【実施例1】
【0013】
図1は、実施例1に係る位相評価装置200と、位相評価装置200が測定対象とする光伝送装置100の全体構成とを示す図である。
図2は、後述する90°ハイブリッド70の詳細図である。位相評価装置200は、90°ハイブリッド70のI成分およびQ成分の正負各出力を取得する取得部として機能するオシロスコープ201、ソフトウェア処理などによりI成分およびQ成分のそれぞれに対し正負各出力を補正する演算部202、演算部202が得た値を用いて90°ハイブリッド70の位相評価を行う評価部203、などを備える。
【0014】
図1に示すように、光伝送装置100は、光源10、スプリッタ20、アッテネータ30、LN位相変調器40、偏波コントローラ50a,50b、関数発生器60、90°ハイブリッド70、PD用電源80などを備える。光源10は、特に限定されるものではないが、本実施例においては半導体レーザである。スプリッタ20は、光源10から出力された光信号を所定の比率で分岐する分岐器である。
【0015】
アッテネータ30は、スプリッタ20による分岐で得られた2つの光信号の一方のパワーレベルを減衰させる減衰器である。アッテネータ30から出力された光信号は、偏波コントローラ50aに入力される。偏波コントローラ50aは、入力された光信号の偏光状態を制御する。偏波コントローラ50aから出力された光信号は、90°ハイブリッド70の信号光端子に信号光として入力される。
【0016】
LN位相変調器40は、スプリッタ20による分岐で得られた2つの光信号の他方に対して低周波変調処理を行う変調器である。LN位相変調器40の低周波変調処理は、関数発生器60によって制御される。LN位相変調器40から出力された光信号は、偏波コントローラ50bに入力される。偏波コントローラ50bは、入力された光信号の偏光状態を制御する。偏波コントローラ50bから出力された光信号は、90°ハイブリッド70の局発光端子に局発光として入力される。
【0017】
図2に示すように、90°ハイブリッド70の信号光端子に入力された信号光は、入力導波路71aを介して光分岐部72aによって2つに分岐される。90°ハイブリッド70の局発光端子に入力された局発光は、入力導波路71bを介して光分岐部72bによって2つに分岐される。光分岐部72aによる分岐によって得られた2つの光は、それぞれアーム導波路73a,73bを介して光結合部74a,74bに入力される。光分岐部72bによる分岐によって得られた2つの光は、それぞれアーム導波路73c,73dを介して光結合部74a,74bに入力される。
【0018】
光結合部74a,74bに入力された信号光および局発光は、各々、合波されて干渉し、得られる干渉光の位相差が180度になるように2つに分岐されて出力される、光結合部74aから出力される信号光と局発光との干渉光は、出力導波路75a,75bを経由して差動受光部76aに入力される。光結合部74bから出力される信号光と局発光との干渉光は、出力導波路75c,75dを経由して差動受光部76bに入力される。なお、差動受光部76a,76bの各受光素子(PD:Photo Diode)には、PD用電源80から動作に必要な電流が供給される。
【0019】
4本のアーム導波路73a〜73dのうちいずれかに90度位相シフト部が設けられている。本実施例においては、アーム導波路73dに90度位相シフト部77が設けられている。それにより、光結合部74a,74bの各々から出力導波路75a〜75dを介して出力される干渉光を差動受光部76a,76bで差分検波することにより、入力された信号光をI成分の正相成分および逆相成分とQ成分の正相成分および逆相成分とに分離することができる。I成分とは、In−Phase成分のことであり、Q成分とは、Quadrature成分のことである。
【0020】
差動受光部76a,76bの各受光素子とPD用電源80とを接続する配線78a〜78dには、それぞれ抵抗79a〜79dが設けられている。位相評価装置200のオシロスコープ201は、配線78a〜78dにおいて、抵抗79a〜79dの前後の電圧を測定することによって、差動受光部76a,76bの各受光素子の出力電流(PD電流)を測定する。
【0021】
図3は、位相評価装置200のオシロスコープ201が測定するPD電流と位相との関係を示す図である。
図3においては、I成分の正相成分および逆相成分とQ成分の正相成分および逆相成分とが表されている。
図3に示すように、各成分は、正弦波として表される。
図3において、I成分とQ成分との位相差φは、一例としてI成分の正相成分のピークとQ成分の正相成分のピークとの間の位相差である。I成分とQ成分との位相ずれは、90°になることが理想である。I成分の正相成分は、下記式(1)で表される。Q成分の正相成分は、下記式(2)で表される。
【数1】
【数2】
【0022】
図4は、オシロスコープ201が測定したPD電流から算出したリサージュの一例である。I成分とQ成分との位相差が理想的な90°である場合、リサージュ図は円形となる。I成分とQ成分との位相差が90°からずれると、
図4に示すように、リサージュ図は楕円となる。I成分とQ成分との位相差φは、I成分方向におけるリサージュ図の長さaとQ成分=0におけるリサージュ図のI成分方向の長さbとを用いて、下記式(3)で表される。
