(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
産業機器や産業車両は、ノイズや振動の影響を受けやすい。したがってこれらの用途に使用されるリレーは、ノイズや振動によってリレー接点が開放されないように、駆動電流に大きなマージンが付加される。この駆動電流のマージンによって、制御装置の消費電力が大きくなるという問題がある。特にリレーはオン期間が長いため、制御装置の消費電力量が、全体の消費電力量に占める割合は無視できない。
【0007】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、リレー制御装置の消費電力の低減にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、車両に搭載されるリレー制御装置に関する。リレー制御装置は、制御対象のリレーの制御コイルと直列に設けられた駆動トランジスタと、制御コイルの両端間のコイル電圧を検出するコイル電圧検出部と、コイル電圧が目標値と一致するように、駆動トランジスタの制御信号を生成する駆動指令部と、リレーが搭載される車両の状態を監視し、監視結果に応じて目標値を変化させる制御部と、を備える。
【0009】
この態様のリレー制御装置は、車両の状態を監視し、監視結果に応じて目標値を変化させ、制御コイルに流れる駆動電流を車両の状態に応じた最適な値とする。これにより、目標値を、車両の状態にかかわらず一定とする場合に比べて、駆動電流のマージンを減らすことができ、消費電力を低減できる。
【0010】
制御部は、車両の振動を検出し、振動に応じて目標値を変化させてもよい。実際に車両が振動していないか、あるいは振動していても十分に小さい場合には、接点の開放は起こりにくいため目標値を下げることにより、消費電力を低減できる。
【0011】
制御部は、車両に振動が発生する蓋然性が高いとき、目標値を増大させてもよい。
ある時刻において車両が振動していなくても、その直後に大きな振動が予測される状況では、その振動に先立って目標値を増大させることにより、振動に備えることができる。
【0012】
制御部は、車両の走行速度に応じて、目標値を変化させてもよい。車両が高速に移動する間は、わずかな段差によっても大きな振動が発生する蓋然性が高く、反対に車両の速度が低いときは、振動は発生しにくく、あるいは発生したとしても振動は小さい。この態様によれば、速度に応じて駆動電流を制御することにより、リレー接点の安定性と消費電力を適切にバランスさせることができる。
【0013】
車両はフォークリフトであり、制御部は、荷物の重量に応じて目標値を変化させてもよい。フォークリフトが重い荷物を搬送している場合、大きな振動が発生する蓋然性が高いといえる。この態様によれば、荷物の重量に応じて駆動電流を制御することにより、リレー接点の安定性と消費電力を適切にバランスさせることができる。
【0014】
車両はフォークリフトであり、制御部は、昇降体の高さに応じて目標値を変化させてもよい。
フォークリフトは、荷物を下ろす際に、大きな振動が発生する蓋然性が高いといえる。この態様によれば、昇降体の高さに応じて駆動電流を制御することにより、リレー接点の安定性と消費電力を適切にバランスさせることができる。
【0015】
制御部は、リレーに流れる電流に応じて、目標値を変化させてもよい。リレーは、その接点に大電流が流れているときには、開放しにくいという特性を有する。この態様によれば、リレーに流れる電流に応じて駆動電流を制御することにより、リレー接点の安定性と消費電力を適切にバランスさせることができる。
【0016】
本発明の別の態様は、産業車両に関する。この産業車両は、電池と、モータと、電池からの電力を受け、モータを駆動するインバータと、電池とインバータの間の電源ライン上に設けられたリレーと、リレーを制御する上述のいずれかの態様のリレー制御装置と、を備える。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、リレー制御装置の消費電力を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0021】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0022】
