特許第5806114号(P5806114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5806114ポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5806114
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/36 20060101AFI20151021BHJP
【FI】
   C08J9/36CES
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-524817(P2011-524817)
(86)(22)【出願日】2010年7月28日
(86)【国際出願番号】JP2010062729
(87)【国際公開番号】WO2011013718
(87)【国際公開日】20110203
【審査請求日】2012年7月25日
【審判番号】不服2014-11560(P2014-11560/J1)
【審判請求日】2014年6月18日
(31)【優先権主張番号】特願2009-176565(P2009-176565)
(32)【優先日】2009年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】浅田 英志
(72)【発明者】
【氏名】植田 晃司
(72)【発明者】
【氏名】林 道弘
【合議体】
【審判長】 田口 昌浩
【審判官】 須藤 康洋
【審判官】 大島 祥吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−307605(JP,A)
【文献】 特開2005−105210(JP,A)
【文献】 特開2003−165858(JP,A)
【文献】 特開2002−46164(JP,A)
【文献】 特開2000−43074(JP,A)
【文献】 特開平5−338055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00-42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材樹脂にポリオレフィン系樹脂が用いられているポリオレフィン系樹脂組成物を、押出し機内で前記ポリオレフィン系樹脂の融点以上に加熱して溶融混練する混練工程と、前記溶融混練されたポリオレフィン系樹脂組成物を前記押出し機に装着された環状ダイから押出し発泡させて筒状の発泡体を形成させる押出し工程と、筒状の前記発泡体に、前記押出し方向に沿った切り込みを設ける切込み工程と、前記切り込みが設けられた筒状の発泡体を平坦なシート状に展開させる展開工程とを実施するポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法であって、
切り込みが設けられた前記筒状の発泡体が、前記ポリオレフィン系樹脂の結晶化温度よりも50℃以上低い温度に冷却されている状態で前記展開工程を実施することを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項2】
1000mm以上3000mm以下の範囲の内のいずれかのシート幅を有するポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製する請求項1記載のポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法に関し、より詳しくは、ポリオレフィン系樹脂組成物を押出し発泡させてポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製するポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂発泡シートは、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂といった比較的安価な材料が用いられているために比較的低コストで市場に提供されており、各種の用途に広く用いられている。
また、ポリオレフィン系樹脂発泡シートは、クッション性にも優れていることから、電子部品や家電製品の梱包材やガラス基板の緩衝材(合紙)などに広く用いられている。
【0003】
このポリオレフィン系樹脂発泡シートは、通常、ポリオレフィン系樹脂組成物の連続的な押出し加工によって作製されており、一旦、長尺帯状に形成され、その後、所定の形状に加工されて製品として用いられている。
より具体的には、ポリオレフィン系樹脂組成物を押出し機内で発泡剤などとともに溶融混練し、該押出し機に装着した環状ダイから押出し発泡させて円筒状の発泡体を形成させ、該円筒状の発泡体をマンドレルで拡径するとともに該マンドレルによって内側から冷却し、さらに、この拡径された円筒状の発泡体に押出し方向に沿った連続的な切り込みを入れて切り開くことによって、一旦、「原反」と呼ばれる長尺帯状のものが作製されている。
【0004】
そして、この原反から所定形状に切り出されポリオレフィン系樹脂発泡シートが合紙として利用されたり、あるいは、所定形状に切り出されポリオレフィン系樹脂発泡シートを貼り合わせるなどして袋状の梱包材とされたりしている。
しかし、上記のような製造方法によって作製されたポリオレフィン系樹脂発泡シートは、切断箇所となるシート幅方向端部が波打った状態に形成されてしまいやすく、寸法精度の高い合紙や梱包材を作製しようとすると前記原反をその幅方向端部まで有効に利用することが難しいという問題を有している。
【0005】
このような問題に対し、下記特許文献1には、ポリプロピレン系樹脂発泡シートの作製において、円筒状に押出された発泡体を110℃以下の温度となるように冷却した後で切り開いて平坦状にすることで端部の波打ちを抑制させうることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2002−59473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この特許文献1の実施例には、85℃から108℃に冷却された時点で発泡体を切り開いた場合の方が、112℃から122℃において発泡体を切り開いた場合よりも端部の反りが抑制されていることが具体的に示されている。
