(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の実施の形態に係る交通信号制御システムの全体構成を示す図である。この交通信号制御システム100は、交通信号機101と、中央装置102と、車両103を感知する車両感知器104と、車両103に搭載された車載装置と無線通信する無線通信装置105とを備える。交通信号制御システム100は、車両感知器104や無線通信装置105から交通情報を収集し、交通信号機101を制御したり交通情報を提供したりすることができる。交通信号機101は、信号制御情報を設定することで制御される。信号制御情報は、典型的にはサイクル長、スプリット、およびオフセットである。
【0017】
サイクル長は、信号現示が一巡するのに要する時間であり、スプリットは、一サイクル長に対する各現示が占める時間の割合である。ここで、現示とは、交差点において、ある一組の交通流に対して同時に割り当てられている通行権のことである。オフセットは、対象交差点と隣接交差点とのサイクル開始タイミングの時間差である相対オフセットや、対象交差点と基準交差点とのサイクル開始タイミングの時間差である絶対オフセットとして表現される。このような信号制御情報を設定するために、交通信号制御システム100は、MODERATO(Management by Origin−DEstination Adaptation for Traffic Optimization)制御や、プロファイル制御をすることができる。
【0018】
MODERATO制御やプロファイル制御は、中央装置102が行うことができる。MODERATO制御では、中央装置102のネットワークに属する(管轄する)すべての交通信号機101がマクロ制御される。近飽和の交通状態に対応するために、負荷率という交通指標を用いて各交通信号機101に対する信号制御情報を決定する。近飽和状態では、だんだんと交通量が増えてきて、交通密度が高くなり、任意速度での走行や追越しが困難になる。たとえばスプリット制御の場合、各交差点について、現示ごとの各流入路の負荷率の最大値を求め、現示負荷率の比で正規化されたスプリットを配分する負荷率比配分方式が採用される。負荷率ρは、次式(1)のように定義される。
ρ=(Q(T)+E(T−1))/s …(1)
ここで、Q(T)は収集周期Tにおける車両の流入流量(台/時)、E(T−1)は収集周期Tの前のサイクルで生じた待ち行列台数(台/時)、sは飽和交通流率(台/時)である。(以下では周期Tは省略して記述する)
【0019】
プロファイル制御では、中央装置102のネットワークに属する一部の交通信号機101がミクロ制御され、その交通信号機101に対する青信号時間が微調整される。プロファイル制御では、交通状況の変化が予測され、対象交差点での信号待ちによる遅れ時間が最小となるように青信号の打ち切りタイミングが決定される。ある交差点における、停止線の到着プロファイルの情報と信号制御情報とに基づいてシミュレーション演算を行い、現時点から1サイクル以上未来までの待ち行列台数Eの変動状況を計算する。このような制御を行う中央装置102は、交通管制センター内や道路上に設置することができる。各交通信号機101がそれぞれ分散処理をして動作することもできる。その場合、交通信号機101は自己の収集した情報から交通状況の変化を予測し、その予測結果を隣接する交通信号機101に渡すことで、分散処理を実現する。
【0020】
本実施の形態において、本発明の交通指標算出装置は、交通信号制御システム100における中央装置102として利用される。MODERATO制御やプロファイル制御には、交差点の交通指標として待ち行列台数が用いられる。中央装置102は、車両感知器104から得た感知器情報、および無線通信装置105から得た車両103の車両情報(プローブデータ)の両方を用いて待ち行列台数を特定し、その待ち行列台数に基づいて、対象の交通信号機101を制御する。
【0021】
図2は交通信号制御システムの交差点周辺の構成例をより詳細に示す図である。この例は交通量の多い主道路RM1,RM2と交通量の少ない従道路RS1,RS2とが交差した交差点周辺の例である。この交差点における交通信号機は、主道路RM1,RM2および従道路RS1,RS2のそれぞれに設置された信号灯器201と、これら信号灯器201と点灯・滅灯の制御が可能に接続された交通信号制御機202とを有する。交通信号制御機202は、中央装置102から信号制御指令を受信し、その信号制御指令から定めた信号制御情報に基づいて、各信号灯器201に、青・黄・赤および右折矢等の各信号灯の点灯・消灯および点滅を行わせる。
