(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記操作媒体が、核酸増幅反応液からなる水系液体層、又は、逆転写反応液からなる水系液体層及び核酸増幅反応液からなる水系液体層をさらに含む、請求項3に記載の操作管。
前記管の材質が、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレンコポリマー、アクリロニトリルスチレンコポリマー、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン及びガラスからなる群から選ばれる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の操作管。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[1.対象成分の操作]
[1−1.対象成分]
本発明において操作される対象成分は、通常水系液体中、エマルジョン中、或いはヒドロゲル中で操作されうる成分であれば特に限定されず、生体内成分及び非生体内成分を問わない。生体内成分には、核酸(DNA及びRNAを含む)、タンパク質、脂質、糖などの生体分子が含まれる。非生体内成分には、前記の生体分子の人為的(化学的及び生化学的を問わない)修飾体、ラベル化体、変異体などの非生体分子、天然物由来の非生体分子、その他水系液体中で操作されうるいかなる成分も含まれる。
【0025】
対象成分は、通常、その対象成分を含む試料の態様で提供されうる。そのような試料としては、例えば、動植物組織、体液、排泄物等の生体由来試料、細胞、原虫、真菌、細菌、ウィルス等の生体分子含有体を挙げることができる。体液には血液、喀痰、髄液、唾液、乳が含まれ、排泄物には糞便、尿、汗が含まれ、これらの組合せでもよい。細胞には血液中の白血球、血小板や、口腔細胞その他の粘膜細胞の剥離細胞が含まれ、これらの組合せでもよい。これらの試料は、臨床スワブとして得てよい。また、上記の試料は、例えば細胞懸濁液、ホモジネート、細胞溶解液との混合液などの態様で調製されてもよい。また、対象成分を含む試料は、上記の試料に対して、修飾、ラベル化、断片化、変異等の処置が行われて得られたものであってもよい。
【0026】
対象成分を含む試料は、さらに、予め上記の試料に適宜前処理を行って調製されたものであってもよい。前処理としては、例えば対象成分を含む試料から対象成分又は対象成分含有体の抽出、分離、精製を行う処理などが挙げられる。しかしながら、このような前処理は、本発明のデバイスの中で行うことができるため、デバイス内に供給される前に予め行われることは必ずしも要求されない。本発明のデバイスの中で前処理を行うことにより、通常試料の前処理で懸念されるコンタミネーションの問題を回避することができる。
【0027】
[1−2.操作]
[1−2−1.操作の態様]
本発明においては、上記対象成分を含む試料は
図1中の1として例示される操作管の中に供給され、操作管の中で対象成分が操作される。本発明における対象成分の操作は、上記の対象成分を種々の処理に供すること、及び、種々の処理行う複数の環境の間で上記対象成分を運搬することを含む。後に詳述するが、操作管にはゲル層と水系液体層とを収容している。例えば、
図1に例示する態様においては、2g及び3gで示される層がゲルからなるもの(ゲルプラグ)であり、3lで示される層が水系液体からなるものである。4で示される層は、水系液体からなってもよいし、水系液体がゲル状態を維持できればヒドロゲルからなってもよい。水系液体やヒドロゲルは、対象成分の処理を行う環境を構築するものである。従ってより具体的には、本発明における対象成分の操作は、対象成分を水系液体やヒドロゲル内で処理に供すること、及び、ゲルプラグを介して、処理を行う複数の環境の間で対象成分を運搬することを含む。
【0028】
[1−2−2.対象成分の処理]
対象成分が供される処理には、対象成分の物質変化を伴うもの、及び物理変化を伴うものが含まれる。
【0029】
対象成分の物質変化を伴う処理としては、基質間の結合の生成又は切断により異なる物質を新たに生じる処理であれば、いかなる処理も含まれる。より具体的には、化学反応及び生化学反応が含まれる。化学反応としては、化合、分解、酸化及び還元を伴ういかなる反応も含まれる。本発明においては、通常、水系液体中で行われるものが含まれる。生化学反応としても、生体物質の物質変化を伴ういかなる反応も含まれ、通常、in vitro反応をいう。例えば、核酸、タンパク質、脂質、糖などの生体物質の合成系、代謝系及び免疫系に基づく反応が挙げられる。
【0030】
対象成分の物理変化を伴う処理としては、上記の物質変化を伴わないいかなる処理も含まれる。より具体的には、対象成分の変性(例えば、対象成分が核酸やタンパク質を含む生体高分子その他の高分子の場合)、溶解、混合、エマルジョン化、及び希釈等が含まれる。
【0031】
従って、本発明における処理によって、対象成分の抽出、精製、合成、溶出、分離、回収及び分析等の工程を行うことが可能となる。これらの工程によって、最終的に対象成分の単離、検出及び同定等が可能となる。
【0032】
なお、本発明における処理には、目的とする処理(対象成分の単離、検出及び同定等の効果が直接得られる工程における処理)のみならず、それに付随する前処理、及び/又は後処理が適宜含まれる。対象成分が核酸である場合の例を挙げると、核酸増幅反応、又は核酸増幅反応と増幅産物の分析等の工程が行われうるが、それらの前処理として、核酸含有試料からの核酸の抽出(細胞溶解)、及び/又は精製(洗浄)等が必須であるし、後処理として、増幅産物の回収等が行われることもある。
【0033】
[1−2−3.対象成分の運搬]
対象成分の運搬は、磁性体粒子及び磁場印加手段によって行われる。磁性体粒子は、操作の際には操作管の中に存在するものであり、対象成分をその表面に結合又は吸着させることによって捕捉した状態で操作管内を移動することにより、対象成分を運搬することができるものである。磁性体粒子は、操作管内の水系液体層中において分散することができ、通常操作管外部から磁場印加手段で磁場を生じさせることによって水系液体層中で凝集する。凝集した磁性体粒子は、操作管外部から磁場印加手段によって生じさせられた磁場の変動に伴って移動することができる。凝集した磁性体粒子は、ゲル層中に移動することができる。3−2−3で後述するゲルのチキソトロピックな性質(揺変性)を利用することにより、凝集した磁性体粒子はゲル層を破壊することなく通過することができる。ゲル中において、凝集した磁性体粒子は対象成分を結合又は吸着により伴っている。凝集した磁性体粒子群は、厳密には極僅かな水系液体にコートされている。すなわち、対象成分以外の成分を伴いうる。しかしコートされている水系液体の量が極僅かであるため、水系液体はほとんど引き連れないといえる。このため、対象成分の運搬を非常に効率よく行うことができる。
【0034】
[2.操作管]
[2−1.操作管の構造]
本発明のデバイスは、操作管を有する。
図1を参照して操作管の構造を説明する(以下の説明において、上下は、
図1を基準としていうものとする)。操作管を構成する管は、上端が試料投入のため開口しており、コンタミネーションの観点から、開口端は閉鎖可能であることが好ましい。下端は閉鎖されている。通常、操作管を構成する管は横断面略円形であるが、その他の形の横断面を有する管を除外するものではない。管内には、水系液体層l及びゲル層gが管の長手方向に交互に重層した操作媒体が収容されている。なお、
図1においては、操作管の上部及び下部の態様が異なる(1)〜(3)の3つの態様を例示している。しかしながら、上部と下部とは任意に組み合わせられるものであって、これら(1)〜(3)で示す組み合わせに限られるものではない。
【0035】
管の上部開口端は対象成分を含む試料を供給するための試料供給部5であり、開口端である試料供給部5は一時的に開放されていてもよい(
図1(1))し、その全部(
図1(2))又は一部が開放可能に閉鎖されていてもよい。一部が開放可能に閉鎖される例として、逆止弁機能を備えるセプタムを用いることで、注射針による密閉状態に近い穿刺での試料供給が可能である。(
図1(3))。開口端である試料供給部5が閉鎖されることは、完全密閉系を構築することができる点で好ましい。完全閉鎖系が構築可能であることは、操作中における外部からのコンタミネーションを防ぐことができるため非常に有効である。試料供給部5の内径は、操作用媒体であるゲル層及び水系液体層が収容されている管部aの内径と同じであってもよい(
図1(1))し、試料の供給時の操作性の観点からより広い内径を有するように適宜形成されていてもよい(
図1(2)及び(3))。
【0036】
図1(1)及び(2)に例示する態様においては、管は一体成形されている。
図1(3)に例示する態様においては、管は、操作用管部aと回収用管部bとから構成されている。操作用管部aは、上下端が開口している。回収用管部bは、上端が開口し、下端が閉鎖されている。操作用管部aと回収用管部bとは、管部aの一方の端と管部bの開口端とが連結される。操作用管部aと回収用管部bとは、分離可能な形状であってもよいし、分離を考慮しない形状(分離不可能な形状)であってもよい。
【0037】
操作用管部a内には、一方の端を閉鎖するゲル層2gと、その上に重層する複層すなわち操作用媒体3とを収容する。操作用媒体3は、水系液体層3l及びゲル層3gが交互に重層して構成される。操作用管部aとその収容物である操作用媒体とから構成される部分を操作部Aと表記する。回収用管部b内には、水系液体及びゲルのいずれが一方を少なくとも含む回収用媒体4が収容される。回収用管部bとその収容物である回収用媒体4とから構成される部分を回収部Bと表記する。操作部Aと回収部Bとは、連結された状態で提供されてもよいし、それぞれ独立した状態で提供されてもよい。
【0038】
[2−2.操作管のサイズ]
操作管を構成する管の略内径は、例えば0.1mm〜5mm、好ましくは1〜2mmである。この程度の範囲であれば、操作管が良好な操作性を有することができる。上記範囲を下回ると、強度維持のため、管壁を厚くせざるを得ず、磁性粒子と磁石との距離が広がり、磁性体粒子への磁力が届きにくくなることで、操作上問題を生じる可能性はある。一方、管の内径が上記範囲を上回ると、操作用媒体を構成するゲル層と水系液体層との複層が外部からの衝撃や重力の影響等で乱れやすくなる傾向にある。なお、本発明においては、キャピラリー材質が高精度加工に耐えうるならば、内径0.1mm以下の管であることを除外するものではない。操作管の長手方向の長さは、例えば1〜30cm、好ましくは5〜15cmである。
