特許第5804513号(P5804513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成メディカル株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人国立がん研究センターの特許一覧

特許5804513癌特異的膜抗原に対する抗体を含有する癌治療剤
<>
  • 特許5804513-癌特異的膜抗原に対する抗体を含有する癌治療剤 図000005
  • 特許5804513-癌特異的膜抗原に対する抗体を含有する癌治療剤 図000006
  • 特許5804513-癌特異的膜抗原に対する抗体を含有する癌治療剤 図000007
  • 特許5804513-癌特異的膜抗原に対する抗体を含有する癌治療剤 図000008
  • 特許5804513-癌特異的膜抗原に対する抗体を含有する癌治療剤 図000009
  • 特許5804513-癌特異的膜抗原に対する抗体を含有する癌治療剤 図000010
  • 特許5804513-癌特異的膜抗原に対する抗体を含有する癌治療剤 図000011
  • 特許5804513-癌特異的膜抗原に対する抗体を含有する癌治療剤 図000012
  • 特許5804513-癌特異的膜抗原に対する抗体を含有する癌治療剤 図000013
  • 特許5804513-癌特異的膜抗原に対する抗体を含有する癌治療剤 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5804513
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】癌特異的膜抗原に対する抗体を含有する癌治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20151015BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20151015BHJP
   A61M 1/36 20060101ALI20151015BHJP
【FI】
   A61K39/395 EZMD
   A61K39/395 TZMD
   A61P35/00
   A61M1/36 540
【請求項の数】26
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2011-522821(P2011-522821)
(86)(22)【出願日】2010年7月14日
(86)【国際出願番号】JP2010061860
(87)【国際公開番号】WO2011007787
(87)【国際公開日】20110120
【審査請求日】2013年7月11日
(31)【優先権主張番号】61/247,002
(32)【優先日】2009年9月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】特願2009-165458(P2009-165458)
(32)【優先日】2009年7月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-200410(P2009-200410)
(32)【優先日】2009年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】安武 幹智
(72)【発明者】
【氏名】二宮 郁純
(72)【発明者】
【氏名】本多 淳一
(72)【発明者】
【氏名】落合 淳志
(72)【発明者】
【氏名】山内 稚佐子
【審査官】 長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】 R. J. Lebbink et al.,Molecular Immunology,2007年,vol.44,p.2153-2164
【文献】 M. Colonna,The Journal of Experimental Medicine,2006年,vol.203, No.2,p.261-264
【文献】 M. Barok et al.,Mol. Cancer Ther.,2007年,vol.6, No.7,p.2065-2072
【文献】 M. Ito et al. ,The Journal of Experimental Medicine,2006年,vol.203, No.2,p.289-295
【文献】 D. Voehringer et al.,Blood,2002年,vol.100, No.10,p.3698-3702
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61M 1/36
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤であって、該癌治療剤は、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体に対して用いられ、前記癌治療剤の投与開始時期が、前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を前記生体外で選択的に減じている間または減じた後であり、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が、HER2であることを特徴とする、前記の癌治療剤。
【請求項2】
前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を前記生体外で選択的に減じる処理が、前記生体の末梢血を体外循環して、KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器によって、前記末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する血液浄化療法の施行である、請求項1に記載の癌治療剤。
【請求項3】
前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することによって、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌細胞に対する、前記癌特異的膜抗原に対する抗体の抗体依存性細胞障害活性が増強される、請求項1又は2に記載の癌治療剤。
【請求項4】
上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する抗体が、トラスツズマブである、請求項1から3の何れか一項に記載の癌治療剤。
【請求項5】
KLRG1陽性免疫細胞がKLRG1陽性NK細胞である、請求項1から4の何れか一項に記載の癌治療剤。
【請求項6】
KLRG1に対するリガンドが、E−カドヘリン、N−カドヘリン、R−カドヘリンからなる群から選択される、請求項1から5の何れか一項に記載の癌治療剤。
【請求項7】
上皮性癌が乳癌である、請求項1から6の何れか一項に記載の癌治療剤。
【請求項8】
上皮性癌が胃癌である、請求項1から6の何れか一項に記載の癌治療剤。
【請求項9】
前記生体の末梢血を体外循環して、該末梢血を、KLRG1に対して親和性を有する物質を固定化した水不溶性担体に接触させて、前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する、請求項1から8の何れか一項に記載の癌治療剤。
【請求項10】
KLRG1に対して親和性を有する物質が、KLRG1に対する抗体である、請求項に記載の癌治療剤。
【請求項11】
KLRG1に対して親和性を有する物質が、E−カドヘリンである、請求項に記載の癌治療剤。
【請求項12】
前記水不溶性担体が磁気粒子である、請求項9から11の何れか一項に記載の癌治療剤。
【請求項13】
前記水不溶性担体が不織布である、請求項9から11の何れか一項に記載の癌治療剤。
【請求項14】
(i)KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器であって、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体の末梢血を体外循環して、該末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する細胞除去器と、(ii)前記癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤であって、前記末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する血液浄化療法の施行中もしくは施行後に投与する癌治療剤とを含み、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が、HER2である、細胞除去器と癌治療剤との併用治療システム。
【請求項15】
前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することによって、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌細胞に対する、前記癌特異的膜抗原に対する抗体の抗体依存性細胞障害活性が増強される、請求項14に記載の併用治療システム。
【請求項16】
上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する抗体が、トラスツズマブである、請求項14又は15に記載の併用治療システム。
【請求項17】
KLRG1陽性免疫細胞がKLRG1陽性NK細胞である、請求項14から16の何れか一項に記載の併用治療システム。
【請求項18】
KLRG1に対するリガンドが、E−カドヘリン、N−カドヘリン、R−カドヘリンからなる群から選択される、請求項14から17の何れか一項に記載の併用治療システム。
【請求項19】
上皮性癌が乳癌である、請求項14から18の何れか一項に記載の併用治療システム。
【請求項20】
上皮性癌が胃癌である、請求項14から18の何れか一項に記載の併用治療システム。
【請求項21】
生体の末梢血を体外循環して、該末梢血を、KLRG1に対して親和性を有する物質を固定化した水不溶性担体に接触させて、前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する、請求項14から20の何れか一項に記載の併用治療システム。
【請求項22】
KLRG1に対して親和性を有する物質が、KLRG1に対する抗体である、請求項21に記載の併用治療システム。
【請求項23】
KLRG1に対して親和性を有する物質が、E−カドヘリンである、請求項21に記載の併用治療システム。
【請求項24】
前記水不溶性担体が磁気粒子である、請求項21から23の何れか一項に記載の併用治療システム。
【請求項25】
前記水不溶性担体が不織布である、請求項21から23の何れか一項に記載の併用治療システム。
【請求項26】
上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤であって、該癌治療剤は、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体に対して用いられ、前記癌治療剤の投与開始時期が、前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を、KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器を用いて前記生体外で選択的に減じている間または減じた後であり、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が、HER2であることを特徴とする、前記の癌治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する抗体を含有する癌治療剤に関する。本発明はさらに、上記癌治療剤と併用される細胞除去器、並びに細胞除去器と癌治療剤との併用治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、わが国における乳癌の罹患数および死亡数の増加は著しい。乳癌はこれまでエストロゲンレセプター(ER)とプロゲステロンレセプター(PgR)の発現状況により手術以外の治療法が決められる傾向にあった。ホルモン療法、抗がん剤療法などの薬物療法が有用であり、奏功率、生存率の改善がみられている。しかし、human epidermal growth factor receptor-related 2(HER2)陽性乳癌の約50%はホルモン受容体陰性でありホルモン療法の対象外であった。最近ではHER2陽性乳癌に対するトラスツズマブを中心とする抗体療法などの分子標的療法が行われ、その有用性が示されており、今後の有力な治療法として期待されている。
【0003】
乳癌細胞は種々の増殖因子とその受容体を発現して、増殖に関連するシグナル伝達系を形成している。1984年に同定された癌遺伝子HER2はその1つであり、ヒト上皮成長因子受容体human epidermal growth factor receptor(EGFR,HER)ファミリーの一員である。受容体は細胞膜貫通型の糖タンパクで、構造的な類似性からHER1、HER2、HER3、HER4が存在している(非特許文献1)。EGF受容体ファミリーは二量体形成を通じてシグナル伝達に寄与しており、リガンドが結合した受容体がもう1つの受容体と二量体を形成することによりシグナル伝達に寄与すると考えられている。
【0004】