そして、このように端部の反り(波打ち)が抑制されることで、合紙などを形成させる際のハンドリング性の改善効果を期待することができる。
しかし、本発明者が、さらに詳細に検討を行ったところ、反りの抑制された状態となるように作製されたポリオレフィン系樹脂発泡シートであっても、該ポリオレフィン系樹脂発泡シートから切り出された合紙などにおいてその寸法に経時変化を生じさせることが見出された。
【0008】
すなわち、このようなポリオレフィン系樹脂発泡シートにおいては、特許文献1に記載されているような“端部の反り”とは別に、“寸法変化”の問題が内在していることが本発明者によって見出された。
この種の問題は、これまで着目されていないため、その解決策についても十分な検討がなされていない。
そのため、従来のポリオレフィン系樹脂発泡シートにおいては、その寸法安定性を十分向上させることが困難であるという問題を有しており、本発明はこのような問題の解決を図ってポリオレフィン系樹脂発泡シートの寸法安定性の向上を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような課題を解決するために、本発明者は、鋭意検討を行い、ポリプロピレン系樹脂発泡シートに限らず、ポリオレフィン系樹脂発泡シート全般において、樹脂の配向状態を所定の状態に調整することによって寸法変化の抑制に有効であることを見出した。
また、本発明者は、ポリオレフィン系樹脂発泡シートにおける樹脂の配向状態を、寸法変化の抑制に有効な状態とするためには、基材樹脂として用いられている樹脂の結晶化温度に対して、筒状の発泡体を平坦状に展開させる際の発泡体の温度を所定の値とすることが有効であることを見出した。
【0010】
すなわち、ポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法に係る本発明は、基材樹脂にポリオレフィン系樹脂が用いられているポリオレフィン系樹脂組成物を、押出し機内で前記ポリオレフィン系樹脂の融点以上に加熱して溶融混練する混練工程と、前記溶融混練されたポリオレフィン系樹脂組成物を前記押出し機に装着された環状ダイから押出し発泡させて筒状の発泡体を形成させる押出し工程と、筒状の前記発泡体に、前記押出し方向に沿った切り込みを設ける切込み工程と、前記切り込みが設けられた筒状の発泡体を平坦なシート状となるように展開させる展開工程とを実施するポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法であって、切り込みが設けられた前記筒状の発泡体が、前記ポリオレフィン系樹脂の結晶化温度よりも50℃以上低い温度に冷却されている状態で前記展開工程を実施することを特徴としている。
【0011】
なお、この“結晶化温度”とは、具体的には、実施例に記載されているような方法によって測定される温度を意図している。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法においては、切り込みが設けられた筒状の発泡体を平坦なシート状に展開させる展開工程が、基材樹脂として用いられているポリオレフィン系樹脂の結晶化温度よりも50℃以上低い温度に前記発泡体が冷却されている状態で実施される。
したがって、得られるポリオレフィン系樹脂発泡シートにおける樹脂の配向状態を寸法変化の抑制に有効な状態とすることができる。
例えば、前記押出し方向と直交する方向に沿った複数箇所において透過マイクロ波強度の最大値と最小値との比(最大値/最小値)を分子配向計で求めた場合に、下記式(1)によって求められる前記比のバラツキの値が15%未満となるような、寸法変化の抑制に特に有効な状態とすることができる。
【数2】
【0015】
すなわち、本発明によれば、寸法変化の抑制されたポリオレフィン系樹脂発泡シートの作製に有用なる製造方法と、寸法変化の抑制されたポリオレフィン系樹脂発泡シートとが提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法(装置構成)を示す概略図。
図2】展開工程の様子を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態について説明する。
まず、本実施形態に係るポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法に用いられる製造装置について説明する。
図1は、装置構成を示す図であり、この図1にも示されているように、本実施形態のポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法には、タンデム押出し機70と、このタンデム押出し機70の先端に装着された環状ダイCDとを有する装置が用いられる。
また、このポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造装置には、環状ダイCDから筒状に吐出された発泡体CSを拡径して所定の大きさの筒状に形成させるとともに前記拡径された筒状の発泡体CS’の冷却を行うためのマンドレルMDと、該マンドレルMDと環状ダイCDとの間において発泡体CSをその内側から冷却するための空冷装置(図示せず)とが備えられている。
また、前記製造装置は、前記マンドレルMDの下流側において筒状の発泡体CS’の下端に切り込みを入れるための切断刃CTと、前記切断刃CTよりもさらに下流側において前記切り込みの設けられた筒状の発泡体CS’を外側から取り巻くように設けられた冷却リングCRとを有している。
さらに、前記製造装置には、切り込みが入れられた筒状の発泡体CS’を、前記冷却リングCRを通過後に平坦なシート状に展開するためのローラ91と、巻き取りローラ92が備えられている。
【0018】
前記第1押し出し機70は、上流側押し出し機70aと下流側押し出し機70bの2台の押出し機が連結されたものであり、上流側押し出し機70aには、ポリオレフィン系樹脂発泡シートの形成材料を投入するためのホッパー71と、ガス供給装置80から炭化水素などの発泡剤をシリンダー内に供給するためのガス導入部72とが設けられている。
そして、下流側押し出し機70bには、円環状の吐出口が形成された前記環状ダイCDが装着されている。
