特許第5803106号(P5803106)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許5803106D−乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよびD−乳酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5803106
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】D−乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよびD−乳酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20151015BHJP
   C12N 9/04 20060101ALI20151015BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20151015BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20151015BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N9/04
   C12N1/19
   C12P7/56
【請求項の数】10
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2010-522119(P2010-522119)
(86)(22)【出願日】2010年6月2日
(86)【国際出願番号】JP2010059306
(87)【国際公開番号】WO2010140602
(87)【国際公開日】20101209
【審査請求日】2013年5月29日
(31)【優先権主張番号】特願2009-134213(P2009-134213)
(32)【優先日】2009年6月3日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】澤井 健司
(72)【発明者】
【氏名】須田 和美
(72)【発明者】
【氏名】澤井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝成
(72)【発明者】
【氏名】山岸 潤也
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 SIEBENALLER J.F., et al.,"Comparison of the D-lactate stereospecific dehydrogenase of Limulus polyphemus with active-site reg,Biochim. Biophys. Acta.,1983年,Vol.749, No.2,P.153-162
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
C12P 1/00−41/00
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/WPIX(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(C)のいずれかのポリペプチド。
(A)配列番号1または2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(B)配列番号1または2に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、D−乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチド
(C)配列番号1または2に記載のアミノ酸配列との配列同一性が少なくとも90%以上のアミノ酸配列からなり、D−乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチド
【請求項2】
下記(a)〜(c)、(e)のいずれかのポリヌクレオチド。
(a)配列番号3または4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)配列番号3または4に記載の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列からなり、D−乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号3または4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドもしくはその相補鎖の全体とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、D−乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチ
e)請求項1に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
【請求項3】
請求項2に記載のポリヌクレオチドと、該ポリヌクレオチドを発現可能なプロモーターとを連結させた、DNA構築物。
【請求項4】
前記プロモーターが、ピルビン酸脱炭酸酵素1遺伝子(PDC1遺伝子)、サプレッション・オブ・エクスポネンシャル・ディフェクト1遺伝子(SED1遺伝子)またはグリセルアルデヒド−3リン酸脱水素酵素3遺伝子(TDH3遺伝子)のプロモーターであることを特徴とする、請求項3に記載のDNA構築物。
【請求項5】
前記プロモーターが、下記(I)〜(III)のいずれかから選ばれる、請求項3または4に記載のDNA構築物。
(I)配列番号5〜7のいずれかに記載の塩基配列からなるプロモーター
(II)配列番号5〜7のいずれかに記載の塩基配列もしくはその一部を含む塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列からなるプロモーター
(III)配列番号5〜7いずれかに記載の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換および/または付加された塩基配列からなるプロモーター
【請求項6】
請求項2に記載のポリヌクレオチドまたは請求項3〜5のいずれかに記載のDNA構築物が導入されている、形質転換体。
【請求項7】
請求項2に記載のポリヌクレオチドまたは請求項3〜5のいずれかに記載のDNA構築物が導入されている、形質転換酵母。
【請求項8】
前記形質転換酵母は、ピルビン酸脱炭酸酵素1遺伝子(PDC1遺伝子)、サプレッション・オブ・エクスポネンシャル・ディフェクト1遺伝子(SED1遺伝子)およびグリセルアルデヒド−3リン酸脱水素酵素3遺伝子(TDH3遺伝子)のうち少なくとも1種類の遺伝子が、請求項2に記載のポリヌクレオチドまたは請求項3〜5いずれかに記載のDNA構築物に置換されている、請求項7に記載の形質転換酵母。
【請求項9】
前記遺伝子のうち、少なくとも1種類はPDC1遺伝子である、請求項8に記載の形質転換酵母。
【請求項10】
請求項6に記載の形質転換体または請求項7〜9のいずれかに記載の形質転換酵母を培養する工程を含む、D−乳酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D−乳酸を製造するための新規なD−乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび該ポリヌクレオチドが導入された形質転換体に関し、さらに該形質転換体を培養することを含むD−乳酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能資源であるバイオマスを原料とするポリ乳酸(PLA)は、カーボンニュートラルの考え方から強い注目を浴びている。PLAは、比較的コストが安く、融点もおよそ170℃と耐熱性を有し、溶融成形可能な生分解性ポリマーとして期待されている。さらに、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合することにより、ポリ乳酸ステレオコンプレックスが得られることが知られている(特許文献1〜3)。ポリ乳酸ステレオコンプレックスは、単独のポリマーよりも高融点および高結晶性を示し、繊維やフィルム、樹脂成形品として有用な成形品を与えることが知られており、その原料であるL−乳酸、D−乳酸ともに高純度かつ高効率な製造法が求められている。
【0003】
自然界には乳酸菌などの乳酸を効率良く生産する細菌が存在し、それらを用いた乳酸製造法の中には既に実用化されているものもある。例えば、L−乳酸を効率良く生産する細菌としてラクトバシラス・デルブレッキィ(Lactobacillus delbrueckii)などがある。また、D−乳酸を効率良く生産する細菌としてスポロラクトバシラス・ラエボラクティカス(Sporolactobacillus laevolacticus)の微生物などが知られている(特許文献4)。いずれの場合も嫌気培養で乳酸の蓄積量は高いレベルに達しているが、L−乳酸発酵の場合はD−乳酸が、D−乳酸発酵の場合はL−乳酸が副産物として生成し光学純度の低下をもたらす。そして、これらを分離することは非常に困難である。
【0004】
そこで、高光学純度な乳酸の製造方法として、本来乳酸生産能を有しない酵母にL−乳酸またはD−乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子を導入し、該酵母を用いたL−乳酸およびD−乳酸発酵が検討されている(特許文献4〜6、非特許文献1)。遺伝子組換え酵母によるL−乳酸発酵に関しては、高活性なアフリカツメガエル由来のL−乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子を導入することで、高効率かつ高光学純度な乳酸発酵が可能になっている(特許文献4)。一方、遺伝子組換え酵母によるD−乳酸発酵に関しては、L−乳酸発酵と同様に高い光学純度のD−乳酸が得られるものの、D−乳酸収率に課題があった(特許文献5および6、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−36321号公報
【特許文献2】特開昭63−241024号公報
【特許文献3】特開平2000−17163号公報
【特許文献4】WO2007/043253
【特許文献5】特開2007−074939号公報
【特許文献6】WO2004/104202
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】イシダら、ジャーナル オブ バイオサイエンス バイオエンジニアリング(2006)、101、172−7(Ishida N,Journal biosci bioeng(2006),101,172−7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来よりも高いD−乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチドおよび該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドにより、生産性の高いD−乳酸発酵を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々のD−乳酸脱水素酵素について鋭意検討した結果、D−乳酸の産生量を増大させ、同時に副産物の生成が少ないD−乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチドおよびそれをコードするポリヌクレオチドを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様からなる。
【0010】
(1)下記(A)〜(C)のいずれかのポリペプチド。
(A)配列番号1または2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(B)配列番号1または2に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、D−乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチド
