特許第5803673号(P5803673)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5803673
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】連続発酵による化学品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/00 20060101AFI20151015BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20151015BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20151015BHJP
   B01D 65/06 20060101ALI20151015BHJP
   C12P 7/56 20060101ALN20151015BHJP
   C12P 7/40 20060101ALN20151015BHJP
【FI】
   C12P1/00
   C12N1/02
   B01D65/02
   B01D65/06
   !C12P7/56
   !C12P7/40
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-544521(P2011-544521)
(86)(22)【出願日】2011年9月5日
(86)【国際出願番号】JP2011070109
(87)【国際公開番号】WO2012036003
(87)【国際公開日】20120322
【審査請求日】2014年8月28日
(31)【優先権主張番号】特願2010-205239(P2010-205239)
(32)【優先日】2010年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 敦
(72)【発明者】
【氏名】千 智勲
(72)【発明者】
【氏名】武内 紀浩
(72)【発明者】
【氏名】西田 誠
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐之
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 進一
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−099667(JP,A)
【文献】 特開2009−065966(JP,A)
【文献】 特開2009−065970(JP,A)
【文献】 特開2008−199948(JP,A)
【文献】 特開2000−317273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00
B01D 65/02
B01D 65/06
C12N 1/02
C12P 7/40
C12P 7/56
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵原料、化学品と、微生物もしくは培養細胞を含む培養液を分離膜でろ過し、ろ液から化学品を回収し、さらに未ろ過液を培養液に保持または還流し、かつ発酵原料を培養液に追加する連続発酵において、膜ユニットの透過液側から洗浄用液体を供給して膜洗浄を行う連続発酵による化学品の製造方法であって、前記洗浄用液体が培養液温度より高く、かつ150℃以下の高温水であり、前記洗浄用液体を供給することで発酵槽内の微生物濃度を制御することを特徴とする連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項2】
前記洗浄用液体が酸化剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項3】
前記酸化剤が次亜塩素酸塩、二酸化塩素、オゾン、過酸化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項2に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄用液体がpH調整剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項5】
前記洗浄用液体が前記発酵原料を含有することを特徴とする請求項1に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜を用いた連続発酵により化学品を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、分離膜は発酵分野への適用を含め、飲料水製造、浄水処理、廃水処理などの水処理分野、医薬品生産分野、食品工業分野等様々な方面で利用されている。飲料水製造、浄水処理、廃水処理などの水処理分野においては、分離膜が従来の砂ろ過、凝集沈殿過程の代替として水中の不純物を除去するために用いられている。さらに廃水処理および食品工業分野では、高濃度の廃水または原料を処理槽に大量に投入し、微生物を高濃度に保ちながら処理を行い、除去率が高いことや高純度の処理液が得られることから、分離膜技術が幅広く使用されている。
【0003】
このような分離膜を用いた水処理分野、食品工業分野等においては、コストダウンの観点から透水性能の向上が求められ、透水性能が優れている分離膜で膜面積を減らし、装置をコンパクト化する等によって設備費・膜交換費および設置面積の低減を試みている。このようなコストの観点から、設置面積あたりのろ過面積が広い中空糸膜が注目されている。
【0004】