本実施の形態に係るリレー制御装置は、たとえばフォークリフト、クレーン車、ショベルカーなどの産業車両に搭載される。本実施の形態では、フォークリフトを例に説明する。
【0023】
図1(a)、(b)は、フォークリフトの構成を示す図である。
図1(a)に示すように、フォークリフト1は、本体60、フォーク62、昇降体(リフト)64、マスト66、車輪68を備える。マスト66は本体60の前方に設けられる。昇降体64は、油圧アクチュエータ(
図1(a)に不図示、
図2の65)などの動力源によって駆動され、マスト66に沿って昇降する。昇降体64には、荷物を支持するためのフォーク62が取り付けられている。
【0024】
図1(b)は、フォークリフト1の電気系統の構成を示す図である。フォークリフト1は、2系統のモータM1、M2を備える。第1モータM1は、車輪68を回転させるための車輪用モータであり、第2モータM2は、昇降体64を昇降させる油圧アクチュエータを制御するための荷役用モータである。電力変換装置2_1、2_2はそれぞれ、電池6から直流電圧を受け、それを3相交流信号に変換し、対応するモータM1、M2へと供給する。電池6、電力変換装置2_1、2_2、モータM1、M2は、本体60に固定される。電力変換装置2_1、2_2は、別個のモジュールであってもよいし、単一のモジュールとして構成されてもよい。
【0025】
図2は、実施の形態に係るリレー制御装置100を備えるフォークリフト1の構成を示すブロック図である。
【0026】
フォークリフト1の電気系統は、上述のようにインバータ2_1、2_2、モータM1、M2、電池6を備える。リレー8は、電池6とインバータの間の電源ラインLVDD上に設けられる。リレー8は、電磁石を構成する制御コイルL1と、電磁石が発生する磁界によって導通、遮断が切りかえられるリレー接点9と、ダイオードD1と、を有する。
【0027】
リレー制御装置100は、制御コイルL1に流れる駆動電流I
DRVを制御することにより、リレー接点9の導通、遮断を切りかえる。
【0028】
リレー制御装置100は、駆動トランジスタQ1、コイル電圧検出部10、駆動指令部12、制御部14を備える。駆動トランジスタQ1は、制御コイルL1と直列に設けられる。具体的には駆動トランジスタQ1は、NPN型バイポーラトランジスタであり、エミッタが接地され、コレクタが制御コイルL1の一端と接続される。制御コイルL1の他端は電池6と接続される。駆動トランジスタQ1は、FETであってもよい。
【0029】
コイル電圧検出部10は、制御コイルL1の両端間のコイル電圧V
COILを検出する。駆動指令部12は、コイル電圧V
COILが目標値V
REFと一致するように、駆動トランジスタQ1の制御信号、すなわちベース電流を制御する。コイル電圧検出部10は駆動トランジスタQ1をPWM駆動してもよいし、リニア駆動してもよい。
【0030】
リレー8の接点の安定性と、駆動電流I
DRVつまりリレー制御装置100の消費電力の間には、トレードオフの関係が成り立つ。すなわち、目標値V
REFを大きくして駆動電流I
DRVを大きくすれば、消費電力が増大するが、電磁石の力が強くなるためリレー8の接点の安定性は高まる。反対に、駆動電流I
DRVを小さくすれば、消費電力が減少するかわりに、リレー8の接点の安定性が低下する。
【0031】
実施の形態に係るリレー制御装置100は、フォークリフト1の状態に応じて、トレードオフ関係にある安定性と消費電力を最適なポイントに設定する。すなわち制御部14は、リレー8が搭載されるフォークリフト1の状態を監視し、監視結果に応じて目標値V
REFを変化させる。
【0032】
具体的には制御部14は、(1)フォークリフト1に、オン状態のリレー接点9が意図せずに開放する程度の振動が生じている場合、あるいは(2)現在は振動していないが、その後、そのような振動が生ずる蓋然性が高い場合には、目標値V
