(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5803670
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】板状部材の移送装置及び吸着パッド
(51)【国際特許分類】
B65G 49/06 20060101AFI20151015BHJP
H01L 21/677 20060101ALI20151015BHJP
【FI】
B65G49/06 A
H01L21/68 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-524098(P2011-524098)
(86)(22)【出願日】2011年6月6日
(86)【国際出願番号】JP2011062938
(87)【国際公開番号】WO2011155443
(87)【国際公開日】20111215
【審査請求日】2014年1月21日
(31)【優先権主張番号】特願2010-130010(P2010-130010)
(32)【優先日】2010年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】小山 範男
(72)【発明者】
【氏名】橋本 隆志
【審査官】
鈴木 崇文
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−263484(JP,A)
【文献】
実開平05−013911(JP,U)
【文献】
特表2009−515785(JP,A)
【文献】
実開昭56−062900(JP,U)
【文献】
特開平01−264798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 49/06
H01L 21/67−21/687
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着パッドを介して作用する負圧により板状部材を吸着保持した状態で、前記板状部材を移送する板状部材の移送装置であって、
前記吸着パッドはその内面に突起を有し、
前記板状部材の表面に重ねられた保護シートを負圧により吸着したとき、前記突起が前記保護シートを貫通すると共に、前記保護シートの前記突起による貫通部分の周囲に通気部が形成され、該通気部を介して前記板状部材に作用する負圧により前記板状部材を前記保護シートと共に吸着保持し、
前記吸着パッドは、その内面から開口端面側へ延びるストッパを備えており、該ストッパは、前記突起の先端部を越え前記開口端面よりも手前の位置まで延びていることを特徴とする板状部材の移送装置。
【請求項2】
前記突起は多角錐形状をなし、該多角錐形状の稜線が切刃を構成すると共に、該多角錐形状の各錐面がそれぞれ、隣り合う前記稜線を結ぶ平面より凹状をなすことを特徴とする請求項1に記載の板状部材の移送装置。
【請求項3】
前記突起は円錐形状をなすと共に、その円形断面の一部に溝を有することを特徴とする請求項1に記載の板状部材の移送装置。
【請求項4】
前記吸着パッドは、真空源に接続されるベース部と、該ベース部から椀状に延びて開口端面を形成するスカート部とを備え、前記突起が、前記ベース部に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の板状部材の移送装置。
【請求項5】
前記吸着パッドは、真空源に接続されるベース部と、該ベース部から椀状に延びて開口端面を形成するスカート部とを備え、前記突起が、前記ベース部と前記スカート部との境界近傍に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の板状部材の移送装置。
【請求項6】
前記突起が、金属製であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の板状部材の移送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板、樹脂板、ガラス層と樹脂層とを積層して構成される積層体板、金属板等の板状部材を移送する移送装置及びその装置のための吸着パッドに関し、より詳しくは、保護シートを伴った板状部材を保護シートと共に移送するための移送装置及び吸着パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等の画像表示機器用ディスプレイパネルの製作に用いられるガラス基板、電子表示機能素子や薄膜形成用の基材として用いられるガラス基板、建築構造物用のガラス板材等(以下、これらを総称してガラス板という)は、製造、搬送、保管等の工程において所定の位置へ移送される。その移送には、ガラス板を吸着パッドで吸着し、該吸着パッドを移動手段により所定位置へ移動するタイプの移送装置が広く用いられている。真空源に接続された吸着パッドは、ガラス板にあてがった状態でパッド内を負圧とすることにより、ガラス板を吸着する。
【0003】
