特許第5803204号(P5803204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5803204
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】軸受押え用回転工具
(51)【国際特許分類】
   B62D 3/12 20060101AFI20151015BHJP
   F16J 15/32 20060101ALN20151015BHJP
【FI】
   B62D3/12 507
   !F16J15/32 311M
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-73992(P2011-73992)
(22)【出願日】2011年3月30日
(65)【公開番号】特開2012-12006(P2012-12006A)
(43)【公開日】2012年1月19日
【審査請求日】2014年2月18日
(31)【優先権主張番号】特願2010-128113(P2010-128113)
(32)【優先日】2010年6月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】東條 宏計
【審査官】 杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】 実開平03−123142(JP,U)
【文献】 実開平04−071892(JP,U)
【文献】 特開2009−173090(JP,A)
【文献】 特開2005−023966(JP,A)
【文献】 特開昭63−232984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/00− 3/14
F16J 15/32
F16C 35/00−39/06
F16C 43/00−43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤハウジングに一端が開口するシャフト挿入穴を形成し、このシャフト挿入穴にピニオンシャフトを一端がシャフト挿入穴から突出するような形で配置し、シャフト挿入穴とピニオンシャフト間にピニオンシャフトを回転可能に軸支する軸受を配置し、シャフト挿入穴の開口側にネジ部を形成し、このネジ部に螺着する軸受押えを前記軸受に当接させ、前記ピニオンシャフトに噛合するラック軸をピニオンシャフトと交差する方向に軸方向移動可能に配置し、
前記軸受押えは、ネジ部に螺着され軸受に当接する本体部と、本体部の内周側に加硫接着されピニオンシャフト側をシールする内周側シール部とからなり、前記軸受押えの本体部の外周に軸受押え用回転工具が回転方向に係合する係合部を設け、前記係合部および前記内周側シール部の位置を前記軸受押えの軸方向において前記本体部の一端に揃えたラックピニオン式舵取装置であり、
前記ラックピニオン式舵取装置の組立時に、前記軸受押えを回転させるために使用される前記軸受押え用回転工具であって、
前記軸受押えの前記係合部に回転方向に引っ掛かる係止部を持ち、前記軸受押えの前記内周側シール部と前記ピニオンシャフト間に挿入される筒状の保護部を有し、前記係止部および前記保護部を軸方向に揃え、前記係止部と前記保護部が一体回転できるよう一体的に連結した軸受押え用回転工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラック軸とピニオンシャフトを使って車輪の向きを変えるようにしたラックピニオン式舵取装置とそれに使用される軸受押え用回転工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のラックピニオン式舵取装置として、特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
図4に示すラックピニオン式ステアリング装置100は、ギヤハウジング101と、ギヤハウジング101のシャフト挿入穴102に配置された2つのころがり軸受103、104と、2つのころがり軸受103、104に回転可能に軸支されたピニオンシャフト105と、シャフト挿入穴102の開口側に形成されためねじ部106に螺着され、ころがり軸受103に当接する軸受押え107と、軸受押え107の内周に圧入されピニオンシャフト105側をシールする防塵シール108と、ピニオンシャフト105と噛合い、このピニオンシャフト105と交差する方向に軸方向に移動するラック軸110と、ギヤハウジング101のガイド穴111に摺動可能に案内されるラックガイド112と、ギヤハウジング101のめねじ部113に螺着される蓋114と、蓋114とラックガイド112の間に介挿されラックガイド112をラック軸110に付勢するコイルバネ115とを備えている。
