特許第5802124号(P5802124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5802124
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】メソポーラスアルミナの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/02 20060101AFI20151008BHJP
   B01J 21/04 20060101ALI20151008BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20151008BHJP
【FI】
   C01F7/02 A
   B01J21/04 M
   B01J35/10 301H
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-281267(P2011-281267)
(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公開番号】特開2013-129574(P2013-129574A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000203656
【氏名又は名称】多木化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】角谷 定宣
(72)【発明者】
【氏名】井筒 裕之
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102153119(CN,A)
【文献】 特公昭49−026840(JP,B1)
【文献】 特開平09−110420(JP,A)
【文献】 特開2009−145354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/00 − 7/76
B01J 21/00 − 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性アルミニウム塩水溶液と炭酸アンモニウム水溶液とが混合されたスラリーを用意する工程と、
前記スラリーを熟成する工程と、
前記熟成の後、前記スラリーを濾過し、前記濾過によって得られた粒子を洗浄する工程と、
前記粒子を焼成することによって、メソポーラスアルミナを得る工程と
を包含する、メソポーラスアルミナの製造方法であって、
前記得られたメソポーラスアルミナにおいて、窒素吸着等温線はIUPACのIV型に属し、前記窒素吸着等温線は相対圧P/P0が0.3〜0.96の範囲においてヒステリシスカーブを有し、細孔径分布のピーク値が2nm以上30nm以下の範囲内に存在し、
前記スラリーを用意する工程は
]前記炭酸アンモニウム水溶液に前記水溶性アルミニウム塩水溶液を添加する工程、および、
]前記水溶性アルミニウム塩水溶液と前記炭酸アンモニウム水溶液とを同時に添加する工程のいずれかを含み、
前記スラリーを用意する工程が前記[1]含む場合、前記スラリーを熟成する工程において前記熟成の温度は室温以上120℃以下の範囲であり、
前記スラリーを用意する工程が前記[2]を含む場合、前記スラリーを熟成する工程において前記熟成の温度は40℃以上120℃以下の範囲である、メソポーラスアルミナの製造方法。
【請求項2】
前記得られたメソポーラスアルミナにおいて、X線回折の回折角2θのピークが5°以下に存在する、請求項1に記載のメソポーラスアルミナの製造方法。
【請求項3】
前記熟成する工程は、1分以上24時間以下の範囲内で行われる、請求項1または2に記載のメソポーラスアルミナの製造方法。
【請求項4】
前記得られたメソポーラスアルミナの比表面積は100m2/g以上500m2/g以下の範囲内である、請求項1から3のいずれかに記載のメソポーラスアルミナの製造方法。
【請求項5】
前記スラリーを用意する工程において、前記水溶性アルミニウム塩水溶液と前記炭酸アンモニウム水溶液との混合割合が下記の不等式を満たす、請求項1から4のいずれかに記載のメソポーラスアルミナの製造方法。
【数1】