HER2受容体を規定するHER2/neuはproto-oncogeneの1つと考えられ、17番染色体(17q21.1)に存在する(非特許文献2)。乳癌をはじめ卵巣癌、肺癌、胃癌など種々の癌においてHER2/neu遺伝子の増幅および過剰発現が認められている。HER2陽性乳癌は、乳癌全体の20%から30%を占める。成人の正常組織ではこの遺伝子の発現は非常に弱い。その自然経過は特異であり、全身療法を施行しない場合は再発が早く、1987年にHER2の増幅が乳癌の予後不良と相関することが報告されて以降、多くの研究においてHER2陽性転移乳癌では経過が不良であることが明らかにされている。
【0005】
1986年に抗HER2モノクローナル抗体がneu形質転換細胞の悪性形質を阻害することが示され、HER2を標的とするトラスツズマブが開発されるに到った。トラスツズマブの原型となったHER2受容体の細胞外ドメインに対するマウスモノクローナル抗体mu4D5は、in vitroにおいてHER2陽性の腫瘍細胞株に対して増殖抑制作用が認められている(非特許文献3)。また、HER2陽性ヒト乳癌細胞株であるSKBR3に対するマウス脾細胞の抗体依存性細胞傷害(antibody-dependent cell cytotoxicity, ADCC)は、マウスモノクローナル抗体で増強されており、in vivoにおいてはADCC活性も抗腫瘍効果に寄与しているとの報告もある(非特許文献4)。しかし臨床応用するにあたり、マウス抗体をそのまま用いてはhuman anti-mouse antibody(HAMA)の出現が問題となる。そこで、HER2受容体の細胞外ドメインに対するマウスモノクローナル抗体の抗原結合部位である可変部のみをヒトIgG1の定常部に移植したヒト化抗体として作製されたものがトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン(登録商標))である。
【0006】
HER2はPI3KやMAPKを含む様々なシグナル伝達経路ネットワークを惹起するが、トラスツズマブはHER2受容体に結合することにより、このシグナル伝達経路を抑制し、細胞周期の停止やアポトーシス、血管新生抑制などを誘導して、直接的に腫瘍細胞増殖抑制作用を示すと考えられる。また、Srcチロシンキナーゼの阻害とそれに伴うPTENの活性化、Aktの脱リン酸化も報告されている。さらに、腫瘍細胞と結合したトラスツズマブのFc部分に、NK細胞をはじめとする免疫細胞に発現するFc受容体が結合し腫瘍細胞殺傷効果を示す(ADCC活性)ことも示されている(非特許文献5から8)。これらの直接的腫瘍細胞増殖抑制作用と、ADCC活性の2つがトラスツズマブの主な作用機序と考えられている。
【0007】
トラスツズマブはHER2を標的としており、その治療効果はHER2タンパクの発現の程度により大きく異なる。測定法や材料などによりその陽性率は大きく異なることが知られているが、HER2蛋白の過剰発現、DNAの増幅を調べるため、免疫組織化学方法(immunohistochemical method:IHC法)とfluoresence in situ hybridization(FISH)が広く行われている。また、トラスツズマブは術後補助療法に利用すると高い効果が得られることがHERA試験をはじめとする複数の大規模臨床試験で明らかになっている。
【0008】
これまでの様々な検討から、トラスツズマブ投与によりHER2を阻害すると、乳癌の自然経過に大きな影響を与えることがわかっている。しかし、トラスツズマブはHER2過剰発現乳癌すべての自然経過を変更するものではないこともわかってきており、初回トラスツズマブ単剤投与に反応する症例は、HER2過剰発現乳癌の約1/3以下であるといわれている。これと同様に顕微鏡的転移癌の場合、かなりの割合の腫瘍がトラスツズマブに耐性であることが示唆される。しかし、トラスツズマブ耐性の機序については明確には解明されていない。現在のところ耐性機序として、(1)トラスツズマブの到達が不十分なため、HER2の細胞外領域の阻害が十分ではないこと、(2)HER2発現の減少、(3)下流にあるHER2機能調節因子が変化していること(p27kip1の低下、PTENの消失または不活性化など)、(4)代替経路によるシグナル伝達が生じること(insulin-like growth factor I receptor:IGF1Rの過剰発現)、(5)免疫能の低下、特にADCC活性の低下、などの可能性が示唆されている。
【0009】
上記(5)に掲げた免疫能と耐性機序に関する検討はあまり活発ではない。近年、トラスツズマブの主たる作用機序の1つであるADCC活性に関わる因子であるNK細胞について、その機能が明らかにされてきている。NK細胞には抑制性のレセプターが発現しており、その一つとして同定されたのがレクチン様レセプターkiller cell lectin-like receptor G1(KLRG1)である。これまでNK細胞に関して明らかにされた抑制性レセプターのリガンドのほとんどは、MHCクラスI分子にかかわるものであったが、2006年にM.Itoらにより、KLRG1のリガンドがMHCクラスI分子以外であることが報告された。
【0010】
KLRG1は、ラット好塩基球性白血病細胞株RBL-2H3に発現する機能分子MAFA(mast cell function-associated antigen)として発見された(非特許文献9)。このKLRG1は、RBL-2H3細胞では抗KLRG1抗体でKLRG1を架橋することにより、Fcレセプター刺激による脱顆粒反応が抑制される。ラットKLRG1のcDNAクローニングから、細胞外領域にC型レクチン様の構造を持ち、細胞内領域にITIM(immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif)をもつII型膜貫通タンパク質のホモ二量体であることが、Pechtらにより報告されている(非特許文献10)。ヒトおよびマウスでは、KLRG1がNK cellやT cellの一部に発現するが(非特許文献11から13)、健常人では末梢血NK cellの約50%に発現がみられることがわかっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Pinkas-Kramarski, R., I. Arloy and Y. Yarden (1997) ErbB receptors and EGF-like ligands: cell lineage determination and oncogenesis through combinatorial signaling. J Mammary Gland Biol Neoplasia, 2:97-107.
【非特許文献2】Schechter, A.L., D.F. Stern, L. Vaidyanathan, S.J. Decker, J.A. Drebin, M.I. Greene and R.A. Weinberg (1984) The neu oncogene: an erb-B-related gene encoding a 185,000-Mr tumour antigen. Nature, 312:513-516.
【非特許文献3】Hudziak RM, Lewis GD, Winget M, Fendly BM, Shepard HM, Ullrich A (1989) p185HER2 monoclonal antibody has antiproliferative effects in vitro and sensitizes human breast tumor cells to tumor necrosis factor. Mol Cell Biol, 9(3):1165-72.
【非特許文献4】Piccart-Gebhart MJ, Procter M, Leyland-Jones B, Goldhirsch A, Untch M, Smith I, Gianni L, Baselga J, Bell R, Jackisch C, Cameron D, Dowsett M, Barrios CH, Steger G, Huang CS, Andersson M, Inbar M, Lichinitser M, Lang I, Nitz U, Iwata H, Thomssen C, Lohrisch C, Suter TM, Ruschoff J, Suto T, Greatorex V, Ward C, Straehle C, McFadden E, Dolci MS, Gelber RD; Herceptin Adjuvant (HERA) Trial Study Team (2005) Trastuzumab after adjuvant chemotherapy in HER2-positive breast cancer. N Engl J Med, 353(16):1659-72
【非特許文献5】Clynes RA, Towers TL, Presta LG, Ravetch JV (2000) Inhibitory Fc receptors modulate in vivo cytoxicity against tumor targets. Nat Med, 6(4):443-6.
【非特許文献6】Izumi Y, Xu L, di Tomaso E, Fukumura D, Jain RK (2002) Tumour biology: herceptin acts as an anti-angiogenic cocktail. Nature, 416(6878):279-80
【非特許文献7】Gennari R, Menard S, Fagnoni F, Ponchio L, Scelsi M, Tagliabue E, Castiglioni F, Villani L, Magalotti C, Gibelli N, Oliviero B, Ballardini B, Da Prada G, Zambelli A, Costa A (2004) Pilot study of the mechanism of action of preoperative trastuzumab in patients with primary operable breast tumors overexpressing HER2. Clin Cancer Res., 10(17):5650-5
【非特許文献8】Barok, et al., (2007) Trastuzumab causes antibody-dependent cellular cytotoxicity-mediated growth inhibition of submacroscopic JIMT-1 breast cancer xenografts despite intrinsic drug resistance. Molecular Cancer Therapeutics, 6:2065-2072.
【非特許文献9】Ortega Soto E, Pecht I (1988) A monoclonal antibody that inhibits secretion from rat basophilic leukemia cells and binds to a novel membrane component. J Immunol, 141(12):4324-32.
【非特許文献10】Abramson J, Xu R, Pecht I (2002) An unusual inhibitory receptor--the mast cell function-associated antigen (MAFA). Mol Immunol, 38(16-18):1307-13.
【非特許文献11】Hanke T, Corral L, Vance RE, Raulet DH (1998) 2F1 antigen, the mouse homolog of the rat "mast cell function-associated antigen", is a lectin-like type II transmembrane receptor expressed by natural killer cells. Eur J Immunol., 28(12):4409-17
【非特許文献12】Butcher S, Arney KL, Cook GP (1998) MAFA-L, an ITIM-containing receptor encoded by the human NK cell gene complex and expressed by basophils and NK cells. Eur J Immunol., 28(11):3755-62
【非特許文献13】Blaser C, Kaufmann M, Pircher H (1998) Virus-activated CD8 T cells and lymphokine-activated NK cells express the mast cell function-associated antigen, an inhibitory C-type lectin. J Immunol., 161(12):6451-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
