特許第5804222号(P5804222)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5804222
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】炭素繊維強化複合材料およびプリプレグ
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20151015BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20151015BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20151015BHJP
【FI】
   C08L63/00 Z
   C08J5/24CFC
   C08L71/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-510543(P2015-510543)
(86)(22)【出願日】2015年2月17日
(86)【国際出願番号】JP2015054255
【審査請求日】2015年3月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-33702(P2014-33702)
(32)【優先日】2014年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-209704(P2014-209704)
(32)【優先日】2014年10月14日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野村 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】森岡 信博
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】平野 啓之
(72)【発明者】
【氏名】小林 定之
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/196636(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63
C08J 5
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、環状分子がグラフト鎖により修飾されたポリロタキサン(B)およびエポキシ樹脂(A)と反応し得る硬化剤(D)を含むエポキシ樹脂組成物と炭素繊維を含むプリプレグ。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂組成物は、さらにポリロタキサンと反応し得る架橋剤(C)を含む請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂組成物の、ポリロタキサン(B)および架橋剤(C)の合計の含有比率が、エポキシ樹脂組成物全体に対して1質量%以上50質量%未満である請求項2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂組成物の架橋剤(C)がポリイソシアネート化合物およびポリオール化合物から選ばれた化合物である請求項2または3に記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)およびポリロタキサン(B)が相溶しており、かつ、エポキシ樹脂組成物を50℃から135℃まで2℃/分で昇温し、さらに135℃で2時間加熱することにより得られる樹脂硬化物が相分離構造を形成する請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、ポリロタキサン(B)および架橋剤(C)が相溶しており、かつ、エポキシ樹脂組成物を50℃から135℃まで2℃/分で昇温し、さらに135℃で2時間加熱することにより得られる樹脂硬化物が相分離構造を形成する請求項2〜4のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項7】
前記相分離構造が海島構造を形成し、島構造の直径が0.01〜10μmである請求項5または6に記載のプリプレグ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のプリプレグを硬化させてなる炭素繊維強化複合材料。
【請求項9】
エポキシ樹脂(A)、環状分子がグラフト鎖により修飾されたポリロタキサン(B)およびエポキシ樹脂(A)と反応し得る硬化剤(D)を含むエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる樹脂硬化物と、炭素繊維を含む炭素繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリロタキサンを含有するエポキシ樹脂組成物用いたプリプレグ、繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やアラミド繊維などを強化繊維として用いた繊維強化複合材料は、その高い比強度および比弾性率を利用して、航空機や自動車などの構造材料や、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣り竿などのスポーツ用途、一般産業用途向けの材料などに広く利用されている。これら繊維強化複合材料の製造方法としては、強化繊維にマトリックス樹脂が含浸されたシート状中間材料であるプリプレグを用い、それを複数枚積層した後、硬化する方法がよく用いられている。プリプレグを用いる方法は、強化繊維の配向や配置および配合量を厳密に制御でき、また積層構成の設計自由度が高いことから、高性能な繊維強化複合材料を得やすい利点がある。プリプレグに用いられるマトリックス樹脂としては、耐熱性や生産性の観点から、主に熱硬化性樹脂組成物が用いられ、中でも強化繊維との接着性などの観点からエポキシ樹脂組成物が好ましく用いられる。
【0003】
エポキシ樹脂からなるマトリックス樹脂は、優れた耐熱性と良好な機械物性を示す一方で、エポキシ樹脂の伸度や靭性が熱可塑性樹脂より低いため、繊維強化複合材料としたときに、耐衝撃性が低くなることがあり、改善を求められている。
【0004】
エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる樹脂硬化物の靱性を向上させる方法としては、靱性に優れるゴム成分や熱可塑性樹脂の配合が知られている。しかし、ゴムは、弾性率やガラス転移温度が低く、樹脂硬化物の弾性率を低下させる。そのため、ゴム成分の配合により、樹脂硬化物の靱性と剛性のバランスを取ることは困難である。また、熱可塑性樹脂を配合する手法としては、例えばスチレン−ブタジエン−メタクリル酸メチルからなる共重合体や、ブタジエン−メタクリル酸メチルからなるブロック共重合体などのブロック共重合体を添加することにより、樹脂硬化物の靭性を大きく向上させる方法が提案されている(特許文献1、2)。さらに、特許文献3には、エポキシ樹脂に対して、(メタ)アクリル系ブロック共重合体をアロイ化する手法が提案されている。
【0005】
エポキシ樹脂硬化物の靱性と剛性のバランスを向上させる方法としては、特定の数平均分子量を有するジグリシジルエーテル型エポキシ化合物と前記エポキシ化合物と特定の範囲で溶解度パラメータ(SP値)が異なるエポキシ化合物を組み合わせて得られるエポキシ樹脂組成物が開示されている(特許文献4)。
【0006】
エポキシ樹脂硬化物の靱性と剛性のバランスをさらに向上させる手法として、特定のSP値を有するエポキシ化合物を組み合わせたエポキシ樹脂組成物を用いることにより、硬化反応後に相分離構造を形成させる技術が知られている(特許文献5)。
【0007】
さらに、エポキシ樹脂の性能を向上させる技術として、ポリロタキサンを添加する技術が知られている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2006/077153号
【特許文献2】特表2003−535181号公報
【特許文献3】特開2010−100834号公報
【特許文献4】国際公開第2009/107697号
【特許文献5】国際公開第2012/043453号
【特許文献6】特開2006−316089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1、2の方法には、増粘によるプロセス性の悪化、ボイド発生等の品位低下といった問題があった。特許文献3の方法は、微細な相構造を形成させることで、優れた靭性を与えることができるが、さらなる靭性の向上が求められている。特許文献4の方法でも、エポキシ樹脂硬化物の靱性と剛性のバランスが不十分であるだけでなく、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりがちであった。
【0010】
