特許第5804384号(P5804384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5804384連続鋳造用鋳型銅板の温度測定方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5804384
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】連続鋳造用鋳型銅板の温度測定方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/16 20060101AFI20151015BHJP
   B22D 11/04 20060101ALI20151015BHJP
【FI】
   B22D11/16 104B
   B22D11/04 311H
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-188522(P2012-188522)
(22)【出願日】2012年8月29日
(65)【公開番号】特開2014-46312(P2014-46312A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2014年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114410
【弁理士】
【氏名又は名称】大中 実
(72)【発明者】
【氏名】吉廣 望
(72)【発明者】
【氏名】本田 達朗
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−78298(JP,A)
【文献】 特開2009−31180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/16
B22D 11/04
B22D 11/059
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属の連続鋳造用鋳型を構成する鋳型銅板の温度を測定する方法であって、
超音波の反射源として、前記鋳型銅板の溶融金属との近接面に対向する面で開口し、前記鋳型銅板の内部に延びる孔を設ける第1の手順と、
前記反射源に向けて、超音波送受信子から前記鋳型銅板の溶融金属との近接面に対して略平行な方向に超音波を伝搬させる第2の手順と、
前記反射源で反射し前記超音波送受信子によって検出した超音波エコーの伝搬時間と、超音波の伝搬速度の温度依存性とに基づき、前記鋳型銅板の温度を算出する第3の手順と、
前記第3の手順で算出した前記鋳型銅板の温度と、前記反射源の中心の位置と、前記鋳型銅板の冷却条件によって定まる前記鋳型銅板と前記鋳型銅板用の冷却水との熱伝達率、前記鋳型銅板による鋳片の鋳造幅、前記鋳型銅板入側の前記冷却水の温度及び前記鋳型銅板出側の前記冷却水の温度とに基づき、前記鋳型銅板の前記溶融金属との対向方向の温度分布を推定し、前記第3の手順で算出した前記鋳型銅板の温度を前記推定した温度分布を用いて、前記鋳型銅板の前記溶融金属との対向方向の任意の位置の温度に補正する第4の手順と、を含むことを特徴とする連続鋳造用鋳型銅板の温度測定方法。
【請求項2】
溶融金属の連続鋳造用鋳型を構成し、溶融金属との近接面に対向する面で開口し内部に延びる孔が超音波の反射源として設けられた鋳型銅板の温度を測定する装置であって、
前記反射源に向けて、前記鋳型銅板の溶融金属との近接面に対して略平行な方向に超音波を伝搬させる超音波送受信子と、
前記反射源で反射し前記超音波送受信子によって検出した超音波エコーの伝搬時間と、超音波の伝搬速度の温度依存性とに基づき、前記鋳型銅板の温度を算出する演算手段とを備え、
