(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エンジンが、吸気バルブのリフトとタイミングとを無段階に調整することで出力の調整を行う連続可変バルブリフト機構を備えたエンジンであり、前記空気量制御弁が前記吸気バルブで構成されている請求項1または2に記載の車両用音響装置。
前記空気量制御弁がスロットルボディに備わっているスロットルバルブであり、前記エンジンの回転数を検出する回転センサと、前記スロットルバルブの開度を検出する開度センサと、前記回転センサが検出するエンジンの回転数と前記開度センサが検出するスロットル開度との関係に基づいて作成した音圧増幅マップとを備え、前記信号処理部が、前記音圧増幅マップを用いて前記音圧信号に対して音圧増幅処理を行う請求項1ないし6のうちのいずれか一つに記載の車両用音響装置。
前記エンジンの回転数を検出する回転センサと、周波数とゲインとの関係に基づいて作成したゲイン調整マップと備え、前記信号処理部が、前記回転センサが検出するエンジンの回転数と前記エンジンの気筒数から周波数を求め、求められた周波数の値と前記ゲイン調整マップとを用いて前記音圧信号に対するゲインの調整を行う請求項1ないし7のうちのいずれか一つに記載の車両用音響装置。
前記空気量制御弁がスロットルボディに備わっているスロットルバルブであり、前記エンジンの回転数を検出する回転センサと、前記スロットルバルブの開度を検出する開度センサと、前記回転センサが検出するエンジンの回転数と前記開度センサが検出するスロットル開度との関係に基づいて作成したコンプレッサー処理領域とリバーブレータ処理領域とを有するエフェクター処理マップとを備え、前記信号処理部が、前記エフェクター処理マップを用いて、前記音圧信号に対してコンプレッサー処理またはリバーブレータ処理を行う請求項1ないし8のうちのいずれか一つに記載の車両用音響装置。
前記回転センサが検出するエンジンの回転数および前記開度センサが検出するスロットル開度の双方の値が小さいときに、コンプレッサー処理が行われ、前記回転センサが検出するエンジンの回転数および前記開度センサが検出するスロットル開度の一方または双方の値が大きいときに、リバーブレータ処理が行われる請求項9に記載の車両用音響装置。
前記車両の加速度を検出する加速度センサと、前記加速度センサが検出する前記車両の加速度に基づいて作成した音圧増幅マップとを備え、前記信号処理部が、前記音圧増幅マップを用いて前記音圧信号に対して音圧増幅処理を行う請求項1ないし6のうちのいずれか一つに記載の車両用音響装置。
前記エアクリーナの近傍に空気の流量を検出するエアフローメータを設置して、前記吸気ダクトに前記複数の圧力センサを前記エアフローメータから前記空気量制御弁に向かって20cm以内の部分に設けた請求項1ないし11のうちのいずれか一つに記載の車両用音響装置。
前記吸気ダクトの外周部から外側に向かって延びる複数の管状の連通部を設けて前記複数の連通部の先端にそれぞれ前記圧力センサを設置し、前記複数の連通部における前記吸気ダクト側の基端部と、前記複数の圧力センサに備わっている感圧部との間の距離をそれぞれ4cm以内に設定した請求項1ないし12のうちのいずれか一つに記載の車両用音響装置。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、前述した従来の車両用音響装置では、音圧センサをエアクリーナの外気取り入れ口およびエアクリーナの上流側に配置されたエアダクトの外気取り入れ口、または、吸気マニホールドに複数個取り付けている。このため、音圧センサをエアクリーナおよびエアクリーナの外気取り入れ口に取り付けた場合には、吸気音は小さくなり、吸気音の音圧を検出しにくくなる。この結果、吸気音を再生するための装置として高精度のものが要求される。また、音圧センサを吸気マニホールドに取り付けた場合には、爆発音を発生するエンジンに近くなるため脈動の変動が大きくなり、スピーカーが発生する音が荒々しい刺激のある音になるという問題がある。
【0005】
さらに、音圧センサとしてマイクロフォンを用いて、エアクリーナおよびエアクリーナの外気取り入れ口に取り付けた場合には、外部からの音も検出するようになり好ましいエンジンの吸気音を得ることが難しいという問題も生じる。また、エンジンルーム内では熱や水や油や塵などに対する耐久性が要求されるが、マイクロフォンはこのような環境で長期にわたり性能を維持するのが難しいという問題もある。
【0006】
本発明は、前述した問題に対処するためになされたもので、その目的は、実際のエンジンの吸気音に近くノイズが低減された心地よい音を車内に発生できる車両用音響装置および車両用音響方法を提供することである。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係る車両用音響装置の構成上の特徴は、車両のエンジンの吸気音を車内の乗員に伝えるための車両用音響装置において、外部の空気を取り込む吸気口側に設けられたエアクリーナと、エンジン側に設けられた空気量制御弁とを接続する吸気ダクトにおける中央よりもエアクリーナ側部分の外周に周方向に間隔を保って設けられエンジンの吸気脈動の圧力を検出し圧力信号として出力する複数の圧力センサと、
複数の圧力センサが出力する圧力信号を音圧信号に加工するフィルタと、フィルタによって加工された音圧信号を、車両の運転状態に応じ
て変化させる処理を行う信号処理部と、車両内に設置され信号処理部によって処理された音圧信号をエンジンの吸気音として出力するスピーカーとを備えたことにある。
【0008】
本発明に係る車両用音響装置によると、運転者の操作による運転状況に応じたエンジンの吸気音を、外部に対しては小さな音で放出しながら車内ではっきりと聞くことができる。また、本発明では、圧力センサを、空気量制御弁とエアクリーナとを接続する吸気ダクトのエアクリーナ側部分に設けたため、走行風などの車外の音やエンジンの駆動音、爆発音の影響を受けることなく、吸気脈動の圧力変動を効果的に検出できるようになり、これによって、乗員が車内で聞く音が実際のエンジンの吸気音に近いものになる。
【0009】
なお、車両の走行中に、実際に、聞こえるエンジン音は、エアクリーナの上流の外部側から聞こえる成分が支配的であり、本発明によると、スピーカーから再生される吸気音がその実際の吸気音に近いものになる。さらに、本発明では、圧力センサを複数個設け、その出力信号を加算することで圧力信号を増強するため、これによって、アクセルの踏込量が小さい軽負荷時でも圧力変動を効果的に検出することができる。また、圧力センサは通常の音響マイクロフォンと比べると一般にS/N比が低く、若干扱いにくい面があるが、複数の圧力センサを吸気ダクトの外周に周方向に間隔を保って、すなわち吸気ダクトを軸方向に直交する同一断面上に配置することにより、吸気圧信号は同期(in-phase)で加算されることになり、圧力センサ自身の発生するノイズや局所的な乱流によるノイズ成分を、相対的に低減させることができる。仮に、n個の圧力センサを配置した場合、一つだけの圧力センサを用いた場合に比べて、10logn(dB)のS/N比の改善が期待できる。