特許文献5の方法は、硬化後に微細な相分離構造を形成することで、優れたエポキシ樹脂硬化物の靱性と剛性を発現することのできる技術であり、従来技術と比較して繊維強化複合材料のマトリックス樹脂の性能を大幅に向上することのできる技術といえる。一方で、反応条件によっては相分離構造が変化することにより物性が低下してしまうという課題もあった。
【0011】
特許文献6の技術は、ポリロタキサン中のシクロデキストリン分子がエポキシ樹脂と架橋構造を形成することで耐熱性の向上、内部応力および外部応力緩和性を向上することができる技術である。しかしながら、エポキシ樹脂の靱性が低下してしまう課題があった。
【0012】
本発明は、剛性および靱性に優れた樹脂硬化物が得られるエポキシ樹脂組成物、およびそれを用いたプリプレグ、繊維強化複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有するものである。
エポキシ樹脂(A)、環状分子がグラフト鎖により修飾されたポリロタキサン(B)およびエポキシ樹脂(A)と反応し得る硬化剤(D)を含むエポキシ樹脂組成物と炭素繊維を含むプリプレグ。
本発明は、上記のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる樹脂硬化物と、炭素繊維を含む炭素繊維強化複合材料を含む。
本発明は、上記のプリプレグを硬化させてなる炭素繊維強化複合材料を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明に用いるエポキシ樹脂組成物(以下、「本発明のエポキシ樹脂組成物」と記載する。)を硬化することにより、優れた剛性および靱性を併せ持つ樹脂硬化物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、ポリロタキサン(B)、およびエポキシ樹脂(A)と反応し得る硬化剤(D)を含むことを特徴とするものである。
【0017】
エポキシ樹脂(A)は、耐熱性や機械特性発現のために必要な成分である。具体的には、フェノール類、アミン類、カルボン酸、分子内不飽和炭素などの化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましく、これらは1種類だけでなく、複数種組み合わせて添加しても良い。
【0018】
フェノール類を前駆体とするグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジフェニルフルオレン型エポキシ樹脂、およびこれらのエポキシ樹脂の各種異性体やアルキル置換体、ハロゲン置換体などがあげられる。また、フェノール類を前駆体とするエポキシ樹脂をウレタンやイソシアネートで変性したエポキシ樹脂なども、このタイプに含まれる。
【0019】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピコート(登録商標)”825、826、827、828、834、1001、1002、1003、1004、1004AF、1007、1009(以上三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”850(大日本インキ化学工業(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD−128(新日鉄住金化学(株)製)、DER−331、DER−332(ダウケミカル社製)などが挙げられる。
【0020】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピコート(登録商標)”806、807、1750、4004P、4007P、4009P(以上三菱化学(株)製)、“エピクロン830(登録商標)”(大日本インキ化学工業(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD−170、YD−175、YDF2001、YDF2004(以上新日鉄住金化学(株)製)などが挙げられる。また、アルキル置換体であるテトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、YSLV−80XY(新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。
【0021】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂としては、“エピクロン(登録商標)”EXA−1515(大日本インキ化学工業(株)製)などがあげられる。
【0022】
ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂の市販品としては、“エピコート(登録商標)”YX4000H、YX4000、YL6616、YL6121H、YL6640(以上、三菱化学(株)製)、NC−3000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0023】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピコート(登録商標)”152、154(以上三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”N−740、N−770、N−775(以上、大日本インキ化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0024】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”N−660、N−665、N−670、N−673、N−695(以上、大日本インキ化学工業(株)製)、EOCN−1020、EOCN−102S、EOCN−104S(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0025】
レゾルシノール型エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX−201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
【0026】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”HP4032(大日本インキ化学工業(株)製)、NC−7000、NC−7300(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0027】
トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂の市販品としては、TMH−574(住友化学社製)Tactix742(ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)などが挙げられる。
【0028】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”HP7200、HP7200L、HP7200H(以上、大日本インキ化学工業(株)製)、Tactix558(ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)、XD−1000−1L、XD−1000−2L(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0029】
ウレタンおよびイソシアネートで変性したエポキシ樹脂の市販品としては、オキサゾリドン環を有するAER4152(旭化成エポキシ(株)製)やACR1348(旭電化(株)製)などが挙げられる。
【0030】
ダイマー酸変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピコート(登録商標)”872(三菱化学(株)製)などが挙げられる。
【0031】
アミン類を前駆体とするエポキシ樹脂としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、キシレンジアミンのグリシジル化合物、トリグリシジルアミノフェノール、グリシジルアニリン、およびこれらのエポキシ樹脂の位置異性体やアルキル基やハロゲンでの置換体が挙げられる。
【0032】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学製)や、“アラルダイト(登録商標)”MY720、MY721、MY9512、MY9612、MY9634、MY9663(以上ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)、“エピコート(登録商標)”604(三菱化学社製)などが挙げられる。
【0033】
キシレンジアミンのグリシジル化合物の市販品としては、“TETRAD(登録商標)”−X(三菱瓦斯化学社製)が挙げられる。
【0034】
