【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【0021】
(実施例1)
まず、磁性体シートを得るために、FeO
2、CuO、ZnO、NiOを主材料とする仮焼粉砕後のNi−Zn−Cu系フェライト微粉末にブチラール樹脂と溶剤を加えてスラリーを作成した。このスラリーを一定の厚みになるようにドクターブレードで塗布し、乾燥し、所定サイズに切断して磁性体シートをつくった。次に、非磁性体シートを得るためにFeO
2、CuO、ZnOを主材料とする仮焼粉砕後のZn−Cu系フェライト微粉末にブチラール樹脂と溶剤を加えてスラリーを作成した。このスラリーを一定の厚みになるようにドクターブレードで塗布し、乾燥し、所定サイズに切断して非磁性体シートをつくった。この非磁性体シートには所定の位置にスルーホールを形成した。次に、非磁性体シートにスクリーン版を用いてAgペーストを印刷し、乾燥して、コイル導体パターンを得た。次に、磁性体シートと非磁性体シート、およびコイル導体が印刷された非磁性体シートを、
図1に示すように、印刷されたコイル導体がスルーホールで導通してつながるように積層し、プレス圧着をおこなった。このとき、ダミーの絶縁層17A〜17C、18A〜18Bの前駆体として磁性体シートを用いた。これを所定のサイズに切断したあと500℃、1hrで脱バインダー処理に供し、大気炉中890℃、2hrで焼成して積層体チップを形成した。得られた積層体チップの側面に積層体内部の2つのコイルのそれぞれの両端部と接続するようにAgペーストを印刷法によって塗布し、約600℃で1時間の大気焼成をして端子電極を形成した。この端子電極にニッケル電解バレルめっきを施したあと、ハンダ電解バレルめっきをおこなって外部電極を形成した。このようにして実施例1の積層コモンモードノイズフィルタを得た。
【0022】
実施例1で得た積層コモンモードノイズフィルタは以下のとおりである。
・外形寸法:長さ1.25mm×幅1.0mm×高さ0.5mm
・磁性体層:Ni−Zn−Cu系フェライト
・非磁性体層:Zn−Cu系フェライト
・導体パターン:幅20μmのAgパターン
・第1及び第6の絶縁層、ダミーの絶縁層:磁性体層(層厚365μm)
・第2〜第5の絶縁層:非磁性体層(層厚105μm)
・焼成温度:890℃
・第1及び第2の導体のなす角(
図2におけるφ1):120°
・第3及び第4の導体のなす角(
図2におけるφ2):60°
【0023】
(比較例1)
第5の絶縁層を非磁性体ではなく磁性体で構成したことのほかは実施例1と同様にして積層コモンモードノイズフィルタを得た。
図4は比較例1の積層コモンモードノイズフィルタの積層構造を示す。
【0024】
比較例1で得た積層コモンモードノイズフィルタは以下のとおりである。
・外形寸法:長さ1.25mm×幅1.0mm×高さ0.5mm
・磁性体層:Ni−Zn−Cu系フェライト
・非磁性体層:Zn−Cu系フェライト
・導体パターン:幅20μmのAgパターン
・第1、第5及び第6の絶縁層、ダミーの絶縁層:磁性体層(層厚370μm)
・第2〜第4の絶縁層:非磁性体層(層厚100μm)
・焼成温度:890℃
・第1及び第2の導体のなす角(
図2におけるφ1):120°
・第3及び第4の導体のなす角(
図2におけるφ2):60°
【0025】
(比較例2)
第1の絶縁層を磁性体ではなく非磁性体で構成したことのほかは実施例1と同様にして積層コモンモードノイズフィルタを得た。
図5は比較例2の積層コモンモードノイズフィルタの積層構造を示す。
【0026】
比較例2で得た積層コモンモードノイズフィルタは以下のとおりである。
・外形寸法:長さ1.25mm×幅1.0mm×高さ0.5mm
・磁性体層:Ni−Zn−Cu系フェライト
・非磁性体層:Zn−Cu系フェライト
・導体パターン:幅20μmのAgパターン
・第6の絶縁層、ダミーの絶縁層:磁性体層(層厚360μm)
・第1〜第5の絶縁層:非磁性体層(層厚110μm)
・焼成温度:890℃
・第1及び第2の導体のなす角(
図2におけるφ1):120°
・第3及び第4の導体のなす角(
図2におけるφ2):60°
【0027】
(実施例2)
実施例1と同様に積層コモンモードノイズフィルタの作成を行った。非磁性体として、誘電体材料を用いた。誘電体シートを得るために誘電体として、ホウケイ酸ガラスの微粉末と結晶質シリカの粉末を添加し、ブチラール樹脂と溶剤を加えてスラリーを作成した。このスラリーを一定の厚みになるようにドクターブレードで塗布し、乾燥し、所定サイズに切断して非磁性体シートをつくった。これ以外については、実施例1と同様に行い、焼成についても大気炉中890℃、2hrと同じように焼成して積層体チップを形成し、また外部電極についても実施例1と同様に形成することで、実施例2の積層コモンモードノイズフィルタを得た。実施例1と同様、
図1が実施例2の積層コモンモードノイズフィルタの積層構造を示す。
【0028】
実施例2で得た積層コモンモードノイズフィルタは以下のとおりである。
・外形寸法:長さ1.25mm×幅1.0mm×高さ0.5mm
・磁性体層:Ni−Zn−Cu系フェライト
・非磁性体層:ホウケイ酸ガラスと結晶質シリカとの混合物
・導体パターン:幅20μmのAgパターン