【0039】
なお、
図1(2)及び(3)のように、内径がより広くなるように試薬供給部5が形成されている場合、試料供給部5の略内径は、上述の範囲より大きく、且つ10mm以下、好ましくは、5mm以下でありうる。試薬供給部がより広い内径を有することは、試薬供給の際の作業性の観点から好ましい。より広い内径が上記範囲を上回ると、例えば複数の操作管を同時に処理する場合などに、操作管同士が干渉し、デバイスの集積性が悪くなる傾向にある。
【0040】
[2−3.管の材質]
操作管を構成する管の材質としては特に限定されない。例えば、ゲル層内において対象成分と微量の液体が磁性体粒子とともに移動する際の移動抵抗を下げるために、搬送面である内壁が滑らかでかつ撥水性であるものが挙げられる。そのような性質を与える材質として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂(テフロン(登録商標))、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレンコポリマー(ABS樹脂)、アクリロニトリルスチレンコポリマー(AS樹脂)、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィンなどの樹脂素材が挙げられる。樹脂素材であることは、操作管を落としたり曲げたりしても操作管内の層が乱れにくく堅牢性が高い点で好ましい。また、管の材質は、透明度、耐熱性及び/又は加工性の上で必要であればガラスであってもよい。また、試薬供給部5、操作用管部a、及び回収用管部bの材質は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0041】
[2−4.管の物性]
管の材質は、操作時における視認性の観点や、管外部から吸光度、蛍光、化学発光、生物発光、屈折率の変化等の測定を行う場合に、光学的な検出を行う観点などから、光透過性を有するものであることが好ましい。
【0042】
管の内壁を構成する搬送面は、ゲル層内において対象成分を含む少量の液体塊を磁性体粒子とともに移動させるため、平滑面であることが好ましく、特に、表面粗さが、Ra=0.1μm以下であることが好ましい。例えば、永久磁石を管の外部から管に近づけ磁場の変動により対象成分を含む少量の液体塊が移動する際に、磁性体粒子が搬送面に押し付けられながら移動するが、搬送面がRa=0.1μm以下の表面粗さを有することで、変動する磁場に対する磁性体粒子の追従性を十分備えることができる。
【0043】
[3.操作管内収容物]
[3−1.操作用媒体]
操作管内には、少なくとも、水系液体の層とゲルの層とが交互に重層した複層が操作用媒体として収容される。最上層は、ゲル層であってもよい(
図1(1))し、水系液体層であってもよい(
図1(2)及び(3))。また、最上の層が水系液体層である場合、その層中に磁性体粒子6が含まれていてもよいし(
図1(3))、含まれていなくてもよい(
図1(1)及び(2))。最下層は、水系液体層であってもよい(
図1(1)〜(3))し、ゲル層であってもよい。
【0044】
図1(1)及び(2)に示すように、操作管を構成する管が一体成形されている場合は、管内に収容される全ての層が、互いに接した状態でありうる。
図1(3)に示すように操作管を構成する管が操作用管部aと回収用管部bとからなる場合、回収用管部bには、回収用媒体として水系液体のみが収容されていてもよいし、ゲルのみが収容されていてもよいし、水系液体層とゲル層とが交互に重層した複層が収容されていてもよい。操作用管部aの最下端に収容されるゲル層2gと、回収用管部bに収容された水系液体、ゲル、又は、回収用管部bに収容された複層の最上層とは、互いに接していても良いし、間に気体の層を挟むことによって接していなくてもよい(
図1(3))。
【0045】
管に収容される層の数及び順番は特に限定されず、対象成分を供する操作の工程の数及び順番に基づいて当業者が適宜決定する事ができる。一本の操作管内に収容される水系液体層のそれぞれは、2以上の異なる種類の水系液体からなるものであることが好ましい。それぞれの層を構成する水系液体は、操作管の上端側から順に、対象成分を供する処理工程や反応工程のそれぞれに必要な環境を構築する液体を用いることができる。一本の操作管内に収容されるゲル層のそれぞれは、異なる種類のゲルからなるものであってもよいし、同じ種類のゲルからなるものであってもよい。例えば、複数の水系液体層のうちの一部の水系液体層において、加熱による処理又は反応が行われる場合に、その水系液体層に隣接するゲル層においてのみ、上記加熱に必要な温度においてもゲル状態又はゲル−ゾル中間状態を保持することができる高いゾル−ゲル転移点を有するゲルを用い、その他のゲル層には、比較的低いゾル−ゲル転移点を有するゲルを用いることができる。その他にも、隣接する水系液体層を構成する水系液体の特性や体積などに応じて、適切な特性を有するゲルを当業者が適宜選択することができる。
【0046】
ゲル層は、操作管内において、水系液体の層を管の長手方向の両側で仕切るプラグ(ゲルプラグ)としての役割を有する。その厚さは、管の内径や長さ、磁場印加手段によって搬送される磁性体粒子の量などを考慮して、プラグとして機能するような厚さを、当業者が適宜決定する事ができる。例えば1〜20mm、好ましくは3〜10mmでありうる。上記範囲を下回ると、プラグとしての強度に欠ける傾向にある。上記範囲を上回ると、操作管が長くなり操作性、デバイスの耐久性、収容性が悪くなる傾向にある。
【0047】
水系液体層は、対象成分を含む試料が供される処理や反応などの環境を提供するものである。その厚さは、管の内径や長さ、対象成分の量、対象成分が供される処理や反応の種類などを考慮して、対象成分に対する所望の処理又は反応が達成されるような水系液体量を与える厚さを、当業者が適宜決定する事ができる。例えば、0.5〜30mm、好ましくは3〜10mmでありうる。上記範囲を下回ると、対象成分についての処理や反応が十分に達成できなくなる場合がある他、プラグが液滴状になり磁性粒子が試薬と合体できない虞も生じうる。上記範囲を上回ると、水系液体層がゲル層に比べて相対的に厚くなりすぎることが多く、ゲルプラグと同様の問題が発生する可能性がある上、水系液体の比重がゲルより大きい場合、重層が崩れやすい傾向にある。
【0048】
一方、ゲル層がヒドロゲルからなる場合、ヒドロゲル層は、試薬の仕切りの役目だけではなく、水系液体層と同様に、対象成分を含む試料が供される処理や反応などの環境を提供することができる。この場合においては、ヒドロゲル層の厚さが、水系液体層より大きくなる場合もありうる。
【0049】
[3−2.ゲルの種類]
ゲル層は、管内で水系液体とともに重層された場合に、水系液体層を構成する液体に不溶性又は難溶性である化学的に不活性な物質からなる。液体に不溶性又は難溶性であるとは、25℃における液体に対する溶解度が概ね100ppm以下であることを意味する。化学的に不活性な物質とは、対象成分の操作(すなわち、水系液体中又はヒドロゲル中における対象成分の処理、及び、ゲルプラグを介した対象成分の運搬)において、対象成分及び水系液体又はヒドロゲルに化学的な影響を及ぼさない物質を指す。本発明におけるゲルには、オルガノゲルとヒドロゲルとの両方が含まれる。
【0050】
[3−2−1.オルガノゲル]
オルガノゲルは、通常、非水溶性又は水難溶性である液体物質にゲル化剤を添加してゲル化され得るものである。
[3−2−1−1.非水溶性又は水難溶性である液体物質]
非水溶性又は水難溶性である液体物質としては、25℃における水に対する溶解度が概ね100ppm以下であり、常温(20℃±15℃)において液体状であるオイルが用いられうる。例えば、液体油脂、エステル油、炭化水素油、及びシリコーン油からなる群から1種又は2種以上が組み合わされて用いられうる。
【0051】
液体油脂としては、アマニ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、ミンク油、オリーブ油、アボカド油、サザンカ油、ヒマシ油、サフラワー油、キョウニン油、シナモン油、ホホバ油、ブドウ油、ヒマワリ油、アルモンド油、ナタネ油、ゴマ油、小麦胚芽油、米胚芽油、米ヌカ油、綿実油、大豆油、落花生油、茶実油、月見草油、卵黄油、肝油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等が挙げられる。
【0052】
エステル油としては、オクタン酸セチル等のオクタン酸エステル、ラウリン酸ヘキシル等のラウリン酸エステル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル等のミリスチン酸エステル、パルミチン酸オクチル等のパルミチン酸エステル、ステアリン酸イソセチル等のステアリン酸エステル、イソステアリン酸イソプロピル等のイソステアリン酸エステル、イソパルミチン酸オクチル等のイソパルミチン酸エステル、オレイン酸イソデシル等のオレイン酸エステル、アジピン酸イソプロピル等のアジピン酸エステル、セバシン酸エチル等のセバシン酸エステル、リンゴ酸イソステアリル等のリンゴ酸エステル、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリン等が挙げられる。
【0053】
炭化水素油としては、ペンタデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、ミネラルオイル、流動パラフィン等が挙げられる。シリコーン油としては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンその他のフェニル基含有シリコーン油、メチルハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。
【0054】
[3−2−1−2.ゲル化剤]
ゲル化剤としては、ヒドロキシ脂肪酸、デキストリン脂肪酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる油ゲル化剤が1種又は2種以上組み合わされて用いられうる。
【0055】
ヒドロキシ脂肪酸としては、ヒドロキシル基を有する脂肪酸であれば、特に制限はない。具体的には、例えば、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ジヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ジヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシマルガリン酸、リシノレイン酸、リシネライジン酸、リノレン酸等が挙げられる。これらの中でも特に、ヒドロキシステアリン酸、ジヒドロキシステアリン酸、リシノレイン酸が好ましい。これらのヒドロキシ脂肪酸は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの混合物である動植物油脂肪酸(例えば、ヒマシ油脂肪酸、水添ヒマシ油脂肪酸等)も前記ヒドロキシ脂肪酸として使用することができる。