トリグリシジルアミノフェノールの市販品としては、“エピコート(登録商標)”630(三菱化学社製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600(以上ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)、ELM100(住友化学製)などが挙げられる。
【0035】
グリシジルアニリン類の市販品としては、GAN、GOT(以上日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0036】
カルボン酸を前駆体とするエポキシ樹脂としては、フタル酸のグリシジル化合物や、ヘキサヒドロフタル酸、ダイマー酸などのカルボン酸のグリシジル化合物の各種異性体が挙げられる。
【0037】
フタル酸ジグリシジルエステルの市販品としては、“エポミック(登録商標)”R508(三井化学(株)製)、“デナコール(登録商標)”EX−721(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
【0038】
ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルの市販品としては、“エポミック(登録商標)”R540(三井化学(株)製)、AK−601(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0039】
ダイマー酸ジグリシジルエステルの市販品としては、“エピコート(登録商標)”871(三菱化学(株)製)や、“エポトート(登録商標)”YD−171(新日鉄住金化学(株)製)などが挙げられる。
【0040】
分子内不飽和炭素を前駆体とするエポキシ樹脂としては、例えば脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。その市販品としては、“セロキサイド(登録商標)”2021、セロキサイド(登録商標)2080(以上ダイセル化学工業(株)製)、CY183(ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)が挙げられる。
【0041】
エポキシ樹脂(A)の含有比率は、エポキシ樹脂組成物全体に対して50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。含有比率を50質量%以上とすることにより、エポキシ樹脂組成物硬化後に、エポキシ樹脂硬化物本来の剛性および耐熱性といった特性が発揮されやすくなる。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、環状分子がグラフト鎖により修飾されたポリロタキサン(B)を含むことを特徴とする。ロタキサンとは、一般的にダンベル型の軸分子(両末端に嵩高いブロック基を有する直鎖分子)に環状の分子が貫通された形状の分子のことを言い、複数の環状分子が一つの軸分子に貫通されたものをポリロタキサンと呼ぶ。
【0043】
ポリロタキサン(B)は、直鎖分子および少なくとも2つの環状分子からなり、該環状分子の開口部に該直鎖分子が貫通し、かつ該直鎖分子の両末端に環状分子が直鎖分子から脱離できなくするために嵩高いブロック基を有する。ポリロタキサン(B)において、環状分子は直鎖分子上を自由に移動することが可能であるが、ブロック基により直鎖分子から抜け出せない構造となっている。すなわち、直鎖分子および環状分子は、化学的な結合でなく、機械的な結合により形態を維持した構造となっている。
【0044】
このようなポリロタキサンは、環状分子の運動性が高いために、外部からの応力や内部に残留した応力を緩和する効果がある。さらに、ポリロタキサンをエポキシ樹脂組成物に添加することにより、エポキシ樹脂に同様の効果を波及させることが可能となる。
【0045】
前記直鎖分子としては、前記ブロック基と反応し得る官能基を有する高分子であれば、特に限定されない。好ましく用いられる直鎖分子としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール類;ポリブタジエンジオール、ポリイソプレンジオール、ポリイソブチレンジオール、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)ジオール、水素化ポリブタジエンジオール、ポリエチレンジオール、ポリプロピレンジオールなどの末端水酸基ポリオレフィン類;ポリカプロラクトンジオール、ポリ乳酸、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル類;末端シラノール型ポリジメチルシロキサンなどの末端官能性ポリシロキサン類;末端アミノ基ポリエチレングリコール、末端アミノ基ポリプロピレングリコール、末端アミノ基ポリブタジエンなどの末端アミノ基鎖状ポリマー類;および上記官能基を一分子中に3つ以上有する3官能性以上の多官能性鎖状ポリマー類などが挙げられる。中でもポリロタキサンの合成が容易である点から、ポリエチレングリコールおよび末端アミノ基ポリエチレングリコールから選ばれた直鎖分子が好ましく用いられる。前記直鎖分子は数平均分子量2,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜50,000であることがさらに好ましい。
【0046】
前記ブロック基としては、直鎖分子の末端官能基と結合し得るものであり、環状分子が直鎖分子から脱離できなくするために十分に嵩高い基であれば、特に限定されない。好ましくは、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、アントラセン類等、あるいは、数平均分子量1,000〜1,000,000の高分子の主鎖または側鎖等が挙げられる。これらのブロック基は、単独で用いても、2種以上併用しても構わない。
【0047】
前記環状分子としては、開口部に直鎖分子が貫通し得るものであれば、特に限定されない。好ましくは、シクロデキストリン類、クラウンエーテル類、クリプタンド類、大環状アミン類、カリックスアレーン類、およびシクロファン類が挙げられる。シクロデキストリン類は複数のグルコースがα−1、4−結合で環状に連なった化合物である。α−、β−、およびγ−シクロデキストリンから選ばれた環状分子が、より好ましく用いられる。
【0048】
本発明において、ポリロタキサン(B)に含まれる前記環状分子は、グラフト鎖により修飾されていることを特徴とする。環状分子がグラフト鎖により修飾されることで、ポリロタキサンのエポキシ樹脂との相溶性、ならびに有機溶剤への溶解性および反応性が良好になる。前記グラフト鎖は、ポリエステルであることが好ましい。エポキシ樹脂との相溶性および有機溶剤への溶解性の点から、前記グラフト鎖は、脂肪族ポリエステルであることがより好ましい。脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ3−ヒドロキシブチレート、ポリ4−ヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)およびポリ(ε−カプロラクトン)から選ばれたポリエステルが好ましく挙げられる。中でもポリ(ε−カプロラクトン)がエポキシ樹脂との相溶性の点から特に好ましい。
【0049】
また、前記グラフト鎖の末端は、エポキシ樹脂組成物にポリロタキサンを添加した際、その緩和効果をエポキシ樹脂に波及させやすくするために、エポキシ樹脂および/または架橋剤と容易に反応する、反応性の高い基であることが好ましい。グラフト鎖の末端が、イソシアネート基、チオイソシアネート基、アミン基、グリシジル基、カルボン酸基、スルホン酸基、アルコキシシラン基およびアンモニウム塩基から選ばれる基を有することが好ましい。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、ポリロタキサンと反応し得る架橋剤(C)を含むことが好ましい。架橋剤(C)を含むことにより、ポリロタキサン(B)同士がエポキシ樹脂(A)中でネットワークを形成しやすくなり、硬化後に樹脂硬化物の剛性が発揮されやすくなる。架橋剤(C)としては、特に限定されないが、エポキシ樹脂組成物にポリロタキサンを添加した際、その緩和効果をエポキシ樹脂に波及させやすくするために、エポキシ樹脂および/またはポリロタキサンと容易に反応する、反応性の高い基を有することが好ましい。架橋剤(C)の好ましい例としては、1分子中に複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物、1分子中に複数のブロック化イソシアネート基を有するブロックポリイソシアネート化合物、1分子中に複数の水酸基を有するポリオール化合物、1分子中に複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸化合物などが挙げられる。また、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物を反応させて得られる化合物や、さらに該反応物をブロック剤で保護したブロックポリイソシアネート化合物も用いることができる。エポキシ樹脂との反応性および取り扱いの容易性から、ポリイソシアネート化合物およびポリオール化合物から選ばれた化合物が好ましく、ブロックポリイソシアネート化合物およびポリオール化合物から選ばれた化合物がより好ましい。
