(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電縫管の電縫溶接部は材質や組織、形状が次のような点で母材と異なる特徴がある。第一には、溶接時の溶融によって高温にさらされることで炭素原子が拡散するため脱炭層が存在しており、母材よりも強度が低い点がある。第ニには、溶接時に高温で大気下にさらされるため、酸化物が電縫溶接部に混入・残留する可能性があり、割れの起点となりうる点がある。第三には、ビード切削部が母材に対して0.3mm以下程度肉厚が薄いことから、ビード切削部において母材よりも強度が低い点がある。第四には、溶接後に熱処理を行わない場合、電縫溶接部近傍に熱影響部(HAZ)が形成されている点がある。このため、最終製品としての電縫管を用いて種々の構造物を製作するうえで、その電縫管に対して穴あけ加工、溶接加工等の二次加工をする場合、構造信頼性の向上を図る観点からは、電縫溶接部や熱影響部を避けた部位又は電縫溶接部のある部位に意図的に二次加工をすることが重要となる。
【0006】
しかしながら、上述のようにビード112を除去して得られた電縫管は、電縫溶接部111とそれ以外の部位とが外観上明瞭に区別しにくく、電縫溶接部のある部位を作業員が視認により識別することが困難であるという問題点がある。特に、電縫管の製造工程において電縫管の絞り加工をする場合、電縫管そのものの変形によって電縫溶接部111とそれ以外の部位とが一層区別しにくくなり、この問題点が更に助長されることになる。
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、最終製品としての電縫管を用いるうえで、電縫溶接部のある部位を容易に識別することを可能とする電縫管及び電縫管の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述した課題を解決するために、鋭意検討の末、下記の電縫管及び電縫管の製造方法を発明した。
【0009】
第
1発明に係るローレット加工治具は、ホルダーと、前記ホルダーにより支持されたシャフトと、
前記シャフトが挿通された環状のローレット駒と、前記シャフトと前記ローレット駒との間に介装された転がり軸受けとを備え、
前記転がり軸受けは、玉からなる転動体を有するとともに、前記シャフトには、前記転動体に潤滑剤を供給するための流路が形成され、前記ローレット駒は、
前記流路を介して潤滑剤が供給されている前記転がり軸受け
の前記転動体により前記シャフトに対して回転自在に支持されて
おり、前記ローレット駒により、造管工程における電縫溶接直後の電縫管の電縫溶接部にノッチを刻印することを特徴とする。
【0010】
第
2発明に係るローレット加工治具は、第1発明において、前記ホルダーは、互いに間隔を空けて設けられた一対の支持部を有し、前記シャフトは、前記一対の支持部により支持され、前記ローレット駒は、前記一対の支持部間に配置され、前記転がり軸受けにより前記シャフトに対して回転自在に支持されていることを特徴とする。
【0011】
第
3発明に係る電縫管の製造方法は、連続的に走行する金属帯を筒状に成形し、前記金属帯の板幅方向両端部を電縫溶接する電縫管の製造方法において、前記電縫管の電縫溶接部において当該電縫管の外周面から突出するビードを切削するビード切削工程と、前記電縫溶接部に金属帯走行方向に沿ってノッチを刻印する刻印工程とを有
し、前記刻印工程では、
請求項1又は2記載のローレット加工治具を用いて
造管工程における前記電縫溶接直後の前記電縫溶接部に前記ノッチを金属帯走行方向に間隔を空けて刻印することを特徴とする。
【0012】
第4発明に係る電縫管の製造方法は、第3発明において、前記刻印工程では、請求項1又は2記載のローレット加工治具を用いて前記電縫管の肉厚の10%以下、且つ、0.30mm以下の深さのノッチを形成することを特徴とする。
【0013】
第
5発明に係る電縫管の製造方法は、連続的に走行する金属帯を筒状に成形し、前記金属帯の板幅方向両端部を電縫溶接する電縫管の製造方法において、前記電縫管の電縫溶接部において当該電縫管の外周面から突出するビードを切削するビード切削工程と、前記電縫管の外周面の前記電縫溶接部に対応する部位に金属帯走行方向に沿ってノッチを刻印する刻印工程とを有
し、前記刻印工程では、切削加工により金属帯走行方向に連続的に延びる前記ノッチを刻印することを特徴とする。