【0056】
デキストリン脂肪酸エステルとしては、例えば、ミリスチン酸デキストリン〔商品名「レオパールMKL」、千葉製粉株式会社製〕、パルミチン酸デキストリン〔商品名「レオパールKL」、「レオパールTL」、いずれも千葉製粉株式会社製〕、(パルミチン酸/2−エチルヘキサン酸)デキストリン〔商品名「レオパールTT」、千葉製粉株式会社製〕等が挙げられる。
【0057】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、ベヘン酸グリセリル、オクタステアリン酸グリセリル、エイコ酸グリセリル等が挙げられ、これらを1種以上組み合わせて使用してもよい。具体的には、20%ベヘン酸グリセリル、20%オクタステアリン酸グリセリル及び60%硬化パーム油を含む商品名「TAISET 26」〔太陽化学株式会社製〕、50%ベヘン酸グリセリル及び50%オクタステアリン酸グリセリルを含む商品名「TAISET 50」〔太陽化学株式会社製〕等を挙げることができる。
【0058】
非水溶性又は難水溶性である液体物質中に添加されるゲル化剤の含有量は、当該液体物質の全重量の例えば0.1〜0.5重量%、0.5〜2重量%、或いは1〜5重量%に相当する量のゲル化剤を用いることができる。しかしながらこれに限定されることなく、所望のゲル及びゾル状態を達成することができる程度の量を、当業者が適宜決定することができる。
【0059】
ゲル化の方法は当業者が適宜決定する事ができる。具体的には、非水溶性又は難水溶性である液体物質を加熱し、加熱された当該液体物質にゲル化剤を添加し、ゲル化剤を完全に溶解させた後、冷却することで当該液体物質をゲル化させることができる。加熱温度としては、用いる液体物質及びゲル化剤の物性を考慮して適宜決定すればよい。例えば、60〜70℃程度とすることが好ましい場合がある。ゲル化剤の溶解は、加温状態の当該液体物質に対して行い、この際、穏やかに混和しながら行うと良い。冷却はゆっくり行うことが好ましい。例えば、1〜2時間程度の時間をかけて冷却することができる。例えば常温(20℃±15℃)以下、好ましくは4℃以下まで温度が下がれば冷却を完了することができる。上記ゲル化の方法の好ましい態様が適用される一態様として、例えば上述のTAISET 26〔太陽化学株式会社製〕を用いる態様が挙げられる。
【0060】
[3−2−2.ヒドロゲル]
ヒドロゲルとしては、例えば、ゼラチン、コラーゲン、デンプン、ペクチン、ヒアルロン酸、キチン、キトサンまたはアルギン酸及びこれらの誘導体をヒドロゲル材料として、ヒドロゲル材料を水又は水系液体に平衡膨潤させることによって調製されたものが用いられうる。上述のヒドロゲルの中でも、ゼラチンから調製されるヒドロゲルを用いることが好ましい。また、ヒドロゲルは、上記のヒドロゲル材料を化学架橋し、又は、ゲル化剤(例えばリチウム、カリウム、マグネシウムなどのアルカリ金属・アルカリ土類金属の塩、或いはチタン、金、銀、白金等の遷移金属の塩、さらには、シリカ、カーボン、アルミナ化合物等)で処理して得てもよい。これら化学架橋やゲル化剤は、当業者であれば容易に選択することができる。
【0061】
特に、ヒドロゲルが、水系液体と同様に対象成分を含む試料が供される処理や反応などの環境を提供するものである場合は、そのような処理や反応に適した組成を有するよう、当業者によって適宜調製される。例えば、タンパク質を合成することができるポリジメチルシロキサンを基剤としたDNAヒドロゲル(P−ゲル)が挙げられる。このヒドロゲルは、ゲルスキャフォールドの一部としてのDNAから構成される。このようなヒドロゲルは、対象成分がタンパク質合成用基質である場合に、その対象成分からタンパク質を得る反応に供することができる(より具体的な態様は、Nature Materials 8, 432-437 (2009)、及びNature Protocols 4: 1759-1770 (2009)を参照して当業者が適宜決定することができる)。生成したタンパク質は、例えばそのタンパク質に特異的な抗体を有する磁性体粒子を用いることによって回収することができる。
【0062】
[3−2−3.ゲルの特性]
管に収容したゲルは、ある温度を境にゾル−ゲル転移を起こす特性を有する。ゾル−ゲル転移点は、25〜70℃の範囲でありうる。ゾル−ゲル転移点がこの範囲であることは、回収等でゾル化による流動性を必要とする反応システムにおいて望ましい。ゾル−ゲル転移点は、オルガノゲル材料(オイル)やヒドロゲル材料の種類、ゲル化剤の種類、及びゲル化剤の添加量などの条件によって変動しうる。従って、当該各条件は、所望のゾル−ゲル転移点を有するよう、当業者によって適宜選択される。
【0063】
ゲルプラグは、管内の水系液体を管の長手方向の両側から挟み込むことによって、管内の所定位置に固定することを可能にする。一方、磁性体粒子は、ゲルの中でも外部からの磁場操作による移動可能であり、ゲルを通過することができる。これはゲルのチキソトロピックな性質(揺変性)による。すなわち、外からの磁石移動により管内の磁性体粒子が搬送面に沿ってゲルに剪断力を与え、磁性体粒子の進行方向前方のゲルがゾル化し流動化するため、磁性体粒子はそのまま進むことができる。しかも、磁性体粒子が通過した後、剪断力から解放されたゾルは、すみやかにゲル状態に戻るため、ゲルには磁性体粒子通過による貫通孔を形成させることがない。この現象を利用すれば、対象物は磁性粒子を運搬体として容易に移動することができるため、対象物が供される種々の化学的環境を極短時間で切り替えることができる。例えば、本発明を、複数の試薬による複数の化学反応からなるシステムに利用すれば、対象物の処理時間を大幅に短縮することができる。常温以下の温度でゲル化する性質を利用すれば、その温度で液体状態を呈する試薬であっても、その液体試薬は管内でゲルプラグによって挟まれることにより固定化されることができる。このため、予めキャピラリーに液状試薬を装填した状態を、デバイス製造時から利用者の手に渡るまで保つことができ、液体試薬の安定供給が可能となる。さらに、工程ごとの試薬分取及び分注操作が不要で、手間や時間が低減でき、さらにコンタミネーションによる分析精度の劣化を防ぐことができる。
【0064】
ゲルの物性は、動的粘弾性のうち貯蔵粘弾性E’が好ましくは常温(20℃±15℃)下で10〜100kPa、より好ましくは20〜50kPaでありうる。上記範囲を下回ると、ゲルプラグとしての強度に欠ける傾向にある。上記範囲を上回ると、粒径数μm程度の磁性体粒子であっても移動が妨げられやすくなる傾向にある。ゾル状態においては、5mm2/s〜100mm2/s、好ましくは5mm2/s〜50mm2/s、例えば20mm2/s程度(50℃)の動粘度を有しうる。
【0065】
[3−3.水系液体の種類]
本発明における水系液体は、ゲルに不溶性又は難溶性である水系液体であれば良く、水、水溶液又はエマルジョンと呼ばれる乳濁液、若しくは、微粒子が分散した懸濁液の態様で提供されうる。水系液体の構成成分としては、本発明における対象成分が供される反応や処理の環境を提供するいかなるものも含まれる。
【0066】
より具体的な例としては、本発明の操作対象となる成分を水系液体層中に遊離させ磁性体粒子表面に結合又は吸着させるための液(すなわち、対象成分を夾雑物から引き離し、磁気ビーズ表面への結合又は吸着を促す作用を有する液)、対象成分と共存する夾雑物を除去するための洗浄液、磁性体粒子に吸着した対象成分を磁性体粒子から分離させるための溶出液、及び対象成分が供される反応系を構築するための反応液などが挙げられる。例えば、対象成分が核酸である場合は、細胞を破壊し核酸を遊離させ、シリカコーティングされた磁性粒子表面に吸着させるための試薬液(細胞溶解液)、核酸以外の成分を除去するため磁性粒子を洗浄するための洗浄液、核酸を磁性粒子から分離させるための溶出液(核酸溶出液)、核酸増幅反応を行うための核酸増幅反応液などが挙げられる。以下に、対象成分が核酸である場合を例示して、上記の核酸についての処理液及び反応液と、それらが供される処理及び反応についてさらに説明する。
【0067】
[3−3−1.細胞溶解液]
細胞溶解液としては、カオトロピック物質を含有する緩衝液が挙げられる。この緩衝液は、EDTAその他の任意のキレート剤やTritonX−100その他の任意の界面活性剤をさらに含むことができる。緩衝液は、例えばトリス塩酸、その他の任意の緩衝剤に基づく。カオトロピック物質としては、グアニジン塩酸塩、グアニジンイソチアン酸塩、ヨウ化カリウム、尿素などが挙げられる。
【0068】
カオトロピック物質は、強力なタンパク質変性剤であり、核酸にまとわり付いたヒストンなどのタンパク質を核酸から引き離し、磁性体粒子のシリカコーティング表面への吸着を促す作用がある。緩衝剤は、核酸が磁性体粒子表面に吸着しやすいpH環境を整える補助剤として用いられることができる。カオトロピック物質は、細胞溶解(すなわち細胞膜を破壊する)作用も併せ持つ。しかしながら、細胞溶解(すなわち細胞膜を破壊する)作用には、カオトロピック物質よりも、界面活性剤の寄与が大きい。キレート剤は、細胞溶解を促進させる補助剤として用いられることができる。
【0069】
核酸を含む試料からの核酸抽出の具体的プロトコールは、当業者が適宜決定することができる。本発明においては液滴封入媒体内における核酸の運搬に磁性体粒子を用いるため、核酸抽出方法も磁性体粒子を用いた方法を採用することが好ましい。例えば、特開平2−289596号公報を参考に、核酸を含む試料からの磁性体粒子を用いた核酸の抽出、精製方法を実施することができる。
【0070】
[3−3−2.洗浄液]
洗浄液としては、核酸が磁性体粒子表面に吸着したまま、核酸含有試料に含まれる核酸以外の成分(例えば蛋白質、糖質など)や、核酸抽出など予め行われた他の処理に用いられた試薬その他の成分を溶解できる溶液であることが好ましい。具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム等の高塩濃度水溶液、エタノール、イソプロパノール等のアルコール水溶液などが挙げられる。核酸の洗浄は、すなわち、核酸が吸着した磁性体粒子の洗浄である。この洗浄の具体的プロトコールも、当業者が適宜決定することができる。また、核酸が吸着した磁性体粒子の洗浄の回数は、核酸増幅反応の際に不所望の阻害が生じない程度に当業者が適宜選択することができる。また、同様の観点で阻害成分の影響が無視できる場合、洗浄工程を省略することも可能である。洗浄液からなる水系液体層は、少なくとも洗浄する回数と同じ数だけ調製される。
