特許第5804967号(P5804967)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5804967
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】エアバッグ及びエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/205 20110101AFI20151015BHJP
   B60R 21/231 20110101ALI20151015BHJP
【FI】
   B60R21/205
   B60R21/231
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-34597(P2012-34597)
(22)【出願日】2012年2月21日
(65)【公開番号】特開2013-169878(P2013-169878A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】306009581
【氏名又は名称】タカタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】辻本 慶
【審査官】 粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−276536(JP,A)
【文献】 特開平07−164986(JP,A)
【文献】 特開2003−312420(JP,A)
【文献】 特表2011−502071(JP,A)
【文献】 特開2004−256016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16−33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常時は折り畳まれてインストルメントパネルに内蔵されており、緊急時にガスが供給されてウインドシールドと乗員との間で膨張展開されるエアバッグであって、
前記エアバッグの下面部に配置された下面パッチクロスと、
前記エアバッグの上面部に配置された上面パッチクロスと、
前記エアバッグの側面部に配置された側面パッチクロスと、を有し、
前記下面パッチクロス、上面パッチクロス及び前記側面パッチクロスにより前記エアバッグの前方部分の外周全面を被覆した、
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
前記側面パッチクロスは、前記エアバッグの膨張完了状態において、前記エアバッグの前端部から、前記エアバッグを放出する開口部の後端部を超えた位置、前記エアバッグを備えたエアバッグカバーの後端部を超えた位置又は前記インストルメントパネルの後端部を超えた位置まで配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項3】
前記側面パッチクロスは、前記エアバッグの膨張完了状態において、前記エアバッグの前端部から少なくとも一部が前記エアバッグの全長の半分以上の位置まで配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項4】
前記側面パッチクロスは、前記エアバッグの膨張完了状態において、前記上面部側が前記下面部側よりも後方の位置まで配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項5】
前記下面パッチクロス及び前記上面パッチクロスは、前記側面パッチクロスよりも後方の位置まで配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項6】
前記エアバッグの内部に配置され前記ガスの流れを制御する整流手段を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項7】
前記エアバッグは、前記エアバッグの膨張完了状態において、前記ウインドシールドと一定の隙間を有するように構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項8】
通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグと、該エアバッグにガスを供給するインフレータと、前記エアバッグ及び前記インフレータを固定するリテーナと、前記エアバッグを収容するとともにインストルメントパネルに接続されるエアバッグカバーと、を有するエアバッグ装置において、
