(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5805931
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】親水性ポリオレフィン焼結体
(51)【国際特許分類】
C08J 9/24 20060101AFI20151021BHJP
C08J 9/36 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
C08J9/24CES
C08J9/36
【請求項の数】21
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2009-525364(P2009-525364)
(86)(22)【出願日】2008年7月24日
(86)【国際出願番号】JP2008063296
(87)【国際公開番号】WO2009017030
(87)【国際公開日】20090205
【審査請求日】2011年4月28日
【審判番号】不服2014-11267(P2014-11267/J1)
【審判請求日】2014年6月13日
(31)【優先権主張番号】特願2007-195287(P2007-195287)
(32)【優先日】2007年7月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2007-205526(P2007-205526)
(32)【優先日】2007年8月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046314
【氏名又は名称】旭化成ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 実
(72)【発明者】
【氏名】中島 茂
(72)【発明者】
【氏名】出口 隆宏
【合議体】
【審判長】
小野寺 務
【審判官】
田口 昌浩
【審判官】
前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−353788(JP,A)
【文献】
特開2001−354796(JP,A)
【文献】
特開平6−122779(JP,A)
【文献】
国際公開第2003/014205(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/24, C08J 9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体から選ばれる少なくとも1種の分子鎖からなるグラフト鎖を有するポリオレフィン樹脂粒子の吸水性焼結体であって、平均空孔率が20〜80容積%、平均空孔径が1〜150μmの連続空孔を有し、水滴吸収時間が30秒以下、水の吸い上げ高さが1分間で5mm以上である、親水性ポリオレフィン焼結体。
【請求項2】
前記親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーが、ホスホリルコリン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、アルコキシ基、スルホ基又はその塩から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、請求項1に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
【請求項3】
前記親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーに、下記一般式(1)
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基、nは2〜10の整数である。)
で示されるメタクリロイルオキシアルキルホスホリルコリン又はアクリロイルオキシアルキルホスホリルコリンから選ばれる少なくとも1種のモノマーが含まれる、請求項1又は2に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
【請求項4】
前記親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーに、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、ビニルスルホン酸から選ばれる少なくとも1種のモノマーが含まれる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
【請求項5】
前記親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーのグラフト率が、0.01〜50%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
【請求項6】
前記ポリオレフィンが、エチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数が3以上のオレフィンとの共重合体である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
【請求項7】
前記親水性ポリオレフィン焼結体を構成するポリオレフィン樹脂粒子が、平均粒径10〜350μm、90重量%以上の粒径が1〜500μmの範囲内、嵩密度0.20〜0.55g/cm3、密度0.850〜0.970g/cm3、かつ、粘度平均分子量5万〜700万である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
【請求項8】
60℃の温水に7時間浸漬した後乾燥する操作を3回繰り返した後の水滴吸収時間が30秒以下、水の吸い上げ高さが1分間で5mm以上である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
【請求項9】
水の吸上げ高さの最小値Xに対する最大値Yの比(Y/X)が1分間で1.0〜2.0倍の範囲にある、請求項1〜8のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
【請求項10】
60℃温水可溶成分を除去した後の水の吸上げ高さの最小値Xに対する最大値Yの比(Y/X)が1分間で1.0〜2.0倍の範囲にある、請求項1〜9のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
【請求項11】
親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体から選ばれる少なくとも1種の分子鎖を、ポリオレフィン樹脂粒子又はその焼結体に液相でグラフトさせることを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体から選ばれる少なくとも1種の分子鎖を、ポリオレフィン樹脂粒子又はその焼結体に溶存酸素を除去した液相でグラフトさせることを含む、請求項11に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
【請求項13】
前記ポリオレフィン樹脂粒子を金型内に充填することによって焼結成形を行う、請求項11又は12に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
【請求項14】
前記ポリオレフィン樹脂粒子を堆積させることによって焼結成形を行う、請求項11又は12に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
【請求項15】
前記ポリオレフィン樹脂粒子を焼結成形した後に親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体から選ばれる少なくとも1種の分子鎖をグラフトさせる、請求項11〜14のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
【請求項16】
あらかじめポリオレフィン樹脂粒子に前記親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体から選ばれる少なくとも1種の分子鎖をグラフトさせた後に焼結成形する、請求項11〜14のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
【請求項17】
電離放射線の照射によってグラフトさせる、請求項11〜16のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
【請求項18】
前記電離放射線がγ線である、請求項17に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
【請求項19】
前記電離放射線の照射線量が、1kGy〜1000kGyの範囲にある、請求項17又は18に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
【請求項20】
前記親水性ポリオレフィン焼結体が、あらかじめポリオレフィン樹脂粒子又はその焼結体に電離放射線を照射した後、親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーと接触させることによって得られる、請求項17〜19のいずれかに記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
【請求項21】
活性光線の照射によってグラフトさせる、請求項11〜16のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオレフィン樹脂粒子の親水性多孔質焼結体に関する。さらに詳しくは、工業的に生産が可能で、連続空孔を持ち、吸水機能の長期持続性と低溶出性に優れた親水性多孔質焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
連続空孔を有するポリオレフィン樹脂粒子の多孔質焼結体は、流体の濾過機能、透過機能、誘導機能等の優れた特徴を有しており、フィルター、散気管、液体の誘導材等として広く利用されている。特に、親水化されたポリエチレンを主体とする親水性多孔質焼結体は、その吸水機能を利用して、水の吸収、拡散、発散、透過、誘導等の用途に役立てられており、例えば、特許文献1に記載のポリオレフィン焼結体は、冷蔵庫の野菜室やチルド室等の結露水吸収材及び庫内加湿体、エアコン等の加湿エレメント、プリンターのインク吸収体等の用途において実用化されている。
【0003】
吸水機能を有する多孔質体としては、親水性ポリオレフィン多孔質焼結体の他に、親水化を施された合成繊維の布や不織布、アスベスト布あるいは天然繊維の布帛、紙等の繊維素材、親水化を施された熱可塑性樹脂の中空糸膜や微多孔膜、金属やセラミックスの焼結体、吸水性高分子材料等も挙げられるが、親水性ポリオレフィン多孔質焼結体は、吸水時の膨潤等による寸法変化が極めて小さい、成形体としての高い強度を維持する、複雑な形状にも対応できる等の利点が全て備わっていることから、エレクトロニクスやバイオ等、様々な分野への展開が期待されている。
【0004】
これらの期待に応えるには吸水機能を持続することが重要であり、これまでにも幾つかの方法が提案されてきた。
【0005】
特許文献2及び特許文献3においては、粒子表面がスルホン化されたポリエチレン系樹脂粒子の焼結体が記載されている。しかし、発煙硫酸や熱濃硫酸等でスルホン化するという過酷な製造方法のために酸化、脱水等に伴う副生成物が多く、さらに、ポリオレフィン樹脂の変色や劣化を招くことや、非常に危険な化学反応であることが課題となっている。
【0006】
特許文献4においては、ポリオレフィン樹脂粒子にグラフト重合鎖を導入し、その表面に官能基を置換した焼結体が記載されている。しかしこの方法では、グラフト重合鎖が親水性を有していないため、焼結体に吸水機能は認められず、加圧しなければ焼結体の空孔に水を通過させることができない。
【0007】
特許文献5においては、焼結体の表面を酸素プラズマ等で処理して親水性を付与した後、コーティング材料を塗布することによって親水化する方法が記載されている。この方法では、高エネルギー処理によって、コーティング材料の接着性が高められている。しかし、コーティング材料自身が温水処理等の過酷な条件に耐えられる素材ではないため、吸水機能の持続性向上には至らない。
【0008】
この他にも、中空糸や微多孔膜等の高分子材料を親水化する方法としては、例えば特許文献6や特許文献7等に記載されているように、電離放射線によって官能基をグラフトさせる方法が提案されている。だが、これらの文献に例示される高分子材料は実際には全て薄膜状であり、成形体としての剛性及び吸水時の寸法安定性を保ちながら毛管現象を利用して自発的に水を吸い上げ保持し、かつ繰り返し使用することは極めて困難である。また、せっかく吸水させても、軽く押した程度で容易に水分が染み出てしまう。従って、これらの高分子材料を実際に利用する際には、他素材と複合化して足りない物性を補わなければならない。しかし、材料同士の接合部位は構造欠陥となる危険性が高いことから、複合化には多大な労力と費用をかける必要があり、工業化の過程において極めて非効率的な工程を経ることになってしまう。