また、近年では微生物や培養細胞の培養を伴う連続製造方法の提案が活発に行われている。この技術は、微生物や培養細胞を分離膜でろ過し、ろ液から生産物を回収すると同時に分離された微生物や培養細胞を培養液に保持または還流させることで、培養液中の微生物や細胞濃度を高く維持することができる。例えば特許文献1では、分離膜を用いて連続発酵を行い、培養液中の微生物や細胞濃度を向上させ、かつ、高く維持させることで高い物質生産性が得られると提案している。
【0005】
このように微生物培養および菌体分離に対する分離膜技術は活発に行われているが、培養液のような生物系の被処理液を膜分離する場合、被処理液中に含まれる菌体、糖、蛋白質および脂質などにより、膜の汚染が著しく、膜の透過流束が早期に低下するという問題がある。
【0006】
一方、微生物培養および菌体分離に対する分離膜技術では、微生物の増殖制御が問題となっている。膜分離では、膜ろ過により微生物や細胞濃度を高く維持することができ、多量の微生物により高い生産速度で生産物を得ることができるが、連続発酵でのメリットを上昇させるため発酵時間を長くすると、微生物が増殖し続け、前記微生物の濃度が過度に高くなり、それによって膜分離の差圧が上昇する問題があった。微生物濃度制御のために、運転中微生物の一部を引き抜くことも考えられるが、引き抜いた微生物の処理や、引き抜き中または引き抜き後に、発酵培養槽内で他の微生物とのコンタミネーションが起こる可能性が高くなる問題がある。
【0007】
従来の一般的な膜分離処理においては、ろ過面を定期的または非定期的に洗浄することで、ろ過面に付着したSS(Suspended Solid)や吸着物などを除去してろ過能力を保持している。例えば、特許文献2では、定期的に透過側から透過水を逆透過させることで膜を洗浄し、ろ過性能を維持している。また、特許文献3では、ろ過体の下からエアーを供給することでろ過面を洗浄しながらろ過を行うことが提案されている。さらに、特許文献4には、特許文献2や特許文献3に開示された方法でも膜面が洗浄できない場合のために、ろ過体を化学洗浄する方法が提案されている。しかし、これらの方法は、膜面の洗浄に対する処理方法であり、微生物濃度の制御はできない。中でも、薬品洗浄は、発酵生産物への悪影響、膜の劣化による膜寿命の短縮、さらに、使用後発生した薬品洗浄廃液の処理などの問題がある。
【0008】
一方、特許文献5のように、透過水を用いて逆圧洗浄を行う際、高温水を逆圧洗浄用水として使用し洗浄効果を高める技術、特許文献6のように、濃縮工程、膜分離工程および温水洗浄工程を用いた分離膜洗浄運転技術、特許文献7では、熱水および加水分解酵素による分離膜の洗浄方法が考えられる。しかし、これらの方法でも、微生物の増殖制御は困難であり、加水分解酵素は高価でコストアップに直結するなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2007/097260号パンフレット
【特許文献2】特開平8−141375号公報
【特許文献3】特開2001−38177号公報
【特許文献4】特開2002−126470号公報
【特許文献5】特開2008−289959号公報
【特許文献6】特許第3577992号公報
【特許文献7】特開2006−314883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のとおり、従来の技術では、複雑な洗浄工程、洗浄中発生した廃液の処理、微生物の高濃度培養に対するろ過性の保持や微生物濃度の過度な増加に対する制御方法がないなどの問題について検討されておらず、前記ろ過性を保持するための膜ろ過運転方法や微生物濃度の制御方法の開発が求められている。
【0011】
本発明は、分離膜を用いて発酵により生産品を製造・回収する際、微生物混合液の高濃度培養に対するろ過性の保持と微生物濃度を制御することを同時に可能とする逆圧洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明は、下記(1)〜(5)の構成によって達成される。
【0013】
(1)発酵原料、化学品と、微生物もしくは培養細胞を含む培養液を分離膜でろ過し、ろ液から化学品を回収し、さらに未ろ過液を培養液に保持または還流し、かつ発酵原料を培養液に追加する連続発酵において、膜ユニットの透過液側から洗浄用液体を供給して膜洗浄を行う連続発酵による化学品の製造方法であって、前記洗浄用液体が培養液温度より高く、かつ150℃以下の高温水であり、前記洗浄用液体を供給することで発酵槽内の微生物濃度を制御することを特徴とする連続発酵による化学品の製造方法。
【0014】
(2)前記洗浄用液体が酸化剤を含有することを特徴とする(1)に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【0015】
(3)前記酸化剤が次亜塩素酸塩、二酸化塩素、オゾン、過酸化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする(2)に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【0016】
(4)前記洗浄用液体がpH調整剤を含有することを特徴とする(1)に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【0017】
(5)前記洗浄用液体が前記発酵原料を含有することを特徴とする(1)に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、分離膜を用いて発酵培養液をろ過すると共に、連続的に未ろ過液を発酵培養槽に保持しつつ化学品を含んだ透過液を取り出す連続発酵運転において、膜ろ過により発生する膜の汚れを効果的に洗浄するとともに、発酵培養槽内の微生物濃度を制御することができ、安定的に低コストで発酵生産効率を著しく向上させることができ、かつ、洗浄廃液および引き抜き培養液が発生しないことで処理費用の低減ができ、さらにコストの低減が可能になり、広く発酵工業において、発酵生産物を低コストで安定に生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明で用いられる膜分離型連続発酵装置の例を説明するための概略側面図である。