前記演算手段は、前記算出した前記鋳型銅板の温度と、前記反射源の中心の位置と、前記鋳型銅板の冷却条件によって定まる前記鋳型銅板と前記鋳型銅板用の冷却水との熱伝達率、前記鋳型銅板による鋳片の鋳造幅、前記鋳型銅板入側の前記冷却水の温度及び前記鋳型銅板出側の前記冷却水の温度とに基づき、前記鋳型銅板の前記溶融金属との対向方向の温度分布を推定し、前記算出した前記鋳型銅板の温度を前記推定した温度分布を用いて、前記鋳型銅板の前記溶融金属との対向方向の任意の位置の温度に補正することを特徴とする連続鋳造用鋳型銅板の温度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属(溶鋼等)の連続鋳造用鋳型を構成する鋳型銅板の温度を超音波を用いて測定する方法及び装置に関する。特に、本発明は、超音波の反射源として、鋳型銅板の溶融金属との近接面に対向する面で開口し、前記鋳型銅板の内部に延びる孔を設けた場合において、当該孔の深さに関わらず、精度良く鋳型銅板の温度を測定し得る方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、製鋼工程で用いられる連続鋳造機の鋳型銅板には熱電対が埋め込まれ、該熱電対で鋳型銅板の温度を測定することにより、鋳型内の監視や制御が行われている。より具体的に説明すれば、前記熱電対で測定した温度は、鋳型内での溶鋼のブレークアウトの予知や検知の他、鋳片の品質推定に利用されている。また、鋳型に設けられた電磁攪拌装置や電磁ブレーキ装置を制御するための指標としても利用されている。一般的に、前記熱電対は、鋳型銅板の溶鋼に近接する面から5〜20mm離れた位置に測温点が位置するように、鋳型銅板に設けた孔(鋳型銅板の背面(溶鋼との近接面に対向する面)で開口し、鋳型銅板の内部に延びる孔)内に設置される。
【0003】
しかしながら、熱電対の取り付け位置が鋳型用冷却水の経路と隣接し、且つ、鋳型がオシレーションと呼ばれる振動に常時晒されている。このため、冷却水によって熱電対の保護管が腐食したり、熱電対の挿入孔に冷却水が浸入して、大きな測温誤差が生じる場合がある。
【0004】
また、上記の熱電対は、多数設置すればするほど、鋳型銅板の温度(温度分布)を詳細に測定できる点で好都合である。つまり、鋳型銅板の温度を詳細に測定できれば、より確実に溶鋼のブレークアウトの予知や検知ができることや、溶鋼の流動状態の推定やシェル厚みの推定精度が向上する結果、鋳片の表面品質の推定精度が向上するといった効果が期待できる。しかしながら、熱電対を多数設置することで、熱電対の故障頻度が増大するという問題が生じる。特に近年では、鋳型に設けられた電磁攪拌装置や電磁ブレーキ装置により、鋳型内で形成される鋳片の品質を制御するようになってきており、これら設備との物理的干渉が生じるために、故障した熱電対の交換や修理等が極めて難しくなっている。
【0005】
さらに、鋳型銅板での冷却における熱流束を測定するには、鋳型銅板の厚み方向(溶鋼との対向方向)の位置が異なる点での温度を測定する必要があるが、このためには鋳型銅板の厚み方向の位置が異なる点に熱電対を正確に設置する必要がある。しかしながら、鋳型に設けられた電磁攪拌装置や電磁ブレーキ装置による誘導電流等の影響で、熱電対による測定精度が劣化するおそれがある。
【0006】
以上に説明したような問題点を解決することを目的として、例えば、特許文献1に記載のような鋳型銅板の温度測定方法が提案されている。具体的には、特許文献1には、鋳型銅板の温度を熱電対によって測定する際の問題点や、特に電磁攪拌装置を設けた場合の問題点が示され、その解決策として、鋳型銅板の上面で開口し、鋳型銅板の内部に延びる挿入孔を設け、該挿入孔に熱電対を挿入して、鋳型銅板内部の所定位置の温度を測定する方法が記載されている。
【0007】
一般的に、熱電対としては、要求される機械的強度、耐食性、応答性等の観点より、φ3mm〜φ5mm程度の外形を有するシース熱電対が用いられる。この熱電対を鋳型銅板内部に設置するには、特許文献1の図1に示すように、ドリル等を用いて、細くて深い挿入孔を精度良く開ける必要がある。