【0010】
本発明に係る車両用音響装置の他の構成上の特徴は、フィルタによって加工された各音圧信号を合成するミキサーを備え、ミキサーによって合成された音圧信号が信号処理部に送られることにある。
【0017】
本発明に係る車両用音響装置のさらに他の構成上の特徴は、エンジンが、吸気バルブのリフトとタイミングとを無段階に調整することで出力の調整を行う連続可変バルブリフト機構を備えたエンジンであり、空気量制御弁が前記吸気バルブで構成されていることにある。本発明に係る車両用音響装置では、連続可変バルブリフト機構を備えた車両においても、運転者の操作による運転状況に応じたエンジンの吸気音を、外部に対しては小さな音で放出しながら車内ではっきりと聞くことができる。
【0018】
本発明に係る車両用音響装置のさらに他の構成上の特徴は、信号処理部により処理される前の
音圧信号にノイズゲート処理を行うノイズゲート処理部を備えたことにある。この場合、
音圧信号にノイズゲート処理を施したのちにA/D変換して信号処理部による処理を行ってもよい。本発明に係る車両用音響装置によると、不要な領域の雑音を除去して自然な音を発生することができる。なお、A/D変換したのちの
音圧信号にノイズゲート処理を行ってもよい。
【0019】
本発明に係る車両用音響装置のさらに他の構成上の特徴は、信号処理部により処理される前または後の
音圧信号にノイズ抑制処理を行うノイズ抑制処理部を備えたことにある。この場合、
音圧信号に対してノイズ抑制処理を施して信号処理部による処理を行うことが好ましい。なお、本発明に係るノイズ抑制処理とは、例えば、スペクトルサブトラクションなどによるものであり、これによると、不要な領域の雑音を抑制して自然な音を発生することができる。
【0020】
本発明に係る車両用音響装置のさらに他の構成上の特徴は、周波数とゲインとの関係に基づいて作成したフィルタを備え、信号処理部が、
周波数とゲインとの関係に基づいて作成したフィルタを用いて音圧信号を変化させる処理を行うことにある。本発明によると、各周波数に応じてゲインを任意に変更することができる。また、
周波数とゲインとの関係に基づいて作成したフィルタは、複数種類準備して、その中から適宜選択することにより、スピーカーから発生される吸気音の音質をノーマルタイプの車のエンジン音にしたりスポーツタイプの車のエンジン音にしたりするなど種々の変更ができるようにすることが好ましい。
【0021】
本発明に係る車両用音響装置のさらに他の構成上の特徴は、空気量制御弁がスロットルボディに備わっているスロットルバルブであり、エンジンの回転数を検出する回転センサと、スロットルバルブの開度を検出する開度センサと、回転センサが検出するエンジンの回転数と開度センサが検出するスロットル開度との関係に基づいて作成した音圧増幅マップとを備え、信号処理部が、音圧増幅マップを用いて音圧信号に対して音圧増幅処理を行うことにある。
【0022】
本発明によると、回転センサが検出するエンジンの回転数と開度センサが検出するスロットル開度との値に基づいて圧力センサが出力する圧力信号に対して音圧増幅処理を行ったり、圧力センサが出力する圧力信号を加工するフィルタ特性のゲインを全体的に上げたりすることができる。この場合の音圧増幅マップは任意に作成することができるが、低回転低負荷時には、大きく増幅させ、高回転高負荷時には小さく増幅させることが好ましい。また、本発明によると、スピーカーから出力する吸気音を、実際のエンジンの吸気音に近い減衰特性や、透過損失を備えた吸気音として車室内に再生することができる。なお、開度センサとしては、直接スロットルバルブの回転角度を検出するセンサや、アクセルの踏込量をスロットル開度として検出するセンサを用いることができる。
【0023】
本発明に係る車両用音響装置のさらに他の構成上の特徴は、エンジンの回転数を検出する回転センサと、周波数とゲインとの関係に基づいて作成したゲイン調整マップと備え、信号処理部が、回転センサが検出するエンジンの回転数とエンジンの気筒数から周波数を求め、求められた周波数の値とゲイン調整マップとを用いて音圧信号に対するゲインの調整を行うことにある。この場合、周波数は1/3オクターブ中心周波数であることが好ましいが、1/3より大きくても、小さくても効果の大小はあるが、効果としてはある。
【0024】
本発明によると、エンジンの気筒数に応じたエンジンの爆発基本整数倍の次数の周波数成分を強調することができる。周波数は、エンジンの回転数と気筒数とから算出することができ、ゲイン調整マップを用いてエンジン回転数に応じた周波数の領域でゲインを上げることにより、エンジン回転数から次数成分に応じて音圧信号を強調することができる。例えば、4サイクルのエンジンでは、2回転で1回シリンダー内で爆発が発生するため、基本周波数はエンジン回転の半分の周波数となる。
【0025】
そして、4気筒の場合は、等間隔で重複せずに爆発が発生すれば周波数はその4倍になる。このようにして算出される周波数から周波数を求めることができる。なお、人の耳は、周波数が僅かに異なってもその違いを聞き取れるものではなく、1オクターブの1/3程度の周波数が異なっていればかなり明確にその違いを聞き取れる。したがって、ゲイン調整マップを、例えば、1/3オクターブ周波数とゲインとの関係に基づいて作成すれば、人の聴覚に合ったレベルで音圧信号の処理が行えるようになり、より効果的である。
【0026】
本発明に係る車両用音響装置のさらに他の構成上の特徴は、空気量制御弁がスロットルボディに備わっているスロットルバルブであり、エンジンの回転数を検出する回転センサと、スロットルバルブの開度を検出する開度センサと、回転センサが検出するエンジンの回転数と開度センサが検出するスロットル開度との関係に基づいて作成したコンプレッサー処理領域とリバーブレータ処理領域とを有するエフェクター処理マップとを備え、信号処理部が、エフェクター処理マップを用いて、音圧信号に対してコンプレッサー処理またはリバーブレータ処理を行うことにある。この場合、回転センサが検出するエンジンの回転数および開度センサが検出するスロットル開度の双方の値が小さいときに、コンプレッサー処理が行われ、回転センサが検出するエンジンの回転数および開度センサが検出するスロットル開度の一方または双方の値が大きいときに、リバーブレータ処理が行われることが好ましい。
【0027】
