(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1コイル、前記第2コイルおよび前記第3コイルは、複数の誘電体層または磁性体層の積層体である多層基板に一体的に構成されていて、少なくとも前記第1コイルと前記第2コイルの結合領域、および前記第1コイルと前記第3コイルの結合領域は前記多層基板内に位置している、請求項1〜3のいずれかに記載のアンテナ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1は1次側回路と2次側回路を含むトランスの回路図である。ここで、第1コイル素子L1と第2コイル素子L2のインダクタンスがそれぞれ結合度Mで磁気結合していたとき、第1コイル素子L1の入力から見た反射係数S11をインピーダンス軌跡としてスミスチャート上に表すと、
図2のようになる。
図2(A)は結合係数k=0.8のとき、
図2(B)は結合係数k=1のときである。このように、たとえk=1であっても反射係数S11のインピーダンスの虚部は負の領域には入らない。
反射係数のインピーダンスの虚部と結合係数kとの関係については、後に等価回路を参照して説明する。
【0006】
例えば無線通信用の高周波トランスは、インピーダンス変換、インピーダンス整合、または平衡−不平衡変換等のために用いられるが、トランスとしての1次−2次間の結合係数を極力高めることが求められる。しかし、従来の単純なトランス構造では結合係数kを1に近づけることは困難であり、等価的にk>1にすることもできなかった。
【0007】
本発明は上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、結合係数が高く、低損失でエネルギーを伝送できる高結合度トランス
およびインピーダンス変換回路
を備えるアンテナ装置
ならびに通信端末装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のアンテナ装置は、
アンテナ素子、および前記アンテナ素子と給電回路との間に接続されるインピーダンス変換回路を備え、
前記インピーダンス変換回路は、
第1コイルを含む第1回路と、第2コイルおよびこの第2コイルに直列接続された第3コイルを含む第2回路と、を有し、
前記第1コイルは、前記第2コイルと前記第3コイルとの間に配置され、
前記第1コイルの第1端は給電回路に接続され、
前記第1コイルの第2端はグランドに接続され、
前記第2コイルの第1端および前記第3コイルの第1端が
前記アンテナ素子に接続され、前記第2コイルの第2端および前記第3コイルの第2端が
前記グランドに接続されていることを特徴とする。
【0011】
本発明のアンテナ装置は、
アンテナ素子、および前記アンテナ素子と給電回路との間に接続されるインピーダンス変換回路を備え、
前記インピーダンス変換回路は、
第1コイルを含む第1回路と、第2コイルおよびこの第2コイルに直列接続された第3コイルを含む第2回路と、を有し、
前記第1コイルは、前記第2コイルと前記第3コイルとの間に配置され、
前記第1コイルの第1端は給電回路に接続され、
前記第1コイルの第2端はアンテナ素子に接続され、
前記第2コイルの第1端および前記第3コイルの第1端が
前記アンテナ素子に接続され、前記第2コイルの第2端および前記第3コイルの第2端がグランドに接続されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の通信端末装置は、
アンテナ素子、給電回路、および前記アンテナ素子と前記給電回路との間に接続されるインピーダンス変換回路を備え、
前記インピーダンス変換回路は、
第1コイルを含む第1回路と、第2コイルおよびこの第2コイルに直列接続された第3コイルを含む第2回路と、を有し、
前記第1コイルは、前記第2コイルと前記第3コイルとの間に配置され、
前記第1コイルの第1端は給電回路に接続され、前記第1コイルの第2端はグランドに接続され、
前記第2コイルの第1端および前記第3コイルの第1端は前記アンテナ素子に接続され、前記第2コイルの第2端および前記第3コイルの第2端は前記グランドに接続されていることを特徴とする。
また、本発明の通信端末装置は、アンテナ素子、給電回路、および前記アンテナ素子と前記給電回路との間に接続されるインピーダンス変換回路を備え、
前記インピーダンス変換回路は、
第1コイルを含む第1回路と、第2コイルおよびこの第2コイルに直列接続された第3コイルを含む第2回路と、を有し、