(上記式中、前記水溶性アルミニウム塩水溶液の水溶性アルミニウム塩に由来する陰イオンはn種類あり(nは1以上の自然数)、Aiはi番目の水溶性アルミニウム塩の陰イオンである)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメソポーラスアルミナの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナは、触媒、触媒担体、吸着材、分離材、セラッミクス合成用原料等として、種々の工業用ならびに環境浄化用プロセスに使用されており、応用範囲及び有用性の高い材料である。また、アルミナは一般的に不活性であり、常温では酸やアルカリにより侵されることがほとんどないため、触媒担体、吸着剤等として幅広く利用されている。例えば、γ−アルミナは、比表面積が大きいこと、活性金属種の担持分散性が高いこと、及び、機械的強度に優れていることから、触媒担体として広く用いられている。
【0003】
触媒作用は、通常、触媒表面上で行われるが、反応分子や生成分子が大きい場合には拡散抵抗が生じるため、比表面積だけではなく細孔径及びその分布が触媒の性能を支配する。このため、触媒担体は、触媒担体表面への反応分子の接近および生成物の離脱が容易にできる大きさの細孔径を有することが好ましい。
【0004】
メソポーラス材料は、細孔径2nm以上50nm以下の大きさの細孔(「メソポーラス」または「メソ細孔」と云う)を有し、その細孔径の分布が均一であり、かつ比較的大きな比表面積を有している。メソポーラス材料であるメソポーラスアルミナは上記特徴を有することから、吸着剤、樹脂配合剤および触媒担体などの様々な用途で応用されることが期待されている。
【0005】
例えば、メソポーラスアルミナを非水溶媒中のアルミナ前駆体から製造する方法が検討されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の製造方法では、気泡剤および形態制御剤を用いており、強酸性下およびオートクレーブ下などの厳しい反応条件下で反応が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2011−504867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の製造方法では、気泡剤と形態制御剤を除去することが必要となり、メソポーラスアルミナを簡便に製造できない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便なメソポーラスアルミナの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるメソポーラスアルミナの製造方法は、水溶性アルミニウム塩水溶液と炭酸アンモニウム水溶液とが混合されたスラリーを用意する工程と、前記スラリーを熟成する工程と、前記熟成の後、前記スラリーを濾過し、前記濾過によって得られた粒子を洗浄する工程と、前記粒子を焼成することによって、メソポーラスアルミナを得る工程とを包含する、メソポーラスアルミナの製造方法であって、前記得られたメソポーラスアルミナにおいて、窒素吸着等温線はIUPACのIV型に属し、前記窒素吸着等温線は相対圧P/P0が0.3〜0.96の範囲においてヒステリシスカーブを有し、細孔径分布のピーク値が2nm以上30nm以下の範囲内に存在し、前記スラリーを用意する工程は、[1]前記水溶性アルミニウム塩水溶液に前記炭酸アンモニウム水溶液を添加する工程、[2]前記炭酸アンモニウム水溶液に前記水溶性アルミニウム塩水溶液を添加する工程、および、[3]前記水溶性アルミニウム塩水溶液と前記炭酸アンモニウム水溶液とを同時に添加する工程のいずれかを含み、前記スラリーを用意する工程が前記[1]または前記[2]を含む場合、前記スラリーを熟成する工程において前記熟成の温度は室温以上120℃以下の範囲であり、前記スラリーを用意する工程が前記[3]を含む場合、前記スラリーを熟成する工程において前記熟成の温度は40℃以上120℃以下の範囲である。
【0010】
ある実施形態では、前記得られたメソポーラスアルミナにおいて、X線回折の回折角2θのピークが5°以下に存在する。
【0011】
ある実施形態において、前記熟成する工程は、1分以上24時間以下の範囲内で行われる。
【0012】
ある実施形態において、前記得られたメソポーラスアルミナの比表面積は100m2/g以上500m2/g以下の範囲内である。
【0013】