【0004】
前記ピニオンシャフト105は、ラック軸110のラック110aに噛合するピニオン105aを有し、ピニオン105aが大径であるため、ピニオン105aの両側にフランジ面105b、105cが形成されている。シャフト挿入穴102の底近くには段部102aが形成され、この段部102aにころがり軸受104が当接している。ピニオンシャフト105は2つの軸受103、104で挟み込まれ、2つの軸受103、104は段部102aと軸受押え107で挟み込まれているので、ピニオンシャフト105の軸方向の移動が阻止される。前記軸受押え107の端面には、図略の回転工具を引っ掛ける引っ掛け穴107aが穿孔されている。
【0005】
ピニオンシャフト105の一端は図略のコラムステアリングシャフトを介してハンドル120に連結され、ラック軸110の両端は、図略の車輪に連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−245828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
軸受押え107の引っ掛け穴107aに図略の回転工具を引っ掛け、軸受押え107を回すと、軸受押え107の一端がころがり軸受103の外輪に当接する。防塵シール108をピニオンシャフト105に挿入し、最後は軸受押え107に圧入する。
【0008】
軸受押え107の回転動作、防塵シール108の挿入圧入動作を別々の組立ステーションで行わなければならないため、組立ラインが長くなる。
【0009】
また、軸受押え107と防塵シールを個別に品質管理と個数管理しなければならないため、煩雑になる。軸受押え107の外周シール機能が十分でない。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、部品を少なくして品質管理と個数管理の煩雑さを減らし、組付け工数を減らし組立ラインを短くできるラックピニオン式舵取装置および軸受押え用回転工具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、ギヤハウジングに一端が開口するシャフト挿入穴を形成し、このシャフト挿入穴にピニオンシャフトを一端がシャフト挿入穴から突出するような形で配置し、シャフト挿入穴とピニオンシャフト間にピニオンシャフトを回転可能に軸支する軸受を配置し、シャフト挿入穴の開口側にネジ部を形成し、このネジ部に螺着する軸受押えを前記軸受に当接させ、前記ピニオンシャフトに噛合するラック軸をピニオンシャフトと交差する方向に軸方向移動可能に配置し、前記軸受押えは、ネジ部に螺着され軸受に当接する本体部と、本体部の内周側に加硫接着されピニオンシャフト側をシールする内周側シール部とからなり、前記軸受押えの本体部の外周に軸受押え用回転工具が回転方向に係合する係合部を設け、前記係合部および前記内周側シール部の位置を前記軸受押えの軸方向において前記本体部の一端に揃えたラックピニオン式舵取装置であり、前記ラックピニオン式舵取装置の組立時に、前記軸受押えを回転させるために使用される前記軸受押え用回転工具であって、前記軸受押えの前記係合部に回転方向に引っ掛かる係止部を持ち、前記軸受押えの前記内周側シール部と前記ピニオンシャフト間に挿入される筒状の保護部を有し、前記係止部および前記保護部を軸方向に揃え、前記係止部と前記保護部が一体回転できるよう一体的に連結したものである。
【0017】
この構成によれば、軸受押え用回転工具を使って軸受押えを回すときに、内周側シール部と保護部が一体に回り、内周側シール部をピニオンシャフトに接触させないような構造になっているため、内周側シール部がキズ付くのを防止できる。また、本体部の外周に係合部を、本体部の内周に内周側シールを設け、係合部および内周側シール部の位置を軸受押えの軸方向において本体部の一端に揃え、係止部および保護部を軸方向に揃えることにより、軸受押え用回転工具の軸方向の長さを短くできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、軸受押え用回転工具を使って軸受押えを回すときに、内周側シール部と保護部が一体に回り、内周側シール部をピニオンシャフトに接触させないような構造になっているため、内周側シール部がキズ付くのを防止できるメリットがある。