【0071】
[3−3−3.核酸溶出液]
核酸溶出液としては、水又は塩などを含む緩衝液を用いることができる。具体的には、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、蒸留水などを用いることができる。核酸が吸着した磁性体粒子から核酸を分離し溶出液中へ溶出させる具体的方法も、当業者が適宜決定することができる。
【0072】
[3−3−4.核酸増幅反応液]
本発明における核酸増幅反応液には、通常核酸増幅反応に用いられる種々の要素に、少なくとも増幅すべき塩基配列を含む核酸及びそれを表面に吸着した磁性体粒子が含まれる。
【0073】
後述するように核酸増幅反応は特に限定されるものではないため、核酸増幅反応に用いられる種々の要素は、後述で例示する公知の核酸増幅法などに基づいて、当業者が適宜決定することができる。通常、MgCl2、KCl等の塩類、プライマー、デオキシリボヌクレオチド類、核酸合成酵素及びpH緩衝液が含まれる。また、上記の塩類は適宜他の塩類に変更して使用されうる。また、ジメチルスルホキシド、ベタイン、グリセロール等の非特異的なプライミングを減少させるための物質がさらに添加される場合がある。
【0074】
本発明における核酸増幅反応液には、上記成分の他に、ブロッキング剤を含ませることができる。ブロッキング剤は、核酸重合酵素の、反応容器の内壁や磁性体粒子表面などへの吸着による失活を防止する目的で用いられうる。ブロッキング剤の具体例としては、牛血清アルブミン(すなわちBSA)その他のアルブミン、ゼラチン(すなわち変性コラーゲン)、カゼイン及びポリリジンなどのタンパク質や、ペプチド(いずれも天然及び合成を問わない)、フィコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0075】
本発明にかかる核酸増幅反応としては特に限定されず、例えば、PCR法(米国特許第4683195号明細書、同4683202号公報、同4800159号公報、同4965188号公報)、LCR法(米国特許第5494810号公報)、Qβ法(米国特許第4786600号公報)、NASBA法(米国特許第5409818号公報)LAMP法(米国特許第3313358号公報)、SDA法(米国特許第5455166号公報)、RCA法(米国特許第5354688号公報)、ICAN法(特許第3433929号公報)、TAS法(特許第2843586号公報)等を用いることができる。また、上記反応に先立ってRT反応を行うこともできる。これらの核酸増幅反応に必要な反応液の組成、並びに反応温度は、当業者が適宜選択することができる。
【0076】
なお、逆転写酵素(RT)反応の後さらに核酸増幅反応を行う場合、例えばRT−PCRを行う場合を挙げると、回収部Bにおいて、PCR反応液の層の上に、ゲル層を介してRT反応液の層を重層することができる(たとえば
図4に例示)。
【0077】
リアルタイム核酸増幅方法においては、二本鎖DNAに結合することができる蛍光色素、あるいは蛍光色素で標識したプローブによって、増幅産物を蛍光検出することができる。リアルタイム核酸増幅法における検出法としては、下記の方法が挙げられる。
【0078】
例えば、特異性の高いプライマーにより目的のターゲットのみを増幅可能である場合には、SYBR(登録商標) GREEN Iなどを用いるインターカレーター法が用いられる。二本鎖DNAに結合することで蛍光を発するインターカレーターは、核酸増幅反応によって合成された二本鎖DNAに結合し、励起光の照射により特定波長の蛍光を発する。この蛍光を検出することにより、増幅産物の生成量をモニターすることができる。この方法は、ターゲットに特異的な蛍光標識プローブを設計・合成する必要がなく、簡便にさまざまなターゲットの測定に利用できる。
【0079】
また、よく似た配列を区別して検出する必要がある場合や、SNPsのタイピングを行う場合は、蛍光標識プローブ法を用いる。一例として、5´末端を蛍光物質で修飾し、3´末端をクエンチャー物質で修飾したオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるTaqMan(登録商標)プローブ法がある。TaqManプローブは、アニーリングステップで鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、プローブ上にクエンチャーが存在するため、励起光を照射しても蛍光発光は抑制される。伸長反応ステップでは、TaqDNAポリメラーゼのもつ5´→3´エキソヌクレアーゼ活性により、鋳型にハイブリダイズしたTaqManプローブが分解されると、蛍光色素がプローブから遊離し、クエンチャーによる抑制が解除されて蛍光が発光される。この蛍光強度を測定することで、増幅産物の生成量をモニターすることができる。
【0080】
このような方法によって、DNAをリアルタイムPCRで定量する原理を以下に述べる。まず、段階希釈した濃度既知の標準サンプルを鋳型として使用してPCRを行う。そして、一定の増幅産物量に達するサイクル数(threshold cycle;Ct値)を求める。このCt値を横軸に、初発のDNA量を縦軸にプロットして、検量線を作成する。未知濃度のサンプルについても、同じ条件下でPCR反応を行ってCt値を求める。この値と前述した検量線とから、サンプル中の目的のDNA量が測定できることになる。
【0081】
さらに、インターカレーター法では蛍光色素を含んだPCR反応後の液を40℃から95℃程度まで徐々に温度を上げ、連続的に蛍光強度をモニターすると、増幅産物の融解曲線を得ることができる。核酸増幅反応で生じた二本鎖DNAは、DNAの長さ及びその塩基配列により固有のTm値を持つ。つまり、蛍光色素が結合したDNAを含む液滴の温度を徐々に上昇させると、急激に蛍光強度が減少する温度が観測される。蛍光強度の変化量を調べると、その温度ピークは塩基配列と長さによって規定されるTm値とほぼ一致している。このことによって、目的遺伝子ではなく例えばプライマーダイマーが生じて観測されたデータなど(すなわち偽陽性データ)を陽性とみなしたデータから除外することができる。遺伝子検査では、試料中の夾雑物により非特異反応が起こることも多いため、このような偽陽性を排除することは重要である。これにより、生成した増幅産物が、標的遺伝子固有のものであるかどうかの判定を行うこともできる。
【0082】
[3−3−5.その他の水系液体]
上記以外のいかなる反応及び処理についても、それぞれの水系液体の組成は、当業者が容易に決定することができる。また、対象成分が上記の核酸以外の場合であっても、それぞれの水系液体の組成は当業者が容易に決定する
事ができる。
【0083】
[4.操作管の作製方法]
操作管の作製方法としては、操作用媒体である複層が収容されるべき管が用意される態様によって、以下の2つの方法が挙げられる。
【0084】
[4−1.操作管一本の作製に一本の管が用意される場合]
この作成方法を行う場合としては、管が一体形成された状態で用意される場合や、管が操作用管部aと回収用管部bとから構成される場合であって、管部aと管部bとが連結された状態で用意される場合が当てはまる。一本の管内において、下部閉口端から必要な順番で、必要な水系液体及びゲルを交互に重層させるように充填することによって操作用媒体を形成し、操作管を作製することができる。管が操作用管部aと回収用管部bとから構成される場合は、まず、回収部Bを構成するために必要な回収用媒体の収容、すなわち、水系液体の収容、ゲルの収容、又は水系液体層とゲル層との複層形成が完了した時点で、回収部Bが完成する。さらに、操作部Aを構成するために必要な操作用媒体の収容、すなわち水系液体層及びゲル層の複層を形成することによって、操作部Aが完成する。水系液体及びゲルを交互に重層させて複層を形成するより具体的な方法は、後述4−2の場合における重層方法に準じて、当業者が適宜行うことができる。なお、必要な水系液体及び/又はゲルを収容した後は、上部開口端である試料供給部が適宜閉鎖されてよい。
【0085】
[4−2.操作管一本の作製に複数本の管が用意される場合]
この作成方法を行う場合としては、管が操作用管部aと回収用管部bとから構成される場合であって、管部aと管部bとが独立し状態で用意される場合が当てはまる。この場合、管部a内及び管部b内のそれぞれにおいて必要な水系液体及び/又はゲルを収容することによって操作部A及び回収部Bを別々に作製し、作製された操作部Aと回収部Bとを互いに連結することによって、操作管を作製することができる。
【0086】
操作部Aの作製方法の概要について、
図2に模式的に示す。水系液体層を構成する水系液体L(例えば洗浄液)は容器に収容され、ゲル層を構成するゲルGがゾル状態で別の容器に収容される。
図2では、例えば70℃の恒温バス21で加熱することにより、ゾル状態を保っている。管部aの下部開口端は、押さえ用マット22に押し付けられることによって閉鎖された状態で用意される。
【0087】
管部a内への送液システムは、水系液体L及びゾル化ゲルGが収容された容器内からそれぞれ伸びた、水系液体L又はゾル化ゲルGを送液するためのチューブ23及び23’と、チューブ23’が接続された送液手段24(
図2ではぺリスタポンプ)と、送液手段によって送られてきたチューブ内の液状物質を管部a内に充填するためのニードル25とを含む。ニードル25は、管部aへ挿入されることによって管部a内の最底部へ届く程度の長さを有していることが好ましい。
【0088】
図2では、水系液体Lが収容された容器内から伸びたチューブ23とゾル化ゲルGが収容された容器内から伸びたチューブ23とが切り替えバルブ26に接続される。この場合、バルブ26の切り替えによって、異なる液状物質(水系液体Lとゾル化ゲルG)をそれぞれ同一のチューブ23’及び同一のニードル25に送液することができる。この態様は、管部a内に挿入されるニードルが一本で済むため、管部aの内径が比較的小さい場合に好ましく用いられうる。
【0089】
一方、切り替えバルブ26を使用することなく、容器内からニードルまでの送液路を全て独立させてもよい。例えば
図2と同じ操作部Aを作製する場合は、水系液体が収容された容器内から伸びたチューブ及びそのチューブに連結されるニードルと、ゾル化ゲルが収容された容器内から伸びたチューブ及びそのチューブに連結されるニードルとの二本の送液路を構成することができる。この態様においては、管部a内に二本のニードルを挿入することが可能であるので、管部aの内径が比較的大きい場合に好ましく用いられうる。
