特許第5805772号(P5805772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5805772
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】建材シート
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/76 20060101AFI20151021BHJP
   E04F 13/07 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   E04B1/76 100B
   E04F13/00 B
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-533750(P2013-533750)
(86)(22)【出願日】2012年9月15日
(86)【国際出願番号】JP2012073751
(87)【国際公開番号】WO2013039242
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2013年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2011-202744(P2011-202744)
(32)【優先日】2011年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】397029873
【氏名又は名称】株式会社大木工藝
(74)【代理人】
【識別番号】100121337
【弁理士】
【氏名又は名称】藤河 恒生
(72)【発明者】
【氏名】大木 武彦
【審査官】 湊 和也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−173118(JP,A)
【文献】 特開2010−249506(JP,A)
【文献】 特開2007−291267(JP,A)
【文献】 特開平10−311693(JP,A)
【文献】 特開2004−232897(JP,A)
【文献】 特開2004−075711(JP,A)
【文献】 特開2008−286435(JP,A)
【文献】 特開2007−010304(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3116182(JP,U)
【文献】 特開平04−050285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/76
E04B 1/80
E04F 13/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁又は天井に使用する建材シートであって、
布製又は紙製の室内側保護シートと、
該室内側保護シートに接着された弾性を有する膨張黒鉛シートと、
該膨張黒鉛シートに接着された紙製又は布製の貼付用シートと、
を備え、
前記膨張黒鉛シートと前記貼付用シートの間に、潜熱蓄熱材を封入層によって封入した多数の蓄熱カプセルを有しており、
前記膨張黒鉛シートと前記貼付用シートの間に、前記多数の蓄熱カプセルとは別に、多数の多孔質の粒状炭素材を有していることを特徴とする建材シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内の冷暖房のエネルギー効率化に好適な建材シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー節減の観点より、建物の構造によって冷暖房のエネルギー効率化を図ろうとする種々の試みがなされている。一般には、室内と室外の間における熱伝導の抑制を目的として床、壁、天井等に断熱材を用い、その位置や材料が工夫されるのであるが、中には、熱を蓄える蓄熱材を建材に用いることも提案されている。
【0003】
