(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5802008
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】レーザー切断装置で切断される加工物及びその加工物から切断される製品部材の面取り方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/38 20140101AFI20151008BHJP
B23K 26/361 20140101ALI20151008BHJP
【FI】
B23K26/38 A
B23K26/361
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-279536(P2010-279536)
(22)【出願日】2010年12月15日
(65)【公開番号】特開2012-125799(P2012-125799A)
(43)【公開日】2012年7月5日
【審査請求日】2013年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】503306102
【氏名又は名称】トルンプ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100084353
【弁理士】
【氏名又は名称】八嶋 敬市
(72)【発明者】
【氏名】内田 和行
(72)【発明者】
【氏名】安彦 武志
【審査官】
豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−014009(JP,A)
【文献】
特開平06−275583(JP,A)
【文献】
特開2007−165371(JP,A)
【文献】
特開2004−105990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品部材領域と除去部材領域とから成る加工物から、レーザーによって製品部材領域に該当する箇所を切断して製品部材を切り出すものにおいて、
前記除去部材領域の任意または所定の位置をレーザーによる切断開始位置として前記製品部材領域と前記除去部材領域との境界をレーザーで切断するレーザー切断部を複数個形成し、
一方のレーザー切断部の切断終了位置と他のレーザー切断部との間に前記製品部材領域と前記除去部材領域とを連結する連結部を形成し、
その連結部を複数個形成した状態で、前記加工物を前記製品部材領域と前記除去部材領域とに分離させずに前記連結部にて連結した状態のまま、前記加工物の上面と下面とから、前記レーザー切断部の位置における前記製品部材領域側及び前記除去部材領域側に形成された切断面に傾斜面を有する溝を溝形成手段によって形成し、
前記溝を形成した後、連結部を分離手段で切断して製品部材と除去部材とを分離することを特徴とする加工物から切断される製品部材の面取り方法。
【請求項2】
前記レーザー切断部を、前記溝形成手段の移動の際の案内溝とすることを特徴とする請求項1に記載の加工物から切断される製品部材の面取り方法。
【請求項3】
レーザーの切断開始位置となる空間であって前記除去部材領域内に形成される貫通穴か前記除去部材領域の外縁に前記除去部材領域側に凹んだ凹部を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の加工物から切断される製品部材の面取り方法。
【請求項4】
前記溝形成手段を、回転可能な金型とし、その金型が左右両側から中央に向かうにつれて外径が大きくなる形状としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の加工物から切断される製品部材の面取り方法。
【請求項5】
前記溝をV溝とし、そのV溝の開き角度を直角または鈍角としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の加工物から切断される製品部材の面取り方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の加工物から切断される製品部材の面取り方法において使用される加工物であって、
レーザーの切断開始位置となる空間としての前記除去部材領域内の貫通穴か前記除去部材領域の外縁で前記除去部材領域側に凹んだ凹部かの少なくともいずれかを形成したことを特徴とするレーザー切断装置で切断される加工物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー切断装置のレーザーで加工物を切断して製造する製品部材から簡単に面取りを行なうためのレーザー切断装置で切断される加工物及びその加工物から切断される面取り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板等の各種材料の薄板から厚板までを切断する装置として、従来からレーザー切断装置が知られている。レーザー切断装置は、金属等の硬い材料の切断を行う場合に、複雑な形状でもレーザーで精密に切断することができ、しかも高速での切断が可能であり、高精度の加工製品を作ることができることが知られている。しかし、レーザーによる切断加工精度が高いため、金属等の硬い材料を切断した場合に、
