(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5804461
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】排水処理装置と方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20060101AFI20151015BHJP
B01D 53/50 20060101ALI20151015BHJP
B01D 53/64 20060101ALI20151015BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20151015BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20151015BHJP
C02F 1/42 20060101ALI20151015BHJP
B01J 45/00 20060101ALI20151015BHJP
【FI】
C02F1/28 CZAB
B01D53/50 250
B01D53/64 100
B01J20/20 B
B01J20/26 E
C02F1/42 H
C02F1/42 J
B01J45/00
C02F1/28 D
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-80060(P2012-80060)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-208542(P2013-208542A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2014年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(74)【代理人】
【識別番号】100096541
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 孝義
(74)【代理人】
【識別番号】100133318
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 向日子
(72)【発明者】
【氏名】三井 良晃
(72)【発明者】
【氏名】今田 典幸
(72)【発明者】
【氏名】大峰 成人
(72)【発明者】
【氏名】片川 篤
【審査官】
関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−185558(JP,A)
【文献】
特開2009−166011(JP,A)
【文献】
特開2010−269277(JP,A)
【文献】
特開2012−011317(JP,A)
【文献】
特開昭53−140858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28、1/42、1/62
B01D 53/50、53/64、53/77
B01J 20/20、20/22
B01J 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラを含む燃焼装置からの硫黄酸化物を含む排ガスを導入して石灰石を含む吸収液を噴霧するスプレノズルを設けた硫黄酸化物の吸収部と、該吸収部下部に設けた吸収液溜め部と、該吸収液溜め部内に設けた酸化用ガス供給部と、該吸収液溜め部内の吸収液を吸収部のスプレノズルに循環供給する循環ポンプを備えた吸収液循環経路を含む排煙脱硫系の排水処理装置において、
前記吸収液溜め部内を上下方向に二分する位置に水銀吸着剤の粒径よりも小さな孔径を有するフィルタ部を設け、
該フィルタ部の上部の吸収液溜め部内の吸収液の液面より上方に水銀吸着剤供給部を設け、
前記フィルタ部の下部に該吸収液溜め部内の吸収液を抜き出して前記吸収液循環経路に供給する第1吸収液抜出部を設けたことを特徴とする排水処理装置。
【請求項2】