【0019】
前記マンドレルMDは、前記環状ダイCDの口径(吐出口径)よりも径大となる円柱形状を有して前記環状ダイCDの押出し方向前方に配されている。
より詳しくは、マンドレルMDは、その外周面上を、薄い空気層を介した状態で前記発泡体CS’を通過させて該発泡体CS’を内側から冷却しうるように備えられているものであり、その円柱形状の中心軸の延長線上に前記環状ダイCDの中心を位置させた状態で環状ダイCDの前方に横置されて配されている。
したがって、環状ダイCDからマンドレルMDまでの間は、筒状の発泡体CSが環状ダイCDからマンドレルMDに向けて拡径されて円錐台形状をなしており、この円錐台形状をなしている発泡体CSの内周面に前記空冷装置による空気の吹き付けが行われ発泡体CSの冷却が行われる。
【0020】
その後、マンドレルMDの外周面によって拡径された発泡体CS’は、このマンドレルMDの僅かに下流側に設けられた前記切断刃CTによって押出し方向に連続する切込みが設けられることとなる。
しかし、前記発泡体CS’は、その下端において切込みSLが設けられているが概ね前記冷却リングCRに至るまでの間、マンドレルMDに沿った箇所と同様の筒状の状態が保持される。
【0021】
前記冷却リングCRは、前記発泡体CS’の外表面に対して空冷を行うべく備えられており前記発泡体CS’を通過させて外側から冷却させるべく備えられたものである。
また、この冷却リングCRは、前記マンドレルMDの外周よりも僅かに大きな内径を有しており、この冷却リングCRによって前記発泡体CS’が切断刃CTによる切込み形成後も筒状に保持されるものである。
したがって、この冷却リングCRを通過した後は、発泡体CS’が広がることを規制する部材が設けられていないため、この冷却リングCRを通過した後、発泡体CS’の展開が開始されることとなる。
【0022】
前記ローラ91は、長さが前記マンドレルMDの外周長よりも長く形成されており、その長さ方向を押出し方向と直交する方向に向けて前記マンドレルMDの下流側に水平状態で配されている。
しかも、その高さがマンドレルMDの中心と略同じ高さとなるように配されている。
前記巻取りローラ92は、切込みSLの設けられた前記筒状の発泡体CS’を、前記ローラ91を経由して巻き取るべく当該製造装置に備えられているものである。
【0023】
本実施形態においては、上記のような製造装置を用いて、以下の工程を実施することによってポリオレフィン系樹脂発泡シートが作製される。
すなわち、
(a)本実施形態のポリオレフィン系樹脂発泡シートの作製に必要な材料を調整すべく、ポリオレフィン系樹脂を基材樹脂とし、これに必要な配合剤を加えてポリオレフィン系樹脂組成物を作製する配合工程、
(b)押出し機内で前記ポリオレフィン系樹脂の融点以上に加熱して溶融混練する混練工程、
(c)前記溶融混練されたポリオレフィン系樹脂組成物を前記押出し機に装着された環状ダイから押出し発泡させて筒状の発泡体を形成させる押出し工程、
(d)筒状の前記発泡体に、その長さ方向に沿って切り込みを設ける切込み工程、
(e)前記切り込みが設けられた筒状の発泡体を平坦なシート状に展開させる展開工程、
(f)平坦なシート状に展開されたポリオレフィン系樹脂発泡シートをロール状に巻き取る巻取り工程
が実施されてポリオレフィン系樹脂発泡シートが作製される。
以下に、個々の工程についてより詳しく説明する。
【0024】
(a)配合工程
この配合工程は、押出し機70に供給するポリオレフィン系樹脂組成物を調整するもので、一般的なポリオレフィン系樹脂発泡シートの作製における場合と同様に、計量器や混練機といった装置を用いて実施可能である。
一例を挙げると、基材樹脂からなるペレットと各種の配合剤を含んだマスターバッチとをドライブレンドする方法が挙げられる。
また、基材樹脂とその他の配合剤とを全て含むペレットを、例えば、ニーダーや二軸混練機などといった一般的な混練装置を用いて作製する方法が挙げられる。
【0025】
この基材樹脂としては、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂などが挙げられる。
前記ポリエチレン系樹脂としては、エチレン成分を、触媒を用いて中低圧で重合させた高密度ポリエチレン樹脂や中密度ポリエチレン樹脂、高圧法によって重合させた低密度ポリエチレン樹脂、エチレン成分とエチレンより炭素数の多いα―オレフィン(プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、4−メチルペンテンなど)とを共重合させた直鎖低密度ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
前記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分のみからなるホモポリプロピレン樹脂、プロピレン成分以外にエチレンなどのオレフィン成分を含有するランダム共重合体やブロック共重合体が挙げられる。
なお、この基材樹脂とは、通常、ポリオレフィン系樹脂組成物に樹脂成分が複数含まれている場合においては、最も多く含まれている樹脂成分を意味する。
したがって、上記ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂は、一種類のみを選択してポリオレフィン系樹脂組成物に含有させる必要は無く、複数種類のポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂をポリオレフィン系樹脂組成物を構成する成分として用いても良い。
例えば、上記のようなポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂以外にポリブテン樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂などのポリオレフィン系樹脂を、前記ポリオレフィン系樹脂組成物を構成させる成分として用いても良い。
【0026】
このようなポリオレフィン系樹脂以外に、ポリオレフィン系樹脂組成物に含有させる成分としては、例えば、帯電防止剤などの機能性成分や、気泡の調整を行うための気泡核剤などの発泡に関する成分を挙げることができる。