図8に示すように、加工物から切り出された製品部材50では、上面52並びに下面54とレーザーによって切断された切断面56とのエッジ58は直角で鋭利な形状となる。このため、製品部材50が人に触れる状態に置かれる場合には、鋭利なエッジ58に指等が触れて指等が切れるおそれがあった。
【0003】
このように、レーザー切断装置で切断加工される製品部材50の外周表面ではエッジ58が鋭利なため、ヤスリ掛けやサンダー掛け等の面取り作業が製品部材50の切断面56の外周の上下に必要となる。このようなヤスリ掛けやサンダー掛け等の面取り作業は、一般に人力に頼るものであり、時間がかかると共にコストが高くなるという欠点があった。
【0004】
この欠点を解消するものとして、レーザー切断装置を使用して加工物から製品部材を切断すると共に、その製品部材から面取りを行なう方法が特許文献1に知られている。この特許文献1の面取りを行なう方法を
図9乃至
図11に示す。
図9は加工物から面取りを行なった製品部材を製造する方法の第一の作業行程を示すものである。
図9に示すように、金属板から成る加工物60は、レーザー切断装置(図示せず)のレーザーによって製品部材62と除去部材64とに切断されるものである(
図11)。加工物60がレーザーによって切断される前に、加工物60の切断位置の上面52と下面54の両面に、溝形成手段としての上下の金型66a,66bによってV字形の溝68を形成する。金型66a,66bは、左右両端から中央位置に向かうにつれて外径が大きくなるローラー形状であり、その中央のなす角度を角度θ4とすると、V字形の溝68のなす角度も角度θ4となる。V字形の溝68の中心位置(最も深い位置)70は、レーザーで切断する切断幅H(
図10)の中心位置となるよう、金型66a,66bによって溝68を形成する。上下の金型66a,66bで形成される上下の溝68には、製品部材62側に上下の傾斜面72が形成され、除去部材64側にも傾斜面74が形成される。
【0005】
上下の金型66a,66bによって溝68を形成した場合に、製品部材62側において上面52や下面54と傾斜面72とが交わる交点を第一交点(エッジ)76とし、その上面52や下面54と傾斜面72とのなす角度を角度θ5とする。同様に、除去部材64側において上面52や下面54と傾斜面74とが交わる交点を第二交点(エッジ)78とし、上面52や下面54と傾斜面74とのなす角度を角度θ6とする。ここで、角度θ4を鈍角、例えば120度にすると、第一交点76における角度θ5や第二交点78における角度θ6は150度となり、θ5やθ6はθ4より大きな鈍角となる。
【0006】
図9に示すように、加工物60のV字形の溝68最深先端を最深先端点70とする。上面52側の最深先端点70と下面54側の最深先端点70とを結ぶ線をA−A線とする。そのA−A線は上面52や下面54と直角になる。
【0007】
次に、加工物60を切断する第二の作業工程は、
図10に示すように、上下2箇所の溝68の最深先端点70を中心とする線A−Aを中心として、幅Hのレーザーで上下2箇所の溝68を貫く切断を行なう。レーザーによる溝68内の傾斜面72側の切断線をC−C線とし、溝68内の傾斜面74側の線をD−D線とする。レーザーによる切断線の切断幅(C−C線とD−D線の間の幅H)は一般的に0.1mm〜0.2mmである。加工物60におけるレーザーで切断される箇所は、
図10におけるC−C線とD−D線で囲まれる交差斜線の領域80で示す。
【0008】
レーザー切断装置で切断されるための加工物60は、事前に上下の金型66a,66bによって上下に溝68が形成され、その上下の溝68の最深先端点70を結ぶ線(A−A線)を中心としてレーザー切断装置で切断される。このレーザーによって切断された加工物60の製品部材62と除去部材64の部分断面図を
図11に示す。製品部材62において、レーザーによるC−C線での切断箇所を切断面82とする。この切断面82と上下の傾斜面72との交叉点を第三交点(エッジ)84とし、切断面82と傾斜面72とのなす角度を角度θ7とする。この角度θ7は鈍角となる。この結果、レーザーによって切断された製品部材62の外周表面となる箇所には、2箇所の第一交点76と2箇所の第三交点84とから成るエッジができる。例えば角度θ4が120度の場合には、第一交点76の角度θ5は150度(鈍角)となり、第三交点84の角度θ7は120度(鈍角)となる。