図2】本発明における膜ろ過モジュールの逆圧洗浄方法・手順を示す図である。
図3】実施例1〜3および比較例1〜2に係る連続発酵ろ過実験による微生物濃度の経時変化を示す図である。
図4】実施例1〜3および比較例1〜2に係る連続発酵ろ過実験による膜ろ過差圧の経時変化を示す図である。
図5】実施例4、5および比較例3に係る連続発酵ろ過実験による微生物濃度の経時変化を示す図である。
図6】実施例4、5および比較例3に係る連続発酵ろ過実験による膜ろ過差圧の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、膜モジュールを用いてろ過し、連続的に未ろ過液を発酵培養槽に保持しつつ化学品を含んだ透過液を取り出す連続発酵運転において、膜モジュールの透過液側から、高温水を供給して膜洗浄を行い、高温水の供給条件を発酵培養槽内の微生物濃度により制御することを特徴とする連続発酵装置の運転方法である。
【0021】
本発明の膜モジュールに用いられる分離膜は、有機膜、無機膜を問わず、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、セラミックス製の膜のように耐薬品性を持つ分離膜であれば良い。
【0022】
本発明で用いられる分離膜は、平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔質膜であることが好ましい。また、分離膜の形状は、平膜、中空糸膜などいずれの形状のものも採用することができる。
【0023】
分離膜の表面の平均孔径は、膜表面を走査型電子顕微鏡を用いて60000倍で写真撮影し、20個の任意の細孔の直径を測定し、数平均して求める。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求められる。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、前記の分離膜を用い、膜間差圧を0.1〜20kPaの範囲にしてろ過処理を行うことができる。
【0025】
本発明においての膜モジュールは、耐熱性に優れる材質で作られ、高温水をモジュールの透過側から供給側へ注入できる形状であれば良い。
【0026】
本発明で使用される微生物や培養細胞の発酵原料は、発酵培養する微生物や培養細胞の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものであればよい。発酵原料としては、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸、およびビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地等が好ましく用いられる。前記発酵培養する微生物や培養細胞の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものを一部含む液体であれば、例えば廃水または下水も、そのまま、または発酵原料を添加して使用してもよい。
【0027】
前記の炭素源としては、例えば、グルコース、スクロース、フラクトース、ガラクトースおよびラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉、澱粉加水分解物、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ケーンジュース、甜菜糖蜜またはケーンジュースからの抽出物もしくは濃縮液、甜菜糖蜜またはケーンジュースのろ過液、シラップ(ハイテストモラセス)、甜菜糖蜜またはケーンジュースからの精製もしくは結晶化された原料糖、菜糖蜜またはケーンジュースからの精製もしくは結晶化された精製糖、更には酢酸やフマル酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、およびグリセリンなどが使用される。ここで糖類とは、多価アルコールの最初の酸化生成物であり、アルデヒド基またはケトン基をひとつ持ち、アルデヒド基を持つ糖をアルドース、ケトン基を持つ糖をケトースと分類される炭水化物のことを指す。
【0028】
また、前記の窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。
【0029】
また、前記の無機塩類としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜使用することができる。
【0030】
本発明において、微生物の発酵培養は、微生物種と生産物の生産性に応じて適切なpHと温度に設定すれば良いが、一般的にpHは4〜8で、温度は15〜65℃の範囲に設定することが多い。発酵培養液のpHは、無機酸あるいは有機酸、アルカリ性物質、さらには尿素、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムまたはアンモニアなどによって、前記範囲内のあらかじめ定められた値に調節される。
【0031】
培養において、酸素の供給速度を上げる必要があれば、通気量を上げる他に、空気に酸素を加えて酸素濃度を高める方法や、発酵培養液を加圧する方法、攪拌速度を上げる方法などの手段も用いることができる。逆に、酸素の供給速度を下げる必要があれば、通気量を下げる他に、炭酸ガス、窒素およびアルゴンなど酸素を含まないガスを空気に混合して供給することも可能である。
【0032】
