【実施例】
【0076】
以下、実施例をもって本発明の実施の態様を説明するが、これらは本発明の例示であり本発明を制限するものではない。
【0077】
(実施例1)アメリカカブトガニ由来のD−LDH活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子)の塩基配列決定
アメリカカブトガニのcDNAを作製するために、polyA(+)RNAの精製を行った。polyA(+)RNAはアメリカカブトガニの血球より単離した。アメリカカブトガニ(Marine Biological Laboratory (USA)より購入)の血球より、AGPC法(実験医学Vol.9(1991)、1937−1940頁を参照)を用いて、全RNAを分離した。分離した全RNAを用いて、“Oligotex-dT30 Superキット”(タカラバイオ社製)を用いてpolyA(+)RNAを単離した。次に、“SuperScript II Reverse Transcriptase”(インビトロジェン社製)を用いOligo d(T)をプライマーとしてcDNAを合成した。次に、この反応液を鋳型として用い、D−LDH遺伝子において高く保存されているDNA配列に注目してデザインした配列番号8および配列番号9記載のオリゴDNAをプライマーとしてPCRを行い、アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子の部分配列を増幅した。PCRは以下の条件で行った。95℃(3分間):{95℃(30秒間)−45℃(30秒間)−72℃(30秒間)}×35サイクル:72℃(5分間)。続いて1.0 %アガロースゲルを用いた電気泳動によって増幅DNA断片の確認をおこない、600bpの増幅断片を“QIA quick Gel extraction kit”(株式会社キアゲン製)を用いて精製した後、プラスミドベクター“pGEMt-easy”(プロメガ株式会社製)にクローニングし、DNA配列の決定を行った。塩基配列の決定は、“Taq DyeDeoxyTerminator Cycle Sequencing Kit”(アプライドバイオシステムズ社製)を用いてSangerの方法に従って行った。その結果、アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子に相当すると思われる2種類の配列(D−LDH1、D−LDH2)の部分配列が得られた。
【0078】
次に、5’RACEおよび3’RACE法を用いて、D−LDH1およびD−LDH2の全ORF配列を明らかにした。5’RACEは以下の方法で行った。まず、100μMに調整した配列番号10記載(D−LDH1用)あるいは配列番号11記載(D−LDH2用)のオリゴDNAを50μL、T4PolynucleotideKinase(タカラバイオ社製) 50unit、10×Kinase Buffer(500mM Tris−HCl pH7.6、100mMMgCl2、50 mM DTT、1mM Spermidine、1mM EDTA) 10μL、100mMATP 1μL、蒸留水34μLを混和し、37℃に1時間静置することで、オリゴDNAの5‘末端のリン酸化を行い、フェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール処理、エタノール沈殿により精製した。次に、アメリカカブトガニのpolyA(+)RNAを鋳型に、“SuperScript II Reverse Transcriptase”(インビトロジェン株式会社製)を用い上記リン酸化オリゴDNAをプライマーとしてcDNAの合成を行った。以下、ライゲーション反応による一本鎖cDNAのコンカテマー化を“5’-Full RACE Core Set”(タカラバイオ株式会社製)を用いて行い、生成したコンカテマー化cDNAを鋳型として配列番号12および配列番号13記載(D−LDH1用)、あるいは配列番号14および配列番号15記載(D−LDH2用)のオリゴDNAをプライマーとして1度目のPCR、さらに、その反応液を鋳型として配列番号16および配列番号17記載(D−LDH1用)、あるいは配列番号18および配列番号19記載(D−LDH2用)のオリゴDNAをプライマーとして2度目のPCRを行った。増幅断片の確認、精製および塩基配列の決定は前述の通り行った。
【0079】
3’RACEは以下の方法で行った。まず、アメリカカブトガニのpolyA(+)RNAを鋳型に、“SuperScript II Reverse Transcriptase”(インビトロジェン株式会社製)を用いOligo d(T)をプライマーとしてcDNAの合成を行った。次に、この反応液を鋳型としてOligo d(T)および配列番号13記載(D−LDH1用)、あるいは配列番号15記載(D−LDH2用)のオリゴDNAをプライマーとして1度目のPCRを行い、さらに、その反応液を鋳型としてOligo d(T)および配列番号17記載(D−LDH1用)、あるいは配列番号19記載(D−LDH2用)のオリゴDNAをプライマーとして2度目のPCRを行った。増幅断片の確認、精製および塩基配列の決定は前述の通り行った。
【0080】
アメリカカブトガニ由来D−LDH1遺伝子のアミノ酸配列(配列番号1)およびcDNAのORF配列(配列番号3)、あるいはD−LDH2のアミノ酸配列(配列番号2)およびcDNAのORF配列(配列番号4)は、上記の方法で得られた配列をつなぎ合わせて決定した。なお、BLASTによる配列番号1および配列番号2に記載のアミノ酸配列間の配列同一性は93%であり、配列番号3および配列番号4に記載の塩基配列間の配列同一性は82%であった。