本発明では、圧力センサから出力される圧力信号または圧力センサから出力されフィルタ特性に基づいて加工される音圧信号に、車両の運転状態に応じてコンプレッサー処理またはリバーブレータ処理を行うことにより、音圧を増強したり、スピーカーから発生する吸気音に残響効果を与えて伸び感を出したりすることができる。この場合、回転センサが検出するエンジンの回転数および開度センサが検出するスロットル開度の双方の値が小さい低回転低負荷時に音圧を増強するコンプレッサー処理が行われる。
【0028】
また、回転センサが検出するエンジンの回転数の値が大きい高回転時、開度センサが検出するスロットル開度の値が大きい高負荷時および双方の値が大きい高回転高負荷時にリバーブレータ処理が行われる。これによって、スピーカーから発生する吸気音を心地よいものにすることができる。なお、高回転時や高負荷時にコンプレッサー処理を行うと、音圧レベルの高い部分を潰し、伸び感がなくなるため、この状態では、リバーブレータ処理を行うことで伸び感を演出するようにしている。
【0029】
本発明に係る車両用音響装置のさらに他の構成上の特徴は、車両の加速度を検出する加速度センサと、加速度センサが検出する車両の加速度に基づいて作成した音圧増幅マップとを備え、信号処理部が、音圧増幅マップを用いて音圧信号に対して音圧増幅処理を行うことにある。
【0030】
本発明によると、加速度センサが検出する加速度の値に基づいて圧力センサが出力する圧力信号に対して音圧増幅処理を行ったり、圧力センサが出力する圧力信号を加工するフィルタ特性のゲインを全体的に上げたりすることができる。この場合、加速度センサは、車両における任意の場所に取り付けることができるため、車両を改造したり配線が煩雑になったりすることがなくなり、設置が容易になる。
【0031】
本発明に係る車両用音響装置のさらに他の構成上の特徴は、エアクリーナの近傍に空気の流量を検出するエアフローメータを設置して、吸気ダクトに複数の圧力センサをエアフローメータから空気量制御弁に向かって20cm以内の部分に設けたことにある。本発明によると、吸気ダクト内で生じる吸気圧の脈動を少ないノイズで複数の圧力センサで検出することができる。吸気ダクトとしては種々の長さのものがあるが、実験結果によると、短い吸気ダクトを用いた場合でも、圧力センサをエアフローメータからスロットルボディに向かって20cm以内の部分に設けた場合に、良好な結果を得ることができた。
【0032】
本発明に係る車両用音響装置のさらに他の構成上の特徴は、吸気ダクトの外周部から外側に向かって延びる複数の管状の連通部を設けて複数の連通部の先端にそれぞれ圧力センサを設置し、複数の連通部における吸気ダクト側の基端部と、複数の圧力センサに備わっている感圧部との間の距離をそれぞれ4cm以内に設定したことにある。
【0033】
複数の圧力センサが検出する周波数が、例えば、2kH
Z以上の場合には、乗員にとって不快な音が再生されることがある。また、圧力センサは、一般には、圧力変化を検出した信号として直流成分を含む脈流を出力するが、この信号をそのまま音響信号として使用するには問題がある。音響信号は通常は交流成分のみからなるものであるからである。このため、本発明においては、不快な音の発生を防止し、通常の音響機器で扱うことができる信号を得るため、1H
Zなどのごく低い周波数以下の成分をカットするハイパスフィルタを施したり、2kH
Z以上の周波数成分をカットするローパスフィルタを施したりする。圧力センサとしての感度範囲が1H
Zから2kH
Zのものを用いてもよい。そして、これらの場合、吸気ダクトと圧力センサとを接続する連通部の長さを4cm以内にすることにより、吸気ダクトと圧力センサとの間の連通部で生じる共振を防止できる。
【0034】
すなわち、吸気音の音速を340m/sとし、吸気音として必要な上限周波数を2kH
Zとしたとき、波長は音速/周波数で算出でき、170mmとなる。そして、吸気ダクトと圧力センサを接続する連通部のように一方が開口して他方が閉塞された管体の場合、共振が発生するのは、長さが波長の1/4以上の場合であるため、42.5mm以上の場合となる。このため、多少の余裕を考慮して、吸気ダクトと、圧力センサの感圧部との間の距離を4cm以内に設定することにより、求めようとしている周波数の1/4波長よりも短くすることができ、これによって共振の発生を防止できる。本発明によると、連通部を介して圧力センサを設けることによって、圧力センサの検出に悪影響が生じることを防止できる。
【0035】
本発明に係る車両用音響装置のさらに他の構成上の特徴は、複数の圧力センサが正圧と負圧との双方を計測し、かつ複数の圧力センサの出力が加算されることにある。圧力センサとして負圧のみ計測できるものを用いた場合には、アクセルを急に踏み込んだときなどに、正圧の領域が発生すると、スピーカーが発生する音に歪みや割れが生じることがある。本発明に係る車両用音響装置では、空気量制御弁の上流側に設けられる複数の圧力センサが正圧と負圧との双方を計測することにより、全負荷過渡期においても吸気脈動を消去することなく忠実に検出することで音に歪みや割れが生じることを防止できる。
【0036】
本発明に係る車両用音響装置のさらに他の構成上の特徴は、複数の圧力センサの出力信号が、フィルタによって直流成分を除かれたのちに信号処理部に送られることにある。音響信号は通常は交流成分のみからなっているため、直流成分を含む信号をそのまま音響信号として使用することは、好ましくない。本発明に係る車両用音響装置によると、空気量制御弁の上流側に設けられる複数の圧力センサの出力信号から、直流成分がフィルタによって除かれることにより、不快な音の発生を防止し、好適な音響信号を得ることができる。
【0037】
本発明に係る車両用音響方法の構成上の特徴は、車両のエンジンの吸気音を車内の乗員に伝えるための車両用音響方法において、外部の空気を取り込む吸気口側に設けられたエアクリーナと、エンジン側に設けられた空気量制御弁とを接続する吸気ダクトにおける中央よりもエアクリーナ側部分の外周に周方向に間隔を保って設けられた複数の圧力センサで、エンジンの吸気脈動の圧力を検出して圧力信号として出力する圧力信号出力工程と、
複数の圧力センサが出力する圧力信号をフィルタで音圧信号に加工する音圧信号加工工程と、フィルタによって加工された音圧信号を、車両の運転状態に応じ
て変化させる処理を信号処理部が行う信号処理工程と、車両内に設置されたスピーカーが、信号処理された音圧信号を、エンジンの吸気音として出力する吸気音出力工程とを備えたことにある。
【0038】
本発明に係る車両用音響方法によると、実際のエンジンの吸気音に近くノイズが低減された心地よい音を車内に発生できる。
【0039】
なお、本発明においては、スピーカーを車両におけるエンジンが配置された方向から車室内に向かう方向に吸気音を発生できるように配置することが好ましく、より好ましくは、スピーカーを運転席に向けて配置することである。これによると、スピーカーから再生される吸気音が、エンジンが配置された方向から聞こえるようになるため、実際のエンジンの吸気音が聞こえるように感じることができる。また、運転席に座る運転者に向かってスピーカーから吸気音が再生されるため、運転手には直接吸気音が聞こえるようになり操縦感覚が増すようになる。
