【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明者は、SULに体重依存性が見られた原因が何かを検討し、二つの仮説に辿り着いた。その一つは、SULの計算式に含まれる除脂肪体重の推定法が、欧米人には適切であるが、その他の人種、例えば日本人には適切でないのではないかという仮説である。実は、
図2に紹介した例をはじめとして、SULの体重依存性のなさを示す既存のデータは、全て欧米人を被験者として得られていて、他の人種、例えば日本人を被験者とした場合はどうなるかについては調べられていなかった。これは、除脂肪体重の推定に人種が影響を及ぼすとは考えられていなかったためである。
【0019】
もう一つは、Jamesの定義式には年齢の要素が加味されておらず、それが除脂肪体重の推定に悪影響を与えているのではないかという仮説である。
【0020】
本願発明者が考えるに、脂肪のつき方は食文化や生活習慣によって異なり、また年齢によっても変わってくるであろう。してみると、これらの人種や年齢の因子を考慮しなくては、除脂肪体重を正確に推定することはできないかもしれず、これらの因子を考慮に入れずにSUVを修正しても、例えば日本人にとっては適切な修正にはなっていない可能性があるだろう。
【0021】
そこで本願発明者は、日本人に対して適切な除脂肪体重の推定方法が存在しないかどうかを調査した。その結果、日本人の体組成をDXA法にて調査した、サンプルサイズの大きい(2411例)論文が見つかった。(H Ito, et.al. European Journal of Clinical Nutrition (2001) 55, 462-470.,以下Ito論文と称する)
【0022】
Ito論文によれば、日本人の除脂肪体重は、身長,体重,年齢を変数とした次の一次式で近似することができる。
【0023】
[式3]
日本人除脂肪体重(kg)= 係数1×身長 (m)+ 係数2×体重(kg) + 係数3×年齢 + 係数4
【0024】
Ito論文によれば、式3中の係数1〜4は次表の通りである。表中、括弧内は標準誤差を表す。
【表1】
【0025】
本願発明者は、SULと同様の量を、式(1)から得られる日本人除脂肪体重を用いて計算した。すなわち、この新たな量をSULjと表記すると、SULjは次のように表される。
【0026】
[式4]
SULj={減衰補正された関心領域内放射能量(kBq)÷関心領域体積(ml)}/{放射能投与量(MBq)÷日本人除脂肪体重(kg)}
【0027】
本願発明者は、多数の日本人被験者の正常組織のFDG−PETデータを用いて、様々な組織に対してSUV,SUL,SULjを計算し、横軸を体重にとってグラフ上にプロットしてみた。結果の一部を
図3〜5に紹介する。
【0028】
図3は、肺組織からSUV,SUL,SULjを計算し、横軸に体重をとって結果をグラフ化したものである。すなわち例えば、この図におけるSULjは、関心領域内放射能量および関心領域体積としてそれぞれ肺組織の放射能量および体積を採用し、これらを式4に代入して計算した値である。
図3に示した結果について、各規格化量を一次式で近似してみると、図中に示されるように、SUVについてはy = 0.0061x + 0.0971,SULについてはy = 0.0043x + 0.1015,SULjについてはy = 0.0019x + 0.1657という結果となった。SUV,SUL,SULjについても値に体重依存性はみられるものの、その程度は他の2つに比べてSULjが明らかに小さくなった。これは
図3から得られる印象とも合致している。このように、日本人については、SULjを使用することによって規格化量の体重依存性を小さくすることができることが示された。
【0029】
図4は、肝臓組織からSUV,SUL,SULjを計算し、
図3と同様に横軸に体重をとって結果をグラフ化したものである。すなわち例えば、この図におけるSULjは、関心領域内放射能量および関心領域体積としてそれぞれ肝臓組織の放射能量および体積を採用し、それらを式4に代入して計算した値である。
図4を見ると、SULjには体重依存性がないか、殆ど見られない。これに対して、SUVやSULについては明らかな体重依存性が見られる。肺の場合と同様に、各規格化量を一次式で近似してみると、図中に示されるように、SUVの近似式の傾きが0.0168、SULの近似式の傾きが0.0112であるのに対して、SULjの近似式の傾きは0.0008と、殆ど傾きがないという結果となった。肝臓についての調査結果からも、日本人については、SULjを使用することによって規格化量の体重依存性を小さくすることができることが示された。
【0030】
図5は、脾臓組織からSUV,SUL,SULjを計算し、
図3と同様に横軸に体重をとって結果をグラフ化したものである。すなわち例えば、この図におけるSULjは、関心領域内放射能量および関心領域体積としてそれぞれ脾臓組織の放射能量および体積を採用し、それらを式4に代入して計算した値である。
