(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
紡績機などの糸巻取機において、回転する糸貯留ローラの周囲に糸を巻き付けて、糸を一時的に貯留する糸貯留装置が知られている。
【0003】
この種の糸貯留装置においては、糸貯留ローラの軸線の延長線に沿って糸を引き出すことにより、当該糸貯留ローラに巻き付けられた糸を解舒する。ところで、糸貯留ローラに貯留された糸は、当該糸貯留ローラの外周面に螺旋状に巻き付いているので、糸貯留ローラから引き出される糸は、当該糸貯留ローラの周囲で振り回されながら解舒されることになる。この時、解舒される糸の軌跡が遠心力によって外側に膨らみ、糸が過度に振り回されることでローラからの糸の解舒が不安定になる場合がある。なお、上記のように解舒された糸の軌跡が膨らんだ部分を、バルーンと呼ぶ。
【0004】
またこのような糸貯留装置において糸貯留ローラから糸を引き出す際には、螺旋状に巻きついた糸が端部側から順序良く解舒されていくことが理想的である。ところが、糸貯留ローラから糸を引き出すために必要な力が極めて小さい(糸を引き出す際の抵抗が小さい)場合は、糸貯留装置上の糸を少し引っ張っただけで、その勢いにより、糸が塊になって一度に糸貯留ローラから抜けてしまう場合がある。このように糸が塊になって一度に抜けてしまう現象を、スラッフィングと呼ぶ。
【0005】
この点、特許文献1が開示する精紡機が備える糸貯留装置(糸弛み取り装置)は、糸に係合した状態で糸貯留ローラに対して相対回転するフライヤーを有している。このフライヤーには、前記相対回転に抗する方向のトルクが発生するように構成されているので、当該フライヤーに係合した状態で糸貯留ローラから解舒される糸が過度に振り回されることを防止できる。これにより、バルーンの発生を抑制して糸の解舒を安定させることができる。
【0006】
また特許文献1の構成の場合、糸貯留ローラから解舒される糸は、前記トルクに抗してフライヤーを相対回転させるので、その反作用により、フライヤーから力を受ける。このフライヤーから受ける力は、糸貯留ローラから糸が解舒される際の抵抗となる。このように、糸貯留ローラから解舒される際に糸が抵抗を受ける結果、糸が一気に抜けてしまいにくくなるので、糸貯留ローラ上の糸が塊になって抜けてしまうスラッフィングを防止することができる。
【0007】
そして上記のように、糸貯留装置から解舒される際に糸が抵抗を受けるので、フライヤーと、フライヤーよりも下流側で糸を巻き取っている巻取装置と、の間で、糸を張った状態に保つことができる。このように、巻取装置で巻き取られる糸に適度なテンションを付与することができるので、高品質なパッケージを形成することができる。
【0008】
ところで、特許文献1の精紡機において、巻取装置の巻取速度が速くなると、糸貯留装置からの糸の解舒速度も速くなる結果、フライヤーの相対回転速度も速くなる。一方でフライヤーの相対回転速度にはおのずから限界があるので、糸の解舒速度がフライヤーの相対回転速度の限界を超えると、フライヤーの周回遅れが発生して、バルーンが発生したり、糸がフライヤーに巻き付いたりするという不具合が発生し得る。従って、特許文献1の構成の糸貯留装置を備えた糸巻取機においては、糸の巻取速度を高速化するには限界があった。なお、フライヤーを有する糸貯留装置を備えた糸巻取機における巻取速度の限界は、500m/min程度である。
【0009】
精紡機は巻取速度が比較的遅いので、フライヤーを有する糸貯留装置を採用した場合(特許文献1の構成)でも、正常に糸を巻き取ることができる。しかしながら、巻取速度が比較的速い自動ワインダ等においては、巻取速度がフライヤーの回転速度の限界を超えてしまうので、フライヤーを有する糸貯留装置を採用することが困難であった。また、自動ワインダにおいては、トラバース(綾振り)を行いながら糸を巻取ボビンに巻き取るため、当該トラバースによって周期的な速度変動が発生する。更に、自動ワインダにおいては、糸のリボン巻きを崩すために、巻取速度を急激に変化させるディスターブ制御と呼ばれる制御が行われる。フライヤーには慣性が働いているから、上記のような巻取速度の変動にフライヤーの回転を追従させることが難しい。この点も、フライヤーを有する糸貯留装置を自動ワインダに適用する際の問題となっていた。
【0010】
この点、特許文献2が開示する糸継ぎ巻取装置は、フライヤーを有しない構成の糸貯留装置(測長・貯留部)を備えている。このように、相対回転する部材(フライヤー)を省略した構成であれば、糸貯留装置の高速回転時であっても、フライヤーが有していた上記のような問題が発生することはない。なお、特許文献2に記載の糸貯留装置は、フライヤーの代わりに、貯留ドラム部の先端にストッパフランジを備えた構成である。このようにストッパフランジを設けることにより、貯留ドラム部に貯留された糸が塊になって一度に抜けてしまうこと(スラッフィング)を防止できる。ところが、ストッパフランジを設けただけでは、貯留ドラム部から解舒される糸に適切な抵抗を与えることができないので、高速回転においてバルーンの発生を防止することができない。従って、特許文献2の構成をそのまま自動ワンイダに適用することはできない。
【0011】
そこで、本願出願人は、フライヤーの代わりに、ゴムリングを備えた構成の糸貯留装置を検討している。具体的には
図11のように、この糸貯留装置100は、金属製の糸貯留ローラ101の解舒側端部にゴムリング102をかけておき、糸貯留ローラ101から解舒される糸99を、糸貯留ローラ101の表面とゴムリング102との間に通す構成である。ゴムリング102の径は、負荷を与えない状態において、糸貯留ローラ101の外径よりも小さくしておく。この構成により、ゴムリング102は糸貯留ローラ101の外周面を締め付けるので、糸貯留ローラ101の表面とゴムリング102との間を通過する糸99を軽く挟むことができる。これにより、糸貯留ローラ101から糸99が解舒される際に適度な抵抗を付与することができる。
【0012】
このように、
図11の構成の糸貯留装置100は、糸貯留ローラ101にゴムリング102を掛けただけという極めて簡単な構成でありながら、糸貯留ローラ101から解舒される糸99に適度な抵抗を付与することができる。これにより、バルーンの発生、スラッフィング等を防止できるとともに、当該糸貯留装置100よりも下流側の糸に対して適度なテンションを付与することができる。そして、
図11の構成は、フライヤーのような可動部を有しないため、巻取速度の急激な変動への追従性も優れているのである。更に、ゴムリング102は、当該ゴムリング102の下を通過する糸99との間で適度な摩擦効果を発生させ、糸を撚り方向にころがして毛羽(けば)を撚り込むことにより、糸99の毛羽を減少させる効果が高いという優れた特質をもっている。このゴムリング102の素材としては、耐摩耗性等に優れたNBR(ニトリルゴム)が特に好適である。
【0013】
なお、特許文献3には、糸貯留体から延在するフィンガと、フィンガ周囲に配置されたリングと、の間で糸を挟み込む構成を開示している。特許文献3は、これにより、より高い糸の引出し張力及びこれに伴い相対的に均衡された糸の引出し張力が得られるとしている。しかし特許文献3の構成は、糸貯留体の外側に向けて弾性的に作用する複数のフィンガを形成しなければならず、製造コストが高くなってしまう。また特許文献3の構成は、当該フィンガの部分において、周方向でジャケット面が不連続となっているので、当該フィンガの位置で摺動しながら解舒される糸に対してダメージを与えてしまうと考えられる。この点、
図11の構成は、ゴムリングを設けるだけという簡単な構成であるから製造コストも安く、糸へのダメージも少ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、
図11の糸貯留装置100において、糸貯留ローラ101を回転させると、ゴムリング102に遠心力がかかることになる。NBR製のゴムリング102は、伸縮率が50%程度と小さく、言ってみれば「粘り(弾性)」がないので、上記遠心力がかかると、容易に糸貯留ローラ101の表面から離れてしまう。このようにゴムリング102が糸貯留ローラ101の表面から離れてしまうと、糸貯留ローラ101から解舒される糸99に対して適切な抵抗を与えることができなくなる結果、バルーンの発生やスラッフィングを防止することができなくなるとともに、糸貯留装置100より下流側の糸に対して適切なテンションを付与することができなくなる。