トラスツズマブ治療は、再発治療から再発予防目的の術後補助療法、術前治療へと適応が拡大されつつあり、さらなるHER2陽性癌の根治性向上への発展が期待される。適応が拡大されたことにより、トラスツズマブ投与対象例が大きく増加することが見込まれる。しかしながら、現状では、対象症例中には多数のトラスツズマブ投与無効群が存在している。本発明は、トラスツズマブの無効例を減少することを可能とするような新規な方法で投与することを特徴とする、癌特異的膜抗原に対する抗体を含有する癌治療剤を提供することを解決すべき課題とした。本発明はさらに、上記癌治療剤と併用される細胞除去器、並びに上記細胞除去器と上記癌治療剤との併用治療システムを提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、抗HER2モノクローナル抗体(トラスツズマブ)を投与する際に、生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することによって、従来は抗HER2モノクローナル抗体の投与が無効であった生体においても抗癌効果を発揮できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明によれば以下の発明が提供される。
【0014】
[1] 上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤であって、該癌治療剤は、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体に対して用いられ、前記癌治療剤の投与開始時期が、前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を前記生体外で選択的に減じている間または減じた後であることを特徴とする、前記の癌治療剤。
[2] 前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を前記生体外で選択的に減じる処理が、前記生体の末梢血を体外循環して、KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器によって、前記末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する血液浄化療法の施行である、[1]に記載の癌治療剤。
[3] 前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することによって、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌細胞に対する、前記癌特異的膜抗原に対する抗体の抗体依存性細胞障害活性が増強される、[1]又は[2]に記載の癌治療剤。
[4] 上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が、HER2である、[1]から[3]の何れかに記載の癌治療剤。
[5] 上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する抗体が、トラスツズマブである、[4]に記載の癌治療剤。
[6] 上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が、CEAである、[1]から[3]の何れかに記載の癌治療剤。
[7] KLRG1陽性免疫細胞がKLRG1陽性NK細胞である、[1]から[6]の何れかに記載の癌治療剤。
[8] KLRG1に対するリガンドが、E−カドヘリン、N−カドヘリン、R−カドヘリンからなる群から選択される、[1]から[7]の何れかに記載の癌治療剤。
[9] 上皮性癌が乳癌である、[1]から[8]の何れかに記載の癌治療剤。
[10] 上皮性癌が胃癌である、[1]から[8]の何れかに記載の癌治療剤。
[11] 前記生体の末梢血を体外循環して、該末梢血を、KLRG1に対して親和性を有する物質を固定化した水不溶性担体に接触させて、前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する、[1]から[10]の何れかに記載の癌治療剤。
[12] KLRG1に対して親和性を有する物質が、KLRG1に対する抗体である、[11]に記載の癌治療剤。
[13] KLRG1に対して親和性を有する物質が、E−カドヘリンである、[11]に記載の癌治療剤。
[14] 前記水不溶性担体が磁気粒子である、[11]から[13]の何れかに記載の癌治療剤。
[15] 前記水不溶性担体が不織布である、[11]から[13]の何れかに記載の癌治療剤。
【0015】
[16] KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器であって、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤を、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体に投与する前または投与している間に、該生体の末梢血を体外循環して、該末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去するための細胞除去器。
[17] 生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することによって、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌細胞に対する、前記癌特異的膜抗原に対する抗体の抗体依存性細胞障害活性を増強する、[16]に記載の細胞除去器。
[18] 上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が、HER2である、[16]又は[17]に記載の細胞除去器。
[19] 上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する抗体が、トラスツズマブである、[18]に記載の細胞除去器。
[20] 上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が、CEAである、[16]又は[17]に記載の細胞除去器。
[21] KLRG1陽性免疫細胞がKLRG1陽性NK細胞である、[16]から[20]の何れかに記載の細胞除去器。
[22] KLRG1に対するリガンドが、E−カドヘリン、N−カドヘリン、R−カドヘリンからなる群から選択される、[16]から[21]の何れかに記載の細胞除去器。
[23] 上皮性癌が乳癌である、[16]から[22]の何れかに記載の細胞除去器。
[24] 上皮性癌が胃癌である、[16]から[22]の何れかに記載の細胞除去器。
[25] 生体の末梢血を、KLRG1に対して親和性を有する物質を固定化した水不溶性担体に接触させて、前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する、[16]から[24]の何れかに記載の細胞除去器。
[26] KLRG1に対して親和性を有する物質が、KLRG1に対する抗体である、[25]に記載の細胞除去器。
[27] KLRG1に対して親和性を有する物質が、E−カドヘリンである、[25]に記載の細胞除去器。
[28] 前記水不溶性担体が磁気粒子である、[25]から[27]の何れかに記載の細胞除去器。
[29] 前記水不溶性担体が不織布である、[25]から[27]の何れかに記載の細胞除去器。
【0016】
[30] (i)KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器であって、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体の末梢血を体外循環して、該末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する細胞除去器と、(ii)前記癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤であって、前記末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する血液浄化療法の施行中もしくは施行後に投与する癌治療剤とを含む、細胞除去器と癌治療剤との併用治療システム。
[31] 前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することによって、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌細胞に対する、前記癌特異的膜抗原に対する抗体の抗体依存性細胞障害活性が増強される、[30]に記載の併用治療システム。
[32] 上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が、HER2である、[30]又は[31]に記載の併用治療システム。
[33] 上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する抗体が、トラスツズマブである、[32]に記載の併用治療システム。
[34] 上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が、CEAである、[30]又は[31]に記載の併用治療システム。
[35] KLRG1陽性免疫細胞がKLRG1陽性NK細胞である、[30]から[34]の何れかに記載の併用治療システム。
[36] KLRG1に対するリガンドが、E−カドヘリン、N−カドヘリン、R−カドヘリンからなる群から選択される、[30]から[35]の何れかに記載の併用治療システム。
[37] 上皮性癌が乳癌である、[30]から[36]の何れかに記載の併用治療システム。
[38] 上皮性癌が胃癌である、[30]から[36]の何れかに記載の併用治療システム。
[39] 生体の末梢血を体外循環して、該末梢血を、KLRG1に対して親和性を有する物質を固定化した水不溶性担体に接触させて、前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する、[30]から[38]の何れかに記載の併用治療システム。
[40] KLRG1に対して親和性を有する物質が、KLRG1に対する抗体である、[39]に記載の併用治療システム。
[41] KLRG1に対して親和性を有する物質が、E−カドヘリンである、[39]に記載の併用治療システム。
[42] 前記水不溶性担体が磁気粒子である、[39]から[41]の何れかに記載の併用治療システム。
[43] 前記水不溶性担体が不織布である、[39]から[41]の何れかに記載の併用治療システム。
【0017】
[44] 上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を前記生体外で選択的に減ずる工程(a)と、
該生体に、前記上皮性癌細胞で発現する前記癌特異的膜抗原に対する抗体であって抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤を投与する工程(b)と、
を含む、前記上皮性癌の生体を処置する方法。
[45] 上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤であって、該癌治療剤は、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体に対して用いられ、前記癌治療剤の投与開始時期が、前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を、KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器を用いて前記生体外で選択的に減じている間または減じた後であることを特徴とする、前記の癌治療剤。
【0018】
更に本発明によれば、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌細胞傷害剤であって、該癌細胞傷害剤は、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌細胞に対して用いられ、KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器によってKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去された単核球と共に用いられることを特徴とする、癌細胞傷害剤が提供される。
【0019】
更に本発明によれば、KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器であって、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌細胞傷害剤と、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌細胞と単核球を含む細胞集団とを接触させる前または接触させている間に、前記細胞集団からKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去するための細胞除去器が提供される。
【0020】
更に本発明によれば、(i)KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器であって、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌細胞と単核球を含む細胞集団からKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する細胞除去器と、(ii)前記癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌細胞傷害剤であって、前記細胞除去器によってKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する操作の施行中または施行後の前記細胞集団に投与する癌細胞傷害剤とを含む、細胞除去器と癌細胞傷害剤との併用処理システムが提供される。