前記第1コイルは、前記第2コイルと前記第3コイルとの間に配置され、
前記第1コイルの第1端は給電回路に接続され、前記第1コイルの第2端はアンテナ素子に接続され、
前記第2コイルの第1端および前記第3コイルの第1端は前記アンテナ素子に接続され、前記第2コイルの第2端および前記第3コイルの第2端はグランドに接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高結合度トランスによれば、第1コイルを含む第1回路と、第2・第3コイルを含む第2回路とを、例えば結合係数kを1に近づけることができ、あるいは等価的(仮想的)にk>1の関係にすることができ、低損失でエネルギーを伝送できる。
【0014】
また、本発明のインピーダンス変換回路によれば、広帯域に亘って第1高周波回路(素子)と第2高周波回路(素子)との整合をとって、高周波回路の広帯域化が図れる。
また、本発明のアンテナ装置によれば、小型で高効率化が図れる。
【0015】
また、本発明の通信端末装置によれば、高周波回路部が小型・低損失化され、エネルギー効率が向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は1次側回路と2次側回路を含むトランスの回路図である。
【
図2】
図2は、
図1において第1コイル素子L1の入力から見た反射係数S11をインピーダンス軌跡としてスミスチャート上に表した図であり、
図2(A)は結合係数k=0.8のときの図、
図2(B)は結合係数k=1のときの図である。
【
図3】
図3(A)は第1の実施形態の高結合度トランス15の回路図、
図3(B)はその高結合度トランス15を備えたアンテナ装置の回路図である。
【
図5】
図5は、
図4に示した条件で求めた、第1コイルL11の入力(ポートP1)から高結合度トランス15側を見た反射係数S11をインピーダンス軌跡としてスミスチャート上に表した図である。
【
図6】
図6は
図3・
図4に示した高結合度トランス15を備えたアンテナ装置の等価回路図である。
【
図7】
図7は、
図1に示した一般的な回路で第1コイルL11と第2コイルL12との間の結合係数kを仮想的に1.1としたときの、第1コイルL11の入力(ポートP1)から高結合度トランス15側を見た反射係数S11をインピーダンス軌跡としてスミスチャート上に表したものである。
【
図8】
図8は、
図4に示した等価回路において、第2コイルL12と第3コイルL13との結合係数を変化させたときの特性変化を示す図である。
【
図9】
図9は第2の実施形態の高結合度トランス25を備えたアンテナ装置の回路図である。
【
図11】
図11は、
図10の第1コイルL11の入力(ポートP1)から高結合度トランス25側を見た反射係数S11をインピーダンス軌跡としてスミスチャート上に表した図である。
【
図12】
図12は第2の実施形態の高結合度トランス25の分解斜視図である。
【
図14】
図14は第3の実施形態であるアンテナ装置の等価回路図である。
【
図15】
図15は、インピーダンス変換回路35で擬似的に生じる負のインダクタンス成分の作用およびインピーダンス変換回路35の作用を模式的に示す図である。
【
図16】
図16(A)は第4の実施形態の高結合度トランス45の回路図、
図16(B)はその高結合度トランス45を備えたアンテナ装置の回路図である。
【
図17】
図17(A)は第5の実施形態の第1例である通信端末装置、
図17(B)は第2例である通信端末装置のそれぞれの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《第1の実施形態》
図3(A)は第1の実施形態の高結合度トランス15の回路図、
図3(B)はその高結合度トランス15を備えたアンテナ装置の回路図である。高結合度トランス15は第1コイルL11を含む第1回路(1次側回路)と、第2コイルL12およびこの第2コイルに直列接続された第3コイルL13を含む第2回路(2次側回路)とを有する。そして、第1コイルL11と第2コイルL12とは逆相で電磁界結合していて、第1コイルL11と第3コイルL13とは逆相で電磁界結合している。また、第1コイルL11、第2コイルL12および第3コイルL13は、それぞれの巻回軸がほぼ同一直