本発明において、微生物もしくは培養細胞を含む発酵培養液を抜き出す際は、微生物もしくは培養細胞の濃度が減少して発酵生産物の生産性が低下しないように、発酵培養液のOD600またはMLSS(Mixed Liquor Suspended Solid)に基づいて抜き出し量を適宜調整することが好ましい。
【0033】
発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、培養管理上、通常、単一の発酵反応槽で行うことが好ましい。しかしながら、菌体を増殖させつつ生産物を生成する連続発酵培養法であれば、発酵反応槽の数は問わない。発酵反応槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵反応槽を用いることもあり得る。その場合、複数の発酵反応槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても、発酵生産物の高生産性は得られる。
【0034】
本発明で使用される微生物や培養細胞としては、真核細胞または原核細胞が用いられ、例えば、発酵工業においてよく使用される酵母や糸状菌などの真菌類、大腸菌、乳酸菌、コリネ型細菌、放線菌などの細菌類、動物細胞および昆虫細胞などが挙げられる。使用する微生物や細胞は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【0035】
本発明の製造方法で得られる化学品は、前記の微生物や培養細胞が発酵培養液中に生産する物質である。化学品としては、例えば、アルコール、有機酸、アミノ酸および核酸など発酵工業において大量生産されている物質を挙げることができる。また本発明は酵素、抗生物質および組換えタンパク質のような物質の生産に適用することも可能である。例えば、アルコールとしては、エタノール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、およびグリセロール等が挙げられる。また、有機酸としては、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸およびクエン酸等を挙げることができ、核酸であればイノシン、グアノシンおよびシチジン等を挙げることができる。
【0036】
また、本発明の製造方法で得られる化学品は、化成品、乳製品、医薬品、食品または醸造品のうち、少なくとも1種を含む液体物であることが好ましい。ここで化成品としては、例えば、有機酸、アミノ酸および核酸のように、膜分離ろ過後の工程により化学製品を作ることに適用可能な物質、乳製品としては、例えば、低脂肪牛乳など、膜分離ろ過後の工程により乳製品として適用可能な物質、医薬品としては、例えば、酵素、抗生物質、組み換えタンパク質のように、膜分離ろ過後の工程により医薬品を作ることに適用可能な物質、食品としては、例えば、乳酸飲料など、膜分離ろ過後の工程により食品として適用可能な物質、醸造品としては、例えば、ビール、焼酎など、膜分離ろ過後の工程によりアルコールを含む飲料として適用可能な物質などが挙げられる。
【0037】
本発明において、微生物や培養細胞の発酵培養液を膜モジュール中の分離膜でろ過処理する際の膜間差圧は、微生物や培養細胞および培地成分が容易に目詰まりしない条件であればよいが、膜間差圧を0.1kPa以上20kPa以下の範囲にしてろ過処理することが重要である。膜間差圧は、好ましくは0.1kPa以上10kPa以下の範囲であり、さらに好ましくは0.1kPa以上5kPaの範囲である。前記膜間差圧の範囲を外れた場合、微生物および培地成分の目詰まりが急速に発生し、透過水量の低下を招き、連続発酵運転に不具合を生じることがある。
【0038】
ろ過の駆動力としては、液位差(水頭差)の利用やクロスフロー循環ポンプにより分離膜に膜間差圧を発生させることができる。また、ろ過の駆動力として分離膜透過水側に吸引ポンプを設置してもよい。また、クロスフロー循環ポンプを使用する場合には、吸引圧力により膜間差圧を制御することができる。更に、発酵培養液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によっても膜間差圧を制御することができる。これら圧力制御を行う場合には、発酵培養液側の圧力と分離膜膜透過水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。
【0039】
本発明においては、膜の洗浄効果を有するとともに、微生物濃度を低減させることができる高温水を使用するが、前記高温水は、培養液温度よりも高く、かつ150℃以下の温度に設定する。好ましくは、培養液温度の5℃以上で、かつ100℃未満の温度であり、培養温度の10℃以上でかつ100℃未満の温度がさらに好ましい。培養液温度より低温であると、連続発酵で微生物濃度を制御することが難しく、150℃を超えると、高温水の液体状態を維持するために非常に高い圧力をかける必要があり、実施することが難しい。高温水による逆圧洗浄は、前述の条件より高温の水を使用することも可能だが、微生物の特性によっては急激に多量の微生物が死滅する可能性もあるため、温度による微生物死滅速度を事前に測定することが望ましい。
【0040】
ここで、逆圧洗浄とは、分離膜の透過側から分離膜の供給側へ液体を送ることにより、膜面のファウリング物質を除去する方法である。
【0041】
逆圧洗浄液として使用する高温水は、微生物によって汚染されておらず、膜汚れにつながる物質が入っていない高温水であれば特に制限されない。
【0042】
高温水は、恒温器を用いて供給することも可能だが、水の供給パイプに加熱装置を設け供給することもできる。供給する高温水の温度は、温度計を設けチェックすることが好ましく、その温度は、設定温度の±1℃以内で制御することが好ましい。
【0043】
高温水の供給速度は、膜の透過流束の1〜3倍が望ましいが、微生物濃度、膜洗浄効果などを考慮し、より適切な供給速度に設定することもできる。