一方、加工後の傷や汚れの防止のため、或いは、梱包パレットへの積載時にガラス板同士の接触による擦過傷を防止するために、ガラス板は、表面を紙、合成樹脂等の保護シート(合紙)で覆った状態で移送されることが多い。また、フラットパネルディスプレイ用のガラス板は、吸着パッドの接触痕を残さないように、保護シートを介して吸着パッドで吸着する。いずれの場合も、吸着パッドの負圧はまず保護シートに作用するので、保護シートを介してガラス板を吸着する必要がある。
【0004】
例えば紙等の通気性のある保護シートを使用する場合には、保護シートを通して吸着力をガラス板に作用させることができる。例えば、特許文献1,2及び3に記載された移送装置では、多孔質等、通気性のある保護シートを用いることにより、負圧をガラス板に及ぼしている。しかしながら、これらの場合には保護シートの材質が限定されてしまう。特に、梱包パレットに積層したガラス板をトラック等で移送すると、振動でガラス板がずれることがあるので、保護シートとしてクッション性があり、ずれが生じ難い発泡樹脂シートを用いることが多くなっており、この場合は保護シートを介してガラス板を吸着することができない。
【0005】
これに関し、特許文献4に記載の装置では、保護シートとして用いられる発泡樹脂シートのみを、一旦吸着パッドで吸着し、針状またはナイフ状の突き刺し部材にシート面を接触させることにより、切り込みを形成して通気性を持たせる。そして、その保護シートをガラス板上に移動させ、切り込み形成位置に吸着パッドをあてがって吸引することにより、負圧をガラス板に及ぼす。この装置によれば、保護シートの材質に拘わらず、負圧を確実にガラス板に及ぼすことができる。しかしながら、一旦保護シートのみを吸着して切り込みを形成するという工程を経る必要があり、工程と装置が複雑化するという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−136926(段落0009)
【特許文献2】実公昭60−11860(第2欄)
【特許文献3】特開2004−153157(段落0013)
【特許文献4】特開2005−75482(段落0041〜0045)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、保護シートを介したガラス板等の板状部材の吸着を簡便且つ確実に行なうことができる移送装置及びそのための吸着パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、吸着パッドを介して作用する負圧により板状部材を吸着保持した状態で、前記板状部材を移送する板状部材の移送装置であって、前記吸着パッドはその内面に突起を有し、前記板状部材の表面に重ねられた保護シートを負圧により吸着したとき、前記突起が前記保護シートを貫通すると共に、前記保護シートの前記突起による貫通部分の周囲に通気部が形成され、該通気部を介して前記板状部材に作用する負圧により前記板状部材を前記保護シートと共に吸着保持することを特徴とする板状部材の移送装置を提供するものである。
【0009】
この移送装置は上記のように、吸着パッドがその内面に突起を有し、ガラス板等の板状部材の表面の保護シートを負圧により吸着したとき、突起が保護シートを貫通する。これに伴って、保護シートには突起による貫通部分の周囲に通気部が形成され、吸着パッドは、該通気部を介して板状部材に作用する負圧により板状部材を保護シートと共に吸着保持する。したがって、パッド内面に突起を設け、負圧を利用して該突起により保護シートに通気部を形成するという簡単な構成に基づき、保護シートを介したガラス板の吸着を簡便且つ確実に行なうことができる。
【0010】
前記突起は、その表面に突出方向に沿って延びる切刃を有したものとすることができる。この切刃は、保護シートが吸着パッドに吸着されたときに、該保護シートを貫通し、貫通部分の周囲に通気部を確実に形成する。
【0011】
前記突起は、多角錘形状をなし、該多角錘形状の稜線が前記切刃を構成したものとすることができる。これにより、保護シートに形成される孔は、多角錘の稜線から放射方向に延びる切れ目により通気部を生じさせる。特に、その切れ目は、吸引により展延している保護シート上で長く延びるように形成されるので、吸引力がより効果的に板状部材に作用する。
【0012】
前記吸着パッドは、真空源に接続されるベース部と、該ベース部から椀状に延びて開口端面を形成するスカート部とを備え、前記突起が、前記ベース部に設けられているものとすることができる。このようにベース部に設けられた突起は、椀状のスカート部の奧端に位置することとなる。したがって、負圧による吸引時に板状部材が突起に接触するのを確実に防止することができる。特に、スカート部が吸引に伴って板状部材側へ弾性変形する場合にこの点が効果的である。
【0013】
