(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5805079
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】糸供給システム
(51)【国際特許分類】
B65H 59/38 20060101AFI20151015BHJP
B65H 59/36 20060101ALI20151015BHJP
【FI】
B65H59/38 Y
B65H59/36
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-515794(P2012-515794)
(86)(22)【出願日】2011年4月14日
(86)【国際出願番号】JP2011059300
(87)【国際公開番号】WO2011145415
(87)【国際公開日】20111124
【審査請求日】2014年3月28日
(31)【優先権主張番号】特願2010-117815(P2010-117815)
(32)【優先日】2010年5月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】中畑 定
【審査官】
西本 浩司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−278943(JP,A)
【文献】
特開平04−140276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 59/38
B65H 59/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を巻き回したボビンを回転させて前記ボビンから糸を繰り出させる糸供給装置と、この糸供給装置から糸の受給装置に至る糸供給経路の途中でボビンから繰り出される糸を一旦貯留してから受給装置に送り出すことで、前記糸供給装置からの糸の供給量と前記受給装置の糸の使用量との相違に伴う糸に作用する張力の変動を緩和する糸貯留装置と、を備える糸供給システムであって、
前記糸貯留装置は、
糸が貯留される貯留部と、
糸に引っ掛けられて、糸を貯留部側に引き込むと共に、引き込み方向に沿って直線的に往復移動する引き込み片と、
引き込み片を引き込み方向に引っ張る弾性体と、を備え、
さらに、
前記弾性体の張力を測定する張力測定手段と、
予め求めておいた弾性体の張力と、ボビンからの糸の供給量を制御するための物理量との相関関係を用いて、前記張力測定手段の測定結果から前記物理量を導出する導出手段と、
導出した物理量に基づいてボビンからの糸の供給量を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする糸供給システム。
【請求項2】
前記引き込み片が往復移動する範囲の少なくとも2箇所に、前記引き込み片の位置を検出する検出センサを備え、
各検出センサの位置で前記引き込み片を検出したときに、前記張力測定手段で前記弾性体の張力を検出し、その結果に基づいて前記相関関係の校正を行うことを特徴とする請求項1に記載の糸供給システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記受給装置での糸の使用量に応じて、前記引き込み片が往復移動する範囲内で引き込み片がバランスする位置が変化するように、糸の供給量を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の糸供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸の供給を受ける編機や織機などの糸の受給装置に糸を供給する糸供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動で編地を編成する横編機や経編機、あるいは織物を織る織機、複数の糸を撚り合せる撚糸装置などの糸の受給装置に、糸を巻き回したボビンから糸を供給させる糸供給システムが知られている。この糸供給システムは、ボビンから糸を繰り出させる糸供給装置と、繰り出された糸を一旦貯留してから受給装置に送り出す糸貯留装置とを備える。
【0003】
糸貯留装置は、ボビンから繰り出される糸を一旦貯留してから受給装置に送り出すことで、糸供給装置からの糸の供給量と受給装置の糸の使用量との相違に伴う糸に作用する張力の変動を緩和する。例えば、特許文献の