しかしながら、上記のような小径で深い挿入孔を開ける事は難しい。少なくとも市販の超硬ドリル等の仕様から推し量ると、φ3mm程度の挿入孔を鋳型銅板に開ける場合には、せいぜい50mm〜60mm程度の深さが限界と思われる。特許文献1の図1に示すように、熱電対よりも少し大きめの挿入孔を鋳型銅板の上面から開ける場合でも、あまり大きな挿入孔を開けると鋳型銅板の熱伝導を阻害し望ましくない。このため、例えばφ6mmの挿入孔を開けるとすると、深さ90mm程度が限界と思われる。換言すれば、この挿入孔に挿入される熱電対の測温点は、鋳型銅板の上面から下方に90mm程度離れた位置よりも高い位置に限定される。
一般的に、溶鋼の湯面位置においては湯面の波立ちにより安定した値が得られないため、湯面から数cm〜10cm程度下がった位置及びその下方の位置が測温領域とされる。このため、例えば、鋳型銅板の上面から90mmの位置に測温点を設けると、溶鋼の湯面はその位置より少なくとも数cm高くなるため、わずかな湯面変動が生じたときや非定常時において、溶鋼が鋳型からオーバーフローする危険性が高くなる。また、測温点は、鋳型銅板の上面から下方に90mm程度離れた位置よりも高い位置に限定される。このため、鋳型銅板の上面から90mm離れた位置よりもさらに下方の位置での温度を測定することができず、鋳型内での溶鋼のブレークアウトの検知には不十分な場合がある。
以上に述べたように、特許文献1に記載の方法には、次のような問題がある。
(a)適切な深さの挿入孔を開けるのが困難で実現性に乏しい。
(b)測温点が、鋳型銅板の上面から下方に90mm程度までの範囲に限られる。このため、溶鋼のオーバフローの危険性が生じることや、測温点より下方の位置での溶鋼のブレークアウトを検知できないことが問題である。
【0008】
以上に説明したような問題点を解決することを目的として、本発明者らは、特許文献2に記載の鋳型銅板の温度測定方法を提案した。すなわち、特許文献2に記載の方法は、溶融金属の連続鋳造用鋳型を構成する鋳型銅板の温度を測定する方法であって、前記鋳型銅板の内部に超音波の反射源を設ける第1の手順と、前記反射源に向けて、超音波送受信子から前記鋳型銅板の溶融金属との近接面に対して略平行な方向に超音波を伝搬させる第2の手順と、前記反射源で反射し前記超音波送受信子によって検出した超音波エコーに基づき、前記鋳型銅板の温度を算出する第3の手順とを含むことを特徴としている。より具体的には、特許文献2に記載の方法では、前記第1の手順で設ける反射源として、前記鋳型銅板の溶融金属との近接面に対向する面で開口し、前記鋳型銅板の内部に延びる孔を用いている。
【0009】
超音波送受信子から送信された超音波は鋳型銅板内を伝搬中の散乱等によって拡がる。このため、超音波送受信子から遠方に設けられた反射源は、十分な超音波エコー強度を得るために、超音波送受信子からの距離に応じてその面積(超音波伝搬方向から見た投影面積)を大きくする必要がある。
図1は、超音波送受信子から反射源までの距離と、超音波伝搬方向から見た反射源の投影面積と、超音波エコーの検出可否との関係を実際に調査した結果の一例を示す図である。図1に示す「●」でプロットしたデータは反射源からの超音波エコーの強度がノイズ強度よりも十分に大きかった場合を、「×」でプロットしたデータは反射源からの超音波エコーの強度がノイズ強度と識別できなかった場合を示す。図1に示すように、反射源からの超音波エコーが十分な強度を得るには、超音波送受信子からの距離に応じて反射源の投影面積を大きくする必要があることがわかる。
特に、1つの超音波送受信子から複数の反射源に超音波を送受信する場合には、超音波送受信子からの距離に応じて反射源としての孔の深さ(鋳型銅板の厚み方向の寸法)を深くする必要が生じ、反射源の中心の位置(鋳型銅板の厚み方向の位置)が超音波送受信子からの距離に応じて変わることになる。
【0010】
図2は、鋳型銅板の厚み方向の温度分布と、反射源の中心位置との関係を示す図である。図2に示す「溶融金属面」とは鋳型銅板の溶融金属との近接面を意味し、「冷却面」とは鋳型銅板用の冷却水と接する面を意味する。