【0040】
さらに、スピーカーの数としては奇数でも偶数でもよいが、奇数にする場合には、一つのスピーカーを車両の幅方向の中央に配置することが好ましい。これによって、吸気音が車両の幅方向の一方から聞こえてくることがなくなり吸気音が聞こえてくる方向のバランスがよくなる。また、スピーカーは、車両の車室前部に位置するダッシュボード内などの見えない部分や車室内の見える部分などに配置することができるが、ダッシュボードの壁面等、車体側の部分に直接固定することが好ましい。これによると、車体の奥側から吸気音が聞こえるようになり、吸気音の変動感が自然になる。また、車体の振動伝播を利用して車体全体から吸気音を感じることができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図面を用いて説明する。
図1は、同実施形態に係る車両用音響装置20(
図3参照)を備えた自動車10の概略を示している。この自動車10は、車体11の前部中央にエンジン12が配置されたFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車、またはFR(フロントエンジン・リアドライブ)車で構成されており、車体11の前後の左右にそれぞれ設けられた一対の前輪と後輪(図示せず)およびハンドル13を備えている。また、
図2に示したように、エンジン12には、サージタンク14および吸気ダクト15を介してエアクリーナ16が接続されており、サージタンク14と吸気ダクト15との連結部分にスロットルボディ17が設置され、吸気ダクト15におけるエアクリーナ16側の端部にはエアフローメータ18が設置されている。
【0043】
外部の空気は外部側に設けられたエアダクトを介してエアクリーナ16内に取り込まれ、エアクリーナ16内で異物を除去されて吸気ダクト15に送られる。スロットルボディ17内には、軸を中心として回転することによりスロットルボディ17内の通気路を開閉するスロットルバルブが配置されており、吸気ダクト15内を通過する空気は、スロットルバルブの開度に応じてサージタンク14内に吸引される。このスロットルボディ17のスロットルバルブで本発明に係る空気量制御弁が構成される。サージタンク14は、空気を一時的に蓄えて流量を緩和し、エンジン12が備える複数の気筒に対する空気の供給量を均等化する。そして、エンジン12は、燃料系から供給される燃料にサージタンク14から供給される空気を混合させて爆発を生じさせることにより駆動力を発生する。エアフローメータ18は、エアクリーナ16から吸気ダクト15に流れる空気の流量を検出する。
【0044】
車両用音響装置20は、
図3に示したように、4個の圧力センサ21a,21b,21c,21d、ミキサー22、A/D変換器23、信号処理部24、D/A変換器26、増幅器27およびスピーカー28a,28bを備えており、信号処理部24には、制御部30が接続されている。さらに、車両用音響装置20には、制御部30に接続された回転センサ31、開度センサ32、車速センサ33、操作部34およびメモリ部35も備わっている。圧力センサ21a〜21dは、吸気ダクト15におけるエアフローメータ18の近傍部分(
図2参照)の外周上部に、
図4に示したように、円周方向に一定間隔を保って設けられた管状の連通部29a〜29dによって接続されている。この圧力センサ21a〜21dは、吸気ダクト15内の吸気脈動の圧力変動を電圧変動として出力するものである。
【0045】
図5は、各圧力センサ21a〜21dの圧力特性を表しており、各圧力センサ21a〜21dに負荷される圧力とそれによって生じる電圧とが比例することが示されている。また、圧力センサ21a〜21dは、正圧と負圧の双方を検出するセンサで構成されており、
図6の実線は、各圧力センサ21a〜21dで圧力を検出したときの圧力と時間との関係を示した出力波形の一例である。なお、
図6の破線は、実線で示した圧力と同じ圧力を負圧のみを検出する圧力センサを用いて検出した場合の圧力と時間との関係を示した出力波形であり、これによると圧力が「0」以上の値はすべてカットされる。また、圧力センサ21a〜21dの感度範囲は、1H
Zから2kH
Zの間である。なお、感度範囲が0H
Z以上の圧力センサを用いてもよい。そして、圧力センサ21a〜21dが出力する圧力信号は、直流成分をカットして交流成分だけを通すフィルタ(図示せず)によって直流成分が除去され交流成分だけがミキサー22に送られる。
【0046】
各連通部29a〜29dは、それぞれ内径が3mm、外径が6mm、長さが4cm以内(本実施形態では、4cm)の可撓性を備えた樹脂製の管で構成されており、内部を吸気ダクト15内に連通させて吸気ダクト15の外周上部から上方に向かって延びている。各連通部29a〜29dは周方向に等間隔で設置されており、連通部29a〜29d間の角度は、150度以下に設定されている。そして、各連通部29a〜29dの上端にそれぞれ対応する圧力センサ21a〜21dが取り付けられている。
【0047】
圧力センサ21a〜21dは感圧部を連通部29a〜29d内に向けて連通部29a〜29dの上端を閉塞している。また、各連通部29a〜29dの基端部の中心部は、エアフローメータ18から20cm以内の部分に位置している。各圧力センサ21a〜21dが検出する吸気脈動の圧力は電気信号としてミキサー22に送られて合成される。そして、ミキサー22で合成された電気信号はA/D変換器23でデジタル信号に変換されて信号処理部24に送られる。
【0048】
信号処理部24は、A/D変換器23から送られるデジタル信号をフィルタリングして周波数特性を変更させるものであり、フィルタ25、マップ25a,25b,25cを備えている。フィルタ25は、例えば、
図7に示した複数のフィルタa,b等からなっている。
図7に実線で示したフィルタaは、低周波数の領域と高周波数の領域とでそれぞれゲインを上げ、その間の領域ではゲインを下げている。また、
図7に破線で示したフィルタbは、低周波数の領域と高周波数の領域とでそれぞれゲインを下げ、その間の領域ではゲインを上げている。図示は省略しているが、フィルタ25には、フィルタa,b以外のフィルタも含まれており、これらのフィルタの中の任意のフィルタを選択することができる。
【0049】
そして、例えば、
図7のフィルタa,bのうちの一方を選択することにより、音質をノーマルタイプの車のエンジン音にしたりスポーツタイプの車のエンジン音にしたりするなど種々の変更ができる。マップ25aは、A/D変換器23から送られる音圧信号や、フィルタ25のフィルタ特性の全体のゲインを変更するもので、例えば、