前記帯電防止剤は、その帯電防止性能によって本実施形態によって作製されるポリオレフィン系樹脂発泡シートが静電気を帯びることを防止するのに有効な成分であり、例えば、ポリオレフィン系樹脂発泡シートが電子部品の包装袋などに利用される場合に、この電子部品に悪影響を与えてしまうおそれを抑制させることができるものである。
また、ポリオレフィン系樹脂発泡シートが、ガラス基板の合紙などに使用されるような場合においても、静電気によって意図せぬ箇所への付着(まとわりつき)が生じることを防止するのに有効な成分であるともいえる。
【0027】
なお、この帯電防止剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性界面活性剤や、その他の界面活性剤又はアルカリ金属塩などの低分子型帯電防止剤を利用することも可能ではあるが、このような成分は、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が低く、ブリードアウトなどの問題を発生させるおそれを有することから、帯電防止剤を配合する場合であれば、高分子型帯電防止剤を利用することが好ましい。
ただし、ガラス基板がフラットディスプレイ用途などのような清浄度が必要で、予め水洗されて使用されるような用途に用いられるものである場合には、水への溶解性の高い界面活性剤を高分子型帯電防止剤とともに併用することで、ブリードアウトした界面活性剤がディスプレイ用ガラス基板の表面に付着して水によって除去されやすい被膜を前記表面に形成させることができる。
したがって、他の付着物も水洗によって除去させることが容易になる点においてディスプレイ用ガラス基板の合紙に利用されるような場合においては界面活性剤を高分子型帯電防止剤とともに併用することができる。
【0028】
前記高分子型帯電防止剤としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエステルアミド、ポリエーテルエステルアミドなどのアイオノマーやその第四級アンモニウム塩、日本国特開2001−278985号公報等に記載のオレフィン系ブロックと親水性ブロックとの共重合体等が挙げられる。
中でも、オレフィン系ブロックと親水性ブロックとの共重合体が好ましく、ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体(ポリエーテル系ブロックとポリオレフィン系ブロックのブロック共重合体)を主成分とする高分子型帯電防止剤が好適に使用されうる。
【0029】
前記発泡に関する成分としては、例えば、前記ガス導入部72から導入される発泡剤とともに気泡を形成させるための気泡核剤や、あるいは、熱分解してガスを発生させる化合物粒子などが挙げられる。
【0030】
前記気泡核剤(気泡調整剤)としては、一般に気泡核剤として用いられているものであれば、特に限定されるものではなく例えば、タルク、マイカ、シリカ、珪藻土、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、ガラスビーズなどの無機化合物、ポリテトラフルオロエチレン、などの有機化合物などの粒子が挙げられる。
なお、気泡核剤は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0031】
この気泡核剤とともに用いられる発泡剤としては、従来、発泡押出しに用いられているものを本実施形態においても採用することができ、例えば、水、炭化水素、ジメチルエーテル、窒素、二酸化炭素、アルゴン等を使用することができる。
【0032】
また、熱分解してガスを発生させる化合物粒子としては、例えば、アゾジカルボンアミド、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムとクエン酸の混合物などを用いることができる。
【0033】
さらに、このポリオレフィン系樹脂組成物を構成させる成分として、一般的なポリマー発泡成形体の形成に用いられる配合剤を含有させることができ、例えば、耐候剤や老化防止剤といった各種安定剤、滑剤などの加工助剤、スリップ剤、防曇剤、顔料、充填剤などを適宜含有させることができる。
これらの配合剤をポリオレフィン系樹脂組成物にどのような配合割合で含有させるかについては、ポリオレフィン系樹脂発泡シートの最終的な用途などに応じて適宜調整すればよい。
【0034】
(b)混練工程
前記混練工程は、先の配合工程によって調整されたポリオレフィン系樹脂組成物を前記押出し機70内部で溶融混練することによって実施することができる。
例えば、上流側押し出し機70aにおいて、前記ガス導入部72から発泡剤を導入させるとともに、該発泡剤の分散に適した温度に前記ポリオレフィン系樹脂組成物を加熱して、これらを基材樹脂の融点以上の温度で溶融混練し、続く、下流側押し出し機70bで発泡押出しに適した溶融粘度とすべく上流側押し出し機70aよりも温度を低下させて混練を行う方法などが挙げられる。
【0035】
(c)押出し工程
前記上流側押し出し機70aで発泡剤が含有され、下流側押し出し機70bで適度な溶融粘度となるように温度調整されたポリオレフィン系樹脂組成物は、筒状の発泡体CSを形成させるべく、この押出し工程で前記環状ダイCDから所定の条件で押出し発泡される。
【0036】
なお、この押出し工程において、環状ダイCDからのポリオレフィン系樹脂組成物の吐出量や、筒状の発泡体CSの移動速度(押出し速度)を調整して押出し方向における樹脂の分子配向を制御することができる。
例えば、同じ厚みのポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製する場合であっても、ダイスリットの間隙を大きくして吐出スピードを遅くすることによって押出し方向への樹脂の分子配向を向上させることができる。
一方で、ダイの口径とマンドレル径との調整や、環状ダイCDとマンドレルMDとの間の距離を調整することで筒状の発泡体CSが拡径される速度を変化させることができ、この発泡体CSの周方向への延伸を調整することができる。
この延伸の調整によって、周方向への樹脂の配向も調整可能である。
さらには、樹脂の配向性については、延伸時の温度条件によっても調整が可能であり、通常、低い温度で延伸を加える方が配向性を高めることができる。