た、本体部の外周に係合部を、本体部の内周に内周側シールを設け、係合部および内周側シール部の位置を軸受押えの軸方向において本体部の一端に揃え、係止部および保護部を軸方向に揃えることにより、軸受押え用回転工具の軸方向の長さを短くできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態におけるラックピニオン舵取装置の縦断面図である。
図2】本発明の実施形態における軸受押え用回転工具の使用状態図である。
図3】本発明の実施形態における金型の水平断面図である。
図4】従来の舵取装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態について、図1乃至図2を参酌しつつ説明する。図1はラックピニオン式舵取装置の縦断面図であり、図2は軸受押え用回転工具の使用状態図である。なお、図1では、軸受押えの断面が表示され、図2では、軸受押えの外観が表示されている。
【0021】
ラックピニオン舵取装置10のギヤハウジング20にシャフト挿入穴21が形成され、シャフト挿入穴21に一対の軸受22、23が設置されている。これらの軸受22、23にピニオンシャフト24が回転可能に軸支され、ピニオンシャフト24にはピニオン24aが形成されている。ピニオンシャフト24には、軸受22の両側にフランジ部24bとリング溝24cが形成され、リング溝24cにリング25が嵌め込まれている。リング25とフランジ部24bによって、ピニオンシャフト24は軸受22に対し、ピニオンシャフト24の軸方向に移動不能に係止される。シャフト挿入穴21の開口側にはめねじ部21aが形成され、このめねじ部21aに軸受押え26が螺着されている。シャフト挿入穴21のピニオンシャフト24のフランジ部24bに対応する位置に段部21bが形成され、この段部21bと軸受押え26で軸受22を挟み込むことによって、軸受22はシャフト挿入穴21に軸方向に移動不能に係止される。シャフト挿入穴21の開口側の一端には、めねじ部21aの隣りに連続してめねじ部21aよりも大径の大径部21cが形成されている。
【0022】
前記軸受押え26は、略円筒状の本体部50と、本体部50の一端内周に加硫接着された内周側シール部51と、本体部50の外周にギヤハウジング20の大径部21aと対応する位置に加硫接着された外周側シール部52とからなっている。本体部50には、ギヤハウジング20のめねじ部21aに螺合するおねじ部50aが形成され、外周側シール部52を挟んでおねじ部50aと反対側には、図2に示すように係合部50bが形成されている。係合部50bは、六角ナットとほぼ同形状の六角頭を持っている。
【0023】
内周側シール部51は、ピニオンシャフト24の外周に接触する2つのリップ部51a、51bを持ち、本体部50に加硫接着される2つのフランジ部51c、51dと溝51eを持っている。詳細に説明すると、本体部50の一端には、半径内方へ突出したフランジ部50cが形成され、このフランジ部50cの内周に内周側シール部51の溝51eが嵌め込まれたような形で内周側シール部51が軸受本体50に加硫接着されている。外周側シール部52は、Oリングのようなゴム部材が本体部50の外周に加硫接着された形であり、外周側シール部52の内周側の断面は直線であり、外周側の断面は円弧状である。この円弧状の部分がギヤハウジング20の大径部21cに接触し、ギヤハウジング20と軸受押え26間をシールする。
【0024】
ギヤハウジング20の外周には、シャフト挿入穴21の開口側で保護カバー60が圧入固定され、保護カバー60の小径側の内周はピニオンシャフト24が回転可能に摺接している。ピニオンシャフト24のピニオン24aにラック軸12のラック12aが噛合し、ラック軸12はピニオンシャフト24と交差する方向に軸方向移動可能にギヤハウジング20に案内支持されている。
【0025】
ギヤハウジング20にはシャフト挿入穴21と交差する方向にガイド穴30が形成されている。このガイド穴30は円筒状の穴で、一端が外部に開口し、他端がシャフト挿入穴21に連通する。ガイド穴30はラック軸12よりも大径の穴であり、このガイド穴30にラックガイド31が摺動可能に案内されている。ガイド穴30の開口側の一端にはめねじ部30aが形成され、このめねじ部30aに蓋32が螺着されている。蓋32とラックガイド31間にはコイルバネ34が介挿され、コイルバネ34が半径方向に移動しないように、コイルバネ34はラックガイド31の蓋32側の端面に形成された収納穴31aに遊嵌されている。
【0026】