【0081】
(実施例2)アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子発現プラスミドの構築
実施例1で決定したアメリカカブトガニ由来のD−LDH遺伝子と思われるD−LDH1遺伝子およびD−LDH2遺伝子(以下、それぞれLp.D−LDH1遺伝子、Lp.D−LDH2遺伝子という)のORF5’側とORF3’側に相当する配列番号20および配列番号21記載のオリゴDNAまたは配列番号22および配列番号23記載のオリゴDNAをプライマーセットとして、アメリカカブトガニのpolyA(+)RNAから合成したcDNAを鋳型にPCRを行ない、遺伝子のクローニングを行った。得られたDNA断片を制限酵素XhoIおよびNotIで切断し、同じく制限酵素XhoIおよびNotIで切断した酵母発現用ベクターpTRS11(TDH3プロモーターおよび選択マーカーURA3遺伝子を搭載、特開2006−280368号公報参照。なお、TDH3プロモーターおよびターミネーターがGAPDHプロモーターおよびターミネーターと表記してある。)の切断部位に導入し、TDH3プロモーターと、Lp.D−LDH1遺伝子またはLp.D−LDH2遺伝子が連結されたDNA構築物を含むプラスミドベクターを作製した。以後、これらのプラスミドベクターをpTRS205(Lp.D−LDH1を保持する)およびpTRS206(Lp.D−LDH2を保持する)とする。ここでpTRS11ベクターは、pNV11ベクター(Nature, vol. 357, 25 JUNE 1992, p.700参照)を制限酵素XhoIで切断し、インサートを除いた後にセルフライゲーションすることで作成した。
【0082】
(実施例3)アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子発現プラスミドの酵母への導入
実施例2のようにして得られたpTRS205およびpTRS206を酵母であるサッカロミセス・セレビセSW029−1B株(遺伝子型:MATa ura TRP(Δpdc1::TRP1) his ade lys leu)(以下、SW029−1B株という)に導入した。プラスミドの導入は、“YEASTMAKER Yeast Transformation System”(クロンテック社製)を用いた酢酸リチウム法により行った(詳細は、付属のプロトコール参照)。宿主とするSW029-1B株はウラシル合成能を欠損した株であり、pTRS205および206の持つ選択マーカーURA3遺伝子の働きにより、ウラシル非添加培地上でpTRS205および206の導入された形質転換酵母の選択が可能である。このようにして得られた形質転換体へのD−LDH遺伝子発現ベクター導入の確認は、ウラシル非添加の液体培地で培養した形質転換株から、ゲノムDNA抽出キット“Genとるくん”(タカラバイオ株式会社製)によりプラスミドDNAを含むゲノムDNAを抽出し、これを鋳型として用いたPCRにより行った。プライマーには、アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子をクローニングした際に用いたプライマーをそれぞれ使用した。その結果、全ての形質転換酵母において、各アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子がそれぞれ導入されていることを確認した。
【0083】
(実施例4)D−乳酸生産性テスト1
実施例3のようにして得られたpTRS205および206が導入されたサッカロミセス・セレビセSW029−1B株(以下、SW029−1B/pTRS205株、SW029−1B/pTRS206株という)を用いてD−乳酸生産性テストを行った。
【0084】
表1に示した組成のSC3培地からウラシルを除いた培地(SC3−Ura培地)10mLを試験管に取り、そこに少量の各株を植菌し、30℃で一晩培養した(前培養)。次に、SC3−Ura培地10mLを試験管にいれ、各前培養液をそれぞれ100μL植菌し、30℃で振とう培養した(本培養)。本培養開始後40時間の培養液を遠心分離し、上清に含まれる乳酸を下記に示す条件でHPLCにより測定した。
カラム:“Shim−Pack SPR−H”(株式会社島津製作所製)
移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mMビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)
検出方法:電気伝導度
温度:45℃。
【0085】
また、D−乳酸の光学純度は、以下の条件でHPLC法により測定したD−乳酸およびL−乳酸濃度の測定結果から、次式に基づいて計算した。
カラム:“TSK−gel Enantio LI”(登録商標:東ソー株式会社製)
移動相:1mM 硫酸銅水溶液
流速:1.0ml/min
検出方法:UV254nm
温度:30℃。
光学純度(%e.e.)=100×(D−L)/(D+L)
光学純度(%)=100×D/(D+L)
ここで、LはL−乳酸の濃度、DはD−乳酸の濃度を表す。
【0086】
【表1】
【0087】