【0016】
上記のような問題に対処するため、糸貯留ローラ101の高回転時の遠心力に抗することができる程度の締め付け力を発揮できるゴムリング(より径の小さいゴムリング)を用いることも考えられる。しかしこの場合は、低回転時(遠心力が小さいとき)にはゴムリング102が糸貯留ローラ101を締め付ける力が大き過ぎるので、低回転時に糸貯留ローラ101から糸99を引き出す最に過剰な抵抗がかかる。この場合、低速回転時には、糸貯留ローラ101から糸99を引き出す際に、糸99が張り切れてしまうという別の問題が発生する。
【0017】
一方、NBR製のゴムリングに代えて、天然ゴム製のゴムリング(輪ゴム)を利用することも考えられた。天然ゴム製のゴムリングの伸縮率は500%〜900%であり、いわば「粘り(弾性)」があるので、遠心力がかかっても糸貯留ローラ101の表面から離れず密着した状態を保つことができる。従って、高速回転の遠心力に耐え得るようにゴムリングによる締め付けをむやみに強くする必要がないので、低速回転時の糸の張り切れを防止することができる。
図11の糸貯留装置100に天然ゴム製のゴムリングを採用した場合、当該ゴムリングが新品の間は糸の貯留に問題はなく、低速の糸巻取速度から高速な糸巻取速度(例えば1200m/min)まで対応することができる。
【0018】
しかしながら、天然ゴム製のゴムリングは耐久性が無く、糸との摩擦により、当該ゴムリングの表面がすぐに劣化してしまうという問題がある。また天然ゴムには粘着性があるため、糸の繊維、風綿などが絡み付いて、コブになる等の問題がある。また、いくら天然ゴム製のゴムリングの伸縮率が高いといっても、遠心力はゴムリングを開く側にかかるので、糸貯留ローラ101の高速回転時において糸に与える抵抗が低下することは避けられない。
【0019】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、低速巻取から高速巻取まで幅広く対応できる糸貯留装置を提供することにある。
【0020】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0021】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の糸貯留装置が提供される。この糸貯留装置は、回転体の外周面に形成された糸貯留部に糸を巻き付けて貯留し、前記糸貯留部から前記回転体の回転軸に沿う方向に糸が解舒される糸貯留装置であって、テンション付与部が設けられている。前記テンション付与部は、前記糸貯留部の解舒側に設けられ、前記糸貯留部と同期回転しつつ、前記糸貯留部から解舒される糸にテンションを付与する。前記テンション付与部は、伸縮可能な弾性体からなるリング部材と、前記リング部材の半径方向内側に設けられて前記リング部材との間で前記糸を挟み込む拡大縮小部と、からなる。そして、前記拡大縮小部は、前記回転体の回転速度に応じて径を拡大縮小する。
【0022】
このように、弾性体からなるリング部材と、拡大縮小部と、で糸を挟み込むことにより、糸貯留部から解舒される糸に対してテンションを付与することができる。そして、拡大縮小部が回転体の回転速度に応じて径を拡大縮小させるように構成しているので、回転速度が速くなったときに遠心力によってリング部材が外側に拡がってしまっても、リング部材と拡大縮小部とを密着させた状態に保つことができる。これにより、低速回転から高速回転まで、糸に対して適切なテンションを付与することができる。
【0023】
前記の糸貯留装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記拡大縮小部には、前記回転体の回転軸方向に前記リング部材が移動することを規制する凹部が形成される。そして、前記リング部材は、前記拡大縮小部の前記凹部に取り付けられている。
【0024】
これにより、糸貯留装置から引き出される糸に引き摺られてリング部材が外れてしまう事を防止することができる。
【0025】
前記の糸貯留装置において、前記拡大縮小部は、当該拡大縮小部の径の拡大及び縮小にかかわらず前記凹部を維持する凹部維持機構を有することが好ましい。
【0026】
これにより、高速回転時であっても低速回転時であっても、拡大縮小部からリング部材が外れてしまうことを防止することができる。
【0027】
前記の糸貯留装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記拡大縮小部の外周表面は、膜状の弾性体からなる弾性膜から構成される。前記凹部維持機構は、前記拡大縮小部の周方向に沿って形成された凹凸維持リング部を備える。そして、前記凹凸維持リング部は、弾性体から構成されており、前記弾性膜の内側に配置されている。
【0028】
即ち、適切な径の凹凸維持リング部を弾性膜の内側に配置することにより、弾性膜の外側の面(拡大縮小部の外周表面)に凹部を構成することができる。そして、凹凸維持リング部を弾性体から構成しているので、当該凹凸維持リング部の径を拡大縮小することができる。これにより、凹部の形状を維持したまま、拡大縮小部の径を拡大縮小させることができる。
【0029】
前記の糸貯留装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記回転体の解舒側端部には、前記回転体の停止時における前記拡大縮小部の外径よりも大きな径の円板部材が設けられる。前記拡大縮小部は前記糸貯留面部と前記円板部材との間に設けられている。
【0030】
これにより、糸貯留面から解舒される糸は、拡大縮小部に接触した後、当該拡大縮小部から離れて円板部材によってガイドされながら走行する。このように糸をガイドすることにより、糸が拡大縮小部に接触する面積を減らすことができるので、糸の毛羽立ち及び糸物性の低下を防止することができる。また、糸抜け時に拡大縮小部が糸によって擦られて傷つくことを防止することができる。
【0031】
前記の糸貯留装置において、前記リング部材は、前記拡大縮小部との間で糸を挟み込む部分が平面状に形成されていることが好ましい。
【0032】
これにより、リング部材が拡大縮小部の上で捻れてしまうことを防止できるので、糸に対して安定したテンションを付与することができる。
【0033】
前記の糸貯留装置においては、前記拡大縮小部の径を拡大又は縮小させる駆動部が設けられていることが好ましい。
【0034】
これにより、糸に付与するテンションを、一定のみならず、増加、減少させることができる。
【0035】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の糸貯留装置が提供される。この糸貯留装置は、回転体の外周面に形成された糸貯留部に糸を巻き付けて貯留し、前記糸貯留部から前記回転体の回転軸に沿う方向に糸が解舒される糸貯留装置であって、テンション付与部が設けられている。前記テンション付与部は、前記糸貯留部の解舒側に設けられ、前記糸貯留部と同期回転しつつ、前記糸貯留部から解舒される糸にテンションを付与する。前記テンション付与部は、第1リング状弾性体と、同期回転部材と、第2リング状弾性体と、円筒部材と、からなる。前記第1リング状弾性体は、前記回転体の表面に取り付けられる。前記同期回転部材は、前記回転体の半径方向外側に配置されて前記回転体と同期回転可能に構成される。前記第2リング状弾性体は、前記同期回転部材に設けられる。前記円筒部材は、半径方向外側から前記第1リング状弾性体に対向するように、前記同期回転部材に設けられる。前記回転体の停止状態において、前記第1リング状弾性体は、前記円筒部材に非接触の状態であり、前記第2リング状弾性体は、前記回転体の表面に接触した状態である。そして、前記糸貯留部に貯留された糸は、前記第1リング状弾性体と前記円筒部材との間、及び、前記第2リング状弾性体と前記回転体の表面との間、を通過して解舒される。
【0036】
