特許第5804611号(P5804611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5804611
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】挿し穂又は接ぎ穂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 1/00 20060101AFI20151015BHJP
   A01G 1/06 20060101ALI20151015BHJP
【FI】
   A01G1/00 302A
   A01G1/06
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-55806(P2014-55806)
(22)【出願日】2014年3月19日
(65)【公開番号】特開2015-177747(P2015-177747A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2014年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】506126314
【氏名又は名称】松山市
(74)【代理人】
【識別番号】100121773
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 正
(72)【発明者】
【氏名】谷口 和也
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 SANDERSON K C,Vacuum Infusion with Daminozide for Retarding Potted Chrysanthemum Height.,HortScience,米国,American Society for Horticultural Science,1994年,29巻4号,330頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 1/00
A01G 1/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿し木に用いる挿し穂又は接ぎ木に用いる接ぎ穂を製造する方法において、
母株から上側及び下側が切断された挿し穂又は接ぎ穂を切り出す切り出し工程と、
切り出した挿し穂又は接ぎ穂の上側又は下側の切口を注入液に浸漬した状態で、他方の切口から吸引することで、前記注入液を挿し穂又は接ぎ穂の導管内に強制的に注入する注入工程と、
を備えることを特徴とする挿し穂又は接ぎ穂の製造方法。
【請求項2】
挿し木に用いる挿し穂又は接ぎ木に用いる接ぎ穂を製造する方法において、
母株から上側及び下側が切断された挿し穂又は接ぎ穂を切り出す切り出し工程と、
切り出した挿し穂又は接ぎ穂の上側又は下側の切口から加圧する、又は、切り出した挿し穂又は接ぎ穂の上側又は下側の切口から吸引することで、挿し穂又は接ぎ穂の導管内の液体を強制的に排出する排出工程と、
導管内の液体が排出された挿し穂又は接ぎ穂の上側又は下側の切口を注入液に浸漬することで、挿し穂又は接ぎ穂の導管内に毛細管現象により前記注入液を注入する注入工程と、
を備えることを特徴とする挿し穂又は接ぎ穂の製造方法。
【請求項3】
前記注入工程は、挿し穂又は接ぎ穂の上側又は下側の切口を前記注入液に浸漬した状態で、さらに他方の切口から前記注入液を強制的に吸引する工程であることを特徴とする請求項2記載の挿し穂又は接ぎ穂の製造方法。
【請求項4】
挿し穂又は接ぎ穂の切口から導管内を加圧又は吸引するための加圧吸引器具として、挿し穂又は接ぎ穂の端部に被せられる吸い口の内面に、周方向に周回する凸条が形成されており、端部に被せられた際に、前記挿し穂又は接ぎ穂の表面に内面が密着する吸い口を有する加圧吸引器具を用いることを特徴とする請求項1乃至3何れか1項記載の挿し穂又は接ぎ穂の製造方法。
【請求項5】