したがって、環状ダイCDとマンドレルMDとの間において筒状の発泡体CSを内側から冷却する空冷装置の操作によっても樹脂配向性を調整することができる。
【0037】
その後、本実施形態においては、マンドレルMDによって拡径された筒状の発泡体CS’をマンドレルMDとの間に空気層を介した状態でマンドレルMDの外側を通過させて冷却させる。
すなわち、筒状の発泡体CS’がマンドレルMDの下流側よりも僅かに径大となるようにマンドレルMDの上流側において拡径を実施して、マンドレルMD上を僅かに浮上した状態となるようにして筒状の発泡体CS’を通過させて当該発泡体CS’の冷却を実施する。
【0038】
なお、この押出し工程においては、押出し方向、周方向(押出し方向と直交する方向)のそれぞれにおいて、ある程度均一に樹脂が配向した筒状の発泡体CS’が形成される。
したがって、後述する展開工程においてこの樹脂配向性にバラツキを生じさせないことがポリオレフィン系樹脂発泡シートの寸法安定性に重要な要素となる。
【0039】
(d)切込み工程
この切込み工程は、マンドレルMDによって拡径された筒状の発泡体CS’に対して、後段の展開工程を可能にさせるための切込みSLを設けるものである。
なお、本実施形態においては、マンドレルMDの下流側において押出し方向に連続する一条の切込みを発泡体CS’の下端に設ける場合を示しているが、例えば、マンドレルMDの外周長の約半分のシート幅を有する長尺帯状のポリオレフィン系樹脂発泡シートを2枚同時に作製させるべく、上下や、左右に対となる2つの切断刃を設けて筒状の発泡体CS’を上下あるいは左右に二分割させるようにしてもよい。
【0040】
なお、本実施形態においては、冷却リングCRの上流側において切込み工程を実施させているが、要すれば、冷却リングCRの下流側において切込みを設けるようにしてもよい。
すなわち、本実施形態においては、冷却リングCRからの外側からの拘束力を受けることから切込み工程後もしばらくの間は発泡体CS’が筒状に保持され、冷却リングCRを通過してその拘束が解かれた時点で後述する展開工程が開始されることになるが、要すれば、冷却リングCR通過後もしばらくの間は切り込みを行わずに発泡体CS’を筒状のままにさせ、その後、この切込み工程を実施して、切込み直後に展開工程を実施させるようにしてもよい。
ただし、その場合には、切込み直後に展開が開始されることから、切断刃CTの刃先が進入する箇所に、左右に引裂かれる方向への張力を作用させやすい状態になってシート端部に形状の乱れを発生させやすい。
したがって、良質なポリオレフィン系樹脂発泡シートを、より簡便に作製し得るという点において、冷却リングCRの上流側で切込み工程を実施させることが好ましい。
【0041】
(e)展開工程
この展開工程は、前記切込み工程において切込みが形成された筒状の発泡体CS’を幅方向に押し広げて平坦なシート状とする工程である。
この工程は、前記巻取りローラ92での巻取りによって生じるテンションを利用してマンドレルMDと同じ高さに設けられたローラ91の外周面に沿わせてポリオレフィン系樹脂発泡シートを押し広げる方法などによって実施可能である。
そして、得られるポリオレフィン系樹脂発泡シートに優れた寸法安定性を付与させる観点からは、この展開工程を前記筒状の発泡体CS’が、基材樹脂として用いられているポリオレフィン系樹脂の結晶化温度よりも50℃以上低い温度に冷却された状態で実施することが重要である。
【0042】
このことについて図2を参照しつつ説明する。
この図2は、前記ローラ91の後ろ側からマンドレルMDの方を見た様子を示す模式的な図である。
すなわち、この図2には、冷却リングCRによる外側からの拘束力によってマンドレルMDにそっている箇所と同様に切断刃CTによって切込みSLが設けられた後も筒状となっている発泡体CS’が、この冷却リングCRを通過した直後に左右に広がり、やがてローラ91側に近づくにつれて幅方向左右に押し広げられて((1)→(2))ローラ91に到達した時点では、ローラ91の外周面に巻き掛けられる状態となって平坦なシート状に展開される様子が示されている。
そして、この図2からもわかるように、平坦なシート状に広げられたポリオレフィン系樹脂発泡シートFSにおいて、その中央部分CAとなるマンドレルMDの上部側を通過した部分は、マンドレルMDとローラ91との間を、その直線距離だけ移動することになるが、前記ポリオレフィン系樹脂発泡シートFSの両端部SAに位置する部分は、マンドレルMDの下端からローラ91の端までの距離を移動することになり先の中央部分CAよりも長い距離の移動が必要になる。
したがって、この展開工程においてはポリオレフィン系樹脂発泡シートFSの両端部に近くなるほど展開による延伸が強く作用することになる。
【0043】
このことは、筒状に押出されたものがシート状に展開される場合において必然的に起こる現象であるが、そのことによって押出し工程で形成された発泡体CS中の樹脂の配列にバラツキを生じさせないことが寸法安定性の観点から重要な事柄である。
ここで、樹脂の配向性にバラツキが生じているかどうかは、分子配向計を用いるなどして確認することができる。
例えば、押出し方向と直交する方向に沿った複数箇所において透過マイクロ波強度の最大値と最小値との比(最大値/最小値)を分子配向計で求め、求められた複数の比の値の内の最大値と最小値との差を、比の値の平均値で除してバラツキを求めることができる。
具体的には、シート両端から内側10mm程度の部分を除いた領域において、シート幅方向に沿って等間隔となるように10箇所程度の測定点を設定し、この地点の透過マイクロ波強度の最大値と最小値との比(最大値/最小値)を分子配向計で求め、この10点のデータの内の最大値をCmaxとし、最小値をCminとし、10点の平均値をCaveとした場合に、下記式(1)を形成してバラツキを求めることができる。
【数3】
【0044】
そして、ポリオレフィン系樹脂発泡シートを寸法安定性に優れたものとするには、このバラツキの値が15%以下となるようにポリオレフィン系樹脂発泡シートを製造することが重要である。
なお、このようなバラツキの抑制を行うために、前記展開工程を発泡体CS’が基材樹脂の結晶化温度よりも50℃以上低い温度に冷却された状態で実施することが重要となる。