【0051】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートなどが挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、o−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンダイマーなどが挙げられる。脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、ビシクロヘプタントリイソシアネート、4,4−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。ポリイソシアネート化合物は、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0052】
ブロックポリイソシアネート化合物とは、イソシアネート基がブロック剤との反応によって保護され、一時的に不活性化されたブロック化イソシアネート基を複数有する化合物である。ブロック剤は、所定温度に加熱すると解離させることが可能である。このようなブロックポリイソシアネート化合物としては、ポリイソシアネート化合物とブロック剤との付加反応生成物が用いられる。ブロック剤と反応し得るポリイソシアネート化合物としては、イソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体などが挙げられる。このポリイソシアネート化合物としては、前記ポリイソシアネート化合物として例示した化合物が挙げられる。ブロックポリイソシアネート化合物は、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0053】
ブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、クロロフェノール、エチルフェノールなどのフェノール系ブロック剤;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤;アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系ブロック剤;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルエーテル、グリコール酸メチル、グリコール酸ブチル、ジアセトンアルコール、乳酸メチル、乳酸エチルなどのアルコール系ブロック剤;ホルムアルデヒドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系ブロック剤;ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノールなどのメルカプタン系ブロック剤;アセトアミド、ベンズアミドなどの酸アミド系ブロック剤;コハク酸イミド、マレイン酸イミドなどのイミド系ブロック剤;キシリジン、アニリン、ブチルアミン、ジブチルアミンなどのアミン系ブロック剤;イミダゾール、2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール系ブロック剤;メチレンイミン、プロピレンイミンなどのイミン系ブロック剤などが挙げられる。ブロック剤は、単独で用いても、2種以上併用しても構わない。
【0054】
ブロックポリイソシアネート化合物は、市販のものを用いてもよく、例えば、“スミジュール(登録商標)”BL−3175、BL−4165、BL−1100、BL−1265、“デスモジュール(登録商標)”TPLS−2957、TPLS−2062、TPLS−2078、TPLS−2117、デスモサーム2170、2265(以上、住友バイエルウレタン社製)、“コロネート(登録商標)”2512、2513、2520(以上、日本ポリウレタン工業社製)、B−830、B−815、B−846、B−870、B−874、B−882(以上、三井武田ケミカル社製)、TPA−B80E、17B−60PX、E402−B80T(以上、旭化成ケミカルズ社製)などが挙げられる。
【0055】
ポリオール化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオールなどが挙げられる。ポリオール化合物は、単独で用いても、2種以上併用しても構わない。
【0056】
ポリカルボン酸化合物としては、例えば、芳香族ポリカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸などが挙げられる。ポリカルボン酸化合物は、単独で用いても、2種以上併用しても構わない。
【0057】
本発明において、エポキシ樹脂組成物が架橋剤(C)を含まない場合と含む場合がある。
【0058】
架橋剤(C)を含まない場合、ポリロタキサン(B)の含有比率は、エポキシ樹脂組成物全体に対して1質量%以上50質量%未満であることが好ましい。含有比率は、2質量%以上であることがより好ましい。また、含有比率は、20質量%未満であることがより好ましい。ポリロタキサン(B)の含有比率を1質量%以上とすることにより、靭性向上に有利に作用する相分離構造がより形成しやすくなり、ポリロタキサンの緩和効果が発揮されやすくなる。また、ポリロタキサン(B)の含有比率を50質量%未満とすることにより、硬化後の樹脂硬化物の耐熱性や剛性が発揮されやすくなる。ポリロタキサン(B)の含有比率を上記の範囲内とすることにより、耐熱性と靱性を両立することができる。
【0059】
エポキシ樹脂組成物が架橋剤(C)を含む場合、ポリロタキサン(B)および架橋剤(C)の合計の含有比率は、エポキシ樹脂組成物全体に対して1質量%以上50質量%未満であることが好ましい。合計の含有比率は、2質量%以上であることがより好ましい。また、合計の含有比率は、20質量%未満であることがより好ましい。含有比率を1質量%以上とすることにより、靭性向上に有利に作用する相分離構造がより形成しやすくなり、エポキシ樹脂組成物硬化後にポリロタキサンおよび/またはその架橋物の緩和効果が発揮されやすくなる。また、含有比率を50質量%未満とすることにより、硬化後の樹脂硬化物の耐熱性や剛性が発揮されやすくなる。ポリロタキサン(B)および架橋剤(C)の合計の含有比率を上記の範囲内とすることにより、耐熱性と靱性を両立することができる。
【0060】
また、ポリロタキサン(B)および架橋剤(C)の合計量に対するポリロタキサン(B)の比率は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。また、ポリロタキサン(B)および架橋剤(C)の合計量に対するポリロタキサン(B)の比率は、90質量%未満であることが好ましく、70質量%未満であることがより好ましい。ポリロタキサン(B)および架橋剤(C)の合計量に対するポリロタキサン(B)の比率が20質量%より少ない場合、また、90質量%以上である場合、ポリロタキサン(B)と架橋剤(C)が効率的に反応せず、耐熱性と靱性を両立できない場合がある。
【0061】
ポリロタキサン(B)の市販品としては、例えば“セルム(登録商標)”スーパーポリマーSH3400P、SH2400P、SH1310P(以上、アドバンスト・ソフトマテリアルズ(株)製)等が挙げられる。また、ポリロタキサン(B)および架橋剤(C)の混合物の市販品としては、例えば“セルム(登録商標)”エラストマーS1000、M1000(以上、アドバンスト・ソフトマテリアルズ(株)製)等が挙げられる。
【0062】
硬化剤(D)としては、前記エポキシ樹脂(A)と反応し得るものであれば特に限定はないが、アミン系硬化剤が好ましく用いられる。かかる硬化剤としては、例えば、テトラメチルグアニジン、イミダゾールまたはその誘導体、カルボン酸ヒドラジド類、3級アミン、芳香族アミン、脂肪族アミン、ジシアンジアミドまたはその誘導体等が挙げられる。
【0063】
イミダゾール誘導体としては、例えば、2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等が挙げられる。カルボン酸ヒドラジド誘導体としては、アジピン酸ヒドラジドやナフタレンカルボン酸ヒドラジド等が挙げられる。3級アミンとしては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルベンジルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどが挙げられる。芳香族アミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、ジエチルトルエンジアミンなどが挙げられる。脂肪族アミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ポリエチレンイミンのダイマー酸エステルなどが挙げられ挙げられる。さらに、芳香族アミンおよび脂肪族アミンのように活性水素を有するアミンに、エポキシ化合物、アクリロニトリル、フェノールとホルムアルデヒド、チオ尿素などの化合物を反応させて得られる変性アミンも含まれる。