前記吸収液溜め部内のフィルタ部の上部から吸収液を抜き出す第2吸収液抜出部を設け、該第2吸収液抜出部に水銀吸着剤と石膏スラリの分離部を接続したことを特徴とする請求項1記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記吸収液溜め部内のフィルタ部の上部に吸収液を攪拌させる攪拌機を設けたことを特徴とする請求項1記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記フィルタ部の孔径は前記水銀吸着剤の粒子の中心を頂点として前記中心から下方へ向けて90°の円錐が粒子表面で交差して形成される環のなす径より小さいこととすることを特徴とする請求項1記載の排水処理装置。
【請求項5】
ボイラを含む燃焼装置からの排ガスに対して吸収部で石灰石を含む吸収液を噴霧して排ガス中の硫黄酸化物を吸収させ、該吸収部の下部に設けた吸収液溜め部内に吸収液を溜め、該吸収液溜め部内の吸収液に酸化用ガスを供給し、また吸収液溜め部内の吸収液を吸収部に循環供給して噴霧して排ガスと接触させる排煙脱硫系の排水処理方法において、
前記吸収液溜め部の上方から吸収液溜め部内の吸収液に水銀吸着剤を供給し、吸収液溜め部内を上下方向に二分する位置で水銀吸着剤の粒径よりも小さな孔径を有するフィルタにより吸収液溜め部に供給された水銀吸着剤を分離し、水銀吸着剤から分離した吸収液を前記吸収部に供給することを特徴とする排水処理方法。
【請求項6】
水銀吸着剤はキレート樹脂からなり、該キレート樹脂の高分子基体がポリアクリル、ポリメタクリル酸ヒドロキシルエチル、フェノール樹脂、ポリスチレンのいずれかであることを特徴とする請求項5記載の排水処理方法。
【請求項7】
水銀吸着剤はキレート樹脂からなり、該キレート樹脂の配位基がチオール形、ジチオカルバミド酸形、イソチウロニウム形、ジチゾン形、チオ尿素形のいずれかであることを特徴とする請求項5記載の排水処理方法。
【請求項8】
水銀吸着剤の粒子径を300μm以上とすることを特徴とする請求項5記載の排水処理方法。
【請求項9】
水銀吸着剤は活性炭、イオン交換樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項5記載の排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電用ボイラプラント等において、燃焼排ガスに含まれる硫黄酸化物(SO
2)や水銀(Hg)を除去する湿式排煙脱硫装置と方法に関し、特に排煙脱硫装置の吸収液中に含まれる水銀を除去する湿式排煙脱硫系の排水処理装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭を燃焼させる火力発電用ボイラプラントの例を
図8に示す。該火力発電用ボイラプラントは主にボイラ13、脱硝装置14、空気予熱器(A/H)15、集塵装置16、排煙脱硫装置(以下、単に、脱硫装置ということもある)3から構成される。ボイラ13では石炭25が燃焼することにより、ボイラ13から排ガスを排出する。脱硝装置14では、ボイラ13から排出されたガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を分解する。また、該脱硝装置14から排出されたガスの温度を空気予熱器15で200〜160℃に調整し、集塵装置16で煤塵を除去する。除塵されたガスは脱硫装置3に供給した後、SO
2を除去し、煙突29から排出される。
【0003】
従来技術の脱硫装置3の概略構成図を
図6に示す。
図6に示す脱硫装置3にはボイラ13から入口排ガス1が導入され、脱硫装置3内で脱硫処理された後、出口排ガス2として排出される。該脱硫装置3は主に、スプレノズル4、吸収液循環ポンプ5、ミストエリミネータ8、酸化用ガス供給部9、攪拌機10、吸収液溜め部11等から構成される。脱硫装置3に流入する排ガス1は、スプレノズル4から噴霧される吸収液6と接触して排ガス中のSO
2が除去される。吸収液6に吸収されたSO
2は亜硫酸となり、吸収液6中の亜硫酸の濃度が高くなるとSO
2の吸収効率は低下する。このため、吸収液6に酸化用ガス27を供給することで亜硫酸を酸化して石膏として、吸収液6のSO
2除去性能を回復させる。また、脱硫装置3内の吸収液6には亜硫酸を酸化するためのアルカリ剤19が適宜添加される。
【0004】