図7,8には、糸に引っ掛けられるダンサローラ(引き込み片)により、鉛直方向に伸びる筒体(貯留部)に糸を引き込むことで、糸を一旦貯留している。この構成であれば、糸の供給量が使用量よりも多い場合、引き込み片は鉛直下方に移動し、糸がたるみなく張られた状態にできるし、糸の使用量が供給量よりも多い場合、引き込み片は鉛直上方に移動し、貯め込んだ糸を受給装置に送り出すことができる。通常、ダンサローラが、引き込み片の移動範囲のほぼ中間位置でバランスされたときに、糸がたるむことなく、かつ糸に過大な張力が作用しないように、糸貯留装置が構成されている。
【0004】
上記糸貯留装置を備える糸供給システムにおいて、糸供給経路にある糸に作用する張力の指標となる引き込み片の鉛直方向の位置を測定し、その測定結果に基づいて糸供給装置によるボビンからの糸の供給量を制御することが行われている。このような制御により、当該張力が低くなりすぎて糸がたるんでしまうことや、当該張力が高くなりすぎて糸が切れてしまうことなどを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−299426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した引き込み片の位置の測定には、従来、引き込み方向に所定の間隔を空けて複数並べられる近接センサや、引き込み方向に沿って配される磁歪式リニアセンサが用いられていた。しかし、これら引き込み片の位置の測定には、以下に示すような問題点があった。
【0007】
まず、近接センサを利用する場合、近接センサの数をいくら増やしたとしても、引き込み片の位置を断続的にしか把握することができないという問題がある。その結果、近接センサが設けられていない位置での引き込み片の挙動(引き込み片が引き込み方向のどちらに移動しているかなど)を把握することができないため、糸供給装置の制御が遅れてしまいがちになる。
【0008】
一方、磁歪式リニアセンサを使用する場合、引き込み片の位置を連続的に把握することができるものの、センサの構成が大掛かりで、しかもコストがかかるという問題がある。加えて、磁歪式リニアセンサでは測定対象の引き込み片を磁石で構成しなければならないため、引き込み片の質量が増す。その場合、糸の使用量が急激に減少したときにその変化に対する引き込み片の移動が遅れ、また、糸の使用量が急激に増加したときは糸に大きな張力が作用する恐れがある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構成で糸供給経路にある糸の張力が適正な範囲に維持され、たるみなくボビンから糸を供給させることができる糸供給システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明糸供給システムは、ボビンから糸を繰り出させる糸供給装置と、この糸供給装置から糸の受給装置に至る糸供給経路の途中でボビンから繰り出される糸を一旦貯留してから受給装置に送り出す糸貯留装置とを備える糸供給システムに関する。糸貯留装置は、糸が引き込まれる貯留部と、引き込み片と、弾性体と、を備える。引き込み片は、糸に引っ掛けられて、糸の引き込み方向に沿って直線的に往復移動する部材である。弾性体は、引き込み片を引き込み方向に引っ張る部材である。この本発明糸供給システムは、さらに、糸に引っ掛けられた弾性体の張力を測定する張力測定手段と、予め求めておいた弾性体の張力と、ボビンからの糸の供給量を制御するための物理量との相関関係を用いて、上記張力測定手段の測定結果から当該物理量を導出する導出手段と、導出した物理量に基づいてボビンからの糸の供給量を制御する制御手段と、を備える。
【0011】
本発明糸供給システムの一形態として、引き込み片が往復移動する範囲の少なくとも2箇所に、引き込み片の位置を検出する検出センサを備え、各検出センサの位置で引き込み片を検出したときに、張力測定手段で弾性体の張力を検出し、その結果に基づいて上記相関関係の校正を行うことが好ましい。
【0012】
本発明糸供給システムの一形態として、制御手段は、受給装置での糸の使用量に応じて、引き込み片が往復移動する範囲内で引き込み片がバランスする位置が変化するように、糸の供給量を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明糸供給システムによれば、糸を貯留部に引き込む引き込み片に連結される弾性体の張力をリアルタイムで連続して測定し、その測定結果から糸供給装置による糸の供給量を制御することで、糸供給経路にある糸に作用する張力を一定範囲に維持しつつ、糸の受給装置にたるまないように糸を供給することができる。その結果、受給装置で得られる結果物(編地や織物)の品質を向上させることができる。糸に作用する張力を一定範囲に保つために弾性体の張力を利用できるのは、弾性体の張力が貯留部における引き込み片の位置に応じて変化するためであり、引き込み片の位置が糸供給経路における糸に作用する張力の指標となるからである。