この構成で、回転体が低速回転の間は、回転体の表面と第2リング状弾性体とによって糸にテンションが付与される。回転体が高速回転になると、遠心力によって第2リング状弾性体が回転体から離れる方向の力が働くので、第2リング状弾性体では糸に対して適切なテンションを付与できなくなる。しかし一方で、高速回転域では、遠心力によって第1リング状弾性体が円筒部材に押し付けられる。これにより、高速回転時には、第1リング状弾性体と円筒部材とによって、糸にテンションが付与される。これにより、低速回転時でも高速回転時でも、糸に対して適切なテンションを付与することができる。
【0037】
本発明の第3の観点によれば、上記の糸貯留装置を備えた以下の構成の糸巻取機が提供される。即ち、この糸巻取機は、糸の走行方向に沿って順に、糸を供給する給糸部と、分断された糸端同士を繋ぐ糸継装置と、前記糸貯留装置と、糸にテンションを付与するテンション付与装置と、前記給糸部から供給された糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取部と、を備える。そして、前記巻取部は、前記糸継装置が糸継作業を行っている間も、前記糸貯留装置から解舒した糸に対して前記テンション付与装置によってテンションを付与しつつ巻き取りを継続可能である。
【0038】
即ち、上記糸貯留装置は、低速回転でも高速回転でも、解舒される糸に対して一定のテンションを付与することができるので、当該糸貯留装置の下流側に配置されたテンション付与装置におけるテンション制御が容易になる。また、巻取部は、糸貯留装置に貯留された糸を巻き取るので、給糸部の解舒テンション変動や、糸継作業の影響を受けずに巻取り作業を継続することができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る糸巻取機としての自動ワインダが備えるワインダユニット2の概略的な側面図である。本実施形態の自動ワインダは、多数のワインダユニット2を並べて配置した構成となっている。また、この自動ワインダは、前記ワインダユニット2を集中的に管理するための図略の機台管理装置と、圧縮空気源及び負圧源を備えた図略のブロアボックスと、を備えている。
【0041】
図1に示すように、ワインダユニット2は、給糸部7と、巻取部8と、を主に備えている。このワインダユニット2は、給糸部7に支持された給糸ボビン21の糸(紡績糸)20を解舒して、パッケージ30に巻き返すように構成されている。なお、
図1は、通常の巻取時におけるワインダユニット2の様子を示している。本明細書において、「通常の巻取時」とは、給糸ボビン21とパッケージ30との間で糸が連続状態であり、かつ給糸ボビン21から糸が解舒されてパッケージ30に糸が巻き取られている状態をいう。
【0042】
給糸部7は、糸を供給するための給糸ボビン21を略直立状態で保持することが可能に構成されている。また、この給糸部7は、空になった給糸ボビン21を排出することができるように構成されている。巻取部8は、巻取ボビン22を装着可能に構成されたクレードル23と、糸20をトラバースさせるとともに前記巻取ボビン22を駆動するための綾振ドラム24と、を備えている。
【0043】
綾振ドラム24は巻取ボビン22に対向して配置されており、この綾振ドラム24を回転駆動することにより、巻取ボビン22を従動回転させる。これにより、後述の糸貯留装置18に貯留された糸20を巻取ボビン22に巻き取ることができる。また、綾振ドラム24の外周面には図略の綾振溝が形成されており、この綾振溝によって糸20を所定の幅でトラバース(綾振り)することが可能になっている。以上の構成で、糸20をトラバースさせながら巻取ボビン22に巻き付けて、所定長で所定形状のパッケージ30とすることができる。なお、以下の説明において「上流側」「下流側」という時には、糸の走行方向で見たときの上流側及び下流側をいうものとする。
【0044】
各ワインダユニット2は、制御部25を備えている。この制御部25は、図略のCPU、ROM、RAM等のハードウェアと、前記RAMに記憶された制御ブログラム等のソフトウェアと、から構成されている。そして、前記ハードウェアとソフトウェアとが協働することにより、ワインダユニット2の各構成を制御するように構成されている。また、各ワインダユニット2が備える制御部25は、前記機台管理装置と通信可能に構成されている。これにより、自動ワインダが備える複数のワインダユニット2の動作を、機台管理装置において集中的に管理することが可能となっている。
【0045】
またワインダユニット2は、給糸部7と巻取部8との間の糸走行経路中に、各種の装置を備えている。具体的に説明すると、前記糸走行経路には、給糸部7側から巻取部8側へ向かって順に、解舒補助装置10と、下糸吹上げ部11と、第1テンション付与装置12と、上糸捕捉部13と、糸継装置14と、ヤーントラップ15と、カッタ16と、クリアラ(糸欠陥検出装置)17と、上糸引出し部48と、糸貯留装置18と、第2テンション付与装置19と、が配置されている。
【0046】
解舒補助装置10は、給糸ボビン21から解舒される糸20が振り回されて給糸ボビン21上部に形成されるバルーンに対し、可動部材40を接触させ、当該バルーンの大きさを適切に制御することによって糸20の解舒を補助するためのものである。
【0047】
下糸吹上げ部11は、解舒補助装置10のすぐ下流側に配置されたエアサッカー装置であり、給糸ボビン21側の下糸を糸継装置14側に向かって吹き上げることができるように構成されている。給糸ボビン21と糸貯留装置18との間で糸20が分断状態となったときには、下糸吹上げ部11によって給糸ボビン21の糸を吹き上げて、糸継装置14まで案内することができる。
【0048】
第1テンション付与装置12は、走行する糸20に所定のテンションを付与するものである。本実施形態の第1テンション付与装置12は、固定の櫛歯に対して可動の櫛歯を配置するゲート式に構成されており、櫛歯の間に糸を走行させることで所定の抵抗を付与するように構成されている。可動側の櫛歯は、櫛歯同士の噛合せ状態を調整できるように、ソレノイドによって移動可能に構成されている。制御部25は、前記ソレノイドを制御することにより、第1テンション付与装置12によって糸に付与するテンションを調整することができる。もっとも、第1テンション付与装置12の構成はこれに限らず、例えばディスク式のテンション付与装置でも良い。
【0049】
上糸捕捉部13は、糸継装置14のすぐ上流側に配置されている。この上糸捕捉部13は図略の負圧源に接続されており、糸継時に吸引空気流を発生させて、糸貯留装置18側の糸を吸引捕捉するように構成されている(詳しくは後述)。
【0050】
ヤーントラップ15は、カッタ16の上流側であって糸継装置14のすぐ下流側に配置されている。このヤーントラップ15の先端は筒状の部材として形成されており、糸20の走行経路に接近して設けられているとともに、図略の負圧源に接続されている。この構成で、ヤーントラップ15の先端に吸引空気流を発生させて、走行する糸20に付着している風綿などのゴミを吸引除去することができる。
【0051】
クリアラ17は、糸20の糸太さを監視することにより、スラブ等の糸欠陥(糸欠点)を検出するように構成されている。クリアラ17は、糸の欠陥を検出すると、当該糸欠陥の切断除去を指示する分断信号を制御部25等に送信する。クリアラ17の近傍には、前記分断信号に応じて直ちに糸20を切断するためのカッタ16が配置されている。
【0052】
上糸引出し部48はエアサッカー装置であり、糸継時において、糸貯留装置18に貯留されている糸を引き出して、糸案内部材60(後述)に向けて吹き飛ばすことができるように構成されている。
【0053】
糸貯留装置18は、略円筒状の糸貯留ローラ32と、当該糸貯留ローラ32をその軸線を回転中心軸として回転駆動するローラ駆動モータ33と、を備えている。ローラ駆動モータ33は、制御部25によって制御される。この構成で、糸貯留ローラ32を回転駆動しながら、給糸ボビン21から解舒された糸20を糸貯留ローラ32の外周面に巻き付けることにより、当該糸貯留ローラ32に糸20を一時的に貯留することが可能である。そして、糸貯留ローラ32上に貯留された糸は、当該糸貯留ローラ32の軸線方向に沿う方向に引き出された後、巻取部8に巻き取られる。なお、糸貯留装置18の詳細な構成については後述する。
【0054】