【0009】
120度や150度の角度のエッジは鋭利ではないので、製品部材62の外周表面のエッジ(第一交点76と第三交点84)に指が触れても指が切れることがない。このように、特許文献1で製造される製品部材62では、レーザーによって切断された厚み部分(外周表面)に形成される全てのエッジの角度は、120度や150度の大きな鈍角となるので、レーザー装置で切断される製品部材62には、指が触れても指が切れることがない。よって、レーザーで製品部材62を切断した後に、人力によるヤスリ掛けやサンダー掛け等の面取り作業を行う必要がなくなる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4328583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の発明では、加工物60に金型66a,66bによって溝68を最初に形成し、その後、溝68の中心位置(溝68の最深位置70)をレーザーで切断するものである。金型66a,66bによって溝68を最初に形成した場合には、溝68の中心位置を製品部材62の外形寸法位置とし、その後のレーザーによって製品部材62を切り出す際に、溝68の中心位置(溝68の最深位置70)に、レーザーの切断位置を合わせている。レーザー装置では、曲線箇所を切断する際に、その切断速度は直線と比べて緩やかな速度でないと、正確な寸法で切断を行なうことができないものである。
【0012】
特許文献1の発明では、最初の金型66a,66bによる溝68の形成も次のレーザーによる切断も、製品部材62の外形寸法に合わせたトレースを行なうものである。例えば大きなRの曲線箇所を有する製品部材62について、金型66a,66bによる溝68を形成する場合に、製品部材62の生産性を高めるために、曲線箇所の溝68の形成の速度を直線箇所と同じ速度とすると、金型66a,66bにスラスト方向の力がかかって、溝68の位置が所定の外形形状位置よりずれてしまうことがあった。溝68を形成した後にレーザーによって所定の外形形状位置を切断するが、溝68の形成位置が所定の外形形状位置よりずれている場合に、レーザーによる切断面に段が形成されたり、レーザー切断位置が溝68の位置に合致しない場合には、レーザー切断断面に鋭いエッジが残ったりするおそれがあった。
【0013】
本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、加工物からレーザーによって切断される製品部材の外周表面に発生するエッジで指等を傷つけないようにすると共に、製品部材の生産性を向上させることができるレーザー切断装置で切断される加工物及びその加工物から切り出される製品部材のエッジの面取り方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る加工物から切断される製品部材の面取り方法は、製品部材領域と除去部材領域とから成る加工物から、レーザーによって製品部材領域に該当する箇所を切断して製品部材を切り出すものにおいて、前記除去部材領域の任意または所定の位置をレーザーによる切断開始位置として前記製品部材領域と前記除去部材領域との境界をレーザーで切断するレーザー切断部を複数個形成し、一方のレーザー切断部の切断終了位置と他のレーザー切断部との間に前記製品部材領域と前記除去部材領域とを連結する連結部を形成し、その連結部を複数個形成した状態で
、前記加工物を前記製品部材領域と前記除去部材領域とに分離させずに前記連結部にて連結した状態のまま、前記加工物の上面と下面とから、前記レーザー切断部の位置における
前記製品部材領域側及び前記除去部材領域側に形成された切断面に傾斜面を有する溝を溝形成手段によって形成し、
前記溝を形成した後、連結部を分離手段で切断して製品部材と除去部材とを分離することを特徴とするものである。本発明は、
前記レーザー切断部を、前記溝形成手段の移動の際の案内溝とすることを特徴とするものである。本発明は、レーザーの切断開始位置となる空間であって前記除去部材領域内に形成される貫通穴か前記除去部材領域の外縁に前記除去部材領域側に凹んだ凹部を形成したことを特徴とするものである。本発明は、前記溝形成手段を、回転可能な金型とし、その金型が左右両側から中央に向かうにつれて外径が大きくなる形状としたことを特徴とするものである。本発明は、前記溝をV溝とし、そのV溝の開き角度を直角または鈍角としたことを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係るレーザー切断装置で切断される加工物は、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の加工物から切断される製品部材の面取り方法において使用される加工物
