(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5804025
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】土中監視装置及び土中監視方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20060101AFI20151015BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20151015BHJP
【FI】
G01V1/00 C
E02D17/20 106
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-233952(P2013-233952)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-94661(P2015-94661A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2013年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124154
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】森岡 宏之
【審査官】
田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−047676(JP,A)
【文献】
特開2005−077341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00−13/00
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土中に指向幅を持つ探知音を放射する探知音放射ユニットと、
土中からの残響音を検出する残響音検出ユニットと、
前記残響音の信号レベルを計測データとして取得し、前記計測データと予め記憶している基準データとの差分値を求め、該差分値が所定の含水量閾値を超えるか否かを判断し、超えるときは含水量警報を発報し、かつ、その際に当該含水量閾値を超える土中領域の深さを水分帯深さとして算出して、前記含水量警報と共に当該水分帯深さを出力する含水量監視処理と、前記計測データが所定の異常音閾値より大きいか否かを判断し、大きい場合には異常音警報を発報する異常音監視処理とを交互に繰り返す計測判断回路と、
を備えることを特徴とする土中監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の土中監視装置であって、
当該土中監視装置が起動した直後に取得した前記計測データを、前記基準データとして記憶することを特徴とする土中監視装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の土中監視装置であって、
前記探知音放射ユニットと前記残響音検出ユニットとに共用される1つの音波送受信器と、
前記探知音を放射する際には、前記音波送受信器を送波手段として機能させ、前記残響音を検出する際には、前記音波送受信器を受波手段として機能させる切替回路と、を備えることを特徴とする土中監視装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の土中監視装置であって、
前記計測判断回路は、前記差分値が前記含水量閾値を超えたときの時間と予め設定されている土中の音速との積を求め、この値を水分帯深さとして出力することを特徴とする土中監視装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の土中監視装置であって、
前記計測判断回路は、前記差分値が前記含水量閾値より大きくなってから、その後に当該含水量閾値より小さくなるまでの時間と予め設定されている土中の音速との積を求め、この値を水分帯深さの幅として出力することを特徴とする土中監視装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の土中監視装置であって、
前記含水量監視処理の終期は、前記残響音の終期から所定時間継続した時点であることを特徴とする土中監視装置。
【請求項7】
音波送受信器に、土中に指向幅を持つ探知音を放射させる探知音放射手順と、
前記音波送受信器に、土中からの残響音を検出させる残響音検出手順と、
前記音波送受信器からの信号を受信する計測判断回路に、前記残響音の信号レベルを計測データを取得させて、