糸継装置14は、クリアラ17が糸欠陥を検出してカッタ16で糸を切断する糸切断時、給糸ボビン21からの解舒中の糸の糸切れ時、又は給糸ボビン21の交換時等、給糸ボビン21と糸貯留装置18との間の糸20が分断状態となったときに、給糸ボビン21側の糸と、糸貯留装置18側の糸とを糸継ぎするものである。このような糸継装置14としては、圧縮空気等の流体を用いるものや、機械式のものを使用することができる。
【0055】
第2テンション付与装置19は、糸貯留装置18から引き出された糸に対して所定のテンションを付与するものであり、これにより巻取部8に巻き取られる際の糸20のテンションを制御する。第2テンション付与装置19は、第1テンション付与装置と同じくゲート式のテンサとして構成されている。制御部25は、第2テンション付与装置19のソレノイドを適宜制御することにより、第2テンション付与装置19によって糸に付与するテンションを調整することができる。もっとも、第2テンション付与装置19の構成はこれに限らず、例えばディスク式のテンション付与装置でも良い。
【0056】
また、ワインダユニット2の正面側には、マガジン式のボビン供給装置26が配置されている。このボビン供給装置26は、回転式のマガジンカン27を備えている。このマガジンカン27は予備の給糸ボビン21を複数保持することが可能に構成されている。ボビン供給装置26は、マガジンカン27を間欠的に回転駆動することにより、給糸部7に対して新しい給糸ボビン21を供給することができるように構成されている。また、ボビン供給装置26は、マガジンカン27に保持された給糸ボビン21の糸端を吸引保持する糸端保持部28を備えている。
【0057】
次に、本実施形態の自動ワインダにおける糸継動作について説明する。
【0058】
即ち、糸切れや、カッタ16による糸切断、又は給糸ボビン21の交換などにより、糸貯留装置18側の糸と、給糸ボビン21側の糸と、が分断状態となったときには、糸継装置14による糸継作業が行われる。具体的には、まず、制御部25は、下糸吹上げ部11によって、給糸ボビン21側の糸20を上に向けて吹き上げる。吹き上げられた20糸は、ヤーントラップ15に吸引捕捉される。このヤーントラップ15はヤーントラップ駆動部47によって移動可能に構成されている。そして、ヤーントラップ15は、給糸ボビン21側の糸端を吸引捕捉した状態で移動することにより、当該給糸ボビン21側の糸を糸継装置14に導入することができるように構成されている。
【0059】
また、これと前後して、制御部25は、糸貯留装置18の糸貯留ローラを逆回転させながら、上糸引出し部48によって糸貯留ローラ上の糸20を吹き飛ばす。上糸引出し部48が糸20を吹き出した先には、湾曲したチューブ状の糸案内部材60が設けられている。前記吹き飛ばされた糸20は、糸案内部材60の一端から当該糸案内部材60の内部に吹き込まれ、空気の流れに乗って、糸案内部材60の他端側まで案内される。糸案内部材60の他端側の出口の先には、上糸捕捉部13が配置されている。以上の構成で、上糸引出し部48によって吹き飛ばされた糸貯留ローラ側の糸20は、上糸捕捉部13に吸引捕捉される。なお、チューブ状の糸案内部材60には、その長手方向に沿ったスリットが形成されており、当該スリットを介して糸案内部材60内の糸20を外側に取り出すことができるように構成されている。糸案内部材60から取り出された糸は、上糸捕捉部13によって更に吸引されることにより、糸継装置14に導入される。なお制御部25は、糸貯留装置18側の糸が糸継装置14に導入されると、糸貯留ローラ32の逆回転を停止する。
【0060】
以上の動作により、給糸ボビン21側の糸と、糸貯留装置18側の糸を、糸継装置14に導入することができる。そして制御部25はこの状態で糸継装置14を作動させることにより、給糸ボビン21側の糸と、糸貯留装置18側の糸と、を接合することができる。制御部25は、糸継動作が終了すると、糸貯留装置18の正回転を再開することにより、糸貯留装置18への糸の巻き取りを再開する。
【0061】
なお、上記のように給糸ボビン21と糸貯留装置18との間の糸が分断状態となった場合であっても、巻取部8におけるパッケージ30への糸20の巻き取りは、中断することなく継続することができる。即ち、本実施形態の自動ワインダでは、上記のように、給糸部7と巻取部8との間に糸貯留装置18を介在させ、当該糸貯留装置18上に一定量の糸20を貯留しているので、何らかの理由で給糸ボビン21からの糸の供給が中断された場合(例えば糸継動作の最中)であっても、巻取部8は、糸貯留装置18上に貯留された糸を巻き取ることができるので、パッケージ30への糸20の巻取を継続することができるのである。
【0062】
このように、巻取部8における巻取動作が糸継動作等によって中断されないので、高速かつ安定してパッケージ30を生成することができる。また、給糸ボビン21との間に糸貯留装置18を介在させているので、給糸ボビン21から糸を解舒する際のテンション変動の影響を受けずに、巻取部8での巻取りを行うことができる。
【0063】
次に、
図2及び
図3を参照して、糸貯留装置18について説明する。前述のように、糸貯留装置18は、糸貯留ローラ32を備えている。
【0064】
糸貯留ローラ(回転体)32は、略円筒状のローラ部材であり、糸貯留部37と、テンション付与部38と、から構成されている。糸貯留部37は糸貯留ローラ32の外周面に形成されている。
図2に示すように、給糸ボビン21から解舒された糸20は、糸貯留ローラ32の一端側から、当該糸貯留ローラ32の外周表面に導入されて糸貯留部37に巻き付けられた後、糸貯留ローラ32の他端側から引き出されて巻取部8側に送られる。以下の説明において、糸貯留ローラ32の中心軸に沿う方向で考えたときに、当該糸貯留ローラ32に対して給糸ボビン側の糸が導入される側(
図2の斜め左下側)を基端側、当該糸貯留ローラ32から糸が引き出される側(
図2の斜め右上側)を解舒側と呼ぶ。
【0065】
図3に示すように、糸貯留部37は、円筒部37aと、テーパ部37bと、から構成されている。なお、糸貯留部37の外周表面は金属製とされている。
【0066】
円筒部37aの外周表面には、一定量の糸20を巻き付けて貯留することができるように構成されている。より具体的には、給糸ボビン21側の糸は、円筒部37aの基端側の端部から当該円筒部37aの外周表面に導入され、当該外周表面に螺旋状に巻き付けられる。そして、円筒部37aに糸20を巻き付けた状態で、ローラ駆動モータ33によって糸貯留ローラ32を回転駆動することにより、円筒部37aの表面に順次糸を巻き付けていくことができる。円筒部37aの基端側端部に新たに巻き付いた糸20は、既に円筒部37aに巻き付いている糸20を、解舒側端部に向けて押しながら巻き取られる。これにより、円筒部37aの表面に貯留された糸は、解舒側端部に向けて順次移動する。なお、この円筒部37aの径は完全に一定ではなく、解舒側の径が徐々に小さくなるような微小テーパが形成されている。これにより、円筒部37aに巻き付けられた糸が、解舒側端部に向けて移動し易くなっている。
【0067】
前記テーパ部37bは、円筒部37aの基端側端部に連続して形成されている。このテーパ部37bは、円筒部37aとは反対側(基端側)に行くに従って径が拡大するテーパ状に形成されている。このようにテーパ部37bを形成しているので、テーパ部37bに巻き付けられた糸20は、巻き付け時のテンションによりテーパ部37bから円筒部37aに移動していく。これにより、円筒部37aに先に巻かれていた糸20は、新たに巻かれた糸20によって押し上げられる。以上のように、テーパ部37bから円筒部37aへと糸が順次移動していくことにより、糸20は、円筒部37aに螺旋状で規則正しく巻き付いていく。
【0068】
糸貯留部37に貯留された糸は、解舒側に向けて解舒されるが、このとき当該糸貯留部37の解舒側に配置されたテンション付与部38によって、解舒される糸に対して所定の抵抗が与えられる(詳しくは後述)。
【0069】
図2に示すように、テンション付与部38の解舒側端部よりも先の位置には、糸をガイドする糸ガイド29が配置されている。この糸ガイド29は、糸貯留ローラ32の回転軸の延長線上における所定の位置で糸をガイドするように構成されている。これにより、糸貯留ローラ32に螺旋状に巻き付いている糸20を、糸貯留ローラ32から解舒しつつ、当該糸貯留ローラ32の軸線に沿う方向に引き出すことができる。テンション付与部でテンションを付与された糸は、この糸ガイド29を介して、下流側(巻取部8側)に巻き取られる。