【0022】
交通信号制御機202には、車両感知器104および無線通信装置105が通信可能に接続される。交通信号制御機202は、車両感知器104から感知器情報を受信する。車両感知器104は、交差点に流入する車両103を感知し、検出結果(感知器情報)を交通信号制御機202に送信する。車両感知器104は、道路上の車両103を感知することによって、車両の通過台数、時間占有率、平均通過速度などの交通情報を計測することができる。車両感知器104は、典型的には超音波式感知器である。しかしながら、ループコイル式感知器や遠赤外線式感知器など他の種類の感知器であってもよい。車両感知器104は、たとえば停止線から150m上流に設置される。車両感知器104は、停止線より上流側に複数設置することができる。一般的には、交通量計測用の感知器が停止線から150m上流に設置され、渋滞計測用の感知器が停止線から300m、500m、以降250m間隔で設置される。
【0023】
また交通信号制御機202は、無線通信装置105を用いて、交差点を通過する車両103の車載装置203と通信する。複数の車両に共通する情報については無線通信装置105により同報通信を行う。無線通信装置105は、車載装置203から送信された車両情報を受信するとともに、渋滞情報などの交通情報や、死角の車両の存在などの安全情報、信号時間情報、地図情報、周辺の店舗の情報などを車載装置203に送信する。無線通信装置105には、UHF帯もしくはVHF帯などを利用した無線LANのような中域通信装置を利用することができる。しかしながら、これに代えて、光ビーコンや、電波ビーコン、RFIDまたはDSRC等の狭域通信機能を有する路上通信装置を利用してもよい。また、携帯電話、PHS,多重FM放送などの広域通信により交通情報を提供することもできる。双方向の広域通信では特に交差点付近に無線通信装置がなくとも、携帯電話網や固定網、インターネットなどを介して車両情報を取得することができる。
【0024】
図3は交通信号制御機の構成例を説明するための図である。交通信号制御機202は、有線通信部301、記憶部302、灯器駆動部303、および演算部304を備える。演算部304には、一または複数のマイクロコンピュータを利用することができる。演算部304は、有線通信部301、記憶部302、灯器駆動部303、および無線通信装置105と内部バスや各種インターフェイスを介して接続され、これらに対して入出力を行うことで交通信号制御機202の機能を実現する。
【0025】
有線通信部301は、本実施の形態において、中央装置102および車両感知器104と通信するために用いられる。中央装置102から信号制御指令および交通情報を受信し、車両感知器104から感知器情報を受信する。また、車両感知器104から受信した感知器情報、および無線通信装置105から受信した車両情報を中央装置102に送信する。中央装置102との通信では、中継装置(図示せず)を経由してもよい。中継装置は、車両感知器104からの感知器情報を交通信号機101を介して間接的に、または直接的に受信したり、無線通信装置105から車両情報を受信したりし、それら感知器情報や車両情報を中央装置102に送信する。
【0026】
記憶部302には、ハードディスクや半導体メモリ等の各種記録媒体を利用することができる。記憶部302は、有線通信部301から受信した各種情報および無線通信装置105から受信した車両情報(車両の位置データおよび識別データを含む)などを記憶する。
【0027】
灯器駆動部303は半導体リレーを有し、演算部304からの指令信号にしたがって、複数の信号灯器201の青色灯、黄色灯、赤色灯それぞれに対応して各色の信号灯に供給される交流電圧(AC100V)または直流電圧をそのリレーによってオン/オフする。
演算部304は、有線通信部301により受信された中央装置102からの信号制御指令に基づいて灯器駆動部303への指令信号を生成し、それによって適当なタイミングで各信号灯器の信号灯色を切り替えさせる。
なお、交通信号制御機が通信・記録する車両情報のような情報には、ハードウェア的にまたはソフトウェア的にプライバシー保護のためにセキュリティを施すようにしてもよい。
【0028】
図4は車載装置の構成例を説明するための図である。車載装置203は、無線通信装置105と通信して交通信号制御機202との間で各種情報を授受するとともに、目的地へのナビゲーションをすることができる。車載装置203は、GPS処理部401、方位センサ402、車速取得部403、通信部404、記憶部405、操作部406、表示部407、音声出力部408、および演算部409を備える。