【0021】
更に本発明によれば、(i)KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器と、(ii)上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体の末梢血を体外循環して、該末梢血から前記細胞除去器によってKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去するステップと、前記癌特異的膜抗原に対する抗体であって抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤を前記生体に投与するステップとが記載された説明書とを含む、前記癌治療剤の抗体依存性細胞障害活性を増強させる細胞除去器が提供される。
【0022】
更に本発明によれば、(i)KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器と、(ii)上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する抗体であって抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤と、(iii)前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体の末梢血を体外循環して、該末梢血から前記細胞除去器によってKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去するステップと、前記癌治療剤を前記生体に投与するステップとが記載された説明書とを含む、細胞除去器と癌治療剤との併用治療システムが提供される。
【0023】
更に本発明によれば、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する抗体と、KLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去した単核球と、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌細胞とを接触させることを含む、前記上皮性癌細胞に対する前記癌特異的膜抗原に対する抗体の抗体依存性細胞障害活性を増強する方法が提供される。
【0024】
更に本発明によれば、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体の治療方法であって、該生体に、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する抗体を投与すること、及び該生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することを含む、上記の治療方法が提供される。
【0025】
更に本発明によれば、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌細胞に対する前記癌特異的膜抗原に対する抗体の抗体依存性細胞障害活性を増強するための、KLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去した単核球の使用であって、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する抗体と、KLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去した単核球と、上記上皮性癌細胞とを接触させることを特徴とする、KLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去した単核球の使用が提供される。
【0026】
更に本発明によれば、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体に対して用いられる癌治療剤であって、投与開始時期が、前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を前記生体外で選択的に減じている間または減じた後であることを特徴とする前記の癌治療剤の製造のための、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体の使用が提供される。
【0027】
更に本発明によれば、(i)KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器であって、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体の末梢血を体外循環して、該末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する細胞除去器と、(ii)前記癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤であって、前記末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する血液浄化療法の施行中もしくは施行後に投与する癌治療剤とを含む、細胞除去器と癌治療剤との併用治療システムの製造のための、前記癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体の使用が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する抗体を投与しても従来は抗癌効果が発揮されなかった生体においても、有効な抗癌効果を得ることが可能である。また本発明によれば、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体と、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌細胞と単核球を含む細胞集団とを接触させても、従来は上皮性癌細胞に対する細胞障害活性が発揮されなかった場合においても、十分な細胞障害活性を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、トラスツズマブと末梢血単核球による乳癌細胞SKBR3に対する細胞傷害性を示す。35mm dishに1×105ずつ腫瘍細胞SKBR3を播き、24時間後にトラスツズマブ、および健常人から採取した末梢血単核球を加えた。さらに24時間後に生腫瘍細胞数を計測した。3重測定の平均値と標準偏差を示す。統計解析はtwo-way ANOVAによって行った。A:コントロール抗体投与群、B:トラスツズマブ投与群
図2図2は、トラスツズマブと末梢血単核球による乳癌細胞HCC1569に対する細胞傷害性を示す。35mm dishに1×105ずつ腫瘍細胞HCC1569を播き、24時間後にトラスツズマブ、および健常人から採取した末梢血単核球を加えた。さらに24時間後に生腫瘍細胞数を計測した。3重測定の平均値と標準偏差を示す。統計解析はtwo-way ANOVAによって行った。A:コントロール、B:トラスツズマブ
図3図3は、トラスツズマブと末梢血単核球による乳癌細胞HCC1569の細胞傷害性におけるE-カドヘリン、N-カドヘリン両者抑制の効果を示す。35mm dishに1×105ずつsiRNAにてカドヘリンをノックダウンしたHCC1569を播き、24時間後にトラスツズマブおよび健常人から採取した末梢血単核球を加えた。さらに24時間後に生腫瘍細胞数を計測した。3重測定の平均値と標準偏差を示す。統計解析はtwo-way ANOVAによって行った。A:コントロール、B:E-cadherinおよびN-cadherinをダブルノックダウンしたHCC1569
図4図4は、トラスツズマブとKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球による乳癌細胞HCC1569の細胞傷害性を示す。35mm dishに1×105ずつ腫瘍細胞HCC1569(T)を播き、24時間後にトラスツズマブおよび健常人から採取した末梢血単核球をソーティングしKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球(E)を加え、24時間後に生腫瘍細胞数を計測した。3重測定の平均値と標準偏差を示す。統計解析はtwo-way ANOVAによって行った。A:コントロール、B:HCC1569
図5図5は、トラスツズマブとKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球による乳癌細胞SKBR3の細胞傷害性を示す。35mm dishに1×105ずつ腫瘍細胞SKBR3(T)を播き、24時間後にトラスツズマブおよび健常人から採取した末梢血単核球をソーティングしKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球(E)を加えた。その24時間後に生腫瘍細胞数を計測した。3重測定の平均値と標準偏差を示す。統計解析はtwo-way ANOVAによって行った。A:コントロール、B:SKBR3
図6図6は、乳癌細胞SKBR3に対するADCC活性における、末梢血単核球でのKLRG1発現の有無の効果を示す。1×106個の腫瘍細胞SKBR3(T)を50μlのNa251CrO4と37℃、5%CO2インキュベータ中で1.5時間共培養し、標識されたSKBR3 5×103個を96ウェルプレートに播き、単核球(E)をT:Eが1:0、1:1、1:20、1:50になるように各ウェルに入れ、37℃、5%CO2インキュベータ中で4時間共培養した後、腫瘍細胞から放出された51Crの放射活性を測定した。3重測定の平均値と標準偏差を示す。A:未処理の末梢血単核球、B:KLRG1発現細胞を除去後の末梢血単核球
図7図7は、乳癌細胞HCC1569に対するADCC活性における、末梢血単核球でのKLRG1発現の有無の効果を示す。1×106個の腫瘍細胞HCC1569(T)を50μlのNa251CrO4と37℃、5%CO2インキュベータ中で1.5時間共培養し、標識されたHCC1569 5×103個を96ウェルプレートに播き、単核球(E)をT:Eが1:0、1:1、1:20、1:50になるように各ウェルに入れ、37℃、5%CO2インキュベータ中で4時間共培養した後、腫瘍細胞から放出された51Crの放射活性を測定した。3重測定の平均値と標準偏差を示す。A:未処理の末梢血単核球、B:KLRG1発現細胞を除去後の末梢血単核球
図8図8は、トラスツズマブと、末梢血単核球またはKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球による胃癌細胞MKN-7に対する細胞傷害性を示す。実験は、実施例1と同様に行った。3重測定の平均値と標準偏差を示す。統計解析はtwo-way ANOVAによって行った。A:末梢血単核球、B:KLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球
図9図9は、トラスツズマブと、末梢血単核球またはKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球による胃癌細胞NCI-N87に対する細胞傷害性を示す。実験は、実施例1と同様に行った。3重測定の平均値と標準偏差を示す。統計解析はtwo-way ANOVAによって行った。A:末梢血単核球、B:KLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球
図10図10は、トラスツズマブとKLRG1発現細胞を減じたヒト末梢血単核球による、NOD/SCIDマウスに接種された乳癌細胞HCC1569の増殖抑制作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の癌治療剤は、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤であって、該癌治療剤は、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体に対して用いられ、前記癌治療剤の投与開始時期が、前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を前記生体外で選択的に減じている間または減じた後であることを特徴とする。
【0031】
前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を前記生体外で選択的に減じる処理は、好ましくは、前記生体の末梢血を体外循環して、KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器によって、前記末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する血液浄化療法の施行である。
なお、本明細書中の「血液浄化療法の施行」には、血液浄化療法の施行中および施行後が含まれる。
【0032】
本明細書において、生体は、生きている生物体を広く包含し、ヒト、並びにヒト以外の動物の何れでもよいが、好ましくはヒトであり、具体的には、上皮性癌患者が挙げられる。
【0033】