線になるように、且つ第2コイルL12および第3コイルL13の間に第1コイルL11が位置するように配置されている。さらに、第1コイルL11、第2コイルL12および第3コイルL13は、複数の誘電体層または磁性体層の積層体である多層基板に一体的に構成されていて、少なくとも第1コイルL11と第2コイルL12の結合領域、および第1コイルL11と第3コイルL13の結合領域は前記多層基板内に位置している。
【0018】
図3(A)、
図3(B)に示した第1コイルL11に生じる磁束の閉磁路と第2コイルL12に生じる磁束の閉磁路とは互いに反発する方向であるので、第1コイルL11と第2コイルL12との間には等価的な磁気障壁MWが生じることになる。同様に、第1コイルL11に生じる磁束の閉磁路と第3コイルL13に生じる磁束の閉磁路とは互いに反発する方向であるので、第1コイルL11と第3コイルL13との間には等価的な磁気障壁MWが生じることになる。
【0019】
この例では第1コイルL11と給電回路(高周波回路)30とで第1回路が構成されている。また、第2コイルL12、第3コイルL13およびアンテナ素子11で第2回路が構成されている。
【0020】
図4は
図3に示したアンテナ装置の等価回路図である。
図4において第1コイルL11と第2コイルL12との間の結合係数をk1、第1コイルL11と第3コイルL13との間の結合係数をk2、第2コイルL12と第3コイルL13との間の結合係数をk3で表すと、
k1=0.8
k2=0.8
k3=0
である。
【0021】
高結合度トランス15から給電回路(高周波回路)30を見たインピーダンスは50Ωであり、それを抵抗Z1で表している。また、高結合度トランス15から前記アンテナ素子11を見たインピーダンスは25Ωであり、それを抵抗Z2で表している。
【0022】
図5は
図4に示した条件で求めた、第1コイルL11の入力(ポートP1)から高結合度トランス15側を見た反射係数S11をインピーダンス軌跡としてスミスチャート上に表したものである。このように密結合によって、インピーダンスの虚部は負の領域に入る。
【0023】
図6は、
図4に示した高結合度トランス15において、第1回路(第1コイルL11)のインダクタンスをL1、第2回路(第2コイルL12および第3コイルL13)のインダクタンスをL2、第1回路と第2回路との相互インダクタンスをMで表したときの等価回路図である。
【0024】
ここで、高結合度トランス15の反射係数のインピーダンスの虚部と結合係数kとの関係について示す。
図6に示した等価回路において、M=k√(L1・L2)の関係があり、Mが充分に大きければ、ポートP1から高結合度トランス15を見たインピーダンスは、(L1−M)+(L2−M)で表される。そして、k>1のとき、(L1−M)+(L2−M)<0となる。したがって、k>1であれば、前記反射係数のインピーダンスの虚部は負の領域に入る。
【0025】
この実施形態では、相互インダクタンスMの値を大きく保ちつつ、各インダクタの値を逆結合で小さくすることで、常時L2−Mが負性になるようにしている。並列に入っている相互インダクタンスMは周波数が高くなるほどOPENに見える(高インピーダンスになる)ため、高周波では負性のインダクタ(L2−M)のみが見えやすくなる。
【0026】
そこで、
図1に示した一般的な高周波トランスで第1コイル素子L1と第2コイル素子L2との間の結合係数kを仮想的に1.1としてシミュレーションすると
図7のようになる。
図7は第1コイル素子L1の入力(ポートP1)から高結合度トランス15側を見た反射係数S11をインピーダンス軌跡としてスミスチャート上に表したものである。この特性は
図5に示した特性と近似している。すなわち、第1の実施形態の高結合度トランス15の等価的な結合係数kは1を超えていることがわかる。
【0027】
なお、
図3(A)、
図3(B)に示した例では、第1コイルL11を1次側、第2コイルL12および第3コイルL13を2次側として用いる例を示したが、高結合度トランス自体はどちらを1次側にしてもよく、どちらを2次側にしてもよい。すなわち、第2コイルL12および第3コイルL13を1次側、第1コイルL11を2次側として用いてもよい。
【0028】
《第2の実施形態》
第1の実施形態で
図4に示した等価回路において、第2コイルL12と第3コイルL13との結合係数k3を0としたが、この結合係数k3が大きくなると、k>1となる効果を得にくい。
図8はk3を変化させたときの特性変化を示す図である。
図8(A)は第1の実施形態の高結合度トランスの特性、
図8(B)は前記各結合係数を次のようにしたときの特性である。
【0029】
k1=0.8
k2=0.8
k3=0.3