その結果、D−乳酸の蓄積濃度はSW029−1B/pTRS205株で13g/L、SW029−1B/pTRS206株で12g/Lであった。また、培養液中にはD−乳酸のみ検出され、L−乳酸は検出限界以下であった。アメリカカブトガニよりクローニングしたD−LDH遺伝子を酵母に導入することで、該形質転換酵母はD−乳酸を産生することが確認できた。
【0088】
(実施例5)アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子の酵母染色体への導入
以下のステップ1〜3により、アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を含む相同組換え用DNA構築物を作製した。
【0089】
[ステップ1]
実施例2で得られたLp.D−LDH1遺伝子を保持するpTRS205およびLp.D−LDH2遺伝子を保持するpTRS206を鋳型として配列番号24および25記載のオリゴDNAまたは配列番号26および25記載のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRにより、各D−LDH遺伝子を含む約1.1kbのDNA断片を増幅した。ここで配列番号24,26記載のオリゴDNAはPDC1遺伝子の上流65bpに相同性のある配列が付加されるようにデザインした。
【0090】
[ステップ2]
次にプラスミドpRS424(GenBank Accession Number:U03453)を鋳型として配列番号27および28記載のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRにより、酵母選択マーカーであるTRP1遺伝子を含む約1.4kbのDNA断片を増幅した。ここで配列番号28に記載のオリゴDNAはPDC1遺伝子の下流65bpに相同性のある配列が付加されるようにデザインした。
【0091】
[ステップ3]
DNA断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離した後、“QIA quick Gel extraction kit”(キアゲン株式会社製)を用いて精製した。ここで得られたD−LDH遺伝子を含む1.1kb断片、TRP1遺伝子を含む1.4kb断片をそれぞれ混合したものを鋳型として配列番号24および28記載のオリゴDNAまたは配列番号26および28記載のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRにより各D−LDH遺伝子、TDH3ターミネーターおよびTRP1遺伝子が連結された約2.5kbの相同組換え用DNA構築物を増幅した。
【0092】
上記のようにして作製した相同組換え用DNA構築物をサッカロミセス・セレビセNBRC10505株(以下、NBRC10505株という)のリジン栄養要求性を復帰させた株であるサッカロミセス・セレビセSW092−2D株(以下、SW092−2D株という)に形質転換した。
【0093】
なお、SW092−2D株の作製法は次の通りである。フナコシ株式会社製のサッカロミセス・セレビセBY4741株のゲノムDNAを鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号29,30)をプライマーセットとしたPCRにより、LYS2遺伝子の前半約2kbのPCR断片を増幅させた。上記のPCR断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製後、NBRC10505株に形質転換操作を行い、LYS2遺伝子のアンバー変異を解除した。リジン非添加培地で培養することにより、リジン合成能が復帰した形質転換株(NBRC10505(LYS2)株)を選択した。形質転換株が、LYS2遺伝子のアンバー変異を解除された酵母であることの確認は下記のように行った。まず、得られた形質転換体と野生型のLYS2遺伝子を持つサッカロミセス・セレビセL0GY7株とを接合させ2倍体細胞を得て、該2倍体細胞を子嚢形成培地で子嚢形成させた。マイクロマニピュレーターで子嚢を解剖してそれぞれの一倍体細胞を取得し(テトラッド)、それぞれ一倍体細胞の栄養要求性を調べた。取得した一倍体細胞のすべてがリジン合成能を持っていることを確認した。得られたNBRC10505(LYS2)株とNBRC10506株を接合し、マイクロマニピュレーターによる子嚢解剖によりSW092−2D(遺伝子型:MATa ura3 leu2 trp1 his3 ade2 LYS2)株を得た。
【0094】
上記相同組換え用DNA構築物を用いてSW092−2D株を形質転換し、トリプトファン非添加の培地で培養することで形質転換酵母を選抜した。このようにして得られた形質転換酵母をSW092−2D(Δpdc1::Lp.D−LDH1−TRP1)株およびSW092−2D(Δpdc1::Lp.D−DLH2−TRP1)株とする。
【0095】
(実施例6)D−乳酸生産性テスト2
実施例5で作製したSW092−2D(Δpdc1::Lp.D−LDH1−TRP1)株、SW092−2D(Δpdc1::Lp.D−LDH2−TRP1)株を用いてミニジャーファメンター(丸菱バイオエンジ株式会社製、5L)を用いて発酵評価を行った。
【0096】
表1に示すSC3培地10mLを試験管に取り、そこに少量の各株を植菌し、30℃で一晩培養した(前々培養)。次に、45mLのSC3培地を投入した三角フラスコに前々培養液を5mL加え、30℃でさらに8時間培養した(前培養)。1LのSC3培地を投入したミニジャーファメンターに前培養液を全量植菌して、30時間培養を行った。培養条件を以下に示す。