挿し穂又は接ぎ穂の切口から導管内を加圧又は吸引するための加圧吸引器具として、挿し穂又は接ぎ穂の端部に被せられる吸い口の内周壁面の素材として、変形自在な柔軟性のある素材であって、挿し穂又は接ぎ穂の表面の形状に合わせて変形して密着する素材を採用した加圧吸引器具を用いることを特徴とする請求項1乃至3何れか1項記載の挿し穂又は接ぎ穂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の繁殖方法に関し、特に、挿し木に用いる挿し穂や接ぎ木に用いる接ぎ穂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、植物の繁殖方法として、挿し木や接ぎ木が広く行われており、挿し木等の発根率や成長を促進させるための各種の方法が提案されている。例えば、挿し穂等を発根促進剤の溶液に浸けてから挿し床に挿し木する方法が行われており、下記特許文献1,2等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−304760号公報
【特許文献2】特開2008−61602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
挿し木する前に挿し穂を発根促進剤の溶液に浸ければ、挿し穂の発根率を向上させることができるが、挿し穂の導管内に溶液を吸い込ませるには時間もかかり、作業効率が良くない。また、挿し穂を発根促進剤の溶液に浸ける時間が十分でないと、導管内に吸い込まれる溶液の量が少なくなり、挿し穂の成長に悪影響が出ることも考えられる。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、発根率が高く成長が促進される挿し穂又は接ぎ穂を効率良く製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明に係る挿し穂又は接ぎ穂の製造方法は、挿し木に用いる挿し穂又は接ぎ木に用いる接ぎ穂を製造する方法において、母株から上側及び下側が切断された挿し穂又は接ぎ穂を切り出す切り出し工程と、切り出した挿し穂又は接ぎ穂の上側又は下側の切口を注入液に浸漬した状態で、他方の切口から吸引することで、前記注入液を挿し穂又は接ぎ穂の導管内に強制的に注入する注入工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る挿し穂又は接ぎ穂の製造方法は、挿し木に用いる挿し穂又は接ぎ木に用いる接ぎ穂を製造する方法において、母株から上側及び下側が切断された挿し穂又は接ぎ穂を切り出す切り出し工程と、切り出した挿し穂又は接ぎ穂の上側又は下側の切口から加圧する、又は、切り出した挿し穂又は接ぎ穂の上側又は下側の切口から吸引することで、挿し穂又は接ぎ穂の導管内の液体を強制的に排出する排出工程と、導管内の液体が排出された挿し穂又は接ぎ穂の上側又は下側の切口を注入液に浸漬することで、挿し穂又は接ぎ穂の導管内に毛細管現象により前記注入液を注入する注入工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る挿し穂又は接ぎ穂の製造方法によれば、発根率が高く成長が促進される挿し穂又は接ぎ穂を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第一実施形態に係る挿し穂の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図2図2は、本発明の第一実施形態に係る挿し穂の製造方法のイメージを示す模式図である。
図3図3は、本発明の第一実施形態に係るスポイトの吸い口の垂直断面図である。
図4図4は、本発明の第二実施形態に係る挿し穂の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図5図5は、本発明の第二実施形態に係る挿し穂の製造方法のイメージを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の第一実施形態及び第二実施形態について説明する。ここでは、挿し木に用いる挿し穂の製造方法について説明する。
【0011】