【0009】
機能性複合材料を用いた産業の発展とともに、複数の機能を担う高分子材料として親水性ポリオレフィン焼結体への期待が一段と高まっているが、成形体として古くから利用されているにもかかわらず、ポリオレフィン樹脂粒子の多孔質焼結体について吸水機能を持続させるための具体例は未だ示されていない。これは、焼結体が多孔質体としては比較的大きな空孔を有し、さらに厚みのある成形体であるが故に、ごく微量の吸水欠陥であってもバルクな吸水機能に甚大な影響を及ぼしてしまうからである。従って、吸水機能の長期持続性と低溶出性を兼ね備えた親水性ポリオレフィン焼結体の実現には、吸水機能の向上と成形体としての基本構造の双方について課題を解決する必要があった。
【0010】
【特許文献1】特公平4−28021号公報
【特許文献2】特公平3−28457号公報
【特許文献3】特公平3−63577号公報
【特許文献4】WO2003−14205号公報
【特許文献5】特表2005−510608号公報
【特許文献6】特開平5−156057号公報
【特許文献7】特開2004−35582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであって、工業的に生産が可能で、連続空孔を持ち、吸水機能の長期持続性と低溶出性に優れた親水性多孔質焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリオレフィン樹脂粒子からなる焼結体に、親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体から選ばれる少なくとも1種の分子鎖をグラフトさせることによって、優れた吸水機能を有する親水性ポリオレフィン焼結体が容易に得られることを見出した。さらに驚くべき事に、グラフトによって均一に親水性が付与されたポリオレフィン焼結体は、吸水機能の長期持続性と低溶出性を兼ね備えており、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0013】
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体から選ばれる少なくとも1種の分子鎖からなるグラフト鎖を有するポリオレフィン樹脂粒子の吸水性焼結体であって、平均空孔率が20〜80容積%、平均空孔径が1〜150μmの連続空孔を有する、親水性ポリオレフィン焼結体。
(2)前記親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーが、ホスホリルコリン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、アルコキシ基、スルホ基又はその塩から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、(1)に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
(3)前記親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーに、下記一般式(1)
【0014】
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基、nは2〜10の整数である。)
で示されるメタクリロイルオキシアルキルホスホリルコリン又はアクリロイルオキシアルキルホスホリルコリンから選ばれる少なくとも1種のモノマーが含まれる、(1)又は(2)に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
(4)前記親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーに、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、ビニルスルホン酸から選ばれる少なくとも1種のモノマーが含まれる、(1)〜(3)のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
(5)前記親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーのグラフト率が、0.01〜50%である、(1)〜(4)のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
(6)前記ポリオレフィンが、エチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数が3以上のオレフィンとの共重合体である、(1)〜(5)のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
(7)前記親水性ポリオレフィン焼結体を構成するポリオレフィン樹脂粒子が、平均粒径10〜350μm、90重量%以上の粒径が1〜500μmの範囲内、嵩密度0.20〜0.55g/cm
3、密度0.850〜0.970g/cm
3、かつ、粘度平均分子量5万〜700万である、(1)〜(6)のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
(8)水滴吸収時間が30秒以下、水の吸い上げ高さが1分間で5mm以上である、(1)〜(7)のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
(9)60℃温水可溶成分を除去した後の水滴吸収時間が30秒以下、水の吸い上げ高さが1分間で5mm以上である、(1)〜(8)のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
(10)水の吸上げ高さの最小値Xに対する最大値Yの比(Y/X)が1分間で1.0〜2.0倍の範囲にある、(1)〜(9)のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
(11)60℃温水可溶成分を除去した後の水の吸上げ高さの最小値Xに対する最大値Yの比(Y/X)が1分間で1.0〜2.0倍の範囲にある、(1)〜(10)のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体。
(12)親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体から選ばれる少なくとも1種の分子鎖を、ポリオレフィン樹脂粒子又はその焼結体に液相でグラフトさせることを含む、(1)〜(11)のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
(13)前記親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体から選ばれる少なくとも1種の分子鎖を、ポリオレフィン樹脂粒子又はその焼結体に溶存酸素を除去した液相でグラフトさせることを含む、(12)に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
(14)前記ポリオレフィン樹脂粒子を金型内に充填することによって焼結成形を行う、(12)又は(13)に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
(15)前記ポリオレフィン樹脂粒子を堆積させることによって焼結成形を行う、(12)又は(13)に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
(16)前記ポリオレフィン樹脂粒子を焼結成形した後に親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体から選ばれる少なくとも1種の分子鎖をグラフトさせる、(12)〜(15)のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
(17)あらかじめポリオレフィン樹脂粒子に前記親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体から選ばれる少なくとも1種の分子鎖をグラフトさせた後に焼結成形する、(12)〜(15)のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
(18)電離放射線の照射によってグラフトさせる、(12)〜(17)のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
(19)前記電離放射線がγ線である、(18)に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
(20)前記電離放射線の照射線量が、1kGy〜1000kGyの範囲にある、(18)又は(19)に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
(21)前記親水性ポリオレフィン焼結体が、あらかじめポリオレフィン樹脂粒子又はその焼結体に電離放射線を照射した後、親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーと接触させることによって得られる、(18)〜(20)のいずれかに記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
(22)活性光線の照射によってグラフトさせる、(12)〜(17)のいずれか一項に記載の親水性ポリオレフィン焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、工業的に生産が可能で、連続空孔を持ち、吸水機能の長期持続性に優れた親水性多孔質焼結体が容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本願発明について具体的に説明する。なお、本発明において「重合」という語は単独重合のみならず共重合を包含した意味で用いられることがあり、また、「重合体」という語は単独重合体のみならず、共重合体を包含した意味で用いられることがある。
【0017】
本発明において、グラフトとは幹となるポリオレフィンの分子鎖に、任意のエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体からなる分子鎖が化学的に結合する反応を意味する。ここで、本発明におけるエチレン性不飽和基含有モノマーは、グラフトさせる際にそれ自身が重合してマクロマーとなるものであってもよいし、モノマーの単独重合体を形成しないものであってもよい。また、あらかじめ重合させたマクロマーをエチレン性不飽和基含有モノマーとして用いてもよい。エチレン性不飽和基含有モノマーによって構成された枝となる分子鎖が、幹となるポリオレフィンの分子鎖に共有結合を介して固定化されていればグラフト鎖となり、本発明の目的は達成される。
【0018】
本発明における親水性ポリオレフィン焼結体とは、ポリオレフィン樹脂粒子からなる吸水性の焼結体であり、吸水機能を有することが最大の特徴である。なお、本発明における吸水機能とは、25℃、大気圧下にて、水分を自発的に多孔質体の空孔内部に取り込む現象のことであり、表面張力によって水分の取り込みが阻害されない限り特に制限はないが、毛管現象によって取り込まれた水分を重力方向以外にも拡散できることが好ましい。
【0019】
本発明における吸水機能の有無は、以下の方法によって判定される。内寸が縦50mm、横50mm、高さ2mmのトレイを満たすように充填した焼結体に、エッペンドルフ株式会社製マイクロピペットを用いて高さ20mmの位置から35μlの水滴を滴下し、全量が焼結体内部に吸収されるまでの時間を確認する。合計10滴の水滴を重複しない位置に滴下し、全ての水滴がそれぞれ60秒以下で吸収される場合には、本発明における吸水機能を有すると判定され、1滴でも60秒以下で吸収されない場合には、本発明における吸水性は無いと判定される。なお、焼結体を該トレイに充填する方法としては、トレイの形状に成形したものをそのまま充填してもよいし、積層することにより充填してもよいし、切削した断片を敷き詰めることにより充填してもよい。吸水機能を有する場合には、いずれの方法を用いたとしても同じ判定結果が得られる。また、該トレイが満たされる量の焼結体であれば合計10滴の水滴が吸収される容積が十分に確保できるため、焼結体が満杯以上に充填されていても構わない。ここで、本発明において水滴が焼結体内部に吸収される状態とは、水滴の界面が完全に目視できなくなるまで焼結体に染み込む状態を指し、界面の光沢が確認できる状態、例えば、接触角が低下して焼結体表層に薄く広がるような状態や、トレイ内壁等を伝ってトレイ下部に水滴が溜まる状態は含まない。従って、水滴の滴下はトレイ内壁に直接触れないようにして、焼結体の真上から滴下しなければならない。