【0070】
図2に示すように、糸貯留ローラ32の近傍には、当該糸貯留ローラ32上の糸20が所定の上限量以上になったことを検出する上限センサ36と、所定の下限量未満になったことを検出する下限センサ35と、が配置されている。下限センサ35と上限センサ36の検出結果は、制御部25へと送られる。
【0071】
制御部25は、上限センサ36がOFFとなり、糸貯留ローラ32上の糸が前記上限量未満になったことを検出すると、ローラ駆動モータ33を適宜制御して糸貯留ローラ32の回転速度を増大させる。これにより、糸貯留ローラ32へ糸20が巻き取られる速度が増大する結果、糸貯留ローラ32上の糸20の貯留量を徐々に増やすことができる。一方、制御部25は、上限センサ36がONとなり、糸貯留ローラ32上の糸が前記上限量以上となったことを検出すると、ローラ駆動モータ33を適宜制御して糸貯留ローラ32の回転速度を減少させる。これにより、糸貯留ローラ32へ糸20が巻き取られる速度が減少する結果、糸貯留ローラ32上の糸20の量を徐々に減らすことができる。上記のような制御により、糸貯留ローラ32上の糸20の貯留量を、上限量の近くで略一定に保つことができる。
【0072】
また、制御部25は、下限センサ35がOFFとなり、糸貯留ローラ32上の糸が前記下限量未満になったことを検出すると、巻取部8による糸20の巻き取りを停止する。これにより、糸貯留ローラ32上の糸が全て巻取部8に巻き取られることを防止している。
【0073】
続いて、テンション付与部38の構成について詳しく説明する。
【0074】
テンション付与部38は、糸貯留部37と一体的に回転(同期回転)するように構成されており、拡大縮小部50と、ゴムリング(リング部材)51と、から構成されている。
【0075】
図3に示すように、拡大縮小部50の外周表面は、弾性体(本実施形態の場合はNBR製)からなるゴム膜52(弾性膜)から構成されている。より具体的には以下のとおりである。
図3及び
図4に示すように、糸貯留ローラ32は、略円筒状に形成されたゴム膜52を備えている。当該ゴム膜52の軸方向の両端部は、糸貯留ローラ32の外周に接着などの適宜の方法で固定されている。これにより、拡大縮小部50の外周は略円筒状となっている。ただし、拡大縮小部50の外径は一定ではなく、第1凸部50aと、第2凸部50bと、前記第1凸部50a及び第2凸部50bの間の凹部50cと、からなる凹凸を有している。
【0076】
拡大縮小部50は、上記凹部50cを維持する凹部維持機構58を有している。
図3及び
図4に示すように、凹部維持機構58は、ゴム膜52の半径方向内側において、周方向に沿ってリング状に形成された複数の凹凸維持リング(凹凸維持リング部)55,56,57から構成されている。凹凸維持リング55,56,57は、弾性体(本実施形態の場合はNBR製)から構成されている。
【0077】
複数の凹凸維持リングは糸貯留ローラ32の軸方向に並んで配置されており、基端側から順に、第1凸部維持リング55、凹部維持リング56、第2凸部維持リング57となっている。また、負荷をかけない状態(糸貯留ローラ32の回転停止時)において、凹部維持リング56の径は、2つの凸部維持リング55,57の径よりも小さいように設定されている。この構成により、ゴム膜52の外周面(拡大縮小部50の外周面)には、第1凸部維持リング55の径に対応した第1凸部50a、凹部維持リング56の径に対応した凹部50c、第2凸部維持リング57の径に対応した第2凸部50b、がそれぞれ形成されている。
【0078】
一方、前記ゴムリング51は、弾性体(本実施形態の場合はNBR製)からなるリング部材として構成されており、拡大縮小部50の前記凹部50cの位置において、当該凹部50cの半径方向外側に配置されている。そして、無負荷の状態におけるゴムリング51の径は、拡大縮小部50の凹部50cの外径よりも若干小さくなるように設定されている。これにより、ゴムリング51によって、拡大縮小部50の凹部50cの部分を、半径方向外側から締め付けるように構成されている。
【0079】
図2及び
図5に示すように、糸貯留部37から解舒される糸20は、テンション付与部38において、拡大縮小部50の外周面とゴムリング51との間を通過して、糸貯留ローラ32から引き出されるようになっている。ゴムリング51は拡大縮小部50を締め付けているので、テンション付与部38を通過する糸20は、拡大縮小部50の外周面とゴムリング51とによって挟まれながら通過することになる。この構成により、糸貯留ローラ32から糸20が引き出される際に、当該糸20に対して適度な抵抗を与えることができる結果、スラッフィングを防止することができる。また、糸貯留ローラ32から引き出される際に糸20に対して抵抗を与えることにより、糸貯留ローラ32よりも下流側の糸20を張った状態に保つことができる。即ち、糸貯留装置18より下流側の糸20に適度なテンションを付与することができるので、巻取部8において適切なテンションで糸を巻き取ることができる。
【0080】
また、糸貯留部37に貯留されている糸20は、円筒部37aの外周面に螺旋状に巻き付いているので、当該円筒部37aから解舒される際には拡大縮小部50の周囲を振り回されながら解舒される。本実施形態の構成によれば、振り回される糸20を拡大縮小部50の外周面とゴムリング51とで挟み込んでいるので、糸20が過度に振り回されることを防止してバルーンの発生を防止できる。なお、糸20は上記のように振り回されながら解舒されるので、拡大縮小部50の外周面及びゴムリング51の間を糸20が通過する位置は、周方向に移動していく。このように、糸20が通過する位置が周方向に移動するので、拡大縮小部50及びゴムリング51の特定の部分のみが糸20によって擦られて短期間に摩耗してしまうということを防止することができる。
【0081】
また前述のように、ゴムリング51は、拡大縮小部50の凹部50cに取り付けられているので、解舒される糸20に連れられて糸貯留ローラ32の軸方向に移動しようとしても、凸部50a,50bによってその移動が阻止される。この構成により、ゴムリング51が拡大縮小部50から外れてしまうことを防ぐことができる。
【0082】
また本実施形態の糸貯留装置18では、拡大縮小部50の解舒側端部に、糸貯留ローラ32と一体回転する円板部材39を設けている。この円板部材39の径は、糸貯留ローラ32の回転停止時における拡大縮小部50の外径よりも大きく設定されている。これにより、糸20は円板部材39によってガイドされながら糸貯留ローラ32から引き出されるので、拡大縮小部50のゴム膜52の表面が糸20によって強く擦られてしまうことを防止できる。これにより、ゴム膜52の摩耗を低減し耐久性を向上させることができる。より詳細に説明すると、以下のとおりである。糸貯留ローラ32に糸が巻き付けられている間は、糸貯留ローラ32から解舒される糸はゴム膜52の周囲を振り回されながら通過するので、糸20によってゴム膜52の一箇所のみが強く摺られるということはない。ところが、糸貯留ローラ32に貯留された糸が全て巻き出されると、巻き付けられていない糸は、ゴム膜52とゴムリング51との間を直線状に通過する。この時に糸20がゴム膜52に接触していると、当該接触箇所が糸20によって強く摺られ、ゴム膜52を傷つけてしまうおそれがある。そこで、上記のように円板部材39を設け、糸20をゴム膜から浮いた状態で通過させるようにしたので、糸20がゴム膜52を巻き込むように接触することを防ぐことができる。これにより、ゴム膜52が糸によって傷付いてしまうことを防止できる。また、糸20がゴム膜52に接触する面積を減らすことができるので、糸20の毛羽立ち及び糸物性の低下を防止することができる。
【0083】
なお