【0090】
図2の(1)〜(3)で順に示すように、管部a内へは、ゾル化ゲルGから順番に、ゾル化ゲルGと水系液体Lとが交互に送られ充填される。ニードル25の先端は、管部a内の液面上昇に伴って上昇させる。ゾル化ゲル充填後、
図2(2)に示すように水系液体Lを重層する際は、先に充填されたゾル化ゲルを完全にゲル化させてもよいし、完全にゲル化させなくともよい。ゾル化ゲルGが収容された容器内から送られた液状物質は、管部a内に挿入されたニードル25から管部a内へ放出される際には、熱源(
図2では恒温バス21)から離れたために、通常、粘弾性の高まったゲル−ゾルの中間状態になりうる。このため、水系液体を重層する際に、先の層2を完全にゲル化しなくとも、管部a内壁に対するゲル2gの接触抵抗が働き、比重の軽いゲル2gが浮き上がることはない。このように、ゾル化ゲルGと水系液体Lとを交互に管部a内に送ることによって、必要数の層を形成させ、操作部Aを得ることができる。
【0091】
回収部Bは、必要な水系液体又はゲルを収容することによって得ることができる。或いは、回収部Bは、抑え用マットを用いないことを除いて上述と同様の方法で適宜必要な順番で水系液体層及びゲル層の複層を形成することによって得ることができる。
【0092】
上述のようにして得られた操作部Aと回収部Bとを、互いに連結させる。操作部Aは、内容物が滑り落ちないように管部aを傾け、抑え用マットを外し、傾けた状態、或いは横倒しの状態で回収部Bを連結するとよい。連結の態様としては、管部aと管部bとをテープなどを巻きつけるものであってもよいし、互いに連結可能とする連結部がそれぞれ形成された管部a及び管部bを使用し、両連結部を連結させるものであってもよい。
【0093】
なお、必要な水系液体及び/又はゲルを収容した後は、操作用管部aの上部開口端である試料供給部が適宜閉鎖されてよい。閉鎖されるタイミングとしては、操作部Aが作製された後であって操作部Aと回収部Bとが連結される前であってもよいし、操作部Aと回収部Bとが連結された後であってもよい。
【0094】
[5.磁性体粒子]
磁性体粒子は、操作管外からの磁場の変動によって、操作管内における対象成分を、付随する少量の液体塊と共に引き連れることにより移動させるために使用される。そのような移動によって特定成分の分離、回収、精製を可能にする目的とした磁性体粒子は、通常その表面に化学官能基を有する。磁性体粒子は予め操作管内に収容されていなくともよい(
図1(1)及び
図1(2))し、収容されていてもよい(
図1(3)、
図3及び
図4)。予め操作管内に収容されている場合は、最上層を構成する水系液体の中に含ませることができる。磁性体粒子が予め操作管内に収容されていない場合は、対象成分を有する試料を操作管内に供給する際に、磁性体粒子も操作管内に供給される。
【0095】
磁性体粒子は、磁気に応答する粒子であれば特に限定されず、例えば、マグネタイト、γ−酸化鉄、マンガン亜鉛フェライト等の磁性体を有する粒子が挙げられる。また、磁性体粒子は、上記の処理又は反応に供される対象成分と特異的に結合する化学構造、例えばアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、アビジン、ビオチン、ジゴキシゲニン、プロテインA、プロテインG、錯体化した金属イオン、或いは抗体を備えた表面を有してよく、静電気力、ファンデルワールス力により対象成分と特異的に結合する表面を有してもよい。これによって、反応又は処理に供される対象成分を選択的に磁性体粒子へ吸着させることができる。磁性体粒子が表面に有する親水性基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。
【0096】
磁性体粒子は、上記の他に当業者によって適宜選択される種々の要素をさらに含んで構成されることができる。例えば、表面に親水性基を有する磁性体粒子の具体的な態様として、磁性体とシリカ及び/又は陰イオン交換樹脂との混合物からなる粒子、シリカ及び/又は陰イオン交換樹脂で表面を覆われた磁性体粒子、メルカプト基を介して親水性基を有する金で表面が覆われた磁性体粒子、磁性体を含有し表面にメルカプト基を介して親水性基を持つ金粒子などが好ましく挙げられる。
【0097】
表面に親水性基を有する磁性体粒子の大きさとしては、平均粒径が0.1μm〜500μm程度でありうる。平均粒径が小さいと、磁性体粒子は、水系液体層中で磁場から開放された場合に分散した状態で存在しやすくなる。磁性体粒子として市販されているものの例としては、東洋紡から販売されているPlasmid DNA Purification Kit MagExtractor−Plasmid-の構成試薬である核酸抽出用にシリカコーティングされたMagnetic Beadsが挙げられる。このようにキットの構成試薬として販売されている場合、磁性体粒子を含む製品原液は保存液等を含んでいるため、純水(例えば10倍量程度)で懸濁させることによって洗浄することが好ましい。この洗浄においては、純粋で懸濁した後、遠心操作、又は磁石による凝集によって上清を除去することによって行うことができ、また懸濁及び上清除去を繰り返し行うことができる。なお、磁性体粒子を動かすために磁場の変動を与える磁場印加手段については、後述の項目8で詳述する。
【0098】
[6.管内で対象成分を操作する方法]
操作管内での対象成分の操作を、
図3(0)〜(14)及び
図4(0)〜(7)に示されている。以下、
図3及び
図4に基づいて説明する。
【0099】
[6−1.操作管内への試料の供給]
操作管の使用の際には、試薬供給口5から対象成分を含む試料32を供給する(
図3(1)及び
図4(1))。通常、試料は液状の態様で供給される。試料供給は、注射器などによって手動で行ってもよいし、ピペッターなどを用いる分注機で自動制御して行ってもよい。試料供給は、操作管を適当な保持手段(図示せず;なお操作管を保持するための保持手段については後述の項目7に詳述する)によって立てた状態で行われうる。
【0100】
操作管内の最上層において、対象成分を含む試料32、磁性体粒子6及び水系液体3l1を含む水系液体混合物33を得る。このような水系液体混合物は、より具体的には以下のようにして得ることができる。例えば、操作管内に収容された最上層が水系液体からなる場合は、試料を磁性体粒子とともに操作管内へ供給してもよいし、試料を水系液体及び懸濁した磁性体粒子とともに操作管内へ供給してもよい。これによって、最上層における水系液体から水系液体混合物を得ることができる。また例えば、操作管内に収容された最上の層が磁性体粒子を含んだ水系液体からなる場合(
図3及び
図4に例示の場合が該当)は、試料のみを操作管内へ供給してもよいし、試料を水系液体とともに操作管内へ供給してもよい。これによって、最上の層における磁性体粒子を含んだ水系液体から水系液体混合物を得ることができる。さらに例えば、操作管内に収容された最上の層がゲルからなる場合は、試料を水系液体及び磁性体粒子とともに操作管内へ供給してよい。これによって、前記のゲル層の上に、水系液体混合物を新たに最上層として形成することができる。
【0101】
[6−2.操作管内での操作]
試料を供給し、最上層で試料と磁性粒子とを含む水系液体混合物が調製された操作管は、保持手段に立てた状態でそのまま、又はデバイス内専用の保持手段に移しかえる要領で、デバイスにセットすることができる。デバイス内においては、外部から磁場印加手段(例えば直径1mm〜5mm、長さ5mm〜30mmの円筒形ネオジム磁石)31を操作管1に近づけることによって磁場を生じさせ、水系液体混合物層3l1に分散していた磁性体粒子6を対象成分と共に凝集させる(
図3(2)及び
図4(2))。このとき、水系液体混合物層3l1に含まれていた不要成分も共に凝集しうる。磁場印加手段31を下へ毎秒0.5mm〜10mmの速度で移動させることによって、対象成分を引き連れる磁性体粒子を、水系液体混合物層3l1からそれに接する直下のゲル層3g1を介し(
図3(3)及び
図4(3))、ゲル層3g1に接する直下の水系液体層3l2へ運搬する(
図3(4)及び
図4(4))。なお、ゲル層3g1を通過している磁性体粒子は、通過前に供された水系液体混合物層3l1の水系液体混合物に薄くコートされているため、対象成分の他にも、濃度は低くなったものの夾雑成分を伴っている。そのような磁性体粒子がさらに水系液体層3l2へ運搬される。磁石の大きさ及び移動速度は、磁性粒子の量、操作管の内径・外径、ゲルプラグの状態等に応じて、当業者によって適宜決定される。
【0102】
さらに磁場印加手段31によって、水系液体層3l2からゲル層を介して他の水系液体層へ運搬することを必要に応じて繰り返す。「必要に応じて繰り返す」とは、原則として上から下の一方向のみに磁性体粒子を移動させることによって、層の数に応じた数だけ運搬操作を行ってもよい(
図3(4)〜(13)及び
図4(4)〜(7))し、上から下の一方向だけでなく適宜下から上の方向へ戻ることによって、層の数に応じた数以上の運搬操作を行ってもよいことを意味する。すなわち、運搬先の他の水系液体層は、運搬元の水系液体層より上に存在するものであってもよいし、下に存在するものであってもよい。このような運搬操作を繰り返すことで、対象成分と共に磁性体粒子によって運搬される夾雑成分の量は限りなくゼロに近くなる。対象成分を伴う磁性体粒子は極僅かな洗浄液を伴うものの、粒子表面の対象成分は、後の分析工程等に支障を来さないレベルにまで精製される。このように、対象成分の精製を磁場操作のみで非常に効率よく行うことができる。
【0103】
また、水系液体層中においては、処理効率を向上させる観点で、対象成分(具体的には、不要成分などが付随する対象成分の場合と不要成分が除去された対象成分の場合とを含む)を引き連れる磁性体粒子が水系液体と十分に接触できるように操作することが好ましい。このような操作をより効率的に行うための方法の一つとしては、水系液体層中で、磁場の印加により磁性体粒子が凝集している状態で磁場印加手段を上下運動させる方法が挙げられる。他の方法としては、水系液体層中で、磁性体粒子による磁場の印加を受けている磁性体粒子から磁場を開放することによって、磁場の印加によって凝集していた磁性体粒子を自然拡散させる方法が挙げられる。
【0104】
具体例として、
図3(4)に示すように、一旦磁場印加手段31を操作管1から遠ざけることによって磁場を遮断又は減弱させ、洗浄液層3l2中で磁性体粒子を分散させる。このことによって、磁性体粒子に吸着した対象成分が、付随成分とともに洗浄液3l2中に十分に晒されることにより洗浄される。