【0014】
また、検出センサを備える糸供給装置によれば、各検出センサの位置における弾性体の張力を検出し、弾性体の張力とボビンからの糸の供給量を制御するための物理量との相関関係を校正できる。その結果、糸供給装置から受給装置への糸の供給状態に及ぼす、環境の温度変化や弾性体の経年劣化などの影響を取り除くことができる。
【0015】
さらに、受給装置での糸の使用量に応じて、引き込み片がバランスする位置を変えることで、受給装置での糸の使用量の急激な変化に伴う糸のたるみや糸切れを防止できる。詳細は、実施形態の最後で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に示す糸供給システムの概略構成図である。
【
図2】糸供給システムにおける引き込み片の位置と弾性糸の張力との対応関係を示すルックアップテーブルの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明の実施形態は、下記実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で下記実施形態を適宜変更することができる。
【0018】
<全体構成>
図1に示す糸供給システム100は、編地を編成する横編機(糸の受給装置)4に糸3Yを供給するシステムであって、糸3Yを巻き回したボビン3から糸3Yを繰り出させる糸供給装置1と、この糸供給装置1から横編機4に至る糸供給経路の途中で、ボビン3から繰り出される糸3Yを一旦貯留してから横編機4に送り出す糸貯留装置2とを備える。この糸供給システム100の最も特徴とするところは、糸供給経路にある糸3Yに作用する張力が適正範囲に維持されるように、ボビン3からの糸3Yの供給量を制御する構成を備えることである。
【0019】
[糸供給装置]
本実施形態の糸供給装置1は、平行に配置される一対のローラーと、それらローラーを回転させるモーター1Mと、モーター1Mの回転を制御する制御手段1Cとを備える。この糸供給装置1でボビン3から糸3Yを繰り出させるには、一対のローラーの上にボビン3を載置し、モーター1Mでローラーを回転させる。糸3Yの繰り出し量(供給量)は、ボビン3の回転速度、即ち、ローラーの回転速度により調節される。
【0020】
上記糸供給装置1の他、ボビン3の巻胴を直接回転させることで糸3Yを繰り出させる糸供給装置を利用しても良いし、糸3Yを一対の送り出しローラーで挟み込んで、これらローラーの回転によって糸3Yを繰り出させる糸供給装置を利用しても良い。後者の構成では、ボビン3を何らかの部材に回転可能に軸支させ、糸3Yの繰り出しに従動してボビン3が回転するように構成すると良い。
【0021】
回転するボビン3から糸3Yを供給させる糸供給装置1は、例えば、硬くて伸び難い金属糸や、扁平な断面のテープヤーンなどの糸3Yを供給することに好適である。ボビン3自体が回転することで、糸3Yが撚られることによって糸3Yにキンクが生じることを防止できるからである。ところで、ボビン3自体を回転させる糸供給装置1は、急激な糸3Yの使用量の増減に糸3Yの供給量を即応させることが難しい。そこで、このような糸供給装置1を備える糸供給システム100には、後述する糸貯留装置2が必要となる。
【0022】
[糸貯留装置]
糸貯留装置2は、ボビン3から繰り出される糸3Yを一旦貯留してから横編機4に送り出すことで、糸供給装置1からの糸3Yの供給量と横編機4での糸3Yの使用量との相違に伴う糸3Yに作用する張力の急激な変動を緩和する装置である。糸貯留装置2は、主として、貯留部10と、引き込み片20と、弾性糸(弾性体)30とで構成される。
【0023】
貯留部10は、糸供給経路の途中で糸3Yを鉛直下方に引き込んで貯留しておく部分である。ここで、糸3Yの引き込み方向は、鉛直下方に限定されるわけではなく、糸貯留装置2を設けなかった場合の糸供給経路に交差する方向であれば良い。例えば、鉛直上方や水平方向などに糸3Yを引き込んでも良い。その場合、貯留部10は鉛直上方や水平方向に伸びることになる。その他、糸供給装置1から横編機4に向かって伸びる糸3Yを、一旦、糸供給装置1側に折り返して、さらにもう一度折り返して横編機4に向かうようにしても良い。つまり、糸供給経路をS字状に構成し、糸3Yが糸供給装置1側に引き込まれるようにする。
【0024】