図5を見ると分かるように、脾臓組織においてもSULjには体重依存性は見られない。これに対して、SUVやSULについては明らかな体重依存性が見られる。肺や肝臓の場合と同様に、各規格化量を一次式で近似してみると、図中に示されるように、SULjの近似式の傾きは-0.0001と、殆ど傾きがないという結果となった。従って、脾臓についての調査結果からも、少なくとも日本人については、SULjを使用することによって規格化量の体重依存性を小さくすることができることが示された。
【0031】
図3〜
図5に紹介した実験結果から明らかなように、式4で表されるSULjは、体重依存性がSUVやSULに比べて著しく小さく(または体重依存性が存在せず)、測定時期や被験者の異なる核医学検査の結果を比較する上で極めて好都合な指標であることが理解できる。
【0032】
これらの実験結果から、身長,体重,年齢を変数とする一次式を利用して除脂肪体重を推定し、推定した除脂肪体重を用いて関心領域の放射能濃度の規格化を行うことにより、被験者や測定時期が異なる複数の核医学データの間で比較可能な値を得ることができることが判明した。
【0033】
従って本発明の実施形態は、身長,体重,年齢を変数とする一次式を利用して除脂肪体重を計算する処理と、推定した除脂肪体重を用いて関心領域の放射能濃度の規格化を行う処理とを含む。これらの特徴により、核医学の手法により得られるデータから比較可能な情報を得ることができる。すなわち核医学データの定量化が実現される。
【0034】
本発明の好適な実施形態の例には、次のようなシステムが含まれる。このシステムは、処理手段と、プログラムを格納する記憶手段とを備えるシステムであって、前記プログラムは、前記処理手段に実行されることにより、前記システムに、
(a)核医学画像データを読み込むステップと;
(b)前記核医学画像データの被験者の年齢情報を読み込むステップと;
(c)放射能取り込み量を反映する指標を計算するステップと;
を少なくとも実行させるように構成さる。ここで前記指標は、次の式4'で表すことのできる値である。
【0035】
[式4']
放射能取り込み量を反映する指標={減衰補正された関心領域内放射能量÷関心領域体積}/{放射能投与量÷除脂肪体重}
【0036】
ただし式4'中、「除脂肪体重」は、次の式3'で表すことのできる値である。
【0037】
[式3']
除脂肪体重 = 係数1×身長 + 係数2×体重 + 係数3×年齢 + 係数4
【0038】
また、式3'中の年齢は、前記ステップ(b)において読み込まれた年齢情報に基づいて得られる値である。
【0039】
本発明の好適な実施形態の例には、次のようなコンピュータプログラムが含まれる。このコンピュータプログラムは、システムの処理手段に実行されることにより、前記システムに、
(a)核医学画像データを読み込むステップと;
(b)前記核医学画像データの被験者の年齢情報を読み込むステップと;
(c)放射能取り込み量を反映する指標を計算するステップと;
を少なくとも実行させるように構成される命令を備える。ここで前記指標は、次の式4'で表すことのできる値である。
【0040】
[式4']
放射能取り込み量を反映する指標={減衰補正された関心領域内放射能量÷関心領域体積}/{放射能投与量÷除脂肪体重}
【0041】
ただし式4'中、「除脂肪体重」は、次の式3'で表すことのできる値である。
【0042】
[式3']
除脂肪体重 = 係数1×身長 + 係数2×体重 + 係数3×年齢 + 係数4
【0043】
また、式3'中の年齢は、前記ステップ(b)において読み込まれた年齢情報に基づいて得られる値である。
【0044】
本発明の好適な実施形態の例には、次のような方法が含まれる。このコンピュータプログラムは、システムの処理手段に実行されることにより、前記システムが遂行する方法であって、
(a)核医学画像データを読み込むステップと;
(b)前記核医学画像データの被験者の年齢情報を読み込むステップと;
(c)放射能取り込み量を反映する指標を計算するステップと;
を少なくとも含む。ここで前記指標は、次の式4'で表すことのできる値である。
【0045】
[式4']
放射能取り込み量を反映する指標={減衰補正された関心領域内放射能量÷関心領域体積}/{放射能投与量÷除脂肪体重}
【0046】
ただし式4'中、「除脂肪体重」は、次の式3'で表すことのできる値である。
【0047】
[式3']
除脂肪体重 = 係数1×身長 + 係数2×体重 + 係数3×年齢 + 係数4
【0048】
また、式3'中の年齢は、前記ステップ(b)において読み込まれた年齢情報に基づいて得られる値である。
【0049】
表1の係数1〜4は、前述のように、日本人2400人のデータ用いて除脂肪体重を身長・体重・年齢を変数とする一次式で近似した研究から得られた係数であるが、欧米人に適合したSULが日本人には適合しなかったことに鑑みると、近似式に現れる係数は、人種によって異なるものである可能性がある。これらの係数を求める方法は前掲の非特許文献1に記載されているので、本発明の実施者によっては、新たなデータセットを用意し、独自に係数1〜4を求めて使用することを好む者もいるだろう。本願特許請求の範囲に特定される発明は、そのような実施形態も当然にその範囲に含んでいるものである。