本発明の癌治療剤の投与開始時期は、好ましくは、前記生体の末梢血を体外循環して、KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器によって、前記末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する血液浄化療法の施行中もしくは施行後である。「血液浄化療法の施行後」とは、血液浄化療法の施行直後から血液浄化療法の効果が持続している期間のことである。「血液浄化療法の施行中」とは、血液浄化療法が開始されてから終了するまでの期間を指す。血液浄化療法が連続して複数回行われる場合は、初回の血液浄化療法から最終回の血液浄化療法までの連続した一連の期間を指す。
例えば、週1回の血液浄化を3ヶ月連続で実施するプロトコールを1クールとして、1クールないし2クールの治療を行う血液浄化療法の場合、「血液浄化療法の施行中」とはこの1クールないし2クールの期間のことである。
【0034】
本発明で言う上皮性癌としては、乳癌、胃癌、卵巣癌、肺癌、食道癌、大腸癌、十二指腸癌、膵臓癌、頭頸部癌、胆嚢癌、胆管癌、唾液腺癌などが挙げられ、好ましくは乳癌及び胃癌である。
【0035】
上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原としては、HER2、carcinoembryonic antigen (CEA)、mucin 1(MUC-1)、epithelial cell adhesion molecule (EpCAM)、epidermal growth factor receptor(EGFR)、cancer antigen 125(CA125)などが挙げられる。好ましくは、HER2、及びCEAである。
【0036】
上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する抗体としては、上記した癌特異的膜抗原に対する抗体であれば特に限定される、好ましくは抗HER2抗体、及び抗CEA抗体である。抗HER2抗体の好ましい例としては、トラスツズマブが挙げられる。
【0037】
本発明では、生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する。KLRG1陽性免疫細胞の種類は特に限定されないが、KLRG1陽性NK細胞、KLRG1陽性T細胞などが挙げられ、好ましくはKLRG1陽性NK細胞である。
【0038】
KLRG1に対するリガンドの例としては、E−カドヘリン、N−カドヘリン、R−カドヘリンからなる群から選択されるリガンドが挙げられる。
【0039】
本発明では、好ましくは、生体の末梢血を体外循環して、該末梢血を、KLRG1に対して親和性を有する物質を固定化した水不溶性担体に接触させて、前記生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することができる。
【0040】
本発明において、生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する方法は特に限定されないが、例えば、流入口及び流出口を有し、末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することが可能な手段を有する装置を使用して、末梢血を該流入口から流通させ、該流出口から流出するKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去した末梢血を回収することによって、血液からKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することができる。そして、流出口から流出するKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去した末梢血を体内に戻すことにより、生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することができる。
【0041】
本発明で用いることができるKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することが可能な手段としては、KLRG1に対して親和性を有する物質を固定化した水不溶性担体を使用することができる。KLRG1に対して親和性を有する物質としては、KLRG1に対する抗体やそのフラグメント、あるいはKLRG1に対するリガンドであるE−カドヘリン、N−カドヘリン、R−カドヘリンやそれらのフラグメントなどを用いることができる。水不溶性担体としては、特に限定はなく各種のものを用いることができ、多孔質体、平膜、不織布、織布、粒子(磁気粒子など)等が例示でき、好ましくは磁気粒子、又は不織布である。水不溶性担体が不織布の場合、フィラメントは、モノフィラメントでもマルチフィラメントでも構わないし、多孔質フィラメントでも異型フィラメントでも構わない。
【0042】
水不溶性担体の形状が粒状の場合、球状、多角球状等いかなる形状であっても有用に用いられる。また表面は平滑であっても、凹凸があってもKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去できる表面であれば有用に用いられる。また、粒径は、50μm以上10mm以下が好ましい。粒径は50μm未満であると粒子の流出防止が困難になる傾向にあるので好ましくない。粒径が10mmより大きい場合十分な表面積が得られなくなる傾向にあるので好ましくない。粒径は、好ましくは、80μm以上8mm未満、最も好ましくは100μm以上6mm未満である。
【0043】
本発明で用いることができる水不溶性担体の材質としては、血球にダメージを与えにくいものであれば特に限定はなく、各種のものを用いることができ、有機高分子、無機高分子、金属等が例示できる。その中でも有機高分子は切断などの加工性に優れるため好ましい素材である。有機高分子等の材質は、セルロース、セルロースモノアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート等のセルロース及び/またはその誘導体等の天然高分子、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル等の高分子材料を例示できる。また、これらに親水性を付与する目的で表面をコーティング、放射線グラフト等の方法により親水性高分子材料で修飾した材料も有用に用いられる。
【0044】
本発明では、例えば、血液流入口及び血液流出口を有するカラムに、上記したようなKLRG1に対して親和性を有する物質を固定化した水不溶性担体が充填された装置に末梢血を上記流入口から流通させることによって、末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することができる。また、上記した吸着カラムを血液浄化療法等に用いられる体外循環システムに接続することによって、本発明を実施することができる。
【0045】
上記したような体外循環による本発明の処置は、対象者、及び対象者の疾患の状態等によっても異なるが、一般に1回当たり流速30ml/分の条件で30分〜90時間血液循環することにより行うことができる。流速及び時間は、例えば採用する担体の量や吸着特性等をふまえて適宜設定することができる。また、上記体外循環による本発明の処置は、癌特異的膜抗原に対する抗体を投与する前または投与している間のいずれで行っても良い。抗体投与前に体外循環処置を行う場合は、抗体投与は、体外循環処置後、体外循環処置の効果が持続している間に行う。「抗体を投与している間」とは、抗体の投与が開始されてから終了するまでの期間を指す。抗体の投与が連続して複数回行われる場合は、初回の抗体投与から最終回の抗体投与までの連続した一連の期間を指す。例えば、2〜3週間に1回の投与を3ヶ月連続で実施するプロトコールを1クールとして、1クールないし2クールの治療を行う抗体の場合、「抗体を投与している間」とはこの1クールないし2クールの期間のことである。
【0046】
また本発明によれば、バッチ式にて接触処理した処理血液を得、その一旦プールした血液を静脈内投与することも可能である。この場合も、実質的に上記体外循環による 処置の場合に準じて行うことができる。尚、採血量及び処理された血液の投与量は、一般に、1日当たり150 〜450ml程度である。
【0047】
血液を処理するときは、血液の抗凝固目的で抗凝固剤を血液中に加えることができる。抗凝固剤を例示すると、抗凝固活性を有する化合物であれば、特に限定されないが、ヘパリン、低分子ヘパリン、メシル酸ナファモスタット、メシル酸ガベキセート、アルガトロバン、クエン酸ナトリウム等が好適例として挙げられ、好ましくはヘパリンあるいはメシル酸ナファモスタットが良好に用いられる。
【0048】
さらに本発明においては、(1)採血手段、(2)血液流通手段、(3)血液の流入口及び流出口を有し、血液からKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することが可能な手段を有する装置、及び(4)返血手段、を含む体外循環システムを用いて、生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することができる。
【0049】
採血手段とは、血液を取り出す部分のことをいい、例示するとスパイク針、ビン針、採血針、カテーテル等が挙げられる。返血手段とは、血液を返血する部分のことをいい、採血手段と同じ物が例示できる。血液流通手段とは、例えば、血液が流れる導管などが挙げられる。導管の形状は、中空であれば、何れの形状であってもよい。また導管は、血液に大きな害を及ぼさない材質であれば何れもよく、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の材質を含む材料が挙げられる。
【0050】
本発明における「KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器」としては、本明細書中上記したようなKLRG1に対して親和性を有する物質を固定化した水不溶性担体などのKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去することが可能な手段を有する装置を使用することができる。本発明における「KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器」は、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤を、前記癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体に投与する前または投与している間に、前記生体の末梢血を体外循環して、該末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去するために使用することができる。
【0051】
更に本発明においては、(i)KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞除去器であって、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体の末梢血を体外循環して、該末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する細胞除去器と、(ii)前記癌特異的膜抗原に対する、抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤であって、前記末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を選択的に除去する血液浄化療法の施行中もしくは施行後に投与する前記癌治療剤とを組み合わせることによって、細胞除去器と癌治療剤との併用治療システムを構築することができる。
【0052】
更に本発明によれば、上皮性癌細胞で発現する癌特異的膜抗原が陽性であり、かつKLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体の末梢血中のKLRG1陽性免疫細胞を前記生体外で選択的に減ずる工程(a)と、
該生体に、前記上皮性癌細胞で発現する前記癌特異的膜抗原に対する抗体であって抗体依存性細胞障害活性を有する抗体を含有する癌治療剤を投与する工程(b)と、
を含む、前記上皮性癌の生体を処置する方法が提供される。
【0053】
「KLRG1陽性免疫細胞を選択的に減ずる」とは、KLRG1陰性免疫細胞の吸着率(A)よりKLRG1陽性免疫細胞の吸着率(B)が高いことを意味する。B>Aであれば良いが、好ましくはB/A>2であり、より好ましくはB/A>3であり、最も好ましくはB/A>4である。
【0054】
本発明の方法で、癌治療剤の投与は、好ましくは、前記生体の末梢血を体外循環して、KLRG1陰性免疫細胞よりKLRG1陽性免疫細胞に対して高い親和性を有する細胞吸着器によって、前記末梢血からKLRG1陽性免疫細胞を選択的に減ずる工程(a)の施行中もしくは施行後である。「工程(a)の施行後」とは、工程(a)の施行直後から工程(a)の効果が持続している期間のことである。「工程(a)の施行中」とは、工程(a)が開始されてから終了するまでの期間を指す。工程(a)が一連の処置として複数回行われる場合は、初回の工程(a)の処置から最終回の工程(a)の処置までの連続した一連の期間を指す。例えば、週1回の体外循環処置を3ヶ月連続で実施するプロトコールを1クールとして、1クールないし2クールの治療を行う工程(a)の処置の場合、「工程(a)の施行中」とはこの1クールないし2クールの期間のことである。
【0055】
癌治療剤の投与とKLRG1陽性免疫細胞を選択的に減ずる処置が、各々一連の工程として複数回行われる場合は、癌治療剤の全ての投与は、工程(a)の初回施行から最終回施行の間、または最終回施行の後に行われるのが好ましい。