ある実施形態では、前記スラリーを用意する工程において、前記水溶性アルミニウム塩水溶液と前記炭酸アンモニウム水溶液との混合割合が下記の不等式を満たす。
【数1】
(上記式中、前記水溶性アルミニウム塩水溶液の水溶性アルミニウム塩に由来する陰イオンはn種類あり(nは1以上の自然数)、Aiはi番目の水溶性アルミニウム塩の陰イオンである)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、メソポーラスアルミナを簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明によるメソポーラスアルミナの製造方法の実施形態を示すフロー図である。
図2】実施例1において得られたメソポーラスアルミナの特性を示した図であり、(a)は窒素吸着等温線、(b)は細孔径分布、(c)は低角域XRDパターン(XRD:X線回折(X−ray Diffraction))、(d)は広角域XRDパターンをそれぞれ示すグラフである。
図3】実施例2において得られたメソポーラスアルミナの特性を示した図であり、(a)は窒素吸着等温線、(b)は細孔径分布、(c)は低角域XRDパターン、(d)は広角域XRDパターンをそれぞれ示すグラフである。
図4】実施例3において得られたメソポーラスアルミナの特性を示した図であり、(a)は窒素吸着等温線、(b)は細孔径分布、(c)は低角域XRDパターン、(d)は広角域XRDパターンをそれぞれ示すグラフである。
図5】実施例4において得られたメソポーラスアルミナの特性を示した図であり、(a)は窒素吸着等温線、(b)は細孔径分布、(c)は低角域XRDパターン、(d)は広角域XRDパターンをそれぞれ示すグラフである。
図6】実施例5において得られたメソポーラスアルミナの特性を示した図であり、(a)は窒素吸着等温線、(b)は細孔径分布、(c)は低角域XRDパターン、(d)は広角域XRDパターンをそれぞれ示すグラフである。
図7】実施例6において得られたメソポーラスアルミナの特性を示した図であり、(a)は窒素吸着等温線、(b)は細孔径分布、(c)は低角域XRDパターン、(d)は広角域XRDパターンをそれぞれ示すグラフである。
図8】実施例7において得られたメソポーラスアルミナの特性を示した図であり、(a)は窒素吸着等温線、(b)は細孔径分布、(c)は低角域XRDパターン、(d)は広角域XRDパターンをそれぞれ示すグラフである。
図9】実施例8において得られたメソポーラスアルミナの特性を示した図であり、(a)は窒素吸着等温線、(b)は細孔径分布、(c)は低角域XRDパターン、(d)は広角域XRDパターンをそれぞれ示すグラフである。
図10】実施例9において得られたメソポーラスアルミナの特性を示した図であり、(a)は窒素吸着等温線、(b)は細孔径分布、(c)は低角域XRDパターン、(d)は広角域XRDパターンをそれぞれ示すグラフである。
図11】比較例1において得られたアルミナの特性を示した図であり、(a)は窒素吸着等温線、(b)は細孔径分布、(c)は低角域XRDパターン、(d)は広角域XRDパターンをそれぞれ示すグラフである。
図12】比較例2において得られたアルミナの特性を示した図であり、(a)は窒素吸着等温線、(b)は細孔径分布、(c)は低角域XRDパターン、(d)は広角域XRDパターンをそれぞれ示すグラフである。
図13】(a)および(b)はそれぞれ実施例1および比較例2における焼成前の乾燥粉のXRDパターンを示すグラフである。
図14】実施例1において、500℃焼成後に、さらに600℃〜1300℃で再焼成を行ったアルミナのXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1を参照して、本発明によるメソポーラスアルミナの製造方法の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0017】
S102において、水溶性アルミニウム塩水溶液と炭酸アンモニウム水溶液とが混合されたスラリーを用意する。スラリーは、[1]水溶性アルミニウム塩水溶液に炭酸アンモニウム水溶液を添加する(以下、「正添加」と云う)、[2]炭酸アンモニウム水溶液に水溶性アルミニウム塩水溶液を添加する(以下、「逆添加」と云う)、または、[3]水に、水溶性アルミニウム塩水溶液及び炭酸アンモニウム水溶液の両方を同時に添加する(以下、「同時添加」と云う)、のいずれかによって形成される。