【0029】
GPS処理部401は、GPS衛星からのGPS信号を受信し、GPS信号に含まれる時刻情報、GPS衛星の軌道、測位補正情報等に基づいて、車両の位置(緯度、経度および高度)を計測する。
方位センサ402には、光ファイバジャイロを用いることができる。方位センサ402は、車両の方位および角速度を計測する。車速取得部403は、車速センサが車輪の角速度を検出することにより計測した車両の速度データを取得する。
【0030】
通信部404は、無線通信装置105による無線発信が行われない期間に、他の車両上の車載装置との通信、すなわち車車間通信を行うことができる。通信部404は、自装置の識別データ、自車両の位置データおよび速度データなどを車両情報としてリアルタイムに(たとえば0.1から1.0秒周期で)発信する。この車両情報は、無線通信装置105によりモニタリングされる。また通信部404は、車両の走行によって無線通信装置105の通信領域で、その無線通信装置105から交通情報を受信することもできる。
【0031】
記憶部405には、ハードディスクや半導体メモリ等の各種記録媒体を利用することができる。記憶部405は、通信部404が受信した交通情報、および車載装置203自身が計測した車両情報のデータなどを記憶する。記憶部405には、車車間通信により得た周囲の車両の車両情報を蓄積してもよい。記憶された自身の車両情報のデータは、演算部409により通信部404に随時出力され、通信部404から送信される。光ビーコンのようにスポット通信する場合には、記憶部405に蓄積された自身の車両情報のデータをそのスポット通信領域で演算部409が読み出し、通信部404によりアップリンクする。記憶部405には、地図データベースも格納される。
【0032】
この地図データベースにおける道路地図データは、交差点IDと交差点の位置とを対応付けた交差点データと、リンクID、そのリンクの始点・終点・補間点(道路が折れ曲がる地点に対応)それぞれの位置、そのリンクの始点に接続するリンクのリンクID、リンクの終点に接続するリンクのリンクID、およびリンクコストを含むリンクデータを有する。リンクコストは、たとえば、リンクとその終点に接続するリンクの組合せの数だけ用意されており、リンクの始点に進入してから当該リンクの終点を退出し、次に接続するリンクの始点に進入するまでに要する時間として定められる。すなわち、リンクコストには、リンクの始点から終点までを走行するのに要するコスト(時間)と、リンクの終点から次のリンクの始点までを走行するのに要するコスト(時間)、つまり、交差点を通過するのに要する時間が含まれる。
【0033】
操作部406は、タッチパネルやボタンを有し、ドライバを含む車両の搭乗者が目的地の設定等を行えるようになっている。表示部407は、たとえば車両のダッシュボード部分に取付けられるモニタ装置であり、インターフェイス画面を表示する。音声出力部408は、演算部409が作成した音声データをスピーカから出力する。
【0034】
演算部409には、一または複数のマイクロコンピュータを用いることができる。演算部409は、GPS処理部401、方位センサ402、車速取得部403、通信部404、記憶部405、操作部406、表示部407、音声出力部408とバスを介して接続され、各部に対して入出力を行うことで車載装置203の機能を実現する。
【0035】
演算部409は、GPS処理部401が計測した車両の位置、方位センサ402が計測した車両の方位および角速度、車速取得部403が取得した車両の速度の各データ、記憶部405に記憶している道路地図データに基づいてマップマッチング処理を行い、道路地図データのリンク上における車両の位置を定める。演算部409は、操作部406により目的地の設定を受け付けた場合には、その車両位置に対して目的地への経路計算を行い、表示部707や音声出力部408を用いてその経路計算の結果を案内する。
【0036】
図5は中央装置の構成例を説明するための図である。中央装置102には、一または複数のコンピュータを利用することができる。
図5の例では一台のコンピュータを中央装置102として用いている。この中央装置102は、記憶部501、通信部502、表示部503、操作部504、および演算部505を備える。演算部505は、記憶部501、通信部502、表示部503、および操作部504とバスを介して接続されており、これら各部に対して入出力を行うことで中央装置102の機能を実現する。
【0037】