【0056】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
実施例1
(A)方法
(1)細胞株
HER2陽性ヒト乳癌細胞株SKBR3とHCC1569はATCCより購入した。SKBR3はPan-cadherin陰性であり、E、N- cadherin陰性であることを確認した。一方HCC1569はPan-cadherin陽性であり、E、N- cadherinともに陽性であることを確認した。SKBR3に対しては、DMEM(Dulbecco's modified Eagle's medium)(Sigma Aldrich,MO,USA)にウシ胎仔血清(FBS,Invitrogen corporation,USA)、penicirinとstreptomycinを加えて培養した。HCC1569に対しては、RPMI-1640 medium(Sigma Aldrich, MO,USA)にブタ胎仔血清、penicirinとstreptomycinを加えて培養に用いた。
【0058】
(2)siRNA
CDH1とCDH2siRNAはSilencer Select Pre-designed siRNA(Ambion Inc.USA)を購入し使用した。コントロールとしてSilencer Select Negative control#1 siRNA(Ambion)を用いた。siRNAの最終濃度は5nMとした。合成siRNAの細胞導入には、DamaFECT Transfection Reagents2(Darmacon Inc.USA)を用いた。
【0059】
乳癌細胞株HCC1569について、6ウェルプレートを使用し、1ウェルあたり5×105個の細胞を播き、37℃、5%CO2インキュベータで一晩培養した。シングルノックダウンする分子については、2μMの各siRNA2μlを、198μlのOPTI-MEM(Invitrogen Inc.USA)に加えたものと、reagent4μlと196μlのOPTI-MEMを加えたものを混合し、室温で20分間インキュベートすることによって、コンプレックスを形成させた。ダブルノックダウンする分子については、2μMの各siRNA2μlを、196μlのOPTI-MEMに加えたものと、reagent8μlと192μlのOPTI-MEMを加えシングルノックダウンするものと同様に処理した。前日に培養していた6ウェルプレートの中の培養液を吸引し、OPTI-MEM 1600μlを加えた。その後コンプレックスを200μlずつ各ウェルに加え、37℃、5%CO2インキュベータで培養した。48時間後に細胞からmRNAを抽出し、Quantitative real time RT-PCRによりRNAiの効果を解析した。
【0060】
RNA抽出はTRizol Reagent(Invitrogen)を用いた。6ウェルプレートをPBSで洗い、Trizolを1ml加え、セルスクレーパーで掻き取り1.5mlチューブへ移した。次に1mlのTrizolに0.2mlのクロロホルムを加え、15000rpmで5分遠心した。3層に分離した中の一番上層を新しいチューブへ移しイソプロパノール/0.5ml/mlを加え15000rpmで5分遠心した。上清を除き、ペレットを75%エタノールで洗い、室温で乾燥させた。Rnase-free water 10μlを加え、室温で30分静置しペレットを溶かした。その後、RNAの発現をquantitative real time RT-PCR法にて測定した。
【0061】
逆転写反応には、PrimeScript RT reagent Kit(TaKaRa)を用いた。1μg total RNAにPrimeScript Buffer(for Real Time)2μl、PrimeScript RT Enzyme MixI 0.5μl、Random 6 mers 0.5μl、Rnase Free dH20 6μlを加え、37℃、15分で逆転写反応を行い、cDNAを得た。
【0062】
検量線を作成するために用いる既知の濃度やコピー数を持つサンプルを作製するためにCDH1、CDH2、GAPDHのプライマーを用い、定常状態で培養したHCC1569をテンプレートにして、PCR産物を得た。検量線を作成するために、5種類の異なる希釈率のスタンダード・サンプルを用意した。GAPDHを内因性リファレンス遺伝子とした。
【0063】
Quantitative real time RT-PCRは、Smart Cycler II System(TaKaRa,Japan)を使用した。1反応チューブあたり、SYBR Green I 12.5μl,10μM primer(forwardおよびreverse)1μl、逆転写反応で得た各cDNA2μl,蒸留水8.5μlを混ぜたものを加えた。
【0064】
PCR産物の定量は、蛍光色素であるSYBR Greenの蛍光量によってなされる。SYBR Greenの蛍光量によってPCR産物の増幅曲線が描かれるが、その増幅曲線が閾値と交差するサイクル数をThreshhold cycle(Cγ)として、検量線を用いることで、ターゲットRNA量が推測できる。ターゲット遺伝子のCγ値は、内因性リファレンス遺伝子(GAPDH)との比較により標準化した。
【0065】
(3)トラスツズマブと抗体
トラスツズマブは中外製薬より購入した。コントロール抗体としてmouse IgGκ isotype(BioLegend, USA)を購入し、使用した。NK cell上のKLRG1レセプターの認識にはRabbit anti-human KLRG1 antibody(Santa Cruz Biotechnology, USA)を使用した。
【0066】
(4) 末梢血単核球の処理
健常人より末梢血を採取し、フィコール・ハイパックを使用した比重遠心法(バキュテイナ採血管(BD,USA)を用い、3300rpm、30分間遠心を行う)にて単核球層を回収した。回収した末梢血単核球をRabbit anti-human KLRG1 antibodyとGoat Anti-rabbit IgG MicroBeads(MiltenyiBiotec GmbH, Gladbach, Germany)にて標識し、MACS MSカラムにてKLRG1発現細胞を除去した。
【0067】
(5)末梢血単核球による細胞傷害性の検討
HER2陽性乳癌細胞株SKBR3(Pan-cadherin negative)、およびHCC1569(Pan-cadherin positive: E-cadherin positive, N-cadherin positive)の2種類の細胞を用い以下の検討を行った。
【0068】
(5−1) 各細胞について、35mm dishに1×105ずつ腫瘍細胞(T)を播き、24時間後にトラスツズマブおよび健常人から採取した末梢血単核球(E)を加え、その24時間後に生腫瘍細胞数を計測した。なお、トラスツズマブは0、0.021、0.105mg/mlと加える濃度を変え検討した。また末梢血単核球は、T:Eを1:0、1:1、1:20とし検討を行った。
(5−2) HER2陽性乳癌細胞株HCC1569(Pan-cadherin positive: E-cadherin positive, N-cadherin positive)について、E-cadherin(CDH1)または/かつN-cadherin(CDH2)をノックダウンし、(5−1)と同様の検討を行った。
(5−3) KLRG1発現の有無により末梢血単核球をソーティングし、KLRG1陽性細胞を除去した末梢血単核球を用い、(5−1)と同様の検討を行った。
【0069】
(6)ADCCアッセイ
末梢血単核球によるADCCアッセイは、51Cr放出試験によって検討した。エフェクター細胞(E)は健常人より採取した末梢血単核球、標的細胞(T)はSKBR3、HCC1569、siRNA CDH1あるいはsiRNA CDH2を導入しE-cadherinあるいはN-cadherinをノックダウンしたHCC1569細胞株である。1×106個の標的細胞を50μlのNa251CrO4(Perkin Elmer, Japan)と37℃、5%CO2インキュベータ中で1.5時間共培養し、標的細胞を51Crクロム酸で標識した。標識した標的細胞5×103個を培養液50μlに懸濁し96ウェルU底プレートに播き、単核球をT:Eが1:0、1:1、1:20、1:50になるように各ウェルに加えた。さらにトラスツズマブ21μg/ml、あるいはコントロールとしてマウスIgG1抗体21μg/ml、培養液のみをそれぞれ100μlずつ各ウェルに加え、37℃、5%CO2インキュベータ中で4時間共培養した。培養後1500rpmで5分間遠心し、50μlの上清を採取し放射活性をγカウンターにて測定した。次の式にて%特異的51Cr放出値を算出し、ADCC活性とした。
【0070】
ADCC活性=100×(エフェクター細胞を加えたときの51Cr遊離−エフェクター細胞を加えない時の51Cr自然遊離)/(エフェクター細胞は加えずTriton Xを加えた時に生じる最大51Cr遊離−エフェクター細胞を加えない時の51Cr自然遊離)。
【0071】
(B)結果
(1)トラスツズマブと末梢血単核球による乳癌細胞SKBR3に対する細胞傷害性(図1
トラスツズマブ抵抗例を有効例とするため、NK細胞によるADCC活性の確認と抑制解除の方法について検討を行った。その結果、SKBR3(Pan-cadherin negative)ではトラスツズマブの濃度を0、0.021mg/ml、0.105mg/mlと変えた場合、末梢血単核球を共培養しない場合はいずれの濃度でも腫瘍細胞生存率に変化は認めなかった。また、トラスツズマブ濃度を0とした場合、腫瘍細胞の1倍あるいは20倍量の末梢血単核球を共培養しても腫瘍細胞の生存率に変化は認めなかった。しかし、トラスツズマブ濃度を0.021mg/mlとし、腫瘍細胞の1倍量の末梢血単核球を共培養した場合、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、有意に腫瘍細胞生存率の低下を認めた。腫瘍細胞の20倍量の末梢血単核球を共培養した場合、さらに腫瘍細胞生存率は低下し、末梢血単核球を共培養しなかった場合および1倍量の末梢血単核球を共培養した場合に対し、有意に腫瘍細胞生存率は低下を示した。トラスツズマブ濃度を0.105mg/mlにした場合でも、腫瘍細胞の20倍量の末梢血単核球を共培養した場合、腫瘍細胞生存率は低下し、末梢血単核球を共培養しなかった場合および1倍量の末梢血単核球を共培養した場合に対し、有意に腫瘍細胞生存率は低下を示した。腫瘍細胞の1倍量の末梢血単核球を共培養した場合、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、統計学的有意差は認めないが、腫瘍細胞生存率は低下する傾向を認めた。この結果より、カドヘリンの発現を伴わないSKBR3ではトラスツズマブの濃度に関わらず、末梢血単核球の数依存的に腫瘍細胞生存率は低下することが示された(図1)。
【0072】
(2)トラスツズマブと末梢血単核球による乳癌細胞HCC1569に対する細胞傷害性(図2
HCC1569(Pan-cadherin positive: E-cadherin positive, N-cadherin positive)では、トラスツズマブの濃度を0、0.021mg/ml、0.105 mg/mlと変えた場合、末梢血単核球を共培養しない場合はいずれの濃度でも腫瘍細胞生存率に変化は認めなかった。また、トラスツズマブ濃度を0とした場合、腫瘍細胞の1倍あるいは20倍量の末梢血単核球を共培養しても腫瘍細胞生存率に変化は認めなかった。さらに、トラスツズマブ濃度を0.021mg/mlとし、腫瘍細胞の1倍量の末梢血単核球を共培養した場合、末梢血単核球を共培養しなかった場合と同様に、腫瘍細胞生存率に変化は認めなかった。腫瘍細胞の20倍量の末梢血単核球を共培養した場合も腫瘍細胞生存率に変化は認めなかった。この傾向はトラスツズマブ濃度を0.105mg/mlとした場合も同様であり、腫瘍細胞量の1倍あるいは20倍量の末梢血単核球を共培養しても腫瘍細胞生存率に変化は認めなかった。この結果よりカドヘリン発現を伴うHCC1569では、トラスツズマブの濃度および末梢血単核球の数に関わりなく腫瘍細胞生存率の変化を認めないことが明らかになった(図2)。
【0073】
(3)トラスツズマブと末梢血単核球による乳癌細胞HCC1569の細胞傷害性におけるE-カドヘリン、N-カドヘリン両者抑制の効果(図3
E-cadherin(CDH1)およびN-cadherin(CDH2)をダブルノックダウンしたHCC1569においては、トラスツズマブの濃度を0、0.021mg/ml、0.105mg/mlと変えた場合、末梢血単核球を共培養しない場合はいずれの濃度でも腫瘍細胞生存率に変化は認めなかった。また、トラスツズマブ濃度を0とした場合、腫瘍細胞の1倍あるいは20倍量の末梢血単核球を共培養しても生腫瘍細胞生存率について統計学的有意差は認めなかった。しかし、トラスツズマブ濃度を0.021mg/mlおよび0.105mg/mlとした場合、腫瘍細胞の20倍量の末梢血単核球を共培養した場合、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、有意に腫瘍細胞生存率の低下を認めた。腫瘍細胞の1倍量の末梢血単核球を共培養した場合、統計学的有意差はないが、腫瘍細胞生存率は低下する傾向を認めた(図3)。
【0074】
これらの腫瘍細胞の検討により、Pan-cadherin negativeの腫瘍細胞ではトラスツズマブの濃度に依らず、末梢血単核球の数依存的に腫瘍細胞生存率は低下することが明らかになった。また、Pan-cadherin positiveの腫瘍細胞においては、トラスツズマブの濃度に依らず、末梢血単核球の数依存的に生腫瘍細胞数が減少する傾向を認めなかった。