【0018】
水溶性アルミニウム塩水溶液は、水溶性アルミニウム塩を水に溶解させて調製する。水溶性アルミニウム塩として、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、または、ポリ塩化アルミニウムが用いられ、これらの少なくとも2つを混合した混合物を用いてもよい。
【0019】
水溶性アルミニウム塩水溶液の濃度は、アルミナ(Al23)換算で0.1wt%以上5wt%以下の範囲内であることが好ましい。濃度が0.1wt%未満の場合、生産性を高くできないことがある。また、濃度が5wt%を超える場合、炭酸アンモニウムを添加する際に激しくゲル化し、均一なメソ細孔が得られ難いことがある。水溶性アルミニウム塩水溶液の濃度は、1〜3wt%であることがより好ましい。
【0020】
炭酸アンモニウム水溶液は、炭酸アンモニウムのみを含有する水溶液であることが好ましいが、他の炭酸塩である炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムのいずれかを含んでもよい。但し、炭酸アンモニウム水溶液が炭酸アンモニウム以外の炭酸塩を含む場合、得られるメソポーラスアルミナの細孔径の均一性が低下することがある。従って、他の炭酸塩を含む場合は、この炭酸塩の濃度は、炭酸アンモニウムに対して10質量%以下、好ましくは5質量%以下であることが好ましい。例えば、炭酸アンモニウム水溶液の代わりに炭酸水素アンモニウムのみを含有した水溶液を用いると、均一なメソ細孔が形成され難い。炭酸アンモニウムは、例えば、和光純薬工業株式会社で市販される試薬を用いることができる。
【0021】
炭酸アンモニウム水溶液の濃度は、アンモニア(NH3)換算で0.1wt%以上8wt%の範囲内であることが好ましい。濃度が0.1wt%未満の場合、生産性を高くできないことがある。また、濃度が8wt%を超える場合、炭酸アンモニウムが溶解し難いことがある。炭酸アンモニウム水溶液の濃度は、3〜5wt%であることがより好ましい。
【0022】
例えば、スラリーは、水溶性アルミニウム塩水溶液と炭酸アンモニウム水溶液とを以下の不等式を満たすような割合で混ぜることによって形成される。
【数2】
式中、水溶性アルミニウム塩水溶液の水溶性アルミニウム塩に由来する陰イオンはn種類あり(nは1以上の自然数)、Aiはi番目の水溶性アルミニウム塩の陰イオンである。
【0023】
ここで、例えば、水溶性アルミニウム塩として硝酸アルミニウムを用いる場合、陰イオンは硝酸イオン(NO3-)であり、Aiの価数は1である。一方、水溶性アルミニウム塩として硫酸アルミニウムを用いる場合、陰イオンは硫酸イオン(SO42-)であり、Aiの価数は2である。
【0024】
上述の式の下限値が0.8未満では、アルミニウムの析出が起きないことがある。また、上述の式の上限値が6よりも大きくてもメソポーラスアルミナは得られるが、添加量に見合う効果が得られ難いため経済的ではない。なお、上述の式の値が0.8以上6以下の場合、スラリーのpHは概ね6〜10の範囲となる。正添加および同時添加の場合は、上述の式の値は1以上2以下であることが好ましく、逆添加の場合は3以上6以下であることが好ましい。
【0025】
水溶性アルミニウム塩水溶液と炭酸アンモニウム水溶液との混合時の温度は、室温以上70℃以下の範囲内であることが好ましく、30℃以上60℃以下の範囲内であることがさらに好ましい。混合時の温度が、室温未満または70℃以上である場合、得られるメソポーラスアルミナの細孔径の均一性が低下することがある。なお、逆添加の場合は室温以上40℃以下であることが特に好ましい。例えば、正添加において加熱する場合は、水溶性アルミニウム塩水溶液を加熱した状態で、炭酸アンモニウム水溶液の添加が行われる。
【0026】
水溶性アルミニウム塩水溶液と炭酸アンモニウム水溶液とを急激に混合すると、ゲル化が急速に進行してしまい、メソポーラスアルミナの細孔径の均一性が低下することがある。従って、正添加、逆添加、同時添加のいずれの方法においても、添加時間は5分以上2時間以下の範囲内であることが好ましく、10分以上30分以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0027】
