特許第5806141号(P5806141)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5806141
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20060101AFI20151021BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20151021BHJP
   H01M 8/10 20060101ALN20151021BHJP
【FI】
   H01M8/02 R
   H01M4/86 B
   !H01M8/10
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-27014(P2012-27014)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-164958(P2013-164958A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 和哉
(72)【発明者】
【氏名】濱田 成孝
【審査官】 松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−113916(JP,A)
【文献】 特開2011−146300(JP,A)
【文献】 特開2010−182483(JP,A)
【文献】 特開2011−048936(JP,A)
【文献】 特開2011−096385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 4/86
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の外側に配置される微多孔質層と、
前記微多孔質層の前記膜電極接合体とは反対側にガス拡散層が介在しない形で配置され、前記微多孔質層側に開く開口を有するガス流路を形成するガス流路形成部と、
を備え、
前記開口の径は、0.1μm〜400μmの範囲内である、燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部の前記微多孔質層側の面における、発電領域に対応した領域に対する前記開口の合計の面積比が20%以上である、燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部は、リブによって形成された線条の溝であり、
前記開口の径は、前記溝の幅である、燃料電池。
【請求項4】
請求項2に記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部は、発泡焼結体であり、
前記開口は、前記微多孔質層と前記発泡焼結体の間の境界面における開口である、燃料電池。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池であって、
前記発泡焼結体の表面が親水性である、燃料電池。
【請求項6】
請求項2に記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部は、エキスパンドメタルであり、
前記開口の径は、前記微多孔質層と前記エキスパンドメタルの間の境界面における開口の最短部の距離である、燃料電池。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料電池であって、
前記エキスパンドメタルの表面が親水性である、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体を有する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池として、膜電極接合体と、膜電極接合体の両側に配置されるセパレータとを備え、膜電極接合体とセパレータとの間に、導電性多孔体であるガス流路形成部材が設けられたものが知られている。ガス流路形成部材としては、金属板を、表裏面に交互に突出する複数の突片を有するように加工したものが提案されている(特許文献1)。この構成によれば、ガスの拡散性の向上と、流路断面積確保による排水性の向上とを両立することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−184422号公報
【0004】