【0064】
硬化剤(D)としては、樹脂組成物の保存安定性に優れる潜在性硬化剤も好ましく用いられる。潜在性硬化剤とは、熱や光等の一定の刺激により相変化や化学変化等により活性を発現する硬化剤である。潜在性硬化剤としては、たとえばアミンアダクト型潜在性硬化剤、マイクロカプセル型潜在性硬化剤、ジシアンジアミドあるいはその誘導体等が挙げられる。
【0065】
アミンアダクト型潜在性硬化剤の市販品としては、“アミキュア(登録商標)”PN−23、PN−H、PN−40、PN−50、PN−F、MY−24、MY−H(以上、味の素ファインテクノ(株)製)、“アデカハードナー(登録商標)”EH−3293S、EH−3615S、EH−4070S(以上、ADEKA(株)製)などが挙げられる。マイクロカプセル型潜在性硬化剤の市販品としては、“ノバキュア(登録商標)”HX−3721、HX−3722(以上、旭化成ケミカルズ(株)製)などを用いることができる。ジシアンジアミドの市販品としては、DICY−7、DICY−15(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。これらアミン系硬化剤は、単独で用いても、2種以上併用しても構わない。
【0066】
硬化剤(D)のうち、潜在性硬化剤としては、ジシアンジアミドまたはその誘導体が特に好ましく用いられる。
【0067】
硬化剤(D)としてジシアンジアミドを用いる場合、ジアンジアミド単独で用いても良いし、硬化促進剤や、その他の硬化剤と組み合わせて用いても良い。組み合わせる硬化促進剤としては、ウレア類、イミダゾール類、ルイス酸触媒などが挙げられる。また、その他のエポキシ樹脂硬化剤としては、芳香族アミン硬化剤や、脂環式アミン硬化剤、酸無水物硬化剤などが挙げられる。ウレア類の市販品としては、DCMU99(保土ヶ谷化学(株)製)、“Omicure(登録商標)”24、Omicure(登録商標)52、Omicure(登録商標)94(以上CVC Specialty Chemicals, Inc.製)などが挙げられる。イミダゾール類の市販品としては、2MZ、2PZ、2E4MZ(以上、四国化成(株)製)などが挙げられる。ルイス酸触媒としては、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素・モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・トリエタノールアミン錯体、三塩化ホウ素・オクチルアミン錯体などの、ハロゲン化ホウ素と塩基の錯体が挙げられる。保存安定性および潜在性の点から、ウレア類をジシアンジアミドの硬化促進剤として用いるのが好ましい。
【0068】
硬化剤(D)として、ジシアンジアミドを用いる場合、その含有比率は、耐熱性や力学特性の観点から、活性水素量が、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基量の0.5〜1.2倍となるようにすることが好ましく、0.7〜1.1倍とすればより好ましい。活性水素量が0.5倍に満たない場合、硬化物の架橋密度が低くなるため、弾性率が耐熱性が低下し、繊維強化複合材料の静的強度特性が低下する。活性水素量が1.2倍を超える場合、硬化物の架橋密度が高くなり、組成変形能力が小さくなり、耐衝撃性に劣る場合がある。
【0069】
エポキシ樹脂組成物が架橋剤(C)を含まない場合、硬化前にはエポキシ樹脂(A)およびポリロタキサン(B)が相溶し、硬化後の樹脂硬化物においては、両者が相分離構造を形成していることが好ましい。また、エポキシ樹脂組成物が架橋剤(C)を含む場合、硬化前にはエポキシ樹脂(A)、ポリロタキサン(B)および架橋剤(C)が相溶し、硬化後の樹脂硬化物においては、それらが相分離構造を形成していることが好ましい。相溶しているか否かは、例えばPolymer Alloys and Blends, Leszek A Utracki, Hanser Publishers, P.64に記載の様に、電子顕微鏡、示差走査熱量計、小角X線散乱、その他種々の方法によって判断することができる。
【0070】
硬化前のエポキシ樹脂組成物の相溶状態確認のためには、光学顕微鏡および小角X線散乱装置を用いて測定することが好ましい。この場合、光学顕微鏡観察により相分離構造が観察されるか、X線散乱測定において相分離構造由来の散乱が検出された場合、相分離構造が存在するとした。光学顕微鏡観察において相分離構造が観察されず、かつ、X線散乱測定において相分離構造由来の散乱が検出されなかった場合、相分離構造が存在しないとした。
【0071】
また、硬化後のエポキシ樹脂組成物の相溶状態確認のためには、透過型電子顕微鏡を用いて測定することが好ましい。この場合、異なる2成分の樹脂を主成分とする相のサイズがいずれも0.001μm未満であるか、もしくは相構造を全く形成していない場合、相分離構造が存在しないとした。また、異なる2成分の樹脂を主成分とする相が、サイズが0.001μm以上の相構造を形成している場合、相分離構造が存在するとした。詳細な測定方法は後述する。
【0072】
エポキシ樹脂組成物が硬化後に相分離構造を形成するかどうかは、エポキシ樹脂組成物を、50℃から135℃まで2℃/分で昇温し、さらに135℃で2時間加熱することにより硬化した後に、上記のようにして観察することにより、確認することができる。
【0073】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化前には相溶状態であって、硬化反応に伴い、スピノーダル分解により、相分離構造を形成すると、系全体にわたり均一で微細な相分離構造を形成することが可能となるので好ましい。そのような相分離構造を形成することにより、エポキシ樹脂の剛性を損なうことなく、高い靱性を有するエポキシ樹脂組成物の硬化物を得ることができる。この場合、硬化前のエポキシ樹脂組成物は、加熱等により、硬化反応を開始する。その際、エポキシ樹脂(A)の硬化とともに、分子量増加に伴う系のエントロピーが減少し、エポキシ樹脂硬化物を主成分とする相およびポリロタキサンまたはポリロタキサン架橋物を主成分とする相の2相に相分離する。ここで、「主成分とする」とは、当該相において、当該成分の含有量が80質量%以上であることを指す。この際、エポキシ樹脂硬化物を主成分とする相には、ポリロタキサンまたはポリロタキサン架橋物の一部が含まれ、ポリロタキサンまたはポリロタキサン架橋物を主成分とする相にはエポキシ樹脂硬化物の一部が含まれた状態となる。
【0074】
エポキシ樹脂組成物の物性は構成成分だけでなく、その相分離構造および相分離構造のサイズにも大きく影響されることが知られている。2種以上の成分からなり、相分離構造を有する組成物は、各々の原料となる樹脂の長所を引き出し、短所を補い合うことで単一の樹脂に比べて優れた特性を発現する。相分離構造は、大きく分けて海島構造および共連続構造が挙げられる。海島構造とは、海構造の中に島構造が点在した構造のことを指す。また、共連続構造とは、混合する2種以上の成分がそれぞれ連続相を形成し、互いに3次元的に絡み合った構造を指す。
【0075】
相分離構造は、海島構造を形成していることが好ましい。海島構造を形成することにより、破壊時のクラック進展が抑制され、靱性が向上する効果がある。海島構造において、島構造の直径は0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましい。島構造の直径が0.01μm未満であると、相溶状態に近づき、両成分の特性が十分に発揮されない場合がある。また、島構造の直径は10μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましく、0.1μm以下であることが特に好ましい。島構造の直径が10μmより大きいと、エポキシ樹脂硬化物とポリロタキサン架橋物の物性がそれぞれ発現するのみで、短所を補い合うことが困難となる場合がある。
【0076】
相分離構造が海島構造を形成する場合、島構造はポリロタキサンまたはポリロタキサン架橋物を主成分とする相であることが好ましい。ポリロタキサンまたはポリロタキサン架橋物を主成分とする相が島構造を形成することにより、樹脂組成物が破壊する際に、ポリロタキサンまたはポリロタキサン架橋物を主成分とする相でクラックの進展が分散されやすいため、靱性が向上しやすい。また、この場合、海構造がエポキシ樹脂硬化物を主成分とする相であることにより、剛性が保たれる。また、海構造にはポリロタキサンまたはポリロタキサン架橋物の一部が含まれており、この成分がポリロタキサンまたはポリロタキサンの有する緩和効果をエポキシ樹脂硬化物へと波及させる効果があるため、さらに靱性が向上しやすい。
