特許第5805603号(P5805603)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5805603
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】排気ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/68 20060101AFI20151015BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20151015BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20151015BHJP
【FI】
   B01J23/68 AZAB
   B01D53/86 100
   B01D53/86 222
   F01N3/10 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-220739(P2012-220739)
(22)【出願日】2012年10月2日
(65)【公開番号】特開2013-233541(P2013-233541A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2014年9月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-89141(P2012-89141)
(32)【優先日】2012年4月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】高木 啓充
(72)【発明者】
【氏名】高橋 進
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 彦睦
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 晶子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 晃
(72)【発明者】
【氏名】古川 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】石崎 啓太
(72)【発明者】
【氏名】大矢 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中 貴弘
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−530837(JP,A)
【文献】 特開2011−016684(JP,A)
【文献】 特開2010−284583(JP,A)
【文献】 特開2011−189306(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/093599(WO,A1)
【文献】 K. EGUCHI et al.,Selective removal of NO by absorption in mixed oxide catalysts,Catalysis Today,1996年,27,297-305.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
B01D53/73,86−90,94−96
F01N3/00−3/38,9/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AサイトがYを含み、BサイトがMnを含む、DyMn構造をとる結晶からなり、BサイトとAサイトの組成比B/Aが2より大きい複酸化物を含むことを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
Agを含有していることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス浄用触媒。
【請求項3】
Agの少なくとも一部が前記複酸化物の結晶に固溶している請求項2に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
触媒支持体上に担持されている触媒層が前記複酸化物を含み、当該触媒層に、Agが担持されている請求項1から請求項3の何れか1項に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項5】
触媒支持体上に担持されている触媒層が前記複酸化物を含み、当該触媒層に、Pt、Au、Pd及びRhから選択される少なくとも一種の元素が担持されている請求項1から請求項4の何れか1項に記載の排気ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の内燃機関から排出される排気ガスを浄化するために使用される排気ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関から排出される排ガス中には、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物等の有害成分が含まれている。
【0003】
また、ディーゼルエンジンから排出される排気ガスはパティキュレート(PM;粒子状物質)を含んでおり、これらの物質がそのまま大気中に放出されると大気汚染の原因になる。パティキュレートを取り除くための有効な手段として、ススを捕集するためのディーゼル・パティキュレート・フィルター(DPF)を用いたディーゼル排ガストラップシステムがある。
【0004】