pH:pH5
通気:100mL/min
攪拌:120rpm
中和剤:1N 水酸化ナトリウム。
【0097】
培養終了時の培養液量および培養液中のD−乳酸濃度及びグルコース濃度を“グルコーステストワコーC”(登録商標)(和光純薬株式会社製)で測定し、該乳酸、及びグルコース濃度から算出された投入グルコースから算出された乳酸対糖収率を求めた。その結果、SW092−2D(Δpdc1::Lp.D−LDH1−TRP1)は対糖収率45%、SW092−2D(Δpdc1::Lp.D−LDH2−TRP1)は対糖収率42%でD−乳酸を生産していることが確認できた。
【0098】
(比較例1)乳酸菌由来D−LDH遺伝子のクローニング、発酵評価
形質転換酵母においてD−乳酸を効率よく発酵生産しうるD−LDH遺伝子としては、ロイコノストック・メセントロイデス(Leuconostoc mesenteroides)ATCC9135株由来のD−LDH遺伝子が公知であり(WO2004/104202参照)、該D−LDH遺伝子(以下、Lm.D−LDH遺伝子という)をクローニングして酵母に導入・発酵することでアメリカカブトガニ由来のLp.D−LDH1遺伝子またはLp.D−LDH2遺伝子とのD−LDH活性の比較検討を行った。
【0099】
Lm.D−LDH遺伝子のクローニングは、WO2004/104202に記載の塩基配列を参考に設計したプライマーセット(配列番号31、32)を用いてATCC9135株をテンプレートとしたコロニーPCR(東洋紡株式会社製“KOD-Plus-polymerase”を使用)により行った。PCR増幅断片を精製し末端を“T4 Polynucleotide Kinase”(タカラバイオ株式会社製)によりリン酸化後、pUC118ベクター(制限酵素HincIIで切断し、切断面を脱リン酸化処理したもの)にライゲーションした。ライゲーションは、“DNA Ligation Kit Ver.2”(タカラバイオ株式会社製)を用いて行った。ライゲーションプラスミド産物で大腸菌DH5αを形質転換し、プラスミドDNAを回収することによりLm.D−LDH遺伝子がサブクローニングされたプラスミドを得た。得られたLm.D−LDH遺伝子が挿入されたpUC118プラスミドを制限酵素XhoIおよびNotIで消化し、得られた各DNA断片を酵母発現用ベクターpTRS11のXhoI/NotI切断部位に挿入した。このようにしてLm.D−LDH遺伝子発現プラスミドpTRS207を得た。
【0100】
次に、pTRS207を鋳型として、配列番号24または26に示すプライマーの代わりに配列番号33に示すプライマーセットを用いた点を除いて実施例5と同様の方法でLm.D−LDH遺伝子をサッカロミセス・セレビセSW092−2D株の染色体中のPDC1遺伝子座に導入した。作製した形質転換酵母をSW092−2D(Δpdc1::Lm.D−LDH−TRP1)とする。次に、実施例6と同様な方法で、バッチ培養によるD−乳酸生産性の評価を行った。その結果、SW092−2D(Δpdc1::Lm.D−LDH−TRP1)の対糖収率は38%であった。実施例6の結果と合わせて表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
(参考例1)アフリカツメガエル由来L−LDH遺伝子導入酵母の作製
特開2008−029329号公報に記載されている方法により、アフリカツメガエル由来のL−LDH遺伝子(X.L−LDH遺伝子)をPDC1遺伝子座に導入した酵母を作製した。なお、染色体に導入する酵母としてNBRC10506株のアデニン栄養要求性を復帰させた株(SU013−1D株)を用いた。SU013−1D株の作成方法を以下に示す。プラスミドpRS422を鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号34,35)をプライマーセットとしたPCRにより、ADE2遺伝子のPCR断片約2kbを増幅させた。上記のPCR断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製後、形質転換操作を行い、ADE2遺伝子の変異を解除した。アデニン非添加培地で培養することにより、アデニン合成能が復帰した形質転換株を選択した。
【0103】
上記のようにして得られた形質転換株が、AED2遺伝子の変異を解除された酵母であることの確認は下記のように行った。まず、得られた形質転換体と野生型のADE2遺伝子を持つサッカロミセス・セレビセL0GY77株とを接合させ2倍体細胞を得た。該2倍体細胞を子嚢形成培地で子嚢形成させた。マイクロマニピュレーターで子嚢を解剖してそれぞれの一倍体細胞を取得し(テトラッド)、それぞれ一倍体細胞の栄養要求性を調べた。取得した一倍体細胞のすべてがアデニン合成能を持っていることを確認した。得られたNBRC10506(ADE2)株とNBRC10505株を接合し、マイクロマニピュレーターでの子嚢解剖によりSU013−1D株(遺伝子型:MATα ura3 leu2 trp1 his3 ADE2 lys2)を得た。得られた形質転換酵母をSU013−1D(Δpdc1::X.L−LDH−TRP1)株とする。
【0104】
(実施例7、比較例2)D−乳酸生産性テスト3