REFを増大させ、駆動電流I
DRVを増大させることにより、リレー接点9の開放を防止する。反対に、振動が発生しておらず、振動が発生する蓋然性が低い場合には、目標値VREFを低下させ、駆動電流I
DRVを低減する。
【0033】
このリレー制御装置100によれば、目標値V
REFを、車両の状態にかかわらず一定とする場合に比べて、駆動電流I
DRVのマージンを減らすことができ、消費電力を低減できる。
【0034】
以下、制御部14による目標値V
REFの制御の具体例を説明する。
【0035】
本実施の形態において制御部14は、フォークリフト1の状態として、
a. フォークリフト1の振動
b. フォークリフト1の速度
c. フォークリフトの荷物の重量
d. フォークリフトの昇降体の位置
e. リレーに流れる電流
を監視し、監視結果にもとづいて目標値V
REFを変化させる。
【0036】
フォークリフト1は、振動センサ20、速度センサ22、重量センサ24、位置センサ26、電流センサ28を備える。
【0037】
振動センサ20は、フォークリフト1に実際に生じている振動を検知し、振動の大きさを示す検出値S1を生成する。振動センサ20は、リレー8の周囲に設けられることが好ましい。制御部14は、振動センサ20からの検出値S1にもとづいて、振動が大きいほど駆動電流I
DRVが大きくなるように目標値V
REFを制御する。
【0038】
これに対して、速度センサ22、重量センサ24、位置センサ26は、振動が生じていない状況において、その直後に大きな振動が生ずる蓋然性が高い状況を判定するために設けられる。
【0039】
速度センサ22は、フォークリフト1の走行速度に応じた検出値S2を生成する。速度センサ22は、モータM1あるいは車輪68の実際の回転数、あるいはインバータ2_1の電流値を監視してもよいし、インバータ2_1に対する速度指令値を監視してもよい。
フォークリフト1が高速に移動する間は、わずかな段差によっても大きな振動が発生する蓋然性が高く、反対に車両の速度が低いときは、振動は発生しにくく、あるいは発生したとしても振動は小さい。そこで制御部14は、検出値S2が示す回転数が大きいほど、目標値V
REFを大きくする。
【0040】
重量センサ24は、昇降体64に積載される荷物の重量に応じた検出値S3を生成する。重い荷物を昇降し、あるいは重い荷物を積載して走行する場合、荷物が軽い場合に比べて大きな振動が発生する蓋然性が高いといえる。そこで制御部14は、検出値S3が示す荷物が重いほど、目標値V
REFを大きくする。
【0041】
位置センサ26は、昇降体64の高さを検出し、高さに応じた検出値S4を生成する。フォークリフト1は、荷物を下ろす際に、大きな振動が発生する蓋然性が高いといえる。または、荷物を可動範囲の最も高い位置まで上昇させたときに、反動によって振動が生ずる可能性もある。つまり、昇降体64の高さが下限値付近であるときに、あるいは上限値付近であるときには、振動の発生が予測される。そこで制御部14は、検出値S4が示す昇降体の高さが所定の範囲であるときに、目標値V
REFを大きくする。
【0042】
電流センサ28は、リレー8に流れる負荷電流I
LOADを示す検出値S5を生成する。リレー8は、その接点9に大電流が流れているときには、開放しにくいという特性を有する。そこで制御部14は、リレー8に流れる電流I
LOADが小さいときに、目標値V
REFを大きくする。
【0043】
制御部14は、以下のようにして目標値V
REFを制御してもよい。
【0044】
(第1の制御)
フォークリフト1が完全に静止し、振動がない状態において、リレー接点9の接続を安定に維持しうる最小値V
MINを実験、あるいは測定によって定める。そして制御部14は、この最小値V
MINに、フォークリフト1の状態に応じた差分ΔVを加算して、目標値V
REFを生成する。
V
REF=V
MIN+ΔV
【0045】
制御部14は、各検出値S1〜S5ごとに、それらに応じて差分ΔV1〜ΔV5を生成し、それらを合成することにより、目標値VREFを生成してもよい。
V
REF=V
MIN+ΔV1+ΔV2+ΔV3+ΔV4+ΔV5