一方、ディーゼル排ガスの効率的な浄化のために、ディーゼル酸化触媒(DOC)をエンジンのできるだけ近傍に設置し、エンジンの熱を利用してガス浄化反応を促進することが試みられている。しかしながら、エンジン室内のスペースには限度があるため、DOCは小型化する必要があり、温度による効率向上と小型化することによる絶対的反応面積減少とのトレードオフが生じるという問題がある。
【0005】
この解決策の一つとして、DPFにPM燃焼のみならず、ガス浄化性能の機能をも付加し、排ガス浄化システム全体でのパフォーマンスを向上することが考えられている。例えば、パティキュレートを燃焼浄化し、同時にNOxを還元浄化するパティキュレート酸化剤が提案されている(特許文献1参照)が、さらなる性能向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−334443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は自動車等の内燃機関から排出される排気ガスのパティキュレートを燃焼浄化すると共にガス浄化性能にも優れた排気ガス浄化用触媒を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成するために種々の物質を用いて種々の実験を行った結果、AサイトがYを含み、BサイトがMnを含む、DyMn構造をとる結晶からなり、BサイトとAサイトの組成比B/Aが2より大きい複酸化物が、パティキュレートを燃焼浄化すると共にガス浄化性能にも優れていることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明の排気ガス浄化用触媒は、AサイトがYを含み、BサイトがMnを含む、DyMn構造をとる結晶からなり、BサイトとAサイトの組成比B/A>2である複酸化物を含むことを特徴とする。
【0010】
ここで、DyMn構造をとる結晶からなり、BサイトとAサイトの組成比B/A>2である複酸化物とは、Bサイトの元素のうち化学量論比であるB/A=2を超えた部分である過剰分のBサイト元素が、少なくとも一部が結晶に固溶しているものをいう。なお、結晶内に固溶していることは、結晶の格子内に含有されるとも解釈され、同義である。
【0011】
また、本発明の排気ガス浄化用触媒は、Agを含有しているのが好ましく、また、Agの少なくとも一部が前記複酸化物の結晶に固溶しているのが好ましい。
【0012】
また、触媒支持体上に担持されている触媒層が前記複酸化物を含み、当該触媒層に、Agが担持されているのが好ましい。
【0013】
さらに、触媒支持体上に担持されている触媒層が前記複酸化物を含み、当該触媒層に、Pt、Au、Pd及びRhから選択される少なくとも一種の元素が担持されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の排気ガス浄化用触媒はパティキュレートを燃焼浄化すると共にガス浄化性能にも優れているので、自動車等の内燃機関から排出される排気ガスを浄化するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1〜4、7および比較例1の排気ガス浄化用触媒のXRDを示すチャートである。
図2】実施例8〜11および比較例1の排気ガス浄化用触媒のXRDを示すチャートである。
図3】実施例12〜16および実施例4の排気ガス浄化用触媒のXRDを示すチャートである。
図4】比較例1〜6の排気ガス浄化用触媒のXRDを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の排気ガス浄化用触媒について説明する。
本発明の排気ガス浄化用触媒は、AサイトがYを含み、BサイトがMnを含む、DyMn構造をとる結晶からなり、BサイトとAサイトの組成比B/A>2である複酸化物を含む。かかる複酸化物は、Bサイトの元素のうち化学量論比であるB/A=2を超えた部分である過剰分のBサイト元素が前記結晶に固溶しているものである。
【0017】
ここで、DyMn構造をとる結晶からなる複酸化物とは、XRDパターンが、空間群Pbamに含まれる、マンガン酸ジスプロシウム構造(DyMn構造、ICSD(Inorganic crystal structure database)参照)をとる結晶として同定されることをいう。また、DyMn構造をとる結晶からなる複酸化物は、一般式ABとして示される。
【0018】
そして、本発明の複酸化物は、AサイトがYを含み、BサイトがMnを含み、BサイトとAサイトの組成比B/A>2と化学量論比からずれてBサイトが過剰となったものであり、過剰分のBサイト元素の少なくとも一部が前記結晶に固溶しているものである。
【0019】
ここで、過剰分のBサイト元素が前記結晶に固溶しているものとは、Bサイトの元素が化学量論比からずれて過剰となっているが、XRDパターンでは、DyMn構造のピークが観察され、且つAサイト元素と比較してイオン半径が小さいBサイト元素が固溶していることによって、XRDピークの2θにずれが見られるものをいう。このとき、Bサイトの元素を含み且つDyMnに帰属できないピークが観測された場合も、DyMnに帰属されるXRDピークの2θのずれが見られれば、過剰分のBサイトの元素の少なくとも一部が結晶の格子内に固溶しているとみなされる。
【0020】
なお、本発明の排気ガス浄化用触媒は、このようなBサイトが過剰となった複酸化物と共に、Bサイトを構成する元素の酸化物、例えば、酸化マンガンが共存していてもよく、これも本発明に包含される。
【0021】