(第一実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第一実施形態について詳細に説明する。図1は、第一実施形態に係る挿し穂の製造方法の流れを示すフローチャートである。図2は、第一実施形態に係る挿し穂の製造方法のイメージを示す模式図である。図3は、第一実施形態に係るスポイトの吸い口の垂直断面図である。
【0012】
本実施形態では、挿し穂1の導管内に注入液8を吸引圧(負圧)により強制的に注入することを特徴としている。挿し穂1としては、「シャインマスカット」のブドウの枝を切り取ったものを用いた。
【0013】
もちろん、本発明は種々の植物に対して適用することができ、例えば、菊、カーネーション、マーガレット、ペチュニア、スターチス等の花き類、サツマイモ、ニンニク、トマト等の野菜類、ブドウ、ブルーベリー等の果樹類、シャクナゲ等の花木類、ユーカリやシラカバなどの樹木類等の植物に適用することができる。また、挿し木に用いる挿し穂だけでなく、接ぎ木に用いる接ぎ穂にも本発明を適用することができる。
【0014】
図1に示すように、挿し穂の製造にあたって、まずS10において、母株から挿し穂1の切り出しを行う。具体的には、ブドウの樹の枝を切り取り、所定の長さ、例えば、各挿し穂に2つの芽が含まれるように切り分ける。本実施形態では、上側及び下側の両端二箇所に切口が形成された挿し穂1を切り出した。
【0015】
続いて、S11に進み、切り出した挿し穂1の上側又は下側の一方の切口を液体容器9に入れられた注入液8に浸ける。例えば、挿し穂1の下側の切口(基部)を注入液8に浸ける。この注入液8は、後述するように、挿し穂1の発根率を向上させたり、成長を促進させたりするために、挿し穂1の導管内に注入される液体である。注入液8としては、例えば、水、希釈発根促進ホルモン(オーキシン等)、液体肥料、成長促進のための菌体・薬剤等の微粒子を含む液体が用いられる。
【0016】
続いて、S12に進み、スポイト3を用いて、挿し穂1の注入液8に浸けていない方の他方の切口から導管内に注入液8を吸引する。具体的には、作業者がスポイト3のニップル6を摘まんで空気を出した状態で、挿し穂1の他方の切口部分にスポイト3の吸い口4部分を被せる。すなわち、挿し穂1の他端の枝がスポイト3の吸い口4の内部に挿入される。
【0017】
ここで、スポイト3は、挿し穂1の一方の切口から加圧して気体や液体を挿し穂1の導管内に強制的に注入したり、同じく一方の切口から吸引して気体や液体を挿し穂1の導管内から抜き出したりするために用いる加圧吸引器具である。
【0018】
図3に示すように、スポイト3の先端の吸い口4の内周壁には、螺旋状の凸条5が形成されている。挿し穂1の枝(茎)は、断面が真円ではなく楕円形状となっていたり、その表面には、多少の凸凹が形成されていたりするため、一般的なスポイトを被せた場合、吸い口内周壁と挿し穂1の表面との間に隙間が出来てしまい、導管への吸引力や加圧力が減衰してしまう。
【0019】
これに対して、螺旋状の凸条5が形成されたスポイト3であれば、内周壁と挿し穂1の枝表面とが密着して密閉度が向上し、導管への吸引力や加圧力の減衰を抑えることができる。なお、凸条5は螺旋状に限定されるものではなく、周方向に複数回周回する凸条5であれば、同様の作用効果を奏することができる。
【0020】
また、スポイト3の吸い口内周壁を挿し穂1に密着させるための構成としては、凸条5に限らず、他の構成を採用することもできる。例えば、柔軟性のある変形自在の素材を吸い口4の内周壁として用いれば、挿し穂1の断面が楕円形状であったり表面に凹凸が形成されていたりしたとしても、吸い口4の内周壁自体が、挿し穂1の表面形状に合わせて変形して密着することができる。このような柔軟性のある変形自在の素材としては、シリコーンゴム等を用いることができる。
【0021】
続いて、S13では、作業者がスポイト3のニップル6を解放することで、スポイト3の吸い口4先端に吸引力が発生し、注入液8に浸けられた挿し穂1の一方の切口から導管内に注入液8が強制的に吸引され、導管内に注入液8が注入される。
【0022】
従来、挿し穂の一方の切口を成長促進剤に浸けるだけで導管内に吸引させる場合には、少なくとも半日以上は浸漬させておく必要があったが、強制的に吸引させる本実施形態によれば、数十秒もあれば、挿し穂1内に注入液8を注入することができる。