引き込み片20は、糸3Yに引っ掛けられて、糸3Yを貯留部10に引き込む部材であり、糸3Yの供給量と使用量の変化に応じて引き込み方向に沿って往復移動する。引き込み片20には、後述する張力測定手段40に接続され、貯留部10の下方に配されるプーリーにより鉛直上方に折り返された弾性糸30が接続されている。この弾性糸30による鉛直下方への引っ張りと、引き込み片20の重量とにより、糸3Yが引き込み片20によって鉛直下方に引き込まれる。この引き込み片20は、糸3Yにより鉛直上方に引かれる力と、弾性糸30により鉛直下方に引かれる力とがバランスする位置になるように鉛直方向に沿って移動する。例えば、糸供給装置1による糸3Yの供給量よりも横編機4による糸3Yの使用量が多い場合、引き込み片20は鉛直上方に移動し、糸3Yの使用量よりも供給量が多い場合、引き込み片20は鉛直下方に移動する。その場合、引き込み片20の位置によって弾性糸30の伸び量も変化し、弾性糸30の収縮力も変化する。
【0025】
本実施形態における引き込み片20は、プラスチック製のリングとした。リング状の引き込み片20とすれば、リングに糸3Yを挿通させることで糸3Yに引き込み片20が引っ掛かった状態とすることができる。また、軽量なプラスチック製とすることで、糸3Yの使用量の変動に応じた引き込み片20の移動の加速度を向上させることができる。その結果、糸3Yの貯留量が減少するときは、糸3Yに過剰な張力がかからないようにすることができるし、糸3Yの貯留量が増加するときは、すばやく糸3Yに張力を与え、糸3Yのたるみを取ることができる。
【0026】
ここで、引き込み片20の形状は、糸を引っ掛けることができる形状であれば良く、リング状に限定されない。例えば、厚み方向中間部に溝のあるローラーであっても良いし、S字フックなどであっても良い。前者の場合、ローラーの溝に糸3Yを引っ掛けて、ローラーの軸部に弾性糸30を取り付ければ良い。また、後者の場合、S字フックの一端に糸3Yを引っ掛けて、他端に弾性糸30を取り付ければ良い。また、引き込み片20を貯留部10に引き込む弾性体として、弾性糸30の代わりに引張バネを使用することもできる。
【0027】
上記構成を備える糸貯留装置2であれば、横編機4での糸3Yの使用量の変化に応じて貯留部10から繰り出される糸3Yの量が変化し、糸3Yに作用する張力の変動を緩和することができる。例えば、糸3Yの使用量が増加すれば、引き込み片20が鉛直上方に移動し、貯留部10から繰り出される糸3Yの量が増加する。他方、糸3Yの使用量が減少すれば、引き込み片20が鉛直下方に移動して、貯留部10から繰り出される糸3Yの量が減少し、糸3Yがたるまないようにすることができる。
【0028】
上記構成に加え、本実施形態の糸供給システム100の糸貯留装置2は、糸3Yに作用する張力を適正範囲に維持しつつ、横編機4に糸3Yを供給するための構成として、張力測定手段40と、導出手段50を備える。
【0029】
張力測定手段40は、引き込み片20の位置の変位に伴って変化する弾性糸30の張力を測定する手段である。例えば、引き込み片20が鉛直上方に移動すれば、引き込み片20の移動前よりも弾性糸30の伸びが大きくなり、張力測定手段40で検出される弾性糸30の張力は大きくなる。逆に、引き込み片20が鉛直下方に移動すれば、引き込み片20の移動前よりも弾性糸30の伸びが小さくなり、張力測定手段40で検出される弾性糸30の張力は小さくなる。この張力測定手段40には、市販の張力測定装置を使用することができる。
【0030】
コンピューターなどで構成される導出手段50は、予め求めておいた弾性糸30の張力と、ボビン3からの糸3Yの供給量を制御するための物理量との相関関係を記憶するルックアップテーブルを有する。
図2は、本実施形態におけるルックアップテーブルの一例であり、糸3Yの供給量を制御するための物理量として、引き込み方向に沿った引き込み片20の位置を採用したものである。この場合導出手段50は、所定の時間間隔で張力測定手段40から弾性糸30の張力の測定結果を取得し、その測定結果を
図2のルックアップテーブルに照らし合わせて引き込み片20の位置を導出する。
【0031】
ここで、
図2のルックアップテーブルは、本発明者が
図1の糸貯留装置2において、複数の近接センサを設けた上で弾性糸30の張力と引き込み片20の位置とを測定した結果、得られたものである。この
図2に示すように、当該張力と位置との間にリニアな相関関係があることを確認している。
【0032】
導出手段50で導出した引き込み片20の位置の情報は、糸供給装置1の制御手段1Cに出力される。制御手段1Cは、それらの情報に基づいてモーター1Mを制御し、引き込み片20が引き込み方向の所定位置(例えば、引き込み片20の移動範囲の中間位置)の付近でバランスされるように、ボビン3からの糸3Yの繰り出し量(供給量)を微調整する。例えば、引き込み片20の位置が高ければ、横編機4での糸3Yの使用量に、ボビン3からの糸3Yの供給量が追いついていないということであるので、制御手段1Cは、モーター1Mの回転速度を上げる。逆に、引き込み片20の位置が低ければ、制御手段1Cは、モーター1Mの回転速度を減じて、ボビン3からの糸3Yの供給量を抑える。