記憶部501には、不揮発性のROMやフラッシュメモリ、揮発性のRAMなど各種半導体メモリ、ハードディスクなどのコンピュータ読み取り可能な媒体を使用することができる。記憶部501は、MODERATO制御やプロファイル制御を行う制御プログラムやその他のプログラムの実行ファイルや、この制御に用いる各種交通指標のデータなどを格納する。実行ファイルには、本発明の交通指標算出方法の各手順を記述した交通指標算出プログラムの実行ファイルまたはプログラムモジュールが含まれる。
【0038】
演算部505が交通指標算出プログラムを実行することで、中央装置102に用いるコンピュータに交通指標算出方法の各手順を行わせることができる。これによって、中央装置102は本発明の交通指標算出装置として機能する。汎用コンピュータと交通指標算出プログラムを用いるのに代えて、または加えて、交通指標算出方法の手順または交通指標算出装置の機能の一部または全部を専用ハードウェアにより実現してもよい。
【0039】
交通指標算出プログラムは、電気通信回線や、コンピュータ読み取り可能な媒体を用いて、記憶部501に導入することができる。たとえばCD、DVD、BD等の光学ディスク、フレキシブルディスクのような磁気ディスク、フラッシュメモリを有する取外し可能な半導体メモリデバイスをその導入に利用することができる。
【0040】
通信部502は、渋滞情報等を含む交通情報や信号制御指令を所定時間ごとに各交通信号機に送信する。信号制御指令は、信号制御情報の演算周期(たとえば1.0〜2.5分)ごとに送信され、交通情報はたとえば5分ごとに送信される。
【0041】
通信部502は、各交通信号機から、車載装置が搭載されている車両に関する情報である車両情報と、車両通過時に生じるパルス信号よりなる車両感知器104の感知器情報とをリアルタイムで受信している。車両情報は、少なくとも車両の位置データおよび識別データを含む。車両の速度データや車両の方向、運転中の車両の操作情報などをさらに含んでもよい。
【0042】
通信部502は、中央装置102が本発明の交通指標算出装置として機能するとき、車両感知器104から感知器情報を受信する手段、および、車両で計測された車両の位置データを含む車両情報を取得する手段として動作する。ここで、「車両で計測された」は車両自体で計測された場合に限られるものではなく、車載装置や携帯電話等、車両内に設置または持ち込まれた装置で計測された場合を含む。
【0043】
表示部503は、中央装置102が管理するエリアの道路地図と、この道路地図上のすべての交通信号機やその他の路上設備の位置を含む画面を表示し、オペレータに渋滞や事故等の状況を報知するのに用いられる。操作部504は、キーボードやマウス等の入力インターフェイスである。この操作部504によってオペレータは表示部503に対する表示切り替え操作等を行える。
【0044】
演算部505は、中央装置102が本発明の交通指標算出装置として機能するとき、車両感知器を対象期間内に通過した車両の車両情報から算出した値を、当該車両が車両感知器を通過した通過時刻および対象期間に基づいて補正することで、交通指標を算出する手段として動作する。ここでは、演算部505は、交通指標として待ち行列長を算出する。
【0045】
図6は車両情報から得た車両の位置に基づいて待ち行列長を算出する方法を説明するための道路平面図である。この図は、車載装置を搭載した車両601が信号待ちによって交差点の上流側に停止している状態を示す。車両601の車載装置から受信した車両情報に、信号待ちの場合の停止位置が含まれているとすると、中央装置102の演算部は、その車両情報に含まれる停止位置を用いて、そこから地図データベースにおける交差点Cのノードまでの距離L
1を求めることができる。中央装置102は、その距離L
1に対して、停止線からノードまでの距離L
2(定数)を減じることによって、停止線から車両601までの距離L
pを定め得る。車両601が待ち行列の末尾に停止していれば、その距離L
pが待ち行列長となる。
【0046】
対象車両601は、待ち行列の末尾に停止するとは限らない。中央装置102の演算部は、次式(2)にしたがって待ち行列の全長Lを求める。演算部は、待ち行列長Lを求めるため、停止線から車両601までの距離、すなわち当該車両601までの行列長L
pに当該車両601の後続車両が形成する行列の長さL
bを加算する。
L=L
p+L
b …(2)
【0047】
この待ち行列長Lを停止時の平均車頭間隔Hで割れば、待ち行列台数Eが得られるので、中央装置102の演算部は、その待ち行列台数Eから負荷率ρを求めることができる。演算部は、信号サイクルが青から開始するとした場合、たとえば次式(3)によって、後続車両が形成する行列の長さL