【0023】
また、導管内に強制的に注入液を吸引できない場合には、導管が詰まっているためと考えられ、吸引できない挿し穂1を取り除くことで、不良品を排除することもできる。このようにして、導管内に注入液8が注入された挿し穂1が効率的に製造され、続いて、S14において、この挿し穂1を挿し床に挿し木して育苗することで、発根率が高く、成長の早い挿し木苗を作ることができる。
【0024】
(第二実施形態)
続いて、図面を参照しながら、本発明の第二実施形態について詳細に説明する。図4は、第二実施形態に係る挿し穂の製造方法の流れを示すフローチャートである。図5は、第二実施形態に係る挿し穂の製造方法のイメージを示す模式図である。なお、第一実施形態と同じ部材には同じ符番を付して、詳細な説明は省略する。
【0025】
本実施形態では、挿し穂1の導管内の既存の液体を加圧により強制的に外部に排出してから、毛細管現象を利用して挿し穂1の導管内に注入液8を素早く注入することを特徴としている。本実施形態においても、挿し穂1として、「シャインマスカット」のブドウの枝を切り取ったものを用いた。
【0026】
図4に示すように、挿し穂の製造にあたって、まずS20において、上記S10と同様に、母株から挿し穂1の切り出しを行う。続いて、S21において、スポイト3を用いて、切り出した挿し穂1の上側又は下側の一方の切口から導管内を加圧する。具体的には、スポイト3のニップル6を膨らました状態で、挿し穂1の端部に対して吸い口4部分が密閉状態となるように被せる。
【0027】
そして、作業者がスポイト3のニップル6を摘まんで吸い口4部分から空気を放出することで、挿し穂1の導管内に空気が送り込まれ、導管内が加圧される。S21において、導管内が加圧されると、S22において、挿し穂1の導管内に存在していた既存の液体が他方の切口から強制的に外部に排出される(図5参照)。なお、S21では、導管内を加圧して導管内の液体を排出しているが、スポイト3の吸引により導管内の液体を排出するようにしても良い。
【0028】
このように、挿し穂1の導管内が空になった状態で、S23において、挿し穂1の一方の切口を液体容器9内に入れられた注入液8に浸ける。そうすると、S24において、毛細管現象により、注入液8が挿し穂1の導管内に素早く強制的に吸引される。なお、このとき、さらに反対側の切口からスポイト3で導管内を吸引し、より強制的に注入するようにしても良い。
【0029】
このようにして、導管内に注入液8が注入された挿し穂1が製造され、続いて、S25において、この挿し穂1を挿し床に挿して育苗することで、発根率が高く、成長の早い挿し木苗を作ることができる。
【0030】
以上、本発明の第一実施形態及び第二実施形態について説明したが、本発明によれば、挿し穂1の導管内に注入する注入液を、吸引により強制的に注入したり、既存の導管内の液体を強制的に排出してから毛細管現象により素早く強制的に注入したりすることで、発根率が高く、成長の早い挿し穂を効率良く製造することができる。
【0031】
続いて、本発明の実施による実験のテスト結果について説明する。なお、以下の実験では、枝の違いによる発根率の差をなくために、同じ枝から取られた挿し穂が各試験区になるべく同じ数ずつ割り当てられるようにしている。
(1)実験1
条件:ブドウ品種「シャインマスカット」の結果母枝を2012年12月19日に採取し、それを、各枝にそれぞれ10芽程度含む50cm程度の枝に切り分けた。これら切り分けた枝を、濡れ新聞紙で包んでからビニール袋に入れて、5℃に設定された冷蔵庫の中で保存した。
【0032】
その後、2013年2月15日に、これら10芽程度の枝を、さらに2芽ずつ含む枝に切り分けてから、試験区(実施例1、比較例1、比較例2)毎に異なる手法で液体の注入処理を行った。各試験区の注入処理手法は、下記の通りである。注入処理後、各試験区の挿し床に挿し木し、挿し込んでから一ヶ月後の2013年3月14日の発根本数を調べた。なお、実験1において、挿し木した挿し穂の本数は、比較例1が54本、比較例2が52本、実施例1が53本である。
【0033】