図8に示した音圧増幅マップで構成されている。この音圧増幅マップは、回転センサ31が検出するエンジン12の回転速度と、開度センサ32が検出するスロットルバルブの開度とに基づいて、圧力センサ21a〜21dの出力信号や、フィルタ25のゲインを全体的に上げる。
【0050】
図8の音圧増幅マップでは、横軸に示されたエンジン回転数rpmの最小値(0)と最大値との間を4等分するとともに、縦軸に示されたスロットル開度の最小値(0)と最大値(100)との間を5等分して、各エンジン回転数の領域と各スロットル開度の領域との交差する領域に増加させるゲインが記載されている。そして、このマップ25aによって、エンジン回転数とスロットル開度から求められる数値をもとに補間して、圧力センサ21a〜21dの出力信号や、フィルタ25のゲインが全体的に増加される。
【0051】
マップ25bは、A/D変換器23から送られる音圧信号や、フィルタ25のフィルタ特性の一部のゲインを変更するもので、
図9に示した回転センサ31が検出するエンジンの回転数と1/3オクターブ中心周波数との関係を示した1/3オクターブ中心周波数グラフと、
図10に示したゲイン調整グラフとで構成されている。
図9の1/3オクターブ中心周波数グラフを用いて、回転センサ31が検出するエンジンの回転数から1/3オクターブ中心周波数が求められ、
図10に示したゲイン調整グラフを用いて、その1/3オクターブ中心周波数におけるゲインの値が求められる。そして、その値分、圧力センサ21a〜21dの出力信号や、フィルタ特性マップにおける対応する周波数でゲインが上げられる。
【0052】
マップ25cは、圧力センサ21a〜21dから出力される圧力信号や、フィルタ25のフィルタ特性に基づいて加工される音圧信号に、さらに、コンプレッサー処理やリバーブレータ処理を行うもので、
図11に示したエフェクター処理マップで構成されている。
図11のエフェクター処理マップでは、横軸に示されたエンジン回転数rpmの最小値(0)と最大値との間を4等分するとともに、縦軸に示されたスロットル開度の最小値(0)と最大値(100)との間を5等分して、各エンジン回転数の領域と各スロットル開度の領域との交差する領域が、それぞれコンプレッサー処理が行われる領域と、リバーブレータ処理が行われる領域とに区分されている。そして、このエフェクター処理マップによって、エンジン回転数とスロットル開度から求められる数値に応じて、音圧信号に対してエフェクター処理が行われる。
【0053】
この場合、
図11に領域cで示した、回転センサ31が検出するエンジンの回転数および開度センサ32が検出するスロットル開度の双方の値が小さい低回転低負荷時には、音圧を増強するコンプレッサー処理が行われる。また、
図11に領域dで示した、回転センサ31が検出するエンジンの回転数の値が大きい高回転時、開度センサ32が検出するスロットル開度の値が大きい高負荷時および双方の値が大きい高回転高負荷時には、リバーブレータ処理が行われる。これによって、低回転低負荷時には音圧を増強し、その他の時にはスピーカーから発生する吸気音に残響効果を与えて伸び感が出るようにする。
【0054】
信号処理部24で、処理されたデジタル信号は、D/A変換器26でアナログ信号に変換され、増幅器27で増幅されたのちに、スピーカー28a,28bから発音される。スピーカー28a,28bは車体11の前部の左右に設けられており、
図1に示したように、スピーカー28aは、車体11の前部に設けられたダッシュボードの左側に設けられた小物入れの内部に設置され、スピーカー28bは、ダッシュボードの右側の壁面パネルの内部に設置されている。スピーカー28a,28bは、ともにエンジン12側から車内に向かって発音できる向きに設置されている。
【0055】
制御部30は、メモリ部35に接続されており、メモリ部35には、車両用音響装置20を制御するための制御プログラムや、各種のデータなどが記憶されている。そして、制御部30は、後述する各センサからの信号に基づいてメモリ部35に記憶された制御プログラムを実行する。回転センサ31は、エンジン12に設置されてエンジン12の回転速度を検出し、その検出値を信号として制御部30に送る。開度センサ32はスロットルバルブの軸に設置されて、軸の回転角をスロットルバルブの開度として検出し、その検出値を信号として制御部30に送る。
【0056】
車速センサ33は、変速機の前部に設置されて、自動車10の走行速度を検出し、その検出値を信号として制御部30に送る。また、操作部34は、ダッシュボードの表面に設置されており、切替スイッチ、3個の押圧スイッチおよびその他の操作子を備えている。切替スイッチは、操作されることによりフィルタ25の中の任意のフィルタを選択する。なお、この切替スイッチでは、どのフィルタも選択しないことを設定することもできる。3個の押圧スイッチは、それぞれマップ25a,25b,25cに対応するもので、オンオフ操作することにより、各マップ25a,25b,25cによる処理を行うか否かの設定ができる。
【0057】
他の操作子は、車両用音響装置20をオンオフするためのメインスイッチ、スピーカー28a,28bの全体的な音量を調節するための操作子、スピーカー28a,28bから発音される音の音量バランスを変更して音の定位を調整する定位操作子などで構成されている。また、操作部34の切替スイッチ等は、無線を用いた遠隔操作をすることができ、例えば携帯電話を用いて各種の切替操作ができる。信号処理部24は、携帯電話等を介して書き換えることができる。
【0058】
つぎに、以上のように構成された自動車10の走行時に、車両用音響装置20を作動させてスピーカー28a,28bからエンジン12の吸気音を発音させるときの操作および制御部30が行う制御について説明する。まず、操作部34の切替スイッチを操作して、フィルタ25の中の任意のフィルタを選択するとともに、3個の押圧スイッチをそれぞれ操作して、各マップ25a,25b,25cによる処理を行うか否かを設定する。つぎに、始動スイッチをオン状態にしてエンジン12を作動させるとともに、車両用音響装置20のメインスイッチをオン状態にする。そして、アクセルを踏んで自動車10を走行させる。これによって、制御部30は、回転センサ31と開度センサ32から送られてくる検出値に基づいて、各マップ25a,25b,25cから所定の値を決定して、その値をフィルタ25の中の選択したフィルタに加える。
【0059】