(C)配列番号1または2に記載のアミノ酸配列との配列同一性が少なくとも90%以上のアミノ酸配列からなり、D−乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチド
【0011】
(2)下記(a)〜(c)、(e)のいずれかのポリヌクレオチド。
(a)配列番号3または4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)配列番号3または4に記載の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列からなり、D−乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号3または4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドもしくはその相補鎖の全体とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、D−乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチ
e)(1)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
【0012】
(3)(2)に記載のポリヌクレオチドと、該ポリヌクレオチドを発現可能なプロモーターとを連結させた、DNA構築物。
【0013】
(4)前記プロモーターが、ピルビン酸脱炭酸酵素1遺伝子(PDC1遺伝子)、サプレッション・オブ・エクスポネンシャル・ディフェクト1遺伝子(SED1遺伝子)またはグリセルアルデヒド−3リン酸脱水素酵素3遺伝子(TDH3遺伝子)のプロモーターであることを特徴とする、(3)に記載のDNA構築物。
【0014】
(5)前記プロモーターが、下記(I)〜(III)のいずれかから選ばれる、(3)または(4)に記載のDNA構築物。
(I)配列番号5〜7のいずれかに記載の塩基配列からなるプロモーター
(II)配列番号5〜7のいずれかに記載の塩基配列もしくはその一部を含む塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列からなるプロモーター
(III)配列番号5〜7いずれかに記載の塩基配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換および/または付加された塩基配列からなるプロモーター。
【0015】
(6)(2)に記載のポリヌクレオチドまたは(3)〜(5)のいずれかに記載のDNA構築物が導入されている、形質転換体。
【0016】
(7)(2)に記載のポリヌクレオチドまたは(3)〜(5)のいずれかに記載のDNA構築物が導入されている、形質転換酵母。
【0017】
(8)前記形質転換酵母は、そのピルビン酸脱炭酸酵素1遺伝子(PDC1遺伝子)、サプレッション・オブ・エクスポネンシャル・ディフェクト1遺伝子(SED1遺伝子)およびグリセルアルデヒド−3リン酸脱水素酵素3遺伝子(TDH3遺伝子)のうち少なくとも1種類の遺伝子が、(2)に記載のポリヌクレオチドまたは(3)〜(5)いずれかに記載のDNA構築物に置換されている、(7)に記載の形質転換酵母。
【0018】
(9)前記遺伝子のうち、少なくとも1種類はPDC1遺伝子である、(8)に記載の形質転換酵母。
【0019】
(10)(6)に記載の形質転換体または(7)〜(9)のいずれかに記載の形質転換酵母を培養する工程を含む、D−乳酸の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、D−乳酸発酵生産に適したD−乳酸脱水素酵素活性を有するポリペプチドおよびそれをコードするポリヌクレオチドが提供される。また、本発明のポリヌクレオチドによりD−乳酸を高生産可能な形質転換体を容易に得ることができ、ひいては、該形質転換体を培養することでD−乳酸を効率よく高純度で生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の酵母SU042株の一つの作製手順を表したものである。
図2図2は、本発明の酵母SU042株の膜利用連続培養結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
D−乳酸脱水素酵素(以下、D−LDHともいう)活性とは、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)とピルビン酸をD−乳酸と酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)に変換する活性である。
【0028】
本発明は配列番号1または2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのホモログを包含しており、該ポリペプチドはD−LDH活性を有していることを特徴としている。
【0029】
配列番号1または2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、カブトガニ科(Lomulidae)アメリカカブトガニ属(Limulus)に属するアメリカカブトガニ(Limulus polyphemus)由来のポリペプチドである。
【0030】
配列番号1または2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドのホモログとしては、例えば、配列番号1または2に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1または2個のアミノ酸の置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドでありかつD−LDH活性を有しているポリペプチドが挙げられる。
【0031】
また、配列番号3または4に記載のポリペプチドのホモログは、配列番号1または2に記載のアミノ配列との配列同一性が少なくとも80%以上、好ましくは90%、より好ましくは95%以上のアミノ酸配列を有し、かつD−LDH活性を有しているポリペプチドであってもよい。なお、アミノ酸配列の配列同一性は、この分野で汎用されているソフトウェアであるBLASTを用いて容易に調べることができる。BLASTは、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のホームページで誰でも利用可能であり、デフォルトのパラメーターを用いて容易に同一性を調べることができる。
【0032】
また、配列番号1または2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドのホモログは、カブトガニ科に属する生物由来、好ましくはアメリカカブトガニ属またはカブトガニ属に属する生物由来、より好ましくはアメリカカブトガニ属のアメリカカブトガニ(Limulus polyphemus)またはカブトガニ属のカブトガニ(Tachypleus tridentatus)、ミナミカブトガニ(Tachypleus gigas)もしくはマルオカブトガニ(Tachypleus rotundicauda)由来のポリペプチドであって、D−LDH活性を有するものであってもよい。
【0033】
配列番号1または2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドはアメリカカブトガニから公知の方法により抽出、またはペプチド合成法として知られる公知の方法を用いて調製することができ、また、配列番号1または2に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを用いて、遺伝子組換え技術により調製することもできる。配列番号1または2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドはカブトガニ属に属する生物から公知の方法により抽出、またはペプチド合成法として知られる公知の方法を用いて調整することができ、また、該ポリペプチドのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを用いて、遺伝子組換え技術により調整することもできる。
【0034】
配列番号1または2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドのホモログは、配列番号1または2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドよりD−LDH活性が向上していても良いし、熱安定性が向上していてもよい。ここで、「D−LDH活性が向上する」とは基質であるピルビン酸やNADHに対する基質親和性や分子活性(Kcat)が向上することや、また、該ポリペプチドの酵素活性の最適pHが該ポリペプチドを発現する細胞の生育に適したpHにより近くシフトすることを意味する。そのようなポリペプチドは、配列番号1または2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを基に人工的にデザインしても良いし、天然から分離しても良い。また、分子進化工学的手法によりD−乳酸脱水素酵素遺伝子に対してランダムに変異を導入し、そこから好ましいポリペプチドをスクリーニングしても良い。
【0035】
本発明は配列番号3または4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドまたはそのホモログを包含し、該ポリヌクレオチドはD−LDH活性を有するポリヌクレオチドをコードしていることを特徴とする。ここで、「ポリヌクレオチド」とはcDNA、ゲノムDNA、合成DNA、mRNA、合成RNA、レプリコンRNAなど、その由来を問うものではないが、好ましくはDNAまたはRNAであり、より好ましくはDNAである。また、1本鎖でも、その相補鎖を有する2本鎖であってもよい。また、天然のあるいは人工のヌクレオチド誘導体を含んでいてもよい。
【0036】
配列番号3または4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドは、アメリカカブトガニ由来のポリヌクレオチドであり、前記D−LDH活性を有するポリペプチドをコードすることを特徴としている。
【0037】
配列番号3または4に記載のポリヌクレオチドのホモログとしては、例えば、配列番号3または4に記載の塩基配列において、1もしくは数個、好ましくは1から40個、より好ましくは1から30個、さらに好ましくは1〜20個、特に好ましくは1から10個、最適に好ましくは1から5個の塩基が置換、欠失、挿入および/または付加されている塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、同時にD−LDH活性を有するポリペプチドをコードしているものが挙げられる。
【0038】
また、配列番号3または4に記載のポリヌクレオチドのホモログとしては、配列番号3または4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドもしくはその相補鎖の全体またはその一部とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、同時にD−LDH活性を有するポリペプチドをコードしているものが挙げられる。ここで、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、例えば、もとの塩基配列の任意の少なくとも20個、好ましくは25個、より好ましくは少なくとも30個の連続した配列を一つあるいは複数個選択したポリヌクレオチドをプローブとして、公知のハイブリダイセーション技術(Current Protocols I Molecular Biology edit. Ausubel et al., (1987) Publish . John Wily & SonsSectoin 6.3-6.4)などを用いて、ハイブリダイズするポリヌクレオチドである。ここでストリンジェントな条件としては、例えば50%ホルムアミド存在下でハイブリダイゼーション温度が37℃、より厳しい条件としては42℃、さらに厳しい条件としては65℃で、0.1〜2倍濃度のSSC(saline-sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成:150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウム)を用いて洗浄することにより達成することができる。