【0014】
第
6発明に係る電縫管の製造方法は、第
5発明において、前記刻印工程では、前記電縫溶接部の部位を視認により識別可能とするため当該電縫溶接部に対応する部位に前記ノッチを刻印することを特徴とする。
【0015】
第
7発明に係る電縫管の製造方法は、第
3発明〜第
6発明
の何れかにおいて、前記刻印工程では、最終製品の管軸方向長さが0.1mm以上となるように前記ノッチを刻印することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
第
1発明、第
2発明によれば、
前記ローレット駒は、前記流路を介して潤滑剤が供給されている前記転がり軸受けの前記転動体により前記シャフトに対して回転自在に支持されており、前記ローレット駒により、造管工程における電縫溶接直後の電縫管の電縫溶接部にノッチを刻印するため、ローレット駒の回転による摩擦が抑えられ、摩擦に伴う温度上昇による焼きつきの発生を有効に防止することが可能となる。また、転がり軸受けの介装位置がローレット駒とシャフトとの間であるため、転がり軸受けの転動体と外輪や内輪との間の転動面に対する面圧の増大を抑え、摩擦に伴う温度上昇による焼きつきの発生をより有効に防止することが可能となる。
【0023】
特に、第
2発明によれば、ローレット加工するときのシャフトのたわみを抑えることが可能となり、これにより、所望の寸法のノッチを安定して得ることが可能となる。
【0024】
第
3発明〜第
7発明によれば、電縫溶接部に対応する部位にノッチが形成された電縫管が得られるので、ノッチを視認により識別することにより、電縫溶接部の部位も併せて識別することが可能となる。このため、最終製品としての電縫管を用いて種々の構造物を製作するうえで、その電縫管に対して穴あけ加工、溶接加工等の二次加工をする場合に、電縫溶接部やその電縫溶接部の近傍にある熱影響部を避けた部位又は電縫溶接部のある部位に意図的に二次加工することが可能となり、その電縫管を用いて製作された構造物の構造信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0025】
また、電縫溶接部の識別方法としてはノッチの他に塗料の塗布が考えられるが、塗料は熱処理や錆の除去を目的とした酸洗工程により除去されてしまう。しかしながら、ノッチは酸洗工程により除去されないことから、第
3発明〜第
6発明により、酸洗工程がある場合でも電縫溶接部を識別することが可能となる。
【0026】
特に、第
6発明によれば、ノッチについて良好な視認性を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を適用した電縫管及びその製造方法を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
電縫管1は、後述のように、筒状に成形された金属帯2の板幅方向両端部2aが電縫溶接されてなるものであり、
図1〜
図3に示すように、筒状の電縫管本体10と、その電縫管本体10の外周面10aより窪むように管軸方向に沿って形成されたノッチ20とを備えている。
【0030】
電縫管本体10は、後述のように、電縫溶接部11においてその電縫管本体10の外周面10aから突出するビード12が切削されてなるものである。なお、
図2においては、電縫管本体10の電縫溶接部11の近傍に熱影響部13があるものを図示しており、説明を容易にするため、電縫溶接部11、熱影響部13を電縫管本体10の他の部位に対して区別して記載している。電縫管本体10は、図示の例において、円筒状に成形されているが、この他にも角筒状等に成形されていてもよい。
【0031】
ノッチ20は、電縫溶接部11のある部位を視認により識別可能とするためのマーキングとして形成される。ノッチ20は、このような目的を達成するため、電縫管本体10の外周面10aの電縫溶接部11に対応する部位に形成される。ノッチ20は、第1実施形態において、管軸方向に間隔を空けて複数のものが形成されている。ノッチ20は、
図4に示すように、管軸方向に沿って長く連続的に延びるように単一のものが形成されていてもよい。
【0032】