次に、S104において、スラリーを熟成する。正添加または逆添加の場合の熟成温度は室温以上120℃以下の範囲内であり、同時添加の場合の熟成温度は40℃以上120℃以下の範囲内である。熟成温度が120℃を超えると上記いずれの添加方法においても、得られるメソポーラスアルミナの細孔径の均一性が低下する。また、同時添加において熟成温度が40℃未満であると、均一なメソ細孔が得られ難くなる。
【0028】
なお、いずれの方法で添加された場合でも、熟成温度は40℃以上90℃以下の範囲内であることが好ましく、50℃以上80℃以下の範囲内であることがよりに好ましい。また、熟成は、混合時と同じ温度または混合時よりも高い温度に加熱して行われることが好ましい。また、90℃よりも高い温度に加熱する場合、オートクレーブを用いることが好ましい。
【0029】
熟成は、1分以上24時間以下の範囲内で行われることが好ましく、さらに好ましくは1時間以上12時間以下である。スラリーがアンモニウム系化合物を含んでいるため、熟成は密閉容器を用いて行われることが好ましい。また、熟成時に撹拌を行ってもよい。
【0030】
次に、S106において、熟成後のスラリーを濾過し、濾過によって得られた粒子を洗浄する。濾過および洗浄により、余分な塩が除去される。洗浄は、イオン交換水を用いて行うことが好ましい。濾過は、ヌッチェを用いて行ってもよく、あるいは、遠心分離機を用いて行ってもよい。なお、必要に応じて、S108における焼成の前に、粒子を乾燥して粉状にしてもよい。乾燥は、例えば、100℃以上で10時間行い、これにより、白い粉状のアンモニウムドーソナイトが得られる。
【0031】
次に、S108において、粒子を焼成することによって、メソポーラスアルミナを得る。焼成は400℃以上700℃以下の範囲内で行われることが好ましい。この温度範囲内で焼成を行う場合、γ−アルミナが主生成物となり、比表面積の大きいメソポーラスアルミナが得られる。なお、焼成温度が400℃未満の場合、焼成物にアンモニア成分および二酸化炭素成分が残ることがある。また、焼成温度が700℃を超える場合、γ−アルミナ以外の結晶構造を有するアルミナが形成されることがある。特に、比較的高い温度で焼成した場合、結晶化度が高く高温安定相であるα−アルミナが形成され、比表面積が大きく減少する。
【0032】
上記本実施形態の製造方法で製造されたメソポーラスアルミナは、均一性の高いメソ細孔を有するアルミナである。メソ細孔の均一性は、X線回折または窒素吸着等温線から調べることができる。また、窒素吸着等温線から、比表面積をBET法により、細孔径分布及び細孔容積をBJH法により求めることができる。
【0033】
このように製造されたメソポーラスアルミナの特性として、窒素吸着等温線がIUPACのIV型に属し、窒素吸着等温線は相対圧P/P0が0.3〜0.96の範囲においてヒステリシスカーブを有し、細孔径分布のピーク値が2nm以上30nm以下の範囲内に存在することが挙げられる。
【0034】
IUPACの分類による窒素吸着等温線にはI〜VI型があり(非特許文献:「伝熱」vol.45, No.190, 2006, p.14〜20参照)、本実施形態によって製造されたメソポーラスアルミナはB点と呼ばれる変曲点を有するIV型に属するものである。また、吸着等温線はヒステリシスカーブを形成する。均一なメソ細孔を有する場合、毛細管凝縮により、相体圧P/P0の値が0.3〜0.96までの範囲内において窒素吸着量が急激に増加する。なお、この窒素吸着量の増加する相対圧P/P0の値が高いほど細孔径が大きい。
【0035】
また、メソポーラスアルミナは、比表面積が100m2/g以上500m2/g以下の範囲内であることが好ましい。また、2nm以上50nm以下の細孔径における細孔容積(以下、「メソ細孔容積」と云う)が0.2cm3/g以上2cm3/g以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2cm3/g以上1cm3/g以下である。
【0036】
