射ラット及びGLP−2注射ラットにおいて同様であったが、小腸及び回腸の全体量は生理食塩水注射給餌ラット及びGLP−2処置飢餓ラットにおいて同様であった。さらに、GLP−2は、未処置飢餓ラット(生理食塩水注射給餌ラットに対して−32%、P<0.0001)と比較して、GLP−2処置飢餓ラット(生理食塩水注射給餌ラットに対して−12%、P<0.005)において空腸の萎縮を抑制した(表3)。絶食は、空腸において絨毛の高さ及び陰窩の深さが減少するのを誘導した(それぞれ−23%及び−31%、P<0.05、
図1)。反対に、回腸では、飢餓は形態学的変化をほとんど誘導しなかった(
図2)。空腸では、GLP−2処置は、絨毛の高さが低減するのを抑制し(−13%)、飢餓の後に陰窩の深さが減少するのを阻止した(
図1)。GLP−2処置は絨毛の高さに対して効果がなく、絶食後陰窩の深さが低減するのを阻害しなかったことから(
図2)、その効果は回腸では全く異なっていた。
【0092】
小腸におけるプロテアソームペプチダーゼ活性の飢餓誘導による上昇に対するGLP−2の効果
実験2では、生理食塩水注射ラットにおいて、飢餓により、空腸ではプロテアソームのキモトリプシン様(+98%、P<0.0001)及びトリプシン様(+40%、P<0.0005)活性の顕著な増加が誘導されたが(
図3A)、回腸ではこれらの活性に対して何ら効果がなかった(
図3B)。空腸(
図3A)又は回腸(
図3B)におけるプロテアソームのペプチダーゼ活性は、GLP−2の毎日の投与により変化しない。さらに、GLP−2処置は、絶食の後で空腸に見られたキモトリプシン様及びトリプシン様活性の増加を阻止しなかった(
図3A)。
【0093】
リソソームのタンパク質分解活性を空腸及び回腸の両方で測定した。カテプシンB+L+S及びD活性は、飢餓の後に空腸において、それぞれ25%(P<0.01)及び90%(P<0.05)増加した(
図4A)。さらに、カテプシンB及びB+S活性は、飢餓ラットの空腸において、それぞれ50%(P<0.10)及び31%(P>0.1)増加する傾向があった。対照的に、カテプシンB及びB+L+Sは、給餌対照と比較して、飢餓ラットの回腸で全く増加しなかった(
図4B)。興味深いことに、GLP−2処置は、飢餓ラットの空腸においてカテプシン活性の増加を阻止した(
図4A)。さらに、未処置ラットと比較して、GLP−2投与は、回腸においてカテプシンB(−43%、P<0.002)及びB+L+S(−50%、P<0.0005)活性の減少を誘導し、飢餓でも、この組織中のリソソーム活性は変化しなかった(
図4B)。これらの結果から、空腸に対するGLP−2保護効果がリソソーム経路の阻害に起因している可能性が示された。
【0094】
飢餓誘導による骨格筋萎縮に対するGLP−2の効果
前脛骨筋、腓腹筋、及びEDL筋は、2日の飢餓の後に約20%(P<0.0001)萎縮した。GLP−2投与はこの骨格筋減少を防止しなかった。しかしながら、GLP−2は、管腔の栄養素に応答して消化管粘膜上皮を動的に適応させる生理的調節因子であると考えられる。したがって、GLP−2処置の影響を48時間の飢餓期間の後に再給餌されたラットで研究した。
図5から、GLP−2処置動物は、生理食塩水注射動物と比較して、小腸量の加速された回復を示すことがわかった。小腸の萎縮は、ラットがGLP−2を受けた場合、再給餌の6時間後に15%(P<0.001)に軽減し、24時間後に全くなくなったが、生理食塩水注射ラットでは、6時間(−32%、P<0.0001)及び24時間(−26%、P<0.0001)の両方でまだ存続していた。興味深いことに、骨格筋量の回復は小腸の回復と並行しており、この処置により改善した。生理食塩水注射ラットに24時間の再給餌をした後、前脛骨筋(