ノッチ20は、第1実施形態において、電縫管本体10の外周面10aに形成された電縫溶接部11のビード切削面11aを通るように形成されており、ノッチ20のある部位が電縫溶接部11のある部位であることを視認により容易に識別可能となっている。この他にも、ノッチ20は、例えば、電縫管本体10の外周面10aにおいてビード切削面11aに対して周方向に180°又は90°等の所定角度ずれた位置に形成されていてもよい。この場合、ノッチ20が電縫溶接部11に形成されていなくとも、電縫溶接部11のある部位を識別することが可能となる。なお、このノッチ20と電縫溶接部11との周方向での相対位置に関する情報については、電縫管1を二次加工するうえで作業者が予め把握できるように、電縫管1の製品出荷段階で強度等の品質情報とともに管理しておくのが好ましい。
【0033】
ノッチ20は、第1実施形態において、管周方向と略平行な溝状に形成されており、その溝形状としてV溝状に形成されている。溝状のノッチ20は、管周方向に対して傾斜して形成されていてもよいし、V溝状の他にU溝状等に形成されていてもよい。また、溝状のノッチ20は、管軸方向に間隔を空けて平行に形成された複数のノッチ群を一単位として、複数のノッチ群が格子状をなすように互いに交差して形成されていてもよい。また、ノッチ20は、溝状の他に孔状に形成されていてもよい。
【0034】
ノッチ20は、ノッチ20そのものが視認により識別可能となる大きさに形成されている。このため、ノッチ20は、その管軸方向長さWが0.1mm以上となるように形成されていることが好ましい。管軸方向長さWが0.1mm未満であると、ノッチ20の管軸方向長さWが狭くなりすぎることにより、電縫管本体10とノッチ20との間でコントラストが生じ難くなり、視認性の低下を招いてしまう。この管軸方向長さWは、その上限値について特に定めるものではなく、
図4に示すような形態の場合は、電縫管本体10の管軸方向長さと同程度の長さであってもよい。
【0035】
また。ノッチ20は、その深さDがあまりに深すぎると電縫管本体10の強度等の物性の低下を招く恐れがある。このため、ノッチ20は、電縫管本体10の本来の物性を損なうことなく視認性を得る観点から、その深さDが電縫管本体10の肉厚の10%以下となるように形成されていることが好ましい。この数値条件は、JIS G3445等において区分2号での鋼管肉厚の寸法許容差が±10%であることに基づいて設定した。深さDが電縫管本体10の肉厚の10%超であると、電縫管本体10の物性の低下を招く恐れがある。また、一般には、電縫管1の外面欠陥を検出するうえで、円筒状のコイル内に電縫管1を貫通させて欠陥を検出する貫通型渦流探傷装置が用いられているが、ノッチ20の深さDが0.30mm超であるとS/N比の低下を招き、欠陥の検出精度の低下を招く。従って、ノッチ20は、その深さDについて0.30mm以下とすることがより好ましい。
【0036】
次に、上述の電縫管1を製造するうえで好適な本発明に係る電縫管の製造方法の一実施形態について説明する。なお、以下においては、上述した電縫管本体10を単に電縫管1と記載して説明する。
【0037】
まず、電縫管1の素材となる金属帯2をアンコイラから巻き戻した後、複数の成形ロールにより金属帯2を筒状に成形してオープン管とする。
【0038】
続いて、
図5、
図6(a)に示すように、誘導加熱又は通電加熱による加熱によって、オープン管とした金属帯2の互いに突き合わせた板幅方向両端部2aを溶融させて、その状態のまま一対のスクイズロール31により金属帯2の板幅方向両端部2a同士を押圧させることによって、その両端部2a同士を電縫溶接して電縫溶接部11を形成する。図示においては、誘導加熱コイルによる誘導加熱により金属帯2を加熱する場合を例示している。通電加熱により加熱する場合、一対のコンタクトチップにより高周波電流を通電することにより行われる。
【0039】
続いて、
図5に示すように、電縫管1の電縫溶接部11において電縫管1の外周面1aから突出するビード12をバイト等の切削治具32により切削する。この切削治具32は、スクイズロール31の後段側に配設されている。このとき、
図6(b)に示すように、電縫管1の外周面1aと電縫溶接部11の外周面とが揃うようにそのビード12を切削する。なお、必要に応じて、電縫管1の内周面から突出するビード12も電縫管1内に配設される切削治具32により切削してもよい。
【0040】
続いて、
図5、
図6(c)、