さらに、本実施形態によって製造されたメソポーラスアルミナは、X線回折のピークが回折角5°以下に存在するものであることが好ましい。上述したように、メソポーラスアルミナにおける細孔径の均一性はXRDで測定できる。低角域XRDパターンのピークに対応する回折角は、メソポーラスアルミナにおける細孔の周期を反映している。一般に、アルミナやシリカなどのメソポーラス材料では、細孔径の均一性が高いとき、即ち、細孔径分布の幅が小さいときに、回折角2θが10°以下の低角域にX線回折のピークが検出されることが知られている。本実施形態によって製造されたメソポーラスアルミナにおける低角域X線回折のピークは、回折角2θが0.5°以上3°以下の範囲内に存在することが好ましく、0.5°以上2°以下の範囲内に存在することがさらに好ましい。なお、メソ細孔の均一性が低い場合には低角域XRDパターンにピークは現れない。
【実施例】
【0037】
以下、より具体的な実施例を説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
[測定法]
(1)X線回折:島津製作所(株)製 粉末X線回折装置 XRD−7000で測定して解析した。測定は、CuKα線源を用い、加速電圧40kV、30mAで行った。
(2)比表面積・細孔径分布:日本ベル(株)製 高精度比表面積・細孔分布測定装置 BELSORP−miniを使用し、液体窒素温度で測定した窒素吸着等温線からBET法により比表面積を求め、細孔径分布及び細孔容積はBJH法により解析した。
【0039】
[実施例1]
Al23換算で2wt%の硫酸アルミニウム水溶液300gを40℃に加熱し、撹拌下、NH3換算で5wt%の炭酸アンモニウム水溶液144gを約10分にわたって添加してスラリーを得た。この場合、アンモニウムイオン(NH4+)のモル数/(水溶性アルミニウム塩の陰イオン(SO42-)×当該陰イオンの価数)の比率は1.2であった。また、スラリーのpHは8.5であった。次に得られたスラリーを60℃で7時間熟成した。熟成後、濾過および洗浄を行い、105℃で12時間乾燥した。得られた乾燥粉を500℃で焼成し、アルミナを得た。
【0040】
図2に、得られたアルミナの特性を示した。図2(a)は窒素吸着等温線、図2(b)は細孔径分布、図2(c)は低角域XRDパターン、図2(d)は広角域XRDパターンを示すグラフである。なお、以下、図3から図12においても同様である。
【0041】
[実施例2]
Al23換算で2wt%の硝酸アルミニウム水溶液300gを40℃に加熱し、撹拌下、NH3換算で5wt%の炭酸アンモニウム水溶液144gを約10分にわたって添加してスラリーを得た。この場合、アンモニウムイオン(NH4+)のモル数/(水溶性アルミニウム塩の陰イオン(NO3-)のモル数×当該陰イオンの価数)の比率は1.2であった。また、スラリーのpHは8.5であった。次に得られたスラリーを60℃で5時間熟成した。熟成後、濾過および洗浄を行い、105℃で12時間乾燥した。得られた乾燥粉を500℃で焼成し、アルミナを得た。図3に得られたアルミナの特性を示した。
【0042】
[実施例3]
Al23換算で2wt%の塩化アルミニウム水溶液300gを40℃に加熱し、撹拌下、NH3換算で5wt%の炭酸アンモニウム水溶液144gを約10分にわたって添加してスラリーを得た。この場合、アンモニウムイオン(NH4+)のモル数/(水溶性アルミニウム塩の陰イオン(Cl-)のモル数×当該陰イオンの価数)の比率は1.2であった。また、スラリーのpHは8.5であった。次に得られたスラリーを60℃で5時間熟成した。熟成後、濾過および洗浄を行い、105℃で12時間乾燥した。得られた乾燥粉を500℃で焼成し、アルミナを得た。図4に得られたアルミナの特性を示した。
【0043】
[実施例4]
Al23換算で2wt%のPAC 250A(多木化学株式会社製、組成:Al23 10.1%、Cl 9.1%、SO4 2.82% )300gを40℃に加熱し、撹拌下、NH3換算で5wt%の炭酸アンモニウム水溶液76gを約10分にわたって添加してスラリーを得た。この場合、アンモニウムイオン(NH4+)のモル数/(水溶性アルミニウム塩の陰イオン(Cl-)のモル数×当該陰イオンの価数)の比率は1.2であった。また、スラリーのpHは8.6であった。次に得られたスラリーを60℃で5時間熟成した。熟成後、濾過および洗浄を行い、105℃で12時間乾燥した。得られた乾燥粉を500℃で焼成し、アルミナを得た。図5に得られたアルミナの特性を示した。
【0044】
[実施例5]