前記エアバッグは、請求項1〜請求項7のいずれかに記載されたエアバッグである、ことを特徴とするエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ及びエアバッグ装置に関し、特に、設計条件を緩和可能なエアバッグ及びエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、衝突時や急減速時等の緊急時にエアバッグを車内で膨張展開させて乗員に生ずる衝撃を吸収するためのエアバッグ装置が搭載されることが一般的になってきている。これらのエアバッグ装置は、一般に、通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグと、該エアバッグにガスを供給するインフレータと、前記エアバッグ及び前記インフレータを固定するリテーナと、前記エアバッグを被覆するエアバッグカバーと、を有する。
【0003】
そして、車両衝突時や急減速時には、前記インフレータから前記エアバッグにガスが供給されて前記エアバッグが膨張し、前記エアバッグカバーが開裂して前記エアバッグが車内に放出されて膨張展開する。特に、助手席用エアバッグ装置の場合には、インストルメントパネル、ウインドシールド(フロントガラス)及び乗員により囲まれた空間に前記エアバッグが膨張展開される。また、エアバッグの内部にインナーバッグやディフューザ等の整流手段が配置されたエアバッグも提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0004】
例えば、特許文献1に記載されたエアバッグは、ウインドシールド(フロントガラス)とインストルメントパネルとにより挟まれた状態に保持されるインナーバッグと、該インナーバッグに形成されたエアバッグの上下方向の展開を促進する吹出孔と、を備えた整流手段を有している。
【0005】
また、特許文献2に記載されたエアバッグは、インストルメントパネルの後端を越えて車両後方に飛びさない程度の小袋に形成された内袋と、該内袋に形成された上側穴部及び下側穴部と、を有し、上側穴部は開裂したドア端末を越えて車両後方に膨出する部分に設けられ、下側穴部はインストルメントパネルの開口部を越えて膨出する部分に設けられている整流手段を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−203280号公報
【特許文献2】特開2001−233152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1や特許文献2に記載されたエアバッグ装置では、エアバッグの展開方向や展開挙動を制御するために、エアバッグの内部にインナーバッグやディフューザ等の整流手段を配置している。また、その他に、エアバッグ装置では、一般に、エアバッグの展開方向や展開挙動を制御するために、エアバッグの形状、テザーの配置、インフレータの配置、ガスの供給量と排気量とのバランス、エアバッグカバーの形状等について、設計的検討及び調整が必要になる。したがって、エアバッグ装置の設計は、複雑かつ煩雑になる傾向にあり、設計に要する時間及び労力が多大であった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、エアバッグ装置の設計条件を緩和することができ、設計に要する時間及び労力を軽減することができる、エアバッグ及びエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、通常時は折り畳まれてインストルメントパネルに内蔵されており、緊急時にガスが供給されてウインドシールドと乗員との間で膨張展開されるエアバッグであって、前記エアバッグの下面部に配置された下面パッチクロスと、前記エアバッグの上面部に配置された上面パッチクロスと、前記エアバッグの側面部に配置された側面パッチクロスと、を有し、前記下面パッチクロス、上面パッチクロス及び前記側面パッチクロスにより前記エアバッグの前方部分の外周全面を被覆した、ことを特徴とするエアバッグが提供される。
【0010】
また、本発明によれば、通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグと、該エアバッグにガスを供給するインフレータと、前記エアバッグ及び前記インフレータを固定するリテーナと、前記エアバッグを収容するとともにインストルメントパネルに接続されるエアバッグカバーと、を有するエアバッグ装置において、前記エアバッグは、通常時は折り畳まれて前記インストルメントパネルに内蔵されており、緊急時に前記ガスが供給されてウインドシールドと乗員との間で膨張展開されるエアバッグであって、前記エアバッグの下面部に配置された下面パッチクロスと、前記エアバッグの上面部に配置された上面パッチクロスと、前記エアバッグの側面部に配置された側面パッチクロスと、を有し、前記下面パッチクロス、上面パッチクロス及び前記側面パッチクロスにより前記エアバッグの前方部分の外周全面を被覆した、ことを特徴とするエアバッグ装置が提供される。