であって、レーザーの切断開始位置となる空間としての前記除去部材領域内の貫通穴か前記除去部材領域の外縁で前記除去部材領域側に凹んだ凹部かの少なくともいずれかを形成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、最初に加工物にレーザーで切断を行い、次に金型による面取り作業を行うものである。最初のレーザー切断によって、製品部材となる製品部材領域は除去部材領域に対して、一部のみが連結されるが、殆どの製品部材となる形状が正確な寸法で切断されている。製品部材に大きなRの曲線箇所がある場合に、最初に製品部材の正確な外形形状をレーザーで切断する。次の金型による面取り作業において、金型の移動中心位置を加工物に形成された製品部材領域と除去部材領域とのレーザー切断部に合致させることが望ましいが、製品部材となる箇所に正確な寸法が出ているので、金型の移動中心位置に多少のずれがあっても、製品部材から確実に面取りを行なうことができ、しかも製品部材の寸法に影響を与えるものではない。よって、面取り用の金型の移動速度を早めることが可能となり、製品部材の生産性を高めることができる。また、加工物に形成されたレーザー切断部は、金型の移動の際の案内溝としての役割を果たす。よって、大きなRの曲線箇所の金型による溝の形成の際に、金型の速度を速めても金型の中心先端部はレーザー切断部に沿って移動するので、製品部材の生産性を高めることが可能になる。
【0017】
本発明では、加工物の除去部材領域内に、貫通穴を形成するか、あるいは除去部材領域の外縁に除去部材領域側に凹んだ凹部を形成する。これによって、レーザーによる切断開始位置を貫通穴か凹部のいずれかの空間とすることで、直ちに加工物の切断方向にレーザーを移動させることができ、加工時間を短縮させることができる。溝形成手段を回転金型としたことで溝を形成する時間を短縮させることができる。加工物に形成する溝をV溝(回転金型を左右両端から中央位置に向かうにつれて外径が大きくなるローラー形状)とし、そのV溝の開き角度を直角または鈍角とすることで、加工物から切り出す製品部材の切断外周表面に形成されるエッジの角度を鈍角にして、そのエッジに指等が接触しても、指等が切れないようにすることができる。即ち、金型で面取りをした後は、人力によるヤスリ掛けやサンダー掛け等の面取り作業を行う必要が無くなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係るレーザー加工を施す前の加工物の平面図である。
【
図2】本発明に係る加工物にレーザー加工を施した状態を示す平面図である。
【
図4】
図2の加工物を製品部材と除去部材とに分離した平面図である。
【
図5】
図2の加工物におけるレーザー切断部を中心とする製品部材領域と除去部材領域との断面図である。
【
図6】
図5の製品部材領域と除去部材領域とに金型で溝を形成する状態を示す断面図である。
【
図7】
図6の状態から上下の金型を取り除いた状態を示す断面図である。
【
図8】レーザーで切断された加工物の切断箇所を示す従来の断面図である。
【
図9】加工物に金型で溝を形成する状態を示す従来の断面図である。
【
図10】
図9から金型を除去した加工物の断面図である。
【
図11】
図10の加工物の溝を切断して製品部材と除去部材とに分離した状態の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明を図面に基づいて説明する。
図1はレーザー加工を施す前の本発明に係る加工物の平面図、
図2は本発明に係る加工物にレーザーで切断を行なった状態を示す平面図、
図3は
図2の要部拡大平面図、
図4は
図2の加工物を製品部材と除去部材とに分離した平面図である。
図1に示す本発明に係る加工物10は、例えば金属板等の板材であり、レーザー切断装置(図示せず)のレーザーで切断可能なものとする。その加工物10の平面は、切断想定線12(一点鎖線図示)で区画される製品部材領域14aと、その製品部材領域14aの周囲を囲む除去部材領域16aとから成る。例えば、製品部材領域14aを正方形とし、除去部材領域16aを製品部材16bより一回り大きな四角形とする。加工物10において、一点鎖線で示す切断想定線12をレーザーで切断する(後述する連結部26を除く)ことで、加工物10を最終的には
図4に示す製品部材14と除去部材16とに分離させる。
【0020】