Al23換算で3wt%の硝酸アルミニウム水溶液200gを40℃に加熱し、撹拌下、NH3換算で5wt%の炭酸アンモニウム水溶液144gを約10分にわたって添加してスラリーを得た。この場合、アンモニウムイオン(NH4+)のモル数/(水溶性アルミニウム塩の陰イオン(NO3-)のモル数×当該陰イオンの価数)の比率は1.2であった。また、スラリーのpHは8.5であった。次に得られたスラリーを90℃で5時間熟成した。熟成後、濾過および洗浄を行い、105℃で12時間乾燥した。得られた乾燥粉を500℃で焼成し、アルミナを得た。図6に得られたアルミナの特性を示した。
【0045】
[実施例6]
Al23換算で2wt%の硝酸アルミニウム水溶液300gを30℃に加熱し、撹拌下、NH3換算で5wt%の炭酸アンモニウム水溶液360gを約10分にわたって添加してスラリーを得た。この場合、アンモニウムイオン(NH4+)のモル数/(水溶性アルミニウム塩の陰イオン(NO3-)のモル数×当該陰イオンの価数)の比率は3.0であった。また、スラリーのpHは9.2であった。次に得られたスラリーを30℃で3時間熟成した。熟成後、濾過および洗浄を行い、105℃で12時間乾燥した。得られた乾燥粉を500℃で焼成し、アルミナを得た。図7に得られたアルミナの特性を示した。
【0046】
[実施例7]
NH3換算で5wt%の炭酸アンモニウム水溶液360gを30℃に加熱し、撹拌下、Al23換算で2wt%の硝酸アルミニウム水溶液300gを約10分にわたって添加してスラリーを得た。この場合、アンモニウムイオン(NH4+)のモル数/(水溶性アルミニウム塩の陰イオン(NO3-)のモル数×当該陰イオンの価数)の比率は3.0であった。また、スラリーのpHは9.3であった。次に得られたスラリーを60℃で5時間熟成した。熟成後、濾過および洗浄を行い、105℃で12時間乾燥した。得られた乾燥粉を500℃で焼成し、アルミナを得た。図8に得られたアルミナの特性を示した。
【0047】
[実施例8]
Al23換算で3wt%の硫酸アルミニウム水溶液200gと、NH3換算で5wt%の炭酸アンモニウム水溶液144gとを、撹拌下、水100gに対し約10分にわたって同時に添加してスラリーを得た。なお、両水溶液とも室温のものを用い、添加時も加熱せずに室温下で行った。この場合、アンモニウムイオン(NH4+)のモル数/(水溶性アルミニウム塩の陰イオン(SO42-)のモル数×当該陰イオンの価数)の比率は1.2であった。また、スラリーのpHは8.5であった。次に得られたスラリーを60℃で5時間熟成した。熟成後、濾過および洗浄を行い、105℃で12時間乾燥した。得られた乾燥粉を500℃で焼成し、アルミナを得た。図9に得られたアルミナの特性を示した。
【0048】
[実施例9]
硝酸アルミニウムと塩化アルミニウムとをAl23換算の質量比で1:1の割合含有した、Al23換算で2wt%の水溶性アルミニウム塩水溶液300gを40℃に加熱し、撹拌下、NH3換算で5wt%の炭酸アンモニウム水溶液144gを約10分にわたって添加してスラリーを得た。この場合、アンモニウムイオン(NH4+)のモル数/(水溶性アルミニウム塩の陰イオン(NO3-)のモル数×当該陰イオンの価数)+アンモニウムイオン(NH4+)のモル数/(水溶性アルミニウム塩の陰イオン(Cl-)のモル数×当該陰イオンの価数)の比率は1.2であった。また、スラリーのpHは8.5であった。次に得られたスラリーを60℃で5時間熟成した。熟成後、濾過および洗浄を行い、105℃で12時間乾燥した。得られた乾燥粉を500℃で焼成し、アルミナを得た。図10に得られたアルミナの特性を示した。
【0049】
[比較例1]
Al23換算で2wt%の硝酸アルミニウム水溶液300gを40℃に加熱し、撹拌下、NH3換算で2wt%の炭酸水素アンモニウム水溶液360gを約10分にわたって添加してスラリーを得た。この場合、アンモニウムイオン(NH4+)のモル数/(水溶性アルミニウム塩の陰イオン(NO3-)のモル数×当該陰イオンの価数)の比率は1.2であった。また、スラリーのpHは8.6であった。次に得られたスラリーを60℃で5時間熟成した。熟成後、濾過および洗浄を行い、105℃で12時間乾燥した。得られた乾燥粉を500℃で焼成し、アルミナを得た。図11に得られたアルミナの特性を示した。
【0050】
[比較例2]