これによって、圧力センサ21a〜21dが出力した圧力信号は、信号処理部24によって処理され、スピーカー28a,28bは信号処理部24によって処理されたフィルタ特性に応じて発音する。このスピーカー28a,28bから発音される吸気音は、圧力センサ21a〜21d、回転センサ31および開度センサ32の検出値の変化にしたがって変化していく。なお、操作部34が、フィルタ25の中のすべてのフィルタを選択しない設定になり、3個の押圧スイッチがすべてオフ状態に設定されている場合は、音圧信号は加工されることなく、圧力センサ21a〜21dが出力した圧力信号に基づいてスピーカー28a,28bから発音される。また、このスピーカー28a,28bから発音される吸気音は、自動車10の窓を閉めた状態では、車外に対しては殆ど漏れることなく車内の乗員にのみ聞こえる。
【0060】
以上のように、本実施形態に係る車両用音響装置20では、圧力センサ21a〜21dを、吸気ダクト15におけるエアフローメータ18の近傍部分に設けている。このため、圧力センサ21a〜21dが、エンジン12に近すぎて爆発音の影響を受けたり、外部に近すぎて吸気圧力脈動を検出しにくくなったりすることがなく、エンジン12の吸気圧の脈動を少ないノイズで検出できるようになる。これによって、スピーカー28a,28bから発生される吸気音が実際のエンジン12の吸気音に近いものになる。
【0061】
なお、前述した圧力センサ21a〜21dを吸気ダクト15に接続する連通部29a〜29dの基端部の中心部とエアフローメータ18との間の長さは実験から求めたものであり、この長さは20cm以内にすることが好ましい。この実験では、吸気ダクト15の長さを、最短長さとして40cmに設定した場合に、連通部29a〜29dの基端部の中心部とエアフローメータ18との間の長さを20cm以内にしたときに良好な結果を得ることができた。また、吸気ダクト15の長さが40cm以上である場合には、連通部29a〜29dの基端部の中心部とエアフローメータ18との間の長さを20cm以上にすることもできるが、その場合でも吸気ダクト15の中央よりもエアフローメータ18側に連通部29a〜29dを接続する。
【0062】
また、本実施形態では、圧力センサ21a〜21dとして、感度範囲が1H
Zから2kH
Zのものを用い、この圧力センサ21a〜21dを長さが4cmの管状の連通部29a〜29dで吸気ダクト15の外周部に円周に沿って一定間隔で接続している。このように、圧力センサ21a〜21dの感度範囲を1H
Zから2kH
Zにすることにより、乗員にとって不快な音を除いて快適な音だけをスピーカー28a,28bに発生させることができるとともに、連通部29a〜29dの長さを4cm以内に設定することにより、連通部29a〜29d内で共振が生じることを防止できる。
【0063】
すなわち、連通部29a〜29dのように吸気ダクト15側の基端部が開口して先端部が圧力センサ21a〜21dによって閉塞された管体の場合、共振が発生するのは、長さが波長の1/4以上の場合であるため、連通部29a〜29dの長さを4cm以内に設定することにより、求めようとしている周波数の1/4波長よりも短くすることができる。これによって共振の発生を防止でき、圧力センサ21a〜21dを連通部29a〜29dを介して設けることによって、圧力センサ21a〜21dの検出に悪影響が生じることを防止できる。
【0064】
さらに、連通部29a〜29dを吸気ダクト15の外周面上部から上方に向けて延ばしたため、吸気ダクト15の内部にオイルが溜まっても、そのオイルが圧力センサ21a〜21d側に流れることを防止できる。また、圧力センサ21a〜21dが正圧と負圧との双方を計測できるため、すべての吸気脈動を消去することなく忠実に取り出すことができる。さらに、4個の圧力センサ21a〜21dを設けているため圧力信号を増幅でき、これによって、アクセルの踏込量が小さい軽負荷時でも圧力信号を正確に検出することができる。また、4個の圧力センサ21a〜21dが吸気ダクト15の同一断面上に位置しているため、吸気ダクト15内の略同一部分で得られる吸気圧力を平均化させてノイズを低減して、S/N比を上げることができる。
【0065】
また、本実施形態では、フィルタ25のフィルタ特性を用いて信号処理が行えるため、各周波数に応じてゲインを任意に変更することができる。そして、フィルタ25には、複数のフィルタ特性が備わっているため、スピーカー28a,28bが出力する吸気音の音質を種々のものにすることができる。また、信号処理部24によって行われる信号処理に、マップ25aの音圧増幅マップを用いることにより、圧力センサ21a〜21dが出力する圧力信号や、フィルタ特性のゲインを全体的に上げることができる。これによると、スピーカー28a,28bが出力する吸気音を、実際のエンジン12の吸気音に近い減衰特性や、透過損失を備えた吸気音として車室内に再生することができる。
【0066】
さらに、信号処理部24によって行われる信号処理に、マップ25bのゲイン調整マップを用いることにより、エンジン回転数から次数成分に応じて音圧信号を強調することができる。また、信号処理部24によって行われる信号処理に、マップ25cのエフェクター処理マップを用いることにより、エンジンの回転数およびスロットル開度の双方の値が小さい低回転低負荷時のときにコンプレッサー処理を行い、エンジンの回転数の値が大きい高回転時、スロットル開度の値が大きい高負荷時および双方の値が大きい高回転高負荷時にリバーブレータ処理を行うことができる。
【0067】
このように、自動車10の運転状態に応じてコンプレッサー処理またはリバーブレータ処理を行うことにより、音圧を増強したり、スピーカー28a,28bから発生する吸気音に残響効果を与えて伸び感を出したりすることができる。さらに、スピーカー28a,28bを、車体11の前部のダッシュボードの左右両側に配置して、エンジン12側から車内に向かって発音できるようにしたため、スピーカー28a,28bから出力される吸気音が、エンジン12の方向から聞こえるようになり、実際のエンジン12の吸気音が聞こえるように感じることができる。
【0068】
(第2実施形態)
図12は、本発明の第2実施形態に係る車両用音響装置40の構成を示している。この車両用音響装置40には、ノイズゲート処理部42とノイズ抑制処理部43とが備わっている。この車両用音響装置40のそれ以外の部分の構成については、前述した車両用音響装置20と同一である。したがって、
図12において、同一部分に同一符号を記している。ノイズゲート処理部42は、ミキサー22で合成された電気信号に対してノイズゲート処理を行う。このノイズゲート処理は、雑音の軽減を目的として行うものであり、入力信号の値が所定のしきい値以下の場合に、周波数スペクトルのゲインを下げることによりゲートを閉じ、所定のしきい値以上の場合にゲートを開いてA/D変換器23に送る。すなわち、ノイズゲート処理部42によって、ある音量以下の音をノイズとみなして除去する処理が行われる。そして、A/D変換器23に送られた電気信号はデジタル信号に変換されてノイズ抑制処理部43に送られる。なお、このノイズゲート処理は、デジタル信号に変換された信号に対して行ってもよい。