この展開工程における発泡体CS’の温度は、例えば、その表面温度を放射温度計などの非接触な温度測定手段や表面温度計などのプローブを接触させる温度測定手段によって確かめることができる。
本実施形態においては、前記冷却リングCRを通過直後に発泡体CS’の展開が開始されることから、この冷却リングCRの直前において発泡体CS’の表面温度が基材樹脂の結晶化温度よりも50℃以上低い温度になっているかどうかを測定することで、展開工程が基材樹脂の結晶化温度よりも50℃以上低い温度で実施されているかどうかを判断することができる。
【0045】
通常のポリオレフィン系樹脂においては、結晶化温度は融点よりも数十℃程度低く、融点が150〜160℃程度のポリプロピレン系樹脂であれば、結晶化温度は120℃程度であり、融点110〜120℃程度のポリエチレン系樹脂であれば、結晶化温度は100℃程度である。
したがって、上記のようなポリプロピレン系樹脂が基材樹脂に用いられている場合であれば、発泡体CS’の表面温度が70℃未満となるまで冷却し、上記のようなポリエチレン系樹脂が基材樹脂に用いられている場合であれば発泡体CS’の表面温度が50℃未満となるまで冷却した後に展開工程を実施させればよい。
【0046】
このように結晶化温度よりも50℃以上低い温度とすることで、展開における延伸によって樹脂配向にバラツキが生じることを抑制することができ、寸法安定性の良好なるポリオレフィン系樹脂発泡シートを得ることができる。
なお、本実施形態においては、筒状の発泡体CS’が冷却リングCRによって外側からも冷却されることにより、発泡体CS’の内外における温度差を減少させて展開工程を実施させることができる。
したがって、より一層樹脂の分子配向の乱れを抑制することができ、寸法安定性に優れたポリオレフィン系樹脂発泡シートを得ることができる。
【0047】
(f)巻取り工程
このような温度で展開されて平坦なシート状にされたポリオレフィン系樹脂発泡シートFSは、前記巻取りローラ92によってロール状に巻き取り、合紙などの製品を作製するための原反とすることができる。
この巻取り工程は、一般に用いられているテンションコントローラ付の巻取り装置などを利用して実施可能である。
【0048】
このようにして作製されたポリオレフィン系樹脂発泡シートは、この原反から切り出されたシートに、経時的な寸法変化を発生させにくく、外形歪みや、反り、うねりなどを切り出されたシートに発生させにくい。
すなわち、本実施形態の製造方法によって得られるポリオレフィン系樹脂発泡シートは、寸法精度に優れた製品の作製に有効に利用可能となる。
【0049】
なお、製造するポリオレフィン系樹脂発泡シートの厚みが厚い場合には、展開工程前に実施される発泡体の冷却に要する手間が多大なものとなるおそれを有する一方で、極端に薄いポリオレフィン系樹脂発泡シートは製造自体が困難になる可能性を有する。
したがって、製造するポリオレフィン系樹脂発泡シートとしては、0.2mm以上3mm以下の範囲の内のいずれかの厚みとすることが好ましい。
また、ポリオレフィン系樹脂発泡シートの発泡度は、過度に低いとクッション性が十分発揮されないばかりでなく熱容量が高くなって冷却し難くなるおそれを有する。
一方で、過度に発泡度の高いポリオレフィン系樹脂発泡シートは、作製が困難である。
したがって、製造するポリオレフィン系樹脂発泡シートとしては、0.02g/cm以上0.15g/cm以下の範囲の内のいずれかの密度を有していることが好ましい。
すなわち、0.2mm以上3mm以下の範囲の内のいずれかの厚みを有し、0.02g/cm以上0.15g/cm以下の範囲の内のいずれかの密度を有しているポリオレフィン系樹脂発泡シートは、製造容易である点において好適であるといえる。
【0050】
特に、本実施形態のポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法においては、マンドレルMDの上を、空気を介して浮上させた状態で筒状の発泡体CS’を通過させて冷却を行うため、マンドレルMDに引っ掛かって、筒状の発泡体CS’に部分的な破れが発生したり、場合によっては切断されたりするといった不具合が発生するおそれが低く、この密度が0.02g/cm以上0.15g/cm以下となるような発泡度の高い、柔軟なポリオレフィン系樹脂発泡シートの形成に適しているといえる。
【0051】
また、製造するポリオレフィン系樹脂発泡シートは、あまりに狭い幅のものは、切り出すとしても小形の製品しか採取することができないため、寸法変化が生じても、その絶対値が無視できる程度に小さいものとなる可能性が高い。
したがって、本発明の効果をより顕著に発揮させる観点からは、製造するポリオレフィン系樹脂発泡シートが1000mm以上3000mm以下の範囲の内のいずれかのシート幅を有していることが好ましい。
【0052】
なお、ここでは詳述しないが、本発明の効果が著しく損なわれない範囲においては、ポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法及びポリオレフィン系樹脂発泡シートに関して従来公知の事柄を本発明においても採用が可能である。
【実施例】
【0053】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
各特性値の測定は、以下のように実施した。
(分子配向の測定)
測定には、神崎製紙株式会社(現王子計測機器株式会社 )製の分子配向計「MOA−2001A」を用いた。
より具体的には、ポリオレフィン系樹脂発泡シートによって縦横各100mmの試料を作製し、これに対して3.5〜4.5GHzの範囲でのマイクロ波透過強度を測定し、透過強度の最大ピーク値を示した周波数よりも周波数の高い側で、この最大ピーク値の1/2のマイクロ波透過強度を示す周波数を測定周波数に選択してマイクロ波透過強度の最大値と最小値との比を求めた。
【0055】
(表面固有抵抗率の測定)
表面固有抵抗率は、JIS K 6911:1995「熱硬化性プラスチックー般試験方法」記載の方法により測定した。
具体的には、一辺が10cmの平面正方形状の試験片を温度22℃、湿度60%の雰囲気下に24時間放置した後、温度22℃、湿度60%の環境下、試験装置(アドバンテスト社製、デジタル超高抵抗/微少電流計R8340及びレジスティビティ・チェンバR12702A)を使用し、試験片に、約30Nの荷重にて電極を圧着させ500Vの電圧を印加して1分経過後の抵抗値を測定し、次式により算出した。