図6A)、腓腹筋(
図6B)、及びEDL(
図6C)筋はまだ、それぞれ10%、16.5%、及び18%(P<0.0001)萎縮していた。これは、48時間の飢餓の後に観察された筋肉量の減少とほとんど完全に同じであった(
図6)。対照的に、GLP−2処置は骨格筋の回復を高めた。前脛骨筋及びEDL筋は、24時間の再給餌の後に完全に回復したが、腓腹筋は、GLP−2処置給餌ラットと比較して、9%(P<0.05)だけまだわずかに萎縮していた。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【
図1】空腸における絨毛の高さ(A)及び陰窩の深さ(B)の形態計測分析及び測定を示す図である。値は、動物n=5に対する平均±SEM(縦棒)であり、給餌対照の%として表現される。給餌ラット(黒塗り棒);飢餓ラット(白抜き棒)。文字が異なる棒は有意差がある(P<0.05)。
【
図2】回腸における絨毛の高さ(A)及び陰窩の深さ(B)の形態計測分析及び測定を示す図である。値は、動物n=5に対する平均±SEM(縦棒)であり、給餌対照の%として表現される。給餌ラット(黒塗り棒)、飢餓ラット(白抜き棒)。文字が異なる棒は有意差がある(P<0.05)。
【
図3】生理食塩水又はGLP−2注射給餌ラット及び飢餓ラットに由来する、空腸(A)及び回腸(B)におけるプロテアソームのキモトリプシン様及びトリプシン様活性を示す図である。データは、蛍光基質(実施例セクションを参照)から放出された任意の蛍光単位対時間の最適フィットの勾配を表わす。値は、生理食塩水注射給餌ラットの%で表現され、1群当たり5匹の動物に対する平均±SEM(縦棒)である。生理食塩水注射給餌ラット(白抜き棒)、GLP−2注射給餌ラット(斜線付き棒)、生理食塩水注射飢餓ラット(黒塗り棒)、及びGLP−2注射飢餓ラット(点付き棒)。文字が異なる棒は有意差がある(P<0.05)。
【
図4】生理食塩水又はGLP−2注射給餌ラット及び飢餓ラットに由来する、空腸(A)及び回腸(B)におけるカテプシン(B、B+S、B+L+S、及びD)活性を示す図である。データは、蛍光基質(材料及び方法セクションを参照)から放出された任意の蛍光単位対時間の最適フィットの勾配を表わす。値は、生理食塩水注射給餌ラットの%で表現され、1群当たり5匹の動物に対する平均±SEM(縦棒)である。生理食塩水注射給餌ラット(白抜き棒)、GLP−2注射給餌ラット(斜線付き棒)、生理食塩水注射飢餓ラット(黒塗り棒)、及びGLP−2注射飢餓ラット(点付き棒)。文字が異なる棒は有意差がある(P<0.05)。
【
図5】48時間の飢餓及び6時間又は24時間の再給餌の後の生理食塩水又はGLP−2注射ラットの小腸量を示す図である。データは1群当たり5匹の動物に対する平均±SEMである。給餌ラット(白抜き棒)、飢餓ラット(黒塗り棒)、6時間再給餌−飢餓ラット(斜線付き棒)及び24時間再給餌−飢餓ラット(灰色棒)。異なる文字を有する棒は有意差がある(P<0.05)。
【
図6】48時間の飢餓及び6時間又は24時間の再給餌の後の生理食塩水又はGLP−2注射ラットの前脛骨筋、腓腹筋、及びEDL筋の量を示す図である。データは1群当たり5匹の動物に対する平均±SEMである。給餌ラット(白抜き棒)、飢餓ラット(黒塗り棒)、6時間再給餌−飢餓ラット(斜線付き棒)及び24時間再給餌−飢餓ラット(灰色棒)。文字が異なる棒は有意差がある(P<0.05)。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]