Al23換算で3wt%の硝酸アルミニウム水溶液200gと、NH3換算で5wt%の炭酸アンモニウム水溶液120gとを、撹拌下、水100gに対し約10分にわたって同時に添加してスラリーを得た。なお、両水溶液とも室温のものを用い、添加時も加熱せずに室温下で行った。この場合、アンモニウムイオン(NH4+)のモル数/(水溶性アルミニウム塩の陰イオン(NO3-)のモル数×当該陰イオンの価数)の比率は1.0であった。また、スラリーのpHは6.5であった。次に得られたスラリーを室温で1時間熟成した。熟成後、濾過および洗浄を行い、105℃で12時間乾燥した。得られた乾燥粉を500℃で焼成し、アルミナを得た。図12に得られたアルミナの特性を示した。
【0051】
実施例1〜9について、図2(a)〜図10(a)に示した吸着等温線はIUPAC分類のIV型に属し、相対圧P/P0が0.3〜0.96の範囲において、窒素吸着量の急激な増加が見られる。これは、ほぼ均一な孔径を有するメソ細孔に起因した毛細管凝縮に伴うものと考えられる。また、ヒステリシスカーブを有することが分かる。また、図2(b)〜図10(b)に示した細孔径分布より、2nm以上30nm以下にピークが存在していることが分かる。
【0052】
図2(c)〜図6(c)及び図9(c)〜図10(c)に示した低角域XRDパターンにおいて回折角2θが5°以下にピークが現れることより、細孔径が比較的均一であることが分かる。なお、図7(c)及び図8(c)にはピークが図示されていないが、検出限界以下である0.7°付近にピークが存在するものと推定される。また、図2(d)〜図10(d)に示した広角域XRDパターンより、結晶構造がγ−アルミナであることが分かる。
【0053】
以上の特性より、実施例1〜9において得られたアルミナは、ほぼ均一なメソ細孔を有し、結晶構造がγ−アルミナであるメソポーラスアルミナであることが分かる。
【0054】
比較例1および2について、図11(a)及び図12(a)に示した窒素吸着等温線はIUPAC分類のII型に属している。また、図11(b)及び図12(b)に示した細孔径分布より、ピークが存在しないことが分かる。
【0055】
図11(c)及び図12(c)に示した低角域XRDパターンより、回折角2θが5°以下にピークが現れていないことが分かる。また、図11(d)及び図12(d)に示した広角域XRDパターンより、結晶構造がγ−アルミナであることが分かる。
【0056】
以上の特性より、比較例1及び2において得られたアルミナは、γ−アルミナの結晶構造を有するが、均一なメソ細孔を有さないアルミナであることが分かる。
【0057】
表1に、上記各実施例及び比較例における細孔径、比表面積、メソ細孔容積を示した。なお、細孔径は、図2(b)〜図11(b)におけるピークの頂点の値である。
【0058】
【表1】
【0059】
参考として、焼成前の乾燥粉のXRDパターンを図13に示した。図13(a)は実施例1における乾燥粉のXRDパターンを示すグラフであり、図13(b)は比較例2における乾燥粉のXRDパターンを示すグラフである。図13(a)はアンモニウムドーソナイトのパターンを示しているが、図13(b)は少なくともアンモニウムドーソナイトのパターンを示していないことが分かる。
【0060】
さらに参考として、図14に、実施例1の500℃焼成によって得られたγ−アルミナをさらに600℃〜1300℃で再焼成したときのXRDパターンを示した。600℃の再焼成においてもγ−アルミナのXRDパターンを示した。800℃の再焼成では、θ−アルミナのパターンを一部含むγ−アルミナのパターンを示した。900℃の再焼成ではθ−アルミナとγ−アルミナの混合相を示した。さらに、1000℃〜1200℃の再焼成では、θ−アルミナとα−アルミナの混合相を示した。1300℃の再焼成では、α−アルミナの単一相を示した。なお、ここでは、再焼成時の温度におけるXRDパターンを示したが、上記600℃〜1300℃の各温度での1回焼成時においても同様の結果が得られると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、細孔径のほぼ均一なメソポーラスアルミナを簡便に製造できる。このようなメソポーラスアルミナは、吸着剤、分離剤、樹脂配合剤、触媒担体などの用途において、吸着性能の安定及び向上などの優れた効果を発揮することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11
図12
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図14