このように、第2コイルL12と第3コイルL13との結合係数k3が大きくなると、インピーダンスの虚部は負の領域に入らず、等価的な結合係数は1を超えないことがわかる。
第2の実施形態は、第2回路(2次側回路)の二つのコイル同士(第2コイルL12と第3コイルL13)の結合がある程度あっても、トランス全体の1次−2次間の結合係数を大きくできるようにした構成を示すものである。
【0030】
図9は第2の実施形態の高結合度トランス25を備えたアンテナ装置の回路図である。また、
図10は
図9に示したアンテナ装置の等価回路図である。
高結合度トランス25は、第1コイルL11に直列接続されるとともに第1コイルL11に電磁界結合している第4コイルL21、第2コイルL12に直列接続されるとともに第2コイルL12に電磁界結合している第5コイルL22、および第3コイルL13に直列接続されるとともに第3コイルL13に電磁界結合している第6コイルL23を備えている。第1コイルL11と第2コイルL12とは逆相で電磁界結合していて、第1コイルL11と第3コイルL13とは逆相で電磁界結合している。また、第4コイルL21と第5コイルL22とは逆相で電磁界結合していて、第4コイルL21と第6コイルL23とは逆相で電磁界結合している。
【0031】
第4コイルL21は、その第1端を第1コイルL11に対して逆向きに直列接続し、第2端をグランドに接続している。第5コイルL22は、その第1端を第2コイルL12に対して逆向きに直列接続し、第2端をグランドに接続している。第6コイルL23は、その第1端を第3コイルL13に対して逆向きに直列接続し、第2端をグランドに接続している。
【0032】
第1コイルL11、第2コイルL12および第3コイルL13は、これらのコイルの巻回軸がほぼ同一直
線になるように、且つ第2コイルL12および第3コイルL13の間に第1コイルL11が位置するように配置されている。また、第4コイルL21、第5コイルL22および第6コイルL23は、これらのコイルの巻回軸がほぼ同一直
線になるように、且つ第5コイルL22および第6コイルL23の間に第4コイルL21が位置するように配置されている。
【0033】
後に示すように、第1コイルL11、第2コイルL12、第3コイルL13、第4コイルL21、第5コイルL22および第6コイルL23は、多層基板に一体的に構成されていて、第1コイルL11と第2コイルL12の結合領域、第1コイルL11と第3コイルL13の結合領域、第4コイルL21と第5コイルL22の結合領域、および第4コイルL21と第6コイルL23の結合領域も前記多層基板内に位置している。したがって、第1コイルL11と第2コイルL12は強く結合し、第1コイルL11と第3コイルL13は強く結合し、第4コイルL21と第5コイルL22は強く結合し、第4コイルL21と第6コイルL23は強く結合する。
【0034】
そして、第1コイルL11と第4コイルL21、第2コイルL12と第5コイルL22、第3コイルL13と第6コイルL23がそれぞれ結合する。このため、第2コイルL12と第3コイルL13が結合しても、また第5コイルL22と第6コイルL23とが結合しても、全体の結合係数kを等価的に1以上にすることができる。
【0035】
上記各コイル同士の結合係数を次のとおりである。
L11とL12との結合係数:0.8
L11とL13との結合係数:0.8
L21とL22との結合係数:0.8
L21とL23との結合係数:0.8
L11とL21との結合係数:0.3
L12とL22との結合係数:0.3
L13とL23との結合係数:0.3
L12とL13との結合係数:0.3
L22とL23との結合係数:0.3
図11は、上記条件で求めた、第1コイルL11の入力(ポートP1)から高結合度トランス25側を見た反射係数S11をインピーダンス軌跡としてスミスチャート上に表したものである。インピーダンスの虚部は負の領域に入っていることがわかる。
【0036】
このように第1回路のコイルに二つのコイルL11,L21を備え、第2回路のコイルに四つのコイルL12,L22,L13,L23を備えたことにより、第2回路のコイル同士(第2コイルL12と第3コイルL13、第5コイルL22と第6コイルL23)の結合がある程度あってもトランス全体の1次−2次間の結合係数を大きくできる。
【0037】
図12は第2の実施形態の高結合度トランス25の分解斜視図である。