図3(5)に示すように再び磁場印加手段31を操作管1に近づけることによって、磁性体粒子を対象成分とともに凝集させ、運搬可能な状態となる。さらに磁場印加手段31を下に移動させることによって、
図3(6)に示
すように同様に直下のゲル層3g2へ運搬される。
図3(6)におけるゲル層3g2内の磁性体粒子及び対象成分においては、
図3(4)における洗浄により、
図3(3)におけるゲル層3g1内の磁性体粒子及び対象成分におけるよりも、付随成分の一部又は大部分が取り除かれている。
【0105】
また、回収部Bに収容された層において対象物質を磁性体粒子から分離させた後は、対象物質が分離した磁性体粒子を、前記の対象物質の分離を行った層から他の層に移動させる(例えば
図3では(13)〜(14))ことによって、回収部において、磁性体粒子から溶出された状態で対象物質を回収することが可能である。
【0106】
[6−3.核酸抽出]
例えば磁性粒子表面がシリカ被膜されている場合、
図3に示すように、生体試料は、界面活性剤とグアニジンチオシアネート等のカオトロピック塩とを含む細胞溶解液3l1に供されることによって、核酸を細胞から遊離させる(
図3(1))。遊離した核酸は粒子のシリカ表面に特異的に吸着させることができる。吸着した核酸はそのままでは反応阻害成分を伴っているため遺伝子増幅反応の鋳型として利用できない。このため、表面に核酸を吸着させたまま磁性粒子を洗浄液3l2で洗浄する。この際に反応阻害成分を洗浄液中に大量に持ち込まないようにするため、磁性体粒子6を磁石31によって集めて(
図3(2))、細胞溶解液3l1と洗浄液3l2とを隔てるゲルプラグ3g1の中を通過させる(
図3(3))。磁性体粒子がゲルプラグ3g1内を通過する際、液画分をほとんど引き連れずに洗浄液3l2に到達することができる(
図3(4))。このため、高効率で磁性粒子の洗浄を実施することができる。磁性体粒子のさらなるゲルプラグ(3g2、3g3)内の通過及び洗浄液(3l3、3l4)への運搬を繰り返す(
図3(5)〜(10))ことによって、核酸の精製度を上げることができる。磁性体粒子表面に吸着した状態で精製された核酸は磁石によって再び集められ(
図2(11))ゲルプラグ2g内を通過させ(
図3(12))、溶出液4中へ運搬される(
図3)(13)。溶出液4中では磁性体粒子から核酸が分離し溶出液中に溶出する。磁性体粒子の混入を望まない場合、核酸を溶出させた磁性体粒子は再びゲルプラグ2gにとどめおかれ、回収部Bには溶出された精製核酸が残る(
図3(14))。このようにして得られた核酸は、核酸増幅反応による分析が可能な鋳型核酸として有用である。得られた核酸は、操作管の回収部Bを操作部Aから取り外すことによって、次の操作(核酸増幅反応による分析を行う工程)に供することができる。
【0107】
[6−4.核酸合成・分析]
また、
図4に示すように、操作管の操作部Aの管部a及び回収部Bの管部bが一体成形され、
図3におけるものと同様の操作部Aと、ゲルプラグ4gで仕切られたRT反応液4l1及びPCR反応液4l2が収容された回収部Bとを有する操作管を使用する場合は、
図3(1)〜(12)と同じ操作(
図4(1)〜(5))を行った後、磁性体粒子6は精製された核酸(RNA)を吸着したままRT反応液4l1に運ばれ、RT反応が行われる(
図4(7))。RT反応終了後、磁性体粒子は、RT反応によって得られたDNA(PCR反応の鋳型となる)も吸着してゲルプラグ4g中を通過してPCR反応液4l2に運ばれ、PCR反応が行われる(
図4(7))。PCR生成物は、蛍光色素によるリアルタイム検出法又はエンドポイント検出法による蛍光検出法によって分析することができる。なお、
図4において、42及び43は温度制御機能を模式的に示したものである。42の温度制御機能のより具体的な例は、後述の項目8−2−6で述べ、43の温度制御機能のより具体的な例は、後述の項目7−3で述べる。
【0108】
上記のような操作を複数の操作管内で同時に行う場合は、
図5に記載のように多チャンネル化することができる。
図5に例示するデバイスは、磁石移動機構を有する磁場印加手段(可動磁石板53)と温度制御機能付き保持基板(温調ブロック51)とを主要ユニットとする簡素な構成である。それぞれの構成については、後述の項目7及び8で述べる。
【0109】
[6−5.タンパク質の合成、分離及び分析]
[6−5−1.ヒドロゲル(P−ゲル)を用いたタンパク質合成]
ポリジメチルシロキサンを基剤とした無細胞タンパク合成システムが、前述の参考文献(Nature materials 8,432−437,2009)に発表さている。この無細胞タンパク質合成システムは、汎用の試料チューブで行われるものであるが、本発明の操作管内においても、そのような無細胞タンパク質合成システムを構築することができる。
【0110】
[6−5−2.目的タンパク質と他のタンパク質との相互作用を利用した分析]
タンパク質とそれを標的として製造された抗体(これもタンパク質である)による抗原抗体反応を利用した、タンパク質の分離、回収手段が市販精製キットですでに存在している。それらは汎用のチューブと遠心機とを用いたプロトコールで実施されている。上述の無細胞タンパク質システムにおいても、合成されたタンパクの分離には、試料チューブとは別にスピンカラムが使用される。本発明においては、表面に目的タンパク質の抗体を固定した磁性体粒子を採用することにより、目的タンパク質を異なるデバイス間で移動させることなく、1つの操作管内で目的タンパク質の分離及び取得を行うことができる。
【0111】
[6−5−3.磁性体粒子にタンパク質が吸着した状態での質量分析]
表面に酸化チタンをコーティングした磁性体粒子に、別途調製された質量分析すべきタンパク質を吸着させ、そのままマトリックスと混合させて質量分析機で解析する手法が、参考文献(Analytical Chemistry,77,5912−5919,2005)等に記載されている。本発明においては、質量分析すべきタンパク質の調製及び磁性体粒子への吸着を、1つの操作管内で行うことができる。
【0112】
[7.保持手段]
操作管は、通常、使用の際には開口部である試料供給部が上となるように略垂直状に(すなわち立てた状態で)設置される。設置には、適当な保持手段を用いることができる。また保持手段は、試料供給時と対象成分操作時において同じものが用いられてもよいし、異なるものが用いられてもよい。試料供給時と対象成分操作時において異なる保持手段が用いられる場合は、保持手段間の操作管の移し変えは、手動でもよいし、自動化されていてもよい。
【0113】
[7−1.保持の態様]
保持手段としては、一般的に操作管の開口部である試料供給部が上となるように略垂直状に(すなわち立てた状態で)保持することができるものであれば特に限定されない。例えば、操作管の閉口端部を突き刺すことによって保持することができる保持穴が形成された保持部材を1又は2以上組み合わせたり、線状部材を、保持穴としての格子穴を形成するように格子状に組んだりすることによって構成されるラックなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記の前者のケースにおいては、保持部材に形成される保持穴は、貫通していてもよいし、貫通していなくてもよい。保持穴の内径は、保持する操作管の外径に基づいて決定される。保持部材のうち、操作管の閉口端部を保持するものは、保持基板と記載する。保持基板においては、保持穴は、保持部Bの閉口端が保持基板を突き抜けないように(すなわち保持穴自体が保持基板を貫通しないように)形成されることができる。保持穴の深さは、操作管における保持したい範囲に基づいて適宜決定される。
【0114】
[7−2.複数の操作管の保持]
本発明の操作管は細長く、立てた場合の一本当たりの設置面積が極めて小さいため、小さな設置面積であっても、複数の操作管を密集状態で立てて設置することができる。このことにより、複数の操作管を同時に操作することが可能になる。すなわち、操作のマルチチャンネル化を図ることができる。
【0115】
この態様の一例を
図5に示す。
図5のデバイスにおいては、最大20本の操作管を同時に処理することができる。無論、デバイスの仕様によって、さらに多くの操作管を処理することもできる。例えば、標準的な96ウェルプレート大の設置面積があれば、最大96本の操作管を立てることができ、これによって最大96検体の同時処理を行うことが可能となる。また、操作管は一本一本が独立しているため、上記の例において、検体数に応じて操作管の数を任意に加減することができる。このような態様は、特に検体数が少なくその数も一定しないPOCT(ポイント・オブ・ケア・テスト(Point Of CareTesting))用途において有用である。
【0116】
複数の操作管を立てて設置する場合、保持基板は、例えば
図5の51に示すように、保持穴52が複数形成されているものでありうる。保持穴は、操作管を密集させる態様により異なり、例えばアレイ状に(すなわち一次元状に、一列に)又は
図5に示すようにマトリクス状に(すなわち二次元状に、)形成されうる。保持穴52の間隔は、操作管の密集度に基づいて適宜決定することができる。また、保持穴52が保持する操作管が、試料供給部においてより大きい内径を有している場合は、保持穴52の間隔は、試料供給部の外径に基づいて適宜決定することができる。
【0117】
[7−3.温度制御機能]
また、保持手段は、温度制御機能を有してよい。より具体的には、保持手段は、回収部Bの少なくとも一部を保持する部位において、温度制御機能を有してよい。例えば
図4において、温度制御機能を43として模式的に示している。より具体的には、保持基板が、保持穴において、回収部Bの閉口端部を保持するものである場合、その保持する部位において、温度制御機能を有することができる。例えば
図5に示す保持基板51は、保持穴52において、回収部Bの閉口端部を保持するものであるが、保持基板51自体が温調ブロックから形成されていてもよい。温度制御機能により、回収部Bの少なくとも下端に収容された水系液体内で、温度制御を必要とする処理又は反応を行うことが可能となる。本発明では、例えば回収部Bで核酸増幅反応が行われる場合にこの態様が好ましく用いられる。
【0118】
[7−4.光学検出口]
さらに、保持基板は光学検出口を有してよい。光学検出口は、回収部B内へ励起光を照射することができ、回収部Bにおける処理又は反応において発せられる、対象成分又はそれに関連する成分に由来するシグナルを検出するために設けられる。光学検出口は、例えば