仮に、超音波振動子と対向する反射源の面全体から超音波エコーが反射し、この反射した超音波エコー全体を使って鋳型銅板の温度を測定するとすれば、特許文献2に記載の方法では、反射源の中心位置が変わると、測温している鋳型銅板の厚み方向の位置が変わることになる。従って、図2に示すように、仮に鋳型銅板の厚み方向の温度分布が鋳型銅板の高さ方向に一様であるとしても、超音波送受信子からの反射源の位置(鋳型銅板の高さ方向の位置)に応じて測温値が異なることになってしまう。図2に示す例では、反射源R1からの超音波エコーで算出した温度と、これよりも遠方に設けられた反射源R2からの超音波エコーで算出した温度とが異なることになる。より具体的には、反射源R1の中心位置に比べて反射源R2の中心位置の方が溶融金属との近接面に近づくため、反射源R2からの超音波エコーで算出した温度の方が反射源R1からの超音波エコーで算出した温度よりも高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3797088号公報
【特許文献2】特開2009−78298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するためになされたものであり、溶融金属の連続鋳造用鋳型を構成する鋳型銅板の温度を超音波を用いて測定する方法及び装置であって、超音波の反射源として、鋳型銅板の溶融金属との近接面に対向する面で開口し、前記鋳型銅板の内部に延びる孔を設けた場合において、当該孔の深さに関わらず、精度良く鋳型銅板の温度を測定し得る方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、超音波を用いて算出した鋳型銅板の温度と、反射源の中心の位置と、鋳型銅板の冷却条件によって定まる鋳型銅板と鋳型銅板用の冷却水との熱伝達率、鋳型銅板による鋳片の鋳造幅、鋳型銅板入側の冷却水の温度及び鋳型銅板出側の冷却水の温度とに基づき、鋳型銅板の厚み方向(溶融金属との対向方向)の温度分布を推定できることを見出した。そして、前記算出した鋳型銅板の温度を、鋳型銅板の厚み方向の温度分布を用いて補正すれば、前記課題を解決できることに想到し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、溶融金属の連続鋳造用鋳型を構成する鋳型銅板の温度を測定する方法であって、超音波の反射源として、前記鋳型銅板の溶融金属との近接面に対向する面で開口し、前記鋳型銅板の内部に延びる孔を設ける第1の手順と、前記反射源に向けて、超音波送受信子から前記鋳型銅板の溶融金属との近接面に対して略平行な方向に超音波を伝搬させる第2の手順と、前記反射源で反射し前記超音波送受信子によって検出した超音波エコーの伝搬時間と、超音波の伝搬速度の温度依存性とに基づき、前記鋳型銅板の温度を算出する第3の手順と、前記第3の手順で算出した前記鋳型銅板の温度と、前記反射源の中心の位置と、前記鋳型銅板の冷却条件によって定まる前記鋳型銅板と前記鋳型銅板用の冷却水との熱伝達率、前記鋳型銅板による鋳片の鋳造幅、前記鋳型銅板入側の前記冷却水の温度及び前記鋳型銅板出側の前記冷却水の温度とに基づき、前記鋳型銅板の前記溶融金属との対向方向の温度分布を推定し、前記第3の手順で算出した前記鋳型銅板の温度を前記推定した温度分布を用いて、前記鋳型銅板の前記溶融金属との対向方向の任意の位置の温度に補正する第4の手順と、を含むことを特徴とする連続鋳造用鋳型銅板の温度測定方法を提供する。
【0014】
本発明によれば、第1の手順〜第3の手順を実行することにより、鋳型銅板の温度(鋳型銅板への超音波の入射点から反射源までの間の平均温度)を算出可能である。ただし、この算出した鋳型銅板の温度は、反射源としての孔の深さ(鋳型銅板と溶融金属との対向方向の寸法)の影響を受けている。そこで、本発明では、第4の手順において、まず最初に、算出した鋳型銅板の温度と、反射源の中心の位置と、鋳型銅板の冷却条件によって定まる鋳型銅板と鋳型銅板用の冷却水との熱伝達率、鋳型銅板による鋳片の鋳造幅、鋳型銅板入側の冷却水の温度及び鋳型銅板出側の冷却水の温度とに基づき、鋳型銅板の溶融金属との対向方向の温度分布を推定(直線近似)する。次に、算出した鋳型銅板の温度を推定した温度分布を用いて補正する。これにより、反射源としての孔の深さの大小に関わらず、鋳型銅板の厚み方向(溶融金属との対向方向)の任意の位置での温度を算出することが可能である。