前記計測データと予め記憶している基準データとの差分値を求め、該差分値が所定の含水量閾値を超えるか否かを判断し、超えるときは含水量警報を発報し、かつ、その際に当該含水量閾値を超える土中領域の深さを水分帯深さとして算出して、前記含水量警報と共に当該水分帯深さを出力する含水量監視処理と、前記計測データが所定の異常音閾値より大きいか否かを判断し、大きい場合には異常音警報を発報する異常音監視処理とを交互に繰り返す計測判断手順と、を含む、
ことを特徴とする土中監視方法。
【請求項8】
請求項7に記載の土中監視方法であって、
当該土中監視方法を開始した直後に取得した前記計測データを、前記基準データとして記憶する手順を含むことを特徴とする土中監視方法。
【請求項9】
請求項7乃至8のいずれか1項に記載の土中監視方法であって、
前記計測判断回路に、前記差分値が前記含水量閾値を超えたときの時間と予め設定されている土中の音速との積を求め、この値を水分帯深さとして出力させる手順を含むことを特徴とする土中監視方法。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか1項に記載の土中監視方法であって、
前記計測判断回路に、前記差分値が前記含水量閾値より大きくなり、その後に当該含水量閾値より小さくなったときの時間と予め設定されている土中の音速との積を求め、この値を水分帯深さの幅として出力させる手順を含むことを特徴とする土中監視方法。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれか1項に記載の土中監視方法であって、
前記含水量監視処理の終期は、前記残響音の終期から所定時間継続した時点であることを特徴とする土中監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土中監視装置及び土中監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山等の傾斜地では、降雨により土砂崩れが発生して、大きな被害をもたらすことがある。土砂崩れには、表面崩壊と深層崩壊との2つのモードが知られている。被害の大きさは、一概には言えないが、表面崩壊より深層崩壊の方が大きいことが多い。
【0003】
表面崩壊は、雨が土中にしみこみきれないほどの雨が降ったときに地表を流れる地表流により発生する。即ち、水は必ず低い方へ流れるので、地表面のわずかな凸凹でも、凹の方へ集中する(集まる)。このとき、水は土や石を巻き込みながら流れて、表面侵食が生じる。浸食された溝は徐々に成長して、浸食・崩落が進み、水と土石は土石流となって、最終的に表面崩壊となる。
【0004】
一方、深層崩壊は、降水時間が長く、降水量が多い場合に起きやすい。即ち、降雨により土中は水で一杯になり、土の粒同士だけでなく、岩石と土との境で結びつきが緩くなる。そして、水がしみこみ難い岩石と土との境目に水の層が発生して、土は岩石と共に滑落することにより深層崩壊が発生する。
【0005】
そこで、土中の水分量を監視する技術の開発が望まれ、特開2011−47676号公報においては、後述するような土中水分水位検出装置が提案されている。
【0006】
この土中水分水位検出装置は、一端が密封され他端が開口された管状の超音波導波管を土中に埋めて利用される。そして、超音波導波管の密封側には超音波送受信素子を有する検出器や制御部が備えられている。制御部は、送波した超音波の反射波の最大振幅に基づいて、土中水分量を検出すると共に、超音波の送信から反射波の受信までに要する時間に基づいて地下水位面の位置を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−47676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、災害の直接原因は土砂崩れであることが多く、この土砂崩れの主要因は土中の水分量の増大であるので、これらを検出する特開2011−47676号公報に係る土中水分水位検出装置は有用であるが、災害を最小限に抑制(減災)する観点からは不十分であった。
【0009】
即ち、土中の水分量が増大すると、直ちに土砂崩れが発生するとは限らず、時には土砂崩れが起きない場合もある。また、水分量が増大してから長時間経過後に土砂崩れが起きることもある。従って、防災・減災の観点からは、土中の水分量増大を監視するばかりでなく、土砂崩れの予兆も検出する必要がある。
【0010】