図7に示されるように、保持穴52の下端から保持基板を貫通するように、且つ保持穴52が保持する管部bの外径より小さい口径を有するように、光学検出口71が形成されうる。光学検出口71には、光学的検出用手段(
図7においては蛍光検出用レンズ44及び光ファイバーケーブル45を含んで構成される)が設けられうる。光学検出口の位置は
図7に限定されず、例えば回収部側面からの測光を考慮してもよい。
【0119】
[8.磁場印加手段]
操作管内の磁性体粒子を対象成分と共に移動させるための磁場の変動をもたらす、磁場印加手段及びそれが有する磁場移動機構については特に限定されない。磁場印加手段としては、永久磁石(例えばフェライト磁石やネオジム磁石)や電磁石などの磁力源を用いることができる。磁場印加手段は、操作管の外側において、操作管内の水系液体層中に分散している磁性体粒子を管の搬送面側に凝集させることができ、且つ操作管内のゲル層中において凝集している磁性体粒子を運搬することができる程度に操作管に近接させて配置することができる。これによって、磁場印加手段が管の搬送面を介して磁性体粒子に対して効果的に磁場を生じさせ、磁性体粒子塊とともに対象成分を捕捉及び運搬することができる。
【0120】
[8−1.形状]
磁場印加手段の形状は特に限定されない。例えば、操作管の一点又は一部に磁場を生じさせることができる塊状のもの(例えば
図3や
図4の磁石31として例示)であってよい。より具体的には、円筒形(例えば直径1mm〜5mm、厚さ5mm〜30mm)でありうる。このような形状の場合、磁場印加手段は操作管の外周の一点又は一部に添えられることによって操作管内部に磁場を生じさせることができる。一方、磁場印加手段は、横断面略円形である操作管の周囲に磁場を生じさせることができる中心略円形穴を有するリング状の磁石であってもよい。このような形状の場合、磁場印加手段はそのリングの中心略円形穴に操作管を通すことによって、操作管内部に磁場を生じさせることができる。この場合、リング状の形状を有する磁場印加手段は操作管を取り囲むため、磁性体粒子が凝集すると、磁性体粒子も磁場印加手段の形状に従ってリング状となる。一方、磁場印加手段の形状が塊状であれば磁性体粒子の凝集形状も塊状となる。つまり、リング状の形状を有する磁場印加手段を用いた場合は、磁性体粒子と水系液体との接触面積がより大きいため、磁性体粒子に吸着した対象成分などを、水系液体層を構成する液体中により効率よく晒すことができるという点において好ましい。
【0121】
[8−2.磁場移動機構]
[8−2−1.操作管の長手方向への移動]
磁場印加手段が有する磁場移動機構としては、例えば、磁性体粒子の凝集形態を保つことができる状態で、磁場を操作管の長手方向(軸方向、少なくとも下方向)に移動させることができるものでありうる。以下において磁場移動機構と記載する場合、その機構は、停止位置の決定及び移動速度の制御を行うことができるものであり、その制御は、手動によってなされるものであってもよいし、コンピュータなどによって自動的になされるものであってもよい。移動速度は、例えば毎秒0.5mm〜10mmであってよい。磁場移動機構は、磁場印加手段自体を物理的に操作管の長手方向に移動させることができるものであることが好ましい。磁場移動機構は、
図3や
図4に示すような磁場印加手段(
図3及び
図4中においては永久磁石31)自体を上下方向に移動させることができる。また、
図5に示すような複数の操作管を密集させることができるデバイスにおいても、磁場印加手段(
図5中においては可動磁石板53)を上下方向に移動させることができる(いずれも、磁場移動機構自体は図示せず)。
【0122】
[8−2−2.磁場の強度の制御]
磁場印加手段が有する磁場移動機構は、磁性体粒子へ印加する磁場の強度を可変制御することができるものであってよい。具体的には、磁場が遮断又は減弱されうる。磁場の遮断又は減弱の程度は、凝集していた磁性体粒子群が液滴中で分散する(前述項目6−2)ことができる程度であることが好ましい。例えば、電磁石の場合であれば通電制御手段を用いて磁場を遮断することができる。また例えば、永久磁石の場合であれば、操作管外側に配置した磁石を、操作管から遠ざけることができる機構を用いることができる。この機構は、手動で制御されてもよいし、自動制御されてもよい。磁性体粒子への磁場が減弱されること、好ましくは磁性体粒子が磁場から開放されることによって、水系液体層中において磁性体粒子群を自然分散させることができる。これによって、磁性体粒子に吸着した対象成分や付随成分を、水系液体層を構成する液体中に十分に晒すことが可能になる。
【0123】
[8−2−3.複数の操作管が密集したデバイスの場合]
図5に例示するように操作管1を複数本密集させたデバイスにおいては、複数の操作管に対応する複数の磁力源が、操作管の長手方向に移動可能な一の部材にユニット化されることにより保持されることができる。このようなユニット化された部材は、
図5に例示するように、操作管1の長手方向に移動可能な磁場印加手段である可動磁石板53として体現されうる。
図5の可動磁石板53は、
図6に例示すように、操作管の長手方向に移動することができる可動基板と、その可動基板中に保持された磁力源(磁石31)とを含んで構成されるものであり、操作管のそれぞれに対応する複数の磁石31が配置された状態で保持されうる。また、前記部材は、前述の保持手段のような操作管を保持する機能を有していてもよいし、有していなくてもよい。
図5に例示する場合においては、可動磁石板53に、操作管1に対応する保持穴54が形成されることによって、保持機能も持たせることができる。なお、
図6の例示においては、磁場印加手段が塊状のものとして示されているが、磁場印加手段は、保持穴54に応じた中空を有するリング状のものであってもよい。
【0124】
図5に例示するように操作管1を複数本密集させたデバイスにおいては、磁場印加手段が有する磁場移動機構は、複数の操作管それぞれにおいて、磁場印加手段による磁場の強度の制御を同時に行うことができるものであってよい。例えば、複数の操作管それぞれについて別々の複数の磁場印加手段を用いる場合、磁場移動機構は、前記複数の磁場印加手段によってもたらされる磁場を同時に制御することができるものでありうる。
【0125】
このような部材において、磁場印加手段として電磁石が用いられる場合には、磁場の制御は電流制御によって行うことができる。一方、磁場印加手段として永久磁石が用いられる場合には、上記部材において、例えば、部材自体を操作管に近づけたり操作管から遠ざけたり(例えば操作管の長手方向に略垂直に移動させたり)、磁気シールド材を間に挿入したり、部材自体は動かすことなく部材に保持された複数の磁場印加手段を一度に操作管に近づけたり操作管から遠ざけたりする機構を持たせることができる。
【0126】
図5の可動磁石板53は、
図6に例示するように、保持穴54に保持される操作管のそれぞれに対応する磁石31が配置された状態で磁石保持部61に収容されうる。磁石保持部61は、可動磁石板53中における磁石31の移動(すなわち磁石31を操作管に近づけたり操作管から遠ざけたりする動き)を許す大きさに形成されている。
図6に例示するように、複数の磁石31同士を連結棒62で互いに連結し、全ての連結棒62を取っ手部材63に結合させることができる。取っ手部材63を動かすことにより、
図6に示すように、全ての磁石を操作管に近づけること(磁場印加状態)、及び操作管から遠ざけること(磁場開放状態)が可能となる。
【0127】
なお、磁石がリング状のものであって、且つこの磁石を用いて磁場の強度の制御を行う場合は、例えば、リング状磁石として、2以上の弧状の磁石パーツから構成されることによりリング形状を成すものを用いることができる。このようなリング状磁石は、直径方向に略垂直に分割されることにより、操作管を磁場から開放することができる。
【0128】
[8−2−4.回収部Bを保持可能な保持手段中における磁場印加手段の移動]
保持手段は、磁場印加手段が管部bの長手方向へ移動することができる凹所を有することができる。より具体的には、保持手段は、回収部Bを保持する部位において、磁場印加手段が管部bの長手方向へ移動することができる凹所を有することができる。この凹所の中を移動する磁場印加手段は、操作部Aにおける操作に貢献した磁場印加手段と同じであってもよいし、異なるものであってもよい。例えば、
図7(1)に示すように、保持穴52を設けた保持基板51(
図7において、保持基板51は温調ブロックから構成されている)において凹所72が形成されており、この凹所には予め磁石31’が収容されている。磁石31を配置した可動磁石板53が下りていき、
図7(2)に示すように、可動磁石板53が保持基板51と接してそれ以上下に移動することができない状態になる。すなわち、磁石31によってはこれ以上磁性体粒子6を下へ運搬することができない様態となる。このとき、可動磁石板53における磁石31が及ぼす磁場によって、保持基板51の凹所72に収容されていた磁石31’が磁石31に引き寄せられる。そして、操作管1内の磁性体粒子6は、磁石31と磁石31’との両方にひきつけられる。次に、
図7(3)に示すように、可動磁石板53における磁石31を操作管1から遠ざけると、磁石31’は磁石31による磁場から開放されるため、重力によって凹所72内を落ちる。この際、操作管1内の磁性体粒子は磁石31’の磁場の影響を受けることにより、共に回収部B内の水系液体4l2中へ運搬され、回収部B内の底近くまで降下することができる。このように、磁石31及び磁石31’によって、磁性体粒子の受け渡しを行い、対象成分を伴った磁性体粒子を操作管内の最下層内に十分に晒すことができる。
【0129】
[8−2−5.磁場の揺動]
磁場移動機構は、磁場の振幅移動、回転等の揺動運動を可能にする機構を備えてよい。例えば磁力源を操作管の長手方向に振幅運動(上下運動)させることができる機能を備えることによって、スターラーの代用とすることができる。これによって、水系液体中における混合や撹拌が容易になる。例えば磁場の遮断又は減弱の機能を有さない場合であっても、磁場印加手段を操作管に近接させたまま(磁性体粒子を凝集させたまま)水系液体層の厚みの幅内で数回、上下方向に往復運動させることによって、水系液体中で磁性体粒子に吸着した対象成分などを、水系液体層を構成する液体中に十分に晒すことができる。
【0130】
[8−2−6.温度制御機能]
磁場印加手段は、温度制御機能をさらに有するものであってもよい。例えば
図4において、42として温度制御機能が模式的に示されている。或いは、磁場印加手段にヒーターを内蔵させることもできる。後者の温度制御機能により、磁性体粒子が存在する位置における水系液体層中の試薬温度などを任意に調節することができる。例えば、
図4に示す操作管が、