【0039】
また、配列番号3または4に記載のポリヌクレオチドのホモログは、配列番号3または4に記載の塩基配列に対して、少なくとも80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、同時にD−LDH活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであってもよい。ここで言う、ポリヌクレオチドの塩基配列の配列同一性は、前述の遺伝子解析プログラムBLASTなどによって決定することができる。
【0040】
また、配列番号3または4に記載のポリヌクレオチドのホモログは、カブトガニ科に属する生物由来、好ましくはアメリカカブトガニ属またはカブトガニ属に属する生物由来、より好ましくはアメリカカブトガニ、カブトガニ、ミナミカブトガニまたはマルオカブトガニ由来のポリヌクレオチドであって、D−LDH活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであってもよい。
【0041】
前記ポリヌクレオチドは、カブトガニ科、好ましくはカブトガニ科アメリカカブトガニ属に属する生物(以下、これらを総称してカブトガニともいう)からクローニングすることで調整することができるが、化学的に合成または長鎖DNAの合成方法として知られている藤本らの手法(藤本英也、合成遺伝子の作製法、植物細胞工学シリーズ7 植物のPCR実験プロトコール、1997、秀潤社、p95−100)を採用して合成することもできる。カブトガニからのクローニングは、通常公知の方法を用いて単離することができ、このような方法としては、例えば、カブトガニ血球より単離した polyA(+) RNAより作製したcDNAからD−乳酸脱水素酵素において高く保存されている配列をもとに合成したプライマーを用いて部分断片の増幅・配列決定を行い、その後5’RACEおよび3’RACE法により全ORF配列を決定し、その後PCRによって増幅することで得られる。また、D−乳酸脱水素酵素の機能相補によっても行うことができる。その原理の詳細は(DOMINIQUE, G., Appl Environ Microbiol, United States (1995) 61 266-272)に記載されている。このようにして、一旦決定された塩基配列を有する本発明のポリヌクレオチドは、これを再度カブトガニ血球から得ることも可能であるが、これを直接DNA合成装置で化学合成することも可能である。
【0042】
なお、前記ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、アミノ酸配列または塩基配列に、部位特異的変位導入法(Current Protocols I Molecular Biology edit. Ausubel etal., (1987) Publish . John Wily & Sons Sectoin 8.1-8.5)等を用いて、適宜、置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することで適宜改変することができる。また、このようなポリペプチドのアミノ酸配列またはポリヌクレオチドの塩基配列の改変は、人工的に変異を導入しあるいは合成したものに限られず、人工的な変異処理に基づいてあるいはこれに限られず自然界におけるアミノ酸の変異によっても生じたものも包含される。
【0043】
前記ポリヌクレオチドは、遺伝子組換えによるD−乳酸産生細胞の作製に使用することができる。遺伝子組換えにより本発明のポリヌクレオチドが導入された宿主細胞(以下、形質転換体ともいう)がD−乳酸を産生するようになるためには、形質転換体内で該ポリヌクレオチドがコードするD−LDH活性を有するポリペプチドを発現する必要があるが、その際、D−LDH活性を有するポリペプチドを発現させる方法の一つとして、該ポリヌクレオチドを発現可能なプロモーターとを連結させた、すなわち、該プロモーターの3’末端側に該ポリヌクレオチドを連結させたDNA構築物を利用することが有用であり、該DNA構築物についても本発明に含まれる。本発明のDNA構築物は、本発明のポリヌクレオチド(DNA)と、該ポリヌクレオチドを発現可能なプロモーターをそれぞれ適切な制限酵素で切断し、後述のベクターDNAの制限酵素部位あるいはマルチクローニングサイトに挿入して連結する方法や、本発明のポリヌクレオチド(DNA)と該プロモーターをPCRによって連結することにより作製することができる。
【0044】
前記DNA構築物の好ましい態様としては、該DNA構築物をプラスミド(DNA)、バクテリオファージ(DNA)、レトロトランスポゾン(DNA)、人工染色体(YAC、PAC、BAC、MAC等)などのベクターに保持させる。該DNA構築物の導入形態(宿主ゲノム内または宿主ゲノム外)や宿主細胞の種類に応じて、当該分野において公知の原核細胞性ベクター、真核細胞性ベクター、動物細胞性ベクターまたは植物細胞性ベクターが適宜選択される。
【0045】
なお、プラスミドとしては、例えば、pRS413、pRS415、pRS416、YCp50、pAUR112またはpAUR123などのYCp型大腸菌−酵母シャトルベクター、pYES32またはYEp13などのYEp型大腸菌−酵母シャトルベクター、pRS403、pRS404、pRS405、pRS406、pAUR101またはpAUR135などのYIp型大腸菌−酵母シャトルベクター、大腸菌由来のプラスミド(pBR322、pBR325、pUC18、pUC19、pUC119、pTV118N、pTV119N、pBluescript、pHSG298、pHSG396又はpTrc99AなどのColE系プラスミド、pACYC177又はpACYC184などのp1A系プラスミド、pMW118、pMW119、pMW218又はpMW219などのpSC101系プラスミド等)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB110、pTP5等)などを挙げることができる。バクテリオファージとしては、λファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt100、gt11、zap)、φX174、M13mp18またはM13mp19などを挙げることができる。レトロトランスポゾンとしては、Ty因子などを挙げることができる。YACとしては、pYACC2などを挙げることができる。
【0046】
前記DNA構築物における「プロモーター」とは、遺伝子からのmRNAの転写開始に関与する塩基配列を意味し、通常、染色体中に存在する遺伝子の5末端側の上流配列を指す。プロモーターの塩基配列長としては、好ましくは1〜3000bp、より好ましくは1〜1000bpであるが、下流に存在する遺伝子のmRNAの転写を開始し得る塩基配列であれば特に制限はない。また、プロモーターの転写活性を向上させる変異や操作は公知であり、「プロモーター」には公知の手法により改変されたものも含まれる。前記DNA構築物におけるプロモーターは、該DNA構築物が導入された形質転換体内でプロモーター活性を有するものであれば特に制限はないが、後述の通り、本発明のDNA構築物は酵母に導入されることが好ましいため、酵母において機能するプロモーターであることが好ましい。
【0047】
酵母において機能するプロモーターの好ましい例としては、酸性フォスファターゼ遺伝子(PHO5)、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH1,2,3)、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子(ADH1,2,3,4,5,6,7)遺伝子、ガラクトース代謝系遺伝子(GAL1,7,10)、シトクロムc遺伝子(CYC1)、トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子(TPI1)、ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子(PGK1)、ホスホフルクトースキナーゼ遺伝子(PFK1)、ピルビンデカルボキシラーゼ遺伝子(PDC1,5,6)のプロモーターが挙げられ、国際出願PCT/JP2008/072129に記載・利用されている、酵母培養開始後50時間以降における遺伝子発現量が全遺伝子の平均相対発現量の5倍以上であるプロモーターである、エノラーゼ1遺伝子(ENO1)、細胞壁関連タンパク質2遺伝子(CWP2)、サプレッション・オブ・エクスポネンシャル・ディフェクト1遺伝子(SED1)のプロモーターが挙げられる。
【0048】
酵母において機能するプロモーターのより好ましい例としては、酵母のエタノール発酵経路において高発現されているPDC1プロモーターまたはTDH3プロモーター、あるいは長期間の酵母培養時に高発現されているSED1プロモーターが挙げられ、より具体的には、配列番号5に記載されるPDC1プロモーター、配列番号6に記載されるSED1プロモーターまたは配列番号7に記載されるTDH3プロモーターが挙げられる。
【0049】
また、PDC1プロモーター、SED1プロモーターまたはTDH3プロモーターは、そのプロモーター活性を有する範囲においては配列番号5〜7のいずれかに記載の塩基配列において、1もしくは数個、好ましくは1〜40個、より好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜20個、特に好ましくは1から10個、最適に好ましくは1から5個の塩基配列が欠失、置換および/または付加された塩基配列であってもよい。
【0050】
また、PDC1プロモーター、TDH3プロモーターまたはSED1プロモーターは、そのプロモーター活性を有する範囲においては配列番号5〜7のいずれかに記載の塩基配列もしくはその一部を含む塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列であってもよい。ここで、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズする」とは、例えば、もとの塩基配列の任意の少なくとも20個、好ましくは25個、より好ましくは少なくとも30個の連続した配列を一つあるいは複数個選択したポリヌクレオチドをプローブとして、当業者の周知のハイブリダイセーション技術(Current Protocols I Molecular Biology edit. Ausubel et al., (1987) Publish . John Wily & SonsSectoin 6.3-6.4)などを用いて、ハイブリダイズするポリヌクレオチドである。ここでストリンジェントな条件としては、例えば50%ホルムアミド存在下でハイブリダイゼーション温度が37℃、より厳しい条件としては42℃、さらに厳しい条件としては65℃で、0.1〜2倍濃度のSSC(saline-sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成:150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウム)を用いて洗浄することにより達成することができる。
【0051】
前記ポリヌクレオチドまたはDNA構築物を宿主細胞に導入して得られる形質転換体についても本発明に含まれる。宿主細胞としては、該ポリヌクレオチドまたはDNA構築物を安定に保持する細胞であれば特に制限はなく、大腸菌、枯草菌、乳酸菌等の細菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞または植物細胞が挙げられるが、酵母は耐酸性であり、D−LDH活性を有するポリペプチドを発現することでD−乳酸を高産生した場合でも生育できるため、好ましく用いられる。
【0052】