【0069】
ノイズ抑制処理部43は、A/D変換器23でデジタル信号に変換された電気信号に対してノイズ抑制処理を行う。このノイズ抑制処理は、電気信号に対してFFT(高速フーリエ変換)処理を行うことにより行われるもので、A/D変換器23から送られる信号のデータと、所定の周期で現れるノイズのデータとにフーリエ変換を行ってそれぞれの変換値を求め、信号データの変換値からノイズの変換値を引いたのちに元の信号データに戻すことで、ノイズを除去する。この場合、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換して、この信号に含まれるノイズを推定し、周波数領域の信号からノイズを除去したのちに、周波数領域の信号を時間領域の信号に逆変換することが行われる。このような、いわゆるスペクトルサブトラクション処理によって、ノイズのない電気信号が得られ、この電気信号は、信号処理部24に送られる。この場合、スペクトルサブトラクション処理以外のノイズ抑制処理用いてもよいことは言うまでもない。
【0070】
この車両用音響装置40が備えるノイズゲート処理部42とノイズ抑制処理部43以外の部分は、前述した車両用音響装置20の対応する部分と同様の機能を有している。以上のように、車両用音響装置40を構成したため、スピーカー28a,28bから出力される吸気音に含まれる不要な領域の雑音を除去したり抑制したりして自然な音を発生することができる。この車両用音響装置40のそれ以外の作用効果は、前述した車両用音響装置20の作用効果と同様である。なお、前述した第2実施形態においては、ノイズゲート処理部42とノイズ抑制処理部43との双方が備わっているが、これらの一方は省略してもよい。また、これらの処理は、アナログ信号に対して行ってもよいし、デジタル信号に対して行ってもよい。
【0071】
(第3実施形態)
図13は、本発明の第3実施形態に係る車両用音響装置50の構成を示している。この車両用音響装置50は、前述した車両用音響装置40に備わっている回転センサ31、開度センサ32および車速センサ33に代えて加速度センサ51を設けた構成をしている。この加速度センサ51は、例えば、
図1に示した自動車10の車体11における中央底部に設置することができる。この車両用音響装置50のそれ以外の部分の構成は、前述した車両用音響装置40と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0072】
以上のように、車両用音響装置50には加速度センサ51が備わっているため、加速度センサ51が検出する加速度の値に基づいて圧力センサ21a〜21dが出力する圧力信号に対して音圧増幅処理を行ったり、圧力センサ21a〜21dが出力する圧力信号を加工するフィルタ特性のゲインを全体的に上げたりすることができる。この場合、フィルタ25やマップ25a等は、自動車10の加速度に応じて、ゲインを上げたり下げたりする周波数領域を決定したり、圧力センサ21a〜21dの出力信号や、フィルタ25のゲインを全体的に上げたりする。また、加速度センサ51は、車両における任意の場所に取り付けることができるため、自動車10を加工したり煩雑な配線をしたりする必要がなくなり、設置が容易になる。この車両用音響装置50のそれ以外の作用効果は、前述した車両用音響装置40の作用効果と同様である。
【0073】
(第4実施形態)
図14は、本発明の第4実施形態に係る車両用音響装置60(
図15参照)が備える圧力センサ61a〜61dの取付位置を示した概略図であり、
図15は、車両用音響装置60の構成を示した構成図である。この車両用音響装置60には、4個の圧力センサ61a,61b,61c,61dが備わっており、このうち、圧力センサ61a,61b,61cは、吸気ダクト65におけるエアフローメータ68の近傍部分の外周上部に、円周方向に一定間隔を保って設けられた3個の管状の連通部(図示せず)によって接続されている。この圧力センサ61a〜61cは、吸気ダクト65内の吸気脈動の圧力を電圧変動として出力するものである。なお、圧力センサ61a〜61cを、吸気ダクト65に接続する連通部は前述した連通部29a〜29dと同じ構成をしている。
【0074】
圧力センサ61dは、スロットルボディ67の下流に配置されたサージタンク64の外壁面に取り付けられて、本発明に係る第2の圧力センサを構成するもので、圧力センサ61a〜61cと同じセンサからなっている。この圧力センサ61dは、スロットルボディ67の下流側で生じる吸気脈動を電圧変動として出力するものである。圧力センサ61dは、サージタンク64の外壁面に、連通部69によって接続されている。この連通部69は、内径および外径が連通部29a〜29dと同じで、長さが50cmの可撓性を備えた樹脂製の管やゴムホース管で構成されている。
【0075】
また、車両用音響装置60には、第2実施形態に係る車両用音響装置40に備わっている回転センサ31、開度センサ32および車速センサ33は備わってなく、圧力センサ61dは、ミキサー22だけでなく制御部30にも接続されている。この車両用音響装置60のそれ以外の部分の構成については、前述した車両用音響装置40と同一である。したがって、
図15において、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0076】
以上のように、車両用音響装置60は構成されているため、スロットルボディ67の上流側だけでなく、下流側の吸気脈動も検出できるようになる。これによって、スピーカー28a,28bから再生される吸気音がスロットルボディ67の開閉状態にかかわらず、エンジン12の吸気脈動に対応したものになる。このため、アイドリング時、減速時または軽負荷時等、スロットルボディ67のスロットルバルブが殆ど閉じるかもしくは小開度状態でも、エンジン12の脈動による音を発生させることができる。また、サージタンク64の外壁面と圧力センサ61dとを接続する連通部69の長さを50cmと長く設定したため、エンジン12の脈動による荒々しい音を緩和することができる。
【0077】
また、圧力センサ61dをノイズゲート処理部42、A/D変換器23およびノイズ抑制処理部43等を介して制御部30に接続することによって、制御部30に交流成分の信号が送られてエンジン12の回転数を認識でき、圧力センサ61dを直接制御部30に接続することによって、制御部30に直流成分の信号が送られエンジン12の負荷を認識することができる。この場合、圧力センサ61dが出力する圧力信号の一部は、直流成分をカットして交流成分だけを通すフィルタ(図示せず)によって直流成分が除去され交流成分だけがミキサー22に送られる。また、圧力センサ61dが出力する他の圧力信号は、交流成分をカットして直流成分だけを通すフィルタ(図示せず)によって交流成分が除去され直流成分だけが制御部30に送られろ。