【0020】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂粒子としては、粒子状のポリオレフィンであれば特に限定されないが、焼結成形に好適な粒子が容易に得られる、焼結成形が容易であり賦形性に優れる、適度に柔らかく適度に剛性がある、耐薬品性に優れる、焼結体に成形した後も加工性に優れる、素材の吸湿性及び吸水性が低いことにより吸水時の寸法安定性に優れる、グラフトさせる際のラジカル保持率に優れる等の理由から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等の単独重合体、エチレンやプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸及びこれらのエステルとの共重合体であることが好ましく、エチレンの単独重合体あるいはエチレンと炭素数3以上のオレフィンとの共重合体であることが特に好ましい。
【0021】
エチレンと共重合する炭素数3以上のオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、ビニルシクロヘキサン等が挙げられ、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが特に好ましい。このうちのいくつかを組み合わせて、エチレンと共重合することもできる。また、ブタジエン、イソプレン等のジエンの共存下にオレフィンを重合することも可能であり、さらにはジエンを重合することも可能である。
【0022】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂粒子は、重合によって得られた樹脂粒子をそのまま用いてもよいし、分級して用いてもよい。また、粒子以外の形状に賦形した物を機械粉砕、冷凍粉砕、化学粉砕等の公知の方法によって粉砕し、得られた樹脂粒子をそのまま用いてもよいし、分級して用いてもよい。
【0023】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂粒子の形状について、特に制限はない。真球状でも不定形でもよく、一次粒子からなるものでも、一次粒子が複数個凝集し一体化した二次粒子でも、二次粒子をさらに粉砕したものでも構わない。
【0024】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂粒子の製造方法については、特に制限はなく、一般的に用いられている溶液法、高圧法、高圧バルク法、スラリー法、気相法のいずれの製造方法を用いてもよいが、オレフィン重合触媒を用いた重合によって直接ポリオレフィン樹脂粒子が得られるスラリー法又は気相法を用いることが好ましく、特にスラリー法を用いることが好ましい。製造時の重合圧力について特に制限はなく、通常はゲージ圧として0.1MPa〜300MPaであるが、スラリー法の場合には常圧〜10MPaが好ましい。重合温度について特に制限はなく、通常は25℃〜300℃であるが、スラリー法の場合には25℃〜120℃が好ましく、50℃〜100℃が特に好ましい。スラリー法の溶媒としては、通常使用される不活性炭化水素溶媒が用いられ、例えば、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、又は、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。
【0025】
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径とは累積重量が50%となる粒子径、すなわちメディアン径であり、特に制限はないが、親水性ポリオレフィン焼結体として十分な吸水量を確保し、かつ、毛管現象による吸水機能を十分に発揮するには、10〜350μmの範囲にあることが好ましく、30〜350μmの範囲にあることが特に好ましい。また、90重量%以上の粒径が1〜500μmの範囲内であることが好ましく、5〜450μmの範囲内であることが特に好ましい。ここで、本発明において90重量%以上の粒径が1〜500μmの範囲内であるためには、平均粒径を測定する際に別途算出した1〜500μmの範囲の累積重量が測定粒子全体の90重量%以上となればよい。
【0026】
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の嵩密度とは該ポリオレフィン樹脂粒子に滑剤等の添加剤を添加することなくJIS K 6892に準じて測定した値であり、特に制限はないが、親水性ポリオレフィン焼結体として十分な吸水量を確保し、かつ、毛管現象による吸水機能を十分に発揮するには、0.20〜0.55g/cm
3の範囲にあることが好ましく、0.22〜0.50g/cm
3の範囲にあることが特に好ましい。
【0027】
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の密度とは、ポリオレフィン樹脂粒子のプレスシートから切り出した切片を用い、JIS K 7112に準じて測定した値であり、特に制限はないが、親水性ポリオレフィン焼結体としての柔軟性を損なわずに剛性や耐薬品性を確保するには、0.850〜0.970g/cm
3の範囲にあることが好ましく、0.920〜0.960g/cm
3の範囲にあることが特に好ましい。
【0028】
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の融点は、PERKIN ELMER社製示差走査熱量分析装置Pyris1(商品名)を用いて測定した。サンプル8.4mgを50℃で1分保持した後、10℃/分の速度で200℃まで昇温し、その際に得られる融解曲線において最大ピークを示す温度を融点とした。
【0029】
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の粘度平均分子量とはポリマー溶液の比粘度から求めた極限粘度を粘度平均分子量に換算した値であり、特に制限はないが、焼結成形時に空孔の形成を阻害する要因となる樹脂の流動が少なく、かつ、隣り合うポリオレフィン樹脂粒子の融着性に優れるため、5万〜700万の範囲にあることが好ましく、10万〜500万の範囲にあることがより好ましく、20万〜400万の範囲にあることが特に好ましい。
【0030】
本発明における焼結体は、ポリオレフィン樹脂粒子を所望の形状に堆積又は金型内に充填した後、粒子間に間隙を残しつつ、無加圧又は加圧の状態で融点以上に加熱することによって得られる。ポリオレフィン樹脂粒子の表層が加熱融着することによって、連続空孔を容易に形成することができる。なお、長さのある大きな焼結体を得るには、堆積させたポリオレフィン樹脂粒子を連続的に加熱することが好ましく、細かく複雑な形状の焼結体を得るには、金型を用いて加熱することが好ましいが、必要に応じて使い分けることも可能である。
【0031】
焼結体の形状について、特に制限はないが、例えば板状、円筒状、円柱状、角柱状、球状、直方体、立方体、その他異形品等の形状にすることが可能である。金型内に充填する方法としては、例えばバイブレートリパッカー等の振動式の充填装置を用いることができる。振動充填させる際の振幅が粒子に与える影響は比較的少ないものの、長時間の振動負荷によって粒径の小さな粒子が下部に沈み込むという粒子の再分配を引き起こす可能性があることから、振動充填に要する時間は充填装置に合わせて必要最小限にすることが好ましい。金型の材質について特に制限はなく、例えば鉄、ステンレス、真鍮、アルミニウム等が用いられるが、耐久性があり、熱容量が小さく、軽量で取扱いが容易であることから、アルミニウムが好ましい。金型の形状は、2枚の平板を平行に配した板様のもの、直径の異なる円筒状のものを二重に配した円筒様のもの等、粒子の充填が可能であれば特に制限はない。
【0032】
本発明において焼結成形を行う際の加熱方法としては、温度制御が可能であれば特に制限はなく、例えば熱風乾燥機、電気誘電加熱、電気抵抗加熱等の方法を用いることができる。加熱温度は、ポリオレフィン樹脂粒子の融点付近で、粒子同士が十分に融着する温度で、かつ、樹脂が流動し、粒子間隙を埋めることのない温度であれば特に制限はない。例えば、ポリエチレンの場合、110〜220℃の範囲にあることが好ましく、120〜180℃の範囲にあることが特に好ましい。
【0033】
本発明における焼結体の表面又は内部に、布、織物、編み物、不織布、穴あきフィルム、微多孔膜、金網等、本発明の吸水機能を阻害しないものを複合化することも可能である。また、一部分に非透湿性又は非透水性のフィルム、膜等を設けて、吸収した水分の影響を周囲に及ぼさないようにすることも可能である。さらに、着色、印刷等により意匠性を持たせることも可能である。なお、必要に応じて、熱安定剤、耐候剤、吸臭剤、脱臭剤、防かび剤、抗菌剤、香料、フィラー等を添加して焼結成形してもよい。これら添加剤を加える際には、流動パラフィン等の展着剤を用いることも可能である。
【0034】
本発明における親水性ポリオレフィン焼結体の連続空孔とは、焼結体のある面からその他の面へ連続している空孔である。この空孔は、直線的であっても曲線的であってもよい。また、全体が均一な寸法であってもよいし、例えば表層と内部、あるいは一方の表層と他方の表層とで空孔の寸法を変えたものであってもよい。
【0035】
本発明における親水性ポリオレフィン焼結体の平均空孔率とは、以下の式に従って算出された値である。
平均空孔率(容積%)=[(真の密度−見掛けの密度)/真の密度]×100
ここで、真の密度(g/cm
3)とはポリオレフィン樹脂粒子の密度であり、見かけの密度(g/cm
3)とは焼結体の重量を焼結体の外寸から算出した容積で割った値である。本発明における親水性ポリオレフィン焼結体の平均空孔率は、20〜80容積%の範囲にあれば特に制限はないが、親水性ポリオレフィン焼結体として十分な吸水量と強度を確保し、かつ、毛管現象による吸水機能を十分に発揮するには、25〜60容積%の範囲にあることが好ましく、30〜55容積%の範囲にあることが特に好ましい。平均空孔率が20容積%より小さい場合には、透水及び吸水量が少ないため実質的に親水性多孔質焼結体としての吸水機能を発揮しにくいことがある。平均空孔率が80%より大きい場合には、焼結体としての強度が不足することがある。なお、焼結体の空孔は全体に均一であってもよいし、不均一であってもよい。
【0036】
本発明における親水性ポリオレフィン焼結体の平均空孔径とは、平板状に焼結成形するか、又は焼結成形後に平板状に切り出した焼結体を用い、ASTM F 316−86に準じて測定した平均流量径の値である。本発明における親水性ポリオレフィン焼結体の平均空孔径は、1〜150μmの範囲にあれば特に制限はないが、親水性ポリオレフィン焼結体として十分な吸水量と強度を確保し、かつ、毛管現象による吸水機能を十分に発揮するには、3〜120μmの範囲にあることが好ましく、5〜100μmの範囲にあることが特に好ましい。平均空孔径が1μmより小さい場合には、焼結体が密になり過ぎ、十分な吸水量が確保できないことがある。平均空孔径が150μmより大きい場合には、焼結体の連続空孔が粗くなり、毛細管現象による水の吸い上げ力が低下するため、吸水機能が十分に発揮できないことがある。なお、水銀圧入法による測定結果からもほぼ同等の平均空孔径が得られる。
【0037】
本発明における親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーとは、大気圧下で25℃の純水に0.5重量%混合した際に均一溶解し、かつ、エチレン性不飽和基、すなわちグラフト反応が生じるための重合性二重結合を有しているモノマーである。また、少なくとも1つ以上の重合性二重結合を有する化合物であればよく、それ自身が重合してマクロマーとなるものであってもよいし、それ自身は単独重合体を形成しないものであってもよい。さらに、これらのエチレン性不飽和基含有モノマーは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0038】
本発明におけるエチレン性不飽和基含有モノマーの親水性は親水性官能基に由来する物性であることから、エチレン性不飽和基含有モノマーが、ホスホリルコリン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、アルコキシ基、スルホ基又はその塩から選ばれる少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。
【0039】
本発明におけるホスホリルコリン基を有するエチレン性不飽和基含有モノマーとは、
【0040】
【化2】