図5に示すように、ゴムリング51は、平面状の部分を有している。即ち、糸貯留ローラ32の中心軸線を通る平面で切断したときのゴムリング51の断面形状は、略D字形(かまぼこ形)となっている。そして、ゴムリング51は、前記平面状の部分で、拡大縮小部50の外周面と接触するようになっている。ここで、ゴムリング51の断面形状を円形とすることも考えられるが、断面形状が円形のゴムリングは、その形状から頻繁に捻れてしまう。この点、本実施形態のようにゴムリング51の断面形状を略D字型とすれば、当該ゴムリング51は簡単に捻れてしまうことがない。また、断面形状がD字形のゴムリング51は、仮に捻れたとしても、平面状の部分で拡大縮小部50と接触しようとするので、捻れが元に戻る。更に、断面形状が円形のゴムリングは、糸と点接触するため、スティックスリップ現象を起こして、テンション変動による糸切れを起こすことがある。これに対して、断面形状が略D字形のゴムリング51は、糸と線接触するので、安定したテンション付与が実現できる。以上のように、断面形状を略D字形としたことでゴムリング51が捻れにくくなり、かつ糸と線接触するので、当該ゴムリング51の下を通過する糸20に付与する抵抗が安定し、糸20の張り切れを防止するとともに、巻取部8において安定したテンションで糸20を巻き取ることができる。
【0084】
次に、拡大縮小部50の拡大縮小機能について説明する。
【0085】
即ち、既に説明したように、糸貯留ローラが回転することによりゴムリングに遠心力がかかると、当該ゴムリングの径が拡大してしまうため、従来の糸貯留装置(
図11の構成)では、ゴムリングと糸貯留ローラとの間を通過する糸に適切な抵抗を付与できなくなる可能性があったのである。
【0086】
しかし本実施形態の糸貯留装置18では、拡大縮小部50の外周表面をゴム膜52によって構成しているので、当該拡大縮小部50に遠心力が働くと、
図6のように、拡大縮小部50の外径も拡大する。即ち、拡大縮小部50の径を、糸貯留ローラ32の回転速度に応じて拡大縮小させることができる。これにより、遠心力によってゴムリング51の径が拡大するのに追従して拡大縮小部50の外径も拡大させることができるので、高速回転時においても、ゴムリング51が拡大縮小部50の表面から離れてしまうことを防止できる。従って、本実施形態の糸貯留装置18によれば、高速回転時においても、拡大縮小部50の表面とゴムリング51との間を通過する糸20に対して、適切な抵抗を付与することができる。
【0087】
また上記のように、高速回転時に拡大縮小部50の表面からゴムリング51が離れてしまうことを防止できるので、
図11の構成に比べて締め付けの弱いゴムリング(比較的径の大きいゴムリング)を採用することができる。このように、比較的締め付けの弱いゴムリングを採用することで、低速回転時(遠心力が小さいとき)に糸20にかかる抵抗が過大になりすぎて当該糸20が張り切れしてしまうという問題を回避することができる。
【0088】
そして、ゴムリング51の径の拡大もしくは縮小に追従して拡大縮小部50の外径も拡大もしくは縮小するので、本実施形態の構成によれば、糸貯留ローラ32の回転速度にかかわらず、ゴムリング51が拡大縮小部50を締め付ける強さを略一定に保つことができる。また、糸貯留ローラ32の速度変化に対する拡大縮小部50の拡大及び縮小の応答性は良好である。これらの特性により、ある種の機械式テンション自動制御系と呼べるような機構を実現することができており、糸貯留装置18より下流側の糸20に対して付与するテンションを、糸貯留ローラ32の回転速度にかかわらず略一定に保つことができるのである。これにより、糸貯留装置18の下流側において、糸20のテンションを所望の範囲に保つように第2テンション付与装置19を制御することが容易になる結果、巻取部8において高品質なパッケージを形成することができる。
【0089】
また本実施形態においては、凹部維持機構58を構成する凹凸維持リング55,56,57は、弾性体(NBR製)となっている。この構成によれば、凹凸維持リング55,56,57も糸貯留ローラ32の回転速度に応じて径を拡大縮小することができるので、凹部維持機構58によって凹凸を維持したまま、拡大縮小部50の径を拡大縮小させることができる。これにより、糸貯留ローラ32の回転速度にかかわらず、ゴムリング51が糸20に引き摺られて拡大縮小部50から外れてしまうことを、拡大縮小部50の凹凸によって阻止することができる。
【0090】
なお、本実施形態においては、凹部50cの部分でゴム膜52が遠心力で外側に膨らんで凸形状とならないように、凹部維持リング56は、ゴム膜52の内側から当該ゴム膜52に対して接着されている。一方、凸部維持リング55,57は、必ずしもこのように接着する必要はない。例えば本実施形態では、第1凸部維持リング55はゴム膜52に接着されているが、第2凸部維持リング57は、ゴム膜52の内側に配置されているだけで、当該ゴム膜52に対して接着はされていない。これにより、第2凸部維持リング57は、回転軸に沿う方向である程度自由に移動できるので、遠心力によってゴム膜52が変形したときに無理のない位置に移動することができる。
【0091】
以上で説明したように、本実施形態の糸貯留装置18は、糸貯留ローラ32の外周面に形成された糸貯留部37に糸20を巻き付けて貯留し、糸貯留部37から糸貯留ローラ32の回転軸に沿う方向に糸20が解舒されるように構成されており、テンション付与部38が設けられている。前記テンション付与部38は、糸貯留部37の解舒側に設けられ、当該糸貯留部37と一体回転しつつ、当該糸貯留部37から解舒される糸20にテンションを付与する。テンション付与部38は、伸縮可能な弾性体からなるゴムリング51と、前記ゴムリング51の半径方向内側に設けられてゴムリング51との間で糸20を挟み込む拡大縮小部50と、からなる。そして、前記拡大縮小部50は、糸貯留ローラ32の回転速度に応じて径を拡大縮小する。
【0092】
このように、ゴムリング51と、拡大縮小部50と、で糸20を挟み込むことにより、糸貯留部37から解舒される糸20に対してテンションを付与することができる。そして、拡大縮小部50が糸貯留ローラ32の回転速度に応じて径を拡大縮小させるように構成しているので、回転速度が速くなったときに遠心力によってゴムリング51が外側に拡がってしまっても、ゴムリング51と拡大縮小部50とを密着させた状態に保つことができる。これにより、低速回転から高速回転まで、糸20に対して適切なテンションを付与することができる。
【0093】
また本実施形態の糸貯留装置18は、以下のように構成されている。即ち、前記拡大縮小部50には、糸貯留ローラ32の回転軸方向にゴムリング51が移動することを規制する凹部50cが形成される。そして、ゴムリング51は、拡大縮小部50の前記凹部50cに取り付けられている。
【0094】
これにより、糸貯留装置18から引き出される糸20に引き摺られてゴムリング51が外れてしまう事を防止することができる。
【0095】
また本実施形態の糸貯留装置18において、拡大縮小部50は、当該拡大縮小部50の径の拡大及び縮小にかかわらず凹部50cを維持する凹部維持機構58を有している。
【0096】
これにより、高速回転時であっても低速回転時であっても、拡大縮小部50からゴムリング51が外れてしまうことを防止することができる。
【0097】
また本実施形態の糸貯留装置18は、以下のように構成されている。即ち、拡大縮小部50の外周表面は、ゴム膜52から構成される。凹部維持機構58は、拡大縮小部50の周方向に沿って形成された凹凸維持リング55,56,57を備える。そして、凹凸維持リング55,56,57は、弾性体から構成されており、ゴム膜52の内側に配置されている。
【0098】
即ち、適切な径の凹凸維持リングをゴム膜の内側に配置することにより、ゴム膜52の外側の面(拡大縮小部50の外周表面)に凹部50cを構成することができる。そして、凹凸維持リング55,56,57を弾性体から構成しているので、凹凸維持リング55,56,57の径を拡大縮小することができる。これにより、凹部50cの形状を維持したまま、拡大縮小部50の径を拡大縮小させることができる。
【0099】
また本実施形態の糸貯留装置18は、以下のように構成されている。即ち、糸貯留ローラ32の解舒側端部には、当該糸貯留ローラ32の停止時における拡大縮小部50の外径よりも大きな径の円板部材39が設けられる。拡大縮小部50は、糸貯留部37と円板部材39との間に設けられている。
【0100】