酵母としては、サッカロミセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、クリベロミセス属(Kluyveromyces)、キャンディダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)、ハンセヌラ属(Hansenura)、ヤロウィア属(Yarrowia)、ジゴサッカロミセス属(Zygosaccharomyces)、トルロプシス属(Torulopsis)、デバリオミセス属(Debaryomyces)、イッサチェンキア属(Issachenkia)、フェロミセス属(Fellomyces)に属する酵母が挙げられるが、好ましくは、サッカロミセス属、キャンディダ属またはクリベロミセス属に属する酵母であり、より好ましくはサッカロミセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)またはキャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)、キャンディダ・グラブラータ(Candida glabrata)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)、キャンディダ・ボイディニ(Candida boidinii)、キャンディダ・ソノレンシス(Candida sonorensis)またはクリベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クリベロミセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)である。
【0053】
また、酵母が高次倍数体酵母であれば、簡便な操作条件で、長時間にわたり安定してD−乳酸の高生産性を維持することが可能となり、D−乳酸を低コストで安定に生産することができるため、本発明において好ましく用いられる。ここで、「高次倍数体酵母」とは、細胞内に2組以上の染色体をもつ酵母のことである。高次倍数体酵母の染色体の組数に関しては特に制限はないが、2組の染色体を持った2倍体酵母が好ましい。高次倍数体酵母は、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母、清酒酵母、ワイン酵母やビール酵母などの酵母などが挙げられる。使用する高次倍数対酵母は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【0054】
また、酵母が栄養非要求性であれば、従来よりも栄養素の少ない培地、すなわち低コストの培地が使用可能となるとともに、簡便な操作条件で、長時間にわたり安定してD−乳酸の高生産性を維持することが可能となり、乳酸を低コストで安定に生産することも可能となるため、本発明において好ましく用いられる。ここで、「栄養要求性」とは、野生型酵母が有する栄養合成遺伝子に何らかの原因で変異が生じ、結果として、該栄養の合成能を欠損していることを意味する。すなわち、「栄養非要求性酵母」とは、栄養要求性を示す遺伝子型を有しないか、もしくは相補されている酵母である。栄養要求性酵母の栄養要求性を復帰させて栄養非要求性酵母を作出する方法としては、遺伝子組換え手法によって栄養合成遺伝子を導入し、栄養要求性を復帰させる方法や、また異なる栄養要求性を有する酵母同士を接合、子嚢形成させ、目的とする栄養要求性を復帰させる過程を繰り返し、最終的に栄養要求性をすべて復帰させ、栄養非要求性酵母とする方法などが挙げられる。なお、栄養非要求性酵母であるか否かの判定方法としては、酵母の最小培地であるSD培地において、生育可能であるかをもってして判断基準とすることができる。
【0055】
また、酵母は旺盛にエタノール発酵を行う微生物であり、その代謝経路は、解糖系産物であるピルビン酸をピルビン酸脱炭酸酵素によりアセトアルデヒドに変換し、そのアセトアルデヒドをアルコール脱水素酵素によってエタノールに変換する。したがって、エタノール代謝経路の起点となるピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子が破壊された酵母株を宿主とすることは、本来エタノール代謝経路で代謝されるべきピルビン酸が、D−乳酸代謝経路に用いられるようになるため、好ましい。
【0056】
特にサッカロミセス・セレビセの場合、ピルビン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子にはピルビン酸脱炭酸酵素1(PDC1)遺伝子、ピルビン酸脱炭酸酵素5(PDC5)遺伝子、およびピルビン酸脱炭酸酵素6(PDC6)遺伝子の3種類が存在し、そのうちPDC1とPDC5のみが酵母細胞内においてピルビン酸脱水素酵素活性を有するとされているため、PDC1遺伝子またはPDC5遺伝子が破壊された株を使用することが好ましく、PDC1遺伝子が破壊された株を使用することがより好ましい。また、PDC1遺伝子が破壊された株においては、特開2008−048726号公報に記載されるように、PDC5の活性が低下するような変異を有する変異型PDC5遺伝子を有する株が好ましく、温度感受性の変異型PDC5遺伝子を有する株がより好ましい。ここで、「温度感受性の変異型PDC5」とは、野生型PDC5と比較して、ある培養温度では同程度のピルビン酸脱炭酸酵素活性を示すが、培養温度を変化させて特定の培養温度以上になるとPDC5活性の消失又は低下を示す性質を有する変異型PDC5のことである。サッカロミセス・セレビセの通常の培養温度は28〜30℃であり、温度感受性を示す温度が通常の培養温度に近いほど、培養温度を変化させるために必要な熱量が少なくて済み、培養にかかるコストを低減させることができるため、好ましい。具体的には、温度感受性変異型PDC5は34℃以上で温度感受性を示すことが好ましい。
【0057】
前記ポリヌクレオチドまたはDNA構築物を酵母に導入して、形質転換酵母内でD−LDH活性を有するポリペプチドを発現させる方法としては、前述の通り該DNA構築物を含むベクターを酵母染色体外に導入する方法や、該ポリヌクレオチドまたはDNA構築物を酵母染色体に導入する方法が挙げられるが、いずれも採用することができる。
【0058】
前記ポリヌクレオチドを酵母染色体に導入する方法としては、本発明のポリヌクレオチドに酵母染色体と相同的な配列である相同組換え用DNAセグメントを備える構築物(以下、相同組換え用DNA構築物とも言う)を好適に用いることができる。相同組換え用DNAセグメントは、酵母染色体において本発明のポリヌクレオチドを導入しようとするターゲット部位近傍のDNA配列と相同なDNA配列である。相同組換え用DNAセグメントは、少なくとも1個備えられ、好ましくは、2個備えられている。相同組換え用DNAセグメントが2個備えられている場合、2個の相同組換え用DNAセグメントを、染色体上のターゲット部位の上流側と下流側のDNAに相同なDNA配列とし、これらのDNAセグメントの間に本発明のポリヌクレオチドを連結することが好ましい。
【0059】
相同組換え用DNA構築物により相同組換えする方法に制限はないが、PCRにより相同組換え用DNA構築物を増幅し、該PCR断片をプラスミドに挿入して酵母に導入する方法や、該PCR断片を酵母に導入する方法が採用できる。また、相同組換え用DNA構築物には、本発明のポリヌクレオチドの発現を制御するためのターミネーターが含まれることが好ましい。ここで、「ターミネーター」とは、遺伝子からのmRNA転写を終結させる配列を意味し、通常、染色体中に存在する遺伝子の3’末端側の下流配列を指す。
【0060】
また、相同組換え用DNA構築物には、本発明のポリヌクレオチドまたはDNA構築物の他に、形質転換酵母の選択を容易にするために、選択マーカーが含まれることが好ましい。ここで言う選択マーカーとしては、URA3またはTRP1等の栄養要求性相補的遺伝子もしくはG418耐性遺伝子又はネオマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。
【0061】
PCRにより前記ポリヌクレオチド、ターミネーターおよび選択マーカーを含む相同組換え用DNA構築物を調整する方法は、例えば、下記ステップ1〜3の工程により行うことができる。
【0062】
ステップ1:本発明のポリヌクレオチドの下流にターミネーターがつながったプラスミドを鋳型とし、プライマー1,2をセットとして本発明のポリヌクレオチド及びターミネーターを含む断片をPCRで増幅する。プライマー1は、導入目的箇所の上流側に相同的な配列40bp以上を付加するようデザインし、プライマー2は、ターミネーターより下流のプラスミド由来の配列をもとにデザインする。
【0063】
ステップ2:選択マーカーを持つプラスミド、例えばpRS400、pRS424、pRS426等を鋳型として、プライマー3,4をセットとして選択マーカーを含む断片をPCRで増幅する。プライマー3は、ステップ1のPCR断片のターミネーターより下流の配列と相同性のある配列が30bp以上を付加するようにデザインし、プライマー4には、導入目的箇所の下流側に相当する配列40bp以上を付加するようデザインする。
【0064】
ステップ3:ステップ1,2で得られたPCR断片を混合したものを鋳型とし、プライマー1,4をセットとしてPCRを行うことにより、両末端に導入目的箇所の上流側及び下流側に相当する配列が付加された、本発明のポリヌクレオチド、ターミネーター及び酵母選択マーカーを含む相同組換え用DNA構築物が得られる。
【0065】
前記相同組換え用DNA構築物を酵母に導入するには、トランスフェクション、コトランスフェクションまたはエレクトロポレーション等の方法を用いることができる。具体的には、例えば、酢酸リチウムを用いる方法やプロトプラスト法等がある。
【0066】
相同組換えにより酵母染色体に前記ポリヌクレオチドを導入する場合、該ポリヌクレオチドが酵母染色体上の内在性遺伝子のプロモーターにより制御可能になるように導入する。この場合、前記ポリヌクレオチドの導入によって、同時に、本来当該プロモーターによって制御されるべき内在性遺伝子を破壊し、この内在性遺伝子に替えて外来の本発明のポリヌクレオチドを発現させてもよい。本方法は、特に、当該プロモーターが上記のように酵母において高発現プロモーターである場合や、酵母のD−乳酸代謝経路を阻害するように機能する内在性遺伝子を破壊する場合に有用である。
【0067】
前記ポリヌクレオチドを酵母染色体に導入する際のターゲットとなる内在性遺伝子として、酸性フォスファターゼ遺伝子(PHO5)、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH1,2,3)、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子(ADH1,2,3,4,5,6,7)、ガラクトース代謝系遺伝子(GAL1,7,10)、シトクロムc遺伝子(CYC1)、トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子(TPI1)、ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子(PGK1)、ホスホフルクトースキナーゼ遺伝子(PFK1)、ピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子(PDC1,5,6)が好ましい例として挙げられる。また、国際出願PCT/JP2008/072129に記載・利用されている、酵母培養開始後50時間以降における遺伝子発現量が全遺伝子の平均相対発現量の5倍以上である、エノラーゼ1遺伝子(ENO1)、細胞壁関連タンパク質2遺伝子(CWP2)、サプレッション・オブ・エクスポネンシャル・ディフェクト1遺伝子(SED1遺伝子)のプロモーターも好ましい例として挙げられる。特に、酵母のエタノール発酵経路において高発現されているPDC1遺伝子またはTDH3遺伝子、あるいは長期間の酵母培養時に高発現されているSED1遺伝子がより好ましい例として挙げられ、また前述の通り、少なくともエタノール発酵経路の起点となるPDC1遺伝子またはPDC5遺伝子、好ましくはPDC1遺伝子を破壊するように前記ポリヌクレオチドを導入することで、エタノール発酵経路で代謝されるピルビン酸をD−乳酸代謝経路に利用することができるようになるため、さらに好ましい。
【0068】