そして脱硫装置3内に貯留される吸収液6の液面とスプレノズル4との間の空間を脱硫吸収部26と呼び、その下方の吸収液6の貯留部を吸収液溜め部11と呼ぶことがある。
【0005】
また、従来技術の排水処理設備の構成図を
図7に示す。該排水処理設備は主に、第1ハイドロサイクロン(1st H/C)38、第2ハイドロサイクロン(2nd H/C)39、ベルトフィルタ40、循環水タンク41、pH調整・重金属除去・凝集剤添加部42から構成される。
【0006】
脱硫装置3の吸収液6中の石膏濃度は排ガス中のSO
2を吸収することにより増加するため、吸収液中の石膏濃度が10〜30%になるように、また、吸収液6中の塩素濃度が一定濃度以上ならないように、一部の吸収液6を抜き出し、
図7に示す排水処理設備を用いて石膏49、排水50及び再循環部37に供給される流体に分離させ、石膏49を脱硫装置3の系外へ排出する。脱硫装置3の抜き出し部36から吸収液6を抜き出し、第1ハイドロサイクロン(1st H/C)38に供給し、1st H/C38で1st H/Cオーバーフロー43側の液と、1st H/Cアンダーフロー44側の液に分ける。1st H/Cアンダーフロー44側に排出される液は粒径の大きな石膏49を多く含むスラリであり、1st H/Cオーバーフロー43側の液は粒径の小さな石膏49を多く含むスラリである。1st H/Cアンダーフロー44側のスラリはベルトフィルタ40に供給され、ベルトフィルタ40上にある脱水された石膏49を回収する。ベルトフィルタ40上の石膏49は図示していない工水で洗浄され、ベルトフィルタ40のろ液と共にベルトフィルタ部排出液52として循環水タンク41に供給される。
【0007】
また、1st H/Cオーバーフロー43側のスラリも循環水タンク41に供給される。循環水タンク41では一部の液を抜き出し、第2ハイドロサイクロン供給部47から第2ハイドロサイクロン(2nd H/C)39に供給する。2nd H/C39では2nd H/Cオーバーフロー45側の液と2nd H/Cアンダーフロー46側の液に分けられ、2nd H/Cアンダーフロー46側の液は循環水タンク41に供給される。2nd H/Cオーバーフロー45側の液はpH調整・重金属除去・凝集剤添加部42で排水50中のpHを適切にし、TMT(トリメルカプトトリアジン)などを供給して重金属を捕捉し、ポリ塩化アルミニウム等の高分子凝集剤で固体粒子を凝集させ、沈殿させた固体粒子を図示していないプレス機などで固形物51として回収する。該固形物51を含まない排水50は図示していない冷却塔などで液温を適切にし、海などへ排出される。しかし、再循環部37に示すように、海などへ排出される液以外の液は、脱硫装置3用の補給水として再循環される。
【0008】
さらに特開2010−5583号公報には排ガス中の硫黄酸化物を吸収塔内で吸収液により脱硫処理して、脱硫処理後の吸収液を空気酸化して石膏を生成させる脱硫処理系において、石膏と水銀成分を含む石膏含有液に水銀吸着剤を添加して吸収液から石膏とともに水銀成分を析出させ、同時に石膏と水銀成分を含む吸収液を固体から分離する。また前記石膏と水銀成分を含む固体に強酸溶液を加えて水銀成分を水銀含有液として抽出し、清浄になった石膏を回収することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−5583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した
図6、
図7に示す従来の排煙脱硫系では、石炭の燃焼排ガス中に含まれる水銀を脱硫装置3で除去した場合、吸収液6中の水銀濃度が増加することが問題であり、この問題に対して配慮がされていないために、吸収液6中の水銀が還元され、排ガス中に金属水銀として再放出する問題があった。また、吸収液6中の一部の水銀は液側から固体側、つまり石膏49側へ移行するが、石膏49に水銀が含まれた場合、石膏49の再利用先の用途によっては石膏49の引き取りを拒否されることがあり、また石膏49から石膏ボードやセメントを製造する際に、その乾燥あるいは焙焼工程で、または石膏49を埋め立て廃棄する際に埋立地で、水銀49が気化して大気中に再放出する問題があった。
【0011】