【0075】
(4)トラスツズマブとKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球による乳癌細胞HCC1569の細胞傷害性(図4
KLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を用いて同様の実験を行った。
何も処理を行わないカドヘリンの発現があるHCC1569ではトラスツズマブの濃度を0、0.021mg/ml、0.105mg/mlと変えた場合、末梢血単核球を共培養しない場合はいずれの濃度でも腫瘍細胞生存率に変化は認めなかった。また、トラスツズマブ濃度を0とした場合、腫瘍細胞の1倍あるいは20倍量の末梢血単核球を共培養しても腫瘍細胞の生存率に変化は認めなかった。しかし、トラスツズマブ濃度を0.021mg/mlとし、腫瘍細胞の1倍量の末梢血単核球を共培養した場合、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、有意に腫瘍細胞生存率の低下を認めた。腫瘍細胞の20倍量の末梢血単核球を共培養した場合、さらに腫瘍細胞生存率は低下し、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、有意に腫瘍細胞生存率は低下を示した。トラスツズマブ濃度を0.105mg/mlにした場合、腫瘍細胞の1倍量の末梢血単核球を共培養した場合、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、有意に腫瘍細胞生存率の低下を認め、腫瘍細胞の20倍量の末梢血単核球を共培養した場合、さらに腫瘍細胞生存率は低下し、末梢血単核球を共培養しなかった場合および1倍量の末梢血単核球を共培養した場合に対し、有意に腫瘍細胞生存率は低下を示した(図4)。
【0076】
(5)トラスツズマブとKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球による乳癌細胞SKBR3の細胞傷害性(図5
カドヘリン発現を伴わないSKBR3ではトラスツズマブの濃度を0、0.021mg/ml、0.105mg/mlと変えた場合、末梢血単核球を共培養しない場合はいずれの濃度でも腫瘍細胞生存率に変化は認めなかった。また、トラスツズマブ濃度を0とした場合、腫瘍細胞の1倍あるいは20倍量の末梢血単核球を共培養しても腫瘍細胞の生存率に変化は認めなかった。しかし、トラスツズマブ濃度を0.021mg/mlとし、腫瘍細胞の20倍量の末梢血単核球を共培養した場合、生腫瘍細胞数は減少し、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、有意に腫瘍細胞生存率は低下を示した。腫瘍細胞の1倍量の末梢血単核球を共培養した場合、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、統計学的有意差は認めないが、腫瘍細胞の生存率は低下する傾向を認めた。トラスツズマブ濃度を0.105mg/mlにした場合でも、腫瘍細胞の20倍量の末梢血単核球を共培養した場合、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、有意に腫瘍細胞生存率の低下を認め、腫瘍細胞の1倍量の末梢血単核球を共培養した場合、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、統計学的有意差は認めないが、腫瘍細胞の生存率は低下する傾向を示した(図5)。
【0077】
(6)乳癌細胞SKBR3に対するADCC活性における、末梢血単核球でのKLRG1発現の有無の効果(図6)、及び乳癌細胞HCC1569に対するADCC活性における、末梢血単核球でのKLRG1発現の有無の効果(図7
さらに確認のために行った4h-51Cr放出試験においても、SKBR3はKLRG1発現細胞の有無に関わらず、末梢血単核球の数に依存して細胞傷害活性を認めた(図6)。未処理のHCC1569は未処理の末梢血単核球を用いて検討した場合、末梢血単核球数に関わらずADCC活性は認めなかった。しかし、未処理のHCC1569では、KLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を用いた検討でトラスツズマブによるADCC活性を認め、これは末梢血単核球の数に依存するものであった(図7)。
【0078】
(C)総括
HER2陽性ヒト乳癌細胞株のうちE-cadherinあるいはN-cadherin陽性細胞株はトラスツズマブに対し耐性を示す。しかし、E、N-cadherinの発現を減弱させることにより、これらの細胞株のトラスツズマブに対する耐性は減弱した。トラスツズマブの作用機序のうち、カドヘリンが関与する点を検討すると、トラスツズマブの主たる作用機序の1つであるADCC活性に関与していることが確認でき、トラスツズマブに対する耐性に関して免疫学的機構が強く関与していることが推測された。さらに、NK細胞中のE、N-cadherinをリガンドとする抑制性レセプターであるKLRG1を発現するNK細胞を除去することにより、トラスツズマブに対する耐性は消失することが示された。
【0079】
実施例2
<活性化不織布の作成>
ガラス製のフラスコにN−ヒドロキシメチル2−ヨードアセトアミド0.6g、濃硫酸5.7ml及びニトロベンゼン7.2mlを加えて常温にて撹拌溶解し、更にパラホルムアルデヒド0.036gを加え撹拌した。これにポリプロピレンからなる不織布(平均繊維直径3.8μm、目付80g/m2、厚み約0.55mm)0.3gを入れ常温にて24時間遮光反応した。24時間反応後不織布を取り出し、エタノール及び純水にて洗浄し、これを真空乾燥して活性化不織布を得た。
【0080】
この活性化不織布を直径0.68cmの円に切断したもの4枚を、カルシウム、マグネシウムを含まないリン酸緩衝液(以下、「PBS(−)」と略す)にアフィニティーカラムで精製したラビット抗ヒトKLRG1ポリクローナル抗体(SANTA CRUZ BIOTECHNOLOGY,INC.以下、「抗KLRG1抗体」と略す)を0.4ml(抗KLRG1抗体16μg/0.4ml)に常温で1時間浸した後さらに冷蔵(2〜8℃)で約24hr浸漬し、抗KLRG1抗体を固定した。この抗KLRG1抗体を固定した活性化不織布を入口と出口を有する容積約1mlの容器に積層し、容器の入口側からPBS(−)3mlで洗浄した。次に0.2%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート/PBS(−)溶液(以下、「Tween20溶液」と略す)0.4mlを加え常温で2.5時間浸漬した後、PBS(−)3mlで洗浄し、KLRG1陽性細胞吸着材を得た。
【0081】
上記KLRG1陽性細胞吸着材(平均繊維直径3.8μm、目付80g/m2、厚み約0.5mm)4枚と、充填液として10mMアスコルビン酸PBS(−)溶液(アスコルビン酸の分子量176)を入口と出口を有する容積約1mlの容器に充填し、KLRG1陽性細胞吸着器を作製した。
【0082】
<KLRG1陽性細胞の吸着性能評価>
ACD−A(acid citrate dextrose solution−A)加ヒト新鮮血液2.0ml(血液:ACD−A=8:1)をシリンジポンプにてKLRG1陽性細胞吸着器の入口より流速1.0ml/minで送液し、カラム出口より処理後の血液を回収した。カラムへ流す前のACD−A加ヒト新鮮血液とカラム出口から回収した血液をそれぞれPBS(−)で1:1に希釈したものをFicoll−Paque PLUS(GE Healthcare社製)の上に重層し、400×gで30分間遠心して単核球浮遊液を採取した。この単核球浮遊液中のNK細胞におけるKLRG1陽性細胞を、直接または間接的に蛍光標識した抗ヒトCD3抗体、抗ヒトCD56抗体、抗ヒトKLRG1抗体を用いて、FACSCaliburTM(Becton Dickinson社製)で測定した。その結果、CD3-CD56+であるNK細胞中のKLRG1陽性細胞(以下「KLRG1+NK細胞」と略す)の吸着率は93.2%であった。またこのときのCD3-CD56+であるNK細胞中のKLRG1陰性細胞(以下「KLRG1-NK細胞」と略す)の吸着率は19.1%、リンパ球の吸着率は16.9%、血小板の吸着率は15.8%であり、KLRG1+NK細胞を特異的に吸着できた(表1)。
【0083】
実施例3
KLRG1陽性細胞吸着材を平均繊維直径が16.9μm、目付80g/m2、厚み約0.8mmの不織布を用いて作製し、該不織布12枚を充填してKLRG1陽性細胞吸着器を作製した。次に、ACD−A加ヒト新鮮血液2.0ml(血液:ACD−A=8:1)をシリンジポンプにてKLRG1陽性細胞吸着器の入口より流速0.2ml/minで送液した以外は、実施例2と同様にKLRG1陽性細胞の吸着性能評価を行った。その結果、KLRG1+NK細胞の吸着率は83.9%であった。またこのときのKLRG1-NK細胞の吸着率は10.5%、リンパ球の吸着率は5.7%、血小板の吸着率は7.7%であり、KLRG1+NK細胞を特異的に吸着できた(表1)。
【0084】
実施例4
ヒトKLRG1に対して交差反応する抗マウスKLRG1モノクローナル抗体を用いてKLRG1陽性細胞吸着材を作製した以外は、実施例2と同様にKLRG1陽性細胞吸着器を作製した。次に、ACD−A加ヒト新鮮血液2.0ml(血液:ACD−A=8:1)をシリンジポンプにてKLRG1陽性細胞吸着器の入口より流速0.2ml/minで送液した以外は、実施例2と同様にKLRG1陽性細胞の吸着性能評価を行った。その結果、KLRG1+NK細胞の吸着率は90.3%であった。またこのときのKLRG1-NK細胞の吸着率は0.0%、リンパ球の吸着率は27.8%、血小板の吸着率は0.0%であり、KLRG1+NK細胞を特異的に吸着できた(表1)。
【0085】
実施例5
ラビット抗ヒトKLRG1ポリクローナル抗体の代わりにヒトE−カドヘリン(Cat.No:648−EC、R&D Systems,Inc.)を固定した活性化不織布を用いた以外は、実施例2と同様にKLRG1陽性細胞吸着器を作製した。次に、ACD−A加ヒト新鮮血液2.0ml(血液:ACD−A=8:1)をシリンジポンプにてKLRG1陽性細胞吸着器の入口より流速0.2ml/minで送液し、実施例2と同様にKLRG1陽性細胞の吸着性能評価を行った。その結果、KLRG1+NK細胞の吸着率は32.7%であった。またこのときのKLRG1-NK細胞の吸着率は8.8%、リンパ球の吸着率は22.2%、血小板の吸着率は26.4%であり、KLRG1+NK細胞を特異的に吸着できた(表1)。
【0086】
【表1】
【0087】
実施例6
(A)方法
(1)細胞株
HER2陽性ヒト胃癌細胞株MKN-7はRIKEN CELL BANKから提供を受けた。HER2陽性ヒト胃癌細胞株NCI-N87はATCCより購入した。MKN-7はPan-cadherin陰性であり、E- cadherin陰性であることを確認した。一方NCI-N87はPan-cadherin陽性であり、E- cadherin陽性であることを確認した。MKN-7およびNCI-N87に対しては、RPMI-1640 medium(Sigma Aldrich, MO,USA)にウシ胎仔血清、penicirinとstreptomycinを加えて培養した。その他は、実施例1と同様の方法で行った。
【0088】
(B)結果
(1)トラスツズマブと、末梢血単核球またはKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球による胃癌細胞MKN-7に対する細胞傷害性(図8
MKN-7(Pan-cadherin negative)ではトラスツズマブの濃度を0、0.021mg/ml、0.105mg/mlと変えた場合、末梢血単核球を共培養しないといずれの濃度でも腫瘍細胞生存率に変化はなかった。また、トラスツズマブ濃度を0とした場合、腫瘍細胞の1倍あるいは20倍量の末梢血単核球を共培養しても腫瘍細胞の生存率に変化はなかった。しかし、トラスツズマブ濃度を0.021mg/mlとし、腫瘍細胞の1倍量の末梢血単核球を共培養した場合、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、統計学的有意差はないが、腫瘍細胞生存率は低下する傾向を認めた。腫瘍細胞の20倍量の末梢血単核球を共培養した場合、さらに腫瘍細胞生存率は低下し、末梢血単核球を共培養しなかった場合および1倍量の末梢血単核球を共培養した場合に対し、腫瘍細胞生存率は有意に低下した。トラスツズマブ濃度を0.105mg/mlにした場合、腫瘍細胞の1倍量の末梢血単核球を共培養すると、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、腫瘍細胞生存率は有意に低下した。腫瘍細胞の20倍量の末梢血単核球を共培養した場合、さらに腫瘍細胞生存率は低下し、末梢血単核球を共培養しなかった場合及び1倍量の末梢血単核球を共培養した場合に対し、腫瘍細胞生存率は有意に低下した。この結果より、カドヘリンの発現を伴わないMKN-7ではトラスツズマブの濃度に関わらず、末梢血単核球の数依存的に腫瘍細胞生存率は低下することが示された(図8A)。
【0089】
KLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を用いて同様の実験を行った。