図1に示す加工物10は、レーザーによって切断加工を行なう前の状態であり、除去部材領域16aに複数個の捨て穴である貫通穴18を形成したものである。貫通穴18の個数は、製品部材14の形状に応じて設定される。製品部材14の形状に応じて、加工物10に何回かのレーザーによる一連の切断を行うが、製品部材領域14aが正方形の場合には、レーザーによって加工物10に4回の直線状の一連の切断を行う。レーザーによる1回の一連の切断は、直線状の形状に限るものではなく、曲線状の形状を形成することもできる。レーザーによる一連の切断の終点は、一般には、急激な角度の反転位置等である。
【0021】
ここで、
図1に示す加工物10から、レーザーによって正方形の製品部材14を切り出す場合について説明する。加工物10の貫通穴18をレーザーによる切断開始位置として、その後、正方形の製品部材14の一辺に該当する箇所を切断想定線12に沿って直線状にレーザーで切断を行う。そのレーザーによる切断した箇所をレーザー切断部20とする。4箇所の貫通穴18をそれぞれ切断開始位置として、加工物10に4箇所の直線状のレーザー切断部20を形成する。4箇所のレーザー切断部20は、
図3に示すように、製品部材14の一辺の長さの全長を切断するのではなく、一辺の長さが他の一辺と交わる位置の近くまでの切断とし、他の一辺と交わる手前の短い長さだけは切断しないようにする。
【0022】
レーザーによる切断開始位置を、除去部材領域16aに設けた貫通穴18とする。なお、除去部材領域16aにおいて貫通穴18ではない任意の位置をレーザーによる切断開始位置とすることも可能である。しかし、貫通穴18(所定の位置)ではない任意の位置をレーザーによる切断開始位置とすると、レーザーによって除去部材領域16aに最初に上下方向に穴を開けなければならず、その上下方向に穴を開けてから次に横方向に加工物10を切断することになる。これに対して、予め貫通穴18を設けておけば、貫通穴18の位置(レーザーによる切断開始位置)から横方向に加工物10を切断すれば良く、切断時間を短縮することができる。なお、
図1の右上に示すように、貫通穴18に代えてまたはそれと共に、除去部材領域16の外縁22から除去部材領域16の内側に向けてへこむ凹部24を形成するようにしても良い。この場合には、貫通穴18ではなくて、凹部24の位置から切断を開始させる。
【0023】
加工物10に4箇所のレーザー切断部20を形成した結果、
図2に示す加工物12には、製品部材領域12の領域と除去部材領域14の領域とが切断されていない4箇所の連結部26が形成される(
図3)。この連結部26の長さは、加工物の素材が硬い金属材料であっても、人力による力を加えることで簡単に切断できる程度の長さに設定する。連結部26の長さは、加工物10の素材や、加工物の厚みにもよるが、例えば0.5mm前後が望ましいが、この長さに限るものではない。加工物10にレーザー切断部20を形成した位置では、
図5に示すように、レーザー切断部20の切断幅hで製品部材領域14aと除去部材領域16aとに分けられる。レーザーによる切断幅hは、一般には0.1mm〜0.2mmである。
【0024】
加工物10にレーザー切断部20を形成した後、
図6に示すように、金型28aと金型28bを用いて加工物10に溝30を形成する。この際、加工物10のレーザー切断部20の上下の位置(製品部材領域14aと除去部材領域16a)に金型28aと金型28bを押圧することによって、加工物10に溝30を形成する。金型28aと金型28bは、例えば左右対称で、左右両側から中央に向かうにつれて外径が大きくなる形状(中央部の外径が最も長いローラー形状)であって、回転しながら移動する回転金型が望ましい。加工物10の上面と下面とから、回転金型28a,28bをレーザー切断部20に沿って加工物10を押圧するようにして回転移動させる。これによって、レーザー切断部20の位置の左右の加工物10の上面32と下面34には、
図6に示す断面V字形の溝30(製品部材領域14aと除去部材領域16aとによる断面V字形の溝)が形成される。回転金型28aと回転金型28bの外径が大きい中央部の角度を角度θ1とすると、角度θ1は直角または鈍角とするのが望ましいが、角度θ1これに限るものではない。回転金型28aと回転金型28bを使用して溝30を形成すれば、レーザー切断部20の全体の長さに沿った溝30の形成時間を短縮することができる。なお、回転金型以外の金型で溝30を形成しても良い。溝30は断面V字形であるのが望ましいが、それに限るものではない。
【0025】
回転金型28a,28bによって溝30を形成する場合に、回転金型28a,28bの外径が大きい中央部をレーザー切断部20の幅Hに嵌合させることで、回転金型28a,28bの回転速度を速めてもレーザー切断部20から外れることなく、レーザー切断部20に沿って移動させることができる。上下の金型28a,28bがレーザー切断部20に沿って移動して溝30を形成することによって、製品部材領域14a側の上下に傾斜面36が形成される。一方、除去部材領域16a側の上下にも傾斜面38が形成される。これらの傾斜面36,38は直線状のものであっても曲線状のものであっても良い。