bを定める。
L
b=H×Vt×(t
d1−t
dp)/(t
d1−t
d0) …(3)
ここで、t
d0は交差点の一信号サイクルにおける青信号開始時刻t
l0に交差点(の停止線)に車両が一定速度で到着したと仮定したときの、当該車両がその交差点の上流にある車両感知器を通過した通過時刻であり、t
d1は一信号サイクルにおける赤信号終了時刻t
l1に交差点に車両が到着したと仮定したときの、当該車両が車両感知器を通過した通過時刻である。t
dpは車両情報を得た車両が車両感知器を通過した通過時刻である。Vtはサイクル同期感知器交通量(以下、同期交通量と記載する)である。
【0048】
なお、ここでは、待ち行列とは、上記の条件で、時刻t
l1に車両感知器を通過した車両に相当する。これより上流の車両は、次の信号サイクルにおける流入交通量の一部として管理される。
【0049】
中央装置の演算部は、交通信号機の制御が行い易くなるよう、その交通信号機の信号サイクル(サイクル長)に同期して感知器情報を集計して交通量(台/時)を定める。信号制御情報を定めるときは、通常、その同期交通量をさらに最新の2サイクルで平滑化して用いる。同期交通量は、最新の3サイクル以上で平滑化してもよい。
【0050】
図7は同期交通量、および車両情報から得た行列長の補正量を算出する方法を説明するための図である。中央装置の演算部は、同期交通量Vtを定めるために、一信号サイクルにおける青信号開始時刻t
l0および赤信号終了時刻t
l1を対象交差点の最新の信号制御情報から取得する。演算部は、その青信号開始時刻t
l0および赤信号終了時刻t
l1から、集計期間の開始時刻t
d0および終了時刻t
d1を算出する。その算出のため、演算部は、停止線位置、車両感知器の位置、および対象道路の想定車両速度を記憶部から読み出す。演算部は、停止線位置と車両感知器の位置とから車両感知器と停止線との距離を算出し、その距離に想定車両速度を除算することで、車両感知器から停止線まで車両が移動するのに要する時間を算出する。演算部は、そのようにして求めた時間を青信号開始時刻t
l0および赤信号終了時刻t
l1から差し引くことで、集計期間の開始時刻t
d0および終了時刻t
d1を算出する。演算部は、集計期間の開始時刻t
d0および終了時刻t
d1を算出すると、その集計期間中の車両の感知台数を計数することで、一信号サイクルに同期した交通量Vtを算出する。必要がある場合には、同様にして求めた一サイクル前の交通量と対象サイクルの交通量とを平滑化することで、対象サイクルに同期した交通量を定める。
【0051】
中央装置の演算部は、さらに、上記式(2)の待ち行列長Lを定めるため、上記式(3)にしたがって、車両情報を得た車両の後続車両により形成される行列の長さL
bを算出する。演算部は、対象車両が車両感知器を通過した時刻t
dpをその車両の車両情報から定め、集計期間の開始時刻t
d0および終了時刻t
d1、ならびにその通過時刻t
dpを用いて、長さL
bを算出する。演算部は、集計期間の終了時刻t
d1から通過時刻t
dpを差し引いて両者の差(t
d1−t
dp)を求める。演算部は、さらに、集計期間の終了時刻t
d1から通過時刻t
d0を差し引いて、集計期間の長さ(t
d1−t
d0)を求める。演算部は、通過時刻t
dpから集計期間の終了時刻t
d1までの時間長さ(t
d1−t
dp)と集計期間の長さ(t
d1−t
d0)との比を定める。演算部は、その比と記憶部から読み出した平均車頭間隔Hとを同期交通量Vtに乗算することで後続車両による行列の長さL
bを算出する。演算部は、対象車両までの行列長L
pにその長さL
bを加算することで待ち行列長Lを算出する。
【0052】
中央装置の演算部は、待ち行列長Lを平均車頭間隔Hで割ることにより上記式(1)の待ち行列台数E、さらには負荷率ρを得ることができ、その負荷率ρによって信号制御を行う。演算部は、次式(4)のように、停止線から対象車両601までの行列の台数E
Pに、当該車両601の後続車両が形成する行列の台数E
bを加算することで待ち行列台数Eを求めることもできる。台数E
pおよびE
bは、次式(5)および(6)でそれぞれ定められる。
E=E
p+E
b …(4)
E
p=L
p/H …(5)
E
b=Vt×(t
d1−t
dp)/(t
d1−t
d0) …(6)
【0053】
本実施の形態における中央装置は、このように、一信号サイクルに同期した交通量の集計期間内に車両感知器を通過した車両の車両情報から算出した行列長L