図7に示すような保持手段(保持基板)であって上述の7−3に記載のような温度制御機能を有するものによって保持される場合を挙げて説明する。
図4に示す操作管においては、回収部Bがゲル層4gを介したRT反応液層4l1及びPCR反応液層4l2を含む複層を回収用媒体として収容する。
図4の操作管が
図7に示すような保持基板51によって保持されると、保持基板51の保持穴52に直接保持される部分が、おおよそ、操作管の再下層(PCR反応液層4l2)に相当する部分のみとなる場合がある。この場合、逆転写反応が行われるRT反応液層4l1が収容された部分は、保持基板51に直接保持されているPCR反応液層4l2と離れているため、保持基板51による温度制御を及ぼすことが困難である。
【0131】
そこで、本発明のデバイスにおいては、保持手段における温度制御機能とは別の温度制御機能を備えることができる。例えば、
図4の42として例示されるように、磁場印加手段と連動しないものであってもよいし、
図6の64として例示されるように、磁場印加手段である可動磁石板53に内蔵されることにより、磁場印加手段と連動するものであってもよい。
図6に示される、温度制御機能(ヒーター)を内蔵した可動磁石板53の具体的態様においては、ヒーター64は保持穴54を取り巻く環状である。このように可動磁石板53に温度制御機能を持たせると、可動磁石板53がRT反応液層4l1が収容された位置にある間(
図7(1))、可動磁石板53内のヒーター64でRT反応液が加温され、至適温度(例えば50℃)を実現することができる。
【0132】
[9.光学的検出手段]
光学的検出手段は特に限定されるものではなく、当業者であれば、対象成分が供された分析方法に応じて容易に選択可能である。例えば、光発生部、検出用手段、光送信手段及びパーソナルコンピュータなどを適宜含んで構成された手段を用いることができる。一例を挙げると、
図4(7)に示す蛍光検出手段41の場合、
図7により具体的に示すように、光発生部(図示せず)から、検出用手段(検出用レンズ44に取り付けた光送信手段(光ファイバーケーブル45)への入射を行い、検出用レンズ44を通して操作管1内の反応液4への光照射を行うことができる。検出用レンズ44によって検出された光学的シグナルを光ファイバーケーブル45によって受光素子に送られ、電気的シグナルに変換後、パーソナルコンピュータ(図示せず)にリアルタイムで送信し、反応液4の蛍光強度の変化をモニターすることができる。これは、本発明がリアルタイム核酸増幅反応などの変化しうる蛍光強度の検出が行われる反応又は処理が行われる場合に好適である。
【0133】
光発生部としてはLED、レーザー、ランプ等を用いることができる。また検出においては安価なフォトダイオードから、より高感度を目指した光電子倍増管などまで、種々の受光素子を特に限定することなく利用することができる。リアルタイム核酸増幅反応などの核酸関連反応や核酸関連処理が行われる場合を例に挙げると、例えばSYBR(登録商標) GREEN Iを用いた場合、この色素は二本鎖DNAに特異的に結合し525nm付近に蛍光を生じるため、検出用手段は目的波長以外の光を光学フィルターでカットして目的波長の光を検出することができる。また、操作管内で液滴移動による核酸増幅反応が行われる場合を例に挙げると、核酸増幅反応に供される液滴の蛍光観測は、DNAポリメラーゼによる伸長反応(通常68〜74℃程度)を行う温度地点に励起光を照射し、当該地点に液滴を停止させた状態で暗室内にて行うことができる。さらに、励起光の照射範囲を、熱変性を行う温度地点からアニーリングを行う温度地点まで拡大すると、液滴を移動させると共に増幅産物の融解曲線を得ることもできる。
実施例
【0134】
次に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
[実施例1:血液からの核酸抽出・精製]
シリコンオイル(信越シリコーンKF-56)にゲル化剤(太陽化学株式会社;TAISET 26)を1.2%(重量比)となるように添加し70℃に加熱して完全にシリコンオイルと混和させた。混和してゾル状態となったオイルと、必要な試薬との所要量を気泡が入らないように交互に、
図3(0)に示す操作管(キャピラリー(操作部A)とサンプルチューブ(回収部B)とからなる)内に注射針の先から注入し、重層した。内径1.5mmのキャピラリーを用いた場合、ゲルプラグの形成に各10μL、洗浄液(200mM KCl)は各15μL、溶出液(10mM Tris HCl, 1 mM EDTA pH8.0)20μLを
図3(0)に示す通りに装填した。充填済みキャピラリーを室温で30分放置し、ゲルプラグを完全にゲル化させた。キャピラリー上端はフィルム材で封印したロート状の試料供給口を形成しており、セプタムで密封した。
【0135】
キャピラリ−内の最上層は、100μLの細胞溶解液(4Mグアニジンチオシアネート、2%(w/v)Triton X-100、及び100mM Tris-HCl pH6.3)とし、シリカコーティングされた磁性粒子(核酸抽出キット;東洋紡MagExtractor−Plasmid−添付の磁性粒子)500μgを含ませた。なお、シリカ粒子とカオトロピック塩を用いた核酸の単離方法(特開平2−289596)はBoomらにより開示された方法を用いた。
【0136】
図3(1)〜(14)は血液からの核酸抽出工程を磁石の操作毎に示した図である。最終的にはキャピラリー下端に取り付けられたサンプルチューブ内の溶出液に核酸が回収されることとなる。
図3(1)では注射針でヒト全血200μLを注入し、ピペティングで軽く磁性粒子と共に混和した。5分後、
図3(2)及び(3)に示すように、キャピラリー側面から磁石を近づけることによって磁性粒子を集め、磁石を毎秒0.5mmの速度で降下させた。磁性体粒子がゲルプラグを通過後、
図3(4)に示すように、磁石をキャピラリーから離した。
図3(5)から(12)に示すように、同様に3回の洗浄を行った。その後、
図3(13)に示すように磁石を離し、磁性粒子を溶出液の入ったチューブへ落とした。1分後、磁石を再び近づけて磁気粒子を集め、
図3(14)に示すように、ゲルプラグの中まで後退させ、核酸抽出・精製の操作を完了した。この実施例では溶出液1μL当たり200ngのDNAが得られた。
【0137】
サンプルチューブをキャピラリーから外し、サンプルチューブ内に得られた溶出液1μLを用いて、0.15UのTaq DNAポリメラーゼ、各500nMのヒトGAPDH遺伝子検出用プライマー(5’−GCGCTGCCAAGGCTGTGGGCAAGG−3’(配列番号1)及び5’−GGCCCTCCGACGCCTGCTTCACCA−3’(配列番号2))、及び200nM dNTPを含むPCR反応用ミクスチャー(トータル反応液量10μL)を用いて、サイマルサイクラー(ABI 9700 アプライドバイオシステムズ社)によりPCR(温度サイクル:95℃、1秒、60℃、10秒、72℃、10秒、40サイクル)を行った。その結果、
図8に示すように、ヒトGAPDH遺伝子に特異的な反応産物(フラグメントサイズ171塩基)がアガロースゲル電気泳動で確認できた。
【0138】
実施例2:鼻腔スワブからのインフルエンザウィルスの検出]
図4(0)に示す操作管(キャピラリーデバイス)への試薬およびゲルの装填は、逆転写用反応液(RT反応液)及びPCR反応液がさらに用いられたことを除いて実施例1と同様に行った。本実施例におけるキャピラリ−デバイスは、実施例1のようにキャピラリー下端に回収用サンプルチューブが取り付けられたものではなく、キャピラリ−下端が盲管状となった、キャピラリーデバイス全体が一体成形されているものが用いられた。このキャピラリ−デバイスの試料供給口をセプタムで塞ぐと、核酸抽出機能付き完全密封型のPCRデバイスとなる。検出はSYBR Green I等の蛍光色素によるリアルタイム検出法又はエンドポイント検出法による蛍光検出法によって行った。
【0139】
図4のキャピラリーデバイスでの核酸抽出においては、
図3(1)から(12)までと同じように試料添加および磁石の操作を行った(
図4(1)から(5))。試料とした200μLの鼻腔スワブには100個のインフルエンザウィルス粒子を添加し、その中からウイルス遺伝子がRT-PCRにより検出できるかを試みた。インフルエンザウィルスのゲノムはRNAであるため、それをPCRで検出するためにはDNAに変換する必要があるため、PCRに先だって逆転写酵素を用いた反応を行った。
図4(6)の状態では磁性粒子表面にウイルスRNAを含む核酸が吸着されている。逆転写酵素と逆転写反応用プライマーによって、ウイルスRNAをDNAに変換した。
【0140】
本実施例で用いた逆転写反応液組成は、インビトロジェン社製SuperScriptIII 逆転写酵素の取扱説明書の記載に従った。使用プライマーは50ngのランダムヘキサマー(ロシュ社)を用いた。反応液量は10μLとした。反応は、磁石をキャピラリーから離して磁性粒子を反応液内に分散させた後、25℃で5分間、続けて50℃で5分間インキュベートして行った。逆転写反応後、磁性粒子を磁石で再び集め、それを最下端のPCR反応液に移動させた。その後、PCRの温度サイクルを実行した。温度サイクルの実行と同時に、温調ブロックの底から波長470nmのLED光源からの光を当て、SYBR Green IのPCR産物に特異的な520nmの蛍光をモニタした。
【0141】
本実施例で用いたPCR反応液の組成は次の通りである;25mM Tris-HCl pH8.3、10 mM MgCl2、0.2%(w/v) BSA、1mM dNTP、各0.5 μM インフルエンザウィルスA型検出用プライマー(5’−GACCRATCCTGTCACCTCTGAC−3’(配列番号3))及び(5’−AGGGCATTYTGGACAAAKCGTCTA−3’(配列番号4))、0.1 U/μL Ex Taq DNA polymerase (タカラバイオ)。PCR反応液量は5μLとした。PCR温度サイクルは、95℃、1秒、68℃、10秒で50サイクルとした。蛍光測光は冷却CCDカメラを用い、68℃の伸長反応時に3秒間露光して行った。その画像データを解析ソフトウェア「Image J」を用い数値化した。その結果を
図9に示す。
図9に示すように、35サイクル付近からSYBR Green Iに特異的な蛍光の上昇が見られ、インフルエンザウィルス遺伝子が増幅・検出されていることがわかる。
【0142】
上記のように、本発明は本発明の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものであり、実施段階においては、その要旨を逸脱しない範囲で変形して具体化できる。