【0026】
上下の金型28a,28bによって溝30を形成した場合に、製品部材領域14a側において上面32や下面34と傾斜面36とが交わる交点を第一交点(エッジ)40とし、上面32や下面34と傾斜面36とのなす角度(第一交点32における角度)を角度θ2とする。このθ2は、θ2=90度+θ1÷2となる。ここで、角度θ1を直角にした場合には、θ2は、θ2=90度+90度÷2=135度となる。もし、角度θ1を例えば120度にすると、第一交点40の角度θ2は150度となる。
【0027】
製品部材領域14aにおいて、レーザー切断部20によって切断された面を切断面42とすると、この切断面42は製品部材14の外周表面(外表面)となるものである。この切断面42と上下の傾斜面36との交叉点を第二交点(エッジ)44とし、切断面42と傾斜面36とのなす角度を角度θ3とする。この角度θ3は、θ3=180度−θ1÷2)となる。ここで、角度θ1を直角にした場合には、角度θ3は、θ3=180度−90÷2=135度となる。角度θ1を例えば120度にすると、第一交点40の角度θ3は120度となる。
【0028】
このように、製品部材領域14aにおいては、レーザーによって切断されて形成される切断面42と、溝30によって形成される傾斜面36とによって、2箇所の第一交点40と2箇所の第二交点44とから成るエッジができる。しかし、前述したように、第一交点(エッジ)24の角度θ2も第二交点(エッジ)30の角度θ3も、金型28a,28bの頂点部の角度θ1が直角の場合には、角度θ2も角度θ3も135度となる。また、角度θ1が90度よりやや大きい鈍角であれば、角度θ2は135度よりやや大きい鈍角となり、角度θ3は135度よりやや小さい鈍角となる。
【0029】
このように、本発明では、レーザーによる切断と、回転金型28a,28bによる溝30とで形成される製品部材領域14aの外周表面には、そのようなエッジに指が触れても指が切れることがない。この結果、回転金型28a,28bで溝30を形成した後の仕上げ作業は不要となる。
【0030】
製品部材領域14aにおいて、第一交点40の角度θ2や第二交点44の角度θ3について説明したが、上下の金型28a,28bが左右対称である場合には、除去部材領域16にも第一交点40や第二交点44が形成されるが、除去される部材であるので、その説明を省略する。
【0031】
回転金型28a,28bで、加工物10(製品部材領域14a)に溝30や傾斜面36を形成した状態では、4箇所の連結部26によって製品部材領域14aと除去部材領域16とが連結されている。この連結部26は長さが短く人力で切断できるものであるので、人力で4箇所の連結部26を切断して、
図4に示すように、製品部材14と除去部材16とに分離する。分離された製品部材14においては、連結部26を破壊した4箇所にエッジができるが、その4箇所のエッジは人力によるヤスリ掛けやサンダー掛け等の面取り作業を行なって除去する。しかし、その4箇所のエッジの長さは最大でも1mm程度の長さであるので、面取り作業に時間がかかるものではない。
【0032】
以上のように本発明は、最初にレーザーによる切断の際に、製品部材14となる箇所の正確な外形形状を切断する。次の金型28a,28bによる面取り作業において、金型28a,28bが製品部材領域14aと除去部材領域16aとの間に形成されたレーザー切断部20に嵌合する。即ち、レーザー切断部20が金型28a,28bの案内溝の役割を果たし、大きなRの曲線箇所の溝30の形成の際に、金型28a,28bのスラスト方向のずれを防ぐことができる。よって、面取り用の金型28a,28bの移動速度を早めて、面取り作業の作業時間を大幅に短縮することができ、製品部材14の生産効率を大幅に高めることができる。
【0033】
なお、前述の実施例では、製品部材領域14aを内側に除去部材領域16aを外側に配置するものについて説明したが、除去部材領域16aを内側に製品部材領域14aを外側に配置するものであっても、本発明を適用することができる。なお、除去部材領域16aを内側にする場合には、除去部材領域16a内に貫通穴を設け、その貫通穴をレーザーの切断開始位置とするのが望ましい。
【符号の説明】
【0034】
10 加工物
12 切断想定線
14 製品部材
14a 製品部材領域
16 除去部材
16a 除去部材領域
18 貫通穴
20 レーザー切断部
22 外縁
24 凹部
26 連結部
28a 金型
28b 金型
30 溝
36 傾斜面
40 第一交点
42 切断面
44 第二交点