pまたは行列台数E
pを、当該車両が車両感知器を通過した通過時刻t
dpを用いて補正する。これによって、集計期間内に車両感知器を通過した車両群における当該車両の相対位置を簡単に待ち行列台数Eの算出に反映でき、また車両情報を適切に利用することができる。
【0054】
図8は車両感知器よりも上流に待ち行列がのびている場合に車両情報から得た行列長の補正量を計算する方法を説明するための図である。中央装置の演算部は、たとえば車両感知器の時間占有率や、車両感知器上流に停止したプローブ情報があればそのプローブ情報に基づいて、車両感知器よりも上流に待ち行列がのびているかどうかを判定することができる。演算部は、車両感知器よりも上流に待ち行列がのびている場合、次式(7)のように、感知器付近の停止時間定数T
wを用いて、車両601の後続車両が形成する行列の台数E
bを計算することができる。
E
b=Vt×(t
d1−t
dp)/(t
d1−t
d0−T
w) …(7)
停止時間定数T
wは、停止波801と発進波802の速度および赤信号開始時刻および終了時刻から定めることができる。車両の停止位置は、赤信号が開始してから時間とともに交差点上流側に延びていき、交通流率に応じた伝搬速度を持っている。これを停止波と呼んでいる。また車両の発進位置は、青信号が開始してから時間とともに交差点上流側に延びていき、交通流率に応じた伝播速度を持つ。これを発進波と呼んでいる。発進波速度および停止波速度は統計的に予め定めることができる。
【0055】
この中央装置は、車両情報から算出した値の補正にあたって、一信号サイクルに同期して集計した交通量を用いている。しかしながら、その集計期間は、一信号サイクルにおける赤信号開始から終了までの期間に対応させてもよい。一信号サイクルにおける赤信号開始から終了までの期間に集計期間を対応させれば、その期間で集計した交通量に、赤信号によって停止した待ち行列を形成する車両の台数が適切に反映される。
【0056】
図9は一信号サイクルにおける赤信号開始から終了までの期間で集計した交通量を用いて車両情報から得た行列長の補正量を算出する方法を説明するための図である。この場合、中央装置の演算部は、一信号サイクルにおける赤信号開始時刻t
lrおよび赤信号終了時刻t
l1を対象交差点の最新の信号制御情報から取得する。演算部は、その赤信号開始時刻t
lrおよび赤信号終了時刻t
l1から、集計期間の開始時刻t
drおよび終了時刻t
d1を算出する。演算部は、
図7の場合と同様に、車両感知器から停止線まで車両が移動するのに要する時間を算出する。演算部は、その時間を赤信号開始時刻t
lrおよび赤信号終了時刻t
l1から差し引くことで、集計期間の開始時刻t
drおよび終了時刻t
d1を算出する。演算部は、集計期間の開始時刻t
drおよび終了時刻t
d1を算出すると、その集計期間中の車両の感知台数を計数することで、一信号サイクルにおける赤信号開始から終了までの期間に同期した交通量Vsを算出する。演算部は、車両情報を得た車両の後続車両により形成される行列の長さL
bを次式(8)にしたがって算出する。演算部は、この長さL
b を用いて上記式(2)にしたがって、待ち行列長Lを算出することができる。また、演算部は、対象車両の後続車両により形成される行列の台数E
bを次式(9)にしたがって算出することもできる。その場合、演算部は、上記式(4)にしたがって待ち行列台数Eを算出する。
L
b=H×Vs×(t
d1−t
dp)/(t
d1−t
dr) …(8)
E
b=Vs×(t
d1−t
dp)/(t
d1−t
dr) …(9)
【0057】
中央装置は、交通量を用いずに、車両情報から算出した行列長L
pや台数E
pを補正することも可能である。中央装置の演算部は、たとえば次式(10)または(11)にしたがって行列長L
pまたは台数E
pを補正することで、待ち行列長Lまたは待ち行列台数Eを算出する。
L=(t
d1−t
dp)/(t
d1−t
dr)×L
p …(10)
E=(t
d1−t
dp)/(t
d1−t
dr)×E
p …(11)
【0058】
図10は赤信号開始時刻を始端とする信号サイクルに対し車両情報から得た行列長の補正量を算出する方法を説明するための図である。
図7を用いて青信号開始時刻を始端とする信号サイクルに対し車両情報から得た行列長の補正量を算出する方法を説明した。しかしながら、信号サイクルの始端はこれに限られるものではない。
図10のように、たとえば赤信号開始時刻を信号サイクルの始端として車両情報から得た行列長の補正量を算出することができる。この場合も、