また上記特開2010−5583号公報に記載の方法は、脱硫処理後の吸収液から石膏と水銀成分を析出させて、吸収液を石膏と水銀成分を含む固体から分離をしているが、吸収液から石膏と水銀成分を析出させて吸収液を石膏と水銀成分を含む固体から分離する装置を吸収塔とは別に設けているので設備コストがかさむことが問題であった。
【0012】
本発明の課題は、燃焼排ガスを脱硫処理する際に排ガス中に含まれる水銀が再放出されるのを防止し、かつ、前記脱硫処理時に生成する石膏中の水銀濃度を低減する処理を吸収塔内で行う安価な湿式排煙脱硫系の排水処理装置と方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記本発明の課題は次の解決手段により解決される。
請求項1記載の発明は、ボイラを含む燃焼装置からの硫黄酸化物を含む排ガスを導入して石灰石を含む吸収液を噴霧するスプレノズルを設けた硫黄酸化物の吸収部と、該吸収部下部に設けた吸収液溜め部と、該吸収液溜め部内に設けた酸化用ガス供給部と、該吸収液溜め部内の吸収液を吸収部のスプレノズルに循環供給する循環ポンプを備えた吸収液循環経路を含む排煙脱硫系の排水処理装置において、前記吸収液溜め部内を上下方向に二分する位置に水銀吸着剤の粒径よりも小さな孔径を有するフィルタ部を設け、該フィルタ部の上部の吸収液溜め部内の吸収液の液面より上方に水銀吸着剤供給部を設け、前記フィルタ部の下部に該吸収液溜め部内の吸収液を抜き出して前記吸収液循環経路に供給する第1吸収液抜出部を設けたことを特徴とする排水処理装置である。
【0014】
請求項2記載の発明は、前記吸収液溜め部内のフィルタ部の上部から吸収液を抜き出す第2吸収液抜出部を設け、該第2吸収液抜出部に水銀吸着剤と石膏スラリの分離部を接続したことを特徴とする請求項1記載の排水処理装置である。
【0016】
請求項
3記載の発明は、前記吸収液溜め部内のフィルタ部の上部に吸収液を攪拌させる攪拌機を設けたことを特徴とする請求項1記載の排水処理装置である。
【0017】
請求項
4記載の発明は、前記フィルタ部の孔径は前記水銀吸着剤の粒子の中心を頂点として前記中心から下方へ向けて90°の円錐が粒子表面で交差して形成される環のなす径(
図3参照)より小さいこととすることを特徴とする請求項1記載の排水処理装置である。
【0018】
請求項
5記載の発明は、ボイラを含む燃焼装置からの排ガスに対して吸収部で石灰石を含む吸収液を噴霧して排ガス中の硫黄酸化物を吸収させ、該吸収部の下部に設けた吸収液溜め部内に吸収液を溜め、該吸収液溜め部内の吸収液に酸化用ガスを供給し、また吸収液溜め部内の吸収液を吸収部に循環供給して噴霧して排ガスと接触させる排煙脱硫系の排水処理方法において、前記吸収液溜め部の上方から吸収液溜め部内の吸収液に水銀吸着剤を供給し、吸収液溜め部内を上下方向に二分する位置で水銀吸着剤の粒径よりも小さな孔径を有するフィルタにより吸収液溜め部に供給された水銀吸着剤を分離し、水銀吸着剤から分離した吸収液を前記吸収部に供給することを特徴とする排水処理方法である。
【0019】
請求項
6記載の発明は、水銀吸着剤はキレート樹脂からなり、該キレート樹脂の高分子基体がポリアクリル、ポリメタクリル酸ヒドロキシルエチル、フェノール樹脂、ポリスチレンのいずれかであることを特徴とする請求項
5記載の排水処理方法である。
【0020】
請求項
7記載の発明は、水銀吸着剤はキレート樹脂からなり、該キレート樹脂の配位基がチオール形、ジチオカルバミド酸形、イソチウロニウム形、ジチゾン形、チオ尿素形のいずれかであることを特徴とする請求項
5記載の排水処理方法である。
【0021】
請求項
8記載の発明は、水銀吸着剤の粒子径を300μm以上とすることを特徴とする請求項
5記載の排水処理方法である。
【0022】
請求項
9記載の発明は、水銀吸着剤は活性炭、イオン交換樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項
5記載の排水処理方法である。
【0023】
(作用)
本発明の吸収部の下部に設けた吸収液溜め部に水銀吸着剤の粒径よりも小さな孔径を有するフィルタ部を設け、水銀吸着剤を該フィルタ部の上部から供給し、該フィルタ部の下部から吸収液を抜き出して排水処理設備で排水の処理をすることによって、水銀吸着剤は該フィルタ部を通過できないため、水銀吸着剤が石膏側に混入することがなく、回収した石膏中の水銀濃度が増加することがない。