【0011】
また、前記側面パッチクロスは、前記エアバッグの膨張完了状態において、前記エアバッグの前端部から、前記エアバッグを放出する開口部の後端部を超えた位置まで配置されていてもよいし、前記エアバッグを備えたエアバッグカバーの後端部を超えた位置まで配置されていてもよいし、前記インストルメントパネルの後端部を超えた位置まで配置されていてもよい。
【0012】
また、前記側面パッチクロスは、前記エアバッグの膨張完了状態において、前記エアバッグの前端部から少なくとも一部が前記エアバッグの全長の半分以上の位置まで配置されていてもよい。
【0013】
また、前記側面パッチクロスは、前記エアバッグの膨張完了状態において、前記上面部側が前記下面部側よりも後方の位置まで配置されていてもよい。
【0014】
また、前記下面パッチクロス及び前記上面パッチクロスは、前記側面パッチクロスよりも後方の位置まで配置されていてもよい。
【0015】
また、前記エアバッグの内部に配置され前記ガスの流れを制御する整流手段を有していてもよい。
【0016】
また、前記エアバッグは、前記エアバッグの膨張完了状態において、前記ウインドシールドと一定の隙間を有するように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
上述した本発明に係るエアバッグ及びエアバッグ装置によれば、エアバッグの前方部分の外周全面(すなわち、下面、上面及び側面)にパッチクロスを配置することにより、エアバッグの前方部分の剛性を高めることができ、エアバッグの膨張展開時におけるガイドとして機能させることができ、エアバッグの展開方向及び展開挙動の制御をサポートすることができる。したがって、エアバッグの形状、テザーの配置、インフレータの配置、ガスの供給量と排気量とのバランス、エアバッグカバーの形状、整流手段の構造等について、設計条件を緩和することができ、設計に要する時間及び労力を軽減することができる。
【0018】
また、側面パッチパネルをエアバッグ前端部から所定の位置(開口部後端部、エアバッグカバー後端部、インストルメントパネル後端部又はエアバッグ全長の半分)を超える範囲まで配置することにより、エアバッグの展開方向及び展開挙動の制御を効果的にサポートしつつ、種々のエアバッグ装置の特性に応じて容易に側面パッチパネルの配置範囲を設定することができる。
【0019】
また、側面パッチクロスの上面部側を下面部側よりも後方まで配置することにより、慣性力により負荷が生じやすいエアバッグの上面部側の剛性を高めることができ、効果的にエアバッグの展開方向及び展開挙動の制御をサポートすることができる。
【0020】
また、下面パッチクロス及び上面パッチクロスを側面パッチクロスよりも後方の位置まで配置することにより、エアバッグの下面部及び上面部の剛性を容易に高めることができ、下面パッチクロスと上面パッチクロスとの間で側面パッチクロスを面状に展開させることができ、ガイドとして機能させやすくすることができる。
【0021】
また、エアバッグに整流手段を配置した場合であっても、エアバッグの前方部分の剛性を高めたことにより、整流手段及びエアバッグの展開方向及び展開挙動の制御をサポートすることができ、整流手段の設計条件を緩和することができる。
【0022】
また、エアバッグを自立可能なエアバッグとした場合であっても、エアバッグの前方部分の剛性を高めたことにより、エアバッグの展開方向及び展開挙動の制御をサポートすることができ、他の構成部品の設計条件を緩和することができ、設計に要する時間及び労力を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第一実施形態に係るエアバッグ装置を示す全体構成図である。
図2図1に示したエアバッグを示す図であり、(A)は下面図、(B)は側面図、(C)は上面図、である。
図3】本実施形態に係るエアバッグ装置の作用の一例を示す図であり、(A)は第一実施形態、(B)は変形例、を示している。