【数3】
【0023】
入力される信号光にパワー変動が生じると、リサージュ図として得られる円が歪む。
図5は、リサージュ図として得られる楕円がパワー変動に伴って歪んだ例を示す。
図5に示すようにリサージュが歪むと、位相差の計算値に誤差が生じる。そこで、本実施例においては、90°ハイブリッド70に入力される光パワーの変動の影響を回避する処理について説明する。
【0024】
90°ハイブリッド70に入力される光パワーの揺らぎは、原理的に干渉系での位相差に影響を与えない。したがって、パワー変動分を補正することによって、計算誤差を解消することができる。しかしながら、90°ハイブリッド70からの出力信号は前述のように正弦波になっているため、信号周期に近い短周期パワー変動を補正することは困難である。
【0025】
ここで、90°ハイブリッド70の出力は、干渉された光が正相成分と逆相成分とに分離され、差動信号として取り出される。入力光パワーは、一定の伝送ロス以外は全てがその両者に振り分けられる。したがって、理想状態では、この差動信号の和が一定値となる。そこで、位相評価装置200の演算部202は、I成分およびQ成分のそれぞれに対し、補正後の正負各出力の和が一定になるように正負各出力を補正する。それにより、入力光パワーの揺らぎの影響を抑制することができる。
【0026】
例えば、差動信号の和が入力光パワーと比例関係にあることを利用し、演算部202は、オシロスコープ201が取得した正負各出力を、90°ハイブリッド70への入力光パワーに比例する値で補正する。具体的には、下記式(4)および下記式(5)のように、正相信号および逆相信号の受光電流値を差動出力の合計値で除することによって、パワー変動の影響を回避する。なお、A
i(t),A
q(t)は、I成分およびQ成分それぞれにおける各測定点での正相信号と逆相信号との合計値である。この手順によれば、信号周期と同程度またはそれ以下の短周期のパワー変動に対しても補正が可能となる。
【数4】
【数5】
【0027】
なお、I
p,nは、I成分の正相成分または逆相成分のいずれか一方のことである。I
p,nとしてI成分の正相成分の値を用いた場合には、補正値I´
p,nは、正相成分の補正値を示す。同様に、Q
p,nは、Q成分の正相成分または逆相成分のいずれか一方のことである。Q
p,nとしてQ成分の正相成分の値を用いた場合には、補正値Q´
p,nは、正相成分の補正値を示す。演算部202は、補正値I´
p,nおよび補正値Q´
p,nを用いてリサージュ図を作成する。
図6は、補正値I´
p,nおよび補正値Q´
p,nを用いて作成されたリサージュ図の一例である。
【0028】
なお、リサージュ図を描く際にノイズの影響を除去するために個々の信号を最小二乗法により処理して上記式(1)〜(3)のe,f,φの値を決定しようとすると、個々の出力データに時間の項が含まれることから、位相揺らぎの影響を内在させてしまうことになる。この場合、上記式のe,f,φの測定精度が低下するおそれがある。
【0029】
そこで、本実施例においては、さらに、時間の項を含まないデータ処理を実現する。まず、演算部202は、ノイズ成分の影響を回避するために、得られたリサージュ図に対して最小二乗法を適用する。次に、
図6に示すように、リサージュ図が楕円になる場合、演算部202は、楕円フィッティング(楕円近似)によって下記式(6)〜(8)を満たす楕円パラメータを抽出する。ここで、「a」は楕円フィッティングによって得られるx軸方向の楕円長さの半分の値である。「b」は楕円フィッティングによって得られるy軸方向の楕円長さの半分の値である。「θ」はx軸とI軸とがなす角度である。
【0030】
下記式(7),(8)を下記式(6)に代入することによって、下記式(9)が得られる。この式(9)を用いて時間項を含まずに最小二乗法を適用することによって、精度の高い楕円のパラメータを導出することができる。式(9)を用いることによって、下記式(10)を得ることができ、位相差φが得られる。
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【0031】
入力光パワーの揺らぎの補正および楕円フィッティングを組み合わせることによって、位相差の測定値バラつきを大きく改善することができる。
図7は、位相差のバラツキを示す図である。
図7に示すように、入力光パワーの揺らぎの補正も楕円フィッティングも行わなかった場合には、位相差のバラツキ±3.6°であった。これに対して、楕円フィッティングを行った場合には位相差のバラツキが減少し、入力光パワーの揺らぎの補正および楕円フィッティングの両方を組み合わせることによって、位相差のバラツキを±0.3°程度まで減少させることができた。
【0032】
本実施例によれば、補正後の正相信号および逆相信号の和を一定に保つよう、正相信号および逆相信号の受光電流値を補正していることから、パワー変動の影響を回避することができる。それにより、正確な位相評価を行うことができ、良品を判別することができる。さらに、得られるリサージュ図に対して時間項が含まれないように楕円フィッティングすることによって、位相揺らぎの影響も回避することができる。
【0033】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。