比較例1:切り分けた挿し穂の下部を純水に12時間程度浸漬させてから、挿し床への挿し込みを行った。すなわち、一方の切口のみを純水に浸けた。
比較例2:切り分けた挿し穂の全体を純水に2時間程度浸漬させてから、挿し床への挿し込みを行った。
【0034】
実施例1:上述した第二実施形態に開示した方法により、挿し穂を製造し、挿し床に挿し木した。なお、注入液としては、純水を用いた。また、S24において、毛細管現象により挿し穂の導管内に純水を注入する際には、挿し穂の上側の切口に中の空気を抜いた状態のスポイトを刺し込み、吸引圧(負圧)により強制的に純水を導管内に吸引した。
【0035】
なお、本実験1において、スポイトは、メスピペット用シリコンスポイントを使用し、挿し穂の太さに合わせて、穴径4.0mm、容量5mlのものと、穴径5.0mm、容量10mlのものを使い分けた。また、挿し床は、鹿沼土小粒100%の挿し床とし、暖房のついたガラス温室ハウス内に設置した。
【0036】
実験1のテスト結果を下記表1に示す。
【表1】
【0037】
表1に示すように、実施例1では、53本中41本が発根し、発根率が77%であったのに対して、比較例1では、54本中26本が発根し、発根率は48%、比較例2では、52本中27本が発根し、発根率は52%であった。このように、挿し穂の導管内に強制的に短時間で純水を注入した実施例1は、比較例1,2と比べて格段に高い発根率を示した。
【0038】
(2)実験2
条件:ブドウ台木品種「テレキ5BB」の結果母枝を2012年11月30日に採取し、各枝に10芽程度が含まれるように切りそろえた。これらの枝を濡れ新聞紙で包んでからビニール袋に入れ、5℃に設定された冷蔵庫の中で保存した。
【0039】
その後、2013年12月12日に、これら10芽程度の枝を、さらに2芽ずつ含む枝に切り分けてから、試験区(実施例2、実施例3、比較例3)毎に異なる手法で液体の注入処理を行った。各試験区の注入処理手法は、下記の通りである。注入処理後、各試験区の挿し床に挿し込み、その後、2013年2月4日、2013年2月12日、2013年2月18日、2013年2月25日の発根本数を調べた。なお、実験2において挿し木した挿し穂の本数は、比較例3、実施例2及び実施例3の全てにおいて20本である。
【0040】
比較例3:上記比較例1と同じ。
実施例2:上記実施例1と同じ。
実施例3:上記実施例1と同じ手法であるが、注入液として、純水の代わりに、発根促進剤として広く用いられているオキシベロン400倍希釈液を使用した。
なお、本実験2において使用したスポイトや挿し床は上記実験1と同じである。
【0041】
実験2のテスト結果を下記表2に示す。
【表2】
【0042】
表2に示すように、2013年2月25日における累積発根率は、比較例3に比べて、実施例2,3が格段に高くなっている。また、実施例2と実施例3とを比較すると、発根率は略同じであるが、2013年2月12日の累積発根率を参酌すれば、発根促進剤を注入液として用いた実施例3のほうが発根が速くなっている。
【0043】
(3)実験3
条件:1年生キコクの挿し穂を2011年2月23日に採取し、5cmずつに切り分けた後、直ちに試験区(比較例4、実施例4)毎に異なる手法で液体の注入処理を行った。各試験区の注入処理方法は下記の通りである。注入処理後、即座に各試験区の挿し床に挿し込み、後日(2011年4月11日、2011年4月18日、2011年4月23日)発根数を数えた。なお、実験3において挿し木した挿し穂の本数は、比較例4及び実施例4の双方において10本である。
【0044】
比較例4:切り分けた挿し穂の下部を水道水に2時間程度浸漬させてから、挿し床への挿し込みを行った。すなわち、一方の切口のみを純水に浸けた。
実施例4:上記第一実施形態に開示した方法。但し、S12において吸引圧を生成する加圧吸引器具として、スポイトの代わりに、水道水の水流を利用したアスピレーターを使用し、アスピレーターに接続されたシリコンチューブを挿し穂の一端に取り付けて注入水を吸引した。
なお、本実験3において、挿し床は、赤玉土100%とした。
【0045】
実験3のテスト結果を下記表3に示す。
【表3】
【0046】