ρs=π(D+d)/(D−d)×Rs
ただし、
ρs:表面固有抵抗率(Ω/□)
D:表面の環状電極の内径(cm)(レジスティビティ・チェンバR12702Aでは、7cm)
d:表面電極の内円の外径(cm)(レジスティビティ・チェンバR12702Aでは、5cm)
Rs:表面抵抗(Ω)
【0056】
(シート厚み、密度の測定)
ポリオレフィン系樹脂発泡シートの厚みは、定圧厚み測定機(Teclock社製、型式PG−(特)S−37387(「SCM−627」))を用いて測定した。
また、ポリオレフィン系樹脂発泡シートの密度(見掛け密度)は、JIS K 7222:2005「発泡プラスチック及びゴム−見掛け密度の求め方」に基づいて実施した。
【0057】
(結晶化温度の測定)
結晶化温度の測定は、JIS K 7121:1987「プラスチックの転移温度測定方法」に準じて実施した。
具体的には、測定装置として、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の示差走査熱量計(DSC)、型名「DSC6220」を使用し、220℃から−40℃まで、10℃/分の降温速度で冷却した際のDSC曲線において観察される基材樹脂の結晶化にともなう発熱のピーク温度を結晶化温度とした。
なお、発熱ピークが複数の温度で観察される場合は、最もピーク高さの高い温度を基材樹脂の結晶化温度とした。
【0058】
(実施例1)
基材樹脂として、密度0.929g/cm、MFR=4.0g/10minの低密度ポリエチレンを使用した。
この基材樹脂92重量%と高分子型帯電防止剤(三洋化成株式会社製、ポリエーテル−ポリプロピレンブロック共重合体「ペレスタット300」)8重量%からなる樹脂成分100重量部に対して気泡調整剤0.3重量部とをφ90mm−φ150mmのタンデム押出し機に供給し、上流側の押出し機(φ90mm)内で溶融混練し、この押出し機の途中箇所において発泡剤(イソブタン/ノルマルブタン=95/5(モル比))を圧入し、さらに混練した後に下流側の押出し機(φ150mm)において、押出しに適した112℃の温度まで冷却し、該押出し機に装着した環状ダイ(口径148mm、ダイリップクリアランス(スリット間隙)0.20mm)から大気中に押出し発泡を行った。
続けて、押し出された筒状の発泡体を、その内部側から空冷した後、直径420mmのマンドレル上を薄い空気層を介して浮上させた状態で通過させてこのマンドレルによる内側からの冷却を実施しつつ別途外側からも空冷を行った。
その後、切断刃によって筒状の発泡体に押出し方向に連続した一条の切込みを入れ、マンドレルの下流側に設けられた内径450mmの冷却リングを通過させてさらに冷却を行ってから、平坦なシート状となるように広げて(展開工程)巻取り機でロール状に巻き取り実施例1のポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製した。
【0059】
なお、得られたポリオレフィン系樹脂発泡シートのシート幅は約1340mmであった。
この実施例1のポリオレフィン系樹脂発泡シートの基材樹脂である前記低密度ポリエチレン樹脂の結晶化温度は101.6℃であり、冷却リング通過前の筒状の発泡体の表面温度は46℃(結晶化温度−55.6℃)であった。
【0060】
また、この実施例1のポリオレフィン系樹脂発泡シートにシート幅方向端部からそれぞれ10mm内側の位置に基準点を設け、この基準点の間から、シート幅方向(押出し方向と直交する方向)に均等間隔で10cm×10cmの正方形の試料を10枚採取した。
この10枚の試料のそれぞれについて、マイクロ波透過強度の最大値−最小値比(最大値/最小値)を求めた。
得られた10点のデータの内、データ値が最大のもの、最小のものおよび10点のデータの平均値を下記表1に示す。
また、(最大値−最小値)/平均値×100(%)の計算を行って得られたバラツキの値も下記表1に示す。
【0061】
さらに、この10枚の試料の内、無作為に5枚の試料を選択し、表面固有抵抗率の測定を行った。
この表面固有抵抗率の平均値を表1に示す。
また、シート厚み、密度(見掛け密度)についての測定結果も表1に示す。
【0062】
これらとは別に、実施例1のポリオレフィン系樹脂発泡シートの寸法安定性について評価を行った。
具体的には、実施例1のポリオレフィン系樹脂発泡シートをシート幅以上の長さ(例えば、約1.5m長さ)に一旦カットし、得られたシート片の幅方向両端10mmずつを除去するとともに、この幅(約1320mm(シート幅−10mm×2))と同じ長さ(約1320mm)を有する試料を切り出して寸法安定性評価用試料とした。
この寸法安定性評価用試料は、気温23℃の室内に2日間放置した後で、幅と長さを各10箇所測定し、その長さのバラツキを測定することによって実施した。
このバラツキについては、10箇所の測定値の内の最大長さと最小長さとの差を平均長さに対する百分率で表したものである。
その結果も、下記表1に示す。
【0063】
(実施例2)
口径φ240mmの環状ダイ、直径820mmのマンドレル、内径850mmの冷却リングを使用したこと以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製し、実施例1と同様に評価を行った。
なお、寸法安定性評価用試料の幅を“シート幅−20mm”とし、長さをこの“幅(シート幅−20mm)”と同じとした点についても実施例1と同様に評価した。
結果を表1に示す。
【0064】
(実施例3)
基材樹脂として、高溶融張力(HMS)ポリプロピレン樹脂(ボレアリス社製、型名「WB135」)を使用した。
この基材樹脂90重量%と高分子型帯電防止剤(三洋化成株式会社製、ポリエーテル−ポリプロピレンブロック共重合体「ペレスタット230」)10重量%からなる樹脂成分100重量部に対して気泡調整剤0.2重量部とをφ90mm−φ150mmのタンデム押出し機に供給し、上流側の押出し機(φ90mm)内で溶融混練し、この押出し機の途中箇所において発泡剤(イソブタン/ノルマルブタン=70/30(モル比))を圧入し、さらに混練さした後に下流側の押出し機(φ150mm)において、押出しに適した165℃の温度まで冷却し、該押出し機に装着した環状ダイ(口径100mm、ダイリップクリアランス(スリット間隙)0.25mm)から大気中に押出し発泡を行った。