【0015】
また、前記課題を解決するため、本発明は、溶融金属の連続鋳造用鋳型を構成し、溶融金属との近接面に対向する面で開口し内部に延びる孔が超音波の反射源として設けられた鋳型銅板の温度を測定する装置であって、前記反射源に向けて、前記鋳型銅板の溶融金属との近接面に対して略平行な方向に超音波を伝搬させる超音波送受信子と、前記反射源で反射し前記超音波送受信子によって検出した超音波エコーの伝搬時間と、超音波の伝搬速度の温度依存性とに基づき、前記鋳型銅板の温度を算出する演算手段とを備え、前記演算手段は、前記算出した前記鋳型銅板の温度と、前記反射源の中心の位置と、前記鋳型銅板の冷却条件によって定まる前記鋳型銅板と前記鋳型銅板用の冷却水との熱伝達率、前記鋳型銅板による鋳片の鋳造幅、前記鋳型銅板入側の前記冷却水の温度及び前記鋳型銅板出側の前記冷却水の温度とに基づき、前記鋳型銅板の前記溶融金属との対向方向の温度分布を推定し、前記算出した前記鋳型銅板の温度を前記推定した温度分布を用いて、前記鋳型銅板の前記溶融金属との対向方向の任意の位置の温度に補正することを特徴とする連続鋳造用鋳型銅板の温度測定装置としても提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る連続鋳造用鋳型銅板の温度測定方法及び装置によれば、超音波の反射源として、鋳型銅板の溶融金属との近接面に対向する面で開口し、前記鋳型銅板の内部に延びる孔を設けた場合において、当該孔の深さに関わらず、精度良く鋳型銅板の温度を測定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態について、溶融金属が溶鋼であり、連続鋳造用鋳型が四角筒状で鋳型銅板が平板状である場合を例に挙げて説明する。
【0018】
図3は、本発明に係る連続鋳造用鋳型銅板の温度測定装置(以下、適宜「温度測定装置」と略称する)の構成例を模式的に示す図である。図3(a)は温度測定装置の概略構成を鋳型銅板の幅方向から見た図を、図3(b)は温度測定装置の概略構成を鋳型銅板の背面側(溶鋼との近接面に対向する面側)から見た図を、図3(c)は温度測定装置の概略構成を鋳型銅板の上方から見た図を示す。なお、図3(a)では反射源R1〜R7及び熱電対TCを透過して図示している。図3(c)では反射源R1〜R7を透過して図示している。図3(b)、(c)では送受信制御装置2及び演算制御装置3の図示を省略している。
図3に示すように、本実施形態に係る温度測定装置100は、溶鋼Mとの近接面C1に対向する面C2で開口し内部に延びる孔が超音波の反射源Rとして設けられた鋳型銅板Cの温度を測定する装置である。対向面C2には、鋳型銅板Cを冷却するための冷却水路WCが所定のピッチで設けられている。本実施形態に係る温度測定装置100は、反射源Rに向けて、鋳型銅板Cの溶鋼Mとの近接面C1に対して略平行な方向に超音波Uを伝搬させる超音波送受信子1と、反射源Rで反射し超音波送受信子1によって検出した超音波エコーの伝搬時間と、超音波の伝搬速度の温度依存性とに基づき、鋳型銅板Cの温度を算出する演算手段とを備えている。
【0019】
また、図3に示すように、本実施形態に係る温度測定装置100は、超音波送受信子1による超音波Uの送受信を制御する送受信制御装置2と、送受信制御装置2を駆動制御すると共に、送受信制御装置2からの出力信号を演算処理する演算制御手段3とを備えている。本実施形態では、演算制御装置3が具備する演算部が前述した演算手段としての機能を奏する。
【0020】
超音波送受信子1及び送受信制御装置2の具体的な構成は、前述した特許文献2に記載の構成と同様である。また、反射源Rの具体的な構成についても、前述した特許文献2に記載の構成と同様である。このため、ここではこれらの具体的な構成についての説明は省略する。