【0077】
相分離構造が共連続構造を形成している場合には、構造周期は0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましい。構造周期が0.01μm未満であると、相溶状態に近づき、両成分の特性が十分に発揮されない場合がある。また、構造周期は10μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましく、0.1μm以下であることが特に好ましい。構造周期が10μmより大きいと、エポキシ樹脂硬化物とポリロタキサン架橋物の物性がそれぞれ発現するのみで、短所を補い合うことが困難となる場合がある。
【0078】
海島構造の島構造の直径および共連続構造の構造周期は、例えば電子顕微鏡観察により、以下の方法により求めることができる。
【0079】
海島構造の島構造の直径を求める場合、まず、正方形の電子顕微鏡観察写真に島構造が50個以上100個未満存在するように、倍率を調整する。かかる倍率において、観察像に存在する島構造から無作為に50個の島構造を選択し、それぞれの島構造について長径と短径を測定する。その長径と短径の平均値を各島構造の直径とし、測定した全ての島構造の直径の平均値を島構造の直径とする。なお、島構造の長径および短径とは、それぞれ島構造の最も長い直径および最も短い直径を示す。
【0080】
また、共連続構造の構造周期を求める場合、まず、正方形の電子顕微鏡観察写真に無作為に10本の直線を描いた際、いずれの直線も20個以上200個未満の2相の境界と交差するように、観察倍率を調整する。かかる倍率において、観察像に無作為に描かれた直線の像の端から端までの線分の長さを、境界の数を2で割った数で割ることにより、その直線上の構造周期の値を得る。10本の直線について同様の作業を行い、かかる作業を試料上の無作為に選択した10カ所の電子顕微鏡観察写真において実施し、測定した全ての直線上の構造周期の値の数平均値を共連続構造の構造周期とする。
【0081】
なお、ここでいう、線分の長さとは、実際の長さのことであり、観察写真中のスケールバーを基準に実際の長さを求めることができる。
【0082】
エポキシ樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、エポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂や、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子や、無機粒子等を配合することができる。
【0083】
また、エポキシ樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲でさらに他の各種の添加剤を添加することもできる。これら他の添加剤としては、例えば、タルク、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、セリサイト、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、ガラスフレーク、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、岩綿、炭酸カルシウム、ケイ砂、ワラステナイト、硫酸バリウム、ガラスビーズ、酸化チタンなどの強化材または非板状充填材;あるいは酸化防止剤(リン系、硫黄系など)、紫外線吸収剤、熱安定剤(ヒンダードフェノール系など)、滑剤、離型剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、染料および顔料を含む着色剤、難燃剤(ハロゲン系、リン系など)、難燃助剤(三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物、酸化ジルコニウム、酸化モリブデンなど)、発泡剤、カップリング剤(グリシジル基、アミノ基メルカプト基、ビニル基、イソシアネート基を一種以上含むシランカップリング剤やチタンカップリング剤)、抗菌剤等が挙げられる。
【0084】
本発明のエポキシ樹脂組成物を、強化繊維と複合一体化した後、硬化させることにより、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物および強化繊維を含む繊維強化複合材料を得ることができる。本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、マトリックス樹脂となる。
【0085】
繊維強化複合材料を得るにあたり、あらかじめエポキシ樹脂組成物が強化繊維基材に含浸されたプリプレグとしておくことは、保管が容易となる上、取り扱い性に優れるため好ましいものである。本発明のプリプレグは、前記エポキシ樹脂組成物および強化繊維を含む。
【0086】
エポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させる方法としては、ウェット法とホットメルト法(ドライ法)等を挙げることができる。ウェット法は、メチルエチルケトン、メタノール等の溶媒にエポキシ樹脂組成物を溶解させた溶液に強化繊維を浸漬した後、強化繊維を引き上げ、オーブン等を用いて強化繊維から溶媒を蒸発させることにより、エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させる方法である。ホットメルト法は、加熱により低粘度化したエポキシ樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法、または離型紙等の上にエポキシ樹脂組成物をコーティングしたフィルムを作製しておき、次いで強化繊維の両側または片側から前記フィルムを重ね、加熱加圧することにより、強化繊維に樹脂を含浸させる方法である。
【0087】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、特に限定されるものではないが、プリプレグ積層成形法、レジントランスファーモールディング法、レジンフィルムインフュージョン法、ハンドレイアップ法、シートモールディングコンパウンド法、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法、などにより製造することができる。
【0088】
強化繊維としては、特に限定されるものではなく、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維等が用いられる。これらの繊維を2種以上混合して用いても構わない。この中で、軽量かつ高剛性な繊維強化複合材料が得られる炭素繊維が好ましく、本発明では、強化繊維として炭素繊維を含んでいることを必須とする。
【0089】
強化繊維の形態は特に限定されるものではない。たとえば、一方向に引き揃えた長繊維、トウ、織物、マット、ニット、組み紐、カットした繊維を用いた不織布などが用いられる。特に、高い比強度、比弾性率を要求される用途には、強化繊維束を単一方向に引き揃えた配列が最も適している。
【0090】
本発明の繊維強化複合材料は、スポーツ用途、一般産業用途および航空宇宙用途に好ましく用いられる。より具体的には、スポーツ用途では、ゴルフシャフト、釣り竿、テニスやバドミントンのラケット用途、ホッケー等のスティック用途、およびスキーポール用途に好ましく用いられる。一般産業用途では、自動車、自転車、船舶および鉄道車両等の移動体の構造材、ドライブシャフト、板バネ、風車ブレード、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラ、屋根材、ケーブル、および補修補強材料等に好ましく用いられる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例により、本発明のエポキシ樹脂組成物についてさらに詳細に説明する。各実施例のエポキシ樹脂組成物を得るために下記の樹脂原料を用いた。なお、実施例1〜11は、本発明のエポキシ樹脂組成物についての参考実施例である。
【0092】
<エポキシ樹脂>
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(YD−128、新日鉄住金化学(株)製)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“エピコート(登録商標)”1004、三菱化学(株)製)
・ビフェニル型エポキシ樹脂(YX−4000、三菱化学(株)製)。
【0093】
<硬化剤>
・ジシアンジアミド(DICY7、三菱化学(株)製)。
【0094】
<硬化促進剤>
・3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(DCMU99、保土谷化学工業(株)製)。
【0095】
<ポリロタキサン>
・PRX1(下記方法で作製)