これにより、糸貯留部37から解舒される糸20は、拡大縮小部50に接触した後、当該拡大縮小部50から離れて円板部材39によってガイドされながら走行する。このように糸20をガイドすることにより、糸20が拡大縮小部50に接触する面積を減らすことができるので、糸の毛羽立ち及び糸物性の低下を防止することができる。また、糸抜け時に拡大縮小部50が糸によって擦られて傷つくことを防止することができる。
【0101】
また本実施形態の糸貯留装置18において、ゴムリング51は、拡大縮小部50との間で糸20を挟み込む部分が平面状に形成されている。
【0102】
これにより、ゴムリング51が拡大縮小部50の上で捻れてしまうことを防止できるので、糸20に対して安定したテンションを付与することができる。
【0103】
そして、本実施形態の自動ワインダは、糸の走行方向に沿って順に、糸20を供給する給糸部7と、分断された糸端同士を繋ぐ糸継装置14と、糸貯留装置18と、糸20にテンションを付与する第2テンション付与装置19と、給糸部7から供給された糸20を巻き取ってパッケージを形成する巻取部8と、を備える。そして、巻取部8は、糸継装置14が糸継作業を行っている間も、糸貯留装置18から解舒した糸20に対して第2テンション付与装置19によってテンションを付与しつつ巻き取りを継続可能である。
【0104】
即ち、上記糸貯留装置18は、低速回転でも高速回転でも、解舒される糸に対して一定のテンションを付与することができるので、当該糸貯留装置18の下流側に配置された第2テンション付与装置19におけるテンション制御が容易になる。また、巻取部8は、糸貯留装置18に貯留された糸20を巻き取るので、給糸部7の解舒テンション変動や、糸継作業の影響を受けずに巻取り作業を継続することができる。
【0105】
また、パッケージに強度の弱い糸が混入してしまうと、強度の弱い糸は自動ワインダによる巻き返し作業の後工程にあたるワーパー工程において糸切れを起こしてしまうことがある。ワーパー工程で糸切れが発生すると、甚大な生産効率低下につながるため好ましくない。よって、このような強度の弱い糸は、自動ワインダの巻き返し作業において除去してしまうことが好ましい。
【0106】
本実施形態の自動ワインダは、低速回転でも高速回転でも、解舒される糸に対して一定のテンションを付与することができるので、一定のテンションに耐えることのできない強度の弱い糸は、ゴムリング51と拡大縮小部50の糸道下流側で切断されることになる。切断された糸は、ゴムリング51と拡大縮小部50との間に挟まれた状態で保持されているので、糸切れ発生から糸貯留ローラ32の停止までの間に、糸端が暴れて貯留不具合(例えばスラッフィングやアフレなど)を引き起こすことがない。よって、糸貯留ローラ32の停止後、ゴムリング51と拡大縮小部50との間に挟まれた糸をパッケージ側の糸と糸継ぎして巻取り作業を継続することができる。更に、強度の弱い糸によってワーパー工程で糸切れが発生することを防止することができる。
【0107】
次に、
図7を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下の説明において、上記第1実施形態と同一又は類似する構成については、図面に同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0108】
図7に示すように、この実施形態の糸貯留装置182が備える糸貯留ローラ32は、ローラ本体部61と、当該ローラ本体部61の解舒側に配置された伸縮移動部62と、を備えている。伸縮移動部62とローラ本体部61は、スプライン嵌合部63によって連結している。これにより、ローラ本体部61と伸縮移動部62は、糸貯留ローラ32の軸線を中心として一体的に回転するとともに、当該軸線方向で相対移動可能に構成されている。
【0109】
ローラ本体部61には、糸貯留部37が形成されている。また、ゴム膜52の軸方向一側の端部はローラ本体部61側に、他側の端部は伸縮移動部62側に、接着などの適宜の方法で固定されている。即ち、本実施形態において、ゴム膜52は、ローラ本体部61と伸縮移動部62との間にかけわたされるように配置されている。
【0110】
本実施形態の糸貯留ローラ32は、伸縮移動部62を、糸貯留ローラ32の軸線方向で駆動することができるように構成されている。以下、具体的に説明する。本実施形態において、ローラ駆動モータ33の回転駆動軸は中空軸として構成され、この回転駆動軸にローラ本体部61が固定されている。一方、前記回転駆動軸の内側には、当該回転駆動軸と軸線を一致させて伸縮駆動ロッド64が配置されている。
【0111】
この伸縮駆動ロッド64の解舒側端部には、ベアリング65を介して伸縮移動部62が取り付けられている。一方、伸縮駆動ロッド64の基端側端部には、送りネジ66が形成されている。そして、本実施形態の糸貯留装置182は、送りネジ機構によって伸縮駆動ロッド64をその軸線方向に移動させる伸縮駆動部67を備えている。なお、この伸縮駆動部67の動作は、制御部25によって制御されている。以上の構成で、伸縮駆動部67を適宜制御することにより、伸縮移動部62を糸貯留ローラ32の軸線方向で移動させることができる。
【0112】
これにより、ローラ本体部61と伸縮移動部62との間にかけ渡されているゴム膜52の張り具合を変更することができるので、拡大縮小部50の外径を変更することができる。そして、拡大縮小部50の外径が大きくなる方向に伸縮移動部62を移動させれば、ゴムリング51が拡大縮小部50を締め付ける力が強くなる結果、糸20に対して付与する抵抗を大きくすることができる。一方、拡大縮小部50の外径が小さくなる方向に伸縮移動部62を移動させれば、ゴムリング51が拡大縮小部50を締め付ける力が弱くなる結果、糸20に対して付与する抵抗を小さくすることができる。
【0113】
このように、糸20に与える抵抗を増減することができるので、糸貯留装置181の下流側の糸に付与するテンションを適宜調整することができる。従って、例えば糸巻取動作中に制御部25によって伸縮駆動部67を適宜制御することにより、糸貯留装置18の下流側の糸20に付与されるテンションを状況に応じて随時変更することができる。
【0114】
以上で説明したように、本実施形態の糸貯留装置181においては、拡大縮小部50の径を拡大又は縮小させる伸縮駆動部67が設けられている。
【0115】
これにより、糸に付与するテンションを、一定のみならず、増加、減少させることができる。
【0116】
次に、
図8を参照して本発明の第3実施形態について説明する。なお、以下の説明において、上記第1実施形態と同一又は類似する構成については、図面に同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0117】
図8に示すように、本実施形態の糸貯留装置182のテンション付与部381は、糸貯留部37の解舒側に配置されており、糸貯留部37と同期回転しつつ、糸貯留部37から解舒される糸20にテンションを付与するように構成されている。より具体的には、テンション付与部381は、糸貯留ローラ32に取り付けられて当該糸貯留ローラ32と一体回転する第1リング状ゴム板(第1リング状弾性体)70と、糸貯留ローラ32の半径方向外側に配置され、当該糸貯留ローラ32と同期回転する同期回転部材71と、を備えている。
【0118】
同期回転部材71は、ベアリング72によって支持されており、糸貯留ローラ32と回転軸を一致させて回転自在となっている。また、糸貯留ローラ32には磁石73が配置され、同期回転部材71には、前記磁石73に対向するようにして磁石74が設けられている。この構成で、糸貯留ローラ32がローラ駆動モータ33によって回転駆動されると、磁石73と磁石74との間の磁力により、同期回転部材71が糸貯留ローラ32と同期回転するように構成されている。
【0119】
同期回転部材71には、第2リング状ゴム板(第2リング状弾性体)75が取り付けられている。より具体的には、糸貯留ローラ32の軸線を通る平面による断面(
図8及び
図9参照)で見たときの第2リング状ゴム板75の一端側は、同期回転部材71に固定されている。なお、当該断面で見たときの第2リング状ゴム板の他端側は、フリーとなっている。このフリーとなっている側の端部を、第2リング状ゴム板75の自由端と呼ぶ。
【0120】