また、前記DNA構築物を酵母染色体に導入する方法としては、前記ポリヌクレオチドを酵母染色体に導入する場合と同様に相同組換え用DNA構築物を作成し、相同組換えにより目的とする染色体上の箇所に導入することができる。なお、前記DNA構築物には、前記ポリヌクレオチドを発現可能なプロモーターが既に含まれているため、前記ポリヌクレオチドが酵母染色体上の内在性遺伝子のプロモーターにより制御可能になるように導入する必要はない。
【0069】
なお、酵母染色体上の所望の位置に前記ポリヌクレオチドまたはDNA構築物が導入されたか否かの確認は、PCR法やサザンハイブリダイゼーション法により行うことができる。例えば、形質転換酵母からDNAを調製し、導入部位特異的プライマーによりPCRを行い、PCR産物について、電気泳動において予期されるバンドを検出することによって確認できる。あるいは蛍光色素などで標識したプライマーでPCRを行うことでも確認できる。これらの方法は、当業者において公知である。
【0070】
前記形質転換体を培養する工程を含むD−乳酸の製造方法についても本発明に含まれる。前記形質転換体を培養すると、該形質転換体内でD−LDH活性を有するポリペプチドの発現が新たに付与または増強されてD−乳酸代謝経路が新たに付与または増強され、その結果、培養物中からD−乳酸を分離する工程を実施することによりD−乳酸が得られる。培養物とは、培養上清の他、形質転換体または形質転換体の破砕物を包含している。
【0071】
前記形質転換体の培養方法については特に限定はなく、公知の方法が採用される。例えば、前記形質転換酵母の培養方法としては「M.D. Rose et al., "Methods In Yeast Genetics", Cold Spring Harbor Laboratory Press (1990)」等に記載されている方法を用いることができる。なお、前記DNA構築物を含むプラスミドや相同組換え用DNA構築物に選択マーカーが含まれる場合、選択マーカーに応じた栄養非添加培地または薬剤添加培地で培養することにより所望の形質転換体を選択することができる。
【0072】
前記形質転換体を培養する培地としては、該形質転換体が資化可能な炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、該形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれも使用することができる。例えば、形質転換酵母の場合、炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、ガラクトース、マルトース、ラフィノース、トレハロース、ソルボース、セロビオース、ラクトース、メリビオース、メレジトース、イヌリン、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコサミン、エリスリトール、リビトール、マンニトール、グルシトール、サリシン、スターチ、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸、クエン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコールを用いることができる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物の他、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等を用いることができる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウムなどを用いることができる。
【0073】
前記形質転換体の培養は、通常、振とう培養または通気攪拌培養等の好気条件下から、通気を実施しないような嫌気条件下までの範囲で、乳酸の生産性が良い条件を設定することができるが、微好気から嫌気の条件下が好適に用いられる。培養温度は25〜37℃で行うことができるが、28〜35℃が好適である。D−乳酸が培地中に蓄積するにしたがって培養物のpHが低下するため、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、アンモニアガスなどのアルカリ性物質によって中和することもできる。また後段における乳酸の精製を容易にするために中和を行わずに培養することもできる。また、培養方法としては、目的とするD−乳酸を発酵生産しうる形態であれば特に制限はなく、バッチ培養、フェドバッチ培養、ケモスタット培養、連続培養などを採用できる。好ましくは、バッチ培養またはWO2007/097260に記載されている、目詰まりを起こしにくい膜を利用して発酵培養物を分離膜によって濾液と未濾過液に分離し、濾液から所望の発酵生産物を回収するとともに、未濾過液を発酵培養物に保持または還流させる膜利用連続培養である。
【0074】
前記培養物中に得られたD−乳酸の測定法に特に制限はないが、例えば、HPLCを用いる方法や、F−キット(ロシュ社製)を用いる方法などがある。
【0075】
前記発酵培養物中に含まれるD−乳酸の分離・精製は、従来知られている濃縮、蒸留および晶析などの方法を組み合わせて行うことができ、例えば、濾過・分離発酵液のpHを1以下にしてからジエチルエーテルや酢酸エチル等で抽出する方法、イオン交換樹脂に吸着洗浄した後に溶出する方法、酸触媒の存在下でアルコールと反応させてエステルとし蒸留する方法、カルシウム塩やリチウム塩として晶析する方法、WO2009/004922に開示されるナノ濾過膜と蒸留を組み合わせた分離・精製方法などが挙げられる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例をもって本発明の実施の態様を説明するが、これらは本発明の例示であり本発明を制限するものではない。
【0077】
(実施例1)アメリカカブトガニ由来のD−LDH活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子)の塩基配列決定
アメリカカブトガニのcDNAを作製するために、polyA(+)RNAの精製を行った。polyA(+)RNAはアメリカカブトガニの血球より単離した。アメリカカブトガニ(Marine Biological Laboratory (USA)より購入)の血球より、AGPC法(実験医学Vol.9(1991)、1937−1940頁を参照)を用いて、全RNAを分離した。分離した全RNAを用いて、“Oligotex-dT30 Superキット”(タカラバイオ社製)を用いてpolyA(+)RNAを単離した。次に、“SuperScript II Reverse Transcriptase”(インビトロジェン社製)を用いOligo d(T)をプライマーとしてcDNAを合成した。次に、この反応液を鋳型として用い、D−LDH遺伝子において高く保存されているDNA配列に注目してデザインした配列番号8および配列番号9記載のオリゴDNAをプライマーとしてPCRを行い、アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子の部分配列を増幅した。PCRは以下の条件で行った。95℃(3分間):{95℃(30秒間)−45℃(30秒間)−72℃(30秒間)}×35サイクル:72℃(5分間)。続いて1.0 %アガロースゲルを用いた電気泳動によって増幅DNA断片の確認をおこない、600bpの増幅断片を“QIA quick Gel extraction kit”(株式会社キアゲン製)を用いて精製した後、プラスミドベクター“pGEMt-easy”(プロメガ株式会社製)にクローニングし、DNA配列の決定を行った。塩基配列の決定は、“Taq DyeDeoxyTerminator Cycle Sequencing Kit”(アプライドバイオシステムズ社製)を用いてSangerの方法に従って行った。その結果、アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子に相当すると思われる2種類の配列(D−LDH1、D−LDH2)の部分配列が得られた。
【0078】
次に、5’RACEおよび3’RACE法を用いて、D−LDH1およびD−LDH2の全ORF配列を明らかにした。5’RACEは以下の方法で行った。まず、100μMに調整した配列番号10記載(D−LDH1用)あるいは配列番号11記載(D−LDH2用)のオリゴDNAを50μL、T4PolynucleotideKinase(タカラバイオ社製) 50unit、10×Kinase Buffer(500mM Tris−HCl pH7.6、100mMMgCl2、50 mM DTT、1mM Spermidine、1mM EDTA) 10μL、100mMATP 1μL、蒸留水34μLを混和し、37℃に1時間静置することで、オリゴDNAの5‘末端のリン酸化を行い、フェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール処理、エタノール沈殿により精製した。次に、アメリカカブトガニのpolyA(+)RNAを鋳型に、“SuperScript II Reverse Transcriptase”(インビトロジェン株式会社製)を用い上記リン酸化オリゴDNAをプライマーとしてcDNAの合成を行った。以下、ライゲーション反応による一本鎖cDNAのコンカテマー化を“5’-Full RACE Core Set”(タカラバイオ株式会社製)を用いて行い、生成したコンカテマー化cDNAを鋳型として配列番号12および配列番号13記載(D−LDH1用)、あるいは配列番号14および配列番号15記載(D−LDH2用)のオリゴDNAをプライマーとして1度目のPCR、さらに、その反応液を鋳型として配列番号16および配列番号17記載(D−LDH1用)、あるいは配列番号18および配列番号19記載(D−LDH2用)のオリゴDNAをプライマーとして2度目のPCRを行った。増幅断片の確認、精製および塩基配列の決定は前述の通り行った。
【0079】
3’RACEは以下の方法で行った。まず、アメリカカブトガニのpolyA(+)RNAを鋳型に、“SuperScript II Reverse Transcriptase”(インビトロジェン株式会社製)を用いOligo d(T)をプライマーとしてcDNAの合成を行った。次に、この反応液を鋳型としてOligo d(T)および配列番号13記載(D−LDH1用)、あるいは配列番号15記載(D−LDH2用)のオリゴDNAをプライマーとして1度目のPCRを行い、さらに、その反応液を鋳型としてOligo d(T)および配列番号17記載(D−LDH1用)、あるいは配列番号19記載(D−LDH2用)のオリゴDNAをプライマーとして2度目のPCRを行った。増幅断片の確認、精製および塩基配列の決定は前述の通り行った。
【0080】
アメリカカブトガニ由来D−LDH1遺伝子のアミノ酸配列(配列番号1)およびcDNAのORF配列(配列番号3)、あるいはD−LDH2のアミノ酸配列(配列番号2)およびcDNAのORF配列(配列番号4)は、上記の方法で得られた配列をつなぎ合わせて決定した。なお、BLASTによる配列番号1および配列番号2に記載のアミノ酸配列間の配列同一性は93%であり、配列番号3および配列番号4に記載の塩基配列間の配列同一性は82%であった。
【0081】
(実施例2)アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子発現プラスミドの構築
実施例1で決定したアメリカカブトガニ由来のD−LDH遺伝子と思われるD−LDH1遺伝子およびD−LDH2遺伝子(以下、それぞれLp.D−LDH1遺伝子、Lp.D−LDH2遺伝子という)のORF5’側とORF3’側に相当する配列番号20および配列番号21記載のオリゴDNAまたは配列番号22および配列番号23記載のオリゴDNAをプライマーセットとして、アメリカカブトガニのpolyA(+)RNAから合成したcDNAを鋳型にPCRを行ない、遺伝子のクローニングを行った。得られたDNA断片を制限酵素XhoIおよびNotIで切断し、同じく制限酵素XhoIおよびNotIで切断した酵母発現用ベクターpTRS11(TDH3プロモーターおよび選択マーカーURA3遺伝子を搭載、特開2006−280368号公報参照。なお、TDH3プロモーターおよびターミネーターがGAPDHプロモーターおよびターミネーターと表記してある。)の切断部位に導入し、TDH3プロモーターと、Lp.D−LDH1遺伝子またはLp.D−LDH2遺伝子が連結されたDNA構築物を含むプラスミドベクターを作製した。以後、これらのプラスミドベクターをpTRS205(Lp.D−LDH1を保持する)およびpTRS206(Lp.D−LDH2を保持する)とする。ここでpTRS11ベクターは、pNV11ベクター(Nature, vol. 357, 25 JUNE 1992, p.700参照)を制限酵素XhoIで切断し、インサートを除いた後にセルフライゲーションすることで作成した。