図12に示すように、基材層51a〜51kは磁性体シートで構成され、各層にコイル導体が形成されている。基材層51bにコイル導体L13c,L23cが形成され、基材層51cにコイル導体L13b,L23bが形成され、基材層51dにコイル導体L13a,L23aが形成され、基材層51eにコイル導体L11c,L21cが形成され、基材層51fにコイル導体L11b,L21bが形成され、基材層51gにコイル導体L11a,L21aが形成され、基材層51hにコイル導体L12a,L22aが形成され、基材層51iにコイル導体L12b,L22bが形成され、基材層51jにコイル導体L12c,L22cが形成されている。基材層51kの下面には、給電端子41、グランド端子42、アンテナ端子43等が形成されている。
図12中の縦方向に延びる線はビア電極であり、コイル導体同士を層間で接続する。
【0038】
図12において、コイル導体L11a,L11b,L11cによって第1コイルL11を構成していて、コイル導体L21a,L21b,L21cによって第4コイルL21を構成している。また、コイル導体L12a,L12b,L12cによって第2コイルL12を構成していて、コイル導体L22a,L22b,L22cによって第5コイルL22を構成している。また、コイル導体L13a,L13b,L13cによって第3コイルL13を構成していて、コイル導体L23a,L23b,L23cによって第6コイルL23を構成している。
【0039】
なお、各層は誘電体シートで構成されていてもよい。但し、比透磁率の高い磁性体シートを用いれば、コイル素子間の結合係数をより高めることができる。
【0040】
図13は、
図12に示した各層のコイル導体に流れる電流の向きを示す図である。
図13に示すように、給電端子41から入力された高周波信号電流が第1コイルL11に流れると、第2コイルL12および第3コイルL13に矢印方向に電流が流れる。すなわち、第1コイルL11と第2コイルL12とは互いに並走しているので、相互の誘導結合および電界結合により、第2コイルL12に矢印方向の高周波信号電流が誘導される。同様に、第1コイルL11と第3コイルL13とは互いに並走しているので、相互の誘導結合および電界結合により、第3コイルL13に矢印方向の高周波信号電流が誘導される。
【0041】
同様に、給電端子41から入力された高周波信号電流が第4コイルL21に流れると、第5コイルL22および第6コイルL23に矢印方向に電流が流れる。すなわち、第4コイルL21と第5コイルL22とは互いに並走しているので、相互の誘導結合および電界結合により、第5コイルL22に矢印方向の高周波信号電流が誘導される。同様に、第4コイルL21と第6コイルL23とは互いに並走しているので、相互の誘導結合および電界結合により、第6コイルL23に矢印方向の高周波信号電流が誘導される。
【0042】
なお、給電端子41に流れる電流(矢印a)が逆向きであれば、他の電流の向きも逆になる。
【0043】
《第3の実施形態》
図14は第3の実施形態であるインピーダンス変換回路およびそれを備えたアンテナ装置の等価回路図である。
図14において、インピーダンス変換回路35の構成およびその等価回路は
図6に示したとおりである。一方、アンテナ素子11は、等価的にインダクタンス成分LANT、放射抵抗成分Rr、およびキャパシタンス成分CANTで構成される。このアンテナ素子11単体のインダクタンス成分LANTは、インピーダンス変換回路35における負の合成インダクタンス成分(L2−M)によって打ち消されるように作用する。すなわち、インピーダンス変換回路のA点からアンテナ素子11側を見た(インダクタンス素子(L2−M)を含めたアンテナ素子11の)インダクタンス成分は小さく(理想的にはゼロに)なり、その結果、このアンテナ装置101のインピーダンス周波数特性が小さくなる。
【0044】
このように負のインダクタンス成分を生じさせるためには、第1インダクタンス素子と第2インダクタンス素子とを高い結合度で結合させることが重要である。そのためには、この結合度は1以上であればよい。
【0045】
トランス型回路によるインピーダンス変換比は、第1コイル素子のインダクタンスL1に対する第2コイル素子のインダクタンスL2の比(L1:L2)である。
【0046】
図15は、前記インピーダンス変換回路35で擬似的に生じる負のインダクタンス成分の作用およびインピーダンス変換回路35の作用を模式的に示す図である。
図15において曲線S0はアンテナ素子11の使用周波数帯域に亘って周波数をスイープしたときのインピーダンス軌跡をスミスチャート上に表したものである。アンテナ素子11単体ではインダクタンス成分LANTが比較的大きいので、