【0046】
あるいは、各検出値S1〜S5ごとに、それらに応じて係数α1、α2、α3、α4、α5を生成し、係数に応じて差分ΔVを増減させてもよい。
V
REF=V
MIN+ΔV×α1×α2×α3×α4×α5
【0047】
(第2の制御)
この制御でも、フォークリフト1が完全に静止し、振動がない状態において、リレー接点9の接続を安定に維持しうる最小値V
MINが定義される。そして、各検出値S1〜S5ごとに、それらに応じて係数β1、β2、β3、β4、β5を生成し、それらの係数を最小値V
MINに乗ずることにより、目標値V
REFを生成する。
V
REF=V
MIN×β1×β2×β3×β4×β5
【0048】
(第3の制御)
第3の制御では、第1の制御と第2の制御が組み合わせられる。すなわち、目標値VREFを生成は、
V
REF=V
MIN×βi+ΔV
で与えられる。βi、ΔVは、検出値S1〜S5に応じて調節される。
【0049】
第1から第3の制御において、制御部14は、各検出値S1〜S5を重み付けし、目標値V
REFに反映させてもよい。経験的には、S1,S2,S3,S4,S5の順に、重み付けは軽くなっていく。すなわち、実際に振動しているか否かが最も因子としては大きく、走行速度、重量、昇降体の高さ、リレーに流れる電流の順で、駆動電流I
DRV(目標値V
REF)に及ぼす影響を小さくしてもよい。
【0050】
以上がリレー制御装置100の構成である。続いてその動作を説明する。
図3は、
図2のリレー制御装置100の動作を示すタイムチャートである。本明細書における波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化されている。
【0051】
フォークリフト1が静止し、荷物も搭載されない状態では、目標値V
REFは最小値V
MINをとる(t0〜t1)。時刻t1に重い荷物が搭載されると、重量センサ24がそれを検知し、制御部14は目標値V
REFを高める。期間t2〜t3は、荷物を搭載した状態でフォークリフト1が走行している。このときには衝撃に備えて、さらに目標値V
REFが高められる。時刻t3に走行が停止すると、目標値V
REFは低下する。その後、時刻t4に荷物を下ろすと、目標値V
REFは最小値V
MINに下げられる。その後も、フォークリフト1の状況に応じて目標値V
REFは時々刻々と変化する。
【0052】
リレー制御装置100の利点は、従来のリレー制御装置との対比によって明確となる。従来では、
図3に破線で示すように、フォークリフト1の状況にかかわらず目標値V
REFを一定値としていたため消費電力が大きくなっている。
これに対して、実施の形態に係るリレー制御装置100では、フォークリフト1の状態に応じて目標値V
REFすなわち駆動電流I
DRVを適応的に変化させる。その結果、
図3においてハッチングを付した面積に相当する消費電力量を削減することができる。特にフォークリフト1では、大きな駆動電流I
DRVが必要とされる期間はわずかであり、動作時間の大半においては、それほどの駆動電流I
DRVは必要とされない。したがって、リレー制御装置100の消費電力を低減することにより、発熱を抑制し、電池の持続時間を延ばすことができる。
【0053】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例を説明する。
【0054】
実施の形態では、以下の5つのパラメータにもとづいて目標値V
REFを制御する場合を説明したが、本発明はそれには限定されず、任意のひとつ、あるいは任意の組み合わせに応じて、目標値V
REFを制御してもよい。
a. フォークリフト1の振動
b. フォークリフト1の速度
c. フォークリフトの荷物の重量
d. フォークリフトの昇降体の位置
e. リレーに流れる電流
【0055】
実施の形態では、リレー制御装置100の用途としてフォークリフト1を説明したが、本発明はそれに限定されない。クレーン車やショベルカーなどの産業車両においても、上記a〜eに相当するパラメータは存在するため、それらをリレー制御に反映させることにより消費電力を低減できる。