【0082】
(実施例3)アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子発現プラスミドの酵母への導入
実施例2のようにして得られたpTRS205およびpTRS206を酵母であるサッカロミセス・セレビセSW029−1B株(遺伝子型:MATa ura TRP(Δpdc1::TRP1) his ade lys leu)(以下、SW029−1B株という)に導入した。プラスミドの導入は、“YEASTMAKER Yeast Transformation System”(クロンテック社製)を用いた酢酸リチウム法により行った(詳細は、付属のプロトコール参照)。宿主とするSW029-1B株はウラシル合成能を欠損した株であり、pTRS205および206の持つ選択マーカーURA3遺伝子の働きにより、ウラシル非添加培地上でpTRS205および206の導入された形質転換酵母の選択が可能である。このようにして得られた形質転換体へのD−LDH遺伝子発現ベクター導入の確認は、ウラシル非添加の液体培地で培養した形質転換株から、ゲノムDNA抽出キット“Genとるくん”(タカラバイオ株式会社製)によりプラスミドDNAを含むゲノムDNAを抽出し、これを鋳型として用いたPCRにより行った。プライマーには、アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子をクローニングした際に用いたプライマーをそれぞれ使用した。その結果、全ての形質転換酵母において、各アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子がそれぞれ導入されていることを確認した。
【0083】
(実施例4)D−乳酸生産性テスト1
実施例3のようにして得られたpTRS205および206が導入されたサッカロミセス・セレビセSW029−1B株(以下、SW029−1B/pTRS205株、SW029−1B/pTRS206株という)を用いてD−乳酸生産性テストを行った。
【0084】
表1に示した組成のSC3培地からウラシルを除いた培地(SC3−Ura培地)10mLを試験管に取り、そこに少量の各株を植菌し、30℃で一晩培養した(前培養)。次に、SC3−Ura培地10mLを試験管にいれ、各前培養液をそれぞれ100μL植菌し、30℃で振とう培養した(本培養)。本培養開始後40時間の培養液を遠心分離し、上清に含まれる乳酸を下記に示す条件でHPLCにより測定した。
カラム:“Shim−Pack SPR−H”(株式会社島津製作所製)
移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mMビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)
検出方法:電気伝導度
温度:45℃。
【0085】
また、D−乳酸の光学純度は、以下の条件でHPLC法により測定したD−乳酸およびL−乳酸濃度の測定結果から、次式に基づいて計算した。
カラム:“TSK−gel Enantio LI”(登録商標:東ソー株式会社製)
移動相:1mM 硫酸銅水溶液
流速:1.0ml/min
検出方法:UV254nm
温度:30℃。
光学純度(%e.e.)=100×(D−L)/(D+L)
光学純度(%)=100×D/(D+L)
ここで、LはL−乳酸の濃度、DはD−乳酸の濃度を表す。
【0086】
【表1】
【0087】
その結果、D−乳酸の蓄積濃度はSW029−1B/pTRS205株で13g/L、SW029−1B/pTRS206株で12g/Lであった。また、培養液中にはD−乳酸のみ検出され、L−乳酸は検出限界以下であった。アメリカカブトガニよりクローニングしたD−LDH遺伝子を酵母に導入することで、該形質転換酵母はD−乳酸を産生することが確認できた。
【0088】
(実施例5)アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子の酵母染色体への導入
以下のステップ1〜3により、アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を含む相同組換え用DNA構築物を作製した。
【0089】
[ステップ1]
実施例2で得られたLp.D−LDH1遺伝子を保持するpTRS205およびLp.D−LDH2遺伝子を保持するpTRS206を鋳型として配列番号24および25記載のオリゴDNAまたは配列番号26および25記載のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRにより、各D−LDH遺伝子を含む約1.1kbのDNA断片を増幅した。ここで配列番号24,26記載のオリゴDNAはPDC1遺伝子の上流65bpに相同性のある配列が付加されるようにデザインした。
【0090】
[ステップ2]
次にプラスミドpRS424(GenBank Accession Number:U03453)を鋳型として配列番号27および28記載のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRにより、酵母選択マーカーであるTRP1遺伝子を含む約1.4kbのDNA断片を増幅した。ここで配列番号28に記載のオリゴDNAはPDC1遺伝子の下流65bpに相同性のある配列が付加されるようにデザインした。
【0091】
[ステップ3]
DNA断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離した後、“QIA quick Gel extraction kit”(キアゲン株式会社製)を用いて精製した。ここで得られたD−LDH遺伝子を含む1.1kb断片、TRP1遺伝子を含む1.4kb断片をそれぞれ混合したものを鋳型として配列番号24および28記載のオリゴDNAまたは配列番号26および28記載のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRにより各D−LDH遺伝子、TDH3ターミネーターおよびTRP1遺伝子が連結された約2.5kbの相同組換え用DNA構築物を増幅した。
【0092】
上記のようにして作製した相同組換え用DNA構築物をサッカロミセス・セレビセNBRC10505株(以下、NBRC10505株という)のリジン栄養要求性を復帰させた株であるサッカロミセス・セレビセSW092−2D株(以下、SW092−2D株という)に形質転換した。
【0093】
なお、SW092−2D株の作製法は次の通りである。フナコシ株式会社製のサッカロミセス・セレビセBY4741株のゲノムDNAを鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号29,30)をプライマーセットとしたPCRにより、LYS2遺伝子の前半約2kbのPCR断片を増幅させた。上記のPCR断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製後、NBRC10505株に形質転換操作を行い、LYS2遺伝子のアンバー変異を解除した。リジン非添加培地で培養することにより、リジン合成能が復帰した形質転換株(NBRC10505(LYS2)株)を選択した。形質転換株が、LYS2遺伝子のアンバー変異を解除された酵母であることの確認は下記のように行った。まず、得られた形質転換体と野生型のLYS2遺伝子を持つサッカロミセス・セレビセL0GY7株とを接合させ2倍体細胞を得て、該2倍体細胞を子嚢形成培地で子嚢形成させた。マイクロマニピュレーターで子嚢を解剖してそれぞれの一倍体細胞を取得し(テトラッド)、それぞれ一倍体細胞の栄養要求性を調べた。取得した一倍体細胞のすべてがリジン合成能を持っていることを確認した。得られたNBRC10505(LYS2)株とNBRC10506株を接合し、マイクロマニピュレーターによる子嚢解剖によりSW092−2D(遺伝子型:MATa ura3 leu2 trp1 his3 ade2 LYS2)株を得た。
【0094】
上記相同組換え用DNA構築物を用いてSW092−2D株を形質転換し、トリプトファン非添加の培地で培養することで形質転換酵母を選抜した。このようにして得られた形質転換酵母をSW092−2D(Δpdc1::Lp.D−LDH1−TRP1)株およびSW092−2D(Δpdc1::Lp.D−DLH2−TRP1)株とする。
【0095】
(実施例6)D−乳酸生産性テスト2
実施例5で作製したSW092−2D(Δpdc1::Lp.D−LDH1−TRP1)株、SW092−2D(Δpdc1::Lp.D−LDH2−TRP1)株を用いてミニジャーファメンター(丸菱バイオエンジ株式会社製、5L)を用いて発酵評価を行った。
【0096】
表1に示すSC3培地10mLを試験管に取り、そこに少量の各株を植菌し、30℃で一晩培養した(前々培養)。次に、45mLのSC3培地を投入した三角フラスコに前々培養液を5mL加え、30℃でさらに8時間培養した(前培養)。1LのSC3培地を投入したミニジャーファメンターに前培養液を全量植菌して、30時間培養を行った。培養条件を以下に示す。
pH:pH5
通気:100mL/min
攪拌:120rpm
中和剤:1N 水酸化ナトリウム。
【0097】
培養終了時の培養液量および培養液中のD−乳酸濃度及びグルコース濃度を“グルコーステストワコーC”(登録商標)(和光純薬株式会社製)で測定し、該乳酸、及びグルコース濃度から算出された投入グルコースから算出された乳酸対糖収率を求めた。その結果、SW092−2D(Δpdc1::Lp.D−LDH1−TRP1)は対糖収率45%、SW092−2D(Δpdc1::Lp.D−LDH2−TRP1)は対糖収率42%でD−乳酸を生産していることが確認できた。
【0098】
(比較例1)乳酸菌由来D−LDH遺伝子のクローニング、発酵評価
形質転換酵母においてD−乳酸を効率よく発酵生産しうるD−LDH遺伝子としては、ロイコノストック・メセントロイデス(Leuconostoc mesenteroides)ATCC9135株由来のD−LDH遺伝子が公知であり(WO2004/104202参照)、該D−LDH遺伝子(以下、Lm.D−LDH遺伝子という)をクローニングして酵母に導入・発酵することでアメリカカブトガニ由来のLp.D−LDH1遺伝子またはLp.D−LDH2遺伝子とのD−LDH活性の比較検討を行った。
【0099】
Lm.D−LDH遺伝子のクローニングは、WO2004/104202に記載の塩基配列を参考に設計したプライマーセット(配列番号31、32)を用いてATCC9135株をテンプレートとしたコロニーPCR(東洋紡株式会社製“KOD-Plus-polymerase”を使用)により行った。PCR増幅断片を精製し末端を“T4 Polynucleotide Kinase”(タカラバイオ株式会社製)によりリン酸化後、pUC118ベクター(制限酵素HincIIで切断し、切断面を脱リン酸化処理したもの)にライゲーションした。ライゲーションは、“DNA Ligation Kit Ver.2”(タカラバイオ株式会社製)を用いて行った。ライゲーションプラスミド産物で大腸菌DH5αを形質転換し、プラスミドDNAを回収することによりLm.D−LDH遺伝子がサブクローニングされたプラスミドを得た。得られたLm.D−LDH遺伝子が挿入されたpUC118プラスミドを制限酵素XhoIおよびNotIで消化し、得られた各DNA断片を酵母発現用ベクターpTRS11のXhoI/NotI切断部位に挿入した。このようにしてLm.D−LDH遺伝子発現プラスミドpTRS207を得た。
【0100】