蓄熱材には、融点における固体と液体の相転移を利用する潜熱蓄熱材と、材料の比熱を利用する顕熱蓄熱材と、に大きく分けられる。潜熱蓄熱材を用いた建材として、例えば、特許文献1には、発泡ガラスビーズなどの多孔質担持体にパラフィンなどの潜熱蓄熱材を含浸させ、潜熱蓄熱材が漏れないように多孔質担持体を封入するマイクロカプセル(封入層)を設けたものが記載されている。ここでは、2種類の潜熱蓄熱材を用いて蓄熱効果が及ぶ温度域を拡大することも記載されている。また、特許文献2には、パラフィンなどの潜熱蓄熱材をマイクロカプセル(封入層)で内包し、セメントなどの充填用素材を用いて成型した蓄熱性建材が記載されている。ここでは、夏場の室内の温度上昇を抑えるための融点を有する潜熱蓄熱材のマイクロカプセル、冬場の室温の低下を抑えるための融点を有する潜熱蓄熱材のマイクロカプセル、の2種類を含むようにすることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−075711号公報
【特許文献2】特開2005−061078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような潜熱蓄熱材は、その融点付近においては、顕熱蓄熱材よりも非常に良く温度上昇又は温度低下のスピードを抑えることができる。しかし、潜熱蓄熱材は日常生活の温度域の特定の融点において相転移を起こす特別な物質であるから、その能力を十分に発揮させる等ためには、さまざまな工夫が必要である。
【0006】
例えば、特許文献2のように潜熱蓄熱材をマイクロカプセルで内包しセメントなどの充填用素材を用いて成型したものは、充填用素材の大きな熱抵抗のため、潜熱蓄熱材まで室内空間の温度を伝達させて潜熱蓄熱材による蓄熱効果を十分に得るのは容易ではなく、また、マイクロカプセルが破断し易くなると考えられる。なお、特許文献1には、潜熱蓄熱材を用いた建材の具体的な形態は記載されていない。
【0007】
また、2種類以上の潜熱蓄熱材を用いて蓄熱効果が及ぶ温度域を拡大した場合、それらの融点から離れた温度(例えば、2つの融点の真中付近)では潜熱蓄熱材による効果は少ないため、その温度付近での蓄熱効果を上げて全体的な蓄熱効果を改善できる余地が有る。
【0008】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、潜熱蓄熱材を含み、より良好な蓄熱効果を奏することで冷暖房のエネルギー効率化に寄与する建材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の好ましい実施形態に係る建材シートは、壁又は天井に使用する建材シートであって、布製又は紙製の室内側保護シートと、該室内側保護シートに接着された弾性を有する膨張黒鉛シートと、該膨張黒鉛シートに接着された紙製又は布製の貼付用シートと、を備え、前記膨張黒鉛シートと前記貼付用シートの間に、潜熱蓄熱材を封入層によって封入した多数の蓄熱カプセルを有しており、前記膨張黒鉛シートと前記貼付用シートの間に、前記多数の蓄熱カプセルとは別に、多数の多孔質の粒状炭素材を有している
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る建材シートによれば、室内空間と蓄熱カプセルとの間での相互の温度の伝達を十分なものとすることができ、より良好な蓄熱効果を奏することで冷暖房のエネルギー効率化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る建材シートを示す模式的な断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る別の建材シートを示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好ましい形態を説明する。本発明の実施形態に係る建材シート1は、図1に示すように、布製又は紙製の室内側保護シート2と、室内側保護シート2に接着された黒鉛シート3と、黒鉛シート3に接着された紙製又は布製の貼付用シート4と、を備えている複合シートである。また、黒鉛シート3と貼付用シート4の間には、潜熱蓄熱材を封入層によって封入した多数の蓄熱カプセル5を有している。この建材シート1は、室内側保護シート2が室内側になるようにして住宅やオフィスビルなどの部屋の壁などに貼り付けることができる。
【0013】