で示されるリン脂質類似構造を有するエチレン性不飽和基含有モノマーである。ホスホリルコリン基は、細胞膜を構成する脂質の極性基と同様の化学構造を有していることから、親水性に優れるとともに、良好な生体親和性を示す。従って、生体成分との相互作用が少なく、かつ、生体に対して安全であることが求められる用途、例えば医療、医薬品、又は食品等の用途において極めて有用である。
【0041】
本発明におけるホスホリルコリン基を有するエチレン性不飽和基含有モノマーとしては、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、3−メタクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン、3−アクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン、4−メタクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、4−アクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、5−メタクリロイルオキシペンチルホスホリルコリン、5−アクリロイルオキシペンチルホスホリルコリン、6−メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、6−アクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、7−メタクリロイルオキシヘプチルホスホリルコリン、7−アクリロイルオキシヘプチルホスホリルコリン、8−メタクリロイルオキシオクチルホスホリルコリン、8−アクリロイルオキシオクチルホスホリルコリン、9−メタクリロイルオキシノニルホスホリルコリン、9−アクリロイルオキシノニルホスホリルコリン、10−メタクリロイルオキシデシルホスホリルコリン、10−アクリロイルオキシデシルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン等のメタクリロイルオキシアルキルホスホリルコリン又はアクリロイルオキシアルキルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシジエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシジエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシトリエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシトリエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシテトラエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシテトラエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシペンタエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシペンタエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシヘキサエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシヘキサエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシヘプタエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシヘプタエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシオクタエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシオクタエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシノナエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシノナエトキシエチルホスホリルコリン、ビニルホスホリルコリン、アリルホスホリルコリン、ブテニルホスホリルコリン、ペンテニルホスホリルコリン、ヘキセニルホスホリルコリン、ヘプテニルホスホリルコリン、オクテニルホスホリルコリン、ノネニルホスホリルコリン、デセニルホスホリルコリン、ω−メタクリロイルオキシエチレンホスホリルコリン、ω−アクリロイルオキシエチレンホスホリルコリン、ω−メタクリロイルポリオキシエチレンホスホリルコリン、ω−アクリロイルポリオキシエチレンホスホリルコリン、2−アクリルアミドエチルホスホリルコリン、3−アクリルアミドプロピルホスホリルコリン、4−アクリルアミドブチルホスホリルコリン、5−アクリルアミドペンチルホスホリルコリン、6−アクリルアミドヘキシルホスホリルコリン、7−アクリルアミドヘプチルホスホリルコリン、8−アクリルアミドオクチルホスホリルコリン、9−アクリルアミドノニルホスホリルコリン、10−アクリルアミドデシルホスホリルコリン、ω−メタクリルアミドポリオキシエチレンホスホリルコリン、ω−アクリルアミドポリオキシエチレンホスホリルコリン、2−(p−スチリルオキシ)エチルホスホリルコリン、4−(p−スチリルオキシ)ブチルホスホリルコリン、2−(p−スチリル)ホスホリルコリン、2−(p−スチリルメチル)ホスホリルコリン、2−(p−ビニルベンジルオキシ)エチルホスホリルコリン、2−(p−ビニルベンジル)エチルホスホリルコリン、2−(p−ビニルベンゾイルオキシ)エチルホスホリルコリン、2−(ビニルオキシカルボニル)エチルホスホリルコリン、2−(アリルオキシカルボニル)エチルホスホリルコリン等が挙げられるが、下記一般式(1)
【0042】
【化3】
(上記一般式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基、nは2〜10の整数である。)
で示されるメタクリロイルオキシアルキルホスホリルコリン又はアクリロイルオキシアルキルホスホリルコリンが好ましく、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが特に好ましい。
【0043】
この他にも、本発明における親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、1−ヒドロキシ−2−プロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、1−ヒドロキシ−2−プロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、グリセリンモノメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピルメタクリレート、各種脂肪酸変性グリシジルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)モノアクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)モノメタクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)モノアクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)モノメタクリレート、3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコール等のヒドロキシル基を有するモノマー、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等のカルボキシル基を有するモノマー、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基を有するモノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のアミド基を有するモノマー、メトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、メトキシプロピルアクリレート、メトキシブチルアクリレート、エトキシメチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、エトキシプロピルアクリレート、エトキシブチルアクリレート、(2−エトキシエトキシ)メチルアクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート、3−(2−エトキシエトキシ)プロピルアクリレート、4−(2−エトキシエトキシ)ブチルアクリレート、(2−メトキシエトキシ)メチルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、3−(2−メトキシエトキシ)プロピルアクリレート、4−(2−メトキシエトキシ)ブチルアクリレート、ジメチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート、2−(エトキシメトキシ)エチルアクリレート、3−(エトキシメトキシ)プロピルアクリレート、4−(エトキシメトキシ)ブチルアクリレート、ジメチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、2−(メトキシメトキシ)エチルアクリレート、3−(メトキシメトキシ)プロピルアクリレート、及び4−(メトキシメトキシ)ブチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシプロピルメタクリレート、メトキシブチルメタクリレート、エトキシメチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、エトキシプロピルメタクリレート、エトキシブチルメタクリレート、(2−エトキシエトキシ)メチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、3−(2−エトキシエトキシ)プロピルメタクリレート、4−(2−エトキシエトキシ)ブチルメタクリレート、(2−メトキシエトキシ)メチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、3−(2−メトキシエトキシ)プロピルメタクリレート、4−(2−メトキシエトキシ)ブチルメタクリレート、ジメチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、2−(エトキシメトキシ)エチルメタクリレート、3−(エトキシメトキシ)プロピルメタクリレート、4−(エトキシメトキシ)ブチルメタクリレート、ジメチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、2−(メトキシメトキシ)エチルメタクリレート、3−(メトキシメトキシ)プロピルメタクリレート、及び4−(メトキシメトキシ)ブチルメタクリレート等のアルコキシ基を有するモノマー、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸リチウム、スチレンスルホン酸アンモニウム等のスルホ基又はその塩を有するモノマー等が挙げられる。
【0044】
また、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルソルベート、グリシジルメタイタコナート、エチルグリシジルマレアート、グリシジルビニルスルホナート等のエポキシ基を有するモノマー、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、シクロペンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、n−ステアリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、シクロペンチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、n−ステアリルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸のエステル、アクリル酸クロリド、アクリル酸ブロミド、メタクリル酸クロリド、メタクリル酸ブロミド等のアクリル酸又はメタクリル酸のハライド、アクロレイン等の不飽和アルデヒド等を用いてもよく、グラフトさせた後にこれらのモノマーに含まれる活性官能基を親水性官能基によって置換してもよい。
【0045】
本発明における親水性ポリオレフィン焼結体は、ポリオレフィン樹脂粒子を焼結成形した後に、親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体から選ばれる少なくとも1種の分子鎖をグラフトさせて得てもよいし、あらかじめポリオレフィン樹脂粒子に親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体から選ばれる少なくとも1種の分子鎖をグラフトさせた後に、焼結成形して得てもよい。