図15に表れているようにインピーダンスは大きく推移する。
【0047】
図15において曲線S1はインピーダンス変換回路のA点からアンテナ素子11側を見たインピーダンスの軌跡である。このように、インピーダンス変換回路の擬似的な負のインダクタンス成分によってアンテナ素子のインダクタンス成分LANTが相殺されて、A点からアンテナ素子側を見たインピーダンスの軌跡は大幅に縮小される。
【0048】
図15において曲線S2は給電回路30から見たインピーダンスすなわちアンテナ装置101のインピーダンスの軌跡である。このように、トランス型回路によるインピーダンス変換比(L1:L2)によって、アンテナ装置101のインピーダンスは50Ω(スミスチャートの中心)に近づく。なお、このインピーダンスの微調整は、トランス型回路に、別途インダクタンス素子やキャパシタンス素子を付加することで行ってもよい。
【0049】
このようにして、広帯域に亘ってアンテナ装置のインピーダンス変化を抑制できる。ゆえに、広い周波数帯域に亘って給電回路とインピーダンス整合がとれる。
【0050】
《第4の実施形態》
図16(A)は第4の実施形態の高結合度トランス45の回路図、
図16(B)はその高結合度トランス45を備えたアンテナ装置の回路図である。高結合度トランス45は第1コイルL11を含む第1回路(1次側回路)と、第2コイルL12およびこの第2コイルに直列接続された第3コイルL13を含む第2回路(2次側回路)とを有する。そして、第1コイルL11と第2コイルL12とは逆相で電磁界結合していて、第1コイルL11と第3コイルL13とは逆相で電磁界結合している。また、第1コイルL11、第2コイルL12および第3コイルL13は、それぞれの巻回軸がほぼ同一直
線になるように、且つ第2コイルL12および第3コイルL13の間に第1コイルL11が位置するように配置されている。さらに、第1コイルL11、第2コイルL12および第3コイルL13は、複数の誘電体層または磁性体層の積層体である多層基板に一体的に構成されていて、少なくとも第1コイルL11と第2コイルL12の結合領域、および第1コイルL11と第3コイルL13の結合領域は前記多層基板内に位置している。
【0051】
図16(A)、
図16(B)に示した第1コイルL11に生じる磁束の閉磁路と第2コイルL12に生じる磁束の閉磁路とは互いに反発する方向であるので、第1コイルL11と第2コイルL12との間には等価的な磁気障壁MWが生じることになる。同様に、第1コイルL11に生じる磁束の閉磁路と第3コイルL13に生じる磁束の閉磁路とは互いに反発する方向であるので、第1コイルL11と第3コイルL13との間には等価的な磁気障壁MWが生じることになる。
【0052】
この例では第1コイルL11と給電回路(高周波回路)30とで第1回路が構成されている。また、第2コイルL12、第3コイルL13およびアンテナ素子11で第2回路が構成されている。
【0053】
なお、
図16(A)、
図16(B)に示した例では、第1コイルL11を1次側、第2コイルL12および第3コイルL13を2次側として用いる例を示したが、高結合度トランス自体はどちらを1次側にしてもよく、どちらを2次側にしてもよい。すなわち、第2コイルL12および第3コイルL13を1次側、第1コイルL11を2次側として用いてもよい。
【0054】
また、
図16(A)、
図16(B)に示した例では、第1コイルL11、第2コイルL12および第3コイルL13をそれぞれ単一のコイル導体で構成したが、第2の実施形態で示したものと同様に、それぞれ二つのコイル導体で構成してもよい。すなわち、直列接続されるとともに互いに電磁界結合する第1のコイル導体と第4のコイル導体とで第1コイルを構成し、直列接続されるとともに互いに電磁界結合する第2のコイル導体と第5のコイル導体とで第2コイルを構成し、直列接続されるとともに互いに電磁界結合する第3のコイル導体と第6のコイル導体とで第3コイルを構成してもよい。
【0055】
《第5の実施形態》
第5の実施形態では通信端末装置の例を示す。
図17(A)は第5の実施形態の第1例である通信端末装置、
図17(B)は第2例である通信端末装置のそれぞれの構成図である。これらは、例えば携帯電話・移動体端末向けの1セグメント部分受信サービス(通称:ワンセグ)の高周波信号の受信用(470〜770MHz)の端末である。
【0056】