図7に示すように、電縫管1の外周面10aの電縫溶接部11に対応する部位に金属帯走行方向Pに沿ってノッチ20を刻印する。第1実施形態においては、電縫溶接部11のビード切削面11aを通るように金属帯走行方向Pに間隔を空けて複数のノッチ20を刻印している。また、第1実施形態においては、ローレット加工治具40を用いたローレット加工により複数のノッチ20を刻印している。このローレット加工治具40は、切削治具32の後段側に配設されている。
【0041】
このようにビード12の切削後にノッチ20を刻印することとしたのは次の理由による。電縫管1の造管工程では、走行距離が長くなるほど電縫管1が回転してしまい、電縫管1の周方向の何れの部位が電縫溶接部11であるかを外観上識別することが困難となり、その結果、電縫溶接部11に対応する所定の部位にノッチ20を刻印することが困難となる。これに対して、ビード12の切削後であれば、切削治具32の配設位置が電縫溶接部11であることが明らかであるため、その切削治具32の後段側において切削治具32の配設位置に対応した位置にローレット加工治具40を配設すれば、電縫溶接部11に対応する所定の部位にノッチ20を刻印することが可能となるためである。
【0042】
ローレット加工治具40は、ホルダー41に対して回転自在に取り付けられたローレット駒42を備えている。ローレット駒42は、その外周面42aに周方向に連続した凹凸が形成されている。ローレット加工治具40は、ローレット駒42の回転軸が金属帯走行方向Pと直交するように配設される。電縫管1の外周面1aに複数のノッチ20を刻印するうえでは、ローレット駒42の外周面42aを電縫管1の外周面1aに対して押し付けるようにした状態で電縫管1を走行させ、これにより、ローレット駒42の外周面42aの凹凸形状に応じたローレット目が電縫管1の外周面1aに転造されることによりローレット加工が行なわれ、複数のノッチ20が刻印されることになる。このローレット駒42の外周面10aの凹凸形状、寸法を調整することにより、様々な形状、寸法のノッチ20が刻印される。
【0043】
なお、ローレット加工治具40は、ホルダー41そのものを保持した状態のまま配設することとしてもよいし、ピストン、シリンダー等により電縫管1の外周面10aに対して押し付け力を負荷することとしてもよい。
【0044】
また、
図4に示すような、電縫管本体10の管軸方向に沿って長く連続的に延びるノッチ20を刻印する場合、ビード12を切削する切削治具32とは別の切削治具により、電縫管1の外周面10aの電縫溶接部11に対応する部位を切削加工するようにすればよい。
【0045】
ノッチ20の刻印後は、例えば、所要の製品寸法となるようにストレッチレデューサにより絞り加工を行う、サイジングロールにより外径、肉厚を調整する、タークスヘッド又は矯正機により曲がりを除去する等の公知の後工程を実行した後、所要の長さとなるように切断装置により切断する。以上の一連の造管工程が連続的に行われることにより電縫管1が造管される。
【0046】
なお、上述の造管工程を経て製造された電縫管は造管ままで用いてもよいし、必要に応じて熱処理加工や絞り加工を造管工程の後工程として行うこととしてもよい。また、造管工程や後工程において絞り加工を行う場合、電縫管1そのものの変形によって、刻印後のノッチ20の寸法より最終製品のノッチ20の寸法の方が小さくなってしまう。このため、絞り加工等の電縫管1の管軸直交断面の形状が変化するような加工を行なう場合、目的とする最終製品のノッチ20の寸法が得られるように、刻印時のノッチ20の寸法が大きめとなるように調整する必要がある。
【0047】
以上によれば、電縫溶接部11に対応する部位にノッチ20が形成された電縫管1が得られるので、ノッチ20を視認により識別することにより、電縫溶接部11の部位も併せて識別することが可能となる。このため、最終製品としての電縫管1を用いて種々の構造物を製作するうえで、その電縫管1に対して穴あけ加工、溶接加工等の二次加工をする場合に、電縫溶接部11やその電縫溶接部11の近傍にある熱影響部13を避けた部位又は電縫溶接部11のある部位に意図的に二次加工することが可能となり、その電縫管1を用いて製作された構造物の構造信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0048】
また、電縫溶接部11の識別方法としてはノッチ20の他に塗料の塗布が考えられるが、塗料は熱処理や錆の除去を目的とした酸洗工程により除去されてしまう。しかしながら、ノッチ20は酸洗工程により除去されないことから、本願発明の適用により、酸洗工程がある場合でも電縫溶接部11を識別することが可能となる。