【0024】
また、フィルタ部の上部から吸収液を抜き出し、水銀吸着剤と石膏スラリを分離することで、水銀を吸着した水銀吸着剤を分離できるので、石膏側に水銀が移行することがない。
【発明の効果】
【0025】
請求項1、
5記載の発明によれば、排ガス中の硫黄酸化物を吸収液で吸収させる際に、排ガス中に含まれる水銀成分が水銀吸着剤に吸着され、吸収液溜め部に貯まる。吸収液溜め部内を上下方向に二分する位置に水銀吸着剤の粒径よりも小さな孔径を有するフィルタ部を設けたために、脱硫処理後の吸収液中に含まれる水銀吸着剤がフィルタ部で除去でき、石膏と水銀吸着剤を分離して回収することができるので、石膏中の水銀濃度を低減する効果がある。また、脱硫装置の吸収液溜め部に直接、水銀吸着剤を供給し、該水銀吸着剤供給部の下方に水銀吸着剤分離用フィルタ部を設けることにより、水銀吸着剤が吸収液循環ポンプに供給されることはないため、水銀吸着剤が微粒化することがなく、水銀吸着剤が石膏側に混入するのを防止できる。
また、吸収液中の水銀成分を吸着した水銀吸着剤を吸収液溜め部内のフィルタ部で除去した後の吸収液を吸収液循環経路に供給することができるので、循環供給された吸収液により排ガス中の硫黄酸化物を吸収除去できる。
【0026】
請求項2記載の発明によれば、吸収液溜め部内のフィルタ部の上部から吸収液を抜き出す第2吸収液抜出部を設け、該第2吸収液抜出部に水銀吸着剤と石膏スラリの分離部を接続したので、水銀吸着剤と石膏スラリの分離が連続的に容易に行え、水銀を含まない石膏を得ることができ、また水銀吸着剤は再利用できる。
【0028】
請求項
3記載の発明によれば、吸収液溜め部内の吸収液は、上から下に流れているため、水銀吸着剤分離フィルタに水銀吸着剤が詰まりやすくなるが、フィルタ部の上部に吸収液を攪拌させる攪拌機が吸収液を攪拌するため、フィルタ部の目詰まりを防止できる。
【0029】
請求項
4記載の発明によれば、フィルタ部の孔径が、水銀吸着剤粒子の中心を頂点として前記中心から下方へ向けて90°の円錐が粒子表面で交差して形成される環のなす径(
図3参照)より小さければ、フィルタ部の孔に載った水銀吸着剤は水銀吸着剤に働く外力(本実施例の場合は吸収液流)により容易にフィルタ孔から脱することが可能である。
【0030】
請求項
6記載の発明によれば、水銀吸着剤としてキレート樹脂を用いると、キレート樹脂が水銀を吸着するに十分な反応速度を持ち、また該キレート樹脂が石膏に比べて水銀の吸着速度が速いことから、キレート樹脂が水銀を再放出しなくなり、キレート樹脂の使用量を低減できるメリットがある。また、水銀を含む吸収液と該キレート樹脂が接触する時間は長く、また、キレート樹脂は石膏に比べて水銀の吸着速度が速いので、キレート樹脂の使用量を低減できるメリットがある。
【0031】
請求項
7記載の発明によれば、水銀吸着剤としてキレート樹脂を用いる場合の、該キレート樹脂の配位基がチオール形、ジチオカルバミド酸形、イソチウロニウム形、ジチゾン形、チオ尿素形のいずれかを用いることで吸収液中の重金属の中で選択的に水銀を吸着できるため、効率よく水銀を除去することができる。
【0032】
請求項
8記載の発明によれば、一般的に、キレート樹脂は300μm〜1600μm程度の粒径を持っており、例えば水銀吸着剤の粒径を300μm以上とし、水銀吸着剤分離用フィルタ部の孔径を212μmとすると、石膏の粒径は100μm以下であるため、水銀吸着剤分離用フィルタ部に石膏が詰まることなく通過し、水銀吸着剤はフィルタ部の上部側に留まることで石膏と水銀吸着剤を容易に分離できる。
【0033】
請求項
9記載の発明によれば、水銀吸着剤としてキレート樹脂以外に、水銀を吸着する粉末の活性炭やイオン交換樹脂などの固体粒子であれば、本発明に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明になる脱硫装置の吸収液溜め部に供給する水銀吸着剤の粒径よりも小さな孔径を有するフィルタを設置した構成の排水処理装置を示す構成図である。
【
図2】
図1のフィルタとして用いる水銀吸着剤の粒径よりも小さな孔径を有するフィルタの平面図である。