【0033】
なお、糸供給装置1の制御手段1Cが、導出手段50の機能を兼ね備えていても良い。その場合、糸貯留装置2内の導出手段50は不要になり、張力測定手段40で得られる測定結果は制御手段1Cに直接入力される。また、弾性糸30の張力から適正なモーター1Mの出力を求めるにあたり、当該張力から直接モーター1Mの出力を求めるルックアップテーブルを用いても良い。
【0034】
本実施形態の糸貯留装置2は、さらに引き込み方向に離隔して配置される一対の近接センサ(検出センサ)60A,60Bと、これら近接センサ60A,60Bを制御する図示しない制御手段とを含む位置検出手段60を備える。近接センサ60Aは、引き込み片20の移動範囲における上端位置に設け、近接センサ60Bは、引き込み片20の移動範囲における下端位置に設ける。この位置検出手段60によれば、例えば以下の手順により、
図2のルックアップテーブルを校正することができる。まず、モーター1Mを制御して、引き込み片20を移動範囲内の上限から下限まで移動させる。その際、引き込み片20が各近接センサ60A,60Bの位置に来たときに弾性糸30の張力を測定する。そして、検出した弾性糸30の張力と引き込み片20の位置から、各張力に対応した引き込み片20の位置の相関を記憶するルックアップテーブルを校正する。その際、2点の測定でルックアップテーブルを校正できるのは、弾性糸30の張力と引き込み片20の位置との間にリニアな関係があるからである。最後に、その校正したルックアップテーブルで校正前のルックアップテーブルを上書きする。校正を定期的に行うことで、糸3Yの供給状態に及ぼす、糸供給システム100の使用環境の温度変化や、弾性糸30の経年劣化などの影響を取り除くことができる。
【0035】
上記近接センサ60A,60Bは、糸供給システム100の稼動時に引き込み片20が移動範囲の上下限を超えないように監視することに利用しても良い。その場合、近接センサ60A,60Bでの検知結果に基づいて、糸供給装置1と横編機4を緊急停止させると良い。なお、近接センサ60A,60Bをルックアップテーブルの校正にのみ使用するのであれば、これら近接センサ60A,60Bの位置は、引き込み片20の移動範囲の上下端位置に設ける必要はなく、当該移動範囲のどの位置にあってもかまわない。
【0036】
以上説明した構成を備える糸供給システム100によれば、糸3Yに作用する張力を一定範囲に保った状態で、横編機4に糸3Yを供給することができる。その結果、品質の安定した編地を編成できる。また、糸3Yが切れたりするなどして横編機4への糸3Yの供給が止まるなどの不具合も生じ難いため、生産性良く編地を編成することができる。
【0037】
なお、本実施形態における糸3Yの受給装置は、糸3Yの供給を受けて何らかの製品を作製するものであれば良く、横編機4に限定されるわけではない。例えば経編機や織機、あるいは撚糸装置などであっても良い。
【0038】
その他、上述の実施形態では、引き込み片20が、引き込み片20が往復移動する範囲の中間付近に維持されるように制御手段1Cでモーター1Mを制御してボビン3からの糸3Yの供給量を調節している。これに対して、横編機4での糸3Yの使用量が多い場合、制御手段1Cは、糸3Yの供給量を減少させることで引き込み片20をその移動範囲の中間よりも上方の位置でバランスさせて、急激な糸3Yの使用量の減少に備えても良い。この場合、糸3Yの使用量の急減により引き込み片20が下がりすぎて、糸3Yがたるむことを防止できる。また、横編機4での糸3Yの使用量が少ない場合、制御手段1Cは、糸3Yの供給量を増加させることで引き込み片20をその移動範囲の中間よりも下方の位置でバランスさせて、急激な糸3Yの使用量の増加に備えても良い。この場合、糸3Yの使用量の急増により引き込み片20が上がりすぎて、糸3Yに過大な張力が作用することを防止できる。ここで、横編機4での糸3Yの使用量の大小は、モーター1Mの出力により把握することができる。
【符号の説明】
【0039】
100 糸供給システム
1 糸供給装置 2 糸貯留装置
1C 制御手段 1M モーター
10 貯留部
20 引き込み片
30 弾性糸(弾性体)
40 張力測定手段
50 導出手段
60 位置検出手段 60A,60B 近接センサ(検出センサ)
3 ボビン
3Y 糸
4 横編機(糸の受給装置)