前記吸着パッドは、真空源に接続されるベース部と、該ベース部から椀状に延びて開口端面を形成するスカート部とを備え、前記突起が、前記ベース部と前記スカート部との境界近傍に設けられているものとすることができる。吸引された保護シートは、スカート部及びベース部にほぼ沿うように変形して突起に到達する。一方、スカート部が吸引に伴って弾性変形する場合、ベース部に近い基端部側で変形量が小さくなるので、板状部材は、スカート部とベース部との境界近傍に到達し難く、突起への接触が確実に防止される。
【0014】
前記吸着パッドは、その内面から開口端面側へ延びるストッパを備えており、該ストッパは、前記突起の先端部を越え前記開口端面よりも手前の位置まで延びているものとすることができる。この吸着パッドを用いれば、保護シートを吸着した際に、スカート部が撓んで板状部材が突起に接近しても、板状部材が、ストッパに当接することにより、それ以上の突起側への移動が制限されるので、突起に接触して板状部材が損傷を受けるのが確実に防止される。
【0015】
前記突起は、金属製とすることができる。これにより、吸着パッドによる吸着の際に保護シートを貫通する切削性が良好となり、また長期間に亘って良好な切削性が維持される。
【0016】
前記目的を達成するため、本発明は、負圧を発生させる真空源に通じる吸着パッドであって、パッド内面に突起を有し、該突起がその表面に突出方向に沿って延びる切刃を有することを特徴とする吸着パッドを提供するものである。
【0017】
このように吸着パッドは、その内面に突起を有しているので、板状部材の表面に保護シートが重ねられている場合は、吸着した保護シートを突起が貫通する。これに伴って、保護シートには突起による貫通部分の周囲に通気部が形成され、吸着パッドは、該通気部を介して板状部材に作用する負圧により板状部材を保護シートと共に吸着保持する。したがって、パッド内面に突起を設け、負圧を利用して該突起により保護シートに通気部を形成するという簡単な構成に基づき、保護シートを介した板状部材の吸着を簡便且つ確実に行なうことができる。
【0018】
前記突起は、多角錘形状をなし、該多角錘形状の稜線が前記切刃を構成したものとすることができる。これにより、保護シートに形成される孔は、多角錘の稜線から放射方向に延びる切れ目により通気部を生じさせる。特に、その切れ目は、吸引により展延している保護シート上で長く延びるように形成されるので、吸引力がより効果的に板状部材に作用する。
【発明の効果】
【0019】
上記したように、本発明によれば、保護シートを介したガラス板等の板状部材の吸着を簡便且つ確実に行なうことができる移送装置及びそのための吸着パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る移送装置の一実施形態を概略的に示す正面図である。
【
図2】
図1に示した移送装置における吸着パッドを示す縦断面図である。
【
図4】
図2に示した吸着パッドの使用状態を示す縦断面図である。
【
図5】
図4の使用状態における保護シートの穿孔形態を示す底面図である。
【
図6(1a)】
図2の吸着パッドに用いられる突起の形態を示す図である。
【
図6(1b)】
図2の吸着パッドに用いられる突起の他の形態を示す図である。
【
図6(2a)】
図2の吸着パッドに用いられる突起の他の形態を示す図である。
【
図6(2b)】
図2の吸着パッドに用いられる突起の他の形態を示す図である。
【
図6(3a)】
図2の吸着パッドに用いられる突起の他の形態を示す図である。
【
図6(3b)】
図2の吸着パッドに用いられる突起の他の形態を示す図である。
【
図7】本発明に係る吸着パッドの他の実施形態を示す縦断面図である。
【
図9(a)】吸着パッドの他の形態を示す縦断面図である。
【
図9(b)】吸着パッドの他の形態を示す縦断面図である。
【
図9(c)】吸着パッドの他の形態を示す縦断面図である。
【
図9(d)】吸着パッドの他の形態を示す縦断面図である。
【
図10(a)】吸着パッドのさらに他の形態を示す縦断面図である。
【
図10(b)】吸着パッドのさらに他の形態を示す縦断面図である。
【
図10(c)】吸着パッドのさらに他の形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図面中の同一又は同種の部分については、同じ番号を付して説明を一部省略する。
【0022】
図1は、本発明に係る移送装置の一実施形態を概略的に示す正面図である。この移送装置は、レール10に支持された移動手段1と、該移動手段1に結合された吸着装置3とを備えている。
【0023】
移動手段1は、レール10に沿って摺動する摺動部11と、該摺動部に結合されて鉛直軸線回りの回動を可能にする旋回部12と、該旋回部に結合されて上下方向に伸縮する昇降部13と、該昇降部の下端部に結合されて水平軸線回りに回動する第一アーム14と、該第一アームに結合され先端部に吸着装置3を支持し水平軸線回りに回動する第二アーム15とを備えている。
【0024】