一方、前記第1リング状ゴム板70は、糸貯留ローラ32の外周表面に以下のようにして取り付けられている。即ち、糸貯留ローラ32の軸線を通る平面による断面(
図8及び
図9参照)で見たときの第1リング状ゴム板70の一端側は、糸貯留ローラ32の外周面に固定されている。一方、当該断面で見たときの第1リング状ゴム板70の他端側は、フリーとなっている。このフリーとなっている側の端部を、第1リング状ゴム板の自由端と呼ぶ。
【0121】
また、同期回転部材71には、第1リング状ゴム板70の半径方向外側において、当該第1リング状ゴム板70に対向する位置に、円筒部材76が設けられている。
【0122】
また、糸貯留ローラ32の回転停止時において、第1リング状ゴム板70の自由端が前記円筒部材76の内周面に非接触の状態となるように、当該第1リング状ゴム板70が配置されている。また、糸貯留ローラ32の回転停止時において、第2リング状ゴム板75の自由端が糸貯留ローラ32の外周面に接触するように、当該第2リング状ゴム板75が配置されている。
【0123】
そして、本実施形態の糸貯留装置182において、糸貯留部37に貯留された糸は、第1リング状ゴム板70と円筒部材76の内周面との間、及び、第2リング状ゴム板75と糸貯留ローラ32の外周面との間、を通過して、糸貯留ローラ32から引き出されるように構成されている。
【0124】
この構成で、低速回転時においては、
図9に示すように、糸貯留ローラ32の外周面と第2リング状ゴム板75とが接触しているので、糸貯留部37から解舒される糸は、糸貯留ローラ32の外周面と第2リング状ゴム板75とによって挟まれながら、糸貯留ローラ32から引き出される。即ち、低速回転時において、糸貯留ローラ32から引き出される糸は、糸貯留ローラ32の外周面と第2リング状ゴム板75とによって抵抗を付与される。
【0125】
ところが、糸貯留ローラ32の回転速度が上がってくると、第2リング状ゴム板75の自由端が遠心力によって糸貯留ローラ32の外周面から浮き上がり、糸貯留ローラ32の外周面との間で糸20を挟み込むことができなくなってしまう。そこで、本実施形態の糸貯留装置182では、第2リング状ゴム板75の自由端が糸貯留ローラ32の外周面から浮き上がる回転速度とほぼ同じ回転速度で、第1リング状ゴム板70の自由端が半径方向外側に向かって開き、円筒部材76の内周面に接触するように構成されている。
【0126】
以上のように第2リング状ゴム板75が円筒部材76の内周面に接触した状態になると、糸貯留部37から解舒される糸20は、
図10に示すように、第1リング状ゴム板70と円筒部材76の内周面とによって挟まれながら、糸貯留ローラ32から引き出されることになる。即ち、高速回転時において、糸貯留ローラから引き出される糸20は、第1リング状ゴム板70と円筒部材76の内周面とによって抵抗を付与される。
【0127】
以上のように、本実施形態の糸貯留装置182は、低速回転時には第2リング状ゴム板75によって糸20を挟み込み、回転速度が上がって遠心力が増大すると、第2リング状ゴム板75に代わって第1リング状ゴム板70によって糸20を挟み込むように構成している。このように、回転速度に応じて、糸20に抵抗を付与する部材が切り替わるので、高速回転時でも低速回転時でも、糸に対して適切な抵抗を付与することができる。
【0128】
以上で説明したように、本実施形態の糸貯留装置182は、糸貯留ローラ32の外周面に形成された糸貯留部37に糸を巻き付けて貯留し、糸貯留部47から糸貯留ローラ32の回転軸に沿う方向に糸が解舒される構成であって、テンション付与部381が設けられている。テンション付与部381は、糸貯留部37の解舒側に設けられ、糸貯留部37と同期回転しつつ、当該糸貯留部37から解舒される糸20にテンションを付与する。テンション付与部381は、第1リング状ゴム板70と、同期回転部材71と、第2リング状ゴム板75と、円筒部材76と、からなる。第1リング状ゴム板70は、糸貯留ローラ32の表面に取り付けられる。同期回転部材71は、糸貯留ローラ32の半径方向外側に配置されて糸貯留ローラ32と同期回転可能に構成される。第2リング状ゴム板75は、同期回転部材71に設けられる。円筒部材76は、半径方向外側から第1リング状ゴム板70に対向するように、同期回転部材71に設けられる。糸貯留ローラ32の停止状態において、第1リング状ゴム板70は、円筒部材76に非接触の状態であり、第2リング状ゴム板75は、糸貯留ローラ32の表面に接触した状態である。そして、糸貯留部37に貯留された糸は、第1リング状ゴム板70と円筒部材76との間、及び、第2リング状ゴム板75と糸貯留ローラ32の表面との間、を通過して解舒される。
【0129】
この構成で、糸貯留ローラ32が低速回転の間は、糸貯留ローラ32の表面と第2リング状ゴム板75とによって糸にテンションが付与される。糸貯留ローラ32が高速回転になると、遠心力によって第2リング状ゴム板75が糸貯留ローラ32から離れる方向の力が働くので、第2リング状ゴム板75では糸に対して適切なテンションを付与できなくなる。しかし一方で、高速回転域では、遠心力によって第1リング状ゴム板70が円筒部材76に押し付けられる。これにより、高速回転時には、第1リング状ゴム板70と円筒部材76とによって、糸にテンションが付与される。これにより、低速回転時でも高速回転時でも、糸に対して適切なテンションを付与することができる。
【0130】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0131】
弾性体はNBRとしたが、これに限らず、適当な弾性と耐久性を備えた素材であれば本発明の弾性体として採用することができる。
【0132】
上記実施形態においては、凹部維持機構58を、ゴム膜52の周方向に沿ってリング状に形成された複数の凹凸維持リング55,56,57で構成している。しかし、ゴム膜52は遠心力によって外側に拡がるため、当該遠心力によって第1凸部50a及び第2凸部50bを形成することができる。即ち、凸部維持リング55,57がなくても遠心力で凸部を形成することができるので、凸部維持リング55,57を省略することも可能である。
【0133】
凹凸維持リング部は、ゴム膜52の内側にリング状の部材を配置する構成としたが、これに限らず、ゴム膜52の内側にリング状の肉厚部を形成するなど、ゴム膜52と凹凸維持リングを一体形成する構成であっても良い。また、拡大縮小部50に、凹形状及び凸形状を維持できる高硬度部を設けて、これにより凹部及び凸部を形成、維持させても良い。
【0134】
制御部25は、ワインダユニット2ごとに備える構成に限らず、1つの制御部によって複数のワインダユニットを制御するように構成されていても良い。また、上記の説明では、1つの制御部25によって複数の部材の制御をまとめて行うように構成しているが、これに限らず、例えば、制御対象の部材ごとに個別に制御部を設けても良い。
【0135】
第2テンション付与装置19は省略しても良い。この場合であっても、本実施形態の糸貯留装置18においては、糸貯留ローラ32から解舒される糸のテンションは回転速度によらず安定しているから、巻取部8において安定した巻取りを実現することができる。
【0136】
制御部25は、ハードウェアとソフトウェアから構成されるとしたが、その機能の一部又は全部が専用のハードウェアから構成されていても良い。
【0137】
上記実施形態のワインダユニット2はマガジン式のボビン供給装置26によって給糸ボビン21を供給する構成であるが、この構成に限定されない。例えば、給糸ボビン21をセットしたトレイを適宜の経路に沿って搬送することでワインダユニット2に給糸ボビン21を供給する構成に変更することもできる。
【0138】
上記実施形態において、巻取部8は、綾振ドラム24によって糸20をトラバースさせる構成であるが、例えばアーム式の綾振り機構で糸20をトラバースさせる構成としても良い。
【0139】
上記実施形態の自動ワインダは、糸継装置14に対して糸を吹き飛ばして案内する構成であるが、これに限らず、例えば給糸ボビン21の糸や糸貯留ローラ32上の糸を吸引捕捉し、当該吸引捕捉した糸を適宜の駆動手段によって糸継装置14まで案内する構成としても良い。
【0140】
また、本発明の構成は、自動ワインダに限らず、糸継装置を備えた他の種類の糸巻取装置にも適用することができる。