また、本発明の排気ガス浄化用触媒は、Agを含有してもよい。Agを含有するとは、前記複酸化物と共にAgが共存していることをいうが、Agの少なくとも一部が前記複酸化物の結晶に固溶していてもよい。
【0022】
ここで、Agの少なくとも一部が前記結晶に固溶しているとは、XRDパターンにおける金属Agのピーク強度が、含有量の絶対値から推定される強度よりも明らかに小さいことを示す。
【0023】
このような本発明の複酸化物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0024】
製造方法の一例を、AサイトがY、BサイトがMnである複酸化物の製造を例にとって説明する。
【0025】
製造方法の一例としては、YとMnとを含む溶液に沈殿剤を添加して、YとMnとが原子比Mn/Y>2で含有される沈殿物を得て、これを乾燥、焼成することにより複酸化物YMOを得る方法を挙げることができる。ここで、化学量論比のYMnの他、化学量論比からずれた組成のものも総称してYMOと表記するものとする。
【0026】
また、複酸化物の製造をMn/Yの比を化学量論比で行い、その後に過剰分のMnを担持処理してもよい。
【0027】
Agの担持は、硝酸銀塩などを用いた蒸発乾固か金属Agを用いた乾式混合などの方法で実施してもよい。
【0028】
上記それぞれの製造方法で用いたY化合物を、La化合物、Sr化合物、Ce化合物、Ba化合物、Ca化合物、Sc化合物、Ho化合物、Er化合物、Tm化合物、Yb化合物、Lu化合物及びBi化合物からなる群から選ばれた化合物の1種以上で、Y化合物のY原子を置き換えて上記の製造方法を実施することにより複酸化物(Y1−x)Mn2+y(式中、AはLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiであり、1>x>0、y>0である)を製造することができる。
【0029】
上記それぞれの製造方法で用いたMn化合物を、Co化合物、Fe化合物、Ni化合物、Cr化合物、Mg化合物、Ti化合物、Nb化合物、Ta化合物、Ru化合物及びCu化合物からなる群から選ばれた化合物の1種以上で、Mn化合物のMn原子の半量以下の原子の量となるように置き換えて上記の製造方法を実施することにより複酸化物Y(Mn1−z2+y(式中、BはCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Ru又はCuであり、y>0、0.5≧z>0である)を製造することができる。
【0030】
更に、上記の製造方法で用いたY化合物を、La化合物、Sr化合物、Ce化合物、Ba化合物、Ca化合物、Sc化合物、Ho化合物、Er化合物、Tm化合物、Yb化合物、Lu化合物及びBi化合物からなる群から選ばれた化合物の1種以上で、Y化合物のY原子を置き換え、Mn化合物を、Co化合物、Fe化合物、Ni化合物、Cr化合物、Mg化合物、Ti化合物、Nb化合物、Ta化合物、Ru化合物及びCu化合物からなる群から選ばれた化合物の1種以上で、Mn化合物のMn原子の半量以下の原子の量となるように置き換えて上記の製造方法を実施することにより複酸化物(Y1−x)(Mn1−z2+y(式中、AはLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiであり、BはCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Cu又はRuであり、1>x>0であり、y>0であり、0.5≧z>0である)を製造することができる。
【0031】
ここで、AサイトのYを置き換える原子として列挙したLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiは、Yを置き換え得るイオン半径を有したものであるが、この中でも特に、Yのイオン半径に対して±10%以内のイオン半径を有する、La、Ce、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiが安定的に置換できることから好ましい。
【0032】
また、BサイトのMnを置き換える原子として列挙したCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Cu又はRuは、Mnを置き換え得るイオン半径を有しているものであるが、この中でも特に、Mnのイオン半径に対して±10%以内のイオン半径を有する、Co、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti又はCuが安定的に置換できることから好ましい。
【0033】
一般式(Y1−x)(Mn1−z2+y(式中、AはLa、Sr、Ce、Ba、Ca、Sc、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はBiであり、BはCo、Fe、Ni、Cr、Mg、Ti、Nb、Ta、Ru又はCuであり、1>x≧0であり、y>0であり、0.5≧z≧0である)で示される複酸化物は上記の全ての複酸化物を包含する。
【0034】
本発明の複酸化物は、触媒支持体上に担持されている触媒層として用いるのが好ましい。
【0035】
ここで、触媒支持体は、例えば、セラミックス又は金属材料からなる。また、触媒支持体の形状は、特に限定されるものではないが、一般的にはハニカム形状、板、ペレット、DPF等の形状であり、好ましくはハニカム又はDPFである。また、このような触媒支持体の材質としては、例えば、アルミナ(Al)、ムライト(3Al−2SiO)、コージェライト(2MgO−2Al−5SiO)、チタン酸アルミニウム(AlTiO)、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスや、ステンレス等の金属材料を挙げることができる。