・第1及び第6の絶縁層、ダミーの絶縁層:磁性体層(層厚365μm)
・第2〜第5の絶縁層:非磁性体層(層厚105μm)
・焼成温度:890℃
・第1及び第2の導体のなす角(
図2におけるφ1):120°
・第3及び第4の導体のなす角(
図2におけるφ2):60°
【0029】
(比較例3)
第5の絶縁層を非磁性体ではなく磁性体で構成したことのほかは実施例2と同様にして積層コモンモードノイズフィルタを得た。比較例1と同様、
図4が比較例3の積層コモンモードノイズフィルタの積層構造を示す。
【0030】
比較例3で得た積層コモンモードノイズフィルタは以下のとおりである。
・外形寸法:長さ1.25mm×幅1.0mm×高さ0.5mm
・磁性体層:Ni−Zn−Cu系フェライト
・非磁性体層:ホウケイ酸ガラスと結晶質シリカとの混合物
・導体パターン:幅20μmのAgパターン
・第1、第5及び第6の絶縁層、ダミーの絶縁層:磁性体層(層厚370μm)
・第2〜第4の絶縁層:非磁性体層(層厚100μm)
・焼成温度:890℃
・第1及び第2の導体のなす角(
図2におけるφ1):120°
・第3及び第4の導体のなす角(
図2におけるφ2):60°
【0031】
(比較例4)
第1の絶縁層を磁性体ではなく非磁性体で構成したことのほかは実施例2と同様にして積層コモンモードノイズフィルタを得た。比較例2と同様、
図5が比較例4の積層コモンモードノイズフィルタの積層構造を示す。
【0032】
比較例4で得た積層コモンモードノイズフィルタは以下のとおりである。
・外形寸法:長さ1.25mm×幅1.0mm×高さ0.5mm
・磁性体層:Ni−Zn−Cu系フェライト
・非磁性体層:ホウケイ酸ガラスと結晶質シリカとの混合物
・導体パターン:幅20μmのAgパターン
・第6の絶縁層、ダミーの絶縁層:磁性体層(層厚360μm)
・第1〜第5の絶縁層:非磁性体層(層厚110μm)
・焼成温度:890℃
・第1及び第2の導体のなす角(
図2におけるφ1):120°
・第3及び第4の導体のなす角(
図2におけるφ2):60°
【0033】
(評価)
上記で得られた実施例1、比較例1、2の積層コモンモードノイズフィルタについて、アジレント社製の4291Aを用いて、各フィルタが有する2つのコイルの1MHzのインダクタンス値と100MHzのコモンモードインピーダンス値を測定した。
【0034】
各フィルタが有する2つのコイルの1MHzにおけるインダクタンス値の測定結果は以下のとおりである。
実施例1 順方向コイル(146nH)、逆方向コイル(142nH)、差(3nH)
比較例1 順方向コイル(152nH)、逆方向コイル(143nH)、差(9nH)
比較例2 順方向コイル(144nH)、逆方向コイル(135nH)、差(8nH)
実施例2 順方向コイル(89nH)、逆方向コイル(87nH)、差(2nH)
比較例3 順方向コイル(94nH)、逆方向コイル(89nH)、差(5nH)
比較例4 順方向コイル(87nH)、逆方向コイル(82nH)、差(5nH)
【0035】
ここで、「順方向コイル」は第3及び第4の導体により構成される第2のコイルであり、「逆方向コイル」は第1及び第2の導体により構成される第1のコイルである。
【0036】
各コモンモードノイズフィルタの100MHzにおけるコモンモードインピーダンス値測定結果は以下のとおりである。
実施例1 82Ω
比較例1 85Ω
比較例2 78Ω
実施例2 51Ω
比較例3 53Ω
比較例4 48Ω
【0037】
比較例1、3では第1の導体121、第4の導体124が両方とも磁性体層に接しているため、コモンモードコイルを形成する渦巻状の第2の導体122及び第3の導体123の巻方向に対して、順方向に接続される第4の導体124と第3の導体123で形成される順方向コイルのインダクタンス値のほうが、逆方向コイルのインダクタンス値よりも大きくなった。また、比較例2、4では第1の導体221、第4の導体224が両方とも非磁性体層の中にあるため、コモンモードコイルを形成する渦巻状の第2の導体222及び第3の導体223の巻方向に対して、順方向に接続される第4の導体224と第3の導体223で形成される順方向コイルのインダクタンス値のほうが、逆方向コイルのインダクタンス値よりも大きくなった。さらに、渦巻状の第2の導体222及び第3の導体223が双方とも磁性体層から離れた結果、コモンモードインピーダンス値も大きく下がった。これに対して、実施例1、2では、コモンモードコイルを形成する渦巻状の第2の導体22及び第3の導体23の巻方向に対して、順方向に接続される第4の導体24が非磁性体層に、逆方向に接続される第1の導体21が磁性体層にそれぞれ接しているため、第4の導体24と第3の導体23で形成される順方向コイルのインダクタンス値と、第1の導体21と第2の導体22で形成される逆方向コイルのインダクタンス値との差が小さくなった。また、コモンモードコイルを形成する渦巻状の第2及び第3の導体22、23と磁性体層までの距離は、比較例2、4の場合のように大きく離れないため、コモンモードインピーダンス値の減少も小さくなった。結果的に、実施例1、2では比較例と比較して、コモンモードコイルを形成するそれぞれのコイルのインダクタンス値の差が小さくなり、またコモンモードインピーダンスの減少も少ない良好なコモンモードノイズフィルタが得られた。