【0046】
なお、あらかじめポリオレフィン樹脂粒子にグラフトさせた後に焼結成形する場合には、融着力を高めるためにグラフトさせていないポリオレフィン樹脂粒子を混合してから焼結成形してもよい。
【0047】
本発明において、グラフトさせたポリオレフィン樹脂粒子とグラフトさせていないポリオレフィン樹脂粒子との混合は、ヘンシェルミキサー、タンブラー混合機、レディースミキサー、高速流動型混合機、V型混合機等を用いて実施することができるが、混合の際に粒子が帯電しないように装置、混合条件等を選択することが好ましい。粒子が帯電すると粒子同士の凝集が発生しやすくなり、均一な混合が難しくなることがある。アースや送風式除電装置等によって粒子搬送時の静電気を除電することが好ましい。
【0048】
本発明においてグラフトさせたポリオレフィン樹脂粒子とグラフトさせていないポリオレフィン樹脂粒子との混合比率について特に制限はないが、親水性ポリオレフィン焼結体としての強度と吸水機能を両立するには、前者が10〜70重量%の範囲にあることが好ましく、30〜60重量%の範囲にあることが特に好ましい。
【0049】
本発明において、親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体から選ばれる少なくとも1種の分子鎖をグラフトさせる方法としては、ポリオレフィンに発生させたラジカルを開始点として親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーを導入し得る方法であれば特に制限はなく、例えば、コロナ放電やグロー放電により発生するプラズマによる方法、オゾンに代表されるような活性ガスによる方法、ベンゾフェノン、アセトフェノン等の光増感剤と紫外線等の活性光線による方法、電離放射線による方法、各種ラジカル開始剤による方法等が挙げられるが、均一性に優れることから活性光線又は電離放射線の照射によってラジカルを生成させる方法が好ましい。
【0050】
なお、本発明における電離放射線とは、物質と作用して電離現象を起こすことができる放射線であり、例えば、γ線、X線、β線、電子線、α線等が挙げられるが、工業生産に向いており、かつ、特に均一にラジカルを生成させることができるγ線が好ましい。
【0051】
本発明における電離放射線の照射線量は、グラフトさせるのに十分なラジカルの生成量が得られ、不必要な架橋や部分的な分解が起こらない経済的な照射線量であれば特に制限はないが、ラジカルが均一に生成し、焼結体の剛性や耐薬品性に及ぼす影響も少ないことから、1kGy〜1000kGyの範囲にあることが好ましく、5kGy〜500kGyの範囲にあることがより好ましく、10kGy〜300kGyの範囲にあることが特に好ましい。
【0052】
本発明において、電離放射線を照射する方法としては、ポリオレフィン樹脂粒子又はその焼結体と親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーの共存下に電離放射線を照射する同時照射法と、あらかじめポリオレフィン樹脂粒子又はその焼結体に電離放射線を照射した後、親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーと接触させる前照射法に大別され、特に制限はないが、モノマーの単独重合物の生成が少ない前照射法が好ましい。
【0053】
本発明において、ラジカルが生成したポリオレフィン樹脂粒子又はその焼結体と親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーとの接触は、気相で行っても液相で行っても良く、特に制限はないが、より均一にグラフトさせることができる液相で行う方法が好ましい。また、均一性を高めるために、親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーはあらかじめ溶媒中に溶解させてから用いることが好ましい。さらに、これらの液相は、溶存酸素を除去した液相であることが好ましい。液相から溶存酸素を除去することにより、ラジカルの重合活性を不用意に奪うことなく有効利用することが可能となり、ポリオレフィン焼結体の親水化が驚くほど均一に進行する。
【0054】
本発明における溶存酸素の除去方法について、特に制限はなく、真空ポンプを用いて脱気する、液体窒素で液相を凍結させてから真空ポンプを用いて脱気し解凍するという操作を繰り返す、減圧蒸留したものをそのまま用いる、超音波の照射により脱酸素する、不活性ガスを液相中にバブリングする等の方法が挙げられるが、不活性ガスを液相中にバブリングする方法が好ましい。
【0055】
本発明において、バブリングを行う際の不活性ガスとしてはグラフト反応を阻害しないものであれば特に制限はなく、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンのような一般的に知られる不活性ガスを用いることができる。
【0056】
本発明において、バブリングを行う際の不活性ガスの流量について特に制限はないが、液相が入った容器の容積に対して1分間で5〜500容積%の流量であることが好ましく、1分間で10〜300容積%の流量であることがより好ましく、1分間で50〜200容積%の流量であることが特に好ましい。
【0057】
本発明において、バブリングを行う際の不活性ガスの導入量について特に制限はないが、グラフト反応開始前の不活性ガス導入量が、液相が入った容器の容積に対して1〜500倍量であることが好ましく、2〜400倍量であることがより好ましく、5〜300倍量であることが特に好ましい。なお、グラフトさせる際に不活性ガスによるバブリングを継続してもよい。
【0058】
本発明におけるバブリングの方法について特に制限はなく、液相中に浸漬させた不活性ガス導入口からバブリングを行ってもよいし、不活性ガスを液相に加圧溶解させた後、減圧して気泡を生成させることによりバブリングを行ってもよく、いずれの方法を用いてもよいが、液相中に浸漬させた不活性ガス導入口からバブリングを行う方法が好ましい。また、液相中に浸漬させた不活性ガス導入口が複数の微細な穴からなる構造を有することが好ましい。さらに、該穴径が0.1μm〜10mmの範囲にあることが好ましく、1μm〜5mmの範囲にあることがより好ましく、5μm〜2mmの範囲にあることが特に好ましい。液相中に浸漬させた不活性ガス導入口が複数の微細な穴からなる構造を有することによって、より多くの気泡が発生するため、溶存酸素の除去を促進する効果がある。なお、不活性ガスの気泡が液相全体に拡散するように、液相を攪拌することが好ましい。
【0059】
本発明において、親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーを溶解させる溶媒としては、均一溶解できるものであれば良く、特に制限はないが、ポリオレフィン樹脂の膨潤度が小さいものを用いることが好ましい。中でも、膨潤度が10%以下の溶媒が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、水、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
【0060】
なお、本発明における膨潤度とは、溶媒中に1時間浸漬したポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径と、浸漬前のポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径との差を、浸漬前のポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径で割った値である。
【0061】
本発明の前照射法においてラジカルを生成させたポリオレフィン樹脂粒子の焼結体は、親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーと接触させる前に、反応容器中で脱気することが好ましい。脱気した反応容器に親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーを吸引導入することにより、焼結体の空孔内部にまで均一にグラフトさせることができる。脱気する際の反応容器内の真空度は0〜1340Paの範囲にあることが好ましく、0〜134Paの範囲にあることがより好ましく、0〜13.4Paの範囲にあることが特に好ましい。
【0062】
本発明における電離放射線を照射する際の温度について、特に制限はないが、生成したラジカルの失活が抑制されるため、−150〜0℃の範囲にあることが好ましく、−100〜−30℃の範囲にあることが特に好ましい。なお、本発明の前照射法においてラジカルを生成させた後は、親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーと接触させるまでの間、−10℃以下の低温に保つことが好ましい。低温に保たない場合には、ラジカルが急速に減衰し、例えば、25℃の室温で30分経過すると、驚くべきことにその数は半分になる。さらに、ラジカルが微量の吸着酸素と反応し、焼結体の耐熱性や耐薬品性を損なうこともある。
【0063】
本発明において、グラフトさせる際の温度は、ポリオレフィン樹脂粒子の融点未満であれば特に制限はないが、0〜100℃の範囲にあることが好ましく、5〜90℃の範囲にあることがより好ましく、10〜80℃の範囲にあることが特に好ましい。グラフトさせる際の温度が0℃より低い場合には、反応速度が遅く、反応が不均一に進行することがある。グラフトさせる際の温度が100℃よりも高い場合には、モノマーの単独熱重合物が生成して、焼結体の空孔が閉塞することがあり、さらにはそれらが使用時に流出する恐れもある。
【0064】
本発明において、ラジカルが生成したポリオレフィン樹脂粒子又はその焼結体と親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーとを液相で接触させる場合、親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーの液相濃度について特に制限はないが、親水性ポリオレフィン焼結体の空孔を閉塞させずに十分な親水性を得るには、25℃、大気圧下にて液体状のエチレン性不飽和基含有モノマーの場合には、0.3〜30容積%の範囲にあることが好ましく、0.5〜20容積%の範囲にあることがより好ましく、0.8〜15容積%の範囲にあることが特に好ましい。また、25℃、大気圧下にて固体状のエチレン性不飽和基含有モノマーの場合には、0.1〜25重量%の範囲にあることが好ましく、0.2〜20重量%の範囲にあることがより好ましく、0.3〜15重量%の範囲にあることが特に好ましい。
【0065】
なお、液相の量について特に制限はないが、工業生産の観点からポリオレフィン樹脂粒子又はその焼結体1gに対して2×10
−6〜5×10
−3m
3の割合で用いることが好ましく、3×10
−6〜2×10
−3m
3の割合で用いることが特に好ましい。
【0066】
本発明では、ポリオレフィン樹脂粒子からなる多孔質焼結体の実用的な透過性能を維持したまま、吸水機能の発現に十分な量のエチレン性不飽和基含有モノマー又はその重合体をグラフトさせる。従って、グラフト率は0.01〜50%の範囲にあることが好ましく、0.05〜40%の範囲にあることがより好ましく、0.10〜30%の範囲にあることが特に好ましい。なお、本発明におけるグラフト率とは、以下の式に従って算出された値である。
グラフト率(%)=[(グラフト後の重量−グラフト前の重量)/グラフト前の重量]×100
なお、融着力を高めるためにグラフトさせていないポリオレフィン樹脂粒子を混合してから焼結成形する場合は、上記式における分母の「グラフト前の重量」をグラフトさせていないポリオレフィン樹脂粒子も含めたポリオレフィン樹脂粒子の総重量とする。
【0067】
本発明における水滴吸収時間とは、大気圧下、25℃にて、水平に静置した縦50mm、横50mm、厚さ2mmの焼結体の中央に、高さ20mmの位置から35μlの水滴を滴下し、全量が焼結体内部に吸収されるまでに要する時間である。本発明における水滴吸収時間は、吸水機能の判定条件となる60秒以下であれば特に制限はないが、親水性ポリオレフィン焼結体として吸水機能を十分に発揮するには、30秒以下であることが好ましく、10秒以下がより好ましく、5秒以下が特に好ましい。
【0068】
また、本発明における水の吸い上げ高さとは、大気圧下、25℃にて、厚さ2mm、幅10mm、高さ100mmの焼結体の下部20mmを25℃の水中に垂直に浸漬し、浸漬してから1分後の毛細管現象による水の吸い上げ距離の最小値Xを測定した値である。本発明における水の吸い上げ高さについて、特に制限はないが、親水性ポリオレフィン焼結体として吸水機能を十分に発揮するには、1分間で5mm以上であることが好ましく、10mm以上がより好ましく、15mm以上が特に好ましい。なお、水の吸上げ高さの最小値Xに対する最大値Yの比(Y/X)は、吸水機能の均一性を示しており、1分間で1.0〜2.0倍の範囲にあることが好ましく、1.0〜1.5倍であることがより好ましく、1.0〜1.2倍である事が特に好ましい。