図4】本発明の他の実施形態に係るエアバッグ装置を示す図であり、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図1図4を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の第一実施形態に係るエアバッグ装置を示す全体構成図である。また、図2は、図1に示したエアバッグを示す図であり、(A)は下面図、(B)は側面図、(C)は上面図、である。なお、説明の便宜上、図1ではエアバッグ装置の一部(エアバッグ1の根元部分)を切り欠いた状態を図示している。
【0025】
本発明の第一実施形態に係るエアバッグ装置は、図1及び図2に示すように、通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグ1と、エアバッグ1にガスを供給するインフレータ2と、エアバッグ1及びインフレータ2を固定するリテーナ3と、エアバッグ1を収容するとともにインストルメントパネルIに接続されるエアバッグカバー4と、を有し、エアバッグ1は、通常時は折り畳まれてインストルメントパネルIに内蔵されており、緊急時にガスが供給されてウインドシールドW(フロントガラス)と乗員Pとの間で膨張展開されるエアバッグであり、エアバッグ1の内部に配置されガスの流れを制御する整流手段5と、エアバッグ1の下面部に配置された下面パッチクロス11と、エアバッグ1の上面部に配置された上面パッチクロス12と、エアバッグ1の側面部に配置された側面パッチクロス13と、を有し、下面パッチクロス11、上面パッチクロス12及び側面パッチクロス13によりエアバッグ1の前方部分の外周全面を被覆したものである。なお、本実施形態において、「前方」とは車両前後方向の前方側を意味し、「後方」とは車両前後方向の後方側を意味している。
【0026】
図1に示したエアバッグ装置は、いわゆる助手席用エアバッグ装置であり、エアバッグ1は、例えば、シートSに着座した乗員P、ウインドシールドW及びインストルメントパネルIにより囲まれた空間にウインドシールドWと接触しないように膨張展開される。すなわち、本発明の第一実施形態に係るエアバッグ1は、膨張完了状態において、ウインドシールドWと一定の隙間Cを有するように構成されており、ウインドシールドWからの反力を利用せずに自立できるように構成されている。エアバッグ1には、乗員Pがエアバッグ1に接触した際にエアバッグ1内のガスを排気して衝撃を吸収するベントホール14が形成されていてもよい。
【0027】
なお、ここで、「エアバッグ1が自立している」とは、図示したように、膨張展開後のエアバッグ1がウインドシールドWと一定の隙間Cを有する場合に限られず、エアバッグ1とウインドシールドWとが接触している場合であってもウインドシールドWからの反力が小さく、実質的にエアバッグ1が自立している場合も含む趣旨である。
【0028】
また、図1では、エアバッグ1の膨張展開完了後の状態を図示しているが、エアバッグ1の膨張展開前の状態では、エアバッグカバー4の表面はインストルメントパネルIの一部を構成している。また、エアバッグカバー4は、図1に示すように、車両内装面を構成する板状部41と、板状部41の背面に配置されエアバッグ1の膨張展開路を構成するインナーケース42と、を有し、板状部41にはエアバッグ1の膨張展開時に開裂可能に形成された扉部43が形成されている。なお、エアバッグカバー4の構成については、図示したものに限定されるものではなく、従来から使用されているものを適宜選択して使用することができる。
【0029】
前記インフレータ2は、略円柱形状の外形をなし、エアバッグ1に内包された先端部の側周面にガス噴出口が形成されている。かかるインフレータ2は、リテーナ3に形成された開口部に嵌め込まれてバッグリング等の固定手段によりリテーナ3に固定されている。また、インフレータ2は、図示しないECU(電子制御ユニット)に接続されており、加速度センサ等の計測値に基づいて制御されている。ECUが車両の衝突や急減速を感知又は予知したような緊急時には、インフレータ2はECUからの点火電流により点火され、インフレータ2の内部に格納された薬剤を燃焼させてガスを発生させ、整流手段5を介してエアバッグ1にガスを供給する。なお、インフレータ2の形状や固定方法は、図示したものに限定されるものではなく、従来から使用されているものを適宜選択して使用することができる。
【0030】
前記リテーナ3は、例えば、側面部に接続されたフックにより、インナーケース42に形成された係止孔に係止されるとともに、接合部材を介して車内構造物6に連結されている。なお、リテーナ3及びその連結構造については、図示したものに限定されるものではなく、従来から使用されているものを適宜選択して使用することができる。
【0031】