参考例1のようにして作製したSU013−1D(Δpdc1::X.L−LDH−TRP1)株と、実施例5および比較例1で作製したSW092−2D(Δpdc1::Lp.D−LDH1−TRP1)株、SW092−2D(Δpdc1::Lp.D−LDH2−TRP1)株およびSW092−2D(Δpdc1::Lm.D−LDH−TRP1)株をそれぞれ接合させ、PDC1遺伝子座にL−LDH遺伝子とD−LDH遺伝子をヘテロに有する2倍体酵母を作製した。作製した2倍体酵母をそれぞれLp1−X株、Lp2−X株、Lm−X株とする。
【0105】
次に、Lp1−X株、Lp2−X株、Lm−X株を実施例5と同様な条件でバッチ培養を行い、生産した乳酸の光学純度を評価した(表3)。
【0106】
【表3】
【0107】
その結果、アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を有する酵母は、光学純度50%以上でD−乳酸を産生したのに対し、ロイコノストック・メセンテロイデス由来のD−LDH遺伝子を有する酵母が産生したD−乳酸の光学純度は44.4%であった。各酵母が生産するD−乳酸の対糖収率およびD−乳酸の光学純度は、D−LDH遺伝子形質転換酵母内でのD−LDH活性に比例すると考えられることから、表2および表3の結果からロイコノストック・メセンテロイデス由来のD−LDH遺伝子よりもアメリカカブトガニ由来のD−LDH遺伝子の方が、酵母に導入した場合に高活性のポリペプチドをコードすることが確認できた。
【0108】
(実施例8)酵母染色体中へのD−LDH遺伝子の多コピー導入および温度感受性変異型PDC5酵母の作製
次に、更なるD−乳酸収率向上を目的としてPDC1遺伝子座以外の遺伝子座にもアメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を導入した酵母の作製を検討し、特開2008−029329号公報に導入効果が記載されているTDH3遺伝子および国際出願PCT/JP2008/072129に導入効果が記載されているSED1遺伝子座に導入した。また、特開2008−048726号公報に記載されている温度感受性変異型PDC5遺伝子も導入した。
【0109】
[TDH3遺伝子座へのD−LDH遺伝子導入]
TDH3遺伝子座への導入のために、特開2008−029329号公報に記載されているpTRS150の作製方法と同様に、Lp.D−LDH1遺伝子を保持するpTRS205のTDH3ターミネーターをADH1ターミネーターに置換したプラスミドpTRS208を作製した。次に、特開2008−029329号公報中の配列番号8の代わりに配列番号36に示すプライマー用い、pTRS208を鋳型としてTDH3遺伝子座導入用の相同組換え用DNA構築物を得た。
【0110】
上記相同組換え用DNA構築物を導入する酵母としては、SU013−1D株のロイシン非要求性株(SW087−2C株)を用いた。SW087−2C株の作成方法を以下に示す。プラスミドpRS425を鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号37,38)をプライマーセットとしたPCRにより、LEU2遺伝子のPCR断片約2kbを増幅させた。上記のPCR断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製後、SU013−1D株の形質転換操作を行い、LEU2遺伝子の変異を解除した。ロイシン非添加培地で培養することにより、ロイシン合成能が復帰した形質転換株を選択した。このようにして得られた形質転換株が、LEU2遺伝子の変異を解除された酵母であることの確認は下記のように行った。まず、得られた形質転換体と野生型のLEU2遺伝子を持つサッカロミセス・セレビセL0GY77株とを接合させ2倍体細胞を得た。該2倍体細胞を子嚢形成培地で子嚢形成させた。マイクロマニピュレーターで子嚢を解剖してそれぞれの一倍体細胞を取得し(テトラッド)、それぞれ一倍体細胞の栄養要求性を調べた。取得した一倍体細胞のすべてがロイシン合成能を持っていることを確認した。得られたSU013−1D(LEU2)株とNBRC10505株を接合し、マイクロマニピュレーターによる子嚢解剖によりSW087−2C株(遺伝子型:MATα ura3 LEU2 trp1 his3 ADE2 lys2)を得た。
【0111】
上記相同組換え用DNA構築物を用いてSW087−2C株を形質転換し、ウラシル非添加培地でセレクションすることでTDH3遺伝子座にLp.D−LDH1遺伝子が導入された形質転換酵母を得た。得られた形質転換酵母をSW087−2C(ΔTDH3::Lp.D−LDH−URA3)株とする。
【0112】
[SED1遺伝子座へのD−LDH遺伝子導入]
SED1遺伝子座への導入法は、国際出願PCT/JP2008/072129の実施例2に記載されている方法を改変して行った。すなわち、PCRの鋳型としてpTRS102の代わりにpTRS205を用い、また上記公報中の配列番号14の代わりに配列番号39に示すプライマーを用いてSED1遺伝子座導入用の相同組換え用DNA構築物を増幅した。
【0113】
上記相同組換え用DNA構築物を導入する酵母としては、実施例5で作製したNBRC10505(LYS2)株と参考例1で作製したNBRC10506(ADE2)株を接合させ、マイクロマニピュレーターによる子嚢解剖により分離したSW092−7D株(遺伝子型:MATa ura3 leu2 trp1 his3 ADE2 LYS2)株を用いた。