ラックガイド31のラック軸12側の端面には、ラック軸12の軸線回りに断面円弧状の取付け面31bが形成され、この取付け面31b全体に渡ってラック軸用シート40が固着されている。ラック軸用シート40にラック軸12の背面12bが摺動可能に当接しており、背面12bは、ラック軸12の軸線回りに断面円弧状に形成されている。前記ラックガイド31の取付け面31bには収納穴31aと連通する断面円形の貫通穴31cがラックガイド31の軸線方向に形成され、この貫通穴31cにラック軸用シート40の断面円形の突起40aが圧入されている。ラック軸用シート40は断面円弧状の一枚のシートであり、貫通穴31bに対応する位置のみ突起40aを形成した。よって、突起40aの前後は断面円弧状で、ラック軸12の背面12bに摺動可能に当接する。
【0027】
前記軸受押え26の本体部50は、材料として鉄あるいはアルミ合金を使用し、鍛造にて作られる。このときに、円筒状にかつ一端内周にフランジ部50cが、一端外周に係合部50bが形成される。鍛造成形後、本体部50の外周に切削によっておねじ部50aが形成される。
【0028】
次に、図3を使用して、軸受押え26の本体部50に内周側シール部51と外周側シール部52を加硫接着するゴム用射出成形について説明する。図略のゴム用射出成形機には、金型70が取付けられている。図3は、金型70の水平断面図である。金型70は、固定金型71と、この固定金型71に対し接近離間する可動金型72とからなり、固定金型71と可動金型72の互いに対向する面には、それぞれ円筒状の凹み71aとリング状の凹み72aが形成されている。
【0029】
可動金型72には、リング状の凹み72aの内側に固定金型72側は突出した円筒状の突出部72bが形成され、突出部72bの外径は本体部50の内径より若干小さい。突出部72bの固定金型71側の先端には、内周側シール部51の2つのリップ部51a、51bの内周面を形成する第1の形成面72cが形成され、さらに内周側シール部51のリップ部51bの外周面とフランジ部51dの側面を形成する第2の形成面72dが形成されている。
【0030】
固定金型71の凹み71aには、内周側シール部51のリップ部51aの外周面とフランジ部51cの側面を形成する第3の形成面71bが形成されている。固定金型71の第3の形成面71bと、可動金型72の第1の形成面72cと、第2の形成面72dと、軸受押え26の本体部50のフランジ部50cとで、内周用シール部51を成形する内周側シール部用空間75を作る。
【0031】
固定金型71には少なくとも2つの移動型73、74が凹み71aの半径方向に摺動可能に案内支持され、移動型73、74が半径内方へ摺動した状態においては、移動型73、74の内周側が本体部50の外周に接触するようになっている。移動型73、74の内周側には断面直線の接触面73a、74aがそれぞれ形成され、各接触面73a、74aに断面U字形状の溝73b、74bが形成されている。
【0032】
移動型73、74が内周側へ移動した状態において、接触面73a、74aは一つの内周面となり、溝73b、74bは一つの溝となる。移動型73、74が内周側へ移動した状態において、接触面73a、74aは本体部50の外周に接触し、溝73b、74bは本体部50の外周とで外周用シール部52を成形する外周側シール部用空間76を作る。前記固定金型71には、内周側シール部用空間75に連通する第1のゲート通路71cが形成され、第1のゲート通路71cの内周側シール部用空間75側がテーパ状になっている。また前記固定金型71と移動型74には、外周側シール部用空間76に連通する第2のゲート通路71d、74cが形成され、第2のゲート通路71d、74cの外周側シール部用空間76側がテーパ状になっている。
【0033】
固定金型71には、複数の押出しピン77が摺動可能に嵌挿され、これら押出しピン77は、軸受押え26を固定金型71から押出す役目を持っている。固定金型71の凹み71aの開口側に、外周側シール部52より若干大径の大径部71eが形成され、固定金型71から軸受押え64を抜くときに、内周側シール部52が固定金型71に干渉しない。
【0034】
ピニオンシャフト24の先には、図略のハンドルにかけて、図略のステアリングコラムが設置され、このステアリングコラムの部分にパワーアシストする電動モータと、電動モータの回転を減速してステアリングシャフトに伝達する減速機が設置されている。すなわち、コラム電動モータ式動力舵取装置に本実施形態を適用した。前記ラック軸12の両端には、図略の車輪が連結されている。
【0035】