【0044】
なお、本発明の高温水には、発明の効果を阻害しない範囲で洗浄剤、すなわち、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、オゾン、過酸化水素などの酸化剤や、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムや塩酸、硫酸などのpH調整剤を含有しても構わない。また培養液中の発酵原料の濃度低下を防ぐため、発酵原料を含んだ高温水を使用することもできる。
【0045】
本発明は、逆圧洗浄液の温度を高く維持しながら、膜モジュールの透過側から膜モジュールの供給側へ液体を送ることで、膜洗浄を行うとともに、微生物濃度の制御を行う。前記高温の逆圧洗浄液が水である場合、高温水によって、膜付着物が分離膜から剥がれやすくなり、一方、微生物は、高温水に接触することによって、増殖を止めることになる。
【0046】
前記高温水は、膜付着物を分離膜から剥がれやすくすると考えられ、それは、膜付着物が炭水化物由来物質である場合、高温水によって溶解しやすい状況となり、膜に付着されていた状況から、高温水へ溶解されるようになる。一方、前記膜付着物質がタンパク質由来物質である場合、高温水によるタンパク質の変性が生じ、膜付着の特性が変わることで、膜から剥がれやすい状況になる。
【0047】
前記高温水を、前記洗浄剤を含有した高温水に変えた場合、膜付着物質の由来成分により、膜剥がれを促進させることができる。例えば、前記洗浄剤の中で次亜塩素酸ナトリウムは強い酸化剤でおり、高温の酸化剤により逆圧洗浄を行うことによって、炭水化物由来膜付着物質の酸化作用が促進され、高温水より高い膜洗浄効果が得られる。一方、前記洗浄剤の中で水酸化ナトリウムおよび水酸化カルシウムは強いアルカリ剤であり、高温のアルカリにより逆洗を行うことによって、タンパク質由来膜付着物質の変性作用が促進され、高温水より高い膜洗浄効果が得られる。なお、これらの強酸化剤または強アルカリ剤を高温で使用する際には、微生物増殖の制御が可能だが、その濃度が一定の範囲を超えると、高温水添加による微生物の失活および微生物死滅速度の急激な増加などが発生する可能性があるため、膜洗浄および微生物濃度の制御が可能である濃度範囲の洗浄剤を使用することが重要である。
【0048】
ここで、本発明において、発明の効果を阻害しない範囲の洗浄剤とは、例えば次亜塩素酸ナトリウムの場合は、有効塩素濃度が1〜5000ppmの洗浄液を使用することが好ましく、例えば水酸化ナトリウムおよび水酸化カルシウムは、pHが10〜13の洗浄液を使用することが好ましい。この範囲を超える濃度では分離膜の損傷、微生物への悪影響が考えられ、これ未満の濃度では、膜洗浄効果の低下が懸念される。
【0049】
逆圧洗浄液として使用する高温水の逆圧洗浄周期は、膜間差圧および膜間差圧の変化により決定することができる。逆圧洗浄周期は、0.1〜12回/時間の範囲であり、より好ましくは3〜6回/時間である。逆圧洗浄周期がこの範囲を超えると、高温水添加による微生物の失活および微生物死滅速度の急激な増加などが発生する可能性があり、またこの範囲を下回ると、洗浄効果および微生物制御効果が充分に得られないことがある。
【0050】
逆圧洗浄液として使用する高温水の逆圧洗浄時間は、逆圧洗浄周期、膜間差圧および膜間差圧の変化により決定することができる。逆圧洗浄時間は、5〜300秒/回の範囲であり、より好ましくは30〜180秒/回である。逆圧洗浄時間がこの範囲より長いと、高温水添加による微生物の失活および微生物死滅速度の急激な増加などが発生する可能性があり、またこの範囲より短いと、洗浄効果および微生物制御効果が充分に得られないことがある。
【0051】
恒温タンク、高温水逆洗ポンプ、恒温タンクからモジュールまでの配管およびバルブは、耐熱性に優れるものを使用すれば良い。高温水の注入は手動でも可能だが、ろ過・逆洗制御装置を設け、ろ過ポンプおよびろ過側バルブ、高温水逆洗ポンプおよび高温水逆洗バルブを、タイマーなどにより自動的に制御して注入することが望ましい。
【0052】
本発明においては、微生物培養槽の微生物濃度を制御するために、微生物濃度をモニタリングする必要がある。微生物濃度の測定はサンプルを採取し、測定することでも可能だが、微生物培養槽に、MLSS測定器など、微生物濃度センサーを設置し、微生物濃度の変化状況を連続的にモニタリングすることが望ましい。
【0053】
次に、本発明で用いられる連続発酵装置について、図を用いて説明する。
【0054】
図1は、本発明の高温水の供給方法で用いられる連続発酵装置を例示説明するための概略側面図である。図1は、分離膜モジュールが、発酵培養槽の外部に設置された代表的な連続発酵装置の例である。図1において、連続発酵装置は、発酵培養槽1と分離膜モジュール2と高温水供給部で基本的に構成されている。ここで、分離膜モジュール2には、多数の中空糸膜が組み込まれている。また、常温水供給部は常温水逆洗ポンプ13と常温水逆洗バルブ16で構成され、高温水供給部は、高温水逆洗ポンプ12と高温水逆洗バルブ15で構成され、ろ過部はろ過ポンプ11とろ過バルブ14で構成される。前記分離膜モジュールおよび高温水供給部については、後に詳述する。また、分離膜モジュール2は、循環ポンプ8を介して発酵培養槽1に接続されている。
【0055】
図1において、レベルセンサー・制御装置6および培地供給ポンプ9によって培地を発酵培養槽1に投入して培養槽内の液面レベルを制御し、必要に応じて、撹拌装置4で発酵培養槽1内の培養液を撹拌し、また、必要に応じて、気体供給装置17によって必要とする気体を供給することができる。このとき、供給された気体を回収リサイクルして再び気体供給装置17で供給することができる。また必要に応じて、pHセンサー・制御装置5およびpH調整剤供給ポンプ10によって発酵培養液のpHを調節することにより、生産性の高い発酵生産を行うことができる。