前述した燃料電池では、膜電極接合体とセパレータとの間にガス拡散層を備え、前記ガス流路形成部材の突片がガス拡散層に接触している。一方、燃料電池では、小型・簡素化、高性能化のために、前記ガス拡散層を取り除いた構成が検討されている。その際、ガス拡散層に塗布されていた微多孔質層(MPL:Micro Porous Layer)はシート状にして配置されることになるが、支えとなっていたガス拡散層がなくなることで、MPLは撓みやすくなる。MPLが撓むと、MPLと膜電極接合体との間のその撓んだ部分に生成水が滞留し、排水性が低下する問題が発生した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ガス拡散層を有しない燃料電池にあって、排水性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1] 燃料電池であって、
膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の外側に配置される微多孔質層と、
前記微多孔質層の前記膜電極接合体とは反対側にガス拡散層が介在しない形で配置され、前記微多孔質層側に開く開口を有するガス流路を形成するガス流路形成部と、
を備え、
前記開口の径は、0.1μm〜400μmの範囲内である、燃料電池。
【0008】
適用例1の燃料電池によれば、ガス流路形成部の前記開口の径が400μm以下であることから、ガス流路形成部は微小なピッチで微多孔質層を押圧することが可能となる。このために、微多孔質層はガス拡散層がなくても撓むことがなくなる。したがって、微多孔質層と膜電極接合体との間に生成水が溜まることがなくなることから、排水性を向上することができる。
【0009】
[適用例2] 適用例1に記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部の表面における、発電領域に対応した領域に対する前記開口の合計の面積比が20%以上である、燃料電池。
この構成によれば、膜電極接合体へのガス供給性を確保することができる。
【0010】
[適用例3] 適用例2に記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部は、リブによって形成された線条の溝であり、
前記開口の径は、前記溝の幅である、燃料電池。
この構成によれば、リブによって形成された線条のガス流路を有する燃料電池において排水性を向上することができる。
【0011】
[適用例4] 適用例2に記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部は、発泡焼結体であり、
前記開口は、前記微多孔質層と前記発泡焼結体の間の境界面における開口である、燃料電池。
この構成によれば、発泡焼結体によってガス流路形成部が構成された燃料電池において排水性を向上することができる。
【0012】
[適用例5] 適用例4に記載の燃料電池であって、
前記発泡焼結体の表面が親水性である、燃料電池。
この構成によれば、排水性をより向上することができる。
【0013】
[適用例6] 適用例2に記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部は、エキスパンドメタルであり、
前記開口の径は、前記微多孔質層と前記エキスパンドメタルの間の境界面における開口の最短部の距離である、燃料電池。
この構成によれば、エキスパンドメタルによってガス流路形成部が構成された燃料電池において排水性を向上することができる。
【0014】
[適用例7] 適用例6に記載の燃料電池であって、
前記エキスパンドメタルの表面が親水性である、燃料電池。
この構成によれば、排水性をより向上することができる。
【0015】
本発明は、上記適用例のほか、種々の形態にて実現され得る。例えば、本発明は、上記適用例に係る燃料電池を含む燃料電池システム、上記適用例に係る燃料電池を搭載した車両などの装置発明として実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施例における燃料電池内部の単セルの断面を模式的に示す説明図である。
図2】開口率を説明するための図である。
図3】比較例としての単セルの課題を示す説明図である。
図4】第1実施例の燃料電池において酸化剤ガス流路の流路幅t2を変更したときのセル抵抗を示すグラフである。
図5】第1実施例の燃料電池において酸化剤ガス流路の流路幅t2を変更したときの電流密度とセル電圧の関係を示すグラフである。
図6】本発明の第2実施例における燃料電池内部の単セルの一部の断面を模式的に示す説明図である。
図7】本発明の第3実施例における燃料電池内部の単セルの一部の断面を模式的に示す説明図である。
図8】ガス流路形成部としてのエキスパンドメタルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施態様に係る燃料電池について、図面を参照しつつ、実施例に基づいて説明する。
【0018】
A.第1実施例:
A−1:燃料電池の構成:
図1は、本発明の第1実施例における燃料電池内部の単セル10の断面を模式的に示す説明図である。本実施例の燃料電池は、固体高分子型燃料電池であって、図1に示す単セル10を複数積層して直列に接続したスタック構造を有している。単セル10は、膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly )20を、両側からセパレータ30、40によって挟持することによって構成されている。
【0019】
MEA20は、固体高分子電解質膜21の両面(両側)に触媒層22、23を形成した接合体である。固体高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」と呼ぶ)21は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。本実施例では、ナフィオン膜(デュポン社製)を使用した。触媒層22、23は、触媒としての白金または白金と他の金属からなる合金を有する層であり、アノード(水素極)とカソード(酸素極)の役割を果たす。
【0020】
MEA20とセパレータ30との間には、ガス拡散層26が配置されている。これに対して、MEA20とセパレータ40との間には、ガス拡散層は設けられていない。ガス拡散層26は、ガス拡散性の導電性部材、例えばカーボン繊維からなる糸で製織したカーボンクロスによって形成される。なお、ガス拡散層26は、カーボン繊維を含むカーボンペーパに替えることができる。また、カーボン繊維を一定方向に配置して、接着剤によって接着して、シート状としたカーボンシートに替えることもできる。
【0021】
ガス拡散層26のアノード(触媒層22)に対向する面には、撥水性の樹脂とカーボンブラックなどの導電性材料を主成分とする第1のMPL24が形成されている。撥水性の樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)等である。第1のMPL24の表面が触媒層22と接している。第1のMPL24は、ガス拡散層26の排水能力を高めるとともに、必要以上の水分飛散を防止する。ガス拡散層26の第1のMPL24と反対側の面には、セパレータ30が接している。
【0022】
MEA20とセパレータ40との間には、シート状の第2のMPL25が形成されている。第2のMPL25は、PTFE、ポリプロピレンなどの多数の微細口を有する樹脂シートを骨格とし、そのシートにカーボンブラックなどの導電性材料を担持したものである。第2のMPL25は、この構成に限る必要はなく、例えば電解質成分(アイオノマ)を含む構成等とすることもできる。第2のMPL25の一方側の面には触媒層23が接しており、第2のMPL25の他方側の面にはセパレータ40が接している。第2のMPL25は、適用例1に係る発明における「微多孔質層」に相当する。
【0023】
セパレータ30、40は、緻密質のカーボンプレートを材料としている。両セパレータ30、40のそれぞれには、プレス成形によって、長い突状部であるリブ32、42が複数本形成されており、これにより、互いに隣接するリブ32、32の間に線条の溝(凹部)が形成されることになる。この溝は、触媒層22、23側に開く開口であり、MEA20における電気化学反応に供される反応ガスの流路として機能する。すなわち、アノード側のセパレータ30とMEA20との間に配置される溝は、水素を含有する燃料ガスが通過する燃料ガス流路34となる。また、カソード側セパレータ40とMEA20との間に配置される溝は、空気などの酸素を含有する酸化剤ガスが通過する酸化剤ガス流路44となる。なお、セパレータ40に備えられたリブ42が、適用例1に係る発明における「ガス流路形成部」に相当する。
【0024】
本実施例では、酸化剤ガス流路44の幅t2、すなわち、互いに隣接するリブ32、32の間の距離は、300[μm]である。なお、300[μm]という数値は、本発明ではこれに限られない。前記距離は0.1[μm]〜400[μm]の範囲内であればいずれの数値とすることもできる。前記距離が、適用例1に係る発明における「開口の径」に相当する。すなわち、本実施例のようなガス流路が線条のものである場合には、「開口の径」は、長さ方向ではなく幅方向の距離が相当する。幅方向の距離は、開口の最短部の距離ともいえる。一方、燃料ガス流路34の幅t1は、本実施例では特に規定されておらず、例えば800[μm]である。
【0025】
さらに、本実施例では、セパレータ40における酸化剤ガス流路44の開口率は、25%である。
【0026】
図2は、開口率を説明するための図である。セパレータ40を積層方向(図1のZ方向)から見たときに、触媒層23のセパレータ40の面に投影される領域RYは図示の通りとなる。触媒層23、24は電気化学反応が進行する領域であることから、この領域RYは発電領域に対応した領域と言うことができる。前記開口率Kは、次式(1)に従って求めることができる。
【0027】