【
図3】水銀吸着剤とフィルタ径との大きさを説明する図である。
【
図4】キレート樹脂の水銀再放出防止効果を示した図である。
【
図5】吸収液中の水銀の存在割合を示した図である。
【
図6】従来技術の脱硫装置の排水処理装置の構成図である。
【
図8】従来技術の石炭燃焼排ガスを処理するシステムの構成図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の一実施例を図面と共に説明する。本発明の排煙脱硫装置(排水処理装置)の構成の一例を
図1に示す。また、
図1に示す脱硫装置の構成で従来技術と共通する構成、作用については説明を省略する。
【0036】
水銀除去装置は主にスプレノズル4、吸収液循環ポンプ5、ミストエリミネータ8、酸化用ガス供給部9、攪拌機10、吸収液溜め部11、水銀吸着剤供給部60、水銀吸着剤分離用フィルタ68などから構成される。
【0037】
本実施例では、水銀吸着剤としてキレート樹脂を用いた。キレート樹脂は高分子基体がポリアクリル、ポリメタクリル酸ヒドロキシルエチル、フェノール樹脂、ポリスチレンのいずれかである。また、キレート樹脂の配位基はチオール形、ジチオカルバミド酸形、イソチウロニウム形、ジチゾン形、チオ尿素形のいずれかである。
【0038】
一般的に、キレート樹脂は300μm〜1600μm程度の粒径を持っており、ゴミ処理装置の排水中の水銀を除去する方法として用いられる。この場合、キレート樹脂の入った充填塔内に、ろ過膜で縣濁物を除去した水銀を含む吸収液を供給することで、吸収液中の水銀を除去できる。
【0039】
しかし、本発明では、該キレート樹脂と石膏スラリやその他の縣濁物を含む吸収液6で脱硫しても、高い水銀除去性能と水銀再放出の防止、さらには、石膏中の水銀濃度を低下できることを見出した。キレート樹脂は種類にもよるが、1リットルのキレート樹脂当たり、約140g以上の水銀を吸着できる。
脱硫装置3で吸収する水銀量に合わせて、キレート樹脂の濃度を調整すれば、吸収液6中の水銀をキレート樹脂側に吸着させることができる。水銀吸着剤はキレート樹脂以外でも、水銀を吸着する粉末の活性炭やイオン交換樹脂などの固体粒子であれば、本排水処理装置に適用できる。
【0040】
図2にフィルタ部68の平面構造を示す。該フィルタ部68は、水銀吸着剤分離用フィルタ68aと該フィルタ68aのサポート68bから構成される。水銀吸着剤分離用フィルタ68aの孔径は供給した水銀吸着剤の粒径よりも小さくする。水銀吸着剤の粒径を300μm以上とし、水銀吸着剤分離用フィルタ68aの孔径を212μmとすると、石膏の粒径は100μm以下であるため、水銀吸着剤分離用フィルタ部68を石膏が詰まることなく通過し、水銀吸着剤は水銀吸着剤分離用フィルタ部68の上部側に留まる。水銀吸着剤分離用フィルタ68aの孔径を212μmとする理由は、水銀吸着剤粒子の粒子径を300μmとした場合、水銀吸着剤粒子の中心を頂点として前記中心から下方へ向けて90°の円錐が粒子表面で交差して形成される環のなす径(
図3参照)より小さければ、フィルタ孔に載った水銀吸着剤は水銀吸着剤に働く外力(本実施例の場合は吸収液流)により容易にフィルタ孔から脱することが可能であるからである。
【0041】
このため、
水銀吸着剤分離用フィルタ68aを通過した吸収液は水銀吸着剤を含まず、吸収液抜出部70から吸収液循環ポンプ5には水銀吸着剤を含まない石膏スラリのみが供給される。また、水銀吸着剤の最小粒径を300μmよりも大きくすると、水銀吸着剤分離用フィルタ68aの孔径も、水銀吸着剤の粒径に合わせて大きくすることができ、他の不純物、例えば、サビなどによる水銀吸着剤分離用フィルタ68aの目詰まりを防止できる。
【0042】
また、吸収液溜め部11内の吸収液6は、上から下に流れているため、水銀吸着剤分離フィルタ68aに水銀吸着剤が詰まりやすくなる。攪拌機12を水銀吸着剤分離用フィルタ68aの上部に設けることにより、水銀吸着剤分離用フィルタ68aの上部の吸収液6が攪拌されるため、水銀吸着剤分離用フィルタ68aの目詰まりを防止できる。
【0043】
排水処理設備67は