布製又は紙製の室内側保護シート2は、後述する黒鉛シート3に重なり合って黒鉛シート3の室内側の面を保護するものであり、また、装飾のためのものでもある。室内側保護シート2は、壁に貼り付けて用いられる通常のクロスや壁紙でよいが、室内空間の温度が黒鉛シート3に良く伝わるように熱抵抗が小さいもの、具体的には、通気性のよい、すなわち目の粗い布製のものが好ましい。また、防炎のものが好ましい。
【0014】
黒鉛シート3は、膨張黒鉛シート(例えば、厚さが0.1〜0.2mm程度)が好適に用いられる黒鉛製シートである。膨張黒鉛シートは、原料の天然黒鉛などの黒鉛を膨張させて膨張黒鉛の形態にしてから加圧してシート状に成形したものである。この黒鉛シート3は、黒鉛粒子同士が結合し合うために、黒鉛成分(炭素成分)の比率を極めて高く(例えば99%以上に)することができる。黒鉛シート3は、面方向(厚さ方向と直交方向)の熱伝導率が特に高く、250〜350W/(m・K)程度を得ることができる。厚さ方向の熱伝導率は、面方向ほど高くはない(例えば、3〜5W/(m・K)程度である)が、黒鉛シート3は薄いものが用いられるので、厚さ方向の熱抵抗は低い。また、黒鉛シート3は、非常に軽量であり、化学的に安定している。また、少しであるが、セメントや石膏ボードなどに比べて弾性が有る。
【0015】
紙製又は布製の貼付用シート4は、黒鉛シート3に重なり合って黒鉛シート3の壁側(室内側と反対側)の面を保護するものであり、また、貼付用シート4の外面(黒鉛シート3側と反対の面)に糊などを塗布して壁の石膏ボートなどに貼り付けるためのものでもある。貼付用シート4は、その材料が限定されるものではないが、壁への貼り付け用に通常用いられる防炎紙が好ましい。
【0016】
蓄熱カプセル5の潜熱蓄熱材は、例えば、パラフィンなどの潜熱蓄熱材が用いられる。蓄熱カプセル5は、公知のものを用いればよい。蓄熱カプセル5の粒径は、限定されることはないが、例えば、10〜50μm程度である。蓄熱カプセル5の潜熱蓄熱材は、日常生活の温度域の特定の温度の融点において相転移する、すなわち周囲の温度が上昇するときには固体から液体に、周囲の温度が下降するときには液体から固体に変わる物質である。蓄熱カプセル5の封入層は、このように相転移する潜熱蓄熱材が漏れないように封入するものである。
【0017】
このような建材シート1では、室内空間と蓄熱カプセル5とは、相互に、室内側保護シート2と黒鉛シート3を介して熱の吸収又は放出を行う。室内空間と蓄熱カプセル5とは、室内側保護シートと黒鉛シート3の厚さ方向の熱抵抗を小さいものにすることができるので、相互の温度の伝達は十分なものとすることができる。蓄熱カプセル5の蓄熱効果が及ぶ室内の温度域は、潜熱蓄熱材の融点付近の範囲となる。この温度域では、蓄熱効果が及んで室内空間の温度変化は緩やかになる。なお、この温度域は、室内側保護シート2や黒鉛シート3の厚み、蓄熱カプセル5の量などの諸条件により変動する。
【0018】
また、黒鉛シート3は、面方向に熱を広く拡散するので、例えば、建材シート1に接して障害物(物置や本箱など)が置かれた場合であっても、障害物の位置の蓄熱カプセル5の部分と室内空間とは熱の吸収又は放出を行うことができる。
【0019】
また、蓄熱カプセル5は、ある程度の弾性を有する黒鉛シート3と貼付用シート4に挟まれているので、その封入層の破断及びその結果の潜熱蓄熱材の流出が抑止される。また、黒鉛シート3は不燃なので、万一の火事のときに火気の拡大を抑制できる効果がある。
【0020】
建材シート1は、蓄熱カプセル5の潜熱蓄熱材の融点を設定することにより、室内の冷暖房のエネルギーの効率化を行うことができる。例えば、以下のように、蓄熱カプセル5を2種類以上として、種類が異なると潜熱蓄熱材の融点が異なるようにすることで、暖房と冷房の両方の場合に効果を奏する建材シート1とすることができる。
【0021】
冬期において、暖房機を稼働させると、室内空間の暖気の熱は室内側保護シート2を通過して黒鉛シート3に伝えられる。黒鉛シート3では、熱は面方向及び厚さ方向に伝わって行くが、面方向の熱伝導率は非常に高いので、面方向には急速に伝わっていく。それにより、建材シート1の室内側表面の全体が早く暖まり、更に、建材シート1の近傍の空気の温度が暖まって行く。従って、部屋の中で通常暖まり難いところでも暖房の立ち上がりが早くなる。よって、この点で、暖房機が稼働する時間の短縮化に寄与でき、暖房のエネルギーの効率化に寄与できる。