α−シクロデキストリン1.0gおよび平均分子量20,000の末端アミノ基ポリエチレングリコール4.0gを、80℃の蒸留水に溶解および撹拌し、水溶液を得た。得られた水溶液を冷蔵庫内で一晩静置した後、凍結乾燥により、得られた白濁溶液から水分を除去し、白色固体を得た。前記白色固体に、ジイソプロピルエチルアミン0.7ml、アダマンタン酢酸0.85g、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール0.6g、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート1.8gおよびジメチルホルムアミド30mlを加え、窒素封入下5℃で24時間反応させた。溶液にメタノール20mlを加え、遠心分離を行った。さらにメタノール:ジメチルホルムアミド=20ml:20mlの混合溶媒で2回、メタノール60mlで2回の洗浄および遠心分離操作を行った後、真空乾燥した。得られた固体をジメチルスルホキシド20mlに溶解し、水200mlに滴下して沈殿を生じせしめ、遠心分離を行い、上澄みを除去した。さらに、水100ml、メタノール100mlでそれぞれ洗浄および遠心分離後、真空乾燥し、両末端をアダマンタン基で封鎖したポリロタキサンを得た。
・“セルム(登録商標)”スーパーポリマーSH3400P(アドバンスト・ソフトマテリアル(株)製)
・“セルム(登録商標)”スーパーポリマーSH2400P(アドバンスト・ソフトマテリアル(株)製)
・“セルム(登録商標)”スーパーポリマーSH1310P(アドバンスト・ソフトマテリアル(株)製)
(これらの“セルム(登録商標)”スーパーポリマーは、ポリロタキサンであり、環状分子はα−シクロデキストリン、直鎖分子はポリエチレングリコール、ブロック基はアダマンタン基である。さらに、環状分子はポリ(ε−カプロラクトン)からなるグラフト鎖により修飾されている)。
【0096】
<ポリロタキサンおよび架橋剤の混合物>
・“セルム(登録商標)”エラストマーS−1000(アドバンスト・ソフトマテリアル(株)製)
・“セルム(登録商標)”エラストマーM−1000(アドバンスト・ソフトマテリアル(株)製)
(これらの“セルム(登録商標)”エラストマーは、ポリロタキサンおよび架橋剤の混合物であり、ポリロタキサンの環状分子はα−シクロデキストリン、直鎖分子はポリエチレングリコール、ブロック基はアダマンタン基である。さらに、環状分子はポリ(ε−カプロラクトン)からなるグラフト鎖により修飾されている。また、架橋剤はポリイソシアネート化合物およびポリオール化合物を含む)。
【0097】
<ブロックコポリマー>
・“ナノストレングス(登録商標)”M22N(アクリル系ブロック共重合体、アルケマ(株)製)。
【0098】
樹脂組成物の調製、繊維強化複合材料の作製および各種物性の測定は次の方法により行った。なお、物性測定に関しては、特に断りのない限り、温度23℃、相対湿度50%の環境で測定した。
【0099】
<エポキシ樹脂組成物、硬化物の作製および評価>
(1)エポキシ樹脂組成物およびその硬化物の作製
各種エポキシ樹脂を良く撹拌しながら混合し、均一な状態とした後に、ポリロタキサンを加えた。さらに良く撹拌しながら混合し、均一な状態とし、硬化剤として、硬化剤中の活性水素量がエポキシ樹脂中のエポキシ基量の0.8倍となるよう、ジシアンジアミドを加え、さらに硬化促進剤として3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレアを加えて、それぞれの粉末が十分に均一になるまで撹拌し、エポキシ樹脂組成物を作製した。
【0100】
得られたエポキシ樹脂組成物を所定の厚さの“テフロン(登録商標)”製スペーサーを用いて厚みを調整したモールド中に注入し、熱風オーブン内で50℃から135℃まで2℃/分で昇温し、さらに135℃で2時間加熱することにより硬化物の板を得た。
【0101】
(2)樹脂組成物の相溶状態確認
エポキシ樹脂組成物を作製する際、エポキシ樹脂およびポリロタキサンを撹拌することにより得られた混合物の一部を採取し、観察倍率50倍の光学顕微鏡および小角X線散乱装置(SAXSess MC2)を用いて測定し、目視およびX線散乱それぞれの手法により相溶状態を確認した。光学顕微鏡観察により相分離構造が観察されるか、X線散乱測定において相分離構造由来の散乱が検出された場合、相分離構造が存在するとした。光学顕微鏡観察において相分離構造が観察されず、かつ、X線散乱測定において相分離構造由来の散乱が検出されなかった場合、相分離構造が存在しないとした。
【0102】
(3)硬化物の電子顕微鏡観察(硬化後の相分離構造有無確認および島構造の直径の測定)
作製した樹脂硬化物を、モルホロジーに十分なコントラストが付くよう、OsOを用いて染色後、薄切片化し、H−7100透過型電子顕微鏡(日立(株)製)を用いて加速電圧100kVにて、観察倍率50000倍において観察した。さらに、相分離構造が観察された場合は、以下の手順で透過電子像を取得し、島構造の直径を求めた。正方形の電子顕微鏡観察写真に島構造が50個以上100個未満存在するよう、適切な倍率に調整した。かかる倍率において、観察像に存在する島構造から無作為に50個の島構造を選択し、それぞれの島構造について長径と短径を測定した。長径と短径の平均値を各島構造の直径とし、測定した全ての島構造の直径の平均値を島構造の直径とした。相分離構造のサイズが0.001μm未満であるか、相分離構造を形成していない状態を相溶状態とし、0.001μm以上の相分離構造を形成している状態を相分離状態とした。
【0103】
(4)硬化物の曲げ弾性率、曲げ破断伸度測定
エポキシ樹脂組成物を、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーを用いて厚み2mmになるように設定したモールド中で硬化させ、厚さ2mmの樹脂硬化物を得た。これを幅10mm、長さ60mmの試験片に切り出し、インストロン万能試験機を用い、最大容量5kNのロードセルを使用し、スパン間長さを32mm、クロスヘッドスピードを100mm/分とし、JIS K7171(2008)に準拠して3点曲げ測定を実施し、曲げ弾性率および曲げ撓み量を得た。サンプル数n=5とし、その平均値で比較した。
【0104】
(5)樹脂硬化物の靭性測定
エポキシ樹脂組成物を、6mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーを用いて厚み6mmになるように設定したモールド中で硬化させ、厚さ6mmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物を12.7×150mmの試験片に切り出した。インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、ASTM D5045(1999)に従って試験片の加工および測定をおこなった。サンプル数n=5とし、その平均値で比較した。なお、試験片への初期の予亀裂の導入は、液体窒素温度まで冷やした剃刀の刃を試験片にあてハンマーで剃刀に衝撃を加えることで行った。ここでいう、樹脂靱性値とは、変形モード1(開口型)の臨界応力強度のことを指している。
【0105】
(6)樹脂硬化物の圧縮試験
エポキシ樹脂組成物を、6mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーを用いて厚み6mmになるように設定したモールド中で硬化させ、厚さ6mmの樹脂硬化物を得た。ついで、この樹脂硬化物の板から一辺の長さが6mmの立方体の試験片を切り出し、試験速度5mm/分で、他の条件はJIS K7181(2011)に準じた条件により圧縮弾性率、圧縮降伏応力、圧縮破壊応力、および圧縮破壊時呼び歪みを測定した。サンプル数はn=5とし、平均値をそれぞれ圧縮弾性率、圧縮降伏応力、圧縮破壊応力、および圧縮破壊時呼び歪みとした。
【0106】
<繊維強化複合材料の作製および評価>
(7)一方向プリプレグの作製
(1)で作製した硬化前のエポキシ樹脂組成物を、リバースロールコーターを使用して離型紙上に塗布し、樹脂フィルムを作製した。次に、シート状に一方向に整列させた炭素繊維“トレカ(登録商標)”T800H(東レ(株)製)の両面に、前記樹脂フィルム2枚を重ね、加熱加圧して樹脂組成物を炭素繊維に含浸させ、単位面積辺りの炭素繊維重量125g/m、繊維重量含有率75%の一方向プリプレグを作製した。
【0107】
(8)繊維強化複合材料の一方向積層板の作製
上記(7)で作製した一方向プリプレグを、繊維方向を揃えて20ply積層した。積層したプリプレグをナイロンフィルムで隙間のないように覆った。これをオートクレーブ中で135℃、内圧588kPaで2時間加熱加圧して硬化し、一方向積層板を作製した。
【0108】
(9)繊維強化複合材料の0°曲げ強度の測定方法