表3に示すように、実施例4においては、全ての挿し穂が発根したのに対して、比較例4では、2本の挿し穂が発根せず、発根率、発根スピードの双方において、実施例4のほうが格段に上回っている。
【0047】
(4)実験4
条件:1年生キコクの挿し穂を2011年2月28日に採取し、5cmずつに切り分けた後、直ちに試験区(比較例5、実施例5)毎に異なる手法で液体の注入処理を行った。各試験区の注入処理方法は下記の通りである。注入処理後、即座に各試験区に挿し穂を挿し込み、後日(2011年3月28日、2011年4月8日、2011年4月13日)発根数を数えた。なお、実験4において挿し木した挿し穂の本数は、比較例5及び実施例5の双方において10本である。
【0048】
比較例5:上記比較例4と同じ。
実施例5:上記実施例4と同じ。
なお、本実験4においても、挿し床は、赤玉土100%とした。
【0049】
実験4のテスト結果を下記表4に示す。
【表4】
【0050】
表4に示すように、実施例5及び比較例5の双方において、最終的に発根しない挿し穂が1本であったが、発根のスピードは、実施例5のほうが比較例5のよりも格段に速かった。
【0051】
(5)実験5
1年生キコク挿し穂を2011年5月23日に採取し、5cmずつに切り分けた後、直ちに試験区(比較例6、実施例6、実施例7)毎に異なる手法で液体の注入処理を行った。各試験区の注入処理方法は、下記の通りである。
【0052】
比較例6:上記比較例4と同じ。
実施例6:上記第二実施形態に開示した方法。但し、S21,S22において挿し穂の導管内の液体を排出する際の加圧吸引器具として、スポイトの代わりに、水道水の水流を利用したアスピレーターを使用し、アスピレーターに接続されたシリコンチューブを挿し穂の一端に取り付けて、導管内の液体を吸引により抜いた。
実施例7:上記実施例4と同じ。
【0053】
注入処理後、即座に各試験区に挿し穂を挿し込み、2011年11月に、生育の良好な樹を各試験区において5本ずつ選び、地上部と地下部に解体後、80℃の乾燥機で48時間以上乾燥後、乾物重を測定した。なお、実験5において挿し木した挿し穂の本数は、比較例6、実施例6及び実施例7の全てにおいて10本である。
【0054】
実験5のテスト結果を下記表5に示す。
【表5】
【0055】
表5に示すように、サンプル1〜5の平均において、地上部の重量は、実施例7が一番重く、続いて、実施例6が重く、比較例6は一番軽い。また、地下部の重量(根の重さに相当)についても、実施例7が一番重く、続いて、実施例6が重く、比較例6が一番軽くなっている。これらの結果は、挿し穂の成長について、実施例7が一番早く、次に実施例6が早く、比較例6が一番遅いことを示している。
【0056】
以上、実験1〜5の結果からも、本発明により製造した挿し穂は、発根率が高く、成長も促進されていることが示されている。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の実施の形態は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、挿し穂の切口から導管内を加圧したり吸引したりするための加圧吸引器具は、スポイトやアスピレーターに限らず、適宜他の器具を使用することができる。
【0058】
また、上記実施形態では、枝(茎)の上側及び下側の両端を切断して切口を形成した接ぎ穂について説明したが、上側の切口については、必ずしも上端である必要はなく、側枝に切口を形成した接ぎ穂であっても良い。特に、野菜の接ぎ穂の場合には、上側の切口が側枝を切断して形成されるケースも多い。
【0059】
また、二本以上の側枝を切断するなどして、上側の切口が二箇所以上に形成されていても良い。但し、この場合には、側枝の一つの切口にスポイト3の吸い口4を被せても、導管内の加圧や吸引が困難な場合があるので、留意する必要があるが、下側の切口(基部)にスポイト3の吸い口4を被せて、導管内の液体の排出する処理等は良好に行うことができる。
【符号の説明】
【0060】
1 挿し穂
3 スポイト
4 吸い口
5 凸条
6 ニップル
8 注入液
9 液体容器
図1
図2
図3
図4
図5