【0078】
交流成分の信号は、ノイズ抑制処理部43によってノイズ抑制処理を施されることによってエンジン12の回転数を認識できる信号になる。この場合、ノイズが存在する周波数帯域が除去され、吸気音が存在する周波数帯域だけが残るため、エンジン12の回転数をより確実に認識できるようになる。また、直流成分の信号は、直接制御部30に送られることにより、エンジン12の負荷を認識できる信号となる。これらの情報から運転状態を判断して適切な音圧増減を行うことができるようになる。この場合、フィルタ25やマップ25a等は、圧力センサ61a〜61dの出力信号に応じて、ゲインを上げたり下げたりする周波数領域を決定したり、フィルタ25のゲインを全体的に上げたりする。
【0079】
この車両用音響装置60によると、センサの数を少なくすることができ、構成が簡単になるとともに安価になる。この車両用音響装置60のそれ以外の作用効果については、前述した第2実施形態と同様である。なお、第4実施形態の変形例として、車両用音響装置60に、第2実施形態に係る車両用音響装置40に備わっている回転センサ31、開度センサ32および車速センサ33を設けたり、第3実施形態に係る車両用音響装置50に備わっている加速度センサ51を設けたりすることもできる。
【0080】
(第5実施形態)
図16は、本発明の第5実施形態に係る車両用音響装置が備える第2の圧力センサである圧力センサ71dの取付位置を示した概略図である。本実施形態では、エンジン72とサージタンク74との間に、本発明に係る空気量制御弁を構成する複数のスロットルボディ77aが設けられ、サージタンク74の上流側にスロットルボディは設けられていない。このスロットルボディは、4個のスロットルボディ77aをユニット化した独立スロットル方式のもので、各スロットルボディ77aは内部にスロットルバルブ77bを備えており、それらは1個のモータ(図示せず)と一本のスロットル軸77cによって同期して操作される。各スロットルボディ77aは、それぞれに設けられたスロットルバルブ77bより下流側においてバランスパイプ部77dで連通され、第2の圧力センサ71dはバランスパイプ部77dに設けられている。
【0081】
また、スロットル軸77cの端部には、スロットルバルブ77bの開度を検出するための開度センサ78が設けられている。この第5実施形態に係る車両用音響装置および車両用音響装置が取り付けられる自動車のそれ以外の部分の構成は、前述した第4実施形態と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0082】
本実施形態によると、独立スロットルボディ77を備えた自動車においても、運転者の操作による運転状況に応じたエンジン72の吸気音を、外部に対しては小さな音で放出しながら車内でははっきりと聞くことができる。また、圧力センサ71dをバランスパイプ部77cに設けることによって、エンジン72に備わっている全ての気筒の脈動成分を検出することができる。この第5実施形態に係る車両用音響装置のそれ以外の作用効果については、前述した第4実施形態と同様である。
【0083】
なお、第5実施形態の変形例として、車両用音響装置に、第2実施形態に係る車両用音響装置40に備わっている回転センサ31、開度センサ32および車速センサ33を設けたり、第3実施形態に係る車両用音響装置50に備わっている加速度センサ51を設けたりすることもできる。これによると、第5実施形態が奏する作用効果に、第2実施形態および第3実施形態が奏する作用効果が加わるようになる。
【0084】
また、図示は省略するが、本発明に係る他の実施形態として、スロットルバルブを用いることなく出力の調整を行う連続可変バルブリフト機構を備えたエンジンを用いることもできる。連続可変バルブリフト機構とは、いわゆるバルブトロニック(商標)のことであり、吸気バルブのリフト、またはリフトとタイミングとを無段階に調整することで、スロットルバルブを用いることなく出力の調整を行うことのできるものである。この場合、吸気バルブが、本発明に係る空気量制御弁を構成する。このため、本実施形態では、第2の圧力センサは設けられていない。
【0085】
また、本発明に係る車両用音響装置は、前述した各実施形態に限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した実施形態では、車両として、FF車またはFR車からなる自動車10を用いているが、この自動車10に代えて、
図17に示したMR(ミッドシップエンジン・リアドライブ)車、またはRR(リアエンジン・リアドライブ)車からなる自動車80を用いることができる。この自動車80では、一対のスピーカー88a,88bが、車体81の後部座席の後方の左右に設けられている。スピーカー88a,88bは、ともにエンジン82側から車内に向かって発音できる向きに設置されている。
【0086】
また、回転センサ83はエンジン82に設けられている。スロットルバルブの開度を検出する開度センサは、スロットルボディに設けられている。この自動車80に備わっている車両用音響装置のそれ以外の部分の構成については、前述した車両用音響装置20と同一である。この自動車80では、スピーカー88a,88bを、車体81の後部座席の後方の左右両側に配置して、車体81の後部に設置されたエンジン82側から車内に向かって発音できるようにしたため、スピーカー88a,88bから発生される吸気音が、エンジン82の方向から聞こえるようになり、実際のエンジン82の吸気音が聞こえるように感じることができる。
【0087】
さらに、スピーカーを奇数個設けて、その中の1個を車体の前部のダッシュボード等、車両の幅方向の中央に設け、スピーカーから発生される吸気音が、左右にばらつくことをなくすことにより、音のバランスをよくすることもできる。また、スピーカーをドアやダッシュボード内の壁面に設置することもできる。このようにスピーカーの設置位置や個数を任意にすることにより吸気音が聞こえる方向を変えたり、立体感のある吸気音にしたりすることができる。
【0088】
さらに、前述した各スピーカー28a,28b等は、車両用音響装置20等の専用スピーカーとして設けてもよいし、自動車10等に備わっているオーディオ用のスピーカーと併用してもよい。また、前述した第1および第2実施形態では、信号処理部24が、回転センサ31が検出するエンジン回転数および開度センサ32が検出するスロットル開度を用いて音圧信号を変化させる処理を行っているが、この処理には、車速センサ33が検出する車速をパラメータとして加えることもできる。さらに、エンジンと空気量制御弁との間に第2の圧力センサを設ける場合、この第2の圧力センサは複数であってもよい。また、空気量制御弁の上流側に設けられる複数の圧力センサの数は、4個または3個に限らず、2個でも5個以上でもよい。