K=Sa/Sry …(1)
ここで、Sryは発電領域に対応した領域RYの総面積である。Saは、領域RYにおける酸化剤ガス流路44の開口部のトータル面積である。すなわち、開口率Kは、発電領域に対応した領域RYに対する、前記領域RYにおける酸化剤ガス流路44の開口部のトータル面積の割合である。開口部のトータル面積とは、酸化剤ガス流路44において第2のMPL25に対して開いている開口部の面積を全ての酸化剤ガス流路44に亘って合算した値である。
【0028】
本実施例では、前記開口率Kが25%である。なお、開口率Kは、25%に換えて20%とすることができる。本実施例では、開口率Kは20%以上であればいずれの数値とすることもできる。
【0029】
A−2.実施例効果:
次に、第1実施例の燃料電池の作用・効果を説明する。図3は、比較例としての単セル910の課題を示す説明図である。この単セル910は、第1実施例の単セル10と比較して、カソード(触媒層23)側のセパレータ940の形状だけが相違し、その他の部分は同一である。セパレータ940は、第1実施例におけるアノード(触媒層22)側のセパレータ30と同一形状のもので、流路幅が800[μm]の酸化剤ガス流路942を有する。すなわち、第1実施例におけるセパレータ30は0.1[μm]〜400[μm]の範囲内の流路幅の酸化剤ガス流路44を有するのに対して、この比較例におけるセパレータ30は0.1[μm]〜400[μm]の範囲外である800[μm]の流路幅の酸化剤ガス流路942を有する。
【0030】
MEA20とセパレータ40との間においてガス拡散層を有しない場合、第2のMPL25は支えとなっていたガス拡散層がなくなることで、図3に示すように、撓みやすくなる。すなわち、酸化剤ガス流路942の流路幅が広い場合、第2のMPL25におけるリブ42によって加重がかかっていない部分、すなわち酸化剤ガス流路942の開口部分に対応した部分が撓みやすくなる。これにより、第2のMPL25と触媒層23との間に空間ができ、空間部分に生成水Wが滞留する。この結果、燃料電池は、電解質膜21付近での水分が過多となるフラッディング現象が生じる。また、第2のMPL25と触媒層23の接触面積の低下により、セル抵抗が増加する。
【0031】
図4は、第1実施例の燃料電池において酸化剤ガス流路44の流路幅t2を変更したときのセル抵抗を示すグラフである。このグラフの値は、実験によって発電時と非発電時について調べたものである。グラフに示すように、流路幅t2が400[μm]以下である場合は、ほとんどセル抵抗の上昇は見られない。これに対して、流路幅t2が400[μm]を超えると、発電時において、セル抵抗が次第に上昇する。
【0032】
図5は、第1実施例の燃料電池において酸化剤ガス流路44の流路幅t2を変更したときの負荷(電流密度)とセル電圧の関係を示すグラフである。このグラフに示すように、路幅t2が400[μm]を超えると、電流密度−セル電圧特性が急激に悪化する。すなわち、図4に示すように、流路幅t2が400[μm]を超えると、セル抵抗が上昇し、これに伴い、図5から判るように、発電性能が低下する。
【0033】
以上のことから、第1実施例の燃料電池は、酸化剤ガス流路44の流路幅t2が400[μm]以下であることから、発電性能の低下が見られないことが実験的に判る。酸化剤ガス流路44の流路幅t2が400[μm]以下であると、各リブ42が微小なピッチで第2のMPL25を押圧することができることから、図3に示したように、第2のMPL25が撓むことを防止することができる。このために、第2のMPL25と触媒層23との間に生成水が溜まることがなくなることから、燃料電池の排水性を向上することができる。
【0034】
また、第1実施例では、流路幅t2を0.1[μm]以上としているが、この0.1[μm]という数値は、一般的なMPLの気孔径とほぼ一致している。このために、第1実施例の燃料電池は、触媒層23へのガス供給性を確保することができる。なお、流路幅t2は、0.1[μm]〜400[μm]の範囲内に換えて、第2のMPL25の気孔径から400[μm]までの範囲内とすることもできる。
【0035】
さらに、第1実施例では、セパレータ40における酸化剤ガス流路44の開口率Kを20%以上とすることで、触媒層23へのガス供給性を確保することができる。すなわち、第1実施例では、流路幅t2の下限値を0.1[μm]とし、酸化剤ガス流路44の開口率Kを20%以上とすることで、触媒層23へのガス供給性を十分に確保することができる。
【0036】