ラック軸12は鉄の材質で主に作られており、ラック12aは鍛造によって形成され、切削と研磨によって背面12bが所定の寸法に加工される。摩耗を防ぐために、背面12bに焼入れ処理がなされる。ラック軸用シート40は、樹脂と金属の複層からなり、この樹脂層がラック軸12の背面12bに接触する。樹脂層の摩擦係数は非常に小さい。ラックガイド31はアルミ合金で作られており、鍛造によって円筒状になるようにかつ、取付け面31b、貫通穴31c、収納穴31aが形成される。
【0036】
次に上述した構成に基づき、図3を参照しながら軸受押え26の製造方法について説明する。固定金型71に対し可動金型72を離間させた状態で、鍛造にて作られた軸受押え26の本体部50を固定金型71の凹み71aに挿入する。本体部50の加硫接着される部分には、事前に下塗り接着剤と上塗り接着剤を事前に塗布しておく。下塗り接着剤は、本体部50と下塗り接着剤との接着力強化に役立ち、上塗り接着剤は下塗り接着剤に対して内周側シール部51と外周側シール部52の接着力強化に役立つ。つまり、下塗り接着剤、上塗り接着剤は、本体部50に対して内周側シール部51と外周側シール部52が上手くくっつくためのプライマーとしての役割を持つ。
【0037】
固定金型71に本体部50をセットしたら、移動型73、74を内周側へ移動させると同時に、可動金型72を固定金型71に当接するまで移動させる。続いて、内周側シール部用空間75へ第1のゲート通路71cを介してゴム材を射出注入し、外周側シール部用空間76へる第2のゲート通路71d、74cを介してゴム材を射出注入する。
【0038】
ゴム材は、特に制限はなく、天然ゴム、各種の合成ゴム、あるいはこれらのゴムを2種以上ブレンドしたブレンドゴムが挙げられ、これらのゴムにカーボンブラック、老化防止剤、架橋剤等の通常のゴム用添加剤を配合したものが用いられる。
【0039】
ゴム材を射出注入した後、加圧加熱すると、ゴム材が硬化して内周側シール部51、外周側シール52となり、本体部50に対して内周側シール部51と外周側シール52が加硫接着する。このように本体部50に対して内周側シール部51と外周側シール52が一体化して軸受押え26が作られる。次に、移動型73、74を外周側へ移動させると同時に、可動金型72を固定金型71に対して離間させる。軸受押え26から可動金型72を抜くときは、内周側シール部51のリップ部51bがゴムからなる弾性体であるので、リップ部51bを外周側へ弾性変形させてリップ部51bに対し第1の形成面72cが抜かれる。この後、押出しピン77を凹み71aへ突入させると、軸受押え26が凹み71aから押出される。
【0040】
こうして作られた軸受押え26は、これの製作会社側で品質検査と数量検査が行われ、舵取装置を組立てる舵取装置組立会社へ納入される。舵取装置組立会社側では、既に、内周側シール部51と外周側シール52が軸受押え26に組付けられているので、内周側シール部51と外周側シール52を組付ける組付けラインが不要となり、内周側シール部51と外周側シール52の品質検査と数量検査が不要となる。
【0041】
舵取装置組付会社において、ピニオンシャフト24に軸受22を嵌め込み、ピニオンシャフト24のリング溝24cにリング25を嵌め込む。こうして、軸受22はピニオンシャフト24に対して軸方向に移動不能に係止される。次に、ギヤハウジング20のシャフト挿入穴21に軸受23を挿入し、シャフト挿入穴21に軸受22を組付けたピニオンシャフト24を挿入する。
【0042】
ここで、軸受押え26を回すときに使用する軸受押え用回転工具80の構造を簡単に説明する。図2に示す軸受押え用回転工具80は、作業者が掴む棒状の取っ手部81と、取っ手部81の先端に固定された係止部82と、この係止部82に固定された板金状の保護部83とからなっている。前記係止部82には軸受押え26の係合部50bに回転方向に係合する六角形状の係止穴82aが形成され、また係止部82には一端は外側に連通し、他端は係止穴82aに連通する通し穴82bが形成されている。前記保護部83は、係止部82の端面に固定されるフランジ部83aと、このフランジ部83aに直角に固定された円筒状の筒部83bとからなっている。フランジ部83aには、ピニオンシャフト24を挿通できる挿通穴83cが形成されている。前記筒部83bの内径は、ピニオンシャフト24の内周側シール部51が嵌め込まれる部分の外径よりも若干大きめに作られている。
【0043】
このように作られた軸受押え用回転工具80を使って、軸受押え26を組付ける動作を説明する。軸受押え用回転工具80の筒部83bの外周に軸受押え26の内周側シール部51を嵌め込み、係止穴82aに軸受押え26の係合部50bを嵌め込む。軸受押え用回転工具80に軸受押え26を保持した状態で、筒部83bの内周側にピニオンシャフト24を通す。おねじ部50aをめねじ部21aにあてがい、軸受押え用回転工具80を回す。軸受押え26がギヤハウジング20に螺着され、外周側シール部52がギヤハウジング20の大径部21cに嵌めこまれ、軸受押え26が軸受22の外輪に当接する。