【0069】
本発明における親水性ポリオレフィン焼結体の特徴として挙げられる吸水機能の持続性を確認するには、例えば、60℃温水可溶成分を除去した後の水滴吸収時間と水の吸い上げ高さを測定すればよい。ここで、60℃温水可溶成分を除去する方法について説明する。まず、ユニット型恒温槽が備え付けられた60℃の温水循環槽中に測定対象となる焼結体を7時間浸漬する。その後、焼結体の空孔に残存した水分を除去し、乾燥させる。この操作を計3回繰り返すことによって60℃温水可溶成分を除去する。界面活性剤や水溶性の親水ポリマー等の60℃温水可溶成分をコーティングすることによって親水性ポリオレフィン焼結体を得た場合には、この除去方法によって吸水機能が失われることになる。
【0070】
本発明における60℃温水可溶成分を除去した後の水滴吸収時間について、特に制限はないが、親水性ポリオレフィン焼結体として吸水機能を十分に発揮するには、30秒以下であることが好ましく、10秒以下がより好ましく、5秒以下が特に好ましい。
【0071】
本発明における60℃温水可溶成分を除去した後の水の吸い上げ高さについて、特に制限はないが、親水性ポリオレフィン焼結体として吸水機能を十分に発揮するには、1分間で5mm以上であることが好ましく、10mm以上がより好ましく、15mm以上が特に好ましい。
【0072】
本発明における60℃温水可溶成分を除去した後の水の吸上げ高さの最小値Xに対する最大値Yの比(Y/X)について、特に制限はないが、親水性ポリオレフィン焼結体として吸水機能を十分に発揮するには、1分間で1.0〜2.0倍の範囲にあることが好ましく、1.0〜1.5倍であることがより好ましく、1.0〜1.2倍である事が特に好ましい。
【0073】
本発明において親水性ポリオレフィン焼結体の断面方向におけるグラフト量の均一性を評価する代表的な方法として、例えば、顕微ATR法によるライン分析が挙げられる。まず、親水性ポリオレフィン焼結体をエポキシ樹脂によって包埋し、ミクロトームを用いてスライスすることにより切断面を作製する。パーキンエルマー社製Spectrum Spotlight300(商品名)を用い、アパーチャーサイズ10μm×100μm、ステップサイズ10μm、分解能4cm
−3、積算回数100回、波数範囲4000−700cm
−3でスキャンし、親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーに由来する吸収ピークを確認する。親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーとしてアクリル酸誘導体やメタクリル酸誘導体等を使用した場合には、カルボニル基に由来する1780cm
−3の吸収ピークとメチレン鎖に由来する1460cm
−3の吸収ピークとの強度比を用いれば、断面方向におけるグラフト量の均一性を評価することが可能である。スルホン酸誘導体を使用した場合にはS=O伸縮振動に由来する1060〜1030cm
−1の吸収ピークを用いればよい。また、親水性を有するエチレン性不飽和基含有モノマーに由来する特定の元素に着目して、X線光電子分光法による元素分析を行っても同様に評価が可能である。なお、評価方法としては、これらの方法に限定されず、あらゆる方法を用いることができる。
【0074】
本発明において使用する水は、ろ過、蒸留、逆浸透、及びイオン交換のいずれか、又は、これらの組み合わせによって不純物や金属イオン等を除去し、抵抗率で5万Ω・cm以上の純水を用いることが望ましい。
【0075】
本発明によって得られる親水性ポリオレフィン焼結体は、一般工業部材として利用可能であるほか、イムノクロマト法による迅速検査キットの支持体、アフェレシス治療用のフィルター、人工透析等用のフィルター、各種インプラント、生体分析キット等のプレフィルター、剛性の低いフィルター等の支持体、イオン交換樹脂の支持体等のライフサイエンス分野や、プリンタヘッド用インク吸収体、固体電解質の支持体、燃料電池用部材等のエレクトロニクス分野においても利用可能である。
【0076】
次に、実施例及び比較例によって本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0077】
焼結体の作製
本発明の実施例及び比較例における焼結体の作製は、以下の方法によって行った。まず、厚さ2mmのアルミニウム板を用いて、外寸が厚さ6mm、幅112mm、高さ108mm、内寸が厚さ2mm、幅100mm、高さ100mmの金型を作製した。金型の上蓋となるアルミニウム板を外し、30秒間バイブレーターで振動を与えながらポリオレフィン樹脂粒子を充填した。上蓋を元に戻した後、150℃のオーブンで25分間加熱して平板状の焼結体を得た。
【0078】
平均空孔率の測定
本発明の実施例及び比較例における平均空孔率は、以下の式に従って算出した。
平均空孔率(容積%)=[(真の密度−見掛けの密度)/真の密度]×100
ここで、真の密度(g/cm
3)とはポリオレフィン樹脂粒子の密度であり、見かけの密度(g/cm
3)とは焼結体の重量を焼結体の外寸から算出した容積で割った値である。
【0079】
平均空孔径の測定
本発明の実施例及び比較例における平均空孔径は、ユアサアイオニクス株式会社製ポアサイズメーターPSM165(商品名)、及び、株式会社島津製作所製自動ポロシメータオートポアIV9510(商品名)を用いて求めた。自動ポロシメータの測定条件は、低圧部測定範囲0.54〜40psia、低圧部測定点数46点、高圧部測定範囲50〜6000psia、高圧部測定点数43点とした。
【0080】
60℃温水可溶成分の除去
本発明の実施例及び比較例における60℃温水可溶成分の除去は、以下の方法によって行った。まず、タイテック株式会社製サーモミンダーSH−12(商品名)を取り付けた、縦335mm、横190mm、深さ155mmの内容積を有するポリ水槽に、8000cm
3の水を入れて60℃に設定し、この温水循環槽中に測定対象となる焼結体を7時間浸漬した。その後、焼結体の空孔に残存した水分を除去し、乾燥させた。この操作を計3回繰り返すことによって60℃温水可溶成分を除去した。なお、本発明の実施例及び比較例における水は、イオン交換水(岡山汽水工業有限会社製、採水時の抵抗率が200万Ω・cm以上)を使用した。
【0081】
水滴吸収時間の測定
本発明の実施例及び比較例における水滴吸収時間は、大気圧下、25℃にて、水平に静置した縦50mm、横50mm、厚さ2mmの焼結体の中央に、エッペンドルフ株式会社製マイクロピペットを用いて高さ20mmの位置から35μlの水滴を滴下し、全量が焼結体内部に吸収されるまでの時間を測定することによって求めた。
【0082】
水の吸い上げ高さの測定
本発明の実施例及び比較例における水の吸い上げ高さは、大気圧下、25℃にて、厚さ2mm、幅10mm、高さ100mmの焼結体の下部20mmを25℃の水中に垂直に浸漬し、浸漬してから1分後の毛管現象による水の吸い上げ距離の最小値Xを測定することによって求めた。
【0083】
水の吸い上げ高さの最小値Xに対する最大値Yの比(Y/X)の算出
本発明の実施例及び比較例における水の吸い上げ高さの最小値Xに対する最大値Yの比(Y/X)は、大気圧下、25℃にて、厚さ2mm、幅10mm、高さ100mmの焼結体の下部20mmを25℃の水中に垂直に浸漬し、浸漬してから1分後の毛管現象による水の吸い上げ距離の最小値Xと最大値Yを測定し、最小値Xに対する最大値Yの比(Y/X)を算出することによって求めた。
なお、本発明の実施例において得られる親水性ポリオレフィン焼結体は、Y/Xが全て1.0〜1.5倍の範囲にあり、さらに、60℃温水可溶成分を除去した後においても全て1.0〜1.5倍の範囲にあった。
【0084】
平均粒径の測定
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径とは累積重量が50%となる粒子径、すなわちメディアン径である。
【0085】
本発明の実施例及び比較例におけるポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径は、株式会社島津製作所製SALD−2100(商品名)を用い、メタノールを分散媒として測定することによって求めた。また、1〜500μmの範囲の累積重量を算出し、測定粒子全体の90重量%以上であるか否かを判定した。
【0086】
嵩密度の測定
本発明の実施例及び比較例におけるポリオレフィン樹脂粒子の嵩密度は、該ポリオレフィン樹脂粒子に滑剤等の添加剤を添加することなく、JIS K 6892に準じて測定することによって求めた。
【0087】
密度の測定
本発明の実施例及び比較例におけるポリオレフィン樹脂粒子の密度は、ポリオレフィン樹脂粒子のプレスシートから切り出した切片を120℃で1時間アニーリングし、その後25℃で1時間冷却したものを密度測定用サンプルとして用い、JIS K 7112に準じて測定することによって求めた。なお、ポリオレフィン樹脂粒子のプレスシートは、縦60mm、横60mm、厚み2mmの金型を用い、ASTM D 1928 Procedure Cに準じて作製した。
【0088】
粘度平均分子量の測定
本発明の実施例及び比較例におけるポリオレフィン樹脂粒子の粘度平均分子量は、以下に示す方法によって求めた。まず、20cm
3のデカリン(デカヒドロナフタレン)にポリマー10mgを入れ、150℃で2時間攪拌してポリマーを溶解させた。その溶液を135℃の恒温槽で、ウベローデタイプの粘度計を用いて、標線間の落下時間(t
s)を測定した。同様に、ポリマー5mgの場合についても測定した。ブランクとしてポリマーを入れていない、デカリンのみの落下時間(t
b)を測定した。以下の式に従って求めたポリマーの比粘度(η
sp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)とポリマーの比粘度(η
sp/C)の直線式を導き、濃度0に外挿した極限粘度(η)を求めた。
η
sp/C=(t
s/t
b−1)/0.1
この極限粘度(η)から以下の式に従い、粘度平均分子量(Mv)を求めた。
Mv=5.34×10
4η
3.49【0089】
顕微ATR法によるライン分析
本発明の実施例及び比較例におけるグラフト量の均一性は、顕微ATR法によるライン分析によって評価した。まず、得られた平板状の焼結体を縦5mm、横5mm、厚さ2mmの大きさに切り取った後、エポキシ樹脂によって包埋し、ミクロトームを用いて厚さ方向に焼結体の中心をスライスすることにより、該焼結体の切断面を作製した。同様の操作により、合計10個の評価サンプルを作製した。パーキンエルマー社製Spectrum Spotlight300(商品名)を用い、アパーチャーサイズ10μm×100μm、ステップサイズ10μm、分解能4cm
−1、積算回数100回、波数範囲4000−700cm
−1でスキャンした。実施例1〜10、実施例13〜18、及び比較例5については、カルボニル基に由来する1780cm
−1の吸収ピークとメチレン鎖に由来する1460cm
−1の吸収ピークとの強度比を評価し、焼結体の表面近傍部での該強度比の平均値(A)と中心層部での該強度比の平均値(B)との比(B/A)を求めた。実施例11〜12、及び比較例8については、カルボニル基ではなくS=O伸縮振動に由来する1060〜1030cm
−1の吸収ピークを用いた。なお、本発明における焼結体の表面近傍部とは、平板状の焼結体の厚さに対して焼結体外表面から10〜20%に相当する深さ迄の領域を示し、中心層部とは、平板状の焼結体の厚さに対して焼結体外表面から45〜55%に相当する深さ迄の領域を示す。上記の評価を合計10個の評価サンプルに対してそれぞれ実施し、B/Aが全て0.5〜2.0の範囲にあるものについてグラフト量の均一性があると判定した。
本発明の実施例において得られる親水性ポリオレフィン焼結体は全てグラフト量の均一性があると判定され、さらに、60℃温水可溶成分を除去した後においても全てグラフト量の均一性があると判定された。一方、比較例5及び比較例8では、グラフト量の均一性があるとは判定されなかった。また、60℃温水可溶成分を除去した後も、グラフト量の均一性があるとは判定されなかった。
【0090】
実施例1
平均粒径が163μm、粒径が1〜500μmの範囲内の累積重量が90重量%以上、嵩密度が0.44g/cm
3、密度が0.940g/cm