トラスツズマブの濃度を0、0.021mg/ml、0.105mg/mlと変えた場合、末梢血単核球を共培養しない場合はいずれの濃度でも腫瘍細胞生存率に変化はなかった。また、トラスツズマブ濃度を0とした場合、腫瘍細胞の1倍あるいは20倍量のKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を共培養しても腫瘍細胞の生存率に変化はなかった。しかし、トラスツズマブ濃度を0.021mg/mlとし、腫瘍細胞の20倍量のKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を共培養した場合、生腫瘍細胞数は減少し、末梢血単核球を共培養しなかった場合、及び腫瘍細胞の1倍量のKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を共培養した場合に対し、腫瘍細胞生存率は有意に低下した。腫瘍細胞の1倍量のKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を共培養した場合、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、統計学的有意差はないが、腫瘍細胞の生存率が低下する傾向を認めた。トラスツズマブ濃度を0.105mg/mlにした場合、腫瘍細胞の1倍量のKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を共培養すると、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、腫瘍細胞生存率は有意に低下した。腫瘍細胞の20倍量のKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を共培養した場合、さらに腫瘍細胞生存率は低下し、末梢血単核球を共培養しなかった場合及び1倍量のKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を共培養した場合に対し、腫瘍細胞生存率は有意に低下した。この結果より、カドヘリンの発現を伴わないMKN-7ではトラスツズマブの濃度に関わらず、KLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球の数依存的に腫瘍細胞生存率は低下することが示された(図8B)。
【0090】
(2)トラスツズマブと、末梢血単核球またはKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球による胃癌細胞NCI-N87に対する細胞傷害性(図9
NCI-N87(Pan-cadherin positive: E-cadherin positive)では、トラスツズマブの濃度を0、0.021mg/ml、0.105 mg/mlと変えた場合、末梢血単核球を共培養しない場合はいずれの濃度でも腫瘍細胞生存率に変化はなかった。また、トラスツズマブ濃度を0とした場合、腫瘍細胞の1倍あるいは20倍量の末梢血単核球を共培養しても腫瘍細胞生存率に変化はなかった。さらに、トラスツズマブ濃度を0.021mg/mlとし、腫瘍細胞の1倍量の末梢血単核球を共培養した場合、末梢血単核球を共培養しなかった場合と同様に、腫瘍細胞生存率に変化はなかった。腫瘍細胞の20倍量の末梢血単核球を共培養した場合も腫瘍細胞生存率に変化はなかった。この傾向はトラスツズマブ濃度を0.105mg/mlとした場合も同様であり、腫瘍細胞量の1倍あるいは20倍量の末梢血単核球を共培養しても腫瘍細胞生存率に変化はなかった。この結果よりカドヘリン発現を伴うNCI-N87では、トラスツズマブの濃度および末梢血単核球の数に関わりなく腫瘍細胞生存率は変化をしないことが明らかになった(図9A)。
【0091】
KLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を用いて同様の実験を行った。
トラスツズマブの濃度を0、0.021mg/ml、0.105mg/mlと変えた場合、末梢血単核球を共培養しない場合はいずれの濃度でも腫瘍細胞生存率に変化はなかった。また、トラスツズマブ濃度を0とした場合、腫瘍細胞の1倍あるいは20倍量のKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を共培養しても腫瘍細胞の生存率に変化はなかった。しかし、トラスツズマブ濃度を0.021mg/mlとし、腫瘍細胞の1倍量のKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を共培養した場合、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、統計学的有意差はないが、腫瘍細胞の生存率が低下する傾向を認めた。腫瘍細胞の20倍量のKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を共培養した場合、さらに腫瘍細胞生存率は低下し、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、腫瘍細胞生存率は有意に低下した。トラスツズマブ濃度を0.105mg/mlにした場合、腫瘍細胞の1倍量のKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を共培養すると、末梢血単核球を共培養しなかった場合に対し、腫瘍細胞生存率は有意に低下した。腫瘍細胞の20倍量のKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を共培養した場合、さらに腫瘍細胞生存率は低下し、末梢血単核球を共培養しなかった場合および1倍量のKLRG1発現細胞を除去した末梢血単核球を共培養した場合に対し、腫瘍細胞生存率は有意に低下した(図9B)。
【0092】
(C)総括
HER2陽性ヒト乳癌細胞株と同様に、HER2陽性ヒト胃癌細胞株においてもE-cadherin陽性細胞株がトラスツズマブに対し耐性を示し、E-cadherin陰性細胞株がトラスツズマブに対し感受性を示すことが確認された。トラスツヅマブの感受性発現には末梢血単核球の存在が必須であったことから、ADCC活性の関与が推定された。E-cadherinをリガンドとする抑制性レセプターであるKLRG1を発現するNK細胞を末梢血単核球から除去することにより、E-cadherin陽性細胞株のトラスツズマブに対する耐性は消失することが示された。
【0093】
実施例7
(A)方法
(1)マウス
6週齢の雌のNOD/SCID(non-obese diabetic/ severe combined immune deficient)マウスは、日本クレア株式会社から購入した。全ての動物は、認定されたプロトコールに基づく施設のガイドラインにしたがって維持され、取り扱われた。
【0094】
(2)トラスツズマブと末梢血単核球の投与
0.2mlのPBSに5.0 x 106個のHER2陽性Pan-cadherin陽性ヒト乳癌細胞株HCC1569を懸濁し、NOD/SCID マウスの皮下に接種した。この担癌マウスを次の5群に分けた。1)無処置群(コントロール群)、2)KLRG1陽性細胞を減じたヒト末梢血単核球投与群、3)トラスツズマブ投与群、4)ヒト末梢血単核球とトラスツズマブの両者を投与した群、5)KLRG1陽性細胞を減じたヒト末梢血単核球とトラスツズマブの両者を投与した群。トラスツズマブは、マウスの体重1g当たり0.005mg腹腔内投与され、ヒト末梢血単核球は、マウス1匹当たり5.0 x 106個腹腔内投与された。トラスツズマブとヒト末梢血単核球の投与は、HCC1569の接種後4週間から開始され、週1回、4週間継続された。
【0095】
(3)腫瘍体積の測定
腫瘍体積は、週に1度、caliperを用いて、腫瘍の長さと幅と厚さを測定し、次式にしたがって算出された。
腫瘍体積(mm3)=(長さ)x(幅)x(厚さ)
【0096】
(B)結果
HCC1569の接種後28日(4週間)と56日(8週間)の腫瘍体積のデータを図10に示した。HCC1569の接種後28日と接種後56日のデータを比較すると、無処置群、KLRG1陽性細胞を減じたヒト末梢血単核球投与群、トラスツズマブ投与群およびヒト末梢血単核球とトラスツズマブの両者を投与した群では、いずれも腫瘍体積は増加した。KLRG1陽性細胞を減じたヒト末梢血単核球とトラスツズマブの両者を投与した群では、腫瘍体積の増加は認めなかった。
【0097】
実施例8
(A)方法
(1)マウスKLRG1陽性細胞吸着器
実施例2の活性化不織布を直径0.48cmの円に切断したもの6枚と抗マウスKLRG1モノクローナル抗体(eBioscience)を用い、実施例2の方法によりマウスKLRG1陽性細胞吸着材を作製した。更に該マウスKLRG1陽性細胞吸着材を実施例2の方法により入口と出口を有する容積約0.05mlの容器に充填し、マウスKLRG1陽性細胞吸着器を作製した。
【0098】
(2)マウスKLRG1陽性細胞の吸着性能評価
ACD−A(acid citrate dextrose solution-A; テルモ(株))加マウス新鮮血液3.0ml(血液:ACD−A=8:1)をシリンジポンプにて該マウスKLRG1陽性細胞吸着器の入口より流速0.064ml/minで送液し、該マウスKLRG1陽性細胞吸着器の出口より処理後の血液を回収した。該マウスKLRG1陽性細胞吸着器により処理する前の血液および処理後の血液を、蛍光標識された抗マウスCD3抗体、抗マウスCD49b抗体、抗マウスKLRG1抗体により染色し、CD3陰性・CD49b陽性の細胞をNK細胞としてフローサイトメーター(Cytomics FC 500、Beckman Coulter)により解析した。
【0099】
(B)結果
CD3陰性・CD49b陽性・KLRG1陽性であるマウスKLRG1陽性NK細胞の吸着率は98.4%であった。またCD3陰性・CD49b陽性・KLRG1陰性であるマウスKLRG1陰性NK細胞の吸着率は45.4%、マウスリンパ球の吸着率は26.3%、マウス血小板の吸着率は−2.5%であり、マウス血からマウスKLRG1陽性細胞を特異的に吸着することができた(表2)。
【0100】
【表2】
【0101】
実施例9
(A)方法
(1)マウス体外循環用機器の設計
マウス体外循環用の回路は、内径0.5mm・外径4mmのシリコンチューブと外径0.6mm・内径0.3mmのウレタンチューブ2本、およびミニフィッティング(VPY106、アイシス)を組み合わせて作製した。該回路の内容量は0.09mlとした。体外循環の動力としてはペリスタポンプ(SJ−1211H型、アトー)を使用し、流速は0.064ml/minとした。体外循環中、該回路中のミニフィッティングよりACD−Aをマイクロシリンジポンプにて0.008ml/minで持続投与することとした。実施例8の該マウスKLRG1陽性細胞吸着器を該回路に接続後、ACD−Aと生理食塩水を11:14に混合した溶液を送液し、15分間のプライミングするものとした。
【0102】
(2)マウス
ヌードマウス(BALB/c−nu/nu、6週齢、雌、日本SLC)の皮下に0.2mlのPBSに懸濁した5.0×106個のHER2陽性Pan−cadherin陽性ヒト乳癌細胞株HCC1569を接種した。4週間後、この担癌マウスを次の3群に分け、各処理を実施した。a)無処置群(コントロール群)、b)トラスツズマブ投与群、c)全血液量の2倍量を体外循環により処理し、トラスツズマブを投与する群、各群n=6とした。体外循環およびトラスツズマブ投与は週当たり1回、3週間実施し、トラスツズマブはマウスの体重1g当たり0.005mg腹腔内投与した。全てのマウスは、認定されたプロトコールに基づく施設のガイドラインに従って維持され、取り扱われた。
【0103】
(3)マウス体外循環実施方法
該担癌マウスにイソフルランにより麻酔をかけ、皮膚を切開して両頸静脈を露出した。この両頸静脈にサーフローF&F(テルモ)を留置して脱血および返血口とし、該回路と接続した。実験動物の血液学(関正利ら、ライフサイエンス社、1981年)を参考に、各マウスの全血液量を算出し、全血液量の2倍を体外循環にて処理した。体外循環後は、生理食塩水を2分30秒送液して該マウスKLRG1陽性細胞吸着器および該回路内の血液をマウスへ返血した。また、傷口は止血の後、縫合した。
【0104】
(4)腫瘍体積の測定
腫瘍体積の測定は実施例7(3)と同様に実施した。
【0105】
(B)結果
各群処理前および処理1〜3週間後の腫瘍体積と、処理前に対する処理後の腫瘍体積の増加率のn=6(3週経過後のcのみn=5)の平均値を表3に示した。
【0106】
【表3】
【0107】
無処理群(表3a)では、処理前の腫瘍体積に対し、1週経過後で185%、2週経過後で307%、3週経過後で615%に増加した。トラスツズマブ投与群(表3b)でも同様に腫瘍体積は増加傾向を示し、1週経過後で145%、2週経過後で306%、3週経過後で655%に増加した。
【0108】
一方、全血液量の2倍量を体外循環により処理し、トラスツズマブを投与した群(表3c)では、1週経過後で83%、2週経過後で141%、3週経過後で177%であった。全血液量の2倍量を体外循環により処理し、トラスツズマブを投与した群(表3c)は、1週経過後に腫瘍体積の減少傾向を示し、また3週経過後において、無処理群(表3a)およびトラスツズマブ投与群(表3b)に対して有意に腫瘍増加を抑制した(それぞれp=0.018、p=0.038)。
【0109】
以上の実験結果から明らかなように、体外循環処理と抗体医薬の併用により、KLRG1に対するリガンドが陽性である上皮性癌の生体に対して明らかに有意な抗癌作用が認められた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10