【0056】
さらに、装置内の発酵培養液は、循環ポンプ8によって発酵培養槽1と分離膜モジュール2の間を循環する。発酵生産物を含む発酵培養液は、分離膜モジュール2によって微生物と発酵生産物にろ過・分離され、装置系から取り出すことができる。また、分離された微生物は、装置系内にとどまることにより装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産性の高い発酵生産を可能としている。ここで、分離膜モジュール2によるろ過・分離には、循環ポンプ8による圧力によって、特別な動力を使用することなく実施可能であるが、必要に応じてろ過ポンプ11を設け、差圧センサー・制御装置7によってろ過液量を適当に調整することができる。必要に応じて、温度制御装置3によって、発酵培養槽1の温度を一定に維持することができ、微生物濃度を高く維持することができる。
【0057】
本発明の高温水の供給方法で用いられる高温水供給部は、高温水逆洗ポンプ12と高温水逆洗バルブ15で構成される。高温水は、微生物濃度をモニタリングし、投入することができる。
【0058】
本発明の運転方法で用いられる制御手順は、図2に示す手順に従って実施する。
【0059】
まず、培養液の膜ろ過を開始し、微生物濃度の変化や膜間差圧の変化をモニタリングする。膜ろ過により膜に汚れが発生し、膜間差圧が上昇すると、微生物濃度を確認し、その濃度が想定した微生物濃度より高い場合は、高温水を用いて逆圧洗浄を行う。
【0060】
膜間差圧が上昇した時、微生物濃度を確認し、その濃度が想定した微生物濃度より低い場合は、培養温度以下の常温水を用いて逆圧洗浄を行う。
【0061】
高温水または培養温度以下の常温水で膜洗浄を行った後、膜間差圧を確認し、洗浄の効果を確認する。確認した差圧が想定した基準の差圧より高い場合、再び微生物濃度を確認し、確認した差圧が想定した基準の差圧より低い場合、逆圧洗浄を停止しても良い。想定した基準の差圧は、分離膜の特性および分離膜モジュールの特性により決定して良い。
【0062】
以上説明した高温水を用いた逆圧洗浄を行うことにより、廃液を発生させずに分離膜の汚れを洗浄するとともに、過度に増殖した微生物の濃度を制御することが可能となる。ろ過性の保持と微生物濃度を制御することが可能な高温水の供給方法を行うことで、微生物培養液のろ過において、膜ろ過モジュールのろ過性能が向上し、長期間の安定なろ過運転が可能となる。
【実施例】
【0063】
実施例1
まず、膜ろ過モジュールを製作した。膜モジュールの製作に使用した中空糸膜は、東レ(株)製加圧式ポリフッ化ビニリデン製中空糸膜モジュール“HFS1020”を解体して、接着固定されていない部分のみを切り出し、得られたポリフッ化ビニリデン製中空糸膜を使用した。分離膜モジュール部材としてはポリカーボネート樹脂の成型品を用いた。作製した膜ろ過モジュールの容量は0.06Lで、膜ろ過モジュールの有効ろ過面積は200cmであった。製作した多孔質中空糸膜および膜ろ過モジュールを用いて、連続発酵を行った。実施例1における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
[運転条件]
・発酵培養槽容量:2.0L
・発酵培養槽有効容積:1.5L
・使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン製中空糸膜60本
・温度調整:37℃
・発酵培養槽通気量:0.2L/min
・発酵培養槽攪拌速度:600rpm
・pH調整:3NのNaOHによりpH6に調整
・乳酸発酵培地供給速度:15〜300mL/hrの範囲で可変制御
・培養液循環装置による循環液量:3.5L/min
・膜ろ過流量制御:吸引ポンプによる流量制御
・滅菌:膜モジュールを含む培養槽および使用培地は、全て121℃の温度で20分間のオートクレーブにより高圧蒸気滅菌した。
【0064】
微生物としてSprolactobacillus laevolacticus JCM2513(SL株)を用い、培地として表1に示す組成の乳酸発酵培地を用い、生産物である乳酸の濃度の評価には、下記に示したHPLCを用いて以下の条件下で行った。
【0065】
【表1】
【0066】
・カラム:Shim−Pack SPR−H(島津社製)
・移動相:5 mM p−トルエンスルホン酸(0.8 mL/min)
・反応相:5 mM p−トルエンスルホン酸、20 mM ビストリス、0.1 mM EDTA・2Na(0.8 mL/min)
・検出方法:電気伝導度
・カラム温度:45℃
なお、乳酸の光学純度の分析は、以下の条件下で行った。
・カラム:TSK−gel Enantio L1(東ソー社製)
・移動相 :1 mM 硫酸銅水溶液
・流量:1.0 mL/分
・検出方法 :UV 254 nm
・温度 :30℃
L−乳酸の光学純度は、次式(i)で計算される。
【0067】
光学純度(%)=100×(L−D)/(D+L) ・・・(i)
また、D−乳酸の光学純度は、次式(ii)で計算される。
【0068】
光学純度(%)=100×(D−L)/(D+L) ・・・(ii)
ここで、LはL−乳酸の濃度を表し、DはD−乳酸の濃度を表す。
【0069】