図7に示すような設備であるが、水銀吸着剤分離用フィルタ部68の下部に設けた抜き出し部36から吸収液6を抜き出すことで、吸収液6は水銀吸着剤を含まない石膏スラリとなる。排水処理設備67で石膏49(
図7参照)を回収する際に、石膏49側に水銀を含んだ水銀吸着剤が移行しないため、石膏49中の水銀濃度を低減できる。また、水銀吸着剤及び石膏抜き出し部64から吸収液6を抜き出し、水銀吸着剤と石膏スラリの分離部66で水銀吸着剤と石膏スラリを分離する。分離部66で分離された水銀吸着剤は水銀吸着剤抜き出し部69から抜き出される。
【0044】
例えば、水銀吸着剤分離用フィルタ68aと同じ孔径を有するフィルタを用いて、石膏49と水銀吸着剤の粒径の違いにより、水銀吸着剤と石膏スラリを分離できる。石膏スラリ側は石膏スラリ戻し部65から吸収液溜め部11に戻す。水銀吸着剤と石膏スラリの分離部66で回収された水銀吸着剤は、水銀を含んでおり、廃棄処分するか、再生処理をして利用される。
【0045】
また、
図6に示す従来の脱硫装置3の吸収液溜め部11に水銀吸着剤を供給した場合は、吸収液循環ポンプ5やスプレノズル4を通過する際に水銀吸着剤が粉砕され、水銀吸着剤の粒径が小さくなり、石膏の粒径と同等になってしまうため、粒径の違いを利用して水銀吸着剤と石膏49をフィルタ部68で分離することが困難になる場合もある。
【0046】
一方、本発明では、水銀吸着剤分離用フィルタ部68を設けることにより、水銀吸着剤が吸収液循環ポンプ5に供給されることはないため、水銀吸着剤が微粒化することがなく、水銀吸着剤が石膏49側に混入するのを防止できる。また、水銀吸着剤分離用フィルタ部68の上部の攪拌機12は水銀吸着剤分離用フィルタ部68の下部の攪拌機10よりも攪拌速度を遅くすることにより、水銀吸着剤の粉砕による微粒化を防止できる。
【0047】
図4にキレート樹脂を含む吸収液6で脱硫した場合と、該キレート樹脂を含まない吸収液6で脱硫した場合における、水銀再放出量を比較した結果を示す。なお、
図4、
図5に示す結果は、フェノール樹脂とチオ尿素形の配位基の組み合わせのキレート樹脂を用いたものである。
【0048】
該キレート樹脂を含まない場合の水銀再放出量が3.3μg/m
3Nであったのに対し、該キレート樹脂を供給した5分後にはほとんど水銀を再放出しなくなった。脱硫装置3の吸収液溜め部11の吸収液6がスプレされるまでの滞留時間を5分と最小限にしても、キレート樹脂が水銀を吸着するに十分な反応速度を持っていることが分かる。また、通常利用される別置きのキレート樹脂を含む充填塔では、通過する液がワンスルーであり、高い固液接触面積を得るために多量のキレート樹脂を充填する必要があり、充填塔のサイズが大きくなるが、本発明では、水銀を含む吸収液6と該キレート樹脂が接触する時間は長く、キレート樹脂の使用量を低減できるメリットがある。
【0049】
図5に吸収液6中の石膏と該キレート樹脂における水銀の存在割合を示す。キレート樹脂が無く、吸収液6中の液側に存在する水銀の存在割合を100%とした場合、ほとんどの水銀が該キレート樹脂側に移行していることが分かる。これは、該キレート樹脂は石膏に比べて吸着速度が速いことが原因である。
【符号の説明】
【0050】
1 入口排ガス 2 出口排ガス
3 排煙脱硫装置 4 スプレノズル
5 吸収液循環ポンプ 6 吸収液
8 ミストエリミネータ 9 酸化用ガス供給部
10,12 攪拌機 11 吸収液溜め部
13 ボイラ 14 脱硝装置
15 空気予熱器(A/H) 16 集塵装置
19 アルカリ剤 25 石炭
26 脱硫吸収部 27 酸化用ガス
29 煙突 36 抜出部
37 再循環部 38 1st H/C
39 2nd H/C 40 ベルトフィルタ
41 循環水タンク
42 pH調整・重金属除去・凝集剤添加部
43 1st H/Cオーバーフロー
44 1st H/Cアンダーフロー
45 2nd H/Cオーバーフロー
46 2nd H/Cアンダーフロー
47 第2ハイドロサイクロン供給部
49 石膏 50 排水
51 固形物 52 ベルトフィルタ部排出液
60 水銀吸着剤供給部
64 水銀吸着剤及び石膏抜き出し部
65 石膏スラリ戻し部
66 水銀吸着剤と石膏スラリの分離部
67 排水処理設備 68 水銀吸着剤分離用フィルタ
69 水銀吸着剤抜き出し部