3、粘度平均分子量が330万である超高分子量高密度ポリエチレンパウダー(旭化成ケミカルズ株式会社製サンファイン(登録商標)UH901)を用いて平板状の焼結体を作製した。この焼結体をアルミ蒸着したポリエチレンの袋に入れ窒素ガスで封じ、ドライアイスで−60℃に冷却しながら200kGyのγ線を照射した。tert−ブタノール(純正化学株式会社製、試薬特級)の25容積%水溶液とヒドロキシプロピルアクリレート(東京化成工業株式会社製、2−ヒドロキシプロピルエステルと2−ヒドロキシ−1−メチルエチルエステルの混合物、2−ヒドロキシプロピルアクリレート含有量90%以上)を混合して14容積%モノマー溶液を作製し、40℃にて30分間窒素バブリングして溶存酸素を除去した。γ線照射後の焼結体を反応容器に入れ、
13.4Pa以下の減圧下に15分間静置した後、上記モノマー溶液1200cm
3を導入し、40℃で20分間反応させた。その後、2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)の50容積%水溶液1200cm
3に25℃で20分間浸漬させて洗浄し、この洗浄操作を計3回繰り返した後、乾燥させることによって、グラフト率4.4%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表1に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0091】
比較例1
実施例1で使用した超高分子量高密度ポリエチレンパウダー100重量部にポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート0.3重量部を高速ミキサーにて100℃に加温しつつ乾式混合した。得られた親水化パウダーを用いて平板状の焼結体を作製した。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表1に示す。この親水性多孔質焼結体の吸水機能は、60℃温水可溶成分を除去することによって完全に失われてしまった。
【0092】
【表1】
【0093】
実施例2
γ線照射後の焼結体とモノマー溶液との反応時間を60分間とした以外は、実施例1と同様の操作によって、グラフト率18.0%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表2に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0094】
実施例3
実施例1で使用した超高分子量高密度ポリエチレンパウダー20gを、アルミ蒸着したポリエチレンの袋に入れ窒素ガスで封じ、ドライアイスで−60℃に冷却しながら100kGyのγ線を照射した。tert−ブタノール(純正化学株式会社製、試薬特級)の25容積%水溶液とヒロドキシプロピルアクリレート(東京化成工業株式会社製、2−ヒドロキシプロピルエステルと2−ヒドロキシ−1−メチルエチルエステルの混合物、2−ヒドロキシプロピルアクリレート含有量90%以上)を混合して30容積%モノマー溶液200cm
3を作製し、40℃にて30分間窒素バブリングして溶存酸素を除去した。このモノマー溶液に、γ線照射後のパウダーを窒素バブリング下で投入し、40℃で180分間反応させた。その後、反応スラリーをブフナーロートで濾過し、2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)1200cm
3及びイオン交換水1200cm
3中にてそれぞれ25℃で1時間攪拌して洗浄し、この洗浄操作を計3回繰り返した後、乾燥させることによって、親水化パウダーを得た。この親水化パウダー100重量部と親水化前のパウダー100重量部の混合パウダーを用いて平板状の焼結体を作製した。グラフト率は17.2%であった。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表2に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0095】
実施例4
平均粒径が277μm、粒径が1〜500μmの範囲内の累積重量が90重量%以上、嵩密度が0.45g/cm
3、密度が0.955g/cm
3、粘度平均分子量が30万である高密度ポリエチレンパウダー(旭化成ケミカルズ株式会社製サンファイン(登録商標)SH821)を用いて平板状の焼結体を作製した。ベンゾフェノン(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)1gをアセトン1000cm
3に溶解した溶液に上記の焼結体を1分間遮光下で浸漬した後、取り出した焼結体を遮光した状態で1時間減圧乾燥した。ヒロドキシプロピルアクリレート(東京化成工業株式会社製、2−ヒドロキシプロピルエステルと2−ヒドロキシ−1−メチルエチルエステルの混合物、2−ヒドロキシプロピルアクリレート含有量90%以上)の14容積%水溶液を作製し、40℃にて30分間窒素バブリングして溶存酸素を除去した。この溶液1200cm
3中にベンゾフェノンのアセトン溶液で処理した上記の焼結体を固定して60℃とし、高圧水銀ランプUVL−400HA(商品名)(理工科学産業株式会社製)を用いて紫外線を90分間照射した。その後、イオン交換水1200cm
3とメタノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)1200cm
3にそれぞれ25℃で8時間浸漬させて洗浄した。この洗浄操作を計3回繰り返した後、乾燥させることによって、グラフト率4.7%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表2に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0096】
実施例5
実施例1で使用した超高分子量高密度ポリエチレンパウダーを用いて平板状の焼結体を作製した。この焼結体をポリエチレンの袋に入れ窒素ガスで封じ、ドライアイスで−60℃に冷却しながら200kGyのγ線を照射した。tert−ブタノール(和光純薬工業株式会社製、和光特級)の25容積%水溶液とヒドロキシプロピルアクリレート(和光純薬工業株式会社製、異性体混合物、2−ヒドロキシプロピルアクリレート含有量90%以上)を混合して5容積%モノマー溶液を作製し、40℃にて120分間窒素バブリングして溶存酸素を除去した。窒素ガス置換したグローブバッグ中にて上記焼結体の入ったポリエチレン袋を開封して上記モノマー溶液300cm
3を導入し、再度密封した後、恒温振とう水槽に設置して40℃で60分間反応させた。その後、メタノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)の50容積%水溶液1200cm
3に25℃で1時間浸漬させて洗浄した。この洗浄操作を計3回繰り返した後、乾燥させることによって、グラフト率2.6%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表2に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0097】
実施例6
窒素バブリングの温度を25℃、γ線照射後の焼結体とモノマー溶液との反応温度を25℃、反応時間を120分間とした以外は、実施例5と同様の操作によって、グラフト率3.8%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表2に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0098】
実施例7
平均粒径が42μm、粒径が1〜500μmの範囲内の累積重量が90重量%以上、嵩密度が0.41g/cm
3、密度が0.936g/cm
3、粘度平均分子量が271万である超高分子量高密度ポリエチレンパウダー(三井化学株式会社製ミペロン(登録商標)XM−220)を用い、モノマー溶液の濃度を3容積%とした以外は、実施例6と同様の操作によって、グラフト率2.8%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表2に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0099】
実施例8
平均粒径が143μm、粒径が1〜500μmの範囲内の累積重量が90重量%以上、嵩密度が0.42g/cm
3、密度が0.930g/cm
3、粘度平均分子量が334万である超高分子量高密度ポリエチレンパウダー(Ticona社製GUR(登録商標)4120)を用い、tert−ブタノールのかわりにエタノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を用いた以外は、実施例6と同様の操作によって、グラフト率3.0%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表2に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0100】
実施例9
実施例8で使用した超高分子量高密度ポリエチレンパウダーを用いて平板状の焼結体を作製した。この焼結体をポリエチレンの袋に入れ窒素ガスで封じ、ドライアイスで−60℃に冷却しながら100kGyのγ線を照射した。tert−ブタノール(和光純薬工業株式会社製、和光特級)の25容積%水溶液と2−ヒドロキシエチルメタクリレート(和光純薬工業株式会社製、和光一級)を混合して5容積%モノマー溶液を作製し、25℃にて120分間窒素バブリングして溶存酸素を除去した。窒素ガス置換したグローブバッグ中にて上記焼結体の入ったポリエチレン袋を開封して上記モノマー溶液300cm
3を導入し、再度密封した後、恒温振とう水槽に設置して25℃で300分間反応させた。その後、メタノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)の50容積%水溶液1200cm
3に25℃で1時間浸漬させて洗浄した。この洗浄操作を計3回繰り返した後、乾燥させることによって、グラフト率7.2%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表2に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0101】
実施例10
実施例8で使用した超高分子量高密度ポリエチレンパウダーを用いて平板状の焼結体を作製した。この焼結体をポリエチレンの袋に入れ窒素ガスで封じ、ドライアイスで−60℃に冷却しながら50kGyのγ線を照射した。tert−ブタノール(和光純薬工業株式会社製、和光特級)の25容積%水溶液と2−ジエチルアミノエチルメタクリレート(和光純薬工業株式会社製、和光一級)を混合して5容積%モノマー溶液を作製し、25℃にて120分間窒素バブリングして溶存酸素を除去した。窒素ガス置換したグローブバッグ中にて上記焼結体の入ったポリエチレン袋を開封して上記モノマー溶液300cm
3を導入し、再度密封した後、恒温振とう水槽に設置して25℃で120分間反応させた。その後、メタノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)の50容積%水溶液1200cm
3に25℃で1時間浸漬させて洗浄した。この洗浄操作を計3回繰り返した後、乾燥させることによって、グラフト率2.5%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表2に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0102】
実施例11
平均粒径が162μm、粒径が1〜500μmの範囲内の累積重量が90重量%以上、嵩密度が0.41g/cm
3、密度が0.920g/cm
3、粘度平均分子量が370万である超高分子量ポリエチレンパウダー(旭化成ケミカルズ株式会社製サンファイン(登録商標)UL901)を用いて平板状の焼結体を作製した。この焼結体をポリエチレンの袋に入れ窒素ガスで封じ、ドライアイスで−60℃に冷却しながら150kGyのγ線を照射した。メタノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)の25容積%水溶液とビニルスルホン酸(旭化成ファインケム株式会社製)を混合して3容積%モノマー溶液を作製し、40℃にて120分間窒素バブリングして溶存酸素を除去した。窒素ガス置換したグローブバッグ中にて上記焼結体の入ったポリエチレン袋を開封して上記モノマー溶液250cm
3を導入し、再度密封した後、恒温振とう水槽に設置して40℃で60分間反応させた。その後、メタノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)の50容積%水溶液1200cm
3に25℃で1時間浸漬させて洗浄した。この洗浄操作を計3回繰り返した後、乾燥させることによって、グラフト率1.3%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表2に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0103】
実施例12