前記整流手段5は、エアバッグ1の内部で膨張展開可能な袋体構造を有しており、膨張状態で、エアバッグ1の後方側下方に向かってガスを放出する第一開口部51と、エアバッグ1の後方側上方に向かってガスを放出する第二開口部52と、エアバッグ1の前方に向かってガスを放出する第三開口部53と、を備えている。そして、第一開口部51は、放出されるガスによってエアバッグ1の後方側の下面部をインストルメントパネルIに押し付ける機能を有し、第二開口部52は、放出されるガスによってエアバッグ1を上方に持ち上げる機能を有し、第三開口部53は、放出されるガスによってエアバッグ1の前方側の根元部の内圧を保持する機能を有する。
【0032】
なお、整流手段5の形状や開口部の配置は、図示したものに限定されるものではなく、上述した三つの機能を備えたものであれば、他の整流手段5を使用してもよい。また、エアバッグ1が自立型でない場合には、他の構成の整流手段を使用してもよいし、必要に応じて省略するようにしてもよい。
【0033】
ここで、図2に示したエアバッグ1は、図1に示したエアバッグ装置から取り外して膨張展開させた状態を図示したものである。したがって、エアバッグ1の下面部の膨張展開形状は、エアバッグカバー4によって拘束されておらず、図1に示したものと異なった形状となっている。
【0034】
エアバッグ1は、例えば、中央部を構成するセンターパネル1aと、センターパネル1aの両側に縫合される一対のサイドパネル1bと、により構成されている。センターパネル1a及びサイドパネル1bを縫合部1cによって接合し、センターパネル1aの両端部を縫合部1dによって接合することにより、袋体が構成される。また、図2(A)〜(C)の各図において、説明の便宜上、下面パッチクロス11、上面パッチクロス12及び側面パッチクロス13を塗り潰した状態を図示している。なお、エアバッグ1の袋体を形成するパネル構成は図示したものに限定されず、従来から使用されているパネル構成を使用することができる。
【0035】
図2(A)の下面図に示したように、センターパネル1aの下面部には、下面パッチクロス11が配置されている。下面パッチクロス11は、両側部が縫合部1cによってエアバッグ1に接合され、前端部が縫合部1dによってエアバッグ1に接合され、後端部が縫合部1eによってセンターパネル1aに接合されている。また、エアバッグ1の下面部及び下面パッチクロス11には、インフレータ2を挿通するインフレータ用開口部15が形成されている。なお、センターパネル1aの両端部には、位置合わせ用のタブ16が形成されており、このタブ16を重ね合わせてピンで固定することによりエアバッグ1を固定し、所定の縫合を行うように構成されている。
【0036】
図2(B)の側面図に示したように、サイドパネル1bには、側面パッチクロス13が配置されている。側面パッチクロス13は、図2(A)及び(C)に示したように、縫合部1cによってエアバッグ1に接合されるとともに、図2(A)〜(C)に示したように、後端部側が縫合部1fによってサイドパネル1bに接合されている。
【0037】
図2(C)の上面図に示したように、センターパネル1aの上面部には、上面パッチクロス12が配置されている。上面パッチクロス12は、両側部が縫合部1cによってエアバッグ1に接合され、前端部が縫合部1dによってエアバッグ1に接合され、後端部が縫合部1gによってセンターパネル1aに接合されている。
【0038】
ところで、エアバッグ1を折り畳む場合、エアバッグ1の下面部を平板部材に宛がった状態で、エアバッグ1を上方から押し潰して平面形状にした後、エアバッグカバー4内に収容できる大きさとなるように幅方向及び前後方向に折り畳まれる。そして、折り畳まれたエアバッグ1は、一般に、インフレータ2に近い部分(すなわち、エアバッグ1の前方部分)が折り畳まれたエアバッグ1の外側に配置され、インフレータ2から遠い部分(すなわち、エアバッグ1の後方部分)が折り畳まれたエアバッグ1の内側に配置されることが多い。したがって、エアバッグ1の膨張展開の初期段階において、整流手段5が膨張した場合に、エアバッグ1の前方部分が整流手段5と接触しやすい状態になっている。
【0039】
そこで、上述したように、エアバッグ1に下面パッチクロス11、上面パッチクロス12及び側面パッチクロス13を配置して、エアバッグ1の前方部分の外周全面を被覆することにより、エアバッグ1の前方部分の剛性を高めることができ、整流手段5及びエアバッグ1の展開方向及び展開挙動の制御をサポートすることができ、整流手段5及びエアバッグ1の設計条件を緩和することができる。なお、下面パッチクロス11、上面パッチクロス12及び側面パッチクロス13は、例えば、エアバッグ1を構成する基布(センターパネル1a及びサイドパネル1b)と同じ素材により構成される。