なお、第1実施例では、カソード側にガス拡散層を有することなく、アノード側にガス拡散層を有する構成としたが、本発明はこれに限られない。カソード側にガス拡散層を有し、アノード側にガス拡散層を有しない構成、あるいは、カソード側、アノード側の両方ともにガス拡散層を有しない構成とすることができる。これらの構成においては、第1実施例のカソード側と同様に、ガス拡散層を有しない側にシート状のMPLを配置し、このMPLに対向するセパレータにおけるリブ間の距離を0.1[μm]〜400[μm]の範囲内とすればよい。また、このMPLに対向するセパレータにおける酸化剤ガス流路44の開口率Kは20%以上とすることが好ましい。
【0037】
B.第2実施例:
図6は、本発明の第2実施例における燃料電池内部の単セル110の一部の断面を模式的に示す説明図である。第2実施例における単セル110は、第1実施例における単セル10と比べて、カソード側のセパレータ140とガス流路形成部142の構成が異なる。第2実施例における単セル110のその他の構成は、第1実施例における単セル10の構成と同一であるので、同一の構成要素については、図6において、図1と同一の符合を付し、その説明を省略する。なお、図6において、図1におけるアノード側の各部22、24、26、30はその記載を省略している。
【0038】
第1実施例の単セル10(図1)では、セパレータ40と、リブ42によって構成される「ガス流路形成部」とは一体化していたが、これに対して、第2実施例における単セル110では、セパレータ140とガス流路形成部142とは接しているが別体である。セパレータ140は、第1実施例のセパレータ40と同一の材料により構成され、その形状が平板状となっている。ガス流路形成部142は、発泡焼結金属体であり、セパレータ140の面に沿うように配置されている。ガス流路形成部142のセパレータ140と反対側の面が第2のMPL25に接している。
【0039】
本実施例では、発泡焼結金属体としてチタン発泡焼結金属体を用いている。このチタン発泡焼結金属体は、孔部を多数有するものであり、しかもこの孔部の径は0.1[μm]〜400[μm]の範囲内に収まる。なお、発泡焼結金属体に形成される全ての孔部の径が0.1[μm]〜400[μm]の範囲に収まる必要はなく、大部分(例えば、90%以上)の孔部の径が前記範囲に収まればよい。
【0040】
前述したように、発泡焼結金属体の孔部の径が0.1[μm]〜400[μm]の範囲に収まるように構成されていることから、発泡焼結金属体と第2のMPL25の間の境界面における開口径は、400[μm]以下となることは明らかである。また、開口の下限値においても、大部分の開口は0.1[μm]となる。さらに、発泡焼結金属体と第2のMPL25の間の境界面における全体に対する発泡焼結金属体の開口率は、25%以上となっている。
【0041】
なお、本実施例では、チタン発泡焼結金属体を用いているが、ステンレス、ニッケルもしくは銅等の発泡金属を用いてもよい。また、ガス流路形成部142は、発泡焼結金属体に限られず、導電性であれば金属でない発泡焼結体に換えることもできる。また、発泡焼結体によってガス流路形成部を形成する構成は、本実施例にようにカソード側に限る必要はなく、アノード側においても適用することができる。
【0042】
以上のように構成された第2実施例の燃料電池では、発泡焼結金属体の開口径t12を0.1[μm]〜400[μm]の範囲内としたことで、第1実施例と同様に、微小なピッチで第2のMPL25を押圧することができる。したがって、第1実施例と同様に、第2のMPL25と触媒層23との間に生成水が滞留することを防止することができ、燃料電池の排水性を向上することができる。さらに、第1実施例と同様に、触媒層23へのガス供給性を確保することができる。
【0043】
なお、本実施例では、発泡焼結体の開口径は、0.1[μm]〜400[μm]の範囲内で、さまざまな寸法をとりうる。発泡焼結体の表面の開口径は、孔部のいずれの位置で切れているかによって多様な寸法をとりうるためであり、発泡焼結体の開口径はランダム性を有するといえる。この構成によれば、排水性とガス供給性をより高めることができる。径の小さい開口からは、毛細管力により液水が排水され易く、一方、径の大きい開口からは、ガスが選択的に通過しやすいためである。
【0044】
なお、第2実施例の変形例として、ガス流路形成部142を構成する発泡焼結体の表面を親水性としてもよい。具体的には、UV処理やプラズマ処理などの親水処理を施すことで、発泡焼結体の表面を親水性とすることができる。この構成によれば、排水性をより一層、向上することができる。
【0045】
また、第2実施例では、カソード側にガス拡散層を有することなく、アノード側にガス拡散層を有する構成としたが、本発明はこれに限られない。カソード側にガス拡散層を有し、アノード側にガス拡散層を有しない構成、あるいは、カソード側、アノード側の両方ともにガス拡散層を有しない構成とすることができる。これらの構成においては、第2実施例のカソード側と同様に、ガス拡散層を有しない側にシート状のMPLを配置し、このMPLとセパレータとの間に発泡焼結金属体等の発泡焼結体を配置し、この発泡焼結体の開口径を0.1[μm]〜400[μm]の範囲内とすればよい。また、この発泡焼結体の開口率は20%以上とすることが好ましい。