モノマー溶液の濃度を1容積%とした以外は、実施例11と同様の操作によって、グラフト率0.7%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表2に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0104】
【表2】
【0105】
実施例13
実施例4で使用した高密度ポリエチレンパウダーを用いて平板状の焼結体を作製した。ベンゾフェノン(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)1gをアセトン1000cm
3に溶解した溶液に上記の焼結体を1分間遮光下で浸漬した後、取り出した焼結体を遮光した状態で1時間減圧乾燥した。Ishihara K,Ueda T,Nakabayashi N.,Polymer Journal,22,355−360(1990)に記載の方法により合成した2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの0.25mmol/cm
3水溶液を作製し、40℃にて30分間窒素バブリングして溶存酸素を除去した。この溶液1200cm
3中にベンゾフェノンのアセトン溶液で処理した上記の焼結体を固定して60℃とし、高圧水銀ランプUVL−400HA(商品名)(理工科学産業株式会社製)を用いて紫外線を90分間照射した。その後、イオン交換水1200cm
3とメタノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)1200cm
3にそれぞれ25℃で8時間浸漬させて洗浄した。この洗浄操作を計3回繰り返した後、乾燥させることによって、グラフト率0.40%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表3に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0106】
実施例14
実施例1で使用した超高分子量高密度ポリエチレンパウダーを用いた以外は、実施例13と同様の操作によって、グラフト率0.28%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表3に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0107】
実施例15
実施例1で使用した超高分子量高密度ポリエチレンパウダーを用いて平板状の焼結体を作製した。この焼結体をポリエチレンの袋に入れ窒素ガスで封じ、ドライアイスで−60℃に冷却しながら200kGyのγ線を照射した。tert−ブタノール(和光純薬工業株式会社製、和光特級)の25容積%水溶液と、Ishihara K,Ueda T,Nakabayashi N.,Polymer Journal,22,355−360(1990)に記載の方法により合成した2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを混合して3.6重量%モノマー溶液を作製し、15℃にて120分間窒素バブリングして溶存酸素を除去した。窒素ガス置換したグローブバッグ中にて上記焼結体の入ったポリエチレン袋を開封して上記モノマー溶液300cm
3を導入し、再度密封した後、恒温槽に設置して15℃で120分間反応させた。その後、メタノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)の50容積%水溶液1200cm
3に25℃で1時間浸漬させて洗浄した。この洗浄操作を計3回繰り返した後、乾燥させることによって、グラフト率0.87%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表3に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0108】
実施例16
モノマー溶液の濃度を0.7重量%、γ線照射後の焼結体とモノマー溶液との反応時間を1020分間とした以外は、実施例15と同様の操作によって、グラフト率0.45%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表3に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0109】
実施例17
γ線照射後の焼結体とモノマー溶液との反応温度を37℃、反応時間を75分間とした以外は、実施例15と同様の操作によって、グラフト率0.41%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表3に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0110】
実施例18
γ線照射量を50kGyとした以外は、実施例16と同様の操作によって、グラフト率0.52%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表3に示す。この親水性多孔質焼結体は、60℃温水可溶成分を除去した後においても優れた吸水機能を示した。
【0111】
【表3】
【0112】
比較例2
実施例4で使用した高密度ポリエチレンパウダー100重量部にポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート0.3重量部を高速ミキサーにて100℃に加温しつつ乾式混合した。得られた親水化パウダーを用いて平板状の焼結体を作製した。得られた親水性多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表4に示す。この親水性多孔質焼結体の吸水機能は、60℃温水可溶成分を除去することによって完全に失われてしまった。
【0113】
比較例3
実施例1で使用した超高分子量高密度ポリエチレンパウダーを用いて平板状の焼結体を作製した。得られた多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表4に示す。この多孔質焼結体に吸水機能は認められなかった。
【0114】
比較例4
実施例4で使用した高密度ポリエチレンパウダーを用いて平板状の焼結体を作製した。得られた多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表4に示す。この多孔質焼結体に吸水機能は認められなかった。
【0115】
比較例5
実施例1で使用した超高分子量高密度ポリエチレンパウダーを用いて平板状の焼結体を作製した。この焼結体をアルミ蒸着したポリエチレンの袋に入れ窒素ガスで封じ、25℃にて200kGyのγ線を照射した。tert−ブタノール(和光純薬工業株式会社製、和光特級)の25容積%水溶液とヒドロキシプロピルアクリレート(和光純薬工業株式会社製、異性体混合物、2−ヒドロキシプロピルアクリレート含有量90%以上)を混合して5容積%モノマー溶液を作製した。この際、窒素バブリングによる溶存酸素の除去は行わなかった。γ線照射後の焼結体を反応容器に入れ、大気圧下にて上記モノマー溶液1200cm
3を導入し、40℃で60分間反応させた。その後、2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)の50容積%水溶液1200cm
3に25℃で20分間浸漬させて洗浄し、この洗浄操作を計3回繰り返した後、乾燥させることによって、グラフト率1.2%の親水性多孔質焼結体を得た。得られた多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径を表4に示す。この多孔質焼結体は不均一に親水化されており、吸水ムラが生じてしまった。なお、水の吸い上げ高さの最小値Xに対する最大値Yの比(Y/X)は14倍であり、吸水ムラを大きく反映する結果となった。また、60℃温水可溶成分を除去した後は20倍となり、吸水ムラがさらに拡大した。
【0116】
比較例6
実施例1で使用した超高分子量高密度ポリエチレンパウダー20gを、アルミ蒸着したポリエチレンの袋に入れ大気圧下で封じ、25℃にて100kGyのγ線を照射した。tert−ブタノール(和光純薬工業株式会社製、和光特級)の25容積%水溶液とヒロドキシプロピルアクリレート(和光純薬工業株式会社製、異性体混合物、2−ヒドロキシプロピルアクリレート含有量90%以上)を混合して5容積%モノマー溶液200cm
3を作製した。この際、窒素バブリングによる溶存酸素の除去は行わなかった。このモノマー溶液に、γ線照射後のパウダーを大気圧下で投入し、40℃で60分間反応させた。その後、反応スラリーをブフナーロートで濾過し、2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)1200cm
3及びイオン交換水1200cm
3中にてそれぞれ25℃で1時間攪拌して洗浄し、この洗浄操作を計3回繰り返した後、乾燥させた。このパウダー100重量部と親水化前のパウダー100重量部の混合パウダーを用いて平板状の焼結体を作製した。グラフト率は0.3%であった。得られた多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表4に示す。この多孔質焼結体に吸水機能は認められなかった。
【0117】
比較例7
実施例1で使用した超高分子量高密度ポリエチレンパウダーを用いて平板状の焼結体を作製した。この焼結体をポリエチレンの袋に入れ窒素ガスで封じ、ドライアイスで−60℃に冷却しながら200kGyのγ線を照射した。tert−ブタノール(和光純薬工業株式会社製、和光特級)の25容積%水溶液とヒドロキシプロピルアクリレート(和光純薬工業株式会社製、異性体混合物、2−ヒドロキシプロピルアクリレート含有量90%以上)を混合して8.4容積%モノマー溶液を作製し、25℃にて120分間窒素バブリングして溶存酸素を除去した。窒素ガス置換したグローブバッグ中にて上記焼結体の入ったポリエチレン袋を開封して上記モノマー溶液300cm
3を導入し、再度密封した後、恒温振とう水槽に設置して25℃で960分間反応させた。その後、メタノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)の50容積%水溶液1200cm
3に25℃で1時間浸漬させて洗浄した。この洗浄操作を計3回繰り返した後、乾燥させることによって、グラフト率32.1%の平板状シートを得た。得られた平板状シートは表面が親水化されていたが、焼結体の細孔が詰っており、親水性多孔質体としての吸水機能は認められなかった。
【0118】
比較例8
実施例1で使用した超高分子量高密度ポリエチレンパウダーを用いて平板状の焼結体を作製した。出力650Wの低圧水銀ランプVUV−65B−22−21(商品名)(オーク株式会社製、波長:185nm、254nm)で、ランプからの距離10cmに該焼結体を支持し、10分ずつ両面照射した。この焼結体をベンゾフェノン(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)の5重量%アセトン溶液1000cm
3に10分間浸漬後取り出し、15分間風乾した。シリンダー状ガラス製容器に、25%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製、化学用)を200cm
3入れ、その中に上記の焼結体を浸漬し、大型ベルジャー内にシリンダー状容器を入れ、アスピレータにて20〜40torr程度まで減圧した。なお、窒素バブリングによる溶存酸素の除去は一切行わなかった。減圧すると、焼結体から泡が多数出た。モノマー溶液が含浸された焼結体を取り出したところ、疎水性表面の影響による撥水部位が認められ含浸ムラが生じてしまったが、そのままA4サイズのガラス板(厚さ2mm)に挟み、ガラス板周囲をクリップで締め付けた。この焼結体を挟み込んだガラス板を、高圧水銀ランプUVL−400HA(理工科学産業株式会社製)にて紫外線を11分間照射し、グラフト重合処理を行った。処理後、ガラス板から焼結体をはずし、イオン交換水中に浸漬し、マグネティックスターラーにて攪拌しながら4時間水洗した。焼結体を取り出し、焼結体の上と下をクリップで挟み、80℃の乾燥機中に焼結体を吊り下げ、2時間乾燥させて、グラフト率1.5%の平板状シートを得た。得られた多孔質焼結体の平均空孔率、平均空孔径、水滴吸収時間、及び水の吸い上げ高さを表4に示す。得られた平板状シートは表面の一部が親水化されており、水滴を滴下すると接触角の減少が認められた。しかし、焼結体の細孔に水が染み込まず、親水性多孔質体としての吸水機能はほとんど認められなかった。
【0119】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によって得られる親水性ポリオレフィン焼結体は、工業的に生産が可能で、連続空孔を持ち、吸水機能の長期持続性と低溶出性を兼ね備え、耐変色性、生体親和性、成形性、耐衝撃性、機械的強度及び吸水時の寸法安定性に優れた多孔質素材として有用である。