【0036】
また、Ag、Pt、Au、Pd、Rh、Cu及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の元素を触媒層に担持することにより、パティキュレートの燃焼浄化性能とガス浄化性能がより向上する。また、担持された金属元素の量が金属元素+担体の合計質量基準で0.01〜20%好ましくは0.1〜10%とすることにより、排気ガス浄化性能が向上する。
【0037】
また、Ag、Pt、Au、Pd、Rh、Cu及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の元素を担持した触媒層を上記の触媒支持体の表面に設けることもできる。即ち、セラミックス又は金属材料からなる触媒支持体と、該触媒支持体上に担持されている複酸化物と、該複酸化物に担持されているAg、Pt、Au、Pd、Rh、Cu及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の元素とを有する構成のパティキュレートの燃焼浄化性能とガス浄化性能に優れた排気ガス浄化用触媒とすることもできる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0039】
実施例1〜7および比較例1
金属濃度が既知の、硝酸イットリウム溶液と、硝酸マンガン溶液をYとMnとがMn/Y=2となるようにそれぞれ混合し、最終的に得られるYMOが50g/Lとなるようにイオン交換水で濃度調整したものを原料液とした。2.5%NH水溶液26.59mLと、30%過酸化水素水11.33mLとを混合した水溶液にイオン交換水を加えて265.9mLに調整し沈殿剤とした。その後原料液に沈殿剤を滴下し沈殿を生成し、得られた沈殿物をろ過し、洗浄した後、加熱して粉末を得た。
【0040】
硝酸銀0.124gに水37.5gを加え、攪拌して硝酸銀水溶液とし、さらに表1に示す過剰分Mnが含有されるように硝酸マンガンを添加して水溶液とし、各水溶液に上記で得られた粉末を1.5gずつ投入し、加熱して、実施例1〜7および、比較例1の排気ガス浄化用触媒を得た。得られた排気ガス浄化用触媒のAg担持量は金属Ag+担体の合計質量基準で5.57質量%であった。
【0041】
ここで、過剰分のMn(at%)は、Y:Mn=1:2の場合のマンガン量に対して過剰に含有されるマンガン量であり、例えば、Y:Mn=1:2.2の場合、Mn過剰量は、10at%となる。
【0042】
実施例8〜11
金属濃度が既知の、硝酸イットリウム溶液と、硝酸マンガン溶液とをそれぞれ調製し、YとMnとが表1に示すMn過剰の割合となるようにそれぞれ混合し、最終的に得られるYMOが50g/Lとなるようにイオン交換水で濃度調整したものを原料液とした。一方、2.5%NH水溶液26.59mLと、30%過酸化水素水11.33mLとを混合した水溶液にイオン交換水を加えて265.9mLに調製し、沈殿剤とした。
【0043】
その後、原料溶液に沈殿剤を滴下し、沈殿を生成し、沈殿物をろ過し、洗浄した後、加熱して粉末を得た。
【0044】
硝酸銀0.124gにイオン交換水37.5gを加え、攪拌して硝酸銀水溶液としたものに、上記各粉末を1.5g投入し、加熱して実施例8〜11の排気ガス浄化用触媒を得た。得られた排気ガス浄化用触媒のAg担持量は金属Ag+担体の合計質量基準で5.57質量%であった。
【0045】
<XRD測定1>
実施例1〜4、7および比較例1の排気ガス浄化用触媒について大気中、700℃で30時間の耐久処理を行った後のXRDパターンを図1に示す。また、各実施例1〜11および比較例1のAg(220)面ピーク強度と、YMO(211)面ピーク強度との比を表1に併せて示す。
【0046】
この結果、実施例1〜4、7および比較例1の排気ガス浄化用触媒は、DyMn構造をとる複酸化物であると同定された。実施例5、6についてのXRDは省略するが、同様にDyMn構造をとる複酸化物であると同定された。
【0047】
また、実施例1〜4では、過剰分のMnに起因するピークが観察されず、且つDyMn構造に起因するピークが高角度側にシフトしていることから、過剰分のMnはすべて結晶に固溶していることが確認された。組成比Mn/Y=3.2、Mn/Y=3.6の実施例5、6および、組成比Mn/Y=3.7の実施例7では、酸化マンガン(Mn)のピークが観察され、過剰分のMnの一部が酸化マンガンとして複酸化物と共存することが確認されたが、DyMn構造に起因するピークの高角度側へのシフトが残存していることから、少なくとも過剰分の一部のMnは複酸化物の結晶に固溶していると考えられる。よって、この場合、複酸化物においてMn/Yは配合割合より多少小さくなっている。
【0048】
さらに、実施例1〜7では、Agに帰属されるピークが同一量のAg量である比較例1のピークに比較して小さくなっており、これから、Agの少なくとも一部が結晶に固溶していると判断される。
【0049】
また、実施例8〜11と比較例1の排気ガス浄化用触媒について大気中、700℃で30時間の耐久処理を行った後のXRDパターンを図2に示す。また、各実施例および比較例のAg(220)面ピーク強度と、YMO(211)面ピーク強度との比を表1に併せて示す。
【0050】
この結果、実施例8〜11の排気ガス浄化用触媒は、Y/Mn>2であるが、DyMn構造をとる複酸化物であると同定された。
【0051】
また、実施例8〜11でも、過剰分のMnに起因するピークが観察されず、且つDyMn構造に起因するピークが高角度側にシフトしていることから、過剰分のMnは結晶に固溶していることが確認された。