図7の例と同様に中央装置の演算部は、車両情報を得た車両の後続車両が形成する行列の長さL
bを上記式(3)で計算することができる。ただし、信号サイクルが赤信号開始時刻を始端とする場合、負荷率ρは上記式(1)を用いる代わりに次式(12)を用いる。
ρ=(Q(T)+k・E(T))/s …(12)
ここで、kは重み定数である。
【0059】
上述した実施の形態では、交通量の集計期間を一信号サイクルに同期させるために、対象道路の想定車両速度を用いた。しかしながら、対象道路の車両速度を車両情報から得るようにしてもよい。対象道路の想定車両速度には、通常、統計的に求められた定数が使用される。交通状況が近飽和から混雑する状況になると、定数で設定した速度では走行できない場合がある。車両情報から車両速度を得ることで、そのときの実際の交通状況をより的確に反映した集計期間が定められる。中央装置が本発明の交通指標算出装置として機能するとき、中央装置の演算部は、対象交差点の信号サイクル、および車両情報から得た車両速度に基づいて集計期間を決定する手段としても動作することができる。演算部は、車両感知器を通過した車両が車両感知器から交差点(の停止線)まで走行するのに要する時間を算出するため、車両感知器と交差点との距離を取得すると共に、当該車両の車両情報から車両速度を得る。演算部は、さらに、たとえば青信号開始時刻および赤信号終了時刻を最新の信号制御情報から取得する。演算部は、車両感知器から交差点まで車両が走行するのに要する時間を青信号開始時刻および赤信号終了時刻からそれぞれ差し引くことで、一信号サイクルに同期させる集計期間を決定する。決定する集計期間は、赤信号の期間(赤信号開始時刻から赤信号終了時刻までの期間)に同期させてもよい。このように車両情報から得た車両速度で交通量の集計期間を決定する方法は、車両情報から得た行列長や行列台数などの交通指標を補正する場合だけでなく、車両感知器の感知器情報から交通指標を算出する場合や、感知器情報および車両情報を組み合わせて交通指標を算出する場合などにも利用することができる。
【0060】
図11は車両情報に含まれる各種データのビット割り当て例を説明するための図表である。たとえば光ビーコンのように、車両情報を蓄積し、スポット通信領域で一括して車載装置から送信する場合、この例のようなデータ構成を有する車両情報を用いることができる。この例においては、車両におけるイベントの種別として、単独停止、方向変動、一定距離走行・方向変動、およびアップリンクが用意されている。このイベント種別によって、車載装置から送信するデータを選別することができる。単独停止の場合、停止時間のデータが、方向変動の場合、絶対方位のデータが、一定距離走行・方向変動の場合、前イベントからの走行距離が、アップリンクの場合、無効値がそれぞれ記録される。単独停止の場合の停止時間は8ビットで表され、その先頭ビットの値で秒と分の場合を区別し、残りの7ビットで時間を表すようになっている。このため、1秒を最小単位として、16進数で0x01(1秒)から0xff(127分)までの時間を割り当てることができる。また方向変動の場合の絶対方位が、北を「1」とし、時計回りに16単位として割り当てられている。一定距離走行や方向変動の場合、前回イベントからの距離に8ビットが割り当てられており、1ビットが5m単位になっている。この場合、16進数で0x01(5m)から0xff(1275m)までの走行距離を割り当てることができる。
図11には記載していないが、交差点を通過するまでの停止回数やブレーキによる加減速の状態、ウィンカーなどの車両操作を示す情報を情報項目として記録することもできる。
【0061】
上述した実施の形態では、本発明の交通指標算出装置を交通信号制御システムにおける中央装置として利用したが、これに限られるものではない。交通信号制御機やその他の装置に本発明の交通指標算出装置を利用するようにしてもよい。さらに交通指標算出装置はハードウェア的に複数の装置により構成されてもよい。さらに交通信号制御に交通指標を用いる場合だけでなく、車両の運転等のために交通指標を算出する場合にも本発明は利用することができる。算出する交通指標は待ち行列長または待ち行列台数が代表例である。しかしながら、交差点に接続する道路の混雑の度合いを表す停止回数や旅行時間、遅れ時間、CO
2排出量など、その他の交通指標を算出する場合にも本発明は利用することができる。
【0062】
上述した実施の形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。