繊維強化複合材料の曲げ強度の指標として、一方向積層板の0°曲げ強度を測定した。一方向積層板を、厚み2mm、幅15mm、長さ100mmとなるように切り出した。インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、クロスヘッド速度5.0mm/分、スパン80mm、圧子径10mm、支点径4mmで測定を行ない、0°曲げ強度および曲げ破断伸度を測定した。また、作製したプリプレグの目付に基づいて、実Vf(体積炭素繊維含有率)を求めた後、得られた曲げ強度および曲げ破断伸度をVf60%に換算した。サンプル数n=5とし、その平均値を曲げ強度および曲げ破断伸度とした。
【0109】
(10)繊維強化複合材料の90°曲げ強度
エポキシ樹脂組成物と強化繊維の接着性の指標として、繊維強化複合材料の90°曲げ強度を測定した。一方向積層板を、厚み2mm、幅15mm、長さ60mmとなるように切り出した。インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、クロスヘッド速度1.0mm/分、スパン40mm、圧子径10mm、支点径4mmで測定をおこない、90°曲げ強度および曲げ破断伸度を測定した。また、作製したプリプレグの目付に基づいて、実Vfを求めた後、得られた曲げ強度および曲げ破断伸度をVf60%に換算した。サンプル数n=5とし、その平均値を曲げ強度および曲げ破断伸度とした。
【0110】
(11)繊維強化複合材料の層間靭性(モードI層間靱性)の測定
・モードI層間靭性(GIC)試験用複合材料製平板の作製とGIC測定
JIS K7086(1993)に従い、次の(a)〜(f)の操作によりGIC試験用複合材料製平板を作製した。
【0111】
(a)(7)で作製した一方向プリプレグを、繊維方向を揃えて20ply積層した。ただし、積層中央面(10ply目と11ply目の間)に、繊維配列方向と直角に、幅40mmの樹脂フィルムをはさんだ。
【0112】
(b)積層したプリプレグをナイロンフィルムで隙間のないように覆い、オートクレーブ中で180℃、内圧0.6MPaで2時間加熱加圧して硬化し、一方向繊維強化複合材料を成形した。
【0113】
(c)(b)で得た一方向繊維強化複合材料を、幅20mm、長さ195mmにカットした。繊維方向が、サンプルの長さ側と平行になるようにカットした。
【0114】
(d)JIS K7086(1993)に従い、ピン負荷用ブロック(長さ25mm、アルミ製)を試験片端(フィルムをはさんだ側)に接着した。
【0115】
(e)フィルム挿入部分をナイフ等の鋭利な刃物で開き、2mmから5mmの予亀裂を導入した。
【0116】
(f)亀裂進展を観察しやすくするため、試験片の両側面に白色塗料を塗った。
【0117】
・作製した複合材料製平板を用いて、以下の手順により、GIC測定を行った。
【0118】
JIS K7086(1993)に従い、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いて試験を行った。クロスヘッドスピードは、亀裂進展が20mmに到達するまでは0.5mm/分、20mm到達後は1mm/分とした。荷重、変位、および、亀裂長さから、GICを算出した。サンプル数n=3とし、その平均値をGICとした。
【0119】
(実施例1〜5)
表1に記載の比率で各成分を配合し、前記(1)に記載の通りエポキシ樹脂組成物の硬化物を作製した。電子顕微鏡観察から、樹脂硬化物は、いずれも海島構造の相分離構造を形成していることを確認した。各種物性測定を行った結果、得られた硬化物の曲げ特性、靭性および圧縮特性はいずれも良好であった。
【0120】
(実施例6〜14)
ポリロタキサンの代わりに、ポリロタキサンおよび架橋剤の混合物を用い表1および2に記載の比率で各成分を配合し、前記(1)に記載の通りエポキシ樹脂組成物の硬化物を作製した。電子顕微鏡観察から、樹脂硬化物は、いずれも海島構造の相分離構造を形成していることを確認した。各種物性測定を行った結果、得られた硬化物の曲げ特性、靭性および圧縮特性はいずれも良好であった。
【0121】
(実施例15)
表2に記載の比率で各成分を配合し、前記(1)に記載の通りエポキシ樹脂組成物の硬化物を作製した。電子顕微鏡観察から、樹脂硬化物は、相分離構造を形成しておらず、相溶していることを確認した。各種物性測定を行った結果、得られた硬化物の曲げ特性および靭性はいずれも良好であった。
【0122】
(実施例16)
ポリロタキサンの代わりに、ポリロタキサンおよび架橋剤の混合物を用い、表2に記載の比率で各成分を配合し、前記(1)に記載の通りエポキシ樹脂組成物の硬化物を作製した。電子顕微鏡観察から、樹脂硬化物は、相分離構造を形成しておらず、相溶していることを確認した。各種物性測定を行った結果、得られた硬化物の曲げ特性および靭性はいずれも良好であった。
【0123】
(実施例17)
表2に記載の比率で各成分を配合し、前記(1)に記載の通りエポキシ樹脂組成物の硬化物を作製した。電子顕微鏡観察から、樹脂硬化物は、海島構造の相分離構造を形成していることを確認した。各種物性測定を行った結果、得られた硬化物の曲げ特性、靭性および圧縮特性はいずれも良好であった。さらに前記(7)に記載の方法により、繊維強化複合材料の一方向積層板を作製した。0°および90°曲げ試験並びにGIC試験を行ったところ、曲げ強度、曲げ破断伸度およびGICの値はいずれも良好であった。
【0124】
(実施例18)
ポリロタキサンおよび架橋剤の混合物を用い、表2に記載の比率で各成分を配合し、前記(1)に記載の通りエポキシ樹脂組成物の硬化物を作製した。電子顕微鏡観察から、樹脂硬化物は、海島構造の相分離構造を形成していることを確認した。各種物性測定を行った結果、得られた硬化物の曲げ特性、靭性および圧縮特性はいずれも良好であった。さらに前記(7)に記載の方法により、繊維強化複合材料の一方向積層板を作製した。0°および90°曲げ試験並びにGIC試験を行ったところ、曲げ強度、曲げ破断伸度およびGICの値はいずれも良好であった。
【0125】
(比較例1)
ポリロタキサンを配合しないで、表2に記載の比率で各成分を配合し、前記(1)に記載の通りエポキシ樹脂組成物の硬化物を作製した。電子顕微鏡観察から、樹脂硬化物は、相分離構造を形成しておらず、相溶していることを確認した。各種物性測定を行った結果、得られた硬化物の曲げ特性、靭性および圧縮特性は実施例1〜4、6〜11と比較し劣る結果となった。
【0126】
(比較例2)
ポリロタキサンを配合しないで、表2に記載の比率で各成分を配合し、前記(1)に記載の通りエポキシ樹脂組成物の硬化物を作製した。電子顕微鏡観察から、樹脂硬化物は、相分離構造を形成しておらず、相溶していることを確認した。各種物性測定を行った結果、得られた硬化物の曲げ特性および靭性は、実施例15および16と比較し劣る結果となった。
【0127】
(比較例3)
ポリロタキサンとして、グラフト鎖により修飾されていないポリロタキサンを用い、表2に記載の比率で各成分を配合し、前記(1)に記載の通りエポキシ樹脂組成物の硬化物を作製した。電子顕微鏡観察から、樹脂硬化物は、海島構造の相分離構造を形成していることを確認した。ポリロタキサンのシクロデキストリンがグラフト鎖により修飾されていないため、島構造の直径が10μmを超える相分離構造を形成していた。各種物性測定を行った結果、得られた硬化物の曲げ特性、靭性および圧縮特性のバランスは実施例5、12〜14、17および18と比較し劣る結果となった。
【0128】
(比較例4)
ポリロタキサンを配合しないで、表2に記載の比率で各成分を配合し、前記(1)に記載の通りエポキシ樹脂組成物の硬化物を作製した。電子顕微鏡観察から、樹脂硬化物は、相分離構造を形成しておらず、相溶していることを確認した。各種物性測定を行った結果、得られた硬化物の曲げ特性、靭性および圧縮特性のバランスは、実施例5、12〜14、17および18と比較し劣る結果となった。さらに前記(7)に記載の方法により、繊維強化複合材料の一方向積層板を作製した。0°および90°曲げ試験並びにGIC試験を行った結果、実施例17および18と比較し、曲げ強度、曲げ破断伸度およびGICの値のいずれも劣る結果となった。
【0129】
(比較例5)
ポリロタキサンの代わりに、ブロックコポリマーを配合し、表2に記載の比率で各成分を配合し、前記(1)に記載の通りエポキシ樹脂組成物の硬化物を作製した。電子顕微鏡観察から、樹脂硬化物は、海島構造の相分離構造を形成していることを確認した。各種物性測定を行った結果、得られた硬化物の曲げ特性、靭性および圧縮特性のバランスは実施例5、12〜14および17〜18と比較し劣る結果となった。
【0130】
【表1】
【0131】
【表2】
【要約】
エポキシ樹脂組成物の組成および相分離構造を制御することにより、従来のエポキシ樹脂組成物の硬化物と比較し、剛性および靱性のバランスに優れたエポキシ樹脂組成物の硬化物を提供する。エポキシ樹脂、環状分子がグラフト鎖により修飾されたポリロタキサンおよびエポキシ樹脂の硬化剤からなるエポキシ樹脂組成物を硬化することにより、従来の材料と比較し、優れた剛性および靱性を併せ持つエポキシ樹脂組成物の硬化物を得ることができる。