押出された筒状の発泡体を、その内部側から空冷するとともに直径330mmのマンドレル上を薄い空気層を介して浮上させた状態で通過させ、前記マンドレルによる冷却を実施しつつ外側からも空冷を行った。
その後、切断刃によって筒状の発泡体に押出し方向に連続した一条の切込みを入れ、マンドレルの下流側に設けられた内径400mmの冷却リングを通過させてさらに冷却を行ってから、シート状に展開して巻取り機でロール状に巻き取って実施例3のポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製した。
【0065】
なお、得られたポリオレフィン系樹脂発泡シートのシート幅は約1030mmであった。
この実施例3のポリオレフィン系樹脂発泡シートの基材樹脂である前記低密度ポリエチレン樹脂の結晶化温度は126.3℃であり、冷却リング通過前の筒状の発泡体の表面温度は66℃(結晶化温度−60.3℃)であった。
【0066】
また、この実施例3のポリオレフィン系樹脂発泡シートも上記実施例と同様に評価を行った。
結果を表1に示す。
【0067】
(実施例4)
基材樹脂として、密度0.928g/cm、MFR=1.0の低密度ポリエチレン樹脂を使用した。
この基材樹脂92重量%と高分子型帯電防止剤(三洋化成株式会社製、ポリエーテル−ポリプロピレンブロック共重合体「ペレスタット300」)8重量%からなる樹脂成分100重量部に対して気泡調整剤0.3重量部とをφ90mm−φ150mmのタンデム押出し機に供給し、上流側の押出し機(φ90mm)内で溶融混練し、この押出し機の途中箇所において発泡剤(イソブタン/ノルマルブタン=95/5(モル比))を圧入し、さらに混練さした後に下流側の押出し機(φ150mm)において、押出しに適した112℃の温度まで冷却し、該押出し機に装着した環状ダイ(口径125mm、ダイリップクリアランス(スリット間隙)0.23mm)から大気中に押出し発泡を行った。
押出された筒状の発泡体を、その内部側から空冷するとともに直径420mmのマンドレル上を薄い空気層を介して浮上させた状態で通過させ、前記マンドレルによる冷却を実施しつつ外側からも空冷を行った。
その後、切断刃によって筒状の発泡体に押出し方向に連続した一条の切込みを入れ、マンドレルの下流側に設けられた内径450mmの冷却リングを通過させてさらに冷却を行ってから、シート状に展開して巻取り機でロール状に巻き取って実施例4のポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製した。
【0068】
なお、得られたポリオレフィン系樹脂発泡シートのシート幅は約1290mmであった。
この実施例4のポリオレフィン系樹脂発泡シートの基材樹脂である前記低密度ポリエチレン樹脂の結晶化温度は100.1℃であり、冷却リング通過前の筒状の発泡体の表面温度は41℃(結晶化温度−59.1℃)であった。
【0069】
また、この実施例4のポリオレフィン系樹脂発泡シートも上記実施例と同様に評価を行った。
結果を表1に示す。
【0070】
(実施例5)
口径φ200mmの環状ダイ、直径670mmのマンドレル、内径710mmの冷却リングを使用したこと以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製し、上記実施例と同様に評価を行った。
結果を表1に示す。
なお、得られたポリオレフィン系樹脂発泡シートのシート幅は約2100mmであった。
そして、この実施例5の冷却リング通過前の筒状の発泡体の表面温度は45℃であった。
【0071】
(実施例6)
発泡剤であるブタン(イソブタン/ノルマルブタン=70/30(モル比))の使用量を増大し、引取りスピードを増大させたこと以外は、実施例3と同様にしてポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製し、実施例3と同様に評価を行った。
結果を表1に示す。
なお、得られたポリオレフィン系樹脂発泡シートのシート幅は約1040mmであった。
そして、この実施例6の冷却リング通過前の筒状の発泡体の表面温度は59℃(結晶化温度−67.3℃)であった。
【0072】
(比較例1)
冷却リングによる冷却を実施することなくマンドレル通過後、発泡体の表面温度が62℃(結晶化温度−39.6℃)の状態で展開工程を実施したこと以外は、実施例1と同様にポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製し実施例1と同様に評価を行った。
結果を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
冷却リングの位置を上流側に移動させ、マンドレルに沿って円筒状となっている区間を短くさせたこと以外は、実施例3と同様にポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製し、同様に評価を行った。
なお、冷却リングに進入して展開が開始される直前の発泡体の表面温度は80℃(結晶化温度−46.3℃)であった。
【0074】
(比較例3)
冷却リングによる冷却を実施しなかったこと以外は、実施例2と同様にポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製し、同様に評価を行った。
なお、得られた比較例3のポリオレフィン系樹脂発泡シートのシート幅は約2495mmであった。
また、展開が開始される直前の発泡体の表面温度は69℃(結晶化温度−32.6℃)であった。
【0075】
(比較例4)
冷却リングの位置を上流側に移動させ、マンドレルに沿って円筒状となっている区間を短くさせたこと以外は、実施例6と同様にポリオレフィン系樹脂発泡シートを作製し、同様に評価を行った。
なお、冷却リングに進入して展開が開始される直前の発泡体の表面温度は79℃(結晶化温度−47.3℃)であった。
【0076】
【表1】
【0077】
この表からも、本発明によれば、ポリオレフィン系樹脂発泡シートの寸法安定性の向上を図り得ることがわかる。
図1
図2