【0049】
次に、本発明に係る電縫管の製造方法に好適に用いられるローレット加工治具40について説明する。
【0050】
上述のように、電縫溶接直後の電縫管1は、その電縫溶接部11が非常に高温であるうえ、その走行速度が非常に高速である。このため、
図8に示すように、ローレット駒42の中心孔42bにシャフト43が挿通され、そのシャフト43により直接的にローレット駒42を回転自在に支持するローレット加工治具40を用いてローレット加工する場合、ローレット駒42とシャフト43との間での滑り摩擦による温度上昇により焼きつきが非常に発生し易い。この傾向は、ローレット駒42とシャフト43との間に潤滑剤が塗布されていても同様である。
【0051】
これに対して、
図9に示すように、ローレット駒42とシャフト43との間に転がり軸受け44が介装され、ローレット駒42を転がり軸受け44によりシャフト43に対して回転自在に支持するローレット加工治具40を用いてローレット加工する場合、ローレット駒42の回転による摩擦が抑えられ、摩擦に伴う温度上昇による焼きつきの発生を有効に防止することが可能となる。本発明者は、このような知見から、以下のようなローレット加工治具40を用いることが有効であることを知見した。
【0052】
第1実施形態に係るローレット加工治具40は、ホルダー41と、ホルダー41により支持されたシャフト43と、シャフト43が挿通された環状のローレット駒42と、シャフト43とローレット駒42との間に介装された転がり軸受け44とを備えている。
【0053】
ホルダー41は、第1実施形態において、互いに間隔を空けて設けられた一対の支持部41aを有している。一対の支持部41aには、同軸線上に並ぶように挿通孔41bが形成されている。ホルダー41は、その先端部において一対の支持部41aが設けられており、その基端部が固定されている。
【0054】
シャフト43は、第1実施形態において、その基端側に設けられたシャフト頭部43aと、その先端側に設けられた雌ねじ部43bとを備えている。シャフト43は、一対の支持部41aの挿通孔41bとローレット駒42の中心孔42bとに挿通されたうえで、雌ねじ部43bにナット45を螺合することによって、一対の支持部41aにより支持されるようにホルダー41に対して固定される。シャフト43は、その軸方向中間側のシャフト軸部43cが一対の支持部41aの挿通孔41bに対して、直接又はカラー46等を介して嵌め合わせて挿通される。
【0055】
ローレット駒42は、第1実施形態において、一対の支持部41a間に配置されている。ローレット駒42は、その外周面42aに周方向に連続した凹凸が形成されている。ローレット駒42の中心孔42bは、第1実施形態において、回転軸方向の中間側に設けられた小径部42cと、回転軸方向の両側に設けられた二つの大径部42dとを備えている。
【0056】
転がり軸受け44は、外輪44aと、内輪44bと、外輪44aと内輪44bとの間に介装された玉等からなる転動体44cとを備えている。転がり軸受け44は、ローレット駒42の大径部42d内に外輪44aを嵌め合わせて固定される。また、シャフト43は、転がり軸受け44の内輪44b内にシャフト軸部43cが嵌め合わせて挿通される。
【0057】
ローレット駒42の回転軸方向の両側に設けられた一対の転がり軸受け44は、外輪44aと内輪44bとの間に形成された回転軸方向外側の側面開口部44dがシール44eにより塞がれており、その一対の転がり軸受け44間や外輪44aと内輪44bとの間に形成された隙間部44f内に図示しない潤滑剤が充填される。また、シャフト43には、その隙間部44f内に図示しない潤滑剤を供給するための流路43dが形成されている。
【0058】
以上のローレット加工治具40によれば、ローレット駒42が転がり軸受け44によりシャフト43に対して回転自在に支持されているため、ローレット駒42の回転による摩擦が抑えられ、摩擦に伴う温度上昇による焼きつきの発生を有効に防止することが可能となる。
【0059】
また、転がり軸受け44の介装位置がローレット駒42とシャフト43との間であるため、以下に説明するように、転動体44cと外輪44aや内輪44bとの間の転動面に対する面圧の増大を抑え、摩擦に伴う温度上昇による焼きつきの発生をより有効に防止することが可能となる。