レール10は、天井等に架設され、板状部材、例えばガラス板Pを移送すべきステーション間に延びている。摺動部11、旋回部12、昇降部13、第一アーム14、第二アーム15は、例えば各々に内蔵された電動モータ等の駆動手段により、所定の動作をするように構成されている。これには、公知の種々の構造を適用することができるので、ここでは詳細な説明を省略する。また、移動手段としては、レールに支持するものの他、床面上に設置された旋回アームに揺動アームを支持したもの、ロボットアーム状のもの等、種々の形態とすることができる。
【0025】
各ステーションにおいてガラス板Pは、単体または積層、水平、垂直または斜め等、いずれの設置状態であってもよい。また、ガラス板Pは、表面保護等のために保護シートが重ねられている。保護シート(いわゆる合紙)は、発泡樹脂シート等の合成樹脂、紙等とされる。保護シートBは伸縮性を有するのが望ましい。これにより、後述する吸着パッドによる吸着時に、保護シートは皺にならずにパッド内面に倣って変形し易く、突起によって確実に貫通孔を形成することができる。
【0026】
吸着装置3は、第二アーム15の先端部に支持された支持板31と、該支持板に取り付けられた複数の吸着パッド30と、一端が支持板31に接続され、他端が摺動部11を経て図外の真空源に接続された吸引ホース33とを備えている。
【0027】
支持板31は、この実施形態においては、移送すべきガラス板よりやや小さい寸法の平板状をなし、内部に通気路が形成されている(図示略)。通気路は、吸引ホース33の接続部34から各吸着パッド30へと延びている。
【0028】
吸着パッド(吸着ヘッド)30は、
図2の縦断面図、
図3の底面図で示すように、ベース部35と、該ベース部から椀状に延びたスカート部37とを備えている。ベース部35は、ベース本体351と、該ベース本体から延び支持板31の通気路に接続されるアダプタ352とを備えている。アダプタ352には、通気路に作用する負圧を伝えるための通孔352aが形成され、ベース本体351には通孔352aに連通する貫通孔351aが形成されている。アダプタ352の外周面にはねじ部が形成され、これにナット353が螺合されている。吸着パッド30は、支持板31等のパッド取り付け板(ブラケット)の貫通孔にアダプタ352を挿入し、ナット353を締結することによって取り付けられる。
【0029】
スカート部37は、シリコン、NBR等の可撓性材料で形成され、ベース本体351から椀状に延びており、ベース本体351と反対側に開口端面371を形成している。ベース本体351及びスカート部37は、吸着パッド30が吸引力を作用させるための凹陥状内面38を形成している。
【0030】
この実施形態においてスカート部37は、ベース部35側から開口端面371側へベル状に拡径した形状となっている。これにより、保護シートにあてがわれた際に先端部が撓みやすく、スカート部内の負圧維持が確実となる。また、これに代えて、スカート部37は、
図9(d) に示すように、ベース部35側で平面上に延び、ほぼ同径で開口端面371まで延びる筒状とすることもできる。この場合は、保護シートとの密着性を高めるために、先端部に可撓性に富むパッド372を設けるのが望ましい。
【0031】
吸着パッド30はさらに、穿孔用の突起39を備えている。突起39は、凹陥状内面38から開口端面371に向かって延びている。この突起39は、鋭利な先端部391を有し、その基端部はベース部35に固着されている。この固着は、接着、融着、ねじ止め等によって行なうことができ、接着には、例えば、シアノアクリレート系瞬間接着剤、エポキシ系接着剤、2液混合アクリル系接着剤等を用いることができる。或いは、ベース本体351及びスカート部37の成形時に突起39をインサート成形してもよい。突起39は、保護シート穿孔の良好な切削性が維持されるように、超硬合金等、硬度の高い金属製とするのが望ましい。
【0032】
突起39は、保護シートに形成した孔の周縁部分が突起周面全体に密着するのを回避する異形断面形状とされており、この実施形態では、
図6(1a)、 (1b) に示すように三角錐状をなしている。これに代えて、
図6(2a)、(2b) に示す四角錐状等、他の多角錘状とすることもできる。多角錘状とする場合は、これらの図に示すように、錘面392は、隣り合う稜線を結ぶ平面より凹状となっているのが望ましい。これにより、後述する通気部が形成されやすくなり、保護シートを通じた吸引力がガラス板により効果的に作用する。
【0033】
図示の実施形態においては、例えば、スカート部37は、外径を50〜150mm、高さを5〜20mmとすることができ、その場合、突起39は、高さを5〜10mm、基端部の径を2〜5mmとすることができる。
【0034】
突起39はまた、
図6(3a)、 (3b) に示すように円錐状とし、円形断面の一部に通気部形成用の溝393を設けたものとすることもできる。単なる円錐状の突起は、保護シートの孔周縁部分が突起周面全体に密着し易く、その結果、吸着パッドの負圧が十分にガラス板に及ばない場合がある。これに対し、溝393を設けた突起39は、たとえ保護シートが周面に密着しても溝393との間に間隙が生じているので、その間隙を通気部として負圧がガラス板に到達することとなる。