以下、演算制御装置3の演算部(演算手段)における演算内容について、順次説明する。
【0021】
演算制御装置3の演算部には、超音波送受信子1から反射源Rまでの距離(超音波入射点である鋳型銅板Cの上面から反射源Rまでの距離)Lや、予め求めた鋳型銅板Cにおける超音波の伝搬速度の温度依存性(伝搬速度と温度の対応関係)が予め記憶されている。
演算部は、送受信制御装置2から出力されたエコー信号に基づき、反射源Rで反射し超音波送受信子1によって検出した超音波エコーの伝搬時間Tを算出する。
次に、演算部は、算出した伝搬時間Tと、超音波送受信子1から反射源Rまでの距離Lとに基づいて、以下の式(1)により超音波の伝搬速度を求める。
超音波の伝搬速度=(反射源Rまでの距離L)×2/伝搬時間T ・・・(1)
最後に、演算部は、この伝搬速度と、予め記憶された超音波の伝搬速度の温度依存性とに基づき、鋳型銅板Cの温度を算出する。この算出した温度は、超音波入射点(鋳型銅板Cの上面)から反射源Rまでの間の平均温度に相当する。
なお、鋳型銅板Cにおける超音波の伝搬速度の温度依存性の求め方としては、前述した特許文献2に記載の方法と同様の方法を用いることができる。
【0022】
以上のようにして鋳型銅板Cの温度を算出した後、演算制御装置3の演算部は、算出した鋳型銅板Cの温度Tuと、鋳型銅板Cの冷却条件によって定まる鋳型銅板Cと鋳型銅板C用の冷却水との熱伝達率α、鋳型銅板Cによる鋳片(溶鋼M)の鋳造幅W、鋳型銅板C入側の冷却水の温度Ti及び鋳型銅板C出側の冷却水の温度Toとに基づき、鋳型銅板Cの溶鋼Mとの対向方向(鋳型銅板Cの厚み方向)の温度分布Tmpを推定し、前記算出した鋳型銅板Cの温度Tuを推定した温度分布Tmpを用いて補正する。
【0023】
図4は、鋳型銅板Cの溶融金属(溶鋼M)との対向方向(鋳型銅板Cの厚み方向)の温度分布Tmpを推定する方法を説明する説明図である。
鋳型銅板Cは、溶鋼Mから鋳型銅板C用の冷却水に熱を伝える役目を奏する。このため、鋳型銅板Cの厚み方向の温度分布Tmpを推定するに際し、鋳型銅板C内での熱量を推定する必要がある。溶鋼Mから鋳型銅板Cへの単位時間当たりの入熱量は、溶鋼Mの温度と鋳造速度とによって変化する。一方、鋳型銅板Cからの単位時間当たりの抜熱量は、鋳型銅板C用の冷却水の水量、鋳型銅板C入側の冷却水の温度Ti及び鋳型銅板C出側の冷却水の温度Toによって変化する。また、抜熱量は、鋳片の鋳造幅Wによっても変化する。仮に、鋳型で鋳造され得る鋳片の最大鋳造幅Wmaxが2000mmであり、これに対応するため鋳型銅板Cを冷却するための冷却水路WCを鋳型銅板Cの幅方向に2000mmに亘って設けられているとする。この場合、実際の鋳片の鋳造幅Wが2000mmの場合と1000mmの場合とでは、実際に抜熱に寄与する冷却水路WCが変化するため、鋳型銅板Cからの抜熱量も変化することになる。このため、例えば、鋳型銅板C入側の冷却水の温度Tiと鋳型銅板C出側の冷却水の温度Toとの差が5℃であっても、鋳型銅板Cの厚み方向の温度分布Tmpは大きく異なることになる。
従って、鋳型銅板Cの厚み方向の温度分布Tmpを推定するには、鋳型銅板C用の冷却水の水量(換言すれば、鋳型銅板Cと鋳型銅板C用の冷却水との熱伝達率α)、鋳型銅板Cによる鋳片(溶鋼M)の鋳造幅W、鋳型銅板C入側の冷却水の温度Ti及び鋳型銅板C出側の冷却水の温度Toが必要である。
【0024】
以上に述べたような考えに基づき、具体的には、図4に示すように、溶融金属(溶鋼M)との近接面C1からの距離(鋳型銅板Cの厚み方向の距離)Zを横軸とし、鋳型銅板Cの温度Tを縦軸とした場合に、(Zu,Tu)、(Zb,Tw)の2点を通る直線で、鋳型銅板Cの温度分布Tmpを近似する。より具体的には、温度分布Tmpは、以下の式(2)〜(6)で表わされる。
Tmp=aa×Z+bb ・・・(2)
aa=G1(Tw−Tu)/(Zb−Zu)+G2 ・・・(3)
Tw=(Ti−To)×Wmax/W ・・・(4)
Zb=f(α)+G3 ・・・(5)
bb=Tw−aa×Zb ・・・(6)