【0114】
上記相同組換え用DNA構築物を用いてSW092−7D株を形質転換し、ヒスチジン非添加培地でセレクションすることでSED1遺伝子座にLp.D−LDH1遺伝子が導入された形質転換酵母を得た。得られた形質転換酵母をSW092−7D(ΔSED1::Lp.D−LDH−HIS3)株とする。
【0115】
[温度感受性変異型PDC5遺伝子(pdc5ts−9)の導入]
温度感受性変異型PDC5遺伝子が導入された酵母として、特開2008−048726号公報に記載の、温度感受性変異型PDC5遺伝子(pdc5ts−9)を有する酵母SW015株を用いた。SW015株とSW087−2C株を接合させ、マイクロマニピュレーターによる子嚢解剖により分離することでSW095−4B株(遺伝子型:MATα ura3 LEU2 trp1 his3 ADE2 lys2 pdc5ts-9 Δpdc1::TRP1)を得た。さらに、SW095−4B株とSW092−2D株を接合させ、マイクロマニピュレーターによる子嚢解剖により分離することで、SW098−21B株(遺伝子型:MATα ura3 LEU2 trp1 his3 ADE2 LYS2 pdc5ts-9)を得た。
【0116】
[PDC1、TDH3およびSED1遺伝子座へのD−LDH遺伝子導入、ならびに温度感受性変異型PDC5遺伝子(pdc5ts−9)の導入]
作製したSW092−2D(ΔPDC1::Lp.D−LDH1−TRP1)株、SW087−2C(ΔTDH3::Lp.D−LDH1−URA3)株、SW092−7D(ΔTDH3::Lp.D−LDH1−HIS3)およびSW098−21Bを用いて、2倍体接合、テトラッドを繰り返しPDC1、TDH3およびSED1遺伝子座にLp.D−LDH1遺伝子を有し、温度感受性変異型PDC5(pdc5ts−9)を有し、かつ、2倍体でアデニン・ロイシン・リジンの栄養要求性を有さないSU042株を得た。SU042株の作製手順を
図1に示す。
【0117】
(実施例9)D−乳酸生産性のテスト4
実施例8のようにして作製したSU042株を用いて、バッチ培養によるD−乳酸生産性のテストを行った。培地には表1に示すSC3培地または原料糖培地(100g/L “優糖精”(ムソー株式会社製)、1.5g/L 硫酸アンモニウム)を用いた。まず、SU042株を試験管で5mlのSC3培地または原料糖培地で一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮なSC3培地または原料糖培地50mlに植菌し500ml容坂口フラスコで24時間振とう培養した(前培養)。ミニジャーファメンター(Able社製、2L)に1LのSC3培地または原料糖培地を投入し、温度調整(32℃)、pH制御(pH5、5N 水酸化カルシウム)を行い、通気・攪拌(200mL/min,400rpm)させながら培養を行った。その結果SC3培地では培養は30時間で終了し、対糖収率は63%であった。また、原料糖培地では、培養は50時間で終了し、対糖収率は70%であった。この結果から、Lp.D−LDH1遺伝子のPDC1、TDH3、SED1遺伝子座への導入およびPDC5遺伝子への温度感受性変異の導入によりD−乳酸の発酵性能が向上することが確認できた。
【0118】
(実施例10)連続培養によるD−乳酸生産性テスト
SU042株を用いて、WO2007/097260に記載されている分離膜を用いた連続培養の検討を行った。培地には原料糖培地(75g/L “優糖精”(ムソー株式会社製)、1.5g/L 硫酸アンモニウム)を用いた。培養条件を下記に示す。
発酵槽容量:2(L)
培養液容量:1.5(L)
使用分離膜:PVDF濾過膜(WO2007/097260の参考例2に記載)
膜分離エレメント有効濾過面積:120cm
2
温度調整:32(℃)
発酵反応槽通気量:空気0.02(L/min)、窒素ガス0.18(L/min)
発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
pH調整:5N 水酸化カルシウムによりpH5に調整
滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20minのオートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
【0119】
まず、SU042株を試験管で10mlの原料糖培地で30℃、一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な原料糖培地100mlに全量植菌し、500ml容坂口フラスコで24時間、30℃で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、1.5Lの原料糖培地を投入した膜一体型の連続培養装置(WO2007/097260の
図2に示す装置)に植菌し、培養開始50時間からペリスタポンプによる培養液抜き出しを開始し(200mL/h)、400時間まで培養を行い、生産物質である乳酸濃度および乳酸生産速度を測定した。結果を
図2に示す。なお、連続培養中の乳酸生産速度は以下の式1を用いて算出した。
【0120】
乳酸生産速度(g/L・h)=抜き取り液中の生産物濃度(g/L)×発酵培養液抜き取り速度(L/hr)÷装置の運転液量(L)・・・(式1)。
【0121】