培養は、まずSL株を試験管で5mLの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコで24時間、37℃で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示す連続発酵装置の1.5Lの発酵培養槽に培地を入れて植菌し、付属の攪拌装置4によって攪拌し、発酵培養槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、循環ポンプ8を稼働させることなく、50時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、循環ポンプ8を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、乳酸発酵培地の連続供給を行い、膜分離型連続発酵装置の培養液量を1.5Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるD−乳酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、ろ過ポンプ11から出てくるろ過量を測定し、膜ろ過量制御条件で変化させることで行った。適宜、膜ろ過培養液中の生産されたD−乳酸濃度および光学純度を測定した。
【0070】
連続発酵ろ過運転は250時間行った。膜ろ過運転は、ろ過ポンプ11を用いて行い、ろ過流量は、0〜50時間まではろ過を行わず、50〜200時間までは100mL/h、200〜250時間までは135mL/hの流量でろ過を行った。ろ過は9分ろ過、その後1分間ろ過停止を繰り返し行った。逆圧洗浄は、ろ過時間50〜250時間まで行い、9分間ろ過後、1分間逆圧洗浄を、逆圧洗浄速度600mL/hの流量で行った。逆圧洗浄に使用した高温水は、恒温器に蒸留水を入れ、温度が一定になるようにした高温水を使用した。逆圧洗浄に使用した高温水は、温度が90℃になるよう恒温器を設定し、連続発酵200時間から250時間まで使用した。高温水を使用していなかった期間では常温の水を使用して逆圧洗浄を行った。発酵培養槽内の微生物濃度については、微生物濃度が増加することによりろ過性が低下する傾向があることから、ろ過速度が適切に維持でき、かつ生産性が維持できると考えられた微生物濃度を想定した後、その微生物濃度になるように運転を行った。ろ過差圧は差圧計を用いて1回/日で測定し、微生物濃度はOD600を用いて1回/日測定した。OD600の測定は、まず発酵培養槽からサンプルを採集し、サンプルのOD600が1以下になるように生理食塩水を用いて希釈した後、波長600nmの吸光度を、分光光度計(島津製作所UV−2450)を用いて測定した。得られた測定値に、生理食塩水で希釈した倍率をかけ、サンプルのOD600として計算した。得られた実験結果を図3および図4に示す。その結果、微生物濃度をOD600が20程度まで下げ、膜ろ過差圧も安定的に維持することができ、微生物濃度を制御しながら効果的な膜洗浄を行うことが可能であった。
【0071】
実施例2
逆圧洗浄用高温水として、温度が60℃になるよう恒温器を設定し、連続発酵200時間から250時間まで使用した。前記の方法以外は、実施例1と同様にしてD−乳酸連続発酵試験を行った。その結果を図3および図4に示す。その結果、微生物濃度をOD600が30程度まで下げ、膜ろ過差圧も安定的に維持することができ、微生物濃度を制御しながら効果的な膜洗浄を行うことが可能であった。
【0072】
実施例3
逆圧洗浄用高温水として、温度が45℃になるよう恒温器を設定し、連続発酵200時間から250時間まで使用した。前記の方法以外は、実施例1と同様にしてD−乳酸連続発酵試験を行った。その結果を図3および図4に示す。その結果、微生物濃度をOD600が40程度で維持しながら、膜ろ過差圧も安定的に維持することができ、微生物濃度を制御しながら効果的な膜洗浄を行うことが可能であった。
【0073】
実施例4
実施例1と同じ膜ろ過モジュールを用いピルビン酸を生産する微生物の連続発酵を行った。ピルビン酸を生産させる微生物としては、酵母トルロプシス・グラブラータ(Torulopsis glabrata)のうち、トルロプシス・グラブラータP120−5a株(FERM
P−16745)を用いた。
【0074】
発酵培地として表2に示す組成のピルビン酸発酵培地を用い、図1に示す連続発酵装置を用いて連続発酵試験を行った。上記のピルビン酸発酵培地は、121℃の温度で20分間高圧蒸気滅菌して用いた。運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
【0075】
【表2】
【0076】
[運転条件]
・発酵培養槽容量:2.0L
・発酵培養槽有効容積1.5L
・使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン製中空糸膜60本
・温度調整:30℃
・発酵培養槽通気量:1.5L/min
・発酵培養槽攪拌速度:800rpm
・pH調整:4NのNaOHによりpHを5.5に調整
・ピルビン酸発酵培地供給速度:15〜300mL/hrの範囲で可変制御
・培養液循環装置による循環液量:3.5L/min
・膜ろ過流量制御:吸引ポンプによる流量制御
・ 滅菌:膜モジュールを含む培養槽および使用培地は、全て121℃の温度で20分間のオートクレーブにより高圧蒸気滅菌した。
【0077】
また、ピルビン酸の濃度の評価には、下記に示す条件でHPLC法により測定した。
・カラム:Shim-Pack SPR-H(島津社製)
・移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流量0.8mL/min)
・反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDT
A・2Na(流量0.8mL/min)
・検出方法:電気伝導度
・温度:45℃
また、グルコース濃度の測定には、“グルコーステストワコーC”(登録商標)(和光
純薬社製)を用いた。
【0078】