【0060】
即ち、転がり軸受け44の介装位置としては、ローレット駒42とシャフト43との間の他に、ホルダー41の挿通孔41bとシャフト43との間が考えられる。この場合は、ローレット駒42と一体的にシャフト43が回転し、転がり軸受け44によりホルダー41に対して回転自在にシャフト43を支持することになる。この場合は、ローレット駒42から電縫管1に対する押し付け荷重の反力により、シャフト43を介して転がり軸受け44に対して曲げ力が作用することになる。そして、このような曲げ力が作用した状態のままホルダー41の挿通孔41b内で転がり軸受け44の転動体44cや内輪44bがシャフト43の軸回りに回転運動するため、転動体44cと外輪44aや内輪44bとの間の転動面に対する面圧がその曲げ力の分だけ増大してしまい、焼きつきが発生し易くなる。
【0061】
これに対して、上述の実施形態に係るローレット加工治具40によれば、このような曲げ力が作用せず、転動面に対する面圧の増大が抑えられ、摩擦に伴う温度上昇による焼きつきの発生を有効に防止することが可能となる。
【0062】
また、上述の実施形態に係るローレット加工治具40においては、ローレット駒42がホルダー41の一対の支持部41a間に配置され、一対の支持部41aにより支持されたシャフト43に対して回転自在にローレット駒42が支持されている。このため、ローレット駒42を電縫管1の外周面に押し付けてローレット加工するときに、シャフト43の軸が曲げ変形するようなシャフト43のたわみを抑えることが可能となる。シャフト43にたわみが発生してしまうと、電縫管1の外周面1aに対するローレット駒42の接触位置が変化してしまうことによって、所望の寸法のノッチ20を精度よく得ることが困難となるが、上述の実施形態に係るローレット加工治具40によれば、そのシャフト43のたわみを抑えることにより、所望の寸法のノッチ20を安定して得ることが可能となる。
【0063】
また、上述の実施形態に係るローレット加工治具40においては、転がり軸受け44の側面開口部44dがシール44eにより塞がれているので、ビード12の切削加工やローレット加工により発生する粉屑の転がり軸受け44内の浸入を防止し、その浸入による粉屑の凝着を防止することが可能となる。
【0064】
なお、上述のローレット加工治具40は、一対の支持部41aを一つのみとしてもよいし、ローレット駒42とシャフト43との間に介装される転がり軸受け44の数についても限定するものではない。
【0065】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0066】
また、電縫管1は、その外径について、例えば、10mm〜700mmのものから構成されるが、これに限定するものではない。また、電縫管1は、その材質について、鋼材に限定されず、電縫管として公知のものであれば特に限定するものではない。
【実施例1】
【0067】
以下、本発明の効果を実施例により更に説明する。
【0068】
図4に示すように、連続的に走行する金属帯2を複数の成形ロールにより筒状に成形してオープン管とし、誘導加熱により金属帯2の板幅方向両端部2aを電縫溶接し、電縫溶接部11において外周面から突出するビード12をバイトにより切削し、ローレット加工治具40を用いたローレット加工により金属帯走行方向Pに間隔を空けて複数のノッチ20を刻印した。この後、適当な長さとなるように切断し、下記の表1に示すような、最終製品の外径、肉厚の電縫管1を得た。このとき、ローレット駒42の外周面10aの凹凸形状を調整することにより、下記の表1に示すような、最終製品のノッチ20の寸法を調整した。
【0069】
【表1】
【0070】
得られた電縫管1については、ノッチ20の寸法による視認性を評価するため、以下に説明するような試験を行なった。
【0071】
ノッチ20の視認性については、ノッチ20から300mmの間隔を空けた位置より視力0.9の人間が肉眼で観察することにより評価した。この観察によりノッチ20を識別できる場合を合格とし、識別できない場合を不合格とした。
【0072】
製造No.A〜D、Fは発明例である。これらは何れも観察者により離れた位置から観察することができ、良好な視認性が得られた例である。製造No.Eは参考例である。製造No.Eは、ノッチ20の管軸方向長さWが小さすぎたため、視認性の低下を招いた例である。