図17(A)に示す通信端末装置1は、蓋体部である第1筺体10と本体部である第2筺体20とを備え、第1筺体10は第2筺体20に対して折りたたみ式あるいはスライド式で連結されている。第1筺体10にはグランド板としても機能する第1放射素子11が設けられ、第2筺体20にはグランド板としても機能する第2放射素子21が設けられている。第1および第2放射素子11,21は金属箔などの薄膜あるいは導電性ペーストなどの厚膜からなる導電体膜で形成されている。この第1および第2放射素子11,21は給電回路30から差動給電することでダイポールアンテナとほぼ同等の性能を得ている。給電回路30は高周波回路やベースバンド回路のような信号処理回路を有している。
【0057】
図17(B)に示す通信端末装置2は第1放射素子11をアンテナ単体として設けたものである。第1放射素子11はチップアンテナ、板金アンテナ、コイルアンテナなど各種アンテナ素子を用いることができる。また、このアンテナ素子としては、例えば、筺体10の内周面や外周面に沿って設けられた線状導体を利用してもよい。第2放射素子21は第2筺体20のグランド板としても機能するものであり、第1放射素子11と同様に各種のアンテナを用いてもよい。ちなみに、通信端末装置2は折りたたみ式やスライド式ではないストレート構造の端末である。なお、第2放射素子21は、必ずしも放射体として十分に機能するものでなくてもよく、第1放射素子11がいわゆるモノポールアンテナのように振る舞うものであってもよい。
【0058】
給電回路30は一端が第2放射素子21に接続され、他端がインピーダンス変換回路35を介して第1放射素子11に接続されている。また、第1および第2放射素子11,21は接続線33によって互いに接続されている。この接続線33は第1および第2筺体10,20のそれぞれに搭載されている電子部品(図示省略)の接続線として機能するもので、高周波信号に対してはインダクタンス素子として振る舞うがアンテナの性能に直接的に作用するものではない。
【0059】
インピーダンス変換回路35は、給電回路30と第1放射素子11との間に設けられ、第1および第2放射素子11,21から送信される高周波信号、あるいは、第1および第2放射素子11,21にて受信する高周波信号の周波数特性を安定化させる。それゆえ、第1放射素子11や第2放射素子21の形状、第1筺体10や第2筺体20の形状、近接部品の配置状況などに影響されることなく、高周波信号の周波数特性が安定化する。特に、折りたたみ式やスライド式の通信端末装置にあっては、蓋体部である第1筺体10の本体部である第2筺体20に対する開閉状態に応じて、第1および第2放射素子11,21のインピーダンスが変化しやすいが、インピーダンス変換回路35を設けることによって高周波信号の周波数特性を安定化させることができる。すなわち、アンテナの設計に関して重要事項である中心周波数の設定・通過帯域幅の設定・インピーダンスマッチングの設定などの周波数特性の調整機能をこのインピーダンス変換回路35が担うことが可能になり、アンテナ素子そのものは、主に指向性や利得を考慮するだけでよいため、アンテナの設計が容易になる。
【0060】
《他の実施形態》
以上に示した各実施形態では、第2コイル(L12,L22)および第3コイル(L13,L23)の積層方向(厚み方向)の間に第1コイル(L11,L21)が位置するように配置された例を示したが、本発明は第1〜第3のコイルが積層方向(厚み方向)に配置されたものに限らない。第1〜第3のコイルは平面方向に同軸状(同心状)に配置されていてもよい。その場合、第2コイル(L12,L22)および第3コイル(L13,L23)の平面方向の間に第1コイル(L11,L21)が位置するように配置されればよい。
【0061】
また、以上に示した各実施形態では、給電回路とアンテナ素子との間に接続されるインピーダンス変換回路について例示したが、本発明のインピーダンス変換回路は給電回路とアンテナ素子との間に接続されるものに限らず、第1高周波回路(単に第1の高周波素子であってもよい)と第2高周波回路(単に第2の高周波素子であってもよい)との間に接続されて、第1高周波回路(素子)と第2高周波回路(素子)とをインピーダンス整合させる回路に適用できる。
【0062】
本発明の高結合度トランスは、以上に示したインピーダンス変換回路以外に、例えば、昇圧・降圧回路、変流・分流回路、平衡−不平衡変換回路等のような高周波電子回路に適用できる。また、この高周波電子回路は、例えば移動体通信端末、RFIDタグ/リーダライタ、テレビ、パソコン等の電子機器に適用できる。