そこで、本発明の主目的は、土中の水分量を監視するばかりでなく、土砂崩れの予兆が検出できる土中監視装置及び土中監視方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、土中監視装置に係る発明は、土中に探知音を放射する探知音放射ユニットと、土中からの残響音を検出する残響音検出ユニットと、残響音の信号レベルを計測データとして計測し、残響音に探知音の反射音が含まれる場合は含水量監視処理及び残響音に探知音の反射音が含まれない場合は異常音監視処理を交互に繰り返す計測判断回路と、を備え、含水量監視処理は、計測データと予め記憶している基準データとの差分値を求め、該差分値が所定の含水量閾値を超えるか否かを判断し、超えるときは含水量警報を発報し、かつ、その際に当該含水量閾値を超える土中領域の深さを水分帯深さとして算出して、含水量警報と共に当該水分帯深さを出力する処理であり、異常音監視処理は、計測データが所定の異常音閾値より大きいか否かを判断し、大きい場合には異常音警報を発報する処理であることを特徴とする。
【0012】
また、土中監視方法に係る発明は、音波送受信器に、土中に探知音を放射させる探知音放射手順と、音波送受信器に、土中からの残響音を検出させる残響音検出手順と、音波送受信器からの信号を受信する計測判断回路に、残響音の信号レベルを計測データとして計測し、残響音に探知音の反射音が含まれる場合は含水量監視処理及び、残響音に探知音の反射音が含まれない場合は異常音監視処理を交互に繰り返す処理を行わせる計測判断手順と、を含み、含水量監視処理は、計測データと予め記憶している基準データとの差分値を求め、該差分値が所定の含水量閾値を超えるか否かを判断し、超えるときは含水量警報を発報し、かつ、その際に当該含水量閾値を超える土中領域の深さを水分帯深さとして算出して、含水量警報と共に当該水分帯深さを出力する処理であり、異常音監視処理は、計測データが所定の異常音閾値より大きいか否かを判断し、大きい場合には異常音警報を発報する処理であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、土中の水分量等を検出する含水量監視処理と地鳴り等を検出する異常音監視処理とを交互に繰り返すので、水分量増大を監視するばかりでなく、土砂崩れの予兆が検出できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】土中監視装置の動作手順を示したフローチャートである。
【
図3】土中監視装置から放射された探知音を説明する模式図である。
【
図4】探知音及び残響音における振幅(信号レベル)の包落線を示した図で、(a)は基準データ、(b)は計測データを示す図である。
【
図5】差分値と含水量閾値との比較処理を説明する図で、(a)は
図4における基準データ及び計測データを示した図、(b)は基準データと計測データとから算出した差分値と含水量閾値との関係を示した図である。
【
図6】異常音監視処理を説明するための図で、(a)は計測判断回路15の監視シーケンスを示した図であり、(b)は地鳴り等の残響音の差分値が異常音閾値を超えて異常音警報信号が出力される様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態にかかる土中監視装置2のブロック図である。この土中監視装置2は、音波送受信器11、タイミング回路12、送信回路13、信号処理回路14、計測判断回路15、切替回路16、出力部17を主要構成とする。このとき、音波送受信器11、タイミング回路12、送信回路13、切替回路16が探知音放射ユニット6を構成し、音波送受信器11、切替回路16、信号処理回路14が残響音検出ユニット8を構成している。
【0016】
なお、以下の説明においては、土中監視装置2は、計測場所に埋設して用いる場合を例に説明するが、当該計測場所に載置又は半埋設状態に設置しても良いことを予め付言する。
【0017】
音波送受信器11は、例えば圧電素子を利用して構成されて、土中に超音波等の音(以下、探知音)を放射し、また土中からの音(残響音)を検出する。この圧電素子は、電気信号を音波に、また音波を電気信号に変換する素子である。なお、本実施形態においては、音波送受信器11は1つの圧電素子から構成されている場合について説明するが、送波手段と受波手段とに分けて設けることも可能である。
【0018】
切替回路16は、探知音を送波する場合には、送信回路13からの信号(送信信号G4)が音波送受信器11に入力するように回路切替を行い、残響音を検出する場合には音波送受信器11からの信号が信号処理回路14に入力するように回路切替を行う。これらの切替は、タイミング回路12からの切替信号G1_bに基づき制御される。
【0019】
タイミング回路12は、探知音を一定周期毎に送波するためのタイミング信号G1を出力すると共に、計測判断回路15に入力した信号(以下、受信信号G9)を記録させるための記録指示信号G3を出力する。このタイミング信号G1は、送信回路13,切替回路16、計測判断回路15に出力される。以下、説明の都合から、送信回路13に出力されるタイミング信号G1を送信許可信号G1_a、切替回路16に出力されるタイミング信号G1を切替信号G1_b、計測判断回路15に出力されるタイミング信号G1を解析タイミング信号G1_cと記載し、これらを総称してタイミング信号G1と記載する。