分離膜を用いた連続培養を行った結果、D−乳酸の対糖収率は85%程度までさらに向上し、また、D−乳酸生産速度は7.5g/L・hまで向上することが確認できた。
【0122】
(実施例11)キャンディダ・ユーティリスへのアメリカカブトガニD−LDHの導入
次に、クラブツリー陰性酵母であるキャンディダ・ユーティリスを用いたD−乳酸の検討を行った。
【0123】
(a)アメリカカブトガニD−LDH遺伝子導入用ベクターの作製
まず、キャンディダ・ユーティリス染色体中のPDC1遺伝子座にアメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を導入するためのベクター構築を行った。キャンディダ・ユーティリス NBRC0988株(以下、NBRC0988)をYPD培地(1% Bacto Yeast Extract,2% Bacto peptone、2% グルコース)に植菌し、30℃で一晩培養した。得られた菌体から定法に従い、ゲノムDNAを抽出して続くPCRの鋳型とした。まず、配列番号40,41のオリゴDNAをプライマーセットとしてPDC1遺伝子のターミネーター領域を含む断片を増幅した。なお、特に断りのない限り、DNAポリメラーゼにはKOD−plus−(東洋紡株式会社製)を用いて、付属のプロトコールに従って行った。得られた約1kbの断片を制限酵素BssHIで切断し、それを精製した後に、同じく制限酵素BssHIで予め切断しておいたpBluescriptIISK(+)にライゲーションした。得られたプラスミドをpKS01とする。
【0124】
次に、同じくNBRC0988のゲノムDNAを鋳型として配列番号42,43のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、PGKプロモーターを含む断片を増幅した。得られた約1kbの断片を精製して続く実験に用いた。次に、抗生物質の一種であるハイグロマイシンBに対する耐性を付与しうる遺伝子であるhph遺伝子を有するプラスミドpLC1−hphを鋳型として、配列番号44,45のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、hph遺伝子を含む断片を増幅・精製し、約1.1kbの断片を得た。また、NBRC0988のゲノムDNAを鋳型として配列番号46,47のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、GAPターミネーターを含む断片を増幅・精製し、約500bpの断片を得た。
【0125】
上記のようにして得られたPGKプロモーターを含む断片、hph遺伝子を含む断片およびGAPターミネーターを含む断片を混合して配列番号48,49のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによってPGKプロモーター、hph遺伝子およびGAPターミネーターが連結された断片を増幅した。得られた約2.6kbの断片の末端をリン酸化した後に、pUC118をHincIIで切断して脱リン酸化しておいたものにライゲーションした。得られたプラスミドをpKS02とする。
【0126】
次に、同じくNBRC0988のゲノムDNAを鋳型として配列番号50,51のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、PGKターミネーターを含む断片を増幅・精製し、約500bpの断片を得た。また、上記のようにして得られたpKS02を鋳型として、配列番号52,53のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、PGKプロモーター、hph遺伝子およびGAPターミネーターが連結された断片を増幅・精製し、約2.6kbの断片を得た。
【0127】
上記のようにして得られたPGKターミネーターを含む断片およびPGKプロモーター、hph遺伝子およびGAPターミネーターが連結された断片を混合し、配列番号50,53のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、PGKターミネーターPGKプロモーター、hph遺伝子およびGAPターミネーターが連結された断片を増幅した。得られた約3kbの断片を制限酵素BamHIおよびClaIで切断し、それを精製した後に、同じく制限酵素BamHIおよびClaIで予め切断しておいたpKS02にライゲーションした。得られたプラスミドpKS03とする。
【0128】
次に、同じくNBRC0988のゲノムDNAを鋳型として配列番号54,55のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、PDC1プロモーター領域を含む断片を増幅・精製し、約2.1kbの断片を得た。また、実施例2で作製したpTRS205を鋳型として、配列番号56,57のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、アメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を含む断片を増幅・精製し、約1kbの断片を得た。
【0129】