ここで、Zuは反射源Rの中心の位置(鋳型銅板Cの厚み方向の位置)、Tuは前述のようにして算出した鋳型銅板Cの温度Tuを意味する。また、Zbは温度Twが得られると考えられる鋳型銅板Cの厚み方向の位置を意味し、鋳型銅板Cの冷却条件(冷却水の水量や、冷却水路WCの深さ、ピッチ、溶鋼Mとの近接面C1からの距離など)によって定まる熱伝達率αの関数f(α)で表わされる。さらに、G1、G2、G3は定数(後述する実施例では、G1=1、G2=G3=0)である。
【0025】
Zbを求めるには、例えば、以下のような方法が考えられる。まず、オフラインにて、鋳型銅板Cの冷却条件を種々変更して(すなわち、熱伝達率αを種々の値に変更して)、熱電対TCで鋳型銅板Cの厚み方向に異なる複数の位置の温度を測定する。次に、これらの測温結果を用いて差分法等の伝熱計算を行い、温度Twが得られる鋳型銅板Cの厚み方向の位置Zbを熱伝達率α毎に決定する。最後に、この決定した位置とこの位置が得られたときの熱伝達率αとをパラメータとして回帰計算を行い、両者の関係を算出する。すなわち、Zbを熱伝達率αの関数として表わす。
【0026】
なお、熱伝達率αは、以下の式(7)で表わされる。
α=Nu×λ/L ・・・(7)
ここで、Nuはヌセルト数、λは水の熱伝導率、Lは冷却水路WCの代表長さを意味する。具体的には、Lは以下の式(8)で表わされる。
L=4×(冷却水路WCの横断面積)/(冷却水路WCの濡れ縁長さ) ・・・(8)
【0027】
また、ヌセルト数Nuは、円管内乱流の場合、以下の式(9)(Colburnの式)で表わされる。
Nu=0.023×Re4/5×Pr(冷却するときはn=0.3) ・・・(9)
ここで、Reはレイノルズ数であり、冷却水路WC内の冷却水の流速をU、水の動粘性係数をν、前述のように冷却水路WCの代表長さをLとしたとき、以下の式(10)で表わされる。また、Prはプラントル数を意味する。
Re=U×L/ν ・・・(10)
【0028】
以上のようにして、鋳型銅板Cの厚み方向の温度分布Tmpを推定すれば、算出した鋳型銅板Cの温度Tuが、溶鋼Mとの近接面C1からの距離がZuの位置(反射源Rの中心位置がZu)における温度であったとしても、鋳型銅板Cの厚み方向の任意の位置Zにおける温度に補正することが可能である。すなわち、温度を算出したい位置Zを前述した式(2)に代入することにより、その位置Zにおける温度Tmpを算出可能である。
【0029】
以下、垂直曲げ型の連続鋳造機で連続鋳造試験を行い、本実施形態に係る温度測定装置100を用いて、鋳型銅板Cの温度を測定した結果の一例について説明する。
図3に示すように、鋳型銅板Cの上面に計7つの超音波送受信子1を設置し、各超音波送受信子1から送信される超音波Uの伝搬経路中に反射源R(R1〜R7)を1つずつ設けた。反射源R1、R2は、鋳型銅板Cの幅方向についての互いの離間距離を20mmに近接させると共に、鋳型銅板Cの上面からの距離を200mmとした。また、反射源R3〜R5は、鋳型銅板Cの幅方向についての互いの離間距離を20mmに近接させると共に、鋳型銅板Cの上面からの距離を300mmとした。さらに、反射源R6、R7は、鋳型銅板Cの幅方向についての互いの離間距離を20mmに近接させると共に、鋳型銅板Cの上面からの距離を500mmとした。反射源R5、R7の中心位置(鋳型銅板Cの厚み方向の位置)は溶鋼Mとの近接面C1から13mmとした。また、反射源R1、R4、R6の中心位置(鋳型銅板Cの厚み方向の位置)は溶鋼Mとの近接面C1から18mmとした。さらに、反射源R2、R3の中心位置(鋳型銅板Cの厚み方向の位置)は溶鋼Mとの近接面C1から23mmとした。
また、温度測定装置100による測温結果を比較検証するために、各反射源Rの近傍に熱電対TCを設置した。熱電対TCの測温点(熱電対TCの先端)は、溶鋼Mとの近接面C1から18mmに配置した。
【0030】
各反射源R1〜R7から反射し各超音波送受信子1によって検出した超音波エコーに基づき鋳型銅板Cの温度を算出した結果(条件1〜7)と、条件2、3、5、7で算出した温度を、推定した温度分布Tmpを用いて補正した結果(条件8〜11)を表1に示す。