【0020】
なお、送信許可信号G1_aは、送信回路13に探知音の出力を指示する信号であり、切替信号G1_bは、切替回路16に回路制御を行わせる信号であり、解析タイミング信号G1_cは、計測判断回路15で解析処理を行う際に、探知音の出力タイミングを通知する信号である。また、記録指示信号G3は、基準データの記憶を指示する信号で、土中監視装置2がリセットされたときに1回のみ出力される信号である。
【0021】
送信回路13は、送信許可信号G1_aに同期して、大電力の送信信号G4を出力する。このとき、切替回路16には切替信号G1_bが入力しており、切替回路16は送信回路13と音波送受信器11とが接続されるように回路形成を行う。従って、送信信号G4は切替回路16を経て送信回路13から音波送受信器11に入力することになる。音波送受信器11は、この送信信号G4に基づき探知音を地中に送波する。
【0022】
探知音が放射されると、タイミング回路12は切替信号G1_bを切替回路16に出力する。この切替信号G1_bを受信した切替回路16は、音波送受信器11と信号処理回路14とが接続されるように回路切替を行う。
【0023】
信号処理回路14は、音波送受信器11から出力される信号(以下、受波信号)G8に対して信号処理を行う。受波信号G8の信号レベルは微弱であり、また周波数成分は探知音の周波数と異なる成分を多く含んでいる。さらに受波信号G8には、種々のノイズも含まれている。そこで、信号処理回路14は受波信号G8のレベルを調整し、周波数帯域を制限し、ノイズを除去する信号処理を行い、当該信号処理を行った信号を受信信号G9として計測判断回路15に出力する。
【0024】
計測判断回路15は、受信信号G9の信号レベルを計測する。以下、計測して得られた信号レベルを計測データと記載する。計測判断回路15は、この計測データを用いて、基準データ記憶処理、含水量監視処理、異常音監視処理の3つの処理を行う。基準データ記憶処理は、土中監視装置2がリセットされたときにのみタイミング回路12から出力される記録指示信号G3に基づき行われる処理である。これに対し、含水量監視処理と異常音監視処理とは、所定の時間間隔で交互に繰り返される処理である。換言すれば、含水量監視処理が断続的に行われるため、その間の時間において異常音監視処理が行われる。
【0025】
そして、基準データ記憶処理においては、計測データが基準データとして計測判断回路15に設けられている図示しない記憶手段に記憶される。
【0026】
また、含水量監視処理においては、基準データと計測データとの差分が求められて、当該差分値が予め設定された含水量閾値より多いか否かが監視される。この監視により、差分値が含水量閾値より多いと判断された場合は、含水量異常信号が出力部17に出力される。
【0027】
さらに、異常音監視処理においては、計測データが予め設定された異常音閾値より大きいか否かの監視が行われる。この監視により、計測データが異常音閾値より大きいと判断された場合は、異常音警報信号が出力部17に出力される。
【0028】
出力部17は、計測判断回路15から含水量警報信号や異常音警報信号を受信すると、これらの信号を警報信号G11として図示しない監視ステーションに有線、無線等の手段を介して出力する。なお、この警報信号G11に計測地点を示す情報を含めることは可能であり、また準天頂衛星システムや全地球測位システム等の公知のシステムを利用して計測地点が分かるようにしても良い。
【0029】
次に、上述した土中監視装置2の詳細な構成を、
図2を参照して説明する。なお、
図2は、土中監視装置2の動作手順を示したフローチャートである。
【0030】
ステップS1: 土中監視装置2を起動して、この土中監視装置2を埋設する。このとき、埋設は、計測地が乾燥しているときに行う。乾燥しているときとは、水分量が「ゼロ」であることを意味するものではなく、所謂「乾いた土」の意味であって、土砂崩れが水分により発生しない状態を言う。埋設に要する時間が経過すると、タイミング回路12は、タイミング信号G1(送信許可信号G1_a,切替信号G1_b,解析タイミング信号G1_c)と記録指示信号G3とを出力する。
【0031】
ステップS2: 切替回路16は、切替信号G1_bを受信すると、音波送受信器11と送信回路13とが接続するように回路切替を行う。
【0032】