【0052】
さらに、実施例8〜11でも、Agに帰属されるピークが同一量のAg量である比較例1のピークに比較して小さくなっており、これから、Agの少なくとも一部が複酸化物の結晶に固溶していると判断される。
【0053】
実施例12〜20
硝酸イットリウム溶液と硝酸マンガン溶液と硝酸ランタン溶液を用いて、YとLaとが表2のa欄に示す比となると共に(Y+La)とMnとが表2のb欄に示す比となるようにそれぞれ混合した以外は、実施例1と同様にして、(Y1−xLa)Mn2+yの複酸化物からなる実施例12〜20の排気ガス浄化用触媒を得た。得られた排気ガス浄化用触媒のAg担持量は金属Ag+担体の合計質量基準で5.57質量%であった。
【0054】
比較例2〜6
硝酸イットリウム溶液と硝酸マンガン溶液と硝酸ランタン溶液を用いて、YとLaとが実施例12〜16と同様になると共に(Y+La)とMnとがMn/(Y+La)=2となるようにそれぞれ混合し、硝酸銀水溶液を添加する工程では過剰分のMnを添加しない以外は、実施例12〜16と同様にして、(Y1−xLa)Mnの複酸化物からなる比較例2〜6の排気ガス浄化用触媒を得た。得られた排気ガス浄化用触媒のAg担持量は金属Ag+担体の合計質量基準で5.57質量%であった。
【0055】
<XRD測定2>
実施例12〜16および実施例4の排気ガス浄化用触媒について大気中、700℃で30時間の耐久処理を行った後のXRDパターンを図3に示す。また、比較例1〜6の排気ガス浄化用触媒について同様に測定したXRDパターンを図4に示す。
【0056】
この結果、Mn過剰の実施例12〜16についてDyMn構造に起因するピークが確認された。実施例17〜20についても同様な結果が確認された。
【0057】
また、Mnが過剰ではない比較例2〜6については、DyMn構造に起因するピークが同一La置換量の実施例12〜16と比較して小さくなることが確認され、アモルファス成分が増加することがわかった。これは、Mn過剰でないと、DyMn構造の結晶に成長し難くなることを示している。
【0058】
さらに、実施例12〜16のDyMn構造に起因するピークは、高角度側へのシフトが残存していることが確認された。このことから、少なくとも過剰分の一部のMnは複酸化物の結晶に固溶していると考えられる。よって、この場合、複酸化物においてMn/(Y+La)は表2の配合割合の表記より多少小さくなっている。また、実施例17〜20についても同様な結果が確認された。
【0059】
さらに、実施例12〜20では、Agに帰属されるピークが同一のAg担持量であり、かつ同一のLa置換量である比較例2〜6のピークと比較して小さくなっており、これから、Agの少なくとも一部が結晶に固溶していると判断される。
【0060】
<固定床模擬ガス浄化性能評価試験1>
実施例1〜20および比較例1、5、6の排気ガス浄化用触媒について大気中、700℃で30時間の耐久処理を行った後の排気ガス浄化用触媒の触媒活性を以下のようにして評価した。
【0061】
まず、固定床流通型反応装置を用い、反応管に触媒粉を0.1gセットし、下記表3の組成から成る模擬排気ガスを1L/minで流通させ、500℃まで昇温後10分間保持し、前処理を行った。その後、一旦冷却後、100℃〜500℃まで10℃/minで昇温し、100〜500℃における出口ガス成分をCO/HC/NO分析計を用いて測定した。得られた浄化性能評価結果より、CO及びHCの50%浄化率に到達する温度(T50)及び400℃におけるNOの浄化率を求めた。その結果は表1および表2に示す通りであった。なお、浄化されたNOのほとんどはNOに転化していることがわかった。
【0062】
表1および表2には、700℃で30時間の耐久処理後の比表面積(BET法で測定)をあわせて示す。
【0063】
この結果、Mnが過剰となっている実施例1〜11の排気ガス浄化用触媒は、比較例1と比較して触媒活性が向上していることがわかった。また、Mnが50at%過剰までは過剰量が大きいほど触媒活性が向上するが、60at%、80at%、85at%過剰の実施例5、6、7では、実施例4より触媒活性が低下しており、Mnの過剰量は、2〜85at%、好ましくは、5〜50at%がよいことがわかった。
【0064】
また、AサイトのYの一部をLaで置換した実施例12〜20に関しても、同一La置換量である比較例2〜比較例6と比較して触媒活性が向上していることがわかった。代表例として実施例15、16と比較例5、6の値を表2に示す。
【0065】
<スス燃焼性評価試験>
実施例1〜20の排気ガス浄化用触媒のパティキュレート燃焼性は従来使われているPt担持アルミナよりも優れていた。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
実施例21、22
Agの担持量をAg+担体の合計質量基準で0質量%、2質量%とした以外は、実施例4と同様にして実施例21、22の排気ガス浄化用触媒を得た。
【0070】
<固定床模擬ガス浄化性能評価試験2>
実施例21、22の排気ガス浄化用触媒について大気中、700℃で30時間の耐久処理を行った後、排気ガス浄化用触媒の触媒活性を固定床模擬ガス浄化性能評価試験で評価した。結果を表4に示す。この結果から、Agの担持により、排ガス浄化性能が向上することがわかった。また、Agの担持量は、Ag+担体の合計質量基準で1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%とするのがよいこともわかっている。
【0071】
【表4】
図1
図2
図3
図4