上記のようにして得られたPDC1プロモーター領域を含む断片およびアメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を含む断片と混合し、配列番号54,57のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、PDC1プロモーター領域を含む断片とアメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を含む断片が連結された断片を増幅して得られた約3.1kbの断片を制限酵素NotIおよびBglIIで切断し、それを精製した後に、制限酵素NotIおよびBamHIで予め切断しておいたpKS03にライゲーションした。得られたプラスミドをpKS04とする。
【0130】
(b)アメリカカブトガニD−LDH遺伝子のPDC1遺伝子座への導入
上記のようにして得られたpKS04を制限酵素BglIIで切断したものをエレクトロポレーション法によってNBRC0988に導入した。YPD培地に少量の菌体を植菌し、30℃で一晩培養した。遠心して上清を廃棄した後に、菌体を滅菌水および1M ソルビトールで洗浄し、最終的に1M ソルビトールに菌体を懸濁した。次に、菌体と制限酵素BglIIで切断したpKS04を混合し、氷上で5分置いた後に、エレクトロポレーション用のキュベットに移し、Capacitance(25μF)、電圧(0.75kV)と抵抗(800Ω)の条件でエレクトロポレーションを行った。その後、1M ソルビトール入りのYPD培地に移し、30℃で4時間程度培養し、600μg/LのハイグロマイシンBを添加したYPD培地に塗布した。得られたハイグロマイシンB耐性株からゲノムを抽出し、配列番号54,57および配列番号56,51のオリゴDNAをプライマーセットとしたPCRによって、それぞれ約3kbおよび2kbの断片の増幅を確認することにより、PDC1遺伝子座にアメリカカブトガニ由来のD−LDH遺伝子が導入された形質転換酵母が得られたことを確認した。得られた形質転換酵母をCuLpLDH株とする。
【0131】
(比較例2)キャンディダ・ユーティリスへの乳酸菌由来D−LDHの導入
実施例11と同様の方法で乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデス由来のD−LDH遺伝子を導入した。なお、実施例11では配列番号55の代わりに配列番号58のオリゴDNAを用い、また実施例2のpTRS205の代わりに比較例1のpTRS207を鋳型とするとともに、配列番号56,57の代わりに配列番号59,60のオリゴDNAを用いた。得られたプラスミドをpKS05とする。
【0132】
上記のようにして得られたプラスミドを実施例11と同様の方法でNBRC0988株に導入した。得られたPDC1遺伝子座に乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデ由来のD−LDH遺伝子が導入されている株をCuLmLDH株とする。
【0133】
(実施例12、比較例3)キャンディダ・ユーティリスのD−乳酸生産性テスト
実施例11および比較例2で作製したCuLpLDH株、CuLmLDH株を用いて、D−乳酸生産性を評価した。500mlの坂口フラスコに50mlのYPD培地を加え、そこに少量のCuLpLDH株およびCuLmLDH株を植菌し、30℃で一晩振とう培養した(前培養)。培養液を集菌し、新鮮なYPD培地で洗浄した後、1LのYPD10培地(10% グルコース含有)を添加したミニジャーファメンターに投入し、培養を行った。培養条件を以下に示す。
初期植菌量:OD
600=10になるように植菌
pH:pH6
通気:100mL/min
攪拌:120rpm
中和剤:1N 水酸化カルシウム
培養温度:35℃。
【0134】
培養は40時間行い、40時間時点の培養液の乳酸濃度、グルコース濃度を分析した。グルコースは消費されつくされていた。また、消費グルコース当たりの生産性(対糖収率)およびD−乳酸光学純度は表4に示す通り、キャンディダ・ユーティリスにD−LDH遺伝子を導入した酵母はD−乳酸を発酵生産可能なことがわかり、また収率はアメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子を導入したCuLpLDH株の方が高かった。
【0135】
(実施例13、比較例4)キャンディダ・ユーティリスのD−乳酸生産性テスト2
次に、CuLpLDH株、CuLmLDH株を用いて、5単糖であるキシロースを糖源としたD−乳酸生産性の評価を行った。500mlの坂口フラスコに50mlのYPD培地を加え、そこに少量のCuLpLDH株およびCuLmLDH株を植菌し、30℃で一晩振とう培養した(前培養)。培養液を集菌し、新鮮なYPD培地で洗浄した後、1LのYPX10培地(1% 酵母エキス、2% バクトペプトン、4% キシロース)を添加したミニジャーファメンターに投入し、培養を行った。培養条件を以下に示す。
初期植菌量:OD
600=10になるように植菌
pH:pH6
通気:100mL/min
攪拌:120rpm
中和剤:1N 水酸化カルシウム
培養温度:30℃。
【0136】
培養は60時間行い、60時間時点の培養液の乳酸濃度、キシロース濃度を分析した。キシロースは消費されつくされていた。また、消費キシロース当たりの生産性(対糖収率)およびD−乳酸光学純度は表4に示す通り、キャンディダ・ユーティリスにD−LDH遺伝子を導入した酵母は、キシロースを原料としてD−乳酸を発酵生産可能なことがわかり、また収率はアメリカカブトガニ由来D−LDH遺伝子導入したCuLpLDH株の方が高かった。
【0137】
【表4】