ステップS3: 送信回路13は送信許可信号G1_aを受信すると、送信信号G4を出力する。このとき、切替回路16は送信回路13と音波送受信器11とを接続しているので、送信信号G4は音波送受信器11に入力する。
【0033】
音波送受信器11は、送信信号G4を探知音に変換する。これにより、土中に向けて探知音が放射される。
図3は、土中監視装置2から放射された探知音を説明する模式図である。探知音は地中方向Dに指向幅φで放射される。そして、地中の粒子等を伝搬しながら、当該粒子等で反射されて、音波送受信器11に戻り、残響音として受波される。
【0034】
なお、基準データ記憶処理や含水量監視処理において、残響音は、土中の粒子等で反射された探知音の反射音である。一方、異常音監視処理においては、地鳴り、崩落音等の探知音に関与しない音である。
【0035】
ところで、探知音を指向幅φで放射するのは、以下の理由による。即ち、土中には種々の大きさの岩が存在し、また硬さの異なる地層がある。このような岩等の存在を予め知ることは非常に困難である。特に、土砂崩れ等が危惧される地域では、岩等の存在確認のための処理(例えば、振動)による影響で、土砂崩れを誘発したり、また土砂崩れの要因を残してしまう恐れがあるので、岩等の存在を知ることが難しい。
【0036】
従って、特許文献1(特開2011−47676号公報)のような超音波導波管を備える土中水分水位検出装置では、超音波導波管により探知音の指向幅を規制しているので、岩等により土中の水分量や位置が検出できない場合もある。しかし、上述したように本実施形態に係る土中監視装置2には探知音や残響音の指向幅を規制する超音波導波管のような部材が設けられていないので、岩等の存在による影響が軽減できる利点がある。
【0037】
ステップS4:タイミング回路12は、探知音が放射された頃合いを経過時間等により判断して、切替信号G1_bを出力する。これにより切替回路16は、音波送受信器11と信号処理回路14とが接続するように回路切替を行う。
【0038】
なお、タイミング回路12が送信許可信号G1_aを出力してから探知音が放射されるまでに要する時間(以下、探知音放射時間と記載する)は、一定である。そこで、切替回路16は、ステップS2における切替信号G1_bを受信してから探知音放射時間が経過すると、自動的に音波送受信器11と信号処理回路14とが接続するように回路切替を行うようにしても良い。
【0039】
ステップS5,S6: 切替回路16により音波送受信器11と信号処理回路14とが接続されたので、残響音は音波送受信器11で検出されて受波信号G8として信号処理回路14に入力する。信号処理回路14は受波信号G8のレベルを調整し、周波数帯域を制限し、ノイズを除去する信号処理を行い、当該信号処理を行った信号を受信信号G9として計測判断回路15に出力する。
【0040】
ステップS7〜S9: 計測判断回路15は、受信信号G9のレベルを検出して計測データを取得する。このとき、記録指示信号G3を受信しているときには、ステップS9に進む。ステップS9においては、信号処理回路14は計測データを基準データとして記憶して、ステップS2に戻る。一方、記録指示信号G3を受信していないときは、ステップS10に進む。
【0041】
ステップS10,S11: 信号処理回路14は、基準データと計測データとの差分を求め、この差分値と含水量閾値との比較を行う。
図3において、水分帯Pは、地中に浸透した雨水による水分領域を特徴的に示した図である。降雨により、地中に水分帯Pが発生すると、この水分帯Pでの音速は大きくなると共に、音の減衰量は小さくなる。この理由は、土の粒子等の隙間に水が入り込むことにより密度が大きくなるためであり、また水が土の粒子等の隙間に入り込むことにより、反射量(散乱量)が減少して音の減衰量が小さくなるためと考えられる。
【0042】
また、
図4は、探知音及び残響音における振幅(信号レベル)の包落線を示した図で、(a)は基準データ、(b)は計測データを示している。さらに、
図5は、差分値と含水量閾値との比較処理を説明する図で、(a)は
図4における基準データ及び計測データを示した図、(b)は基準データと計測データとから算出した差分値と含水量閾値との関係を示した図である。
【0043】
このとき、計測データと基準データとの位置合わせのために、解析タイミング信号G1_cが用いられる。このことを、
図4(a)を参照して説明する。解析タイミング信号G1_cは、時刻Tで計測判断回路15に入力したとすると、この時刻Tから探知時間Δtを経過した後に入力した信号を探知音の反射音(残響音)と判断する。従って、探知時間Δtの経過前に信号が受信されても、意味のない信号として無視される。
【0044】
残響音の受波時間であるが、探知音に対する残響音は反射音であるので、この
図4,
図5における横軸の時間は、反射位置と相関している。即ち、