【0022】
暖房が立ち上がって適温(例えば、20℃〜23℃)になった後、手動又は自動的な温度調節により暖房機を止めてしばらくすると、僅かながら空気の漏れにより、室内空間の温度が室外の温度に追従するように徐々に下降する。このとき、室内空間の温度が温度低下を抑えるための低い融点の潜熱蓄熱材の蓄熱効果が及ぶ温度域に有ると、温度降下は緩やかなものとなる。よって、この点で、暖房機の稼働回数を少なくすることに寄与でき、暖房のエネルギーの効率化に寄与できる。
【0023】
夏期において、冷房機を稼働させると、上述した暖房機の場合と同様にして建材シート1の室内側表面の全体が早く冷え、更に、建材シート1の近傍の空気の温度が冷えて行く。従って、部屋の中で通常冷え難いところでも冷房の立ち上がりが早くなる。よって、この点で、冷房機が稼働する時間の短縮化に寄与でき、冷房のエネルギーの効率化に寄与できる。
【0024】
冷房が立ち上がって適温(例えば、25℃〜28℃)になった後、手動又は自動的な温度調節により冷房機を止めてしばらくすると、僅かながら空気の漏れにより、室内空間の温度が室外の温度に追従するように徐々に上昇する。このとき、室内空間の温度が温度上昇を抑えるための高い融点の潜熱蓄熱材の蓄熱効果が及ぶ温度域に有ると、温度上昇は緩やかなものとなる。よって、この点で、冷房機の稼働回数を少なくすることに寄与でき、冷房のエネルギーの効率化に寄与できる。
【0025】
次に、本発明の実施形態に係る別の建材シート6を説明する。この建材シート6は、上述した建材シート1の黒鉛シート3と貼付用シート4の間に、多数の蓄熱カプセル5とともに多数の多孔質の粒状炭素材7を有するようにしたものである。すなわち、建材シート6は、図2に示すような構成になる。
【0026】
多孔質の粒状炭素材7は、例えば、竹炭、木炭、活性炭などの粒状物である。多孔質の粒状炭素材7は、内部に多数の空孔を有し、空気を留めることができる。それ故に、比熱が金属などより高く、蓄熱する。粒状炭素材7の粒径は、限定されることはないが、例えば、20〜80μm程度である。
【0027】
このような建材シート6では、建材シート1と同様の効果が得られる。更には、蓄熱カプセル5の蓄熱効果が及ぶ室内の温度域以外の温度においても、蓄熱カプセル5の蓄熱効果ほどではないが、粒状炭素材7の蓄熱効果が及んで室内空間の温度変化を緩やかにすることが可能である。また、万一、蓄熱カプセル5の封入層が破断しても、潜熱蓄熱材の流出を抑止するように潜熱蓄熱材が粒状炭素材7に吸着される。また、粒状炭素材7は、化学的に安定しているので潜熱蓄熱材と反応することもない。また、蓄熱カプセル5がホルムアルデヒドなどの化学物質を含んでいたとして、仮にそれが滲み出たとしても、粒状炭素材7に吸着される。
【0028】
建材シート6は、室内の冷暖房のエネルギーの更なる効率化を行うことができる。例えば、冬期において、暖房機を稼働させ適温になってから暖房機を止めた後、室内空間の温度が温度低下を抑えるための低い融点の潜熱蓄熱材の蓄熱効果が及ぶ温度域にないときにでも、温度降下を緩やかにすることができる。また、夏期において、冷房機を稼働させ適温になってから冷房機を止めた後、室内空間の温度が温度上昇を抑えるための高い融点の潜熱蓄熱材の蓄熱効果が及ぶ温度域にないときにでも、温度上昇を緩やかにすることができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態に係る建材シートについて説明したが、本発明は、実施形態に記載したものに限られることなく、請求の範囲に記載した事項の範囲内での設計変更が可能である。例えば、建材シート1、6を構成する各シートの厚さや大きさなどは適宜変更することができる。また、建材シート1、6は壁のみならず、適切な室内側保護シート2を用いることにより、天井や床などに使用することが可能であり、また、パーテイションなどにも使用することが可能である。また、住宅やオフィスビルの部屋に限らず、自動車、電車、飛行機などの室内に使用することも可能である。
【符号の説明】
【0030】
1、6 建材シート
2 室内側保護シート
3 黒鉛シート
4 貼付用シート
5 蓄熱カプセル
7 粒状炭素材
図1
図2