【0044】
こうして、ピニオンシャフト24は、ギヤハウジング20に対して回転可能に軸支され、軸方向移動不能に軸支される。軸受押え26、ピニオンシャフト24に対して軸受押え用回転工具80を抜き取る。このように、軸受押え26を軸受押え用回転工具80を使って回すときに、内周側シール部51のリップ部51a、51bをピニオンシャフト24の外周に接触させないようにしたため、リップ部51a、51bが傷付くことがなく、シール機能を損なうことがない。リップ部51a、51bから筒部83bを抜くときは、真っ直ぐ抜くため、リップ部51a、51bに傷が付く可能性は非常に少ない。
【0045】
軸受押え26組付け後、ピニオンシャフト24に保護カバー60の小径側を通し、保護カバー60の大径側をギヤハウジング20の外周に圧入し、固定する。続いて、ギヤハウジング20にラック軸12を挿通し、ラック軸12のラック12aをピニオンシャフト24のピニオン24aに噛合わせる。ガイド穴30にラックガイド31を挿入し、収納穴31aにコイルバネ34を挿入する。めねじ部30aに蓋32を螺着する。こうして、ラックピニオン舵取装置の組付けが完了する。
【0046】
次に、以上説明した構成に基づいて全体の動作を説明する。
【0047】
図略のハンドルを操作すると、ピニオンシャフト24が回転し、ラック軸12の軸方向の移動に変換され、図略の車輪の向きが変わる。ラック軸12は、ラック軸用シート40とピニオンシャフト24とで挟み込まれた状態で軸方向移動可能に支持される。
ラックガイド31は、ラック12aとピニオン24aの噛合い方向にガイド穴30に摺動可能に支持され、コイルバネ34によってラック軸用シート40が背面12bに当接する方向に押付けられる。
【0048】
ピニオンシャフト24は、一対の軸受22、23によって回転可能に軸支される。軸受22の外輪が軸受押え26と段部21bで挟み込まれ、軸受22の内輪がリング25とフランジ部24bで挟み込まれることによって、ピニオンシャフト24はギヤハウジング20に対して軸方向移動不能に軸支される。
【0049】
外周側シール部52の外周が大径部21cの内周に接触することによって、軸受押え26とギヤハウジング20間のシール機能が得られる。内周側シール部51の2つのリップ部51a、51bがピニオンシャフト24の外周に接触することによって、軸受押え26とピニオンシャフト24間のシール機能が得られる。外周側シール部52の内周は、軸受押え26の本体部50に加硫接着されているので、この間のシール機能は十分にある。内周側シール部51の外周は、軸受押え26の本体部50のフランジ部50cに加硫接着されているので、この間のシール機能は十分にある。
【0050】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0051】
上述した実施形態は、コラム電動モータ式動力舵取装置に適用したが、ラックハウジングに油圧シリンダも設け、この油圧シリンダでパワーアシストする油圧式動力舵取装置にも適用できる。ステアリングコラムに電動モータ、減速機を用いないマニュアル式にも適用できる。
【0052】
また、上述した実施形態は、軸受押え26の本体部50に外周側シール部52を加硫接着した例について述べたが、保護カバー60をギヤハウジング20に取付けたり、めねじ部21aとおねじ部50aの噛合い長さを長くしたりしてシール機能を高めれば、軸受押え26の外周側シール部52を廃止することも可能である。
【0053】
さらに、上述した実施形態は、軸受押え用回転工具80に六角形状の係止穴82aを形成した例について述べたが、フランジ部83aに複数のピンを直角に固定し、軸受押え26の端面にピンが挿入されるピン穴を形成しても良い。この場合、ピン穴にピンを引っ掛けて軸受押え用回転工具を回す。
【符号の説明】
【0054】
12:ラック軸、12a:ラック、20:ギヤハウジング、21:シャフト挿入穴、21a:めねじ部(ネジ部)、21b:段部、22:軸受、23:軸受、24:ピニオンシャフト、24a:ピニオン、24b:フランジ部、24c:リング溝、25:リング、26:軸受押え、30:ガイド穴、31:ラックガイド、32:蓋、34:コイルバネ、40:ラック軸用シート、50:本体部、50a:おねじ部、50b:係合部、51:内周側シール部、52:外周側シール部、80:軸受押え用回転工具、81:取っ手部、82:係止部、83:保護部
図1
図2
図3
図4