図4,
図5は、土中の水分量とその位置の関係を示している。このことから、
図4,
図5は、土中の水分量分布とも解釈できる。但し、位置の絶対値や土中の密度は不明である。
【0045】
なお、積極的に、土中の水分量分布を計測するために、探知音の音圧を段階的に増大させる方法が考えられる。音圧を変えることは、探知音の到達距離を変えることに対応するため、より正確な水分量分布の計測が可能になる。
【0046】
さて、
図4及び
図5から、乾燥した土(少なくとも、警報を発生させない状態の土)での計測データである基準データに対して、降雨により水分量が増加した土での計測データは、継続時間が長くなると共に、信号レベルも大きくなっていることが分かる。
【0047】
そこで、計測判断回路15は、基準データと計測データとの差分値(=計測データ−基準データ)を算出する。計測判断回路15は、この差分値が、予め設定した含水量閾値を超えたか否かを判断する。差分値を超えた場合(差分値≧含水量閾値)には、ステップS12に進み、差分値を超えない場合(差分値<含水量閾値)には、ステップS13に進む。
【0048】
図5(b)において、差分値が含水量閾値を超えている時間帯(含水量閾値を超える水分帯の領域に相当)をαで示し、
図3における水分帯Pの幅が、αに対応した領域である。
【0049】
ステップS12: 計測判断回路15は、水分帯深さと共に含水量警報信号を出力部17に出力し、出力部17は含水量警報を内容とする警報信号G11を出力する。水分帯深さは、残響音の測定開始から差分値が含水量閾値を超えるまでの時間t1に音速vを乗算することで得られる。なお、音速vは、事前に実験等により求めて、計測判断回路15に記憶されている。
【0050】
ところで、水分帯深さを算出する際に、この水分帯深さの領域(幅)を算出することが可能である。このときの算出は、差分値が含水量閾値より小さくなったときの時刻t2と時刻t1との差に速度vを乗算することにより得られる。
【0051】
ステップS13: 以上により、基準データ記憶処理、及び、含水量監視処理が終了するが、計測判断回路15は、異常音監視処理のために計測データの取得を継続する。このときの計測データは、探知音に関与しない地鳴りや崩落音等に起因した残響音によるデータである。
【0052】
ステップS14,S15: そして、計測判断回路15は、計測データが異常音閾値を超えるか否かを判断し、超える場合には異常音警報信号を出力部17に出力する。この異常音警報信号は、土砂崩れ等の予兆を検知したことを知らせる信号である。従って、異常音閾値は、周囲で発生する環境音により誤報(異常音警報信号の誤発生)が起きないレベルに設定されて、計測判断回路15に記憶されている。
【0053】
図6は、異常音監視処理を説明するための図で、(a)は計測判断回路15の監視シーケンスを示した図であり、(b)は山鳴り等の残響音の差分値が異常音閾値を超えて異常音警報信号が出力される様子を示している。このとき、含水量監視区間の終期は、探知音の放射終了から十分に時間が経過した時(少なくとも、反射音からなる残響音が検出されなくなる時間で、
図6(a)ではβで示す時間)とする。
【0054】
ステップS16:そして、異常音監視処理を所定時間行って、ステップS1に戻る。これによりタイミング回路12は送信許可信号G1_aや切替信号G1_bを出力して、次の監視サイクル(含水量監視処理や異常音監視処理)が繰り返される。このとき基準データは既に取得して記憶されているので、記録指示信号G3は出力されない。
【0055】
なお、上記説明では、土中監視装置2を乾燥した土中に埋設後に、基準データを取得したが、基準データが事前に取得されている場合には、この基準データを外部から書込んで記憶するようにしてもよい。
【0056】
また、音波送受信器11から放射される探知音の放射方向(
図3の方向D)は、鉛直方向を想定しているが、かかる方向に限定しない。例えば、山肌が傾斜している場合には、当該山肌に垂直な方向に放射するようにしても良い。さらに、放射方向を外部から制御可能にすることも可能である。
【0057】
以上説明したように、土中に探知音を放射しその反射音から土中の水分量が含水量閾値を超えるか否かを判断するので広範囲で、かつ、深い範囲で、土中の含水量が監視することができるようになる。
【0058】
また、同一構成で、含水量監視処理と異常音監視処理とを繰り返すので、安価に、土砂崩れ等の災害が監視することが可能になる。
【符号の説明】
【0059】
2 土中監視装置
6 探知音放射ユニット
8 残響音検出ユニット
11 音波送受信器
12 タイミング回路
13 送信回路
14 信号処理回路
15 計測判断回路
16 切替回路
17 出力部