【0040】
また、図2(A)及び(C)に示したように、下面パッチクロス11及び上面パッチクロス12は、側面パッチクロス13よりも後方の位置まで配置されている。かかる構成により、エアバッグ1の下面部及び上面部の剛性を容易に高めることができ、下面パッチクロス11と上面パッチクロス12との間で側面パッチクロス13を面状に展開させることができ、ガイドとして機能させやすくすることができる。
【0041】
また、図1に示したように、側面パッチクロス13は、エアバッグ1の膨張完了状態において、エアバッグ1の前端部Qから、少なくともエアバッグ1を放出する開口部の後端部(ラインX1−X1)を超えた位置まで配置されており、好ましくはエアバッグ1を備えたエアバッグカバー4の後端部(ラインX2−X2)を超えた位置まで配置されている。ここで、ラインX1−X1の起点となる開口部の後端部及びラインX2−X2の起点となるエアバッグカバー4の後端部は、エアバッグの車両前後方向の中心断面上の端部であり、ラインX1−X1及びラインX2−X2は、各後端部からインストルメントパネルIに対して垂直に引くものとする。
【0042】
図1では、インストルメントパネルIにエアバッグカバー4を嵌め込む形式のエアバッグ装置を図示しているが、インストルメントパネルIとエアバッグカバー4とが一体に形成されている場合には、側面パッチクロス13の配置範囲はラインX1−X1によって規定される。
【0043】
側面パッチクロス13をラインX1−X1を超えた位置まで配置することにより、側面パッチクロス13の基布量を必要最小限に抑えつつ、エアバッグ1の前方部分を補強することができ、エアバッグ1の剛性を高めることができる。また、エアバッグ1及び整流手段5の形状や折り畳み方等によって補強したい箇所が広範囲に渡る場合には、側面パッチクロス13をラインX2−X2を超えた位置まで配置するようにすればよい。このように、側面パッチクロス13の配置範囲をエアバッグ1の特性に合わせて調整することにより、エアバッグ1及び整流手段5の展開方向及び展開挙動の制御を効果的にサポートしつつ、設計に要する時間及び労力を軽減することもできる。
【0044】
なお、図1では、側面パッチクロス13の後端部(縫合部1f)がラインX1−X1又はラインX2−X2と交差する方向(上面部側がラインX2−X2に接近し下面部側がラインX2−X2から離間する方向)に形成されているが、ラインX1−X1又はラインX2−X2と平行に形成されていてもよいし、上面部側がラインX2−X2から離間し下面部側がラインX2−X2に接近する方向に形成されていてもよい。
【0045】
ここで、図3は、本実施形態に係るエアバッグ装置の作用の一例を示す図であり、(A)は第一実施形態、(B)は変形例、を示している。また、図3の各図は、エアバッグ1,10の膨張展開が完了した状態を図示している。なお、図3の各図は、図1と同様にエアバッグ装置の一部を切り欠いた状態を図示しているが、説明の便宜上、破断線を省略している。
【0046】
図3(A)に示したように、上述した下面パッチクロス11、上面パッチクロス12及び側面パッチクロス13を有する本実施形態に係るエアバッグ1では、エアバッグ1の前方部分が補強されており、エアバッグ1の前方部分の剛性が他の部分(例えば、後方部分)よりも高くなるように構成されていることから、エアバッグ1の膨張展開時におけるガイドとして機能させることができ、エアバッグ1の展開方向及び展開挙動の制御をサポートすることができる。したがって、矢印で図示したように、乗員Pに向かってエアバッグ1を膨張展開させやすくすることができる。
【0047】
また、図示したように、自立型のエアバッグ1の場合には、エアバッグ1をインストルメントパネルIに押し付けておくことが重要であるところ、エアバッグ1の前方部分の剛性を高めることにより、エアバッグ1の展開方向及び展開挙動の制御をサポートすることができ、エアバッグ1を矢印で図示したように、下方に向かって膨張展開させることができる。
【0048】
このように、エアバッグ1の前方部分の剛性を高めることによって、エアバッグ1の展開方向及び展開挙動の制御をサポートすることができ、エアバッグ1の形状、テザーの配置、インフレータ2の配置、ガスの供給量と排気量とのバランス、エアバッグカバー4の形状、整流手段5の構造等について、設計条件を緩和することができ、設計に要する時間及び労力を軽減することができる。
【0049】
また、上述した第一実施形態に係るエアバッグ1では、側面パッチクロス13が、エアバッグ1の膨張完了状態において、上面部側が下面部側よりも後方の位置まで配置されていることから、慣性力により負荷が生じやすいエアバッグ1の上面部側の剛性を効果的に高めることができる。