次に、pTRS207を鋳型として、配列番号24または26に示すプライマーの代わりに配列番号33に示すプライマーセットを用いた点を除いて実施例5と同様の方法でLm.D−LDH遺伝子をサッカロミセス・セレビセSW092−2D株の染色体中のPDC1遺伝子座に導入した。作製した形質転換酵母をSW092−2D(Δpdc1::Lm.D−LDH−TRP1)とする。次に、実施例6と同様な方法で、バッチ培養によるD−乳酸生産性の評価を行った。その結果、SW092−2D(Δpdc1::Lm.D−LDH−TRP1)の対糖収率は38%であった。実施例6の結果と合わせて表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
(参考例1)アフリカツメガエル由来L−LDH遺伝子導入酵母の作製
特開2008−029329号公報に記載されている方法により、アフリカツメガエル由来のL−LDH遺伝子(X.L−LDH遺伝子)をPDC1遺伝子座に導入した酵母を作製した。なお、染色体に導入する酵母としてNBRC10506株のアデニン栄養要求性を復帰させた株(SU013−1D株)を用いた。SU013−1D株の作成方法を以下に示す。プラスミドpRS422を鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号34,35)をプライマーセットとしたPCRにより、ADE2遺伝子のPCR断片約2kbを増幅させた。上記のPCR断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製後、形質転換操作を行い、ADE2遺伝子の変異を解除した。アデニン非添加培地で培養することにより、アデニン合成能が復帰した形質転換株を選択した。
【0103】
上記のようにして得られた形質転換株が、AED2遺伝子の変異を解除された酵母であることの確認は下記のように行った。まず、得られた形質転換体と野生型のADE2遺伝子を持つサッカロミセス・セレビセL0GY77株とを接合させ2倍体細胞を得た。該2倍体細胞を子嚢形成培地で子嚢形成させた。マイクロマニピュレーターで子嚢を解剖してそれぞれの一倍体細胞を取得し(テトラッド)、それぞれ一倍体細胞の栄養要求性を調べた。取得した一倍体細胞のすべてがアデニン合成能を持っていることを確認した。得られたNBRC10506(ADE2)株とNBRC10505株を接合し、マイクロマニピュレーターでの子嚢解剖によりSU013−1D株(遺伝子型:MATα ura3 leu2 trp1 his3 ADE2 lys2)を得た。得られた形質転換酵母をSU013−1D(Δpdc1::X.L−LDH−TRP1)株とする。
【0104】
(実施例7、比較例2)D−乳酸生産性テスト3
参考例1のようにして作製したSU013−1D(Δpdc1::X.L−LDH−TRP1)株と、実施例5および比較例1で作製したSW092−2D(Δpdc1::Lp.D−LDH1−TRP1)株、SW092−2D(Δpdc1::Lp.D−LDH2−TRP1)株およびSW092−2D(Δpdc1::Lm.D−LDH−TRP1)株をそれぞれ接合させ、PDC1遺伝子座にL−LDH遺伝子とD−LDH遺伝子をヘテロに有する2倍体酵母を作製した。作製した2倍体酵母をそれぞれLp1−X株、Lp2−X株、Lm−X株とする。
【0105】
次に、Lp1−X株、Lp2−X株、Lm−X株を実施例5と同様な条件でバッチ培養を行い、生産した乳酸の光学純度を評価した(表3)。
【0106】
【表3】
【0107】
その結果、アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を有する酵母は、光学純度50%以上でD−乳酸を産生したのに対し、ロイコノストック・メセンテロイデス由来のD−LDH遺伝子を有する酵母が産生したD−乳酸の光学純度は44.4%であった。各酵母が生産するD−乳酸の対糖収率およびD−乳酸の光学純度は、D−LDH遺伝子形質転換酵母内でのD−LDH活性に比例すると考えられることから、表2および表3の結果からロイコノストック・メセンテロイデス由来のD−LDH遺伝子よりもアメリカカブトガニ由来のD−LDH遺伝子の方が、酵母に導入した場合に高活性のポリペプチドをコードすることが確認できた。
【0108】
(実施例8)酵母染色体中へのD−LDH遺伝子の多コピー導入および温度感受性変異型PDC5酵母の作製
次に、更なるD−乳酸収率向上を目的としてPDC1遺伝子座以外の遺伝子座にもアメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を導入した酵母の作製を検討し、特開2008−029329号公報に導入効果が記載されているTDH3遺伝子および国際出願PCT/JP2008/072129に導入効果が記載されているSED1遺伝子座に導入した。また、特開2008−048726号公報に記載されている温度感受性変異型PDC5遺伝子も導入した。
【0109】
[TDH3遺伝子座へのD−LDH遺伝子導入]
TDH3遺伝子座への導入のために、特開2008−029329号公報に記載されているpTRS150の作製方法と同様に、Lp.D−LDH1遺伝子を保持するpTRS205のTDH3ターミネーターをADH1ターミネーターに置換したプラスミドpTRS208を作製した。次に、特開2008−029329号公報中の配列番号8の代わりに配列番号36に示すプライマー用い、pTRS208を鋳型としてTDH3遺伝子座導入用の相同組換え用DNA構築物を得た。
【0110】
上記相同組換え用DNA構築物を導入する酵母としては、SU013−1D株のロイシン非要求性株(SW087−2C株)を用いた。SW087−2C株の作成方法を以下に示す。プラスミドpRS425を鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号37,38)をプライマーセットとしたPCRにより、LEU2遺伝子のPCR断片約2kbを増幅させた。上記のPCR断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製後、SU013−1D株の形質転換操作を行い、LEU2遺伝子の変異を解除した。ロイシン非添加培地で培養することにより、ロイシン合成能が復帰した形質転換株を選択した。このようにして得られた形質転換株が、LEU2遺伝子の変異を解除された酵母であることの確認は下記のように行った。まず、得られた形質転換体と野生型のLEU2遺伝子を持つサッカロミセス・セレビセL0GY77株とを接合させ2倍体細胞を得た。該2倍体細胞を子嚢形成培地で子嚢形成させた。マイクロマニピュレーターで子嚢を解剖してそれぞれの一倍体細胞を取得し(テトラッド)、それぞれ一倍体細胞の栄養要求性を調べた。取得した一倍体細胞のすべてがロイシン合成能を持っていることを確認した。得られたSU013−1D(LEU2)株とNBRC10505株を接合し、マイクロマニピュレーターによる子嚢解剖によりSW087−2C株(遺伝子型:MATα ura3 LEU2 trp1 his3 ADE2 lys2)を得た。
【0111】
上記相同組換え用DNA構築物を用いてSW087−2C株を形質転換し、ウラシル非添加培地でセレクションすることでTDH3遺伝子座にLp.D−LDH1遺伝子が導入された形質転換酵母を得た。得られた形質転換酵母をSW087−2C(ΔTDH3::Lp.D−LDH−URA3)株とする。
【0112】
[SED1遺伝子座へのD−LDH遺伝子導入]
SED1遺伝子座への導入法は、国際出願PCT/JP2008/072129の実施例2に記載されている方法を改変して行った。すなわち、PCRの鋳型としてpTRS102の代わりにpTRS205を用い、また上記公報中の配列番号14の代わりに配列番号39に示すプライマーを用いてSED1遺伝子座導入用の相同組換え用DNA構築物を増幅した。
【0113】
上記相同組換え用DNA構築物を導入する酵母としては、実施例5で作製したNBRC10505(LYS2)株と参考例1で作製したNBRC10506(ADE2)株を接合させ、マイクロマニピュレーターによる子嚢解剖により分離したSW092−7D株(遺伝子型:MATa ura3 leu2 trp1 his3 ADE2 LYS2)株を用いた。
【0114】
上記相同組換え用DNA構築物を用いてSW092−7D株を形質転換し、ヒスチジン非添加培地でセレクションすることでSED1遺伝子座にLp.D−LDH1遺伝子が導入された形質転換酵母を得た。得られた形質転換酵母をSW092−7D(ΔSED1::Lp.D−LDH−HIS3)株とする。
【0115】
[温度感受性変異型PDC5遺伝子(pdc5ts−9)の導入]
温度感受性変異型PDC5遺伝子が導入された酵母として、特開2008−048726号公報に記載の、温度感受性変異型PDC5遺伝子(pdc5ts−9)を有する酵母SW015株を用いた。SW015株とSW087−2C株を接合させ、マイクロマニピュレーターによる子嚢解剖により分離することでSW095−4B株(遺伝子型:MATα ura3 LEU2 trp1 his3 ADE2 lys2 pdc5ts-9 Δpdc1::TRP1)を得た。さらに、SW095−4B株とSW092−2D株を接合させ、マイクロマニピュレーターによる子嚢解剖により分離することで、SW098−21B株(遺伝子型:MATα ura3 LEU2 trp1 his3 ADE2 LYS2 pdc5ts-9)を得た。
【0116】
[PDC1、TDH3およびSED1遺伝子座へのD−LDH遺伝子導入、ならびに温度感受性変異型PDC5遺伝子(pdc5ts−9)の導入]
作製したSW092−2D(ΔPDC1::Lp.D−LDH1−TRP1)株、SW087−2C(ΔTDH3::Lp.D−LDH1−URA3)株、SW092−7D(ΔTDH3::Lp.D−LDH1−HIS3)およびSW098−21Bを用いて、2倍体接合、テトラッドを繰り返しPDC1、TDH3およびSED1遺伝子座にLp.D−LDH1遺伝子を有し、温度感受性変異型PDC5(pdc5ts−9)を有し、かつ、2倍体でアデニン・ロイシン・リジンの栄養要求性を有さないSU042株を得た。SU042株の作製手順を図1に示す。
【0117】
(実施例9)D−乳酸生産性のテスト4
実施例8のようにして作製したSU042株を用いて、バッチ培養によるD−乳酸生産性のテストを行った。培地には表1に示すSC3培地または原料糖培地(100g/L “優糖精”(ムソー株式会社製)、1.5g/L 硫酸アンモニウム)を用いた。まず、SU042株を試験管で5mlのSC3培地または原料糖培地で一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮なSC3培地または原料糖培地50mlに植菌し500ml容坂口フラスコで24時間振とう培養した(前培養)。ミニジャーファメンター(Able社製、2L)に1LのSC3培地または原料糖培地を投入し、温度調整(32℃)、pH制御(pH5、5N 水酸化カルシウム)を行い、通気・攪拌(200mL/min,400rpm)させながら培養を行った。その結果SC3培地では培養は30時間で終了し、対糖収率は63%であった。また、原料糖培地では、培養は50時間で終了し、対糖収率は70%であった。この結果から、Lp.D−LDH1遺伝子のPDC1、TDH3、SED1遺伝子座への導入およびPDC5遺伝子への温度感受性変異の導入によりD−乳酸の発酵性能が向上することが確認できた。
【0118】
(実施例10)連続培養によるD−乳酸生産性テスト
SU042株を用いて、WO2007/097260に記載されている分離膜を用いた連続培養の検討を行った。培地には原料糖培地(75g/L “優糖精”(ムソー株式会社製)、1.5g/L 硫酸アンモニウム)を用いた。培養条件を下記に示す。
発酵槽容量:2(L)
培養液容量:1.5(L)
使用分離膜:PVDF濾過膜(WO2007/097260の参考例2に記載)
膜分離エレメント有効濾過面積:120cm
温度調整:32(℃)
発酵反応槽通気量:空気0.02(L/min)、窒素ガス0.18(L/min)
発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
pH調整:5N 水酸化カルシウムによりpH5に調整
滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20minのオートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