【0035】
この移送装置は次のようにして使用される。まず、レール10に沿って移動手段1を所定のピックアップ位置に至らせる。
図1は、ピックアップ位置において斜めに立て掛けられていたガラス板を吸着した状態を示している。移動手段1を操作して、ガラス板Pを覆っている保護シートBに吸着パッド30をあてがう。そして、図外の真空源から吸引ホース33及び支持板31を通じて吸着パッド30に負圧を作用させる。これにより、
図4に示すように、保護シートBが吸着パッド30の凹陥状内面38側へ吸引される。そして、突起39の先端部391を越えて吸引されることにより、保護シートBに穿孔b0が形成される。さらに、突起39による三角形の穿孔b0は、各頂点(多角錘の稜線)から放射方向に延びる切れ目により通気部b1を生じさせる。特に、保護シートBはスカート部37とガラス板Pとの間に挟まれた状態で吸引され展延しているので、通気部(切れ目)b1は長く延びるように形成される。通気部b1は、保護シートBの表裏面を貫通して形成される結果、吸引力が効果的にガラス板に作用する。但し、突起39を五角錐以上の多角錘にすると、穿孔b0の周縁部分が突起周面全体に密着し易くなり、また、通気部b1が形成されにくく、保護シートの材質等によっては、十分な空気流が得られないことがある。
【0036】
こうして吸引が行なわれると、真空源からの負圧は、穿孔b0及び通気部b1を通じてガラス板Pに作用し、ガラス板Pは吸着パッド30に吸着される。この状態で、移動手段1により吸着装置3を所定の位置へ移動させ、移動後に真空源からの負圧を解除すれば、ガラス板Pを保護シートBと共に所定位置に設置することができる。この設置も、単体または積層、水平、垂直または斜め等、いずれであってもよい。吸着パッドの吸引力は、保護シートに多少の皺が存在しても、穿孔b0等を通じてガラス板に到達するので、確実な吸着が可能となる。このように、吸着パッドの吸引力が確実にガラス板に及ぶ結果、移送中のガラス板の落下等の事故を防止することができる。
【0037】
図7及び
図8は、本発明の移送装置の他の実施形態を示している。この移送装置における吸着パッド30は、凹陥状内面38から開口端面371側へ延びるストッパ36を備えている。ストッパ36は、
図8に示すように、円柱状をなしベース部35の4箇所に設けられおり、各々、突起39の先端部391を越え開口端面371より手前の位置まで延びている。
【0038】
この吸着パッド30を用いれば、保護シートBを吸着した際に、スカート部37が撓んでガラス板Pが突起39に接近しても、ガラス板Pは、ストッパ36に当接すると、それ以上の突起39側への移動が制限されるので、突起39に接触してガラス板Pが損傷を受けるのが防止される。
【0039】
ストッパ36は、図示のように、複数個を分散配置する他、円状、多角形状等の連続的または断続的な環状としてもよい。また、突起39は、ストッパ36の配置領域の内部の他、外部に設けてもよい。この実施形態では、突起39は、ベース部35における貫通孔351aの壁面に接着されている。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、穿孔用の突起39は、
図9に例示するように、凹陥状内面38の種々の箇所に設けることができる。
図9(a) はスカート部37の位置、
図9(b) はベース部35の位置、
図9(c) はベース部35におけるアダプタ352の位置、
図9(d) はベース部端面から後退したアダプタ352の位置に、各々突起39が設けられた状態を示している。アダプタ352は、通常金属製であるので、突起39を蝋付けすることができる。また、アダプタ352と突起39とを一体に機械加工して形成してもよい。
【0041】
突起は、複数個設けることもできる。
図10は、2個の突起39を設けた例を示しており、
図10(a) はスカート部37とベース部35の位置、
図10(b) はベース部35の位置、
図10(c) はスカート部37の位置に、各々突起39が設けられた状態を示している。このように、複数個の突起39を設けることにより、保護シートに形成される穿孔を通じてより多くの空気流を得ることができ、操作の迅速性を図ることができる。
【0042】
上記実施形態では、多数の吸着パッドを用いて1枚のガラス板を吸着する例を示したが、ガラス板の寸法によっては、1枚のガラス板を1個または2個〜数個の吸着パッドで吸着することもできる。また、上記実施形態では、ガラス板Pを移送対象物としたが、移送対象物は、樹脂板、ガラス層と樹脂層とを積層して構成される積層体板、金属板等の板状部材であってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1: 移動手段
3: 吸着装置
30: 吸着パッド
35: ベース部
36: ストッパ
37: スカート部
38: 凹陥状内面
39: 突起
371:開口端面
B: 保護シート
P: ガラス板
b0: 穿孔
b1: 切れ目