まず、P120−5a株を、試験管で5mLのピルビン酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を、新鮮なピルビン酸発酵培地100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコで24時間、30℃の温度で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示した連続発酵装置の1.5Lのピルビン酸発酵培地に植菌し、発酵培養槽1を付属の攪拌機4によって攪拌し、発酵培養槽1の通気量の調整、温度調整およびpH調整を行い、循環ポンプ8を稼働させることなく、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、循環ポンプ8を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、ピルビン酸発酵培地の連続供給を行い、連続発酵装置の培養液量を1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるピルビン酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、ろ過ポンプ11から出てくるろ過量を測定し、膜ろ過量制御条件で変化させることで行った。適宜、膜ろ過培養液中の生産されたピルビン酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。
【0079】
連続発酵ろ過運転は250時間行った。膜ろ過運転は、ろ過ポンプ11を用いて行い、ろ過流量は、0〜50時間まではろ過を行わず、50〜200時間までは100mL/h、200〜250時間までは135mL/hの流量でろ過を行った。ろ過は9分ろ過、その後1分間ろ過停止を繰り返し行った。逆圧洗浄は、ろ過時間50〜250時間まで行い、9分間ろ過後、1分間逆圧洗浄を、逆圧洗浄速度600mL/hの流量で行った。逆圧洗浄に使用した高温水は、恒温器に蒸留水を入れ、温度が一定になるようにした高温水を使用した。逆圧洗浄に使用した高温水は、温度が50℃になるよう恒温器を設定し、連続発酵200時間から250時間まで使用した。高温水を使用していなかった期間では常温の水を使用して逆圧洗浄を行った。発酵培養槽内の微生物濃度については、微生物濃度が増加することによりろ過性が低下する傾向があることから、ろ過速度が適切に維持でき、かつ生産性が維持できると考えられた微生物濃度を想定した後、その微生物濃度になるように運転を行った。ろ過差圧は差圧計を用いて1回/日で測定し、微生物濃度はOD600を用いて1回/日測定した。OD600の測定は、まず発酵培養槽からサンプルを採集し、サンプルのOD600が1以下になるように生理食塩水を用いて希釈した後、波長600nmの吸光度を、分光光度計(島津製作所UV−2450)を用いて測定した。得られた測定値に、生理食塩水で希釈した倍率をかけ、サンプルのOD600として計算した。得られた実験結果を図5および図6に示す。その結果、微生物濃度をOD600が55程度まで下げ、膜ろ過差圧も安定的に維持することができ、微生物濃度を制御しながら効果的な膜洗浄を行うことが可能であった。
【0080】
実施例5
逆圧洗浄用高温水として、温度が40℃になるよう恒温器を設定し、連続発酵200時間から250時間まで使用した。前記の方法以外は、実施例4と同様にしてピルビン酸連続発酵試験を行った。その結果を図5および図6に示す。その結果、微生物濃度をOD600が65程度まで下げ、膜ろ過差圧も安定的に維持することができ、微生物濃度を制御しながら効果的な膜洗浄を行うことが可能であった。
【0081】
比較例1
逆圧洗浄用高温水による逆圧洗浄を行わないまま、実施例1と同様にD−乳酸連続発酵試験を行った。但し、高温水での逆圧洗浄によって培養液の希釈が考えられたため、実施例1で高温水を逆圧洗浄に使用した代わりに、実施例1で逆圧洗浄に使用された水の量を、培地投入口から投入した。その結果を図3および図4に示す。連続発酵250時間のOD600が90程度まで上昇し、微生物濃度の制御ができず、膜ろ過差圧も上昇し、安定的な連続発酵ろ過運転ができなかった。
【0082】
比較例2
逆圧洗浄用高温水による逆圧洗浄を、逆圧洗浄水の温度が35℃になるように設定し、実施例1と同様にD−乳酸連続発酵試験を行った。その結果を図3および図4に示す。連続発酵250時間のOD600が70程度まで上昇し、微生物濃度が制御できず、膜ろ過差圧も上昇し、安定的な連続発酵ろ過運転ができなかった。
比較例3
逆圧洗浄用高温水として、温度が25℃になるよう恒温器を設定し、連続発酵200時間から250時間まで使用した。前記の方法以外は、実施例4と同様にしてピルビン酸連続発酵試験を行った。その結果を図5および図6に示す。連続発酵250時間のOD600が85程度まで上昇し、微生物濃度が制御できず、膜ろ過差圧も上昇し、安定的な連続発酵ろ過運転ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、簡便な操作方法で、膜ろ過により発生する膜の汚れを効果的に洗浄するとともに、発酵培養槽内の微生物濃度を制御することができ、安定に低コストで発酵生産効率を著しく向上させることができ、かつ、洗浄廃液および引き抜き培養液から発生する処理費用の低減ができ、さらにコストの低減が可能になり、広く発酵工業において、発酵生産物を低コストで安定に生産することが可能となる。
【符号の説明】
【0084】
1 発酵培養槽
2 分離膜モジュール
3 温度制御装置
4 攪拌装置
5 pHセンサー・制御装置
6 レベルセンサー・制御装置
7 差圧センサー・制御装置
8 循環ポンプ
9 培地供給ポンプ
10 pH調整剤供給ポンプ
11 ろ過ポンプ
12 高温水逆洗ポンプ
13 常温水逆洗ポンプ
14 ろ過バルブ
15 高温水逆洗バルブ
16 常温水逆洗バルブ
17 気体供給装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6