(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5804976
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】ビスフェノールAの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 37/20 20060101AFI20151015BHJP
C07B 61/00 20060101ALI20151015BHJP
C07C 39/16 20060101ALI20151015BHJP
【FI】
C07C37/20
C07B61/00 300
C07C39/16
【請求項の数】2
【外国語出願】
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-44121(P2012-44121)
(22)【出願日】2012年2月29日
(62)【分割の表示】特願2002-559374(P2002-559374)の分割
【原出願日】2002年1月8日
(65)【公開番号】特開2012-149068(P2012-149068A)
(43)【公開日】2012年8月9日
【審査請求日】2012年3月29日
【審判番号】不服2014-11583(P2014-11583/J1)
【審判請求日】2014年6月18日
(31)【優先権主張番号】01/00882
(32)【優先日】2001年1月23日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アニ・コマリユ
【合議体】
【審判長】
井上 雅博
【審判官】
木村 敏康
【審判官】
辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第2602821(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールAを製造する連続的方法であって、
フェノールおよびアセトンを反応器に導入するステップと、
強酸触媒および2,2−ビス(メチルチオ)プロパン(BMTP)を、前記反応器内に添加するステップと、
前記強酸触媒および前記2,2−ビス(メチルチオ)プロパンの存在下で、フェノールとアセトンを反応させるステップと
を含み、
前記2,2−ビス(メチルチオ)プロパンは、ex situ合成により生じるものであり、
使用する2,2−ビス(メチルチオ)プロパンの量が、強酸触媒に対して2.5モル%から25モル%までであり、
40℃から160℃の温度で実施され、
作用圧が1バールから10バールであり、
接触時間が10分間から120分間である
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記2,2−ビス(メチルチオ)プロパンが、液体の状態で前記反応器に添加される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビスフェノールの分野に関し、その対象は、より特定すると、ビスフェノールA(4,4’−イソプロピリデン−ジフェノール)の製造である。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールAは、工業上最も一般的に使用されるビスフェノールである。100万トンより多く生産され、主としてプラスチックの製造、特にポリカーボネート、エポキシ樹脂及びポリエステルの製造における中間体として使用される。
【0003】
ビスフェノールAは長年にわたって知られてきた物質であり、その合成に関しては豊富な文献が存在する(例えば、「ウルマンの工業化学百科全書(Ullmann’s Encyclopaedia of Industrial Chemistry)」第5版、Vol.A 19,350〜351ページ参照)。工業的には、ビスフェノールAは通常、次の反応:
【0004】
【化1】
に従ってアセトン1モルをフェノール2モルと縮合することによって得られる。
【0005】
この反応は一般に、強酸触媒(HCl又はスルホン酸樹脂)及びメチルメルカプタン(MM)又は3−メルカプトプロピオン酸のようなメルカプタン共触媒の存在下で実施する。メルカプタン触媒が存在しない場合、前記の反応は可能ではあるが、速度がより遅く、選択性が低いため、2,4’異性体がより容易に形成される。
【0006】
添付の
図1は、ビスフェノールAを製造するための従来の工業的工程のフロー図である。この工程は基本的に、アセトン、フェノール、強酸及びメルカプタン(新鮮及び再循環)を供給する反応区域と、軽い分画と重い分画を分離して、メルカプタン(MM)を再循環させるための手段によってビスフェノールAを結晶化する区域を含む。
【0007】
そのような工程では、メルカプタンをすべて再循環させられるわけではなく、新鮮メルカプタンの供給を行う必要があり、この供給は場合によって総所要量の99%にのぼる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「ウルマンの工業化学百科全書(Ullmann’s Encyclopaedia of Industrial Chemistry)」第5版、Vol.A 19,350〜351ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
残念ながら、その高い毒性のゆえに、メチルメルカプタンの供給は安全性の問題を提起し、そのためメチルメルカプタンを共触媒として使用するビスフェノールAの製造業者は、メチルメルカプタンに代わる解決策を求めている。そこで、米国特許第4,517,387号では、ビスフェノールAを合成する反応においてメチルメルカプタンの供給をメチルメルカプチドナトリウム(SMM)の直接注入に置き換えることが提案された。この手順は、反応器内にナトリウム塩の沈積物を生じうるため、工業規模で使用することは難しいと思われる。考慮されたもう1つの解決法は、使用者の施設の特定プラントにおいて、ビスフェノールA合成反応器に注入する前にSMMからメチルメルカプタンを生成するというものである。しかし、この解決法は、SMMを強酸で中和するための付加的な反応器の設置を必要とし、また悪臭のある塩類水性排液を生じることから、実際に行うのは比較的厄介である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここで、メチルメルカプタンを一般式(I)のジチオエーテルに置き換えることによって前記の問題を解決しうることが発見され、この物質は、カルボニル誘導体(II)1分子をメルカプタン(III)2分子と縮合することによって得られる:
【0011】
【化2】
【0012】
メルカプタン製造施設においてex situで合成するとき、ジチオエーテルは取り扱いが容易な物質である。ビスフェノールAの合成のために通常使用される温度(25℃から180℃)で液体であるので、定量ポンプを用いて液体ジチオエーテルをビスフェノールA合成反応器に直接導入しうる;ジチオエーテルの使用は、それ故、既存のビスフェノールA製造プラントの実質的な変更を必要としない。さらに、SMMと異なって、ジチオエーテルは悪臭のあるアルカリ性排液を生成しないという利点を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、ビスフェノールAを製造するための従来の工業的プロセスのフロー図である。
【
図2】
図2は、メチルメルカプタン注入口の代わりに液体BMTPの注入口を使用する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の1つの対象は、それ故、一般式(I)のジチオエーテルを共触媒として使用することを特徴とする、強酸触媒と共触媒の存在下でフェノールとアセトンを反応させることによってビスフェノールAを製造する連続的方法である。この式において、また同様に式(II)及び(III)においても、記号R及びR’は、同じであるか又は異なっていてもよく、各々水素原子、1個から12個の炭素原子(好ましくは1個から4個)を含む線状又は分枝アルキル基又はフェニル基を表わし、記号R’’は、1個から12個の炭素原子(好ましくは1個から4個)を含み、場合によってはカルボン酸基で置換された線状又は分枝アルキル基を表わす。
【0015】
メチルメルカプタンを共触媒として使用する方法からあまりに離れすぎないために、メチルメルカプタンから誘導されるジチオエーテル(R’’=CH
3)が好ましい。ホルムアルデヒド(R=R’=H)又はアセトン(R=R’=CH
3)をメチルメルカプタン又は3−メルカプトプロピオン酸と縮合することによって得られるジチオエーテルが特に適切である。より一層好ましいジチオエーテルは、アセトン1分子とメチルメルカプタン2分子の縮合の産物である2,2−ビス(メチルチオ)プロパン(3,3−ジメチル−2,4−ジチアペンタンとしても知られ、以下BMTPの略語で示す):
【0016】
【化3】
及びホルムアルデヒド1分子とメチルメルカプタン2分子の縮合の産物であるビス(メチルチオ)メタン(2,4−ジチアペンタンとしても知られ、以下BMTMの略語で示す):
【0017】
【化4】
である。これら2つのジチオエーテルは次の特徴を有する:
【0019】
BMTP及びBMTMはメチルメルカプタンの等価物とみなしうる。それらは、従って、反応混合物中、等濃度の硫黄で作業し、メチルメルカプタンと同じ条件下でビスフェノールAを製造するための既存のプラントにおいて使用しうる。チオエーテルの1モルがメチルメルカプタンの2モルに相当するとして、BMTP 1kgは、活性において、メチルメルカプタン0.7kgに等しく、BMTM 1kgは、活性において、メチルメルカプタン0.88kgに等しい。
【0020】
ビスフェノールAを製造する従来の工業的プロセスにおいて、上記反応混合物中のメチルメルカプタン濃度が強酸触媒(スルホン酸樹脂、塩酸又は硫酸)に対して1モル%から100モル%であるとすると、使用すべきジチオエーテルの量は強酸触媒に対して0.5モル%から50モル%、好ましくは2.5モル%から25モル%となる。
【0021】
使用する該ジチオエーテルは既知の何らかの手段によって合成しうるが、それらは、塩酸、硫酸、あるいはスルホン酸樹脂(例えば、Amberlyst(登録商標)15樹脂)又はゼオライトなどの酸性固体のような、強酸触媒の存在下に室温で前記メルカプタン(III)を前記カルボニル誘導体(II)に注入し、次に回転蒸発装置又は蒸留により、過剰のカルボニル誘導体と生成された水を除去することによって好都合に合成される。合成の最後の反応混合物は、基本的にジチオエーテル、水及び反応していないカルボニル誘導体から成る。この反応混合物をそのまま(すなわち水及びカルボニル誘導体と混合したジチオエーテルとして)ビスフェノールA工程に注入してもよい(該ジチオエーテルがBMTPであるときには、混合物のすべての成分が反応媒質中に存在するので、特にこれに該当する)。
【0022】
本発明による方法では、共触媒がメチルメルカプタンであるときに使用されるのと厳密に同じ操作条件下で、すなわち:
−フェノール/アセトンのモル比:1から50、好ましくは5から20
−温度:25℃から180℃、好ましくは40℃から160℃
−圧:0.5バールから20バール、好ましくは1バールから10バール
−接触時間:5分間から180分間、好ましくは10分間から120分間
という条件下でビスフェノールAを合成する。
【0023】
前記反応中にBMTPがメチルメルカプタンを生じるとすると、気体流出物を収集し、その後再循環させるため又は水酸化ナトリウムで中和するために、通常の分離手順が何ら修正を加えることなく使用できる。
【0024】
上述したように、メチルメルカプタンをBMTPに置き換えることは、ビスフェノールAを製造するための既存のプラントに対する実質的な変更を必要とせず、唯一の変更は、添付の
図2に示すように、メチルメルカプタン注入口の代わりに液体BMTPの注入口を使用することである。
【0025】
本発明による方法の一特定実施態様によれば、純粋なBMTPの注入を、例えばメチルメルカプタンを過剰のアセトンと反応させることによるBMTPのex situ合成から生じるような、BMTP、アセトン及び水の混合物の注入に置き換えてもよい。反応器への新鮮アセトンの供給を調節するには、この混合物中に存在するアセトンを考慮すれば十分である。前記のBMTP−アセトン−水混合物は純粋BMTPと同じ程度に運搬しやすく、従ってBMTPを精製するための操作が回避される。
【0026】
同様に、純粋BMTMの注入は、メチルメルカプタンを過剰のホルムアルデヒドと反応させることによるBMTMのex situ合成から生じるような、BMTM、ホルムアルデヒド及び水の混合物の注入に置き換えられる。