【0119】
まず、SU042株を試験管で10mlの原料糖培地で30℃、一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な原料糖培地100mlに全量植菌し、500ml容坂口フラスコで24時間、30℃で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、1.5Lの原料糖培地を投入した膜一体型の連続培養装置(WO2007/097260の図2に示す装置)に植菌し、培養開始50時間からペリスタポンプによる培養液抜き出しを開始し(200mL/h)、400時間まで培養を行い、生産物質である乳酸濃度および乳酸生産速度を測定した。結果を図2に示す。なお、連続培養中の乳酸生産速度は以下の式1を用いて算出した。
【0120】
乳酸生産速度(g/L・h)=抜き取り液中の生産物濃度(g/L)×発酵培養液抜き取り速度(L/hr)÷装置の運転液量(L)・・・(式1)。
【0121】
分離膜を用いた連続培養を行った結果、D−乳酸の対糖収率は85%程度までさらに向上し、また、D−乳酸生産速度は7.5g/L・hまで向上することが確認できた。
【0122】
(実施例11)キャンディダ・ユーティリスへのアメリカカブトガニD−LDHの導入
次に、クラブツリー陰性酵母であるキャンディダ・ユーティリスを用いたD−乳酸の検討を行った。
【0123】
(a)アメリカカブトガニD−LDH遺伝子導入用ベクターの作製
まず、キャンディダ・ユーティリス染色体中のPDC1遺伝子座にアメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を導入するためのベクター構築を行った。キャンディダ・ユーティリス NBRC0988株(以下、NBRC0988)をYPD培地(1% Bacto Yeast Extract,2% Bacto peptone、2% グルコース)に植菌し、30℃で一晩培養した。得られた菌体から定法に従い、ゲノムDNAを抽出して続くPCRの鋳型とした。まず、配列番号40,41のオリゴDNAをプライマーセットとしてPDC1遺伝子のターミネーター領域を含む断片を増幅した。なお、特に断りのない限り、DNAポリメラーゼにはKOD−plus−(東洋紡株式会社製)を用いて、付属のプロトコールに従って行った。得られた約1kbの断片を制限酵素BssHIで切断し、それを精製した後に、同じく制限酵素BssHIで予め切断しておいたpBluescriptIISK(+)にライゲーションした。得られたプラスミドをpKS01とする。
【0124】
次に、同じくNBRC0988のゲノムDNAを鋳型として配列番号42,43のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、PGKプロモーターを含む断片を増幅した。得られた約1kbの断片を精製して続く実験に用いた。次に、抗生物質の一種であるハイグロマイシンBに対する耐性を付与しうる遺伝子であるhph遺伝子を有するプラスミドpLC1−hphを鋳型として、配列番号44,45のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、hph遺伝子を含む断片を増幅・精製し、約1.1kbの断片を得た。また、NBRC0988のゲノムDNAを鋳型として配列番号46,47のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、GAPターミネーターを含む断片を増幅・精製し、約500bpの断片を得た。
【0125】
上記のようにして得られたPGKプロモーターを含む断片、hph遺伝子を含む断片およびGAPターミネーターを含む断片を混合して配列番号48,49のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによってPGKプロモーター、hph遺伝子およびGAPターミネーターが連結された断片を増幅した。得られた約2.6kbの断片の末端をリン酸化した後に、pUC118をHincIIで切断して脱リン酸化しておいたものにライゲーションした。得られたプラスミドをpKS02とする。
【0126】
次に、同じくNBRC0988のゲノムDNAを鋳型として配列番号50,51のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、PGKターミネーターを含む断片を増幅・精製し、約500bpの断片を得た。また、上記のようにして得られたpKS02を鋳型として、配列番号52,53のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、PGKプロモーター、hph遺伝子およびGAPターミネーターが連結された断片を増幅・精製し、約2.6kbの断片を得た。
【0127】
上記のようにして得られたPGKターミネーターを含む断片およびPGKプロモーター、hph遺伝子およびGAPターミネーターが連結された断片を混合し、配列番号50,53のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、PGKターミネーターPGKプロモーター、hph遺伝子およびGAPターミネーターが連結された断片を増幅した。得られた約3kbの断片を制限酵素BamHIおよびClaIで切断し、それを精製した後に、同じく制限酵素BamHIおよびClaIで予め切断しておいたpKS02にライゲーションした。得られたプラスミドpKS03とする。
【0128】
次に、同じくNBRC0988のゲノムDNAを鋳型として配列番号54,55のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、PDC1プロモーター領域を含む断片を増幅・精製し、約2.1kbの断片を得た。また、実施例2で作製したpTRS205を鋳型として、配列番号56,57のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を含む断片を増幅・精製し、約1kbの断片を得た。
【0129】
上記のようにして得られたPDC1プロモーター領域を含む断片およびアメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を含む断片と混合し、配列番号54,57のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、PDC1プロモーター領域を含む断片とアメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を含む断片が連結された断片を増幅して得られた約3.1kbの断片を制限酵素NotIおよびBglIIで切断し、それを精製した後に、制限酵素NotIおよびBamHIで予め切断しておいたpKS03にライゲーションした。得られたプラスミドをpKS04とする。
【0130】
(b)アメリカカブトガニD−LDH遺伝子のPDC1遺伝子座への導入
上記のようにして得られたpKS04を制限酵素BglIIで切断したものをエレクトロポレーション法によってNBRC0988に導入した。YPD培地に少量の菌体を植菌し、30℃で一晩培養した。遠心して上清を廃棄した後に、菌体を滅菌水および1M ソルビトールで洗浄し、最終的に1M ソルビトールに菌体を懸濁した。次に、菌体と制限酵素BglIIで切断したpKS04を混合し、氷上で5分置いた後に、エレクトロポレーション用のキュベットに移し、Capacitance(25μF)、電圧(0.75kV)と抵抗(800Ω)の条件でエレクトロポレーションを行った。その後、1M ソルビトール入りのYPD培地に移し、30℃で4時間程度培養し、600μg/LのハイグロマイシンBを添加したYPD培地に塗布した。得られたハイグロマイシンB耐性株からゲノムを抽出し、配列番号54,57および配列番号56,51のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、それぞれ約3kbおよび2kbの断片の増幅を確認することにより、PDC1遺伝子座にアメリカカブトガニ由来のD−LDH遺伝子が導入された形質転換酵母が得られたことを確認した。得られた形質転換酵母をCuLpLDH株とする。
【0131】
(比較例2)キャンディダ・ユーティリスへの乳酸菌由来D−LDHの導入
実施例11と同様の方法で乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデス由来のD−LDH遺伝子を導入した。なお、実施例11では配列番号55の代わりに配列番号58のオリゴDNAを用い、また実施例2のpTRS205の代わりに比較例1のpTRS207を鋳型とするとともに、配列番号56,57の代わりに配列番号59,60のオリゴDNAを用いた。得られたプラスミドをpKS05とする。
【0132】
上記のようにして得られたプラスミドを実施例11と同様の方法でNBRC0988株に導入した。得られたPDC1遺伝子座に乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデ由来のD−LDH遺伝子が導入されている株をCuLmLDH株とする。
【0133】
(実施例12、比較例3)キャンディダ・ユーティリスのD−乳酸生産性テスト
実施例11および比較例2で作製したCuLpLDH株、CuLmLDH株を用いて、D−乳酸生産性を評価した。500mlの坂口フラスコに50mlのYPD培地を加え、そこに少量のCuLpLDH株およびCuLmLDH株を植菌し、30℃で一晩振とう培養した(前培養)。培養液を集菌し、新鮮なYPD培地で洗浄した後、1LのYPD10培地(10% グルコース含有)を添加したミニジャーファメンターに投入し、培養を行った。培養条件を以下に示す。
初期植菌量:OD600=10になるように植菌
pH:pH6
通気:100mL/min
攪拌:120rpm
中和剤:1N 水酸化カルシウム
培養温度:35℃。
【0134】
培養は40時間行い、40時間時点の培養液の乳酸濃度、グルコース濃度を分析した。グルコースは消費されつくされていた。また、消費グルコース当たりの生産性(対糖収率)およびD−乳酸光学純度は表4に示す通り、キャンディダ・ユーティリスにD−LDH遺伝子を導入した酵母はD−乳酸を発酵生産可能なことがわかり、また収率はアメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を導入したCuLpLDH株の方が高かった。
【0135】
(実施例13、比較例4)キャンディダ・ユーティリスのD−乳酸生産性テスト2
次に、CuLpLDH株、CuLmLDH株を用いて、5単糖であるキシロースを糖源としたD−乳酸生産性の評価を行った。500mlの坂口フラスコに50mlのYPD培地を加え、そこに少量のCuLpLDH株およびCuLmLDH株を植菌し、30℃で一晩振とう培養した(前培養)。培養液を集菌し、新鮮なYPD培地で洗浄した後、1LのYPX10培地(1% 酵母エキス、2% バクトペプトン、4% キシロース)を添加したミニジャーファメンターに投入し、培養を行った。培養条件を以下に示す。
初期植菌量:OD600=10になるように植菌
pH:pH6
通気:100mL/min
攪拌:120rpm
中和剤:1N 水酸化カルシウム
培養温度:30℃。
【0136】
培養は60時間行い、60時間時点の培養液の乳酸濃度、キシロース濃度を分析した。キシロースは消費されつくされていた。また、消費キシロース当たりの生産性(対糖収率)およびD−乳酸光学純度は表4に示す通り、キャンディダ・ユーティリスにD−LDH遺伝子を導入した酵母は、キシロースを原料としてD−乳酸を発酵生産可能なことがわかり、また収率はアメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子導入したCuLpLDH株の方が高かった。
【0137】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明により、D−乳酸を低コストで安定に生産することが可能になり、また、得られるD−乳酸は光学純度が高く、ポリマー原料として好ましく使用される。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]