【0050】
図3(B)に示した変形例は、ウインドシールドWの反力を利用した通常のエアバッグ装置におけるエアバッグ10に、上述した下面パッチクロス11、上面パッチクロス12及び側面パッチクロス13を配置したものである。かかる構成であっても、エアバッグ10の前方部分の剛性を高めることができ、エアバッグ10の膨張展開時におけるガイドとして機能させることができ、エアバッグ10の展開方向及び展開挙動の制御をサポートすることができる。したがって、矢印で図示したように、乗員Pに向かってエアバッグ10を膨張展開させやすくすることができる。
【0051】
また、かかる変形例においても、エアバッグ10の形状、テザーの配置、インフレータ2の配置、ガスの供給量と排気量とのバランス、エアバッグカバー4の形状の構造等について、設計条件を緩和することができ、設計に要する時間及び労力を軽減することができる。なお、図3(B)では整流手段を図示していないが、エアバッグ10は、整流手段を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0052】
次に、本発明の他の実施形態に係るエアバッグ装置について、図4を参照しつつ説明する。ここで、図4は、本発明の他の実施形態に係るエアバッグ装置を示す図であり、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態、を示している。なお、図4(A)及び(B)は、図1と同様にエアバッグ装置の一部を切り欠いた状態を図示しているが、説明の便宜上、破断線を省略している。また、図1に示した第一実施形態に係るエアバッグ装置と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0053】
図4(A)に示した第二実施形態は、側面パッチクロス13が、エアバッグ1の膨張完了状態において、エアバッグ1の前端部Qから少なくとも一部がエアバッグ1の全長Lの半分以上の位置まで配置されているものである。ここで、エアバッグ1の全長Lは、エアバッグ1の車両前後方向の長さを意味する。図示したエアバッグ1は、側面パッチクロス13の上面部側が前端部QからL/2以上の長さを有するように構成されているが、側面パッチクロス13の下面部側や中間部が前端部QからL/2以上の長さを有していてもよいし、側面パッチクロス13の後端部(縫合部1f)がL/2の長さと一致するように構成されていてもよい。
【0054】
このように、側面パッチクロス13の配置範囲をエアバッグ1の全長Lを基準に設定することにより、例えば、開口部後端部やエアバッグカバー後端部を基準に設定できない場合や設定が困難な場合であっても、側面パッチクロス13の配置範囲を容易に設定することができる。
【0055】
図4(B)に示した第三実施形態は、側面パッチクロス13が、エアバッグ1の膨張完了状態において、インストルメントパネルIの後端部(ラインX3−X3)を超えた位置まで配置されているものである。ここで、ラインX3−X3の起点となるインストルメントパネルIの後端部は、エアバッグの車両前後方向の中心断面上の端部であり、ラインX3−X3は、インストルメントパネルIの後端部から鉛直方向に引くものとする。第一実施形態に係るエアバッグ装置に示したラインX1−X1やラインX2−X2では不十分な場合やエアバッグカバー4及びインストルメントパネルIが一体に形成されている場合には、ラインX3−X3を基準に側面パッチクロス13の配置範囲を設定するようにしてもよい。
【0056】
図示したエアバッグ1では、側面パッチクロス13の上面部側がラインX3−X3から離間し下面部側がラインX3−X3に接近するように構成されているが、側面パッチクロス13の下面部側がラインX3−X3から離間し上面部側がラインX3−X3に接近するように構成されていてもよいし、側面パッチクロス13の後端部(縫合部1f)がラインX3−X3と平行となるように構成されていてもよい。
【0057】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
1,10 エアバッグ
1a センターパネル
1b サイドパネル
1c〜1g 縫合部
2 インフレータ
3 リテーナ
4 エアバッグカバー
5 整流手段
6 車内構造物
11 下面パッチクロス
12 上面パッチクロス
13 側面パッチクロス
14 ベントホール
15 インフレータ用開口部
16 タブ
41 板状部
42 インナーケース
43 扉部
51 第一開口部
52 第二開口部
53 第三開口部
図1
図2
図3
図4