【0046】
C.第3実施例:
図7は、本発明の第3実施例における燃料電池内部の単セル210の一部の断面を模式的に示す説明図である。第3実施例における単セル210は、第2実施例における単セル110と比べて、カソード側のガス流路形成部242の構成が異なる。第3実施例における単セル210のその他の構成は、第2実施例における単セル110の構成と同一であるので、同一の構成要素については、図7において、図1と同一の符合を付し、その説明を省略する。
【0047】
第2実施例の単セル10(図1)におけるカソード側のガス流路形成部142は、発泡焼結体によって構成されていた。これに対して、本実施例におけるカソード側のガス流路形成部242は、エキスパンドメタルにより構成されている。
【0048】
図8は、ガス流路形成部242としてのエキスパンドメタルの斜視図である。エキスパンドメタルは、1枚の金属板を、切削加工および折り加工により網目状に加工したもので、複数の波板部301がw方向に並列に配置された構成を有する。各波板部301は、山部301aと谷部301bとが繰り返しu方向に順に配置された構成を有する。
【0049】
図8に示すように、エキスパンドメタルは、波板部301の各山部301aの端と各谷部301bの端がセパレータ140あるいは第2のMPL25と接するように配置される。これにより、山部301aと谷部301bによってガス流路が構成され、ガス流路の向きは、第2のMPL25に向かう方向となる。なお、第2のMPL25において山部301aの接する部分と谷部301bの接する部分の距離t22は、ガス流路形成部242の開口の最短部の距離であり、開口径といえる。距離t22は、第1実施例および第2実施例と同様に、0.1μm〜400μmの範囲内とした。
【0050】
以上のように構成された第3実施例の燃料電池では、ガス流路形成部242の開口径を0.1[μm]〜400[μm]の範囲内としたことで、第1および第2実施例と同様に、微小なピッチで第2のMPL25を押圧することができる。したがって、第1および第2実施例と同様に、第2のMPL25と触媒層23との間に生成水が滞留することを防止することができ、燃料電池の排水性を向上することができる。さらに、第1および第2実施例と同様に、触媒層23へのガス供給性を確保することができる。
【0051】
なお、第3実施例の変形例として、ガス流路形成部142を構成するエキスバンドメタルの表面を親水性としてもよい。具体的には、UV処理やプラズマ処理などの親水処理をエキスパンドメタルの原材料である金属板に施すことで、エキスバンドメタルの表面を親水性とすることができる。この構成によれば、排水性をより一層、向上することができる。
【0052】
また、第3実施例では、カソード側にガス拡散層を有することなく、アノード側にガス拡散層を有する構成としたが、本発明はこれに限られない。カソード側にガス拡散層を有し、アノード側にガス拡散層を有しない構成、あるいは、カソード側、アノード側の両方ともにガス拡散層を有しない構成とすることができる。これらの構成においては、第3実施例のカソード側と同様に、ガス拡散層を有しない側にシート状のMPLを配置し、このMPLとセパレータとの間にエキスパンドメタルを配置し、エキスパンドメタルによるガス流路形成部242の開口径を0.1[μm]〜400[μm]の範囲内とすればよい。また、この開口の比率は20%以上とすることが好ましい。
【0053】
D.変形例:
なお、この発明は上記の各実施例や各変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0054】
・変形例1:
前記各実施例および各変形例では、燃料電池に固体高分子型燃料電池を用いたが、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体酸化物形燃料電池等、種々の燃料電池に本発明を適用してもよい。
・変形例2:
前述した実施例および各変形例における構成要素の中の、独立請求項で記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0055】
10…単セル
20…膜電極接合体(MEA)
21…固体高分子電解質膜
22…触媒層
23…触媒層
24…第1のMPL
25…第2のMPL
26…ガス拡散層
30…セパレータ
32…リブ
34…燃料ガス流路
40…セパレータ
42…リブ
44…酸化剤ガス流路
110…単セル
140…セパレータ
142…ガス流路形成部
210…単セル
242…ガス流路形成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8