【表1】
【0031】
表1に示すように、反射源R1の中心位置(鋳型銅板Cの厚み方向の位置)が熱電対TCの測温点と等しい(双方共に、溶鋼Mとの近接面C1から18mm)条件1では、測温値が熱電対TCの指示とほぼ同じになっている。しかしながら、反射源R2の中心位置が熱電対TCの測温点よりも溶鋼Mとの近接面C1から遠い(溶鋼Mとの近接面C1から23mm)条件2では、測温値が熱電対TCの指示よりも低くなっている。
【0032】
これに対し、条件2で算出した温度を、推定した温度分布Tmpを用いて補正した条件8では、測温値が熱電対TCの指示とほぼ同じになっている。
条件8での補正の手順は、具体的には以下のとおりである。
まず、鋳型銅板Cの冷却条件を種々変更して行ったオフライン試験に基づき、前述した式(5)を求めたところ(G3=0とした)、以下の式(5)’が得られた。
Zb=2.62×10−5×α×14.38 ・・・(5)’
そして、条件2での鋳型銅板Cの冷却条件(条件8も同じ冷却条件)から前述した式(7)〜(10)を用いて導出した熱伝達率αを上記式(5)’に代入すると、Zb=28.4mmが得られた。
また、条件2では、反射源R2の中心位置Zu=23mm、測温値Tu=67℃である。
さらに、条件2では(条件8も同じ)、鋳型銅板C入側と出側の冷却水の温度差Ti−To=38℃、最大鋳造幅Wmax=1250mm、実際の鋳造幅W=1200mmであったため、前述した式(4)より、Tw=36℃であった。
上記のTw=36℃、Tu=67℃、Zb=28.4mm、Zu=23mmを前述した式(3)(G1=1、G2=0とした)に代入すると、aa=−5.74が得られた。また、上記のTw=36℃、aa=−5.74、Zb=28.4mmを前述した式(6)に代入すると、bb=199が得られた。
従って、前述した式(2)より、温度分布Tmpは、以下の式(2)’で推定される。
Tmp=−5.74×Z+199 ・・・(2)’
この(2)’式において、Zを熱電対TCの測温点と等しい18mmにすると、Tmp=96℃となる。
以上のように、条件8は、条件2での測温値を、温度分布Tmpを用いて熱電対TCの測温点に等しい位置での温度に補正したものであり、これにより、補正後の測温値が熱電対TCの指示とほぼ同じになることがわかる。同様に、条件9は条件3での測温値を、条件10は条件5での測温値を、条件11は条件7での測温値を、それぞれ推定した温度分布Tmpを用いて熱電対TCの測温点に等しい位置での温度に補正したものであり、補正後の測温値が熱電対TCの指示とほぼ同じになることがわかる。
【0033】
図5は、250トンの溶鋼Mを連続鋳造した際の鋳型銅板Cの測温結果の一例を示す。図5に示す条件1、2、8の条件(反射源Rの位置)は、前述した表1に示すものと同じである。図5に示すように、条件1と条件2では、反射源Rの位置に応じて測温値に大きな差が生じているが、推定した温度分布Tmpを用いて補正する(条件8が補正後の測温値)ことで、測温値の差がほぼ生じない結果となることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、超音波送受信子から反射源までの距離と、超音波伝搬方向から見た反射源の投影面積と、超音波エコーの検出可否との関係を実際に調査した結果の一例を示す図である。
図2図2は、鋳型銅板の厚み方向の温度分布と、反射源の中心位置との関係を示す図である。
図3図3は、本発明に係る連続鋳造用鋳型銅板の温度測定装置の構成例を模式的に示す図である。
図4図4は、鋳型銅板の溶融金属との対向方向の温度分布を推定する方法を説明する説明図である。
図5図5は、250トンの溶鋼Mを連続鋳造した際の鋳型銅板の測温結果の一例を示す。
【符号の説明】
【0035】
1・・・超音波送受信子
2・・・送受信制御装置
3・・・演算制御装置(演算手段)
100・・・連続鋳造用鋳型銅板の温度測定装置
C・・・鋳型銅板
M・・・溶融金属(溶鋼)
R・・・反射源
U・・・超音波
図1
図2
図3
図4
図5